説明

フレキシブルセンサー

【課題】実用上十分なセンシング特性と屈曲や洗濯に対する耐久性を兼ね備えたフレキシブルセンサーを安価に提供する。
【解決手段】フレキシブルセンサーは、シート状の軟質スペーサ13と、このスペーサ13を挟んで両側にそれぞれ配設された第1および第2の導電性繊維構造体11,12とを備え、前記スペーサ13は絶縁性であるとともに貫通孔14を有し、前記導電性繊維構造体11,12は、導電性微粒子を含有する導電性ポリビニルアルコール系繊維を含み、前記第1または第2の導電性繊維構造体11,12の機械的変形によって前記第1および第2の導電性繊維構造体11,12がスペーサ13を貫通して接触することにより導通する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実用上十分なスイッチング特性と屈曲や洗濯に対する耐久性を備えた、デジタル制御スイッチング、アナログスイッチング、圧力検知などが可能なフレキシブルセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人間工学の観点から、工業分野や医療分野などを中心に人間が操作しやすく、誤入力のない安全なスイッチとして面状スイッチが広く提案されている。例えば、蒸着やコーティングなどにより金属薄膜の導電層が形成されたポリエステルやポリカーボネートフィルム二枚を導電体とし、その導電層を内側にして、これらの導電体の間に、一定間隔に配置されたドット状の絶縁樹脂をスペーサとして張り合わせた面状スイッチが提案されている(例えば、特許文献1の[従来の技術]参照)。
【0003】
しかし、この面状スイッチは、信頼性および耐久性の面で問題を抱えていた。例えば、この面状スイッチで用いられているドット状の樹脂は、スペーサとしての信頼性が低い。また、導電体に設けられた金属薄膜の導電層では、繰り返しの圧縮により導電層の割れや剥離などが生じてしまうため、電気抵抗の変化が検知できなくなる虞がある。さらに、このような金属薄膜の導電層や樹脂スペーサは、屈曲を伴う使用に不利であるため、その実用の用途が制限される。
【0004】
近年の情報化通信の飛躍的な進歩に伴い、環境制御、現場の監視、或いは情報交換について、センサーに代表される電子回路を衣料に埋め込むことを前提とした、いわゆる服コンピューターの提案がなされている(例えば、非特許文献1参照)。このように電子回路を衣服と一体化することは、個人の日常生活にとっての用途としては、最も密接で何気ないものとして代表的なものであるにも関わらず、ほとんど実用化には至っていない。衣服と電子回路とを一体化するためには、電子回路には、柔軟性や屈曲性だけでなく、通気性や耐洗濯性などが要求される。
【0005】
一方、織物を利用した面状スイッチとして、近年、導電糸を用いた2枚の交織布間の少なくとも一部の区域に、変形によって電気抵抗値が減少する変形導電性織編物を配置して積層した面状スイッチが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この面状スイッチでは、導電糸として、金属繊維の糸や、金属をコーティングした糸が記載されている。また、実用的な操作感度が得られるスペーサとして、薄片状の導電性フィラーが埋没したエラストマーを、織物などの支持体に対して付着した変形導電性織編物(特許文献2)が用いられている。
【0006】
【特許文献1】特開平2−304824号公報
【特許文献2】特開昭61−138651号公報
【非特許文献1】志水英二、「世界のウェアラブルコンピューター応用製品の最先端」、ウェアラブルコンピューター講演会予稿集、2006年5月26日開催
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、金属コーティング糸や金属線では、衣料のもつ柔軟性や風合いだけでなく、通気性なども損なわれる。また、金属コーティング糸や金属メッキ糸では、使用時の屈曲動作によって、導電部分の割れが起きやすい。
【0008】
さらに、これらの導電材料は、耐久性に欠け、例えば、導電部分の離合を繰り返すことにより導電部分の金属が折れたり、剥離したりする。そのため、使用するうちに、導電性部材の体積固有抵抗値が大きく変化してしまうだけでなく、場合によっては誤動作を起こしたり、電気抵抗の変化が検知できなくなる。そのため、これらの導電材料では、安定したスイッチング特性を得ることができない。
【0009】
さらにまた、これらの導電性部材では、洗濯などの激しい負荷には耐えられないだけでなく、金属コーティングまたは金属メッキした繊維などは高価であるため、一般に普及しにくい。
【0010】
したがって、本発明の目的は、スペーサに導電部分が存在しなくとも、実用上十分なセンシング特性を有するとともに、通気性や柔軟性に優れたフレキシブルセンサーを提供することにある。
本発明の別の目的は、屈曲動作を繰り返し行っても導電性繊維構造体を形成する導電性繊維の体積固有抵抗値の変化が少なく、スイッチング特性が安定しているフレキシブルセンサーを提供することにある。
本発明のさらに別の目的は、繰り返し洗濯をしても、安定したスイッチング特性を有し、洗濯耐久性に優れたフレキシブルセンサーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記したフレキシブルセンサーを得るべく、鋭意検討を重ねた結果、特定の導電性ポリビニルアルコール(以下、PVAと略記する場合がある)系繊維を用いることで、従来では達成し得なかった、実用上十分なセンシング機能を持ち、且つ反復使用や屈曲動作や洗濯によっても導電部分の性能が低下することなく、長期に渡って安定したセンシングが可能なフレキシブルセンサーが得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、シート状の軟質スペーサと、このスペーサを挟んで両側にそれぞれ配設された第1および第2の導電性繊維構造体とを備え、前記スペーサは絶縁性であるとともに貫通孔を有し、前記導電性繊維構造体は、導電性微粒子を含有する導電性ポリビニルアルコール系繊維を含み、前記第1または第2の導電性繊維構造体の機械的変形によって前記第1および第2の導電性繊維構造体がスペーサを貫通して接触することにより導通するフレキシブルセンサーに関する。
