説明

ブッシングの製造方法、及び、ブッシングの鋳型

【課題】簡単な方法にて電池蓋との間の密着性を向上させ、電解液の染み出しを防止できる鉛蓄電池のブッシングの製造方法、及び、ブッシングの鋳型を提供すること。
【解決手段】電極を保持する筒状のブッシング本体2の外周に周方向に延びる複数の環状突起3A〜3Eを一体に備え、環状突起3A〜3Eが樹脂製の電池蓋にインサートされる鉛蓄電池用のブッシングの製造方法において、鋳型11に液状の金属を流し込んで、ブッシング本体2及び複数の環状突起3A〜3Eを一体に鋳造する第1工程と、一の環状突起3Aを他の環状突起3Bに向けて塑性変形させる第2工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用などに用いられる鉛蓄電池に係り、特に、鉛蓄電池に用いられるブッシングの製造方法、及び、ブッシングの鋳型に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用などに用いられる鉛蓄電池は、合成樹脂製の電槽と、この電槽の上部に融着されて当該電槽を閉じる合成樹脂製の電池蓋とを備えている。これら電槽および電池蓋は、ABS樹脂あるいはポリプロピレン(PP)樹脂などの合成樹脂で製作されている。通常、電池蓋の上部には端子部が設けられ、この端子部は、電槽内から外部へと延在する鉛合金製の極柱(電極)と、この極柱が挿入された鉛合金製のブッシングとを備えている。このブッシングはインサート成形により電池蓋に形成され、極柱がブッシングに電槽の外部において溶接されて保持されている。
【0003】
インサート成形時には、極柱を保持するブッシング本体のほぼ下半部を電池蓋の樹脂材料内にインサートして成形される。しかし、ブッシングの金属材料と電池蓋の樹脂材料との間には実質的に接着力が生じることがない。このため、ブッシング本体のほぼ下半部外周に環状突起を上下複数段に形成し、これら環状突起の形成部を電池蓋の樹脂内にインサートすることにより、電槽内の電解液が這い上がり端子部に染み出すことを防止している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−235050公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記したように、ブッシング本体の外周に複数の環状突起を設けた場合であっても、ブッシングと電池蓋とが密着せずにその境界面に微小な隙間が生じるため、時間の経過と共に、その隙間を通して電槽内の電解液が這い上がり端子部を変色させることがあった。これを防止するために、基端側から先端側に向かうほど厚みが増す環状突起を形成し、この環状突起を樹脂内にインサートすることにより、電槽蓋の樹脂材料との間に、樹脂のアンカー効果を持たせることで、ブッシングと樹脂材料との間の密着性を向上させることが想定される。
しかし、この形状の環状突起を設けたブッシングを鋳造方式で製造することは困難である。また、鋳造後のブッシングの環状突起を切削加工して、同様の形状を持たせることは可能であるが、この方式では、ブッシングを加工する工程が余計に入るため、コストが大幅に上昇してしまうという問題があった。
本発明は、簡単な方法にて電池蓋との間の密着性を向上させ、電解液の染み出しを防止できる鉛蓄電池のブッシングの製造方法、及び、ブッシングを鋳造するための鋳型を提供することを目定とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、電極を保持する筒状のブッシング本体の外周に周方向に延びる複数の環状突起を一体に備え、これら環状突起が樹脂製の電池蓋にインサートされる鉛蓄電池用のブッシングの製造方法において、鋳型に液状の金属を流し込んで、前記ブッシング本体及び前記複数の環状突起を一体に鋳造する第1工程と、少なくとも一の前記環状突起を他の前記環状突起に向けて塑性変形させる第2工程とを備えることを特徴とする。
また、上記構成において、前記第2工程では、少なくとも最上段の環状突起を、その周縁部が下段の環状突起に向けて傾斜するように塑性変形させることを特徴とする。
【0007】
この構成において、前記第2工程は、前記最上段の環状突起の上面を前記鋳型に当接させた状態で、前記ブッシング本体を押し上げ、当該最上段の環状突起を塑性変形させても良い。また、前記鋳型は、前記ブッシング本体における前記最上段の環状突起よりも上方に位置する上筒部の外周面を形成する筒状型と、この筒状型を上下にスライド自在に保持する固定型と、前記ブッシング本体の内周面を形成するとともに、当該ブッシング本体の下端部を保持する鋳型ピンとを備え、この鋳型ピンを、前記ブッシング本体及び前記筒状型と一体に押し上げることにより、前記最上段の環状突起の周縁部を前記固定型に押し当てて当該環状突起を塑性変形させても良い。また、前記ブッシング本体の押し上げ量は、前記最上段の環状突起と2段目の環状突起との距離の0.2倍から0.5倍としても良い。
【0008】
また、本発明は、電極を保持する筒状のブッシング本体の外周に周方向に延びる複数の環状突起を一体に備え、これら環状突起が樹脂製の電池蓋にインサートされる鉛蓄電池用のブッシングの鋳型において、前記ブッシング本体における前記最上段の環状突起よりも上方に位置する上筒部の外周面を形成する筒状型と、この筒状型を上下にスライド自在に保持する固定型と、前記ブッシング本体の内周面を形成するとともに、当該ブッシング本体の下端部を保持する鋳型ピンとを備え、前記筒状型の外径を前記最上段の環状突起の外径よりも小さく形成するとともに、前記鋳型ピンを前記ブッシング本体及び前記筒状型と一体に上方に移動可能としたことを特徴とする。
【0009】
また、前記第2工程では、少なくとも最下段の環状突起を、その周縁部が上段の環状突起に向けて傾斜するように塑性変形させても良い。
また、前記第2工程は、前記最下段の環状突起の下面を前記鋳型により押し上げることで、当該最下段の環状突起を塑性変形させる構成としても良い。
さらに、前記鋳型は、前記ブッシング本体の内周面を形成するとともに、当該ブッシング本体の下端部を保持する鋳型ピンと、当該鋳型ピンの軸方向にスライド可能に設けられ、前記ブッシング本体の下端部を保持するスライドピンとを備え、当該スライドピンによって前記最下段の環状突起の周縁部を押し上げることにより、当該環状突起を塑性変形させる構成としても良い。さらにまた、前記スライドピンの押し上げ量は、前記最下段の環状突起と下から2段目の環状突起との距離の0.2倍から0.5倍としても良い。
