説明

フロロタンニン含有脂質代謝改善物質

【課題】 脂質代謝の改善に有効な新規な脂質代謝改善物質を提供する
【解決手段】 脂質代謝改善物質として、海藻、特にクロメ由来のフロロタンニンを使用する。フロロタンニンを摂取することにより優れた脂質代謝改善効果を有する。フロロタンニンは飲食料品や医薬品の有効成分として使用することにより、脂質代謝異常に由来する疾患の予防・治療への応用が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロロタンニンを含有することを特徴とする脂質代謝改善物質に関する。さらに詳細には、海藻由来のフロロタンニンである、エコール(eckol)、フロロフコフロエコールA(phlorofucofuroeckol A)、ダイエコール(dieckol)、8,8'-バイエコール(bieckol)を有効成分として含有する脂質代謝改善物質に関する。また、当該脂質代謝改善物質を含有する飲食料品、医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
食習慣、運動習慣、休養、喫煙、飲酒等の生活習慣が要因となり発症・進行する疾患群を総称して「生活習慣病」と呼ばれている。生活習慣病としては、インスリン非依存性糖尿病(成人型糖尿病)、肥満、高脂血症(家族性を除く)、高尿酸血症、循環器疾患(先天性を除く)、大腸癌(家族性を除く)、高血圧症、肺扁平上皮癌、慢性気管支炎、肺気腫、アルコール性肝障害、歯周病などが含まれるとされている。
【0003】
中でも、高脂血症(脂質代謝異常症)は、血液中の脂質濃度が高い状態で維持され、また、脂質代謝に異常を来した状態が継続すると、動脈硬化、高血圧、脳卒中などへ発展するために注意が必要である。血中の脂質としては、主にコレステロールと中性脂肪の2種類の脂質が存在する。コレステロールには、LDL(低密度リポタンパク質)とHDL(高密度リポタンパク質)とがある。このうちLDLは、上記生活習慣病の原因となるので悪玉コレステロールとも呼ばれ、他方、HDLは、動脈硬化などの原因となり得る遊離コレステロールを除去する作用があることから善玉コレステロールと呼ばれている。
このような脂質代謝に異常を来した症状の改善には、薬剤の使用はもちろんであるが、今日的には健康意識の向上もあり、日常生活から食生活への様々な工夫がなされてきている。その一つに、自然界にある健康に有益な食物成分を日常生活から積極的に体内に取り込むことで脂質代謝改善、体内脂肪蓄積抑制を促し、生活習慣病の予防を積極的に行なおうとするスタイルが定着してきた。
【0004】
例えば、食物繊維、ビタミンやポリフェノールなどを積極的に摂取することにより、脂肪蓄積抑制効果や血清中の中性脂肪抑制効果があることが知られている(特許文献1、非特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開2003−146898号公報
【非特許文献1】長田 恭一ら、日本農芸化学会誌2004年度大会(平成16年3月28日〜31日開催)「演題:肥満誘導食摂取条件下におけるポリフェノール素材投与によるラットの脂肪蓄積抑制作用」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、脂質代謝の改善に有効な新規な脂質代謝改善物質および当該物質を含有する食品または医薬品等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、脂質代謝を改善できる天然素材の探索を行った結果、海藻由来成分であるフロロタンニンに脂質代謝改善効果があることを見出して、本発明の完成に至った。
【0008】
すなわち、本発明は、脂質代謝改善に有効な物質として、下記の発明を含むものである。
【0009】
1)フロロタンニンを有効成分として含有することを特徴とする脂質代謝改善物質。
【0010】
2)当該フロロタンニンが、エコール、フロロフコフロエコールA、ダイエコール、8,8'-バイエコールから選択される1つまたは2つ以上を含む上記1)に記載の脂質代謝改善物質。
【0011】
3)当該フロロタンニンが海藻由来のフロロタンニンである上記1)または2)に記載の脂質代謝改善物質。
【0012】
4)当該海藻由来のフロロタンニンが褐藻類のクロメ、アラメ、またはカジメから選択される海藻に由来するフロロタンニンである上記3)に記載の脂質代謝改善物質。
