説明

ブレーキ操作装置およびブレーキ液圧制御装置

【課題】ブレーキペダルの操作方向の変化を的確に取得する。
【解決手段】マスタシリンダのヒステリシス特性が大きい場合には、ブレーキペダルのストロークの変化がマスタシリンダ液圧の変化に遅れて変化する。そのため、時間t2において、マスタ圧対応目標減速度が増加傾向から減少傾向に変化した場合には、ストローク対応目標減速度が変化しなくても、ブレーキペダルの操作方向が踏込み方向から戻し方向に切り換わったと決定される。このように、マスタ圧対応目標減速度とストローク対応目標減速度とのいずれか一方が変化しないで他方が変化した場合に、ブレーキペダルの操作方向が変化したと取得されるため、ブレーキペダルの操作方向の変化を的確に取得することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ操作部材とマスタシリンダとを備えたブレーキ操作装置、および、そのブレーキ操作装置を含むブレーキ液圧制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2には、車両の目標減速度を取得する目標減速度取得装置を含み、車両の実際の減速度が目標減速度に近づくように、ブレーキシリンダの液圧を制御するブレーキ液圧制御装置が記載されている。
特許文献1に記載の目標減速度取得装置は、(a)ブレーキ操作部材の操作ストロークを検出するストロークセンサと、(b)マスタシリンダの液圧を検出するマスタシリンダ液圧センサと、(c)それらストロークセンサとマスタシリンダ液圧センサとの両方が正常である場合に、ストロークセンサの検出値とマスタシリンダ液圧センサの検出値とに基づいて目標減速度を求める正常時目標減速度取得部と、(d)ストロークセンサが異常である場合に、マスタシリンダ液圧センサの検出値に基づいて目標減速度を求める異常時目標減速度取得部とを含むものであり、特許文献2に記載の目標減速度取得装置は、(e)ブレーキ操作部材に加えられる操作力を検出する2つの操作力センサと、(f)ブレーキ操作部材の操作ストロークを検出するストロークセンサと、(g)それらの検出値に基づいて3つのセンサのうちの少なくとも1つのセンサの異常を検出する異常検出部と、(h)センサの異常が検出された場合には正常なセンサの検出値を用いて目標減速度を求める異常時目標減速度取得部とを含むものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−316630
【特許文献2】特開2002−178899
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、ブレーキ操作部材の操作の向きの変化を適切に検出することである。
【課題を解決するための手段および効果】
【0005】
本発明に係るブレーキ操作装置は、マスタシリンダ液圧検出装置の検出値である検出マスタシリンダ液圧に関連するマスタシリンダ液圧関連値と、ストローク検出装置の検出値である検出ストロークに関連するストローク関連値とのいずれか一方の関連値の変化の向きが変化しないで、他方の関連値の変化の向きが変化した場合に、ブレーキ操作部材の操作の向きが変化したと取得するものとされる。
従来、マスタシリンダ液圧関連値G(Pm)とストローク関連値G(Str)とに基づいて車両の目標減速度Gが決定され、その目標減速度Gの変化傾向が変化した場合にブレーキ操作部材の操作の向きが変化したと取得されるようにされていた。また、目標減速度Gは、式
G=α・G(Str)+(1−α)・G(Pm)
に従って取得されるが、比率αは、マスタシリンダ液圧関連値G(Pm)が大きい場合に小さい場合より小さくなる値である。
マスタシリンダが、ヒステリシスが小さい特性を有するものである場合には、目標減速度Gに基づいて、ブレーキ操作部材の操作の向きの変化を適切に検出することができる。しかし、マスタシリンダが、ヒステリシスが大きい特性を有するものである場合には、例えば、ブレーキ操作部材の操作の向きが、制動力の増加を意図する向き(増加意図方向)から減少を意図する向き(減少意図方向)に変化しても、その変化を検出できないおそれがある。以下、その理由を説明する。