【0010】
また、本発明は、電極を保持する筒状のブッシング本体の外周に周方向に延びる複数の環状突起を一体に備え、これら環状突起が樹脂製の電池蓋にインサートされる鉛蓄電池用のブッシングの鋳型において、前記ブッシング本体の内周面を形成するとともに、当該ブッシング本体の下端部を保持する鋳型ピンと、当該鋳型ピンに対し上下にスライド可能に設けられ、前記ブッシング本体の下端部を保持するスライドピンとを備え、当該スライドピンによって最下段の前記環状突起の周縁部を押し上げ可能としたことを特徴とする。
また、前記第2工程では、最上段の環状突起を、その周縁部が下段の環状突起に向けて傾斜するように塑性変形させるとともに、最下段の環状突起を、その周縁部が上段の環状突起に向けて傾斜するように塑性変形させても良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、鋳型に液状の金属を流し込んで、前記ブッシング本体及び前記複数の環状突起を一体に鋳造した後に、少なくとも一の環状突起を他の環状突起に向けて塑性変形させてブッシングを製造したため、このブッシングの複数の環状突起を樹脂製の電池蓋にインサートした際に、塑性変形した環状突起間に流入した樹脂材料がいわゆるアンカー効果を発揮し、ブッシングと樹脂材料との間の密着性が向上される。これにより、簡単な方法で電池蓋との気密性及び液密性の向上を図ることができ、電解液の染み出しを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1の実施形態にかかるブッシングを用いて構成した鉛蓄電池の端子部の断面図である。
【図2】ブッシングを鋳造するための鋳型の部品構成を示す断面斜視図である。
【図3】鋳型の一部を拡大した部分拡大図である。
【図4】A〜Fは、図2の鋳型によりブッシングを製造する際の手順を示す図である。
【図5】図1の部分拡大図である。
【図6】第2の実施形態にかかるブッシングを用いて構成した鉛蓄電池における端子部の断面の部分拡大図である。
【図7】ブッシングを鋳造するための鋳型の部品構成を示す断面斜視図である。
【図8】A〜Fは、図7の鋳型によりブッシングを製造する際の手順を示す図である。
【図9】ブッシングが電池蓋にインサート成形される状態を示す断面図である。
【図10】第3の実施形態にかかるブッシングを用いて構成した鉛蓄電池における端子部の断面の部分拡大図である。
【図11】ブッシングを鋳造するための鋳型の部品構成を示す断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態にかかるブッシング1を用いて構成した鉛蓄電池の端子部10の断面図である。
ブッシング1は、図1に示すように、鉛合金からなる中空円筒状のブッシング本体2と、このブッシング本体2のほぼ下半部外周に一体に上下複数段(第1の実施形態では5段)に突出形成された環状突起3A〜3Eとを備えている。各環状突起3A〜3Eは、ブッシング本体2の周方向に連続して延びる鍔形状の突起であり、その互いに隣り合う環状突起間が環状溝4となっている。最上段の環状突起3Aはその外径寸法がその下側の環状突起3B〜3Eの外径寸法よりも大きく形成されるとともに、この環状突起3Aの周縁部が上から2段目の環状突起3Bに向けて傾斜するように形成されている。
環状突起3A〜3Eは、ブッシング本体2の下半部に形成されており、ブッシング本体2における最上段の環状突起3Aよりも上方部分は筒状に形成されている。この環状突起3Aよりも上方の部分を上筒部2Aという。
【0014】
このブッシング1を用いて電池蓋5に端子部10を形成する場合、このブッシング1をインサート成形用の金型(不図示)に隙間を設けて配置し、この金型に樹脂材料(例えば、ABS樹脂あるいはポリプロピレン(PP)樹脂)を射出することにより、図1に示すように、ブッシング1の最上段の環状突起3Aより下側が電池蓋5にインサートされる。そして、ブッシング1の中空内に電極たる極柱6が挿入され、この極柱6の上部6Aがブッシング1に溶接されて端子部10が形成される。
本構成では、ブッシング1は、最上段の環状突起3Aの周縁部が上から2段目の環状突起3Bに向けて傾斜するように形成されている点に特徴を有し、以下に、このブッシング1を製造する方法について説明する。
【0015】
図2は、ブッシング1を鋳造するための鋳型11の部品構成を示す断面斜視図である。図3は、鋳型11の部分拡大図である。
鋳型11は、図2に示すように、ゲートプレート12と、固定型13と、筒状型14と、第1移動型15と、第2移動型16と、鋳型ピン17との6つの部品を組み合わせて構成されており、各部品を組み合わせた状態では鋳型11の内部にブッシング1と略同一形状の空隙18が形成される。
ゲートプレート12は、鋳型11の最上段に配置される部品であり、このゲートプレート12の上面には、液状の金属(例えば、鉛合金)が貯留される貯留穴部12Aが形成され、この貯留穴部12Aの底面には、当該貯留穴部12Aと上記した空隙18とを連通する一対の連通孔12B,12Bが形成されている。
固定型13は、ゲートプレート12の下方に配置され、略中央に上下に貫通する孔部13Aを有し、この孔部13Aに筒状型14が上下にスライド(摺動)自在に保持されている。筒状型14は、外径が略一定で、内径が上端部から下端部に移行するに連れて拡径するように、内面14Aがテーパ状に形成されており、この筒状型14の内面14Aにより、図1に示すブッシング本体2の最上段の環状突起3Aよりも上方に位置する上筒部2Aの外面が形成される。
【0016】
第1移動型15及び第2移動型16は、それぞれ筒状型14を保持する固定型13の下方に配置され、これら第1移動型15及び第2移動型16が協働して上記した環状突起3A〜3Eを形成する。
第1移動型15及び第2移動型16は、鋳造したブッシング1を型抜きするために分割されており、これら第1移動型15及び第2移動型16は左右対称の形状を有する。第1移動型15及び第2移動型16の上面には、図3に示すように、固定型13及び筒状型14の下面と協働して最上段の環状突起3Aを形成するための大径孔部15A、16Aが形成されている。この大径孔部15A,16Aは、第1移動型15及び第2移動型16を組み合わせた際に円形孔を構成し、この円形孔の内径(最上段の環状突起3Aの外径に相当)D1は、筒状型14の外径D2よりも大きく形成されている。従って、これら大径孔部15A,16Aにて鋳造された環状突起3Aの周縁部は、筒状型14を上方にスライド移動させたとしても固定型13の孔部13A側の角部13Bに当接するようになっている。
