説明

フロントピラー構造

【課題】従来技術は、別部材を追加することにより、質量、コスト、作業工程とも増加する問題点があった。また車体前方からのモーメント入力までフロントピラーへ加重されるため荷重伝達効率が低い課題があった。
【解決手段】カウル5の長手方向両側部の車両後方側に隣接するフロントピラー構造において、フロントピラーFPのインナーパネル1の車体内側に設けられるインナーパネルリンフォースエクステンション3の車体前側部分を車体前側かつ車体内側方向へ延長させてなるエクステンション延長部4を、インナーパネルリンフォースエクステンション3と一体的に形成するとともに、エクステンション延長部4は、フロントピラーFPのインナーパネル1から車体内側方向へ離間し、かつ車体前側端部を折り曲げて形成されるカウル当接部6を、カウル車体内側面に摺動自在に当接させるフロントピラー構造によって解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車のフロントピラー構造、詳細には前面衝突時に、特にオフセット衝突時に受ける車両後方への荷重を効率的にフロントピラーへ伝達し、フロントピラーの断面変形を効率的に抑制できるフロントピラー構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のフロントピラー構造としては、特開2007−30720号公報に(従来技術1)「ウインドシールドガラスの下縁に沿って車両幅方向に配置された樋状のカウルと、このカウルの長手方向の両側部の車両後方側に隣接して配置された左右一対のフロントピラーと、カウルの長手方向の端部とフロントピラーの内板を構成するフロントピラーインナパネルとに斜めに掛け渡されたカウルブラケットとの三者間の結合に適用されるフロントピラーとカウルとの結合構造であって、車両平断面視において、車両幅方向に延在するカウル端部に対して、車両前後方向に延在するフロントピラーインナパネルのピラー前端部及び車両斜め方向に延在するカウルブラケットのブラケット前端部の少なくとも一方を、当該カウル端部に沿って延長しかつ結合した、ことを特徴とするフロントピラーとカウルとの結合構造」の開示がある。
【0003】
従来から「フロントピラーとカウルとの結合構造において、フロントピラーとカウルとをカウルブレース又はカウルブラケットで連結して補強する技術が開示されている。この構成によれば、カウルブレースを設けたことにより、オフセット衝突時にフロントピラーに対するカウルの相対変位を防止することができ、車両ボディーの剛性を向上させることができる。近年、エプロンアッパメンバの高剛性化へのニーズが高くなるその一方で、歩行者保護対策の観点から、ウインドシールドガラスの下縁に沿って車両幅方向に延在するカウルを弱体化させる傾向がある。上記両性能を満たすボディー構造、つまり高剛性化されたエプロンアッパメンバと弱体化されたカウルとを結合させた車体構造を想定した場合、前面衝突特にオフセット衝突により衝突荷重が入力されると、エプロンアッパメンバによる反力の方がカウル剛性による反力よりも大きくなる。このため、カウルとエプロンアッパメンバとの繋ぎ目となるカウルブラケットの前側結合部及び後側結合部に入力される荷重が大きくなり、フロントピラーを車両後方側へ変位させようとする力が大きくなる(従来技術1の開示事項)」。
【0004】
そして、従来技術1の発明は、「上記事実を考慮し、オフセット衝突性能及び歩行者保護性能の双方を満足させつつ、前面衝突時、特にオフセット衝突時にフロントピラーに入力される車両後方側への荷重を効率良く分散することができるフロントピラーとカウルとの結合構造」を得ることを目的としている。
【0005】
更に、この発明の関連技術として、特開2001−130445号公報「フロントピラー構造」、特開2007−168479号公報「車両側部構造」、特開2008−137419号公報「自動車の車体前部構造」、特開2008−183935号公報「フロントピラー構造」が公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−30720号公報(従来技術1)
【特許文献2】特開2008−183935号公報
【特許文献3】特開2001−130445号公報
【特許文献4】特開2007−168479号公報
【特許文献5】特開2008−137419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術1は、カウルとフロントピラーとの間に、別体の部材である「カウルブラケット38」を介在させており、その「カウルブラケット38」はカウル34との接続部分であるブラケット前端部38B及びフロントピラー14のインナーパネルオフセット部40との接続部分であるブラケット後端部38Cにおいて「スポット溶接により結合されていた(従来技術1の「段落0035」)」。
【0008】
従来技術1のフロントピラー構造について、図3にフロントピラー近傍の車両内側視の要部説明図、図4に図3のBB線断面図を示す。図3及び図4においてフロントピラー10、フロントピラー10のインナーパネル11、アウターパネル12、カウル13、カウルブラケット14,カウルブラケット前端部の結合部14a、カウルブラケット後端部の結合部14bを示す。
【0009】
したがって従来技術1は、カウルブラケット14という別部材を追加することにより、質量、コスト、作業工程とも増加する問題点があった。また、インターパネル部分に隣接しているため構造上部品を追加できない場合があった。
【0010】
