フレキシブルフラットケーブルおよびフレキシブルフラットケーブル用導体の製造方法
【課題】フレキシブルフラットケーブルにおいて、導体表面でのウイスカの発生を確実かつ大幅に抑制することを目的とする。
【解決手段】本発明のフレキシブルフラットケーブルは、Cu(銅)の基材10上にCu3Sn1(銅−錫系)の合金層11が形成されているとともに、当該合金層11上にCu6Sn5(銅−錫系)の合金層12が形成されている導体を有する。これにより、導体表面の硬度が高くなって当該導体表面の応力変形が軽減され、導体表面でのウイスカの発生が確実かつ大幅に抑制される。
【解決手段】本発明のフレキシブルフラットケーブルは、Cu(銅)の基材10上にCu3Sn1(銅−錫系)の合金層11が形成されているとともに、当該合金層11上にCu6Sn5(銅−錫系)の合金層12が形成されている導体を有する。これにより、導体表面の硬度が高くなって当該導体表面の応力変形が軽減され、導体表面でのウイスカの発生が確実かつ大幅に抑制される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルフラットケーブルおよびフレキシブルフラットケーブル用導体の製造方法に関し、特にウイスカ(針状単結晶)の発生を抑制するための対策に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、デジタルカメラ、プリンタ、携帯電話機、パソコン等の各種外部記憶装置(CD−ROMドライブ、DVD−ROMドライブ等)などの各種電子機器の内部配線材として、フレキシブルフラットケーブル(以下、FFCという)が用いられている。
【0003】
このFFCは、上記電子機器のプリント基板間の接続などに使用される。具体的には、たとえば、FFCの両端部において露出した導体(線材)を、プリント基板に取り付けられる嵌合型コネクタの端子部(コンタクト)に挿入し、その後、コネクタのロック機構部を閉じることで、コネクタの端子部の先端部(接点部)がFFCの導体に接触する。
【0004】
コネクタの端子部およびFFCの導体は、従来、接続性能を向上させるためにその表面に金属メッキたとえば錫−鉛合金(Sn−Pb)メッキが施されていた。ところが、近年、環境上の問題から、Pbフリー(非鉛)化の要求が高まってきたのに伴って、コネクタの端子部およびFFCの導体には、錫(Sn)メッキが施されるようになってきた。
【0005】
しかし、このPbフリー(非鉛)化に伴い、FFCの導体とコネクタの端子部とが接触された状態においては、コネクタの端子部にウイスカ(針状単結晶)が発生する場合がある。つまり、Pbフリー化はウイスカ発生の原因となっていた。なお、ウイスカは、メッキ被膜表面に発生したヒゲ状の結晶生成物であり、導体間の短絡事故を発生させる原因となる。
【0006】
このウイスカの発生を抑制する対策として、コネクタメーカにおいては、コネクタの端子部に、リフロー、ビスマス(Sn−Bi)メッキ、銀(Ag)メッキ、錫−銅(Sn−Cu)メッキなどの各種対策処理を施した。
【0007】
これにより、コネクタの端子部表面が硬くなり(硬度が高くなり)コネクタ側でのウイスカの発生は抑制されるようになったものの、FFC側からウイスカが発生するようになった。
【0008】
これは、Snメッキが施されたFFCの導体の表面は、ウイスカ発生の対策として各種対策処理を施したコネクタの端子部の表面よりも柔らかいため(硬度が小さいため)、FFCの導体のSnメッキ層にコネクタの端子部からの圧縮応力が加わり、FFCの導体のSnメッキ層の「変形や盛り上がり」などによりウイスカが発生する、ものと考えられている。このようなFFC側におけるウイスカの発生を抑制する対策が求められている。
【0009】
なお、ウイスカの発生を抑制する対策を施したものとしては、特許文献1に記載されているもFFCおよびその製造方法が知られている。
【0010】
この特許文献1には、圧延された導線素材上に錫合金メッキを施し、この錫合金メッキ導線素材を200℃程度まで加熱処理を実行し、さらに、前記加熱処理された錫合金メッキ導線素材が加工処理された後の当該加工材つまり複数の導体と絶縁材とから成るメッキ導体部ユニットに対し、180〜250℃程度までアニールによる加熱処理を実行することにより、錫合金メッキ表面の結晶粒子が細かくなり、ウイスカの発生を抑制させることが開示されている。
【特許文献1】特許第3675471号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1には、錫合金メッキ導線素材(導体)を有するメッキ導体部ユニットに対し最大250℃程度までアニールによる2回目の加熱処理が実行される旨が記載されているものの、錫合金メッキのメッキ厚が記載されておらず、また示唆もされていない。
【0012】
そのため、特許文献1のものでは、錫合金メッキのメッキ厚は、当業者にとって一般的な厚みである1.5μm以上であるものと考えられる。
【0013】
そして、例えばメッキ厚1.5μmの錫合金メッキが施された錫合金メッキ導線素材(導体)を有するメッキ導体部ユニットに対し2回目の加熱処理が実施されたとしても、錫合金メッキ層が1.5μm存在するので、当該導体表面の硬さは増加しない。つまり導体表面の硬度は高くならない。
【0014】
したがって、FFCをコネクタに嵌合させたときに、メッキ導体部ユニットを構成する錫合金メッキ導線素材(導体)のコネクタの端子部との接触部(嵌合部)に、コネクタの端子部より圧縮応力が加わった場合は、当該錫合金メッキ層に「変形や盛り上がり」が生じ、つまり応力の影響により転位現象が発生し、これによりウイスカが発生する。
【0015】
すなわち、特許文献1では、確実にFFC側におけるウイスカの発生を抑制することができないという問題がある。
【0016】
そこで、本発明は、導体表面でのウイスカの発生を確実かつ大幅に抑制することのできるフレキシブルフラットケーブルおよびフレキシブルフラットケーブル用導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の本発明のフレキシブルフラットケーブルは、Cu(銅)で形成された基材上にCu3Sn1(銅−錫系)の合金層が形成されているとともに、当該合金層上にCu6Sn5(銅−錫系)の合金層が形成されている導体を有することを特徴とする。
【0018】
これにより、基材上に2層の合金層(銅−錫系の合金層)が形成されている導体は、当該導体表面の硬度が高くなっているので、当該導体表面の応力変形が軽減され、導体表面でのウイスカの発生を確実かつ大幅に抑制することができる。
【0019】
上記課題を解決するため、請求項2に記載の本発明のフレキシブルフラットケーブル用導体の製造方法は、請求項1記載のフレキシブルフラットケーブルに使用される導体の製造方法であって、Cu(銅)で形成された基材の周囲にSn(錫)メッキが施された当該基材に対し第1の温度で焼鈍処理を行う第1の工程と、前記焼鈍処理された基材に対し、当該基材上にCu3Sn1(銅−錫系)の合金層が形成されるとともに当該合金層上にCu6Sn5(銅−錫系)の合金層が形成されるべく第2の温度で焼鈍処理を行う第2の工程と、を含むことを特徴とする。
【0020】
このように、導体に対し第1の工程による焼鈍処理および第2の工程による焼鈍処理の2回の焼鈍処理が行われることに起因してSnメッキ下部よりCu3Sn1の合金層とCu6Sn5の合金層が拡散生成される、すなわち基材上にCu3Sn1の合金層が生成され、さらにこの合金層上にCu6Sn5の合金層が拡散生成されることで、当該導体表面の硬度が高くなるので、当該導体表面の応力変形を軽減することができる。また、このように導体に対し2回の焼鈍処理が行われることに起因してCu3Sn1の合金層およびCu6Sn5の合金層が拡散生成されることによりSnメッキつまりSn層の薄膜化が進行するので、より一層、導体表面の硬度が高くなり、より一層、導体表面の応力変形を軽減することができる。しかも、Snが結晶粒成長して結晶が大きく導体表面が均一になるので、導体表面の応力変形を軽減することができる。このように、導体に対し2回の焼鈍処理が行われることに起因して、拡散生成される2層の合金層により導体表面の硬度が高くなるとともにSn層の薄膜化により導体表面の硬度が高くなり、さらにSnの結晶粒成長により結晶が大きく導体表面が均一になることにより、導体表面の応力変形が軽減され、導体表面でのウイスカの発生を確実かつ大幅に抑制することができる。
