説明

ブランク材洗浄装置の洗浄性能検査方法

【課題】ブランク材洗浄装置の洗浄性能検査方法において、簡素な構成としてコストアップを抑えた上で、迅速かつ確実な洗浄不良の検出を可能とする。
【解決手段】ブランキング装置40により切断されたブランク材Wを洗浄する洗浄装置50の洗浄性能検査方法であって、前記ブランク材Wの両面の適宜の箇所に塗料を塗布した後、該ブランク材Wを前記洗浄装置50により洗浄し、該洗浄後のブランク材Wにおける前記塗料を塗布した箇所の色差を色差計71により測定し、該測定値を予め定めた閾値と比較することにより、前記洗浄装置50の洗浄性能を検査する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ブランク材洗浄装置の洗浄性能検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレス成形に使用するブランク材は、コイル材をブランキングする時に発生する切粉などの異物が付着することが多く、この異物を完全に除去することなくプレス成形を行うと、前記異物を金型とシート材との間に挟み込んでしまい、プレス成形後の製品にいわゆる押しキズ・ブツなどの凹凸状の不良を発生させてしまう。そこで、従来から、ブランク材の表面に付着またはこびりついた異物を除去するために、ブランク材を洗浄装置により洗浄することが行われている。この洗浄方法としては、例えば特許文献1,2に開示されているように、ブラシロールによる方法や噴射ノズルによる方法が一般的である。
【0003】
ところで、前記洗浄装置において、ブラシロールの磨耗、噴射ノズルからの洗浄オイルの吐出圧の変動、噴射ノズルの位置ズレなどにより、異物の除去が不十分な場合には、プレス成形後の製品に不良が連続発生することがあるため、洗浄後のブランク材の洗浄状態を検査することが望ましい。このとき、洗浄後のブランク材の表面を通常の光学的検査装置により検査しようとすると、洗浄オイルによる乱反射などにより充分に検査することができないので、このような影響を回避するために、例えば特許文献3に開示されるような光学的検査装置を用いることも考えられる。
【特許文献1】特開平08−120474号公報
【特許文献2】特開平11−033462号公報
【特許文献3】特開平09−166551号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような複雑な光学的検査装置を用いると、コスト高となり、また分析に時間が掛かることから、検査が完了するまでの間にやはりプレス不良が連続発生することがあった。
そこでこの発明は、ブランク材洗浄装置の洗浄性能検査方法において、簡素な構成としてコストアップを抑えた上で、迅速かつ確実な洗浄不良の検出を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題の解決手段として、請求項1に記載した発明は、ブランキング装置(例えば実施例のブランキング装置40)により切断されたブランク材(例えば実施例のブランク材W)を洗浄する洗浄装置(例えば実施例の洗浄装置50,60)の洗浄性能検査方法であって、前記ブランク材の両面の適宜の箇所(例えば実施例の箇所W1)に塗料を塗布した後、該ブランク材を前記洗浄装置により洗浄し、該洗浄後のブランク材における前記塗料を塗布した箇所の色差を色差計(例えば実施例の色差計71)により測定し、該測定値を予め定めた閾値と比較することにより、前記洗浄装置の洗浄性能を検査することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
請求項1に記載した発明によれば、前記ブランク材の洗浄後における前記塗料を塗布した適宜の箇所の色差の変化から、前記洗浄装置の洗浄性能の変化を検出してその合否判定を行うことで、簡素な構成としてコストアップを抑えた上で、迅速かつ確実な洗浄不良の検出を可能とし、プレス不良の連続発生を抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、この発明の実施例について図面を参照して説明する。
