説明

フラーレン類含有光触媒コーティングテキスタイル

【課題】優れた耐久性のある消臭性、抗菌性、防カビ性及び防汚性を同時に有する優れた機能を有する繊維構造物を提供する。
【解決手段】繊維表面に、樹脂基材中に光照射によって有機成分を分解する機能を持つ光触媒化合物を含有する光触媒層を有する繊維構造物であって、該光触媒層と繊維表面の間に、樹脂基材中にフラーレン骨格を有する化合物を含有する中間層を有し、かつ前記光触媒層及び中間層の樹脂基材がアクリル系樹脂、アルキルシリケート系樹脂、シリコーン系樹脂及びフッ素系樹脂から選ばれた少なくとも1種である光触媒コーティング繊維構造物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐久性のある消臭性、着臭防止性、抗菌性、防カビ性、防汚性などの優れた機能を有する繊維構造物に関する。更に詳しくは、衣料、カーテン、壁装材、シート材又は寝具などのインテリア、又は自動車などの車内内装材などに広く応用できる繊維構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、国民の生活水準の向上に伴い、健康及び衛生に関する意識も高まっており、衣食住の各分野において、消臭、抗菌、防カビ及び防汚加工を施した製品や技術が実用化されている。特に、衣料の分野では、身につけることから、様々な消臭、抗菌、防汚加工技術が開発されている。また、インテリアを含めた他用途への展開が進められている。例えば、繊維に対して消臭、抗菌及び防汚加工を施す場合は、原糸への練り込み、紡績工程における付与、染色時及び染色後の付与が行われている。しかし、この方法では、繊維全体に対して消臭、抗菌、防汚性を満足する加工を施すためには、加工剤を多く付与する必要があり、生産性が悪くなる場合があった。また、付着量が増えるために風合いが硬くなったり、加工剤によっては色味が白くなって見栄えが悪くなったりすることがあった。また、これらに使用されている消臭剤は、ごく一部を除き中和作用などによるものが主体であり、持続性のある消臭機能を発揮し得るものではない。例えば酸性の酸化チタン、硫酸アルミニウムなどは、塩基性のアンモニアなどの消臭には効果を発揮しても、中性の悪臭成分に対しては無力である。また、消臭剤自体が塩基性である酸化亜鉛は、酸性の悪臭であるメチルメルカプタン、硫化水素などを中和して無臭物質に変えるけれども、中性の悪臭に対しては無力である。また、これらの酸や塩基を用いた中和作用による消臭方法では、消臭剤自体が飽和されると効果を発揮できず、洗濯などの処理を行って、初めて機能が回復する。よって、これらの消臭剤は、悪臭の処理能力に限度があり、しかも塩基性か酸性の物質に対しては全く効果を発揮できない。
【0003】
また、活性炭やシリカなどの物理的な吸着を利用した消臭剤も知られている。これらは、悪臭成分を消臭剤に集め、周囲の濃度を低下させるが、トータルで悪臭成分の量が減少することはないため、本質的な解決にはならない。理想的には悪臭成分を完全に無臭の成分にまで分解させることが必要であり、このような作用を行う化学物質はごくわずかにしか知られていない。例えば、鉄/フタロシアニンがあり、酵素的に酸化分解作用を行うこの物質は、レーヨン繊維に練り込まれて用いられており、例えば、ふとん綿に使用され、これによってアンモニアが消臭されることが確認されている。また、硫化水素は硫黄に、メルカプタンはジスルフィドに、アルデヒドはカルボン酸に、アミンはケトンとアンモニアに、それぞれ酸化されることが知られている。しかしながら、これらの分解物の中には臭気を持つものもあり、また、これらの化学物質は、全ての悪臭に有効とはいえない。すなわち、タバコ臭や汗の臭気の除去には有効ではない。また、複合された悪臭、例えば、タバコの燃焼ガスは、数千の成分を含んでいるといわれ、これらを全て消臭することは困難であった。更に、人の汗の主成分であるイソ吉草酸に対しては有効な消臭剤がなく、また腋臭の臭気成分は数種類の低級脂肪酸が混ざったものであり、これらを完全に無臭化するのは困難であった。このような消臭加工は、空気中の臭い成分を分解又は吸着により、除去や、減少させることはできるが、消臭加工した繊維構造物は、むしろ臭い成分を吸着したり、分解により他の成分に変化し、かえって変な臭い成分が発生したりする場合があるため、現時点では、完全に臭い成分を除去することができない。むしろ、消臭加工していない繊維構造物の方が、着臭防止効果があることが多く見受けられる。セラミックやガラスなどの無機物の表面に固定されて用いられている光触媒を繊維に固定すれば、消臭性、抗菌性、防カビ性及び防汚性などの機能を付与し得ることは予想できるが、光触媒を繊維に固着させるためには、何らかのバインダー樹脂が必要であり、従来使用していたアクリル系樹脂やウレタン系樹脂のバインダー樹脂は、有機質の炭化水素を含む樹脂であるため、光触媒の強い酸化分解力によりバインダー樹脂が分解して、着色したり、悪臭が発生したりするなどの問題が生じる。
【0004】
