説明

フロアモニタ

【目的】床面等の放射能汚染の有無を確実に効率よく検査できる安価なフロアモニタを提供する。
【構成】移動速度を測定する手段と、所定感度を確保するために必要な移動速度の上限値をバックグランド値から算出して表示し、且つ移動速度が上限値に基づいて選択された速度範囲を外れた場合に速度制御信号を出力する手段と、速度制御信号で移動速度を制御する手段と、を備え、バックグランド値から算出された上限値に基づいて選択された速度範囲内に移動速度を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、原子力発電所等の放射性物質取扱施設の床面等の放射能汚染の有無を判別するためのフロアモニタに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所等の放射性物質取扱施設において、その床面等が放射性物質で汚染されているか否かを検査する方法としては、従来技術では、サーベイメータを用いる方法が採用されているが、この方法は、床面等と放射線検出面との距離や角度、移動速さ等によって放射線の検出条件が変わるので、汚染状態を正確に把握することが困難であり、多大の労力を必要とする。特に、ベータ線を用いた汚染検出の場合には、ベータ線の飛程が短いため、サーベイメータを床面等に直面させて近接させる必要があるので、上記の問題点が顕著になる。
このよう問題点を解消させるために、放射線検出面を床面に向けた放射線検出器を台車に搭載して床面等の上を移動させて床面等の放射能汚染を検査するフロアモニタが採用されてきている。
【0003】
図6は、このようなフロアモニタの一例の外観を示す斜視図である。
このフロアモニタは、本体1および上部カバー2、アーム3、操作・表示部4で構成されている。車輪(前輪)11等を有する本体1内には、不図示の放射線検出器およびその信号を処理して表示させる不図示の演算処理部が搭載され、本体1の上部を上部カバー2が覆っている。放射線検出器はその放射線検出面を下向きにして搭載されている。本体1には、アーム3が取り付けられ、その先端には、フロアモニタを移動させるためのハンドル41や検出された放射能汚染密度を表示するメータ42等からなる操作・表示部4が取り付けられている。
作業者は、ハンドル41を操作してこのフロアモニタを床面等の上で移動させ、床面等の放射能汚染の有無を検査する。
【0004】
このようなフロアモニタや同種の機能を有する装置は、特許文献1や特許文献2に開示されている。
【特許文献1】特開平2−259588号公報
【特許文献2】特開平2−59693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のようなフロアモニタを稼動させる場合には、作業者がフロアモニタを手で押して移動させるので、移動速度が一定にはならないばかりでなく、通常のバックグランド値の状態で必要な検出感度を確保しようとすると1秒間に数十mmという遅い移動速度で移動させることが必要であり、バックグランド値が高い場合には、フロアモニタの移動速度を更に遅くすることが必要となる。しかしながら、このような遅い移動速度で安定してフロアモニタを移動させることは非常に困難であって、移動速度が早くなり過ぎたり遅くなり過ぎたりし、その結果として、必要な検出感度を得ることができなかったり所要時間が長くなり過ぎたりする。
この発明の課題は、上記の問題点を解消して、床面等の放射能汚染の有無を確実に効率よく検査できる安価なフロアモニタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、原子力発電所等の放射線管理区域内の作業場所等の床面等から放射される放射線を検出して床面等の放射能汚染の有無を判別するための、車輪で床面等の上を移動する手動式のフロアモニタであって、移動速度を測定するための速度測定手段と、放射能汚染の有無を判別する汚染密度の限界値および測定場所のバックグランド値に対応する移動速度の上限値を算出して表示し、且つこの上限値に基づいて選択された移動速度の最大値および最小値と移動速度とを比較して移動速度が最大値を超えた場合には移動速度制御信号を出力し移動速度が最小値未満になった場合には移動速度制御信号を解除するための演算・制御手段と、前記移動速度制御信号によって前記車輪に制動力を働かせるための速度制御手段と、を備えている。
