説明

ブラシロール製造方法

【課題】ブラシ保持部材の捩れをなくし且つ該捩れに伴う変形を生じさせることなく、ブラシ片が螺旋状に配設されるブラシロールを製造することができ、ブラシ片の脱落を防止し得るブラシロール製造方法を提供する。
【解決手段】周方向へ等間隔でブラシ片2が植毛された円環状のブラシ保持部材1を予め複数用意し、該各ブラシ保持部材1をロール胴部材5に対し周方向位置をずらして外嵌固定することにより、該ロール胴部材5の軸線方向へ連なる前記ブラシ片2が複数条の螺旋状に配設されるよう、ブラシロール6を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシロール製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、溶湯からストリップを直接的に生産する手法として、水平方向へ所要間隔をあけて配設された一対の冷却ロールの間に溶湯を供給し、凝固した金属を帯状の薄板として送り出す双ロール式連続鋳造装置が用いられているが、操業時間の積み重ねに伴って、冷却ロールの外周面にマンガン(Mn)や珪素(Si)等を含んだ酸化物が付着し、これらの酸化物の付着層の厚みが増すと、溶鋼から冷却ロールへの熱伝達が妨げられ、冷却ロールの外周面での凝固殻の生長が抑えられてしまう。
【0003】
そこで、冷却ロールに対し、その外周面軸線方向全長に亘って当接する円柱状のブラシロールを配置し、該ブラシロールを冷却ロールと同一方向に回転させて冷却ロールの外周面の研掃を実行し、酸化物の付着層を取り除くことが行われている。
【0004】
従来の場合、前記ブラシロールは、棒材を抱き込むように半分に折った毛体を、真っ直ぐに延びるチャンネル状のブラシ保持部材の内側に挟み込むようにして、ブラシ片が全長に亘って植毛されたブラシ保持部材を形成し、該ブラシ保持部材を円筒状のロール胴部材の軸線方向に隙間無く密に巻き付けて溶接等で固定することにより製造され、このように製造された密集植毛タイプのブラシロールが主に利用されてきた。
【0005】
しかしながら、密集植毛タイプのブラシロールでは、毛体個々の弾性変形が生かされず、冷却ロールの外周面への倣い性が乏しいものとなり、充分な研掃性能を発揮できない場合があった。
【0006】
このため、前述の如く、ブラシ保持部材を円筒状のロール胴部材の軸線方向に隙間無く密に巻き付けて溶接等で固定する代わりに、前記ブラシ保持部材をロール胴部材に対し緩やかな螺旋状に巻き付けて溶接等で固定することにより、毛体個々の弾性変形を生かし、冷却ロールの外周面への倣い性を良くし、充分な研掃性能を発揮できるようにすることが、本発明者等によって提案されている。
【0007】
尚、双ロール式連続鋳造装置の冷却ロール外周面を研掃するためのブラシロールではないが、これと関連するブラシロールの一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1、2がある。
【特許文献1】特開2005−275292号公報
【特許文献2】特開2007−54614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述の如く、真っ直ぐに延びるチャンネル状のブラシ保持部材をロール胴部材に対し緩やかな螺旋状に巻き付けると、該ブラシ保持部材をロール胴部材の軸線方向に隙間無く密に巻き付けるのに比べ、ブラシ保持部材の捩れが大きくなると共に変形が生じ、場合によってはブラシ片が脱落してしまう虞があった。
【0009】
本発明は、斯かる実情に鑑み、ブラシ保持部材の捩れをなくし且つ該捩れに伴う変形を生じさせることなく、ブラシ片が螺旋状に配設されるブラシロールを製造することができ、ブラシ片の脱落を防止し得るブラシロール製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、周方向へ等間隔でブラシ片が植毛された円環状のブラシ保持部材を予め複数用意し、該各ブラシ保持部材をロール胴部材に対し周方向位置をずらして外嵌固定することにより、該ロール胴部材の軸線方向へ連なる前記ブラシ片が複数条の螺旋状に配設されるよう、ブラシロールを製造することを特徴とするブラシロール製造方法にかかるものである。
