説明

フレキシブル回路基板の成形用治具、及びそれを用いた成形方法

【課題】フレキシブル回路基板を成形する際に用いられる成形用治具、及びそれを用いた成形方法において、フレキシブル回路基板を確実に成形しつつ、生産性を向上させることが可能な成形用治具、及びそれを用いた成形方法を提供する。
【解決手段】第1成形ブロック10と第2成形ブロック20とを有し、フレキシブル回路基板を成形可能な成形用治具1において、第1成形ブロック10及び第2成形ブロック20は、それぞれ金属板13、23と、金属板13、23との間に空間を形成して金属板13、23を支持する支持部材11、21とを有しており、フレキシブル回路基板を、金属板13、23によって挟持可能に構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブル回路基板の成形用治具、及びそれを用いた成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品の小型化、高実装密度化が益々進んでおり、これに伴い、これまではケーブル用途に限定されていた基板に対して、成形性への要求が高まっている。基板が取り付けられるスペースに応じて基板を所望の立体形状に成形できれば、小さなスペースに対しても基板を配置することができるので、電子部品の小型化、高実装密度化を一層推し進めることが可能になる。さらに基板を伸縮変形、ねじり変形自在な形状に成形すれば、基板の耐久性を高めることが出来ると共に、複雑な動作を繰り返し行う部位、衝撃を受けやすい部位(例えばロボットのアーム部分、自動車部品、LED照明のフィラメント部等)に対しても基板を用いることができる。そこで、このような基板、特に熱可塑性樹脂を用いることで優れた成形性を有するフレキシブル回路基板を成形する際に用いる成形用治具、及びそれを用いた成形方法が提案されている。
【0003】
図3(a)に、従来の成形用治具50の概略構成を示す。図示するように、従来の成形用治具50は、鉛直方向に対向する2つの金属ブロック(50a、50b)の間においてフレキシブル回路基板を挟持可能に構成されている。そしてフレキシブル回路基板を成形する際は、フレキシブル回路基板を挟持した状態で金属ブロックごとフレキシブル回路基板を加熱オーブンに入れ、加熱オーブン内において所定時間加熱処理を行うことで、金属ブロックの重量による影響と、加熱による影響の両方によってフレキシブル回路基板を所望の立体形状に成形している。なお、フレキシブル回路基板を成形する成形方法として、他にも特許文献1、2に記載の方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−262981号公報
【特許文献2】特開2009−152343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら従来のフレキシブル回路基板の成形用治具及び成形方法には次の課題がある。2つの金属ブロック間に挟持されたフレキシブル回路基板を成形するには、加熱オーブン内において、成形に必要な温度まで金属ブロックを昇温させる必要がある。しかしながら熱容量の影響により、金属ブロックを成形可能な温度まで昇温させるには相当の時間がかかってしまうので生産性が低いといった課題がある。例えば予熱された加熱オーブン内に金属ブロックとそれに挟持されているフレキシブル回路基板を入れ、約200℃で加熱処理を行う場合、金属ブロックを加熱オーブンに入れてから成形が完了するまで、従来の成形用治具では約2時間の成形時間を要する(治具降温の時間も考慮すると約3時間を要する)。なお、金属ブロックの昇温時間を短縮すべく、金属ブロックを小型化、薄型化することも考えられるが、その場合は金属ブロックの重量が減少するので、成形時にフレキシブル回路基板に対して十分な圧力を付与できない虞があり、成形性の課題が新たに生じる。
【0006】
そこで本発明は、フレキシブル回路基板を成形する際に用いられる成形用治具、及びそれを用いた成形方法において、フレキシブル回路基板を確実に成形しつつ、生産性を向上させることが可能な成形用治具、及びそれを用いた成形方法を提供することを目的とする

【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明では、
フレキシブル回路基板の成形用治具であって、
第1成形ブロックと第2成形ブロックとを有し、第1成形ブロックと第2成形ブロックとの間でフレキシブル回路基板を挟持した状態で、フレキシブル回路基板が第1成形ブロックと第2成形ブロックごと加熱オーブン内に入れられることにより、フレキシブル回路基板を成形可能な成形用治具において、
第1成形ブロック及び第2成形ブロックは、
それぞれ板状部材と、前記板状部材との間に空間を形成して前記板状部材を支持する支持部材とを有しており、
