説明

ブレーキパッド用リテーナスプリング

【課題】 比較的簡単かつ低コストな構成でありながら、ブレーキパッドをディスクロータから離間させる方向へ弾性付勢するようにしたブレーキパッド用リテーナスプリングであって、長期間走行後においても、良好にブレーキパッドをディスクロータから離間させることができるようにして、ブレーキパッドの引き摺りの発生を抑制して騒音や燃費等の改善に貢献する。
【解決手段】 本発明は、車輪1と共に回転するディスクロータ2を挟んで両側に対向配置されるブレーキパッド9をディスクロータ方向に押圧することで制動するようにしたディスクブレーキ装置に備えられ、ブレーキパッド9のバックプレート9bと当接してブレーキパッド9をディスクロータ2から離間する方向に弾性付勢するブレーキパッド用リテーナスプリング100であって、ブレーキパッド9のバックプレート9bとの当接面に低摩擦材皮膜が形成されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキ装置においてブレーキパッドを所定位置に保持するためのブレーキパッド用リテーナスプリングに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のディスクブレーキ装置としては、例えば、特許文献1に記載されているようなものがある。
【0003】
この種のディスクブレーキ装置は、図1、図2に示すように、一対のブレーキパッド9(9A、9B)が、車輪1と一体回転するディスクロータ2を回転軸方向両側から挟むように対向配置されつつ、ディスクロータ2に向けて摺動可能にキャリパ支持ブラケット(トルクメンバ)3に支持されている。
【0004】
キャリパ支持ブラケット(トルクメンバ)3は、図3に示したように、車輪1の回転軸方向から見て略コ字状を有し底部3Aがボディ側(サスペンション)に固定されると共に、略コ字状の両側のアーム部3Bによって、ブレーキパッド9の両側の耳部9cを、車輪1の回転軸方向に対して摺動自在に、かつ他の方向に対して所定の隙間(遊び)を持って支持するように構成されている。
【0005】
図1に示すように、キャリパ支持ブラケット(トルクメンバ)3に支持されている外側(車輪側)のブレーキパッド9Aは、その背面(ディスクロータ2の反対側)を図2の平面において下向き略コ字状のキャリパ5のアーム部5Aにより回転軸方向への移動を規制されつつ支持されている。
【0006】
また、キャリパ支持ブラケット(トルクメンバ)3に支持されている内側(サスペンション側、車体側)のブレーキパッド9Bは、その背面(ディスクロータ2の反対側)を、キャリパ5のシリンダ6に摺動自在に収容されているピストン7により押圧されるようになっている。
【0007】
なお、キャリパ5は、スライドピン4により回転軸方向に対して摺動自在にキャリパ支持ブラケット(トルクメンバ)3に支持されている。
【0008】
シリンダ6にはブレーキフルードが充填されていて、車両の運転者のブレーキペダル操作によりブレーキフルードが押し込まれることで、ピストン7が外側(車輪1側)へ押し出されるようになっている。
【0009】
このように、ブレーキ操作に応じてピストン7が外側(車輪1側)へ押し出されると、これに連動して内側のブレーキパッド9Bの背面をピストン7が押圧するため、内側のブレーキパッド9Bはディスクロータ2の摩擦摺動面(ボディ側)に押し付けられることになる。
【0010】
この一方で、内側のブレーキパッド9Bがディスクロータ2の摩擦摺動面2Bに押し付けられる反力によって、キャリパ5はスライドピン4に沿ってサスペンション側(車体側)に移動されるため、キャリパ5のアーム部5Aによりその背面が支持されている外側(車輪側)のブレーキパッド9Aは、ディスクロータ2の摩擦摺動面2A(車輪側)に押し付けられることになる。
【0011】
このようにキャリパ5がスライドピン4に沿ってキャリパ支持ブラケット(トルクメンバ)3に対して相対移動可能であることから、制動時には、ディスクロータ2の摩擦摺動面の両側をブレーキパッド9A,9Bにより均等に押圧することができ、また、ブレーキパッド9やディスクロータ2の摩擦摺動面が摩耗等して厚さが経時変化しても、自動的に、ディスクロータ2に対する両側のブレーキパッド9の回転軸方向におけるセンター出しがなされて長期に亘って良好な制動力を得ることができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−271064号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ここで、ブレーキパッド9(9A、9B)は、図7に示したように、図7中左右一対の耳部9cにより、キャリパ支持ブラケット(トルクメンバ)3に回転軸方向(図7平面に略直交する方向)に摺動自在に支持されるが、耳部9cと、耳部9cを摺動自在に収容するキャリパ支持ブラケット(トルクメンバ)3の凹部3Cと、の間には、リテーナスプリング10が介装されている。