【0013】
前記導電性微粒子は、平均粒子径500nm以下の硫化銅微粒子であってもよく、硫化銅微粒子がポリビニルアルコール系繊維の表層および/または内部に存在していてもよい。導電性ポリビニルアルコール系繊維の体積固有抵抗値は、1×10〜1×10−2Ω・cm程度であってもよく、JIS P 8115に準拠した耐屈曲性試験(荷重1.5kgf;1000回)を行う前後の体積固有抵抗値に関して、導電性ポリビニルアルコール系繊維の体積固有抵抗値の変動率が50%以内であってもよい。好ましくは、スペーサは、布帛であり、スペーサが布帛である場合、その目付けは、5〜100g/m程度であってもよい。
【0014】
また、フレキシブルセンサーにおいて、第1および第2の導電性繊維構造体のそれぞれが、絶縁性のシート状基材に取り付けられていてもよい。また、第1および第2の導電性繊維構造体は、それぞれ複数の細長い第1および第2の導電帯であり、複数の第1の導電帯は互いに平行に配設され、複数の第2の導電帯は互いに平行に配設され、かつ第1および第2の導電帯の長手方向がそれぞれ交差していてもよい。
【0015】
なお、本発明で、繊維構造体とは、繊維で形成された構造物の総称を意味し、導電性微粒子とは、平均粒子径が1μm以下の微粒子を意味する。また、本発明で、孔とは、上端と下端とが貫通した形状であればよく、円筒形状、多角形柱状のほか、布帛などの透き目や不定形状も含む意味で用いられる。さらに、本発明で、繊維の表層とは、繊維表面から1μm程度の深さ範囲のことを示し、繊維の内部とは、繊維の表面から繊維の中心までの範囲を示す。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、特定の導電性PVA系繊維を用いた導電性繊維構造体と、多孔性かつ絶縁性の軟質スペーサとを組み合わせることにより、フレキシブルセンサーのセンシング特性だけでなく、通気性や柔軟性を向上する。また、本発明のフレキシブルセンサーは、屈曲動作を繰り返し行っても、導電性繊維構造体を形成する導電性PVA系繊維の体積固有抵抗値の変化が少ないため、安定したスイッチング特性を実現できる。さらに、本発明のフレキシブルセンサーは、繰り返し洗濯をしても、スイッチング特性が安定しているため、洗濯耐久性にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[フレキシブルセンサー]
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。図1は、本発明の第1実施形態のフレキシブルセンサーを示す分解斜視図である。
図1に示すように、フレキシブルセンサー10は、シート状のスペーサ13と、このスペーサを挟んで両側にそれぞれ配設された第1の導電性繊維構造体11および第2の導電性繊維構造体12とを備える。第1の導電性繊維構造体11および第2の導電性繊維構造体12は、導電性PVA系繊維で形成された不織布であり、常時は、電気絶縁性かつ多孔性のゴム製スペーサ13で隔離されている。繊維構造体の面方向から圧縮力を加えると、第1の導電性繊維構造体11および第2の導電性繊維構造体12が機械的に変形し、その一部分がスペーサ13を貫通して、つまり、孔14を通して互いに接触する。この接触により、第1の導電性繊維構造体1の端子16と、第2の導電性繊維構造体2の端子17との間で導通し、検出部15はそれにより生じた電気抵抗の変化を検知する。
【0018】
また、図2は、本発明の第2実施形態のフレキシブルセンサーを示す分解斜視図であり、図3は、図2で用いられた導電性繊維構造体の楕円Pで囲んだ部分を示す拡大図である。図2に示すように、フレキシブルセンサー20は、シート状の布帛製スペーサ23と、このスペーサを挟んで両側にそれぞれ配設された第1の導電性シート体31および第2の導電性シート体32とを備えている。第1の導電性シート体31は、シート状の絶縁性基材28に第1の導電性繊維構造体21が取り付けられたものであり、第2の導電性シート体32は、シート状の絶縁性基材29に第1の導電性繊維構造体22が取り付けられたものである。第1の導電性繊維構造体21および第2の導電性繊維構造体22は、それぞれが複数平行に配されて、一端部が共通の端子26,27に接続され、両端子26,27が検出部15に接続されている。なお、第1の導電性繊維構造体21と第2の導電性繊維構造体22とは、直交している。図3に示すように、各導電性繊維構造体21,22は、多数のフィラメント状導電性繊維を結束糸Tで束ねた繊維束で形成され、複数の繊維束からなる導電帯21,22が基材28,29に対して織りこまれている。
【0019】
これらの導電性繊維構造体21および22は、常時は、電気絶縁性かつ多孔性の布帛製スペーサ23で隔離され、導電性繊維構造体(または導電性シート)の面方向から圧縮力を加えると、第1の導電性繊維構造体21および第2の導電性繊維構造体22が機械的に変形する。この変形により、それぞれの導電性繊維構造体に織りこまれた導電性PVA系繊維の一部分がスペーサ23の透け目を貫通して互いに接触する。この接触により、第1の導電性繊維構造体21の端子26と、第2の導電性繊維構造体22の端子27との間で導通し、検出部15はそれにより生じた電気抵抗の変化を検知する。
【0020】
また、図4は、本発明の第3実施形態のフレキシブルセンサー30を示す分解斜視図である。フレキシブルセンサー30は、図2の第2実施形態において、複数の第1の導電性繊維構造体21と第2の導電性繊維構造体22のそれぞれに、図4の接続端子36,37が設けられて、各接続端子が検出部15に接続されている。その他の構成は、第2実施形態と同様である。
【0021】
フレキシブルセンサー30の主面と直交する方向から見たときの第1および第2の導電性繊維構造体21,22の交点が接触すると、その交点が、センサーの接触部位として検出部15により検出される。この接触により、圧縮を受けた部位を特定することができる。端子の数は、3つの第1の導電性繊維構造体21と、3つの第2の導電性繊維構造体22に対応する6本であるが、検出位置としては交点の合計である9点を検出できる。
