説明

ブレーキダストカバー

【課題】ディスクホイールの汚れを防止し得るブレーキダストカバーを提供する。
【解決手段】ダストカバー10は、円板状部70と、筒状部72と、風返し部74とを含む。筒状部82は、ディスクロータ22,キャリパ26の外周面の外周側に位置し、風返し部74は筒状部82の外周側を覆う状態で設けられる。車両の走行中、車両の内側から外側に向かって風が流れるが、ディスクロータ22の内部においては、フィンに沿って内周側から外周側に向かて風が流れるため、ダストも外周側に向かって放出される。ダストは、筒状部72の貫通穴82を経て風返し部74に供給され、車両の内側に向かって流れる。ダストが車両の外側に流れ難くすることができるため、ディスク部64に付着したり、ディスク部64から外側に飛散したりし難くすることができ、ディスクホイール20が汚れ難くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の非回転体に取り付けられたブレーキダストカバーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ディスクホイールのディスク部の裏面(車両の内側面)に取り付けられたブレーキダストカバーが記載されている。
特許文献2には、ディスクブレーキの車両の幅方向の外側と内側とにそれぞれ設けられたブレーキダストカバーが記載されている。ディスクブレーキの外側のブレーキダストカバーは、ディスクホイールのディスク部の裏面に取り付けられ、内側のブレーキダストカバーは、車軸に固定される。
特許文献1,2に記載のように、ディスクホイールのディスク部の裏面にブレーキダストカバーを取り付ければ、ブレーキの作動において、ディスクロータと摩擦パッドとの摩耗により生じるブレーキダストが、ディスク部の裏面に付着したり、ディスク部から外側に飛散したりすることを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−305702号公報
【特許文献2】特開2008−185143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、ブレーキダストによるディスクホイールの汚れを防止し得る、非回転体に取り付けられたブレーキダストカバーを得ることである。
【課題を解決するための手段および効果】
【0005】
請求項1に記載のブレーキダストカバーは、(a)円板状部と、(b)中空の筒状部と、(c)その筒状部の、前記円板状部とは反対側から外周側に延び出した風返し部とを含むものとされる。
ブレーキダストカバーは、ブレーキに泥水、小石、埃等が入ることを防止するためのものであり、車両の非回転体であるナックルやアクスルハウジングに取り付けられる。
ブレーキダストカバーは、それの円板状部において非回転体に取り付けられる。筒状部は、円板状部から車両の幅方向の外側に延び出し、風返し部が、筒状部の外側の端部から外周側に延び出す姿勢とされる。
円板状部において、中心部に貫通穴が形成され、外周部にキャリパを配設するための切欠が形成されるのが普通である。
筒状部において、それの断面形状は、円環状とすることができるが、円環の円弧の一部が外周側に突出した形状とすることができる。例えば、円板状部に設けられた切欠に対応する部分を他の部分より外周側に突出させることができる。また、筒状部は、円板状部の全周に渡って連続して設けることが望ましいが、不可欠ではない。例えば、1つ以上の円弧状の部分から成るものとすることができる。
風返し部は、筒状部の円板状部とは反対側から外周側に延び出したものである。風返し部は、筒状部の全体に渡って連続して設けることが望ましいが、部分的に設けてもよい。例えば、1つ以上の部分から成るものとすることができる。また、筒状部の断面形状が円環状でない場合には、それに対応して、半径方向の寸法が大きい部分と小さい部分とを有する形状とすることができる。
このように風返し部を設ければ、車両の幅方向の内側から外側に向かう風が、風返し部より外側へ吹き抜け難くすることができ、ディスクホイールのディスク部の裏面(車両の幅方向の内側面)に当たり難くすることができる。それによって、ブレーキ作動時、すなわち、ブレーキ回転体と摩擦部材との摺動により生じるブレーキダスト(以下、単に、ダストと略称する)が、風返し部より車両の幅方向の外側へ向かって流れ難くすることができ、ディスクホイールのディスク部の裏面に付着したり、ディスク部から外側に飛散したりすることを防止することができる。
【特許請求可能な発明】