マスタシリンダが、ヒステリシスが大きい特性を有するものである場合には、マスタシリンダの液圧の変化に対するストロークの変化の遅れが大きくなる。そのため、ブレーキ操作部材の操作により、マスタシリンダ液圧が増加させられた後に、減少意図方向の操作が行われた場合に、それに伴ってマスタシリンダ液圧は減少するが、ストロークは直ちに減少せず、遅れて減少する。すなわち、マスタシリンダ液圧関連値G(Pm)は減少してもストローク関連値G(Str)が減少しない状態が生じる。また、比率αは、マスタシリンダ液圧関連値G(Pm)が減少すると大きい値とされ、ストローク関連値G(Str)の混合比が高くなる。以上の事情から、ブレーキ操作部材の操作の向きが、増加意図方向から減少意図方向に切り換えられても、目標減速度Gが減少せず、その増加意図方向から減少意図方向への操作の向きの変化が検出できないおそれがあるのである。
それに対して、本発明に係るブレーキ操作装置において、上述の場合には、ストローク関連値G(Str)は減少しないが(増加傾向のままであるが)、マスタシリンダ液圧関連値G(Pm)は減少するため(増加傾向から減少傾向に変化するため)、ブレーキ操作部材の操作の向きが、増加意図方向から減少意図方向へ変化したことを、適切に取得することができる。
また、ブレーキ操作部材の操作の向きの変化を適切に取得することができれば、例えば、運転者の、制動力の増加、減少に関する意図を適切に取得することが可能となる。さらに、ブレーキシリンダがマスタシリンダから遮断された状態で液圧が制御されるブレーキ液圧制御装置において、車両の減速度を、運転者の意図に応じた大きさに制御することが可能となり、運転者の制動フィーリングを向上させることができる。
なお、関連値の増加傾向、減少傾向、ブレーキ操作部材の操作方向である増加意図方向、減少意図方向等については後述する。
【特許請求可能な発明】
【0006】
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明について説明する。
(1)車両に設けられ、運転者によって操作可能なブレーキ操作部材と、
そのブレーキ操作部材に連携させられた加圧ピストンを有し、前記ブレーキ操作部材の運転者による操作に起因して、前記加圧ピストンの前方の加圧室に液圧を発生させるマスタシリンダと、
前記ブレーキ操作部材あるいは前記加圧ピストンのストロークを検出するストローク検出装置と、
前記マスタシリンダの液圧を検出するマスタシリンダ液圧検出装置と、
(a)そのマスタシリンダ液圧検出装置の検出値である検出マスタシリンダ液圧に関連するマスタシリンダ液圧関連値と、(b)前記ストローク検出装置の検出値である検出ストロークに関連するストローク関連値とのいずれか一方の関連値の変化の向きが変化しないで、他方の関連値の変化の向きが変化した場合に、前記ブレーキ操作部材の操作の向きが変化したと取得する操作方向変化取得装置と
を含むブレーキ操作装置。
マスタシリンダ液圧関連値には、検出マスタシリンダ液圧、検出マスタシリンダ液圧と1対1に対応する物理量等が該当する。検出マスタシリンダ液圧と1対1に対応する物理量には、例えば、ブレーキ操作部材に加えられる操作力、検出マスタシリンダ液圧や操作力に基づいて得られる関数値やテーブル値等(例えば、車両減速度)が該当する。
ストローク関連値には、検出ストローク、検出ストロークと1対1に対応する物理量等が該当する。検出ストロークと1対1に対応する物理量には、例えば、検出ストロークに基づいて決まる関数値やテーブル値等(例えば、車両減速度)が該当する。
また、ブレーキ操作部材の操作には、「制動力の増加を意図する操作」、「制動力の減少を意図する操作」、「保持操作」が該当するが、「保持操作」には、「制動力の増加を意図する操作の次に行われる保持操作」、「制動力の減少を意図する操作の次に行われる保持操作」がある。保持操作は、その直前の状態を保持するために行われる操作であるため、「制動力の増加を意図する操作の次に行われる保持操作」は、運転者が制動力の増加を意図して行う一連の操作に含めることができる。このことから、「制動力の増加を意図する操作」が「制動力の増加を意図する一連の操作」に該当する場合、「制動力の増加を意図する操作」および「制動力の増加を意図する操作の次に行われる保持操作」が「制動力の増加を意図する一連の操作」に該当する場合等(例えば、増加を意図する操作、保持操作の複数回の繰り返し)があると考えることができる。同様に、「制動力の減少を意図する操作」が「制動力の減少を意図する一連の操作」に該当する場合、「制動力の減少を意図する操作」および「制動力の減少を意図する操作の次に行われる保持操作」が「制動力の減少を意図する一連の操作」に該当する場合等(例えば、減少を意図する操作、保持操作の複数回の繰り返し)があると考えることができる。