フレキシブル回路基板を、それぞれの成形ブロックに設けられている前記板状部材によって挟持可能に構成されていることを特徴とする。
【0008】
かかる構成によると、空間を隔てて支持部材に支持されている板状部材によってフレキシブル回路基板を挟持し、その状態でフレキシブル回路基板が第1成形ブロックと第2成形ブロックごと加熱オーブン内に入れられるので、板状部材の温度が成形可能な温度まで昇温すれば、フレキシブル回路基板を成形することが可能になる。即ち、熱容量の大きな金属ブロック等でフレキシブル回路基板を挟持した状態で加熱処理を行う場合と比較すると、短時間でフレキシブル回路基板を成形することができる。よって、フレキシブル回路基板を確実に成形しつつ、生産性を向上させることが可能になる。
【0009】
また、
前記板状部材が前記支持部材に対して着脱可能であると好適である。
【0010】
かかる構成によると、異なる成形パターンが要求された場合も、板状部材のみを交換すること対応できる。即ち、成形パターンに応じて成形ブロックを製造する必要がないので、低コストでフレキシブル回路基板に対して成形加工を行うことができる。
【0011】
また、
前記板状部材にはスリットが形成されていると好適である。
【0012】
かかる構成によると、スリットを設けた分、板状部材の面積が減少するので、板状部材の表面温度を成形可能な温度まで昇温させるのに必要な時間をさらに短縮することができる。
【0013】
上記目的を達成するため、本発明では、
上記に記載のフレキシブル回路基板の成形用治具を使用してフレキシブル回路基板を成形する成形方法であって、
それぞれの成形ブロックに設けられている前記板状部材によってフレキシブル回路基板を挟持する工程と、
フレキシブル回路基板を挟持した状態の第1成形ブロック及び第2成形ブロックを加熱オーブンに入れて加熱処理を施す工程と、
を有していることを特徴とする。
【0014】
かかる成形方法によると、熱容量の大きな金属ブロック等でフレキシブル回路基板を挟持した状態で加熱処理を行う場合と比較すると、短時間でフレキシブル回路基板を成形することができる。よって、フレキシブル回路基板を確実に成形しつつ、生産性を向上させることが可能になる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、フレキシブル回路基板を成形する際に用いられる成形用治具、及びそれを用いた成形方法において、フレキシブル回路基板を確実に成形しつつ、生産性を向上させることが可能な成形用治具、及びそれを用いた成形方法を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る成形用治具の概略構成図。
【図2】本発明の効果を説明するための図。
【図3】従来の成形用治具の概略構成図、及びフレキシブル回路基板の概略断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を例示的に詳しく説明する。ただし、以下の実施形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0018】
[実施形態]
(1−1:成形用治具の概略構成)
図1(a)を参照して、本実施形態における成形用治具の概略構成について説明する。成形用治具1は、第1成形ブロック10、第2成形ブロック20を有している。さらに第1成形ブロック10、第2成形ブロック20は、それぞれ金属板13、23(板状部材)を有しており、金属板13、23は、スペーサー12、22を介して空間を隔てて支持部材11、21に支持されている。なお、金属板13、23はステンレス鋼(以下、SUS)によって形成されており、支持部材11、21はアルミニウム(以下、AL)によって形成されているものとする。
【0019】
フレキシブル回路基板を成形する際は、まず、第2成形ブロック20の金属板23上にフレキシブル回路基板を載置し、第1成形ブロック10の金属板13と第2成形ブロック20の金属板23とが合わさるようにして、第1成形ブロック10を第2成形ブロック20上に重ね置く。この状態では、金属板13と金属板23とによって、フレキシブル回路基板が挟持されていることになる。なお、第1成形ブロック10を第2成形ブロック20上に重ね置いた状態では、金属板13と金属板23との間に、不図示のスペーサーを介して0.2mm〜0.3mm程度の隙間が形成されているものとする。0.2mm以下の隙間ではフレキシブル回路基板と金属板13、23とが固着する可能性があり、逆に0.3mm以上の隙間があると、フレキシブル回路基板を十分に成形できない虞があるからである。
【0020】
