説明

フロントフォーク

【課題】ピストン速度が0.05m/sec以下の極微低速領域にあるときの減衰作用を安定させて、二輪車における乗り心地を改善する。
【解決手段】アウターチューブとインナーチューブ2とからなるフォーク本体にあって、アウターチューブにおける開口端部を形成しながらインナーチューブ2を挿通させるシールケース部1aがインナーチューブ2に摺接する軸受と、この軸受に直列してインナーチューブ2に摺接するオイルシールと、このオイルシールに直列してインナーチューブ2に摺接するダストシールとを有してなるフロントフォークにおいて、軸受とオイルシールとの間にフリクションリング11と、このフリクションリング11におけるインナーチューブ2との間の相対移動時にこのインナーチューブ2に摺接しながらこのインナーチューブ2に対するフリクションを調整する調整手段13とを有してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フロントフォークに関し、特に、伸縮速度が極微低速領域にあるときの減衰作用を安定させるフロントフォークの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
伸縮速度が極微低速領域にあるときの減衰作用を可能にするフロントフォークとしては、たとえば、特許文献1に開示の提案がある。
【0003】
すなわち、この特許文献1に開示の提案にあって、フロントフォークは、アウターチューブとインナーチューブとからなるフォーク本体内にダンパを有してなるが、フォーク本体における伸縮速度、すなわち、ダンパにおけるピストン速度が0.05m/sec以下となる極微低速領域にあるときにアウターチューブとインナーチューブとの間に減衰作用たるフリクションを発生させる。
【0004】
具体的には、フォーク本体にあって、アウターチューブの開口端部を形成しながらインナーチューブを挿通させるシールケース部に配設の軸受が単純な筒状に形成されるのではなく、改変されてなるとし、この軸受における改変部を対向部材たるインナーチューブが通過するときに発生するキャビテーションに起因するフリクションを発生させるとしている。
【0005】
それゆえ、この特許文献1に開示の提案にあっては、所望のキャビテーションを具現化できる形状を選択して、これをアウターチューブとインナーチューブとの間に配設される軸受に具現化すれば足りる。
【特許文献1】特開2007‐177879号公報(要約,特許請求の範囲,明細書中の段落0015,同0022,図2参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した特許文献1に開示の提案にあっては、原理的には、キャビテーションに起因するフリクションの発生が可能になると言い得るが、その実施化にあって、些かの不具合があると指摘される可能性がある。
【0007】
すなわち、上記した特許文献1に開示されているところでは、減衰作用としてキャビテーションに起因するフリクションを利用するが、周知のように、キャビテーションについては、以下のようなことが考察される。
【0008】
すなわち、フロントフォークなどの流体圧機器内に収容の作動油中には、元々空気などの気体が6〜12%含まれていることに起因して、キャビテーションが起こる。
【0009】
そして、流体圧機器内に収容の作動油の流速が早くなると、圧力が低下する部分を生じることがあるが、このとき、作動油自体が蒸気を発生したり、作動油中に気泡を発生(キャビテーション)させたりする。
【0010】
また、この作動油中の蒸気や気泡は、作動油の流れの中で圧力が急激に高圧化するところで急速に消滅し、このとき、局部的に数百気圧の高圧を発生して、配管などの金属材料を破壊(壊食)したり、 震動源になったり、騒音源になったりするもので、基本的には、流体圧機器自体に色々な悪影響を与える。
【0011】
このことからすると、上記した特許文献1に開示の提案にあって、フリクションを発生させるためのキャビテーションの利用は、言わば両刃の剣となるもので、軸受とインナーチューブとの間における隙間の設定が完全でないと、悪影響ばかりが際立つことになる。
【0012】
