説明

フランジ付カラーを含む締結構造体

【課題】 樹脂製部材にクリープが生じることを防止できる、フランジ付カラーを含む締結構造体の提供。
【解決手段】フランジ付カラー20の軸部22の延び方向先端22aが樹脂製部材30から突出している。そのため、ボルト60の締結力はカラー20にかかり、ボルト60の締結力が樹脂製部材30にかかることを防止できる。そのため、樹脂製部材30にクリープが生じることを防止できる。また、樹脂製部材30とワッシャ40の樹脂製部材側面のうち座ぐり部41が形成されていない面部分42との間に接着剤70が配置されている。そのため、樹脂製部材30の厚みがばらついても、接着剤70の厚みでばらつきを吸収することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フランジ付カラーを含む締結構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、FRPプレートに形成した取付け穴にフランジ付カラーを挿入し、FRPプレートに対してボルトを用いて金属製の被締結部材を締結固定した、フランジ付カラーを含む締結構造体が提案されている(例えば、特許文献1参照)。フランジ付カラーの先端(フランジ部と反対側の端)は、FRPプレートの表面と面一に設定されている。
【0003】
しかし、従来のフランジ付カラーを含む締結構造体にはつぎの問題点がある。
【0004】
FRPプレートの厚みを一定に製作することは困難である。そのため、フランジ付カラーの先端がFRPプレートの表面と面一にならない場合がある。FRPプレートの厚みが厚くなってしまうと、フランジ付カラーの先端がFRPプレートの取付け穴内に位置し、ボルトの締結力がカラーでなくFRPプレートにかかってしまう。ボルト締結力がFRPプレートにかかると、FRPプレートにクリープが生じて荷重抜けが生じてしまう。
【特許文献1】特開2004−225802号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、樹脂製部材にクリープが生じることを従来に比べて抑制できる、フランジ付カラーを含む締結構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明はつぎの通りである。
(1) 樹脂製部材に形成した取付け穴にフランジ付カラーを挿入し、前記樹脂製部材に対して被締結部材を、前記樹脂製部材と前記被締結部材との間にワッシャを配置した状態でボルトを用いて締結固定する、フランジ付カラーを含む締結構造体であって、
前記フランジ付カラーは、フランジ部と、該フランジ部から前記フランジ付カラーの軸方向に延びており延び方向先端が前記樹脂製部材から突出している軸部と、を備えており、
前記ワッシャは、前記樹脂製部材側の面に前記フランジ付カラーの軸部の延び方向先端が当接する座ぐり部を備えており、
前記樹脂製部材と前記ワッシャの前記樹脂製部材側の面のうち前記座ぐり部が形成されていない面部分との間に接着剤が配置されている、
フランジ付カラーを含む締結構造体。
【発明の効果】
【0007】
上記(1)のフランジ付カラーを含む締結構造体によれば、以下の効果を得ることができる。
【0008】
(a) フランジ付カラーの軸部の延び方向先端が樹脂製部材から突出しているため、ボルトの締結力はカラーにかかり、ボルトの締結力が樹脂製部材にかかることを抑制できる。そのため、樹脂製部材にクリープが生じることを抑制できる。
【0009】
(b) (b−1)樹脂製部材と被締結部材との間にワッシャが配置されており、フランジ付カラーの軸部の延び方向先端が樹脂製部材から突出してワッシャに当接しているため、フランジ付カラーの軸部の延び方向先端を被締結部材に直接当接させる場合に比べて、被締結部材を保持する面積を大にすることができる。したがって、被締結部材にボルト軸方向と直交する方向の力がかかったときに、被締結部材がワッシャに対して傾くことを抑制できる。
また、(b−2)樹脂製部材とワッシャの樹脂製部材側の面のうち座ぐり部が形成されていない面部分との間に接着剤が配置されているため、被締結部材にボルト軸方向と直交する方向の力がかかり、その力がワッシャに伝わった場合であっても、ワッシャが樹脂製部材に対して傾くことを抑制できる。
