説明

ブレーキ制御装置

【課題】 アクチュエータの作動頻度を抑制できるブレーキ制御装置を提供すること。
【解決手段】 ポンプ9の吐出側と車両の各輪FL等のホイルシリンダ5との間に設けられた増圧弁6と、開弁することでホイルシリンダ5からブレーキ液を排出可能に設けられた減圧弁7と、ポンプ9、増圧弁6、及び減圧弁7の作動を制御して各ホイルシリンダ5内の液圧を制御する内部コントロールユニット20と、を備えたブレーキ制御装置において、内部コントロールユニット20は、車両の走行状態を制御するための基本制動液圧を各輪FL等のホイルシリンダ5に発生させている状態で、車両の目標ヨーモーメントがゼロから有意値に変化した場合、少なくとも1つの配管系の複数のホイルシリンダ5間で液圧差を生じさせると共に、この配管系の低圧側のホイルシリンダ5に対応する増圧弁6を閉じてこのホイルシリンダ5の液圧を保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の走行状態を制御するための基本制動液圧と目標ヨーモーメントとに基づき各輪のホイルシリンダ内の液圧(制動液圧)を制御するブレーキ制御装置が知られている。例えば特許文献1に記載の装置は、自車両と先行車との車間距離を制御する車間距離制御の実行中に、自車両の走行車線からの逸脱を防止する車線逸脱防止制御を実行可能に設けられており、車間距離制御のために前後輪の基本制動液圧を演算し、その後、車線逸脱防止制御のための目標ヨーモーメントから左右輪の目標制動液圧差を前後輪でそれぞれ演算し、この目標制動液圧差と基本制動液圧とに基づき各輪の目標制動液圧を演算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−193152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来の装置では、各輪の制動液圧を制御するためのアクチュエータの作動頻度を抑制できないおそれがある。本発明の目的とするところは、アクチュエータの作動頻度を抑制できるブレーキ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の装置は、好ましくは、基本制動液圧をホイルシリンダに発生させている状態で、目標ヨーモーメントがゼロから有意値に変化した場合、少なくとも1つの配管系のホイルシリンダ間で液圧差を生じさせると共に、この配管系の低圧側のホイルシリンダの液圧を保持する。
【発明の効果】
【0006】
よって、アクチュエータの作動頻度を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】ブレーキ制御装置の液圧ユニットにおける油圧回路構成を示す。
【図2】ホイルシリンダの目標液圧を演算する制御のブロック線図である。
【図3】ホイルシリンダの目標液圧を演算する制御のフローチャートである。
【図4】ブレーキ制御を実施した場合のヨーモーメントや各輪のホイルシリンダ液圧等のタイムチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明のブレーキ制御装置を実現する形態を、図面に基づき説明する。
【0009】
[実施例1]
[実施例1の構成]
図1は、実施例1のブレーキ制御装置(以下、装置1という。)、及びその液圧ユニットHUの油圧回路構成を示す。車両の4つの車輪FL〜RRには、制動力(ブレーキ力)を発生するためのホイルシリンダ5がそれぞれ設けられている。ブレーキシステムは、運転者のブレーキ操作力を倍力装置2に伝達する操作部材であるブレーキペダルBPと、伝達されたブレーキ操作力(ブレーキペダルBPの踏力)を増幅してマスタシリンダ3に伝達する倍力装置(ブースタ)2と、ブレーキペダルBPの踏み込みに応じて、倍力装置2から加わる力に比例した液圧(マスタシリンダ圧)を発生するマスタシリンダ3と、ブレーキ配管10を介してマスタシリンダ3とホイルシリンダ5とに接続されたアクチュエータである液圧ユニットHUと、各種情報に基づき指令信号を出力して液圧ユニットHUの作動を制御する電子制御ユニットである内部コントロールユニット20と、を有している。内部コントロールユニット20は、CAN通信線22を介して、第2の電子制御ユニットである外部コントロールユニット21と双方向通信可能に接続されている。
【0010】
マスタシリンダ3には、作動液(ブレーキ液)を貯留する液源としてのリザーバタンク4が一体に設けられており、マスタシリンダ3は、リザーバタンク4からブレーキ液の供給を受ける。マスタシリンダ3は所謂タンデム型であって、独立した2系統(プライマリP系統,セカンダリS系統)のブレーキ配管系10P,10Sを介して液圧ユニットHUに接続されている。以下、ブレーキ配管の各系統に対してそれぞれ設けられているものについては、必要に応じてP,Sの記号を添えて区別するものとする。また、4輪の各々に対応して複数設けられているものについては、必要に応じてa,b,c,dの記号を添えて区別し、aは前左輪FL、bは前右輪FR、cは後左輪RL、dは後右輪RRにそれぞれ対応するものとする。ブレーキ回路(油圧回路)は所謂X配管であり、マスタシリンダ3から出たP系統のブレーキ回路10Pが前左輪FLと後右輪RRのホイルシリンダ5a,5dに、S系統のブレーキ回路10Sが前右輪FRと後左輪RLのホイルシリンダ5b,5cに夫々接続され、X字(ダイヤゴナル)型の配管構造となっている。なお、所謂前後配管、すなわち前輪と後輪の2系統に分けたH字型の配管構造としてもよい。ブレーキペダルBPが踏み込まれると、マスタシリンダ3はブレーキ液をブレーキ配管系10P,10Sを介して液圧ユニットHUに供給し、ホイルシリンダ5はブレーキ圧(ホイルシリンダ圧P)を発生する。液圧ユニットHUは、ホイルシリンダ圧Pを、マスタシリンダ圧以下に制御することも、マスタシリンダ圧以上に制御することも、略一定に保持することも可能に設けられている。