【0014】
このリテーナスプリング10は、ブレーキパッド9(9A、9B)のキャリパ支持ブラケット(トルクメンバ)3に対する遊動を規制しつつ所定位置にブレーキパッド9(9A、9B)をポジショニングすると共に、リテーナスプリング10の舌状部11により耳部9cを介してブレーキパッド9(9A、9B)をディスクロータ2から離間させる方向に弾性付勢することで、非制動状態ではブレーキパッド9(9A、9B)とディスクロータ2の摩擦摺動面との間に所定のクリアランスを確保して、ブレーキパッドの引き摺りなどを抑制することができる仕組みになっている。
【0015】
しかしながら、ある程度使用をした後においては、制動後に、ブレーキパッド9(9A、90B)がディスクロータ2の摩擦摺動面2A、2Bから所定のクリアランスが保たれる位置まで戻ることができず、ディスクロータ2により引き摺られる現象が顕著となり、引き摺り音が大きくなると共に、回転抵抗が大きくなって燃費等の悪化の原因となるおそれがある。
【0016】
市場において、このようなブレーキパッドの引き摺りに起因する騒音や燃費等の悪化を改善することができれば、環境に優しい車両の提供に貢献し得る。
【0017】
本発明は、かかる実情に鑑みなされたものであり、比較的簡単かつ低コストな構成でありながら、ブレーキパッドをディスクロータから離間させる方向へ弾性付勢するようにしたブレーキパッド用リテーナスプリングであって、長期間走行後においても、良好にブレーキパッドをディスクロータから離間させることができるようにして、ブレーキパッドの引き摺りの発生を抑制することができると共に騒音や燃費等の改善に貢献可能なブレーキパッド用リテーナスプリングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
このため、本発明に係るブレーキパッド用リテーナスプリングは、
車輪と共に回転軸周りに回転するディスクロータを挟んで両側に対向配置されるブレーキパッドをディスクロータ方向に押圧することで制動するようにしたディスクブレーキ装置に備えられ、ブレーキパッドのバックプレートとの当接面を介してブレーキパッドをディスクロータから離間する方向に弾性付勢するブレーキパッド用リテーナスプリングであって、
ブレーキパッドのバックプレートとの前記当接面の少なくとも一部に低摩擦材が適用されたことを特徴とする。
【0019】
本発明において、前記低摩擦材が、DLC(Diamond−Like Carbon)皮膜であることを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、比較的簡単かつ低コストな構成でありながら、ブレーキパッドをディスクロータから離間させる方向へ弾性付勢するようにしたブレーキパッド用リテーナスプリングであって、長期間走行後においても、良好にブレーキパッドをディスクロータから離間させることができるようにして、ブレーキパッドの引き摺りの発生を抑制することができると共に騒音や燃費等の改善に貢献可能なブレーキパッド用リテーナスプリングを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態に係るディスクブレーキ装置の全体構成を概略的に示した側面図(車輪の回転軸に略直交する方向から見た図)である。
【図2】図1のディスクブレーキ装置を図1下方から見た図である。
【図3】図1のディスクブレーキ装置を車輪側から見た図であって、車体側のブレーキパッドとキャリパ支持ブラケットを抜き出して示した図である(図中右側のリテーナスプリングの舌状部の図示は省略されている)。
【図4】同上実施の形態に係るディスクブレーキ装置に用いられるリテーナスプリングの一例を示す斜視図である。
【図5】同上実施の形態に係るディスクブレーキ装置に用いられるリテーナスプリングがブレーキパッドを非制動時に押し戻す動作について説明するための図である。
【図6】同上実施の形態に係るディスクブレーキ装置に用いられるリテーナスプリングの他の一例を示す斜視図である。
