ブラシレスモータの駆動装置
【課題】モータ(巻線)のばらつきや温度環境などに因る通電モードの切り替えタイミングのずれを抑制でき、以って、効率の低下や脱調の発生を抑制できるブラシレスモータの駆動装置を提供する。
【解決手段】非通電相の電圧の検出値が電圧閾値を横切ったときに、通電モードを順次切り替えるセンサレスの駆動装置において、初期位置にモータを停止させた状態から通電モードに基づく相通電を行ってモータを回転させ、該回転中における非通電相の電圧の最大値又は最小値から、通電モードの切替角度位置における非通電相の電圧を検出し、該検出した電圧に基づいて前記電圧閾値を学習する。
【解決手段】非通電相の電圧の検出値が電圧閾値を横切ったときに、通電モードを順次切り替えるセンサレスの駆動装置において、初期位置にモータを停止させた状態から通電モードに基づく相通電を行ってモータを回転させ、該回転中における非通電相の電圧の最大値又は最小値から、通電モードの切替角度位置における非通電相の電圧を検出し、該検出した電圧に基づいて前記電圧閾値を学習する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスモータの駆動装置に関し、詳しくは、センサレスで通電モードの切り替えを行うブラシレスモータの駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、3相同期電動機の非通電相の端子電位を、基準電圧とレベル比較し、該レベル比較の結果に応じて、通電モードを順次切り替えていく、同期電動機の駆動システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−189176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述のようなセンサレス式の駆動制御では、開放相(非通電相)の端子電圧(誘起電圧)が、モータ(巻線)のばらつきや温度環境などによって変化することで、通電モードの切り替えタイミングにずれを生じ、効率の低下や脱調が発生する惧れがあった。
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、モータ(巻線)のばらつきや温度環境などに因る通電モードの切り替えタイミングのずれを抑制でき、以って、効率の低下や脱調の発生を抑制できるブラシレスモータの駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そのため、本願発明では、非通電相の電圧と電圧閾値とに基づいて通電モードを順次切り替える駆動装置において、初期位置にモータを停止させた状態から通電モードに基づく相通電を行ってモータを回転させ、該回転中における非通電相の電圧に基づいて前記電圧閾値を設定するようにした。
【発明の効果】
【0006】
上記発明によると、モータ(巻線)のばらつきや温度環境の違いなどがあっても、通電モードの切り替えタイミングを適正に維持することが可能となり、効率の低下や脱調の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施形態において、本願発明に係るブラシレスモータの駆動装置を適用する、自動車AT(オートマチック・トランスミッション)用油圧ポンプシステムの構成を示すブロック図である。
【図2】実施形態におけるモータ制御装置及びブラシレスモータの構成を示す回路図である。
【図3】実施形態における制御器の構成を示すブロック図である。
【図4】実施形態におけるブラシレスモータの通電パターンを示すタイムチャートである。
【図5】実施形態における電圧閾値の学習処理を示すフローチャートである。
【図6】実施形態における電圧閾値の学習処理を示すフローチャートである。
【図7】実施形態における電圧閾値V3-4の学習における各相の印加電圧、磁束、ロータの回転位置を示す状態図であり、(A)は初期位置への回動状態、(B)は通電モード(3)の状態を示す図である。
【図8】実施形態における電圧閾値V3-4の学習における開放相の電圧変化を示すタイムチャートであり、(A)は電圧V1-30のサンプリング時期、(B)は最小値V2-30の検出特性を示す図である。
【図9】実施形態における電圧閾値V4-5の学習における各相の印加電圧、磁束、ロータの回転位置を示す状態図であり、(A)は初期位置への回動状態、(B)は通電モード(4)の状態を示す図である。
【図10】実施形態における電圧閾値V4-5の学習における開放相の電圧変化を示すタイムチャートであり、(A)は電圧V1-90のサンプリング時期、(B)は最大値V2-90の検出特性を示す図である。
【図11】実施形態における電圧閾値V5-6の学習における各相の印加電圧、磁束、ロータの回転位置を示す状態図であり、(A)は初期位置への回動状態、(B)は通電モード(5)の状態を示す図である。
【図12】実施形態における電圧閾値V5-6の学習における開放相の電圧変化を示すタイムチャートであり、(A)は電圧V1-150のサンプリング時期、(B)は最小値V2-150の検出特性を示す図である。
【図13】実施形態における電圧閾値V6-1の学習における各相の印加電圧、磁束、ロータの回転位置を示す状態図であり、(A)は初期位置への回動状態、(B)は通電モード(6)の状態を示す図である。
【図14】実施形態における電圧閾値V6-1の学習における開放相の電圧変化を示すタイムチャートであり、(A)は電圧V1-210のサンプリング時期、(B)は最大値V2-210の検出特性を示す図である。
【図15】実施形態における電圧閾値V1-2の学習における各相の印加電圧、磁束、ロータの回転位置を示す状態図であり、(A)は初期位置への回動状態、(B)は通電モード(1)の状態を示す図である。
【図16】実施形態における電圧閾値V1-2の学習における開放相の電圧変化を示すタイムチャートであり、(A)は電圧V1-270のサンプリング時期、(B)は最小値V2-270の検出特性を示す図である。
【図17】実施形態における電圧閾値V2-3の学習における各相の印加電圧、磁束、ロータの回転位置を示す状態図であり、(A)は初期位置への回動状態、(B)は通電モード(2)の状態を示す図である。
【図18】実施形態における電圧閾値V2-3の学習における開放相の電圧変化を示すタイムチャートであり、(A)は電圧V1-330のサンプリング時期、(B)は最大値V2-330の検出特性を示す図である。
【図19】実施形態における電動オイルポンプを駆動するブラシレスモータの通電モードの切り替えに用いる電圧閾値の学習処理を示すフローチャートである。
【図20】実施形態における温度条件毎の電圧閾値の学習を説明するための図である。
【図21】実施形態における絶対値を共通とする電圧閾値の学習を説明するための図である。
【図22】実施形態におけるプラスの電圧閾値とマイナスの電圧閾値とのそれぞれで絶対値を共通とする学習を説明するための図である。
【図23】実施形態における電圧閾値のモータ回転速度による電圧閾値の補正値の特性を示す線図である。
【図24】実施形態におけるパルスシフトを行わない場合のPWM生成を示すタイムチャートである。
【図25】実施形態におけるパルスシフトを行った場合のPWM生成を示すタイムチャートである。
【図26】実施形態における電圧閾値V3-4の学習において、通電モード(1)での角度位置を初期位置とする場合の各相の印加電圧、磁束、ロータの回転位置を示す状態図である。
【図27】実施形態における電圧閾値V4-5の学習において、通電モード(2)での角度位置を初期位置とする場合の各相の印加電圧、磁束、ロータの回転位置を示す状態図である。
【図28】実施形態における電圧閾値V5-6の学習において、通電モード(3)での角度位置を初期位置とする場合の各相の印加電圧、磁束、ロータの回転位置を示す状態図である。
【図29】実施形態における電圧閾値V6-1の学習において、通電モード(4)での角度位置を初期位置とする場合の各相の印加電圧、磁束、ロータの回転位置を示す状態図である。
【図30】実施形態における電圧閾値V1-2の学習において、通電モード(5)での角度位置を初期位置とする場合の各相の印加電圧、磁束、ロータの回転位置を示す状態図である。
【図31】実施形態における電圧閾値V2-3の学習において、通電モード(6)での角度位置を初期位置とする場合の各相の印加電圧、磁束、ロータの回転位置を示す状態図である。
【図32】実施形態における開放相の電圧が収束するまでの時間Treに基づく電圧閾値の学習を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本願発明に係るブラシレスモータの駆動装置を適用する、自動車AT(オートマチック・トランスミッション)用油圧ポンプシステムの構成を示すブロック図である。
図1に示す自動車AT用油圧ポンプシステムでは、変速機7やアクチュエータ8にオイルを供給するオイルポンプとして、図外のエンジン(内燃機関)の出力により駆動される機械式オイルポンプ6と、モータで駆動される電動オイルポンプ1とを備えている。
【0009】
また、エンジンの制御システムとして、自動停止条件の成立時にエンジンを停止し、自動始動条件が成立するとエンジンを再始動するアイドルストップ制御機能が備えられており、アイドルストップによってエンジンが停止されている間は、機械式オイルポンプ6もその動作を停止するため、アイドルストップ中は、電動オイルポンプ1を用いて、変速機7やアクチュエータ8に対するオイルの供給を行う。
【0010】
電動オイルポンプ1は、直結されたブラシレスモータ2により駆動される。ブラシレスモータ2は、モータ制御装置(MCU)3により、AT制御装置(ATCU)4からの指令に基づいて制御される。
モータ制御装置(駆動装置)3は、ブラシレスモータ2を駆動制御して電動オイルポンプ1を駆動し、オイルパン10のオイルを、電動オイル配管5を介して変速機7やアクチュエータ8に供給する。
【0011】
エンジン駆動中は、エンジンにより駆動される機械式オイルポンプ6により、変速機7やアクチェータ8にオイル配管9を介してオイルパン10のオイルが供給され、このとき、ブラシレスモータ2はオフ状態であって、逆止弁11により電動オイルポンプ1に向かうオイルは遮断される。
エンジンがアイドルストップすると、エンジン回転速度が低下し、機械式オイルポンプ6も回転速度が低下してオイル配管9の油圧が低下するので、エンジンのアイドルストップと同時に、AT制御装置4がモータ起動の指令をモータ制御装置3に送信する。
【0012】
起動指令を受けたモータ制御装置3は、ブラシレスモータ2を駆動して電動オイルポンプ1を回転させ、電動オイル配管5内の油圧を徐々に上昇させる。
機械式オイルポンプ6の油圧が低下し、逆止弁11により阻止されていた電動オイルポンプ1の油圧が閾値を越えると、オイルは電動オイル配管5、電動オイルポンプ1、逆止弁11、変速機7・アクチェータ8、オイルパン10の経路を通って循環する動作を行う。
【0013】
図2は、モータ制御装置3及びブラシレスモータ2の詳細を示す。
モータ制御装置3は、モータ駆動回路212と、マイクロコンピュータを備えた制御器213とを含んで構成され、制御器213がAT制御装置4との間で通信を行う。
ブラシレスモータ2は、3相DCブラシレスモータ(3相同期電動機)であり、U相,V相及びW相の3相巻線215U,215V,215Wが、図示省略した円筒状の固定子に設けられ、該固定子の中央部に形成された空間に永久磁石回転子216が配置される。
【0014】
そして、モータ駆動回路212は、例えばIGBTからなる6個のスイッチング素子217a〜217fを3相ブリッジ接続し、かつ、各スイッチング素子217a〜217fに逆並列にダイオード218a〜218fをそれぞれ接続して構成され、かつ、電源回路219を有している。
スイッチング素子217a〜217fの制御端子(ゲート端子)は、制御器213に接続されており、スイッチング素子217a〜217fのオン・オフは、制御器213によってデューティ制御される。
【0015】
制御器213は、ブラシレスモータ2の印加電圧を演算し、駆動回路212へのパルス幅変調信号(PWM信号)を生成する回路であり、図3に示すように、PWM発生器251、ゲート信号切替器252、通電モード決定器253、比較器254、電圧閾値切替器255、電圧閾値学習器256、非通電相電圧選択器257を含んでいる。
PWM発生器251は、指令トルクに応じて決定される印加電圧指令(指令電圧)に基づき、パルス幅変調されたPWM波を生成する回路である。
【0016】
通電モード決定器253(通電モード切替手段)は、モータ駆動回路212の通電モード(スイッチングモード)を決定するモード指令信号を順次出力するデバイスであり、比較器254が出力するモード切替トリガ信号をトリガとして通電モードを6通りに切り替える。
ゲート信号切替器252は、モータ駆動回路212の各スイッチング素子217a〜217fがどのような動作でスイッチングするかを、通電モード決定器253の出力であるモード指令信号に基づいて決定し、該決定に従い、最終的な6つのゲートパルス信号をモータ駆動回路212に出力する。
【0017】
電圧閾値切替器255は、非通電相の端子電圧の閾値(電圧閾値)を発生する回路であり、電圧閾値の切り替えタイミングは、通電モード決定器253の出力であるモード指令信号に基づき決定される。
非通電相電圧選択器257は、ブラシレスモータ2の3相端子電圧Vu,Vv,Vwの中から非通電相の電圧をモード指令信号に従い選択して出力する回路であり、前記端子電圧は、ブラシレスモータ2の中性点に対する電位差として出力される。
【0018】
比較器254は、電圧閾値切替器257が出力する電圧閾値と非通電相電圧選択器257が出力する非通電相の電圧(誘起電圧)とを比較し、通電モード決定器253にモード切替トリガを出力する。
尚、誘起電圧は、2相の印加パルス電圧によって非通電相に誘起される電圧であり、回転子の位置により磁気回路の飽和状態が変化することから、回転子の位置に応じた誘起電圧が非通電相に発生することになり、非通電相の誘起電圧から、回転子位置を推定して、通電モードの切り替えタイミングを検出することができる。
【0019】
図4は、通電モード毎の各相への印加電圧を示す。
通電モードは、電気角60degごとに順次切り替わる6通りの通電モード(1)〜(6)からなり、各通電モード(1)〜(6)においてスイッチング素子217a〜217fは、指令電圧に応じてパルス幅変調した信号で駆動される。
本実施形態では、U相のコイルの角度位置を基準位置(deg)とし、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替えを行う角度位置を30degに、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えを行う角度位置を90degに、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替えを行う角度位置を150degに、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替えを行う角度位置を210degに、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替えを行う角度位置を270degに、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替えを行う角度位置を330degに設定している。
【0020】
通電モード(1)は、スイッチング素子217a及びスイッチング素子217dをオン制御し、他を全てオフとすることで、U相に電圧Vを印加し、V相に電圧−Vを印加し、U相からV相に向けて電流を流す。
通電モード(2)は、スイッチング素子217a及びスイッチング素子217fをオン制御し、他を全てオフとすることで、U相に電圧Vを印加し、W相に電圧−Vを印加し、U相からW相に向けて電流を流す。
【0021】
通電モード(3)は、スイッチング素子217c及びスイッチング素子217fをオン制御し、他を全てオフとすることで、V相に電圧Vを印加し、W相に電圧−Vを印加し、V相からW相に向けて電流を流す。
通電モード(4)は、スイッチング素子217b及びスイッチング素子217cをオン制御し、他を全てオフとすることで、V相に電圧Vを印加し、U相に電圧−Vを印加し、V相からU相に向けて電流を流す。
【0022】
通電モード(5)は、スイッチング素子217b及びスイッチング素子217eをオン制御し、他を全てオフとすることで、W相に電圧Vを印加し、U相に電圧−Vを印加し、W相からU相に向けて電流を流す。
通電モード(6)は、スイッチング素子217e及びスイッチング素子217dをオン制御し、他を全てオフとすることで、W相に電圧Vを印加し、V相に電圧−Vを印加し、W相からV相に向けて電流を流す。
【0023】
上記のように、6つの通電モード(1)〜(6)を、電気角60deg毎に切り替えることで、各スイッチング素子217a〜217fは、240deg毎に120deg間通電されることから、図4に示すような通電方式は120度通電方式と呼ばれる。
前記通電モードの切り替えを、本実施形態では、非通電相に発生する電圧(誘起電圧)の信号をトリガに行うようになっており、本実施形態のモータ制御装置3は、所謂位置センサレスの通電制御を行う。
【0024】
具体的には、非通電相電圧選択器257が3相端子電圧Vu,Vv,Vwの中から非通電相(開放相)の電圧を選択して出力し、この非通電相の端子電圧が、電圧閾値切替器255が出力する電圧閾値を横切ったか否かを比較器254が判断し、比較器254は、非通電相の端子電圧が電圧閾値を横切ったときに、モード切替トリガを通電モード決定器253に出力する。
【0025】
ところで、非通電相の電圧は、温度環境やブラシレスモータ2(巻線)のばらつきなどで変化するため、予め決められた固定の電圧閾値を用いて通電モードの切り替えタイミング(切り替え角度位置)を検出すると、通電モードの切り替えタイミングが適正なタイミングからずれて、ブラシレスモータ2が脱調する可能性がある。
そこで、本実施形態では、前記電圧閾値を更新学習する電圧閾値学習器256(電圧閾値設定手段)を設け、温度環境やブラシレスモータ2のばらつきなどに対して、電圧閾値を適正値に修正し、修正結果を更新記憶して用いるように構成されていて、以下では、電圧閾値学習器256における電圧閾値の学習処理を詳細に説明する。
【0026】
図5及び図6のフローチャートに示すルーチンは、制御器213(電圧閾値学習器256)による電圧閾値の学習処理を示す。
ステップ1では、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替え判定に用いる電圧閾値を学習し、ステップ2は、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替え判定に用いる電圧閾値を学習し、ステップ3は、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替え判定に用いる電圧閾値を学習し、ステップ4は、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替え判定に用いる電圧閾値を学習し、ステップ5は、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替え判定に用いる電圧閾値を学習し、ステップ6は、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え判定に用いる電圧閾値を学習する。但し、各電圧閾値の学習順は任意であり、適宜変更することができる。
【0027】
通電モード(3)から通電モード(4)への切り替え判定に用いる電圧閾値V3-4を学習するステップ1は、詳細には、ステップ11〜ステップ15の各ステップを実行する。
まず、ステップ11では、永久磁石回転子216を、初期位置(設定角度0deg)に位置決めする。
具体的には、予め決められた電圧Vinに基づき、U相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを、Vu=Vin、Vv=−Vin*1/2、Vw=−Vin*1/2に設定する。
【0028】
上記のように各相の印加電圧を設定すると、U相,V相及びW相の合成磁束が、図7(A)に示すようになり、係る合成磁束に永久磁石回転子216が引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が、設定角度0degまで回転することになる。
尚、前記初期位置は、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替え角度=30degの30deg前の角度位置である0degに設定してあり、ステップ2〜ステップ6における学習においても、通電モードの切り替え角度の30deg前の角度位置を、初期位置とする。
【0029】
ステップ12では、ステップ11でU相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを設定した後、永久磁石回転子216のN極が設定角度に到達するのに要すると見込まれる動作遅れ時間が経過していて、初期位置に停止したものと推定できるようになってから、通電モード(3)に対応する印加電圧、即ち、Vu=0、Vv=Vin、Vw=−Vinに切り替える。
【0030】
通電モード(3)に対応する印加電圧に切り替えると、図7(B)に示すように、U相,V相及びW相の合成磁束が変化し、係る合成磁束に引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が初期位置から通電モード(3)に対応する角度90degまで回転することになる。
ステップ13では、図8(A)に示すように、初期位置とするための印加電圧から通電モード(3)に対応する印加電圧に切り替えた直後における、通電モード(3)での開放相(非通電相)であるU相の端子電圧Vuを、開放相電圧V1-30として記憶する。