【0011】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0012】
前述の如く、周方向へ等間隔でブラシ片が植毛された円環状のブラシ保持部材を予め複数用意し、該各ブラシ保持部材をロール胴部材に対し周方向位置をずらして外嵌固定することにより、該ロール胴部材の軸線方向へ連なる前記ブラシ片が複数条の螺旋状に配設されるよう、ブラシロールを製造すると、従来のように、真っ直ぐに延びるチャンネル状のブラシ保持部材をロール胴部材に対し緩やかな螺旋状に巻き付けるのとは異なり、円環状のブラシ保持部材には捩れはなく、該捩れに伴う変形は生じなくなり、ブラシ片が脱落してしまう心配はなくなる。
【0013】
前記ブラシロール製造方法においては、前記各ブラシ保持部材とロール胴部材との間に互いに係合する位置決め手段を設けるようにすることが、各ブラシ保持部材をロール胴部材に対し周方向位置をずらして外嵌固定する作業をより効率良く行う上で好ましい。
【0014】
前記位置決め手段は、
前記各ブラシ保持部材の内周面とロール胴部材の外周面のいずれか一方に突設された凸部と、
前記各ブラシ保持部材の内周面とロール胴部材の外周面のいずれか他方に凹設された凹溝と
から構成することができる。
【0015】
この場合、前記凸部をロール胴部材の外周面に軸線方向へ直線状に延びるよう形成し、前記凹溝を各ブラシ保持部材の内周面にそれぞれ周方向位置をずらして形成することができる。
【0016】
前記凸部をロール胴部材の外周面に軸線方向へ螺旋状に延びるよう形成し、前記凹溝を各ブラシ保持部材の内周面における周方向同一位置に形成しても良く、このようにすると、各ブラシ保持部材の製造並びにその管理が行いやすくなると共に、各ブラシ保持部材をロール胴部材に対し外嵌固定する際に、その順番を全く気にしなくて済み、組み付け時の間違いをなくす上で非常に有効となる。
【0017】
一方、前記凹溝をロール胴部材の外周面に軸線方向へ直線状に延びるよう形成し、前記凸部を各ブラシ保持部材の内周面にそれぞれ周方向位置をずらして形成することもできる。
【0018】
前記凹溝をロール胴部材の外周面に軸線方向へ螺旋状に延びるよう形成し、前記凸部を各ブラシ保持部材の内周面における周方向同一位置に形成しても良く、このようにすると、各ブラシ保持部材の製造並びにその管理が行いやすくなると共に、各ブラシ保持部材をロール胴部材に対し外嵌固定する際に、その順番を全く気にしなくて済み、組み付け時の間違いをなくす上で非常に有効となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のブラシロール製造方法によれば、ブラシ保持部材の捩れをなくし且つ該捩れに伴う変形を生じさせることなく、ブラシ片が螺旋状に配設されるブラシロールを製造することができ、ブラシ片の脱落を防止し得るという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0021】
図1及び図2は本発明を実施する形態の一例であって、先ず、図1(a)に示す如く、真っ直ぐに延びるチャンネル状のブラシ保持部材1に等間隔でブラシ片2を植毛する。
【0022】
ここで、前記ブラシ保持部材1の内側には、図2に示す如く、棒材3を抱き込むように半分に折った毛体4を挟み込むようにしてブラシ片2を植毛するようにしてある。
【0023】
続いて、図1(b)に示す如く、ブラシ保持部材1を湾曲させて周方向へ等間隔でブラシ片2が植毛された円環状のブラシ保持部材1を複数形成すると共に、該各ブラシ保持部材1をロール胴部材5に対し周方向位置をずらして外嵌し溶接等で固定する。
【0024】
尚、図1(a)に示す如く、真っ直ぐに延びるチャンネル状のブラシ保持部材1に等間隔でブラシ片2を植毛する代わりに、予め円環状としたブラシ保持部材1に対して、その周方向へ等間隔でブラシ片2を植毛するようにしても良いことは言うまでもない。
【0025】
前記円環状のブラシ保持部材1を複数形成すると共に、該各ブラシ保持部材1をロール胴部材5に対し周方向位置をずらして外嵌固定していけば、図1(c)に示す如く、ロール胴部材5の軸線方向へ連なる前記ブラシ片2が複数条の螺旋状に配設される形となる。
【0026】