図1に示す洗浄装置50は、チャンバー1の一方にブランク材W投入用の入口開口部2を有すると共に、チャンバー1の他方にはブランク材W排出用の出口開口部3を有する。入口開口部2および出口開口部3には、ブランク材搬送コンベア4,5がそれぞれ連設される。洗浄装置50(チャンバー1)の内部は、一対の隔壁6により上流側から順に前室7、洗浄室8、後室9に区画される。各隔壁6には、入口開口部2から出口開口部3までの間を貫通するように通過口10が形成されている。
【0008】
前室7内には、略水平に搬入されるブランク材Wを上下から挟むようにその両面(上下面)に接する一対のピンチロール11が配設される。ブランク材搬送コンベア4の上流側にはブランキング装置40が配設され、該ブランキング装置40により切断されたブランク材Wが、ブランク材搬送コンベア4により前室7内(チャンバー1内)に搬入される。前記ブランク材Wは、前室7下流側の洗浄室8および後室9に向けて各ピンチロール11により搬送される。
【0009】
洗浄室8内には、搬入されたブランク材Wを各ピンチロール11同様に上下から挟むようにその両面に接する一対のブラシロール12が配設される。各ブラシロール12の上流側及び下流側には、各ブラシロール12のブランク材Wへの当接部近傍に向けて洗浄オイルを噴射するノズル18がそれぞれ配設される。これら各ノズル18から洗浄オイルを噴射しながら各ブラシロール12が回転することで、ブランク材W両面に付着した切粉などの異物が除去される。なお、各ブラシロール12は、互いのブラシの毛先が0〜2mm程度ラップするように配置されている。また、各ブラシロール12は、ブランク材Wを下流側に送り出すように回転する各ピンチロール11とは逆向きに回転するように構成されている。
【0010】
後室9内には、搬入されたブランク材Wを各ロール11,12同様に上下から挟むようにその両面に接する二対のリンガーロール19が配設される。各ピンチロール11により後室9内に搬入されたブランク材Wは、各リンガーロ−ル19により洗浄オイルが除去された後、ブランク材搬送コンベア5により後室9外(チャンバー1外)に排出される。
【0011】
ここで、ブランキング装置40の直ぐ下流側には、ブランク材Wの両面(上下面)の適宜の箇所に所定の塗料(例えば赤色の水性染料インク)を塗布する塗装ガン70が上下に配設される。これら各塗装ガン70により、ブランキング装置40により切断された直後のブランク材Wに対し、その両面の適宜の箇所に前記塗料が自動的に塗布される。なお、前記赤色の水性染料インクとは、例えば商品名「スキルマーカー」の赤色である。
【0012】
図2を併せて参照し、前記適宜の箇所とは、例えばブランク材Wの搬送方向と略直交する線分上でかつ該ブランク材Wの概ね全幅に渡るように略等間隔に配された複数の点に相当する箇所(例えば図2に示す四箇所のW1)である。すなわち、前記塗装ガン70は、前記複数の箇所W1に対応して上下それぞれに複数設けられている。
前記塗料の塗布は、ライン上を連続的に流れる複数のブランク材Wの内、例えば所定枚数毎に定期的かつ自動的に行われるか、あるいはブランク材Wの全数に対して自動的に行われる。
【0013】
このようにして塗料の塗布がなされたブランク材Wに対して、洗浄装置50において各ブラシロール12により通常の洗浄がなされ、かつ各リンガーロール19により洗浄オイルの除去がなされ、該洗浄後のブランク材Wが洗浄装置50下流側のブランク材搬送コンベア5に排出された後、ブランク材W両面の洗浄状態の検査が色差計71により行われる。
【0014】
前記塗料の塗布がなされた洗浄後のブランク材Wは、例えばライン外の検査場所Bに抜き出され、当該場所Bに配設された上下の色差計71により、ブランク材W両面の前記複数の箇所W1における色差の測定がなされる。すなわち、前記色差計71は、前記複数の箇所W1に対応して上下それぞれに複数設けられている。
【0015】