更に、光触媒が付与された繊維は、繊維自体が劣化し、着色、強度低下、低分子量の分解物生成により、悪臭の発生などの問題が生じるのであった。光触媒によるバインダー樹脂の分解や繊維の劣化を防ぐために、例えば酸化チタンをシリカなどの無機物で部分的に被覆し、酸化チタンとバインダー樹脂や繊維が接触することを防ぐことで、かかる問題を解決する方法も提案されているが、無機物で部分被覆した酸化チタンは、光触媒としての活性が低下するため、本来の消臭性、抗菌性、防カビ性及び防汚性などの機能が低下する問題が生じる。また、例えば繊維表面に過酸化チタンからなる層を中間層として設け、その上に光触媒とバインダー樹脂からなる層を設ける方法があるが、光触媒の洗濯耐久性が乏しく、風合い粗硬化、コストアップ等の問題がある。
【0005】
前記の課題を解決するため、本発明者らは、フラーレン誘導体と光触媒材料の粒子をバインダー樹脂の一種であるアクリルポリマー中に均一かつ効果的に分散・混合する技術を開発し、光触媒コート剤の寿命が従来品比で2倍以上と向上すること、加えて、当該技術が従来のテキスタイル加工に適用可能なこと、更に、光触媒材料をテキスタイルにコーティング処理すると消臭や抗菌等の効果が期待されることを公表している(非特許文献1)。
【0006】
しかしながら、フラーレン含有光触媒コートをテキスタイル上に施しただけでは、光触媒活性の高い光触媒を用いた際に、テキスタイルを構成する繊維基材と光触媒との接触によって繊維基材の分解、劣化が進むため、非特許文献1の技術のみでは、高活性の光触媒を用いることには限界があった。
【0007】
一方、光触媒の活性を制御するために、光触媒層と基材の間に、炭素又は金属酸化物からなる導電性を有する中間層を設けることが特許文献1で提案されているが、中間層が導電性を必要とするため、炭素や金属酸化物の導電性ネットワークを確保する必要性を有し、導電性が極めて低いかほとんどない樹脂系バインダーの使用が困難である。そのため、中間層の柔軟性が失われ、テキスタイルなどの柔軟性が必要な用途では適応が困難である。
【0008】
したがって、繊維や繊維構造物に高活性光触媒コーティングして、消臭等の機能と高耐久性を両立する技術は、未だ実用化されてはいない。
【0009】
【特許文献1】特開平11−10006号公報
【非特許文献1】東レ株式会社、「フラーレンで光触媒コート材料の耐久性が2倍に向上−高耐久のフラーレン複合化光触媒組成物を提供−」[online]、2005年12月26日、[2007年3月6日検索]、インターネット<URL:http://www.toray.co.jp/news/rd/nr051226.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる従来技術の問題点に鑑み、使用に際して繊維やバインダー樹脂の劣化が少なく、持続性のある消臭、抗菌、防カビ及び防汚性を同時に満足する、優れた機能を有する繊維構造物を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1)繊維表面に、樹脂基材中に光照射によって有機成分を分解する機能を持つ光触媒化合物を含有する光触媒層を有する繊維構造物であって、該光触媒層と繊維表面の間に、樹脂基材中にフラーレン骨格を有する化合物を含有する中間層を有し、かつ前記光触媒層及び中間層の樹脂基材がアクリル系樹脂、アルキルシリケート系樹脂、シリコーン系樹脂及びフッ素系樹脂から選ばれた少なくとも1種である光触媒コーティング繊維構造物。
(2)光触媒層がフラーレン骨格を有する化合物を含有する前記(1)に記載の光触媒コーティング繊維構造物。
(3)前記光触媒化合物の含有量が、中間層及び光触媒層を構成する素材に対して5重量%以上60重量%以下である前記(1)又は(2)に記載の光触媒コーティング繊維構造物。
(4)フラーレン骨格を有する化合物の含有量が、中間層及び光触媒層を構成する素材に対して0.01重量%以上5重量%以下である前記(1)〜(3)のいずれかに記載の光触媒コーティング繊維構造物。
(5)中間層の厚みが10nm以上5μm以下である前記(1)〜(4)のいずれかに記載の光触媒コーティング繊維構造物。
(6)光触媒化合物の平均一次粒子径が1nm以上5μm以下である前記(1)〜(5)のいずれかに記載の光触媒コーティング繊維構造物。
(7)光触媒化合物がチタン元素を50重量%以上含有する前記(1)〜(6)のいずれかに記載の光触媒コーティング繊維構造物。
(8)フラーレン骨格を有する化合物が次式(I):
【0012】
【化1】

(式中、FlはC60又はC70のフラーレン骨格を有する基を表し、Rは炭素数が1以上20以下のアルキル基を表し、lは0〜5から選ばれる任意の整数を表す。)
で示される構造を有する前記(1)〜(7)のいずれかに記載の光触媒コーティング繊維構造物。
(9)全繊維中、ポリエステル系繊維が50重量%以上含まれる前記(1)〜(8)のいずれかに記載の光触媒コーティング繊維構造物。