前述の如く、周方向へ等間隔でブラシ片2が植毛された円環状のブラシ保持部材1を予め複数用意し、該各ブラシ保持部材1をロール胴部材5に対し周方向位置をずらして外嵌固定することにより、該ロール胴部材5の軸線方向へ連なる前記ブラシ片2が複数条の螺旋状に配設されるよう、ブラシロール6を製造すると、従来のように、真っ直ぐに延びるチャンネル状のブラシ保持部材1をロール胴部材5に対し緩やかな螺旋状に巻き付けるのとは異なり、円環状のブラシ保持部材1には捩れはなく、該捩れに伴う変形は生じなくなり、ブラシ片2が脱落してしまう心配はなくなる。
【0027】
こうして、ブラシ保持部材1の捩れをなくし且つ該捩れに伴う変形を生じさせることなく、ブラシ片2が螺旋状に配設されるブラシロール6を製造することができ、ブラシ片2の脱落を防止し得る。
【0028】
図3は本発明を実施する形態の一例において、前記各ブラシ保持部材1とロール胴部材5との間に互いに係合する位置決め手段7を設けるようにしたものであって、該位置決め手段7として、凸部7aをロール胴部材5の外周面に軸線方向へ直線状に延びるよう形成し、凹溝7bを各ブラシ保持部材1の内周面にそれぞれ周方向位置をずらして形成した例を示している。
【0029】
図3に示す如く、前記位置決め手段7として、凸部7aをロール胴部材5の外周面に軸線方向へ直線状に延びるよう形成し、凹溝7bを各ブラシ保持部材1の内周面にそれぞれ周方向位置をずらして形成すると、各ブラシ保持部材1をロール胴部材5に対し周方向位置をずらして外嵌固定する作業をより効率良く行うことが可能となる。
【0030】
図4は本発明を実施する形態の一例において、前記位置決め手段7として、凸部7aをロール胴部材5の外周面に軸線方向へ螺旋状に延びるよう形成し、凹溝7bを各ブラシ保持部材1の内周面における周方向同一位置に形成した例を示している。
【0031】
図4に示す如く、前記位置決め手段7として、凸部7aをロール胴部材5の外周面に軸線方向へ螺旋状に延びるよう形成し、凹溝7bを各ブラシ保持部材1の内周面における周方向同一位置に形成しても、図3に示す例と同様、各ブラシ保持部材1をロール胴部材5に対し周方向位置をずらして外嵌固定する作業をより効率良く行うことが可能となる。
【0032】
しかも、図4に示す例の場合、凹溝7bを各ブラシ保持部材1の内周面における周方向同一位置に形成しているため、各ブラシ保持部材1の製造並びにその管理が行いやすくなると共に、各ブラシ保持部材1をロール胴部材5に対し外嵌固定する際に、その順番を全く気にしなくて済み、組み付け時の間違いをなくす上で非常に有効となる。
【0033】
図5は本発明を実施する形態の一例において、前記位置決め手段7として、凹溝7bをロール胴部材5の外周面に軸線方向へ直線状に延びるよう形成し、凸部7aを各ブラシ保持部材1の内周面にそれぞれ周方向位置をずらして形成した例を示している。
【0034】
図5に示す如く、前記位置決め手段7として、凹溝7bをロール胴部材5の外周面に軸線方向へ直線状に延びるよう形成し、凸部7aを各ブラシ保持部材1の内周面にそれぞれ周方向位置をずらして形成しても、図3及び図4に示す例と同様、各ブラシ保持部材1をロール胴部材5に対し周方向位置をずらして外嵌固定する作業をより効率良く行うことが可能となる。
【0035】
図6は本発明を実施する形態の一例において、前記位置決め手段7として、凹溝7bをロール胴部材5の外周面に軸線方向へ螺旋状に延びるよう形成し、凸部7aを各ブラシ保持部材1の内周面における周方向同一位置に形成した例を示している。
【0036】
図6に示す如く、前記位置決め手段7として、凹溝7bをロール胴部材5の外周面に軸線方向へ螺旋状に延びるよう形成し、凸部7aを各ブラシ保持部材1の内周面における周方向同一位置に形成しても、図3〜図5に示す例と同様、各ブラシ保持部材1をロール胴部材5に対し周方向位置をずらして外嵌固定する作業をより効率良く行うことが可能となる。
【0037】
しかも、図6に示す例の場合、凸部7aを各ブラシ保持部材1の内周面における周方向同一位置に形成しているため、図4に示す例と同様、各ブラシ保持部材1の製造並びにその管理が行いやすくなると共に、各ブラシ保持部材1をロール胴部材5に対し外嵌固定する際に、その順番を全く気にしなくて済み、組み付け時の間違いをなくす上で非常に有効となる。
【0038】