なお、ブランク材Wの全数に対して塗料を塗布した場合には、全ブランク材Wの中からランダムに抜き取ったブランク材Wに対して前記色差の測定がなされる。また、ブランク材搬送コンベア5にストレージなどがあり、ブランク材Wをライン上で一時的に停止することができる場合には、当該場所に配設した色差計71により前記色差の測定が自動でなされる。
【0016】
色差計71は、例えばL表色系で色差を数値化して出力するもので、例えば洗浄前のブランク材Wにおける前記複数の箇所W1の色を基準にして、洗浄後のブランク材Wにおける前記複数の箇所W1の色の色差を測定する。そして、色差計71は、例えば正常に洗浄が行われた場合のブランク材Wにおける前記複数の箇所W1の色差の測定値に基づく閾値を予め設定し、該閾値と検査対象のブランク材Wにおける前記複数の箇所W1の色差の測定値とを比較することで、前記洗浄状態の検査(洗浄装置50の洗浄性能の検査)を行う。
【0017】
色差計71により測定された結果は、L表色系により表示装置72に表示される。なお、前記Lは明度を示し、aは正の値で数字が大きい程赤、負の値で数字が大きい程緑であることを示し、bは正の値で数字が大きい程黄、負の値で数字が大きい程青であることを示す。
【0018】
色差計71の測定結果の内、例えば色相を表すaの値が、制御装置73において前記閾値と比較される。そして、前記aの値が閾値(例えば23.00)以下である時には、制御装置73は洗浄装置50の洗浄性能に異常がない(正常に洗浄が行われている)と判定し、該判定結果を「OK」として表示装置72に表示する。一方、前記aの値が閾値を越えた時には、制御装置73は洗浄装置50の洗浄性能に異常がある(正常に洗浄が行われていない)と判定し、該判定結果を「NG」として表示装置72に表示する。
【0019】
制御装置73は、洗浄装置50の洗浄性能に異常があると判定した場合には、前記「NG」表示に加えて洗浄装置50を停止させ、前記ブラシロール12の交換あるいはノズル18の詰まり確認や位置調整などを可能とする。なお、前記閾値の設定度合いにより、予防的に洗浄装置50の部品交換および調整を実施させて洗浄不良を未然に防ぐことも可能である。
【0020】
なお、前記洗浄性能の判定は、前述の如く色相を表すaの値と基準となる閾値との比較のみに限らず、例えば洗浄装置50による洗浄前の複数のブランキング材に対し、前記赤色の水性染料インクを塗布した箇所W1の色差を色差計71により測定してその平均値(Lave,aave,bave)を予め取得し、次いで前記洗浄装置50により洗浄した後のブランク材Wにおける前記赤色の水性染料インクを塗布した箇所W1の色差を色差計71により測定し(L,a,b)、これら洗浄前後の両色差から下記数式1で色差ΔEを求め、該色差ΔEと予め設定した閾値とを比較して、前述の如く「OK」、「NG」を判定するようにしてもよい。
【0021】
【数1】

【0022】
以上説明したように、上記実施例におけるブランク材洗浄装置の洗浄性能検査方法は、ブランキング装置40により切断されたブランク材Wを洗浄する洗浄装置50の洗浄性能検査方法であって、前記ブランク材Wの両面の適宜の箇所W1に塗料を塗布した後、該ブランク材Wを前記洗浄装置50により洗浄し、該洗浄後のブランク材Wにおける前記塗料を塗布した箇所W1の色差を色差計71により測定し、該測定値を予め定めた閾値と比較することにより、前記洗浄装置50の洗浄性能を検査するものである。
【0023】
この構成によれば、前記ブランク材Wの洗浄後における前記塗料を塗布した適宜の箇所W1の色差の変化から、前記洗浄装置50の洗浄性能の変化を検出してその合否判定を行うことで、簡素な構成としてコストアップを抑えた上で、迅速かつ確実な洗浄不良の検出を可能とし、プレス不良の連続発生を抑えることができる。
【0024】
なお、この発明は上記実施例に限られるものではなく、例えば、前記塗料の塗布は、ブランク材Wの搬送方向と略直交しかつ該ブランク材Wの概ね全幅に渡る線分に相当する箇所に行うようにしてもよく、かつ該線分に沿うものに限らず様々な箇所および形状で行うことも可能である。また、前記塗料の塗布は、ライン上を連続的に流れる複数のブランク材Wの内、例えば所定枚数毎にライン外に抜き取ったものに対して、自動または手動で行うようにしてもよい。