この発明は、上記した事情を鑑みて創案されたものであって、その目的とするところは、伸縮速度が0.05m/sec以下の極微低速領域にあるときの減衰作用を安定させて、二輪車における乗り心地を改善し得て、その汎用性の向上を期待するのに最適となるフロントフォークを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記した目的を達成するために、この発明によるフロントフォークの構成を、基本的には、アウターチューブにおける開口端部を形成しながらインナーチューブを挿通させるシールケース部が上記のインナーチューブに摺接する軸受と、この軸受に直列して上記のインナーチューブに摺接するオイルシールとを有してなるフロントフォークにおいて、上記の軸受と上記のオイルシールとの間にフリクションリングと、このフリクションリングにおける上記のインナーチューブとの間の相対移動時にこのインナーチューブに摺接しながらこのインナーチューブに対するフリクションを調整する調整手段とを有してなるとする。
【発明の効果】
【0014】
それゆえ、この発明によるフロントフォークにあっては、アウターチューブとインナーチューブとの間に配設される軸受とオイルシールとの間にフリクションリングを有し、このフリクションリングがインナーチューブとの間における相対移動時にこのインナーチューブに摺接しながら調整手段によってインナーチューブとの間に発生するフリクションを調整するから、アウターチューブとインナーチューブとからなるフォーク本体にあって、伸縮速度が0.05m/sec以下の極微低速領域にあるときに、このフリクションリングが所定の減衰作用を具現化する。
【0015】
そして、この発明によるフロントフォークにあっては、所定のフリクションを発生させる際に、調整手段でその大小調整をするから、サージ圧の発生を回避でき、フォーク本体の伸縮時におけるゴツゴツ感の発現を阻止できる。
【0016】
また、この発明によるフロントフォークにあっては、たとえば、特許文献1に開示の提案のように、言わば他の構成要素たるキャビテーションを利用してフリクションを調整する場合に比較して、他の構成要素が有する性状を具現化させない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、図示した実施形態に基づいて、この発明を説明するが、この発明によるフロントフォークは、二輪車の前輪側における懸架装置を構成するもので、走行中の二輪車における前輪に入力される路面振動を吸収して二輪車における乗り心地を改善する。
【0018】
そして、このフロントフォークは、図1に示すところでは、車体側チューブたるアウターチューブ1の下端側内に車輪側チューブたるインナーチューブ2の上端側が出没可能に挿通される倒立型に設定されている。
【0019】
なお、この発明が意図するところからすると、フロントフォークにおいて、車体側チューブがインナーチューブ2からなり、車輪側チューブがアウターチューブ1からなる正立型に設定されていても、基本的には、この発明の具現化は可能である。
【0020】
また、図示しないが、フロントフォークは、アウターチューブ1の上端側部がフォークブラケットを介してハンドルおよび車体側に連結され、インナーチューブ2の下端部に前輪が枢着される。
【0021】
そして、このフロントフォークにあっては、図示しないが、内装する懸架バネでアウターチューブ1内からインナーチューブ2が突出する伸長方向に附勢されると共に、同じく図示しないが、近年のフロントフォークの多くがそうであるように、ダンパを内蔵してなる。
【0022】
ダンパは、アウターチューブ1とインナーチューブ2とからなるフォーク本体の軸芯部に配設され、シリンダ体とこのシリンダ体に対して出没可能に連繋されるロッド体とを有してなる。
【0023】
そして、このダンパにあって、シリンダ体が車輪側チューブの軸芯部に配設されるとき、ダンパ正立型と称せられ、シリンダ体が車体側チューブの軸芯部に垂設とされるとき、ダンパ倒立型と称せられるが、この発明の具現化には、ダンパが正立型か倒立型かは問題にならない。
【0024】
なお、フォーク本体の伸縮時にダンパが同期して伸縮することもちろんであり、したがって、この発明でテーマとしているピストン速度は、フォーク本体における伸縮速度と同義である。
【0025】