また、大径孔部15A,16Aの下方には、この大径孔部15A,16Aよりも縮径した小径孔部15B,16Bが形成され、これら小径孔部15B,16Bには、高さ方向に複数の溝部15B1,16B1が形成されている。これら溝部15B1,16B1は、それぞれ高さ方向で繋がって環状の溝部を構成し、2段目以降の環状突起3B〜3Eを形成する。小径孔部15B,16Bの下方には、この小径孔部15B,16Bよりも拡径して、第1移動型15及び第2移動型16の下面に開口し、上記した鋳型ピン17が係合する係合孔部15C,16Cが形成されている。
【0017】
鋳型ピン17は、第1移動型15及び第2移動型16の係合孔部15C,16Cに係合する断面円形の係合部17Aと、この係合部17Aの略中央から上方に延びるピン本体17Bとを一体に備える。この鋳型ピン17は、係合部17Aが第1移動型15及び第2移動型16の係合孔部15C,16Cに係合することにより、鋳型ピン17の上方への移動が規制されているが、鋳造後に第1移動型15及び第2移動型16をそれぞれ開くことにより規制が解除される。このため、鋳型ピン17は、鋳造したブッシング1(ブッシング本体2)と一体に上昇への移動を可能に構成されている。
ピン本体17Bは、上端が縮径する円錐台形形状に形成され、第1移動型15及び第2移動型16の大径孔部15A,16A及び小径孔部15B,16B、固定型13に保持される筒状型14を貫通してゲートプレート12の下面に当接している。これにより、ピン本体17Bの外周面によりブッシング本体2の内面が形成される。また、係合部17Aの上面は、小径孔部15B,16Bの内側に面して配置され、第1移動型15及び第2移動型16と協働してブッシング本体2の下端部を形成するとともに保持する。
【0018】
次に、上記した鋳型11を用いてブッシング1を作製する手順について説明する。
まず、図4Aに示すように、ゲートプレート12と、固定型13と、筒状型14と、第1移動型15と、第2移動型16と、鋳型ピン17との6つの部品を組み合わせて鋳型11を構成する。これにより、鋳型11の内部には、ブッシングの形状に合致した空隙18が形成される。
続いて、鋳型11を、例えば、鋳型温度180〜240℃の囲に加熱し、図4Bに示すように、ゲートプレート12の貯留穴部12Aから上記した空隙に、例えば、鉛合金溶湯温度400〜440℃とした液状の鉛合金を注入する。この注入された鉛合金は、ゲートプレート12の連通孔12Bを通じて、鋳型11内の空隙18に流れ込み、この状態で放冷することにより凝固させる。
【0019】
続いて、図4Cに示すように、ゲートプレート12を固定型13に対して水平方向にスライドさせて、鋳型11内で鋳造されたブッシング1と、ゲートプレート12内に存在する押し湯部分20とを切り離す。この場合、ゲートプレート12は、押し湯部分20を切り離すことにより、固定型13に載置されている状態なので、このゲートプレート12を取り払うことも可能である。これら図4A〜図4Cに該当する手順が第1の工程に相当する。
続いて、図4Dに示すように、第1移動型15及び第2移動型16をそれぞれ外方にスライドさせて型を開く。これにより、第1移動型15及び第2移動型16の係合孔部15C,16Cと、鋳型ピン17の係合部17Aとの係合が解かれ、この鋳型ピン17の上方への移動の規制が解除される。また、第1移動型15及び第2移動型16を開いた状態では、ブッシング1の最上段の環状突起3Aは、筒状型14及び固定型13の各底面に当接されている。
【0020】
続いて、図4Eに示すように、鋳型ピン17を上方に押し上げる。この場合、この鋳型ピン17に下端部を保持されているブッシング本体2と、このブッシング本体2の上筒部2Aと最上段の環状突起3Aとで保持されている筒状型14とは、鋳型ピン17の押し上げ動作に伴い、この鋳型ピン17と一体に押し上げられる。
すると、ブッシング1は、最上段の環状突起3Aの周縁部が、固定型13の孔部13A側の角部13Bに当接した状態で押し上げられるため、当該最上段の環状突起3Aは、その周縁部が2段目の環状突起3Bに向けて傾斜するように塑性変形される(第2の工程)。
そして、最後に、図4Fに示すように、鋳型ピン17を筒状型14から下方に引き抜き、この鋳型ピン17からブッシング1を抜きとることにより、ブッシング1が作製される。
【0021】
この構成では、ブッシング1を鋳造した際に、その鋳型11の一部である鋳型ピン17を押し上げるだけで、簡単に最上段の環状突起3Aを塑性変形させることができるため、従来のように、鋳造したブッシングを別途加工する等の手間を省くことができ、後述するアンカー効果を有する環状突起を簡単に設けることができる。特に、本構成では、ブッシング1を鋳型11から完全に抜きとる前に最上段の環状突起3Aを塑性変形することができるため、この変形加工に要する手間や時間を最小限に抑えることができる。
【0022】
このように、最上段の環状突起3Aを、その周縁部が2段目の環状突起3Bに向けて傾斜するように塑性変形させることにより、図5に示すように、これら環状突起3A,3B間の環状溝4Aは、ブッシング本体2に近接する基端部側が先端側よりも高さが高くなるように変形するため、この環状溝4Aに流入して硬化した樹脂材料がいわゆるアンカー効果を発揮し、ブッシング1と樹脂材料との間の密着性が向上される。
ここで、環状突起3Aの変形量(ブッシング本体の押し上げ量に相当)H1は、環状溝4Aの高さ(最上段の環状突起と2段目の環状突起との距離)H2の0.2倍から0.5倍なるように設定されている。環状突起3Aの変形量H1を環状溝4Aの高さH2の0.2倍未満とすると、変形量が小さく十分なアンカー効果が発揮されない。一方、環状突起3Aの変形量H1が環状溝4Aの高さH2の0.5倍を超えると、最上段の環状突起3Aと2段目の環状突起3Bの先端部間が狭くなりすぎるため、環状溝4Aへの樹脂の注入が困難となる。
【0023】