速度測定手段と演算・制御手段と速度制御手段とを備えることによって、フロアモニタの移動速度を、測定場所のバックグランド値に対応し且つ所定の放射能汚染密度を判別できる移動速度以内の適当な範囲内に維持することができる。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記速度測定手段として、前記車輪の回転に連動するエンコ―ダを備えている。
エンコ―ダは性能的にもコスト的にもこの目的に最も適している。
請求項3の発明は、請求項1の発明において、前記速度制御手段が、前記車輪の回転軸に固定された第1のギヤと、これに隣接して配置され且つ車輪の回転軸の周りを自由に回転できる第2のギヤと、第2のギヤの側面の外周寄りに取り付けられ且つ第1のギヤに噛み合わされたダンパーギヤと、前記移動速度制御信号によって第2のギヤの回転を止めるストッパーと、で構成されている。
上記の構成においては、ダンパーギヤは、第2のギヤが自由に回転している状態では第1のギヤに制動力を及ぼすことがなく、第2のギヤがストッパーで回転を止められた状態で第1のギヤに制動力を及ぼす。しかも、ダンパーギヤの制動力は車輪の回転を止めてしまうほどには強くないので、第2のギヤの回転をストッパーでON、OFFさせることでフロアモニタの移動速度を適切な範囲に制御することができる。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明においては、移動速度を測定するための速度測定手段と、放射能汚染の有無を判別する汚染密度の限界値および測定場所のバックグランド値に対応する移動速度の上限値を算出し、且つこの上限値に基づいて選択された移動速度の最大値および最小値と移動速度とを比較して移動速度が最大値を超えた場合には移動速度制御信号を出力し移動速度が最小値未満になった場合には移動速度制御信号を解除するための演算・制御手段と、移動速度制御信号によって車輪に制動力を働かせるための速度制御手段と、を備えているので、フロアモニタの移動速度を、測定場所のバックグランド値に対応し且つ所定の放射能汚染密度を判別できる移動速度以内の適当な範囲内に維持することができる。したがって、この発明によれば、床面等の放射能汚染の有無を確実に効率よく検査できるフロアモニタを提供することができる。
【0009】
請求項2の発明においては、速度測定手段として、車輪の回転に連動するエンコ―ダを備えているが、エンコ―ダは性能的にもコスト的にもこの目的に最も適している。したがって、この発明によれば、床面等の放射能汚染の有無を確実に効率よく検査できる安価なフロアモニタを提供することができる。
請求項3の発明においては、速度制御手段が、車輪の回転軸に固定された第1のギヤと、これに隣接して配置され且つ車輪の回転軸の周りを自由に回転できる第2のギヤと、第2のギヤの側面の外周寄りに取り付けられ且つ第1のギヤに噛み合わされたダンパーギヤと、移動速度制御信号によって第2のギヤの回転を止めるストッパーと、で構成されているので、第2のギヤの回転をストッパーでON、OFFさせることでフロアモニタの移動速度を適切な範囲に制御することができ、ギヤの組み合わせであるのでコスト的にも優れている。したがって、この発明によれば、床面等の放射能汚染の有無を確実に効率よく検査できる安価なフロアモニタを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
この発明の最良の形態について実施例を用いて説明する。
なお、従来技術と同じ機能の部分には同じ符号を付ける。
図1は、この発明によるフロアモニタの特徴を説明するための検査時のフローチャートであり、図2は、この発明によるフロアモニタの実施例の外観を示す側面図であり、図3は、実施例の外観を示す平面図であり、図4は、実施例の車軸近傍の構成を示す部分正面図であり、図5は、実施例の速度調節部7の動作を説明するための図で、(a)は速度制御する前の状態を示す斜視図、(b)は速度制御した状態を示す斜視図である。
この実施例は、全体が本体1aと上部カバー2aとアーム3と操作・表示部4aとで構成されていることは従来のフロアモニタと同じであるが、この実施例の最大の特徴は、放射能汚染の有無を判別する汚染密度の限界値および測定場所のバックグランド値に対応する移動速度の上限値を算出して、これに対応させて移動速度の範囲を作業者に設定させ、移動速度を設定範囲内に制御するための機能を本体1aおよび操作・表示部4a等に備えさせていることである。