一方、ダンパにあっては、伸縮時に所定の減衰作用をする減衰部を有し、この減衰部は、たとえば、シリンダ体内に摺動可能に収装されるピストン部に設けられ、あるいは、シリンダ体のボトム端部内に配設のベースバルブ部に設けられ、さらには、シリンダ体の外となるフォーク本体の外などに設けられる。
【0026】
そして、各減衰部は、多くの場合に、リーフバルブからなる減衰バルブを有し、この減衰バルブの作動するところで、所定の減衰作用をするが、この減衰バルブは、ピストン速度が0.05m/sec以下の極微低速領域にあるときには、作動し得ずして減衰作用を具現化し得ないのが通例である。
【0027】
そこで、この発明によるフロントフォークがそうであるのはもちろんだが、前記した特許文献1にも開示されているように、凡そこの種のフロントフォークにあっては、伸縮速度が、すなわち、ダンパにおけるピストン速度が0.05m/sec以下の極微低速領域にあるときの減衰作用をフリクションによるとする。
【0028】
ところで、フロントフォークにおいて、インナーチューブ2と共にフォーク本体を構成するアウターチューブ1は、図中で下端部となる開口端部にインナーチューブ2を出没可能に挿通させるが、この開口端部をシールケース部1aにして、図2にも示すように、このシールケース部1aに、軸受3と、オイルシール4とを有し、さらには、ダストシール5と、フリクション機構10とを有してなる。
【0029】
軸受3は、フォーク本体にあって、言わば下方軸受とされてインナーチューブ2のアウターチューブ1に対する摺動性を保障するもので、図示しないが、アウターチューブ1内からインナーチューブ2が大きいストロークで突出するフォーク本体の最伸長時にもインナーチューブ2の外周が摺接するようにアウターチューブ1の上端側の内周に位置決められている上方軸受と同時にインナーチューブ2の外周に摺接する。
【0030】
軸受3が上記のような作動をすることを鑑みると、前記した特許文献1に開示の提案のように、フリクションを発生させるためとは言え、この軸受3を利用することは、好ましくないとも言い得る。
【0031】
つまり、軸受3は、インナーチューブ2のアウターチューブ1に対する摺動性を保障するから、この軸受3においてインナーチューブ2への摺接面が傷付くようなことは回避される必要がある。
【0032】
しかし、上記した特許文献1に開示されているところでは、軸受がキャビテーションによるフリクションを発生させるとしているので、キャビテーションについての設定に正確さを欠くと、キャビテーションによる悪影響、すなわち、軸受のインナーチューブに対する摺接面が破壊あるいは壊食され、そのため、インナーチューブの外周面が傷付き、作動油の漏れなどが誘発される危惧がある。
【0033】
このことからすると、特許文献1に開示の提案のように、フリクションの発生に軸受が構成要素とされることは、好ましくないと言い得ると共に、この発明では、上記の軸受3がフリクションを発生させる構成要素とされないので、上記したような作動油の漏れを危惧する必要はない。
【0034】
オイルシール4は、前記した軸受3に対して図中で下方に、すなわち、フォーク本体の外側に向けて直列されて、内周をインナーチューブ2に摺接させ、上方となるアウターチューブ1とインナーチューブ2との間の隙間Sにある油、すなわち、フォーク本体内に収容される作動油であって、アウターチューブ1とインナーチューブ2との間における潤滑性を保障する油のアウターチューブ1における開口端部からのフォーク本体外への漏れを阻止する。
【0035】
このことから、このオイルシール4について、所定のシール機能を発揮する限りには、任意に構成されて良いが、図示するところでは、上記した隙間S側に位置決められながらインナーチューブ2の外周に摺接して上記した潤滑用の油の抜けを阻止する内側リップ部4aと、反対側のフォーク本体の外側に位置決められながらインナーチューブ2の外周に摺接して外部からのダストの浸入を阻止する外側リップ部4bとを有してなる。
【0036】
なお、このオイルシール4は、アウターチューブ1における開口端部たるシールケース部1aの内周に嵌装されたストッパ6によってその配設位置からのフォーク本体外への抜け出しが阻止されている。
【0037】