【0013】
5)当該海藻由来のフロロタンニンがクロメに由来するフロロタンニンである上記4)に記載の脂質代謝改善物質。
【0014】
6)上記1)から5)のいずれかに記載の脂質代謝改善物質を含有する加工飲食料品。
【0015】
7)上記1)から5)のいずれかに記載の脂質代謝改善物質を含有する食品添加物。
【0016】
8)上記1)から5)のいずれかに記載の脂質代謝改善物質を含有する医薬品。
【発明の効果】
【0017】
本発明のフロロタンニンを含有する脂質代謝改善物質およびこの脂質代謝改善物質を含有する健康食品を摂取することにより、日常的に脂質代謝を改善でき、高脂血症等の生活習慣病の改善が期待される。また、この脂質代謝改善物質を含有する医薬品は、高脂血症等の生活習慣病の治療への応用が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の脂質代謝改善物質は、フロロタンニンを含有することを特徴とする。本発明のフロロタンニンとしては、褐藻類、特にクロメより抽出されるフロロタンニンが好ましい。クロメより抽出されるフロロタンニンは、主としてエコール、フロロフコフロエコールA、ダイエコール、8,8'-バイエコールから構成される。これらの各フロロタンニン類の構造式を図1に示す。これらの各フロロタンニンは、単独もしくは適宜混合して使用することができ、特にその配合比・純度にこだわるものではない。
【0019】
フロロタンニンは、例えば、上記クロメの乾燥粉末をメタノール抽出後、抽出物を濃縮し、メタノール、クロロホルム、水を加え、上層と下層に分かれさせて、上層を酢酸エチルで抽出し、酢酸エチル層を減圧下で濃縮することにより得られる(粗フロロタンニン)。
【0020】
粗フロロタンニンはフロログルシノール(2%)、エコール(9%)、フロロフコフロエコールA(28%)、ダイエコール(24%)、8,8'-バイエコール(7%)、その他(30%)で構成され、ケイ酸カラムクロマト法により、クロロホルム:メタノール:水(80:20:2, v/v)によって分離される。分離された画分のTLCプレート上で単一スポットとなる部分をそれぞれ集めることにより、エコール、フロロフコフロエコールA、ダイエコール、8,8'-バイエコールが単離できる。
【0021】
クロメ抽出フロロタンニンと化学構造式が同様であれば原料、抽出法およびその含有量を限定するものではなくまた、個々のフロロタンニンは図1記載の構造式に基づき化学合成等により得ることもできる。
【0022】
本発明により得られるフロロタンニンは、適切な摂取方法、量、頻度を考慮することにより、人、動物の哺乳類から甲殻類に至るまで生体の健康維持増進に寄与することが可能となる。
【0023】
例えば、人においては健康食品、健康飲料、ダイエット目的の加工食品、サプリメントまたは日常の食卓にも直接応用できる。コンパニオンアニマルなどに対しても肥満動物、高齢化ペットの健康管理にそれらの加工食品飲料成分として活用できる。また、畜産・養殖魚においても飼料や飲水として本成分を摂取することで脂肪過多の肉質・食材を改善できる。
【0024】
本発明のフロロタンニン脂質代謝改善物質を含有する食品には、必要に応じて、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、着色料、香料、食品添加物、調味料などと混合され得る。そして、これらは必要に応じて、ハードカプセル、ソフトカプセルのようなカプセル剤、錠剤、もしくは丸剤としてか、または粉末状、顆粒状、飴状などの形状に成形され得る。
【0025】
以下、本発明の好ましい実施態様を実施例として示すが、これに限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
《実施例1:フロロタンニン抽出法・種類・性状・成分》
褐藻類のクロメ(Ecklonia kurome)は乾燥して粉砕した。クロメの粉末(水分約10%、800g)はメタノール(2400mL)とともに5℃で48時間振とう(90rev min-1)して抽出した。抽出物は減圧下で濃縮し、メタノール(240mL)、クロロホルム(480mL)、水(180mL)を加え、上層と下層に分かれさせて、上層を酢酸エチル(300mL)で2回抽出した。酢酸エチル層を減圧下で濃縮したものを粗フロロタンニンとした。クロメ粉末からの粗フロロタンニンの収量は約3%である。
【0027】
