説明

フードロック装置

【課題】 自動車の前面衝突時にフロントフードの前部を所望の荷重で移動させて衝撃吸収ストロークを確保する。
【解決手段】 フロントフードに加わった前面衝突の衝突荷重がストライカ16から骨格部材17の内部に設けたロック装置18の上部に前方ないし上方から伝達されると、ロック装置18のベース部28が固定された骨格部材17の薄板よりなる第1部材23の上壁23bと、その上壁23bに連なる前壁23aとが変形してベース部28が後方および下方に移動することで、衝突エネルギーを吸収するための衝撃吸収ストロークが確保される。このとき、ベース部28の後面28bが厚板よりなる第2部材24の後壁24aと干渉すると、ベース部28の後方への移動が阻害されてしまうが、ベース部28の後面28bが後壁24aの第1切欠24cきを通過することで後方への衝撃吸収ストロークが確保される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンルームを開閉自在に覆うフロントフードの前部に下向きに突設したストライカを、車体の骨格部材の内部に設けたロック装置で係止するフードロック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のフロントフードに歩行者が衝突した場合に、フロントフードが大きなストロークで圧壊して衝突エネルギーを吸収すれば、歩行者に加わる衝撃を軽減することができる。しかしながら、フロントフードを閉じた位置でロックすべく、フロントフードのストライカがバルクヘッド等の骨格部材に設けたロック装置に係止されているため、この部分でフロントフードの移動が拘束されてしまい、充分な衝撃吸収ストロークを確保できなくなる問題がある。
【0003】
そこで車体の骨格部材に設けたブラケットに前後方向の長孔を形成し、ロック装置のベース部を前記長孔にスライド可能にボルトで締結することで、衝突荷重の入力時にベース部を後方にスライドさせて衝撃吸収ストロークを確保するものが、下記特許文献1により公知である。
【0004】
またフロントフードには前方からの衝突荷重が加わるだけでなく、上方からの衝突荷重も加わるため、ブラケットの長孔を上下方向に形成することで、衝突荷重の入力時にベース部を下方にスライドさせて衝撃吸収ストロークを確保するものが、下記特許文献2により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−255635号公報
【特許文献1】特開2009−57708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記特許文献1および特許文献2に記載された発明は、ブラケットにベース部を締結するボルトの締付トルクが強すぎると、衝突荷重が入力してもベース部がスライドできない可能性があり、逆に前記締付トルクが弱すぎると、フロントフードを閉じるときの衝撃でベース部が移動してしまう可能性があるため、ボルトの締付トルクの管理が難しいという問題があった。
【0007】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、自動車の前面衝突時にフロントフードの前部を所望の荷重で移動させて衝撃吸収ストロークを確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、エンジンルームを開閉自在に覆うフロントフードの前部に下向きに突設したストライカを、車体の骨格部材の内部に設けたロック装置で係止するフードロック装置であって、前記ロック装置のベース部を収納する前記骨格部材は、前壁および上壁を有するL字状断面の薄板で構成される第1部材と、後壁および下壁を有するL字状断面に厚板で構成される第2部材とを結合した四角閉断面の部材であり、前記ベース部の上面は前記上壁に固定され、前記ベース部の後面に対向する前記後壁には、該ベース部の後面が通過可能な第1切欠きが形成されることを特徴とするフードロック装置が提案される。
【0009】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記ベース部の下面に対向する前記下壁には、該ベース部の下面が通過可能な第2切欠きが、前記第1切欠きと連続するように形成されることを特徴とするフードロック装置が提案される。
【0010】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1または請求項2の構成に加えて、前記後壁は、前記第1切欠きの上縁から前記ベース部の左右両側面に沿って上方に延びる一対のスリットを備えることを特徴とするフードロック装置が提案される。
【0011】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項1〜請求項3の何れか1項の構成に加えて、前記ベース部の後面を前記後壁に固定したことを特徴とするフードロック装置が提案される。
【0012】
また請求項5に記載された発明によれば、請求項4の構成に加えて、前記骨格部材の上壁に前記ベース部を挿入する開口を形成したことを特徴とするフードロック装置が提案される。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の構成によれば、フロントフードに加わった前面衝突の衝突荷重がストライカから骨格部材の内部に設けたロック装置の上部に前方ないし上方から伝達されると、ロック装置のベース部が固定された骨格部材の薄板よりなる第1部材の上壁と、その上壁に連なる前壁とが変形してベース部が後方および下方に移動することで、衝突エネルギーを吸収するための衝撃吸収ストロークが確保される。このとき、ベース部の後面が厚板よりなる第2部材の後壁と干渉すると、ベース部の後方への移動が阻害されてしまうが、ベース部の後面が後壁の第1切欠きを通過することで後方への大きな衝撃吸収ストロークが確保される。