以上、説明したように、本発明を適用した第1の実施形態によれば、極柱6を保持する筒状のブッシング本体2の外周に周方向に延びる複数の環状突起3A〜3Eを一体に備え、これら環状突起3A〜3Eが樹脂製の電池蓋5にインサートされる鉛蓄電池用のブッシング1の製造方法において、鋳型11に液状の鉛合金を流し込んで、ブッシング本体2及び複数の環状突起3A〜3Eを一体に鋳造し、一つの環状突起3Aを他の環状突起である環状突起3B側に向けて塑性変形させたため、環状突起3Aの近傍に流入した樹脂材料がいわゆるアンカー効果を発揮し、ブッシング1と電池蓋5の樹脂材料との間の密着性が向上される。これにより、簡単な方法で電池蓋5との気密性及び液密性の向上を図ることができ、電解液の染み出しを防止することができる。
【0024】
また、最上段の環状突起3Aを、その周縁部が下方に位置する2段目の環状突起3Bに向けて傾斜するように塑性変形させたため、これら環状突起3A,3B間の環状溝4Aは、ブッシング本体2に近接する基端部側が先端側よりも高さが高くなるように変形される。このため、複数の環状突起3A〜3Eを樹脂製の電池蓋5にインサートした際に、塑性変形した環状突起3A、3B間に流入した樹脂材料がいわゆるアンカー効果を発揮し、ブッシング1と樹脂材料との間の密着性が向上される。これにより、簡単な方法で電池蓋5との気密性及び液密性の向上を図ることができ、電解液の染み出しを防止することができる。
【0025】
また、第1の実施形態によれば、鋳型11は、ブッシング本体2における最上段の環状突起3Aよりも上方に位置する上筒部2Aの外周面を形成する筒状型14と、この筒状型14を上下にスライド自在に保持する固定型13と、ブッシング本体2の内周面を形成するとともに、当該ブッシング本体2の下端部を保持する鋳型ピン17とを備え、この鋳型ピン17を、ブッシング本体2及び筒状型14と一体に押し上げることにより、最上段の環状突起3Aの周縁部を固定型13の角部13Bに押し当てて当該環状突起3Aを塑性変形させるため、ブッシング1を鋳造した際に、その鋳型11の一部である鋳型ピン17を押し上げるだけで、簡単に最上段の環状突起3Aを塑性変形させることができる。このため、従来のように、鋳造したブッシングを別途加工する等の手間を省くことができ、アンカー効果を有する環状突起を簡単に設けることができる。更に、ブッシングを鋳型から完全に抜きとる前に最上段の環状突起を塑性変形することができるため、この変形加工に要する手間や時間を最小限に抑えることができる。
【0026】
また、第1の実施形態によれば、環状突起3Aの変形量H1は、環状溝4Aの高さH2の0.2倍から0.5倍となるように設定されているため、この環状溝4Aに容易に樹脂材料を容易に注入可能としつつ、十分なアンカー効果を発揮させることが可能となる。
【0027】
また、第1の実施形態では、鋳型11は、ブッシング本体2における最上段の環状突起3Aよりも上方に位置する上筒部2Aの外周面を形成する筒状型14と、この筒状型14を上下にスライド自在に保持する固定型13と、ブッシング本体2の内周面を形成するとともに、当該ブッシング本体2の下端部を保持する鋳型ピン17とを備え、筒状型14の外径D2を最上段の環状突起3Aの外径D1よりも小さく形成するとともに、鋳型ピン17をブッシング本体2及び筒状型14と一体に上方に移動可能としたため、この鋳型ピン17を上方に押し上げることにより、最上段の環状突起3Aの周縁部を固定型13の角部13Bに押し当てて当該環状突起3Aを塑性変形させることができる。このため、ブッシング1を鋳造した後に、このブッシング1を鋳型11から完全に抜きとる前に最上段の環状突起3Aを塑性変形させることができ、この変形加工に要する手間や時間を最小限に抑えることができる。
【0028】
[第2の実施形態]
以下、図6〜図8を参照して、本発明を適用した第2の実施形態について説明する。この第2の実施形態において、上記第1の実施形態と同様に構成される部分については、同符号を付して説明を省略する。
第2の実施形態では、最下段の環状突起3Fが塑性変形される点が上記第1の実施形態と異なっている。
【0029】
図6は、第2の実施形態にかかるブッシングを用いて構成した鉛蓄電池における端子部の断面の部分拡大図である。
ブッシング100は、図6に示すように、ブッシング本体2と、環状突起3A〜3D及び環状突起3Fを備えている。最上段の環状突起3A及び最下段の環状突起3Fの外径寸法は、環状突起3Aと環状突起3Fとの間に位置する環状突起3B〜3Dの外径寸法よりも大きく形成されている。また、最下段の環状突起3Fの周縁部は、環状突起3Fの上方に隣接する環状突起3Dに向けて傾斜して形成されている。
環状突起3A〜3D,3Fは、ブッシング本体2の下半部に形成されており、環状突起3Aよりも上方の上半部には上筒部2Aが形成されている。
【0030】
図7は、ブッシングを鋳造するための鋳型31の部品構成を示す断面斜視図である。
以下に、このブッシング100を製造する方法について説明する。
鋳型31は、図7に示すように、ゲートプレート12と、固定型13と、第1移動型15と、第2移動型16と、鋳型ピン17との5つの部品を組み合わせて構成されており、各部品を組み合わせた状態では鋳型31の内部にブッシング100と略同一形状の空隙18が形成される。
固定型13は、ゲートプレート12の下方に配置され、略中央に上下に貫通する孔部13Aを有し、この孔部13Aの内周面は、筒状内面34となっている。筒状内面34は、内径が上端部から下端部に移行するに連れて拡径するように、テーパ状に形成されており、この筒状内面34により、図6に示すブッシング本体2の上筒部2Aの外面が形成される。
【0031】
第1移動型15及び第2移動型16は、それぞれ固定型13の下方に配置され、これら第1移動型15及び第2移動型16が協働して上記した環状突起3A〜3D,3Fを形成する。
第1移動型15及び第2移動型16の上面には、図7に示すように、固定型13の下面と協働して最上段の環状突起3Aを形成するための大径孔部15A、16Aが形成されている。
また、大径孔部15A,16Aの下方には、この大径孔部15A,16Aよりも縮径した小径孔部15B,16Bが形成され、これら小径孔部15B,16Bは、2段目以降の環状突起3B〜3Dを形成する。
【0032】
小径孔部15B,16Bの下方には、小径孔部15B,16Bよりも拡径して、第1移動型15及び第2移動型16の下面に開口し、上記した鋳型ピン17が係合する係合孔部15C,16Cが形成されている。係合孔部15C,16Cは、第1移動型15及び第2移動型16を組み合わせた際に円形孔を構成し、係合孔部15C,16Cの上方には、鋳型ピン17の係合部17Aの上面と協働して最下段の環状突起3Fを形成する大径孔部35A,36Aが形成されている。この大径孔部35A,36Aの外径は、大径孔部15A,16Aの外形と略同一に形成されている。
