説明

フランジ付カラーを含む締結構造体

【課題】 樹脂製部材にフランジ付カラーを接着固定する場合に、カラー部の外周面全体に接着剤を配置できる、フランジ付カラーを含む締結構造体の提供。
【解決手段】フランジ部22の側面22aと座ぐり部32の側面32aとの間Aの半径方向隙間aを、カラー部21の外周面21cと取付け孔31の内周面31aとの間Bの半径方向隙間bよりも小さく設定しているため、フランジ部22に接着剤60を塗布したフランジ付カラー20を樹脂製部材30に取付ける(嵌め込む)際、接着剤60は間Aにはほとんど流入せず、接着剤60の大部分は間Bに流入する。その結果、間Aからフランジ部22の外にはみ出す接着剤60は無いかまたはあっても無視できる程度であり、カラー部21の外周面21c全体に均一またはほぼ均一に接着剤60を配置できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フランジ付カラーを含む締結構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、フランジ付カラーを接着固定したFRPプレートに対してボルトを用いて被締結部材を締結固定した、フランジ付カラーを含む締結構造体が提案されている(例えば、特許文献1参照)。フランジ付カラーは、フランジ部のみでFRPプレートに接着固定されている。
【0003】
しかし、従来のフランジ付カラーを含む締結構造体にはつぎの問題点がある。
被締結部材にボルト軸直交方向の力がかかると、その力は、ボルトからフランジ付カラーに伝わりフランジ付カラーからFRPプレートに伝わる。したがって、フランジ付カラーがFRPプレートに対して動くこと(がたつくこと)を防止しフランジ付カラーからFRPプレートに確実に力を伝えるために、フランジ付カラーのフランジ部だけでなくフランジ付カラーのカラー部(筒部)にも接着剤を配置しておくことが望ましい。
しかし、特許文献1開示の締結構造体では、フランジ付カラーのフランジ部のみをFRPプレートに接着しているため、フランジ付カラーのカラー部に接着剤が配置されていない。
フランジ部だけでなくカラー部にも接着剤を配置するために、フランジ部の分だけでなくカラー部の分の接着剤をもフランジ部に塗布して、フランジ付カラーをFRPプレートに取付ける(嵌め込む)ことも考えられるが、図3に示すように、カラー部2aとFRPプレート3とのカラー半径方向隙間が狭いため、接着剤6の大部分はカラー部2aに行き届かずにフランジ部2bの外にはみ出してしまう。また、フランジ部だけでなくカラー部にも接着剤を配置するために、フランジ部だけでなくカラー部にも接着剤を塗布したフランジ付カラーをFRPプレートに取付ける(挿入する)ことも考えられるが、フランジ付カラーをFRPプレートに挿入する際に、カラー部に塗布した接着剤がFRPプレートにより掻き落とされてしまう(削り落とされてしまう)。したがって、カラー部の外周面全体に均一に接着剤を配置することが困難である。
【特許文献1】特開2004−225802号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、樹脂製部材にフランジ付カラーを接着固定する場合に、カラー部の外周面全体に接着剤を配置できる、フランジ付カラーを含む締結構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成する本発明はつぎの通りである。
(1) フランジ付カラーを接着固定した樹脂製部材に対してボルトを用いて被締結部材を締結固定する、フランジ付カラーを含む締結構造体であって、
前記フランジ付カラーは、カラー部とフランジ部とを備えており、
前記樹脂製部材は、前記カラー部が取付けられる取付け孔と前記フランジ部を収容する座ぐり部とを備えており、
前記フランジ部の側面と前記座ぐり部の側面との間の半径方向隙間aを、前記カラー部の外周面と前記取付け孔の内周面との間の半径方向隙間bよりも小さく設定した、フランジ付カラーを含む締結構造体。