【0011】
以下、P系統を例にとり、油圧回路であるブレーキ回路10について説明する。ブレーキ回路10は、液圧ユニットHU内に、ブレーキ液が移動(流通)する複数の通路14等を有している。ブレーキ回路10は、マスタシリンダ3側からホイルシリンダ5側に向かう供給通路14を有している。供給通路14には、その連通・遮断を切り換える遮断弁としてのゲートアウト弁8が設けられている。また、ゲートアウト弁8と並列に、ホイルシリンダ5側(ポンプ9側)からマスタシリンダ3側へのブレーキ液の流通を抑制するチェック弁16が設けられている。ゲートアウト弁8よりもホイルシリンダ5側の供給通路14は、前輪側の増圧通路(フロントホイルシリンダ増圧通路)14aと後輪側の増圧通路(リアホイルシリンダ増圧通路)14dに分岐している。増圧通路14aは前左輪FLのホイルシリンダ5aに接続し、増圧通路14dは後右輪RRのホイルシリンダ5dに接続している。増圧通路14a、14dには、その連通・遮断を切り換える増圧弁6a,6dが夫々設けられている。また、増圧弁6と並列に、マスタシリンダ3側(ポンプ9側)からホイルシリンダ5側へのブレーキ液の流通を抑制するチェック弁17が設けられている。このように、ホイルシリンダ5a、5dは、増圧通路14a、14d及び供給通路14を介してマスタシリンダ3(リザーバタンク4)と連通している。ゲートアウト弁8と増圧弁6a,6dは、ホイルシリンダ5a、5dとマスタシリンダ3との間に設けられている。
【0012】
増圧弁6よりもホイルシリンダ5側の増圧通路14a、14dには、減圧通路15a、15dが夫々接続している。減圧通路15aは、ホイルシリンダ5aに接続する前輪側の減圧通路(フロントホイルシリンダ減圧通路)であり、減圧通路15dは、ホイルシリンダ5dに接続する後輪側の減圧通路(リアホイルシリンダ減圧通路)である。減圧通路15a、15dには、その連通・遮断を切り換える減圧弁7a,7dが夫々設けられている。減圧通路15a、15dは合流して減圧通路15となり、内部リザーバ11に接続している。一方、供給通路14は、ゲートアウト弁8よりもマスタシリンダ3側で分岐し、吸入通路19を形成している。吸入通路19は、内部リザーバ11を経由してポンプ9の吸入側に接続している。このように、ポンプ9の吸入側は、吸入通路19及び供給通路14を介してマスタシリンダ3(リザーバタンク4)と連通している。内部リザーバ11は、ポンプ9の吸入側とマスタシリンダ3との間に設けられている。ポンプ9の吐出側は、吐出通路18を介して、ゲートアウト弁8よりもホイルシリンダ5側の供給通路14に接続している。なお、ポンプ9の吐出側(吐出通路18)にはチェック弁13が設けられており、チェック弁13はゲートアウト弁8と増圧弁6との間の通路14からポンプ9の吐出側へのブレーキ液の逆流を抑制する。ポンプ9の吐出側は、吐出通路18及び供給通路14を介してマスタシリンダ3と連通している。ゲートアウト弁8は、ポンプ9の吐出側とマスタシリンダ3との間に設けられている。また、ポンプ9の吐出側は、吐出通路18及び供給通路14(増圧通路14a、14d)を介してホイルシリンダ5a、5dと連通している。増圧弁6a,6dは、ポンプ9の吐出側とホイルシリンダ5a、5dとの間に夫々設けられている。
【0013】
S系統のブレーキ回路10Sも、P系統のブレーキ回路10Pと同様に構成されている。なお、ブレーキ回路10Sには、供給通路14におけるゲートアウト弁8よりもマスタシリンダ3側に、マスタシリンダ圧センサ12が設けられている。マスタシリンダ圧センサ12は、マスタシリンダ圧を検出し、検出した値を内部コントロールユニット20に入力する。
【0014】
各弁6〜9は、電磁弁(ソレノイドバルブ)であり、コイルへ駆動電流が通電されることにより電磁力を発生し、プランジャ等を往復移動させることで弁を開閉作動する周知のものである。ゲートアウト弁8は、電流値により弁の開度が比例的に変化する比例制御弁であり、非通電時に開弁する常開弁である。ゲートアウト弁8は、内部コントロールユニット20からの指令電流により全開状態と全閉状態との間を比例的に動作し、マスタシリンダ3(上流側)とポンプ9の吐出側及び増圧弁6(下流側)との間を断続(連通・遮断)する。増圧弁6が開弁した状態(全開状態)では、ポンプ9によるホイルシリンダ5の増圧量は、ポンプ9の吐出液量とゲートアウト弁8からマスタシリンダ3側へのリーク液量との差に応じて決定される。すなわち、モータMの回転数(ポンプ吐出液量)を制御すると共に、ゲートアウト弁8の開度を制御して上記リーク液量を調整することで、ホイルシリンダ5の液圧を増圧・減圧・保持することができる。例えば、マスタシリンダ圧がゼロのとき、ゲートアウト弁8の上下流の差圧はホイルシリンダ5の液圧に相当するため、この差圧が所望の値となるようにゲートアウト弁8のソレノイドに通電してその開度(開弁量や開弁時間)を制御すれば、ホイルシリンダ5の液圧を任意に調圧することができる(以下、これをゲートアウト弁8の調圧制御という。)。また、チェック弁16は、マスタシリンダ圧>(ポンプ9の吐出側の圧)となったときに、マスタシリンダ圧をポンプ9の吐出側及び増圧弁6の側へ伝えるように開動作する。
【0015】