【0022】
すなわち、第1および第2の導電性繊維構造体21,22が、それぞれ複数の細長い導電帯であり、第1の複数の導電帯21は互いに交わらずに(好ましくは平行に)配設され、第2の複数の導電帯22は互いに交わらずに(好ましくは平行に)配設され、かつ第1および第2の導電帯21,22の長手方向がそれぞれ交差(好ましくは直交)している場合、端子の数≦検出位置の数となるため、端子の数を節約しつつ、検出位置の数を増加することができる。
【0023】
なお、導電性繊維構造体21,22の形状は、端子間で導通する限り特に限定されず、フレキシブルセンサーの形態や、使用目的に応じて適宜決定することができる。また、第1および第2の導電性繊維構造体21,22のそれぞれが、絶縁性のシート状基材(例えば、布帛、ゴムシート、プラスチックシートやフィルム)に対して、接着や縫いつけなどにより基材の表面に取り付けられていてもよい。この場合、導電性繊維構造体は、シート状基材のスペーサ側に取り付けられる。
【0024】
さらに、本発明のフレキシブルセンサーは、その基本構成に加えて、従来公知な後加工技術によって、防水性や防汚性、耐候性、難燃性などを付与してもよい。
【0025】
[導電性繊維構造体]
導電性繊維構造体は、例えば、導電性微粒子を含有する導電性ポリビニルアルコール系繊維(以下、導電性PVA系繊維と称する場合がある)を少なくとも含む。導電性繊維構造体は、導電性PVA系繊維のみから形成されてもよいし、導電性PVA系繊維と導電性PVA系繊維以外の繊維(絶縁性繊維)とから形成されてもよい。絶縁性繊維は、有機繊維(例えば、天然繊維、化学繊維など)であってもよいし、無機繊維(例えば、ロックファイバー、ガラス繊維など)であってもよい。
【0026】
天然繊維としては、例えば、動物繊維(例えば、絹、バイサス、羊毛、モヘヤ、アンゴラ、牛毛など)、植物繊維[例えば、綿類(例えば、綿花、リンターなど)、麻類(たとえば、大麻、亜麻、黄麻、マニラ麻、サイザル麻など)、カポック、竹、ケナフ、ココヤシなど]などが挙げられる。
化学繊維としては、例えば、合成繊維[例えば、ポリビニルアルコール系繊維(例えば、ポリビニルアルコール繊維、エチレン−ビニルアルコール繊維、ポリビニルアセタール繊維など)、ポリエステル系繊維(例えば、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維など)、ポリアミド系繊維(例えば、脂肪族ナイロン繊維、芳香族ナイロン繊維など)、アクリル繊維(例えば、ポリアクリロニトリル繊維、アクリロニトリル−アクリル酸エステル繊維、アクリロニトリル−メタクリル酸エステル繊維、アクリロニトリル−酢酸ビニル繊維など)、ポリオレフィン系繊維(例えば、ポリプロピレン系繊維、ポリエチレン系繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維など)、ポリ塩化ビニル繊維、ポリ塩化ビニリデン繊維、ポリウレタン繊維など]、再生繊維(例えば、レーヨン、キュプラ、モダル、リヨセルなどのセルロース誘導体繊維;キチン、コラーゲン、アルギン酸など)、半合成繊維(例えば、セルロースアセテート、セルローストリアセテートなど)などが挙げられる。
【0027】
これらの繊維は、単独でまたは組み合わせて使用できる。これらの絶縁性繊維のうち、屈曲性と柔軟性の観点から、有機繊維が好ましく、例えば、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維などが好ましい。
【0028】
導電性PVA系繊維と絶縁性繊維との割合は、繊維構造体が導電性を呈する限り特に限定されないが、例えば、導電性PVA系繊維/絶縁性繊維(重量部)として、50/50〜100/0程度、好ましくは60/40〜95/5程度、さらに好ましくは70/30〜90/10程度である。
【0029】
本発明で、導電性PVA系繊維および絶縁性繊維の繊度は特に限定されず、例えば0.1〜100000dtex程度、好ましくは0.3〜50000dtex程度、より好ましくは、1〜10000dtex程度である。
【0030】
導電性繊維構造体の形状は、第1の導電性繊維構造体と第2の導電性繊維構造体とが、接触して導通する限り特に限定されず、糸状物(例えば、単糸、双糸、引きそろえ糸、三子糸、紡績糸など)、紐状物(例えば、組み紐、より紐、まき紐、編み紐、ロープなど)などの1次元構造体;布帛[例えば、織物(例えば、平織物、綾織物または朱子織物など)、編物(例えば、緯編物、経編物、平編物、天竺編物、レース編物など)、不織布(例えば、乾式不織布、湿式不織布など)など]などの2次元構造体;立体構造を有する3次元構造体のいずれであってもよい。これらの形状のうち、柔軟性や耐屈曲性の観点から、1次元構造体や2次元構造体が好ましく、特に導通性の観点から2次元構造体が好ましい。
【0031】
これらの導電性繊維構造体は、導電性PVA系繊維と、必要に応じてその他の絶縁性繊維を用いて、慣用の方法により作製できる。例えば、導電性繊維構造体が布帛である場合、導電性繊維構造体は、経糸および/または緯糸として導電性PVA系繊維を織り込んだ織物であってもよく、編み糸として導電性PVA系繊維を編みこんだ編物、短繊維形状の導電性PVA系繊維を用いて形成された不織布などであってもよい。
【0032】
導電性繊維構造体が2次元構造体である場合、例えば、導電性繊維構造体の厚さは、使用目的によって0.01mm〜1cm程度の広い範囲から適宜選択することができるが、本発明では、特定の導電性PVA系繊維を用いるため、導電性繊維構造体の厚さが、例えば、0.03mm〜5mm程度(好ましくは0.1mm〜1mm程度)であっても、耐屈曲性および導通性を両立できる。
【0033】
また、導電性構造体が細長い形状を有する導電帯である場合、各導電帯の幅は、例えば、1mm〜10cm程度、好ましくは5mm〜7cm程度、さらに好ましくは1cm〜5cm程度であってもよい。
【0034】