(10)繊維表面に、アクリル系樹脂、アルキルシリケート系樹脂、シリコーン系樹脂及びフッ素系樹脂から選ばれた少なくとも1種の樹脂基材中にフラーレン骨格を有する化合物を含有する中間層を形成させた後、該中間層の上に、アクリル系樹脂、アルキルシリケート系樹脂、シリコーン系樹脂及びフッ素系樹脂から選ばれた少なくとも1種の樹脂基材中に光照射によって有機成分を分解する機能を持つ光触媒化合物を含有する光触媒層を形成させることを含む、前記(1)〜(9)のいずれかに記載の光触媒コーティング繊維構造物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、衣料やカーテン、壁装材、シート材、寝具などのインテリア、また自動車などの車内内装材などに広く応用できる機能と高い耐久性を兼ね備えた繊維構造物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に用いる繊維は、合成繊維を主成分とする繊維であって、高次加工によって繊維構造物に加工可能となる形状であれば特に限定されるものではないが、全繊維中、ポリエステル系繊維を、50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、更に好ましくは100重量%含有する場合に、消臭性等の機能において優れた効果が得られる。更に、ポリエステル系繊維とともに、例えばポリアミド、ポリアクリル等の合成繊維、アセテート、レーヨン等の半合成繊維、羊毛、絹、木綿、麻等の天然繊維を用いることも好ましい。
【0015】
本発明でいう繊維構造物とは、布帛状物はもちろん、帯状物、紐状物、糸状物など、その構造、形状はいかなるものであってもよい。好ましくは合成繊維を主体とした布帛状のもの、すなわち織物、編物、不織布がよく、複合材料であってもよい。本発明において、ポリエステル系繊維中に不活性酸化チタンを含有することが好ましい。その不活性酸化チタンとは、特定波長の光、特に好ましくは紫外線に対して励起されることがなく不活性である酸化チタンが用いられ、好ましくは通常のポリエステル系合成繊維の製造において艶消し剤として用いられる酸化チタンが使用される。かかる不活性酸化チタンを添加することにより、有機性100%のポリエステル系繊維中に無機性の酸化チタンを添加したことで無機性が高められ、上層部に光触媒を設けた場合における酸化還元作用が、ポリエステル系繊維に及ぼす影響を減少化させる働きが惹起される。かかる不活性酸化チタンは、ポリエステル系繊維の重合時に添加することができ、製糸性や糸物性の点で、平均粒子径が0.1〜0.7μm、更には0.2〜0.4μmの範囲のものが好ましい。また、かかる不活性酸化チタンの添加量は、光触媒機能及び繊維構造物としての物性の耐久性、製糸性や糸物性の点で、繊維重量に対して0.3〜5重量%が好ましく、0.5〜4重量%が更に好ましい。
【0016】
本発明における光触媒化合物とは、紫外光により励起され、強い酸化力によって有機物を分解する特性、いわゆる光触媒活性を有するものであれば特に限定されるものではないが、酸化チタンを主成分とするもの、好ましくはチタン元素を50重量%以上含有するものが産業的にも入手が容易で好適である。更に、チタンの一部が他の金属元素で置換されていてもよく、また酸素の一部が窒素や硫黄などの原子で置換されていてもよい。
【0017】
光触媒化合物の平均一次粒子径は1nm以上5μm以下であることが好ましく、平均一次粒子径が5nm以上1μm以下であれば更に好ましい。平均一次粒子径が100μmより大きいと、繊維基材へ塗布した際に、コーティング表面が不均一になり、風合いが悪くなったり、繊維からの光触媒化合物の脱離が多くなったりして好ましくない。また、1nmより大きければ、光触媒活性の元となる酸化チタンの結晶構造が完全となり、光触媒活性の低下も少ない。
【0018】
本発明の光触媒コーティング繊維構造物は、繊維表面と光触媒化合物が直接接触せず、特定の樹脂にフラーレン骨格を有する化合物を含有する中間層を光触媒層と繊維表面の間に有する。ここで、中間層とは、光触媒コーティング繊維構造物の断面を走査型電子顕微鏡又は原子間力顕微鏡を用いて観察した際に、繊維基材と、光触媒層の中間に設けられた層である。中間層の厚みは、繊維断面の操作型電子顕微鏡又は原子間力顕微鏡での観察において、繊維表面と光触媒粒子層との最近接距離によって求めることができる。中間層の厚みは、特に限定されるものではないが、中間層としての役割、繊維の風合いの点で、10nm以上5μm以下が好ましい。更に好ましくは、50nm以上1μm以下である。
【0019】
本発明におけるフラーレン骨格を有する化合物とは、炭素原子が球状又はラグビーボール状に配置して形成される閉殻状の骨格(フラーレン骨格)を有する炭素クラスターをいう。閉殻状構造を構成する炭素原子数は60個以上である。
【0020】
本発明におけるフラーレン類とは、前記フラーレン骨格を有する化合物又は組成物の総称である。具体的には、フラーレン;フラーレンに化学修飾が施されたもの(フラーレン誘導体);フラーレン又はその誘導体が他の金属原子や化合物とキレートを形成しているもの(フラーレン錯体);フラーレン又はその誘導体がフラーレン骨格内にLa、Y、Sc等の金属原子や化合物を内包しているもの(金属内包フラーレン、メタロフラーレン);He、Ne、Kr、Xe等の希ガスを内包したもの;これらの二量体、三量体等の多量体;並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0021】