増圧弁6は、弁の開度が全開状態と全閉状態の2位置をとるオン・オフ弁であり、非通電時に開弁する常開弁である。増圧弁6は、内部コントロールユニット20からの指令電流により開閉動作を行い、増圧弁6に供給されるマスタシリンダ圧又はポンプ吐出圧を開弁によりホイルシリンダ5に供給し、又は閉弁によりこの供給を遮断することで、ホイルシリンダ圧を任意に増圧ないし保持可能に設けられている。また、チェック弁17は、ホイルシリンダ圧>(ポンプ9の吐出側の圧)となったときに、ホイルシリンダ圧をマスタシリンダ3に抜くように開動作する。減圧弁7は、オン・オフ弁であり、非通電時に閉弁する常閉弁である。減圧弁7は、内部コントロールユニット20からの指令電流により開閉動作を行い、開弁によりホイルシリンダ5内のブレーキ液を一時的に内部リザーバに供給し(すなわちホイルシリンダ5からブレーキ液を排出し)、又は閉弁によりこの供給(排出)を遮断することで、ホイルシリンダ圧を任意に減圧可能に設けられている。
【0016】
ポンプ9は、P,S系統ごとに設けられており、モータMにより回転駆動され、各配管系統でブレーキ液の吸入・吐出を行う外接ギヤ式ポンプである。なお、ポンプの形式はこれに限らず、内接ギヤ式やプランジャ式等を採用可能である。ポンプ9は、内部リザーバ11に貯留したブレーキ液を掻き出し、ゲートアウト弁8を介してマスタシリンダ3側に戻す。また、ポンプ9は、マスタシリンダ3以外のブレーキ液圧源として、マスタシリンダ3側から内部リザーバ11を介してブレーキ液を吸入し、ホイルシリンダ5側に吐出する。モータMは、直流ブラシモータであるが、これに限られない。モータMは、内部コントロールユニット20からの指令電圧により回転数制御され、ポンプ9を駆動する。内部リザーバ11は、液圧ユニットHUに内蔵された調圧機能付きのリザーバタンクであり、ブレーキ液を貯留かつ調圧可能に設けられている。内部リザーバ11は、減圧弁7を介して送られてくるブレーキ液を貯留する。また、内部リザーバ11は、ポンプ9を停止した状態でマスタシリンダ3側から少しでも圧力が発生すると、吸入通路19の連通を遮断して、マスタシリンダ3側からポンプ9の吸入側へのブレーキ液の流入を抑制する一方、ポンプ9が作動すると、吸入通路19を連通させて、マスタシリンダ3側からポンプ9の吸入側へのブレーキ液の流入を優先的に有効とする。
【0017】
装置1は、液圧ユニットHUと内部コントロールユニット20を有している。内部コントロールユニット20は、液圧ユニットHUと一体のユニット(機電一体型)として設けられている。なお、両ユニット20,HUを別体としてもよい。内部コントロールユニット20は、マスタシリンダ圧センサ12から送られる検出値、車両側から送られる走行状態に関する情報、及び、外部コントロールユニット21から送られる基本制動液圧と目標ヨーモーメント等の信号の入力を受け、内蔵されるプログラムに基づき、ブレーキ制御の介入及び離脱の判断を行うと共に、適切なブレーキ力(各ホイルシリンダ5の目標液圧)を演算し、液圧ユニットHUに指令信号を出力して各アクチュエータを駆動制御する。具体的には、液圧ユニットHUの各弁6,7,8やモータMを駆動して、各車輪FL等のホイルシリンダ圧Pが目標液圧となるように制御する。これによりブレーキ制御を実行する。ブレーキ制御とは、安全性や利便性を確保する機能の要求により、車両の各輪FL等のブレーキ力を制御することを意味する。外部コントロールユニット21は、車両の車間距離制御(車間自動制御)機能や車線逸脱回避制御(車線逸脱防止支援)機能を備えており、車間距離制御機能から基本制動液圧を、車線逸脱回避制御機能から車両の目標ヨーモーメントを演算し、内部コントロールユニット20にCAN信号にて送信する。
【0018】
図2は、内部コントロールユニット20にて実施される制御のブロック線図であり、装置1において各輪FL等のホイルシリンダ5の目標液圧を演算するブロック線図を示す。前後輪目標液圧演算部B1では、車間距離制御機能より求められた基本制動液圧を前後輪に配分した液圧である前後輪目標液圧を演算する。前後配分比は、車両の特性により予め定められた第1前後配分比(例えば、フロント:リア=7:3)としている。なお、装置1を搭載する車両の特性により、この前後配分比を適宜変更することとしてもよい。前後輪目標制動液圧差演算部B2では、車線逸脱回避制御機能より求められた目標ヨーモーメントを発生させるための左右の制動力差を前後輪に配分した制動液圧差である前後輪目標制動液圧差を演算する。このように目標ヨーモーメントに対応する制動力を前後輪に配分する際の比率、すなわち目標ヨーモーメントに対する前後配分比も、車両の特性に応じて設定した第1前後配分比(フロント:リア=7:3)としている。なお、装置1を搭載する車両の特性により、この前後配分比を適宜変更することとしてもよい。各輪仮目標液圧演算部B3では、求められた前後輪目標液圧と前後輪目標制動液圧差とを加減算し、各輪FL等のホイルシリンダ5の仮目標液圧を演算する。制御状態判断部(車間距離制御及び車線逸脱回避制御判断部)B4では、基本制動液圧と目標ヨーモーメントの信号から、外部コントロールユニット21における制御状態を判断する。具体的には、制御状態判断信号には、(ア)車間距離制御単独が行われている状態、(イ)車線逸脱回避制御単独が行われている状態、(ウ)車間距離制御も車線逸脱回避制御も行われていない状態、及び(エ)車間距離制御単独が行われている状態から、並行して車線逸脱回避制御も行われるようになった状態(複合制御状態)がある。制御状態判断部B4は、複合制御状態(エ)の有無を判断する。有りと判断されると、下記のように、第2前後配分比設定(B5)と各輪FL等の目標液圧設定(B6)が行われる。
【0019】
