ブレーキ制御装置
【課題】 騒音や振動を目立たせずフィーリングを良好な状態に保ちつつ、リザーバに残留するブレーキ液を排出できるブレーキ制御装置を提供する。
【解決手段】 アンチスキッド制御を行うコントロールユニット12は、アンチスキッド制御の作動によりリザーバ内に蓄積されたブレーキ液の残留状態を推定する残留液推定部12aと、残留液推定部12aでリザーバ7内にブレーキ液有りと判定した場合、ブレーキ操作時にモータを起動し、残留ブレーキ液を排出する残留液排出部12bと、を備える。
【解決手段】 アンチスキッド制御を行うコントロールユニット12は、アンチスキッド制御の作動によりリザーバ内に蓄積されたブレーキ液の残留状態を推定する残留液推定部12aと、残留液推定部12aでリザーバ7内にブレーキ液有りと判定した場合、ブレーキ操作時にモータを起動し、残留ブレーキ液を排出する残留液排出部12bと、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制動時に車輪がロックするのを防止すべく制動液圧を制御する、いわゆるアンチスキッド制御を実行するブレーキ制御装置に係り、特に、アンチスキッド制御によりリザーバに残留するブレーキ液を排出する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アンチスキッド制御の終了後にリザーバ内にブレーキ液が残留している場合、次回車両発進時、走行時および加速時等の非定常走行時に電動モータを作動して残留ブレーキを排出する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2005−262997号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来技術は、非定常走行時にエンジン音やロードノイズが大きくなることを利用してモータ作動音をドライバに聞こえにくくするものであるが、エンジン音やロードノイズの低減が著しい近年では、振動や騒音が目立ちフィーリングの悪化を招くという問題があった。
【0004】
本発明の目的は、騒音や振動を目立たせずフィーリングを良好な状態に保ちつつ、リザーバに残留するブレーキ液を排出できるブレーキ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明のブレーキ制御装置では、リザーバ内にブレーキ液有りと判定した場合、ブレーキ操作時に電動モータを起動し、残留ブレーキ液を排出する。
【発明の効果】
【0006】
よって、本発明にあっては、騒音や振動を目立たせずフィーリングを良好な状態に保ちつつ、リザーバに残留するブレーキ液を排出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明のブレーキ制御装置を実現するための最良の形態を、図面に基づく実施例により説明する。
【実施例1】
【0008】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1のブレーキ制御装置を適用した車両の構成図である。
液圧制御ユニット3は、通常、ドライバのブレーキペダル操作量に応じて、左前輪2FL、右前輪2FR、左後輪2RL、右後輪2RRの各ホイルシリンダW/Cにブレーキ液圧を供給する。また、制動制御時には、コントロールユニット(アンチスキッド制御手段,制動力配分制御手段)12からの指令に基づいて各ホイルシリンダW/Cの各ブレーキ液圧の保持、増圧または減圧を行う。
【0009】
コントロールユニット12には、車輪速度センサ13(車両状態判定手段であって、左前車輪速度センサ13FL、右前車輪速度センサ13FR、左後車輪速度センサ13RL、右後車輪速度センサ13RRから構成される)からの信号と、電源電圧を検出する電源電圧センサ14からの信号と、図外のCAN通信線を介してスロットル開度、エンジン回転数、車両前後加速度等の車両情報とが入力される。
コントロールユニット12は、各情報に基づいて、制動制御の実施を判断し、制動制御中は、液圧制御ユニット3に対するホイルシリンダ液圧の保持、増減圧指令を生成する。このコントロールユニット12は、残留液推定部(残留液推定手段)12aと残留液排出部(残留液排出手段)12bとを備える。これらの動作については後述する。
【0010】
図2は、実施例1の液圧制御ユニット3の油圧回路図である。
油圧源としてのマスタシリンダM/Cは、4輪のホイルシリンダW/Cに2系統のブレーキ回路1,1を介して接続されている。
【0011】
各ブレーキ回路1は、分岐点1dにおいてそれぞれ2つのホイルシリンダW/Cに分岐され、また、この分岐点1dの下流(ホイルシリンダW/C側)に増圧弁5,5が設けられている。これら増圧弁5は、非作動時にスプリング力により開弁状態となり、作動時(通電時)に閉弁となる常開の2ポート2ポジションのON/OFF式のソレノイドバルブにより構成されている。
【0012】
また、各増圧弁5には、制動操作を終了したときにホイルシリンダW/Cから円滑にブレーキ液を戻すためのバイパス路1hが並列に設けられ、このバイパス路1hに、下流(ホイルシリンダ側W/C側)から上流(マスタシリンダM/C側)への戻りのみを許す一方弁1gが設けられている。
【0013】
また、各増圧弁5の下流には、ブレーキ回路1とリザーバ7とを連通させるドレン回路10が接続されている。そして、これらドレン回路10に減圧弁6が設けられている。これら減圧弁6は、非作動時に閉弁し、作動時に開弁する常閉の2ポート2ポジションのON/OFF式のソレノイドバルブにより構成されている。
【0014】
前記ドレン回路10は、還流回路11を介して分岐点1dよりも上流位置に接続されている。そして、前記還流回路11の途中にリザーバ7に貯留されているブレーキ液をブレーキ回路1に戻すポンプ4が設けられている。よって、前記還流回路11は、吸入回路11aと吐出回路11bとで構成されるものである。
【0015】
前記ポンプ4は、電動モータMにより回転されるカム4cにより対向して配置された1組のプランジャ41が往復ストロークすることで、吸入回路11aからブレーキ液を吸入し、吐出回路11bへブレーキ液を吐出させる構成であり、逆流防止用の吸入弁4aおよび吐出弁4bが設けられ、吸入側にはフィルタ部材42が設けられている一方、吐出側に脈動吸収用のダンパ4dが設けられている。
【0016】
実施例1のブレーキ制御装置では、制動時に車輪がロック傾向になったときには、そのロック傾向となった車輪のホイルシリンダW/Cに接続されている回路中の増圧弁5を閉弁させる一方、減圧弁6を開弁させてホイルシリンダW/Cのブレーキ液をリザーバ7に抜いて制動液圧を低下させる減圧制御と、増圧弁5を開弁状態に戻すとともに減圧弁6を閉弁状態に戻してマスタシリンダ圧をホイルシリンダW/Cに供給する増圧制御とを適宜繰り返し、あるいは必要に応じて増圧弁5と減圧弁6との両方を閉弁させる保持制御を加え、車輪のロックを防止しつつ制動を行うアンチスキッド制御を実行する。
【0017】
このアンチスキッド制御は、図3に示すコントロールユニット12で実行される。すなわち、コントロールユニット12は、入力側に、前後の左右輪の各車輪速度を検出する車輪速度センサ13と、電源電圧を検出する電源電圧センサ14が接続され、一方、出力側に、各輪に対応して設けられた一対の増圧弁5および減圧弁6と、モータMとが接続されている。コントロールユニット12は、書き換え可能なROMであるEEPROMを有するものとする。
【0018】
また、実施例1のブレーキ制御装置は、一定の車体減速度または前後輪に一定の速度差が検出された場合、制動時にアンチスキッド制御の保持制御と増圧制御との切り替えによって、後輪2RL,2RRのブレーキ液圧上昇を抑制し、前輪液圧に対して後輪液圧を緩増圧することで前後輪の制動力配分を理想制動力配分に近似させ、後輪2RL,2RRの制動力を電子制御により適正化する電子制御制動力配分(EBD:Electronic Brake Force Distribution)制御を実行する。
【0019】
次に、コントロールユニット12のモータMの駆動系統、モータモニタについて図4のブロック図を参照して説明する。
モータMは、リレー23を介したバッテリ側と、GND側にそれぞれ接続されている。CPU21から駆動電流が出力されると、トランジスタ24によりリレー23がONする構成となっている。このリレー23とモータMの間からインターフェース22を介してCPU21に入力することでモータモニタ回路を構成する。
【0020】
[アンチスキッド制御処理]
図5は、コントロールユニット12で実行されるアンチスキッド制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。なお、この制御処理は、所定の演算周期で繰り返し実行される。
【0021】
ステップ101では、アンチスキッド制御を実行するか否かを判定するためのABS制御実行フラグFABSがゼロであるか否かを判定する。YESの場合にはステップ103へ移行し、NOの場合にはステップ102へ移行する。
【0022】
ステップ102では、アンチスキッド制御を実行し、リターンへ移行する。アンチスキッド制御の詳細については後述する。
【0023】
ステップ103では、各車輪速度センサ13のセンサパルス数と周期とからセンサ周波数を求め、車輪速度VWおよび車輪加速度VWDを演算し、ステップ104へ移行する。
【0024】