本発明で使用されるフラーレン類は特に限定されるものではないが、製造時における原料の入手の容易さから、C60骨格又はC70骨格を有するフラーレン類が好ましい。また、繊維構造物での使用の観点より、疎水性を備えたフラーレン類が好ましい。ここで「疎水性」のフラーレン類とは、具体的には、常温(20℃〜25℃)における水への溶解度が通常1%未満、好ましくは0.5%未満の範囲であるフラーレン類をいう。
【0022】
また、アクリル系樹脂、アルキルシリケート系樹脂、シリコーン系樹脂及びフッ素系樹脂の少なくとも1種と混合することより、前記樹脂との親和性が良好なフラーレン誘導体が好ましく用いられる。フラーレン誘導体としては、アルキル基を有することが繊維構造体作成での操作性や、また、前記樹脂との親和性の観点から好ましい。特に、フラーレン骨格を有する化合物が次式(I):
【0023】
【化2】

(式中、FlはC60又はC70のフラーレン骨格を有する基を表し、Rは炭素数が1以上20以下のアルキル基を表し、lは0〜5から選ばれる任意の整数を表す。)
で示される構造を有することが好ましい。
【0024】
本発明において、前記光触媒層及び中間層の樹脂基材としてはアクリル系樹脂、アルキルシリケート系樹脂、シリコーン系樹脂及びフッ素系樹脂から選ばれた少なくとも1種が用いられる。また、前記樹脂のモノマー成分と他成分と共重合したものも好ましく用いられ、他成分としては、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、メトキシポリオキシエチレングリコールなどが好ましく使用される。光触媒層と中間層との樹脂基材は、同一でも異なってもよいが、繊維製品としての風合いや、製造の簡便性の観点からアクリル系樹脂が好ましい。
【0025】
前記アクリル系樹脂としては、アクリル系のモノマーを含むモノマー成分を重合させて得るポリマーであれば特に限定されるものではないが、好ましくはビニル系モノマーから得られるポリマーが挙げられる。具体的には、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン等のα−置換スチレン類、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン等の核置換スチレン類、p−クロロスチレン、p−ブロモスチレン、ジブロモスチレン等の核置換ハロゲン化スチレン類等のビニル芳香族類;(メタ)アクリル酸(なお、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルを意味するものとし、以下も同様とする。)、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸類;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の不飽和カルボン酸エステル類;(メタ)アクリルアルデヒド、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド等の不飽和カルボン酸誘導体類;N−ビニルピリジン、N−ビニルピロリドン等のN−ビニル化合物類;蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル化合物類;アリルアルコール、アリルメチルエーテル、アリルエチルエーテル、アリルメチルケトン、アリル酢酸、アリルフェノール等のアリル化合物類;N−メチロールアクリルアミド、N−エチロールアクリルアミド、N−プロパノールアクリルアミド、N−メチロールマレインアミド酸、N−メチロールマレインアミド酸エステル、N−メチロールマレイミド、N−エチロールマレイミド、N−(イソブトキシメチル)アクリルアミド、N−メチロール−p−ビニルベンズアミド等のN−置換不飽和アミド類;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類;ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、ジビニルシクロヘキサン、ジイソプロペニルベンゼン等の多官能ビニル化合物類;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ソルビトールトリ(メタ)アクリレート、ソルビトールテトラ(メタ)アクリレート、ソルビトールペンタ(メタ)アクリレート、ソルビトールヘキサ(メタ)アクリレート等の多官能アクリレート類等が挙げられる。なお、前記のモノマーは、アクリル系のモノマーの単独使用の他、アクリル系のモノマーを含む2種以上の混合物をモノマーとして共重合させたものであっても好適である。
【0026】
前記アルキルシリケート系樹脂としては、主にSi−Oの結合部分と直鎖又は分岐のある飽和炭化水素基からなり、その両端にOH基を持つもの、例えば下記に示される構造を含むものが挙げられる。
OH−(Si−O)−R−OH
【0027】
前記式中、Rは、炭素数1〜10の直鎖又は分岐のある飽和炭化水素基であり、nは1以上の整数を意味し、好ましくは無機性を高めるために1000〜10000の範囲である。かかる直鎖又は分岐のある飽和炭化水素基としては、メチレン、エチレン、プロピレン、イソブテンなどの直鎖又は分岐のある飽和炭化水素基が用いられる。これらアルキルシリケート系樹脂は単独でも、2種以上の混合物でもよい。これらの化合物は、熱の存在下で容易に脱水反応を起こして、ポリシロキサン被膜を形成する特徴がある。アルキルシリケート系樹脂は、水溶性であり、繊維構造物をこれらの水溶液に含浸させた後、マングルロールで絞り、200℃以下、好ましくは100℃以上180℃以下で処理すると、繊維表面上に薄い被膜を形成するものである。