粗フロロタンニンはフロログルシノール(2%)、エコール(9%)、フロロフコフロエコールA(28%)、ダイエコール(24%)、8,8'-バイエコール(7%)、その他(30%)で構成され、ケイ酸カラムクロマト(15mm i.d.×150cm, Wakogel C-300HG,和光純薬化学工業)で、クロロホルム:メタノール:水(80:20:2,v/v)によって分離した。分離した画分のTLCプレート上で単一スポットとなる部分をそれぞれ集めたものが、エコール、フロロフコフロエコールA、ダイエコール、8,8'-バイエコールとなった。
【0028】
《実施例2:試験用フロロタンニン摂取ラットにおける肝臓脂質酸化抑制作用》
試験に供するウイスター系ラット(140〜150g、オス、1群8匹)全てに対して予備飼育期間の7日間は、ラボMRストック(MR:日本農産工業(株))を与えた。その後、高脂肪・高コレステロール(コレステロール1.0%、コール酸0.25%、ラード12%)を含む加工飼料(高脂肪含有ラボMRストック:HLCMR)にフロロタンニンを0.02、0.1または0.5%飼料に添加し14日間自由に摂食させた群、およびHLCMRを飼料としながらフロロタンニンを125、2000または4000mg/L飲水(水道水)に添加しそれぞれ14日間自由に与えた群を各試験群として飼育観察した。これらの試験群に対する陽性対照群としてはHLCMRを、陰性対照群はMRを、また各々飲水は水道水を試験群と同期間自由に与えた。各群14日後に肝臓組織を取り出し、下記試験に供した。
【0029】
肝臓の組織当たりの過酸化脂質(LPO)は10倍量のクロロホルム/メタノール(2/1)で脂質を抽出後、高速液体クロマトグラフィーによるトリフェニルホスフィン法(T. Nakamura, H. Maeda Lipids 26, 745-768, 1991)で測定した。すなわち、約1mgの脂質を30分間暗所でトリフェニルホスフィンにより還元し、生成したトリフェニルホスフィンオキサイドを高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定した。HPLCの条件は、カラムNovapack Silica(3.9i.d.×150mm)、溶離液はn-hexane/2-propanol(97:3)を使用し、流速1.0mL/min、吸収波長230nmで検出した。
【0030】
その結果、HLCMR飼料を摂取することにより、ラットは短期間に肝臓組織において脂肪蓄積が明らかとなり脂肪代謝への影響が生じた。このようなモデルにおいてフロロタンニンを摂取した群は摂取しない陽性対照群に比べて肝臓脂質の酸化度合が有意に低く、肝臓脂質代謝の悪化を抑制した(図2)。
【0031】
《実施例3:フロロタンニン摂取ラットにおける肝臓コレステロールへの影響》
実施例2に示したラットへの投与法と同様に行ったが、試験群の構成としては、フロロタンニンの混餌投与系では、0.02または0.1%の2群とし、飲水投与系では、125、500、2000または4000mg/Lの4群を設定した。対照群も含め各群投与開始14日後に肝臓組織を取り出し、コレステロール値測定に供した。
分析用試料は、肝臓0.5gをメタノール5mL、クロロホルム5mLを加えて抽出後、無水硫酸ナトリウムで脱水して濃縮し、上記をイソプロパノール1mLに溶かして調製した。測定は以下の項目について市販キット(和光純薬工業(株)製)を用いた酵素法により行った。
・総コレステロール(T-cho):コレステロールE-テストワコー
・中性脂肪(TG):トリグリセライドE-テストワコー
・HDLコレステロール(HDL):HDL-コレステロールE-テストワコー
・LDLコレステロール(LDL):(T-cho)−(HDL)より算出。
【0032】
その結果、図3に示すように、フロロタンニンを摂取しなかった陽性対照群は高脂肪・高コレステロール食(HLCMR)により、通常食(MR)群に比べてT-cho、TG、HDL,LDLとも大きく異なり、肝臓コレステロールへの明らかな影響が認められた。このような中でフロロタンニンをHLCMR飼料に添加し摂取した群は肝臓組織のT-cho及び悪玉コレステロールとされるLDL値の増大化を有意に抑制した。また、飲水からフロロタンニンを摂取した試験群も同様の抑制効果が認められた。TGの場合はフロロタンニン摂取群が平均値においていずれも陽性対照群より低くTG増大の抑制傾向を示した。善玉コレステロールとされるHDLはフロロタンニン少量摂取群が陰性対照群と近い値を示したものの、いずれの群とも絶対値が小さく投与による悪影響はなかった。
