説明

フレーム治具及びそれを用いた光学薄膜の形成方法

【課題】 基板上に形成される光学薄膜の内部応力による基板の反りの発生を防ぐと共に、膜剥がれの発生等を防止した光学薄膜を形成することができるフレーム治具、及びそれを用いた光学薄膜の形成方法を提供する。
【解決手段】
ガラス基板2と、断面がコの字形を有する棒状のステンレスからなり、断面の上面10bが凹にそり幅α反ったフレーム治具10を、オーブン11に投入して加熱する加熱工程と、フレーム治具10のコの字形の溝部(溝10a)にガラス基板2の外周部を保持する保持工程と、フレーム治具10に外周部が保持されたガラス基板2を冷却する冷却工程と、ガラス基板2の成膜面2aに真空蒸着法を用いて高屈折率材料層と低屈折率材料層とを交互に成膜して誘電体多層膜3を形成する成膜工程とから、ガラス基板2上に光学薄膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着法等を用いて基板上に反射防止膜やIRカット膜等の光学薄膜を形成する際に用いられるフレーム治具、及びそれを用いた光学薄膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、基板上に光学薄膜を形成する光学物品として、例えば、ガラス基板上に高屈折率材料層と、低屈折率材料層を交互に多数層形成して所定のフィルタ特性を有する光学多層膜フィルタが知られている。こうした光学多層膜フィルタは、ガラス基板上に形成される光学薄膜の内部応力によりガラス基板が反る等により、フィルタ特性の歪み、あるいはガラス基板上に形成された膜の剥がれ等が発生する。
通常、光学多層膜フィルタは、ガラス基板上にスパッタリング法や真空蒸着法等により成膜される。成膜される多層膜には、膜が縮まろうとする方向の引張応力と、膜が広がろうとする圧縮応力との膜応力が発生し、ガラス基板に反りが発生する。ガラス基板は、膜応力(内部応力)が引張応力の場合には、成膜された面が凹となり、圧縮応力の場合には凸となる。
【0003】
こうした反りの発生を防止するために、基板の一側に蒸着された内部応力を有する第1蒸着膜と、第1蒸着膜の反対側に蒸着され第1蒸着膜の有する内部応力と釣合った内部応力を有する第2蒸着膜から成る両面蒸着積層物が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、基板上に屈折率が異なる少なくとも二種類の膜が交互に積層され、隣接する膜の内部応力が互いに相殺する方向に生じる膜材料を用いて形成された光学薄膜が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開昭58−217901号公報
【特許文献2】特開2003−277911号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載される蒸着積層物は、基板の両面の蒸着膜で各面の反りを相殺しているため、蒸着積層物の内部応力を緩和する効果を得るためには、基板の両面に成膜する必要があり、作業効率に課題がある。また、特許文献2に記載の光学薄膜は、圧縮応力を内部応力とする薄膜と、引張応力を内部応力とする薄膜を交互に積層された多層膜により、多層膜全体の内部応力が緩和され、基板を歪ませることは少ないが、基板とこれに接する第1層の薄膜との間で膜剥がれが発生し易い懸念がある。
【0006】
そこで本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、基板上に形成される光学薄膜の内部応力による基板の反りの発生を防ぐと共に、膜剥がれの発生等を防止した光学薄膜を形成することができるフレーム治具、及びそれを用いた光学薄膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のフレーム治具は、真空蒸着法またはスパッタリング法を用いて基板上に光学薄膜を形成する際に用いるフレーム治具であって、前記フレーム治具は、断面がコの字形を有する棒状の材料からなり前記コの字形の断面の上下方向に凸または凹に反った形状を有し、前記基板上に前記光学薄膜を形成する前に、前記フレーム治具のコの字形の溝部に前記基板の外周部を保持することを特徴とする。
【0008】
これによれば、真空蒸着法またはスパッタリング法を用いて基板上に光学薄膜を形成する際、基板上に光学薄膜を形成する前に、断面がコの字形を有する棒状の材料からなり、コの字形の断面の上下方向に凸または凹に反った形状を備えたフレーム治具のコの字形の溝部に基板の外周部を保持することで、基板上に形成される光学薄膜に生じる内部応力に対応した反りを基板に付与し、基板の反りを防ぐことができる。反りの発生を防ぐことで、光学薄膜が略平坦化した状態に形成され、光学薄膜の剥がれ、クラック等の発生、あるいは光学的歪の発生を防止した高性能の光学特性を有する光学薄膜が得られる。また、フレーム治具に光学薄膜が形成される基板を保持するだけなので予め基板を加工する必要はない。
【0009】