(導電性ポリビニルアルコール系繊維)
導電性PVA系繊維は、導電性微粒子を含有する。導電性微粒子としては、例えば、各種金属類(金属単体、金属酸化物、金属硫化物など)、グラファイト類などが挙げられる。これらの導電性微粒子のうち、ポリビニルアルコール系繊維との結合性の観点から、金属硫化物、特に硫化銅(例えば、一価の硫化銅や二価の硫化銅)が好ましい。
【0035】
導電性微粒子の平均粒子径は、繊維内部へ微分散する観点から、500nm以下であるのが好ましい。例えば、導電性微粒子の平均粒子径は、400nm以下(例えば、1nm〜400nm程度)、好ましくは300nm以下(例えば、5nm〜200nm程度)、さらに好ましくは100nm以下(例えば、7nm〜50nm程度)であってもよい。なお、導電性PVA系繊維中の硫化銅微粒子は、透過型顕微鏡(TEM)にて確認できる。
【0036】
このような微粒子であることにより、繊維中での粒子間距離の著しい減少が可能となり、少ない量にて高い導電性を発現することができる。例えば、同じ重量%の含有量において、粒子径が百分の一になると、粒子間距離は一万分の一にまで小さくなることが知られている。また、このような場合、粒子間相互作用が非常に強く働き、その間に挟まれたポリマー分子は、あたかも導電性粒子と同じような機能を示すこと(サイズ効果)も知られている[例えば、ナノコンポジットの世界、p22(工業調査会)参照]。従って、このサイズ効果により、繊維内部にて電流が流れやすくなり、少ない量でも、優れた導電性を付与することができ、それ故、このような繊維を用いたフレキシブルセンサーは優れたセンシング特性を発現する。
【0037】
さらに、このような微粒子は、通常、繊維の表層だけでなく繊維内部にも微分散するので、繊維内部で強固な導通パスを形成できる。このような導通パスの形成により、導電性PVA系繊維は、繊維であるにも関わらず、高い導電性を達成できる。すなわち、導電性PVA系繊維は、金属メッキ繊維や金属繊維などと異なり、繊維自体の柔軟性と導電性とを両立できる。
【0038】
それに加え、導電性PVA系繊維では、繊維本体と導電性微粒子との一体性が高いため、繰り返し圧縮力を与えても繊維の体積固有抵抗値が変化しにくい。さらに屈曲や洗濯などの負荷をかけても導通パスが破壊されないので、本発明のフレキシブルセンサーに、耐屈曲性や耐洗濯性を付与することができる。
【0039】
なお、微粒子の平均粒子径が大きすぎる場合、所望の導電性を発現させるためには多量の粒子を含有させる必要があり、その場合、繊維自体の力学物性が低下し、耐屈曲性や布帛にする際の工程通過性が悪化するので好ましくない。さらに、繰り返し使用による粒子の脱落によって、繊維の体積固有抵抗値が大きく変化するため、所望の耐屈曲性能が得られない。さらにまた、繊維構造体が糸状物や布状物である場合、外観不良や製造工程での通過性の悪化を招く。
【0040】
すなわち、本発明で用いられる導電性PVA系繊維では、屈曲や洗濯における導電層の破壊や剥離が起こらず、繰り返しの使用に対して安定的な性能を保持することが出来る。さらに、金属メッキ繊維や金属繊維に比べて、通気性や柔軟性、風合いに優れている。
【0041】
本発明で使用する導電性PVA系繊維は、短繊維(例えば、ステープルファイバー、ショートカットファイバーなど)、長繊維(例えば、モノフィラメント、マルチフィラメントなどのフィラメントヤーン)などのあらゆる形態で用いることができる。このような繊維は、公知または慣用の方法により、糸や布帛などの所定形状に加工でき、優れた導電性と耐屈曲性を付与できる。
【0042】
導電性PVA系繊維の体積固有抵抗値は、例えば、1×10〜1×10−2Ω・cm程度、好ましくは5×10〜5×10−2Ω・cm程度、さらに好ましくは1×10〜1×10−1Ω・cm程度であってもよい。なお、体積固有抵抗値は後述の方法により測定される。体積固有抵抗値が大きすぎると、導電性が足りず、誤動作を起こしたりするなど良好なセンシング特性が得られない場合がある。また、体積固有抵抗値が小さすぎると、過電流によってショートする虞がある。
【0043】
また、導電性PVA系繊維では、JIS P 8115に準拠した耐屈曲性試験(荷重1.5kgf;1000回)を行う前後の体積固有抵抗値の変動率が、例えば、50%程度以内、好ましくは40%程度以内、さらに好ましくは30%程度以内である。体積固有抵抗値の変動率が高すぎると、センサーの誤動作を誘発するだけでなく、繰り返し使用による安定したセンシング特性を発現することができず、信頼性に欠ける。
【0044】
(PVA系ポリマー)
本発明のフレキシブルセンサーに用いる導電性PVA系繊維を形成するPVA系ポリマーは、ビニルアルコールユニットを主成分とするものであれば特に限定されず、本発明の効果を損なわない限り、所望により他の構成単位(変性ユニット)を有していてもかまわない。このような構造単位としては、例えば、オレフィン類(例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等)、アクリル酸類(例えば、アクリル酸およびその塩、アクリル酸メチルなどのアクリル酸エステルなど)、メタクリル酸類(例えば、メタクリル酸およびその塩、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル類など)、アクリルアミド類(例えば、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド等)、メタクリルアミド類(例えば、メタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド等)、N−ビニルラクタム類(例えば、N−ビニルピロリドンなど)、N−ビニルアミド類(例えば、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等)、ビニルエーテル類(例えば、ポリアルキレンオキシドを側鎖に有するアリルエーテル類、メチルビニルエーテル等)、ニトリル類(例えば、アクリロニトリル等)、ハロゲン化ビニル化合物(塩化ビニル等)、不飽和ジカルボン酸類(例えば、マレイン酸およびその塩またはその無水物やそのエステル等)などが挙げられる。これらの変性ユニットは、単独でまたは組み合わせて使用できる。このような変性ユニットの導入法は共重合による方法でも、後反応による方法でもよい。