【0031】
ステップ14では、図8(B)に示すように、通電モード(3)に対応する印加電圧に切り替えてから、最小電圧検出時間が経過するまでの期間におけるU相の端子電圧Vuの最小値を求め、該最小電圧を開放相電圧V2-30として記憶する。
前記最小電圧検出時間は、通電モード(3)に対応する印加電圧に切り替えることで低下し、その後上昇に転じて定常電圧に収束するU相の端子電圧Vuの変化特性に基づき、最小電圧を検出するのに必要十分な時間として予め適合されている。
【0032】
尚、最小電圧の検出期間を、時間で規定する代わりに、U相の端子電圧Vuが定常状態に収束したことを検出した時点を、最小電圧の検出期間の終期として判断してもよい。
ステップ15では、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替え判断に用いる電圧閾値V3-4を、以下の数1又は数2に従って算出する。
【0033】
【数1】
【0034】
【数2】
【0035】
数1,数2において、Kはゲインであり、例えば、K=1/2とする。また、数2における基準電圧は、例えば0Vである。
通電モード(3)から通電モード(4)への切り替え時の角度は30degであり、通電モード(3)での通電状態で、角度30degになるときの開放相(U相)の端子電圧Vuを、通電モード(3)での通電で0degから90degに向けてモータが回転するときの端子電圧Vuの変化に基づいて推定するものである。
【0036】
ここで、開放相(U相)の端子電圧Vuは、開放(通電遮断)に伴ってマイナス側に減少変化した後、上昇して基準電圧(=0V)付近に収束し、この間で、モータ角度が0degから90degにまで変化し、かつ、最小値になるタイミングは、角度30degを過ぎているから、前記最小電圧(開放相電圧V2-30)を基準に、角度30deg付近での開放相(U相)の端子電圧Vuを推定できるように、予め実験やシミュレーションによって、前記ゲインKを適合させてある。
【0037】
換言すれば、開放相の端子電圧(誘起電圧)が最小となる角度を予め求めておくことで、初期角度位置、初期角度位置での端子電圧V1-30(又は基準電圧)、開放相の端子電圧(誘起電圧)が最小となる角度位置、開放相の端子電圧(誘起電圧)の最小値V2-30から、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替え角度である30degにおける開放相の端子電圧(誘起電圧)を求めることができ、この30degにおける開放相の端子電圧を、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替え判断に用いる電圧閾値V3-4として学習する。
【0038】
ステップ15で今回算出した電圧閾値V3-4を、それまでの電圧閾値V3-4の記憶値に代えて更新記憶し、ブラシレスモータ2を駆動するときに、この更新記憶した電圧閾値V3-4に基づいて通電モード(3)から通電モード(4)への切り替えタイミングを判断させる。
通電モード(3)から通電モード(4)への切り替えタイミングの判断においては、通電モード(3)による通電中に、開放相(U相)の端子電圧Vuが、電圧閾値V3-4を下回った時点で、モータ角度が30deg付近であると推定し、通電モードを(3)から(4)に切り替える。
【0039】
尚、電圧閾値Vの更新記憶する場合、例えば、それまでの記憶値と新たに算出した電圧閾値Vとを加重平均し、この加重平均の結果を、通電モードの切り替えタイミングの判断に用いる電圧閾値Vとして更新記憶させることができる。
また、新たに算出した電圧閾値Vが、標準値(設計値)を含む正常範囲から外れている場合には、それまでの電圧閾値Vの記憶値を更新することなく、前回値のままに保持させるとよい。
【0040】
また、電圧閾値の初期値として、設計値を記憶させておき、未学習状態では、電圧閾値として初期値(設計値)を用いて通電モードの切り替えタイミングを判断する。
次に、ステップ2における、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替え判定に用いる電圧閾値V4-5の学習を、詳述する。
まず、ステップ21では、永久磁石回転子216を、初期位置(設定角度60deg)に位置決めする。
【0041】
具体的には、予め決められた電圧Vinに基づき、U相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを、Vu=Vin*1/2、Vv=Vin*1/2、Vw=−Vinに設定する。
上記のように各相の印加電圧を設定すると、U相,V相及びW相の合成磁束が、図9(A)に示すようになり、係る合成磁束に永久磁石回転子216が引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が、設定角度60degまで回転することになる。
【0042】
ステップ22では、ステップ21でU相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを設定した後、永久磁石回転子216のN極が設定角度に到達するのに要すると見込まれる動作遅れ時間が経過していて、初期位置に停止したものと推定できるようになってから、通電モード(4)に対応する印加電圧、即ち、Vu=−Vin、Vv=Vin、Vw=0に切り替える。
【0043】
通電モード(4)に対応する印加電圧に切り替えると、図9(B)に示すように、U相,V相及びW相の合成磁束が変化し、係る合成磁束に引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が、初期位置から通電モード(4)に対応する角度150degまで回転することになる。
ステップ23では、図10(A)に示すように、初期位置とするための印加電圧から通電モード(4)に対応する印加電圧に切り替えた直後における、通電モード(4)での開放相(非通電相)であるW相の端子電圧Vwを、開放相電圧V1-90として記憶する。
【0044】
ステップ24では、図10(B)に示すように、通電モード(4)に対応する印加電圧に切り替えてから、最大電圧検出時間が経過するまでの期間におけるW相の端子電圧Vwの最大値を求め、該最大電圧を開放相電圧V2-90として記憶する。
前記最大電圧検出時間は、通電モード(4)に対応する印加電圧に切り替えることで増大し、その後減少に転じて定常電圧に収束するW相の端子電圧Vwの変化特性に基づき、最大電圧を検出するのに必要十分な時間として、予め適合されている。
【0045】
尚、最大電圧の検出期間を、時間で規定する代わりに、W相の端子電圧Vwが定常状態に収束したことを検出した時点を、最大電圧の検出期間の終期として判断してもよい。
ステップ25では、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替え判断に用いる電圧閾値V4-5を、以下の数3又は数4に従って算出する。
【0046】
【数3】
【0047】
【数4】
【0048】
数3,数4において、Kはゲインであり、例えば、K=1/2とする。また、数4における基準電圧は、例えば0Vである。
通電モード(4)から通電モード(5)への切り替え時の角度は90degであり、通電モード(4)での通電状態で、角度90degになるときの開放相(W相)の端子電圧Vwを、通電モード(4)での通電で60degから150degに向けてモータが回転するときの端子電圧Vwの変化に基づいて推定するものである。
【0049】
ここで、開放相(W相)の端子電圧Vwは、開放(通電遮断)に伴ってプラス側に増大変化した後、減少して基準電圧(=0V)付近に収束し、この間で、モータ角度が60degから150degにまで変化し、かつ、最大値になるタイミングは、角度90degを過ぎているから、前記最大電圧(開放相電圧V2-90)を基準に、角度90deg付近での開放相(W相)の端子電圧Vwを推定できるように、予め実験やシミュレーションによって、前記ゲインKを適合させてある。
【0050】
換言すれば、開放相の端子電圧(誘起電圧)が最大となる角度を予め求めておくことで、初期角度位置、初期角度位置での端子電圧V1-90(又は基準電圧)、開放相の端子電圧(誘起電圧)が最大となる角度位置、開放相の端子電圧(誘起電圧)の最大値V2-90から、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替え角度である90degにおける開放相の端子電圧(誘起電圧)を求めることができ、この90degにおける開放相の端子電圧を、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替え判断に用いる電圧閾値V4-5として学習する。
【0051】
ステップ25で今回算出した電圧閾値V4-5を、それまでの電圧閾値V4-5の記憶値に代えて更新記憶し、ブラシレスモータ2を駆動するときに、この更新記憶した電圧閾値V4-5に基づいて通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えタイミングを判断させる。
通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えタイミングの判断においては、通電モード(4)による通電中に、開放相(W相)の端子電圧Vwが、電圧閾値V4-5よりも大きくなった時点で、モータ角度が90deg付近であると推定し、通電モードを(4)から(5)に切り替える。
【0052】
次に、ステップ3における、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替え判定に用いる電圧閾値V5-6の学習を、詳述する。
まず、ステップ31では、永久磁石回転子216を、初期位置(設定角度120deg)に位置決めする。
具体的には、予め決められた電圧Vinに基づき、U相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを、Vu=−Vin*1/2、Vv=Vin、Vw=−Vin*1/2に設定する。
【0053】
上記のように各相の印加電圧を設定すると、U相,V相及びW相の合成磁束が、図11(A)に示すようになり、係る合成磁束に永久磁石回転子216が引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が、設定角度120degまで回転することになる。
ステップ32では、ステップ31でU相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを設定した後、永久磁石回転子216のN極が設定角度に到達するのに要すると見込まれる動作遅れ時間が経過していて、初期位置に停止したものと推定できるようになってから、通電モード(5)に対応する印加電圧、即ち、Vu=−Vin、Vv=0、Vw=Vinに切り替える。
【0054】
通電モード(5)に対応する印加電圧に切り替えると、図11(B)に示すように、U相,V相及びW相の合成磁束が変化し、係る合成磁束に引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が初期位置から通電モード(5)に対応する角度210degまで回転することになる。
ステップ33では、図12(A)に示すように、初期位置とするための印加電圧から通電モード(5)に対応する印加電圧に切り替えた直後における、通電モード(5)での開放相(非通電相)であるV相の端子電圧Vvを、開放相電圧V1-150として記憶する。
【0055】
ステップ34では、図12(B)に示すように、通電モード(5)に対応する印加電圧に切り替えてから、最小電圧検出時間が経過するまでの期間におけるV相の端子電圧Vvの最小値を求め、該最小電圧を開放相電圧V2-150として記憶する。
前記最小電圧検出時間は、通電モード(5)に対応する印加電圧に切り替えることで低下し、その後上昇に転じて定常電圧に収束するV相の端子電圧Vvの変化特性に基づき、最小電圧を検出するのに必要十分な時間として、予め適合されている。
【0056】
尚、最小電圧の検出期間を、時間で規定する代わりに、V相の端子電圧Vvが定常状態に収束したことを検出した時点を、最小電圧の検出期間の終期として判断してもよい。
ステップ35では、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替え判断に用いる電圧閾値V5-6を、以下の数5又は数6に従って算出する。
【0057】
【数5】
【0058】
【数6】
【0059】
数5,数6において、Kはゲインであり、例えば、K=1/2とする。また、数6における基準電圧は、例えば0Vである。
通電モード(5)から通電モード(6)への切り替え時の角度は150degであり、通電モード(5)での通電状態で、角度150degになるときの開放相(V相)の端子電圧Vvを、通電モード(5)での通電で120degから210degに向けてモータが回転するときの端子電圧Vvの変化に基づいて推定するものである。
【0060】
ここで、開放相(V相)の端子電圧Vvは、開放(通電遮断)に伴ってマイナス側に減少変化した後、上昇して基準電圧(=0V)付近に収束し、この間で、モータ角度が120degから210degにまで変化し、かつ、最小値になるタイミングは、角度150degを過ぎているから、前記最小電圧(開放相電圧V2-150)を基準に、角度150deg付近での開放相(V相)の端子電圧Vvを推定できるように、予め実験やシミュレーションによって、前記ゲインKを適合させてある。
【0061】
換言すれば、開放相の端子電圧(誘起電圧)が最小となる角度を予め求めておくことで、初期角度位置、初期角度位置での端子電圧V1-150(又は基準電圧)、開放相の端子電圧(誘起電圧)が最小となる角度位置、開放相の端子電圧(誘起電圧)の最小値V2-150から、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替え角度である150degにおける開放相の端子電圧(誘起電圧)を求めることができ、この150degにおける開放相の端子電圧を、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替え判断に用いる電圧閾値V5-6として学習する。
【0062】
ステップ35で今回算出した電圧閾値V5-6を、それまでの電圧閾値V5-6の記憶値に代えて更新記憶し、ブラシレスモータ2を駆動するときに、この更新記憶した電圧閾値V5-6に基づいて通電モード(5)から通電モード(6)への切り替えタイミングを判断させる。
通電モード(5)から通電モード(6)への切り替えタイミングの判断においては、通電モード(5)による通電中に、開放相(V相)の端子電圧Vvが、電圧閾値V5-6を下回った時点で、モータ角度が150deg付近であると推定し、通電モードを(5)から(6)に切り替える。
【0063】
次に、ステップ4における、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替え判定に用いる電圧閾値V6-1の学習を、詳述する。
まず、ステップ41では、永久磁石回転子216を、初期位置(設定角度180deg)に位置決めする。
具体的には、予め決められた電圧Vinに基づき、U相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを、Vu=−Vin、Vv=Vin*1/2、Vw=Vin*1/2に設定する。
【0064】
上記のように各相の印加電圧を設定すると、U相,V相及びW相の合成磁束が、図13(A)に示すようになり、係る合成磁束に永久磁石回転子216が引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が、設定角度180degまで回転することになる。
ステップ42では、ステップ41でU相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを設定した後、永久磁石回転子216のN極が設定角度に到達するのに要すると見込まれる動作遅れ時間が経過していて、初期位置に停止したものと推定できるようになってから、通電モード(6)に対応する印加電圧、即ち、Vu=0、Vv=−Vin、Vw=Vinに切り替える。
【0065】
通電モード(6)に対応する印加電圧に切り替えると、図13(B)に示すように、U相,V相及びW相の合成磁束が変化し、係る合成磁束に引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が初期位置から通電モード(6)に対応する角度270degまで回転することになる。
ステップ43では、図14(A)に示すように、初期位置とするための印加電圧から通電モード(6)に対応する印加電圧に切り替えた直後における、通電モード(6)での開放相(非通電相)であるU相の端子電圧Vuを、開放相電圧V1-210として記憶する。
【0066】
ステップ44では、図14(B)に示すように、通電モード(6)に対応する印加電圧に切り替えてから、最大電圧検出時間が経過するまでの期間におけるU相の端子電圧Vuの最大値を求め、該最大電圧を開放相電圧V2-210として記憶する。
前記最大電圧検出時間は、通電モード(6)に対応する印加電圧に切り替えることで増大し、その後減少に転じて定常電圧に収束するU相の端子電圧Vuの変化特性に基づき、最大電圧を検出するのに必要十分な時間として、予め適合されている。
【0067】
尚、最大電圧の検出期間を、時間で規定する代わりに、U相の端子電圧Vuが定常状態に収束したことを検出した時点を、最大電圧の検出期間の終期として判断してもよい。
ステップ45では、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替え判断に用いる電圧閾値V6-1を、以下の数7又は数8に従って算出する。
【0068】
【数7】
【0069】
【数8】
【0070】
数7,数8において、Kはゲインであり、例えば、K=1/2(=sin30deg)とする。また、数8における基準電圧は、例えば0Vである。
通電モード(6)から通電モード(1)への切り替え時の角度は210degであり、通電モード(6)での通電状態で、角度210degになるときの開放相(U相)の端子電圧Vuを、通電モード(6)での通電で180degから270degに向けてモータが回転するときの端子電圧Vuの変化に基づいて推定するものである。
【0071】
ここで、開放相(U相)の端子電圧Vuは、開放(通電遮断)に伴ってプラス側に増大変化した後、減少して基準電圧(=0V)付近に収束し、この間で、モータ角度が180degから270degにまで変化し、かつ、最大値になるタイミングは、角度210degを過ぎているから、前記最大電圧(開放相電圧V2-210)を基準に、角度210deg付近での開放相(U相)の端子電圧Vuを推定できるように、予め実験やシミュレーションによって、前記ゲインKを適合させてある。
【0072】
換言すれば、開放相の端子電圧(誘起電圧)が最大となる角度を予め求めておくことで、初期角度位置、初期角度位置での端子電圧V1-210(又は基準電圧)、開放相の端子電圧(誘起電圧)が最大となる角度位置、開放相の端子電圧(誘起電圧)の最大値V2-210から、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替え角度である210degにおける開放相の端子電圧(誘起電圧)を求めることができ、この210degにおける開放相の端子電圧を、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替え判断に用いる電圧閾値V6-1として学習する。
【0073】
ステップ45で今回算出した電圧閾値V6-1を、それまでの電圧閾値V6-1の記憶値に代えて更新記憶し、ブラシレスモータ2を駆動するときに、この更新記憶した電圧閾値V6-1に基づいて通電モード(6)から通電モード(1)への切り替えタイミングを判断させる。
通電モード(6)から通電モード(1)への切り替えタイミングの判断においては、通電モード(6)による通電中に、開放相(U相)の端子電圧Vuが、電圧閾値V6-1よりも大きくなった時点で、モータ角度が210deg付近であると推定し、通電モードを(6)から(1)に切り替える。
【0074】
次に、ステップ5における、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替え判定に用いる電圧閾値V1-2の学習を、詳述する。
まず、ステップ51では、永久磁石回転子216を、初期位置(設定角度240deg)に位置決めする。
具体的には、予め決められた電圧Vinに基づき、U相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを、Vu=−Vin*1/2、Vv=−Vin*1/2、Vw=Vinに設定する。
【0075】
上記のように各相の印加電圧を設定すると、U相,V相及びW相の合成磁束が、図15(A)に示すようになり、係る合成磁束に永久磁石回転子216が引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が、設定角度240degまで回転することになる。
ステップ52では、ステップ51でU相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを設定した後、永久磁石回転子216のN極が設定角度に到達するのに要すると見込まれる動作遅れ時間が経過していて、初期位置に停止したものと推定できるようになってから、通電モード(1)に対応する印加電圧、即ち、Vu=Vin、Vv=−Vin、Vw=0に切り替える。
【0076】
通電モード(1)に対応する印加電圧に切り替えると、図15(B)に示すように、U相,V相及びW相の合成磁束が変化し、係る合成磁束に引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が初期位置から通電モード(5)に対応する角度330degまで回転することになる。