各輪仮目標液圧フィードバック演算部B5では、(各輪の仮目標液圧から求められた)目標制動力と(車線逸脱回避制御機能から求められた)目標ヨーモーメントに対して、(後述する各輪目標液圧設定部B6にて設定された各輪の目標液圧より求めた)発生する制動力と実ヨーモーメントが夫々一致するよう、夫々の差分を演算し、演算された差分の制動力とヨーモーメントを液圧に変換した後、このフィードバック目標液圧を各輪の仮目標液圧の前回値に加減算する。このとき、制御状態判断信号が上記(ア)〜(ウ)のいずれかである場合は、フィードバック目標液圧はゼロとなり、出力するフィードバック後の各輪の仮目標液圧は入力される仮目標液圧と同値になる。制御状態判断信号が上記(エ)である場合は、ヨーモーメントの前後配分比を、第1前後配分比から第2前後配分比(例えば、フロント:リア=10:0)に変更して設定し、フィードバック演算を行う。言い換えると、本演算部B5では、目標ヨーモーメント等を実現できるよう、仮目標液圧の不足分をフィードバック演算により補う。各輪目標液圧設定部B6では、フィードバック目標液圧反映後の各輪の仮目標液圧と制御状態判断信号とから、各輪FL等の目標液圧を設定する。制御状態判断信号が上記(ア)〜(ウ)のいずれかである場合は、各輪の目標液圧は入力される仮目標液圧に設定される。制御状態判断信号が上記(エ)である場合は、あるブレーキ配管系(例えばP系統)において各ホイルシリンダ5間の仮目標液圧差が生じると、高圧側のホイルシリンダ5(例えば前左輪FL輪のホイルシリンダ5a。以下、高圧輪という。)の目標液圧を、第2前後配分比により演算されたフィードバック後の仮目標液圧に設定する。一方、低圧側のホイルシリンダ5(後右輪RR輪のホイルシリンダ5d。以下、低圧輪という。)の目標液圧を、前回の仮目標液圧に保持するように設定する。また、別の配管系統(S系統)で、ある高圧輪(例えば後左輪RL輪のホイルシリンダ5c)と低圧輪(前右輪FR輪のホイルシリンダ5b)の仮目標液圧差が生じた際には、低圧輪については仮目標液圧通りに設定し、高圧輪の目標液圧を、低圧輪と同圧になるように設定する。
【0020】
図3は、内部コントロールユニット20にて実施される制御のフローチャートであり、装置1において各輪の目標液圧を演算するフローチャートを示す。この制御フローは所定の制御周期ごとに実行される。
ステップS1では、上記演算部B1〜B3により、車間距離制御機能からの基本制動液圧と車線逸脱回避制御機能からの目標ヨーモーメントから、各輪の仮目標液圧を演算する。このとき、目標ヨーモーメント成分から前後制動力配分を決めるための前後配分比を、第1前後配分比に設定する。その後、ステップS2へ移行する。
ステップS2では、上記判断部B4により、車間距離制御機能からの基本制動液圧がゼロか否かを判断する。基本制動液圧がゼロでない場合、すなわち車間距離制御状態である場合、ステップS3へ移行する。一方、基本制動液圧がゼロである場合、すなわち車間距離制御状態ではない場合、制御を終了する。
ステップS3では、上記判断部B4により、車線逸脱回避制御機能からの目標ヨーモーメントがゼロか否かを判断する。目標ヨーモーメントがゼロでない場合、すなわち車間距離制御状態において車線逸脱回避制御状態である場合、ステップS4へ移行する。目標ヨーモーメントがゼロの場合、すなわち車線逸脱回避制御状態ではなく、車間距離制御状態単独である場合、制御を終了する。
ステップS4では、上記演算部B5により、車間距離制御状態において車線逸脱回避制御状態でもある場合に、各輪の仮目標液圧から求めた目標制動力と目標ヨーモーメントに対する、各輪の目標液圧より求めた発生する制動力とヨーモーメントの各差分を演算し、差分をフィードバック目標液圧として反映した各輪の仮目標液圧演算を行う。このとき、目標ヨーモーメント成分から前後制動力配分を決めるための前後配分比は、第2前後配分比に切換える。その後、ステップS5へ移行する。
ステップS5では、上記設定部B6により、フィードバック目標液圧を反映した各輪の仮目標液圧のうち、いずれかの配管系統の低圧輪が減圧指令か否かを判断し、低圧輪が減圧指令の場合、ステップS6へ移行する。低圧輪が減圧指令ではない場合、制御を終了する。
ステップS6では、上記設定部B6により、上記配管系統の低圧輪については仮目標液圧の前回値を保持して目標液圧とする。前回値保持後、その配管系統の高圧輪と同一の場合は、目標液圧を高圧輪と同圧とする。また、別の配管系統の高圧輪は、その配管系統の低圧輪と目標液圧を同圧とする目標液圧設定を行い、制御を終了する。
【0021】
[実施例1の作用]
次に、装置1の作用を説明する。図4は、装置1によるブレーキ制御を実施した場合の、車両のヨーモーメントや各輪の液圧等のタイムチャートを示す。
時刻t1で、外部コントロールユニット21により車間距離制御が開始され、基本制動液圧がゼロから増加し始める。車間距離制御単独が行われている状態であると判断されるため、各輪の仮目標液圧(破線)を目標液圧に設定し、目標液圧に従い液圧制御を行う。具体的には、モータMを増圧制御、ゲートアウト弁8P,8Sを調圧制御する。このように、目標液圧に対してホイルシリンダ圧を追従させて増圧制御する際、ゲートアウト弁8の調圧制御を行うことで、増圧制御の精度と応答性を向上することができる。
時刻t2で、基本制動液圧が保持指令となり、各輪の目標液圧も保持指令となる。このとき、モータMは保持制御、ゲートアウト弁8P,8Sは調圧制御を継続する。具体的には、ポンプ9P,9Sの吐出液量とゲートアウト弁8P,8Sからマスタシリンダ3側へのリーク液量とを夫々釣り合わせる保持制御を行う。
【0022】