本発明のフレーム治具は、前記フレーム治具の前記コの字形の断面の上下方向に凸または凹に反った形状の反りは、前記基板上に前記光学薄膜を形成する際に前記基板に生じる反り方向と反対の方向であることを特徴とする。
これによれば、フレーム治具のコの字形の断面の上下方向に凸または凹に反った形状の反りが、基板上に光学薄膜を形成する際に基板に生じる反り方向と反対の方向であることにより、基板上に形成される光学薄膜に生じる内部応力を相殺する反りを基板に付与し、基板の反りを防ぐことができる。また、光学薄膜に発生する内部応力が圧縮応力であっても、引張応力の場合であっても、フレーム治具の上下を逆にして基板を保持することで対応できる。
【0010】
本発明の光学薄膜の形成方法は、前記フレーム治具を加熱する加熱工程と、前記フレーム治具の前記コの字形の溝部に前記基板の外周部を保持する保持工程と、前記フレーム治具及び前記基板を冷却する冷却工程と、前記基板上に前記光学薄膜を形成する成膜工程と、を順に備えたことを特徴とする。
【0011】
この光学薄膜の形成方法によれば、断面がコの字形を有する棒状の金属材料からなり、コの字形の断面の上下方向に凸または凹に反った形状を備えたフレーム治具を、加熱する加熱工程と、フレーム治具のコの字形の溝部に基板の外周部を保持する保持工程と、フレーム治具および基板を冷却する冷却工程と、基板上に光学薄膜を形成する成膜工程と、が順に加工されることにより、加熱工程で加熱されたフレーム治具が膨張し、上下方向に凸または凹に反っているにも係わらず、コの字形の溝部に基板の外周部を容易に挿入して保持することができる。そして、フレーム治具に保持された基板およびフレーム治具が冷却されることで、フレーム治具が収縮して基板の外周部が強固に固定されると共に、基板にフレーム治具が反った方向の反りが付与され、成膜工程において基板上に光学薄膜が形成されると、光学薄膜に生じる内部応力と、フレーム治具が反った方向の反りとが相殺され、基板の反りの発生を防ぐことができる。反りの発生を防ぐことで、光学薄膜が略平坦化した状態に形成され、光学薄膜の剥がれ、クラック等の発生、あるいは光学的歪の発生を防止した高性能の光学特性を有する光学薄膜を形成することができる。
【0012】
本発明の光学薄膜の形成方法は、前記フレーム治具を加熱する加熱工程は、前記フレーム治具の溝部が前記基板を挿入可能な溝幅になる加熱温度まで、前記フレーム治具の溝部が前記基板を挿入可能な広さとなるまで、前記フレーム治具を加熱し膨張させることを特徴とする。
この光学薄膜の形成方法によれば、フレーム治具が加熱されることにより、フレーム治具が基板よりも膨張し、フレーム治具がコの字形の断面の上下方向に凸または凹に反っているにも係わらず、前記フレーム治具の溝部に基板の端面を容易に挿入することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、本実施形態の光学薄膜の形成は、例えば、可視波長域の光を透過し、所定波長以下の紫外波長域、および所定波長以上の赤外波長域での光の吸収が少ない反射特性を有する光学多層膜フィルタ、いわゆる、UV−IRカットフィルタ(Ultraviolet-Infrared cut filter)に適用した場合を一例として説明する。
【0014】
図1はガラス基板に形成される膜構成を説明するための光学多層膜フィルタの断面模式図であり、図2は誘電体多層膜に生じた膜応力によりガラス基板の反った態様を示す模式図である。なお、図1および図2を含み、以後に説明する全ての図面は、説明の便宜のために各構成要素の寸法や比率は実際のものとは異なる。
図1において、光学多層膜フィルタ(UV−IRカットフィルタ)1は、光を透過する基板としてのガラス基板2と、ガラス基板2の一方の面の表面に、屈折率が異なる高屈折率材料Hと低屈折率材料Lの二種類の膜が交互に積層された誘電体多層膜3が形成されている。
【0015】
ガラス基板2は、複屈折性を有し光を透過する水晶板からなり、例えば、平面サイズが略38×38mmの矩形形状で、板厚が0.83mm程度の基板である。
誘電体多層膜3は、高屈折率材料層Hが、TiO2(屈折率:2.40)、低屈折率材料層LがSiO2(屈折率:1.46)の成膜材料で成膜される。
【0016】
図1において、誘電体多層膜3は、ガラス基板2上に、第1層として高屈折率材料のTiO2膜H1が成膜され、成膜された高屈折率材料のTiO2膜H1の上面に、低屈折率材料のSiO2膜L1が積層される。以下、低屈折率材料のSiO2膜L1の上面に、高屈折率材料のTiO2膜と低屈折率材料のSiO2膜とが、交互に積層される。そして最上膜層に低屈折率材料のSiO2膜L20が積層されて、高屈折率材料層Hと低屈折率材料層Lが各20層、計40層の誘電体の層が成膜されている。
【0017】
この誘電体多層膜3の膜構成の詳細を説明する。
以下に説明する膜厚構成は、高屈折率材料層Hの膜厚を光学膜厚nd=1/4λの値を1Hとして表記し、同様に低屈折率材料層Lを1Lと表記する。また、(xH、yL)Sで表すSの表記は、スタック数と呼ばれる繰り返しの回数で、括弧内の構成を周期的にS回数繰り返すことを表している。なお、設計波長λは755nmである。
【0018】