ステップ104では、ステップ103で求めた車輪速度VWに基づいて擬似車体速度VI、車体加減速度(車体加速度VIDまたは車体減速度VIK)を計算し、ステップ105へ移行する。擬似車体速度VI、車体加速度VIDおよび車体減速度VIKの算出方法については後述する。
【0025】
ステップ105では、最適スリップ速度VWSを計算し、ステップ106へ移行する。最適スリップ速度VWSの算出方法については後述する。
【0026】
ステップ106では、ステップ104で算出した車体減速度-VIDが所定値以上であるか否か、すなわち、高μ路面で、大きな制動力を出しているか否かを判定する。YESの場合にはステップ107へ移行し、NOの場合にはステップ110へ移行する。ここで、車体減速度-VIDと比較する所定値は、タイヤスキール音や車両の暗騒音が大きくなる値であり、例えば、0.6Gとしている。
【0027】
ステップ107では、高μ判定フラグFHIMUをセット(=1)し、ステップ108へ移行する。
【0028】
ステップ108では、リザーバ内残留液判定フラグFRSVが1であるか否かを判定する。YES、すなわち、リザーバ7内に残留液があると判定した場合には、ステップ109へ移行し、リザーバ7内に残留液が無いと判定した場合には、ステップ111へ移行する。
【0029】
ステップ109では、残留液排出部12bにおいて、リザーバ残留液排出処理を行い、ステップ111へ移行する。リザーバ液排出の詳細については後述する。
【0030】
ステップ110では、高μ判定フラグFHIMUをクリア(=0)し、ステップ111へ移行する。
【0031】
ステップ111では、車輪加速度VWD<-α(αは正の定数)であるか否かを判定する。YESの場合にはステップ112へ移行し、NOの場合にはリターンへ移行する。ここで、車輪加速度VWDと比較するαは、通常走行に見られる車体減速度の最大値、例えば、1.2G相当よりも大きい値とする。よって、車輪加速度VWD<-αが成立する場合は、車体速に対して車輪速が急激に低下(降下)し、車輪がロックしそうな状況を示している。
【0032】
ステップ112では、増圧弁5および減圧弁6を共に閉弁するソレノイド保持制御を行い、ステップ113へ移行する。
【0033】
ステップ113では、リザーバ残留液判定フラグFRSV=1、かつ、高μ判定フラグFHIMU=1であるか否かを判定する。YESの場合にはステップ114へ移行し、NOの場合にはステップ115へ移行する。
【0034】
ステップ114では、残留液排出部12bにおいて、リザーバ残留液排出処理を行い、ステップ115へ移行する。
【0035】
ステップ115では、車輪速VWが最適スリップ速度VWSを下回っているか否かを判定する。YESの場合にはステップ116へ移行し、NOの場合にはリターンへ移行する。
【0036】
ステップ116では、ABS制御実行フラグFABSをセットし、リターンへ移行する。ステップ116において、YESと判定し、ABS制御に移行した場合、ステップ112のソレノイド保持制御は、アンチスキッド制御の介入前のホイルシリンダ液圧保持時にあたる。また、ステップ116でNOと判定し、制御サイクルを終了した場合、ステップ112のソレノイド保持制御は、EBD制御にあたる。
【0037】
(アンチスキッド制御処理)
図6は、ステップ102のアンチスキッド制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
【0038】
ステップ201〜ステップ203については、図5のステップ103〜ステップ105と同一の処理を行うため、説明を省略する。
【0039】
ステップ204では、擬似車体速度VIが4km/hよりも小さい停止直前であるか否かを判定する。YESの場合にはステップ211へ移行し、NOの場合にはステップ205へ移行する。
【0040】
ステップ205では、車輪加速度VWD<-α(αは正の定数)であるか否かを判定する。YESの場合にはステップ206へ移行し、NOの場合には207へ移行する。
【0041】
ステップ206では、増圧弁5を閉弁して減圧弁6を開弁するソレノイド減圧制御を実施し、ステップ210へ移行する。ここで、ステップ115でアンチスキッド制御への介入判定をする際に、ステップ111にてステップ205と同様の判定をしていることから、アンチスキッド制御への介入直後では、必ずステップ206へ進み、ソレノイド減圧制御を行う。
【0042】
ステップ207では、車輪速VWがステップ203で算出した最適スリップ速度VWSを下回っているか否かを判定する。YESの場合にはステップ208へ移行し、NOの場合にはステップ209へ移行する。
【0043】
ステップ208では、ソレノイド保持制御を行い、ステップ210へ移行する。
【0044】
ステップ209では、増圧弁5を開弁して減圧弁6を閉弁するソレノイド増圧制御を行い、ステップ210へ移行する。
【0045】
ステップ210では、モータMを駆動し、ステップ201へ移行する。
【0046】
ステップ211では、制御終了処理を実行し、本制御を終了する。制御終了処理については後述する。
【0047】
すなわち、アンチスキッド制御処理では、車輪速VWが最適スリップ速度VWSを上回るまで上昇してきたときは、車輪速を最適スリップ速度へ維持するために、ステップ209へ進み、増圧制御を行う。そして、ステップ206、ステップ208またはステップ209を終えた後は、ステップ210へと進んでモータMを駆動し、その後、ステップ201へと戻り、ドライバが車輪のロックを引き起こす踏力以上でブレーキを踏み続けている間は、車体速が4km/h以下となる停止直前まで、ソレノイドの減圧・保持・増圧制御を繰り返しながら、車輪速を適正な速度に保つ。
【0048】
(擬似車体速計算処理)
図7は、ステップ104の擬似車体速計算処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
【0049】
ステップ301では、4輪の車輪速度VWのうちで最も高速の車輪速度を制御用車輪速度VFSとし、ステップ302へ移行する。
【0050】
ステップ302では、ABS制御実行フラグFABS=0であるか否かを判定する。YESの場合にはステップ303へ移行し、NOの場合にはステップ304へ移行する。
【0051】
ステップ303では、制御用車輪速度VFSを、例えば前輪駆動車であれば、従動輪である後輪の車輪速度VWRR,VWRLのうちの大きい方の値に設定し、ステップ304へ移行する。
【0052】
ステップ304では、擬似車体速度VIが制御用車輪速度VFS以上であるか否かを判定する。YESの場合にはステップ305へ移行し、NOの場合にはステップ306へ移行する。
【0053】
ステップ305では、車体減速度VIKに基づき、下記の式(1)を参照して擬似車体速度VIを算出し、ステップ310へ移行する。
VI = VI - ( VIK + 0.3G ) × k …(1)
ここで、kは係数である。
【0054】
ステップ306では、演算に用いる定数xを2km/hに設定し、ステップ307へ移行する。
【0055】
ステップ307では、ABS制御実行フラグFABS=0であるか否かを判定する。YESの場合にはステップ308へ移行し、NOの場合にはステップ309へ移行する。
【0056】
ステップ308では、定数xを0.143km/hなどの小さな値に設定し、ステップ310へ移行する。
【0057】
ステップ309では、VI = VI + x の演算により、擬似車体速度VIを求め、ステップ310へ移行する。すなわち、制御用車輪速度VFSが擬似車体速度VIを上回っており、加速している状態であるといえる。そこで、ステップ306で設定した定数xを加算することにより、擬似車体速度VIを加速させる。これに対し、擬似車体速度VIが制御用車体速度VFSよりも大きいときは、減速されている状態と判定できるため、車体減速度VIKに基づいて擬似車体速度VIを求める。
【0058】
ステップ310では、ステップ305またはステップ309で算出した擬似車体速VIに基づいて、車体加減速度(車体加速度VIDまたは車体減速度VIK)を計算し、本制御を終了する。なお、車体加減速度の算出方法については後述する。
【0059】
(車体加減速度計算)
図8は、ステップ310の車体加減速度算出処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
【0060】
ステップ401では、ABS制御実行フラグFABSがFABS=0からFABS=1の状態に切り替わったか否か、すなわち、アンチスキッド制御開始時か否かを判定する。YESの場合にはステップ402へ移行し、NOの場合にはステップ403へ移行する。
【0061】
ステップ402では、その時点の擬似車体速VIを演算基準値V0として設定すると共に、演算基準タイマT0=0にリセットし、ステップ403へ移行する。
【0062】
ステップ403では、演算基準タイマT0をインクリメント(1加算)し、ステップ404へ移行する。
【0063】
ステップ404では、擬似車体速VI<制御用車輪速度VFSの状態から、擬似車体速VI≧制御用車輪速度VFSの状態に変化したか否かを判定する。YESの場合にはステップ405へ移行し、NOの場合にはステップ406へ移行する。ホイルシリンダ液圧の減圧により車輪速度VWが上昇して実車体速度に復帰するが、これは擬似車体速VIが上向きから下向きに変化するスピンアップ点を検出することで判断できる。ステップ404では、このスピンアップ点が生じたか否かを判断している。
【0064】
