説明

フロントウインド支持構造

【課題】カウル部に閉断面を形成することなく、歩行者保護性能を確保し、また、カウルパネルとダッシュアッパパネルとを結合するフランジを廃止してカウルパネルにてフロントウインド部材を支持することで、上方からの衝撃荷重に対する吸収性能の向上を図り、かつ、ダッシュアッパパネルに相当する部材も不要となるフロントウインド支持構造を提供する。
【解決手段】エンジンルーム1と車室8とを仕切るダッシュロアパネル9と、
フロントウインド部材16を支持するカウルパネル15とを備え、カウルパネル15は、その下端部がダッシュロアパネル9に取付けられた状態でその上端部がフロントウインド部材16を支持し、かつ車両側面視で垂直または後傾状態で設けられていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンルームと車室とを仕切るダッシュロアパネルと、フロントウインド部材(フロントウインドガラス)を支持するカウルパネルと、を備えたようなフロントウインド支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フロントウインド部材としてのフロントウインドガラスを支持する構造としては、特許文献1に開示された構造がある。
すなわち、図9に示すように、カウルアウタパネル61とカウルインナパネル62(ダッシュアッパパネルに相当)とでカウル部63を構成し、カウルアウタパネル61に接着剤64を介してフロントウインドガラス65を支持させた構造において、カウルインナパネル62の下部前面からカウルアウタパネル61の前片背面に向けてブレース66を設け、このブレース66とカウルインナパネル62とカウルアウタパネル61との間に閉断面67を形成し、この閉断面構造によりNVH(nois ノイズ、vibration 振動、harshness 連成振動の略)性能を確保すると共に、上述のブレース66の上下方向中間部に折れ部66aを設け、上方からの衝撃荷重入力時に、折れ部66aを起点としてブレース66の変形を促進することで、歩行者保護を図ったものである。
【0003】
図9に示す従来構造においては、NVH性能と歩行者保護性能との両立を図ることができる利点がある反面、閉断面構造に成す必要があるためカウル部63周りのレイアウトに制約を受ける問題点があった。
加えて、図9に示す従来構造においては、カウルアウタパネル61とカウルインナパネル62(ダッシュアッパパネルに相当)とを結合するためのフランジ部68を有しているので、フロントウインドガラス65に上方から衝撃荷重が入力された時、その荷重吸収性能が劣る問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−331720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、この発明は、カウルパネルの下端部がダッシュロアパネルに取付けられた状態で該カウルパネルの上端部がフロントウインド部材を支持し、かつ車両側面視でカウルパネルが垂直または後傾状態に設けられることにより、カウル部に閉断面を形成することなく、歩行者保護性能を確保することができ、また、カウルパネルとダッシュアッパパネルとを結合するフランジを廃止してカウルパネルにてフロントウインド部材を支持することで、上方からの衝撃荷重に対する吸収性能の向上を図ることができ、加えて、ダッシュアッパパネルに相当する部材も不要となるフロントウインド支持構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明によるフロントウインド支持構造は、エンジンルームと車室とを仕切るダッシュロアパネルと、フロントウインド部材を支持するカウルパネルとを備えたフロントウインド支持構造であって、上記カウルパネルは、その下端部がダッシュロアパネルに取付けられた状態でその上端部がフロントウインド部材を支持し、かつ車両側面視で垂直または後傾状態で設けられているものである。
上記構成によれば、カウルパネルによりフロントウインド部材を支持するので、カウル部に閉断面が形成されることがなく、このため歩行者保護性能を確保することができる。
【0007】
また、カウルパネルとダッシュアッパパネルとを結合するフランジを廃止することができ、カウルパネルにてフロントウインド部材を支持することができるので、上方からの衝撃荷重に対する吸収性能の向上を図ることができる。
さらに、従来のダッシュアッパパネルに相当する部材も不要となり、カウル部を構成する部品点数の削減と組付け工数の低減とを図ることができ、カウル部のシンプル化を達成することができる。