【0021】
請求項3に記載の本発明は、請求項2に記載の発明の構成に加えて、前記Sn(錫)メッキのメッキ厚は0.7μmであることを特徴とする。
【0022】
このように、導体に対し2回の焼鈍処理が行われることに起因してCu3Sn1の合金層およびCu6Sn5の合金層が拡散生成され、しかも2層の合金層が拡散生成されることにより、メッキ厚が0.7μmのSnメッキの薄膜化つまりSn層の薄膜化が進行したときは、Sn層は0.7μm未満の厚さになるので、より一層、導体表面の硬度が高くなり、より一層、導体表面の応力変形を軽減することができ、導体表面でのウイスカの発生を確実かつ大幅に抑制することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、基材上に2層の合金層(銅−錫系の合金層)が形成されている導体は、当該導体表面の硬度が高くなっているので、当該導体表面の応力変形が軽減され、導体表面でのウイスカの発生を確実かつ大幅に抑制することができるという有効な効果が得られる。
【0024】
また、本発明によれば、導体に対し2回の焼鈍処理が行われることに起因してCu3Sn1の合金層およびCu6Sn5の合金層が拡散生成されるので、導体表面の硬度が高くなり、しかも2層の合金層が拡散生成されることによりSnメッキの薄膜化つまりSn層の薄膜化が進行して、より一層、導体表面の硬度が高くなるので、確実に導体表面の応力変形を軽減することができ、導体表面でのウイスカの発生を確実かつ大幅に抑制することができるという有効な効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照しつつさらに具体的に説明する。ここで、添付図面において同一の部材には同一の符号を付しており、また、重複した説明は省略されている。なお、ここでの説明は本発明が実施される最良の形態であることから、本発明は当該形態に限定されるものではない。
【0026】
(実施の形態)
【0027】
図1は本発明に係るFFC用導体を説明する図、図2は本発明に係るFFC用導体の製造手順を示す工程図、図3は本実施の形態に係るFFCを説明する図、図4は本発明に係るFFC用導体の断面を透過型電子顕微鏡により観察した結果の写真を示す図、図5は本発明に係るFFC用導体の表面を電子顕微鏡により観察した結果の写真を示す図、図6は比較例のFFC用導体の断面を透過型電子顕微鏡により観察した結果の写真を示す図、図7は比較例のFFC用導体の表面を電子顕微鏡により観察した結果の写真を示す図、図8は本発明に係るFFC用導体を有するFFCを所定のコネクタに嵌合させた後の当該FFC用導体の接点部(嵌合部)を金属顕微鏡により観察した結果の写真を示す図、図9は比較例のFFC用導体を有するFFCを所定のコネクタに嵌合させた後の当該FFC用導体の接点部(嵌合部)を金属顕微鏡により観察した結果の写真を示す図、図10は本発明に係るFFC用導体を有するFFCを所定のコネクタに嵌合した場合の接点部(嵌合部)におけるウイスカの抑制を説明する図、図11は従来のFFC用導体を有するFFCを所定のコネクタに嵌合した場合の接点部(嵌合部)におけるウイスカの発生を説明する図である。
【0028】
本発明の実施の形態に係るフレキシブルフラットケーブル(FFC)に使用される導体(導線)について、図1を参照して説明する。
【0029】
なお、図1(a)はFFCに使用される導体(以下、FFC用導体という)1の概略を示す斜視図、図1(b)は図1(a)の要部Aを拡大した断面図である。
【0030】
FFC用導体1は、図1(a)に示すように平角軟銅線(Cu)の材質で形成された基材(平角導体)10を有しており、しかも、図1(b)に示すように、Cu(銅)の基材(平角導体)10上にCu3Sn1(銅−錫系)の第1の合金層11が形成されているとともに、当該第1の合金層11上にCu6Sn5(銅−錫系)の第2の合金層12が形成され、さらに第2の合金層12上に純Sn(錫)の表面層13が形成されている。
【0031】
なお、本実施の形態では、第1の合金層11、第2の合金層12および表面層13の合計の厚さDは0.7μmに設定されている。この厚さD0.7μmは、後述するSnメッキ膜のメッキ厚(0.7μm)に相当する。
【0032】
このFFC導体1の製造方法について、図2を参照して説明する。なお、図2は、FFC導体1の製造手順を示す工程図である。
【0033】
最初に、Cu(銅)で形成された線材の周囲に、所定のメッキ厚のSn(錫)メッキ膜を電気メッキにより形成する(ステップS10)。ここでは、Snメッキ膜のメッキ厚は0.7μmに設定され、コクール法(電解式メッキ膜厚測定)により管理される。
【0034】
本実施の形態においてSnメッキ膜のメッキ厚を0.7μmに設定するのは次の理由からである。すなわち、ウイスカ抑制を基準にメッキ厚を選定すると、メッキ厚は薄い場合の方が厚い場合よりも有利であり、具体的には0.5μm以下が望ましい。一方、コネクタとの嵌合特性(接触信頼性)を基準にメッキ厚を選定すると、メッキ厚は厚い場合の方が薄い場合よりも有利であり、具体的には0.5μm超が望ましい。そこで、本実施の形態では、ウイスカ抑制および接触信頼性の両者を考慮(特に接触信頼性を考慮)するとともにメッキ厚の公差を考慮して、Snメッキのメッキ厚を0.7μmに設定するようにしている。
【0035】
なお、本明細書において、Snメッキとは、純Snメッキ、Snを含む合金(Sn合金)メッキを含むものである。ただし、以降の説明においては、Snメッキは純Snメッキとする。
【0036】
メッキ厚0.7μmの純Snメッキが施されたCuの線材に対し圧延処理(圧延加工)を施し(ステップS20)、平角導体つまり基材10を形成する。
【0037】
次に、この基材(平角導体)10に対し第1の温度で焼鈍処理(1回目の焼鈍処理)を行う(ステップS30)。この1回目の焼鈍処理においては、基材10を400〜500℃の温度で0.1〜0.3sec(秒)の時間だけ加熱し、この加熱時間が終了した後、基材10を水中で冷やすなど急冷する。このような焼鈍処理を行うことにより、基材の元となる硬度化銅線を軟銅化させ、平角軟銅線の材質で形成された基材(平角導体)10を形成することができる。
【0038】
そして、1回目の焼鈍処理が施された基材10に対し、図1(b)に示すように、当該基材10上にCu3Sn1(銅−錫系)の第1の合金層11が形成されるとともに当該第1の合金層11上にCu6Sn5(銅−錫系)の第2の合金層12が形成されるべく第2の温度で焼鈍処理(2回目の焼鈍処理)を行う(ステップS40)。
【0039】
この2回目の焼鈍処理においては、基材10を270〜280℃の温度で5〜10sec(秒)の時間だけ加熱し、この加熱時間が終了した後、基材10を自然冷却するなど徐冷する。
【0040】
なお、本実施の形態では、第2回目の焼鈍処理は温度270〜280℃および時間5〜10secに基づいて実施するようにしているが、これら加熱温度および加熱時間は例示に過ぎず、上記第1の合金層11と上記第2の合金層12とが拡散生成される条件を満足する加熱温度および加熱時間を採用することができる。例えば、加熱温度260℃で加熱時間20secに設定することも可能である。
【0041】