また、前記した特許文献1に開示されている軸受をフリクションの発生の構成要素にする提案に関連してだが、同様に、上記したオイルシール4をフリクションの発生の構成要素とする提案をなし得るが、凡そ軸受3もそうであるように、オイルシール4には固有の機能があり、したがって、これらに手を加えて、フリクションの発生の構成要素にするとの提案には、その実施化にあって、些かの無理を強いる欠点があると言わざるを得ない。
【0038】
その点からすれば、この発明にあっては、軸受3およびオイルシール4の言わば既存の要素には、一切の手を加えずして、フリクションを発生させるフリクション機構10を別途に設けるとするが、この方が実現可能性や信頼性が高いと言い得る。
【0039】
ダストシール5は、アウターチューブ1の外に露出するインナーチューブ2の外周に付着する泥砂を掻き落して、前記したオイルシール4側に侵入しなようにするもので、その限りには、任意に構成されて良いが、図示するとことでは、インナーチューブ2の外周に摺接するリップ部5aが附勢部材5bで附勢されて言わば強く摺接するとしている。
【0040】
なお、このダストシール5は、アウターチューブ1における開口端部たるシールケース部1aの内側に芯金5cを有する基部5dが圧入されることで、所定位置に定着されている。
【0041】
このとき、アウターチューブ1における開口端部たるシールケース部1aの外周には、Cリングなどからなる締め付けリング7が嵌装されて、上記のダストシール5における基部5dを締め付けている。
【0042】
ちなみに、このダストシール5に関連しても、前記した軸受3およびオイルシール4と同様に、フリクションの発生の構成要素とする提案をなし得るが、このダストシール5にも固有の機能があり、したがって、これに手を加えて、フリクションの発生の構成要素にするとの提案には、前記したところと同様に、その実施化にあって、些かの無理を強いる欠点があると言われるであろう。
【0043】
以上のような背景から、この発明にあっては、前述したが、アウターチューブ1における開口端部たるシールケース部1aに上記の軸受3,オイルシール4およびダストシール5を有する他にフリクション機構10を有してなる。
【0044】
そこで、以下には、このフリクション機構10について少し説明するが、このフリクション機構10は、基本的には、図3から図6に示すように、インナーチューブ2との間にフリクションを発生させるフリクションリング11を有すると共に、このフリクションリング11によるフリクションの大きさを調整可能にする調整手段を有してなる。
【0045】
そして、フリクションリング11は、図示するところでは、上記の軸受3とオイルシール4との間に配設のケーシング12内に収装されると共に、このケーシング12内にあって、フリクションリング11が調整手段によってインナーチューブ2の軸線方向となるこのフリクションリング11のインナーチューブ2の軸線方向にあるいは/およびインナーチューブ2の中心に向かう径方向に附勢されてなるとしている。
【0046】
すなわち、先ず、フリクションリング11は、一定の締め代でその内周面をインナーチューブ2の外周に摺接させ、この状態でインナーチューブ2との間における相対移動時に所定のフリクションを発生させるもので、好ましくは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの潤滑性に優れる材料から形成されるのが良い。
【0047】
それゆえ、このことからすると、このフリクションリング11の断面形状については、上記した所定のフリクションを発生する限りには、たとえば、図6に示すように、内周面を異形面11aにする他、任意に構成されて良く、図3および図6に示すところでは、ほぼ矩形の断面を有するように形成され、図4および図5に示すところでは、ほぼ楔形の断面を有するように形成されている。
【0048】
つぎに、ケーシング12は、上記のフリクションリング11を収装することからすれば、任意に構成されて良いが、基本的には、フリクションリング11のインナーチューブ2への摺接を可能にするように、開口をインナーチューブ2の外周に対向させる横向き凹溝状に形成されている。
【0049】
そして、このケーシング12は、図3および図6に示すところでは、図中で上下となる一対の立ち上り部たるブッシュ12a,12bと、図中で左端部となる内底部たるカラー12cの複数部材(三部材)からなるとしているが、要は、横向き凹溝状に形成されていれば足りるから、図示しないが、上記の複数部材が一体構造に形成されてなるとしても良いのはもちろんである。