【0006】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。請求可能発明は、少なくとも、請求の範囲に記載された発明である「本発明」ないし「本願発明」を含むが、本願発明の下位概念発明や、本願発明の上位概念あるいは別概念の発明を含むこともある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。各態様は請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組を、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載,実施例の記載等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要素を付加した態様も、また、各項の態様から構成要素を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。
【0007】
(1)車両の非回転体に取り付けられたブレーキダストカバーであって、
円板状部と、
中空の筒状部と、
その筒状部の、前記円板状部とは反対側から外周側に延び出した風返し部と
を含むブレーキダストカバー。
ブレーキダストカバーは、円板状部、筒状部、風返し部が一体に形成されたものであっても、複数の部分から構成されたものであってもよい。
(2)前記筒状部に、貫通穴が複数、互いに間隔を隔てて形成された(1)項に記載のブレーキダストカバー。
ブレーキダストカバーが車両の非回転体に取り付けられた状態において、筒状部は、ディスクブレーキのベンチレーティッド型のディスクロータの外周面の外周側に位置する。筒状部には複数の貫通穴が設けられているため、筒状部がディスクロータの外周面の外周側に位置しても、ディスクロータの通風口を塞ぐことがない。したがって、ディスクロータの通風口から外周側に向かう風を、筒状部の外周側に流れさせることができる。ディスクロータの通風口は、互いに隣接するフィンによって規定される。
貫通穴の大きさ、位置は、車両の走行中に遠心力によりディスクロータの通風口から外周側に吹き出す風を、筒状部の外周側に良好に流れさせ得るように決定される。ディスクロータとブレーキダストカバーとがどのような相対位相にあっても、貫通穴と通風口との少なくとも一部同士が必ず重なるようにすることが望ましい。
例えば、貫通穴の大きさ、位置を、貫通穴と通風口との重なり部分の面積が、貫通穴の面積の、少なくとも1/3以上、1/2以上、2/3以上、3/4以上となるように決めることができる。
また、貫通穴の大きさは、筒状部の外周面全体の面積に対する貫通穴の開口面積の比率が、60%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上となるようにすることが望ましい。
なお、貫通穴の円周方向の端部にリブを設けることができる。それによって、筒状部の強度の低下を抑制しつつ貫通穴の開口面積を大きくすることができる。
(3)前記筒状部の軸方向の寸法が、前記ディスクロータの外周面の軸方向の寸法より大きくされた(1)項または(2)項に記載のブレーキダストカバー。
例えば、筒状部の軸方向の寸法を、ディスクロータの外周面の軸方向の寸法より大きくして、風返し部が延び出す側の端部を設定値だけ内周側に突出させれば、ディスクロータの通風口から外周側へ吹き出す風が、車両の幅方向の外側に向かうことを防止することができ、ダストがブレーキダストカバーより外側に向かうことを防止することができる。
(4)前記風返し部が、前記筒状部に沿って、前記円板状部が設けられた側に向くにつれて外周側に位置する向きに傾斜する形状を成した(1)項ないし(3)項のいずれか1つに記載のブレーキダストカバー。
ブレーキダストカバーが非回転体に取り付けられた状態において、風返し部は、車両の幅方向の内側に向くにつれて外周側に位置する向きに傾斜する姿勢とされる。風返し部は、曲面によって形成されるものであっても、平面によって形成されるものであってもよい。
風返し部の、ブレーキダストカバーの軸線(筒状部の軸線であり、以下、単に軸線と略称する)に対する傾斜角度は、45°以上、55°以上、60°以上、65°以上、70°以上とすることが望ましい。傾斜角度が小さいと、筒状部の貫通穴から外周側に向かう風を車両の内側に流れさせ難くなり、望ましくないからである。
風返し部が、平面によって形成される場合には、平面を規定する軸線方向の線と軸線との成す角度が傾斜角度とされ、曲面によって形成される場合には、その曲面の接平面を規定する軸線方向の線と軸線との成す角度が傾斜角度とされる。