【0008】
この発明の一実施態様においては、上記カウルパネルのダッシュロアパネルに取付けられる下端部は、フロントウインド部材に取付けられる上端部に対して車両前方に位置するように設けられ、該カウルパネルが車両側面視で略直線状に配設されたものである。
上記構成によれば、上記カウルパネルを後傾状態で設けることができるので、フロントウインド部材に対して、斜め前上方から衝撃荷重が入力した際の該カウルパネルの変形が容易となる。
【0009】
この発明の一実施態様においては、上記カウルパネルの下端部とダッシュロアパネルとを接合する下部フランジがカウルパネル下端から前方へ向けて延出し、カウルパネルの上端部とフロントウインド部とを接合する上部フランジがカウルパネル上端から後方へ向けて延出しているものである。
上記構成によれば、下部フランジを前方へ向けて延出し、上部フランジを後方へ向けて延出したので、斜め前上方からの荷重入力に対して上記カウルパネルの変形が容易となる。
【0010】
この発明の一実施態様においては、上記カウルパネルの上下方向中間位置には折れ起点が設けられたものである。
上記構成によれば、上述の折れ起点を設けたので、斜め前上方からの荷重入力に対して上記カウルパネルの変形を促進することができる。
【0011】
この発明の一実施態様においては、上記カウルパネルには、上下方向に延びる複数の変形促進用のスリットが形成されたものである。
上記構成によれば、カウルパネルに変形促進用のスリットを形成したので、フロントウインド部材に対して斜め前上方から衝撃荷重が入力した時、該スリットが口開き変形し、カウルパネルがより一層容易に変形する。
【0012】
この発明の一実施態様においては、上記カウルパネルには、空調用の空気を取込むための開口が設けられたものである。
上記構成によれば、上記開口から空調用の空気を取込むことができるのは勿論、該開口の形成により、斜め前上方からの荷重入力に対するカウルパネルの変形が容易となる。
【0013】
この発明の一実施態様においては、上記カウルパネルの後面には、該カウルパネルの上下両端部を接続する帯状のステーが設けられたものである。
上記構成によれば、帯状のステーを設けることで、カウルパネルによるフロントウインド部材の振動防止を図ることができる。つまり、フロントウインド部材の振れ防止を図り、NV性能の向上と、上方からの衝撃荷重入力に対する荷重吸収性能の向上と、の両立を図ることができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、カウルパネルの下端部がダッシュロアパネルに取付けられた状態で該カウルパネルの上端部がフロントウインド部材を支持し、かつ車両側面視でカウルパネルが垂直または後傾状態に設けられているので、カウル部に閉断面を形成することなく、歩行者保護性能を確保することができ、また、カウルパネルとダッシュアッパパネルとを結合するフランジを廃止してカウルパネルにてフロントウインド部材を支持することで、上方からの衝撃荷重に対する吸収性能の向上を図ることができ、加えて、ダッシュアッパパネルに相当する部材も不要となる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のフロントウインド支持構造を備えた車両前部の斜視図
【図2】フロントウインド支持構造を示す側面図
【図3】カウルパネルの斜視図
【図4】フロントウインド支持構造の変形状態を示す側面図
【図5】フロントウインド支持構造の他の実施例を示す側面図
【図6】フロントウインド支持構造のさらに他の実施例を示す側面図
【図7】図6で示した支持構造の変形状態を示す側面図
【図8】フロントウインド支持構造のさらに他の実施例を示す側面図
【図9】従来のフロントウインド支持構造を示す側面図
【発明を実施するための形態】
【0016】
カウル部に閉断面を形成することなく、歩行者保護性能を確保することができ、また、カウルパネルとダッシュアッパパネルとを結合するフランジを廃止してカウルパネルにてフロントウインド部材を支持することで、上方からの衝撃荷重に対する吸収性能の向上を図ることができ、加えて、ダッシュアッパパネルに相当する部材も廃止することができるという目的を、エンジンルームと車室とを仕切るダッシュロアパネルと、フロントウインド部材を支持するカウルパネルとを備えたフロントウインド支持構造であって、上記カウルパネルは、その下端部がダッシュロアパネルに取付けられた状態でその上端部がフロントウインド部材を支持し、かつ車両側面視で垂直または後傾状態で設けられるという構成にて実現した。