【0028】
前記シリコーン系樹脂としては、シリコーンレジンもしくはシリコーンワニスという分類に属する縮合架橋型樹脂を使用することができ、かかる樹脂は、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシランなどの縮合架橋型樹脂を、単独又は数種の配合物を縮合して得ることができるものを含む。これらは、3次元構造の樹脂を形成し、シリコーン樹脂の中でも、最も耐熱性や耐薬品性に優れたものである。また、テトライソプロポキシシランやテトラエトキシシランをアルコール/水混合溶剤中で強酸により加水分解して得られる酸化ケイ素のゾルを乾燥したものも好ましく用いられ、ガラス質の被膜が得られる。
【0029】
前記フッ素系樹脂としては、中でも、ビニルエーテル及び/又はビニルエステルと、フルオロオレフィン重合性化合物が、耐熱性、耐薬品性の点で非常に優れた特性を持っていて好ましく使用される。例えば、ポリフッ化ビニルやポリ四フッ化エチレン、四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエステルやビニルエステル−フルオロオレフィンなどが分解、劣化が少ないので好ましく使用される。
【0030】
本発明の光触媒コーティング繊維構造物における光触媒層は、耐久性の点で光触媒化合物とともに、前記フラーレン骨格を有する化合物を含有することが好ましい。
【0031】
本発明の光触媒コーティング繊維構造物に用いる光触媒化合物の含有量は、機能性、繊維表面への定着性の点で、中間層及び光触媒層を構成する素材に対して、5重量%以上60重量%以下であることが好ましい。より好ましくは、10重量%以上50重量%以下であり、更に好ましくは、20重量%以上45重量%以下である。ここで、中間層及び光触媒層を構成する素材とは、繊維構造物の基材上に塗布された全ての素材を指し、例えば光触媒粒子、バインダー樹脂、フラーレン類及びその他添加剤から構成されるものである。
【0032】
本発明においてフラーレン骨格を有する化合物は、光触媒によって発生したラジカル種を捕捉し、光触媒と繊維基材を固定化するバインダー樹脂のラジカルによる分解を抑制する効果を有している。フラーレン骨格を有する化合物の含有量は、繊維基材の耐久性、フラーレン類の分散性の点で、中間層及び光触媒層を構成する素材に対して0.01重量%以上5重量%以下であることが好ましい。より好ましくは、0.02重量%以上2重量%以下で、更に好ましくは0.05重量%以上1重量%以下である。0.01重量%より少ない場合は、酸化チタンから出るラジカル捕捉機能が不十分であり、中間層のポリマーが破壊されることを抑制する効果が見られない。また、5重量%より多い場合は、フラーレン類由来による着色が顕著となり、テキスタイルとしての品位が大幅に悪化するため、好ましくない。
【0033】
本発明の光触媒コーティング繊維構造物には、かかる酸化チタン触媒を固定化する樹脂や中間層を形成する樹脂の少なくとも一方、又はこれを付与されてなる繊維構造物全体が吸水性を有することが好ましく、吸水性を付与する方法としては、親水性を有する水酸基(−OH)、カルボキシル基(−COOH)、アミノ基(−NH)及びアミド基(−CONH)から選ばれた少なくとも1種をもつ吸水性シリコーン系樹脂や、エチレングリコールを多数付加した吸水性シリコーン系樹脂や、ポリエチレンオキサイド基含有化合物や、セルロース系化合物などの親水化加工剤を、バインダー樹脂に混合したり、該布帛全体に付与する手段を採用することができる。後者の親水化加工剤の中では、ポリアルキレングリコール−ポリエステルブロック共重合体を主成分とする親水性ポリエステル樹脂が好ましい。
【0034】
本発明の光触媒コーティング繊維構造物は、繊維表面に、前記中間層を形成させた後、該中間層の上に、前記光触媒層を形成させることにより製造することができる。
【0035】
以下に、本発明の光触媒コーティング繊維構造物の好ましい製造方法の一例について説明する。フラーレン類及びアクリル系樹脂を含むバインダー樹脂溶液を加工液1とする。更に、アクリル系樹脂、アルキルシリケート系樹脂、シリコーン系樹脂及びフッ素系樹脂の少なくとも一種を含む溶液を加工液2とする。好ましくは、加工液2には、フラーレン類含有アクリル系樹脂分散液を添加する。加工液2にフラーレン類含有アクリル樹脂分散液を添加することによって、フラーレン類が光触媒によって発生するラジカルを捕捉し、バインダー樹脂層の化学的安定性を高めることができる。光触媒粒子を分散させた液を加工液3とする。
【0036】
中間層を形成させるバインダー樹脂溶液として加工液1を用いる場合、耐熱、耐摩耗性を向上させるため、熱架橋反応が可能なアクリル系樹脂又はオリゴマーを適宜添加することも好適である。更に、中間層の化学的安定性を高めるため、ヒンダードアミン系酸化防止剤又はヒンダードフェノール系酸化防止剤に代表される酸化防止剤を添加させることも好適である。
【0037】