上記(b−1)、(b−2)より、被締結部材にボルト軸方向と直交する方向の力がかかった場合であっても、被締結部材が樹脂製部材に対して傾くことを抑制できる。
【0010】
(c) 樹脂製部材とワッシャの樹脂製部材側の面のうち座ぐり部が形成されていない面部分との間に接着剤が配置されているため、樹脂製部材の厚みがばらついても、接着剤の厚みでばらつきを吸収することができる。
【0011】
(d) ワッシャの樹脂製部材側の面に座ぐり部が形成されているため、ワッシャの樹脂製部材側の面のうち座ぐり部が形成されていない面部分と座ぐり部の底面との間に段が存在する。そのため、ワッシャに座ぐり部が設けられていない場合に比べて、接着剤が、フランジ付カラーの軸部の延び方向先端と座ぐり部の底面との間およびネジ部に入り込みにくくなる。したがって、樹脂製部材とワッシャとの間に配置した接着剤がボルト締結力に影響を及ぼすことを抑制できる。
【0012】
以下に、図1を参照して、本発明実施例のフランジ付カラーを含む締結構造体を説明する。
【0013】
本発明実施例のフランジ付カラーを含む締結構造体10は、図1に示すように、樹脂製部材30に形成した取付け穴33にフランジ付カラー20を挿入し、樹脂製部材30に対して被締結部材50を、樹脂製部材30と被締結部材50との間にワッシャ40を配置した状態でボルト60を用いて締結固定する、締結構造体である。締結構造体10は、フランジ付カラー20と、樹脂製部材30と、金属製のワッシャ40と、金属製の被締結部材50と、ボルト60と、接着剤70と、を有する。
【0014】
フランジ付カラー20は、金属製である。フランジ付カラー20は、フランジ部21と、軸部22と、を備える。
フランジ部21は、フランジ付カラー20の軸方向一端部に設けられる。
【0015】
軸部22は、フランジ付カラー20の軸方向でフランジ部21が設けられていない部分である。軸部22は、フランジ部21からフランジ付カラー20の軸方向に延びている部分である。軸部22の延び方向先端22aは、樹脂製部材30の厚み方向(フランジ付カラー20の軸方向と同方向)で、樹脂製部材30の後述の第2の面32から外側に突出した位置にある。軸部22の延び方向先端22aは、平面になっている。
【0016】
軸部22は、ボルト60が挿入されるボルト挿入用穴22bを備える。ボルト挿入用穴22bは、フランジ付カラー20をカラー軸方向に貫通する貫通孔であってもよく、袋穴であってもよい(図示例では袋穴である場合を示している)。軸部22の内周面に、ボルト60がねじ込まれる雌ネジ22cが形成されている。ボルト60がねじ込まれる雌ネジ22cが形成されているため、フランジ付カラー20は、フランジ付カラーナット20といってもよい。
【0017】
樹脂製部材30は、たとえば硬化CFRPなどのFRP(繊維強化樹脂)製である。樹脂製部材30は、1枚構成であってもよく、複数枚を樹脂製部材30の厚み方向に重ねた複数枚構成であってもよい。なお、図示例では樹脂ブロック30aと表層部30bの2枚構成である場合を示している。
【0018】
樹脂製部材30は、樹脂製部材30の厚み方向一側の第1の面31と、樹脂製部材30の厚み方向他側の第2の面32と、取付け穴33と、樹脂製部材側座ぐり部34と、を備える。
【0019】
取付け穴33は、樹脂製部材30を樹脂製部材30の厚み方向に貫通している。取付け穴33には、フランジ付カラー20が第1の面31側から挿入される(嵌め込まれる、取付けられる)。
樹脂製部材側座ぐり部34は、樹脂製部材30の厚み方向で、取付け穴33の一端部に形成される。
【0020】
ワッシャ40は、板状である。ワッシャ40は、樹脂製部材30の第2の面32と被締結部材50との間に配置されている。ワッシャ40は、樹脂製部材30側の面に座ぐり部41を備える。座ぐり部41が形成されているため、座ぐり部41の底面41aと、ワッシャ40の樹脂製部材30側の面のうち座ぐり部41が形成されていない面部分42との間に、段43が存在する。
座ぐり部41の底面41aに、フランジ付カラー20の軸部22の延び方向先端22aが当接している。面部分42は平面である。