第1成形ブロック10を第2成形ブロック20上に重ね置いた状態では、第1成形ブロック10と第2成形ブロック20とで形成される全体の外形が略直方体(立方体)状となっている。加熱処理を行う加熱オーブンの庫内には、第1成形ブロック10を第2成形ブロック20上に重ね置いた状態で送り込むので、全体形状(外形)を略直方体とすることにより、加熱オーブンの庫内において成形ブロックを積み重ねたり、デッドスペースが生じない様に複数の成形ブロックを並べたりしやすくなるので、生産性の向上につながる。また、成形ブロックの外形を単純な形状とすることで、成形ブロックの製造コストを抑えることも可能になる。なお、フレキシブル回路基板を確実に成形するためには、フレキシブル回路基板に対して十分な圧力を付与する必要がある。本実施形態では、第1成形ブロック10が成形に十分な重量を有しているので、フレキシブル回路基板に対して十分な圧力を付与可能である。
【0021】
(1−2:フレキシブル回路基板の概略構成)
図3(b)を参照して、フレキシブル回路基板の概略構成について説明する。フレキシブル回路基板30は、厚さ50μmの基層30aの上に配線層30bをパターン印刷し、さらにその上を絶縁層30cによって被覆したものである。なお、幅方向の寸法は5mmである。また、不図示ではあるが、各層間は接着層によって接着されている。基層30aには熱可塑性樹脂が用いられており、液晶ポリマー、ポリイミド等の材料を用いることが可能である。これにより、フレキシブル回路基板30に対して加熱処理を施すことでフレキシブル回路基板30を所望の形状に成形することが可能になる。
【0022】
(1−3:本実施形態の効果)
本実施形態では、空間を隔てて支持部材11、21に対して金属板13、23が取り付けられており、この金属板13、23でフレキシブル回路基板を挟持した状態で成形ブロックごとフレキシブル回路基板を加熱オーブンに入れることでフレキシブル回路基板を成形するものである。即ち、従来の成形用治具(図3(a)参照)では、金属ブロック全体を加熱する必要があるが、本実施形態に係る成形用治具によると、フレキシブル回路基板に直接接触する部分、つまり金属板13、23が成形可能な温度(本実施形態では約200℃)まで昇温していればよいので、従来と比較すると成形に要する時間を大幅に短縮することができる。よって、生産性の向上を達成することができる。
【0023】
ここで図2(a)、(b)を参照して、本実施形態の効果について詳しく説明する。図2(a)は、本実施形態にかかる成形用治具と従来の成形用治具を加熱オーブン内で同条件で加熱した場合の、それぞれの成形用治具の温度変化を表したものである。具体的には、従来の成形用治具における金属ブロックの表面温度の変化と、本実施形態に係る成形用治具における金属板13、23の表面温度の変化を示している。
【0024】
図示するように従来の成形用治具は、成形可能な温度である約200℃まで昇温するのに約60分を要している。これに対して本実施形態に係る成形用治具(支持部材AL+金属板SUS)によれば、約15分で金属板13、23の表面温度が設定した温度まで昇温していることがわかる。即ち、本実施形態によれば、フレキシブル回路基板に直接接触する部材の熱容量を下げることができるので、フレキシブル回路基板の成形に要する時間を大幅に短縮することが可能になる。なお、約200℃で所定時間加熱処理を行った後、成形後のフレキシブル回路基板を取り出すべく成形用治具を冷却する必要があるが、本実施形態に係る成形用治具は熱容量が小さいので、この時間も従来と比較すると短縮することができる(従来の成形用治具では約1時間要する)。
【0025】
図2(b)に、従来の成形用治具を加熱オーブン内に入れた場合の、加熱オーブンと成形用治具の温度変化を示す。図示するように、従来の成形用治具によると、加熱オーブンの庫内が約200℃で定温状態になってから(図中120分経過後)、成形用治具が昇温完了となるまで、少なくとも60分以上要していることがわかる。このように従来の成形用治具は、熱容量が大きい為、成形用治具が成形可能な温度に昇温するまでに時間がかかることがわかる。
【0026】
次に表1を参照して、本実施形態に係る成形用治具を使用した場合の成形性について説明する。成形性とは、即ち、成形を行った後に、成形後の形状が保たれているか否かについて調べた結果であり、ここでは成形温度、成形時間をそれぞれ変えた場合について、成形後24時間経過後も形状が保たれているか(成形可)、保たれていないか(成形不可)について調べている。
【0027】
【表1】

【0028】
表に示すように、本実施形態に係る成形用治具を使用すれば、いずれの成形条件においても、フレキシブル回路基板を確実に成形出来ることがわかる。例えば成形時間10分、成形温度180℃でも確実に成形できることがわかっており、従来と比較すると大幅な時間短縮を実現できている。一方、従来の成形用治具を使用した場合は、成形時間が60分では形状を保つことができず、120分で形状を保つことができることがわかる。