【0045】
ビニルアルコールユニットに対する変性ユニットの割合(モル比)は、(ビニルアルコールユニット)/(変性ユニット)=85/15〜100/0程度、好ましくは88/12〜99/1程度、さらに好ましくは90/10〜98/2程度である。もちろん本発明の効果を損なわない範囲であれば、目的に応じてポリマー中に、難燃剤、酸化防止剤、凍結防止剤、pH調整剤、隠蔽剤、着色剤、油剤、特殊機能剤などの添加剤が含まれていてもよい。なお、これらの添加剤は、単独でまたは組み合わせて含まれていてもよい。
【0046】
導電性PVA系繊維を構成するPVA系ポリマーの重合度は、目的に応じて適宜選択でき特に限定されるものではないが、得られる繊維の機械的特性や寸法安定性等を考慮すると30℃水溶液の粘度から求めた平均重合度が1200〜20000程度(好ましくは1500〜15000程度、さらに好ましくは2000〜10000程度)のものが望ましい。高重合度のものを用いると、強度、耐湿熱性等の点で優れるので好ましいが、ポリマー製造コストや繊維化コストなどの観点から、平均重合度が1500〜5000である場合が多い。
【0047】
また、PVA系ポリマーのケン化度も、目的に応じて適宜選択でき特に限定されるものではないが、得られる繊維の力学物性の点から、例えば、88モル%以上、好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上であってもよい。PVA系ポリマーのケン化度が低すぎると、得られる繊維の機械的特性や工程通過性、製造コストなどの面で好ましくない場合が多い。
【0048】
本発明の導電性PVA系繊維は、公知または慣用の方法により得ることができるが、例えば、硫化銅が内部に微分散した導電性PVA系繊維は、通常のPVA系繊維の製造工程中において、銅イオンを含む化合物を繊維中に含侵させ、その後の工程で銅を硫化処理することにより得ることができる。
【0049】
導電性PVA系繊維を得るためには、まず、PVA系ポリマーを溶媒に溶解した紡糸原液を調製する。
紡糸原液の溶媒としては、各種極性溶媒を用いることができ、例えば、水、有機溶媒[ジメチルスルホキシド(以下、DMSOと称す)などのスルホキシド類;ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどの窒素含有極性溶媒;グリセリン、エチレングリコールなどの多価アルコール類など]、これらとロダン塩、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛などの膨潤性金属塩の混合物などが挙げられる。これらの溶媒は、単独でまたは組み合わせて用いることができる。これらのうち、水やDMSOがコスト、回収性等の工程通過性の点で好適である。
【0050】
紡糸原液中のポリマー濃度は組成、重合度、溶媒によって異なるが、例えば、8〜60重量%程度(好ましくは10〜50重量%程度)であるのが好ましい。紡糸原液の吐出時の液温は、紡糸原液が分解、着色しない範囲であることが好ましく、具体的には50〜200℃とすることが好ましい。
【0051】
得られた紡糸原液は、通常、ノズルからPVA系ポリマーに対して固化能を有する固化液あるいは、気体中に吐出される。紡糸形式としては、湿式紡糸、乾湿式紡糸あるいは乾式紡糸などが挙げられる。なお、湿式紡糸とは、紡糸ノズルから直接固化浴に紡糸原液を吐出する方法のことであり、乾湿式紡糸とは、紡糸ノズルから一旦任意の距離の空気中あるいは不活性ガス中に紡糸原液を吐出し、その後に固化浴に導入する方法のことである。また、乾式紡糸とは、空気中あるいは不活性ガス中に紡糸原液を吐出する方法のことである。
【0052】
本発明において、湿式紡糸または乾湿式紡糸の際に用いる固化浴は、原液溶媒が有機溶媒の場合と水(または水溶液)の場合では異なる。有機溶媒を用いた原液の場合には、得られる繊維強度等の点から固化浴溶媒と原液溶媒からなる混合液であることが好ましく、固化溶媒としては特に制限はないが、例えばメタノール、エタノール、プロパノ−ル、ブタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類等のPVA系ポリマーに対して固化能を有する有機溶媒を用いることができる。これらの中でも低腐食性及び溶剤回収の点でメタノールとDMSOとの組合せが好ましい。一方、紡糸原液が水溶液の場合、固化浴を構成する固化溶媒としては、PVA系ポリマーに対して固化能を有する限り特に限定されず、例えば、硫酸ナトリウム(芒硝)、硫酸アンモニウム、炭酸ナトリウム等の無機塩類の水溶液;水酸化ナトリウム水溶液などを用いることができる。また、PVA系ポリマーと共にホウ酸などを加えた水溶液を、アルカリ性固化浴中にゲル化紡糸することも出来る。
【0053】
次に固化された原糸から紡糸原液の溶媒を抽出除去するために、抽出浴を通過させる。この際、抽出と同時に原糸を湿延伸すると、乾燥時の繊維間の膠着を抑制でき、繊維の機械的特性を向上させる観点から好ましい。その際の湿延伸倍率としては、2〜10倍であることが工程性、生産性の点で好ましい。なお、抽出溶媒としては固化溶媒単独あるいは原液溶媒と固化溶媒の混合液を用いることができる。また、湿延伸された糸は、乾燥後、更に乾熱延伸および熱処理を施してもよい。延伸すると、繊維の結晶化度と配向度があがり、繊維の機械特性が著しく向上できるので好ましい。
【0054】
延伸は、公知または慣用の手段により行うことができ、例えば100℃以上(好ましくは150℃〜260℃程度)で行うことができる。温度が低すぎると、繊維の白化が生じ、そのため機械的物性の低下をもたらす。また温度が高すぎると、繊維の部分的な融解が生じ、この場合においても機械的物性の低下をもたらす。また、延伸倍率としては、3倍以上(好ましくは5〜25倍程度)の全延伸倍率であってもよい。なお、ここでいう全延伸倍率とは、先述した乾燥前の固化浴中での湿延伸と乾燥後の延伸倍率の積である。例えば、湿延伸を3倍とし、その後の乾熱延伸を2倍とした場合の全延伸倍率は6倍となる。