ステップ53では、図16(A)に示すように、初期位置とするための印加電圧から通電モード(1)に対応する印加電圧に切り替えた直後における、通電モード(5)での開放相(非通電相)であるW相の端子電圧Vwを、開放相電圧V1-270として記憶する。
【0077】
ステップ54では、図16(B)に示すように、通電モード(1)に対応する印加電圧に切り替えてから、最小電圧検出時間が経過するまでの期間におけるW相の端子電圧Vwの最小値を求め、該最小電圧を開放相電圧V2-270として記憶する。
前記最小電圧検出時間は、通電モード(1)に対応する印加電圧に切り替えることで低下し、その後上昇に転じて定常電圧に収束するW相の端子電圧Vwの変化特性に基づき、最小電圧を検出するのに必要十分な時間として、予め適合されている。
【0078】
尚、最小電圧の検出期間を、時間で規定する代わりに、W相の端子電圧Vwが定常状態に収束したことを検出した時点を、最小電圧の検出期間の終期として判断してもよい。
ステップ55では、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替え判断に用いる電圧閾値V1-2を、以下の数9又は数10に従って算出する。
【0079】
【数9】
【0080】
【数10】
【0081】
数9,数10において、Kはゲインであり、例えば、K=1/2(=sin30deg)とする。また、数6における基準電圧は、例えば0Vである。
通電モード(1)から通電モード(2)への切り替え時の角度は270degであり、通電モード(1)での通電状態で、角度270degになるときの開放相(W相)の端子電圧Vwを、通電モード(1)での通電で240degから330degに向けてモータが回転するときの端子電圧Vwの変化に基づいて推定するものである。
【0082】
ここで、開放相(W相)の端子電圧Vwは、開放(通電遮断)に伴ってマイナス側に減少変化した後、上昇して基準電圧(=0V)付近に収束し、この間で、モータ角度が240degから330degにまで変化し、かつ、最小値になるタイミングは、角度270degを過ぎているから、前記最小電圧(開放相電圧V2-270)を基準に、角度270deg付近での開放相(W相)の端子電圧Vwを推定できるように、予め実験やシミュレーションによって、前記ゲインKを適合させてある。
【0083】
換言すれば、開放相の端子電圧(誘起電圧)が最小となる角度を予め求めておくことで、初期角度位置、初期角度位置での端子電圧V1-270(又は基準電圧)、開放相の端子電圧(誘起電圧)が最小となる角度位置、開放相の端子電圧(誘起電圧)の最小値V2-270から、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替え角度である270degにおける開放相の端子電圧(誘起電圧)を求めることができ、この270degにおける開放相の端子電圧を、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替え判断に用いる電圧閾値V1-2として学習する。
【0084】
ステップ55で今回算出した電圧閾値V1-2を、それまでの電圧閾値V1-2の記憶値に代えて更新記憶し、ブラシレスモータ2を駆動するときに、この更新記憶した電圧閾値V1-2に基づいて通電モード(1)から通電モード(2)への切り替えタイミングを判断させる。
通電モード(1)から通電モード(2)への切り替えタイミングの判断においては、通電モード(1)による通電中に、開放相(W相)の端子電圧Vwが、電圧閾値V1-2を下回った時点で、モータ角度が270deg付近であると推定し、通電モードを(1)から(2)に切り替える。
【0085】
次に、ステップ6における、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え判定に用いる電圧閾値V2-3の学習を、詳述する。
まず、ステップ61では、永久磁石回転子216を、初期位置(設定角度300deg)に位置決めする。
具体的には、予め決められた電圧Vinに基づき、U相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを、Vu=Vin*1/2、Vv=−Vin、Vw=Vin*1/2に設定する。
【0086】
上記のように各相の印加電圧を設定すると、U相,V相及びW相の合成磁束が、図17(A)に示すようになり、係る合成磁束に永久磁石回転子216が引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が、設定角度300degまで回転することになる。
ステップ62では、ステップ61でU相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを設定した後、永久磁石回転子216のN極が設定角度に到達するのに要すると見込まれる動作遅れ時間が経過していて、初期位置に停止したものと推定できるようになってから、通電モード(2)に対応する印加電圧、即ち、Vu=Vin、Vv=0、Vw=−Vinに切り替える。
【0087】
通電モード(2)に対応する印加電圧に切り替えると、図17(B)に示すように、U相,V相及びW相の合成磁束が変化し、係る合成磁束に引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が初期位置から通電モード(2)に対応する角度30degまで回転することになる。
ステップ63では、図18(A)に示すように、初期位置とするための印加電圧から通電モード(2)に対応する印加電圧に切り替えた直後における、通電モード(2)での開放相(非通電相)であるV相の端子電圧Vvを、開放相電圧V1-330として記憶する。
【0088】
ステップ64では、図18(B)に示すように、通電モード(2)に対応する印加電圧に切り替えてから、最大電圧検出時間が経過するまでの期間におけるV相の端子電圧Vvの最大値を求め、該最大電圧を開放相電圧V2-330として記憶する。
前記最大電圧検出時間は、通電モード(2)に対応する印加電圧に切り替えることで増大し、その後減少に転じて定常電圧に収束するV相の端子電圧Vvの変化特性に基づき、最大電圧を検出するのに必要十分な時間として、予め適合されている。
【0089】
尚、最大電圧の検出期間を、時間で規定する代わりに、V相の端子電圧Vvが定常状態に収束したことを検出した時点を、最大電圧の検出期間の終期として判断してもよい。
ステップ65では、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え判断に用いる電圧閾値V2-3を、以下の数11又は数12に従って算出する。
【0090】
【数11】
【0091】
【数12】
【0092】
数11,数12において、Kはゲインであり、例えば、K=1/2(=sin30deg)とする。また、数12における基準電圧は、例えば0Vである。
通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え時の角度は330degであり、通電モード(2)での通電状態で、角度330degになるときの開放相(V相)の端子電圧Vvを、通電モード(2)での通電で300degから30degに向けてモータが回転するときの端子電圧Vvの変化に基づいて推定するものである。
【0093】
ここで、開放相(V相)の端子電圧Vvは、開放(通電遮断)に伴ってプラス側に増大変化した後、減少して基準電圧(=0V)付近に収束し、この間で、モータ角度が300degから30degにまで変化し、かつ、最大値になるタイミングは、角度330degを過ぎているから、前記最大電圧(開放相電圧V2-330)を基準に、角度330deg付近での開放相(V相)の端子電圧Vvを推定できるように、予め実験やシミュレーションによって、前記ゲインKを適合させてある。
【0094】
換言すれば、開放相の端子電圧(誘起電圧)が最大となる角度を予め求めておくことで、初期角度位置、初期角度位置での端子電圧V1-330(又は基準電圧)、開放相の端子電圧(誘起電圧)が最大となる角度位置、開放相の端子電圧(誘起電圧)の最大値V2-330から、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え角度である330degにおける開放相の端子電圧(誘起電圧)を求めることができ、この330degにおける開放相の端子電圧を、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え判断に用いる電圧閾値V2-3として学習する。
【0095】
ステップ65で今回算出した電圧閾値V2-3を、それまでの電圧閾値V2-3の記憶値に代えて更新記憶し、ブラシレスモータ2を駆動するときに、この更新記憶した電圧閾値V2-3に基づいて通電モード(2)から通電モード(3)への切り替えタイミングを判断させる。
通電モード(2)から通電モード(3)への切り替えタイミングの判断においては、通電モード(2)による通電中に、開放相(V相)の端子電圧Vvが、電圧閾値V2-3よりも大きくなった時点で、モータ角度が330deg付近であると推定し、通電モードを(2)から(3)に切り替える。
【0096】
上記のように、切り替え角度よりも前の角度位置を初期位置とし、該初期位置に停止させるように各相に電圧を印加させ、初期位置に停止させ、その後、学習させる電圧閾値に応じた通電モードに対応する相電圧に切り替えることで、通電モードの切り替え角度を通過してモータが回転するようにする。
そして、通電モードの切り替え角度での開放相の端子電圧を求めて、これを通電モードの切り替え判断に用いる電圧閾値として学習するから、モータのばらつきや温度環境などの各種ばらつき要因に対して電圧閾値を適正値に修正でき、通電モードの切り替えタイミングが所期の角度位置からずれてしまうことを抑制できる。
【0097】
また、通電モードの6通りの切り替え毎に、電圧閾値を個別に学習し、どの通電モードに切り替えるかによって、用いる電圧閾値を切り替えるから、ブラスレスモータ2の個々の巻線にばらつきがあっても、各通電モードへの切り替えを適正なタイミング(所期の角度位置)で行わせることができる。
次に、電動オイルポンプ1を駆動するモータとしてのブラシレスモータ2について、通電モードの切り替え判断に用いる電圧閾値の学習を行わせる場合の学習処理の流れを、図19のフローチャートに示すルーチンに従って説明する。
【0098】
ステップ101で、エンジンのメインスイッチであるイグニッションスイッチ(IGN)がオンされると、ステップ102では、電圧閾値の学習条件が成立しているか否かを判断する。
具体的には、以下の(a)〜(f)が全て成立している場合に、電圧閾値の学習条件が成立していると判断する。
(a)エンジン回転中である。
(b)オイル温度が学習許可領域内である
(c)ブラシレスモータ、駆動回路、制御器などについて故障診断されていない。
(d)ブラシレスモータの電源電圧が設定値を超えている。
(e)エンジン始動後から安定運転状態への移行に要する時間が経過している。
(f)同一温度条件で一度も学習されていない
上記条件(a)は、電動オイルポンプ1を駆動する要求がないことを判断するものであり、エンジン停止中であっても、電動オイルポンプ1を駆動する要求がない場合には、学習条件の成立を判定することができる。
【0099】
条件(b)は、後述する温度条件毎の電圧閾値の学習において、電圧閾値を学習させる温度領域内であるか否かを判断するものであり、オイル温度センサ(温度検出手段)12が検出したオイル温度が、学習領域から外れている場合には、学習は行わない。
条件(c)は、ブラシレスモータ、駆動回路、制御器などが正常であって、電圧閾値の学習が正常に行えると見込まれる場合に、学習を許可するものである。
【0100】
条件(d)は、電源電圧が設定値を超えているか否かに基づいて、学習精度を維持できる電源電圧であるか否かを判断するものである。
条件(e)は、エンジンが安定的に運転されていている状態において、学習を許可するものである。
条件(f)は、各通電モードの切り替え判断に用いる電圧閾値を、ブラシレスモータ2の温度毎に学習させるに当たって、現時点の温度が、未学習の温度条件であれば学習を許可し、学習済みであれば学習処理を実行させないようにする。
【0101】
例えば、図20に示すように、各通電モードの切り替え判断に用いる電圧閾値を、15℃、50℃、80℃、110℃の各温度毎に学習させるようにし、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え判断を行うときに用いる電圧閾値V2-3として、そのときの温度が80℃であったとすると、80℃に対応して記憶されている電圧閾値V2-3を用いるようにする。
【0102】
ここで、ステップ102の学習条件の成立・非成立を判断する時点でのモータ温度が、未学習の温度であれば学習を許可し、学習済み若しくは最近に学習した時点からの経過時間が充分に短い場合には、学習を行わない。
尚、温度毎の学習において、例えば、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え判断を行うときに用いる電圧閾値V2-3として、モータ温度80℃に対応する電圧閾値V2-3が学習済みであるのに対し、その他の温度条件に対応する電圧閾値V2-3が未学習であれば、80℃での学習値を全ての温度条件に適用させて、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え判断を行わせることができる。
【0103】
また、例えば、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え判断を行うときに用いる電圧閾値V2-3として、複数の温度条件で学習済みであれば、未学習の温度条件に対応させる電圧閾値V2-3を、学習済みの温度での電圧閾値V2-3から補間演算して推定させることができる。
また、電圧閾値の学習条件としての温度は、ブラシレスモータ2の温度若しくはモータ温度に相関する温度であればよく、モータ温度に相関する温度としては、電動オイルポンプ1が圧送するオイルの温度(オイル温度センサ12の検出値)や、エンジンの冷却水温度などを用いることができ、更には、外気温度やモータ2における消費電力などからモータ温度を推定させることもできる。
【0104】
尚、電圧閾値の学習条件を、上記の条件(a)〜(f)に限定するものではなく、また、条件(a)〜(f)のうちの一部を学習条件として採用することができ、また、複数の条件の論理和又は論理積、更には、論理和と論理積との組み合わせで、学習条件の成立・非成立を判断することができる。更に、電圧閾値が未学習である場合に、エンジンの一時停止(アイドルストップ)を禁止することもできる。
【0105】
ステップ102で学習条件が成立していると判断すると、ステップ103へ進み、前述の図5及び図6のフローチャートに従って各通電モードの切り替え判断に用いる電圧閾値の学習を行わせる。
前述の図5及び図6のフローチャートに従った電圧閾値の学習処理では、6通りのモード切り替え毎に6個の電圧閾値V1-2,V2-3,V3-4,V4-5,V5-6,V6-1を学習するから、3相間でばらつきがあっても、通電モードを適正なタイミングで切り替えることができる。
【0106】
但し、3相間でのばらつきが十分に小さいと見込まれる場合には、個別に学習した6個の電圧閾値に基づいて、絶対値が共通する電圧閾値V1-2,V2-3,V3-4,V4-5,V5-6,V6-1を設定して、モード切替の判断を行わせることができる。
具体的には、図5及び図6のフローチャートに従って求めた6個の電圧閾値V1-2,V2-3,V3-4,V4-5,V5-6,V6-1それぞれの絶対値の中での最小値を求め、該最小値に基づいて、図21に示すようにして、通電モードの切り替え判断に用いる各電圧閾値を設定する。
【0107】
即ち、通電モードの切り替えにおいて、(1)→(2)、(3)→(4)、(5)→(6)においては開放相電圧が基準電圧からマイナス側に振れ、(2)→(3)、(4)→(5)、(6)→(1)においては開放相電圧が基準電圧からプラス側に振れるので、開放相電圧がマイナス側に振れるモード切替は、−最小値を電圧閾値とし、開放相電圧がプラス側に振れるモード切替は、+最小値を電圧閾値とする。
【0108】
尚、6個の電圧閾値それぞれの絶対値の単純平均値を、各モード切替の判断に用いる電圧閾値に共通する絶対値としても良いが、誘起電圧が電圧閾値を横切らない場合が生じると、通電モードの切り替えが行えず、モータが脱調してしまう可能性があるので、最小値を選択し、電圧閾値の絶対値が比較的低い通電モードであっても誘起電圧が電圧閾値を横切って通電モードの切り替えが行えるようにするとよい。
【0109】
また、例えば、6通りの通電モードの切り替えのうちの一部(例えば1つ)についてのみ、電圧閾値を学習させ、この学習値の絶対値を他の通電モードの切り替え判断に用いる電圧閾値の絶対値として用いることができる。
また、開放相電圧が基準電圧に対してマイナス側に振れる(1)→(2)、(3)→(4)、(5)→(6)のモード切替において共通の電圧閾値を設定し、開放相電圧が基準電圧に対してプラス側に振れる(2)→(3)、(4)→(5)、(6)→(1)において共通の電圧閾値を設定してもよい。
【0110】
具体的には、図22に示すように、(1)→(2)、(3)→(4)、(5)→(6)のモード切替に対しては、電圧閾値V1-2,V3-4,V5-6の中での最大値、即ち、マイナス値として算出される電圧閾値V1-2,V3-4,V5-6の中で基準電圧(=0V)に最も近い値(絶対値の最小値)を選択し、該選択した電圧閾値Vを、(1)→(2)、(3)→(4)、(5)→(6)のモード切替に共通の電圧閾値として学習させる。
【0111】
また、(2)→(3)、(4)→(5)、(6)→(1)のモード切替に対しては、電圧閾値V2-3,V4-5,V6-1の中での最小値、即ち、プラス値として算出される電圧閾値V2-3,V4-5,V6-1の中で基準電圧(=0V)に最も近い値(絶対値の最小値)を選択し、該選択した電圧閾値Vを、(2)→(3)、(4)→(5)、(6)→(1)のモード切替に共通の電圧閾値として学習させる。
【0112】
また、学習した電圧閾値に基づいてモード切替のタイミングを判断するときに、そのときのモータ回転速度に応じて電圧閾値を補正することが好ましい。
即ち、モータ回転速度が低くなるほど、開放相に発生する誘起電圧が低くなるので、モータ速度が低く誘起電圧が低くなるほど、電圧閾値の絶対値を小さくし、逆に、モータ速度が速く誘起電圧が高くなるほど、電圧閾値の絶対値を大きくする。これにより、モータ回転速度に依存する誘起電圧の大きさに対応させて、電圧閾値を上下させることができ、モータ回転速度が異なっても、適正なタイミング(所期の切り替え角度)で通電モードを切り替えることができる。
【0113】
具体的には、数13に従って、電圧閾値をモータ回転速度に応じた補正値で修正するように、かつ、前記補正値として、図23に示すように、(1)→(2)、(3)→(4)、(5)→(6)のモード切替に対しては、回転速度が高くなるに従って絶対値が大きくなるマイナスの補正値を設定し、(2)→(3)、(4)→(5)、(6)→(1)のモード切替に対しては、回転速度が高くなるに従って絶対値が大きくなるプラスの補正値を設定する。
【0114】
【数13】
【0115】
上記回転速度に応じた電圧閾値の補正は、個別の学習結果をそのまま用いてモード切替を判断させる場合と共に、絶対値を共通化させた電圧閾値を設定する場合にも適用できる。
尚、モータの回転速度による補正値を演算式で求めても良いし、モータの回転速度を補正値に変換する変換テーブルを用いてもよい。
【0116】
また、電圧閾値の学習において、初期位置に設定するための通電状態から、各モードに対応する通電状態に切り替える際に、PWM信号のデューティが大きいと、モータ回転速度が速くなって、開放相の端子電圧(誘起電圧)に速度起電力がのってしまい、電圧閾値の学習精度が低下する。
そこで、電圧閾値の学習を行わせる場合に、PWM生成において、低デューティとしてモータ回転速度を抑制しつつ、開放相の誘起電圧を検出できるようにすることが望まれ、そのためには、後述するパルスシフトを実施するとよい。
【0117】
図24は、一般的なPWM生成を示す。
図24において、三角波キャリアの中間値Dの値が電圧=0であり、また、電圧指令値をBとし、V相のPWMは、三角波キャリアと電圧指令値D+Bを比較した結果を用い、W相のPWMは、三角波キャリアと電圧指令値D−Bを比較した結果を用いている。
即ち、V相の上段スイッチング素子は、三角波キャリアよりも電圧指令値D+Bが高い期間においてONとなり、W相の下段スイッチング素子は、三角波キャリアが電圧指令値D−Bよりも高い期間においてONとなる。
【0118】
しかし、図24に示すPWM生成では、デューティが小さいとV相とW相とが共に通電している時間(図24中の斜線の期間)が短く、非通電相に誘起される電圧を検出できなくなってしまうが、V相とW相とが共に通電している時間を長くし、誘起電圧の検出を可能とするために、デューティを大きくすると、モータ回転速度が速くなって開放相の端子電圧(誘起電圧)に速度起電力がのってしまう。
【0119】
そこで、図25に示すパルスシフトを実施することで、図24に示したPWM生成と同一のデューティで2相が共に通電している連続時間をより長くし、速度起電力の発生を抑えつつ、非通電相に誘起される電圧の検出を可能にできる。
図25に示すパルスシフトでは、三角波キャリアの山・谷(上昇・下降)のタイミングで、電圧指令値に対して補正を行っている。
【0120】
