説明

フルオレン誘導体およびその組成物

【課題】フルオレン骨格(9,9−ビス(アリール)フルオレン骨格)と糖由来の骨格とを有し、樹脂原料などとして有用な新規化合物を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される化合物。


(式中、Aは、水素原子、糖鎖、糖から誘導された基、リグニンモノマー鎖、又はリグニンモノマーから誘導された基を示し、環Zは芳香族炭化水素環を示し、Rは置換基を示し、Rはアルキレン基を示し、Rは置換基を示し、kは0〜4の整数、mは0以上の整数、nは1以上の整数、pは0以上の整数、aは0又は1である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオレン骨格(9,9−ビス(アリール)フルオレン骨格)を有する新規な化合物、およびこの化合物を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
リグノセルロースは、地球上最大の再生可能の有機資源であり、優れた機械特性、環境・生体対応性を有するため化石資源の代替資源として近年一層注目されている。しかし、不融不溶な材料であるため熱加工できず、そのままでの利用が極めて限定されている。
【0003】
このような中、リグノセルロースを有効活用する試みもなされており、例えば、特開平11−130872号公報(特許文献1)には、リグノセルロース物質と、酸触媒と、フェノール類、多価アルコール類及び環状エステル類から選択される1種又は2種以上の物質とを混合して得られる混合物を押出機により加熱混練して押出し、リグノセルロース物質の液化物を製造する方法が開示されている。この文献には、リグノセルロース物質として、スギ、ヒノキなどの木材を粉砕したものなどが例示され、フェノール類として、フェノール、ビスフェノールAなどが例示され、多価アルコール類として、グリセリンなどが例示されている。また、この文献の実施例には、フェノールと、硫酸と、ヒノキ木粉との混合物を押出機により混練押出することにより、液化物を得たことが記載されている。
【0004】
しかし、この方法では、リグノセルロース物質を有効に溶出できず、多量の残渣が生成し、リグノセルロース含有液化物の収率を向上するのが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−130872号公報(請求項1、段落[0015][0019][0020]、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、フルオレン骨格(9,9−ビス(アリール)フルオレン骨格)と糖由来の骨格又はリグニンモノマー由来の骨格とを有する新規な化合物、およびこの化合物を含む組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、フルオレン骨格(9,9−ビス(アリール)フルオレン骨格)を有する化合物と、単糖(グルコースなど)、多糖(セルロース、デンプンなど)などの糖やリグニンモノマーとを加熱下で混合すると、糖由来の鎖やリグニンモノマー(p−クマリルアルコール、コニフェリルアルコール、シナピルアルコールなど)由来の鎖がフルオレン骨格を有する化合物に結合した新規な化合物が得られること、特に、糖としてセルロースなどの多糖やリグノセルロースなどを用いても、容易に液化又は流動化して上記のような新規な化合物が得られることを見いだし、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明のフルオレン骨格を有する化合物(フルオレン化合物)は、下記式(1)で表される。
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Aは、水素原子、糖鎖、糖から誘導された基、又はリグニンモノマー乃至オリゴマー鎖を示し、環Zは芳香族炭化水素環を示し、Rは置換基を示し、Rはアルキレン基を示し、Rは置換基を示し、kは0〜4の整数、mは0以上の整数、nは1以上の整数、pは0以上の整数、aは0又は1である。ただし、2n個のAのうち、少なくとも1つのAが糖鎖、糖から誘導された基、又はリグニンモノマー乃至オリゴマー鎖であり、Aが水素原子であるとき、aは1である。)
上記式(1)において、糖鎖又は糖から誘導された基は、多糖類鎖であってもよく、通常、単糖鎖、オリゴ糖鎖、糖アルコール鎖、およびこれらの糖鎖から誘導された基であってもよく、特に、単糖鎖又は単糖鎖から誘導された基であってもよい。
【0011】
代表的には、前記式(1)において、糖鎖又は糖から誘導された基が、グリコピラノシル基(例えば、下記式(A1)で表される基、下記式(A4)で表される基)又はグリコピラノシル基から誘導された基(例えば、下記式(A2)で表される基、下記式(A3)で表される基、下記式(A5)で表される基)であってもよい。
【0012】
【化2】

【0013】
【化3】

【0014】
また、前記式(1)において、リグニンモノマー乃至オリゴマー鎖(リグニンモノマー由来の鎖)としては、例えば、下記式(A6)で表される基、下記式(A7)で表される基、又は下記式(A8)で表される基であってもよい。
【0015】
【化4】

【0016】
(式中、XおよびXは同一又は異なって水素原子又はメトキシ基を示す。)
なお、前記式(1)において、Aが、糖鎖又は糖から誘導された基であるとき、通常、aは1であってもよい。特に、式(1)において、Aが前記式(A1)〜(A7)のいずれかで表される基であるとき、aが1、Aが前記式(A8)で表される基であるとき、aが0であってもよい。
【0017】
前記式(1)において、代表的には、2〜6個のAのうち1〜2個のAが単糖鎖、単糖から誘導された基、又はリグニンモノマー乃至オリゴマー鎖であってもよい。
【0018】
代表的な前記式(1)で表される化合物には、下記式(1B)で表される化合物が含まれる。
【0019】
【化5】

【0020】
(式中、Aは、前記式(A1)〜(A8)で表されるいずれかの基であり、Z、R、R、R、k、m、n、p、aは前記と同じ。)
特に、前記式(1B)で表される化合物のうち、基Aが前記式(A1)〜(A7)の表されるいずれかの基である化合物は、代表的には、下記式で表される化合物であってもよい。
【0021】
【化6】

【0022】
(式中、Aは前記式(A1)〜(A7)で表されるいずれかの基を示し、Z、R、R、R、k、m、n、pは前記と同じ。)
また、前記式(1)において、環Zはベンゼン環又はナフタレン環であってもよく、RはC2−4アルキレン基であってもよく、mは0〜4程度であってもよく、nは1〜3程度であってもよい。
【0023】
本発明の新規な化合物のうち、前記式(1)において、2n個のAのうち、少なくとも1つのAが糖鎖又は糖から誘導された基である化合物は、下記式(2)で表される化合物と、糖を含有する成分とを加熱下で混合することにより製造できる。また、前記式(1)において、2n個のAのうち、少なくとも1つのAがリグニンモノマー乃至オリゴマー鎖である化合物は、下記式(2)で表される化合物と、リグニンモノマー(例えば、p−クマリルアルコール、コニフェリルアルコール、シナピルアルコールなど)およびリグニンモノマーを構成単位とするポリマー(又は樹脂状物質、例えば、リグニン)から選択された少なくとも1種の成分(リグニン成分)を加熱下で混合することにより製造できる。
【0024】
このような方法により得られる反応混合物には、前記式(1)で表される化合物に加えて、糖の分解物などの他の成分が含まれる場合が多いが、本発明の化合物は、このような他の成分との混合物の形態で利用することもできる。
【0025】
そのため、本発明には、特に、下記式(2)で表される化合物と、糖(例えば、セルロースなどの多糖)を含有する成分とを加熱下で混合して得られる組成物であって、前記化合物(前記式(1)で表される化合物、特に、前記式(1)において、2n個のAのうち、少なくとも1つのAが糖鎖又は糖から誘導された基である化合物)を含む組成物も含まれる。
【0026】
【化7】

【0027】
(式中、Z、R、R、R、k、m、n、pは前記と同じ。)
このような組成物は、前記化合物の他、未反応成分[前記式(2)で表される化合物、未反応の糖を含有する成分(例えば、糖など)]、糖を含有する成分の分解物(例えば、単糖、単糖の分解物、リグニン分解物など)などを含んでいてもよい。
【0028】
このような組成物は、前記糖が単糖及び/又は多糖であり、単糖又は多糖の分解物(単糖、オリゴ糖、単糖の分解物など)を含む組成物であってもよい。例えば、このような組成物は、前記糖が、グルコース、およびグルコースを構成糖とする多糖(例えば、デンプン、セルロースなど)から選択された少なくとも1種であり、グルコース及び/又はグルコース分解物(例えば、フルフラール誘導体など)を含む組成物であってもよい。
【0029】
また、前記糖を含有する成分は、非結晶成分(リグニンなど)を含有する成分であってもよく、このような成分を使用すると、さらに、非結晶成分の分解物(リグニン分解物など)を含む組成物が得られる。例えば、前記組成物は、前記糖を含有する成分がリグノセルロースであり、セルロース分解物[グルコース、グルコースの分解物(フルフラール誘導体など)]、ヘミセルロース分解物、およびリグニン分解物から選択された少なくとも1種(特に、セルロース分解物およびリグニン分解物)を含む組成物(通常、液状組成物)であってもよい。このような組成物に含まれる多糖の分解物やリグニンの分解物は、前記式(2)で表される化合物により、低分子量化された液状成分である場合が多く、前記式(1)で表される化合物との液状組成物として利用可能である。リグニン分解物は、通常、低分子量化されたフェノール骨格を有する化合物を含み、このような化合物を含む組成物は、樹脂原料などとして有用である。なお、リグニン分解物を含む組成物は、必要に応じて、他の分解物(例えば、セルロース分解物など)を分離除去して使用することもできる。
【発明の効果】
【0030】
本発明では、フルオレン骨格(9,9−ビス(アリール)フルオレン骨格)と糖由来の骨格又はリグニンモノマー由来の骨格とを有する新規な化合物が得られる。このような化合物は、可撓性、耐熱性などに優れ、ヒドロキシル基やカルボキシル基やアルデヒド基などの官能基を有し、反応性にも優れている。そのため、各種樹脂の原料などとして好適である。特に、糖としてセルロースなどを使用しても、単糖(さらにはその分解物)にまで効率よく分解して液化でき、また、リグニンのような成分をも分解、液化し、上記のような新規な化合物を得ることができる。そのため、本発明では、バイオマス由来の材料を簡便に得ることができ、本発明は、バイオリファイナリ技術として極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(フルオレン骨格を有する化合物)
本発明の化合物は、フルオレン骨格(9,9−ビスアリールフルオレン骨格)と糖由来の骨格又はリグニンモノマー由来の骨格とを有する化合物であり、通常、下記式(1)で表される。
【0032】
【化8】