誘電体多層膜3の膜厚構成は、第1層の高屈折率材料のTiO2膜(高屈折率材料層)H1が1.14H、第2層の低屈折率材料のSiO2膜(低屈折率材料層)L1が1.09Lである。以下、第3層から順に1.03H、1.01L、(0.99H、0.99L)6、1.02H、1.08L、1.31H、0.18L、1.37H、1.24L、1.27H、1.28L、(1.28H、1.28L)6、1.26H、1.28L、1.25H、最上層に0.63Lの低屈折率材料のSiO2膜L20が形成されている。なお、40層の誘電体の層が形成された誘電体多層膜3の膜厚は、4.0×10-6m程度である。
【0019】
ガラス基板2上に高屈折率材料層Hと低屈折率材料層Lとが、交互に成膜されて多層膜が形成されると、一般的に、ガラス基板2は低屈折率材料のSiO2膜の強い圧縮応力と、高屈折率材料のTiO2膜の弱い引張応力により、図2に示すように、ガラス基板2に誘電体多層膜3の形成された面が凸になる形状の反りが発生する。
【0020】
このように、誘電体多層膜3の膜応力(内部応力)によりガラス基板2に反りが発生するのを防ぐために、本実施形態においては、矩形形状のガラス基板2の四辺に沿う外周部に、所定の方向に反らせたフレーム治具10が取り付けられた(後述する図4参照)後、すなわち、フレーム治具10にガラス基板2の外周部が保持された後に、ガラス基板2上に誘電体多層膜3が形成される。
【0021】
図3(a)はフレーム治具の斜視図であり、図3(b)は同図(a)におけるA方向からの正面図であり、図3(c)はフレーム治具の長手方向の中心線Oにおける断面を右側面視(同図(a)におけるB方向)した断面図である。なお、図3(a)〜(c)は、模式図であり、各図面間の寸法や比率は実際とは異なる。
【0022】
フレーム治具10の材質は、ヤング率がガラス基板2よりも大きく、且つ熱膨張係数がガラス基板2より小さい材料からなり、例えば、ステンレスの金属材料からなる。ステンレス(例えば、オーステナイト系のSUS304)の熱膨張係数は17.3×10-6/℃であり、ヤング率は190GPaである。なお、ガラス基板2を構成する水晶は、熱膨張係数が80×10-7/℃、ヤング率が略70GPa、ポアソン比が0.135程度である。
【0023】
フレーム治具10の形状は、図3(a)〜(c)に示すように、断面がカタカナのコの字形で、長手方向に延伸する棒状の形状を有している。また、長手方向の両端が、長手方向の略中心線Oを中心として断面のコの字形の上下方向に所定の反り幅α反った形状をなしている。
コの字形の断面の形状寸法は、例えば、厚さ寸法aが4.0mm、幅寸法bが3.0mmからなり、厚さ方向の一方の側面の略中心位置(すなわち、寸法cが2.0mmの位置)に、幅dが1.0mm、深さeが1.5mmの、溝部としての溝10aが形成されている。長手方向に延伸する長さ寸法fは、平面が矩形形状のガラス基板2の辺の長さより4mm程度短い略34mmである。
【0024】
フレーム治具10の所定の反り幅αは、予めガラス基板2の一方の表面に、所定のテスト成膜を行うことにより設定される。テスト成膜は、先ず、ガラス基板2の一方の表面に、所定の誘電体多層膜3を形成する。そして、誘電体多層膜3を形成することによりガラス基板2に生じた反り幅δ(図2参照)を計測する。そして、計測したガラス基板2の反り幅δに基づいて、ガラス基板2に反りが発生するのを防ぐためのフレーム治具10の反り幅αが算出される。
なお、フレーム治具10の所定の反り方向は、ガラス基板2の表面に誘電体多層膜3を形成する際に生じるガラス基板2が反る方向とは反対の方向に設定される。本実施形態においては、断面のコの字形の上面10b側が、凹となる反り方向に設定される。
【0025】
テスト成膜は、ガラス基板2(平面が38×38mm程度の矩形形状で、板厚が0.83mm程度の水晶板)の一方の表面の略中央部に、フレーム治具10の取り付けを考慮した35×35mm程度の平面寸法の多層膜の成膜を行う。多層膜の成膜は、前述に説明した高屈折率材料層Hと低屈折率材料層Lを各20層、計40層の誘電体多層膜3を形成した(図1参照)。そして、ガラス基板2の反り幅δを計測した。反り幅δの測定は、例えば、高精度フラットネステスタFT−900((株)ニデック製)を用いた。測定の結果、ガラス基板2に誘電体多層膜3が形成された面が凸で、反り幅δが60μm程度の反りが確認された。
【0026】
そして、計測したガラス基板2の反り幅δに基づいて、フレーム治具10に設定される反り幅αを算出する。
フレーム治具10の反り幅αの算出方法を以下に説明する(図2を参照)。
【0027】
先ず、ガラス基板2の表面に成膜された薄膜(誘電体多層膜3)の膜応力σ(Pa)を、Stoneyの式に基づく、下記の一般式(1)により算出する。
σ=((Es×ts2)/(3(1−νs)tf・L2))×δ …(1)
(但し、Es:ガラス基板のヤング率(Pa、パスカル)、ts:ガラス基板の厚さ(m)、νs:ガラス基板のポアソン比、tf:薄膜の厚さ(m)、L:成膜された多層膜の中心までの長さ(m)、δ:ガラス基板の反り幅(m))
【0028】