(2) 前記カラー部の外周面に該カラー部の軸方向に延びる溝が設けられている(1)記載のフランジ付カラーを含む締結構造体。
【発明の効果】
【0006】
上記(1)のフランジ付カラーを含む締結構造体によれば、フランジ部の側面と座ぐり部の側面との間の半径方向隙間aを、カラー部の外周面と取付け孔の内周面との間の半径方向隙間bよりも小さく設定しているため、フランジ部に接着剤を予め塗布しておいたフランジ付カラーを樹脂製部材に取付ける際(嵌める際)、カラー部の外周面と取付け孔の内周面との間への接着剤流入抵抗が、フランジ部の側面と座ぐり部の側面との間への接着剤流入抵抗よりも小さくなる。そのため、フランジ部に接着剤を塗布したフランジ付カラーを樹脂製部材に取付ける(嵌め込む)際、接着剤はフランジ部の側面と座ぐり部の側面との間にはほとんど流入せず、接着剤の大部分はカラー部の外周面と取付け孔の内周面との間に流入する。その結果、フランジ部の側面と座ぐり部の側面との間からフランジ部の外にはみ出す接着剤は無いかまたはあっても無視できる程度であり、カラー部の外周面全体に均一またはほぼ均一に接着剤を配置できる。
また、半径方向隙間aを半径方向隙間bよりも小さく設定しているため、フランジ部に接着剤を塗布したフランジ付カラーを樹脂製部材に取付けるだけで、接着剤をカラー部の外周面全体に配置できる。そのため、接着剤をカラー部の外周面全体に簡易に配置できる。
上記(2)のフランジ付カラーを含む締結構造体によれば、カラー部の外周面にカラー部の軸方向に延びる溝が設けられているため、溝が設けられていない場合に比べて、溝が設けられている部位の半径方向隙間bが広くなる。その結果、溝が設けられていない場合に比べて、フランジ部に接着剤を塗布したフランジ付カラーを樹脂製部材に取付ける際、接着剤がよりカラー部の外周面と取付け孔の内周面との間に流入しやすくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、図1、図2を参照して、本発明実施例のフランジ付カラーを含む締結構造体を説明する。
本発明実施例のフランジ付カラーを含む締結構造体10は、図1に示すように、フランジ付カラー20を接着固定した樹脂製部材30に対してボルト50を用いて被締結部材40を締結固定する締結構造体である。締結構造体10は、フランジ付カラー20と、樹脂製部材30と、金属製の被締結部材40と、ボルト50と、フランジ付カラー20を樹脂製部材30に接着固定する接着剤60と、を有する。
【0008】
フランジ付カラー20は、金属製である。フランジ付カラー20は、接着剤60を用いて樹脂製部材30に接着固定される。フランジ付カラー20は、カラー部21と、フランジ部22と、を備える。
カラー部21は、フランジ付カラー20の軸方向でフランジ部22が設けられていない部分である。カラー部21は、ボルト50が挿入されるボルト挿入用穴21aを備える。ボルト挿入用穴21aは、フランジ付カラー20をカラー軸方向に貫通する貫通孔であってもよく、袋穴であってもよい(図示例では袋穴である場合を示している)。カラー部21の内周面に、ボルト50がねじ込まれる雌ネジ21bが形成されている。ボルト50がねじ込まれる雌ネジ21bが形成されているため、フランジ付カラー20は、フランジ付カラーナット20といってもよい。
【0009】
図2に示すように、カラー部21の外周面21cには、カラー軸方向に延びる溝23が複数設けられている。溝23は、カラー部21のフランジ部22側端からフランジ部22と反対側の端までカラー軸方向に直線状に延びて設けられている。溝23は、カラー部21の全周にわたって所定間隔ごとに(間隔をおいて)設けられている。溝23の、カラー軸方向と直交する方向の断面形状は、V字形状であってもよく、U字形状であってもよく、その他の形状であってもよい。
【0010】
樹脂製部材30は、たとえばFRP(繊維強化樹脂)製である。樹脂製部材30は、1枚構成であってもよく、図1に示すように、複数枚を樹脂製部材30の厚み方向(カラー軸方向と同方向)に重ねた複数枚構成であってもよい。なお、図示例では、樹脂ブロック30aと表層部30bの2枚構成である場合を示している。