光触媒を固定化させる表面層(光触媒層のバインダー樹脂層)として加工液1、加工液2又はこれらの混合液を用いる場合、熱架橋反応が可能なアクリル系樹脂又はオリゴマーを適宜添加することも好適である。更に、カップリング剤を添加することによって、無機物である光触媒粒子と有機物であるバインダー樹脂の接着性を向上させることも好適である。これによりバインダー樹脂、光触媒粒子の相互間に化学的結合が形成でき、洗濯耐久性など、物理的な耐久性向上につながる。
【0038】
コーティングプロセスは、中間層を形成する加工液1に繊維構造物を含浸させた後、マングルロールで絞り、ドライ−キュアの工程を経るか、あるいは、この加工液1を適当な粘度に調整して、ナイフコーターやグラビアロールコーター、捺染などで塗布した後、200℃以下、好ましくは100℃以上180℃以下の温度で固定して中間層を形成する。
続いて、光触媒粒子を分散させた加工液3と、加工液1又は加工液2の少なくとも1種とを含む加工液4に前述の中間層を形成した繊維構造物を含浸させた後、マングルロールで絞り、ドライ−キュアの工程を経るか、あるいは、この加工液4を適当な粘度に調整して、ナイフコーターやグラビアロールコーター、捺染などで塗布した後、200℃以下、好ましくは100℃以上180℃以下の温度で固定して光触媒層を形成する。
【0039】
かくして従来になかった耐久性のある消臭性、抗菌性、防カビ性及び防汚性を満足する優れた繊維構造物が提供することができる。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。実施例中での品質評価は次の方法を用いた。
(光照射耐久試験)
光照射:アイドルフィン光照射装置。水銀ランプを用い、光照射強度10mW/cmで48時間照射。
力学試験:光触媒コーティング繊維構造物を繊維数40本、長さ20cmで切り出す。島津製作所製オートグラフを用い、10cm/分の速度で、破断強度を得る。光照射前後の破断強度の差から、光照射耐久性を得る。
【0041】
(有機物分解試験)
分解試験容器:容積1000mlのガラス製密閉容器。光照射面は石英。容器中央部にサンプル台を設置し、サンプル台下部に、容器内の雰囲気が均一となるよう、撹拌子を設置する。分解試験容器は、マグネティックスターラー上に設置する。
光照射:モリテックス社製キセノンランプ。サンプル設置場所での光照射強度が395nmの波長で、0.2mW/cmとなるよう、光源の位置を定める。
有機ガス:有機ガスとしてアセトアルデヒドを用いる。アセトアルデヒド濃度が300ppmとなる量を、反応容器を密閉後にシリンジを用いて注入する。
温湿度:実験室内温度を22℃。反応容器内相対湿度:40%となるよう、シリンジを用いて密閉した反応容器中へ水を滴下する。
分解試験片:光触媒コーティング繊維構造物25cmを反応容器中のサンプル台へ設置する。
ガス濃度:VARIAN社製マイクロガスクロマトグラフィー装置CP−4900を用い、アセトアルデヒド濃度を測定する。
分解時間:ガラス製密閉容器中のアセトアルデヒド濃度が30ppmに達するまでの時間を分解時間とする。
【0042】
(風合い)
光触媒コーティング繊維構造物の手触りを10人の人で官能評価し、下記評価点数で評価し、平均値を出した。
4:持ち上げるだけで、風合いの悪化を認識できる。
3:折り曲げ、揉みほぐし時の抵抗感の変化を容易に感じる。
2:折り曲げ、揉みほぐし時にかすかに抵抗感の変化を感じる。
1:コーティング前後で変化なし。
0:コーティングによって柔軟になった。
【0043】
(コーティング安定性)
光触媒コーティング繊維構造物の表面をキーエンス社製走査型電子顕微鏡で任意の5視野で観察し、コーティング層上に観察される10μm以上の不均一の有無を下記の評価基準で確認する。
良好:10μm以上の粒子または塗布欠損が1つも存在しない。
不良:10μ以上の粒子または塗布欠損が1つ以上存在。
【0044】
(コーティング層厚み)
光触媒コーティング繊維構造物の断面をキーエンス社製走査型電子顕微鏡で任意の5視野で観察し平均厚みを得る。
【0045】
光触媒コーティング繊維構造物の作成は次の手順で行った。
手順1:中間層を形成する加工液1に繊維構造物を浸漬する。
手順2:加工液1を含浸した繊維構造物をマングルロールで絞る。
手順3:手順2で得た繊維構造物を120℃で2分間乾燥する。
手順4:手順3で得た繊維構造物を170℃で1分間キュアし、中間層を定着させる。
手順5:光触媒粒子を分散した加工液3と加工液2を混合し、加工液4を調製する。
手順6:中間層を形成した繊維構造物を加工液4に浸漬する。
手順7:加工液4を含浸した繊維構造物をマングルロールで絞る。
手順8:手順7で得た繊維構造物を120℃で2分間乾燥する。
手順9:手順8で得た繊維構造物を170℃で1分間キュアし、所望の中間層を有した光触媒コーティング繊維構造物を得る。
【0046】
実施例1
加工液1として、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレートが3:3:4の比率(モル比;以下同様)で共重合したポリマー10gをトルエン10gに溶解させたポリマー溶液を得た。続いて、次式(Ia):
【0047】
【化3】

(式中、nは=1、2又は3の整数を表す。)