本実施形態において、ガラス基板2の反り幅δ:60×10-6m、ガラス基板2のヤング率Es:70×109Pa、ガラス基板2の厚さts:0.83×10-3m、ガラス基板2のポアソン比νs:0.135、薄膜(誘電体多層膜3)の厚さtf:4.0×10-6m、成膜された多層膜の中心までの長さL:(35/2)×10-3m、から算出された膜応力σの値は、0.91GPaとなる。
【0029】
そして、ガラス基板2の成膜される断面にかかる力F(N、ニュートン)を算出する。力:Fの算出は、下記の一般式(2)に基づいて算出する。但し、Sは矩形形状のガラス基板2の長手方向における断面積である。
σ=F/S …(2)
ガラス基板2の断面全体にかかる力Fの値は、一般式(1)に基づいて算出された膜応力σ:0.91GPaの値と、ガラス基板2の成膜面における断面積S:29.02mm2(長さ35mm×厚さ0.83mm)から算出され、2.64×104Nとなる。
【0030】
そして、膜応力σ(ガラス基板2の成膜される断面にかかる力F)を打ち消すのに必要なフレーム治具10の応力σf(Gpa)を算出する。応力σfの算出は、一般式(2)と同様の下記の一般式(3)に基づいて算出する。但し、Sfはフレーム治具10の断面積(mm2)である。なお、本実施形態において、フレーム治具10の断面積Sfの値は、矩形形状のガラス基板2の各々対向する二辺に沿う外周部に取り付けられることから、2つのフレーム治具10の断面積を用いる。
σf=F/Sf …(3)
フレーム治具10の応力σfの値は、前記一般式(2)に基づいて求められたガラス基板2の成膜される断面にかかる力F:2.64×104Nの値と、フレーム治具10の断面積Sf:21.0mm2から算出され、1.26Gpaとなる。
【0031】
そして、前記一般式(1)により求められたガラス基板2の表面に成膜された薄膜(誘電体多層膜3)の膜応力σ:0.91GPa、計測したガラス基板2の反り幅δ:60μmと、前記一般式(3)に基づいて求められたフレーム治具10の応力σf、の比(σ/δ=σf/α)から、フレーム治具10の所定の反り幅αを算出する。
算出されたフレーム治具10の所定の反り幅αの値は、83μmとなる。この結果に基づいて、83μm程度の反り幅αを反らせたフレーム治具10を準備する。
【0032】
次に、誘電体多層膜3の形成方法について、図4および図5に基づいて説明する。
図4(a)はフレーム治具をガラス基板に取り付ける態様を説明する斜視図であり、図4(b)は取付部の拡大断面図である。図5は、ガラス基板に誘電体多層膜を形成する工程を示す模式図であり、(a)は成膜前のガラス基板の断面図、(b)はフレーム治具に保持されたガラス基板の断面図、(c)は誘電体多層膜が形成された後のガラス基板の断面図、(d)はフレーム治具が取外されたガラス基板の断面図である。
【0033】
誘電体多層膜3の形成に際し、予め準備した、断面のコの字形の上面10bが凹に、83μm程度反らせたフレーム治具10(図3(b)参照)に、矩形形状のガラス基板2の四辺に沿う外周部を保持して、フレーム治具10にガラス基板2を固定(保持)させる。
【0034】
ガラス基板2の保持方法は、先ず、反らせたフレーム治具10とガラス基板2を、炉内温度(加熱温度)が115℃程度に設定されたオーブン11内に投入し、加熱する(加熱工程)。そして、図4(a)および(b)に示すように、加熱されたフレーム治具10の溝10aに、加熱されたガラス基板2の四辺の各端面2bを挿入して、ガラス基板2の四辺に沿う外周部を保持する(保持工程)。このガラス基板2の挿入は、ガラス基板2の成膜される面(成膜面)2aをフレーム治具10のコの字形の上面10b側にして、ガラス基板2の端面2bが、フレーム治具10の溝10aの底面に密着するように行われる。
【0035】
フレーム治具10の取り付け(ガラス基板2の外周部の保持)に際し、フレーム治具10が、加熱温度115℃程度に加熱されてガラス基板2よりも膨張し、フレーム治具10(溝10a)がコの字形の上面10b側に凹に反っているにも係わらず、溝10aにガラス基板2の端面2bを容易に挿入することができる。これは、フレーム治具10の熱膨張係数がガラス基板2の熱膨張係数よりも大きいことにより、フレーム治具10の溝10aの幅(溝幅)dが、ガラス基板2の厚さtsを挿入可能な溝幅に膨張することによる。
そして、フレーム治具10がガラス基板2の四辺の外周部に取り付けられたガラス基板2は、オーブン11内から取り出されて冷却工程に移行する。
【0036】
冷却工程は、フレーム治具10が四辺の外周部に取り付けられたガラス基板2が、例えば、常温雰囲気下で冷却される。冷却されると、ガラス基板2が、四辺の外周部に取り付けられた各フレーム治具10に強固に固定される。これは、フレーム治具10の熱膨張係数がガラス基板2の熱膨張係数よりも大きいことにより、フレーム治具10がガラス基板2に比べて、より収縮することにより、ガラス基板2を保持することができる。
【0037】