【実施例1】
【0017】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
図面は本発明のフロントウインド支持構造を示し、図1は該フロントウインド支持構造を備えた車両前部の斜視図、図2はその側面図、図3はカウルパネルの斜視図である。なお、図中、矢印Fは車両の前方を示す。
【0018】
図1、図2において、エンジンルーム1(図2参照)の上方を開閉可能に覆うボンネット2を設け、このボンネット2の下面には、図2に示すように、ボンネットレインフォースメント3を一体的に接合固定している。
【0019】
また、図1に示すように、エンジンルーム1(図2参照)の前方部に位置してフロントバンパの外表面を構成するバンパフェイス4を設けると共に、エンジンルーム1の側方部に位置してボンネット2の側部と、バンパフェイス4の後部と、図示しないフロントピラーの下部およびヒンジピラーの前部との間を覆うフロントフェンダパネル5を設けている。ここで、上述のバンパフェイス4は走行風の取入れ部6,7を有する樹脂製部材にて構成することができる。
【0020】
さらに、図2に示すように、エンジンルーム1と車室8とを車両の前後方向に仕切るダッシュロアパネル9を設けている。
上述のダッシュロアパネル9は、車幅方向の略全幅にわたって延びるパネル部材であって、このダッシュロアパネル9は、上下方向に延びる主体部9aと、この主体部9aの上端9bから車両前方に向けて略水平に延びるフランジ状の取付け片9cと、この取付け片9cの前端から前方かつ下方に延びる前片部9dとを備えている。
【0021】
上述のダッシュロアパネル9の前部にはカウルクロスアッパ10を接合固定している。このカウルクロスアッパ10はダッシュロアパネル9の取付け片9cの前部からボンネット2の後端部と上下方向に略対向する位置まで車両前方に延びる部材であって、このカウルクロスアッパ10の前側かつ下部にはカウルクロスロア11を接合固定して、カウルクロスアッパ10とカウルクロスロア11との間には、車幅方向に延びる閉断面12を形成している。
また、上述のカウルクロスアッパ10の前部とカウルクロスロア11の前部とを接合して、上記閉断面12の直上部に略水平な取付け片13を形成し、この取付け片13にはカウルグリル14を取付けている。
【0022】
上述のダッシュロアパネル9における取付け片9cの上面には上方に延びるカウルパネル15を取付けており、このカウルパネル15でフロントウインド部材としてのフロントウインドガラス16の傾斜下端部を支持するように構成している。
【0023】
上述のカウルパネル15は、図2、図3に示すように、主体部15aと、カウルパネル15の下端部とダッシュロアパネル9とを接合する下部フランジ15bと、カウルパネル15の上端部とフロントウインドガラス16とを接合する上部フランジ15cと、を一体形成したものである。
【0024】
図2に示すように、上述のカウルパネル15は、その下端部がダッシュロアパネル9における取付け片9cに取付けられた状態でその上端部がフロントウインドガラス16を支持し、かつ、同図に示すように、該カウルパネル15は車両側面視で垂直または後傾状態(この実施例では、約5度後傾した状態)で設けられている。
このように、カウルパネル15でフロントウインドガラス16を支持することで、カウル部に閉断面が形成されることがなく、カウル部はオープンカウル構造となり、これにより歩行者保護性能を確保するように構成したものである。
【0025】
また、カウルパネル15とダッシュパネルとを結合するフランジを廃止して、カウルパネル15にてフロントウインドガラス16を支持することにより、上方からの衝撃荷重に対する吸収性の向上を図るように構成したものである。
さらに、従来のダッシュアッパパネルに相当する部材を不要となして、カウル部を構成する部品点数の削減と組付け工数の低減とを図って、カウル部のシンプル化を達成するように構成したものである。
【0026】
また、図2に示すように、カウルパネル15のダッシュロアパネル9における取付け片9cに取付けられる下端部が、フロントウインドガラス16に取付けられるカウルパネル15の上端部に対して車両前方に位置するように設けられており、該カウルパネル15の主体部15aが車両側面視で略直線状に配設されており、これにより、カウルパネル15を後傾状態(前低後高形状の傾斜状態)と成して、フロントウインドガラス16に対して斜め前上方から衝撃荷重が入力した際の該カウルパネル15の変形が容易となるように構成したものである。
【0027】