時刻t3で、基本制動液圧が減少し始めると共に、目標ヨーモーメントがゼロから増加し始める。基本制動液圧を各輪のホイルシリンダ5に発生させている状態で、目標ヨーモーメントがゼロから有意値に変化するため、車間距離制御と車線逸脱回避制御が複合して行われている複合制御状態であると判断される。図4では、ヨーモーメントのプラス側を左旋回、マイナス側を右旋回に設定した例を示している。制動力を発生させるプラス側である前左輪FLと後左輪RLに目標ヨーモーメントから演算された前後輪目標制動液圧差が加算され、仮目標液圧(破線)は増大する。よって、少なくとも1つの配管系のホイルシリンダ5間で、(例えばP系統にて、前左輪FLのホイルシリンダ5aと後右輪RRのホイルシリンダ5dとの間で、)仮目標液圧差が生じる。このため、この配管系(例えばP系統)の低圧側の輪(後右輪RR)の目標液圧を、前回の仮目標液圧を保持させるように設定する。また、目標ヨーモーメントの前後制動力配分比を第1前後配分比から第2前後配分比に切換え、高圧側の輪(前左輪FL)の目標液圧を仮目標液圧よりも増大させる(実線)。同時に、別の配管系のホイルシリンダ5間でも、(例えばS系統にて、前右輪FRのホイルシリンダ5bと後左輪RLのホイルシリンダ5cとの間で、)仮目標液圧差が生じる。このため、高圧側の輪(後左輪RL)の目標液圧を、同一系統の低圧側の輪(前右輪FR)と同圧になるように設定する。具体的には、設定された各輪FL〜RRの目標液圧に従い、モータMは増圧制御、後右輪RRの増圧弁6dは閉弁、ゲートアウト弁8P,8Sは調圧制御を継続する液圧制御を行う。すなわち、P系統では、後右輪RRのホイルシリンダ5dに対応する増圧弁6dを閉じて、このホイルシリンダ5dの液圧を保持すると共に、モータMを増圧制御し、ゲートアウト弁8Pを調圧制御することで、前左輪FLのホイルシリンダ5aの液圧を前後制動力配分比の切換前よりも増大させる。これにより、P系統にて、ホイルシリンダ5a,5d間で液圧差が生じる。S系統では、ゲートアウト弁8Sを調圧制御することで、ホイルシリンダ5b、5cの液圧を同一としつつその大きさを制御する。
【0023】
時刻t4で、目標ヨーモーメントが保持指令、基本制動液圧が減圧指令となる。よって、各輪の仮目標液圧(破線)は減圧指令となるため、目標液圧を保持する後右輪RRを除く、前左輪FL、前右輪FR、及び(目標液圧を前右輪FRと同圧に設定している)後左輪RLの目標液圧は、低下する。前右輪FR及び後左輪RLの目標液圧は仮目標液圧よりも低くなる。これは、目標ヨーモーメントに対して発生する実ヨーモーメントが低い側に差分(フィードバック目標液圧)が生じるためである。モータMは減圧制御、ゲートアウト弁8P,8Sと後右輪RRの増圧弁6dは夫々調圧制御と閉弁を継続する。
時刻t5で、前右輪FRおよび(目標液圧を前右輪FRと同圧に設定している)後左輪RLの目標液圧がゼロとなる。目標ヨーモーメントと発生する実ヨーモーメントを一致させるため、前左輪FLの目標液圧はフィードバック目標液圧により保持になる。モータMは保持制御、ゲートアウト弁8Sは非制御、ゲートアウト弁8P及び後右輪RRの増圧弁6dは、夫々調圧制御と閉弁を継続する。
時刻t6で、基本制動液圧がゼロとなり、目標ヨーモーメント指令のみの状態となる。制御状態判断は、車間距離制御状態と車線逸脱回避制御の複合制御状態継続と判断する。各輪の目標液圧設定及び第2前後配分比状態は、時刻t5と変わらない。モータMは保持制御、ゲートアウト弁8P及び後右輪RRの増圧弁は夫々調圧制御と閉弁を継続する。
時刻t7で、目標ヨーモーメントが減少し始め、前左輪FLの目標液圧も減少する。モータMは減圧制御、ゲートアウト弁8P及び後右輪RRの増圧弁6dは夫々調圧制御と閉弁を継続する。
時刻t8で、目標ヨーモーメントが減少するのに伴い、減少する前左輪FLの目標液圧が、後右輪RRの保持している目標液圧と同一となる。同一となった後は、後右輪RRの目標液圧を前左輪FLと同圧に設定する。モータMは減圧制御、後右輪RRの増圧弁6dは非制御とし(開弁し)、ゲートアウト弁8Pは調圧制御を継続する。すなわち、P系統で、ゲートアウト弁8Pを調圧制御することで、ホイルシリンダ5a、5dの液圧を同一としつつその大きさを(減少)制御する。これに伴い、発生する実ヨーモーメントがゼロとなる。
時刻t9で、基本制動液圧、目標ヨーモーメント共にゼロとなり、各輪の目標液圧もゼロとなって、液圧制御を終了する。具体的には、モータMとゲートアウト弁8Pを非制御とする。
【0024】
以下、従来技術との対比において装置1の作用効果を説明する。従来、車両の走行状態を制御するための基本制動液圧と目標ヨーモーメントとに基づき、各輪のホイルシリンダの液圧を制御するブレーキ制御装置が知られている。例えば特許文献1に記載の装置は、車間距離制御の実行中に車線逸脱防止制御を実行可能に設けられている。車間距離制御のために前後輪の基本制動液圧を演算すると共に、車線逸脱防止制御のために目標ヨーモーメントから左右輪の目標制動液圧差を前後輪で夫々演算し、この目標制動液圧差と基本制動液圧とに基づき各輪の目標液圧を演算する。具体的には、ヨーモーメントを発生させる左右片側にて、基本制動液圧に目標制動液圧差を加算して各輪の目標液圧を演算する。しかし、上記従来の装置では、基本制動液圧と目標ヨーモーメントとに基づき各輪のホイルシリンダ液圧を制御する際、アクチュエータの作動頻度を抑制できないおそれがある。すなわち、各輪に基本制動液圧を発生させている状態で、左右輪間で制動液圧差を生じさせようとすると、同一のブレーキ配管系にて高圧輪と低圧輪の目標液圧差が生じる(これはX配管形式でも前後配管形式でも同様である)。その際、目標液圧差を実現しようとして低圧輪の目標液圧を低下させる(減圧指令を出す)と、その低圧輪の(常開弁である)増圧弁に通電してこれを閉作動させると共に、(常閉弁である)減圧弁に通電してこれを開作動させる必要がある。よって、少なくとも減圧弁の作動頻度を抑制することができないため、電力消費や騒音・振動(音振)が増大するおそれがある。特に、コスト抑制のために減圧弁として比較的安価なオン/オフ弁を採用した場合、液圧の変化を緩やかにする等の目的で減圧弁のオン(開弁)とオフ(閉弁)を繰り返すと、油路の遮断/開放による脈動が生じ、不快な作動音が生じるおそれがある。
【0025】