(5)前記風返し部が、前記筒状部に隣接する第1傾斜部と、第1傾斜部の外周側に設けられた第2傾斜部とを含む(1)項ないし(4)項のいずれか1つに記載のブレーキダストカバー。
第1傾斜部、第2傾斜部は、上述のように、それぞれ、平面であっても、曲面であってもよい。また、第2傾斜部の軸線に対する傾斜角度は、第1傾斜部の軸線に対する傾斜角度より小さくすることが望ましい。それによって、筒状部の貫通穴から外周側に向かう風を、車両の幅方向の内側に向けて流れさせることが可能となる。
(6)前記風返し部の半径方向の寸法が、前記円板状部の半径の0.05倍以上0.4倍以下とされた(1)項ないし(5)項のいずれか1つに記載のブレーキダストカバー。
風返し部の半径方向の寸法が大きい場合は小さい場合より、より良好に、風を車両の内側に向かって流れさせることができる。
(7)前記風返し部の軸方向の寸法が、前記筒状部の軸方向の寸法以上とされた(1)項ないし(6)項のいずれか1つに記載のブレーキダストカバー。
風返し部の軸方向寸法は、筒状部の軸方向の寸法の1.0倍以上1.5倍以下とすることが望ましい。
(8)前記風返し部の形状が、それの外周縁が前記円板状部の中心を中心とする同一円周上に位置するものとされる(1)項ないし(7)項のいずれか1つに記載のブレーキダストカバー。
ブレーキダストカバーは、概して円形を成したものとされる。ブレーキダストカバーはディスクホイールの内周側に設けられるため、ブレーキダストカバーの外周縁、すなわち、風返し部の外周縁は同一円周上に位置するものとすることが望ましい。
(9)当該ブレーキダストカバーがディスクホイールの内周側に配設され、前記風返し部の外周縁と前記ディスクホイールの内周面との間の隙間が10mm以下とされた(1)項ないし(8)項のいずれか1つに記載のブレーキダストカバー。
風返し部の外周縁とディスクホイールの内周面との間の隙間が小さい場合は大きい場合より、ダストを風返し部より外側へ流れさせ難くすることができる。この意味において、隙間は小さいほどよく、10mm以下、7mm以下、5mm以下とすることが望ましい。
(10)当該ブレーキダストカバーが、前記筒状部が、ディスクブレーキのベンチレーティッド型のディスクロータの外周面の外周側に位置する姿勢で、前記非回転体に取り付けられた(1)項ないし(9)項のいずれか1つに記載のブレーキダストカバー。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施例であるダストカバーを備えたディスクブレーキ装置の断面図である。
【図2】上記ディスクブレーキ装置のダストカバー、ディスクロータの斜視図である。
【図3】ダストカバーを図1のPから見た場合の概略図である。
【図4】本発明の別の一実施例であるダストカバーを備えたディスクブレーキ装置の断面図である。
【図5】上記ダストカバーを図4のPから見た場合の概略図である。
【図6】本発明のさらに別の一実施例であるダストカバーの要部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態であるブレーキダストカバーについて図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0010】
図1に、ブレーキダストカバー(以下、単にダストカバーと略称する)10を備えたディスクブレーキ装置を示す。ダストカバー10は、図1,2に示すように、非回転体(例えば、アクスルハウジングやナックル)12に複数のボルト14等によって固定される。ダストカバー10は、泥水、小石、埃等がディスクブレーキ16に入ることを防止するためのものであり、ディスクブレーキ16より車両の幅方向の内側に取り付けられる。
【0011】
ディスクブレーキ16は、ディスクホイール20(リムにタイヤが保持されることにより車輪となる)とともに回転するディスクロータ22と、ブレーキシリンダ24が保持されたキャリパ26とを含む。
ディスクロータ22は、概して円板状を為したものであり、ベンチレーティッド式のものである。円板部の軸線方向(車輪の回転軸線方向)Lの両端面が摺動面30,32とされ、内部には、複数のフィンが設けられる。フィンにより、ディスクロータ22の内周側から外周側に貫通する複数の通風路が形成され、通風路の開口が開口34(図2参照)とされる。
ディスクロータ22、ディスクホイール20は、アクスルハブ36に固定され、アクスルハブ36が、保持部37に一対のベアリング38,39を介して相対回転可能に保持される。
キャリパ26は、ディスクロータ22を外周側から跨ぐ状態で、図示しない非回転体に取り付けられる。キャリパ26には、ブレーキシリンダ24に加えて、一対の摩擦パッド40,42が、ディスクロータ22の摩擦面30,32に対向して、軸線方向Lに相対移動可能に保持される。