で示されるフラーレン誘導体(FLOX社製FD−001)(以下「DOA」という。)を1重量%の割合でトルエンへ溶解したDOAトルエン溶液を得た。このDOAトルエン溶液30gと前記ポリマーのトルエン溶液20gを混合させ、ポリマーに対して約3重量%のDOAを含有したDOA含有ポリマーのトルエン溶液を得た。続いて、非イオン系界面活性剤であるポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王社製エマルゲン103)を1重量%溶解させた水150gと混合し、プライミックス株式会社製T.K.ロボミックスを用い、10000rpm、60秒の撹拌を行い、全固形分濃度が5重量%となるDOA含有アクリルエマルジョンの水分散体を得た。更に、300gの水を添加して、2重量%のDOA含有ポリマー分散体を得た。
【0048】
加工液2は、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレートが3:3:4の比率で共重合したポリマーを用い、加工液1と同様の手順でポリマーに対して3重量%のDOAを含有したフラーレン誘導体含有ポリマー分散体として得た。
【0049】
加工液3は、住友化学社製酸化チタン分散液TS−S4230を用いた。加工液3の酸化チタン粒子の濃度は20wt%である。
【0050】
加工液4は、加工液2、加工液3を7:3の割合で混合した後、酸化チタン及びバインダー樹脂の合計重量が全液量に対して2重量%となるよう、水を加えて10倍に希釈した。
【0051】
繊維構造物として、平均粒子径0.3μmの不活性酸化チタンを0.35重量%含み、単糸の平均繊度が6.6dtexであるポリエチレンテレフタレート繊維を、通常の加工条件により精練、乾燥、中間セット、染色を行ったものを用いた。
【0052】
得られた光触媒コーティング繊維構造物を用い、有機物分解試験、風合いの評価、コーティング安定性の評価、コーティング層の厚みの測定、光照射耐久試験を行い、結果を表1に示した。
【0053】
実施例2
実施例1において、加工液2に添加していたフラーレン類(DOA)を添加しない以外は、実施例1と同様の組成、手順を経て光触媒コーティング繊維構造物を得て、有機物分解試験、風合いの評価、コーティング安定性の評価、コーティング層の厚みの測定、光照射耐久試験を行い、結果を表1に示した。
【0054】
実施例3
加工液1の固形分濃度を2重量%から1重量%へと変更した以外は、実施例1と同様の組成、手順を経て光触媒コーティング繊維構造物を得て、有機物分解試験、風合いの評価、コーティング安定性の評価、コーティング層の厚みの測定、光照射耐久試験を行い、結果を表1に示した。
【0055】
実施例4
加工液1の固形分濃度を2重量%から1重量%へと変更した以外は、実施例2と同様の組成、手順を経て光触媒コーティング繊維構造物を得て、有機物分解試験、風合いの評価、コーティング安定性の評価、コーティング層の厚みの測定、光照射耐久試験を行い、結果を表1に示した。
【0056】
実施例5
加工液1に添加するフラーレン類をC60(フロンティアカーボン株式会社製 ナノパープルN60−S)とし、樹脂に対して1重量%を添加した以外は、実施例1と同様の組成、手順を経て光触媒コーティング繊維構造物を得て、有機物分解試験、風合いの評価、コーティング安定性の評価、コーティング層の厚みの測定、光照射耐久試験を行い、結果を表1に示した。
【0057】
実施例6
実施例5で加工液1の固形分濃度を2重量%から1重量%へと変更した以外は、実施例5と同様の組成、手順を経て光触媒コーティング繊維構造物を得て、有機物分解試験、風合いの評価、コーティング安定性の評価、コーティング層の厚みの測定、光照射耐久試験を行い、結果を表1に示した。
【0058】
実施例7
実施例1で加工液1、加工液2に添加していたフラーレン類(DOA)の添加量を樹脂に対してそれぞれ1重量%とした以外は、実施例1と同様の組成、手順を経て光触媒コーティング繊維構造物を得て、有機物分解試験、風合いの評価、コーティング安定性の評価、コーティング層の厚みの測定、光照射耐久試験を行い、結果を表1に示した。
【0059】
実施例8
実施例7で用いた加工液1の固形分濃度を2重量%から5重量%へと変更した以外は、実施例7と同様の組成、手順を経て光触媒コーティング繊維構造物を得て、有機物分解試験、風合いの評価、コーティング安定性の評価、コーティング層の厚みの測定、光照射耐久試験を行い、結果を表1に示した。
【0060】
比較例1
中間層を設けず、加工液1を塗布する工程を省略し、加工液4からの浸漬塗布及び乾燥、定着を実施した。加工液4は、実施例2と同様の組成物を使用して、光触媒コーティング繊維構造物を得て、有機物分解試験、風合いの評価、コーティング安定性の評価、コーティング層の厚みの測定、光照射耐久試験を行い、結果を表1に示した。
【0061】
比較例2
実施例1において、加工液1、加工液2に含有させたフラーレン類(DOA)を添加しない以外は、実施例1と同様の組成、手順を経て光触媒コーティング繊維構造物を得て、有機物分解試験、風合いの評価、コーティング安定性の評価、コーティング層の厚みの測定、光照射耐久試験を行い、結果を表1に示した。
【0062】