これに対し、本実施例1の装置1では、基本制動液圧を各輪FL等のホイルシリンダ5に発生させている状態で、車両の目標ヨーモーメントがゼロから有意値に変化した場合、少なくとも1つの配管系(例えばP系統)のホイルシリンダ(5a,5d)間で液圧差を生じさせると共に、この配管系(P系統)の低圧側のホイルシリンダ(例えば後右輪RRのホイルシリンダ5d)に対応する増圧弁(6d)を閉じてこのホイルシリンダ(5d)の液圧を保持する。具体的には、上記場合、各輪の仮目標液圧を演算し、同一配管系(P系統)のホイルシリンダ5間で仮目標液圧差が生じると、低圧側のホイルシリンダ(5d)の目標液圧を前回の仮目標液圧に保持し、増圧弁(6d)を閉じてホイルシリンダ(5d)の液圧を保持する液圧制御を行う。よって、ホイルシリンダ(5d)に対応する減圧弁(7d)を作動する必要がなくなり、減圧弁(7d)を非作動にすることでその作動頻度を抑制できる。したがって、消費電力を削減でき、またアクチュエータの作動による音振の発生を抑制できる。なお、本実施例1では、各輪FL等の目標液圧を演算する際、パラメータとして仮目標液圧やそのフィードバック演算値を用いたが、これに限らず他のパラメータや演算方法を用いてもよい。また、基本制動液圧による車両の走行状態の制御は、本実施例1のような車間距離制御に限らず、例えば障害物や先行車との衝突回避を支援するための減速制御であってもよく、要は、左右各輪に等しく制動液圧を発生させることで実現される制御であればよい。また、目標ヨーモーメントをゼロから有意値に変化させる制御は、本実施例1のような車線逸脱回避制御に限らず、例えば車輪の横滑りを抑制して車両姿勢を安定させる制御であってもよく、要は、左右輪に制動液圧差を発生させることで実現される制御であればよい。本実施例1では、制御時間が比較的長くアクチュエータの作動頻度が高い車間距離制御に本発明の液圧制御を適用することとしたため、アクチュエータの作動頻度の抑制効果を向上することができる。また、制御場面の緊急度が比較的低くアクチュエータの作動音が不快なものとして運転者に感じ取られる可能性が高い車線逸脱回避制御に本発明の液圧制御を適用することとしたため、音振の抑制効果を向上できる。
【0026】
減圧弁7は、各輪FL等のホイルシリンダ5に対応して設けられ、低圧側(内部リザーバ11)に接続する。よって、本実施例1の液圧ユニットHUでは、減圧弁7を作動させることによりアンチロックブレーキABS等のブレーキ制御を実行可能である。例えばABS制御においては、ホイルシリンダ5から減圧弁7を介して低圧側にブレーキ液を排出する。低圧側に一時的に貯留したブレーキ液は、ポンプ9を作動させてこれを掻き出すことでブレーキ液源(マスタシリンダ3)に還流させる。装置1は、ABS制御等のブレーキ制御を実行可能な液圧ユニットHUにおいて、上記のように減圧弁7の作動を抑制することで、上記作用効果を得ることができる。また、本実施例1では、減圧弁7はオン/オフ弁であることとした。よって、装置1のコストを低減できると共に、オン/オフ弁である減圧弁7を非作動にすることで、油路の遮断/開放に伴う脈動を抑制し、不快な作動音を抑制できる。
【0027】
実施例1では、液圧ユニットHUにおいて、減圧弁7を非作動としつつ、少なくとも1つの配管系(例えばP系統)のホイルシリンダ5間で液圧差を生じさせる(ヨーモーメントを発生させる)ための方法として、低圧輪(例えば後右輪RR)に対応する増圧弁(6d)を閉じてホイルシリンダ液圧を保持するようにした。よって、この系統のいずれの輪FL,RRについても、基本制動液圧以下にホイルシリンダ圧が低下することを回避しつつ液圧差を生じさせることができる。従って、車両の走行状態の制御(車間距離制御)に不利益を及ぼすおそれが比較的少ない。また、本実施例1では、装置1をX配管構造の液圧ユニットHUに適用した例を示したが、前後配管構造の液圧ユニットに適用してもよい。この場合、同一配管系の左輪(例えば前左輪)と右輪(前右輪)のホイルシリンダ間で液圧差を生じさせると共に、低圧輪(例えば前左輪)に対応する増圧弁を閉じれば、この低圧輪(前左輪)に対応する減圧弁を非作動としつつ、車両の左右で制動力差を生じさせることができる。
【0028】
本実施例1では、ある配管系(例えばP系統)の低圧側の輪に対応する増圧弁6を閉じてそのホイルシリンダ液圧を保持させる際、後輪側を低圧側とした。よって、後輪側を高圧側とした場合の後輪ロックのおそれを低減し、車両挙動の安定性を向上することができる。なお、低圧輪に対応する増圧弁6を閉じてこのホイルシリンダ5の液圧を保持する際、保持する液圧値は必ずしも限定されず、要は、減圧弁7を非作動とすることができればよい。また、本実施例1の装置1は、目標ヨーモーメントがゼロから有意値に変化したときの値にホイルシリンダ圧を保持することとしたため、目標ヨーモーメントが有意に発生した直後から増圧弁6による保持を可能とすることができるだけでなく、低圧輪において保持する液圧値を基本制動液圧まで低く抑えることで左右輪の液圧差を大きくとることを可能にし、これにより目標ヨーモーメントの実現を容易化できる。
【0029】
本実施例1では、基本制動液圧を各輪FL等のホイルシリンダ5に発生させている状態で、目標ヨーモーメントがゼロから有意値に変化した場合、前後制動力配分比を、ホイルシリンダ5間で液圧差を生じさせる配管系(例えばP系統)の高圧側のホイルシリンダ(例えば5a)の液圧が増大するように、変更することとした。よって、左右輪間の制動液圧差を増大し、目標ヨーモーメントの実現を容易化できる。すなわち、ある配管系(P系統)の低圧側のホイルシリンダ(例えば5d)の液圧を(減圧指令にもかかわらず)保持することとした場合、左右輪間で十分な制動液圧差を発生できず、目標ヨーモーメントを十分に実現できないおそれがある。これに対し、液圧保持による制動液圧差の不足を補うように、液圧を保持しない側(高圧側)の液圧を増大させることで、目標ヨーモーメントをより容易に実現できる。具体的には、前後制動力配分比を第1前後配分比から第2前後配分比に切換えることで、制動液圧差の不足を補うようにした。よって、第2前後配分比は、これに基づき目標液圧を演算(変更)した際、高圧輪の目標液圧が増大し、かつこれに従って液圧制御すれば、同系統の低圧輪の液圧が保持されていても、目標ヨーモーメントを実現できるような値に設定することが好ましい。