【0021】
被締結部材50と樹脂製部材30とワッシャ40は、ボルト60の頭部裏面(ボルト60の頭部と被締結部材50との間に座部材が設けられている場合には該座部材)とフランジ部21とにより、ボルト軸方向に挟まれる。
【0022】
接着剤70は、第1の接着剤71と、第2の接着剤72と、を備える。
第1の接着剤71は、樹脂製部材30の第2の面32と、ワッシャ40の面部分42との間Aに配置されている。第1の接着剤71は、第1の接着剤71をワッシャ40の面部分42と樹脂製部材30の第2の面32のいずれか少なくとも一方の面に塗布し、ワッシャ40を、座ぐり部41の底面41aがフランジ付カラー20の延び方向先端22aに当接するまで樹脂製部材30の第2の面32に接近させることで、間Aに配置される。
【0023】
第2の接着剤72は、フランジ部21のうち軸部22からカラー半径方向外側に延びている部分の裏面(下面)21aと樹脂製部材側座ぐり部34の底面34aとの間Bと、フランジ部21の側面21bと樹脂製部材側座ぐり部34の側面34bとの間Cと、軸部22の外周面22dと取付け穴33の内周面33aとの間Dとに、配置される。ただし、ボルト60を締結するときにフランジ付カラー20が回転することを防止でき、フランジ付カラー20にカラー軸方向と直交する方向の力がかかった時にその力を樹脂製部材30に伝達できるのであれば、第2の接着剤72は、上記間B、C、Dのいずれか1つまたは2つのみに配置されていなくてもよい。なお、図示例では、第2の接着剤72が、間Bと間Dのみに配置されている場合を示している。
第2の接着剤72が間B,C,Dのいずれか少なくとも一つに配置されているため、フランジ付カラー20は樹脂製部材30に接着固定される。
【0024】
第2の接着剤72は、たとえば、第2の接着剤72をフランジ部21の裏面21aの全周に塗布したフランジ付カラー20を樹脂製部材30の取付け穴33に挿入することで、フランジ部21の裏面21aと樹脂製部材側座ぐり部34の底面34aとによって間Bから押し出されて間C、Dに流入し、間B,C,Dに配置される。
【0025】
ここで、フランジ付カラー20を含む締結構造体10の締結方法を説明する。
【0026】
フランジ付カラー20を含む締結構造体10の締結方法は、(i)フランジ付カラー20を、延び方向先端22aが第2の面32から樹脂製部材30の外側に突出するまで樹脂製部材30の取付け穴33に挿入し、間B,C,Dのいずれか少なくとも一つに第2の接着剤72を配置する工程と、(ii)第2の接着剤72が硬化した後に、フランジ付カラー20の延び方向先端22aに座ぐり部41の底面41aを当接させて、間Aに第1の接着剤71を配置する工程と、(iii)第1の接着剤71が硬化した後に、被締結部材50の一面50aがワッシャ40に接触するようにして被締結部材50の他側(ワッシャ40と反対側)から、ボルト60を、被締結部材50のボルト挿通孔51とワッシャ40のボルト挿通孔44を挿通させて雌ネジ22cにねじ込む工程と、を有する。
【0027】
つぎに、本発明実施例の作用を説明する。
本発明実施例の締結構造体10では、つぎの作用を得ることができる。
(a) フランジ付カラー20の軸部22の延び方向先端22aが樹脂製部材30から突出しているため、ボルト60の締結力はカラー20にかかり、ボルト60の締結力が樹脂製部材30にかかることを抑制できる。そのため、樹脂製部材にクリープが生じることを抑制できる。
【0028】
(b) (b−1)樹脂製部材30と被締結部材50との間にワッシャ40が配置されており、フランジ付カラー20の軸部22の延び方向先端22aが樹脂製部材30から突出してワッシャ40に当接しているため、フランジ付カラー20の軸部22の延び方向先端22aを被締結部材50に直接当接させる場合に比べて、被締結部材50を保持する面積を大にすることができる。したがって、被締結部材50にボルト軸方向と直交する方向の力がかかったとき、被締結部材50がワッシャ40に対して傾くことを抑制できる。
また、(b−2)樹脂製部材30とワッシャ40の面部分42との間に第1の接着剤71が配置されているため、被締結部材50にボルト軸方向と直交する方向の力がかかり、その力がワッシャ40に伝わった場合であっても、ワッシャ40が樹脂製部材30に対して傾くことを抑制できる。