【0033】
鋳型ピン17は、第1移動型15及び第2移動型16の係合孔部15C,16Cに係合する断面円形の係合部17Aと、この係合部17Aの略中央から上方に延びるピン本体17Bとを一体に備える。詳細には、係合部17Aは、2分割して構成されており、ピン本体17Bが立設される円柱状の柱状基部36と、この柱状基部36の外周面に嵌合するピン状のスライドパイプ37(スライドピン)とを有している。スライドパイプ37は、柱状基部36の外周面に対してスライド自在な内周部37A、及び、係合孔部15C,16Cの内周面に係合する外周部37Bを有するパイプ状に形成され、柱状基部36の軸方向にスライド自在に設けられている。内周部37Aは、環状突起3F,3D間の環状溝4B(図6、図8参照)よりも、ブッシング100の外周側に位置している。
スライドパイプ37の上面37Cは平坦に形成され、ブッシング100の鋳造時においては、柱状基部36の上面と上面37Cとは面一となるようにセットされる。柱状基部36の上面及び上面37Cは、ブッシング本体2の下端部を保持する。
【0034】
スライドパイプ37は、外周部37Bの外径が大径孔部35A,36Aの外径よりも大きい大径に形成されており、強度が確保されている。第1の実施形態のように、最上段の環状突起3Aを塑性変形させる場合、図3に示すように、筒状型14の外径は、角部13Bを環状突起3Aに当接させるために大径孔部15A、16Aの外径よりも小さい必要があり、筒状型14の肉厚は比較的小さくなる。しかし、最下段の環状突起3Fを塑性変形させる第2の実施形態では、スライドパイプ37の外径を大径孔部35A,36Aの外径を超えて大きくでき、スライドパイプ37の肉厚を大きくして強度をより高めることができるため、鋳型31によるブッシング100の量産性を向上できる。
【0035】
次に、上記した鋳型31を用いてブッシング100を作製する手順について説明する。
図8は、図7の鋳型31によりブッシング100を製造する際の手順を示す図である。
まず、図8Aに示すように、ゲートプレート12と、固定型13と、第1移動型15と、第2移動型16と、鋳型ピン17とを組み合わせて鋳型31を構成する。これにより、鋳型31の内部には、ブッシング100の形状に合致した空隙18が形成される。
続いて、鋳型31を、例えば、鋳型温度180〜240℃の囲に加熱し、図8Bに示すように、ゲートプレート12の貯留穴部12Aから上記した空隙に、例えば、鉛合金溶湯温度400〜440℃とした液状の鉛合金を注入する。この注入された鉛合金は、ゲートプレート12の連通孔12Bを通じて、鋳型31内の空隙18に流れ込み、この状態で放冷することにより凝固する。
【0036】
続いて、図8Cに示すように、ゲートプレート12を固定型13に対して水平方向にスライドさせて、鋳型11内で鋳造されたブッシング100と、ゲートプレート12内に存在する押し湯部分20とを切り離す。ここで、ゲートプレート12は、押し湯部分20を切り離すことにより、固定型13に載置されている状態なので、このゲートプレート12を取り払うことも可能である。これら図8A〜図8Cに該当する手順が第1の工程に相当し、この工程により、ブッシング本体2及び環状突起3A〜3D,3Fが一体に形成される。
【0037】
続いて、図8Dに示すように、第1移動型15及び第2移動型16をそれぞれ外方にスライドさせて型を開く。これにより、第1移動型15及び第2移動型16の係合孔部15C,16Cと鋳型ピン17のスライドパイプ37との係合、及び、第1移動型15及び第2移動型16と環状突起3A〜3D,3Fとの係合が解除される。この段階では、図8Dの拡大部分に示すように、最下段の環状突起3Fは、柱状基部36の上面と上面37Cとに支持され、略水平に延びている。
また、第1移動型15及び第2移動型16を開いた状態では、鋳型ピン17及びブッシング100は、各上端がゲートプレート12の下面に当接しており、上方への移動を規制されている。ここで、図8Cの工程でゲートプレート12が取り払われている場合、鋳型ピン17及びブッシング100は、他の固定具等によって上方への移動を規制されても良い。
【0038】
続いて、図8Eに示すように、スライドパイプ37のみを上方に押し上げる。図8Dの工程で係合孔部15C,16Cと環状突起3A〜3D,3Fとの係合が解除されているとともに、鋳型ピン17及びブッシング100の上方への移動がゲートプレート12によって規制されているため、スライドパイプ37のみをスライドさせて上方に押し上げることができる。これにより、スライドパイプ37の上面37Cによって最下段の環状突起3Fの下面が押し上げられて曲がり、環状突起3Fの周縁部は、環状突起3Dの側に上方に向けて傾斜するように塑性変形される(第2の工程)。ここで、スライドパイプ37の内周部37Aが環状溝4Bよりも、ブッシング100の外周側に位置しているため、環状突起3Fの下面に集中的に荷重を作用させることができ、環状突起3Fを容易に変形させることができる。
そして、最後に、図8Fに示すように、鋳型ピン17を固定型13から下方に引き抜き、この鋳型ピン17からブッシング100を抜きとることにより、ブッシング100が作製される。
【0039】
第2の実施形態では、ブッシング100を鋳造した際に、その鋳型31の一部である鋳型ピン17のスライドパイプ37を押し上げるだけで、簡単に最下段の環状突起3Fを塑性変形させることができるため、従来のように、鋳造したブッシングを別途加工する等の手間を省くことができ、アンカー効果を有する環状突起を簡単に設けることができる。特に、本構成では、ブッシング100を鋳型31から完全に抜きとる前に、鋳型31内で最下段の環状突起3Fを塑性変形させることができるため、この変形加工に要する手間や時間を最小限に抑えることができる。
【0040】
このように、最下段の環状突起3Fを、その周縁部が環状突起3Fの上方に隣接する環状突起3Dに向けて傾斜するように塑性変形させることにより、図6に示すように、これら環状突起3F,3D間の環状溝4Bは、ブッシング本体2に近接する基端部側が先端側よりも高さが高くなるように変形するため、この環状溝4Bに流入して硬化した樹脂材料がいわゆるアンカー効果を発揮し、ブッシング100と電池蓋5を構成する樹脂材料との間の密着性が向上される。