【0030】
本実施例1では、基本制動液圧を各輪FL等のホイルシリンダ5に発生させている状態で、目標ヨーモーメントがゼロから有意値に変化した場合、ホイルシリンダ5間で液圧差を生じさせる配管系(例えばP系統)とは別の配管系(S系統)において、ゲートアウト弁(8S)の作動を制御することで、この配管系(S系統)のホイルシリンダ(5b、5c)の液圧を同一としつつ制御することとした。具体的には、同一配管系(S系統)のホイルシリンダ5間で仮目標液圧差が生じたときは、そのうち高圧側のホイルシリンダ(例えば後左輪RLのホイルシリンダ5c)の目標液圧が、低圧側のホイルシリンダ(前右輪FRのホイルシリンダ5b)の目標液圧と同圧になるように設定し、ゲートアウト弁(8S)とポンプ(9S)を作動させて液圧制御を行う。すなわち、必ずしも全ての配管系(P系統、S系統)でホイルシリンダ5間の液圧差(左右の制動液圧差)を生じさせなくても、少なくとも1つの配管系(例えばP系統)で液圧差を生じさせることで、ヨーモーメントを発生可能である。よって、別の配管系(S系統)ではホイルシリンダ(5b、5c)の液圧差を生じさせないこととした。これにより、アクチュエータの作動頻度の抑制効果を向上することができる。すなわち、各ホイルシリンダ(5b、5c)はゲートアウト弁(8S)を介してマスタシリンダ3(低圧側)と接続する。よって、増圧弁(6b、6c)や減圧弁(7b、7c)を非作動としても、ゲートアウト弁(8S)の作動(開閉)を制御するだけで、各ホイルシリンダ(5b、5c)の液圧を同圧としつつこれを任意の値(例えば基本制動液圧)に制御することが可能となる。例えば、ゲートアウト弁(8S)の調圧制御による各ホイルシリンダ(5b、5c)の減圧制御が可能となるため、減圧弁(7b、7c)を非作動にすることができる。したがって、アクチュエータの作動頻度をより効果的に抑制できる。
【0031】
本実施例1では、目標ヨーモーメントが有意値からゼロに向かって減少した場合、ホイルシリンダ5間で液圧差を生じさせた配管系(例えばP系統)の高圧側のホイルシリンダ液圧(例えば前左輪FLのホイルシリンダ5aの液圧)が、低圧側の保持されたホイルシリンダ液圧(後右輪RRのホイルシリンダ5dの液圧)まで低下すると、この配管系(P系統)において、ゲートアウト弁(8P)の作動を制御することで、ホイルシリンダ(5a、5d)の液圧を同一としつつ制御することとした。具体的には、前後配分比の切換を行った後、上記配管系(P系統)の高圧側のホイルシリンダ(前左輪FLのホイルシリンダ5a)の目標液圧が、低圧側のホイルシリンダ(後右輪RRのホイルシリンダ5d)の目標液圧と同圧になると、低圧側のホイルシリンダ(5d)の目標液圧を高圧側のホイルシリンダ(5a)の目標液圧と同圧になるように設定し、増圧弁(6a、6d)を開弁し、ゲートアウト弁(8P)とポンプ(9P)を作動させて液圧制御を行う。すなわち、上記のように、増圧弁6や減圧弁7を非作動としても、ゲートアウト弁8の作動を制御するだけで、同系統の各ホイルシリンダ5の液圧を同圧としつつこれを任意の値(例えば基本制動液圧)に制御することが可能となる。よって、目標ヨーモーメントがゼロに向かって減少する場面、すなわちヨーモーメントを発生する必要がない場面では、減圧弁7を非作動にして、ゲートアウト弁8により同系統の各ホイルシリンダ5を減圧制御することとした。したがって、アクチュエータの作動頻度をより効果的に抑制できる。ここで、高圧側のホイルシリンダ液圧が低圧側のホイルシリンダ液圧まで低下してからゲートアウト弁8による液圧制御に切換えることで、ホイルシリンダ液圧の急激な変動を抑制することができる。なお、目標ヨーモーメントがゼロに向かって減少する際に基本制動液圧を各輪FL等のホイルシリンダに発生させている状態であってもなくても、上記の制御を行うことで、上記作用効果を得ることができる。
【0032】
また、本実施例1のゲートアウト弁8は比例制御弁であることとした。よって、オン/オフ弁を採用した場合よりも、作動音を効果的に抑制できる。言い換えると、本実施例1の装置1は、増圧弁6や減圧弁7を比較的安価なオン/オフ弁とし、比較的高価な比例制御弁の採用をゲートアウト弁8に限ったことで、装置1のコストを低減でき、かつ、この場合でも本発明の液圧制御を行うことでアクチュエータの作動頻度(音振の発生等)を抑制できるという効果を有する。
【0033】
[実施例1の効果]
以下、実施例1の装置1が奏する効果を列挙する。
(1)ポンプ9の吐出側と車両の各輪FL等のホイルシリンダ5との間に設けられた増圧弁6と、開弁することでホイルシリンダ5からブレーキ液を排出可能に設けられた減圧弁7と、ポンプ9、増圧弁6、及び減圧弁7の作動を制御して各ホイルシリンダ5内の液圧を制御する内部コントロールユニット20と、を備えたブレーキ制御装置において、内部コントロールユニット20は、車両の走行状態を制御するための基本制動液圧を各輪FL等のホイルシリンダ5に発生させている状態で、車両の目標ヨーモーメントがゼロから有意値に変化した場合、少なくとも1つの配管系の複数のホイルシリンダ5間で液圧差を生じさせると共に、この配管系の低圧側のホイルシリンダ5に対応する増圧弁6を閉じてこのホイルシリンダ5の液圧を保持する。
よって、アクチュエータ(減圧弁7)の作動頻度を抑制することができる。
【0034】