【0050】
ちなみに、図5に示すケーシング12にあっては、図3に示す上方のブッシュ12aとカラー12cとを一体形成して、一部材にし、下方のブッシュ12bと合せて二部材からなるとし、上記した三部材からなる場合に比較して、組立性が向上される点で有利となる。
【0051】
さらに、調整手段は、図3(A)および図6に示すところでは、Oリング13a,13aからなり、このOリング13a,13aは、インナーチューブ2の軸線方向に沿うことになるこのフリクションリング11の移動方向の端面に隣接されている。
【0052】
このとき、Oリング13a,13aは、フリクションリング11の移動方向の端部に形成された凹溝11b,11b内に収装された状態で、一対の立ち上り部たるブッシュ12a,12bとの間に挟持されている。
【0053】
一方、この調整手段は、図3(B)に示すところにあっても、Oリング13b,13bからなるが、このOリング13b,13bは、インナーチューブ2の中心に向かう径方向に沿ってフリクションリング11に隣接している。
【0054】
このとき、Oリング13b,13bは、フリクションリング11の外周側部に形成された溝11c,11c内に収装された状態で、内底部たるカラー12cとの間に挟持されている。
【0055】
すなわち、図3(A)および図6のOリング13a,13aは、フリクションリング11における摺動方向の移動を制御し、図3(B)のOリング13b,13bは、フリクションリング11におけるインナーチューブ12に対する締め付け方向の移動を制御している。
【0056】
それゆえ、図3(A)および図6に示すところにあっては、アウターチューブ1とインナーチューブ2との間における相対移動が開始されるとき、フリクションリング11が具有するフリクションのままであると、図7中のa線で示すように、サージ圧がたつが、上記の調整手段たるOリング13aが潰れるように変形する場合には、その分、フリクションリング11のインナーチューブ2に対する移動が許容される状態になり、図7中のb線、あるいは、同図中のc線で示すように、サージ圧が低くなり、あるいは、サージ圧が解消されて、インナーチューブ2とフリクションリング11、すなわち、アウターチューブ1との間における相対移動が円滑に実現される。
【0057】
そして、図3(B)に示すところにあっても、アウターチューブ1とインナーチューブ2との間における相対移動が開始されるとき、フリクションリング11が具有するフリクションのままであると、図7中のa線で示すように、サージ圧がたつが、上記の調整手段たるOリング13bが外側に潰れるように変形する場合には、上記したところと同様に、図7中のb線、あるいは、同図中のc線で示すように、サージ圧が低くなり、あるいは、サージ圧が解消されて、インナーチューブ2とフリクションリング11、すなわち、アウターチューブ1との間における相対移動が円滑に実現される。
【0058】
上記したフリクション機構10は、図4および図5に示す実施形態のように構成されても良く、以下には、この図4および図5に示すところについて、少し説明する。
【0059】
図4および図5に示すところにあって、フリクションリング11は、断面を上方で収斂する楔形にするもので、このフリクションリング11がケーシング12内で昇降することで調整手段によってフリクションが調整される。
【0060】
すなわち、図4(A)に示すところでは、フリクションリング11は、前記した図3(A)に示す実施形態のように調整手段としてのOリング13aを有していないが、それに対して、図4(B)に示すところでは、ケーシング12との間に隙間を形成し、この隙間に附勢部材14を配在させている。
【0061】
また、図5に示す実施形態にあって、フリクションリング11は、図4(B)に示す実施形態の場合と同様の大きさに形成されるが附勢部材14を有せずして隙間のままにしている。
【0062】
そして、この図4および図5に示すフリクションリング11にあっては、インナーチューブ2に摺接する内周面を展開面で看るときインナーチューブ2に沿う言わば垂直面にするが、反対側のケーシング12における内底部たるカラー12cに対向する内周面を展開面で看るとき上昇するに従い内側に傾斜する傾斜面11dにしている。