更に、カウルブラケット14の前端部14aと後端部14bが、スポット溶接や、ボルトなどによって固定されているため、前面衝突時に車体前方からカウルを通して起こるモーメント入力(捻れ)までフロントピラーへ加重されるため荷重伝達効率が低い課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、車両幅方向に配置される樋状のカウルの長手方向両側部の車両後方側に隣接して配置された左右一対のフロントピラー構造において、フロントピラーのインナーパネルの車体内側に設けられるインナーパネルリンフォースエクステンションの車体前側部分を車体前側かつ車体内側方向へ延長させてなるエクステンション延長部を、インナーパネルリンフォースエクステンションと一体的に形成するとともに、エクステンション延長部は、フロントピラーのインナーパネルから車体内側方向へ離間し、かつ車体前側端部を折り曲げて形成されるカウル当接部を、カウル車体内側面に摺動自在に当接させることを特徴とするフロントピラー構造を提案する。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、カウルブラケットのような別部材を追加して部品数を増加させることなく、したがって車両重量を増加させず、製造コストを増加させず、作業工程を増加させずに、前面衝突時に、特にオフセット衝突時に受ける車両後方への荷重を効率的にフロントピラーへ伝達し、フロントピラーの断面変形を効率的に抑制できるという効果がある。
【0013】
更に、エクステンション延長部の車体前側端部を折り曲げて形成されるカウル当接部が、カウル車体内側面に摺動自在に当接されているため、前面衝突時、特にオフセット衝突時に起こるモーメント入力が、カウルとエクステンション延長部のカウル当接部の摺動によってキャンセルされるため、フロントピラーから車両後方側への荷重伝達効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施形態であるフロントピラー構造について、フロントピラー近傍の車両内側視の要部説明図
【図2】図1のAA線断面図
【図3】従来技術1のフロントピラー構造について、フロントピラー近傍の車両内側視の要部説明図
【図4】図3のBB線断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明の実施形態であるフロントピラー構造について、フロントピラー近傍の車両内側視の要部説明図である図1、図1のAA線断面図である図2に基づいて説明する。図1及び図2において、1はフロントピラーのインナーパネル、2はフロントピラーのアウターパネル、3はインナーパネルリンフォースエクステンション、4はインナーパネルリンフォースエクステンションの延長部、5はカウルである。
【0016】
フロントピラーFPは、車体側部のフロント側のドア開口部の前側に左右に1つずつ立設されており、車室内側に配置されるインナーパネル1と、インナーパネル1の車室外側に空間を有して配置されるアウターパネル2とからなる閉断面構造である。
【0017】
フロントピラーFPのインナーパネル1の車内後方側にインナーパネルリンフォースエクステンション3がインナーパネル1と接して固定されている。インナーパネルリンフォースエクステンション3は、その車体前側部分を車体前側かつ車体内側方向へ延長させてエクステンション延長部4を一体的に形成して成る。
【0018】
エクステンション延長部4は、車体前側端部を折り曲げて形成されるカウル当接部6を、カウル5の車体内側面とは固定されずに摺動自在に当接させている。
【0019】
カウル5は、フロントピラーFPの車体前方側に接して位置し図示しないウインドシールドガラスの下縁に沿って車両幅方向に配置された樋状体である。
【0020】
エクステンション延長部4は、後端ではインナーパネルリンフォースエクステンション3の前端と一体的に接続して繋がっており、前端ではカウル当接部6によってカウル5の車体内側面とフロントピラーFPの直ぐ車内側の位置で当接しているため、前面衝突時、特にオフセット衝突時の前方からの入力時にフロントピラーFPの断面変形を抑える作用を有する。また衝突時の入力点に対し、インナーパネルリンフォースエクステンション3は、車幅方向へのオフセットが少ないため衝撃を緩和するためにフロントピラーFPで対処するより効率的である。
【0021】
また、エクステンション延長部4は、前端ではカウル当接部6によってカウル5の車体内側面とフロントピラーFPの直ぐ車内側の位置で固定されずに摺動自在に当接しているため、前面衝突時、特にオフセット衝突時の前方からの入力時に起きるモーメント入力が、カウル5とエクステンション延長部4のカウル当接部6の摺動によってキャンセルされ、後方への荷重伝達効率を向上させる作用がある。
【産業上の利用可能性】
【0022】
この発明は、自動車のフロントピラー構造として利用される。
【符号の説明】
【0023】
1 フロントピラーのインナーパネル
2 フロントピラーのアウターパネル
3 インナーパネルリンフォースエクステンション
4 エクステンション延長部
5 カウル
6 カウル当接部
FP フロントピラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両幅方向に配置される樋状のカウルの長手方向両側部の車両後方側に隣接して配置された左右一対のフロントピラー構造において、
フロントピラーのインナーパネルの車体内側に設けられるインナーパネルリンフォースエクステンションの車体前側部分を車体前側かつ車体内側方向へ延長させてなるエクステンション延長部を、インナーパネルリンフォースエクステンションと一体的に形成するとともに、
エクステンション延長部は、フロントピラーのインナーパネルから車体内側方向へ離間し、かつ車体前側端部を折り曲げて形成されるカウル当接部を、カウル車体内側面に摺動自在に当接させることを特徴とするフロントピラー構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−184562(P2010−184562A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29319(P2009−29319)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)
【Fターム(参考)】