ステップ405では、その時点の擬似車体速VIと、アンチスキッド制御開始時点の演算基準値V0、アンチスキッド制御開始時点から計測し始めた演算基準タイマT0とに基づき、下記の式(2)を参照して車体減速度VIKを求め、ステップ406へ移行する。
VIK = ( V0 - VI ) / T0 …(2)
【0065】
ステップ406では、ABS実行フラグFABS=0であるか否かを判定する。YESの場合にはステップ407へ移行し、NOの場合にはステップ408へ移行する。
【0066】
ステップ407では、車体減速度を1.3Gに設定し、ステップ408へ移行する。すなわち、アンチスキッド制御の1サイクル目では、車輪速度VWが実車体速度よりも低下しており、スピンアップ点が生じていないため、ステップ405における車体減速度VIKを求める演算を行うことができない。そこで、スピンアップ点が生じて実際の車体減速度を演算可能となるまでは、高μ路制動時相当の固有値 (1.3G)を用いる。
【0067】
ステップ408では、その時点の擬似車体速度VIと演算基準値VI0とから、下記の式(3)を参照して車体加速度VIDを算出し、ステップ409へ移行する。
VID = VI - VI0 …(3)
【0068】
ステップ409では、演算基準値VI0に擬似車体速度VIを代入して本制御を終了する。
【0069】
(最適スリップ速度算出処理)
図9は、ステップ105の最適スリップ速度計算処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
【0070】
ステップ501では、定数xxを8km/hに設定し、ステップ502へ移行する。
【0071】
ステップ502では、車体減速度VIKが0.4Gよりも小さいか否か、すなわち、十分な減速度が発生していないか否かを判定する。YESの場合にはステップ503へ移行し、NOの場合にはステップ504へ移行する。
【0072】
ステップ503では、定数xxを4km/hに設定し、ステップ504へ移行する。
【0073】
ステップ504では、最適スリップ速度VWSを、下記の式(4)を参照して算出し、本制御を終了する。なお、この最適スリップ速度VWSは、現在の擬似車体速度VIに対して効率良く制動力が得られるスリップ率値となる車輪速度を示している。
VWS = 0.95 × VI-xx …(4)
【0074】
(制御終了処理)
図10は、ステップ211の制御終了処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
【0075】
ステップ601では、制御終了処理タイマTf=1[sec]をセットし、ステップ602へ移行する。
【0076】
ステップ602では、ソレノイド増圧制御を行い、ステップ603へ移行する。
【0077】
ステップ603では、モータMの駆動制御を行い、ステップ604へ移行する。
【0078】
ステップ604では、制御終了処理タイマTfをデクリメントし、ステップ605へ移行する。
【0079】
ステップ605では、制御終了処理タイマTf=0であるか否か、すなわち、制御終了処理が開始されて1secが経過したか否かを判定する。YESの場合にはステップ606へ移行し、NOの場合にはステップ602へ移行する。
【0080】
ステップ606では、増圧弁5および減圧弁6のソレノイドおよびモータMの制御を停止し、ステップ607へ移行する。
【0081】
ステップ607では、残留液推定部12aにおいて、リザーバ液残留判定処理を行い、本制御を終了する。リザーバ液残留判定処理については後述する。
【0082】
(リザーバ液残留判定処理)
図11は、ステップ607のリザーバ液残留判定処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
【0083】
ステップ701では、モータOFFタイマTMROFFをY[msec]にセットし、ステップ702へ移行する。
【0084】
ステップ702では、モータOFFタイマTMROFFをデクリメントし、ステップ703へ移行する。
【0085】
ステップ703では、モータOFFタイマTMROFF=0であるか否かを判定する。YESの場合にはステップ704へ移行し、NOの場合にはステップ702へ移行する。
【0086】
ステップ704では、モータ電圧モニタ値VMRがX[V]よりも小さいか否か、すなわち、リザーバ残留液によって、モータ電圧が急速に降下しているか否かを判定する。YESの場合にはステップ705へ移行し、NOの場合にはステップ706へ移行する。
【0087】
ステップ705では、リザーバ液残留フラグFRSVをセットし、EEPROMに記憶して本制御を終了する。
【0088】
ステップ706では、リザーバ液残留フラグFRSVをクリアし、EEPROMの記録を消去して本制御を終了する。
【0089】
(リザーバ残留液排出)
図12は、ステップ109、ステップ114のリザーバ残留液排出処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
【0090】
ステップ801では、モータMを駆動し、ステップ802へ移行する。
【0091】
ステップ802では、リザーバ液残留判定を行い、本制御を終了する。
【0092】
次に、作用を説明する。
[リザーバ残留液排出作用]
上記特許文献1では、図13に示すように、アンチスキッド制御が終了し、モータ駆動の停止後、モータモニタの電圧が判定時間Y[msec]以内に、判定電圧X[V]以下に低下した場合、残留液有りと判定する。そして、残留液有りと判定した場合は、車両発進時や加速時等の非定常走行時にモータを再起動してリザーバ内の残留液を排出している。すなわち、非定常走行時にエンジン音やロードノイズが大きくなることを利用して残留液を排出する際のモータ作動音をドライバに聞こえにくくするものである。
【0093】
ところが、近年の自動車技術において、エンジンまたは電気自動車の動力モータの音は低減されてきており、非定常走行時のエンジン音やロードノイズのみでは、モータ作動音をかき消すことはできず、ドライバに不快感を与えるおそれがある。
【0094】
これに対し、実施例1のブレーキ制御装置では、ブレーキ操作時、例えば、高μ路面を走行中、(1)所定値(0.6G)以上の制動力が発生したとき、(2)アンチスキッド制御介入前のホイルシリンダ液圧保持時、(3)EBD制御介入時、にモータMを起動し、残留ブレーキ液を排出する。
【0095】
上記条件(1)〜(3)のいずれかが成立している場合には、車両の暗騒音やタイヤのスキール音が大きくなる状況であるため、モータMの作動音をかき消すことができる。また、リザーバ内残留液をマスタシリンダM/Cへ戻す際、ブレーキペダルのキックバック(押し返し)が生じるが、条件(1)〜(3)のいずれかが成立している場合、ドライバはブレーキペダルを大きく(強く)踏み込んでいるため、ドライバはキックバックを認識しにくい状態である。このため、条件(1)〜(3)以外の条件が成立した場合にモータMを作動させる場合と比較して、ブレーキペダルのキックバックによるフィーリングの悪化を抑制できる。
【0096】
なお、低μ路面においては、一度に掻き出すブレーキ液量は少なく、リザーバ7の残容量が無くなることはないので、リザーバ7内の残留液を掻き出す目的でモータMを駆動せずとも性能を維持できる。このため、条件(2)または(3)が成立している場合であっても、低μ路面走行中は、モータMを駆動しない。
【0097】
また、実施例1のブレーキ制御装置では、リザーバ液残留判定処理のステップ705において、リザーバ内残留液圧判定フラグFRSVのセットをEEPROMに記憶している。これにより、イグニッション電源OFFによってもフラグが消去されないため、次のイグニッション電源ONの際、確実にリザーバ内残留液排出処理を実行できる。リザーバ内残留液排出処理が行われると、ステップ706の処理でEEPROMの記録が消去される。EEPROMを使用することにより、次回のイグニッション電源ON時におけるコントロールユニット12の処理負荷を軽減できる。
【0098】
図14は、実施例1において所定量以上の制動力が発生した後、アンチスキッド制御へと移行する際の残留液排出作用を示すタイムチャートである。
アンチスキッド制御終了後に車両を停止したとき、リザーバ7に残留液がある場合、時点t1でモータ駆動停止後、時点t2で判定時間Y[msec]の間にモータ電圧モニタ値VMRが判定電圧X[V]以下に下がる。この判定がなされると、リザーバ液残留判定処理のステップ705でリザーバ内残留液排出を準備するリザーバ内残留液判定フラグFRSVをセットする。
【0099】
リザーバ内残留液判定フラグFRSVがセットされている状態での走行中に、時点t3で車両が所定値、例えば0.6G以上の減速度を伴うような、高μ路での制動を行ったときに、モータMを起動し、リザーバ内残留液を排出する。このとき、図5のフローチャートでは、ステップ101→ステップ103→ステップ104→ステップ105→ステップ106→ステップ107→ステップ108→ステップ109→ステップ111へと進む流れとなり、ステップ109でリザーバ残留液排出処理が行われる。
【0100】
時点t4では、車輪加速度VWDが-αよりも小さくなるため、図5のフローチャートでは、ステップ101→ステップ103→ステップ104→ステップ105→ステップ106→ステップ107→ステップ108→ステップ109→ステップ111→ステップ112→ステップ113→ステップ114→ステップ115へと進む流れとなり、ステップ109およびステップ114でリザーバ残留液排出処理が行われると共に、ステップ112でアンチスキッド制御介入前のソレノイド保持が行われる。
