説明

フランジ付きナットおよびすべりねじ装置

【課題】グリース等の潤滑材が不要で、かつ、フランジの変形や破壊も防止できるフランジ付きナットとすべりねじ装置を提供することである。
【解決手段】フランジ付きナット1のフランジ2を含む外周部3を金属で形成して、ねじ軸に螺合される内周部4を潤滑性樹脂の射出成形で形成し、射出成形で外周部3の内径面に設けた複数の突条6の周りに充填される樹脂によって、一体化した外周部3と内周部4とを回り止めと抜け止めすることにより、グリース等の潤滑材を不要とし、かつ、フランジ2の変形や破壊も防止できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フランジ付きナットおよびフランジ付きナットを用いたすべりねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転運動を直線運動に変換するすべりねじ装置は、ボールねじ装置に較べてコンパクトに設計できる利点がある。フランジ付きナットを用いたすべりねじ装置は、ねじ軸を回転駆動して、ナットのフランジに直線駆動力が伝達される移動テーブル等の被駆動体を取り付ける場合が多く、各種産業機械の送り装置や位置決め装置等に多く採用されている。また、近年は、潤滑性樹脂で形成した樹脂製ナットをフランジ付きナットに用いたすべりねじ装置が、光学測定器、半導体製造装置、医療機器等向けとして用途が拡大している。この樹脂製ナットを用いたすべりねじ装置は、グリース等の潤滑材が不要のため、クリーンルーム等での使用に好適である。
【0003】
前記すべりねじ装置用の樹脂製ナットは、フランジ付きでないものも含めて、切削加工や射出成形によって全体が樹脂で形成されており、このナットを形成する樹脂として、熱可塑性ポリイミド樹脂を用いたもの(例えば、特許文献1参照)や、ポリフェニレンサルファイド樹脂を用いたもの(例えば、特許文献2参照)がある。
【0004】
【特許文献1】特開平6−193701号公報
【特許文献2】特開2001−116102号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した全体を樹脂で形成した樹脂製ナットは、金属製ナットに較べると強度が低く、かつ、温度上昇に伴う強度低下が大きいので、大きな直線駆動力を伝達するすべりねじ装置のフランジ付きナットとして用いると、直線駆動力の伝達に伴うナットへの大きな負荷荷重や摩擦発熱による温度上昇によって、被駆動体が取り付けられるフランジが根元から変形したり、破壊したりすることがある。このため、すべりねじ装置が伝達できる直線駆動力が狭い範囲に限定される問題がある。
【0006】
前記樹脂製ナットのフランジの変形や破壊を防止するためには、樹脂を熱可塑性ポリイミド樹脂やポリフェニレンサルファイド樹脂等の耐熱性樹脂として、ガラス繊維や炭素繊維等で繊維強化することが考えられるが、これらの強化繊維の添加は樹脂の潤滑性を低下させるので、所要の強度を得るために多量に添加すると、逆に摩擦発熱によるナットの温度上昇がより大きくなり、フランジの変形や破壊を防止できるような十分な耐熱強度を確保することはできない。また、潤滑性の低下によって、駆動力の変換ロスが大きくなる問題もある。
【0007】
また、樹脂製ナットのフランジの変形や破壊を防止するためには、ナットの外径寸法やフランジの肉厚寸法を大きくして、フランジの断面積を大きくすることも考えられるが、十分な強度を得るためにはナットの寸法が極端に大きくなり、実用的ではない。
【0008】
そこで、本発明の課題は、グリース等の潤滑材が不要で、かつ、フランジの変形や破壊も防止できるフランジ付きナットとすべりねじ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明のフランジ付きナットは、ねじ軸に螺合され、ねじ軸と軸方向に相対移動するフランジ付きナットにおいて、前記フランジを含む外周部を金属で形成し、前記ねじ軸に螺合される内周部を潤滑性樹脂で形成して、これらの外周部と内周部との間の回り止めと抜け止めをする手段を設けた構成を採用した。
【0010】
すなわち、フランジを含む外周部を金属で形成し、ねじ軸に螺合される内周部を潤滑性樹脂で形成して、これらの外周部と内周部との間の回り止めと抜け止めをする手段を設けることにより、グリース等の潤滑材を不要とし、かつ、フランジの変形や破壊も防止できるようにした。
【0011】
前記内周部を、前記外周部の金属への前記潤滑性樹脂の射出成形によって形成することにより、外周部と内周部とを容易に回り止めと抜け止めして一体化することができる。
【0012】
前記潤滑性樹脂の基材を、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミドイミド樹脂およびフェノール樹脂の中から選ばれる1つ以上のものとすることにより、樹脂の耐熱性を確保することができる。