さらに、図2に示すように、カウルパネル15の下部フランジ15bは、カウルパネル15下端、詳しくは主体部15aの下端から前方へ向けて延出し、この下部フランジ15bがダッシュロアパネル9の取付け片9cとカウルクロスアッパ10の後部との間に挟持固定されており、カウルパネル15の上部フランジ15cがカウルパネル15上端、詳しくは主体部15aの上端から後方へ向けて延出しており、この上部フランジ15cに接着剤17を用いてフロントウインドガラス16の傾斜下端部を支持させている。
【0028】
このように、カウルパネル15の下部フランジ15bを前方へ向けて延出し、上部フランジ15cを後方へ向けて延出することで、フロントウインドガラス16に対して斜め前上方から衝撃荷重が入力した際のカウルパネル15の変形が容易となるように構成したものである。
【0029】
また、図3に示すように、上述のカウルパネル15における主体部15aには、車幅方向に間隔を隔てて上下方向に延びる複数の変形促進用のスリット18…が形成されており、これらの各スリット18により、フロントウインドガラス16に対して斜め前上方から衝撃荷重が入力された時に、該スリット18が口開き変形して、カウルパネル15の変形がさらに容易となるように構成したものである。なお、上記スリット18には車室内へ水が侵入するのを防止するために、図示しないシール部材が配設される。
【0030】
さらに、図3に示すように、上述のカウルパネル15の主体部15aにおいて車幅方向の一端側(この実施例では、車幅方向の右端側)には、空調用の空気を取込むための開口19(いわゆる、空気取入れ孔)が設けられており、該開口19から空調用の空気を取込むと共に、該開口19の形成により、斜め前上方からの荷重入力に対するカウルパネル15の変形がさらに容易となるように構成している。
しかも、図2、図3に示すように、カウルパネル15の後面には、該カウルパネル15の上下両端部を上下方向に接続する帯状のステー20が設けられている。
【0031】
この実施例では、図3に示すように、カウルパネル15における車幅方向中間(望ましくは、車幅方向中央)の一箇所のみに上記ステー20が設けられており、このステー20の上端部20aはカウルパネル15の上部フランジ15cの下部後端に接合固定されており、ステー20の下端部20bはカウルパネル15の主体部15aにおける下部背面に接合固定されており、カウルパネル15背面とステー20前面との間には細長い逆三角形状の空間部Zが形成されている。
そして、上述の帯状のステー20を設けることで、カウルパネル15によるフロントウインドガラス16の振動防止、つまり振れ防止を図ってNV性能の向上を図るように構成したものである。
【0032】
図示実施例は上記の如く構成するものにして、以下作用を説明する。
まず、上方からの衝撃荷重入力がない非衝突時(通常時)の作用について説明する。
【0033】
図2に示すように、カウルパネル15はその下端部がダッシュロアパネル9の取付け片9cに取付けられた状態でその上端部がフロントウインドガラス16を支持し、かつ、カウルパネル15の後面には、該カウルパネル15の上下両端部を接続する帯状のステー20が設けられているので、車両走行時等に発生するカウルパネル15の上下両端部を接続する帯状のステー20が設けられているので、車両走行時等に発生するカウルパネル15によるフロントウインドガラス16の振動を防止することができ、該フロントウインドガラス16の振動に伴うこもり音(フロントウインドガラス16の先端が走行時に振動して車室内に発生するこもり音)を防止して、NV性能の向上を図ることができる。
【0034】
次に、上方からの衝撃荷重が入力された場合の作用について説明する。
図2に示すように、この実施例のフロントウインド支持構造は、カウルパネル15によりフロントウインドガラス16を支持しており、従来のようにダッシュアッパパネルとカウルパネルとを結合するためのフランジ部も存在することなく、また、カウルパネル15と他部材とによる閉断面も存在しないので、斜め前上方からの荷重入力時には、図4に仮想線で示すノーマル状態から図4に実線で示すように、カウルパネル15、ステー20はその上部が後方かつ下方へ変位すべく略湾曲形状に容易に変形して、歩行者保護性能を確保することができる。
要するに、荷重入力時における歩行者保護性能の確保と、非衝撃時(ノーマル時)における振動防止効果と、の両立を図ることができる。
【0035】
このように、図1〜図4で示した実施例のフロントウインド支持構造は、エンジンルーム1と車室8とを仕切るダッシュロアパネル9と、フロントウインドガラス16を支持するカウルパネル15とを備えたフロントウインド支持構造であって、上記カウルパネル15は、その下端部がダッシュロアパネル9に取付けられた状態でその上端部がフロントウインドガラス16を支持し、かつ車両側面視で垂直または後傾状態で設けられているものである(図2参照)。