【0101】
よって、高μ路面走行中に0.6G以上の減速度-VIDが発生した場合にリザーバ残留液の排出を行うことにより、モータ作動音をタイヤのスキール音や車両の暗騒音などでかき消すことができ、ドライバのフィーリング悪化を防止できる。さらに、モータ作動によるブレーキペダルのキックバックを目立たせず、フィーリングの向上を図ることができる。
【0102】
なお、時点t5では、車輪速VWが最適スリップ速度VWSを下回ることで、ステップ115からステップ116へと進み、ABS制御実行フラグFABSをセットする。従って、以降はステップ101→ステップ102へと進みアンチスキッド制御が開始するが、リザーバ7内の残留液は時点t5よりも前の時点t4で0ccとなっているため、ソレノイド減圧制御時にホイルシリンダW/Cから抜かれたブレーキ液をリザーバ7へ貯留できる。
【0103】
図15は、実施例1において所定量以上の制動力が発生した後、EBD制御へと移行する際の残留液排出作用を示すタイムチャートであり、時点t2までは図14と同一であるため、説明を省略する。
【0104】
リザーバ内残留液圧判定フラグFRSVがセットされている状態での走行中に、時点t6で車両が所定値、例えば0.6G以上の減速度を伴うような、高μ路での制動を行ったときに、モータMを起動し、リザーバ内残留液を排出する。このとき、図5のフローチャートでは、ステップ101→ステップ103→ステップ104→ステップ105→ステップ106→ステップ107→ステップ108→ステップ109→ステップ111→ステップS112→ステップ113→ステップ114→ステップ115へと進む流れとなり、ステップ112でEBD制御によるソレノイド保持が行われると共に、ステップ109およびステップ114でリザーバ残留液排出処理が行われる。
【0105】
よって、高μ路面走行中に0.6G以上の減速度-VIKが発生した場合にリザーバ残留液の排出を行うことにより、モータ作動音をタイヤのスキール音や車両の暗騒音などでかき消すことができ、ドライバのフィーリング悪化を防止できる。さらに、モータ作動によるブレーキペダルのキックバックを目立たせず、フィーリングの向上を図ることができる。
【0106】
次に、効果を説明する。
実施例1のブレーキ制御装置にあっては、以下に列挙する効果を奏する。
【0107】
(1) 油圧源としてのマスタシリンダM/Cと、車輪2FL,2FR,2RL,2RRに制動力を作用させるホイルシリンダW/Cと、車両の走行状態に応じてホイルシリンダW/Cのブレーキ液圧を減圧、保持および増圧制御可能なコントロールユニット12と、減圧制御時のブレーキ液を貯留するリザーバ7と、少なくともリザーバ7のブレーキ液をマスタシリンダM/C側に還流可能なポンプ4と、ポンプ4を駆動するモータMと、を備えたブレーキ制御装置において、アンチスキッド制御の作動によりリザーバ7内に蓄積されたブレーキ液の残留状態を推定する残留液推定部12aと、残留液推定部12aでリザーバ7内にブレーキ液有りと判定した場合、ブレーキ操作時にモータMを起動し、残留ブレーキ液を排出する残留液排出部12bと、を備える。これにより、騒音や振動を目立たせずフィーリングを良好な状態に保ちつつ、リザーバ7に残留するブレーキ液を排出できる。
【0108】
(2) 残留液排出部12bは、高μ路走行時に残留ブレーキ液を排出するため、低μ路面におけるモータ作動音によるフィーリングの悪化を防止できる。
【0109】
(3) 車両減速度を検出する車輪速度センサ13を備え、残留液排出部12bは、所定値(例えば、0.6G)以上の制動力が発生しているとき、残留ブレーキ液を排出するため、騒音、振動やブレーキペダルのキックバックを目立たせずフィーリングを良好な状態に保ちつつ、リザーバ7に残留するブレーキ液を排出できる。
【0110】
(4) 残留液排出部12bは、アンチスキッド制御開始前にホイルシリンダW/Cの液圧が保持されているとき、残留ブレーキ液を排出するため、騒音、振動やブレーキペダルのキックバックを目立たせずフィーリングを良好な状態に保ちつつ、リザーバ7に残留するブレーキ液を排出できる。
【0111】
(5) 前後輪の制動力配分を制御する制動力配分制御手段を備え、残留液排出部12bは、制動力配分制御手段による前後輪制動力配分時、残留ブレーキ液を排出するため、騒音、振動やブレーキペダルのキックバックを目立たせずフィーリングを良好な状態に保ちつつ、リザーバ7に残留するブレーキ液を排出できる。
【0112】
(他の実施例)
以上、本発明を実施するための最良の形態を、実施例1に基づいて説明したが、本発明の具体的な構成は、実施例1に示した構成に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
例えば、実施例1では、減速度(車体減速度-VID)により、高μ路面を判定したが、マスタシリンダ液圧と車輪速の状態から高μ路面の判定を行ってもよい。
【0113】
また、実施例1では、所定値を0.6Gとしたが、タイヤスキール音や車両の暗騒音が大きくなる値であれば、この限りではない。
リザーバ残留液の有無を、アンチスキッド制御による増減圧パターンに基づいて推定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】実施例1のブレーキ制御装置を適用した車両の構成図である。
【図2】実施例1の液圧制御ユニット3の油圧回路図である。
【図3】実施例1のコントロールユニットを示すブロック図である。
【図4】実施例1のブレーキ制御装置のモータ駆動回路およびモータモニタ回路のブロック図である。
【図5】実施例1のコントロールユニット12で実行されるアンチスキッド制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】図5のステップ102のアンチスキッド制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】図5のステップ104の擬似車体速計算処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】図7のステップ310の車体加減速度算出処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】図5のステップ105の最適スリップ速度計算処理の流れを示すフローチャートである。
【図10】図6のステップ211の制御終了処理の流れを示すフローチャートである。
【図11】図10のステップ607のリザーバ液残留判定処理の流れを示すフローチャートである。
【図12】図5のステップ109、ステップ114のリザーバ残留液排出処理の流れを示すフローチャートである。
【図13】従来の残留液排出処理を示すタイムチャートである。
【図14】実施例1において所定量以上の制動力が発生した後、アンチスキッド制御へと移行する際の残留液排出作用を示すタイムチャートである。
【図15】実施例1において所定量以上の制動力が発生した後、EBD制御へと移行する際の残留液排出作用を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0115】
M/C マスタシリンダ
W/C ホイルシリンダ
2FL,2FR,2RL,2RR 車輪
4 ポンプ
7 リザーバ
12 コントロールユニット(アンチスキッド制御手段,制動力配分制御手段)
12a 残留液推定部(残留液推定手段)
12b 残留液排出部(残留液排出手段)
13 車輪速度センサ(車両状態判定手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、制動時に車輪がロックするのを防止すべく制動液圧を制御する、いわゆるアンチスキッド制御を実行するブレーキ制御装置に係り、特に、アンチスキッド制御によりリザーバに残留するブレーキ液を排出する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、アンチスキッド制御の終了後にリザーバ内にブレーキ液が残留している場合、次回車両発進時、走行時および加速時等の非定常走行時に電動モータを作動して残留ブレーキを排出する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2005−262997号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来技術は、非定常走行時にエンジン音やロードノイズが大きくなることを利用してモータ作動音をドライバに聞こえにくくするものであるが、エンジン音やロードノイズの低減が著しい近年では、振動や騒音が目立ちフィーリングの悪化を招くという問題があった。
【0004】
本発明の目的は、騒音や振動を目立たせずフィーリングを良好な状態に保ちつつ、リザーバに残留するブレーキ液を排出できるブレーキ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明のブレーキ制御装置では、リザーバ内にブレーキ液有りと判定した場合、ブレーキ操作時に電動モータを起動し、残留ブレーキ液を排出する。
【発明の効果】
【0006】
よって、本発明にあっては、騒音や振動を目立たせずフィーリングを良好な状態に保ちつつ、リザーバに残留するブレーキ液を排出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明のブレーキ制御装置を実現するための最良の形態を、図面に基づく実施例により説明する。