このことから、例えば、「制動力の増加を意図する操作」の次に「制動力の減少を意図する操作」が行われた場合に、ブレーキ操作部材の操作方向が「増加意図方向」から「減少意図方向」に切り換わったとされる。また、「制動力の増加を意図する操作の次に行われた保持操作」の次に「制動力の減少を意図する操作」が行われた場合には、その減少を意図する向きの操作が行われた時点において、運転者は、「制動力を増加させる意図」から「制動力を減少させる意図」に切り換えたと考えることができるのであり、ブレーキ操作部材の操作方向が「増加意図方向」から「減少意図方向」に切り換わったとされる。
関連値の変化の向きの変化とは、増加傾向と減少傾向とのいずれか一方から他方への変化をいう。例えば、関連値が、(1)増加、(2)保持、(3)増加、(4)保持、(5)減少、(6)増加の順に変化した場合に、(4)保持(増加の次の保持)から(5)減少、(5)減少から(6)増加に変わった場合に、関連値の変化の向きが変化したとされる。(1)増加〜(4)保持までを、関連値が増加傾向にあると考えるため、(1)増加から(2)保持、(2)保持(増加の次の保持)から(3)増加、(3)増加から(4)保持への変化は、関連値の変化の向きの変化には該当しないからである。このことから、本明細書において、関連値が増加傾向にあるとは、関連値が単調に増加する場合、増加した後に保持された場合の増加、保持を含む場合等(例えば、増加、保持の複数回の繰り返し)が該当する。減少傾向についても同様である。
以上のように、本ブレーキ操作装置において、原則として、ブレーキ操作部材の、制動力の増加を意図する一連の操作が行われている場合には、ブレーキペダルの操作方向は増加意図方向にあり、関連値は増加傾向にあると考えることができる。また、制動力の減少を意図する一連の操作が行われている場合には、ブレーキペダルの操作方向は減少意図方向にあり、関連値は減少傾向にあると考えることができる。
なお、マスタシリンダ液圧検出装置の代わりに、ブレーキ操作部材に加えられた操作力を検出する操作力検出装置を用いることも可能である。
(2)前記操作方向変化取得装置が、前記マスタシリンダ液圧関連値と前記ストローク関連値との他方の関連値が、増加傾向と減少傾向とのうちの一方から他方へ変化し、かつ、その他方の変化傾向が設定時間以上続いた場合に、前記ブレーキ操作部材の操作方向が、前記車両に加えられる制動力の増加を意図する方向と前記制動力の減少を意図する方向とのうちの前記一方の変化傾向に対応する方向から前記他方の変化傾向に対応する方向に変化したと取得する時間依拠操作方向変化取得部を含むものとすることができる。
例えば、他方の関連値が増加傾向から減少傾向に変化し、減少傾向が設定時間以上続いた場合に、ブレーキ操作部材の操作方向が、増加意図方向から減少意図方向に変化したとすることができる。
このように、他方の関連値の減少傾向が設定時間以上続いた場合に、ブレーキ操作部材の操作方向が減少意図方向に変化したと取得されるため、ノイズ等に起因する誤検出を防止することができ、ブレーキ操作部材の操作方向の変化を正確に検出することができる。また、それにより、運転者の制動力の増加、減少に関する意図を適切に取得することができる。
(3)当該ブレーキ操作装置が、(a)前記ブレーキ操作部材が操作されている状態において、その操作方向が、少なくとも前記車両に加えられる制動力の増加を意図する方向である増加意図方向と前記制動力の減少を意図する方向である減少意図方向とのいずれであるかを決定する操作方向決定部と、(b)前記ブレーキ操作部材が操作されていない状態に、前記操作方向の初期値を前記増加意図方向を表す値とする初期値増加意図方向決定部とを含む。
ブレーキ操作部材の操作状態において、そのブレーキ操作部材の操作方向は、少なくとも増加意図方向と減少意図方向とのいずれかであると決定される。増加意図方向、減少意図方向、保持の3つのうちの1つであると決定されるようにすることもできる。