上述したように、本実施の形態においては、Sn(錫)メッキが施されたCu(銅)の基材つまり導体に対し、第1の工程(ステップS30)による焼鈍処理および第2の工程による焼鈍処理(ステップS40)の2回の焼鈍処理を行うことになる。
【0042】
このように、基材10に対し2回の焼鈍処理が行われることに起因して、図1(b)に示したように、純Snメッキ下部よりCu3Sn1の第1の合金層11とCu6Sn5の第2の合金層12が拡散生成される、すなわち基材10上に第1の合金層(Cu3Sn1)が生成され、さらにこの第1の合金層11上に第2の合金層(Cu6Sn5)が拡散生成される。そのため2層の合金層11,12によって、FFC用導体1の表面硬度が高くなり、FFC用導体1の表面(導体表面)の応力変形を軽減することができる。
【0043】
また、上述したようにして2層の合金層11,12が拡散生成されることにより、純Snメッキ膜(Sn層)の薄膜化が進行し、表面層13が形成される。そのため、薄膜化した純Snメッキ膜つまり表面層13によって、FFC用導体1の表面硬度が高くなり、より一層、FFC用導体1の表面(導体表面)の応力変形を軽減することができる。
【0044】
さらに、純Snが結晶粒成長してSnの結晶が大きくなり、FFC用導体1の導体表面つまり表面層13の表面が均一になるので、FFC用導体1の表面(導体表面)の応力変形を軽減することができる。
【0045】
上述したように、本実施の形態においては、基材10に対し2回の焼鈍処理が行われることに起因して、拡散生成される2層の合金層11,12によりFFC用導体1の表面の硬度が高くなるとともに薄膜化される純Snメッキ膜(Sn層)つまり表面層13の表面(FFC用導体1の表面)の硬度が高くなり、さらに純Snが結晶粒成長して結晶が大きくFFC用導体1の表面が均一になることにより、FFC用導体1の導体表面の応力変形が軽減され、当該導体表面でのウイスカの発生を確実かつ大幅に抑制することができる。
【0046】
次に、本発明の実施の形態に係るFFCについて、図3を参照して説明する。なお、図3(a)は片面導体露出タイプのFFCの平面図を示し、図3(b)は図3(a)のB−B断面図を示している。
【0047】
図3(a)、(b)において、FFCは、複数の導体1と、これら各導体1を被覆する絶縁シート(絶縁体)2と、補強テープ3とを有している。
【0048】
複数の導体1は、図2に示した製造手順で作製(製造)された導体であり、所定長Lのサイズに設定され、所定の間隔をもって並設されている。
【0049】
2枚の絶縁シート(絶縁体)2は、所定長の複数の導体1の両端部から所定の長さd分だけ当該各導体1が露出されるべく長さ(L−2d)に設定されている。
【0050】
このような2枚の絶縁シート2間に、複数の導体1を両端部から所定の長さd分だけ導体が露出するように介在させ、さらに2枚の絶縁シート2を加熱融着して一体化させた。すなわち、複数の導体1においては、所定の長さdの導体以外の部分は、表面および裏面の絶縁シート2によって被覆されている。絶縁シート4としては、例えばポリエステル系樹脂があげられる。
【0051】
そして、FFCの両端部の表面(一方の面)側は導体1が露出されている。FFCの両端部の裏面(他方の面)は、補強テープ4が貼り付けら、この補強テープ3によって被覆されている。すなわち、このFFCにおいては、両端部の片面のみに導体露出部が設けられている。
【実施例】
【0052】
1:実施例に係るFFC用導体
【0053】
本実施例では、メッキ材質=純Sn、メッキ厚=0.7μm(コクール法)、メッキ方法=電気メッキ、1回目の焼鈍処理においては加熱温度=400〜500℃、加熱時間=0.1〜0.3sec、冷却方法=急冷、2回目の焼鈍処理においては加熱温度=270〜280℃、加熱時間=5〜10sec、冷却方法=徐冷、の各条件の下で、上述した図2に示した導体の製造手順の工程に従って導体(FFC用導体1)を製造した。この実施例に係るFFC用導体1の表面硬度は、ウイスカ抑制効果が得られる100以上、多くは150〜230であった。
【0054】
このようにして製造された導体の断面を透過型電子顕微鏡を用いて21000倍の倍率で撮影した。この撮影結果である写真を、図4(a)に示す。また、図4(a)に示す写真内容と同一の写真であって、図4(a)の写真に対し当該各合金層、Sn(スズ)層(表面層)の範囲を明確に表した様子を、図4(b)に示す。
【0055】
図4(a)、(b)に示すように、基材(Cu)10上にCu3Sn1の第1の合金層11が形成され、この第1の合金層11上にCu6Sn5の第2の合金層12が形成されている。さらに第2の合金層12上にSn層つまり表面層13が形成されている。図4(a)、(b)に示す構造は、図1(b)に示した導体の断面の構造に対応する。
【0056】
なお、図4(a)、(b)からは、Sn層としての表面層13は表面に均一に形成されるとは限らず、図4(b)に示すように、符号15で示される部分においては、Sn層は存在しておらず、Cu6Sn5の第2の合金層12の表面が存在していることが分かる。
【0057】
これは、純Snメッキが施された基材10に対し2回の焼鈍処理が行われることに起因して、純Snメッキの下部よりCuと純Snの合金層であるCu3Sn1およびCu6Sn5が拡散生成されることにより、Sn層(純Snメッキ)の薄膜化が進行し、場合によってはSn層が存在しない領域も存在するからである。
【0058】
次に、上述したようにして製造されたFFC用導体1の表面を電子顕微鏡を用いて20000倍の倍率で撮影した。この撮影結果である写真を、図5に示す。
【0059】
基材(平角導体)10に対し2回の焼鈍処理を施し、しかも2回目の焼鈍処理のときは徐冷するため、FFC用導体1の表面のSnが結晶粒成長することにより、図5に示すようにSn層の結晶が大きく、しかもFFC用導体(Sn層)の表面は均一となる。
【0060】
2:比較例(従来のFFC用導体)
【0061】
(比較例1)
【0062】
メッキ材質=純Sn、メッキ厚=1.5μm(コクール法)、メッキ方法=電気メッキ、1回目の焼鈍処理においては加熱温度=400〜500℃、加熱時間=0.1〜0.3sec、冷却方法=急冷、の各条件の下で、導体(FFC用導体)を製造した。つまり、前記各条件の下で、従来のFFC用導体の製造手順(これは図2にs目下製造手順のステップS10〜S30に相当)を実行した。この場合、焼鈍処理は1回のみである。この従来のFFC用導体の表面硬度は30〜40であった。
【0063】
このようにして製造された従来のFFC用導体の断面を透過型電子顕微鏡を用いて21000倍の倍率で撮影した。この撮影結果である写真を、図6(a)に示す。また、図6(a)に示す写真内容と同一の写真であって、図6(a)の写真に対し当該合金層、Sn層(表面層)の範囲を明確に表した様子を、図6(b)に示す。
【0064】
図6(a)、(b)に示すように、基材(Cu)10上にCu6Sn5の合金層16が形成され、さらに合金層16上にSn層としての表面層17が形成されている。
【0065】
なお、図6(a)、(b)からは、合金層16は層分けされた状態ではなく不均一な状態で形成され、Sn層つまり表面層17が明確に存在していることが分かる。すなわち、加熱温度400〜500℃で加熱された導体が急冷されるので、合金層16は層分けされることなく不均一な状態で存在する。
【0066】
次に、上述したようにして製造された従来のFFC用導体の表面を電子顕微鏡を用いて20000倍の倍率で撮影した。この撮影結果である写真を、図7に示す。
【0067】
基材(平角導体)10に対し1回の焼鈍処理を施し、急冷するため、FFC用導体の表面は、図7に示すようにSn層の結晶が小さく荒れた状態で、FFC用導体(Sn層)の表面は不均一となる。
(比較例2)
【0068】
上記比較例1における上記各条件のうちメッキ厚を0.7μmに変更してFFC用導体を作製した(1回の焼鈍処理)。この場合のFFC用導体の表面硬度は70〜80であり、Sn層の結晶が小さく荒れた状態で、FFC用導体(Sn層)の表面は不均一であった。
