説明

ブレーキシュー保持装置

【課題】ブレーキシューに荷重を付加せずに振動減衰効果を得てブレーキ鳴きを低減するべく、改良したブレーキシュー保持装置を提案する。
【解決手段】本発明のブレーキシュー保持装置は、バックプレート1に立設され、ブレーキシュー3のウェブ33に設けられた長孔34に挿通されるシュー保持ボルト10と、長孔34を通してウェブ33から突出したシュー保持ボルト10の突出部分11に螺合するナット12と、ナット12とウェブ33との間に介在させた振動減衰体13と、を含んで構成されることを特徴とする。振動減衰体13がブレーキシュー3の振動を減衰させるので、共振が抑えられ、ブレーキ鳴きが低減される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムブレーキにおいて発生するブレーキ鳴きを低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
トラックなど大型の車両に使われているドラムブレーキでは、ブレーキシューのリムに着けたライニング(摩擦材)とブレーキドラムとの摩擦により発生する振動がブレーキ構造体に伝達され、共振等による増幅作用が生じて「ブレーキ鳴き」が発生する。このブレーキ鳴きを抑制する技術として、特許文献1,2のようにブレーキシューに防振荷重を付加する技術が提案されている。
【0003】
特許文献1,2にもあるように、概略半月形の一対のブレーキシューは、ライニングを取付けたリムと、該リムに立設されたウェブとを有し、ブレーキドラムへ押しつけるためのホイールシリンダ及びこれとは逆方向へ付勢するリターンスプリングによりウェブが支持される。そして、このブレーキシューのウェブに長孔が設けられており、非回転部材のバックプレートに立設したシュー保持ボルトをその長孔に挿通し、該長孔を通してウェブから突出したシュー保持ボルトの突出部分にナットを螺合させてウェブを保持するブレーキシュー保持装置により、バックプレート上で姿勢が保持されるようになっている。
【0004】
特許文献1,2では、そのブレーキシューのウェブ又はリムに重りを取り付けて防振荷重を加える構造を採用している。
【特許文献1】特開平8−128470号公報
【特許文献2】特開平8−128472号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1,2の技術は、ウェブに複数の重りを取り付ける構造であるが、防振効果を上げるために予想以上の重量やコストを要することがあり、ブレーキシューの重量を増すことはできれば避けたいことでもあるため、改善の余地が残されている。
本発明はここに着目したもので、ブレーキシューに荷重を付加せずに振動抑制効果を得るべく、改良したブレーキシュー保持装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のブレーキシュー保持装置は、バックプレートに立設され、ブレーキシューのウェブに設けられた長孔に挿通されるシュー保持ボルトと、ウェブから突出したシュー保持ボルトの突出部分に螺合するナットと、該ナットとウェブとの間に介在させた振動減衰体と、を含んで構成されることを特徴とする。
この場合、ウェブとシュー保持ボルトの立設部との間に介在させた振動減衰体をさらに含むようにしても良い。すなわち、ブレーキシューのウェブを二つの振動減衰体で挟み込む構造である。
【0007】
あるいは、本発明のブレーキシュー保持装置は、バックプレートに立設され、ブレーキシューのウェブに設けられた長孔に挿通されるシュー保持ボルトと、ウェブから突出したシュー保持ボルトの突出部分に螺合するナットと、そのウェブとシュー保持ボルトの立設部との間に介在させた振動減衰体と、を含んで構成されることを特徴とする。
従来のブレーキシュー保持装置では、剛性体のナットを直接ウェブに当接させて保持していた(ナットの下に平座金を介在させてある場合も同じことである)ため、ウェブの振動、いわゆるビビリが略減衰されずに他へ影響し、ブレーキ鳴きにつながっていたと考えられる。そこで本発明では、ウェブに振動減衰体(現時点で最適なものはゴム)を当接させるようにし、これにより振動を減衰させることで、課題の解決を図っている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ブレーキシュー保持装置において振動減衰体を介在させてブレーキシューを保持するという創意工夫を施したことにより、ブレーキシューに防振荷重を付加せずとも振動抑制の効果を得ることが可能である。すなわち、従来とは異なる発想で共振を抑制し、ブレーキ鳴きを低減させる効果を得られるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1に、本実施形態におけるドラムブレーキの概略構成を示す。同図は、ドラムブレーキのうち、非回転部材として車体に固定されたバックプレート1と、このバックプレート1に載置された一対のホイールシリンダ2と、ホイールシリンダ2のピストンに支持されてブレーキドラムへ押しつけられる概略半月形の一対のブレーキシュー3と、ホイールシリンダ2による押しつけ方向とは反対へブレーキシュー3を付勢する一対のリターンスプリング4と、を図示している。
【0010】
バックプレート1の中心点に対し対称配置されたブレーキシュー3は、摩擦材であるライニング31を貼り付けたリム32と、リム32の背中に背びれ状に立設されたウェブ33と、を含んで構成される。そして、そのウェブ33に長孔34が設けられている。この長孔34を利用した本発明に係るブレーキシュー保持装置の実施形態について、図2以降に示している。
【0011】
図2〜図5は、ブレーキシュー保持装置の第1〜第4実施形態を示す要部断面図で、図1のY−Y断面に沿って見た図である。
図2に示す第1実施形態のブレーキシュー保持装置は、バックプレート1に立設されたシュー保持ボルト10と、長孔34を通してウェブ33から突出したシュー保持ボルト10の突出部分11に螺合するナット12と、ナット12とウェブ33との間に介在させた振動減衰体13と、を備えている。
【0012】