ここで、図6に示すように、環状突起3Fの変形量(スライドパイプ37の押し上げ量に相当)H3は、環状溝4Bの高さ(環状突起3Fと環状突起3Dとの距離)H4の0.2倍から0.5倍となるように設定されている。環状突起3Fの変形量H3を環状溝4Bの高さH4の0.2倍未満とすると、変形量が小さく十分なアンカー効果が発揮されない。一方、環状突起3Fの変形量H3が環状溝4Bの高さH4の0.5倍を超えると、環状突起3Fと環状突起3Dの先端部間の間隔が狭くなりすぎるため、環状溝4Bへの樹脂の注入が困難となる。
【0041】
さらに、電池蓋5の下面側に近い最下段の環状突起3Fの部分でアンカー効果が得られ、電槽内の電解液により近い部分において、電池蓋5を構成する樹脂とブッシング100との密着性を向上できるため、電池蓋5とブッシング100との間の気密性及び液密性の向上を図ることができる。
【0042】
図9は、ブッシング100が電池蓋5にインサート成形される状態を示す断面図である。
鋳造されたブッシング100は、インサート成型用金型200内にセットされ、電池蓋5を構成する樹脂がインサート成型用金型200内に注入されることで、ブッシング100は電池蓋5に一体にインサート成形される。
最上段の環状突起3Aの上部には、インサート成型用金型200と環状突起3Aとの境界に位置する上部樹脂切り部80が設けられている。
電池蓋5の樹脂は最下段の環状突起3Fの下方に回り込み、ブッシング本体2の下部2Bにおける内周面の近傍まで達している。環状突起3Fよりも内周面側に位置する下部2Bの下面には、インサート成型用金型200と下部2Bとの境界に位置する下部樹脂切り部81が設けられている。
【0043】
上部樹脂切り部80及び下部樹脂切り部81には、ブッシング100やインサート成型用金型200の寸法公差やセット状態によって隙間が形成されることがあり、この隙間が大きい場合、上部樹脂切り部80及び下部樹脂切り部81に樹脂が流れ込んでしまい、成形不良になることがある。
第1の実施形態のように、最上段の環状突起3Aを角部13B(図3参照)に当接させて環状突起3Aを変形させる場合において、角部13Bに押し付けられることで上部樹脂切り部80の近傍が所定値よりも大きく変形された場合、上部樹脂切り部80に比較的大きな隙間が生じる可能性がある。
一方、第2の実施形態では、最下段の環状突起3Fの下面がスライドパイプ37に押し上げられるため、下部2Bの内周面側に位置する下部樹脂切り部81は環状突起3Fの塑性変形にほとんど影響されることがなく、下部樹脂切り部81に大きな隙間が形成されることを防止できる。このため、インサート成形の際に、電池蓋5の樹脂が下部樹脂切り部81に流れ込むことを防止でき、品質をより向上できる。
【0044】
図7に示すように、貯留穴部12Aから供給される溶融された鉛合金は、鋳型31内を落下して下部から上部にかけて順に鋳型31内に満たされ、ブッシング100は、まず、下部から先に凝固し、上部ほど後に凝固することになる。また、最下段の環状突起3Fを含むブッシング100の下部は鋳型31の端部に位置し、中央側よりもより冷却され易くなっている。すなわち、最下段の環状突起3Fは、最上段の環状突起3Aよりも先に凝固する。このため、ブッシング100の鋳造後に環状突起を塑性変形させる場合において、最下段の環状突起3Fを塑性変形させることで、最上段の環状突起3Aを塑性変形させる場合に比して、塑性変形の対象となる環状突起が凝固するまでの待ち時間をより短くでき、量産性を向上できる。また、環状突起が完全に凝固する前に塑性変形させると、環状突起の焼き割れの原因になることがあるが、より早く凝固する最下段の環状突起3Fを塑性変形させることで、凝固しきらない状態で塑性変形が行われることを防止でき、焼き割れを防止して品質を向上できる。
【0045】
また、図9に示すように、最上段の環状突起3Aには上部樹脂切り部80が設けられており、上部樹脂切り部80は、インサート成型用金型200に当接するため強度が必要とされ、肉厚が大きく形成されている。最上段の環状突起3Aは肉厚が大きいため、熱容量が大きく、環状突起3B〜3Dに比して凝固しにくい。
一方、インサート成型用金型200に当接する下部樹脂切り部81は、環状突起3Fから離れた下部2Bに設けられており、最下段の環状突起3Fにはインサート成型用金型200から大きな力が作用しないため、最下段の環状突起3Fの肉厚は図9に示すものよりも小さく形成されても良い。すなわち、最下段の環状突起3Fは樹脂切り部を有しておらず大きな強度が必要とされないため、環状突起3Fの肉厚は、例えば、環状突起3Dと略同一なより小さい肉厚とされても良い。この場合、環状突起3Fの熱容量が小さくなるため、より早く環状突起3Fを凝固させることができ、量産性を向上できるとともに、焼き割れを防止して品質を向上できる。さらに、環状突起3Fの肉厚が小さくなることで、より小さい荷重で環状突起3Fを塑性変形させることができ、鋳型31にかかる負荷を低減できるため、量産性を向上できる。
【0046】
以上、説明したように、本発明を適用した第2の実施形態によれば、鋳型31に液状の鉛合金を流し込んで、ブッシング本体2及び複数の環状突起3A〜3D,3Fを一体に鋳造し、一の環状突起である最下段の環状突起3Fを、その周縁部が上段の環状突起3Dに向けて傾斜するように他の環状突起の側に向けて塑性変形させるため、これら環状突起3F,3D間の環状溝4Bは、ブッシング本体2に近接する基端部側が先端側よりも高さが高くなるように変形される。このため、複数の環状突起3A〜3D,3Fを樹脂製の電池蓋5にインサート成形した際に、塑性変形した環状突起3F、3D間に流入した樹脂材料がいわゆるアンカー効果を発揮し、ブッシング100と電池蓋5の樹脂材料との間の密着性が向上される。これにより、簡単な方法で電池蓋5との気密性及び液密性の向上を図ることができ、電解液の染み出しを防止することができる。さらに、最上段の環状突起3Aを塑性変形させる場合に比して、塑性変形の対象となる環状突起が凝固するまでの待ち時間を短くでき、量産性をより向上できる。また、より早く凝固する最下段の環状突起3Fを塑性変形させることで、凝固しきらない状態で塑性変形が行われることを防止でき、焼き割れを防止して品質を向上できる。
また、第2工程において、最下段の環状突起3Fの下面を鋳型31のスライドパイプ37により押し上げることで、環状突起3Fを塑性変形させるため、ブッシング100を鋳型31から完全に抜きとる前に、鋳型31内で環状突起3Fを塑性変形させることができ、この変形加工に要する手間や時間を最小限に抑えることができる。