上記(b−1)、(b−2)より、被締結部材50にボルト軸方向と直交する方向の力がかかった場合であっても、被締結部材50が樹脂製部材30に対して傾くことを抑制できる。
【0029】
(c) 樹脂製部材30とワッシャ40の面部分42との間に第1の接着剤71が配置されているため、樹脂製部材30の厚みがばらついても、第1の接着剤71の厚みでばらつきを吸収することができる。
【0030】
(d) ワッシャ40に座ぐり部41が形成されているため、座ぐり部41の底面41aとワッシャ40の面部分42との間に段43が存在する。そのため、ワッシャ40に座ぐり部41が設けられていない場合に比べて(段43がない場合に比べて)、第1の接着剤71が、フランジ付カラー20の軸部22の延び方向先端22aと座ぐり部41の底面41aとの間およびネジ部に入り込みにくくなる。したがって、第1の接着剤71がボルト締結力に影響を及ぼすことを抑制できる。
【0031】
(e) フランジ付カラー20の延び方向先端22aが樹脂製部材30の第2の面32から突出しているので、延び方向先端22aが第2の面32から突出していない場合に比べて、フランジ付カラー20を樹脂製部材30の取付け穴31に挿入した後、延び方向先端22aに異物が付着しているか否かを容易に判別できる。また、延び方向先端22aに異物が付着している場合であっても、該異物を、延び方向先端22aが第2の面32から突出していない場合に比べて、容易に除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明実施例の締結構造体の断面図である。
【符号の説明】
【0033】
10 締結構造体
20 フランジ付カラー
21a フランジ部の裏面
21b フランジ部の側面
22 軸部
22a 軸部の延び方向先端
22b ボルト挿入用穴
22c 雌ネジ
22d 軸部の外周面
30 樹脂製部材
30a 樹脂ブロック
30b 表層部
31 樹脂製部材の第1の面
32 樹脂製部材の第2の面
33 取付け穴
33a 取付け穴の内周面
34 樹脂製部材側座ぐり部
34a 樹脂製部材側座ぐり部の底面
34b 樹脂製部材側座ぐり部の側面
40 ワッシャ
41 座ぐり部
41a 座ぐり部の底面
42 ワッシャの樹脂製部材側の面のうち座ぐり部が形成されていない面部分
43 段
50 被締結部材
60 ボルト
70 接着剤
71 第1の接着剤
72 第2の接着剤
A 樹脂製部材の第2の面とワッシャの面部分との間
B フランジ部の裏面(下面)と樹脂製部材側座ぐり部の底面との間
C フランジ部の側面と樹脂製部材側座ぐり部の側面との間
D 軸部の外周面と取付け穴の内周面との間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製部材に形成した取付け穴にフランジ付カラーを挿入し、前記樹脂製部材に対して被締結部材を、前記樹脂製部材と前記被締結部材との間にワッシャを配置した状態でボルトを用いて締結固定する、フランジ付カラーを含む締結構造体であって、
前記フランジ付カラーは、フランジ部と、該フランジ部から前記フランジ付カラーの軸方向に延びており延び方向先端が前記樹脂製部材から突出している軸部と、を備えており、
前記ワッシャは、前記樹脂製部材側の面に前記フランジ付カラーの軸部の延び方向先端が当接する座ぐり部を備えており、
前記樹脂製部材と前記ワッシャの前記樹脂製部材側の面のうち前記座ぐり部が形成されていない面部分との間に接着剤が配置されている、
フランジ付カラーを含む締結構造体。

【図1】
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【公開番号】特開2007−332983(P2007−332983A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−162106(P2006−162106)
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】