【0055】
導電性PVA系繊維では、上記の湿延伸後の膨潤状態の糸篠、若しくは乾燥または延伸後の糸篠を、銅イオンを含む化合物を溶解した浴を通過させて該化合物を繊維中に含浸させる。この場合、繊維内部への銅イオンを含む化合物を均一に浸透させ、銅イオンとPVA系ポリマーの水酸基とを配位結合させるためには、繊維は浴溶媒により膨潤していることが必要である。そのため、浴に用いる溶媒はメタノール等のアルコール類、水、塩類などの水溶液、あるいはこれらの混合物であることが好ましい。
【0056】
浴溶媒による繊維の膨潤率は20質量%以上(好ましくは30質量%〜300質量%程度、さらに好ましくは50質量%〜250質量%程度)であるのが好ましい。なお、膨潤率調整のため、糸篠を先ず所定の浴に浸漬し、その後、銅イオンを放出する化合物が溶解された浴に浸漬する事が望ましい場合もある。膨潤率が小さすぎると、銅イオンがPVA系ポリマーの水酸基と十分な配位結合を形成できず、従って繊維内部まで硫化銅ナノ微粒子を生成させることができない。一方で、膨潤率が大きくなりすぎた場合、浴へのPVA系ポリマーの溶出などが起こり、工程通過性の面で好ましくない。
【0057】
次にPVA系繊維中で配位結合している銅イオンを硫化還元処理する目的で、硫化物イオンを含む化合物を溶解した浴を通過させる。その場合、硫化物イオンを含む化合物の浴への添加量は、銅イオンの導入量によって必要に応じて適宜設定すればよいが、例えば、1〜100g/L程度(好ましくは10〜90g/L程度、さらに好ましくは20〜80g/L程度)の範囲であってもよい。添加量が少なすぎると、繊維内部の銅イオンまで還元処理が進まない可能性があるので好ましくない。また添加量が多すぎると、PVA系繊維内に含まれる銅イオンを還元処理するに十分な量ではあるが、回収系や臭気問題など工程性の面であまり好ましくない。
【0058】
繊維に含浸された銅イオンを硫化する反応は、特に硫化還元能の大きい化合物を用いた場合は瞬時に起こることから、この場合の滞留時間には特に制限はないが、繊維内部にまで十分硫化還元処理を施すことを目的に、滞留時間は0.1秒以上であることが望ましい。また、先述した銅イオンを含浸させる工程、ここでいう銅イオンを繊維中で硫化析出させる工程にて、特定の周波数の超音波を照射することが、得られる導電性や品質確保において、有利になることもある。
【0059】
さらに、このようにして得られた、繊維中に硫化銅ナノ微粒子を導入された原糸若しくは延伸糸に対し、熱処理を施すことにより、繊維物性を向上できる。熱処理条件は、一般的には100℃以上の温度、好ましくは150℃〜260℃程度の温度で行うのがよい。温度が低すぎると、繊維物性の向上効果が不十分であり、一方、温度が高すぎると繊維の部分的な融解が生じ、この場合においても機械的物性の低下をもたらす。
【0060】
[スペーサ]
シート状の軟質スペーサは、絶縁性であるとともに貫通孔を有し、スペーサの両側にそれぞれ配設された第1および第2の導電性繊維構造体が非接触状態では、これらの導電性繊維構造体間で導通するのを妨げる。そして、センサーが圧縮力を受けると、スペーサの貫通孔を通して第1および第2の導電性繊維構造体が接触し、これらの導電性繊維構造体が導通する。本発明では、導電性繊維構造体に特定の導電性PVA系繊維を用いるため、スペーサとして変形導電性織編物などを用いる必要がない。すなわち、スペーサ内部に導電物体が存在しなくても、導電性繊維構造体間の導通が可能となる。
【0061】
このような軟質スペーサとしては、公知または慣用の方法により貫通孔を設けることができれば特に限定されず、例えば、布帛(例えば、前記導電性繊維構造体の項で例示した絶縁性繊維で形成された布帛)、ゴム、軟質発泡体(例えば、軟質ウレタンフォームなど)などが挙げられる。
【0062】
スペーサを形成するゴムとしては、天然ゴム、合成ゴム(例えば、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム、スチレン/ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレン/プロピレンゴム、シリコーンゴムなど)、熱可塑性エラストマー(TPE)(例えば、スチレン系TPE、オレフィン系TPE、塩化ビニル系TPE、ウレタン系TPE、ポリエステル系TPE、ポリアミド系TPEなど)などが例示できる。これらの軟質スペーサは、圧縮力による導電性繊維構造体の接触を妨げないだけでなく、耐屈曲性にも優れる。これらの軟質スペーサのうち、耐洗濯性を有する観点から、布帛が好ましい。
【0063】
上述したように、布帛は、前記導電性繊維構造体の項で例示した各種絶縁性繊維を用いて形成でき、例えば、絶縁性の観点から、合成繊維(例えば、ポリエステル系繊維、アクリル繊維、ポリオレフィン系繊維など)が好ましい。
【0064】
導電性繊維構造体間の絶縁状態、およびこれらの布帛の接触による導通状態の双方を担保するため、スペーサの貫通孔の大きさ(孔径)は、スペーサ本体の厚みに応じて適宜選択できる。例えば、スペーサの孔径は、0.1mm〜3cm程度、好ましくは0.5mm〜2cm程度、さらに好ましくは1mm〜1cm程度である。スペーサは、通常、複数の貫通孔を有する場合が多い。なお、スペーサが布帛である場合、孔径に代えて、目開きが0.1mm〜1cm程度、好ましくは0.5mm〜5mm程度、さらに好ましくは1mm〜3mm程度の粗目の織編物であってもよい。
【0065】
スペーサの厚みは、導電性繊維構造体間の絶縁状態、およびこれらの繊維構造体の接触による導通状態の双方を担保できる限り特に限定されないが、例えば、0.1mm〜1cm程度、好ましくは0.2mm〜5mm程度、さらに好ましくは0.3mm〜3mm程度であってもよい。
【0066】