【0014】
また請求項2の構成によれば、ベース部の下面に対向する厚板よりなる第2部材の下壁に、ベース部の下面が通過可能な第2切欠きが第1切欠きと連続するように形成されるので、薄板よりなる第1部材が下向きに変形してベース部が下方に移動したときに、ベース部の下面が厚板よりなる第2部材の下壁と干渉して移動を阻害されることがなくなり、ベース部の下方への大きな衝撃吸収ストロークが確保される。
【0015】
また請求項3の構成によれば、厚板よりなる第2部材の後壁が、第1切欠きの上縁からベース部の左右両側面に沿って上方に延びる一対のスリットを備えるので、ベース部にフロントフードからストライカを介して衝突荷重が入力したとき、一対のスリットにより脆弱になった後壁を屈曲させてベース部を後方に確実に移動させることができる。
【0016】
また請求項4の構成によれば、ベース部の後面を骨格部材の厚板よりなる第2部材の後壁に固定したので、フロントフードを強く閉じたときの下向きの衝撃でベース部が下向きに移動するのを防止することができる。
【0017】
また請求項5の構成によれば、骨格部材の上壁にベース部を挿入する開口を形成したので、ベース部にフロントフードからストライカを介して衝突荷重が入力したとき、開口によって脆弱になった上壁を効率的に変形させることで、ベース部を後方および下方に確実に移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】自動車の車体前部の斜視図。
【図2】図1の2−2線断面図。
【図3】図2の3方向矢視図。
【図4】図2の4方向矢視図。
【図5】自動車の前面衝突時の作用説明図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図1〜図5に基づいて本発明の実施の形態を説明する。尚、本明細書において、前後方向および左右方向とは、運転席に着座する乗員を基準として定義される。
【0020】
図1に示すように、フロントバンパー11、左右のフロントフェンダ12,12およびダッシュボード13に囲まれたエンジンルーム14がフロントフード15で開閉自在に覆われる。フロントフード15の前部下面にU字状のストライカ16が固定されており、エンジンルーム14に左右方向に配置された骨格部材であるバルクヘッド17の内部に設けたロック装置18にストライカ16を係止することで、フロントフード15が閉位置にロックされる。
【0021】
図2〜図4に示すように、フロントフード15はフードフレーム19の上面にフードスキン20を重ね合わせて周縁部で結合して構成されており、その前部内面にスチフナ21が溶接される。スチフナ21の後方のフードフレーム19に、ストライカ16が固定された板状のブラケット22が溶接される。
【0022】
バルクヘッド17は、薄板で前壁23aおよび上壁23bを有するL字状断面に形成された第1部材23と、厚板で後壁24aおよび下壁24bを有するL字状断面に形成された第2部材24とを溶接して四角形の閉断面に構成されており、その内部にロック装置18のベース部28が収納される。
【0023】
ベース部28は前面28a、後面28b、上面28cおよび左右の側面28d,28dを有して下面が解放した箱状の部材であり、上面28cから左右方向に一対の取付板28e,28eが突出するとともに、後面28bから取付板28fが下向きに突出する。前面28aおよび後面28b間に架設した支点ピン29に、ストラカ16に係合可能なフック30の下端が左右揺動可能に枢支される。前面28a、上面28cおよび後面28bに亙って前後方向に延びるスリット28gが形成されており、このスリット28gを介してストライカ16がベース部28の内部に進入可能である。
【0024】
第1部材23の上壁23bに矩形状の開口23cが形成されるとともに、第2部材24の後壁24aおよび下壁24bに、相互に連続する第1切欠き24cおよび第2切欠き24dが形成される。ベース部28は上壁23bの開口23cを通してバルクヘッド17の内部に挿入され、上面28cに連なる一対の取付板28e,28eがボルト33,33およびナット34,34で第1部材23の上壁23bに締結される。
【0025】
第2部材24の後壁24aには、第1切欠き24cの左右の側縁から上方に延びる2本のスリット24e,24eが形成されるとともに、前記第1切欠き24cの上縁から第2部材24の下壁を24bを超えて下方に延びるブラケット24fが形成され、このブラケット24fにベース部28の後面28bから下方に突出する取付板28fがボルト35およびナット36で締結される。この状態で、ベース部28の後面28bの下半部は第2部材24の後壁24aの第1切欠き24cに対向し、ベース部28の開放した下面は第2部材24の下壁24bの第2切欠き24dに対向する。
【0026】
フロントフード15を閉じた状態で、その下面に設けたストライカ16がロック装置18のフック30に係合することで、フロントフード15が閉位置にロックされる。ロック装置18をロック解除すべく、車室内に設けた不図示のロック解除レバーとフック30とがケーブル37等の連結手段で連結される。
【0027】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用を説明する。
【0028】
車両が歩行者等の障害物に前面衝突してフロントフード15の前端に大腿部や腰部から後向きの衝突荷重が入力すると、図5に示すように、フロントフード15の前部が前後方向に座屈して衝突エネルギーが吸収される。このとき、フロントフード15の前部下面に設けたストライカ16が後方に移動し、その動きがロック装置18のフック30を介してベース部28に伝達される。