【0033】
(式中、Aは、水素原子、糖鎖、糖から誘導された基、又はリグニンモノマー乃至オリゴマー鎖を示し、環Zは芳香族炭化水素環を示し、Rは置換基を示し、Rはアルキレン基を示し、Rは置換基を示し、kは0〜4の整数、mは0以上の整数、nは1以上の整数、pは0以上の整数、aは0又は1である。ただし、2n個のAのうち、少なくとも1つのAが糖鎖、糖から誘導された基、又はリグニンモノマー乃至オリゴマー鎖であり、Aが水素原子であるとき、aは1である。)
上記式(1)のAにおいて、糖鎖に対応する糖としては、多糖であってもよいが、通常、単糖又はオリゴ糖(例えば、二〜三十糖程度)、特に、単糖であってもよい。単糖は、アルドース又はケトースであってもよく、鎖状又は環状(フラノース、ピラノース、セプタノースなどのヘミアセタール環状)であってもよい。また、単糖は、D型、L型のいずれであってもよい。さらに、単糖は、糖アルコールであってもよい。
【0034】
代表的な単糖としては、例えば、ペントース(例えば、アラビノース、キシロースなどのピラノース;デオキシリボース、リボースなどのフラノース)、ヘキソース[例えば、ガラクトース、グルコース(D−グルコースなど)、マンノース、フルクトース、ソルボース、ガラクチュロン酸、グルクロン酸、マンヌロン酸、グルコサミンなどのピラノース;ソルビトール、マンニトールなどの糖アルコール]、ヘプトース、オクトース、ノノースなどが挙げられる。
【0035】
オリゴ糖としては、前記単糖に対応するオリゴ糖、例えば、二糖(例えば、セロビオース、ゲンチビオース、イソマルトース、コージービオース、ラクトース、マルトース、スクロース(又はショ糖又は砂糖)、トレハロースなど)、三糖以上のオリゴ糖(例えば、ラフィノース、シクロデキストリンなど)などが挙げられる。
【0036】
なお、糖鎖Aは、糖から糖を構成する1つのヒドロキシル基を除いた基(すなわち、糖をA−OHとすると、基A−)である場合が多い。ヒドロキシル基としては、限定されないが、例えば、環状の糖(単糖など)であれば、通常、アノマー性ヒドロキシル基(又はグリコシド性ヒドロキシル基又はC1のヒドロキシル基)であってもよい。すなわち、糖鎖Aは、グリコシル基(例えば、グリコフラノシル基、グルコシル基などのグリコピラノシル基)であってもよい。
【0037】
また、式(1)のAにおいて、糖から誘導された基としては、例えば、糖(例えば、単糖など)が分解(加水分解など)した基、糖が開環して形成された基、糖が開環してさらに環化(環化脱水)した基などが挙げられる。なお、このような基は、通常、カルボキシル基、ケトン基、アルデヒド基(又はホルミル基)、ヒドロキシル基などを有していてもよい。なお、糖から誘導された基は、糖から誘導可能である場合が多いが、必ずしも糖から誘導される必要はなく、予めこのような基を有する化合物を利用して式(1)で表される化合物に導入してもよい。
【0038】
好ましい糖鎖又は糖から誘導された基としては、グルコース鎖、キシロース鎖などの単糖鎖[例えば、グリコピラノシル基(例えば、グリコシル基など)などのグリコシル基]、又は単糖(又は単糖鎖)から誘導された基などが挙げられ、特に、下記式(A1)で表される基(グルコシル基など)、下記式(A2)で表される基、又は下記式(A3)で表される基であるのが好ましい。
【0039】
【化9】

【0040】
上記式(A1)で表される基としては、ガラクトシル基、グルコシル基(α−D−グルコシル基、β−D−グルコシル基)、マンノシル基などが挙げられ、グルコシル基(特に、α−D−グルコシル基)が好ましい。
【0041】
なお、上記式(A2)又は(A3)で表される基は、グルコシル基が開環して形成されるか、又は開環後、さらに脱水環化することにより形成される場合が多い。
【0042】
また、好ましい糖鎖又は糖から誘導された基には、下記式(A4)で表される基(キシロース鎖など)又は下記式(A5)で表される基も含まれる。
【0043】
【化10】

【0044】
上記式(A4)で表される基としては、キシロシル基、アラビノシル基などが挙げられ、キシロシル基(特に、D−キシロシル基)が好ましい。
【0045】
なお、上記式(A5)で表される基は、グルコシル基(キシロシル基など)が開環後、さらに脱水環化することにより形成される場合が多い。
【0046】
また、前記式(1)のAにおいて、リグニンモノマー(リグニンの構成モノマー)としては、例えば、p−クマリルアルコール((Z)−3−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロペン−1−オール又は4−ヒドロキシシンナミルアルコール)、コニフェリルアルコール(4−ヒドロキシ−3−メトキシシンナミルアルコール)、シナピルアルコール(4−ヒドロキシ−3,5−ジメトキシシンナミルアルコール)などが挙げられる。
【0047】
リグニンモノマー鎖は、通常、このようなリグニンモノマーのフェニル基を構成する炭素原子又はヒドロキシル基を構成する酸素原子を介して結合した基である場合が多い。また、リグニンオリゴマー鎖は、リグニンモノマーのオリゴマー(例えば、2〜4量体、好ましくは2〜3量体、さらに好ましくは2量体)が、フェニル基を構成する炭素原子又はヒドロキシル基を構成する酸素原子を介して結合した基である場合が多い。好ましいリグニンモノマー乃至オリゴマー鎖としては、例えば、下記式(A6)で表される基、下記式(A7)で表される基又は下記式(A8)で表される基などが含まれる。
【0048】
【化11】

【0049】
(式中、XおよびXは同一又は異なって水素原子又はメトキシ基を示す。)
上記式(A6)又は(A7)において、Xは同一又は異なっていてもよく、特に、式(A8)においてXは水素原子であってもよい。
【0050】
なお、上記式(1)において、Aが水素原子であるときaは1である。換言すれば、Aが糖鎖、糖から誘導された基、又はリグニンモノマー乃至オリゴマー鎖であるとき、aは0又は1である。通常、Aが糖鎖又は糖から誘導された基であるとき、aは1であってもよい。特に、前記式(1)において、Aが前記式(A1)〜(A7)のいずれかで表される基であるとき、aが1であり、Aが前記式(A8)で表される基であるとき、aが0であってもよい。
【0051】
前記式(1)において、2n個のAのうち、少なくとも1つのAが糖鎖、糖から誘導された基、又はリグニンモノマー乃至オリゴマー鎖であればよく、その数は、例えば、1〜8(例えば、1〜6)、好ましくは1〜4(例えば、1〜3)、さらに好ましくは1〜2、特に1であってもよい。
【0052】
代表的な前記式(1)で表される化合物には、下記式(1A)で表される化合物[すなわち、前記式(1)において、2n個のAのうち、1つのAが糖鎖、糖から誘導された基、又はリグニンモノマー乃至オリゴマー鎖である化合物]が含まれる。
【0053】
【化12】

【0054】
(式中、Aは糖鎖、糖から誘導された基、又はリグニンモノマー乃至オリゴマー鎖であり、Z、R、R、R、k、m、n、p、aは前記と同じ。)
好ましい前記式(1)で表される化合物には、下記式(1B)で表される化合物[すなわち、前記式(1A)において、Aが、前記式(A1)〜(A8)で表されるいずれかの基である化合物]などが含まれる。
【0055】
【化13】

【0056】
(式中、Aは、前記式(A1)〜(A8)で表されるいずれかの基であり、Z、R、R、R、k、m、n、p、aは前記と同じ。)
なお、上記式(1B)において、特に、Aが前記式(A1)〜(A7)の表されるいずれかの基であるとき、aが1であり、Aが前記式(A8)で表される基であるとき、aが0であってもよい。
【0057】
例えば、上記式(1B)において、基Aが前記式(A1)〜(A7)の表されるいずれかの基である化合物は、代表的には、下記式で表される化合物であってもよい。
【0058】
【化14】