【0047】
また、鋳型31は、ブッシング本体2の内周面を形成するとともに、ブッシング本体2の下端部を保持する鋳型ピン17と、鋳型ピン17の柱状基部36に対し軸方向にスライド可能に設けられ、ブッシング本体2の下端部を保持するスライドパイプ37とを備え、スライドパイプ37によって最下段の環状突起3Fの周縁部を押し上げることにより、環状突起3Fを塑性変形させるため、ブッシング100を鋳造した際に、その鋳型31の一部であるスライドパイプ37を押し上げるだけで、簡単に最下段の環状突起3Fを塑性変形させることができる。このため、従来のように、鋳造したブッシングを別途加工する等の手間を省くことができ、アンカー効果を有する環状突起を簡単に設けることができる。更に、ブッシングを鋳型から完全に抜きとる前に最上段の環状突起を塑性変形することができるため、この変形加工に要する手間や時間を最小限に抑えることができる。
【0048】
さらに、スライドパイプ37の押し上げ量に相当する環状突起3Fの変形量H3は、環状溝4Bの高さH4の0.2倍から0.5倍となるように設定されているため、この環状溝4Bに容易に樹脂材料を容易に注入可能としつつ、十分なアンカー効果を発揮させることが可能となる。
【0049】
さらにまた、鋳型31は、ブッシング本体2の内周面を形成するとともに、ブッシング本体2の下端部を保持する鋳型ピン17と、鋳型ピン17の軸方向にスライド可能に設けられ、ブッシング本体2の下端部を保持するスライドパイプ37とを備え、スライドパイプ37によって最下段の環状突起3Fの周縁部を押し上げ可能としたため、このスライドパイプ37を上方に押し上げることにより、最下段の環状突起3Fの周縁部を環状突起3Dの側に向けて塑性変形させることができる。このため、ブッシング100を鋳造した後に、このブッシング100を鋳型31から完全に抜きとる前に最下段の環状突起3Fを塑性変形させることができ、この変形加工に要する手間や時間を最小限に抑制できる。
【0050】
[第3の実施形態]
以下、図10、11を参照して、本発明を適用した第3の実施形態について説明する。この第3の実施形態において、上記第1の実施形態及び第2の実施形態と同様に構成される部分については、同符号を付して説明を省略する。
第3の実施形態では、鋳型41が、第1の実施形態の筒状型14と、第2の実施形態のスライドパイプ37とを備え、最上段の環状突起3A及び最下段の環状突起3Fの両方が塑性変形される点が、第1の実施形態及び第2の実施形態と異なっている。
【0051】
図10は、第3の実施形態にかかるブッシングを用いて構成した鉛蓄電池における端子部の断面の部分拡大図である。
第2の実施の形態と同一のブッシング100は、図10に示すように、ブッシング本体2と、環状突起3A〜3D,3Fを備えている。環状突起3Aの周縁部は、環状突起3Aの下方に隣接する環状突起3Bに向けて傾斜して形成され、環状突起3Fの周縁部は、環状突起3Fの上方に隣接する環状突起3Dに向けて傾斜して形成されている。
環状突起3A〜3D,3Fは、ブッシング本体2の下半部に形成されており、環状突起3Aよりも上方の上半部には上筒部2Aが形成されている。
【0052】
図11は、ブッシングを鋳造するための鋳型41の部品構成を示す断面斜視図である。
以下に、このブッシング100を製造する方法について説明する。
鋳型41は、図11に示すように、ゲートプレート12と、固定型13と、筒状型14と、第1移動型15と、第2移動型16と、スライドパイプ37を含む鋳型ピン17とを組み合わせて構成されており、各部品を組み合わせた状態では鋳型41の内部にブッシング100と略同一形状の空隙18が形成される。
【0053】
固定型13は、ゲートプレート12の下方に配置され、略中央に孔部13Aを有し、この孔部13Aに筒状型14が上下にスライド自在に保持されている。
第1移動型15及び第2移動型16には、大径孔部15A、16A及び係合孔部15C,16Cが形成され、係合孔部15C,16Cの上部は、大径孔部35A,36Aとなっている。
鋳型ピン17は係合孔部15C,16Cに係合され、鋳型ピン17の柱状基部36の外周面には、上下にスライド自在なスライドパイプ37が嵌合されている。
【0054】
鋳型41を用いてブッシング100を作成する場合、空隙18に液状の鉛合金が注入され、その後の凝固によりブッシング100が形成される。ブッシング100が凝固した後に、ゲートプレート12が取り払われるとともに、第1移動型15及び第2移動型16をそれぞれ外方にスライドされて型が開かれ、この状態では、ブッシング100は上方に移動可能となる。詳細には、ブッシング100は、最上段の環状突起3Aの上面が固定型13の角部13Bに当接するとともに、最下段の環状突起3Fの下面がスライドパイプ37及び柱状基部36によって支持されており、スライドパイプ37が上方に押し上げられることで、ブッシング100は環状突起3A,3Fが変形されつつ、筒状型14とともに上方に移動する。すなわち、スライドパイプ37により押し上げられることで、環状突起3Fは環状突起3Dの側に上に曲げられて塑性変形し、環状突起3Aは角部13Bに押し当てられることで環状突起3Bの側に下に曲げられて塑性変形する(第2の工程)。その後、鋳型ピン17が固定型13から下方に引き抜かれ、この鋳型ピン17からブッシング100が抜かれることにより、ブッシング100が作製される。
【0055】
第3の実施形態では、ブッシング100を鋳造した際に、その鋳型41の一部である鋳型ピン17のスライドパイプ37を押し上げるだけで、最上段の環状突起3A及び最下段の環状突起3Fの両方を塑性変形させることができるため、従来のように、鋳造したブッシングを別途加工する等の手間を省くことができ、アンカー効果を有する環状突起を簡単に設けることができる。また、環状突起3A,3Fを一度に塑性変形させることができるため、複数の環状突起を塑性変形させたい場合に、工程を少なくでき、生産性が良い。
【0056】
このように、最上段の環状突起3A及び最下段の環状突起3Fを、各周縁部が環状突起3A,3Fに隣接する環状突起に向けて傾斜するように塑性変形させることにより、図10に示すように、環状溝4A,4Bは、ブッシング本体2に近接する基端部側が先端側よりも高さが高くなるように変形するため、この環状溝4A,4Bに流入して硬化した樹脂材料がアンカー効果を発揮し、ブッシング100と電池蓋5を構成する樹脂材料との間の密着性が向上される。