さらに、スペーサは、特定の厚みや孔径を有するだけでなく、特定の目付け(単位面積当たりの重さ)を有していてもよく、例えば、布帛の場合、目付けは5〜200g/m程度、好ましくは10〜150g/m程度、さらに好ましくは15〜100g/m程度であってもよく、ゴムの場合、目付けは10〜300g/m程度、好ましくは30〜200g/m程度、さらに好ましくは50〜100g/m程度、軟質発泡体の場合、目付けは5〜200g/m程度、好ましくは10〜150g/m程度、さらに好ましくは30〜100g/m程度であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、実用上十分なセンシング特性と屈曲や洗濯に対する耐久性を兼ね備えたフレキシブルセンサーを安価に提供することが可能であり、例えば、例えば、コンピュータ・OA機器などの電気・電子分野、人工臓器・おむつなどの医療・衛生材料分野、衣類・靴などの被服材料分野、日用品・玩具などの生活関連資材分野、自動車分野、土木資材分野、建設資材分野、産業資材分野、農業・園芸資材分野など、種々の用途で広く使用することができる。
【0068】
特に、本発明のフレキシブルセンサーは、実用上十分なスイッチング特性に加えて柔軟性、通気性、耐屈曲性を兼ね備えているので、人体と接触した時に違和感のないセンサーとして広く展開できる。例えば、テレビなどの電子機器で必要とされるリモコンをこれで作成し衣服に装着したり、電気カーペットで人が座った位置を検知してそこだけを暖める省エネスイッチとして用いたり、車や飛行機の座席シートに組み込んで、着座時に自動的に体位置を調整する装置などに使用することが出来る。また、曲面での使用も可能であることから、玩具(例えば、音や光を出すためのセンサー)やメディカル用途(例えば、心電図、呼吸検出、リハビリセンサー)、スポーツ用途(例えば、歩行分析)などに用いることが出来る。また、小学生などの危険通知システム、IDカードとの併用によるゲートオープン化、運転時の危険通知など、その応用範囲も広い。勿論、これらの他に、通常のスイッチセンシングされている用途には全て使用可能である。
【実施例】
【0069】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は本実施例により何等限定されるものではない。なお、以下の実施例において、繊維の体積固有抵抗値は下記の方法により測定したものを示す。
【0070】
[繊維中の硫化銅微粒子の存在状態]
繊維中の硫化銅微粒子の存在状態について、透過型電子顕微鏡[(株)日立製作所製、H−800NA]を用いて確認した。繊維断面の写真から任意に50個の硫化銅微粒子を選び、その大きさをそれぞれ実測した粒子径の平均値をもって、平均粒子径とした。
【0071】
[繊維の体積固有抵抗値]
繊維を温度105℃で1時間かけて乾燥させ、その後、温度25℃、湿度30%の雰囲気下で24時間以上放置させて調湿した。この繊維から、長さ2cmの繊維試験片を採取し、該試験片の両端間に10Vの電圧をかけて、抵抗値測定機[横河ヒューレットパッカード社製、MULTIMETER]を用いてその時の抵抗値(Ω)を測定した。この抵抗値から、以下の計算式に従い、各試験片の体積固有抵抗値(ρ)を求め、これを25試験片について行い、その平均値を試料の体積固有抵抗値とした。
体積固有抵抗値[(ρ),単位:(Ωcm)]=R×(S/L)
Rは試験片の抵抗値(Ω)、Sは断面積(cm)、Lは長さ(2cm)を示す。なお、試験片の断面積は、繊維を顕微鏡下で観察して算出した。
【0072】
[耐屈曲性試験前後の体積固有抵抗値の変動率]
耐屈曲性試験は、JIS P 8115に準拠して行い、1.5kgfの加重下、1000回試験片を屈曲させた。耐屈曲性試験前後の体積固有抵抗値の変動率は、試験前の体積固有抵抗値をρ(i)、試験後の体積固有抵抗値をρ(a)とし、以下の式に従い算出した。
変動率(%)=[(ρ(a)−ρ(i))/ρ(i)]×100
【0073】
[耐洗濯性試験前後のスイッチング特性]
導電性繊維構造体の耐洗濯性試験をJIS L 0217に準拠して行い、10回洗濯処理後の導電性繊維構造体を用いてフレキシブルセンサーを作製し、そのスイッチング特性を評価した。
○:一方の導電性繊維構造体の面上部を指で押さえて圧縮力を加えると、導電性PVA系繊維が接触しランプが点灯する。また、指を離すとランプは消灯する。
×:一方の導電性繊維構造体の面上部を指で押さえて圧縮力を加え、導電性PVA系繊維が接触しても、ランプは点灯しない。
【0074】
[実施例1]
(1)粘度平均重合度1700、ケン化度99.8モル%のPVAをPVA濃度50重量%となるように水を含水させ、押出し機を通して165℃に加熱し、孔径0.1mm、ホール数200のノズルを通して空気中に乾式紡糸した。巻取り機で160m/分の速度で巻き取った繊維を、200℃の熱風延伸炉中で1.6倍になるように延伸した。
【0075】
(2)得られた繊維を、和光純薬(株)製の硝酸銅を200g/L溶解した50℃の温浴に、滞留時間が240秒になるように導糸し、引き続き、和光純薬(株)製の硫化ナトリウムを50g/L溶解した30℃の温水浴に滞留時間が120秒間になるように導糸した。この工程を2回繰り返した後、洗浄するために25℃の水浴を通し、120℃の熱風乾燥することで導電性PVA系繊維を得た。繊維の断面顕微鏡写真を図5に示した。
【0076】
(3)得られた繊維の外観は良好で糸斑はなく、平均粒子径15nmの硫化銅粒子が繊維の表層や内部に存在しており、導電性PVA繊維の体積固有抵抗値は5.0×10Ωcmであった。また、繊維の耐屈曲性試験前後の体積固有抵抗値の変動率は、22%(耐屈曲試験前:5.0×10Ωcm、耐屈曲試験後:6.1×10Ωcm)であった。
【0077】