ブレーキ操作部材が運転者によって操作されていない状態において、ブレーキ操作部材の操作方向を表すフラグ等の初期値が増加意図方向を表す値とされる。
ブレーキ操作部材の操作が行われていない状態において、次に、制動力の増加を意図する操作が行われるため、初期値を増加意図方向を表す値とすれば、ブレーキ操作部材の操作(制動力の増加を意図する操作)が開始されると、直ちに、操作方向を増加意図方向であると決定することができるのであり、操作方向の決定遅れを防止することができる。また、ブレーキ操作部材の操作方向に基づいて目標減速度が決定され、ブレーキシリンダ液圧が制御されるブレーキ液圧制御装置に適用された場合には、ブレーキ操作部材の操作初期において、目標減速度の決定遅れを抑制し、ブレーキの作動遅れを抑制することができる。
(4)当該ブレーキ操作装置が、前記ブレーキ操作部材が運転者によって操作されていない状態にあることを検出する非操作状態検出部を含む。
例えば、ブレーキスイッチによって、ブレーキ操作部材が非操作状態にあると検出された場合(例えば、ブレーキスイッチがOFF状態にある場合)、ブレーキ操作部材が後退端位置、あるいは、ブレーキ操作部材のストロークが設定ストロークより小さい場合に、非操作状態にあるとすることができる。ブレーキ操作部材が後退端位置からわずかに前進した場合に、ブレーキスイッチがOFF状態からON状態に切り換わる場合において、前記設定ストロークは、そのブレーキスイッチがOFF状態からON状態に切り換わる場合のストローク以下の大きさとすることができる。
(5)前記マスタシリンダが、前記ブレーキ操作部材が操作されている状態において、前記検出マスタシリンダ液圧の減少量が設定減少量に達した後に前記検出マスタシリンダ液圧の減少に伴って前記検出ストロークが減少し、前記検出マスタシリンダ液圧の増加量が設定増加量に達した後に前記検出マスタシリンダ液圧の増加に伴って前記検出ストロークが増加するヒステリシス特性を有する。
マスタシリンダにおいて、加圧ピストン等の可動部材の摩擦(抵抗)が大きい場合には、ヒステリシスが大きくなる。ヒステリシスが大きい場合は、マスタシリンダ液圧が変化しても、ストロークが直ちに変化せず、遅れて変化する。ヒステリシスが大きい場合は、ストロークの変化遅れは生じるが、加圧室の液圧を安定させることができ、操作性を向上させることができるという利点がある。
(6)前記操作方向変化取得装置が、前記ストローク検出装置の検出値である検出ストロークがアイドルストローク以上である状態において、前記マスタシリンダ液圧検出装置の検出値である検出マスタシリンダ液圧に関連するマスタシリンダ液圧関連値の変化の向きが変化した場合に、前記ブレーキ操作部材の操作の向きが変化したと取得するマスタ圧依拠操作方向変化取得部を含む。
マスタシリンダのヒステリシス特性に起因して、ストロークとマスタシリンダ液圧とが変化させられる領域において、マスタシリンダ液圧の変化に対してストロークの変化が遅れる。そのため、この領域においては、マスタシリンダ液圧関連値の変化の向きが変化した場合(変化傾向が切り換わった場合)に、ブレーキ操作部材の操作の向きが変化したと決定することができる。
アイドルストロークとは、ブレーキ操作部材や加圧ピストンが前進しても、加圧室に液圧が発生しない場合のストロークである。ブレーキ操作部材や加圧ピストンのストロークがアイドルストロークである場合には、ブレーキ操作状態にあると考えることができる。換言すれば、アイドルストロークは、前述のブレーキスイッチがOFFからONに切り換わるストロークより大きいのが普通である。
(7)前記操作方向変化取得装置が、前記ストローク検出装置の検出値である検出ストロークがアイドルストロークより小さい状態において、前記ストローク検出装置の検出値である検出ストロークに関連するストローク関連値の変化の向きが変化した場合に、前記ブレーキ操作部材の操作の向きが変化したと取得するストローク依拠操作方向変化取得部を含む。
アイドルストロークより小さい状態において、運転者の制動力の増加、減少に関する意図は、ストロークの変化に基づいて取得することができる。
【0007】