(比較例3)
【0069】
上記実施例1における上記各条件のうちメッキ厚を1.5μmに変更してFFC用導体を作製した(2回の焼鈍処理)。この場合のFFC用導体の表面硬度は、実施例1の場合の多くが150〜230であるのに対し、70〜80であった。また、Sn層の結晶が小さく荒れた状態で、FFC用導体(Sn層)の表面は不均一であった。この場合は、上記特許文献1の導体に対応するものである。
【0070】
3:FFC用導体におけるウイスカの抑制効果の比較
【0071】
次に、本実施例に係るFFC用導体つまり本発明に係るFFC用導体の製造方法により製造されたFFC用導体(2回の焼鈍処理を施した導体)と、従来のFFC用導体(比較例)つまり従来技術のFFC用導体の製造方法により製造されたFFC用導体との、ウイスカの抑制効果を比較した。
【0072】
つまり、本発明に係るFFC用導体を有するFFC、従来技術のFFC用導体を有するFFCの何れの場合においても、30芯数(極)のFFC用導体を有する2個のFFCを所定のコネクタに嵌合し、接点部(嵌合部)をランダムに6箇所、金属顕微鏡で観察し、撮影した。
【0073】
本発明に係るFFC用導体の接点部(嵌合部)を金属顕微鏡により観察した結果の写真を、図8に示す。この図8において、上段3枚、下段3枚の合計6枚の写真のうち、上段における左の写真は接点部を200倍の倍率で撮影し、他の5枚の写真は接点部を500倍の倍率で撮影したものである。
【0074】
同図8を参照して明らかなように、メッキ厚0.7μmの純Snメッキが施された基材に対し2回の焼鈍処理を実施した場合は、6箇所の接点部全てにおいてウイスカは発生していない。換言すれば、本発明に係るFFC用導体を有するFFCを採用した場合は、ウイスカの発生を大幅に抑制(低減)することができると言える。
【0075】
これに対し、比較例1のFFC用導体(メッキ厚1.5μmの場合)を金属顕微鏡により観察した結果の写真を、図9に示す。この図9において、上段3枚、下段3枚の合計6枚の写真のうち、上段における左および真中の2枚の写真は接点部を200倍の倍率で撮影し、他の4枚の写真は接点部を500倍の倍率で撮影したものである。
【0076】
同図9を参照して明らかなように、メッキ厚1.5μmの純Snメッキが施された基材に対し1回の焼鈍処理を実施した場合は、6箇所の接点部全てにおいてウイスカ(図9中矢印で示されるヒゲ状の部分)が発生している。ちなみに、上段における左の写真においては130μmの長さのウイスカが発生しているのが確認でき、また、下段における左の写真においては50μmの長さのウイスカが発生しているのが確認できる。
【0077】
4:ウイスカ抑制の仕組み
【0078】
図10は、本発明に係るFFC用導体を有するFFCを所定のコネクタに嵌合した場合の接点部(嵌合部)のウイスカ抑制を説明する図を示している。
【0079】
なお、図10において、銅層は図1(b)の基材10に対応し、合金層Cu3Sn1は図1(b)の第1の合金層11に対応し、合金層Cu6Sn5は図1(b)の第2の合金層12に対応し、スズ層は図1(b)の表面層13に対応する。
【0080】
本発明に係るFFC用導体からのウイスカ発生を大幅に抑制できるのは、次の理由からである。
【0081】
(1)図10に示すように、Sn層(スズ層)が薄膜化しているため、FFC用導体のSn層(Snメッキ層)にコネクタの端子より圧縮応力が加わり、当該Sn層の「変形や盛り上がり」が生じても、Snの転位現象が生じたとしても、純Snの絶対量が少ないためウイスカの発生が低減され大幅に抑制される。
【0082】
(2)また、図10に示すように、Snメッキのメッキ厚を0.7μmとし、従来の場合のメッキ厚1.5μmと比較して薄くしているため、下地のCuの基材の硬さおよび2つの合金層(Cu3Sn1、Cu6Sn5)の硬さがSn層側へ伝達されやすくなり、Sn層表面の硬度が高くなる。そのため、Sn層(Snメッキ)の応力変形が軽減され、応力ウイスカの発生が抑制される。
【0083】
すなわち、上記(1)の理由によるウイスカ抑制効果と上記(2)の理由によるウイスカ抑制効果とが相まって、より一層、ウイスカの発生が抑制される。
【0084】
図11は、上記比較例1のFFC用導体(メッキ厚1.5μm、1回の焼鈍処理の場合)を有するFFCを所定のコネクタに嵌合した場合の接点部(嵌合部)において、ウイスカが発生する様子を説明する図を示している。
【0085】
上記比較例1のものにおいては、図11に示すように、Snメッキのメッキ厚が1.5μmで、本実施例の場合のメッキ厚0.7μmと比較して厚いため、FFC用導体のSn層(Snメッキ層)にコネクタの端子より圧縮応力が加わった場合には、当該Sn層の「変形や盛り上がり」が生じ、つまり応力の影響により転位現象が発生し、これによりウイスカが発生する。
【0086】
また、上記比較例2および上記比較例3のものも、上記比較例1の場合と同様の現象により、ウイスカが発生する。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、片面導体露出タイプのFFCに加えて、FFCの一方の端部では導体の表面が露出し、他方の端部では導体の裏面が露出しているタイプのFFCにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明に係るFFC用導体を説明する図である。
【図2】本発明に係るFFC用導体の製造手順を示す工程図である。
【図3】本実施の形態に係るFFCを説明する図である。
【図4】本発明に係るFFC用導体の断面を透過型電子顕微鏡により観察した結果の写真を示す図である。
【図5】本発明に係るFFC用導体の表面を電子顕微鏡により観察した結果の写真を示す図である。
【図6】比較例のFFC用導体の断面を透過型電子顕微鏡により観察した結果の写真を示す図である。
【図7】比較例のFFC用導体の表面を電子顕微鏡により観察した結果の写真を示す図である。
【図8】本発明に係るFFC用導体を有するFFCを所定のコネクタに嵌合させた後の当該FFC用導体の接点部(嵌合部)を金属顕微鏡により観察した結果の写真を示す図である。
【図9】比較例のFFC用導体を有するFFCを所定のコネクタに嵌合させた後の当該FFC用導体の接点部(嵌合部)を金属顕微鏡により観察した結果の写真を示す図である。
【図10】本発明に係るFFC用導体を有するFFCを所定のコネクタに嵌合した場合の接点部(嵌合部)におけるウイスカの抑制を説明する図である。
【図11】従来のFFC用導体を有するFFCを所定のコネクタに嵌合した場合の接点部(嵌合部)におけるウイスカの発生を説明する図である。
【符号の説明】
【0089】
1 フレキシブルフラットケーブル(FFC)用導体
2 絶縁シート
3 補強テープ
10 基材(Cu)
11 第1の合金層(Cu3Sn1)
12 第2の合金層(Cu6Sn5)
13 表面層(Sn層)
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルフラットケーブルおよびフレキシブルフラットケーブル用導体の製造方法に関し、特にウイスカ(針状単結晶)の発生を抑制するための対策に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、デジタルカメラ、プリンタ、携帯電話機、パソコン等の各種外部記憶装置(CD−ROMドライブ、DVD−ROMドライブ等)などの各種電子機器の内部配線材として、フレキシブルフラットケーブル(以下、FFCという)が用いられている。
【0003】
このFFCは、上記電子機器のプリント基板間の接続などに使用される。具体的には、たとえば、FFCの両端部において露出した導体(線材)を、プリント基板に取り付けられる嵌合型コネクタの端子部(コンタクト)に挿入し、その後、コネクタのロック機構部を閉じることで、コネクタの端子部の先端部(接点部)がFFCの導体に接触する。