【0059】
(式中、Aは前記式(A1)〜(A7)で表されるいずれかの基を示し、Z、R、R、R、k、m、n、pは前記と同じ。)
前記式(1)において、環Zで表される芳香族炭化水素環としては、例えば、ベンゼン環、縮合多環式炭化水素環[例えば、縮合二環式炭化水素環(例えば、インデン、ナフタレンなどのC8−20縮合二環式炭化水素環、好ましくはC10−16縮合二環式炭化水素環)、縮合三環式炭化水素環(例えば、アントラセン、フェナントレンなど)などの縮合二乃至四環式炭化水素環]などが挙げられ、ベンゼン環又はナフタレン環であるのが好ましい。なお、フルオレンの9位に置換する環Zの置換位置は、特に限定されない。例えば、環Zがナフタレン環の場合、フルオレンの9位に置換する環Zに対応する基は、1−ナフチル基、2−ナフチル基などであってもよい。
【0060】
前記式(1)において、基Rで表される置換基としては、例えば、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)、炭化水素基[例えば、アルキル基、アリール基(フェニル基などのC6−10アリール基)など]などが挙げられ、特に、ハロゲン原子、シアノ基又はアルキル基(特にアルキル基)である場合が多い。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などのC1−6アルキル基(例えば、C1−4アルキル基、特にメチル基)などが例示できる。なお、kが複数(2以上)である場合、基Rは互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。また、フルオレン(又はフルオレン骨格)を構成する2つのベンゼン環に置換する基Rは同一であってもよく、異なっていてもよい。また、フルオレンを構成するベンゼン環に対する基Rの結合位置(置換位置)は、特に限定されない。好ましい置換数kは、0〜1、特に0である。なお、フルオレンを構成する2つのベンゼン環において、置換数kは、互いに同一又は異なっていてもよい。
【0061】
また、前記式(1)において、基Rで表されるアルキレン基としては、特に限定されないが、例えば、C2−10アルキレン基(例えば、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、ブタン−1,2−ジイル基、ヘキシレン基などのC2−6アルキレン基)などが例示でき、C2−4アルキレン基(特に、エチレン基、プロピレン基などのC2−3アルキレン基)が好ましく、特にエチレン基であってもよい。なお、Rは、同一の又は異なるアルキレン基であってもよい(すなわち、mが複数である場合、Rは同一又は異なっていてもよい)。すなわち、mが2以上の場合、ポリアルコキシ(ポリオキシアルキレン)基[−(OR−]は、同一のオキシアルキレン基で構成されていてもよく、複数のオキシアルキレン基(例えば、オキシエチレン基とオキシプロピレン基など)で構成されていてもよい。通常、Rは同一のベンゼン環において、同一のアルキレン基であってもよい。
【0062】
オキシアルキレン基(OR)の数(付加モル数)mは、例えば、0〜15(例えば、1〜10)程度の範囲から選択でき、例えば、0〜8(例えば、0〜6)、好ましくは0〜4、さらに好ましくは0〜2(例えば、0〜1)、特に1であってもよい。また、mは2つの環Zにおいて異なっていてもよく、同一の環Zにおいて異なっていてもよい。例えば、同一の環Zにおいて、mが0である基−OAと、mが1以上である基−[(OR−OA]とを有していてもよい。特に、Aが糖鎖又は糖から誘導された基である場合、mは0であってもよい。なお、前記式(1)において、基−[(OR−OA]の置換数nは、環Zの種類にもよるが、例えば、1〜6、好ましくは1〜4、さらに好ましくは1〜3、特に1〜2であってもよい。
【0063】
また、前記式(1)において、基Rで表される置換基としては、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などのC1−12アルキル基、好ましくはC1−8アルキル基、さらに好ましくはC1−6アルキル基など)、シクロアルキル基(シクロへキシル基などのC5−10シクロアルキル基、好ましくはC5−8シクロアルキル基、さらに好ましくはC5−6シクロアルキル基など)、アリール基(例えば、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基などのC6−14アリール基、好ましくはC6−10アリール基、さらに好ましくはC6−8アリール基など)、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)などの炭化水素基;アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのC1−12アルコキシ基、好ましくはC1−8アルコキシ基、さらに好ましくはC1−6アルコキシ基など)、シクロアルコキシ基(シクロへキシルオキシ基などのC5−10シクロアルキルオキシ基など)、アリールオキシ基(フェノキシ基などのC6−10アリールオキシ基)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルオキシ基)などの基−OR[式中、Rは炭化水素基(前記例示の炭化水素基など)を示す。];アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基などのC1−20アルキルチオ基、好ましくはC1−8アルキルチオ基、さらに好ましくはC1−6アルキルチオ基など)、シクロアルキルチオ基(シクロへキシルチオ基などのC5−10シクロアルキルチオ基など)、アリールチオ基(チオフェノキシ基などのC6−10アリールチオ基)、アラルキルチオ基(例えば、ベンジルチオ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルチオ基)などの基−SR(式中、Rは前記と同じ。);アシル基(アセチル基などのC1−6アシル基など);アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニル基など);ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子など);ニトロ基;シアノ基;メルカプト基;カルボキシル基;アミノ基;カルバモイル基;置換アミノ基(例えば、ジメチルアミノ基などのジアルキルアミノ基など);スルホニル基;これらの置換基同士が結合した置換基[例えば、アルコキシアリール基(例えば、メトキシフェニル基などのC1−4アルコキシC6−10アリール基)、アルコキシカルボニルアリール基(例えば、メトキシカルボニルフェニル基、エトキシカルボニルフェニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニルC6−10アリール基など)]などが挙げられる。
【0064】
これらのうち、代表的には、基Rは、炭化水素基、−OR(式中、Rは炭化水素基を示す。)、−SR(式中、Rは前記と同じ。)、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基などであってもよい。
【0065】
好ましい基Rとしては、炭化水素基[例えば、アルキル基(例えば、C1−6アルキル基)、シクロアルキル基(例えば、C5−8シクロアルキル基)、アリール基(例えば、C6−10アリール基)、アラルキル基(例えば、C6−8アリール−C1−2アルキル基)など]、アルコキシ基(C1−4アルコキシ基など)などが挙げられる。特に、Rは、アルキル基[C1−4アルキル基(特にメチル基)など]、アリール基[例えば、C6−10アリール基(特にフェニル基)など]などであるのが好ましい。
【0066】
また、好ましい置換数pは、0〜8、好ましくは0〜4(例えば、0〜3)、さらに好ましくは0〜2であってもよい。異なる環Zにおいて、置換数pは、互いに同一又は異なっていてもよく、通常同一であってもよい。また、同一の環Zにおいて、pが複数(2以上)である場合、基Rは互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。さらに、2つの環Zにおいて、基Rは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0067】
なお、前記式(1)において、環Zに置換する基Rおよび基−[(OR−OA]の置換位置は、特に限定されず、例えば、n=p=1のとき、1および2位、1および3位、1および4位などのいずれであってもよいが、特に、1および2位であってもよい。また、n=1およびp=2のとき、1,2および3位、1,2および4位などであってもよいが、特に1,2および3位であってもよい。
【0068】
なお、前記式(1)において、n+pの値は、環Zの種類にもよるが、例えば、1〜6、好ましくは1〜4、さらに好ましくは1〜3程度であってもよい。
【0069】
代表的には、前記式(1)おいて、環Zがベンゼン環又はナフタレン環、RがC2−6アルキレン基(特にC2−4アルキレン基)、mが0〜4、nが1〜3であってもよい。
【0070】
具体的な前記式(1)で表される化合物には、(i)前記式(1B)において、基Aが前記式(A1)で表される基である化合物、(ii)前記式(1B)において、基Aが前記式(A2)で表される基である化合物、(iii)前記式(1B)において、基Aが前記式(A3)で表される基である化合物、(iv)前記式(1B)において、基Aが前記式(A4)で表される基である化合物、(v)前記式(1B)において、基Aが前記式(A5)で表される基である化合物、(vi)前記式(1B)において、基Aが前記式(A6)で表される基である化合物、(vii)前記式(1B)において、基Aが前記式(A7)で表される基である化合物、(viii)前記式(1B)において、基Aが前記式(A8)で表される基である化合物などが含まれる。
【0071】
化合物(i)としては、例えば、9−(4−ヒドロキシフェニル)−9−(4−グルコシルオキシフェニル)フルオレンなどの9−(ヒドロキシフェニル)−9−(グリコピラノシルオキシフェニル)フルオレン;9−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−9−(4−グルコシルオキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−9−(4−グルコシルオキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレンなどの9−(ヒドロキシ−アルキルフェニル)−9−(グリコピラノシルオキシ−アルキルフェニル)フルオレン;9−(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)−9−(4−グルコシルオキシ−3−フェニルフェニル)フルオレンなどの9−(ヒドロキシ−アリールフェニル)−9−(グリコピラノシルオキシ−アリールフェニル)フルオレン;9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−9−(4−グルコシルオキシフェニル)フルオレンなどの9−[(ヒドロキシアルコキシ)フェニル]−9−(グリコピラノシルオキシフェニル)フルオレン;9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]−9−(4−グルコシルオキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]−9−(4−グルコシルオキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレンなどの9−[(ヒドロキシアルコキシ)−アルキルフェニル]−9−(グリコピラノシルオキシ−アルキルフェニル)フルオレン;9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]−9−(4−グルコシルオキシ−3−フェニルフェニル)フルオレンなどの9−[(ヒドロキシアルコキシ)−アリールフェニル]−9−(グリコピラノシルオキシ−アリールフェニル)フルオレン;9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−9−[4−(2−グルコシルオキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどの9−[(ヒドロキシアルコキシ)フェニル]−9−[(グリコピラノシルオキシアルコキシ)フェニル]フルオレン;9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]−9−[4−(2−グルコシルオキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]−9−[4−(2−グルコシルオキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレンなどの9−[(ヒドロキシアルコキシ)−アルキルフェニル]−9−[(グリコピラノシルオキシアルコキシ)−アルキルフェニル]フルオレン;9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]−9−[4−(2−グルコシルオキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレンなどの9−[(ヒドロキシアルコキシ)−アリールフェニル]−9−[(グリコピラノシルオキシアルコキシ)−アリールフェニル]フルオレン;これらの化合物に対応し、環Zがナフタレン環に置換した化合物、例えば、9−(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)−9−(6−グルコシルオキシ−2−ナフチル)フルオレンなどの9−(ヒドロキシナフチル)−9−(グリコピラノシルオキシナフチル)フルオレン、9−[6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフチル]−9−(6−グルコシルオキシ−2−ナフチル)フルオレンなどの9−[(ヒドロキシアルコキシ)ナフチル]−9−(グリコピラノシルオキシナフチル)フルオレン、9−[6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフチル]−9−[6−(2−グルコシルオキシエトキシ)−2−ナフチル]フルオレンなどの9−[(ヒドロキシアルコキシ)ナフチル]−9−[(グリコピラノシルオキシアルコキシ)ナフチル)]フルオレンなどが挙げられる。
【0072】
化合物(ii)としては、前記化合物(i)において基A(又はグリコピラノシル基)が前記式(A2)で表される基に置換した化合物、例えば、9−(4−ヒドロキシフェニル)−9−[4−(4−オキソペンタノイルオキシ)フェニル]フルオレンなどの9−(ヒドロキシフェニル)−9−[(4−オキソペンタノイルオキシ)フェニル]フルオレン、9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−9−{4−[2−(4−オキソペンタノイルオキシ)エトキシ]フェニル}フルオレンなどの9−[(ヒドロキシアルコキシ)フェニル]−9−{[(4−オキソペンタノイルオキシ)アルコキシ]フェニル}フルオレンなどが挙げられる。
【0073】
化合物(iii)としては、前記化合物(i)において基A(又はグリコピラノシル基)が前記式(A3)で表される基に置換した化合物、例えば、9−(4−ヒドロキシフェニル)−9−{4−[(2−ホルミル−5−フリル)メトキシ]フェニル}フルオレンなどの9−(ヒドロキシフェニル)−9−{[(2−ホルミル−5−フリル)メトキシ]フェニル}フルオレン、9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−9−{4−[2−(2−ホルミル−5−フリルメトキシ)エトキシ]フェニル}フルオレンなどの9−[(ヒドロキシアルコキシ)フェニル]−9−{[(2−ホルミル−5−フリルメトキシ)アルコキシ]フェニル}フルオレンなどが挙げられる。
【0074】
化合物(iv)としては、前記化合物(i)において基Aが前記式(A4)で表される基に置換した化合物、例えば、9−(4−ヒドロキシフェニル)−9−(4−キシロシルオキシフェニル)フルオレンなどの9−(ヒドロキシフェニル)−9−(キシロシルオキシフェニル)フルオレン、9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−9−[4−(2−キシロシルオキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどの9−[(ヒドロキシアルコキシ)フェニル]−9−(キシロシルオキシアルコキシ)フェニルフルオレンなどが挙げられる。
【0075】
化合物(v)としては、前記化合物(i)において基Aが前記式(A5)で表される基に置換した化合物、例えば、9−(4−ヒドロキシフェニル)−9−[4−(2−ヒドロキシメチル−5−フリルオキシ)フェニル]フルオレンなどの9−(ヒドロキシフェニル)−9−[(2−ヒドロキシメチル−5−フリルオキシ)フェニル]フルオレン、9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−9−{4−[2−(2−ヒドロキシメチル−5−フリルオキシ)エトキシ]フェニル}フルオレンなどの9−[(ヒドロキシアルコキシ)フェニル]−9−{[(2−ヒドロキシメチル−5−フリルオキシ)アルコキシ]フェニル}フルオレンなどが挙げられる。
【0076】
化合物(vi)としては、前記化合物(i)において基Aが前記式(A6)で表される基に置換した化合物、例えば、9−(4−ヒドロキシフェニル)−9−{4−[3−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロペニルオキシ]フェニル}−フルオレン、9−(4−ヒドロキシフェニル)−9−{4−[3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−2−プロペニルオキシ]フェニル}−フルオレン、9−(4−ヒドロキシフェニル)−9−{4−[3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメトキシフェニル)−2−プロペニルオキシ]フェニル}−フルオレン、9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−9−{4−[2−[3−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロペニルオキシ]エトキシ]フェニル}−フルオレン、9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−9−{4−[2−[3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−2−プロペニルオキシ]エトキシ]フェニル}−フルオレン、9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−9−{4−[2−[3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメトキシフェニル)−2−プロペニルオキシ]エトキシ]フェニル}−フルオレンなどが挙げられる。
【0077】
化合物(vii)としては、例えば、9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−9−{4−[2−[2−(4−ヒドロキシベンジル)−2−[3−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロペニルオキシ]エトキシ]エトキシ]フェニル}−フルオレン、9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−9−{4−[2−[2−(4−ヒドロキシ−3−メトキシベンジル)−2−[3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−2−プロペニルオキシ]エトキシ]エトキシ]フェニル}−フルオレン、9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−9−{4−[2−[2−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメトキシベンジル)−2−[3−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメトキシフェニル)−2−プロペニルオキシ]エトキシ]エトキシ]フェニル}−フルオレンなどが挙げられる。
【0078】
化合物(viii)としては、前記化合物(i)において基Aが前記式(A8)で表される基に置換した化合物、例えば、9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−9−{4−[2−(2−ヒドロキシ−5−(3−ヒドロキシ−1−プロペニル)−フェニル)エトキシ]フェニル}−フルオレン、9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−9−{4−[2−(2−ヒドロキシ−3−メトキシ−5−(3−ヒドロキシ−1−プロペニル)−フェニル)エトキシ]フェニル}−フルオレンなどが挙げられる。
【0079】
前記式(1)で表される化合物は、比較的耐熱性が高く、例えば、熱分解温度は、200℃以上(例えば、210〜450℃)、好ましくは220℃以上(例えば、230〜420℃)、さらに好ましくは250℃以上(例えば、260〜380℃)であってもよい。
【0080】
(製造方法)
前記式(1)で表される化合物のうち、前記式(1)において、2n個のAのうち、少なくとも1つのAが糖鎖又は糖から誘導された基である化合物は、下記式(2)で表される化合物と、少なくとも糖を含有する成分(成分(3)などということがある)とを混合することによって得ることができる。
【0081】
また、本発明の新規な化合物のうち、前記式(1)において、2n個のAのうち、少なくとも1つのAがリグニンモノマー乃至オリゴマー鎖又はである化合物は、下記式(2)で表される化合物と、リグニンモノマーおよびリグニンモノマーを構成単位とするポリマー(例えば、リグニンなど)から選択された少なくとも1種の成分(リグニン成分)とを混合することにより製造できる。
【0082】
なお、本発明では、後述するように、糖を含む成分が、多糖類や、リグニンなどの成分を含んでいても、単糖鎖又はその誘導性基などを有する前記式(1)で表される化合物が得られる。このような場合、前記式(1)で表される化合物の生成機構の詳細は定かではないが、混合により、前記式(2)で表される化合物が多糖類と反応して、多糖類が単糖などに分解するとともに前記式(2)で表される化合物に結合する(さらには、環化、脱水などの反応も生じる)ようである。また、リグニンなどの成分を含んでいても、優先的に多糖類と前記式(2)で表される化合物が反応し、さらに、過剰に前記式(2)で表される化合物が混合系に存在する場合には、リグニンなどを可塑化および分解し、低分子量成分が生成するようである。
【0083】
また、リグニンモノマーを構成単位とするポリマー(リグニンなど)を用いる場合、リグニンなどと式(2)で表される化合物とが反応し、リグニンなどがリグニンモノマーに分解されるとともに、リグニンモノマーが式(2)で表される化合物に結合する(さらには、脱水などの反応も生じる)ようである。
【0084】
【化15】