【実施例1】
【0008】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1のブレーキ制御装置を適用した車両の構成図である。
液圧制御ユニット3は、通常、ドライバのブレーキペダル操作量に応じて、左前輪2FL、右前輪2FR、左後輪2RL、右後輪2RRの各ホイルシリンダW/Cにブレーキ液圧を供給する。また、制動制御時には、コントロールユニット(アンチスキッド制御手段,制動力配分制御手段)12からの指令に基づいて各ホイルシリンダW/Cの各ブレーキ液圧の保持、増圧または減圧を行う。
【0009】
コントロールユニット12には、車輪速度センサ13(車両状態判定手段であって、左前車輪速度センサ13FL、右前車輪速度センサ13FR、左後車輪速度センサ13RL、右後車輪速度センサ13RRから構成される)からの信号と、電源電圧を検出する電源電圧センサ14からの信号と、図外のCAN通信線を介してスロットル開度、エンジン回転数、車両前後加速度等の車両情報とが入力される。
コントロールユニット12は、各情報に基づいて、制動制御の実施を判断し、制動制御中は、液圧制御ユニット3に対するホイルシリンダ液圧の保持、増減圧指令を生成する。このコントロールユニット12は、残留液推定部(残留液推定手段)12aと残留液排出部(残留液排出手段)12bとを備える。これらの動作については後述する。
【0010】
図2は、実施例1の液圧制御ユニット3の油圧回路図である。
油圧源としてのマスタシリンダM/Cは、4輪のホイルシリンダW/Cに2系統のブレーキ回路1,1を介して接続されている。
【0011】
各ブレーキ回路1は、分岐点1dにおいてそれぞれ2つのホイルシリンダW/Cに分岐され、また、この分岐点1dの下流(ホイルシリンダW/C側)に増圧弁5,5が設けられている。これら増圧弁5は、非作動時にスプリング力により開弁状態となり、作動時(通電時)に閉弁となる常開の2ポート2ポジションのON/OFF式のソレノイドバルブにより構成されている。
【0012】
また、各増圧弁5には、制動操作を終了したときにホイルシリンダW/Cから円滑にブレーキ液を戻すためのバイパス路1hが並列に設けられ、このバイパス路1hに、下流(ホイルシリンダ側W/C側)から上流(マスタシリンダM/C側)への戻りのみを許す一方弁1gが設けられている。
【0013】
また、各増圧弁5の下流には、ブレーキ回路1とリザーバ7とを連通させるドレン回路10が接続されている。そして、これらドレン回路10に減圧弁6が設けられている。これら減圧弁6は、非作動時に閉弁し、作動時に開弁する常閉の2ポート2ポジションのON/OFF式のソレノイドバルブにより構成されている。
【0014】
前記ドレン回路10は、還流回路11を介して分岐点1dよりも上流位置に接続されている。そして、前記還流回路11の途中にリザーバ7に貯留されているブレーキ液をブレーキ回路1に戻すポンプ4が設けられている。よって、前記還流回路11は、吸入回路11aと吐出回路11bとで構成されるものである。
【0015】
前記ポンプ4は、電動モータMにより回転されるカム4cにより対向して配置された1組のプランジャ41が往復ストロークすることで、吸入回路11aからブレーキ液を吸入し、吐出回路11bへブレーキ液を吐出させる構成であり、逆流防止用の吸入弁4aおよび吐出弁4bが設けられ、吸入側にはフィルタ部材42が設けられている一方、吐出側に脈動吸収用のダンパ4dが設けられている。
【0016】
実施例1のブレーキ制御装置では、制動時に車輪がロック傾向になったときには、そのロック傾向となった車輪のホイルシリンダW/Cに接続されている回路中の増圧弁5を閉弁させる一方、減圧弁6を開弁させてホイルシリンダW/Cのブレーキ液をリザーバ7に抜いて制動液圧を低下させる減圧制御と、増圧弁5を開弁状態に戻すとともに減圧弁6を閉弁状態に戻してマスタシリンダ圧をホイルシリンダW/Cに供給する増圧制御とを適宜繰り返し、あるいは必要に応じて増圧弁5と減圧弁6との両方を閉弁させる保持制御を加え、車輪のロックを防止しつつ制動を行うアンチスキッド制御を実行する。
【0017】
このアンチスキッド制御は、図3に示すコントロールユニット12で実行される。すなわち、コントロールユニット12は、入力側に、前後の左右輪の各車輪速度を検出する車輪速度センサ13と、電源電圧を検出する電源電圧センサ14が接続され、一方、出力側に、各輪に対応して設けられた一対の増圧弁5および減圧弁6と、モータMとが接続されている。コントロールユニット12は、書き換え可能なROMであるEEPROMを有するものとする。
【0018】
また、実施例1のブレーキ制御装置は、一定の車体減速度または前後輪に一定の速度差が検出された場合、制動時にアンチスキッド制御の保持制御と増圧制御との切り替えによって、後輪2RL,2RRのブレーキ液圧上昇を抑制し、前輪液圧に対して後輪液圧を緩増圧することで前後輪の制動力配分を理想制動力配分に近似させ、後輪2RL,2RRの制動力を電子制御により適正化する電子制御制動力配分(EBD:Electronic Brake Force Distribution)制御を実行する。
【0019】
次に、コントロールユニット12のモータMの駆動系統、モータモニタについて図4のブロック図を参照して説明する。
モータMは、リレー23を介したバッテリ側と、GND側にそれぞれ接続されている。CPU21から駆動電流が出力されると、トランジスタ24によりリレー23がONする構成となっている。このリレー23とモータMの間からインターフェース22を介してCPU21に入力することでモータモニタ回路を構成する。
【0020】
[アンチスキッド制御処理]
図5は、コントロールユニット12で実行されるアンチスキッド制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。なお、この制御処理は、所定の演算周期で繰り返し実行される。
【0021】
ステップ101では、アンチスキッド制御を実行するか否かを判定するためのABS制御実行フラグFABSがゼロであるか否かを判定する。YESの場合にはステップ103へ移行し、NOの場合にはステップ102へ移行する。
【0022】
ステップ102では、アンチスキッド制御を実行し、リターンへ移行する。アンチスキッド制御の詳細については後述する。
【0023】
ステップ103では、各車輪速度センサ13のセンサパルス数と周期とからセンサ周波数を求め、車輪速度VWおよび車輪加速度VWDを演算し、ステップ104へ移行する。
【0024】
ステップ104では、ステップ103で求めた車輪速度VWに基づいて擬似車体速度VI、車体加減速度(車体加速度VIDまたは車体減速度VIK)を計算し、ステップ105へ移行する。擬似車体速度VI、車体加速度VIDおよび車体減速度VIKの算出方法については後述する。
【0025】
ステップ105では、最適スリップ速度VWSを計算し、ステップ106へ移行する。最適スリップ速度VWSの算出方法については後述する。
【0026】
ステップ106では、ステップ104で算出した車体減速度-VIDが所定値以上であるか否か、すなわち、高μ路面で、大きな制動力を出しているか否かを判定する。YESの場合にはステップ107へ移行し、NOの場合にはステップ110へ移行する。ここで、車体減速度-VIDと比較する所定値は、タイヤスキール音や車両の暗騒音が大きくなる値であり、例えば、0.6Gとしている。
【0027】
ステップ107では、高μ判定フラグFHIMUをセット(=1)し、ステップ108へ移行する。
【0028】
ステップ108では、リザーバ内残留液判定フラグFRSVが1であるか否かを判定する。YES、すなわち、リザーバ7内に残留液があると判定した場合には、ステップ109へ移行し、リザーバ7内に残留液が無いと判定した場合には、ステップ111へ移行する。
【0029】
ステップ109では、残留液排出部12bにおいて、リザーバ残留液排出処理を行い、ステップ111へ移行する。リザーバ液排出の詳細については後述する。
【0030】
ステップ110では、高μ判定フラグFHIMUをクリア(=0)し、ステップ111へ移行する。
【0031】
ステップ111では、車輪加速度VWD<-α(αは正の定数)であるか否かを判定する。YESの場合にはステップ112へ移行し、NOの場合にはリターンへ移行する。ここで、車輪加速度VWDと比較するαは、通常走行に見られる車体減速度の最大値、例えば、1.2G相当よりも大きい値とする。よって、車輪加速度VWD<-αが成立する場合は、車体速に対して車輪速が急激に低下(降下)し、車輪がロックしそうな状況を示している。
【0032】
ステップ112では、増圧弁5および減圧弁6を共に閉弁するソレノイド保持制御を行い、ステップ113へ移行する。
【0033】
ステップ113では、リザーバ残留液判定フラグFRSV=1、かつ、高μ判定フラグFHIMU=1であるか否かを判定する。YESの場合にはステップ114へ移行し、NOの場合にはステップ115へ移行する。
【0034】
ステップ114では、残留液排出部12bにおいて、リザーバ残留液排出処理を行い、ステップ115へ移行する。
【0035】
ステップ115では、車輪速VWが最適スリップ速度VWSを下回っているか否かを判定する。YESの場合にはステップ116へ移行し、NOの場合にはリターンへ移行する。
【0036】