具体的には、三角波キャリアの上昇期間では、電圧指令値を電圧=0からXだけ離れるように、電圧指令値D+BについてはD+B+A(但し、A=X−B)に補正し、電圧指令値D−BについてはD−B−A(但し、A=X−B)に補正し、三角波キャリアの下降期間では、電圧指令値を電圧=0に近づけるように、電圧指令値D+BについてはD+B−A(但し、A=X−B)に補正し、電圧指令値D−BについてはD−B+A(但し、A=X−B)に補正している。
【0121】
上記の電圧指令値の補正によって、三角波キャリアの下降期間でV相とW相とが共に通電している時間が短くなる分だけ、三角波キャリアの上昇期間でV相とW相とが共に通電している時間が長くなり、デューティを変えずに(換言すれば、低デューティでも)、2相が共に通電している連続時間を長くすることができる。
ステップ103では、上記のようにして電圧閾値の学習を実施し、学習に充分な時間だけ学習条件が連続して成立していれば、学習を完了することになるが、学習途中でアイドルストップの開始要求が発生するなどして、学習条件が成立しなくなった場合には、その時点で学習処理を中止させる。
【0122】
そして、ステップ104では、学習が正常に終了したか否かを判断する。
ここで、学習の正常終了とは、図5及び図6のフローチャートに示すルーチンを少なくとも1回実施し(好ましくは複数回繰り返し)、かつ、取得した電圧閾値が正常範囲内の場合である。一方、学習の異常終了とは、アイドルストップ要求の発生などによって途中で学習処理を停止した場合や、学習を所定回数(或いは所定時間)だけ実施しても、正常範囲内の電圧閾値を取得することができなかった場合である。
【0123】
そして、学習が正常終了した場合には、ステップ105へ進み、ステップ103で新たに取得した電圧閾値に基づき、それまでの電圧閾値の記憶値を更新させる処理を行う。
一方、学習が異常終了した場合には、ステップ106へ進み、電圧閾値の記憶値を更新せずに、前回値若しくは初期値(設計値)に保持させる。
ステップ107では、アイドルストップ条件が成立したか否か、換言すれば、ブラシレスモータ2によって電動オイルポンプ1を駆動させる要求が発生したか否かを判断する。
【0124】
アイドルストップ条件が成立していない場合(エンジンの運転が継続される場合)には、電圧閾値の学習を全て完了していない可能性、例えば、異なる温度条件に対応する電圧閾値の学習が未実施の場合などがあるため、ステップ102へ戻って、学習条件の成立判断を行う。
ここで、未学習の電圧閾値がなく、電圧閾値の学習が全て完了している場合には、そのままアイドルストップ条件が成立するまで待機させてもよい。
【0125】
一方、アイドルストップ条件が成立すると、ステップ108へ進み、学習した電圧閾値と開放相電圧とを比較して通電モードを切り替えてブラシレスモータ2を駆動させる、センサレス式の駆動制御を実施する。
ステップ109(脱調検出手段)では、学習した電圧閾値に基づき通電モードを切り替えてブラシレスモータ2を駆動させている状態(センサレス駆動状態)で、脱調が発生したか否かを検出する。
【0126】
脱調の発生は、公知の種々の方法を採用でき、例えば、特開2001−25282号公報に開示されるように、ブラシレスモータ2の電流周期と電圧周期との比較に基づき、脱調の発生を検出することができる。
ブラシレスモータ2が脱調した場合には、電圧閾値が不適切であるために、通電モードの切り替えタイミングが所期の角度位置からずれたものと判断し、ステップ102の学習条件の成立判断に戻る。
【0127】
尚、脱調が発生した場合には、アイドルストップを強制終了させて、エンジンを再始動させた上で、電圧閾値の学習を開始させることが好ましく、また、アイドルストップを強制終了させたときに、車両の運転者に対してランプなどで異常の発生を警告するとよい。
一方、脱調が発生しない場合には、電圧閾値が適正な値に学習されているものと判断できるので、再学習を行わせることなく、ブラシレスモータ2の駆動を継続させる。
【0128】
そして、運転者が車両の運転を終了し(ステップ110)、イグニッションスイッチ(IGN)がオフされると、学習更新した電圧閾値をバックアップRAMに格納するなどして、電圧閾値の学習及びブラシレスモータ2の駆動制御を終了させる。
ところで、図5及び図6のフローチャートに示した電圧閾値の学習においては、ステップ1〜ステップ6それぞれにおける最初の処理として、初期位置への位置決めを実施するが、初期位置を、設定角度(0deg、60deg、120deg、180deg、240deg、300deg)とする代わりに、通電モードのいずれかに対応するパターンで通電させ、その通電モードでの回転位置を、初期位置とすることができる。
【0129】
図26は、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替えタイミングの判断に用いる電圧閾値V3-4の学習を行うステップ1において、ステップ11での初期位置設定を、通電モードでの相通電で行う場合を示す。
ここでは、設定角度=0degとする相通電に代えて、通電モード(1)に対応する相通電、即ち、Vu=Vin、Vv=−Vin、Vw=0に設定することで、モータ角度の初期値を330degとする。
【0130】
そして、この初期角度=330degに停止した状態から通電モード(3)での相通電(Vu=0、Vv=Vin、Vw=−Vin)に切り替えることで、330degから90degに向けて回動させ、この回動中における開放相(U相)の端子電圧の最小値に基づいて、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替えタイミングの判断に用いる電圧閾値V3-4、換言すれば、モード切替角度=30degにおける開放相の端子電圧を学習する。
【0131】
図27は、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えタイミングの判断に用いる電圧閾値V4-5の学習を行うステップ2において、ステップ21での初期位置設定を、通電モードでの相通電で行う場合を示す。
ここでは、設定角度=60degとする相通電に代えて、通電モード(2)に対応する相通電、即ち、Vu=Vin、Vv=0、Vw=−Vinに設定することで、モータ角度の初期値を30degとする。
【0132】
そして、この初期角度=30degに停止した状態から通電モード(4)での相通電(Vu=−Vin、Vv=Vin、Vw=0)に切り替えることで、30degから150degに向けて回動させ、この回動中における開放相(W相)の端子電圧の最大値に基づいて、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えタイミングの判断に用いる電圧閾値V4-5、換言すれば、モード切替角度=90degにおける開放相の端子電圧を学習する。
【0133】
図28は、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替えタイミングの判断に用いる電圧閾値V5-6の学習を行うステップ3において、ステップ31での初期位置設定を、通電モードでの相通電で行う場合を示す。
ここでは、設定角度=120degとする相通電に代えて、通電モード(3)に対応する相通電、即ち、Vu=0、Vv=Vin、Vw=−Vinに設定することで、モータ角度の初期値を90degとする。
【0134】
そして、この初期角度=90degに停止した状態から通電モード(5)での相通電(Vu=−Vin、Vv=0、Vw=Vin)に切り替えることで、90degから210degに向けて回動させ、この回動中における開放相(V相)の端子電圧の最小値に基づいて、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替えタイミングの判断に用いる電圧閾値V5-6、換言すれば、モード切替角度=150degにおける開放相の端子電圧を学習する。
【0135】
図29は、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替えタイミングの判断に用いる電圧閾値V6-1の学習を行うステップ4において、ステップ41での初期位置設定を、通電モードでの相通電で行う場合を示す。
ここでは、設定角度=180degとする相通電に代えて、通電モード(4)に対応する相通電、即ち、Vu=−Vin、Vv=Vin、Vw=0に設定することで、モータ角度の初期値を150degとする。
【0136】
そして、この初期角度=150degに停止した状態から通電モード(6)での相通電(Vu=0、Vv=−Vin、Vw=Vin)に切り替えることで、150degから270degに向けて回動させ、この回動中における開放相(U相)の端子電圧の最大値に基づいて、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替えタイミングの判断に用いる電圧閾値V6-1、換言すれば、モード切替角度=210degにおける開放相の端子電圧を学習する。
【0137】
図30は、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替えタイミングの判断に用いる電圧閾値V1-2の学習を行うステップ5において、ステップ51での初期位置設定を、通電モードでの相通電で行う場合を示す。
ここでは、設定角度=240degとする相通電に代えて、通電モード(5)に対応する相通電、即ち、Vu=−Vin、Vv=0、Vw=Vinに設定することで、モータ角度の初期値を210degとする。
【0138】
そして、この初期角度=210degに停止した状態から通電モード(1)での相通電(Vu=Vin、Vv=−Vin、Vw=0)に切り替えることで、210degから330degに向けて回動させ、この回動中における開放相(W相)の端子電圧の最小値に基づいて、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替えタイミングの判断に用いる電圧閾値V1-2、換言すれば、モード切替角度=270degにおける開放相の端子電圧を学習する。
【0139】
図31は、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替えタイミングの判断に用いる電圧閾値V2-3の学習を行うステップ6において、ステップ61での初期位置設定を、通電モードでの相通電で行う場合を示す。
ここでは、設定角度=300degとする相通電に代えて、通電モード(6)に対応する相通電、即ち、Vu=0、Vv=−Vin、Vw=Vinに設定することで、モータ角度の初期値を270degとする。
【0140】
そして、この初期角度=270degに停止した状態から通電モード(2)での相通電(Vu=Vin、Vv=0、Vw=−Vin)に切り替えることで、270degから30degに向けて回動させ、この回動中における開放相(V相)の端子電圧の最大値に基づいて、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替えタイミングの判断に用いる電圧閾値V2-3、換言すれば、モード切替角度=330degにおける開放相の端子電圧を学習する。
【0141】
また、前記ステップ15,S25,S35,S45,S55,S65における電圧閾値の設定方法としては、前記数1〜数12に示した設定方法の他、以下のような方法を採用することができる。
電動オイルポンプ1のイナーシャをJ、トルク定数をKt、モータ電流をIとした場合、モータの角速度ωは、数14により求まる。
【0142】
【数14】
【0143】
ここで、通電モード切替後の角度位置θは、数15により求まる。
【0144】
【数15】
【0145】
従って、初期位置から30degだけ回転した位置が、通電モードの切り替えタイミングである場合には、前記数15から切り替えタイミングの角度位置を検出したときの開放相の端子電圧を、通電モードの切り替え判断に用いる電圧閾値として学習させることができる。
また、初期位置から電圧閾値を学習する通電モードに切り替えると、開放相の端子電圧は、基準電圧から増大又は減少変化した後に基準電圧に交差し、基準電圧付近に戻った時点が、そのときの通電モードに対応する角度位置になった時点であると推定することができるから、学習する通電モードに切り替えてから、開放相の端子電圧が基準電圧にまで戻るのに要した時間Treは、初期位置から学習する通電モードでの角度位置まで回転するのに要した時間であると見なすことができる。
【0146】
ここで、初期位置から、学習する通電モードでの角度位置までの変換角度が90degであるとすると、開放相の端子電圧が基準電圧にまで戻るのに要した時間Treは、モータが90degだけ回転するのに要した時間となる。そして、初期位置から30degだけ回転した位置が、通電モードの切り替え角度であるとすると、全変換角度(90deg)の1/3の位置が通電モードの切り替え角度に相当し、学習する通電モードに設定してから時間Tre/3だけ経過した時点で、通電モードの切り替え角度になっているものと推定できる。
【0147】
そこで、図32に示すように、前記時間Treを計測すると共に、時間Treに達するまでの間でサンプリングした開放相の端子電圧を時系列的に記憶しておき、時間Tre/3だけ経過した時点(時間Treの所定割合が経過した時点)に対応して記憶されている端子電圧を、通電モードの切り替え角度における端子電圧、即ち、電圧閾値として学習させることができる。
【0148】
また、電圧閾値の学習において検出する開放相の端子電圧の最小値・最大値は、モータ温度に応じて変化するので、予め最小値・最大値とモータ温度との相関を求めておけば、前記相関に基づき最小値・最大値の検出値からそのときのモータ温度を推定することができる。
そして、モータ温度の推定結果は、電圧閾値を温度別に学習させるときに、どの温度領域に対応させて学習させるかの判断に用いることができ、更に、誘起電圧定数,トルク定数,抵抗などの温度依存性を有するパラメータの補正に用いることができ、前記パラメータを用いて効率良くモータを制御することができる。
【0149】
尚、上記実施形態では、ブラシレスモータ2を3相モータとしたが、相数を3相に限定するものではなく、また、120度通電方式の他、180度通電方式であってもよい。
また、通電モードの切り替え判断に用いる電圧閾値を学習させ、学習結果に基づいてセンサレス式で通電モードの切り替えを行うブラシレスモータは、電動オイルポンプの駆動に用いるモータに限定されない。
【0150】
ここで、上記実施形態から把握し得る請求項以外の技術的思想について、以下に効果と共に記載する。
(イ)請求項1〜3のいずれか1つに記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記ブラシレスモータの脱調を検出する脱調検出手段を更に備え、
前記電圧閾値設定手段は、少なくとも前記ブラシレスモータの脱調が検出されたときに、前記電圧閾値の設定を行うブラシレスモータの駆動装置。
【0151】
上記構成によると、脱調の発生から、電圧閾値に基づく通電モードの切り替えタイミングのずれを推定し、再度電圧閾値を設定するから、不適切な電圧閾値によって通電モードの切り替えタイミングがずれている状態を速やかに解消できる。
(ロ)請求項1〜3のいずれか1つに記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記電圧閾値設定手段が、前記ブラシレスモータの全相に通電して、前記ブラシレスモータを初期位置に駆動するブラシレスモータの駆動装置。
【0152】
上記構成によると、ブラシレスモータの全相に通電して、ブラシレスモータを通電状態に対応する初期位置に駆動し、この初期位置から通電モードでの通電に切り替えてモータを回転させ、電圧閾値を設定する。
(ハ)請求項1〜3のいずれか1つに記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記電圧閾値設定手段が、通電モードのいずれかに対応する通電を行って、前記ブラシレスモータを初期位置に駆動するブラシレスモータの駆動装置。
【0153】
上記構成によると、通電モードに対応する通電で初期位置まで駆動し、更に、別の通電モードに対応する通電に切り替えることで初期位置から回動させて電圧閾値を設定するので、通電パターンとして通電モードのいずれかに切り替えればよく、電圧閾値の設定を簡易に行える。
(ニ)請求項(ロ)又は(ハ)に記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記電圧閾値設定手段が、初期位置に駆動するための通電状態に設定してから、動作遅れ時間が経過してから、電圧閾値の学習を行う通電モードでの通電を開始させるブラシレスモータの駆動装置。
【0154】
上記構成によると、初期位置に駆動するための通電状態にしてから、実際に初期位置までの回動するまでに時間を要するので、この回動に要する時間(動作遅れ時間)の経過を待つことで、初期位置への停止を推定できる。
(ホ)請求項1〜3のいずれか1つに記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記電圧閾値設定手段が、通電モード毎に設定した電圧閾値から、複数の通電モードに共通の電圧閾値を設定し、この複数の通電モードに共通の電圧閾値に基づいて通電モードの切り替えを行わせるブラシレスモータの駆動装置。
【0155】
上記構成によると、1つの電圧閾値を、複数のモード切り替えに共通的に用いるようにすることで、通電モード毎の電圧閾値の切り替えを簡易化でき、また、電圧閾値の記憶容量を節約できる。
(ヘ)請求項(ホ)記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記電圧閾値設定手段が、通電モード毎に設定した電圧閾値のうちの複数の電圧閾値の中で絶対値が最小である電圧閾値を、複数の通電モードに共通の電圧閾値として設定するブラシレスモータの駆動装置。
【0156】
上記構成によると、個別に設定した電圧閾値のうちの複数の中から最小値を選択し、複数の通電モードに共通の電圧閾値とするから、電圧閾値の要求が比較的低い通電モードであっても、非通電相の電圧と電圧閾値との比較から通電モードの切り替えタイミングを安定して判断させることができる。
(ト)請求項1〜3のいずれか1つに記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記電圧閾値設定手段が、前記電圧閾値を、モータ回転速度に応じて補正するブラシレスモータの駆動装置。
【0157】
上記構成によると、モータ回転速度によって誘起電圧のレベルが変動しても、モータ回転速度に応じて電圧閾値をシフトさせることで、一定の角度位置で通電モードの切り替えタイミングを判断させることができる。
(チ)請求項1記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記電圧閾値設定手段が、初期位置にモータを停止させた状態から通電モードに基づく相通電を行ってモータを回転させたときに、非通電相の電圧が基準電圧に戻るまでの時間を計測し、該時間の所定割合が経過した時点での非通電相の電圧に基づき、電圧閾値を設定するブラシレスモータの駆動装置。
【0158】
上記構成によると、非通電相の電圧が基準電圧に戻るまでの時間は、既知の初期位置からそのときの通電モードに対応する既知の角度位置までの回動するのに要した時間であるから、切り替え角度位置を通過した時刻を、基準電圧に戻るまでに要した時間から推定でき、推定した切り替え角度位置での非通電相の電圧から、電圧閾値を設定できる。
(リ)請求項1〜3のいずれか1つに記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記ブラシレスモータが、自動車用オートマチック・トランスミッションにオイルを圧送する電動オイルポンプであって、前記電動オイルポンプが、エンジンで駆動されてオイルを前記自動車用オートマチック・トランスミッションに圧送する機械式オイルポンプと並列に設けられ、
前記電圧閾値設定手段が、前記エンジンの運転中であって前記機械式オイルポンプによってオイルを自動車用オートマチック・トランスミッションに圧送しているときに、前記電圧閾値を設定するブラシレスモータの駆動装置。
【0159】
上記構成によると、エンジンが停止すると、機械式オイルポンプが停止し、自動車用オートマチック・トランスミッションに対してオイルを圧送できなくなり、このときに電動オイルポンプを駆動することで、自動車用オートマチック・トランスミッションに対するオイルの圧送を継続させることができるが、電動オイルポンプの駆動状態では、電圧閾値の設定を行えないので、エンジン運転中であって、機械式オイルポンプによってオイルを自動車用オートマチック・トランスミッションに圧送しているときに、電圧閾値の設定を行う。
【符号の説明】
【0160】
1…電動オイルポンプ、2…ブラシレスモータ、3…モータ制御装置、212…モータ駆動回路、213…制御器、215U,215V,215W…巻線、216…永久磁石回転子、217a〜217f…スイッチング素子、251…PWM発生器、252…ゲート信号切替器、253…通電モード決定器、254…比較器、255…電圧閾値切替器、256…電圧閾値学習器、257…非通電相電圧選択器
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシレスモータの駆動装置に関し、詳しくは、センサレスで通電モードの切り替えを行うブラシレスモータの駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、3相同期電動機の非通電相の端子電位を、基準電圧とレベル比較し、該レベル比較の結果に応じて、通電モードを順次切り替えていく、同期電動機の駆動システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−189176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前述のようなセンサレス式の駆動制御では、開放相(非通電相)の端子電圧(誘起電圧)が、モータ(巻線)のばらつきや温度環境などによって変化することで、通電モードの切り替えタイミングにずれを生じ、効率の低下や脱調が発生する惧れがあった。