ディスクホイール20はリム部62とディスク部64とを備えたものであり、リム部62に図示しないタイヤが保持され、ディスク部64において、上述のように、アクスルハブ32に相対回転不能に固定される。ディスクブレーキ16およびダストカバー10は、リム部62の内周側に、かつ、ディスク部64の車両の幅方向の内側に配設される。
【0012】
ダストカバー10は、金属材料によって製造されたものであり、円板状部70と、中空の筒状部72と、筒状部72の円板状部70とは反対側の端部から外周側に延び出した風返し部74とを有する。
ダストカバー10は、円板状部70において非回転体12に取り付けられる。その状態で、筒状部72が軸線方向Lと平行に車両の幅方向の外側に向かって延び、風返し部74が筒状部72の外側の端部から外周側に向かって延びた姿勢とされる。
円板状部70は、中心に貫通穴75が形成され、外周部の一部が切り欠かれた形状をなす。この切欠部78は、概して扇形を成す。なお、円板状部70の端面に凹凸が設けられるのは、強度を大きくしたり、他の部材との干渉を避けたりするためである。
【0013】
中空の筒状部72は、本実施例において、断面形状が円環状ではなく、円板状部70の切欠部78に対応する扇形の部分が、他の部分より外周側に突出した大径部80とされ、他の部分が小径部81とされる。大径部80と小径部81とは連続しており、大径部80の内周面と円板状部70の切欠部78の周縁とによって規定される空間は、キャリパ26を収容するためのものである。ダストカバー10,ディスクブレーキ16が取り付けられた状態において、大径部80がキャリパ26の外周面の外周側に位置し、小径部81がディスクロータ22の外周面の外周側に位置することになる。
筒状部72には、複数の半径方向の貫通穴82が設けられる。貫通穴82のうち小径部81に設けられた貫通穴82Aについて、ディスクロータ22の回転に伴って貫通穴82と開口34との重なりの程度が変化するが、貫通穴82Aは、開口34と貫通穴82Aとの重なり部が、貫通穴82Aの1/2より小さくならない大きさ、位置に設けられる。開口34と貫通穴82Aとの重なり部の面積は大きいほど望ましい。
同様に、大径部80に形成された貫通穴82Bは、キャリパ26の外周側に設けられた貫通穴84と重なる大きさ、位置に設けられる。また、キャリパ26の貫通穴84の内側において、ディスクロータ22の開口34と貫通穴82Bとの重なり部が貫通穴82Bの1/2以上となるように設けられる。
貫通穴82Aと貫通穴82Bとにおいて、大きさは、互いに同じであっても、異なっていてもよい。
また、筒状部72の大径部80,小径部81の軸線方向Lの寸法は、ディスクロータ22の厚み(摺動面30,32間の厚み)より長くされており、さらに、筒状部72の小径部81(ディスクロータ22に対向する部分)の風返し部74が設けられた側(円板状部70が設けられた側とは反対側)の端部は、僅かに内周側に曲げられて内周側突部90とされる。
【0014】
風返し部74は、筒状部72の大径部80に対応する部分92と、小径部81に対応する部分94とから成る。大径部80に対応する部分92は、キャリパ26の外周面の外周側に位置する部分を含むため、キャリパ対応部92と称し、小径部81に対応する部分92は、ディスクロータ22の外周面の外周側に位置する部分を含むためロータ対応部94と称する。キャリパ対応部92とロータ対応部94とは連続に形成される。
風返し部74のロータ対応部94,キャリパ対応部92は、いずれも、円板状部70に近づくにつれて外周側に近づく向きに傾斜し、それぞれ、傾斜角度が異なる2つの傾斜部96A,B,98A,Bを有する。傾斜部96A,Bは、それぞれ、筒状部72の小径部81,大径部80に連続する内周側の部分であり、傾斜部98A,Bは、それぞれ、傾斜部96A,Bに連続する外周側の部分である。本実施例において、2つの傾斜部96A,B,98A,Bは、概して平面状を成し、外周側傾斜部98A,Bの軸線Lに対する傾斜角度は、内周側傾斜部96A,Bの傾斜角度より小さくされている。傾斜角度は、傾斜部96A,B,98A,Bを規定する線(軸線方向Lに延びた線)と軸線Lとの成す角度である。
ロータ対向部94(内周側傾斜部96Aと外周側傾斜部98Aとを含む)において、内周側傾斜部96Aの軸線Lに対する傾斜角度はほぼ60°とされ、外周側傾斜部98Aの傾斜角度はそれより小さくされる。また、図1に示すように、ロータ対向部94の半径方向の寸法L1は、円板状部70の半径L0の約0.25倍とされる。