ステップ116では、ABS制御実行フラグFABSをセットし、リターンへ移行する。ステップ116において、YESと判定し、ABS制御に移行した場合、ステップ112のソレノイド保持制御は、アンチスキッド制御の介入前のホイルシリンダ液圧保持時にあたる。また、ステップ116でNOと判定し、制御サイクルを終了した場合、ステップ112のソレノイド保持制御は、EBD制御にあたる。
【0037】
(アンチスキッド制御処理)
図6は、ステップ102のアンチスキッド制御処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
【0038】
ステップ201〜ステップ203については、図5のステップ103〜ステップ105と同一の処理を行うため、説明を省略する。
【0039】
ステップ204では、擬似車体速度VIが4km/hよりも小さい停止直前であるか否かを判定する。YESの場合にはステップ211へ移行し、NOの場合にはステップ205へ移行する。
【0040】
ステップ205では、車輪加速度VWD<-α(αは正の定数)であるか否かを判定する。YESの場合にはステップ206へ移行し、NOの場合には207へ移行する。
【0041】
ステップ206では、増圧弁5を閉弁して減圧弁6を開弁するソレノイド減圧制御を実施し、ステップ210へ移行する。ここで、ステップ115でアンチスキッド制御への介入判定をする際に、ステップ111にてステップ205と同様の判定をしていることから、アンチスキッド制御への介入直後では、必ずステップ206へ進み、ソレノイド減圧制御を行う。
【0042】
ステップ207では、車輪速VWがステップ203で算出した最適スリップ速度VWSを下回っているか否かを判定する。YESの場合にはステップ208へ移行し、NOの場合にはステップ209へ移行する。
【0043】
ステップ208では、ソレノイド保持制御を行い、ステップ210へ移行する。
【0044】
ステップ209では、増圧弁5を開弁して減圧弁6を閉弁するソレノイド増圧制御を行い、ステップ210へ移行する。
【0045】
ステップ210では、モータMを駆動し、ステップ201へ移行する。
【0046】
ステップ211では、制御終了処理を実行し、本制御を終了する。制御終了処理については後述する。
【0047】
すなわち、アンチスキッド制御処理では、車輪速VWが最適スリップ速度VWSを上回るまで上昇してきたときは、車輪速を最適スリップ速度へ維持するために、ステップ209へ進み、増圧制御を行う。そして、ステップ206、ステップ208またはステップ209を終えた後は、ステップ210へと進んでモータMを駆動し、その後、ステップ201へと戻り、ドライバが車輪のロックを引き起こす踏力以上でブレーキを踏み続けている間は、車体速が4km/h以下となる停止直前まで、ソレノイドの減圧・保持・増圧制御を繰り返しながら、車輪速を適正な速度に保つ。
【0048】
(擬似車体速計算処理)
図7は、ステップ104の擬似車体速計算処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
【0049】
ステップ301では、4輪の車輪速度VWのうちで最も高速の車輪速度を制御用車輪速度VFSとし、ステップ302へ移行する。
【0050】
ステップ302では、ABS制御実行フラグFABS=0であるか否かを判定する。YESの場合にはステップ303へ移行し、NOの場合にはステップ304へ移行する。
【0051】
ステップ303では、制御用車輪速度VFSを、例えば前輪駆動車であれば、従動輪である後輪の車輪速度VWRR,VWRLのうちの大きい方の値に設定し、ステップ304へ移行する。
【0052】
ステップ304では、擬似車体速度VIが制御用車輪速度VFS以上であるか否かを判定する。YESの場合にはステップ305へ移行し、NOの場合にはステップ306へ移行する。
【0053】
ステップ305では、車体減速度VIKに基づき、下記の式(1)を参照して擬似車体速度VIを算出し、ステップ310へ移行する。
VI = VI - ( VIK + 0.3G ) × k …(1)
ここで、kは係数である。
【0054】
ステップ306では、演算に用いる定数xを2km/hに設定し、ステップ307へ移行する。
【0055】
ステップ307では、ABS制御実行フラグFABS=0であるか否かを判定する。YESの場合にはステップ308へ移行し、NOの場合にはステップ309へ移行する。
【0056】
ステップ308では、定数xを0.143km/hなどの小さな値に設定し、ステップ310へ移行する。
【0057】
ステップ309では、VI = VI + x の演算により、擬似車体速度VIを求め、ステップ310へ移行する。すなわち、制御用車輪速度VFSが擬似車体速度VIを上回っており、加速している状態であるといえる。そこで、ステップ306で設定した定数xを加算することにより、擬似車体速度VIを加速させる。これに対し、擬似車体速度VIが制御用車体速度VFSよりも大きいときは、減速されている状態と判定できるため、車体減速度VIKに基づいて擬似車体速度VIを求める。
【0058】
ステップ310では、ステップ305またはステップ309で算出した擬似車体速VIに基づいて、車体加減速度(車体加速度VIDまたは車体減速度VIK)を計算し、本制御を終了する。なお、車体加減速度の算出方法については後述する。
【0059】
(車体加減速度計算)
図8は、ステップ310の車体加減速度算出処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
【0060】
ステップ401では、ABS制御実行フラグFABSがFABS=0からFABS=1の状態に切り替わったか否か、すなわち、アンチスキッド制御開始時か否かを判定する。YESの場合にはステップ402へ移行し、NOの場合にはステップ403へ移行する。
【0061】
ステップ402では、その時点の擬似車体速VIを演算基準値V0として設定すると共に、演算基準タイマT0=0にリセットし、ステップ403へ移行する。
【0062】
ステップ403では、演算基準タイマT0をインクリメント(1加算)し、ステップ404へ移行する。
【0063】
ステップ404では、擬似車体速VI<制御用車輪速度VFSの状態から、擬似車体速VI≧制御用車輪速度VFSの状態に変化したか否かを判定する。YESの場合にはステップ405へ移行し、NOの場合にはステップ406へ移行する。ホイルシリンダ液圧の減圧により車輪速度VWが上昇して実車体速度に復帰するが、これは擬似車体速VIが上向きから下向きに変化するスピンアップ点を検出することで判断できる。ステップ404では、このスピンアップ点が生じたか否かを判断している。
【0064】
ステップ405では、その時点の擬似車体速VIと、アンチスキッド制御開始時点の演算基準値V0、アンチスキッド制御開始時点から計測し始めた演算基準タイマT0とに基づき、下記の式(2)を参照して車体減速度VIKを求め、ステップ406へ移行する。
VIK = ( V0 - VI ) / T0 …(2)
【0065】
ステップ406では、ABS実行フラグFABS=0であるか否かを判定する。YESの場合にはステップ407へ移行し、NOの場合にはステップ408へ移行する。
【0066】
ステップ407では、車体減速度を1.3Gに設定し、ステップ408へ移行する。すなわち、アンチスキッド制御の1サイクル目では、車輪速度VWが実車体速度よりも低下しており、スピンアップ点が生じていないため、ステップ405における車体減速度VIKを求める演算を行うことができない。そこで、スピンアップ点が生じて実際の車体減速度を演算可能となるまでは、高μ路制動時相当の固有値 (1.3G)を用いる。
【0067】
ステップ408では、その時点の擬似車体速度VIと演算基準値VI0とから、下記の式(3)を参照して車体加速度VIDを算出し、ステップ409へ移行する。
VID = VI - VI0 …(3)
【0068】
ステップ409では、演算基準値VI0に擬似車体速度VIを代入して本制御を終了する。
【0069】
(最適スリップ速度算出処理)
図9は、ステップ105の最適スリップ速度計算処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
【0070】
ステップ501では、定数xxを8km/hに設定し、ステップ502へ移行する。
【0071】
ステップ502では、車体減速度VIKが0.4Gよりも小さいか否か、すなわち、十分な減速度が発生していないか否かを判定する。YESの場合にはステップ503へ移行し、NOの場合にはステップ504へ移行する。
【0072】
ステップ503では、定数xxを4km/hに設定し、ステップ504へ移行する。
【0073】
ステップ504では、最適スリップ速度VWSを、下記の式(4)を参照して算出し、本制御を終了する。なお、この最適スリップ速度VWSは、現在の擬似車体速度VIに対して効率良く制動力が得られるスリップ率値となる車輪速度を示している。
VWS = 0.95 × VI-xx …(4)
【0074】
(制御終了処理)
図10は、ステップ211の制御終了処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
【0075】
ステップ601では、制御終了処理タイマTf=1[sec]をセットし、ステップ602へ移行する。
【0076】
ステップ602では、ソレノイド増圧制御を行い、ステップ603へ移行する。
【0077】
ステップ603では、モータMの駆動制御を行い、ステップ604へ移行する。
【0078】