尚、本発明のブラシロール製造方法は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、双ロール式連続鋳造装置の冷却ロールを研掃するためのブラシロールに限らず、様々な用途のブラシロールにも適用可能なこと等、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明を実施する形態の一例を示す製造工程図であって、(a)はブラシ保持部材に等間隔でブラシ片を植毛する工程を示す図、(b)はブラシ保持部材を湾曲させて周方向へ等間隔でブラシ片が植毛された円環状のブラシ保持部材を複数形成すると共に、該各ブラシ保持部材をロール胴部材に対し周方向位置をずらして外嵌固定する工程を示す図、(c)はいくつかのブラシ保持部材をロール胴部材に対し周方向位置をずらして外嵌固定した状態を示す図である。
【図2】本発明を実施する形態の一例におけるブラシ片が植毛されたブラシ保持部材を示す断面図であって、図1(a)のII−II断面相当である。
【図3】本発明を実施する形態の一例において位置決め手段として、凸部をロール胴部材の外周面に軸線方向へ直線状に延びるよう形成し、凹溝を各ブラシ保持部材の内周面にそれぞれ周方向位置をずらして形成した例を示す図である。
【図4】本発明を実施する形態の一例において位置決め手段として、凸部をロール胴部材の外周面に軸線方向へ螺旋状に延びるよう形成し、凹溝を各ブラシ保持部材の内周面における周方向同一位置に形成した例を示す図である。
【図5】本発明を実施する形態の一例において位置決め手段として、凹溝をロール胴部材の外周面に軸線方向へ直線状に延びるよう形成し、凸部を各ブラシ保持部材の内周面にそれぞれ周方向位置をずらして形成した例を示す図である。
【図6】本発明を実施する形態の一例において位置決め手段として、凹溝をロール胴部材の外周面に軸線方向へ螺旋状に延びるよう形成し、凸部を各ブラシ保持部材の内周面における周方向同一位置に形成した例を示す図である。
【符号の説明】
【0040】
1 ブラシ保持部材
2 ブラシ片
5 ロール胴部材
6 ブラシロール
7 位置決め手段
7a 凸部
7b 凹溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向へ等間隔でブラシ片が植毛された円環状のブラシ保持部材を予め複数用意し、該各ブラシ保持部材をロール胴部材に対し周方向位置をずらして外嵌固定することにより、該ロール胴部材の軸線方向へ連なる前記ブラシ片が複数条の螺旋状に配設されるよう、ブラシロールを製造することを特徴とするブラシロール製造方法。
【請求項2】
前記各ブラシ保持部材とロール胴部材との間に互いに係合する位置決め手段を設けるようにした請求項1記載のブラシロール製造方法。
【請求項3】
前記位置決め手段を、
前記各ブラシ保持部材の内周面とロール胴部材の外周面のいずれか一方に突設された凸部と、
前記各ブラシ保持部材の内周面とロール胴部材の外周面のいずれか他方に凹設された凹溝と
から構成した請求項2記載のブラシロール製造方法。
【請求項4】
前記凸部をロール胴部材の外周面に軸線方向へ直線状に延びるよう形成し、前記凹溝を各ブラシ保持部材の内周面にそれぞれ周方向位置をずらして形成するようにした請求項3記載のブラシロール製造方法。
【請求項5】
前記凸部をロール胴部材の外周面に軸線方向へ螺旋状に延びるよう形成し、前記凹溝を各ブラシ保持部材の内周面における周方向同一位置に形成するようにした請求項3記載のブラシロール製造方法。
【請求項6】
前記凹溝をロール胴部材の外周面に軸線方向へ直線状に延びるよう形成し、前記凸部を各ブラシ保持部材の内周面にそれぞれ周方向位置をずらして形成するようにした請求項3記載のブラシロール製造方法。
【請求項7】
前記凹溝をロール胴部材の外周面に軸線方向へ螺旋状に延びるよう形成し、前記凸部を各ブラシ保持部材の内周面における周方向同一位置に形成するようにした請求項3記載のブラシロール製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−120128(P2010−120128A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−296794(P2008−296794)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】