(4)導電性繊維構造体は、以下のようにして調製した。すなわち、緯糸として、まず、上記(3)で得られた導電性PVA系繊維(繊度:1800dtex/32f)とポリエステル長繊維ヒーター加工糸(繊度:334dtex/96f)を用いて、PVA繊維−ポリエステル繊維−ポリエステル繊維の順番で6回繰り返して緯打ちし約1cmの幅となし、ついでPVA系繊維をポリエステル長繊維ヒーター加工糸(繊度:1002dtex/192f)で置き換えて7回繰り返して緯打ちし約1cmの幅となし、これらの緯打ちを繰り返した。そして、経糸として、ポリエステル長繊維延伸糸(繊度:167dtex/48f)をZ方向に800回/mで撚糸したものを用い、PVA繊維とポリエステル繊維とが交互に存在する部分(導電帯)と、ポリエステル繊維のみで構成される部分が約1cm間隔の縞柄となって存在する厚さ0.4mmの平織物を作製した。なお、二つの繊維が交互に存在する部分のPVA繊維(繊度:1800dtex/32f)1本が占める幅は0.7〜1.0mm、ポリエステル長繊維ヒーター加工糸(繊度:334dtex/96f)2本が占める幅は0.8〜1.1mmであった。
【0078】
(5)また、スペーサとして、ポリエステル繊維(繊度:84dtex/36f)からなる経編パワーネットメッシュ(目開き:長辺1.5mm×短辺1.0mm;厚み:0.4mm;目付け:75g/m)を用意した。
【0079】
(6)これら二枚の導電性繊維構造体を、スペーサーの両側に配置して重ね合わせ、導電繊維構造体の一端にそれぞれ端子を設け、フレキシブルセンサーを作製した。なお、導電性繊維構造体の端子は、電源および検出装置に接続されている。得られたセンサーにおいて、一方の導電性繊維構造体の面上部を指で押さえ、圧縮力を加えたところ、双方の導電性繊維構造体がスペーサを貫通して接触し、ランプが点灯した。指を離すとランプは消灯した。
【0080】
(7)さらに、上記の導電性繊維構造体の耐洗濯性試験をJIS L 0217に準拠して行い、洗濯処理後の導電性繊維構造体を用いてフレキシブルセンサーを作製した。すると、フレキシブルセンサーは、洗濯処理後の導電性繊維構造体を用いても良好なスイッチング特性を示し、一方の導電性繊維構造体の面上部を指で押さえ、圧縮力を加えたところ、導電性PVA系繊維が接触し、ランプが点灯した。指を離すとランプは消灯した。
【0081】
[比較例1]
(1)導電性PVA系繊維に代えて、金属メッキ繊維[日本蚕毛染色社製、サンダーロン(登録商標)フィラメント]を用いた以外は、実施例1と同じ方法でフレキシブルセンサーを作製した。得られたフレキシブルセンサーでは、二枚の導電性繊維構造体が接触すると検出装置のランプが点灯し、二枚の導電性繊維構造体が離れると検出装置のランプは消灯した。
(2)なお、前記金属メッキ繊維の初期の体積固有抵抗値は3.0×10Ωcmであり、繊維の耐屈曲性試験前後の体積固有抵抗値の変動率は、266566%(耐屈曲試験前:3.0×10Ωcm、耐屈曲試験後:8.0×10Ωcm)であった。
(3)さらに、金属メッキ繊維で形成された導電性繊維構造体の耐洗濯性試験をJIS L 0217に準拠して行い、洗濯処理後の導電性繊維構造体を用いてフレキシブルセンサーを作製した。すると、このフレキシブルセンサーを指で抑えてもランプは点灯しなかった。
【0082】
【表1】

【0083】
表1の結果から明らかなように、実施例1の導電性PVA繊維を用いたフレキシブルセンサーは、優れたセンシング特性と耐久性を示す。一方、比較例1の金属メッキ繊維を用いたフレキシブルセンサーは、耐屈曲性に劣るとともに、耐洗濯性にも劣るため、繰り返し使用や洗濯による耐久性が不十分である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明のフレキシブルセンサーの一例を示す分解斜視図である。
【図2】本発明のフレキシブルセンサーの他の例を示す分解斜視図である。
【図3】図2で用いられた導電性繊維構造体の拡大図である。
【図4】本発明のさらに別の例のフレキシブルセンサーを示す分解斜視図である。
【図5】実施例1で用いられた導電性PVA繊維において、硫化銅ナノ微粒子が分散している状態を示す顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の軟質スペーサと、このスペーサを挟んで両側にそれぞれ配設された第1および第2の導電性繊維構造体とを備え、前記スペーサは絶縁性であるとともに貫通孔を有し、前記導電性繊維構造体は、導電性微粒子を含有する導電性ポリビニルアルコール系繊維を含み、前記第1または第2の導電性繊維構造体の機械的変形によって前記第1および第2の導電性繊維構造体がスペーサを貫通して接触することにより導通するフレキシブルセンサー。
【請求項2】
導電性微粒子が、平均粒子径500nm以下の硫化銅微粒子であり、且つ硫化銅微粒子がポリビニルアルコール系繊維の表層および/または内部に存在している請求項1に記載のフレキシブルセンサー。
【請求項3】
導電性ポリビニルアルコール系繊維の体積固有抵抗値が1×10〜1×10−2Ω・cmであり、且つJIS P 8115に準拠した耐屈曲性試験(荷重1.5kgf;1000回)を行う前後の体積固有抵抗値に関して、導電性ポリビニルアルコール系繊維の体積固有抵抗値の変動率が50%以内である請求項1または2に記載のフレキシブルセンサー。
【請求項4】
スペーサが、布帛である請求項1〜3のいずれか1項に記載のフレキシブルセンサー。
【請求項5】
スペーサの目付けが、5〜100g/mである請求項4に記載のフレキシブルセンサー。
【請求項6】
第1および第2の導電性繊維構造体のそれぞれが、絶縁性のシート状基材に取り付けられている請求項1〜5のいずれか1項に記載のフレキシブルセンサー。
【請求項7】
第1および第2の導電性繊維構造体のそれぞれが、複数の細長い第1および第2の導電帯であり、複数の第1の導電帯は互いに平行に配設され、複数の第2の導電帯は互いに平行に配設され、かつ第1および第2の導電帯の長手方向が交差している請求項1〜6のいずれか1項に記載のフレキシブルセンサー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−210557(P2008−210557A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−43921(P2007−43921)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(506122327)公立大学法人大阪市立大学 (122)
【出願人】(507213983)
【Fターム(参考)】