【0004】
コネクタの端子部およびFFCの導体は、従来、接続性能を向上させるためにその表面に金属メッキたとえば錫−鉛合金(Sn−Pb)メッキが施されていた。ところが、近年、環境上の問題から、Pbフリー(非鉛)化の要求が高まってきたのに伴って、コネクタの端子部およびFFCの導体には、錫(Sn)メッキが施されるようになってきた。
【0005】
しかし、このPbフリー(非鉛)化に伴い、FFCの導体とコネクタの端子部とが接触された状態においては、コネクタの端子部にウイスカ(針状単結晶)が発生する場合がある。つまり、Pbフリー化はウイスカ発生の原因となっていた。なお、ウイスカは、メッキ被膜表面に発生したヒゲ状の結晶生成物であり、導体間の短絡事故を発生させる原因となる。
【0006】
このウイスカの発生を抑制する対策として、コネクタメーカにおいては、コネクタの端子部に、リフロー、ビスマス(Sn−Bi)メッキ、銀(Ag)メッキ、錫−銅(Sn−Cu)メッキなどの各種対策処理を施した。
【0007】
これにより、コネクタの端子部表面が硬くなり(硬度が高くなり)コネクタ側でのウイスカの発生は抑制されるようになったものの、FFC側からウイスカが発生するようになった。
【0008】
これは、Snメッキが施されたFFCの導体の表面は、ウイスカ発生の対策として各種対策処理を施したコネクタの端子部の表面よりも柔らかいため(硬度が小さいため)、FFCの導体のSnメッキ層にコネクタの端子部からの圧縮応力が加わり、FFCの導体のSnメッキ層の「変形や盛り上がり」などによりウイスカが発生する、ものと考えられている。このようなFFC側におけるウイスカの発生を抑制する対策が求められている。
【0009】
なお、ウイスカの発生を抑制する対策を施したものとしては、特許文献1に記載されているもFFCおよびその製造方法が知られている。
【0010】
この特許文献1には、圧延された導線素材上に錫合金メッキを施し、この錫合金メッキ導線素材を200℃程度まで加熱処理を実行し、さらに、前記加熱処理された錫合金メッキ導線素材が加工処理された後の当該加工材つまり複数の導体と絶縁材とから成るメッキ導体部ユニットに対し、180〜250℃程度までアニールによる加熱処理を実行することにより、錫合金メッキ表面の結晶粒子が細かくなり、ウイスカの発生を抑制させることが開示されている。
【特許文献1】特許第3675471号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記特許文献1には、錫合金メッキ導線素材(導体)を有するメッキ導体部ユニットに対し最大250℃程度までアニールによる2回目の加熱処理が実行される旨が記載されているものの、錫合金メッキのメッキ厚が記載されておらず、また示唆もされていない。
【0012】
そのため、特許文献1のものでは、錫合金メッキのメッキ厚は、当業者にとって一般的な厚みである1.5μm以上であるものと考えられる。
【0013】
そして、例えばメッキ厚1.5μmの錫合金メッキが施された錫合金メッキ導線素材(導体)を有するメッキ導体部ユニットに対し2回目の加熱処理が実施されたとしても、錫合金メッキ層が1.5μm存在するので、当該導体表面の硬さは増加しない。つまり導体表面の硬度は高くならない。
【0014】
したがって、FFCをコネクタに嵌合させたときに、メッキ導体部ユニットを構成する錫合金メッキ導線素材(導体)のコネクタの端子部との接触部(嵌合部)に、コネクタの端子部より圧縮応力が加わった場合は、当該錫合金メッキ層に「変形や盛り上がり」が生じ、つまり応力の影響により転位現象が発生し、これによりウイスカが発生する。
【0015】
すなわち、特許文献1では、確実にFFC側におけるウイスカの発生を抑制することができないという問題がある。
【0016】
そこで、本発明は、導体表面でのウイスカの発生を確実かつ大幅に抑制することのできるフレキシブルフラットケーブルおよびフレキシブルフラットケーブル用導体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の本発明のフレキシブルフラットケーブルは、Cu(銅)で形成された基材上にCu3Sn1(銅−錫系)の合金層が形成されているとともに、当該合金層上にCu6Sn5(銅−錫系)の合金層が形成されている導体を有することを特徴とする。
【0018】
これにより、基材上に2層の合金層(銅−錫系の合金層)が形成されている導体は、当該導体表面の硬度が高くなっているので、当該導体表面の応力変形が軽減され、導体表面でのウイスカの発生を確実かつ大幅に抑制することができる。
【0019】
上記課題を解決するため、請求項2に記載の本発明のフレキシブルフラットケーブル用導体の製造方法は、請求項1記載のフレキシブルフラットケーブルに使用される導体の製造方法であって、Cu(銅)で形成された基材の周囲にSn(錫)メッキが施された当該基材に対し第1の温度で焼鈍処理を行う第1の工程と、前記焼鈍処理された基材に対し、当該基材上にCu3Sn1(銅−錫系)の合金層が形成されるとともに当該合金層上にCu6Sn5(銅−錫系)の合金層が形成されるべく第2の温度で焼鈍処理を行う第2の工程と、を含むことを特徴とする。
【0020】
このように、導体に対し第1の工程による焼鈍処理および第2の工程による焼鈍処理の2回の焼鈍処理が行われることに起因してSnメッキ下部よりCu3Sn1の合金層とCu6Sn5の合金層が拡散生成される、すなわち基材上にCu3Sn1の合金層が生成され、さらにこの合金層上にCu6Sn5の合金層が拡散生成されることで、当該導体表面の硬度が高くなるので、当該導体表面の応力変形を軽減することができる。また、このように導体に対し2回の焼鈍処理が行われることに起因してCu3Sn1の合金層およびCu6Sn5の合金層が拡散生成されることによりSnメッキつまりSn層の薄膜化が進行するので、より一層、導体表面の硬度が高くなり、より一層、導体表面の応力変形を軽減することができる。しかも、Snが結晶粒成長して結晶が大きく導体表面が均一になるので、導体表面の応力変形を軽減することができる。このように、導体に対し2回の焼鈍処理が行われることに起因して、拡散生成される2層の合金層により導体表面の硬度が高くなるとともにSn層の薄膜化により導体表面の硬度が高くなり、さらにSnの結晶粒成長により結晶が大きく導体表面が均一になることにより、導体表面の応力変形が軽減され、導体表面でのウイスカの発生を確実かつ大幅に抑制することができる。
【0021】
請求項3に記載の本発明は、請求項2に記載の発明の構成に加えて、前記Sn(錫)メッキのメッキ厚は0.7μmであることを特徴とする。
【0022】
このように、導体に対し2回の焼鈍処理が行われることに起因してCu3Sn1の合金層およびCu6Sn5の合金層が拡散生成され、しかも2層の合金層が拡散生成されることにより、メッキ厚が0.7μmのSnメッキの薄膜化つまりSn層の薄膜化が進行したときは、Sn層は0.7μm未満の厚さになるので、より一層、導体表面の硬度が高くなり、より一層、導体表面の応力変形を軽減することができ、導体表面でのウイスカの発生を確実かつ大幅に抑制することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、基材上に2層の合金層(銅−錫系の合金層)が形成されている導体は、当該導体表面の硬度が高くなっているので、当該導体表面の応力変形が軽減され、導体表面でのウイスカの発生を確実かつ大幅に抑制することができるという有効な効果が得られる。
【0024】