【0085】
(式中、Z、R、R、R、k、m、n、pは前記と同じ。)
上記式(2)において、Z、R、R、R、k、m、nおよびpは前記と同じであり、好ましい態様なども前記と同様である。
【0086】
代表的な前記式(1)で表される化合物としては、例えば、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3,4−ジヒドロキシフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシフェニル)フルオレン;9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシ−アルキルフェニル)フルオレン;9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシ−アリールフェニル)フルオレン;9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[3,4−ジ(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどの9,9−ビス[(ヒドロキシアルコキシ)フェニル]フルオレン;9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス[(ヒドロキシアルコキシ)−アルキルフェニル]フルオレン;9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル]フルオレンなどの9,9−ビス[(ヒドロキシアルコキシ)−アリールフェニル]フルオレン;これらの化合物に対応し、環Zがナフタレン環に置換した化合物、例えば、9,9−ビス(6−ヒドロキシ−2−ナフチル)フルオレンなどの9,9−ビス(ヒドロキシナフチル)フルオレン、9,9−ビス[6−(2−ヒドロキシエトキシ)−2−ナフチル]フルオレンなどの9,9−ビス[(ヒドロキシアルコキシ)ナフチル]フルオレンなどが挙げられる。
【0087】
なお、前記式(2)においてmが1以上の化合物を用いても、前記式(1)において、基−OA(式中、Aは、糖鎖又は糖から誘導された基に置換された基)を有する化合物が得られる場合がある。また、前記式(2)においてmが0又は1以上の化合物を用いても、前記式(1)において、aが0である化合物が得られる場合がある。
【0088】
また、前記式(1)において、基Aとして糖から誘導された基(例えば、前記式(A2)又は前記式(A3)で表される基など)を有する化合物は、糖鎖の分解などを経て生成するため、高温条件下や長時間での反応などにより生成しやすいようである。さらに、前記式(1)においてmが0であり、基Aが糖鎖である化合物[すなわち、フェノール性ヒドロキシル基に直接的に糖鎖が結合した基(基−OAにおいてAが糖鎖である基)を有する化合物]は、分解により、糖から誘導された基を有する化合物を比較的生成しやすいようである。
【0089】
そのため、このように、反応条件を適宜選択することにより、基Aとして糖鎖(グルコシル基など)を有する化合物と、基Aとして糖から誘導された基を有する化合物とを作り分けしたり、いずれかを多く含む混合物を得ることが可能である。なお、混合物の形態で得られる場合には、慣用の方法(例えば、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などのクロマトグラフィーを利用した分離)により、各化合物を分離してもよい。
【0090】
前記式(2)で表される化合物は、市販品を利用してもよく、慣用の方法[例えば、酸触媒(硫酸、塩酸など)及びチオール類(メルカプトカルボン酸など)の存在下、フルオレノン類とフェノール類とを反応させる方法]により合成してもよい。
【0091】
糖を含有する成分において、糖としては、前記式(1)において基Aで表される糖鎖又は糖から誘導された基に対応する糖が挙げられる。代表的な糖としては、前記式(1)で表される化合物の項で例示の単糖(例えば、グルコース、ガラクトース、マンノース、キシロースなど)又はオリゴ糖(例えば、ラクトース、セロビオース、マルトース、スクロース、マルトトリオース、マルトテトラオースなど)の他、オリゴ糖混合物(デキストリンなど)、多糖{例えば、グルコースを構成糖とする多糖[例えば、アミロース、アミロペクチン(又はデンプン)、セルロース、デキストラン、グリコーゲンなど]、マンノースを構成糖とする多糖(マンナンなど)、キチン、イヌリン、キシロースを構成糖とする多糖(キシラン、ヘミセルロースなど)など}などが挙げられる。多糖には、ヘテロ多糖(例えば、グルコマンナン、アルギン酸、アガロース、ペクチン、トラガカントガム、ローカストビーンガム、ヘミセルロースなど)も含まれる。糖は、単独で又は2種以上組み合わせて糖を含有する成分を構成してもよい。糖は、天然由来であってもよく、非天然由来であってもよい。
【0092】
なお、多糖は、通常、常温(例えば、15〜25℃)で固体である場合が多い。また、多糖の重合度(平均重合度)は、特に限定されないが、例えば、10以上(例えば、15〜1000)、好ましくは20以上(例えば、25〜7000)、さらに好ましくは30〜5000程度であってもよく、通常50〜3000程度であってもよい。
【0093】
特に、糖は、少なくともセルロースを含んでいてもよい。前記式(2)で表される化合物は、セルロースのような硬い結晶構造を有する糖であっても、容易に浸透して分解できる。
【0094】
なお、使用した糖の種類に応じて、前記式(1)において基Aで表される糖鎖又は糖から誘導された基が導入される。例えば、グルコース鎖(例えば、グルコシル基)又はグルコースから誘導された基を導入する場合には、糖として、グルコースの他、グルコースを構成糖とする(又はグルコースを単糖として縮合した)オリゴ糖又は多糖(例えば、マルトース、スクロース、セルロースなど)を糖として使用すればよい。
【0095】
また、キシロース鎖又はキシロースから誘導された基を導入する場合には、糖として、キシロースの他、キシロースを構成糖とする(又はキシロースを単糖として縮合した)オリゴ糖又は多糖(例えば、キシラン、ヘミセルロースなど)を糖として使用すればよい。
【0096】
また、多糖を使用した場合、通常、多糖が単糖又はオリゴ糖(特に単糖)に分解され、単糖鎖、オリゴ糖鎖(特に単糖鎖)又はこれらの鎖から誘導された基として、前記式(1)で表される化合物に導入される場合が多い。例えば、糖としてセルロースを使用した場合には、構成糖であるグルコース鎖(通常、グルコシル基)や、グルコース鎖から誘導された基{例えば、前記式(A2)で表される基[(2−カルボキシ−3,4−エポキシテトラヒドロフラン−5−イル)メチル基]や、前記式(A3)で表される基など}などが前記式(1)で表される化合物に導入される。なお、前記式(1)で表される化合物は、主に、前記式(2)で表される化合物のヒドロキシル基又はエーテル基と、糖を含む成分中の糖を構成するC1のヒドロキシル基とが反応して生成するが、糖を構成するC1以外のヒドロキシル基と反応してもよい。
【0097】
糖を含有する成分は、少なくとも糖を含んでいればよく、他の成分を含んでいてもよい。例えば、糖として少なくともセルロースを使用する場合、リグノセルロース(リグニンを含むセルロース)などのセルロース含有成分を使用してもよい。本発明では、このような他の成分を含んでいても、前記式(2)で表される化合物と糖とを反応させ、前記式(1)で表される化合物を効率よく得ることができる。
【0098】
セルロース含有成分は、結晶性セルロースと非結晶性成分とを含んでいる。非結晶成分としては、例えば、リグニン、ヘミセルロース、非結晶セルロース(又は不定形セルロース)などが挙げられる。特に、セルロース含有成分は、リグノセルロース(リグニン含有セルロース)であってもよい。
【0099】
リグノセルロースは、セルロース(結晶性セルロース)とリグニンとで構成されている。リグニンは、植物の維管束細胞壁成分として存在する無定形高分子であり、フェニルプロパン系の構成単位を含む縮合体である。このようなリグニンを含有する物質(リグノセルロース)としては、木材、草本類などが挙げられる。木材は、針葉樹と広葉樹とに大別され、針葉樹としては、マツ、スギ、ヒノキ、イチイ、イヌガヤなどが挙げられる。広葉樹としては、シイ、サクラ、柿などが挙げられる。草本類としては、ケナフ、ワラ、バガス、亜麻、マニラ麻、黄麻、楮などが挙げられる。針葉樹に含まれるリグニン(針葉樹リグニン)は、グアイアシルプロパン構造を有していてもよく、広葉樹に含まれるリグニン(広葉樹リグニン)は、グアイアシルプロパン構造及びシリンギルプロパン構造を有していてもよく、草本類に含まれるリグニン(草本類リグニン)は、グアイアシルプロパン構造、シリンギルプロパン構造、及びp−ヒドロキシフェニルプロパン構造を有していてもよい。なお、メトキシ基の含量は、針葉樹リグニンで14〜17重量%程度、広葉樹リグニンで20〜23重量%程度、草本類リグニンで14〜15重量%程度であってもよい。
【0100】
木材は、間伐材などであってもよく、木材の破砕物、例えば、木粉、木材チップ、単板くずなどの形態で利用でき、廃材(建築廃材など)などを利用してもよい。
【0101】
セルロース含有成分としては、パルプ(例えば、木材パルプ、竹パルプ、ワラパルプ、バガスパルプ、木綿パルプ、亜麻パルプ、麻パルプ、楮パルプ、三椏パルプなど)も利用できる。さらに、セルロース含有成分として、パルプから調製される紙(抄紙やボードなど)、古紙などのパルプ含有成形体も利用できる。なお、パルプでは、通常、ほとんどのリグニンやヘミセルロースが除去されている場合が多いが、このようなパルプにおいても、通常、非結晶セルロースが残存しており、この非結晶セルロースが、結晶性セルロース間に存在して強固に結合している。
【0102】
代表的なセルロース含有成分(リグノセルロース)としては、例えば、木材(例えば、針葉樹および広葉樹から選択された少なくとも1種)、草本類、パルプ、パルプ含有成形体などが利用できる。
【0103】
セルロース含有成分(リグノセルロースなど)は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0104】
なお、木粉などの廃材(建築廃材など)を再利用すると、リグノセルロースを有効に利用できる。リグノセルロースの破砕物(木粉など)のサイズは特に制限されないが、効率よく製造するため、平均径が0.01〜1mm、好ましくは0.02〜0.5mm、さらに好ましくは0.03〜0.1mm程度であってもよい。
【0105】
セルロース含有成分において、非結晶成分(例えば、リグニン、ヘミセルロース、非結晶セルロースなど)の割合は、その種類にもよるが、例えば、1〜90重量%、好ましくは3〜80重量%、さらに好ましくは5〜70重量%程度であってもよい。特に、パルプにおいて、非結晶成分(非結晶セルロースなど)の割合は、1〜40重量%、好ましくは1.5〜30重量%、さらに好ましくは2〜25重量%程度であってもよい。
【0106】
特に、リグノセルロースにおいて、セルロースとリグニンとの割合は、特に限定されないが、例えば、前者/後者(重量比)=99/1〜20/80、好ましくは95/5〜30/70、さらに好ましくは90/10〜40/60程度であってもよい。なお、リグノセルロースにおいて、リグニンの割合は、例えば、1〜50重量%、好ましくは5〜45重量%、さらに好ましくは5〜40重量%程度であってもよい。
【0107】