【図7】従来のディスクブレーキ装置を車輪側から見た図であって、車体側のブレーキパッドとキャリパ支持ブラケットを抜き出して示した図である(図中右側のリテーナスプリングの舌状部の図示は省略されている)。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る一実施の形態を、添付の図面を参照しつつ説明する。なお、以下で説明する実施の形態により、本発明が限定されるものではない。
【0023】
本実施の形態に係るディスクブレーキ装置は、図1、図2に示すように、一対のブレーキパッド9(9A、9B)が、車輪1と一体回転するディスクロータ2の摩擦摺動面(2A、2B)を回転軸方向両側から挟むように対向配置されつつ、ディスクロータ2に向けて摺動可能にキャリパ支持ブラケット3に支持されている。
【0024】
キャリパ支持ブラケット3は、図3に示すように、車輪1の回転軸方向から見て略コ字状に形成され底部3Aがボディ(サスペンション)側に固定されている。
また、キャリパ支持ブラケット3の略コ字状の両側のアーム部3Bに設けられた凹部3Cよって、ブレーキパッド9の両側の耳部9cを、車輪1の回転軸方向に対して摺動自在に、かつ他の方向に対して所定の隙間(遊び)を持って支持するように構成されている。
【0025】
なお、ブレーキパッド9(9A、9B)は、ディスクロータ2の摩擦摺動面2A,2Bと当接して制動力を発生させる摩擦材9aと、該摩擦材9aを貼着支持している金属製のバックプレート9bと、を含んで構成されている。バックプレート9bの両端には、上述した耳部9cが突設されていて、かかる図3中左右一対の耳部9cを、キャリパ支持ブラケット3のアーム部3Bに設けられた凹部3Cよってそれぞれ支持することで、ブレーキパッド9(9A、9B)は、車輪1の回転軸方向(図3平面に略直交する方向)に対して摺動自在に、かつ他の方向に対して所定の隙間(遊び)を持って支持されることになる。
【0026】
キャリパ支持ブラケット3に支持されている外側(車輪側)のブレーキパッド9Aは、その背面(ディスクロータ2の反対側)を図2の平面において下向き略コ字状のキャリパ5のアーム部5Aにより回転軸方向への移動を規制されつつ支持されている。
【0027】
また、キャリパ支持ブラケット3に支持されている内側(サスペンション側、車体側)のブレーキパッド9Bは、図2に示すように、その背面((ディスクロータ2の反対側)を、キャリパ5のシリンダ6に摺動自在に収容されているピストン7により押圧されるようになっている。
【0028】
なお、キャリパ5は、スライドピン4により回転軸方向に対して摺動自在にキャリパ支持ブラケット3に支持されている。
【0029】
シリンダ6にはブレーキフルードが充填されていて、車両の運転者のブレーキペダル操作によりブレーキフルードがシリンダ6内に更に押し込まれることにより、ピストン7が外側(車輪1側)へ押し出されるようになっている。
【0030】
このように、ブレーキ操作に応じてピストン7が外側(車輪1側)へ押し出されると、これに連動して内側のブレーキパッド9Bの背面をピストン7が押圧してブレーキパッド9Bをディスクロータ2側へ移動させるため、内側のブレーキパッド9Bはディスクロータ2の摩擦摺動面2B(ボディ側)に押し付けられることになる。
【0031】
この一方で、内側のブレーキパッド9Bがディスクロータ2の摩擦摺動面2Bに押し付けられる反力によって、キャリパ5はスライドピン4に沿ってボディ側に移動されるため、キャリパ5のアーム部5Aによりその背面が支持されている外側(車輪側)のブレーキパッド9Aは、ディスクロータ2の摩擦摺動面2A(車輪1側)に押し付けられることになる。
【0032】
このようにキャリパ5がスライドピン4に沿ってキャリパ支持ブラケット3に対して相対移動可能であることから、制動時には、ディスクロータ2の摩擦摺動面(2A、2B)の両側をブレーキパッド9A,9Bにより均等に押圧することができ、また、ブレーキパッド9やディスクロータ2の摩擦摺動面(2A、2B)が摩耗等しても、自動的に、ディスクロータ2に対する両側のブレーキパッド9の回転軸方向におけるセンター出しがなされて長期に亘って良好な制動力を得ることができることになる。
【0033】
ここで、ブレーキパッド9(9A、9B)は、その耳部9cにより、キャリパ支持ブラケット3に回転軸方向に摺動自在に支持されるが、本実施の形態では、耳部9cと、キャリパ支持ブラケット3の凹部3Cと、の間に、リテーナスプリング100が介装されている。