また、本発明によれば、導体に対し2回の焼鈍処理が行われることに起因してCu3Sn1の合金層およびCu6Sn5の合金層が拡散生成されるので、導体表面の硬度が高くなり、しかも2層の合金層が拡散生成されることによりSnメッキの薄膜化つまりSn層の薄膜化が進行して、より一層、導体表面の硬度が高くなるので、確実に導体表面の応力変形を軽減することができ、導体表面でのウイスカの発生を確実かつ大幅に抑制することができるという有効な効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照しつつさらに具体的に説明する。ここで、添付図面において同一の部材には同一の符号を付しており、また、重複した説明は省略されている。なお、ここでの説明は本発明が実施される最良の形態であることから、本発明は当該形態に限定されるものではない。
【0026】
(実施の形態)
【0027】
図1は本発明に係るFFC用導体を説明する図、図2は本発明に係るFFC用導体の製造手順を示す工程図、図3は本実施の形態に係るFFCを説明する図、図4は本発明に係るFFC用導体の断面を透過型電子顕微鏡により観察した結果の写真を示す図、図5は本発明に係るFFC用導体の表面を電子顕微鏡により観察した結果の写真を示す図、図6は比較例のFFC用導体の断面を透過型電子顕微鏡により観察した結果の写真を示す図、図7は比較例のFFC用導体の表面を電子顕微鏡により観察した結果の写真を示す図、図8は本発明に係るFFC用導体を有するFFCを所定のコネクタに嵌合させた後の当該FFC用導体の接点部(嵌合部)を金属顕微鏡により観察した結果の写真を示す図、図9は比較例のFFC用導体を有するFFCを所定のコネクタに嵌合させた後の当該FFC用導体の接点部(嵌合部)を金属顕微鏡により観察した結果の写真を示す図、図10は本発明に係るFFC用導体を有するFFCを所定のコネクタに嵌合した場合の接点部(嵌合部)におけるウイスカの抑制を説明する図、図11は従来のFFC用導体を有するFFCを所定のコネクタに嵌合した場合の接点部(嵌合部)におけるウイスカの発生を説明する図である。
【0028】
本発明の実施の形態に係るフレキシブルフラットケーブル(FFC)に使用される導体(導線)について、図1を参照して説明する。
【0029】
なお、図1(a)はFFCに使用される導体(以下、FFC用導体という)1の概略を示す斜視図、図1(b)は図1(a)の要部Aを拡大した断面図である。
【0030】
FFC用導体1は、図1(a)に示すように平角軟銅線(Cu)の材質で形成された基材(平角導体)10を有しており、しかも、図1(b)に示すように、Cu(銅)の基材(平角導体)10上にCu3Sn1(銅−錫系)の第1の合金層11が形成されているとともに、当該第1の合金層11上にCu6Sn5(銅−錫系)の第2の合金層12が形成され、さらに第2の合金層12上に純Sn(錫)の表面層13が形成されている。
【0031】
なお、本実施の形態では、第1の合金層11、第2の合金層12および表面層13の合計の厚さDは0.7μmに設定されている。この厚さD0.7μmは、後述するSnメッキ膜のメッキ厚(0.7μm)に相当する。
【0032】
このFFC導体1の製造方法について、図2を参照して説明する。なお、図2は、FFC導体1の製造手順を示す工程図である。
【0033】
最初に、Cu(銅)で形成された線材の周囲に、所定のメッキ厚のSn(錫)メッキ膜を電気メッキにより形成する(ステップS10)。ここでは、Snメッキ膜のメッキ厚は0.7μmに設定され、コクール法(電解式メッキ膜厚測定)により管理される。
【0034】
本実施の形態においてSnメッキ膜のメッキ厚を0.7μmに設定するのは次の理由からである。すなわち、ウイスカ抑制を基準にメッキ厚を選定すると、メッキ厚は薄い場合の方が厚い場合よりも有利であり、具体的には0.5μm以下が望ましい。一方、コネクタとの嵌合特性(接触信頼性)を基準にメッキ厚を選定すると、メッキ厚は厚い場合の方が薄い場合よりも有利であり、具体的には0.5μm超が望ましい。そこで、本実施の形態では、ウイスカ抑制および接触信頼性の両者を考慮(特に接触信頼性を考慮)するとともにメッキ厚の公差を考慮して、Snメッキのメッキ厚を0.7μmに設定するようにしている。
【0035】
なお、本明細書において、Snメッキとは、純Snメッキ、Snを含む合金(Sn合金)メッキを含むものである。ただし、以降の説明においては、Snメッキは純Snメッキとする。
【0036】
メッキ厚0.7μmの純Snメッキが施されたCuの線材に対し圧延処理(圧延加工)を施し(ステップS20)、平角導体つまり基材10を形成する。
【0037】
次に、この基材(平角導体)10に対し第1の温度で焼鈍処理(1回目の焼鈍処理)を行う(ステップS30)。この1回目の焼鈍処理においては、基材10を400〜500℃の温度で0.1〜0.3sec(秒)の時間だけ加熱し、この加熱時間が終了した後、基材10を水中で冷やすなど急冷する。このような焼鈍処理を行うことにより、基材の元となる硬度化銅線を軟銅化させ、平角軟銅線の材質で形成された基材(平角導体)10を形成することができる。
【0038】
そして、1回目の焼鈍処理が施された基材10に対し、図1(b)に示すように、当該基材10上にCu3Sn1(銅−錫系)の第1の合金層11が形成されるとともに当該第1の合金層11上にCu6Sn5(銅−錫系)の第2の合金層12が形成されるべく第2の温度で焼鈍処理(2回目の焼鈍処理)を行う(ステップS40)。
【0039】
この2回目の焼鈍処理においては、基材10を270〜280℃の温度で5〜10sec(秒)の時間だけ加熱し、この加熱時間が終了した後、基材10を自然冷却するなど徐冷する。
【0040】
なお、本実施の形態では、第2回目の焼鈍処理は温度270〜280℃および時間5〜10secに基づいて実施するようにしているが、これら加熱温度および加熱時間は例示に過ぎず、上記第1の合金層11と上記第2の合金層12とが拡散生成される条件を満足する加熱温度および加熱時間を採用することができる。例えば、加熱温度260℃で加熱時間20secに設定することも可能である。
【0041】
上述したように、本実施の形態においては、Sn(錫)メッキが施されたCu(銅)の基材つまり導体に対し、第1の工程(ステップS30)による焼鈍処理および第2の工程による焼鈍処理(ステップS40)の2回の焼鈍処理を行うことになる。
【0042】
このように、基材10に対し2回の焼鈍処理が行われることに起因して、図1(b)に示したように、純Snメッキ下部よりCu3Sn1の第1の合金層11とCu6Sn5の第2の合金層12が拡散生成される、すなわち基材10上に第1の合金層(Cu3Sn1)が生成され、さらにこの第1の合金層11上に第2の合金層(Cu6Sn5)が拡散生成される。そのため2層の合金層11,12によって、FFC用導体1の表面硬度が高くなり、FFC用導体1の表面(導体表面)の応力変形を軽減することができる。
【0043】
また、上述したようにして2層の合金層11,12が拡散生成されることにより、純Snメッキ膜(Sn層)の薄膜化が進行し、表面層13が形成される。そのため、薄膜化した純Snメッキ膜つまり表面層13によって、FFC用導体1の表面硬度が高くなり、より一層、FFC用導体1の表面(導体表面)の応力変形を軽減することができる。
【0044】
さらに、純Snが結晶粒成長してSnの結晶が大きくなり、FFC用導体1の導体表面つまり表面層13の表面が均一になるので、FFC用導体1の表面(導体表面)の応力変形を軽減することができる。
【0045】
上述したように、本実施の形態においては、基材10に対し2回の焼鈍処理が行われることに起因して、拡散生成される2層の合金層11,12によりFFC用導体1の表面の硬度が高くなるとともに薄膜化される純Snメッキ膜(Sn層)つまり表面層13の表面(FFC用導体1の表面)の硬度が高くなり、さらに純Snが結晶粒成長して結晶が大きくFFC用導体1の表面が均一になることにより、FFC用導体1の導体表面の応力変形が軽減され、当該導体表面でのウイスカの発生を確実かつ大幅に抑制することができる。
【0046】