ガラス基板2がフレーム治具10に保持されることにより、図5(a)に示すように、フレーム治具10の取り付け前に略平坦であったガラス基板2は、フレーム治具10の収縮する応力を受けて、反り幅αが83μm程度反ったフレーム治具10の溝10aに沿ってひずみ、図5(b)に示すように、ガラス基板2の成膜される面2aが凹の形状に湾曲する。これは、フレーム治具10を構成するステンレスのヤング率(190GPa)が、ガラス基板2を構成する水晶のヤング率(70GPa)よりも大きいことによる。
そして、フレーム治具10に保持されたガラス基板2は、成膜工程に移行する。
【0038】
成膜工程は、ガラス基板2の成膜面2aに誘電体多層膜3が形成される。
誘電体多層膜3の形成は、図5(c)に示すように、フレーム治具10に保持されたガラス基板2を成膜用のサセプタに取り付けて(図示せず)、真空蒸着装置の真空蒸着チャンバー12内に投入し、真空蒸着法を用いてTiO2の高屈折率材料層HとSiO2の低屈折率材料層Lとが交互に多層で成膜される(図1参照)。ガラス基板2上に形成された誘電体多層膜3は、低屈折率材料のSiO2膜の強い圧縮応力と、高屈折率材料のTiO2膜の弱い引張応力により、ガラス基板2の成膜面2aが凸に反る内部応力が発生する(図2参照)。
【0039】
しかし、成膜面2aが凸に反る内部応力によるガラス基板2の反りと、ガラス基板2の四辺の外周部に取り付けられ、成膜面2a側に凹に反ったフレーム治具10の反りとが、互いに相殺されて、誘電体多層膜3は、ガラス基板2が略平坦化した状態に成膜される。なお、ガラス基板2上に形成される誘電体多層膜3は、ガラス基板2に取り付けられたフレーム治具10のコの字形の上面10bにも形成されるが、図5(c)においては、これを省略した。
【0040】
そして、図5(d)に示すように、誘電体多層膜3が形成されたガラス基板2は、真空蒸着チャンバー12内から取り出された後に、フレーム治具10が取り外されて、UV−IRカット機能を備えた光学多層膜フィルタ1が完成する。
なお、光学多層膜フィルタ1が用いられる光学製品が、フレーム治具10をガラス基板2に取り付けた状態であっても機能する場合には、取り外すことなく用いることができる。フレーム治具10をガラス基板2から取り外すことなく用いることで、光学物品に組み込む等の取り扱い時に、ガラス基板2の端面コーナー部の欠け等を防ぐことができる。
【0041】
以上に説明した誘電体多層膜3の形成において、誘電体多層膜3の形成前に、ガラス基板2に対して誘電体多層膜3の接着力を補強する接着助剤的な表面処理を行うのが好ましい。
表面処理は、シラン系カップリング剤あるいはチタン系カップリング剤を、希釈剤としてヘキサン等の有機溶剤に溶解したプライマーと呼ばれる表面処理剤を、ガラス基板2の表面に塗布した後、乾燥させる。これにより、ガラス基板2に対して、優れた接着性を有する誘電体多層膜3を形成することができる。
【0042】
シラン系カップリング剤としては、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン、トリイソプロポキシシラン、トリブトキシシラン、トリオクチロキシシラン、メチルジメトキシシラン、エチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、エチルジエトキシシラン、メチルジオクチロキシシラン、ジメチルメトキシシラン、ジメチルオクチロキシシラン等が挙げられる。
【0043】
チタン系カップリング剤としては、テトラメトキシチタネート、テトラエトキシチタネート、テトラプロポキシチタネート、テトラブトキシチタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリオクタイノルチタネート、ジクミルフェニルオキシアセテートチタネート等が挙げられる。
【0044】
これらのカップリング剤を希釈する溶媒として、ヘキサンの他に、メチルアルコール、エチルアルコール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール(IPA)、アセトン、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン(MEK)、デカリン、テトラリン等が挙げられる。
【0045】
また、誘電体多層膜3の形成によるガラス基板2の反りの発生を防ぐことにより、少なくても1枚の光学多層膜フィルタ1を含む2枚以上のガラス基板を張り合わせて使用する光学物品の場合に、張り合わせ精度が向上し、高性能の光学特性の光学物品を得ることができる。例えば、光学薄膜が形成された光学多層膜フィルタ1を用いることで、UV−IRカット機能の光学多層膜フィルタを一体的に構成した光学ローパスフィルタを容易に得ることができる。
以下に、フレーム治具10を用いて光学薄膜が形成された光学多層膜フィルタを一体的に構成した光学ローパスフィルタについて説明する。
【0046】
図6は、光学ローパスフィルタの構造及び光学軸と光線の進行方向について説明する模式図である。なお、図6は、光学ローパスフィルタを構成する各基板を分解して斜視図により示している。