【0034】
本実施の形態に係るリテーナスプリング100は、ブレーキパッド9(9A、9B)のキャリパ支持ブラケット3に対する遊動を規制しつつ所定位置にブレーキパッド9(9A、9B)をポジショニングすると共に、耳部9cを介してブレーキパッド9(9A、9B)をディスクロータ2から離間させる方向に付勢することで、非制動状態ではブレーキパッド9(9A、9B)とディスクロータ2の摩擦摺動面2A、2Bとの間に所定のクリアランスを確保して、ブレーキパッドの引き摺りなどを抑制することができるように構成されている。
【0035】
ここで、既述したように、ある程度使用した後においては、制動後に、ブレーキパッド9(9A,9B)がディスクロータ2の摩擦摺動面2A,2Bから所定のクリアランスが保たれる位置まで戻ることができず、ディスクロータ2により引き摺られる現象が顕著となり、引き摺り音が大きくなると共に、回転抵抗が大きくなって燃費等の悪化の原因となるおそれがある。
【0036】
このようなことから、本発明者等は、種々の検討、実験、研究を重ね、その結果、かかるブレーキパッドの引き摺りは、以下のような原因により生じることを解明した。
【0037】
すなわち、リテーナスプリング100は、例えば、図4に示すような形状を有しており、図3等に示すように、耳部9cと、キャリパ支持ブラケット3の凹部3Cと、の間に介装されたときに、図5に示すように、内側のブレーキパッド9Aについては離間方向(内側(ボディ側)方向)に舌状部110Aが耳部9cを押し戻す一方で、外側のブレーキパッド9Bについては離間方向(外側(車輪側)方向)に舌状部110Bが耳部9cを押し戻すことで、ブレーキパッド9(9A、9B)をディスクロータ2から所定のクリアランスを確保できるように離間させるようになっている。
【0038】
このブレーキパッド9(9A、9B)をディスクロータ2から離間させる方向への押し戻し力は、図5中の矢印Xに示すようなリテーナスプリング100の舌状部110A,110Bによる耳部9cへの弾性付勢力により提供されている。
【0039】
なお、新品のときには、制動時におけるブレーキパッド9(9A、9B)のディスクロータ2方向への接近動作の後、制動終了後には、リテーナスプリング100の舌状部110A,110Bの弾性付勢によって、耳部9cは舌状部110A,110B上を円滑に移動(摺動)して、ブレーキパッド9(9A、9B)をディスクロータ2から所定に離間させる位置まで移動することができる。なお、ピストン7の制動後の原位置への戻しは、ゴムシール8の復元力によりなされる。
【0040】
しかしながら、ある程度走行をした後には、リテーナスプリング100の舌状部110A,110Bの弾性付勢力にあまり大きな変化がなくても、制動終了後に、耳部9cは舌状部110A,110B上を円滑に移動することができず、以ってブレーキパッド9(9A、9B)をディスクロータ2から所定に離間させることができないことが確認された。
【0041】
このことは、制動及び制動解放の繰り返しにより、耳部9cと、舌状部110A,110Bと、の当接部に異物等が混入したり摩耗等が生じるなどして、耳部9cが舌状部110A,110Bとの間の摩擦が大きくなり、リテーナスプリング100の舌状部110A,110Bの弾性付勢力では、耳部9cが舌状部110A,110B上を円滑に移動することができなくなってしまうことに起因しているものと考えられる。
【0042】
なお、リテーナスプリング100の舌状部110A,110Bの弾性付勢力を増すことも想定されるが、段差摩耗等が生じてしまったような場合には必要な弾性付勢力も大きなものとなることが想定され、リテーナスプリング100は板バネであるため弾性付勢力を増すことにも限界がある。
【0043】
このため、本実施の形態では、リテーナスプリング100の舌状部110A,110Bのブレーキパッド9(9A、9B)の耳部9cとの当接面に、DLC(Diamond−Like Carbon)皮膜を形成することとした。
【0044】
DLC皮膜は、イオンを利用した気相合成法により合成されるダイヤモンドに類似した高硬度・電気絶縁性・赤外線透過性などを持つ炭化物系皮膜で、主として炭化水素、あるいは、炭素の同素体から成る非晶質(アモルファス)の硬質膜である。DLC皮膜は、薄膜にもかかわらず、非常に固い膜を作ることができ、一般的に、窒化処理の3〜7倍、TiNに対しても2〜4倍以上の硬度を有する(但し、硬度は、DLCの成膜法によって変化する)。
【0045】