次に、本発明の実施の形態に係るFFCについて、図3を参照して説明する。なお、図3(a)は片面導体露出タイプのFFCの平面図を示し、図3(b)は図3(a)のB−B断面図を示している。
【0047】
図3(a)、(b)において、FFCは、複数の導体1と、これら各導体1を被覆する絶縁シート(絶縁体)2と、補強テープ3とを有している。
【0048】
複数の導体1は、図2に示した製造手順で作製(製造)された導体であり、所定長Lのサイズに設定され、所定の間隔をもって並設されている。
【0049】
2枚の絶縁シート(絶縁体)2は、所定長の複数の導体1の両端部から所定の長さd分だけ当該各導体1が露出されるべく長さ(L−2d)に設定されている。
【0050】
このような2枚の絶縁シート2間に、複数の導体1を両端部から所定の長さd分だけ導体が露出するように介在させ、さらに2枚の絶縁シート2を加熱融着して一体化させた。すなわち、複数の導体1においては、所定の長さdの導体以外の部分は、表面および裏面の絶縁シート2によって被覆されている。絶縁シート4としては、例えばポリエステル系樹脂があげられる。
【0051】
そして、FFCの両端部の表面(一方の面)側は導体1が露出されている。FFCの両端部の裏面(他方の面)は、補強テープ4が貼り付けら、この補強テープ3によって被覆されている。すなわち、このFFCにおいては、両端部の片面のみに導体露出部が設けられている。
【実施例】
【0052】
1:実施例に係るFFC用導体
【0053】
本実施例では、メッキ材質=純Sn、メッキ厚=0.7μm(コクール法)、メッキ方法=電気メッキ、1回目の焼鈍処理においては加熱温度=400〜500℃、加熱時間=0.1〜0.3sec、冷却方法=急冷、2回目の焼鈍処理においては加熱温度=270〜280℃、加熱時間=5〜10sec、冷却方法=徐冷、の各条件の下で、上述した図2に示した導体の製造手順の工程に従って導体(FFC用導体1)を製造した。この実施例に係るFFC用導体1の表面硬度は、ウイスカ抑制効果が得られる100以上、多くは150〜230であった。
【0054】
このようにして製造された導体の断面を透過型電子顕微鏡を用いて21000倍の倍率で撮影した。この撮影結果である写真を、図4(a)に示す。また、図4(a)に示す写真内容と同一の写真であって、図4(a)の写真に対し当該各合金層、Sn(スズ)層(表面層)の範囲を明確に表した様子を、図4(b)に示す。
【0055】
図4(a)、(b)に示すように、基材(Cu)10上にCu3Sn1の第1の合金層11が形成され、この第1の合金層11上にCu6Sn5の第2の合金層12が形成されている。さらに第2の合金層12上にSn層つまり表面層13が形成されている。図4(a)、(b)に示す構造は、図1(b)に示した導体の断面の構造に対応する。
【0056】
なお、図4(a)、(b)からは、Sn層としての表面層13は表面に均一に形成されるとは限らず、図4(b)に示すように、符号15で示される部分においては、Sn層は存在しておらず、Cu6Sn5の第2の合金層12の表面が存在していることが分かる。
【0057】
これは、純Snメッキが施された基材10に対し2回の焼鈍処理が行われることに起因して、純Snメッキの下部よりCuと純Snの合金層であるCu3Sn1およびCu6Sn5が拡散生成されることにより、Sn層(純Snメッキ)の薄膜化が進行し、場合によってはSn層が存在しない領域も存在するからである。
【0058】
次に、上述したようにして製造されたFFC用導体1の表面を電子顕微鏡を用いて20000倍の倍率で撮影した。この撮影結果である写真を、図5に示す。
【0059】
基材(平角導体)10に対し2回の焼鈍処理を施し、しかも2回目の焼鈍処理のときは徐冷するため、FFC用導体1の表面のSnが結晶粒成長することにより、図5に示すようにSn層の結晶が大きく、しかもFFC用導体(Sn層)の表面は均一となる。
【0060】
2:比較例(従来のFFC用導体)
【0061】
(比較例1)
【0062】
メッキ材質=純Sn、メッキ厚=1.5μm(コクール法)、メッキ方法=電気メッキ、1回目の焼鈍処理においては加熱温度=400〜500℃、加熱時間=0.1〜0.3sec、冷却方法=急冷、の各条件の下で、導体(FFC用導体)を製造した。つまり、前記各条件の下で、従来のFFC用導体の製造手順(これは図2にs目下製造手順のステップS10〜S30に相当)を実行した。この場合、焼鈍処理は1回のみである。この従来のFFC用導体の表面硬度は30〜40であった。
【0063】
このようにして製造された従来のFFC用導体の断面を透過型電子顕微鏡を用いて21000倍の倍率で撮影した。この撮影結果である写真を、図6(a)に示す。また、図6(a)に示す写真内容と同一の写真であって、図6(a)の写真に対し当該合金層、Sn層(表面層)の範囲を明確に表した様子を、図6(b)に示す。
【0064】
図6(a)、(b)に示すように、基材(Cu)10上にCu6Sn5の合金層16が形成され、さらに合金層16上にSn層としての表面層17が形成されている。
【0065】
なお、図6(a)、(b)からは、合金層16は層分けされた状態ではなく不均一な状態で形成され、Sn層つまり表面層17が明確に存在していることが分かる。すなわち、加熱温度400〜500℃で加熱された導体が急冷されるので、合金層16は層分けされることなく不均一な状態で存在する。
【0066】
次に、上述したようにして製造された従来のFFC用導体の表面を電子顕微鏡を用いて20000倍の倍率で撮影した。この撮影結果である写真を、図7に示す。
【0067】
基材(平角導体)10に対し1回の焼鈍処理を施し、急冷するため、FFC用導体の表面は、図7に示すようにSn層の結晶が小さく荒れた状態で、FFC用導体(Sn層)の表面は不均一となる。
(比較例2)
【0068】
上記比較例1における上記各条件のうちメッキ厚を0.7μmに変更してFFC用導体を作製した(1回の焼鈍処理)。この場合のFFC用導体の表面硬度は70〜80であり、Sn層の結晶が小さく荒れた状態で、FFC用導体(Sn層)の表面は不均一であった。
(比較例3)
【0069】
上記実施例1における上記各条件のうちメッキ厚を1.5μmに変更してFFC用導体を作製した(2回の焼鈍処理)。この場合のFFC用導体の表面硬度は、実施例1の場合の多くが150〜230であるのに対し、70〜80であった。また、Sn層の結晶が小さく荒れた状態で、FFC用導体(Sn層)の表面は不均一であった。この場合は、上記特許文献1の導体に対応するものである。
【0070】
3:FFC用導体におけるウイスカの抑制効果の比較
【0071】
次に、本実施例に係るFFC用導体つまり本発明に係るFFC用導体の製造方法により製造されたFFC用導体(2回の焼鈍処理を施した導体)と、従来のFFC用導体(比較例)つまり従来技術のFFC用導体の製造方法により製造されたFFC用導体との、ウイスカの抑制効果を比較した。
【0072】
つまり、本発明に係るFFC用導体を有するFFC、従来技術のFFC用導体を有するFFCの何れの場合においても、30芯数(極)のFFC用導体を有する2個のFFCを所定のコネクタに嵌合し、接点部(嵌合部)をランダムに6箇所、金属顕微鏡で観察し、撮影した。
【0073】
本発明に係るFFC用導体の接点部(嵌合部)を金属顕微鏡により観察した結果の写真を、図8に示す。この図8において、上段3枚、下段3枚の合計6枚の写真のうち、上段における左の写真は接点部を200倍の倍率で撮影し、他の5枚の写真は接点部を500倍の倍率で撮影したものである。
【0074】
同図8を参照して明らかなように、メッキ厚0.7μmの純Snメッキが施された基材に対し2回の焼鈍処理を実施した場合は、6箇所の接点部全てにおいてウイスカは発生していない。換言すれば、本発明に係るFFC用導体を有するFFCを採用した場合は、ウイスカの発生を大幅に抑制(低減)することができると言える。
【0075】