光学ローパスフィルタ100は、複屈折性を有する透明な2つの水晶板20,30と、2つの水晶板20,30の間に、水晶からなる1/4波長板40を挿入した3層構造の45度分離タイプの一例である。これら3層構造を構成する水晶板20と、1/4波長板40と、水晶板30は、それぞれが光学接着剤等によって気泡が発生しないように一体に貼り合わされている。
【0047】
水晶板20として、前述の光学薄膜の形成方法により誘電体多層膜3が形成された、UV−IRカット機能を一体的に構成した光学多層膜フィルタ1を用いる。
水晶板20は、複屈折性を有する透明な水晶からなり、水晶板20の一方の表面に誘電体多層膜3が形成され(図示せず、図1参照。)、誘電体多層膜3が形成された面が光入射側に配置される。
【0048】
また、水晶板20は、光入射面と直交し、かつ紙面と平行な面(x−z平面)において、z軸と約45度の方位角をなす方向(矢印A1により示す方向)に光学軸(光学的主軸)を有している。この水晶板20に入射した光線L10は、水晶板20の有する複屈折性によって、互いに直交する2つの光線L11,L12に分離される。これらの光線L11,L12は、それぞれ偏光状態が直線偏光に変換されて1/4波長板40に出射する。
【0049】
1/4波長板40は、光入射面(x−y平面)において、x軸と略45度の方位角をなす方向(矢印A2により示す方向)に光学軸を有している。これにより、1/4波長板40に入射した光線L11,L12は、それぞれ直線偏光光から円偏光光に偏光状態が変換されて、2つの光線L13,L14となって水晶板30に出射する。
【0050】
光出射側に配置される水晶板30は、光入射面と直交し、かつ紙面と直交する面(y−z平面)において、y軸と略45度の方位角をなす方向(矢印A3により示す方向)に光学軸を有している。この水晶板30に入射した円偏光光線L13は、水晶板30の有する複屈折性によって、入射面に対して水平方向と垂直方向の互いに直交する2つの光線L15,L16に分離されて出射する。同様に、水晶板30に入射した光線L14は、入射面に対して水平方向と垂直方向の互いに直交する2つの光線L17,L18に分離されて出射する。これらの光線L15,L16,L17,L18は、それぞれ偏光状態が直線偏光に変換されて出射される。
【0051】
このように構成された、光学ローパスフィルタ100は、UV−IRカットフィルタ機能の光学多層膜フィルタ1を一体的に構成した光学ローパスフィルタを得ることができる。特に、構成するそれぞれの水晶板が貼り合わされて一体構造になっている構成において、反りの少ない、光学的歪を防止した光学ローパスフィルタ100を得ることができる。
【0052】
UV−IRカットフィルタ機能の光学多層膜フィルタ1を一体的に構成した光学ローパスフィルタ100は、例えば、デジタルスチルカメラ等に用いることができる。また、光学ローパスフィルタ100を防塵ガラス機能として配置することも可能であり、貼り合せ制度が良い、良好な光学特性のデジタルスチルカメラ等が得られる。
光学ローパスフィルタ100は、デジタルスチルカメラ以外の電子機器装置として、例えば、カメラ付き携帯電話、カメラ付携帯パソコン(パーソナルコンピュータ)等の撮像部に用いることができる。
【0053】
以下、本実施形態の効果を記載する。
(1)真空蒸着法またはスパッタリング法を用いてガラス基板2上に誘電体多層膜3を形成する際に、断面がコの字形を有する棒状の金属材料からなり、コの字形の断面の上下方向に凸または凹に反った形状を備えたフレーム治具10が加熱され、フレーム治具10のコの字形の溝部にガラス基板2の外周部を保持することで、ガラス基板2上に形成される誘電体多層膜3に生じる内部応力に対応した反りをガラス基板2に付与し、ガラス基板2の反りを防ぐことができる。反りの発生を防ぐことで、誘電体多層膜3が略平坦化した状態に形成され、誘電体多層膜3の剥がれ、クラック等の発生、あるいは光学的歪の発生を防止した高性能の光学特性を有する光学薄膜が得られる。
【0054】
(2)フレーム治具10は、誘電体多層膜3が形成されるガラス基板2を保持するだけなので、予めガラス基板2を加工する必要はなく、フレーム治具10は加熱されることにより膨張し、上下方向に凸または凹に反っているにも係わらず、ガラス基板2を容易に保持できる。
【0055】
(3)フレーム治具10のコの字形の断面の上下方向に凸または凹に反った形状の反りが、ガラス基板2上に誘電体多層膜3を形成する際に、ガラス基板2に生じる反り方向と反対の方向であることにより、ガラス基板2上に形成される誘電体多層膜3に生じる内部応力を相殺する反りをガラス基板2に付与し、ガラス基板2の反りを防ぐことができる。なお、フレーム治具10は、誘電体多層膜3に発生する内部応力が圧縮応力であっても、引張応力の場合であっても、フレーム治具10の上下を逆にしてガラス基板2を保持することで対応できる。
【0056】