この構成によれば、カウルパネル15によりフロントウインドガラス16を支持するので、カウル部に閉断面が形成されることがなく、このため歩行者保護性能を確保することができる。
【0036】
また、カウルパネル15とダッシュアッパパネルとを結合するフランジを廃止することができ、カウルパネル15にてフロントウインドガラス16を支持することができるので、上方からの衝撃荷重に対する吸収性能の向上を図ることができる。
さらに、従来のダッシュアッパパネルに相当する部材も不要となり、カウル部を構成する部品点数の削減と組付け工数の低減とを図ることができ、カウル部のシンプル化を達成することができる。
【0037】
また、上記カウルパネル15のダッシュロアパネル9に取付けられる下端部は、フロントウインドガラス16に取付けられる上端部に対して車両前方に位置するように設けられ、該カウルパネル15が車両側面視で略直線状に配設されたものである(図2参照)。
この構成によれば、上記カウルパネル15を後傾状態で設けることができるので、フロントウインドガラス16に対して、斜め前上方から衝撃荷重が入力した際の該カウルパネル15の変形が容易となる。
【0038】
さらに、上記カウルパネル15の下端部とダッシュロアパネル9とを接合する下部フランジ15bがカウルパネル15下端から前方へ向けて延出し、カウルパネル15の上端部とフロントウインドガラス16とを接合する上部フランジ15cがカウルパネル15上端から後方へ向けて延出しているものである(図2参照)。
この構成によれば、下部フランジ15bを前方へ向けて延出し、上部フランジ15cを後方へ向けて延出したので、斜め前上方からの荷重入力に対して上記カウルパネル15の変形がさらに容易となる。
【0039】
加えて、上記カウルパネル15には、上下方向に延びる複数の変形促進用のスリット18が形成されたものである(図3参照)。
この構成によれば、カウルパネル15にスリット18を形成したので、フロントウインドガラス16に対して斜め前上方から衝撃荷重が入力した時、該スリット18が口開き変形し、カウルパネル15がより一層容易に変形する。このため、部品点数の増加を招くことなく、カウルパネル15の変形容易化を達成することができる。
【0040】
また、上記カウルパネル15には、空調用の空気を取込むための開口19が設けられたものである(図3参照)。
この構成によれば、上記開口19から空調用の空気を取込むことができるのは勿論、該開口19(いわゆる、空気取込み孔)の形成により、斜め前上方からの荷重入力に対するカウルパネル15の変形が容易となる。
【0041】
さらに、上記カウルパネル15の後面には、該カウルパネル15の上下両端部を接続する帯状のステー20が設けられたものである(図2、図3参照)。
この構成によれば、帯状のステー20を設けることで、カウルパネル15によるフロントウインドガラス16の振動防止を図ることができる。つまり、フロントウインドガラス16の振れ防止を図り、NV性能の向上と、上方からの衝撃荷重入力に対する荷重吸収性能の向上と、の両立を図ることができる。
【実施例2】
【0042】
図5はフロントウインド支持構造の他の実施例を示す側面図である。
図2で示した先の実施例において、カウルグリル14とカウルクロスアッパ10とカウルパネル15とフロントウインドガラス16とで囲繞された走行風取込み用の断面積Xが不充分な場合には、図5の構成を採用することができる。
【0043】
すなわち、図5に示すこの実施例では、図2で示した実施例と比較して、カウルグリル14、カウルクロスアッパ10およびカウルクロスロア11を車両前方へ延出形成し、またカウルグリル14の取付け片13に対する取付け部分を上方位置に設定すると共に、該取付け片13も同様に上方位置に設定したものである。
【0044】
このように構成すると、カウルグリル14とカウルクロスアッパ10とカウルパネル15とフロントウインドガラス16とで囲繞される走行風取込み用の断面積Yを充分大きく形成することができる。図5に示すこの実施例では同図の断面積Yを、図2の断面積Xに対して約2倍に成すことができる。
この場合、空調用の空気を取込むための開口19は、図5に示すようにカウルクロスアッパ10の下部に形成してもよく、または、図3で示したようにカウルパネル15に形成してもよい。
【0045】