(8)前記ブレーキ操作装置を含み、前記ストローク関連値と前記マスタシリンダ液圧関連値との少なくとも一方に基づいて、前記車両に加えられる制動力に関連する制動力関連値の目標値を決定する目標値決定装置であって、
前記操作方向変化取得装置によって、前記ブレーキ操作部材の操作の向きの変化が取得された場合に、その操作の向きの変化が取得される前後で、互いに異なる態様で前記目標値を決定する操作方向対応目標値決定部を含むことを特徴とする目標値決定装置。
車両に加えられる制動力に関連する制動力関連値には、制動力、車両減速度、ブレーキ作動力等が該当する。ブレーキ作動力には、液圧ブレーキのブレーキシリンダの液圧、電動ブレーキの電動モータの制御値,摩擦部材への押圧力等が該当する。
ブレーキ操作部材の操作方向が、増加意図方向である場合と減少意図方向である場合とで、目標値が異なる態様で決定される。例えば、増加意図方向である場合と減少意図方向である場合とで、目標値を決定する際に用いられる関数が異なる場合、テーブルが異なる場合等が該当する。
(9)前記ブレーキ操作装置と、
前記ストローク関連値と前記マスタシリンダ液圧関連値との少なくとも一方に基づいて、前記車両に加えられる制動力に関連する制動力関連値の目標値を決定する目標値決定装置と、
前記車両の車輪に設けられ、その車輪の回転を抑制する液圧ブレーキのブレーキシリンダの液圧を制御することにより、前記制動力関連値の実際値を、前記目標値決定装置によって決定された目標値に近づける液圧制御部と
を含むブレーキ液圧制御装置であって、
前記目標値決定装置が、前記操作方向変化取得装置によって、前記ブレーキ操作部材の操作の向きの変化が取得された場合に、その操作の向きの変化が取得される前後で、互いに異なる態様で前記目標値を決定する操作方向対応目標値決定部を含むことを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
(10)当該ブレーキ液圧制御装置が、電力の供給により液圧を発生させる動力液圧発生装置を含み、前記液圧制御部が、前記ブレーキシリンダを前記マスタシリンダから遮断して、前記動力液圧発生装置に連通させた状態で、前記ブレーキシリンダの液圧を制御する制御部を含む。
(11)前記操作方向対応目標値決定部が、前記目標値を、前記ブレーキ操作部材の操作方向が前記増加意図方向である場合に、前記減少意図方向である場合より、前記検出ストロークが同じ場合に、大きい値として取得する手段を含む。
マスタシリンダがヒステリシス特性を有する場合には、ブレーキ操作部材の操作方向が増加意図方向である場合に、減少意図方向である場合より、マスタシリンダ液圧がストロークに対して大きくなる。
一方、運転者は、マスタシリンダがブレーキシリンダに連通していると考えて、換言すれば、操作反力に応じたブレーキ力が得られると考えて、ブレーキ操作部材を操作するのが普通である。
これらの事情から、ストロークが同じ場合に、制動力の増加を意図する一連の操作が行われている場合には制動力の減少を意図する一連の操作が行われている場合より、目標値が大きな値に決定されるようにすることは妥当なことである。
(12)前記目標値決定装置が、前記車両の減速度の目標値である目標減速度を前記制動力関連値の目標値として決定する目標減速度決定部を含む。
目標減速度に基づいて、ブレーキシリンダ液圧の目標値である目標液圧が取得され、実際のブレーキシリンダ液圧が目標液圧に近づくように、ブレーキシリンダ液圧が制御される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施例に係るブレーキ操作装置、ブレーキ液圧制御装置を備えたブレーキシステムのブレーキ回路図である。
【図2】上記液圧ブレーキシステムに含まれる増圧リニア式制御弁、減圧リニア式制御弁の断面図である。
【図3】上記液圧ブレーキシステムのブレーキECU周辺を示す図である。
【図4】上記ブレーキECUの記憶部に記憶された目標減速度決定テーブルを示すマップである。
【図5】上記記憶部に記憶された比率決定テーブルを示すマップである。
【図6】上記液圧ブレーキシステムのマスタシリンダのヒステリシス特性を示す図である。
【図7】上記記憶部に記憶された目標減速度取得プログラムを表すフローチャートである。
【図8】上記記憶部に記憶されたペダル操作方向決定プログラムを表すフローチャートである。