ステップ604では、制御終了処理タイマTfをデクリメントし、ステップ605へ移行する。
【0079】
ステップ605では、制御終了処理タイマTf=0であるか否か、すなわち、制御終了処理が開始されて1secが経過したか否かを判定する。YESの場合にはステップ606へ移行し、NOの場合にはステップ602へ移行する。
【0080】
ステップ606では、増圧弁5および減圧弁6のソレノイドおよびモータMの制御を停止し、ステップ607へ移行する。
【0081】
ステップ607では、残留液推定部12aにおいて、リザーバ液残留判定処理を行い、本制御を終了する。リザーバ液残留判定処理については後述する。
【0082】
(リザーバ液残留判定処理)
図11は、ステップ607のリザーバ液残留判定処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
【0083】
ステップ701では、モータOFFタイマTMROFFをY[msec]にセットし、ステップ702へ移行する。
【0084】
ステップ702では、モータOFFタイマTMROFFをデクリメントし、ステップ703へ移行する。
【0085】
ステップ703では、モータOFFタイマTMROFF=0であるか否かを判定する。YESの場合にはステップ704へ移行し、NOの場合にはステップ702へ移行する。
【0086】
ステップ704では、モータ電圧モニタ値VMRがX[V]よりも小さいか否か、すなわち、リザーバ残留液によって、モータ電圧が急速に降下しているか否かを判定する。YESの場合にはステップ705へ移行し、NOの場合にはステップ706へ移行する。
【0087】
ステップ705では、リザーバ液残留フラグFRSVをセットし、EEPROMに記憶して本制御を終了する。
【0088】
ステップ706では、リザーバ液残留フラグFRSVをクリアし、EEPROMの記録を消去して本制御を終了する。
【0089】
(リザーバ残留液排出)
図12は、ステップ109、ステップ114のリザーバ残留液排出処理の流れを示すフローチャートで、以下、各ステップについて説明する。
【0090】
ステップ801では、モータMを駆動し、ステップ802へ移行する。
【0091】
ステップ802では、リザーバ液残留判定を行い、本制御を終了する。
【0092】
次に、作用を説明する。
[リザーバ残留液排出作用]
上記特許文献1では、図13に示すように、アンチスキッド制御が終了し、モータ駆動の停止後、モータモニタの電圧が判定時間Y[msec]以内に、判定電圧X[V]以下に低下した場合、残留液有りと判定する。そして、残留液有りと判定した場合は、車両発進時や加速時等の非定常走行時にモータを再起動してリザーバ内の残留液を排出している。すなわち、非定常走行時にエンジン音やロードノイズが大きくなることを利用して残留液を排出する際のモータ作動音をドライバに聞こえにくくするものである。
【0093】
ところが、近年の自動車技術において、エンジンまたは電気自動車の動力モータの音は低減されてきており、非定常走行時のエンジン音やロードノイズのみでは、モータ作動音をかき消すことはできず、ドライバに不快感を与えるおそれがある。
【0094】
これに対し、実施例1のブレーキ制御装置では、ブレーキ操作時、例えば、高μ路面を走行中、(1)所定値(0.6G)以上の制動力が発生したとき、(2)アンチスキッド制御介入前のホイルシリンダ液圧保持時、(3)EBD制御介入時、にモータMを起動し、残留ブレーキ液を排出する。
【0095】
上記条件(1)〜(3)のいずれかが成立している場合には、車両の暗騒音やタイヤのスキール音が大きくなる状況であるため、モータMの作動音をかき消すことができる。また、リザーバ内残留液をマスタシリンダM/Cへ戻す際、ブレーキペダルのキックバック(押し返し)が生じるが、条件(1)〜(3)のいずれかが成立している場合、ドライバはブレーキペダルを大きく(強く)踏み込んでいるため、ドライバはキックバックを認識しにくい状態である。このため、条件(1)〜(3)以外の条件が成立した場合にモータMを作動させる場合と比較して、ブレーキペダルのキックバックによるフィーリングの悪化を抑制できる。
【0096】
なお、低μ路面においては、一度に掻き出すブレーキ液量は少なく、リザーバ7の残容量が無くなることはないので、リザーバ7内の残留液を掻き出す目的でモータMを駆動せずとも性能を維持できる。このため、条件(2)または(3)が成立している場合であっても、低μ路面走行中は、モータMを駆動しない。
【0097】
また、実施例1のブレーキ制御装置では、リザーバ液残留判定処理のステップ705において、リザーバ内残留液圧判定フラグFRSVのセットをEEPROMに記憶している。これにより、イグニッション電源OFFによってもフラグが消去されないため、次のイグニッション電源ONの際、確実にリザーバ内残留液排出処理を実行できる。リザーバ内残留液排出処理が行われると、ステップ706の処理でEEPROMの記録が消去される。EEPROMを使用することにより、次回のイグニッション電源ON時におけるコントロールユニット12の処理負荷を軽減できる。
【0098】
図14は、実施例1において所定量以上の制動力が発生した後、アンチスキッド制御へと移行する際の残留液排出作用を示すタイムチャートである。
アンチスキッド制御終了後に車両を停止したとき、リザーバ7に残留液がある場合、時点t1でモータ駆動停止後、時点t2で判定時間Y[msec]の間にモータ電圧モニタ値VMRが判定電圧X[V]以下に下がる。この判定がなされると、リザーバ液残留判定処理のステップ705でリザーバ内残留液排出を準備するリザーバ内残留液判定フラグFRSVをセットする。
【0099】
リザーバ内残留液判定フラグFRSVがセットされている状態での走行中に、時点t3で車両が所定値、例えば0.6G以上の減速度を伴うような、高μ路での制動を行ったときに、モータMを起動し、リザーバ内残留液を排出する。このとき、図5のフローチャートでは、ステップ101→ステップ103→ステップ104→ステップ105→ステップ106→ステップ107→ステップ108→ステップ109→ステップ111へと進む流れとなり、ステップ109でリザーバ残留液排出処理が行われる。
【0100】
時点t4では、車輪加速度VWDが-αよりも小さくなるため、図5のフローチャートでは、ステップ101→ステップ103→ステップ104→ステップ105→ステップ106→ステップ107→ステップ108→ステップ109→ステップ111→ステップ112→ステップ113→ステップ114→ステップ115へと進む流れとなり、ステップ109およびステップ114でリザーバ残留液排出処理が行われると共に、ステップ112でアンチスキッド制御介入前のソレノイド保持が行われる。
【0101】
よって、高μ路面走行中に0.6G以上の減速度-VIDが発生した場合にリザーバ残留液の排出を行うことにより、モータ作動音をタイヤのスキール音や車両の暗騒音などでかき消すことができ、ドライバのフィーリング悪化を防止できる。さらに、モータ作動によるブレーキペダルのキックバックを目立たせず、フィーリングの向上を図ることができる。
【0102】
なお、時点t5では、車輪速VWが最適スリップ速度VWSを下回ることで、ステップ115からステップ116へと進み、ABS制御実行フラグFABSをセットする。従って、以降はステップ101→ステップ102へと進みアンチスキッド制御が開始するが、リザーバ7内の残留液は時点t5よりも前の時点t4で0ccとなっているため、ソレノイド減圧制御時にホイルシリンダW/Cから抜かれたブレーキ液をリザーバ7へ貯留できる。
【0103】
図15は、実施例1において所定量以上の制動力が発生した後、EBD制御へと移行する際の残留液排出作用を示すタイムチャートであり、時点t2までは図14と同一であるため、説明を省略する。
【0104】
リザーバ内残留液圧判定フラグFRSVがセットされている状態での走行中に、時点t6で車両が所定値、例えば0.6G以上の減速度を伴うような、高μ路での制動を行ったときに、モータMを起動し、リザーバ内残留液を排出する。このとき、図5のフローチャートでは、ステップ101→ステップ103→ステップ104→ステップ105→ステップ106→ステップ107→ステップ108→ステップ109→ステップ111→ステップS112→ステップ113→ステップ114→ステップ115へと進む流れとなり、ステップ112でEBD制御によるソレノイド保持が行われると共に、ステップ109およびステップ114でリザーバ残留液排出処理が行われる。
【0105】
よって、高μ路面走行中に0.6G以上の減速度-VIKが発生した場合にリザーバ残留液の排出を行うことにより、モータ作動音をタイヤのスキール音や車両の暗騒音などでかき消すことができ、ドライバのフィーリング悪化を防止できる。さらに、モータ作動によるブレーキペダルのキックバックを目立たせず、フィーリングの向上を図ることができる。
【0106】
次に、効果を説明する。
実施例1のブレーキ制御装置にあっては、以下に列挙する効果を奏する。
【0107】
(1) 油圧源としてのマスタシリンダM/Cと、車輪2FL,2FR,2RL,2RRに制動力を作用させるホイルシリンダW/Cと、車両の走行状態に応じてホイルシリンダW/Cのブレーキ液圧を減圧、保持および増圧制御可能なコントロールユニット12と、減圧制御時のブレーキ液を貯留するリザーバ7と、少なくともリザーバ7のブレーキ液をマスタシリンダM/C側に還流可能なポンプ4と、ポンプ4を駆動するモータMと、を備えたブレーキ制御装置において、アンチスキッド制御の作動によりリザーバ7内に蓄積されたブレーキ液の残留状態を推定する残留液推定部12aと、残留液推定部12aでリザーバ7内にブレーキ液有りと判定した場合、ブレーキ操作時にモータMを起動し、残留ブレーキ液を排出する残留液排出部12bと、を備える。これにより、騒音や振動を目立たせずフィーリングを良好な状態に保ちつつ、リザーバ7に残留するブレーキ液を排出できる。