図5で示したこの実施例においても、その他の構成、作用、効果については、先の実施例1と同様であるから、図5において前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【実施例3】
【0046】
図6はフロントウインド支持構造のさらに他の実施例を示す側面図である。
この実施例では、カウルパネル15の上部フランジ15cおよび下部フランジ15bの双方を、カウルパネル15の上下端から共に後方に向けて延出形成している。
【0047】
しかも、上部フランジ15c前端と主体部15a上端との連結ポイントp1と、下部フランジ15b前端と主体部15a下端との連結ポイントp2と、を結ぶ仮想線L1が垂直線VERと成す角度θ1を25度に設定し、上記仮想線L1よりも車両前方に折れ起点21が位置するようにカウルパネル15の主体部15aが、連結ポイントp2、折れ起点21、連結ポイントp1を結ぶように形成したものである。
【0048】
図6で示したこの実施例3においても、エンジンルーム1と車室8とを仕切るダッシュロアパネル9と、フロントウインドガラス16を支持するカウルパネル15とを備えたフロントウインド支持構造であって、上記カウルパネル15は、その下端部がダッシュロアパネル9に取付けられた状態でその上端部がフロントウインドガラス16を支持し、かつカウルパネル15は車両側面視で後傾状態で設けられているものである(図6参照)。
この構成によれば、カウルパネル15によりフロントウインドガラス15を支持するので、カウル部に閉断面が形成されることがなく、このため歩行者保護性能を確保することができる。
【0049】
また、カウルパネル15とダッシュアッパパネルとを結合するフランジを廃止することができ、カウルパネル15にてフロントウインドガラス16を支持することができるので、上方からの衝撃荷重に対する吸収性能の向上を図ることができる。
さらに、従来のダッシュアッパパネルに相当する部材も不要となり、カウル部を構成する部品点数の削減と組付け工数の低減とを図ることができ、カウル部のシンプル化を達成することができる。
【0050】
しかも、上記カウルパネル15の上下方向中間位置には折れ起点21が設けられたものである(図6参照)。
この構成によれば、上述の折れ起点21を設けたので、斜め前上方からの荷重入力に対して上記カウルパネル15の変形を促進することができる。すなわち、斜め前上方から荷重入力が入った時、カウルパネル15は図7の仮想線状態(ノーマル状態)から同図の実線状態へ変形するが、該カウルパネル15の上下方向中間部には上述の折れ起点21を設けているので、カウルパネル15は折れ起点21から折れ曲がり、該カウルパネル15の変形が容易となり、適切な歩行者保護性能を得ることができる。
【0051】
図6、図7で示したこの実施例3においても、その他の構成、作用、効果については、先の実施例とほぼ同様であるから、図6、図7において前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略するが、上記角度θ1を25度を含むそれ以上に設定すると、図3で示したようなスリット18を形成する必要がなくなる。
【実施例4】
【0052】
図8はフロントウインド支持構造のさらに他の実施例を示す側面図である。
この実施例においても、図6で示した実施例と同様に、カウルパネル15の上部フランジ15cおよび下部フランジ15bの両方を、カウルパネル15の上端、下端からそれぞれ後方へ向けて延出している。
【0053】
図6の実施例では、スリット18(図3参照)の形成を不要に成すことを目的として、垂直線(VER)と仮想線L1との成す角度θ1を25度に設定したが、図8に示すこの実施例では、垂直線VERと仮想線L2との成す角度θ2を50度に設定するものである。
【0054】
この場合、上部フランジ15c前端と主体部15a上端との連結ポイントp3を通る垂直線VERに対して50度の開角をもつ仮想線L2を求めると共に、ダッシュロアパネル9における取付け片9cの延長ラインL3を求め、仮想線L2と延長ラインL3との交点p4を設定すると、この交点p4は空間部であり、カウルパネル15下部の支持が不可となるので、該カウルパネル15下部の支持が可能となるように、取付け片9c前端と対応するポイントp5を設定し、カウルパネル15の主体部15aが連結ポイントp3、ポイントp5を結んだ後に、該ポイントp5から取付け片9c前端に向けて垂直に延びるように形成したものである。
【0055】