【0063】
その一方で、この図4に示すフリクション機構11における調整手段は、上記のフリクションリング11における外周面たる傾斜面11dと、ケーシング12における内底部たるカラー12cが上記のフリクションリング11における外周面に対向する傾斜角を同じにする傾斜面12dを有してなる。
【0064】
それゆえ、この図4に示すフリクション機構10にあっては、フリクションリング11がケーシング12における傾斜面12dに沿って上昇するとき、すなわち、フォーク本体が収縮するとき、締め代を大きくし、フリクションを調整する。
【0065】
そして、図4(B)に示すフリクション機構10にあっては、同じフォーク本体の収縮時に、すなわち、ケーシング12内でのフリクションリング11の上昇時に、締め代を大きくし、フリクションを調整するのはもちろんのこと、附勢部材14を押し潰すから、フォーク本体が反転するとき、附勢部材14がフリクションリング11をケーシング12内で押し戻して下降させるように附勢する。
【0066】
それに対して、図5に示すフリクション機構10にあって、ケーシング12は、前記したように、たとえば、図3に示すケーシング12にあって、上方の立ち上り壁たるブッシュ12aと内底部たるカラー12cとが一体とされた態様に相当するホルダ12eを有してなるもので、このホルダ12eの内底面が垂直面12fになるとしている。
【0067】
それゆえ、このフリクション機構10にあっては、フォーク本体が収縮する前、すなわち、フォーク本体が言わば伸長したとき、フリクションリング11は、ケーシング12内にあって、図5(A)に示すように、外側に傾斜した状態になって、内周面をインナーチューブ2に摺接させず、したがって、フリクションを発生しない状況におかれる。
【0068】
それに対して、このフリクション機構10にあっては、フォーク本体が収縮すると、フリクションリング11が、梃の原理で、図5(B)に示すように、言わば態勢を立て直して、内周面をインナーチューブ2に摺接させ、したがって、フリクションを発生する状況になり、フォーク本体における収縮が進行すると、フリクションリング11がケーシング12内で上昇して締め代を大きくする。
【0069】
すなわち、このフリクション機構10にあっては、ケーシング12における内底部と、この内底部に対向するフリクションリング11における傾斜面11dとが、このフリクション機構10における調整手段を構成してなる。
【0070】
以上からすれば、この発明のフリクション機構10にあっては、アウターチューブ1とインナーチューブ2との間における相対移動が開始されて、フリクションリング11がインナーチューブ2に対して摺動する状況になるとき、先ずは、調整手段が作動して、フリクションリング11のインナーチューブ2に対する摺動を発現させない。
【0071】
そして、調整手段の作動が限界になると、フリクションリング11がインナーチューブ2に対して摺動を開始し、所定のフリクションを発生させ、フォーク本体における伸縮速度が、すなわち、ダンパにおけるピストン速度が0.05m/sec以下の極微低速領域にあるときに、所定の減衰作用を具現化する。
【0072】
その結果、前記した図7に示すように、フリクションの発生時にサージ圧がたたないから、フォーク本体の滑らかな摺動開始が可能になり、いわゆるフワフワ感の発生を阻止して、二輪車における乗り心地を向上させる。
【0073】
しかも、この発明にあっては、所定のフリクションを具現化するのに際して、たとえば、特許文献1に開示の提案のように、他の構成要素たるキャビテーションを利用してフリクションを調整する場合に比較して、キャビテーションを具現化する際に軸受のインナーチューブ2に対する摺接面が破壊あるいは壊食され、そのため、インナーチューブ2の外周面が傷付き、作動油の漏れなどの招来することになるのを危惧しなくて済む。
【0074】
前記した図3(B)に示す実施形態では、フリクションリング11の外周に介装される調整手段たるOリング13bが上下配置の二本とされているが、この調整手段が機能するところからすれば、この二本配置に代えて、図示しないが、フリクションリング11の外周の中央に一本隣接されるとしても良い。
【0075】