キャリパ対向部92(内周側傾斜部96Bと外周側傾斜部98Bとを含む)の内周側傾斜部96Bの軸線Lに対する傾斜角度は、ロータ対向部94の内周側傾斜部96Aの軸線Lに対する傾斜角度より小さくされている。これは、ディスクホイール20の大きさの制約を受けるからである。キャリパ26の外周面とディスクホイール20のリム部62の内周面との間の隙間において、許容される範囲内で、内周側傾斜部96Bと外周側傾斜部98Bとの傾斜角度が決められる。
なお、外周側傾斜部98A,Bの外周縁100は、円板状部70の中心を中心とする同一円周上に位置し、外周縁100とリム部62の内周面との間の隙間Hは、ディスクホイール20とダストカバー10との相対回転を許容する範囲で、できる限り小さくすることが望ましい。例えば、10mm以下、5mm以下等とすることができる。
また、図1に示すように、風返し部74の軸方向Lの寸法が、筒状部72の寸法より大きくされており、長さMが、筒状部72の軸方向の寸法の約0.20倍とされる。外周縁100は、円板状部70の端面Fより長さMだけ、車両の幅方向の内側に延び出すことになる。
【0015】
以上のように構成されたディスクブレーキ装置において、ダストカバー10が、円板状部70において、非回転体12に複数のボルト14等により固定される。ダストカバー10の車両の幅方向の外側にディスクロータ22が配設され、キャリパ26が取り付けられ、ディスクホイール20等が取り付けられる。ディスクロータ22の外径は内側突出部90の内径よりわずかに大きいが、内側突出部90の弾性変形により、ディスクロータ22を軸線方向Lから筒状部72の内周側に組み付けることが可能である。
走行中、車両には、幅方向の内側から外側に向かって風が流れるようにされている。また、車輪の回転による遠心力により、風は、ディスクロータ22の内周側から外周側に向かって流れ、開口34から吹き出す。その風により、ディスクブレーキ16の作動(ディスクロータ22の摺動面30,32と摩擦パッド40,42との摺動)により生じたブレーキダスト(以下、ダストと略称する)も外周側に吹き出す。
【0016】
例えば、ダストカバーが、円板形状を成したもの(筒状部、風返し部を有しない形状を成したもの)である場合には、ディスクロータ22の開口34が開放されているため、ディスクロータ22を良好に冷却することができる。しかし、ブレーキ作動時に生じたダストも、車両の内側から外側に向かう風により、ディスクホイール20のディスク部64の裏面(車両の幅方向の内側の面)に付着したり、外側に飛散したりして、ディスクホイール20が汚れる。特に、金属粉(ディスクロータ22の摩耗により生じる)が付着して錆びると、汚れがひどくなる。
【0017】
それに対して、本実施例におけるブレーキダストカバー10は、円板状部70,筒状部72,風返し部74を備えたものであるが、筒状部72には複数の貫通穴82が形成されている。そのため、ディスクロータ22の開口34,キャリパ26の貫通穴84を塞ぐことがない。また、ディスクロータ22の摺動面30は開放されたままである(ダストカバー10によって覆われることがない)。その結果、従来のダストカバーと同様の冷却効果を得ることができる。
また、風返し部74が設けられるため、ダストが生じ、外周側に向かって吹き出しても、車両の外側へ向かって流れることを防止することができる。ダストがディスク部64の裏面102に付着したり、外側へ飛散したりすることを防止し、ディスクホイール20が汚れ難くすることができる。
さらに、風返し部74が、傾斜角度が大きい内周側傾斜部96と、それより傾斜角度が小さい外周側傾斜部98とを有するため、より、一層、ダストを車両の内側に向けて流れさせることができる。また、内周側突部90が設けられているため、ダストがディスクロータ22の外側へ飛散することを防止することができる。
【0018】
一方、特許文献1に記載のように、ディスク部64の内周面102にダストカバーを取り付ける場合には、ダストカバーを取り付ける場合の固定具(ボルトおよびナット等)が必要となる。また、ダストカバーを取り付けるための工程が必要となる。
それに対して、本実施例におけるダストカバー10は、たいていの車両に取り付けられるものである。そのため、部品点数を増やしたり、組付工数を増やしたりすることなく、良好にディスク部64の汚れを防止することが可能となる。
また、特許文献2に記載のように、ディスクロータ22の両側にダストカバーを配設する場合に比較して、軽量化を図ることができる。
【実施例2】
【0019】