図8で示したこの実施例4においても、エンジンルーム1と車室8とを仕切るダッシュロアパネル9と、フロントウインドガラス16を支持するカウルパネル15とを備えたフロントウインド支持構造であって、上記カウルパネル15は、その下端部がダッシュロアパネル9に取付けられた状態でその上端部がフロントウインドガラス16を支持し、かつ車両側面視で垂直または後傾状態で設けられているものである(図8参照)。
この構成によれば、カウルパネル15によりフロントウインドガラス16を支持するので、カウル部に閉断面が形成されることがなく、このため歩行者保護性能を確保することができる。
【0056】
また、カウルパネル15とダッシュアッパパネルとを結合するフランジを廃止することができ、カウルパネル15にてフロントウインドガラス16を支持することができるので、上方からの衝撃荷重に対する吸収性能の向上を図ることができる。
さらに、従来のダッシュアッパパネルに相当する部材も不要となり、カウル部を構成する部品点数の削減と組付け工数の低減とを図ることができ、カウル部のシンプル化を達成することができる。
【0057】
しかも、カウルパネル15の上下方向中間位置に位置するポイントp5が折れ起点として作用するので、斜め前上方からの荷重入力に対して上記カウルパネル15の変形を促進することができる。
【0058】
図8で示したこの実施例4においても、その他の構成、作用、効果については、先の実施例とほぼ同様であるから、図8において前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略するが、上記角度θ2が50度を超過すると、各要素14,10,15,16で囲繞された走行風取込み用の空間が狭小となるので、この角度θ2は50度を含むそれ以下の角度が望ましい。
【0059】
この発明の構成と、上述の実施例との対応において、
この発明のフロントウインド部材は、実施例のフロントウインドガラス16に対応するも、
この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではない。
例えば、フロントウインド部材としてはガラス製のものに代えて、強化プラスチック製のものであってもよい。
【符号の説明】
【0060】
1…エンジンルーム
8…車室
9…ダッシュロアパネル
15…カウルパネル
15b…下部フランジ
15c…上部フランジ
16…フロントウインドガラス(フロントウインド部材)
18…スリット
19…開口
20…ステー
21…折れ起点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンルームと車室とを仕切るダッシュロアパネルと、
フロントウインド部材を支持するカウルパネルとを備えたフロントウインド支持構造であって、
上記カウルパネルは、その下端部がダッシュロアパネルに取付けられた状態でその上端部がフロントウインド部材を支持し、かつ車両側面視で垂直または後傾状態で設けられていることを特徴とする
フロントウインド支持構造。
【請求項2】
上記カウルパネルのダッシュロアパネルに取付けられる下端部は、フロントウインド部材に取付けられる上端部に対して車両前方に位置するように設けられ、
該カウルパネルが車両側面視で略直線状に配設された
請求項1記載のフロントウインド支持構造。
【請求項3】
上記カウルパネルの下端部とダッシュロアパネルとを接合する下部フランジがカウルパネル下端から前方へ向けて延出し、
カウルパネルの上端部とフロントウインド部とを接合する上部フランジがカウルパネル上端から後方へ向けて延出している
請求項1または2記載のフロントウインド支持構造。
【請求項4】
上記カウルパネルの上下方向中間位置には折れ起点が設けられた
請求項1または3記載のフロントウインド支持構造。
【請求項5】
上記カウルパネルには、上下方向に延びる複数の変形促進用のスリットが形成された
請求項1〜4の何れか1に記載のフロントウインド支持構造。
【請求項6】
上記カウルパネルには、空調用の空気を取込むための開口が設けられた
請求項1〜5の何れか1に記載のフロントウインド支持構造。
【請求項7】
上記カウルパネルの後面には、該カウルパネルの上下両端部を接続する帯状のステーが設けられた
請求項1〜6の何れか1に記載のフロントウインド支持構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−40908(P2012−40908A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182260(P2010−182260)
【出願日】平成22年8月17日(2010.8.17)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】