【0057】
さらに、最上段の環状突起3A及び最下段の環状突起3Fの近傍でアンカー効果が得られ、環状突起の上下の並びの両端において樹脂との密着性を向上できるため、単に2個所の環状突起を塑性変形させた場合に比して、より効果的に電池蓋5とブッシング100との間の気密性及び液密性の向上を図ることができる。
また、環状突起3A及び環状突起3Fを、互いの先端が近づく向きに変形させるため、塑性変形によって環状突起3A〜3D,3Fの上下方向の幅が大きくなることが無い。このため、環状突起3A及び環状突起3Fを、互いの先端が離れる向きに変形させる場合に比して、電池蓋5の厚みを増加させずに、気密性及び液密性の向上を図ることができる。
【符号の説明】
【0058】
1,100 ブッシング
2 ブッシング本体
2A 上筒部
3A〜3F 環状突起
3A 最上段の環状突起
3F 最下段の環状突起
4,4A 環状溝
6 極柱(電極)
11,31,41 鋳型
12 ゲートプレート
12A 貯留穴部
12B 連通孔
13 固定型
13A 孔部
13B 角部
14 筒状型
14A 内面
15 第1移動型
16 第2移動型
15A,16A 大径孔部
15B,16B 小径孔部
15C,16C 係合孔部
17 鋳型ピン
17A 係合部
17B ピン本体
18 空隙
37 スライドパイプ(スライドピン)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極を保持する筒状のブッシング本体の外周に周方向に延びる複数の環状突起を一体に備え、これら環状突起が樹脂製の電池蓋にインサートされる鉛蓄電池用のブッシングの製造方法において、
鋳型に液状の金属を流し込んで、前記ブッシング本体及び前記複数の環状突起を一体に鋳造する第1工程と、少なくとも一の前記環状突起を他の前記環状突起に向けて塑性変形させる第2工程とを備えることを特徴とするブッシングの製造方法。
【請求項2】
前記第2工程では、少なくとも最上段の環状突起を、その周縁部が下段の環状突起に向けて傾斜するように塑性変形させることを特徴とする請求項1に記載のブッシングの製造方法。
【請求項3】
前記第2工程は、前記最上段の環状突起の上面を前記鋳型に当接させた状態で、前記ブッシング本体を押し上げ、当該最上段の環状突起を塑性変形させることを特徴とする請求項2に記載のブッシングの製造方法。
【請求項4】
前記鋳型は、前記ブッシング本体における前記最上段の環状突起よりも上方に位置する上筒部の外周面を形成する筒状型と、この筒状型を上下にスライド自在に保持する固定型と、前記ブッシング本体の内周面を形成するとともに、当該ブッシング本体の下端部を保持する鋳型ピンとを備え、この鋳型ピンを、前記ブッシング本体及び前記筒状型と一体に押し上げることにより、前記最上段の環状突起の周縁部を前記固定型に押し当てて当該環状突起を塑性変形させることを特徴とする請求項3に記載のブッシングの製造方法。
【請求項5】
前記ブッシング本体の押し上げ量は、前記最上段の環状突起と2段目の環状突起との距離の0.2倍から0.5倍としたことを特徴とする請求項3または4に記載のブッシングの製造方法。
【請求項6】
電極を保持する筒状のブッシング本体の外周に周方向に延びる複数の環状突起を一体に備え、これら環状突起が樹脂製の電池蓋にインサートされる鉛蓄電池用のブッシングの鋳型において、
前記ブッシング本体における最上段の環状突起よりも上方に位置する上筒部の外周面を形成する筒状型と、この筒状型を上下にスライド自在に保持する固定型と、前記ブッシング本体の内周面を形成するとともに、当該ブッシング本体の下端部を保持する鋳型ピンとを備え、前記筒状型の外径を前記最上段の環状突起の外径よりも小さく形成するとともに、前記鋳型ピンを前記ブッシング本体及び前記筒状型と一体に上方に移動可能としたことを特徴とするブッシングの鋳型。
【請求項7】
前記第2工程では、少なくとも最下段の環状突起を、その周縁部が上段の環状突起に向けて傾斜するように塑性変形させることを特徴とする請求項1に記載のブッシングの製造方法。
【請求項8】
前記第2工程は、前記最下段の環状突起の下面を前記鋳型により押し上げることで、当該最下段の環状突起を塑性変形させることを特徴とする請求項7に記載のブッシングの製造方法。
【請求項9】
前記鋳型は、前記ブッシング本体の内周面を形成するとともに、当該ブッシング本体の下端部を保持する鋳型ピンと、当該鋳型ピンの軸方向にスライド可能に設けられ、前記ブッシング本体の下端部を保持するスライドピンとを備え、当該スライドピンによって前記最下段の環状突起の周縁部を押し上げることにより、当該環状突起を塑性変形させることを特徴とする請求項8に記載のブッシングの製造方法。
【請求項10】
前記スライドピンの押し上げ量は、前記最下段の環状突起と下から2段目の環状突起との距離の0.2倍から0.5倍としたことを特徴とする請求項9に記載のブッシングの製造方法。
【請求項11】
電極を保持する筒状のブッシング本体の外周に周方向に延びる複数の環状突起を一体に備え、これら環状突起が樹脂製の電池蓋にインサートされる鉛蓄電池用のブッシングの鋳型において、
前記ブッシング本体の内周面を形成するとともに、当該ブッシング本体の下端部を保持する鋳型ピンと、当該鋳型ピンに対し上下にスライド可能に設けられ、前記ブッシング本体の下端部を保持するスライドピンとを備え、当該スライドピンによって最下段の前記環状突起の周縁部を押し上げ可能としたことを特徴とするブッシングの鋳型。
【請求項12】
前記第2工程では、最上段の環状突起を、その周縁部が下段の環状突起に向けて傾斜するように塑性変形させるとともに、最下段の環状突起を、その周縁部が上段の環状突起に向けて傾斜するように塑性変形させることを特徴とする請求項1に記載のブッシングの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2011−228258(P2011−228258A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261473(P2010−261473)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000005382)古河電池株式会社 (314)
【Fターム(参考)】