比較例3
実施例1で用いた加工液1の固形分濃度を2重量%から10重量%へと変更とした以外は、実施例1と同様の組成、手順を経て光触媒コーティング繊維構造物を得て、有機物分解試験、風合いの評価、コーティング安定性の評価、コーティング層の厚みの測定、光照射耐久試験を行い、結果を表1に示した。
【0063】
比較例4
実施例1で用いた加工液1の固形分濃度を0.1重量%とした以外は、実施例1と同様の組成、手順を経て光触媒コーティング繊維構造物を得て、有機物分解試験、風合いの評価、コーティング安定性の評価、コーティング層の厚みの測定、光照射耐久試験を行い、結果を表1に示した。
【0064】
比較例5
実施例1で用いた加工液1に添加したフラーレン類(DOA)の添加量を0.005重量%とした以外は、実施例1と同様の組成、手順を経て光触媒コーティング繊維構造物を得て、有機物分解試験、風合いの評価、コーティング安定性の評価、コーティング層の厚みの測定、光照射耐久試験を行い、結果を表1に示した。
【0065】
比較例6
実施例1で用いた加工液1に添加したフラーレン類(DOA)の添加量を、加工液1を構成するポリマー成分に対して6重量%とした以外は、実施例1と同様の組成、手順を経て光触媒コーティング繊維構造物を得て、有機物分解試験、風合いの評価、コーティング安定性の評価、コーティング層の厚みの測定、光照射耐久試験を行い、結果を表1に示した。
【0066】
【表1】

【0067】
表1から明らかなように、実施例1〜8の光触媒コーティング繊維構造物では、風合い、コーティング安定性及び耐久性のいずれにおいても優れた結果が得られているのに対し、比較例1〜6の光触媒コーティング繊維構造物には、風合い、コーティング安定性及び耐久性の全てにおいて満足する結果を与えるものはなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維表面に、樹脂基材中に光照射によって有機成分を分解する機能を持つ光触媒化合物を含有する光触媒層を有する繊維構造物であって、該光触媒層と繊維表面の間に、樹脂基材中にフラーレン骨格を有する化合物を含有する中間層を有し、かつ前記光触媒層及び中間層の樹脂基材がアクリル系樹脂、アルキルシリケート系樹脂、シリコーン系樹脂及びフッ素系樹脂から選ばれた少なくとも1種である光触媒コーティング繊維構造物。
【請求項2】
光触媒層がフラーレン骨格を有する化合物を含有する請求項1記載の光触媒コーティング繊維構造物。
【請求項3】
前記光触媒化合物の含有量が、中間層及び光触媒層を構成する素材に対して5重量%以上60重量%以下である請求項1又は2記載の光触媒コーティング繊維構造物。
【請求項4】
フラーレン骨格を有する化合物の含有量が、中間層及び光触媒層を構成する素材に対して0.01重量%以上5重量%以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の光触媒コーティング繊維構造物。
【請求項5】
中間層の厚みが10nm以上5μm以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の光触媒コーティング繊維構造物。
【請求項6】
光触媒化合物の平均一次粒子径が1nm以上5μm以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の光触媒コーティング繊維構造物。
【請求項7】
光触媒化合物がチタン元素を50重量%以上含有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の光触媒コーティング繊維構造物。
【請求項8】
フラーレン骨格を有する化合物が次式(I):
【化1】

(式中、FlはC60又はC70のフラーレン骨格を有する基を表し、Rは炭素数が1以上20以下のアルキル基を表し、lは0〜5から選ばれる任意の整数を表す。)
で示される構造を有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の光触媒コーティング繊維構造物。
【請求項9】
全繊維中、ポリエステル系繊維が50重量%以上含まれる請求項1〜8のいずれか1項に記載の光触媒コーティング繊維構造物。
【請求項10】
繊維表面に、アクリル系樹脂、アルキルシリケート系樹脂、シリコーン系樹脂及びフッ素系樹脂から選ばれた少なくとも1種の樹脂基材中にフラーレン骨格を有する化合物を含有する中間層を形成させた後、該中間層の上に、アクリル系樹脂、アルキルシリケート系樹脂、シリコーン系樹脂及びフッ素系樹脂から選ばれた少なくとも1種の樹脂基材中に光照射によって有機成分を分解する機能を持つ光触媒化合物を含有する光触媒層を形成させることを含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の光触媒コーティング繊維構造物の製造方法。

【公開番号】特開2009−119409(P2009−119409A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−298319(P2007−298319)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】