本発明は上記問題点に鑑みなされたものであり、モータ(巻線)のばらつきや温度環境などに因る通電モードの切り替えタイミングのずれを抑制でき、以って、効率の低下や脱調の発生を抑制できるブラシレスモータの駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そのため、本願発明では、非通電相の電圧と電圧閾値とに基づいて通電モードを順次切り替える駆動装置において、初期位置にモータを停止させた状態から通電モードに基づく相通電を行ってモータを回転させ、該回転中における非通電相の電圧に基づいて前記電圧閾値を設定するようにした。
【発明の効果】
【0006】
上記発明によると、モータ(巻線)のばらつきや温度環境の違いなどがあっても、通電モードの切り替えタイミングを適正に維持することが可能となり、効率の低下や脱調の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施形態において、本願発明に係るブラシレスモータの駆動装置を適用する、自動車AT(オートマチック・トランスミッション)用油圧ポンプシステムの構成を示すブロック図である。
【図2】実施形態におけるモータ制御装置及びブラシレスモータの構成を示す回路図である。
【図3】実施形態における制御器の構成を示すブロック図である。
【図4】実施形態におけるブラシレスモータの通電パターンを示すタイムチャートである。
【図5】実施形態における電圧閾値の学習処理を示すフローチャートである。
【図6】実施形態における電圧閾値の学習処理を示すフローチャートである。
【図7】実施形態における電圧閾値V3-4の学習における各相の印加電圧、磁束、ロータの回転位置を示す状態図であり、(A)は初期位置への回動状態、(B)は通電モード(3)の状態を示す図である。
【図8】実施形態における電圧閾値V3-4の学習における開放相の電圧変化を示すタイムチャートであり、(A)は電圧V1-30のサンプリング時期、(B)は最小値V2-30の検出特性を示す図である。
【図9】実施形態における電圧閾値V4-5の学習における各相の印加電圧、磁束、ロータの回転位置を示す状態図であり、(A)は初期位置への回動状態、(B)は通電モード(4)の状態を示す図である。
【図10】実施形態における電圧閾値V4-5の学習における開放相の電圧変化を示すタイムチャートであり、(A)は電圧V1-90のサンプリング時期、(B)は最大値V2-90の検出特性を示す図である。
【図11】実施形態における電圧閾値V5-6の学習における各相の印加電圧、磁束、ロータの回転位置を示す状態図であり、(A)は初期位置への回動状態、(B)は通電モード(5)の状態を示す図である。
【図12】実施形態における電圧閾値V5-6の学習における開放相の電圧変化を示すタイムチャートであり、(A)は電圧V1-150のサンプリング時期、(B)は最小値V2-150の検出特性を示す図である。
【図13】実施形態における電圧閾値V6-1の学習における各相の印加電圧、磁束、ロータの回転位置を示す状態図であり、(A)は初期位置への回動状態、(B)は通電モード(6)の状態を示す図である。
【図14】実施形態における電圧閾値V6-1の学習における開放相の電圧変化を示すタイムチャートであり、(A)は電圧V1-210のサンプリング時期、(B)は最大値V2-210の検出特性を示す図である。
【図15】実施形態における電圧閾値V1-2の学習における各相の印加電圧、磁束、ロータの回転位置を示す状態図であり、(A)は初期位置への回動状態、(B)は通電モード(1)の状態を示す図である。
【図16】実施形態における電圧閾値V1-2の学習における開放相の電圧変化を示すタイムチャートであり、(A)は電圧V1-270のサンプリング時期、(B)は最小値V2-270の検出特性を示す図である。
【図17】実施形態における電圧閾値V2-3の学習における各相の印加電圧、磁束、ロータの回転位置を示す状態図であり、(A)は初期位置への回動状態、(B)は通電モード(2)の状態を示す図である。
【図18】実施形態における電圧閾値V2-3の学習における開放相の電圧変化を示すタイムチャートであり、(A)は電圧V1-330のサンプリング時期、(B)は最大値V2-330の検出特性を示す図である。
【図19】実施形態における電動オイルポンプを駆動するブラシレスモータの通電モードの切り替えに用いる電圧閾値の学習処理を示すフローチャートである。
【図20】実施形態における温度条件毎の電圧閾値の学習を説明するための図である。
【図21】実施形態における絶対値を共通とする電圧閾値の学習を説明するための図である。
【図22】実施形態におけるプラスの電圧閾値とマイナスの電圧閾値とのそれぞれで絶対値を共通とする学習を説明するための図である。
【図23】実施形態における電圧閾値のモータ回転速度による電圧閾値の補正値の特性を示す線図である。
【図24】実施形態におけるパルスシフトを行わない場合のPWM生成を示すタイムチャートである。
【図25】実施形態におけるパルスシフトを行った場合のPWM生成を示すタイムチャートである。
【図26】実施形態における電圧閾値V3-4の学習において、通電モード(1)での角度位置を初期位置とする場合の各相の印加電圧、磁束、ロータの回転位置を示す状態図である。
【図27】実施形態における電圧閾値V4-5の学習において、通電モード(2)での角度位置を初期位置とする場合の各相の印加電圧、磁束、ロータの回転位置を示す状態図である。
【図28】実施形態における電圧閾値V5-6の学習において、通電モード(3)での角度位置を初期位置とする場合の各相の印加電圧、磁束、ロータの回転位置を示す状態図である。
【図29】実施形態における電圧閾値V6-1の学習において、通電モード(4)での角度位置を初期位置とする場合の各相の印加電圧、磁束、ロータの回転位置を示す状態図である。
【図30】実施形態における電圧閾値V1-2の学習において、通電モード(5)での角度位置を初期位置とする場合の各相の印加電圧、磁束、ロータの回転位置を示す状態図である。
【図31】実施形態における電圧閾値V2-3の学習において、通電モード(6)での角度位置を初期位置とする場合の各相の印加電圧、磁束、ロータの回転位置を示す状態図である。
【図32】実施形態における開放相の電圧が収束するまでの時間Treに基づく電圧閾値の学習を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本願発明に係るブラシレスモータの駆動装置を適用する、自動車AT(オートマチック・トランスミッション)用油圧ポンプシステムの構成を示すブロック図である。
図1に示す自動車AT用油圧ポンプシステムでは、変速機7やアクチュエータ8にオイルを供給するオイルポンプとして、図外のエンジン(内燃機関)の出力により駆動される機械式オイルポンプ6と、モータで駆動される電動オイルポンプ1とを備えている。
【0009】
また、エンジンの制御システムとして、自動停止条件の成立時にエンジンを停止し、自動始動条件が成立するとエンジンを再始動するアイドルストップ制御機能が備えられており、アイドルストップによってエンジンが停止されている間は、機械式オイルポンプ6もその動作を停止するため、アイドルストップ中は、電動オイルポンプ1を用いて、変速機7やアクチュエータ8に対するオイルの供給を行う。
【0010】
電動オイルポンプ1は、直結されたブラシレスモータ2により駆動される。ブラシレスモータ2は、モータ制御装置(MCU)3により、AT制御装置(ATCU)4からの指令に基づいて制御される。
モータ制御装置(駆動装置)3は、ブラシレスモータ2を駆動制御して電動オイルポンプ1を駆動し、オイルパン10のオイルを、電動オイル配管5を介して変速機7やアクチュエータ8に供給する。
【0011】
エンジン駆動中は、エンジンにより駆動される機械式オイルポンプ6により、変速機7やアクチェータ8にオイル配管9を介してオイルパン10のオイルが供給され、このとき、ブラシレスモータ2はオフ状態であって、逆止弁11により電動オイルポンプ1に向かうオイルは遮断される。
エンジンがアイドルストップすると、エンジン回転速度が低下し、機械式オイルポンプ6も回転速度が低下してオイル配管9の油圧が低下するので、エンジンのアイドルストップと同時に、AT制御装置4がモータ起動の指令をモータ制御装置3に送信する。
【0012】
起動指令を受けたモータ制御装置3は、ブラシレスモータ2を駆動して電動オイルポンプ1を回転させ、電動オイル配管5内の油圧を徐々に上昇させる。
機械式オイルポンプ6の油圧が低下し、逆止弁11により阻止されていた電動オイルポンプ1の油圧が閾値を越えると、オイルは電動オイル配管5、電動オイルポンプ1、逆止弁11、変速機7・アクチェータ8、オイルパン10の経路を通って循環する動作を行う。
【0013】
図2は、モータ制御装置3及びブラシレスモータ2の詳細を示す。
モータ制御装置3は、モータ駆動回路212と、マイクロコンピュータを備えた制御器213とを含んで構成され、制御器213がAT制御装置4との間で通信を行う。
ブラシレスモータ2は、3相DCブラシレスモータ(3相同期電動機)であり、U相,V相及びW相の3相巻線215U,215V,215Wが、図示省略した円筒状の固定子に設けられ、該固定子の中央部に形成された空間に永久磁石回転子216が配置される。
【0014】
そして、モータ駆動回路212は、例えばIGBTからなる6個のスイッチング素子217a〜217fを3相ブリッジ接続し、かつ、各スイッチング素子217a〜217fに逆並列にダイオード218a〜218fをそれぞれ接続して構成され、かつ、電源回路219を有している。
スイッチング素子217a〜217fの制御端子(ゲート端子)は、制御器213に接続されており、スイッチング素子217a〜217fのオン・オフは、制御器213によってデューティ制御される。
【0015】
制御器213は、ブラシレスモータ2の印加電圧を演算し、駆動回路212へのパルス幅変調信号(PWM信号)を生成する回路であり、図3に示すように、PWM発生器251、ゲート信号切替器252、通電モード決定器253、比較器254、電圧閾値切替器255、電圧閾値学習器256、非通電相電圧選択器257を含んでいる。
PWM発生器251は、指令トルクに応じて決定される印加電圧指令(指令電圧)に基づき、パルス幅変調されたPWM波を生成する回路である。
【0016】
通電モード決定器253(通電モード切替手段)は、モータ駆動回路212の通電モード(スイッチングモード)を決定するモード指令信号を順次出力するデバイスであり、比較器254が出力するモード切替トリガ信号をトリガとして通電モードを6通りに切り替える。
ゲート信号切替器252は、モータ駆動回路212の各スイッチング素子217a〜217fがどのような動作でスイッチングするかを、通電モード決定器253の出力であるモード指令信号に基づいて決定し、該決定に従い、最終的な6つのゲートパルス信号をモータ駆動回路212に出力する。
【0017】
電圧閾値切替器255は、非通電相の端子電圧の閾値(電圧閾値)を発生する回路であり、電圧閾値の切り替えタイミングは、通電モード決定器253の出力であるモード指令信号に基づき決定される。
非通電相電圧選択器257は、ブラシレスモータ2の3相端子電圧Vu,Vv,Vwの中から非通電相の電圧をモード指令信号に従い選択して出力する回路であり、前記端子電圧は、ブラシレスモータ2の中性点に対する電位差として出力される。
【0018】
比較器254は、電圧閾値切替器257が出力する電圧閾値と非通電相電圧選択器257が出力する非通電相の電圧(誘起電圧)とを比較し、通電モード決定器253にモード切替トリガを出力する。
尚、誘起電圧は、2相の印加パルス電圧によって非通電相に誘起される電圧であり、回転子の位置により磁気回路の飽和状態が変化することから、回転子の位置に応じた誘起電圧が非通電相に発生することになり、非通電相の誘起電圧から、回転子位置を推定して、通電モードの切り替えタイミングを検出することができる。
【0019】
図4は、通電モード毎の各相への印加電圧を示す。
通電モードは、電気角60degごとに順次切り替わる6通りの通電モード(1)〜(6)からなり、各通電モード(1)〜(6)においてスイッチング素子217a〜217fは、指令電圧に応じてパルス幅変調した信号で駆動される。
本実施形態では、U相のコイルの角度位置を基準位置(deg)とし、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替えを行う角度位置を30degに、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えを行う角度位置を90degに、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替えを行う角度位置を150degに、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替えを行う角度位置を210degに、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替えを行う角度位置を270degに、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替えを行う角度位置を330degに設定している。
【0020】
通電モード(1)は、スイッチング素子217a及びスイッチング素子217dをオン制御し、他を全てオフとすることで、U相に電圧Vを印加し、V相に電圧−Vを印加し、U相からV相に向けて電流を流す。
通電モード(2)は、スイッチング素子217a及びスイッチング素子217fをオン制御し、他を全てオフとすることで、U相に電圧Vを印加し、W相に電圧−Vを印加し、U相からW相に向けて電流を流す。
【0021】
通電モード(3)は、スイッチング素子217c及びスイッチング素子217fをオン制御し、他を全てオフとすることで、V相に電圧Vを印加し、W相に電圧−Vを印加し、V相からW相に向けて電流を流す。
通電モード(4)は、スイッチング素子217b及びスイッチング素子217cをオン制御し、他を全てオフとすることで、V相に電圧Vを印加し、U相に電圧−Vを印加し、V相からU相に向けて電流を流す。
【0022】
通電モード(5)は、スイッチング素子217b及びスイッチング素子217eをオン制御し、他を全てオフとすることで、W相に電圧Vを印加し、U相に電圧−Vを印加し、W相からU相に向けて電流を流す。
通電モード(6)は、スイッチング素子217e及びスイッチング素子217dをオン制御し、他を全てオフとすることで、W相に電圧Vを印加し、V相に電圧−Vを印加し、W相からV相に向けて電流を流す。
【0023】
上記のように、6つの通電モード(1)〜(6)を、電気角60deg毎に切り替えることで、各スイッチング素子217a〜217fは、240deg毎に120deg間通電されることから、図4に示すような通電方式は120度通電方式と呼ばれる。
前記通電モードの切り替えを、本実施形態では、非通電相に発生する電圧(誘起電圧)の信号をトリガに行うようになっており、本実施形態のモータ制御装置3は、所謂位置センサレスの通電制御を行う。
【0024】
具体的には、非通電相電圧選択器257が3相端子電圧Vu,Vv,Vwの中から非通電相(開放相)の電圧を選択して出力し、この非通電相の端子電圧が、電圧閾値切替器255が出力する電圧閾値を横切ったか否かを比較器254が判断し、比較器254は、非通電相の端子電圧が電圧閾値を横切ったときに、モード切替トリガを通電モード決定器253に出力する。
【0025】
ところで、非通電相の電圧は、温度環境やブラシレスモータ2(巻線)のばらつきなどで変化するため、予め決められた固定の電圧閾値を用いて通電モードの切り替えタイミング(切り替え角度位置)を検出すると、通電モードの切り替えタイミングが適正なタイミングからずれて、ブラシレスモータ2が脱調する可能性がある。
そこで、本実施形態では、前記電圧閾値を更新学習する電圧閾値学習器256(電圧閾値設定手段)を設け、温度環境やブラシレスモータ2のばらつきなどに対して、電圧閾値を適正値に修正し、修正結果を更新記憶して用いるように構成されていて、以下では、電圧閾値学習器256における電圧閾値の学習処理を詳細に説明する。
【0026】
図5及び図6のフローチャートに示すルーチンは、制御器213(電圧閾値学習器256)による電圧閾値の学習処理を示す。
ステップ1では、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替え判定に用いる電圧閾値を学習し、ステップ2は、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替え判定に用いる電圧閾値を学習し、ステップ3は、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替え判定に用いる電圧閾値を学習し、ステップ4は、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替え判定に用いる電圧閾値を学習し、ステップ5は、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替え判定に用いる電圧閾値を学習し、ステップ6は、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え判定に用いる電圧閾値を学習する。但し、各電圧閾値の学習順は任意であり、適宜変更することができる。
【0027】
通電モード(3)から通電モード(4)への切り替え判定に用いる電圧閾値V3-4を学習するステップ1は、詳細には、ステップ11〜ステップ15の各ステップを実行する。
まず、ステップ11では、永久磁石回転子216を、初期位置(設定角度0deg)に位置決めする。
具体的には、予め決められた電圧Vinに基づき、U相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを、Vu=Vin、Vv=−Vin*1/2、Vw=−Vin*1/2に設定する。
【0028】
上記のように各相の印加電圧を設定すると、U相,V相及びW相の合成磁束が、図7(A)に示すようになり、係る合成磁束に永久磁石回転子216が引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が、設定角度0degまで回転することになる。
尚、前記初期位置は、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替え角度=30degの30deg前の角度位置である0degに設定してあり、ステップ2〜ステップ6における学習においても、通電モードの切り替え角度の30deg前の角度位置を、初期位置とする。
【0029】
ステップ12では、ステップ11でU相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを設定した後、永久磁石回転子216のN極が設定角度に到達するのに要すると見込まれる動作遅れ時間が経過していて、初期位置に停止したものと推定できるようになってから、通電モード(3)に対応する印加電圧、即ち、Vu=0、Vv=Vin、Vw=−Vinに切り替える。
【0030】
通電モード(3)に対応する印加電圧に切り替えると、図7(B)に示すように、U相,V相及びW相の合成磁束が変化し、係る合成磁束に引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が初期位置から通電モード(3)に対応する角度90degまで回転することになる。
ステップ13では、図8(A)に示すように、初期位置とするための印加電圧から通電モード(3)に対応する印加電圧に切り替えた直後における、通電モード(3)での開放相(非通電相)であるU相の端子電圧Vuを、開放相電圧V1-30として記憶する。
【0031】
ステップ14では、図8(B)に示すように、通電モード(3)に対応する印加電圧に切り替えてから、最小電圧検出時間が経過するまでの期間におけるU相の端子電圧Vuの最小値を求め、該最小電圧を開放相電圧V2-30として記憶する。
前記最小電圧検出時間は、通電モード(3)に対応する印加電圧に切り替えることで低下し、その後上昇に転じて定常電圧に収束するU相の端子電圧Vuの変化特性に基づき、最小電圧を検出するのに必要十分な時間として予め適合されている。
【0032】
尚、最小電圧の検出期間を、時間で規定する代わりに、U相の端子電圧Vuが定常状態に収束したことを検出した時点を、最小電圧の検出期間の終期として判断してもよい。
ステップ15では、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替え判断に用いる電圧閾値V3-4を、以下の数1又は数2に従って算出する。
【0033】
【数1】
【0034】
【数2】
【0035】
数1,数2において、Kはゲインであり、例えば、K=1/2とする。また、数2における基準電圧は、例えば0Vである。
通電モード(3)から通電モード(4)への切り替え時の角度は30degであり、通電モード(3)での通電状態で、角度30degになるときの開放相(U相)の端子電圧Vuを、通電モード(3)での通電で0degから90degに向けてモータが回転するときの端子電圧Vuの変化に基づいて推定するものである。
【0036】
ここで、開放相(U相)の端子電圧Vuは、開放(通電遮断)に伴ってマイナス側に減少変化した後、上昇して基準電圧(=0V)付近に収束し、この間で、モータ角度が0degから90degにまで変化し、かつ、最小値になるタイミングは、角度30degを過ぎているから、前記最小電圧(開放相電圧V2-30)を基準に、角度30deg付近での開放相(U相)の端子電圧Vuを推定できるように、予め実験やシミュレーションによって、前記ゲインKを適合させてある。