なお、リグノセルロースは、非結晶成分としてリグニンを含んでいるが、通常、リグニンに加えて、ヘミセルロース、不定形セルロースを含んでいてもよい。本発明では、リグニンだけでなく、ヘミセルロースなどもまたフルオレン骨格を有する化合物により可溶化又は溶解され、セルロース含有成分から効率よく分離可能である。
【0108】
セルロース含有成分(リグノセルロースなど)において、セルロースとヘミセルロースとの割合は、前者/後者(重量比)=99/1〜20/80、好ましくは95/5〜30/70、さらに好ましくは90/10〜40/60程度であってもよい。なお、リグノセルロースにおいて、ヘミセルロースの割合は、例えば、1〜50重量%、好ましくは5〜45重量%、さらに好ましくは10〜40重量%程度であってもよい。
【0109】
なお、リグノセルロースにおいて、非結晶成分(例えば、リグニンおよびヘミセルロース)の割合は、5〜90重量%、好ましくは10〜80重量%、さらに好ましくは20〜70重量%、特に30〜60重量%程度であってもよい。
【0110】
セルロース含有成分(リグノセルロースなど)は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0111】
リグニン成分において、リグニンモノマーとしては、前記例示のモノマー、例えば、p−クマリルアルコール、コニフェリルアルコール、シナピルアルコールなどが挙げられる。また、リグニンモノマーを構成単位とするポリマーとしては、前記例示のリグニンなどが含まれる。
【0112】
なお、式(1)において、リグニン成分由来の基(リグニンモノマー乃至オリゴマー鎖)を有する化合物を得るためには、リグニン成分は、セルロースなどの糖(単糖、多糖類など)と組み合わせることなく、リグニン成分(特にリグニンモノマー)と式(2)で表される化合物とを反応させるのが好ましい。セルロースなどの糖と組み合わせると、糖と式(2)で表される化合物との反応が優先的に進行し、リグニン成分由来の基を有する化合物を効率よく得ることができなくなる場合がある。また、同様の理由により、式(1)において、キシロース鎖又はキシロースから誘導された基を有する化合物を得るためには、グルコース、グルコースを構成糖とする多糖類(セルロースなど)などの他の糖と組み合わせることなく、キシロース又はキシロースを構成糖とする多糖類(キシラン、ヘミセルロースなど)と、式(2)で表される化合物とを反応させるのが好ましい。
【0113】
なお、混合において、前記式(2)で表される化合物と、糖を含む成分又はリグニン成分との使用割合は、糖を含む成分に含まれる糖の割合などに応じて適宜選択でき、例えば、糖を含む成分中の糖又はリグニン成分100重量部に対して、前記式(2)で表される化合物1〜1000重量部、好ましくは3〜500重量部、さらに好ましくは5〜300重量部程度であってもよく、通常10〜800重量部(例えば、50〜500重量部)程度であってもよい。
【0114】
混合は、酸触媒の存在下で行ってもよい。酸触媒を使用すると、反応を効率よく進行させることができる。酸触媒(又は酸成分)としては、例えば、無機酸(例えば、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸など)、有機酸[例えば、カルボン酸(ギ酸、酢酸などの脂肪族カルボン酸)、ヒドロキシカルボン酸(例えば、シュウ酸、酒石酸、クエン酸など)、スルホン酸(メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸など)など]、ルイス酸(例えば、三フッ化ホウ素、塩化アルミニウム、塩化亜鉛など)などが例示できる。これらの酸触媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの酸触媒のうち、硫酸などの無機酸が好ましい。
【0115】
酸触媒の使用割合は、前記式(2)で表される化合物100重量部に対して、例えば、0.01〜30重量部、好ましくは0.05〜20重量部、さらに好ましくは0.1〜10重量部程度であってもよく、通常1〜20重量部(例えば、1.2〜15重量部)程度であってもよい。また、酸触媒の割合は、糖を含む成分又はリグニン成分100重量部に対して、例えば、0.01〜50重量部(例えば、0.05〜30重量部)、好ましくは0.1〜25重量部(例えば、0.2〜20重量部)、さらに好ましくは0.5〜15重量部(例えば、1〜10重量部)程度であってもよい。さらに、酸触媒の割合は、前記式(2)で表される化合物および糖を含む成分又はリグニン成分の総量100重量部に対して、例えば、0.01〜25重量部、好ましくは0.03〜20重量部、さらに好ましくは0.05〜15重量部、特に0.05〜10重量部程度であってもよく、通常0.05〜10重量部(例えば、0.08〜5重量部、好ましくは0.1〜3重量部、さらに好ましくは0.12〜2重量部)程度であってもよい。
【0116】
なお、酸触媒は反応を進行させるという観点からは好ましいものの、分解が進行しすぎたり、分解物が何らかの理由により高分子量化する場合があるため、必ずしも用いる必要はない。特に、リグニン成分やヘミセルロースなどは、このような傾向が強いため、酸触媒を用いないか、又は用いる場合には、反応時間を短くするのが好ましい。
【0117】
なお、混合(反応)は、必要に応じて、溶媒中で行ってもよいが、本発明では、このような溶媒を実質的に用いることなく、乾式混合しても、前記式(2)で表される化合物と糖を含む成分又はリグニン成分とを反応させて前記式(1)で表される化合物を得ることができ、しかも、後述するように、多糖やリグニンを含む成分を用いても、効率よくこれらの成分を分解し、低分子量化できる。
【0118】
前記式(2)で表される化合物と、糖を含む成分又はリグニン成分との混合は、通常、加熱下で行うことができる。混合温度又は加熱温度(加熱混合温度)は、例えば、120〜350℃、好ましくは150〜320℃(例えば、160〜300℃)、さらに好ましくは165〜250℃程度であってもよい。また、糖を含む成分又はリグニン成分の種類によっては、分解や高分子量化が進行しやすい場合があるため、比較的低い加熱温度で混合してもよい。そのため、加熱温度は、例えば、220℃以下(例えば、120〜210℃)、好ましくは200℃以下(例えば、150〜190℃)、さらに好ましくは180℃以下(例えば、160〜175℃程度)であってもよい。なお、反応温度は、前記式(2)で表される化合物の融点などに応じて選択してよく、前記式(2)で表される化合物の融点以上の温度で(又は前記式(2)で表される化合物を溶融可能な温度)であってもよい。
【0119】
混合時間又は加熱時間(加熱混合時間)は、混合温度(又は反応温度)、酸触媒の使用割合、さらには糖を含む成分の種類(単糖を使用するか、多糖を使用するか、リグニンを含む成分を使用するかなど)などに応じて選択でき、例えば、1分以上(例えば、3分〜48時間)、好ましくは10分以上(例えば、20分〜24時間)、さらに好ましくは30分以上(例えば、40分〜12時間)程度であってもよい。
【0120】
なお、セルロース、ヘミセルロースやリグノセルロースなどの多糖を含む成分、リグニンなどを使用する場合、前記式(1)で表される化合物を得るためには、多糖やリグニンを液化したり、多糖を単糖の単位にまで分解したり、リグニンをモノマー単位にまで分解したりする必要があるが、酸触媒の使用割合、加熱時間、前記式(2)で表される化合物の使用量などの反応条件を適宜調整することにより、反応を効率よく進行させることができる。
【0121】
特に、加熱時間(反応時間)は、重要であり、あまり長すぎると所望の化合物が得られず、単なる分解物や高分子量化物が得られる場合がある。すなわち、本発明の化合物は、反応の初期において生成する場合が多い。そのため、加熱時間は、例えば、3時間以下(例えば、1〜150分)、好ましくは2時間以下(例えば、3〜100分)、さらに好ましくは1.5時間以下(例えば、5〜80分程度)であってもよい。
【0122】
混合(又は反応)は、必要に応じて、溶媒中で行ってもよい。また、混合は、常圧下、減圧下又は加圧下で行ってもよく、不活性ガス雰囲気中又は空気中で行ってもよい。
【0123】
なお、加熱混合又は加熱処理を行うための装置の種類は、特に制限されず、反応釜などのバッチ式反応装置であってもよく、連続反応装置であってもよい。
【0124】
上記のようにして、前記式(1)で表される化合物を含む反応混合物が得られる。そして、このような反応混合物から、生成物としての前記式(1)で表される化合物を、慣用の方法(例えば、濾過、濃縮、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段)を利用して単離又は精製できる。
【0125】
(組成物)
反応混合物には、前記式(1)で表される化合物(前記式(1)において、2n個のAのうち、少なくとも1つのAが糖鎖又は糖から誘導された基である化合物)に加えて、未反応成分(前記式(2)で表される化合物、未反応の前記糖を含む成分)、糖を含む成分の分解物などの他の成分が含まれている場合が多い。このような他の成分は、不純物として分離してもよいが、本発明では、このような他の成分を含む組成物をそのまま各種用途に使用することもできる。そのため、本発明には、このような組成物も含まれる。
【0126】
特に、糖を含む成分の分解物は、ヒドロキシル基、カルボキシル基などの官能基を有している場合が多く、前記式(1)で表される化合物との混合物の形態で、そのままモノマー成分などとして使用することができ、好適である。このような観点から、本発明の組成物は、前記式(1)で表される化合物と、糖を含む成分の分解物とを少なくとも含む組成物であってもよい。なお、このような組成物は、反応混合物そのものである必要はなく、必要に応じて、不要な成分を分離した組成物であってもよい。例えば、反応混合物から、未反応成分(未反応の糖を含む成分、前記式(2)で表される化合物)や固体状の成分を、濾過、抽出などにより分離し、前記式(1)で表される化合物と、低分子量の成分(糖を含む成分の分解物など)とを含む組成物を得てもよい。
【0127】
糖を含む成分の分解物としては、糖を含む成分の分解により生成する化合物、例えば、糖の分解物、糖を含む成分のうち糖以外の他の成分(例えば、リグニンなどの非結晶成分)の分解物などが挙げられる。なお、分解物には、二次分解物(例えば、分解後、さらに開環、縮合などして得られる化合物)も含まれる。
【0128】
糖の分解物としては、糖の種類に応じて選択でき、単糖又は多糖の分解物、例えば、単糖(前記例示の単糖など)、オリゴ糖(前記例示のオリゴ糖など)、糖アルコール(前記例示の糖アルコールなど)、単糖分解物又は多糖の二次分解物{例えば、レブリン酸又はその誘導体(レブリン酸エステルなど);5−ヒドロキシメチルフルフラール、5−ヒドロキシメチル−2−ホルミルテトラヒドロフラン、5−ヒドロキシメチル−2−テトラヒドロフランカルボン酸、5−ホルミルオキシメチル−2−テトラヒドロフランカルボン酸(又は下記式(a1)で表される化合物)、5−ヒドロキシメチル−2−フランカルボン酸、5−ホルミルオキシメチル−2−フランカルボン酸(又は下記式(a2)で表される化合物)などの2−ホルミルテトラヒドロフラン、フルフラール又はこれらの誘導体[例えば、5−ヒドロキシメチルフルフラール、5−ヒドロキシメチル−2−ホルミルテトラヒドロフラン又はこれらの誘導体(酸化物、ホルムアルデヒド付加物又は反応物など)]など}が挙げられる。
【0129】
【化16】