【0013】
前記潤滑性樹脂の基材に四フッ化エチレン樹脂を配合することにより、樹脂の潤滑性をより高めることができる。
【0014】
前記四フッ化エチレン樹脂の配合率は10〜50体積%、好ましくは20〜40体積%とするのがよい。配合率が10体積%未満では樹脂の潤滑性を高める効果が少なく、50体積%を超えると、樹脂の強度低下が大きくなるからである。
【0015】
また、本発明のすべりねじ装置は、ねじ軸にフランジ付きナットを螺合して、フランジ付きナットをねじ軸と軸方向に相対移動させるすべりねじ装置において、前記フランジ付きナットを上述したいずれかのフランジ付きナットとした構成を採用することにより、グリース等の潤滑材を不要とし、かつ、フランジ付きナットのフランジの変形や破壊も防止できるようにした。
【発明の効果】
【0016】
本発明のフランジ付きナットは、フランジを含む外周部を金属で形成し、ねじ軸に螺合される内周部を潤滑性樹脂で形成して、これらの外周部と内周部との間の回り止めと抜け止めをする手段を設けたので、グリース等の潤滑材を不要とし、かつ、フランジの変形や破壊も防止することができる。
【0017】
前記内周部を、外周部の金属への潤滑性樹脂の射出成形によって形成することにより、外周部と内周部とを容易に回り止めと抜け止めして一体化することができる。
【0018】
前記潤滑性樹脂の基材を、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミドイミド樹脂およびフェノール樹脂の中から選ばれる1つ以上のものとすることにより、樹脂の耐熱性を確保することができる。
【0019】
前記潤滑性樹脂の基材に四フッ化エチレン樹脂を配合することにより、樹脂の潤滑性をより高めることができる。
【0020】
また、本発明のすべりねじ装置は、ねじ軸にフランジ付きナットを螺合して、フランジ付きナットをねじ軸と軸方向に相対移動させるすべりねじ装置において、フランジ付きナットを上述したいずれかのフランジ付きナットとしたので、グリース等の潤滑材を不要とし、かつ、フランジ付きナットのフランジの変形や破壊も防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。図1および図2は、第1の実施形態のフランジ付きナット1を示す。このフランジ付きナット1は、図1に示すように、フランジ2を含む外周部3が金属であるステンレス鋼で形成され、ねじ軸(図示省略)に螺合される内周部4が潤滑性樹脂である熱可塑性ポリイミド樹脂を基材として四フッ化エチレン樹脂を20〜40体積%配合したもので形成されている。フランジ2には、被駆動体を取り付けるためのボルト孔5が設けられている。
【0022】
図2(a)、(b)、(c)に示すように、前記外周部3の内径面には、軸方向に延びる複数の突条6が円周方向で等間隔に設けられ、熱可塑性ポリイミド樹脂を基材とする内周部4は、この外周部3の内径側への射出成形によって形成されており、射出成形でこれらの突条6の周りに樹脂が充填されることにより、一体となった外周部3と内周部4とが回り止めと抜け止めされている。なお、内周部4の内径面には、金型によって雌ねじ7が形成されている。
【0023】
図3(a)、(b)は、前記フランジ付きナット1の変形例を示す。この変形例は、外周部3の軸方向両端部に内向きの鍔3aを設け、内周部4をさらに強固に抜け止めした点が異なる。その他の部分は第1の実施形態のものと同じである。
【0024】
図4は、前記フランジ付きナット1を用いた本発明に係るすべりねじ装置を示す。このすべりねじ装置は、ねじ軸8を回転駆動することにより、ねじ軸8の雄ねじ9に雌ねじ7で螺合されたフランジ付きナット1を直線駆動するものであり、フランジ2のボルト孔5には、移動テーブル等の被駆動体が取り付けられる。なお、螺合する雄ねじ9と雌ねじ7は台形ねじとされている。
【0025】
図5(a)、(b)は、第2の実施形態のフランジ付きナット1を示す。このフランジ付きナット1は基本的な構成は第1の実施形態のものと同じであり、外周部3とその内径側に射出成形された内周部4との回り止めと抜け止め手段のみが異なる。この実施形態では、外周部3の円周方向に90°の位相で4つの貫通孔10が設けられており、射出成形でこれらの貫通孔10に樹脂が充填されることにより、一体となった外周部3と内周部4とが回り止めと抜け止めされている。
【0026】
図6(a)、(b)は、第3の実施形態のフランジ付きナット1を示す。このフランジ付きナット1も基本的な構成は第1の実施形態のものと同じであり、外周部3とその内径側に射出成形された内周部4との回り止めと抜け止め手段のみが異なる。この実施形態では、外周部3の軸方向の2箇所で円周方向に90°の位相で、内径側へ突出する4つのピン11が嵌めこまれており、射出成形でこれらのピン11の周りに樹脂が充填されることにより、一体となった外周部3と内周部4とが回り止めと抜け止めされている。