また、DLC皮膜の摩擦係数は、乾燥状態の摺動では鉄同士の摩擦係数に対しDLC−鉄で半減、潤滑剤の存在下においても、鉄同士に対して25%程度に近くなるなど、非常に低い摩擦係数の実現が可能である。
【0046】
なお、本実施の形態では、例えば、プラズマCVD法或いはPVD法により、DLC皮膜を10μm以下(好ましくは、0.1〜3μm程度)の厚さに形成している。
【0047】
但し、DLC皮膜に限らず、他の硬質で低摩擦な皮膜(薄膜)を形成することができる。例えば、CrC(炭化クロム)皮膜(薄膜)、CrN(窒化クロム)皮膜(薄膜)、更には、これらを組み合わせた皮膜を形成することもできる。例えば、下層をCrC皮膜として上層をDLC皮膜としたものや、下層をCrN皮膜として上層をDLC皮膜とすることができる。
【0048】
このように、本実施の形態によれば、リテーナスプリング100の舌状部(110A,110B)のブレーキパッド9(9A、9B)の耳部9cとの当接面に、DLC皮膜を形成するようにしたので、当接面における摩擦係数を大幅に低減することができると共に、当接面の硬度の向上により摩耗を低減することができるため、従来のように、制動及び制動解放の繰り返しにより、耳部9cと、舌状部110A,110Bと、の当接部に異物等が混入したり摩耗等が生じるなどして、耳部9cが舌状部110A,110Bとの間の摩擦が大きくなり、リテーナスプリング100の舌状部110A,110Bの弾性付勢力では、耳部9cが舌状部110A,110B上を円滑に移動することができなくなってしまうといった現象の発生を効果的に抑制することができる。
【0049】
すなわち、本実施の形態によれば、長期間使用した後においても、制動終了後に、ブレーキパッド9(9A、9B)の耳部9cが、リテーナスプリング100の舌状部110A,110Bの弾性付勢力の作用によって、リテーナスプリング100の舌状部110A,110B上を円滑に移動することができることになる。
【0050】
このため、本実施の形態によれば、長期間使用した後においても、制動終了後に、ブレーキパッド9(9A、9B)をディスクロータ2から良好に離間させて所定のクリアランスを確保することができるので、ディスクロータ2によるブレーキパッドの引き摺りの発生を抑制することができ、以って引き摺り音の発生を抑制することができると共に回転抵抗の増大に伴う燃費等の悪化を抑制することができる。
【0051】
すなわち、本実施の形態によれば、比較的簡単かつ低コストな構成でありながら、ブレーキパッドをディスクロータから離間させる方向へ弾性付勢するようにしたブレーキパッド用リテーナスプリングであって、長期間走行後においても、良好にブレーキパッドをディスクロータから離間させることができるようにして、ブレーキパッドの引き摺りの発生を抑制することができると共に騒音や燃費等の改善に貢献可能なブレーキパッド用リテーナスプリングを提供することができる。
【0052】
なお、板バネからなるブレーキパッド用リテーナスプリングのブレーキパッドとの当接面にDLC皮膜を形成するが、その際に、下地処理として、例えば、WPC処理を施すことで、板バネ材(母材)とDLC皮膜との密着度合いを高めることも可能である。
【0053】
WPC処理とは、「微粒子ピーニング」、「精密ショットピーニング」、「FPB(Fine Particle Bombarding)」などと称される表面処理で、金属製品の表面に、目的に応じた材質の微粒子を圧縮性の気体に混合して高速衝突させる表面改質処理である。かかるWPC処理においては、処理対象物の最表面で急熱・急冷が繰り返される一方で、材料表面の局所領域に多方向・多段・非同期の強加工が導入されることにより、微細で靭性に富む緻密な組織が形成され、高硬度化して表面を強化すると同時に、表面性状を微小ディンプルへ変化させることによって摩擦摩耗特性を向上させることができる。そのため、機械部品・切削工具・金型等の強度と機能を向上させる、或いは上層に皮膜を形成する場合などにおいて微小ディンプルにより皮膜の密着度合いの改善などが期待できる。
【0054】
本実施の形態では、制動終了後に、リテーナスプリング110の舌状部110A,110Bの弾性付勢力の作用によって、ブレーキパッド9(9A、9B)の耳部9cを、リテーナスプリング100の舌状部110A,110B上を円滑に移動させて、ブレーキパッド9(9A、9B)をディスクロータ2から良好に離間させて所定のクリアランスを確保するようにした場合を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、特開2009−228831号公報の図1〜図6に記載されているように、ブレーキ解放時に、パッドグリップ(リテーナスプリング)16の延出部26に生じていた捻れ力(弾性力)がパット戻し力となって、パッド案内部36によりブレーキパッドの耳部をローターディスクから離間させる方向に付勢するような構成にも適用可能である。