そして、前記したところでは、この発明のフロントフォークがダンパを内蔵するとして説明したが、この発明が意図するところからすれば、フロントフォークがダンパを内蔵していなくても、その具現化が可能になるのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】この発明の一実施形態によるフロントフォークを一部破断して示す部分正面図である。
【図2】図1におけるアウターチューブの開口端部たるシールケース部を拡大して内部の構成を示す部分縦断面図である。
【図3】この発明によるフリクション機構の一実施形態を示す部分拡大縦断面で、(A)は、フリクションリングの昇降を制御する実施形態を示し、(B)は、フリクションリングの径方向の収縮を制御する実施形態を示す。
【図4】この発明によるフリクション機構の他の実施形態を図3と同様に示す図で、(A)は、フリクションリングの他に附勢部材を有しない実施形態を示し、(B)は、フリクションリングの他に附勢部材を有する実施形態を示す。
【図5】この発明によるフリクション機構のさらに他の実施形態を図3と同様に示す図で、(A)は、フリクションリングの作動前状態を示し、(B)は、フリクションリングの作動状態を示す。
【図6】この発明によるフリクション機構のさらに他の実施形態を図3と同様に示す図で、フリクションリングが内周面を異形面にする実施形態を示す。
【図7】この発明のフリクション機構によるフリクション特性図である。
【符号の説明】
【0077】
1 アウターチューブ
2 インナーチューブ
3 軸受
4 オイルシール
10 フリクション機構
11 フリクションリング
11a 異形面
11d 傾斜面
12 ケーシング
12d 内底部たるカラー
13a,13b 調整手段たるOリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アウターチューブにおける開口端部を形成しながらインナーチューブを挿通させるシールケース部が上記のインナーチューブに摺接する軸受と、この軸受に直列して上記のインナーチューブに摺接するオイルシールとを有してなるフロントフォークにおいて、上記の軸受と上記のオイルシールとの間にフリクションリングと、このフリクションリングにおける上記のインナーチューブとの間の相対移動時にこのインナーチューブに摺接しながらこのインナーチューブに対するフリクションを調整する調整手段とを有してなることを特徴とするフロントフォーク。
【請求項2】
上記のフリクションリングが上記のインナーチューブの外周に摺接する内周面を異形面としてなる請求項に記載のフロントフォーク。
【請求項3】
上記のフリクションリングが上記の軸受と上記のオイルシールとの間に配設のケーシング内に収装されると共に、このケーシング内にあって、上記のフリクションリングが上記の調整手段を上記のインナーチューブの軸線方向にあるいは/および上記のインナーチューブの中心に向かう径方向に隣接させてなる請求項1または請求項2に記載のフロントフォーク。
【請求項4】
上記の調整手段が上記のフリクションリングにおける摺動方向の端面にあるいは上記のフリクションリングにおける外周面に隣接するOリングからなる請求項3に記載のフロントフォーク。
【請求項5】
上記のフリクションリングが断面形状を上方で収斂する楔形にする一方で、上記のケーシングが上記のフリクションリングの外周に対向する内底部を有すると共に、この内底部に対向する上記のフリクションリングにおける外周面を上方に行くに従い内周側に傾斜する傾斜面にしてなり、このフリクションリングにおける傾斜面と上記のケーシングにおける内底部とが上記の調整手段を形成してなる請求項3に記載のフロントフォーク。
【請求項6】
上記のアウターチューブと上記のインナーチューブとからなるフォーク本体がこのフォーク本体の伸縮に同期して伸縮するダンパを有してなる請求項1、請求項2、請求項3、請求項4または請求項5に記載のフロントフォーク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−84921(P2010−84921A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−257451(P2008−257451)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】