【0011】
上記の機能は、本体1aに内蔵されている演算・制御部15および速度測定部6、速度調節部7と、操作・表示部4aの操作・表示面43とで実現されている。
フローチャートに従って説明すると、検査の準備段階では、測定場所が作業者によって入力され、次に、測定場所のバックグランド値が測定されるか、またはその測定場所の既知データが選択採用され、このバックグランド値と放射能汚染の有無を判別する汚染密度の限界値とから、フロアモニタの移動速度の上限値が演算・制御部15で算出されて操作・表示面43に表示される。作業者は、この上限値に基づいて、移動速度の設定範囲を選択する。
この移動速度範囲の選択によって検査が開始される(図1では「測定開始」と記す)。
検査は、作業者がフロアモニタを検査対象の床面等の上を手動で移動させることによって実行され、汚染密度の測定および記録、表示と移動速度の測定および制御とが並行実施されて進められる。
【0012】
汚染密度の測定および記録、表示は、放射線検出器13による放射線の検出と、その検出結果に基づく演算・制御部15での汚染面密度の算出および汚染有無の判定、記録と、操作・表示面43への表示と、であり、移動速度の測定および制御は、速度測定部6による移動速度の測定と、演算・制御部15による移動速度測定結果と設定範囲との比較と、移動速度測定結果が設定範囲を超えている場合に演算・制御部15から出力され、移動速度測定結果が設定範囲未満の場合に解除される移動速度制御信号によって駆動される速度調節部7の制動動作およびその解除と、である。
ここで、図4によって速度測定部6を、図4および図5によって速度調節部7を更に詳しく説明する。
本体1aの本体カバー19には、車軸18が取り付けられており、この車軸18は、左右一対の車輪(後輪)12に直結されている一対の第1の車軸181と、その内側にワンウェイクラッチ77を介して配置されている第2の車軸182とで構成されている。速度測定部6は、移動距離検出器兼速度検出器としてのエンコーダ62と、車輪12の回転を第1の車軸181を介してエンコーダ62に伝達するエンコーダ用ギヤ61とで構成されている。エンコーダ62の移動距離データを時間微分することで移動速度が得られる。
【0013】
測定された移動速度は、演算・制御部15で設定範囲と比較されて、設定範囲内にある場合には移動速度制御信号はそのまま維持されて「適当な速度」と表示され、設定範囲を超えている場合には移動速度制御信号が出力されて「速度超過」と表示され、設定範囲に満たない場合には移動速度制御信号が解除されて「速度不足」と表示される。作業者9は、表示を見てフロアモニタを押す力を調節し、フロアモニタの移動速度をできる限り設定範囲内に維持する。
速度調節部7は、「課題を解決するための手段」の項で説明した速度制御手段に相当するものであって、第2の車軸182に固定された左右一対の第1のギヤ71と、これに隣接して両者の間に配置され且つ第2の車軸182の周りを自由に回転できる第2のギヤ72と、第2のギヤ72の両側面の外周寄りに取り付けられ且つ第1のギヤ71に噛み合わされた複数のダンパーギヤ73と、第2のギヤ73の回転を止めるストッパー74と、演算・制御部15が出力する移動速度制御信号によってストッパー74を駆動するソレノイド75と、移動速度制御信号の解除でストッパー74を元に戻す復帰ばね76と、で構成されている。
【0014】
上記の構成においては、ダンパーギヤ73は、第2のギヤ72が自由に回転している状態では第1のギヤ71に制動力を及ぼすことがなく、第2のギヤ72がストッパー74で回転を止められた状態で第1のギヤ71に制動力を及ぼす。しかも、ダンパーギヤ73の制動力は車輪12の回転を止めてしまうほどには強くないので、第2のギヤ72の回転をストッパー74でON、OFFさせることでフロアモニタの移動速度を適切な範囲に制御することができる。
この実施例においては、左右一対の第1のギヤ71とこれに対応して第2のギヤ73の両側に配置された複数のダンパーギヤ73とが用いられているが、第1のギヤ71およびダンパーギヤ73を片側だけにすることもできる。どちらを採用するかは必要とする制動力によって決めればよく、必要な制動力によってダンパーギヤ73の数も決まる。