【0130】
なお、分解物としての単糖は、オリゴ糖又は多糖類が分解することにより得られ、分解物としてのオリゴ糖は、より高分子量のオリゴ糖や多糖類が分解することにより得られる。本発明では、セルロース、ヘミセルロース、キシランなどの多糖であっても、効率よく単糖や単糖の二次分解物にまで、効率よく分解できる。
【0131】
代表的な前記組成物には、前記糖が、グルコース、およびグルコースを構成糖とする多糖(例えば、デンプン、セルロースなど)から選択された少なくとも1種であり、グルコース及び/又はグルコース(又はグルコースを構成糖とする多糖の)分解物(例えば、フルフラール誘導体などの前記例示の分解物)を含む組成物などが含まれる。
【0132】
また、代表的な前記組成物には、前記糖が、キシロース、およびキシロースを構成糖とする多糖(例えば、キシラン、ヘミセルロースなど)から選択された少なくとも1種であり、キシロース及び/又はキシロース(又はキシロースを構成糖とする多糖の)の分解物(例えば、フルフラールなど)などが含まれる。
【0133】
リグニンの分解物としては、例えば、クマロン誘導体[例えば、2−(4−ヒドロキシフェニル)−7−メトキシクマロン(又は下記式(b1)で表される化合物)、2−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)クマロン(又は下記式(b2)で表される化合物)などのヒドロキシフェニルクマロン類]、クマラン誘導体[例えば、2−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−3−メチル−7−メトキシクマラン(又は下記式(b3)で表される化合物)などのヒドロキシフェニルクマラン類]、ジフェニルエーテル誘導体{例えば、2−[4−(3−ヒドロキシプロピル)−2−メトキシフェノキシ]−4−(1,3−ジヒドロキシプロピル)−6−メトキシフェノール(又は下記式(b4)で表される化合物)、2−[4−(3−ヒドロキシプロピル)−2,6−ジメトキシフェノキシ]−4−(1,3−ジヒドロキシプロピル)−6−メトキシフェノール(又は下記式(b5)で表される化合物)などのフェノキシフェノール類}などが挙げられる。
【0134】
【化17】