樹脂製部材30は、カラー部21が取付けられる(挿入される、嵌め込まれる)取付け孔31と、フランジ部22を収容する座ぐり部32と、を備える。
座ぐり部32は、取付け孔31の軸方向一端部に形成される。座ぐり部32は、カラー軸方向と直交する方向から見て、フランジ部22の全体を収容していてもよく、フランジ部22の一部のみを収容していてもよい。
【0011】
カラー部21の、フランジ部22と反対側の端面21dは、樹脂製部材30の、座ぐり部32と反対側の端面30cと、面一または略面一になっている。そのため、被締結部材40とカラー部21の端面21dとを面接触させることができ、ボルト50の軸力による樹脂製部材30のクリープによる締結力抜けは生じない。
【0012】
座ぐり部32の側面32aとフランジ部22の側面22aとの間Aの、カラー半径方向の隙間aは、取付け孔31の内周面31aとカラー部21の外周面21cとの間Bの、カラー半径方向隙間bよりも、小さく設定されている。なお、特に限定するものではないが、半径方向隙間aは、たとえば0,1mm〜0.05mm程度に設定され、半径方向隙間bは、たとえば0.5mm程度に設定される(半径方向隙間aは半径方向隙間bの1/5〜1/10程度に設定される)。半径方向隙間aを0.1mm〜0.05mm程度に設定し、半径方向隙間bを0.5mm程度に設定する理由は(半径方向隙間a,bを小にする理由は)、間A,Bに配置される接着剤60の厚みを薄くして、被締結部材40にボルト50軸直交方向の力がかかった際にフランジ付カラー20から樹脂製部材30に確実に力を伝えるためである。
【0013】
被締結部材40と樹脂製部材30は、ワッシャ51(またはボルト50の頭部裏面)とフランジ部22とにより、ボルト軸方向に挟まれる。
接着剤60は、間Aと、間Bと、フランジ部22のうちカラー部21からカラー半径方向外側に延びている部分の裏面(下面)22bと座ぐり部32の底面32bとの間Cとに、配置される。
接着剤60は、接着剤60をフランジ部22の裏面22bに塗布したフランジ付カラー20を樹脂製部材30の取付け孔31に取付けるときに、フランジ部22の裏面22bと座ぐり部32の底面32bとによって間Cから押し出されて間Aと間Bに流入し、間A,B,Cに配置される。
【0014】
ここで、フランジ付カラー20を含む締結構造体10の締結方法を説明する。
フランジ付カラー20を含む締結構造体10の締結方法は、(a)フランジ部22の裏面22bに接着剤60を全周にわたって塗布する工程と、(b)接着剤60が塗布されたフランジ付カラー20を、樹脂製部材30の取付け孔31に、カラー部21の端面21dが樹脂製部材30の端面30cと面一または略面一になるまで嵌め込み、接着剤60を間Cから間A,Bに流入させて接着剤60を間A、B、Cに配置する工程と、(c)接着剤60が硬化した後に、被締結部材40の一面40aがカラー部21の端面21dに接触するようにして被締結部材40の他側(フランジ付カラー20と反対側)から、ボルト50を、被締結部材40のボルト挿通孔41を挿通させて雌ネジ21bにねじ込む工程と、を有する。
【0015】
フランジ部22の裏面22bに接着剤60を塗布するとき(上記工程(a)のとき)、接着剤60は、図2に示すように、フランジ部22の裏面22bのカラー部21側端(内周側端)とその近傍に配置されることが望ましい。接着剤60をフランジ部22の裏面22bの外周側端とその近傍に配置する場合に比べて、間Cの接着剤60が間Aに流入するまでの時間を長くでき、間Bに接着剤60がより流入し易くなるからである。
【0016】
つぎに、本発明実施例の作用を説明する。