【0025】
さらに、前記塗料の塗布は、ブランキング装置40により切断する前の帯状のコイル材に対して、該コイル材の所定のピッチ毎に行うようにしてもよい。さらにまた、前記帯状のコイル材を巻き取る前に製鉄メーカーで所定のピッチ毎に前記塗料を塗布して納入する形態としてもよい。要するに、前記塗料の塗布は、洗浄装置50への投入前であれば何時何処で行ってもよい。ここで、前記所定のピッチとは、すべてのブランク材Wに塗料を塗布する間隔、あるいは所定枚数毎のブランク材Wに塗料を塗布する間隔をいう。また、前記塗料の塗布は、前記塗装ガン70等により自動で行ってもよいし、作業者が手動で行ってもよい。
【0026】
また、前記色差計71による色差の測定は、作業者が手動で行うようにしてもよい。この場合、例えば色差計71における不図示の画面に表示されたL表色系の測定結果の内、色相を表すaの値と基準となる閾値とを作業者が比較して、前記同様の「OK」、「NG」の判定を行うようにしてもよい。
【0027】
また、前記洗浄装置50のノズル18に洗浄オイルを噴射する洗浄オイル供給配管の途中にエアー供給配管を接続し、前記洗浄オイル供給配管内で洗浄オイルとエアーとをミキシングしてブランク材Wに噴射するようにしてもよく、あるいは、前記ノズル18よりブランク材Wに向けて噴射する洗浄オイルに向けて、別途設けたエアー供給配管のノズルからエアーを噴射し、これら洗浄オイルとエアーとをミキシングしてブランク材Wに噴射するようにしてもよい。この構成においても、前述の如く「NG」と判定された場合には洗浄装置50の運転を停止し、前記ブラシロール12の交換あるいはノズル18やエアー噴射ノズルの詰まり確認や位置調整などを可能とする。
【0028】
図3は、前記洗浄装置50に代わる洗浄装置60を示す。この洗浄装置60は、前記各ブラシロール12に代わる複数の洗浄オイル噴射ノズル20を有し、該各洗浄オイル噴射ノズル20からブランク材Wの両面に向けて洗浄オイルを高圧で噴射することで、ブランク材W両面の異物を除去するものである。なお、図1と同一部分には同一符号を付してその説明は省略する。
【0029】
この洗浄装置60の場合も同様に、前述の如く「NG」と判定された場合には運転を停止し、各洗浄オイル噴射ノズル20の噴射角度、洗浄オイルの吐出圧力、洗浄オイル噴射ノズル20の詰まりなどの確認および調整を可能とする。
そして、上記実施例における構成はこの発明の一例であり、当該発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】この発明の実施例におけるブランク材の製造、洗浄および検査を行うラインの概略を示す側面図である。
【図2】図1の要部の平面図である。
【図3】上記実施例の変形例の要部を示す側面図である。
【符号の説明】
【0031】
W ブランク材
W1 箇所
40 ブランキング装置
50 洗浄装置
71 色差計



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブランキング装置により切断されたブランク材を洗浄する洗浄装置の洗浄性能検査方法であって、
前記ブランク材の両面の適宜の箇所に塗料を塗布した後、該ブランク材を前記洗浄装置により洗浄し、該洗浄後のブランク材における前記塗料を塗布した箇所の色差を色差計により測定し、該測定値を予め定めた閾値と比較することにより、前記洗浄装置の洗浄性能を検査することを特徴とするブランク材洗浄装置の洗浄性能検査方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−285629(P2009−285629A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−143715(P2008−143715)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】