【0135】
【化18】

【0136】
これらの分解物は、単独で又は2種以上組み合わせて前記組成物に含まれていてもよい。
【0137】
なお、本発明では、前記式(2)で表される化合物を用いることにより、上記のようにリグニンやセルロースやヘミセルロースなどであっても、可塑化又は溶解(又は溶融)し、さらには、比較的低分子量化された化合物にまで分解して液化できるようである。例えば、前記組成物は、前記糖を含有する成分がリグノセルロースであり、セルロース分解物[グルコース、グルコースの分解物(フルフラール誘導体など)]、リグニン分解物およびヘミセルロースの分解物(キシラン、キシロース、キシロースの分解物など)から選択された少なくとも1種[例えば、セルロース分解物およびリグニン分解物]を含む組成物(通常、液状組成物)であってもよい。
【0138】
本発明の組成物は、前記のように、反応混合物そのものであってもよく、必要に応じて固体状の成分や高分子量成分(未反応の多糖、リグニンなど)を除去した組成物としてもよい。例えば、リグニン分解物を含む組成物では、必要に応じて、他の分解物(例えば、セルロース分解物など)を分離除去した組成物とすることもできる。このような組成物は、慣用の方法を利用して得ることができるが、特に、反応混合物を溶媒により溶出又は抽出すると、効率よく前記式(1)で表される化合物を含む組成物(例えば、前記分解物を含む組成物)を得ることができる。溶媒の種類は、抽出可能であれば特に限定されないが、例えば、炭化水素類(例えば、ペンタン、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素;シクロヘキサンなどの脂環族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素)、ハロゲン系溶媒(例えば、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素など)、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなど)、エーテル類(例えば、エチルエーテル、イソプロピルエーテルなどの鎖状エーテル類;ジオキサン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル類)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、イソブチルメチルケトンなどのジアルキルケトン)、セロソルブ類(例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブなど)、カルビトール類(メチルカルビトールなど)、エステル類(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル類など)、アミド類(ジメチルホルムアミドなど)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)、ニトリル類(アセトニトリル、ベンゾニトリルなど)などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で又は混合溶媒として使用できる。
【0139】
これらの溶媒のうち、アルコール類(メタノールなど)、環状エーテル類(1,4−ジオキサンなど)、ニトリル類などが好ましい。
【0140】
上記のようにして、本発明の組成物が得られる。組成物において、前記式(1)で表される化合物の割合は、例えば、5〜95重量%、好ましくは10〜90重量%、さらに好ましくは20〜80重量%(例えば、30〜70重量%)程度であってもよい。また、前記組成物において、糖を含む成分の分解物の割合は、前記式(1)で表される化合物100重量部に対して、1〜500重量部、好ましくは5〜300重量部、さらに好ましくは10〜100重量部程度であってもよい。さらに、前記組成物において、リグニン分解物(又は非結晶成分の分解物)の割合は、前記式(1)で表される化合物100重量部に対して、例えば、0.5〜200重量部、好ましくは1〜100重量部、さらに好ましくは3〜70重量部程度であってもよい。
【0141】
また、本発明の組成物には、前記式(2)で表される化合物が残存していてもよく、例えば、前記組成物における前記式(2)で表される化合物の割合は、例えば、0.1〜80重量%(例えば、0.2〜70重量%)、好ましくは0.3〜60重量%(例えば、0.4〜50重量%)、さらに好ましくは0.5〜40重量%(例えば、1〜30重量%)程度であってもよく、通常0.1〜50重量%(例えば、0.2〜30重量%、好ましくは0.3〜20重量%)程度であってもよい。
【0142】
なお、本発明の組成物の形態は、固体状であってもよいが、室温(15〜25℃)で液状又は半固形状であってもよい。特に、糖を含む成分としてリグノセルロース(木材など)を使用すると、分解の程度にもよるが、セルロースの分解物、ヘミセルロースの分解物や、リグニン分解物を含む液状組成物として得られる場合が多い。
【実施例】
【0143】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0144】
(実施例1−1〜1−8)
三口フラスコに、表1に示す量的割合で、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BPEF、大阪ガスケミカル(株)製)、D−グルコース、及び濃度6Nの硫酸を加え、表1に示す温度条件および反応時間で、反応混合物を得た。
【0145】
反応混合物に、1,4−ジオキサンを加え、ろ過、洗浄して得られた濾液を一定な濃度(0.5重量%)に調整し、HPLCにより、定量分析と各生成物の単離を行なった。
【0146】
生成物のうち、3つの主要なピークの成分を分取し、さらに、分取した各成分をLC−MASS、NMRおよびIRにより分析したところ、下記構造の化合物(I)〜(III)、すなわち、(I)9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−9−{4−[2−(4−オキソペンタノイルオキシ)エトキシ]フェニル}フルオレン、(II)、9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−9−[4−(2−グルコシルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、(III)9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−9−{4−[2−(2−ホルミル−5−フリルメトキシ)エトキシ]フェニル}フルオレンであることがわかった。
【0147】
なお、LC−MASSにより測定した化合物(I)の分子量は536、化合物(II)の分子量は600、化合物(III)の分子量は546であった。また、下記化合物の熱分解温度を測定したところ、いずれも高く、例えば、化合物(I)の熱分解温度は340℃を超えていることがわかった。なお、下記式において、化合物(I)、(II)および(III)については、詳細なNMRにおける帰属を記載している。
【0148】
【化19】

【0149】
H−NMR(THF−d)ppm:δ2.03(H−5””),2.46(H−3””),2.64(H−2””),3.72,3.90(H−α’,β’),4.06(H−α),4.28(H−β),6.73(H−3”,3”’,H−5”,5”’),7.06(H−2”,2”’,H−6”,6”’),7.20(H−5,5’)、7.28(H−4,4’),7.36(H−6,6’),7.77(H−3,3’)
13C−NMR(THF−d)ppm:δ27.5(C−3””),28.6(C−5””),37.3(C−2””),60.6,69.8(C−α’,β’),62.7(C−β),64.3(C−A),65.9(C−α),113.9(C−3”,3”’,C−5”,5”’),119.9(C−3,3’),126.0(C−6,6’),127.0(C−4,4’),127.4(C−5,5’),129.0(C−2”,2”’,C−6”,6”’),138.0,138.6(C−1”,1”’),140.2(C−2,2’),152.0(C−1,1’),157.7,158.2(C−4”,4”’),172.2(C−1””),204.8(C−4””)
【0150】
【化20】

【0151】
H−NMR(CDCl)ppm:δ3.44(H−6α),3.75−3.9(H−,2””,3””,4””,5””,6β),3.98(H−β),4.10(H−α),4.92(H−1””),6.75(H−3”,3”’),7.11(H−2”,2”’),7.26(H−6, 6’)、7.34(H−4, 4’,5,5’),7.34(H−7.75(H−3,3’)
13C−NMR(CDCl)ppm:δ59.4(C−6””),61.3(C−β),64.0(C−A),66.6(C−β’),66.9(C−α’),68.9(C−α),71.28(C−5””),73.38(C−4””),73.9(C−3””),74.6(C−2””),98.6(C−1””),114.3(C−3”,C−3”’),120.1(C−3,3’),125.9(C−6,6’),127.3(C−4,4’),127.6(C−5,5’),129.1(C−2”’,C−2”),138.4(C−1”,1”’),139.8(C−2,2’),151.4(C−1,1’),157.0(C−4”,4”’)
【0152】
【化21】

【0153】
H−NMR(CDCl)ppm:δ3.86,4.09(H−α’,β’),3.92(H−β),4.03(H−α),4.64(H−1””),6.51(H−3””),6.75(H−3”,3”’,5”,5”’),7.11(H−2”,2”’,H−6”,6”’),7.17(H−4””),7.26(H−6, 6’),7.27−7.37(H−4, 4’,5,5’),7.74(H−3,3’),9.58(H−6””)
13C−NMR(CDCl)ppm:δ61.5(C−β),64.1(C−A),65.8,67.2(C−α’,C−β’),69.1(C−α),69.4(C−1””),111.2(C−3””),114.1(C−3”,3”’,C−5”,5”’),120.0(C−3,3’),121.9(C−4””),125.9(C−6,6’),127.3(C−4,4’),127.6(C−5,5’),129.1(C−2”,2”’,C−6”,6”’),138.4(C−1”,1”’),139.8(C−2,2’),151.5(C−1,1’),152.4(C−5””),157.1(C−4”,4”’),158.1(C−2””),177.5(C−6””)
結果を表1に示す。なお、表1において、収率は、使用したBPEFに対する化合物(I)の割合又は化合物(II)の割合を示す。また、表1において、BPEF残存量とは、反応混合物において、使用したBPEFに対する残存割合を示す。
【0154】
【表1】