【0037】
換言すれば、開放相の端子電圧(誘起電圧)が最小となる角度を予め求めておくことで、初期角度位置、初期角度位置での端子電圧V1-30(又は基準電圧)、開放相の端子電圧(誘起電圧)が最小となる角度位置、開放相の端子電圧(誘起電圧)の最小値V2-30から、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替え角度である30degにおける開放相の端子電圧(誘起電圧)を求めることができ、この30degにおける開放相の端子電圧を、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替え判断に用いる電圧閾値V3-4として学習する。
【0038】
ステップ15で今回算出した電圧閾値V3-4を、それまでの電圧閾値V3-4の記憶値に代えて更新記憶し、ブラシレスモータ2を駆動するときに、この更新記憶した電圧閾値V3-4に基づいて通電モード(3)から通電モード(4)への切り替えタイミングを判断させる。
通電モード(3)から通電モード(4)への切り替えタイミングの判断においては、通電モード(3)による通電中に、開放相(U相)の端子電圧Vuが、電圧閾値V3-4を下回った時点で、モータ角度が30deg付近であると推定し、通電モードを(3)から(4)に切り替える。
【0039】
尚、電圧閾値Vの更新記憶する場合、例えば、それまでの記憶値と新たに算出した電圧閾値Vとを加重平均し、この加重平均の結果を、通電モードの切り替えタイミングの判断に用いる電圧閾値Vとして更新記憶させることができる。
また、新たに算出した電圧閾値Vが、標準値(設計値)を含む正常範囲から外れている場合には、それまでの電圧閾値Vの記憶値を更新することなく、前回値のままに保持させるとよい。
【0040】
また、電圧閾値の初期値として、設計値を記憶させておき、未学習状態では、電圧閾値として初期値(設計値)を用いて通電モードの切り替えタイミングを判断する。
次に、ステップ2における、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替え判定に用いる電圧閾値V4-5の学習を、詳述する。
まず、ステップ21では、永久磁石回転子216を、初期位置(設定角度60deg)に位置決めする。
【0041】
具体的には、予め決められた電圧Vinに基づき、U相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを、Vu=Vin*1/2、Vv=Vin*1/2、Vw=−Vinに設定する。
上記のように各相の印加電圧を設定すると、U相,V相及びW相の合成磁束が、図9(A)に示すようになり、係る合成磁束に永久磁石回転子216が引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が、設定角度60degまで回転することになる。
【0042】
ステップ22では、ステップ21でU相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを設定した後、永久磁石回転子216のN極が設定角度に到達するのに要すると見込まれる動作遅れ時間が経過していて、初期位置に停止したものと推定できるようになってから、通電モード(4)に対応する印加電圧、即ち、Vu=−Vin、Vv=Vin、Vw=0に切り替える。
【0043】
通電モード(4)に対応する印加電圧に切り替えると、図9(B)に示すように、U相,V相及びW相の合成磁束が変化し、係る合成磁束に引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が、初期位置から通電モード(4)に対応する角度150degまで回転することになる。
ステップ23では、図10(A)に示すように、初期位置とするための印加電圧から通電モード(4)に対応する印加電圧に切り替えた直後における、通電モード(4)での開放相(非通電相)であるW相の端子電圧Vwを、開放相電圧V1-90として記憶する。
【0044】
ステップ24では、図10(B)に示すように、通電モード(4)に対応する印加電圧に切り替えてから、最大電圧検出時間が経過するまでの期間におけるW相の端子電圧Vwの最大値を求め、該最大電圧を開放相電圧V2-90として記憶する。
前記最大電圧検出時間は、通電モード(4)に対応する印加電圧に切り替えることで増大し、その後減少に転じて定常電圧に収束するW相の端子電圧Vwの変化特性に基づき、最大電圧を検出するのに必要十分な時間として、予め適合されている。
【0045】
尚、最大電圧の検出期間を、時間で規定する代わりに、W相の端子電圧Vwが定常状態に収束したことを検出した時点を、最大電圧の検出期間の終期として判断してもよい。
ステップ25では、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替え判断に用いる電圧閾値V4-5を、以下の数3又は数4に従って算出する。
【0046】
【数3】
【0047】
【数4】
【0048】
数3,数4において、Kはゲインであり、例えば、K=1/2とする。また、数4における基準電圧は、例えば0Vである。
通電モード(4)から通電モード(5)への切り替え時の角度は90degであり、通電モード(4)での通電状態で、角度90degになるときの開放相(W相)の端子電圧Vwを、通電モード(4)での通電で60degから150degに向けてモータが回転するときの端子電圧Vwの変化に基づいて推定するものである。
【0049】
ここで、開放相(W相)の端子電圧Vwは、開放(通電遮断)に伴ってプラス側に増大変化した後、減少して基準電圧(=0V)付近に収束し、この間で、モータ角度が60degから150degにまで変化し、かつ、最大値になるタイミングは、角度90degを過ぎているから、前記最大電圧(開放相電圧V2-90)を基準に、角度90deg付近での開放相(W相)の端子電圧Vwを推定できるように、予め実験やシミュレーションによって、前記ゲインKを適合させてある。
【0050】
換言すれば、開放相の端子電圧(誘起電圧)が最大となる角度を予め求めておくことで、初期角度位置、初期角度位置での端子電圧V1-90(又は基準電圧)、開放相の端子電圧(誘起電圧)が最大となる角度位置、開放相の端子電圧(誘起電圧)の最大値V2-90から、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替え角度である90degにおける開放相の端子電圧(誘起電圧)を求めることができ、この90degにおける開放相の端子電圧を、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替え判断に用いる電圧閾値V4-5として学習する。
【0051】
ステップ25で今回算出した電圧閾値V4-5を、それまでの電圧閾値V4-5の記憶値に代えて更新記憶し、ブラシレスモータ2を駆動するときに、この更新記憶した電圧閾値V4-5に基づいて通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えタイミングを判断させる。
通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えタイミングの判断においては、通電モード(4)による通電中に、開放相(W相)の端子電圧Vwが、電圧閾値V4-5よりも大きくなった時点で、モータ角度が90deg付近であると推定し、通電モードを(4)から(5)に切り替える。
【0052】
次に、ステップ3における、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替え判定に用いる電圧閾値V5-6の学習を、詳述する。
まず、ステップ31では、永久磁石回転子216を、初期位置(設定角度120deg)に位置決めする。
具体的には、予め決められた電圧Vinに基づき、U相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを、Vu=−Vin*1/2、Vv=Vin、Vw=−Vin*1/2に設定する。
【0053】
上記のように各相の印加電圧を設定すると、U相,V相及びW相の合成磁束が、図11(A)に示すようになり、係る合成磁束に永久磁石回転子216が引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が、設定角度120degまで回転することになる。
ステップ32では、ステップ31でU相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを設定した後、永久磁石回転子216のN極が設定角度に到達するのに要すると見込まれる動作遅れ時間が経過していて、初期位置に停止したものと推定できるようになってから、通電モード(5)に対応する印加電圧、即ち、Vu=−Vin、Vv=0、Vw=Vinに切り替える。
【0054】
通電モード(5)に対応する印加電圧に切り替えると、図11(B)に示すように、U相,V相及びW相の合成磁束が変化し、係る合成磁束に引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が初期位置から通電モード(5)に対応する角度210degまで回転することになる。
ステップ33では、図12(A)に示すように、初期位置とするための印加電圧から通電モード(5)に対応する印加電圧に切り替えた直後における、通電モード(5)での開放相(非通電相)であるV相の端子電圧Vvを、開放相電圧V1-150として記憶する。
【0055】
ステップ34では、図12(B)に示すように、通電モード(5)に対応する印加電圧に切り替えてから、最小電圧検出時間が経過するまでの期間におけるV相の端子電圧Vvの最小値を求め、該最小電圧を開放相電圧V2-150として記憶する。
前記最小電圧検出時間は、通電モード(5)に対応する印加電圧に切り替えることで低下し、その後上昇に転じて定常電圧に収束するV相の端子電圧Vvの変化特性に基づき、最小電圧を検出するのに必要十分な時間として、予め適合されている。
【0056】
尚、最小電圧の検出期間を、時間で規定する代わりに、V相の端子電圧Vvが定常状態に収束したことを検出した時点を、最小電圧の検出期間の終期として判断してもよい。
ステップ35では、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替え判断に用いる電圧閾値V5-6を、以下の数5又は数6に従って算出する。
【0057】
【数5】
【0058】
【数6】
【0059】
数5,数6において、Kはゲインであり、例えば、K=1/2とする。また、数6における基準電圧は、例えば0Vである。
通電モード(5)から通電モード(6)への切り替え時の角度は150degであり、通電モード(5)での通電状態で、角度150degになるときの開放相(V相)の端子電圧Vvを、通電モード(5)での通電で120degから210degに向けてモータが回転するときの端子電圧Vvの変化に基づいて推定するものである。
【0060】
ここで、開放相(V相)の端子電圧Vvは、開放(通電遮断)に伴ってマイナス側に減少変化した後、上昇して基準電圧(=0V)付近に収束し、この間で、モータ角度が120degから210degにまで変化し、かつ、最小値になるタイミングは、角度150degを過ぎているから、前記最小電圧(開放相電圧V2-150)を基準に、角度150deg付近での開放相(V相)の端子電圧Vvを推定できるように、予め実験やシミュレーションによって、前記ゲインKを適合させてある。
【0061】
換言すれば、開放相の端子電圧(誘起電圧)が最小となる角度を予め求めておくことで、初期角度位置、初期角度位置での端子電圧V1-150(又は基準電圧)、開放相の端子電圧(誘起電圧)が最小となる角度位置、開放相の端子電圧(誘起電圧)の最小値V2-150から、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替え角度である150degにおける開放相の端子電圧(誘起電圧)を求めることができ、この150degにおける開放相の端子電圧を、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替え判断に用いる電圧閾値V5-6として学習する。
【0062】
ステップ35で今回算出した電圧閾値V5-6を、それまでの電圧閾値V5-6の記憶値に代えて更新記憶し、ブラシレスモータ2を駆動するときに、この更新記憶した電圧閾値V5-6に基づいて通電モード(5)から通電モード(6)への切り替えタイミングを判断させる。
通電モード(5)から通電モード(6)への切り替えタイミングの判断においては、通電モード(5)による通電中に、開放相(V相)の端子電圧Vvが、電圧閾値V5-6を下回った時点で、モータ角度が150deg付近であると推定し、通電モードを(5)から(6)に切り替える。
【0063】
次に、ステップ4における、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替え判定に用いる電圧閾値V6-1の学習を、詳述する。
まず、ステップ41では、永久磁石回転子216を、初期位置(設定角度180deg)に位置決めする。
具体的には、予め決められた電圧Vinに基づき、U相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを、Vu=−Vin、Vv=Vin*1/2、Vw=Vin*1/2に設定する。
【0064】
上記のように各相の印加電圧を設定すると、U相,V相及びW相の合成磁束が、図13(A)に示すようになり、係る合成磁束に永久磁石回転子216が引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が、設定角度180degまで回転することになる。
ステップ42では、ステップ41でU相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを設定した後、永久磁石回転子216のN極が設定角度に到達するのに要すると見込まれる動作遅れ時間が経過していて、初期位置に停止したものと推定できるようになってから、通電モード(6)に対応する印加電圧、即ち、Vu=0、Vv=−Vin、Vw=Vinに切り替える。
【0065】
通電モード(6)に対応する印加電圧に切り替えると、図13(B)に示すように、U相,V相及びW相の合成磁束が変化し、係る合成磁束に引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が初期位置から通電モード(6)に対応する角度270degまで回転することになる。
ステップ43では、図14(A)に示すように、初期位置とするための印加電圧から通電モード(6)に対応する印加電圧に切り替えた直後における、通電モード(6)での開放相(非通電相)であるU相の端子電圧Vuを、開放相電圧V1-210として記憶する。
【0066】
ステップ44では、図14(B)に示すように、通電モード(6)に対応する印加電圧に切り替えてから、最大電圧検出時間が経過するまでの期間におけるU相の端子電圧Vuの最大値を求め、該最大電圧を開放相電圧V2-210として記憶する。
前記最大電圧検出時間は、通電モード(6)に対応する印加電圧に切り替えることで増大し、その後減少に転じて定常電圧に収束するU相の端子電圧Vuの変化特性に基づき、最大電圧を検出するのに必要十分な時間として、予め適合されている。
【0067】
尚、最大電圧の検出期間を、時間で規定する代わりに、U相の端子電圧Vuが定常状態に収束したことを検出した時点を、最大電圧の検出期間の終期として判断してもよい。
ステップ45では、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替え判断に用いる電圧閾値V6-1を、以下の数7又は数8に従って算出する。
【0068】
【数7】
【0069】
【数8】
【0070】
数7,数8において、Kはゲインであり、例えば、K=1/2(=sin30deg)とする。また、数8における基準電圧は、例えば0Vである。
通電モード(6)から通電モード(1)への切り替え時の角度は210degであり、通電モード(6)での通電状態で、角度210degになるときの開放相(U相)の端子電圧Vuを、通電モード(6)での通電で180degから270degに向けてモータが回転するときの端子電圧Vuの変化に基づいて推定するものである。
【0071】
ここで、開放相(U相)の端子電圧Vuは、開放(通電遮断)に伴ってプラス側に増大変化した後、減少して基準電圧(=0V)付近に収束し、この間で、モータ角度が180degから270degにまで変化し、かつ、最大値になるタイミングは、角度210degを過ぎているから、前記最大電圧(開放相電圧V2-210)を基準に、角度210deg付近での開放相(U相)の端子電圧Vuを推定できるように、予め実験やシミュレーションによって、前記ゲインKを適合させてある。
【0072】
換言すれば、開放相の端子電圧(誘起電圧)が最大となる角度を予め求めておくことで、初期角度位置、初期角度位置での端子電圧V1-210(又は基準電圧)、開放相の端子電圧(誘起電圧)が最大となる角度位置、開放相の端子電圧(誘起電圧)の最大値V2-210から、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替え角度である210degにおける開放相の端子電圧(誘起電圧)を求めることができ、この210degにおける開放相の端子電圧を、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替え判断に用いる電圧閾値V6-1として学習する。
【0073】
ステップ45で今回算出した電圧閾値V6-1を、それまでの電圧閾値V6-1の記憶値に代えて更新記憶し、ブラシレスモータ2を駆動するときに、この更新記憶した電圧閾値V6-1に基づいて通電モード(6)から通電モード(1)への切り替えタイミングを判断させる。
通電モード(6)から通電モード(1)への切り替えタイミングの判断においては、通電モード(6)による通電中に、開放相(U相)の端子電圧Vuが、電圧閾値V6-1よりも大きくなった時点で、モータ角度が210deg付近であると推定し、通電モードを(6)から(1)に切り替える。
【0074】
次に、ステップ5における、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替え判定に用いる電圧閾値V1-2の学習を、詳述する。
まず、ステップ51では、永久磁石回転子216を、初期位置(設定角度240deg)に位置決めする。
具体的には、予め決められた電圧Vinに基づき、U相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを、Vu=−Vin*1/2、Vv=−Vin*1/2、Vw=Vinに設定する。
【0075】
上記のように各相の印加電圧を設定すると、U相,V相及びW相の合成磁束が、図15(A)に示すようになり、係る合成磁束に永久磁石回転子216が引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が、設定角度240degまで回転することになる。
ステップ52では、ステップ51でU相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを設定した後、永久磁石回転子216のN極が設定角度に到達するのに要すると見込まれる動作遅れ時間が経過していて、初期位置に停止したものと推定できるようになってから、通電モード(1)に対応する印加電圧、即ち、Vu=Vin、Vv=−Vin、Vw=0に切り替える。
【0076】
通電モード(1)に対応する印加電圧に切り替えると、図15(B)に示すように、U相,V相及びW相の合成磁束が変化し、係る合成磁束に引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が初期位置から通電モード(5)に対応する角度330degまで回転することになる。
ステップ53では、図16(A)に示すように、初期位置とするための印加電圧から通電モード(1)に対応する印加電圧に切り替えた直後における、通電モード(5)での開放相(非通電相)であるW相の端子電圧Vwを、開放相電圧V1-270として記憶する。
【0077】
ステップ54では、図16(B)に示すように、通電モード(1)に対応する印加電圧に切り替えてから、最小電圧検出時間が経過するまでの期間におけるW相の端子電圧Vwの最小値を求め、該最小電圧を開放相電圧V2-270として記憶する。
前記最小電圧検出時間は、通電モード(1)に対応する印加電圧に切り替えることで低下し、その後上昇に転じて定常電圧に収束するW相の端子電圧Vwの変化特性に基づき、最小電圧を検出するのに必要十分な時間として、予め適合されている。
【0078】
尚、最小電圧の検出期間を、時間で規定する代わりに、W相の端子電圧Vwが定常状態に収束したことを検出した時点を、最小電圧の検出期間の終期として判断してもよい。
ステップ55では、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替え判断に用いる電圧閾値V1-2を、以下の数9又は数10に従って算出する。
【0079】
【数9】
【0080】
【数10】
【0081】
数9,数10において、Kはゲインであり、例えば、K=1/2(=sin30deg)とする。また、数6における基準電圧は、例えば0Vである。
通電モード(1)から通電モード(2)への切り替え時の角度は270degであり、通電モード(1)での通電状態で、角度270degになるときの開放相(W相)の端子電圧Vwを、通電モード(1)での通電で240degから330degに向けてモータが回転するときの端子電圧Vwの変化に基づいて推定するものである。
【0082】