すなわち、ブレーキパッドとの当接面を介してブレーキパッドにディスクロータから離間させる方向に弾性付勢するリテーナスプリングの、その当接面にDLC処理などの低摩擦材を適用するものは、本発明の範囲に含まれるものである。
【0055】
なお、低摩擦材が、ディスクロータ2の摩擦摺動面へ付着すると制動力が失われるおそれがあるため、低摩擦材の適用はスプレーや塗布などによる所謂コーティングなどによるものではなく、リテーナスプリングに対して密着力の高い各種蒸着、イオプレーティング、メッキ、スパッタリンングなどにより薄膜(皮膜)を形成するなどの方法により、低摩擦材をリテーナスプリングに適用することが好ましい。
【0056】
ところで、本実施の形態では、図1〜図3に示したような片押し式或いは浮動式キャリパを利用したディスクブレーキ装置に備えられるブレーキパッド用リテーナスプリング100を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、対向ピストン式のキャリパを備えたディスクブレーキ装置のブレーキパッド用リテーナスプリングにも適用可能である。
すなわち、ブレーキパッドのバックプレートと当接してブレーキパッドをディスクロータから離間する方向に弾性付勢するブレーキパッド用リテーナスプリングであって、ブレーキパッドのバックプレートとの当接面に低摩擦材が適用されたものであれば、ディスクブレーキ装置の方式や形式に拘らず、本発明の範囲に含まれるものである。
【0057】
なお、本発明において、低摩擦材のブレーキパッド用リテーナスプリングへの適用範囲は、ブレーキパッドのバックプレートとの当接面全体(全面)に限定されるものではなく、当接面の一部に適用する場合も、本発明の範囲に含まれるものである。
また、ブレーキパッド用リテーナスプリングのブレーキパッドのバックプレートとの当接面以外の部分へ低摩擦材が適用されている場合にも、当接面の少なくとも一部に低摩擦材が適用されている限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0058】
本発明は、上述した発明の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々変更を加え得ることは可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 車輪
2 ディスクロータ
2A 摩擦摺動面(外側)
2B 摩擦摺動面(内側)
3 キャリパ支持ブラケット
3C 凹部(ブレーキパッドの耳部収容部)
5 キャリパ
7 ピストン
9 ブレーキパッド
9A ブレーキパット(外側)
9B ブレーキパット(内側)
9a 摩擦材
9b バックプレート
9c 耳部
100 リテーナスプリング
110A 舌状部
110B 舌状部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪と共に回転軸周りに回転するディスクロータを挟んで両側に対向配置されるブレーキパッドをディスクロータ方向に押圧することで制動するようにしたディスクブレーキ装置に備えられ、ブレーキパッドのバックプレートとの当接面を介してブレーキパッドをディスクロータから離間する方向に弾性付勢するブレーキパッド用リテーナスプリングであって、
ブレーキパッドのバックプレートとの前記当接面の少なくとも一部に低摩擦材が適用されたことを特徴とするブレーキパッド用リテーナスプリング。
【請求項2】
前記低摩擦材が、DLC皮膜であることを特徴とする請求項1に記載のブレーキパッド用リテーナスプリング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−108532(P2013−108532A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252151(P2011−252151)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(506146909)株式会社不二WPC (8)
【Fターム(参考)】