なお、上記実施例においては、ダストカバー10が一体に設けられたが、複数の部材から構成されたものとすることができる。例えば、図4,5に示すように、ダストカバー150のうち、筒状部と風返し部とが、それぞれ、キャリパ26に固定される部分であるキャリパ固定部152と、円板状部70と連続して設けられた円板状部固定部(ディスクロータ22に対向する部分を含む)154とを含むものとされる。キャリパ固定部152と円板状部固定部154とは、これらの間に隙間がない状態で設けられる。
キャリパ固定部152、円板状部固定部154は、それぞれ、筒状部の一部を成す第1筒状分割部156,第2筒状分割部158と、風返し部の一部を成す第1風返し分割部160,第2風返し分割部162とを含む。キャリパ固定部152においては、第1筒状分割部156において、図しないボルト等によりキャリパ26に固定される。第1筒状分割部156、第2筒状分割部158には、それぞれ、上記実施例における場合と同様に、貫通穴164A,Bが形成される。
また、本実施例においては、第1風返し分割部160の軸方向の寸法が、第2風返し分割部162の軸方向の寸法より大きくされている。すなわち、第1風返し分割部160の外周縁170と第2風返し分割部162の外周縁172との半径は同じである(円板状部70の中心からの距離は同じである)が、外周縁170の方が軸線方向Lの内側まで延び出している。図4において、外周縁170の円板状部70の端面Fからの長さNが、外周縁172の端面Fからの長さN′より大きくされているのである。その結果、キャリパ26の外周面の貫通穴84から外周側に吹き出すダストを、より確実に車両の内側へ流れさせることが可能となる。
なお、キャリパ固定部152において、第1筒状分割部156は不可欠ではない。キャリパ26に直接第1風返し分割部160を取り付けることもできる。
【実施例3】
【0020】
また、図6に示すように、筒状部72において、貫通穴82A,Bの円周方向の端面にリブ190を設けることもできる。それによって、筒状部72の強度を大きくすることができ、貫通穴82A,Bの開口面積を大きくすることが可能となる。
さらに、筒状部、風返し部をディスクロータ22,キャリパ26の外周面すべてに対応して連続して設けることは不可欠ではない。例えば、キャリパ26に対応する部分にのみ設けても風返し部が設けられない場合に比較して、ダストが車両の外側に流れ難くすることができ、ディスク部64が汚れ難くすることができる。
また、ダストカバーは樹脂材料で製造されたものとすることができる。
さらに、上記実施例においては、ダストカバーがディスクブレーキ装置に用いられる場合について説明したが、ドラムブレーキ装置に適用することもできる。
以上、複数の実施例を記載したが、本発明は、前述に記載の態様の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0021】
10,150:ダストカバー 70:円板状部 72:筒状部 74:風返し部 82:貫通穴 96,98:傾斜部 152:キャリパ固定部 154:円板状部固定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の非回転体に取り付けられたブレーキダストカバーであって、
円板状部と、
中空の筒状部と、
その筒状部の、前記円板状部とは反対側から外周側に延び出した風返し部と
を含むブレーキダストカバー。
【請求項2】
前記筒状部に、貫通穴が複数、互いに間隔を隔てて形成された請求項1に記載のブレーキダストカバー。
【請求項3】
前記風返し部が、前記筒状部に沿って、前記円板状部が設けられた側に向くにつれて外周側に位置する向きに傾斜する形状を成し、かつ、前記風返し部の半径方向の寸法が、前記円板状部の半径の0.05倍以上0.4倍以下とされた請求項1または2に記載のブレーキダストカバー。
【請求項4】
当該ブレーキダストカバーがディスクホイールの内周側に配設され、前記風返し部の外周縁と前記ディスクホイールの内周面との間の隙間が10mm以下とされた請求項1ないし3のいずれか1つに記載のブレーキダストカバー。
【請求項5】
当該ブレーキダストカバーが、前記筒状部がディスクブレーキのベンチレーティッド型のディスクロータの外周面の外周側に位置する姿勢で、前記非回転体に取り付けられた請求項1ないし4のいずれか1つに記載のブレーキダストカバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−159849(P2010−159849A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−3477(P2009−3477)
【出願日】平成21年1月9日(2009.1.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】