【0108】
(2) 残留液排出部12bは、高μ路走行時に残留ブレーキ液を排出するため、低μ路面におけるモータ作動音によるフィーリングの悪化を防止できる。
【0109】
(3) 車両減速度を検出する車輪速度センサ13を備え、残留液排出部12bは、所定値(例えば、0.6G)以上の制動力が発生しているとき、残留ブレーキ液を排出するため、騒音、振動やブレーキペダルのキックバックを目立たせずフィーリングを良好な状態に保ちつつ、リザーバ7に残留するブレーキ液を排出できる。
【0110】
(4) 残留液排出部12bは、アンチスキッド制御開始前にホイルシリンダW/Cの液圧が保持されているとき、残留ブレーキ液を排出するため、騒音、振動やブレーキペダルのキックバックを目立たせずフィーリングを良好な状態に保ちつつ、リザーバ7に残留するブレーキ液を排出できる。
【0111】
(5) 前後輪の制動力配分を制御する制動力配分制御手段を備え、残留液排出部12bは、制動力配分制御手段による前後輪制動力配分時、残留ブレーキ液を排出するため、騒音、振動やブレーキペダルのキックバックを目立たせずフィーリングを良好な状態に保ちつつ、リザーバ7に残留するブレーキ液を排出できる。
【0112】
(他の実施例)
以上、本発明を実施するための最良の形態を、実施例1に基づいて説明したが、本発明の具体的な構成は、実施例1に示した構成に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
例えば、実施例1では、減速度(車体減速度-VID)により、高μ路面を判定したが、マスタシリンダ液圧と車輪速の状態から高μ路面の判定を行ってもよい。
【0113】
また、実施例1では、所定値を0.6Gとしたが、タイヤスキール音や車両の暗騒音が大きくなる値であれば、この限りではない。
リザーバ残留液の有無を、アンチスキッド制御による増減圧パターンに基づいて推定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】実施例1のブレーキ制御装置を適用した車両の構成図である。
【図2】実施例1の液圧制御ユニット3の油圧回路図である。
【図3】実施例1のコントロールユニットを示すブロック図である。
【図4】実施例1のブレーキ制御装置のモータ駆動回路およびモータモニタ回路のブロック図である。
【図5】実施例1のコントロールユニット12で実行されるアンチスキッド制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】図5のステップ102のアンチスキッド制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】図5のステップ104の擬似車体速計算処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】図7のステップ310の車体加減速度算出処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】図5のステップ105の最適スリップ速度計算処理の流れを示すフローチャートである。
【図10】図6のステップ211の制御終了処理の流れを示すフローチャートである。
【図11】図10のステップ607のリザーバ液残留判定処理の流れを示すフローチャートである。
【図12】図5のステップ109、ステップ114のリザーバ残留液排出処理の流れを示すフローチャートである。
【図13】従来の残留液排出処理を示すタイムチャートである。
【図14】実施例1において所定量以上の制動力が発生した後、アンチスキッド制御へと移行する際の残留液排出作用を示すタイムチャートである。
【図15】実施例1において所定量以上の制動力が発生した後、EBD制御へと移行する際の残留液排出作用を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0115】
M/C マスタシリンダ
W/C ホイルシリンダ
2FL,2FR,2RL,2RR 車輪
4 ポンプ
7 リザーバ
12 コントロールユニット(アンチスキッド制御手段,制動力配分制御手段)
12a 残留液推定部(残留液推定手段)
12b 残留液排出部(残留液排出手段)
13 車輪速度センサ(車両状態判定手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧源としてのマスタシリンダと、
車輪に制動力を作用させるホイルシリンダと、
車両の走行状態に応じて前記ホイルシリンダのブレーキ液圧を減圧、保持および増圧制御可能なアンチスキッド制御手段と、
減圧制御時のブレーキ液を貯留するリザーバと、
少なくとも前記リザーバのブレーキ液を前記マスタシリンダ側に還流可能なポンプと、
該ポンプを駆動する電動モータと、
を備えたブレーキ制御装置において、
アンチスキッド制御の作動により前記リザーバ内に蓄積されたブレーキ液の残留状態を推定する残留液推定手段と、
前記残留液推定手段で前記リザーバ内にブレーキ液有りと判定した場合、ブレーキ操作時に前記電動モータを起動し、残留ブレーキ液を排出する残留液排出手段と、
を備えることを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のブレーキ制御装置において、
前記残留液排出手段は、高μ路走行時に残留ブレーキ液を排出することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のブレーキ制御装置において、
車両減速度を検出する車両状態判定手段を備え、
前記残留液排出手段は、所定値以上の制動力が発生しているとき、残留ブレーキ液を排出することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のブレーキ制御装置において、
前記残留液排出手段は、アンチスキッド制御開始前に前記ホイルシリンダの液圧が保持されているとき、残留ブレーキ液を排出することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のブレーキ制御装置において、
前後輪の制動力配分を制御する制動力配分制御手段を備え、
前記残留液排出手段は、前記制動力配分制御手段による前後輪制動力配分時、残留ブレーキ液を排出することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項1】
油圧源としてのマスタシリンダと、
車輪に制動力を作用させるホイルシリンダと、
車両の走行状態に応じて前記ホイルシリンダのブレーキ液圧を減圧、保持および増圧制御可能なアンチスキッド制御手段と、
減圧制御時のブレーキ液を貯留するリザーバと、
少なくとも前記リザーバのブレーキ液を前記マスタシリンダ側に還流可能なポンプと、
該ポンプを駆動する電動モータと、
を備えたブレーキ制御装置において、
アンチスキッド制御の作動により前記リザーバ内に蓄積されたブレーキ液の残留状態を推定する残留液推定手段と、
前記残留液推定手段で前記リザーバ内にブレーキ液有りと判定した場合、ブレーキ操作時に前記電動モータを起動し、残留ブレーキ液を排出する残留液排出手段と、
を備えることを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のブレーキ制御装置において、
前記残留液排出手段は、高μ路走行時に残留ブレーキ液を排出することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のブレーキ制御装置において、
車両減速度を検出する車両状態判定手段を備え、
前記残留液排出手段は、所定値以上の制動力が発生しているとき、残留ブレーキ液を排出することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のブレーキ制御装置において、
前記残留液排出手段は、アンチスキッド制御開始前に前記ホイルシリンダの液圧が保持されているとき、残留ブレーキ液を排出することを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のブレーキ制御装置において、
前後輪の制動力配分を制御する制動力配分制御手段を備え、
前記残留液排出手段は、前記制動力配分制御手段による前後輪制動力配分時、残留ブレーキ液を排出することを特徴とするブレーキ制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−58632(P2010−58632A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−225847(P2008−225847)
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月3日(2008.9.3)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
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