ここで、開放相(W相)の端子電圧Vwは、開放(通電遮断)に伴ってマイナス側に減少変化した後、上昇して基準電圧(=0V)付近に収束し、この間で、モータ角度が240degから330degにまで変化し、かつ、最小値になるタイミングは、角度270degを過ぎているから、前記最小電圧(開放相電圧V2-270)を基準に、角度270deg付近での開放相(W相)の端子電圧Vwを推定できるように、予め実験やシミュレーションによって、前記ゲインKを適合させてある。
【0083】
換言すれば、開放相の端子電圧(誘起電圧)が最小となる角度を予め求めておくことで、初期角度位置、初期角度位置での端子電圧V1-270(又は基準電圧)、開放相の端子電圧(誘起電圧)が最小となる角度位置、開放相の端子電圧(誘起電圧)の最小値V2-270から、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替え角度である270degにおける開放相の端子電圧(誘起電圧)を求めることができ、この270degにおける開放相の端子電圧を、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替え判断に用いる電圧閾値V1-2として学習する。
【0084】
ステップ55で今回算出した電圧閾値V1-2を、それまでの電圧閾値V1-2の記憶値に代えて更新記憶し、ブラシレスモータ2を駆動するときに、この更新記憶した電圧閾値V1-2に基づいて通電モード(1)から通電モード(2)への切り替えタイミングを判断させる。
通電モード(1)から通電モード(2)への切り替えタイミングの判断においては、通電モード(1)による通電中に、開放相(W相)の端子電圧Vwが、電圧閾値V1-2を下回った時点で、モータ角度が270deg付近であると推定し、通電モードを(1)から(2)に切り替える。
【0085】
次に、ステップ6における、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え判定に用いる電圧閾値V2-3の学習を、詳述する。
まず、ステップ61では、永久磁石回転子216を、初期位置(設定角度300deg)に位置決めする。
具体的には、予め決められた電圧Vinに基づき、U相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを、Vu=Vin*1/2、Vv=−Vin、Vw=Vin*1/2に設定する。
【0086】
上記のように各相の印加電圧を設定すると、U相,V相及びW相の合成磁束が、図17(A)に示すようになり、係る合成磁束に永久磁石回転子216が引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が、設定角度300degまで回転することになる。
ステップ62では、ステップ61でU相,V相及びW相に対する印加電圧Vu,Vv,Vwを設定した後、永久磁石回転子216のN極が設定角度に到達するのに要すると見込まれる動作遅れ時間が経過していて、初期位置に停止したものと推定できるようになってから、通電モード(2)に対応する印加電圧、即ち、Vu=Vin、Vv=0、Vw=−Vinに切り替える。
【0087】
通電モード(2)に対応する印加電圧に切り替えると、図17(B)に示すように、U相,V相及びW相の合成磁束が変化し、係る合成磁束に引かれることでトルクが発生し、永久磁石回転子216のN極が初期位置から通電モード(2)に対応する角度30degまで回転することになる。
ステップ63では、図18(A)に示すように、初期位置とするための印加電圧から通電モード(2)に対応する印加電圧に切り替えた直後における、通電モード(2)での開放相(非通電相)であるV相の端子電圧Vvを、開放相電圧V1-330として記憶する。
【0088】
ステップ64では、図18(B)に示すように、通電モード(2)に対応する印加電圧に切り替えてから、最大電圧検出時間が経過するまでの期間におけるV相の端子電圧Vvの最大値を求め、該最大電圧を開放相電圧V2-330として記憶する。
前記最大電圧検出時間は、通電モード(2)に対応する印加電圧に切り替えることで増大し、その後減少に転じて定常電圧に収束するV相の端子電圧Vvの変化特性に基づき、最大電圧を検出するのに必要十分な時間として、予め適合されている。
【0089】
尚、最大電圧の検出期間を、時間で規定する代わりに、V相の端子電圧Vvが定常状態に収束したことを検出した時点を、最大電圧の検出期間の終期として判断してもよい。
ステップ65では、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え判断に用いる電圧閾値V2-3を、以下の数11又は数12に従って算出する。
【0090】
【数11】
【0091】
【数12】
【0092】
数11,数12において、Kはゲインであり、例えば、K=1/2(=sin30deg)とする。また、数12における基準電圧は、例えば0Vである。
通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え時の角度は330degであり、通電モード(2)での通電状態で、角度330degになるときの開放相(V相)の端子電圧Vvを、通電モード(2)での通電で300degから30degに向けてモータが回転するときの端子電圧Vvの変化に基づいて推定するものである。
【0093】
ここで、開放相(V相)の端子電圧Vvは、開放(通電遮断)に伴ってプラス側に増大変化した後、減少して基準電圧(=0V)付近に収束し、この間で、モータ角度が300degから30degにまで変化し、かつ、最大値になるタイミングは、角度330degを過ぎているから、前記最大電圧(開放相電圧V2-330)を基準に、角度330deg付近での開放相(V相)の端子電圧Vvを推定できるように、予め実験やシミュレーションによって、前記ゲインKを適合させてある。
【0094】
換言すれば、開放相の端子電圧(誘起電圧)が最大となる角度を予め求めておくことで、初期角度位置、初期角度位置での端子電圧V1-330(又は基準電圧)、開放相の端子電圧(誘起電圧)が最大となる角度位置、開放相の端子電圧(誘起電圧)の最大値V2-330から、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え角度である330degにおける開放相の端子電圧(誘起電圧)を求めることができ、この330degにおける開放相の端子電圧を、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え判断に用いる電圧閾値V2-3として学習する。
【0095】
ステップ65で今回算出した電圧閾値V2-3を、それまでの電圧閾値V2-3の記憶値に代えて更新記憶し、ブラシレスモータ2を駆動するときに、この更新記憶した電圧閾値V2-3に基づいて通電モード(2)から通電モード(3)への切り替えタイミングを判断させる。
通電モード(2)から通電モード(3)への切り替えタイミングの判断においては、通電モード(2)による通電中に、開放相(V相)の端子電圧Vvが、電圧閾値V2-3よりも大きくなった時点で、モータ角度が330deg付近であると推定し、通電モードを(2)から(3)に切り替える。
【0096】
上記のように、切り替え角度よりも前の角度位置を初期位置とし、該初期位置に停止させるように各相に電圧を印加させ、初期位置に停止させ、その後、学習させる電圧閾値に応じた通電モードに対応する相電圧に切り替えることで、通電モードの切り替え角度を通過してモータが回転するようにする。
そして、通電モードの切り替え角度での開放相の端子電圧を求めて、これを通電モードの切り替え判断に用いる電圧閾値として学習するから、モータのばらつきや温度環境などの各種ばらつき要因に対して電圧閾値を適正値に修正でき、通電モードの切り替えタイミングが所期の角度位置からずれてしまうことを抑制できる。
【0097】
また、通電モードの6通りの切り替え毎に、電圧閾値を個別に学習し、どの通電モードに切り替えるかによって、用いる電圧閾値を切り替えるから、ブラスレスモータ2の個々の巻線にばらつきがあっても、各通電モードへの切り替えを適正なタイミング(所期の角度位置)で行わせることができる。
次に、電動オイルポンプ1を駆動するモータとしてのブラシレスモータ2について、通電モードの切り替え判断に用いる電圧閾値の学習を行わせる場合の学習処理の流れを、図19のフローチャートに示すルーチンに従って説明する。
【0098】
ステップ101で、エンジンのメインスイッチであるイグニッションスイッチ(IGN)がオンされると、ステップ102では、電圧閾値の学習条件が成立しているか否かを判断する。
具体的には、以下の(a)〜(f)が全て成立している場合に、電圧閾値の学習条件が成立していると判断する。
(a)エンジン回転中である。
(b)オイル温度が学習許可領域内である
(c)ブラシレスモータ、駆動回路、制御器などについて故障診断されていない。
(d)ブラシレスモータの電源電圧が設定値を超えている。
(e)エンジン始動後から安定運転状態への移行に要する時間が経過している。
(f)同一温度条件で一度も学習されていない
上記条件(a)は、電動オイルポンプ1を駆動する要求がないことを判断するものであり、エンジン停止中であっても、電動オイルポンプ1を駆動する要求がない場合には、学習条件の成立を判定することができる。
【0099】
条件(b)は、後述する温度条件毎の電圧閾値の学習において、電圧閾値を学習させる温度領域内であるか否かを判断するものであり、オイル温度センサ(温度検出手段)12が検出したオイル温度が、学習領域から外れている場合には、学習は行わない。
条件(c)は、ブラシレスモータ、駆動回路、制御器などが正常であって、電圧閾値の学習が正常に行えると見込まれる場合に、学習を許可するものである。
【0100】
条件(d)は、電源電圧が設定値を超えているか否かに基づいて、学習精度を維持できる電源電圧であるか否かを判断するものである。
条件(e)は、エンジンが安定的に運転されていている状態において、学習を許可するものである。
条件(f)は、各通電モードの切り替え判断に用いる電圧閾値を、ブラシレスモータ2の温度毎に学習させるに当たって、現時点の温度が、未学習の温度条件であれば学習を許可し、学習済みであれば学習処理を実行させないようにする。
【0101】
例えば、図20に示すように、各通電モードの切り替え判断に用いる電圧閾値を、15℃、50℃、80℃、110℃の各温度毎に学習させるようにし、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え判断を行うときに用いる電圧閾値V2-3として、そのときの温度が80℃であったとすると、80℃に対応して記憶されている電圧閾値V2-3を用いるようにする。
【0102】
ここで、ステップ102の学習条件の成立・非成立を判断する時点でのモータ温度が、未学習の温度であれば学習を許可し、学習済み若しくは最近に学習した時点からの経過時間が充分に短い場合には、学習を行わない。
尚、温度毎の学習において、例えば、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え判断を行うときに用いる電圧閾値V2-3として、モータ温度80℃に対応する電圧閾値V2-3が学習済みであるのに対し、その他の温度条件に対応する電圧閾値V2-3が未学習であれば、80℃での学習値を全ての温度条件に適用させて、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え判断を行わせることができる。
【0103】
また、例えば、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替え判断を行うときに用いる電圧閾値V2-3として、複数の温度条件で学習済みであれば、未学習の温度条件に対応させる電圧閾値V2-3を、学習済みの温度での電圧閾値V2-3から補間演算して推定させることができる。
また、電圧閾値の学習条件としての温度は、ブラシレスモータ2の温度若しくはモータ温度に相関する温度であればよく、モータ温度に相関する温度としては、電動オイルポンプ1が圧送するオイルの温度(オイル温度センサ12の検出値)や、エンジンの冷却水温度などを用いることができ、更には、外気温度やモータ2における消費電力などからモータ温度を推定させることもできる。
【0104】
尚、電圧閾値の学習条件を、上記の条件(a)〜(f)に限定するものではなく、また、条件(a)〜(f)のうちの一部を学習条件として採用することができ、また、複数の条件の論理和又は論理積、更には、論理和と論理積との組み合わせで、学習条件の成立・非成立を判断することができる。更に、電圧閾値が未学習である場合に、エンジンの一時停止(アイドルストップ)を禁止することもできる。
【0105】
ステップ102で学習条件が成立していると判断すると、ステップ103へ進み、前述の図5及び図6のフローチャートに従って各通電モードの切り替え判断に用いる電圧閾値の学習を行わせる。
前述の図5及び図6のフローチャートに従った電圧閾値の学習処理では、6通りのモード切り替え毎に6個の電圧閾値V1-2,V2-3,V3-4,V4-5,V5-6,V6-1を学習するから、3相間でばらつきがあっても、通電モードを適正なタイミングで切り替えることができる。
【0106】
但し、3相間でのばらつきが十分に小さいと見込まれる場合には、個別に学習した6個の電圧閾値に基づいて、絶対値が共通する電圧閾値V1-2,V2-3,V3-4,V4-5,V5-6,V6-1を設定して、モード切替の判断を行わせることができる。
具体的には、図5及び図6のフローチャートに従って求めた6個の電圧閾値V1-2,V2-3,V3-4,V4-5,V5-6,V6-1それぞれの絶対値の中での最小値を求め、該最小値に基づいて、図21に示すようにして、通電モードの切り替え判断に用いる各電圧閾値を設定する。
【0107】
即ち、通電モードの切り替えにおいて、(1)→(2)、(3)→(4)、(5)→(6)においては開放相電圧が基準電圧からマイナス側に振れ、(2)→(3)、(4)→(5)、(6)→(1)においては開放相電圧が基準電圧からプラス側に振れるので、開放相電圧がマイナス側に振れるモード切替は、−最小値を電圧閾値とし、開放相電圧がプラス側に振れるモード切替は、+最小値を電圧閾値とする。
【0108】
尚、6個の電圧閾値それぞれの絶対値の単純平均値を、各モード切替の判断に用いる電圧閾値に共通する絶対値としても良いが、誘起電圧が電圧閾値を横切らない場合が生じると、通電モードの切り替えが行えず、モータが脱調してしまう可能性があるので、最小値を選択し、電圧閾値の絶対値が比較的低い通電モードであっても誘起電圧が電圧閾値を横切って通電モードの切り替えが行えるようにするとよい。
【0109】
また、例えば、6通りの通電モードの切り替えのうちの一部(例えば1つ)についてのみ、電圧閾値を学習させ、この学習値の絶対値を他の通電モードの切り替え判断に用いる電圧閾値の絶対値として用いることができる。
また、開放相電圧が基準電圧に対してマイナス側に振れる(1)→(2)、(3)→(4)、(5)→(6)のモード切替において共通の電圧閾値を設定し、開放相電圧が基準電圧に対してプラス側に振れる(2)→(3)、(4)→(5)、(6)→(1)において共通の電圧閾値を設定してもよい。
【0110】
具体的には、図22に示すように、(1)→(2)、(3)→(4)、(5)→(6)のモード切替に対しては、電圧閾値V1-2,V3-4,V5-6の中での最大値、即ち、マイナス値として算出される電圧閾値V1-2,V3-4,V5-6の中で基準電圧(=0V)に最も近い値(絶対値の最小値)を選択し、該選択した電圧閾値Vを、(1)→(2)、(3)→(4)、(5)→(6)のモード切替に共通の電圧閾値として学習させる。
【0111】
また、(2)→(3)、(4)→(5)、(6)→(1)のモード切替に対しては、電圧閾値V2-3,V4-5,V6-1の中での最小値、即ち、プラス値として算出される電圧閾値V2-3,V4-5,V6-1の中で基準電圧(=0V)に最も近い値(絶対値の最小値)を選択し、該選択した電圧閾値Vを、(2)→(3)、(4)→(5)、(6)→(1)のモード切替に共通の電圧閾値として学習させる。
【0112】
また、学習した電圧閾値に基づいてモード切替のタイミングを判断するときに、そのときのモータ回転速度に応じて電圧閾値を補正することが好ましい。
即ち、モータ回転速度が低くなるほど、開放相に発生する誘起電圧が低くなるので、モータ速度が低く誘起電圧が低くなるほど、電圧閾値の絶対値を小さくし、逆に、モータ速度が速く誘起電圧が高くなるほど、電圧閾値の絶対値を大きくする。これにより、モータ回転速度に依存する誘起電圧の大きさに対応させて、電圧閾値を上下させることができ、モータ回転速度が異なっても、適正なタイミング(所期の切り替え角度)で通電モードを切り替えることができる。
【0113】
具体的には、数13に従って、電圧閾値をモータ回転速度に応じた補正値で修正するように、かつ、前記補正値として、図23に示すように、(1)→(2)、(3)→(4)、(5)→(6)のモード切替に対しては、回転速度が高くなるに従って絶対値が大きくなるマイナスの補正値を設定し、(2)→(3)、(4)→(5)、(6)→(1)のモード切替に対しては、回転速度が高くなるに従って絶対値が大きくなるプラスの補正値を設定する。
【0114】
【数13】
【0115】
上記回転速度に応じた電圧閾値の補正は、個別の学習結果をそのまま用いてモード切替を判断させる場合と共に、絶対値を共通化させた電圧閾値を設定する場合にも適用できる。
尚、モータの回転速度による補正値を演算式で求めても良いし、モータの回転速度を補正値に変換する変換テーブルを用いてもよい。
【0116】
また、電圧閾値の学習において、初期位置に設定するための通電状態から、各モードに対応する通電状態に切り替える際に、PWM信号のデューティが大きいと、モータ回転速度が速くなって、開放相の端子電圧(誘起電圧)に速度起電力がのってしまい、電圧閾値の学習精度が低下する。
そこで、電圧閾値の学習を行わせる場合に、PWM生成において、低デューティとしてモータ回転速度を抑制しつつ、開放相の誘起電圧を検出できるようにすることが望まれ、そのためには、後述するパルスシフトを実施するとよい。
【0117】
図24は、一般的なPWM生成を示す。
図24において、三角波キャリアの中間値Dの値が電圧=0であり、また、電圧指令値をBとし、V相のPWMは、三角波キャリアと電圧指令値D+Bを比較した結果を用い、W相のPWMは、三角波キャリアと電圧指令値D−Bを比較した結果を用いている。
即ち、V相の上段スイッチング素子は、三角波キャリアよりも電圧指令値D+Bが高い期間においてONとなり、W相の下段スイッチング素子は、三角波キャリアが電圧指令値D−Bよりも高い期間においてONとなる。
【0118】
しかし、図24に示すPWM生成では、デューティが小さいとV相とW相とが共に通電している時間(図24中の斜線の期間)が短く、非通電相に誘起される電圧を検出できなくなってしまうが、V相とW相とが共に通電している時間を長くし、誘起電圧の検出を可能とするために、デューティを大きくすると、モータ回転速度が速くなって開放相の端子電圧(誘起電圧)に速度起電力がのってしまう。
【0119】
そこで、図25に示すパルスシフトを実施することで、図24に示したPWM生成と同一のデューティで2相が共に通電している連続時間をより長くし、速度起電力の発生を抑えつつ、非通電相に誘起される電圧の検出を可能にできる。
図25に示すパルスシフトでは、三角波キャリアの山・谷(上昇・下降)のタイミングで、電圧指令値に対して補正を行っている。
【0120】
具体的には、三角波キャリアの上昇期間では、電圧指令値を電圧=0からXだけ離れるように、電圧指令値D+BについてはD+B+A(但し、A=X−B)に補正し、電圧指令値D−BについてはD−B−A(但し、A=X−B)に補正し、三角波キャリアの下降期間では、電圧指令値を電圧=0に近づけるように、電圧指令値D+BについてはD+B−A(但し、A=X−B)に補正し、電圧指令値D−BについてはD−B+A(但し、A=X−B)に補正している。
【0121】
上記の電圧指令値の補正によって、三角波キャリアの下降期間でV相とW相とが共に通電している時間が短くなる分だけ、三角波キャリアの上昇期間でV相とW相とが共に通電している時間が長くなり、デューティを変えずに(換言すれば、低デューティでも)、2相が共に通電している連続時間を長くすることができる。
ステップ103では、上記のようにして電圧閾値の学習を実施し、学習に充分な時間だけ学習条件が連続して成立していれば、学習を完了することになるが、学習途中でアイドルストップの開始要求が発生するなどして、学習条件が成立しなくなった場合には、その時点で学習処理を中止させる。
【0122】
そして、ステップ104では、学習が正常に終了したか否かを判断する。
ここで、学習の正常終了とは、図5及び図6のフローチャートに示すルーチンを少なくとも1回実施し(好ましくは複数回繰り返し)、かつ、取得した電圧閾値が正常範囲内の場合である。一方、学習の異常終了とは、アイドルストップ要求の発生などによって途中で学習処理を停止した場合や、学習を所定回数(或いは所定時間)だけ実施しても、正常範囲内の電圧閾値を取得することができなかった場合である。
【0123】
そして、学習が正常終了した場合には、ステップ105へ進み、ステップ103で新たに取得した電圧閾値に基づき、それまでの電圧閾値の記憶値を更新させる処理を行う。
一方、学習が異常終了した場合には、ステップ106へ進み、電圧閾値の記憶値を更新せずに、前回値若しくは初期値(設計値)に保持させる。
ステップ107では、アイドルストップ条件が成立したか否か、換言すれば、ブラシレスモータ2によって電動オイルポンプ1を駆動させる要求が発生したか否かを判断する。
【0124】