【0027】
上述した各実施形態では、フランジ付きナットの外周部をステンレス鋼で形成し、内周部の基材を熱可塑性ポリイミド樹脂としたが、外周部は、亜鉛めっき、ニッケルめっき、錫めっき、クロムめっき、塗装等の表面処理等を施した鋼材や、アルミニウム合金、銅合金等で形成することもできる。また、内周部の基材としては、熱可塑性ポリイミド樹脂のほかに、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、フェノール樹脂、およびこれらをブレンドしたものも使用することができる。なお、ポリフェニレンサルファイド樹脂には、分子の架橋状態により架橋型、半架橋型、直鎖型、分岐型等のものがあるが、いずれも使用でき、これらをブレンドしたものであってもよい。
【0028】
前記内周部の基材に、その潤滑性を阻害しない程度で、炭素粉末、酸化鉄、酸化チタン等の着色剤、黒鉛、金属粉末、金属酸化物粉末、炭素粉末等の熱伝導性向上剤、およびガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ウィスカ等の耐摩耗性向上材を配合してもよい。
【0029】
また、フランジ付きナットの外周部と内周部とを回り止めと抜け止めする手段も、上述した各実施形態のものに限定されることはなく、外周部の内径面にローレット加工やDカットで凹凸形状を付与する手段を採用することもでき、これらを各実施形態の手段と組み合わせることもできる。
【0030】
さらに、上述した各実施形態では、内周部の雌ねじを台形ねじとして射出成形で形成したが、この雌ねじは射出成形後に機械加工で形成することもでき、ねじの形状はゴシックアーク、三角、矩形等としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】第1の実施形態のフランジ付きナットを示す外観斜視図
【図2】aは図1のフランジ付きナットの側面図、bはaのIIb−IIb線に沿った断面図、cはbのIIc−IIc線に沿った断面図
【図3】aは図1のフランジ付きナットの変形例を示す側面図、bはaのIIIb−IIIb線に沿った断面図
【図4】図1のフランジ付きナットを用いた本発明に係るすべりねじ装置を示す外観斜視図
【図5】aは第2の実施形態のフランジ付きナットを示す正面断面図、bはaのVb−Vb線に沿った断面図
【図6】aは第3の実施形態のフランジ付きナットを示す正面断面図、bはaのVIb−VIb線に沿った断面図
【符号の説明】
【0032】
1 フランジ付きナット
2 フランジ
3 外周部
3a 鍔
4 内周部
5 ボルト孔
6 突条
7 雌ねじ
8 ねじ軸
9 雄ねじ
10 貫通孔
11 ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ねじ軸に螺合され、ねじ軸と軸方向に相対移動するフランジ付きナットにおいて、前記フランジを含む外周部を金属で形成し、前記ねじ軸に螺合される内周部を潤滑性樹脂で形成して、これらの外周部と内周部との間の回り止めと抜け止めをする手段を設けたことを特徴とするフランジ付きナット。
【請求項2】
前記内周部を、前記外周部の金属への前記潤滑性樹脂の射出成形によって形成した請求項1に記載のフランジ付きナット。
【請求項3】
前記潤滑性樹脂の基材が、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアミドイミド樹脂およびフェノール樹脂の中から選ばれる1つ以上のものである請求項1または2に記載のフランジ付きナット。
【請求項4】
前記潤滑性樹脂の基材に四フッ化エチレン樹脂を配合した請求項3に記載のフランジ付きナット。
【請求項5】
前記四フッ化エチレン樹脂の配合率を10〜50体積%とした請求項4に記載のフランジ付きナット。
【請求項6】
ねじ軸にフランジ付きナットを螺合して、フランジ付きナットをねじ軸と軸方向に相対移動させるすべりねじ装置において、前記フランジ付きナットを請求項1乃至5のいずれかに記載のフランジ付きナットとしたことを特徴とするすべりねじ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−138405(P2006−138405A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−328988(P2004−328988)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】