シュー保持ボルト10は、バックプレート1を挟み込むように螺合させた2つの立設ナット14,15を立設部として、これら立設ナット14,15を互いに締め付けることでバックプレート1に支柱として立設される。立設されたシュー保持ボルト10は、その先端側が長孔34を通してウェブ33の反対側へ突出し、ナット12を螺合させる突出部分11となる。
【0013】
ナット12は溝付きナットで、その溝に割りピンを入り込ませることで緩みが防止される。
振動減衰体13は、シュー保持ボルト10を貫通させる中心孔をあけた円柱形ゴムで、本実施形態の場合、平座金16,17を両側に介在させてある。このように、ナット12とウェブ33との間に振動減衰体13をダンパとして介在させることにより、ブレーキシュー3の振動が減衰されて、ブレーキ鳴きが低減される。すなわち振動減衰体13は、それ自体の減衰効果に加え、当該振動減衰体13に接している構成要素及びこれにつながるバックプレート1をマスとしたダイナミックダンパとしての作用を発揮し、共振振動を抑制し得る。これに対し、コイルバネや板バネなどを振動減衰体13のように配置したとしても、路面入力等によるブレーキシュー3のバタツキを抑える作用はあるかもしれないが、ブレーキ鳴きのような周波数が比較的高い範囲にある共振振動を抑える効果は、期待できない。
【0014】
本実施形態では、振動減衰体13を平座金16,17で挟んでいるが、このように平座金16,17を介在させることにより、振動減衰体13においてウェブ33と擦れ合う部分の劣化を抑制することが可能となる。また、振動減衰体13は、接着等により平座金16,17やナット12と一体化させることによって、より確実に減衰効果を得ることもできる。
【0015】
図3に示す第2実施形態のブレーキシュー保持装置は、振動減衰体13を、平座金16,17で挟んで、ウェブ33と立設部である立設ナット15との間に介在させた形態である。この場合、ナット12が平座金18を介してウェブ33に当接するが、ウェブ33の反対側に存在する振動減衰体13がやはりダンパとして作用し、振動減衰効果を得ることができる。なお、本欄では、立設部としてナット14,15を使用する例を示しているが、シュー保持ボルトをバックプレートに固定する形態はこの他にも、シュー保持ボルトをリベット形にしたり、かしめたりする多様な形態があり、その形態に応じた各種の立設部があり得る。
【0016】
図4に示す第3実施形態のブレーキシュー保持装置は、上記第1実施形態及び第2実施形態を合体させたもので、ウェブ33の両側に振動減衰体13,13’を介在させてある。すなわち、ナット12とウェブ33との間に、平座金16,17で挟んだ振動減衰体13を介在させ、また、ウェブ33と立設ナット15との間に、平座金16’,17’で挟んだ振動減衰体13’を介在ざせてある。この形態によっても両振動減衰体13,13’がダンパとして作用し、減衰効果を得ることができる。
【0017】
図5に示す第4実施形態のブレーキシュー保持装置は、第1実施形態の変形例で、平座金16を使用せず、振動減衰体13を直接、ウェブ33に当接させた形態である。これによっても、第1実施形態同様の効果を得ることができる。当該変形例は、図3の第3実施形態の場合にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ドラムブレーキにおけるブレーキシュー周りの構造例を示した図。
【図2】本発明に係るブレーキシュー保持装置の第1実施形態を示した断面図。
【図3】本発明に係るブレーキシュー保持装置の第2実施形態を示した断面図。
【図4】本発明に係るブレーキシュー保持装置の第3実施形態を示した断面図。
【図5】本発明に係るブレーキシュー保持装置の第4実施形態を示した断面図。
【符号の説明】
【0019】
1 バックプレート
2 ホイールシリンダ
3 ブレーキシュー
31 ライニング
32 リブ
33 ウェブ
34 長孔
4 リターンスプリング
10 シュー保持ボルト
11 突出部分
12 ナット(溝付きナット)
13,13’ 振動減衰体
14,15 立設ナット(立設部)
16,16’,17,17’,18 平座金

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バックプレートに立設され、ブレーキシューのウェブに設けられた長孔に挿通されるシュー保持ボルトと、
前記ウェブから突出した前記シュー保持ボルトの突出部分に螺合するナットと、
該ナットと前記ウェブとの間に介在させた振動減衰体と、
を含んで構成されることを特徴とするブレーキシュー保持装置。
【請求項2】
前記ウェブと前記シュー保持ボルトの立設部との間に介在させた振動減衰体をさらに含むことを特徴とするブレーキシュー保持装置。
【請求項3】
バックプレートに立設され、ブレーキシューのウェブに設けられた長孔に挿通されるシュー保持ボルトと、
前記ウェブから突出した前記シュー保持ボルトの突出部分に螺合するナットと、
前記ウェブと前記シュー保持ボルトの立設部との間に介在させた振動減衰体と、
を含んで構成されることを特徴とするブレーキシュー保持装置。
【請求項4】
前記振動減衰体がゴムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のブレーキシュー保持装置。
【請求項5】
前記振動減衰体の両側に平座金を介在させたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のブレーキシュー保持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−263277(P2007−263277A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−90725(P2006−90725)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000003908)日産ディーゼル工業株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】