(4)本実施形態の光学薄膜の形成方法は、断面がコの字形を有する棒状の金属材料からなり、前記コの字形の断面の上下方向に凸または凹に反った形状を備えたフレーム治具10を加熱する加熱工程と、フレーム治具10のコの字形の溝部にガラス基板2の外周部を保持する保持工程と、フレーム治具10およびガラス基板2を冷却する冷却工程と、ガラス基板2上に誘電体多層膜3を形成する成膜工程と、がこの順に加工されることにより、加熱工程で加熱されたフレーム治具10が膨張し、フレーム治具10のコの字形の断面が上下方向に凸または凹に反っているにも係わらず、ガラス基板2の外周部をコの字形の溝部に容易に挿入して保持することができる。そして、フレーム治具10に保持されたガラス基板2およびフレーム治具10が冷却されることで、フレーム治具10が収縮してガラス基板2の外周部が強固に固定されると共に、ガラス基板2にフレーム治具10が反った方向の反りが与えられる。そして、成膜工程においてガラス基板2上に誘電体多層膜3が形成されると、誘電体多層膜3に生じる内部応力と、フレーム治具10が反った方向の反りとが相殺され、ガラス基板2の反りの発生を防ぐことができる。
【0057】
以上に説明した本発明は、前記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。以下に変形例を記載する。
【0058】
(変形例1)
光学薄膜の形成を、光学多層膜フィルタ1(UV−IRカットフィルタ)に適用した場合で説明したが、高反射膜、IRカットフィルタ(Infrared cut filter)、反射防止膜、ハーフミラー等を形成する光学物品に適用することができる。
【0059】
(変形例2)
ガラス基板2として水晶を用いた場合で説明したが、これに限定されず、白板ガラス、BK7、サファイアガラス、ホウケイ酸ガラス、青板ガラス、SF3、SF7、あるいは、一般に市販されている光学ガラス等の光を透過する基板を用いることができる。
【0060】
(変形例3)
光学薄膜(誘電体多層膜3)を形成する成膜材料として、高屈折率材料層HにTiO2を用いた場合で説明したが、Ta25、Nb25、GdF3等を用いることができる。一方、低屈折率材料層LにSiO2を用いた場合で説明したが、MgF2を用いることができる。
【0061】
(変形例4)
誘電体多層膜3の成膜は、真空蒸着法を用いた場合で説明したが、スパッタリング法、イオンアシスト蒸着法、イオンプレーティング法等を用いた場合であっても、同様な効果がえられる。
【0062】
(変形例5)
ガラス基板2をフレーム治具10に保持する(フレーム治具10をガラス基板2に取り付ける)際に、フレーム治具10を加熱温度115℃程度に加熱し、取り付け後に常温程度に冷却した場合で説明したが、加熱温度と冷却温度の値はこれに限定されない。なお、加熱温度と冷却温度の設定温度は、加熱温度と冷却温度の温度差が、許容される範囲内において大きい値に設定することが好ましい。これにより、ガラス基板2にフレーム治具10がより取り付け易くなると共に、フレーム治具10の反り幅αがより大きな場合に対応することができる。
【0063】
(変形例6)
フレーム治具10とガラス基板2を所定の加熱温度に設定したオーブン内に投入し、オーブン内でガラス基板2にフレーム治具10を取り付ける場合で説明したが、フレーム治具10のみを所定の温度に加熱し、加熱したフレーム治具10を、例えば、常温雰囲気下のガラス基板2に取り付ける場合であっても良い。この場合であっても、フレーム治具10の熱膨張係数がガラス基板2の熱膨張係数よりも大きいことで、ガラス基板2にフレーム治具10を容易に取り付けると共に、強固に固定することができる。
【0064】
(変形例7)
ガラス基板2上に形成される誘電体多層膜3は、真空蒸着法を用いて成膜し、低屈折率材料のSiO2膜の強い圧縮応力と、高屈折率材料のTiO2膜の弱い引張応力により、ガラス基板2の成膜面2aが凸に反る圧縮応力(内部応力)が発生する場合で説明したが、同じ成膜材料からなる光学薄膜であっても、用いる成膜方式や、成膜条件(ガラス基板の温度、成膜速度、成膜時の真空度、蒸着源とガラス基板との位置関係等)により内部応力の方向が変化し、ガラス基板の成膜面が凹に反る引張応力が発生する場合がある。この場合には、コの字形の断面の上下方向に反ったフレーム治具10を、ガラス基板2の成膜面2a側が凸になるように保持すればよい。すなわち、誘電体多層膜3に生じる内部応力に対応して、フレーム治具10の上下方向を逆に用いればよい。
【0065】
(変形例8)
フレーム治具10の材質に、金属材料のステンレスを用いた場合で説明したが、ヤング率がガラス基板2よりも大きく、且つ熱膨張係数がガラス基板2より小さい材料ならば、どんな材質であってもよい。この場合におけるフレーム治具10に設定される反り幅αは、前述の一般式(1)〜(3)に基づいて算出することができる。
【0066】
(変形例9)
フレーム治具10にバイメタル機能を備えることができる。フレーム治具10は、断面のコの字形の上面10b側に、フレーム治具10本体の材質よりも低膨張係数からなる材料を圧接固定(図示せず)して構成する。このフレーム治具10を用いることで、フレーム治具10を予め反らせることなくガラス基板2に保持し、フレーム治具10、またはフレーム治具10とガラス基板2を所定の温度に加熱することで、フレーム治具10が、バイメタル効果により、低膨張係数からなる材料側が凹に反る。
【0067】