(2)ポンプ9の吐出側とマスタシリンダ3との間に設けられたゲートアウト弁8を備え、内部コントロールユニット20は、基本制動液圧を各輪FL等のホイルシリンダ5に発生させている状態で、目標ヨーモーメントがゼロから有意値に変化した場合、複数のホイルシリンダ5間で液圧差を生じさせる配管系(例えばP系統)とは別の配管系(S系統)において、ゲートアウト弁(8S)の作動を制御することで、この配管系(S系統)の複数のホイルシリンダ(5c、5d)の液圧を同一としつつ制御する。
よって、上記(1)の効果を向上することができる。
【0035】
(3)内部コントロールユニット20は、基本制動液圧を各輪FL等のホイルシリンダ5に発生させている状態で、目標ヨーモーメントがゼロから有意値に変化した場合、目標ヨーモーメントに対応する制動力を前後輪に配分する際の比率である前後制動力配分比を、複数のホイルシリンダ5間で液圧差を生じさせる配管系(例えばP系統)の高圧側のホイルシリンダ液圧(例えばホイルシリンダ5aの液圧)が増大するように、変更する。
よって、目標ヨーモーメントの実現を容易化できる。
【0036】
(4)ポンプ9の吐出側とマスタシリンダ3との間に設けられたゲートアウト弁8を備え、内部コントロールユニット20は、目標ヨーモーメントが有意値から減少した場合、複数のホイルシリンダ5間で液圧差を生じさせた配管系(例えばP系統)の高圧側のホイルシリンダ液圧(例えばホイルシリンダ5aの液圧)が低圧側の保持されたホイルシリンダ液圧(ホイルシリンダ5dの液圧)まで低下すると、この配管系(P系統)において、ゲートアウト弁(8P)の作動を制御することで、この配管系(P系統)の複数のホイルシリンダ(5a、5d)の液圧を同一としつつ制御する。
よって、上記(1)の効果を向上することができる。
【0037】
[他の実施例]
以上、本発明を実現するための形態を、実施例1に基づいて説明してきたが、本発明の具体的な構成は実施例1に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。例えば、液圧ユニットHUの構成は本実施例1のものに限られず、ポンプの吐出側と各ホイルシリンダとの間に設けられた増圧弁と、開弁することでホイルシリンダからブレーキ液を排出可能に設けられた減圧弁とを備えたものであれば、任意のブレーキ回路構成を採用してもよい。
【符号の説明】
【0038】
3 マスタシリンダ
5 ホイルシリンダ
6 増圧弁
7 減圧弁
8 ゲートアウト弁
9 ポンプ
20 内部コントロールユニット
HU 液圧ユニット
FL 前左輪(P系統)
FR 前右輪(S系統)
RL 後左輪(S系統)
RR 後右輪(P系統)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプの吐出側と車両の各輪のホイルシリンダとの間に設けられた増圧弁と、
開弁することで前記ホイルシリンダからブレーキ液を排出可能に設けられた減圧弁と、
前記ポンプ、前記増圧弁、及び前記減圧弁の作動を制御して前記各ホイルシリンダ内の液圧を制御する内部コントロールユニットと、
を備えたブレーキ制御装置において、
前記内部コントロールユニットは、車両の走行状態を制御するための基本制動液圧を各輪の前記ホイルシリンダに発生させている状態で、車両の目標ヨーモーメントがゼロから有意値に変化した場合、少なくとも1つの配管系の複数の前記ホイルシリンダ間で液圧差を生じさせると共に、この配管系の低圧側の前記ホイルシリンダに対応する前記増圧弁を閉じてこのホイルシリンダの液圧を保持する
ことを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のブレーキ制御装置において、
前記ポンプの吐出側とマスタシリンダとの間に設けられたゲートアウト弁を備え、
前記内部コントロールユニットは、基本制動液圧を各輪の前記ホイルシリンダに発生させている状態で、目標ヨーモーメントがゼロから有意値に変化した場合、前記複数のホイルシリンダ間で液圧差を生じさせる配管系とは別の配管系において、前記ゲートアウト弁の作動を制御することで、この配管系の複数の前記ホイルシリンダの液圧を同一としつつ制御する
ことを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のブレーキ制御装置において、
前記内部コントロールユニットは、基本制動液圧を各輪の前記ホイルシリンダに発生させている状態で、目標ヨーモーメントがゼロから有意値に変化した場合、前記目標ヨーモーメントに対応する制動力を前後輪に配分する際の比率である前後制動力配分比を、前記複数のホイルシリンダ間で液圧差を生じさせる配管系の高圧側のホイルシリンダ液圧が増大するように、変更する
ことを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載のブレーキ制御装置において、
前記ポンプの吐出側とマスタシリンダとの間に設けられたゲートアウト弁を備え、
前記内部コントロールユニットは、目標ヨーモーメントが有意値から減少した場合、前記複数のホイルシリンダ間で液圧差を生じさせた配管系の高圧側のホイルシリンダ液圧が前記低圧側の保持されたホイルシリンダ液圧まで低下すると、この配管系において、前記ゲートアウト弁の作動を制御することで、この配管系の複数の前記ホイルシリンダの液圧を同一としつつ制御する
ことを特徴とするブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−116374(P2012−116374A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268891(P2010−268891)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】