前述したワンウェイクラッチ77は、車輪18が前進するときにのみ第1の車軸181と第2の車軸182とを連結させるものであって、前進時には速度調節部7が車輪12の回転を制御するが、後退時には車輪12を自由に回転させる。この機能を備えることによって、方向変換等が短時間に容易にできるようになる。
【0015】
なお、この実施例においては、上部カバー2aに、検査結果等をプリントアウトするプリンタ21とバッテリーの現状を示すバッテリー残量計22と商用電源とバッテリーとを切り換える電源切換スイッチ23とが備えられ、本体1aに、アーム3の傾きを調節する角度調節レバー16と本体1aの側面を保護する保護ラバー17とバッテリー充電器5の接続端子(不図示)とが設けられ、操作・表示部4aに、ハンドル41および操作・表示面43に加えて測定モードや校正モード等を切り換えるモードスイッチ45と検査を終了させる「終了」スイッチ46が配備されている。
この実施例を用いると、速度測定部6が測定した移動速度に対応して速度調節部7が移動速度を設定範囲内に制御しようとするので、フロアモニタを稼動させている作業者は容易に移動速度を設定範囲内に収めることができ、その結果として、必要な検出感度で放射能汚染を検査することができ、且つその検査所要時間も所定時間内に収まるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明によるフロアモニタの特徴を説明するための検査時のフローチャート
【図2】この発明によるフロアモニタの実施例の外観を示す側面図
【図3】実施例の外観を示す平面図
【図4】実施例の車軸18近傍の構成を示す部分正面図
【図5】実施例の速度調節部7の動作を説明するための図で、(a)は速度制御する前の状態を示す斜視図、(b)は速度制御した状態を示す斜視図
【図6】従来技術によるフロアモニタの一例の外観を示す斜視図
【符号の説明】
【0017】
1、1a 本体
11 車輪(前輪) 12 車輪(後輪)
13 放射線検出器 14 バッテリー
15 演算・制御部 16 角度調節レバー
17 保護ラバー
18 車軸
181 第1の車軸 182 第2の車軸
19 本体カバー
2、2a 上部カバー
21 プリンタ 22 バッテリー残量計
23 電源切換スイッチ
3 アーム
4、4a 操作・表示部
41 ハンドル 42 メータ
43 操作・表示面 45 モードスイッチ
46 「終了」スイッチ
5 バッテリー充電器
6 速度測定部
61 エンコーダ用ギヤ 62 エンコーダ
7 速度調節部
71 第1のギヤ 72 第2のギヤ
73 ダンパーギヤ
74 ストッパー
741 ストッパー支点
75 ソレノイド 76 復帰ばね
77 ワンウェイクラッチ
9 作業者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子力発電所等の放射線管理区域内の作業場所等の床面等から放射される放射線を検出して床面等の放射能汚染の有無を判別するための、車輪で床面等の上を移動する手動式のフロアモニタであって、
移動速度を測定するための速度測定手段と、
放射能汚染の有無を判別する汚染密度の限界値および測定場所のバックグランド値に対応する移動速度の上限値を算出して表示し、且つこの上限値に基づいて選択された移動速度範囲の最大値および最小値と移動速度とを比較して移動速度が最大値を超えた場合には移動速度制御信号を出力し移動速度が最小値未満になった場合には移動速度制御信号を解除するための演算・制御手段と、
前記移動速度制御信号によって前記車輪に制動力を働かせるための速度制御手段と、
を備えている、
ことを特徴とするフロアモニタ。
【請求項2】
前記速度測定手段として、前記車輪の回転に連動するエンコーダを備えていることを特徴とする請求項1に記載のフロアモニタ。
【請求項3】
前記速度制御手段が、前記車輪の回転軸に固定された第1のギヤと、これに隣接して配置され且つ車輪の回転軸の周りを自由に回転できる第2のギヤと、第2のギヤの側面の外周寄りに取り付けられ且つ第1のギヤと噛み合わされたダンパ―ギヤと、前記移動速度制御信号によって第2のギヤの回転を止めるストッパーと、で構成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のフロアモニタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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