そして、この状態のガラス基板2上に、所定の誘電体多層膜3が形成されると、誘電体多層膜3の内部応力により成膜面2aが凸に反るガラス基板2の反りと、加熱されることによるフレーム治具10の反りとが、互いに相殺されて、ガラス基板2が略平坦化した状態の誘電体多層膜3を形成することができる。この場合には、誘電体多層膜3が形成されたガラス基板2は、真空蒸着チャンバー内から取り出された後に、フレーム治具10をガラス基板2から取り外す必要がある。
【0068】
なお、バイメタル効果を備えたフレーム治具10は、前記一般式(1)〜(3)、用いる2つの材料を加熱することにより発生する曲げモーメントの式、弾性曲線の曲がりの公式等に基づく湾曲係数の演算、両端支持梁の公式等に基づいて、用いる2つの材料の板厚、加熱温度等を求めることができる。なお、バイメタル効果を備えたフレーム治具10に用いる材質としては、例えば、本体にステンレス(オーステナイト系のSUS304、熱膨張係数17.3×10-6/℃、ヤング率190GPa)、本体のコの字形の上面に圧接固定される低膨張係数からなる材料として、アンバー(例えば、Fe−29Ni−17Co、熱膨張係数5.0×10-6/℃、ヤング率197GPa)を用いることができる。
【0069】
(変形例10)
ガラス基板2として、平面が矩形形状で38×38mm程度の平面サイズを用いて、ガラス基板2上に一組の誘電体多層膜3を形成して、一つの光学多層膜フィルタ1を得る場合で説明したが、より大きな平面サイズのガラス基板を用いて、多数の光学多層膜フィルタを一度に製造することができる。誘電体多層膜3が形成され、冷却されたガラス基板は、レーザカッタ、あるいはダイシングカッタ等を用いて切断することにより、多数の光学多層膜フィルタ1を一度に完成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】ガラス基板に形成される膜構成を説明するための光学多層膜フィルタの断面模式図。
【図2】誘電体多層膜に生じた膜応力によりガラス基板の反った態様を示す模式図。
【図3】(a)は、フレーム治具の斜視図。(b)は、同図(a)におけるA方向からの正面図。(c)は、フレーム治具の長手方向の中心線Oにおける断面を右側面視した断面図。
【図4】(a)はガラス基板をフレーム治具に保持する態様を説明する斜視図。(b)は保持部の拡大断面図。
【図5】ガラス基板に誘電体多層膜を形成する工程を示す模式図であり、(a)は成膜されるガラス基板の断面図。(b)はフレーム治具に保持されたガラス基板の断面図。(c)は、誘電体多層膜が形成された後のガラス基板の断面図。(d)は、フレーム治具が取外されたガラス基板の断面図。
【図6】光学ローパスフィルタの構造及び光学軸と光線の進行方向について説明する模式図。
【符号の説明】
【0071】
1…光学多層膜フィルタ、2…基板としてのガラス基板、2a…成膜面、2b…端面、3…誘電体多層膜、10…フレーム治具、10a…溝部としての溝、10b…上面、11…オーブン、12…真空蒸着チャンバー、20,30…複屈折性を有する水晶板、40…1/4波長板、100…光学ローパスフィルタ、H…高屈折率材料層、L…低屈折率材料層、α…フレーム治具の所定の反り幅、δ…ガラス基板に生じた反り幅。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空蒸着法またはスパッタリング法を用いて基板上に光学薄膜を形成する際に用いるフレーム治具であって、
前記フレーム治具は、断面がコの字形を有する棒状の材料からなり前記コの字形の断面の上下方向に凸または凹に反った形状を有し、
前記基板上に前記光学薄膜を形成する前に、
前記フレーム治具のコの字形の溝部に前記基板の外周部を保持することを特徴とするフレーム治具。
【請求項2】
請求項1に記載のフレーム治具において、
前記フレーム治具の前記コの字形の断面の上下方向に凸または凹に反った形状の反りは、
前記基板上に前記光学薄膜を形成する際に前記基板に生じる反り方向と反対の方向であることを特徴とするフレーム治具。
【請求項3】
請求項1または2に記載のフレーム治具を用いた光学薄膜の形成方法であって、
前記フレーム治具を加熱する加熱工程と、
前記フレーム治具の前記コの字形の溝部に前記基板の外周部を保持する保持工程と、
前記フレーム治具及び前記基板を冷却する冷却工程と、
前記基板上に前記光学薄膜を形成する成膜工程と、
を順に備えたことを特徴とする光学薄膜の形成方法。
【請求項4】
請求項3に記載の光学薄膜の形成方法において、
前記フレーム治具を加熱する加熱工程は、
前記フレーム治具の前記コの字形の溝部が前記基板を挿入可能な溝幅になる加熱温度まで、前記フレーム治具を加熱し膨張させることを特徴とする光学薄膜の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−94040(P2007−94040A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−283561(P2005−283561)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】