【0029】
以上より、本実施形態によれば、フレキシブル回路基板を成形する際に用いられる成形用治具、及びそれを用いた成形方法において、フレキシブル回路基板を確実に成形しつつ、生産性を向上させることが可能な成形用治具、及びそれを用いた成形方法を提供することが可能になる。
【0030】
[その他の実施形態]
本発明に係る成形用治具の構成は、図1(b)に示すような形状を採用することもできる。このように支持部材11、21と金属板13、23との間隔を広げることで、支持部材11、21に取り付け可能な金属板の形状の選択幅が広がる。即ち、金属板13、23のみを取り換えることで、異なる成形パターンに対応することができるので、低コストでフレキシブル回路基板に対して成形加工を行うことができる。
【0031】
上記では、スペーサー12、22をSUSによって形成した場合について説明したが、スペーサー12、22の材料はSUSに限られるものではない。SUS以外の金属であってもよいし、他にも耐熱性のプラスチック等、熱容量の低い材料を使用してもよい。
【0032】
また、金属板13、23に図1(c)に示すようなスリット13a、23aを形成してもよい。これによれば、スリットを設けた分、金属板13、23の面積が減少するので、金属板13、23の表面温度を成形可能な温度にまで昇温させるのに必要な時間をさらに短縮することができる。
【0033】
また、加熱処理を行う際は、庫内を水蒸気で満たした、いわゆるスチームオーブンを使用してもよい。空気と比較すると水蒸気は比熱が大きいので、庫内に成形用治具を投入した際、庫内温度が大きく低下することを防止できる。
【0034】
また、本発明に係る成形用治具に対して使用可能なフレキシブル回路基板の構成は上記で説明したものに限られない。基層として熱可塑性樹脂を用いるものであれば、基層の材量は液晶ポリマー、ポリイミド以外であってもよいし、さらに、複数の配線層をジャンパー接続した複層構造のフレキシブル回路基板であってもよい。また、成形温度、成形時間は、基層に用いる材料によって適宜設定すればよい。
【0035】
以上、ここで説明したその他の実施形態によっても、フレキシブル回路基板を成形する
際に用いられる成形用治具、及びそれを用いた成形方法において、フレキシブル回路基板を確実に成形しつつ、生産性を向上させることが可能な成形用治具、及びそれを用いた成形方法を提供することが可能になる。
【符号の説明】
【0036】
1…成形用治具 10…第1成形ブロック 11…支持部材 12…スペーサー 13…金属板 13a…スリット 20…第2成形ブロック 21…支持部材 22…スペーサー 23…金属板 23a…スリット 30…フレキシブル回路基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレキシブル回路基板の成形用治具であって、
第1成形ブロックと第2成形ブロックとを有し、第1成形ブロックと第2成形ブロックとの間でフレキシブル回路基板を挟持した状態で、フレキシブル回路基板が第1成形ブロックと第2成形ブロックごと加熱オーブン内に入れられることにより、フレキシブル回路基板を成形可能な成形用治具において、
第1成形ブロック及び第2成形ブロックは、
それぞれ板状部材と、前記板状部材との間に空間を形成して前記板状部材を支持する支持部材とを有しており、
フレキシブル回路基板を、それぞれの成形ブロックに設けられている前記板状部材によって挟持可能に構成されていることを特徴とするフレキシブル回路基板の成形用治具。
【請求項2】
前記板状部材が前記支持部材に対して着脱可能であることを特徴とする請求項1に記載のフレキシブル回路基板の成形用治具。
【請求項3】
前記板状部材にはスリットが形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のフレキシブル回路基板の成形用治具。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のフレキシブル回路基板の成形用治具を使用してフレキシブル回路基板を成形する成形方法であって、
それぞれの成形ブロックに設けられている前記板状部材によってフレキシブル回路基板を挟持する工程と、
フレキシブル回路基板を挟持した状態の第1成形ブロック及び第2成形ブロックを加熱オーブン内に入れて加熱処理を施す工程と、
を有していることを特徴とする成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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