アイドルストップ条件が成立していない場合(エンジンの運転が継続される場合)には、電圧閾値の学習を全て完了していない可能性、例えば、異なる温度条件に対応する電圧閾値の学習が未実施の場合などがあるため、ステップ102へ戻って、学習条件の成立判断を行う。
ここで、未学習の電圧閾値がなく、電圧閾値の学習が全て完了している場合には、そのままアイドルストップ条件が成立するまで待機させてもよい。
【0125】
一方、アイドルストップ条件が成立すると、ステップ108へ進み、学習した電圧閾値と開放相電圧とを比較して通電モードを切り替えてブラシレスモータ2を駆動させる、センサレス式の駆動制御を実施する。
ステップ109(脱調検出手段)では、学習した電圧閾値に基づき通電モードを切り替えてブラシレスモータ2を駆動させている状態(センサレス駆動状態)で、脱調が発生したか否かを検出する。
【0126】
脱調の発生は、公知の種々の方法を採用でき、例えば、特開2001−25282号公報に開示されるように、ブラシレスモータ2の電流周期と電圧周期との比較に基づき、脱調の発生を検出することができる。
ブラシレスモータ2が脱調した場合には、電圧閾値が不適切であるために、通電モードの切り替えタイミングが所期の角度位置からずれたものと判断し、ステップ102の学習条件の成立判断に戻る。
【0127】
尚、脱調が発生した場合には、アイドルストップを強制終了させて、エンジンを再始動させた上で、電圧閾値の学習を開始させることが好ましく、また、アイドルストップを強制終了させたときに、車両の運転者に対してランプなどで異常の発生を警告するとよい。
一方、脱調が発生しない場合には、電圧閾値が適正な値に学習されているものと判断できるので、再学習を行わせることなく、ブラシレスモータ2の駆動を継続させる。
【0128】
そして、運転者が車両の運転を終了し(ステップ110)、イグニッションスイッチ(IGN)がオフされると、学習更新した電圧閾値をバックアップRAMに格納するなどして、電圧閾値の学習及びブラシレスモータ2の駆動制御を終了させる。
ところで、図5及び図6のフローチャートに示した電圧閾値の学習においては、ステップ1〜ステップ6それぞれにおける最初の処理として、初期位置への位置決めを実施するが、初期位置を、設定角度(0deg、60deg、120deg、180deg、240deg、300deg)とする代わりに、通電モードのいずれかに対応するパターンで通電させ、その通電モードでの回転位置を、初期位置とすることができる。
【0129】
図26は、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替えタイミングの判断に用いる電圧閾値V3-4の学習を行うステップ1において、ステップ11での初期位置設定を、通電モードでの相通電で行う場合を示す。
ここでは、設定角度=0degとする相通電に代えて、通電モード(1)に対応する相通電、即ち、Vu=Vin、Vv=−Vin、Vw=0に設定することで、モータ角度の初期値を330degとする。
【0130】
そして、この初期角度=330degに停止した状態から通電モード(3)での相通電(Vu=0、Vv=Vin、Vw=−Vin)に切り替えることで、330degから90degに向けて回動させ、この回動中における開放相(U相)の端子電圧の最小値に基づいて、通電モード(3)から通電モード(4)への切り替えタイミングの判断に用いる電圧閾値V3-4、換言すれば、モード切替角度=30degにおける開放相の端子電圧を学習する。
【0131】
図27は、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えタイミングの判断に用いる電圧閾値V4-5の学習を行うステップ2において、ステップ21での初期位置設定を、通電モードでの相通電で行う場合を示す。
ここでは、設定角度=60degとする相通電に代えて、通電モード(2)に対応する相通電、即ち、Vu=Vin、Vv=0、Vw=−Vinに設定することで、モータ角度の初期値を30degとする。
【0132】
そして、この初期角度=30degに停止した状態から通電モード(4)での相通電(Vu=−Vin、Vv=Vin、Vw=0)に切り替えることで、30degから150degに向けて回動させ、この回動中における開放相(W相)の端子電圧の最大値に基づいて、通電モード(4)から通電モード(5)への切り替えタイミングの判断に用いる電圧閾値V4-5、換言すれば、モード切替角度=90degにおける開放相の端子電圧を学習する。
【0133】
図28は、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替えタイミングの判断に用いる電圧閾値V5-6の学習を行うステップ3において、ステップ31での初期位置設定を、通電モードでの相通電で行う場合を示す。
ここでは、設定角度=120degとする相通電に代えて、通電モード(3)に対応する相通電、即ち、Vu=0、Vv=Vin、Vw=−Vinに設定することで、モータ角度の初期値を90degとする。
【0134】
そして、この初期角度=90degに停止した状態から通電モード(5)での相通電(Vu=−Vin、Vv=0、Vw=Vin)に切り替えることで、90degから210degに向けて回動させ、この回動中における開放相(V相)の端子電圧の最小値に基づいて、通電モード(5)から通電モード(6)への切り替えタイミングの判断に用いる電圧閾値V5-6、換言すれば、モード切替角度=150degにおける開放相の端子電圧を学習する。
【0135】
図29は、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替えタイミングの判断に用いる電圧閾値V6-1の学習を行うステップ4において、ステップ41での初期位置設定を、通電モードでの相通電で行う場合を示す。
ここでは、設定角度=180degとする相通電に代えて、通電モード(4)に対応する相通電、即ち、Vu=−Vin、Vv=Vin、Vw=0に設定することで、モータ角度の初期値を150degとする。
【0136】
そして、この初期角度=150degに停止した状態から通電モード(6)での相通電(Vu=0、Vv=−Vin、Vw=Vin)に切り替えることで、150degから270degに向けて回動させ、この回動中における開放相(U相)の端子電圧の最大値に基づいて、通電モード(6)から通電モード(1)への切り替えタイミングの判断に用いる電圧閾値V6-1、換言すれば、モード切替角度=210degにおける開放相の端子電圧を学習する。
【0137】
図30は、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替えタイミングの判断に用いる電圧閾値V1-2の学習を行うステップ5において、ステップ51での初期位置設定を、通電モードでの相通電で行う場合を示す。
ここでは、設定角度=240degとする相通電に代えて、通電モード(5)に対応する相通電、即ち、Vu=−Vin、Vv=0、Vw=Vinに設定することで、モータ角度の初期値を210degとする。
【0138】
そして、この初期角度=210degに停止した状態から通電モード(1)での相通電(Vu=Vin、Vv=−Vin、Vw=0)に切り替えることで、210degから330degに向けて回動させ、この回動中における開放相(W相)の端子電圧の最小値に基づいて、通電モード(1)から通電モード(2)への切り替えタイミングの判断に用いる電圧閾値V1-2、換言すれば、モード切替角度=270degにおける開放相の端子電圧を学習する。
【0139】
図31は、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替えタイミングの判断に用いる電圧閾値V2-3の学習を行うステップ6において、ステップ61での初期位置設定を、通電モードでの相通電で行う場合を示す。
ここでは、設定角度=300degとする相通電に代えて、通電モード(6)に対応する相通電、即ち、Vu=0、Vv=−Vin、Vw=Vinに設定することで、モータ角度の初期値を270degとする。
【0140】
そして、この初期角度=270degに停止した状態から通電モード(2)での相通電(Vu=Vin、Vv=0、Vw=−Vin)に切り替えることで、270degから30degに向けて回動させ、この回動中における開放相(V相)の端子電圧の最大値に基づいて、通電モード(2)から通電モード(3)への切り替えタイミングの判断に用いる電圧閾値V2-3、換言すれば、モード切替角度=330degにおける開放相の端子電圧を学習する。
【0141】
また、前記ステップ15,S25,S35,S45,S55,S65における電圧閾値の設定方法としては、前記数1〜数12に示した設定方法の他、以下のような方法を採用することができる。
電動オイルポンプ1のイナーシャをJ、トルク定数をKt、モータ電流をIとした場合、モータの角速度ωは、数14により求まる。
【0142】
【数14】
【0143】
ここで、通電モード切替後の角度位置θは、数15により求まる。
【0144】
【数15】
【0145】
従って、初期位置から30degだけ回転した位置が、通電モードの切り替えタイミングである場合には、前記数15から切り替えタイミングの角度位置を検出したときの開放相の端子電圧を、通電モードの切り替え判断に用いる電圧閾値として学習させることができる。
また、初期位置から電圧閾値を学習する通電モードに切り替えると、開放相の端子電圧は、基準電圧から増大又は減少変化した後に基準電圧に交差し、基準電圧付近に戻った時点が、そのときの通電モードに対応する角度位置になった時点であると推定することができるから、学習する通電モードに切り替えてから、開放相の端子電圧が基準電圧にまで戻るのに要した時間Treは、初期位置から学習する通電モードでの角度位置まで回転するのに要した時間であると見なすことができる。
【0146】
ここで、初期位置から、学習する通電モードでの角度位置までの変換角度が90degであるとすると、開放相の端子電圧が基準電圧にまで戻るのに要した時間Treは、モータが90degだけ回転するのに要した時間となる。そして、初期位置から30degだけ回転した位置が、通電モードの切り替え角度であるとすると、全変換角度(90deg)の1/3の位置が通電モードの切り替え角度に相当し、学習する通電モードに設定してから時間Tre/3だけ経過した時点で、通電モードの切り替え角度になっているものと推定できる。
【0147】
そこで、図32に示すように、前記時間Treを計測すると共に、時間Treに達するまでの間でサンプリングした開放相の端子電圧を時系列的に記憶しておき、時間Tre/3だけ経過した時点(時間Treの所定割合が経過した時点)に対応して記憶されている端子電圧を、通電モードの切り替え角度における端子電圧、即ち、電圧閾値として学習させることができる。
【0148】
また、電圧閾値の学習において検出する開放相の端子電圧の最小値・最大値は、モータ温度に応じて変化するので、予め最小値・最大値とモータ温度との相関を求めておけば、前記相関に基づき最小値・最大値の検出値からそのときのモータ温度を推定することができる。
そして、モータ温度の推定結果は、電圧閾値を温度別に学習させるときに、どの温度領域に対応させて学習させるかの判断に用いることができ、更に、誘起電圧定数,トルク定数,抵抗などの温度依存性を有するパラメータの補正に用いることができ、前記パラメータを用いて効率良くモータを制御することができる。
【0149】
尚、上記実施形態では、ブラシレスモータ2を3相モータとしたが、相数を3相に限定するものではなく、また、120度通電方式の他、180度通電方式であってもよい。
また、通電モードの切り替え判断に用いる電圧閾値を学習させ、学習結果に基づいてセンサレス式で通電モードの切り替えを行うブラシレスモータは、電動オイルポンプの駆動に用いるモータに限定されない。
【0150】
ここで、上記実施形態から把握し得る請求項以外の技術的思想について、以下に効果と共に記載する。
(イ)請求項1〜3のいずれか1つに記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記ブラシレスモータの脱調を検出する脱調検出手段を更に備え、
前記電圧閾値設定手段は、少なくとも前記ブラシレスモータの脱調が検出されたときに、前記電圧閾値の設定を行うブラシレスモータの駆動装置。
【0151】
上記構成によると、脱調の発生から、電圧閾値に基づく通電モードの切り替えタイミングのずれを推定し、再度電圧閾値を設定するから、不適切な電圧閾値によって通電モードの切り替えタイミングがずれている状態を速やかに解消できる。
(ロ)請求項1〜3のいずれか1つに記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記電圧閾値設定手段が、前記ブラシレスモータの全相に通電して、前記ブラシレスモータを初期位置に駆動するブラシレスモータの駆動装置。
【0152】
上記構成によると、ブラシレスモータの全相に通電して、ブラシレスモータを通電状態に対応する初期位置に駆動し、この初期位置から通電モードでの通電に切り替えてモータを回転させ、電圧閾値を設定する。
(ハ)請求項1〜3のいずれか1つに記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記電圧閾値設定手段が、通電モードのいずれかに対応する通電を行って、前記ブラシレスモータを初期位置に駆動するブラシレスモータの駆動装置。
【0153】
上記構成によると、通電モードに対応する通電で初期位置まで駆動し、更に、別の通電モードに対応する通電に切り替えることで初期位置から回動させて電圧閾値を設定するので、通電パターンとして通電モードのいずれかに切り替えればよく、電圧閾値の設定を簡易に行える。
(ニ)請求項(ロ)又は(ハ)に記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記電圧閾値設定手段が、初期位置に駆動するための通電状態に設定してから、動作遅れ時間が経過してから、電圧閾値の学習を行う通電モードでの通電を開始させるブラシレスモータの駆動装置。
【0154】
上記構成によると、初期位置に駆動するための通電状態にしてから、実際に初期位置までの回動するまでに時間を要するので、この回動に要する時間(動作遅れ時間)の経過を待つことで、初期位置への停止を推定できる。
(ホ)請求項1〜3のいずれか1つに記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記電圧閾値設定手段が、通電モード毎に設定した電圧閾値から、複数の通電モードに共通の電圧閾値を設定し、この複数の通電モードに共通の電圧閾値に基づいて通電モードの切り替えを行わせるブラシレスモータの駆動装置。
【0155】
上記構成によると、1つの電圧閾値を、複数のモード切り替えに共通的に用いるようにすることで、通電モード毎の電圧閾値の切り替えを簡易化でき、また、電圧閾値の記憶容量を節約できる。
(ヘ)請求項(ホ)記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記電圧閾値設定手段が、通電モード毎に設定した電圧閾値のうちの複数の電圧閾値の中で絶対値が最小である電圧閾値を、複数の通電モードに共通の電圧閾値として設定するブラシレスモータの駆動装置。
【0156】
上記構成によると、個別に設定した電圧閾値のうちの複数の中から最小値を選択し、複数の通電モードに共通の電圧閾値とするから、電圧閾値の要求が比較的低い通電モードであっても、非通電相の電圧と電圧閾値との比較から通電モードの切り替えタイミングを安定して判断させることができる。
(ト)請求項1〜3のいずれか1つに記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記電圧閾値設定手段が、前記電圧閾値を、モータ回転速度に応じて補正するブラシレスモータの駆動装置。
【0157】
上記構成によると、モータ回転速度によって誘起電圧のレベルが変動しても、モータ回転速度に応じて電圧閾値をシフトさせることで、一定の角度位置で通電モードの切り替えタイミングを判断させることができる。
(チ)請求項1記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記電圧閾値設定手段が、初期位置にモータを停止させた状態から通電モードに基づく相通電を行ってモータを回転させたときに、非通電相の電圧が基準電圧に戻るまでの時間を計測し、該時間の所定割合が経過した時点での非通電相の電圧に基づき、電圧閾値を設定するブラシレスモータの駆動装置。
【0158】
上記構成によると、非通電相の電圧が基準電圧に戻るまでの時間は、既知の初期位置からそのときの通電モードに対応する既知の角度位置までの回動するのに要した時間であるから、切り替え角度位置を通過した時刻を、基準電圧に戻るまでに要した時間から推定でき、推定した切り替え角度位置での非通電相の電圧から、電圧閾値を設定できる。
(リ)請求項1〜3のいずれか1つに記載のブラシレスモータの駆動装置において、
前記ブラシレスモータが、自動車用オートマチック・トランスミッションにオイルを圧送する電動オイルポンプであって、前記電動オイルポンプが、エンジンで駆動されてオイルを前記自動車用オートマチック・トランスミッションに圧送する機械式オイルポンプと並列に設けられ、
前記電圧閾値設定手段が、前記エンジンの運転中であって前記機械式オイルポンプによってオイルを自動車用オートマチック・トランスミッションに圧送しているときに、前記電圧閾値を設定するブラシレスモータの駆動装置。
【0159】
上記構成によると、エンジンが停止すると、機械式オイルポンプが停止し、自動車用オートマチック・トランスミッションに対してオイルを圧送できなくなり、このときに電動オイルポンプを駆動することで、自動車用オートマチック・トランスミッションに対するオイルの圧送を継続させることができるが、電動オイルポンプの駆動状態では、電圧閾値の設定を行えないので、エンジン運転中であって、機械式オイルポンプによってオイルを自動車用オートマチック・トランスミッションに圧送しているときに、電圧閾値の設定を行う。
【符号の説明】
【0160】
1…電動オイルポンプ、2…ブラシレスモータ、3…モータ制御装置、212…モータ駆動回路、213…制御器、215U,215V,215W…巻線、216…永久磁石回転子、217a〜217f…スイッチング素子、251…PWM発生器、252…ゲート信号切替器、253…通電モード決定器、254…比較器、255…電圧閾値切替器、256…電圧閾値学習器、257…非通電相電圧選択器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の巻線を備えたブラシレスモータの各相に対する通電モードを切り替えることで、前記ブラシレスモータを回転駆動するブラシレスモータの駆動装置であって、
非通電相の電圧と電圧閾値とに基づいて前記通電モードを順次切り替える通電モード切替手段と、
初期位置にモータを停止させた状態から通電モードに基づく相通電を行ってモータを回転させ、該回転中における非通電相の電圧に基づいて前記電圧閾値を設定する電圧閾値設定手段と、
を備えるブラシレスモータの駆動装置。
【請求項2】
前記電圧閾値設定手段が、通電モードに基づく相通電を開始してから計測期間内における非通電相の電圧の最大値及び/又は最小値に基づいて、前記電圧閾値を設定する請求項1記載のブラシレスモータの駆動装置。
【請求項3】
前記ブラシレスモータの温度を検出する温度検出手段を更に備え、
前記電圧閾値設定手段は、前記ブラシレスモータの温度毎に前記電圧閾値を設定する請求項1又は2記載のブラシレスモータの駆動装置。
【請求項1】
複数の巻線を備えたブラシレスモータの各相に対する通電モードを切り替えることで、前記ブラシレスモータを回転駆動するブラシレスモータの駆動装置であって、
非通電相の電圧と電圧閾値とに基づいて前記通電モードを順次切り替える通電モード切替手段と、
初期位置にモータを停止させた状態から通電モードに基づく相通電を行ってモータを回転させ、該回転中における非通電相の電圧に基づいて前記電圧閾値を設定する電圧閾値設定手段と、
を備えるブラシレスモータの駆動装置。
【請求項2】
前記電圧閾値設定手段が、通電モードに基づく相通電を開始してから計測期間内における非通電相の電圧の最大値及び/又は最小値に基づいて、前記電圧閾値を設定する請求項1記載のブラシレスモータの駆動装置。
【請求項3】
前記ブラシレスモータの温度を検出する温度検出手段を更に備え、
前記電圧閾値設定手段は、前記ブラシレスモータの温度毎に前記電圧閾値を設定する請求項1又は2記載のブラシレスモータの駆動装置。
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図10】
【図12】
【図14】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図1】
【図2】
【図7】
【図9】
【図11】
【図13】
【図15】
【図17】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図4】
【図5】
【図6】
【図8】
【図10】
【図12】
【図14】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図1】
【図2】
【図7】
【図9】
【図11】
【図13】
【図15】
【図17】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【公開番号】特開2011−200058(P2011−200058A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65737(P2010−65737)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
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