これに対し、比較例1のFFC用導体(メッキ厚1.5μmの場合)を金属顕微鏡により観察した結果の写真を、図9に示す。この図9において、上段3枚、下段3枚の合計6枚の写真のうち、上段における左および真中の2枚の写真は接点部を200倍の倍率で撮影し、他の4枚の写真は接点部を500倍の倍率で撮影したものである。
【0076】
同図9を参照して明らかなように、メッキ厚1.5μmの純Snメッキが施された基材に対し1回の焼鈍処理を実施した場合は、6箇所の接点部全てにおいてウイスカ(図9中矢印で示されるヒゲ状の部分)が発生している。ちなみに、上段における左の写真においては130μmの長さのウイスカが発生しているのが確認でき、また、下段における左の写真においては50μmの長さのウイスカが発生しているのが確認できる。
【0077】
4:ウイスカ抑制の仕組み
【0078】
図10は、本発明に係るFFC用導体を有するFFCを所定のコネクタに嵌合した場合の接点部(嵌合部)のウイスカ抑制を説明する図を示している。
【0079】
なお、図10において、銅層は図1(b)の基材10に対応し、合金層Cu3Sn1は図1(b)の第1の合金層11に対応し、合金層Cu6Sn5は図1(b)の第2の合金層12に対応し、スズ層は図1(b)の表面層13に対応する。
【0080】
本発明に係るFFC用導体からのウイスカ発生を大幅に抑制できるのは、次の理由からである。
【0081】
(1)図10に示すように、Sn層(スズ層)が薄膜化しているため、FFC用導体のSn層(Snメッキ層)にコネクタの端子より圧縮応力が加わり、当該Sn層の「変形や盛り上がり」が生じても、Snの転位現象が生じたとしても、純Snの絶対量が少ないためウイスカの発生が低減され大幅に抑制される。
【0082】
(2)また、図10に示すように、Snメッキのメッキ厚を0.7μmとし、従来の場合のメッキ厚1.5μmと比較して薄くしているため、下地のCuの基材の硬さおよび2つの合金層(Cu3Sn1、Cu6Sn5)の硬さがSn層側へ伝達されやすくなり、Sn層表面の硬度が高くなる。そのため、Sn層(Snメッキ)の応力変形が軽減され、応力ウイスカの発生が抑制される。
【0083】
すなわち、上記(1)の理由によるウイスカ抑制効果と上記(2)の理由によるウイスカ抑制効果とが相まって、より一層、ウイスカの発生が抑制される。
【0084】
図11は、上記比較例1のFFC用導体(メッキ厚1.5μm、1回の焼鈍処理の場合)を有するFFCを所定のコネクタに嵌合した場合の接点部(嵌合部)において、ウイスカが発生する様子を説明する図を示している。
【0085】
上記比較例1のものにおいては、図11に示すように、Snメッキのメッキ厚が1.5μmで、本実施例の場合のメッキ厚0.7μmと比較して厚いため、FFC用導体のSn層(Snメッキ層)にコネクタの端子より圧縮応力が加わった場合には、当該Sn層の「変形や盛り上がり」が生じ、つまり応力の影響により転位現象が発生し、これによりウイスカが発生する。
【0086】
また、上記比較例2および上記比較例3のものも、上記比較例1の場合と同様の現象により、ウイスカが発生する。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明は、片面導体露出タイプのFFCに加えて、FFCの一方の端部では導体の表面が露出し、他方の端部では導体の裏面が露出しているタイプのFFCにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明に係るFFC用導体を説明する図である。
【図2】本発明に係るFFC用導体の製造手順を示す工程図である。
【図3】本実施の形態に係るFFCを説明する図である。
【図4】本発明に係るFFC用導体の断面を透過型電子顕微鏡により観察した結果の写真を示す図である。
【図5】本発明に係るFFC用導体の表面を電子顕微鏡により観察した結果の写真を示す図である。
【図6】比較例のFFC用導体の断面を透過型電子顕微鏡により観察した結果の写真を示す図である。
【図7】比較例のFFC用導体の表面を電子顕微鏡により観察した結果の写真を示す図である。
【図8】本発明に係るFFC用導体を有するFFCを所定のコネクタに嵌合させた後の当該FFC用導体の接点部(嵌合部)を金属顕微鏡により観察した結果の写真を示す図である。
【図9】比較例のFFC用導体を有するFFCを所定のコネクタに嵌合させた後の当該FFC用導体の接点部(嵌合部)を金属顕微鏡により観察した結果の写真を示す図である。
【図10】本発明に係るFFC用導体を有するFFCを所定のコネクタに嵌合した場合の接点部(嵌合部)におけるウイスカの抑制を説明する図である。
【図11】従来のFFC用導体を有するFFCを所定のコネクタに嵌合した場合の接点部(嵌合部)におけるウイスカの発生を説明する図である。
【符号の説明】
【0089】
1 フレキシブルフラットケーブル(FFC)用導体
2 絶縁シート
3 補強テープ
10 基材(Cu)
11 第1の合金層(Cu3Sn1)
12 第2の合金層(Cu6Sn5)
13 表面層(Sn層)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu(銅)で形成された基材上にCu3Sn1(銅−錫系)の合金層が形成されているとともに、当該合金層上にCu6Sn5(銅−錫系)の合金層が形成されている導体を有する
ことを特徴とするフレキシブルフラットケーブル。
【請求項2】
請求項1記載のフレキシブルフラットケーブルに使用される導体の製造方法であって、
Cu(銅)で形成された基材の周囲にSn(錫)メッキが施された当該基材に対し第1の温度で焼鈍処理を行う第1の工程と、
前記焼鈍処理された基材に対し、当該基材上にCu3Sn1(銅−錫系)の合金層が形成されるとともに当該合金層上にCu6Sn5(銅−錫系)の合金層が形成されるべく第2の温度で焼鈍処理を行う第2の工程と、
を含むことを特徴とするフレキシブルフラットケーブル用導体の製造方法。
【請求項3】
前記Sn(錫)メッキのメッキ厚は0.7μmであること
を特徴とする請求項2記載のフレキシブルフラットケーブル用導体の製造方法。
【請求項1】
Cu(銅)で形成された基材上にCu3Sn1(銅−錫系)の合金層が形成されているとともに、当該合金層上にCu6Sn5(銅−錫系)の合金層が形成されている導体を有する
ことを特徴とするフレキシブルフラットケーブル。
【請求項2】
請求項1記載のフレキシブルフラットケーブルに使用される導体の製造方法であって、
Cu(銅)で形成された基材の周囲にSn(錫)メッキが施された当該基材に対し第1の温度で焼鈍処理を行う第1の工程と、
前記焼鈍処理された基材に対し、当該基材上にCu3Sn1(銅−錫系)の合金層が形成されるとともに当該合金層上にCu6Sn5(銅−錫系)の合金層が形成されるべく第2の温度で焼鈍処理を行う第2の工程と、
を含むことを特徴とするフレキシブルフラットケーブル用導体の製造方法。
【請求項3】
前記Sn(錫)メッキのメッキ厚は0.7μmであること
を特徴とする請求項2記載のフレキシブルフラットケーブル用導体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−123209(P2007−123209A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−317682(P2005−317682)
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(391025534)坂東電線株式会社 (5)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月31日(2005.10.31)
【出願人】(391025534)坂東電線株式会社 (5)
【Fターム(参考)】
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