【0155】
なお、反応混合物には、グルコースの分解物(前記式(a1)で表される化合物、前記式(a2)で表される化合物など)も含まれていた。
【0156】
(実施例2)
三口フラスコ(容量100mL)に、9,9−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(BPEF、大阪ガスケミカル(株)製)20g、微結晶セルロース(メルク社製、重合度200、粒子の平均直径10μm)10g、及び濃度6Nの硫酸0.7gを加え、200℃のオイルバスを用いて加熱下で1時間撹拌し、反応混合物を得た。
【0157】
反応混合物に、1,4−ジオキサンを加え、ろ過、洗浄して得られた濾液を一定な濃度(0.5重量%)に調整し、HPLCにより、定量分析と各生成物の単離を行なった。
【0158】
生成物を、実施例1と同様に、HPLC、LC−MASS、NMRおよびIRにより分析したところ、前記化合物(I)〜(III)が生成していることを確認した。なお、HPLCにより定量した化合物(I)の生成量は7g(仕込んだBPEF1モルに対して0.29モル)、化合物(II)の生成量は0.8g、化合物(III)の生成量は0.9gであった。
【0159】
なお、反応混合物には、各種分析[MASS(LC−MASS、GC−MASS)、HPLC、IR,NMR]の結果、セルロースの分解生成物である前記式(a1)で表される化合物および前記式(a2)で表される化合物、未反応のBPEF(7g)なども含まれていた。
【0160】
(実施例3)
実施例2において、微結晶セルロースに代えて米松を用いたこと以外は、実施例1と同様に反応混合物の合成と、生成物の単離を行った。なお、HPLC定量により、前記化合物(I)の生成量は2.7g(仕込んだBPEF1モルに対して0.12モル)、化合物(II)の生成量は0.9g、化合物(III)の生成量は0.5gであった。
【0161】
なお、反応混合物には、各種分析[MASS(LC−MASS、GC−MASS)、HPLC、IR,NMR]の結果、実施例2で得られた化合物(化合物(I)〜(III),セルロースの分解生成物)、未反応のBPEF(12.3g)の他、リグニンの分解物である前記式(b1)〜(b5)で表される化合物なども含まれていた。
【0162】
(実施例4)
実施例2において、微結晶セルロースに代えてキシランを用い、硫酸を用いることなく、200℃で1時間加熱したこと以外は、実施例1と同様に反応混合物の合成を行った。主な生成物のLC−MASSおよびNMR分析を行った結果、下記構造の化合物(IV)〜(V)、すなわち、(IV)9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−9−[4−(2−キシロシルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、(V)9−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−9−{4−[2−(2−ヒドロキシメチル−5−フリルオキシ)エトキシ]フェニル}フルオレンであることがわかった。また、LC−MASSの分析結果から、化合物(IV)の分子量は570、化合物(V)の分子量は534)であった。
【0163】
【化22】

【0164】
【化23】

【0165】
H−NMR(CDCl)ppm:δ3.23,3.59(H−α’,β’),3.89(H−β),3.99(H−α),6.50(H−2””),6.70(H−3”,3”’,5”,5”’),6.88(H−3””),7.04(H−2”,2”’,H−6”,6”’),7.26(H−6, 6’),7.27−7.37(H−4, 4’,5,5’),7.70(H−3,3’)
13C−NMR(CDCl)ppm:δ41.0(C−5””),61.1,68.7(C−α’,β’),61.4(C−β),64.0(C−A),69.2(C−α),110.7(C−2””),114.0(C−3”,3”’,C−5”,5”’),119.8(C−3,3’),125.6(C−6,6’),127.1(C−3””),128.1(C−4,4’),129.1(C−5,5’),132.0(C−2”,2”’,C−6”,6”’),137.4(C−1”,1”’),139.7(C−2,2’),151.3(C−1,1’),155.2(C−4””),156.9(C−4”,4”’)
【0166】
(実施例5)
実施例2において、微結晶セルロースに代えてリグニンモノマーであるコニフェリルアルコールを用い、硫酸を用いることなく、180℃で0.5時間加熱したこと以外は、実施例1と同様に反応混合物の合成と、生成物のLC−MASS分析を行った。LC−MASSの分析結果から、主な生成物は下記構造の化合物(VI)(分子量600)、化合物(VII)(分子量780)および化合物(VIII)(分子量600)であることが分かった。
【0167】
【化24】

【0168】
【化25】

【0169】
H−NMR(CDCl)ppm:δ2.01(H−3””),3.40(H−1””),3.58,3.98(H−α’,β’),3.71(H−1””),3.81,3.82(H−10””,10””’),3.88,3.98(H−α,β),4.26(H−1””’),5.86(H−2””’),6.18(H−3””’),6.71−6.88(H−3”,3”’,5”,5”’,9””,9””’,8””,8””’,5””,5””’),7.09(H−2”,2”’,H−6”,6”’),7.26(H−6, 6’),7.28−7.36(H−4, 4’,5,5’),7.72(H−3,3’)
13C−NMR(CDCl)ppm:δ32.0(C−3””),47.2(C−2””)55.8,55.9(C−10””,10””’),61.3(C−β),64.1,66.9(C−α’,β’),64.6(C−A),66.9(C−1””’),69.0(C−α),86.8(C−1””),107.8,109.1(C−5””,5””’),114.0(C−3”,3”’,C−5”,5”’),119.4,120.8(C−9””,9””’),120.0(C−3,3’),125.3(C−3””’),125.8(C−6,6’),127.2(C−4,4’),127.5(C−5,5’),129.0(C−2”,2”’,C−6”,6”’),129.8,131.7(C−4””,4””’),131.4(C−2””’),138.3(C−1”,1”’),139.7(C−2,2’),144.8,145.3(C−7””,7””’),146.4,146.7(C−6””,6””’),151.4(C−1,1’),157.0(C−4”,4”’)
【0170】
【化26】

【産業上の利用可能性】
【0171】
本発明の新規な化合物およびその組成物は、特別な前処理を必要とせず、前記式(2)で表される化合物と糖を含む成分又はリグニン成分とを混合(特に加熱混合)することにより高収率で効率よく得られる。そして、このような新規な化合物およびその組成物は、フルオレン骨格に由来して、可撓性、耐熱性などに優れ、高屈折率などの優れた光学的特性も有している。また、ヒドロキシル基やカルボキシル基などの官能基を有し、反応性にも優れている。そのため、本発明の化合物およびその組成物は、樹脂原料(例えば、ポリエステル樹脂原料、ポリウレタン樹脂原料、フェノール樹脂原料、エポキシ樹脂原料など)などの各種機能性材料又は加工材料、各種処理剤などとして利用でき、このような材料は、高強度、高靭性、高耐熱性、優れた光学的特性などが要求される用途に好適である。また、官能基を利用して、親水性、生体親和性などの親水性、生体親和性などの新機能を付与することにより広い分野での応用が期待できる。
【0172】
また、本発明では、リグノセルロースのようなリグニンを含む多糖であっても、浸透しやすく、加熱混合により、簡便にかつ効率よく分解して低分子量化しつつ、前記新規な化合物を含む組成物(通常、液状の組成物)を得ることができる。このような組成物は、複雑な分子構造の分解物ではなく、単純な構造を有する低分子量化合物の分解物を含んでおり、そのまま各種用途に利用できるため、本発明は、バイオリファイナリ可能な技術として極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるフルオレン骨格を有する化合物。
【化1】

(式中、Aは、水素原子、糖鎖、糖から誘導された基、又はリグニンモノマー乃至オリゴマー鎖を示し、環Zは芳香族炭化水素環を示し、Rは置換基を示し、Rはアルキレン基を示し、Rは置換基を示し、kは0〜4の整数、mは0以上の整数、nは1以上の整数、pは0以上の整数、aは0又は1である。ただし、2n個のAのうち、少なくとも1つのAが糖鎖、糖から誘導された基、又はリグニンモノマー乃至オリゴマー鎖であり、Aが水素原子であるとき、aは1である。)
【請求項2】
式(1)において、糖鎖又は糖から誘導された基が、単糖鎖、オリゴ糖鎖、糖アルコール鎖、およびこれらの糖鎖から誘導された基である請求項1記載の化合物。
【請求項3】
式(1)において、糖鎖又は糖から誘導された基が、グリコピラノシル基又はグリコピラノシル基から誘導された基である請求項1又は2記載の化合物。
【請求項4】
式(1)において、糖鎖又は糖から誘導された基が、下記式(A1)で表される基、下記式(A2)で表される基又は下記式(A3)で表される基である請求項1〜3のいずれかに記載の化合物。
【化2】

【請求項5】
式(1)において、糖鎖又は糖から誘導された基が、下記式(A4)で表される基又は下記式(A5)で表される基である請求項1〜3のいずれかに記載の化合物。
【化3】

【請求項6】
式(1)において、リグニンモノマー乃至オリゴマー鎖が、下記式(A6)で表される基、下記式(A7)で表される基、又は下記式(A8)で表される基である請求項1記載の化合物。
【化4】

(式中、XおよびXは同一又は異なって水素原子又はメトキシ基を示す。)
【請求項7】
式(1)において、Aが、前記式(A1)〜(A7)で表されるいずれかの基であるとき、aが1であり、前記式(A8)で表される基であるとき、aが0である請求項4〜6のいずれかに記載の化合物。
【請求項8】
式(1)において、2〜6個のAのうち1〜2個のAが単糖鎖、単糖から誘導された基、又はリグニンモノマー乃至オリゴマー鎖である請求項1〜7のいずれかに記載の化合物。
【請求項9】
下記式(1B)で表される化合物である請求項1〜8のいずれかに記載の化合物。
【化5】

(式中、Aは、前記式(A1)〜(A8)で表されるいずれかの基であり、Z、R、R、R、k、m、n、p、aは前記と同じ。)
【請求項10】
下記式(2)で表される化合物と、糖を含有する成分とを加熱下で混合して得られる組成物であって、請求項1〜9のいずれかに記載の化合物を含む組成物。
【化6】

(式中、Z、R、R、R、k、m、n、pは前記と同じ。)
【請求項11】
糖が単糖及び/又は多糖であり、単糖又は多糖の分解物を含む請求項10記載の組成物。
【請求項12】
糖が、グルコース、およびグルコースを構成糖とする多糖から選択された少なくとも1種であり、グルコース及び/又はグルコース分解物を含む請求項10又は11記載の組成物。
【請求項13】
糖を含有する成分がリグノセルロースであり、セルロース分解物、ヘミセルロース分解物およびリグニン分解物から選択された少なくとも1種を含む請求項10〜12のいずれかに記載の組成物。

【公開番号】特開2011−225551(P2011−225551A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73287(P2011−73287)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】