【0029】
ベース部28の上面28cの取付板28e,28eを支持するバルクヘッド17の第1部材23の上壁23bは薄板で構成されており、かつ上壁23bに連なる第1部材23の前壁23aも薄板で構成されているため、上壁23bおよび前壁23aが容易に変形してベース部28は下部が後方に倒れるように回動しながら下方に移動する。このとき、薄板よりなる上壁23bにはベース部28を挿入するための開口23cが形成されているため、その開口23cで上壁23bの剛性を低下させて変形を促進することができる。
【0030】
ベース部28の後面28bに設けた取付板28fが固定される第2部材24の後壁24aのブラケット24fは厚板で構成されているが、そのブラケット24fは第1切欠き24cおよび一対のスリット24e,24eによって脆弱化されているため、ベース部28の後面28bに押された後壁24aは一対のスリット24e,24eの上端を結ぶ線で容易に折れ曲がり、ベース部28はその後面28bが後壁24aの第1切欠き24cを通過することで後方に倒れるように回動することができる。
【0031】
また第1部材23の上壁23bおよび前壁23aと、第2部材24の後壁24aの上部とが変形してベース部28が下方に移動しても、ベース部28の下面は第2部材24の下壁24bの第2切欠き24dを下方に通過できるため、ベース部28は下壁24bと干渉することなく下方に移動することができる。
【0032】
このように、歩行者との前面衝突によってフロントフード15に前方あるいは上方からの衝突荷重が入力したとき、フロントフード15のストライカ16を係止するロック装置18のベース部28が後方および下方の両方に移動することができるので、後方および下方への衝撃吸収ストロークを拡大して衝撃吸収性能を高めることができる。
【0033】
しかも、衝突時にロック装置28のベース部28が移動する荷重の大きさがボルトの締付トルクの影響を受けずに一定であり、かつ前記荷重がバルクヘッド17の第1、第2部材23,24の板厚や形状によって任意に設定可能であるため、常に最適の荷重でフロントフード15の前部を後方あるいは下方にストロークさせて衝突エネルギーの吸収効果を高めることができる。
【0034】
またフロントフード15を強く閉じたときに、ストライカ16からフック30を介してベース部28に下向きの荷重が入力されるが、ベース部28の後面28bの取付板28fは厚板よりなる第2部材24の後壁24aにボルト35およびナット36で固定されているため、ベース部28はフロントフード15を閉じる衝撃を確実に受け止めることができる。
【0035】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0036】
例えば、本発明の骨格部材は実施の形態のバルクヘッド17に限定されるものではない。
【0037】
また実施の形態では、バルクヘッド17の第1部材23を薄板で構成し、第2部材24を厚板で構成しているが、それらの板厚は相対的なもので、第1部材23の板厚が第2部材24の板厚よりも小さければ良い。
【符号の説明】
【0038】
14 エンジンルーム
15 フロントフード
16 ストライカ
17 バルクヘッド(骨格部材)
18 ロック装置
23 第1部材
23a 前壁
23b 上壁
23c 開口
24 第2部材
24a 後壁
24b 下壁
24c 第1切欠き
24d 第2切欠き
24e スリット
28 ベース部
28b 後面
28c 上面
28d 側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンルーム(14)を開閉自在に覆うフロントフード(15)の前部に下向きに突設したストライカ(16)を、車体の骨格部材(17)の内部に設けたロック装置(18)で係止するフードロック装置であって、
前記ロック装置(18)のベース部(28)を収納する前記骨格部材(17)は、前壁(23a)および上壁(23b)を有するL字状断面の薄板で構成される第1部材(23)と、後壁(24a)および下壁(24b)を有するL字状断面に厚板で構成される第2部材(24)とを結合した四角閉断面の部材であり、
前記ベース部(28)の上面(28c)は前記上壁(23b)に固定され、前記ベース部(28)の後面(28b)に対向する前記後壁(24a)には、該ベース部(28)の後面(28b)が通過可能な第1切欠き(24c)が形成されることを特徴とするフードロック装置。
【請求項2】
前記ベース部(28)の下面に対向する前記下壁(24b)には、該ベース部(28)の下面が通過可能な第2切欠き(24d)が、前記第1切欠き(24c)と連続するように形成されることを特徴とする、請求項1に記載のフードロック装置。
【請求項3】
前記後壁(24a)は、前記第1切欠き(24c)の上縁から前記ベース部(28)の左右両側面(28d)に沿って上方に延びる一対のスリット(24e)を備えることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のフードロック装置。
【請求項4】
前記ベース部(28)の後面(28b)を前記後壁(24a)に固定したことを特徴とする、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載のフードロック装置。
【請求項5】
前記骨格部材(17)の上壁(23b)に前記ベース部(28)を挿入する開口(23c)を形成したことを特徴とする、請求項4に記載のフードロック装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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