本発明実施例では、フランジ部22の側面22aと座ぐり部32の側面32aとの間Aの半径方向隙間aを、カラー部21の外周面21cと取付け孔31の内周面31aとの間Bの半径方向隙間bよりも小さく設定している。そのため、フランジ部22の裏面22bに接着剤60を予め塗布しておいたフランジ付カラー20を樹脂製部材30に取付ける際(挿入する際)、間Bへの接着剤流入抵抗が間Aへの接着剤流入抵抗よりも小さくなる。そのため、フランジ部22に接着剤60を塗布したフランジ付カラー20を樹脂製部材30に取付ける際、間Cから押し出された接着剤60の大部分は間Bに流入する。その結果、間Aからフランジ部22の外にはみ出す接着剤は無いかまたはあっても無視できる程度であり、カラー部21の外周面21c全体に均一またはほぼ均一に接着剤60を配置できる。
【0017】
半径方向隙間aを半径方向隙間bよりも小さく設定しているため、フランジ部22に接着剤60を塗布したフランジ付カラー20を樹脂製部材30に取付けるだけで、接着剤60をカラー部21の外周面21c全体に配置できる。そのため、接着剤60をカラー部21の外周面21c全体に簡易に配置できる。
【0018】
カラー部21の外周面21cにカラー部21の軸方向に延びる溝23が設けられているため、溝23が設けられている部位の半径方向隙間bは溝23が設けられていない場合に比べて広くなる。その結果、溝23が設けられていない場合に比べて、フランジ部22に接着剤60を塗布したフランジ付カラー20を樹脂製部材30に取付ける際、接着剤60が間Bにより流入しやすくなる。
溝23が設けられているため、溝23が設けられていない場合に比べて接着の表面積が増加し、接着剤60による接着強度を高めることができる。
溝23がカラー部21の全周にわたって所定間隔ごとに設けられているため(溝23はカラー部21の全周に連続して設けられていないため)、溝23を設けた場合でもカラー部21で取付け孔31の内周面31aを傷つけることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明実施例の締結構造体の断面図である。
【図2】本発明実施例の締結構造体の、樹脂製部材に取付けられる前の、接着剤が塗布されたフランジ付カラーの斜視図である。
【図3】従来の締結構造体の、フランジ部の分だけでなくカラー部の分の接着剤をもフランジ部に塗布してフランジ付カラーをFRPプレートに取付けた場合の断面図である。
【符号の説明】
【0020】
10 締結構造体
20 フランジ付カラー
21 カラー部
21a ボルト挿入用穴
21b 雌ネジ
21c カラー部の外周面
22 フランジ部
22a フランジ部の側面
22b フランジ部の裏面
23 溝
30 樹脂製部材
31 取付け孔
31a 取付け孔の内周面
32 座ぐり部
32a 座ぐり部の側面
32b 座ぐり部の底面
40 被締結部材
50 ボルト
51 ワッシャ
60 接着剤
A フランジ部の側面と座ぐり部の側面との間
B カラー部の外周面と取付け孔の内周面との間
C フランジ部の裏面(下面)と座ぐり部の底面との間
a 間Aの半径方向隙間
b 間Bの半径方向隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フランジ付カラーを接着固定した樹脂製部材に対してボルトを用いて被締結部材を締結固定する、フランジ付カラーを含む締結構造体であって、
前記フランジ付カラーは、カラー部とフランジ部とを備えており、
前記樹脂製部材は、前記カラー部が取付けられる取付け孔と前記フランジ部を収容する座ぐり部とを備えており、
前記フランジ部の側面と前記座ぐり部の側面との間の半径方向隙間aを、前記カラー部の外周面と前記取付け孔の内周面との間の半径方向隙間bよりも小さく設定した、フランジ付カラーを含む締結構造体。
【請求項2】
前記カラー部の外周面に該カラー部の軸方向に延びる溝が設けられている請求項1記載のフランジ付カラーを含む締結構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−315470(P2007−315470A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−144995(P2006−144995)
【出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】