このように、適量のフロロタンニンを摂取していくことで、肝組織におけるコレステロール値の急激な悪化を抑制し、脂質代謝を改善する作用が確認された。
【0033】
《実施例4:フロロタンニン投与によるラット血清中性脂肪への影響》
実施例2に示した各試験群に500mg/Lのフロロタンニン飲水投与群を加えて実施した。対照群も実施例2と同様に設定し実施した。各ラットは、試験飼料投与開始後、14日目に12時間の絶食期間を経て、心臓部より採血し、その血清中性脂肪(TG)を測定した。
血清中性脂肪はネスコートVL II TG試薬を用いたGPO・酵素法の原理により自動分析装置(日立7350形)を用いて測定した。
その結果、陽性対照群は、HLCMR投与により血清中性脂肪値の急激な増加が認められた。そのような中でフロロタンニンの混餌投与系では0.5%群において血清中性脂肪の増大抑制作用が認められた。また、飲水としてフロロタンニンを摂取した各群(125〜4000mg/L)は何れの群もラットの血清中の中性脂肪の増大を抑制した。これらの値は陰性対照群と同等であった(図4)。
【0034】
《実施例5:フロロタンニン添加クルマエビ飼料による肝膵臓脂質酸化抑制作用》
養殖クルマエビ飼料(フィッシュミール50%、アミ47%、添着剤2%、ビタミンミックス1%にフロロタンニンを添加(0.1,0.5または1.0%外割)し、2週間経口投与後、クルマエビの肝膵臓脂質含量及びLPOを測定した。
肝膵臓のLPOは、実施例3に記載の組織あたり過酸化脂質測定法により実施した。
【0035】
その結果、フロロタンニン摂取クルマエビ肝膵臓組織中のLPOが対照群に比べ非常に小さく、フロロタンニンによる肝膵臓脂質酸化抑制作用が認められた(図5)。
上記成績は実施例1からなるフロロタンニンが生体の高脂肪・高コレステロール化に伴う健康阻害(例えば生活習慣病)の進展を抑制する、即ち脂肪代謝系の働きの増悪化を効果的に抑制する成分であることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】各フロロタンニン類の構造式を示す図。
【図2】高脂肪高コレステロール食ラットにおけるフロロタンニンの肝臓脂質代謝異常(脂質酸化)抑制効果を示す図。
【図3】高脂肪高コレステロール食ラットにおけるフロロタンニンの肝臓コレステロール抑制効果を示す図。
【図4】高脂肪高コレステロール食ラットにおけるフロロタンニンの血清中性脂肪抑制効果を示す図。
【図5】フロロタンニン投与クルマエビの肝臓脂質酸化抑制効果を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロロタンニンを有効成分として含有することを特徴とする脂質代謝改善物質。
【請求項2】
当該フロロタンニンが、エコール、フロロフコフロエコールA、ダイエコール、8,8'-バイエコールから選択される1つまたは2つ以上を含む請求項1に記載の脂質代謝改善物質。
【請求項3】
当該フロロタンニンが海藻由来のフロロタンニンである請求項1または2に記載の脂質代謝改善物質。
【請求項4】
当該海藻由来のフロロタンニンが褐藻類のクロメ、アラメ、またはカジメから選択される海藻に由来するフロロタンニンである請求項3に記載の脂質代謝改善物質。
【請求項5】
当該海藻由来のフロロタンニンがクロメに由来するフロロタンニンである請求項4に記載の脂質代謝改善物質。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の脂質代謝改善物質を含有する加工飲食料品。
【請求項7】
請求項1から5のいずれかに記載の脂質代謝改善物質を含有する食品添加物。
【請求項8】
請求項1から5のいずれかに記載の脂質代謝改善物質を含有する医薬品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−328010(P2006−328010A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−155887(P2005−155887)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(000173555)財団法人化学及血清療法研究所 (86)
【Fターム(参考)】