【図9】上記ペダル操作方向決定プログラムの一部(ストローク対応操作方向決定)を表すフローチャートである。
【図10】上記ペダル操作方向決定プログラムの一部(マスタ圧対応操作方向決定)を表すフローチャートである。
【図11】上記記憶部に記憶されたブレーキシリンダ液圧制御プログラムを表すフローチャートである。
【図12】上記ペダル操作方向決定プログラムが実行された場合に決定されるペダル操作方向を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態であるブレーキ操作装置、ブレーキ液圧制御装置を備えた液圧ブレーキシステムについて図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0010】
<液圧ブレーキシステムの構造>
液圧ブレーキシステムに含まれる液圧ブレーキ回路を図1に示す。
8はブレーキ操作装置であり、ブレーキ操作部材としてのブレーキペダル10,ブレーキペダル10の操作により液圧を発生させるマニュアル式液圧源12等を含む。また、14は動力式液圧源であり、ポンプ装置16とアキュムレータ18とを含む。
車両の左右前輪20には、それぞれ、液圧ブレーキ22が設けられ、左右後輪24には、それぞれ、液圧ブレーキ26が設けられる。液圧ブレーキ22,26は、それぞれ、車輪20,24の回転を抑制するものであり、ブレーキシリンダ28,30の液圧により作動させられる摩擦ブレーキである。
マスタシリンダ12は、タンデム式のものであり、ブレーキペダル10に連携させられた2つの加圧ピストン34a,34bを含み、加圧ピストン34a,34bの前方が、それぞれ、加圧室36a,36bとされる。ブレーキペダル10の踏込み操作が行われると、それに伴って加圧ピストン34a,34bが前進させられ、加圧室36a,36bに、それぞれ、独立に液圧が発生させられる。また、加圧室36a,36bには、それぞれ、マスタ通路40a,40bを介して左右前輪20のブレーキシリンダ28が接続される。
【0011】
ブレーキペダル10が後退端位置にある状態から運転者によって踏込み操作が行われた場合を考える。マスタシリンダ12において、ブレーキペダル10のストロークがアイドルストロークより小さい間は、加圧室36a,bに液圧は発生しない。加圧室36a,bはリザーバ48に連通しているからである。ブレーキペダル10のストロークがアイドルストローク以上になると、加圧室36a,bはリザーバ48から遮断され、ストロークの増加に伴ってマスタシリンダ液圧が増加する。
また、マスタシリンダ12は、図6に示すヒステリシス特性を有する。ブレーキペダル10の踏込み操作に起因して、マスタシリンダ12の加圧室36a,bに液圧が発生させられている状態から、ブレーキペダル10の戻し操作が行われた場合には、それに伴ってマスタシリンダ液圧は減少するが、ブレーキペダル10は直ちに後退しない。マスタシリンダ液圧の減少量が設定減少量に達すると、マスタシリンダ液圧の減少に伴ってブレーキペダル10も後退する。
その後、ブレーキペダル10の踏込み操作が行われると、マスタシリンダ液圧は増加するが、ブレーキペダル10は直ちに前進しない。マスタシリンダ液圧の増加量が設定増加量に達すると、マスタシリンダ液圧の増加に伴ってブレーキペダル10が前進させられる。
以上のように、ブレーキ操作装置8において、ストロークがアイドルストローク以下の状態からブレーキペダル10の踏込み操作が行われた場合には、ストロークの増加に対して遅れてマスタシリンダ液圧が増加させられるが、アイドルストロークより大きい状態においては、ヒステリシスにより、ブレーキペダル10のストロークが、マスタシリンダ液圧の変化に対して遅れて変化させられる。
【0012】
なお、本実施例において、ブレーキペダル10の踏込み操作(踏増し操作と称することもできる)が、運転者の車両の制動力の増加を意図する操作に対応し、戻し操作が、車両の制動力の減少を意図する操作に対応する。また、踏込み操作の次に保持操作が行われた場合には、踏込み操作と保持操作とを合わせて踏込み等操作と称する。踏込み等操作が、制動力の増加を意図する一連の操作に対応する。踏込み等操作は、踏込み操作をいう場合、踏込み操作と保持操作とを合わせていう場合等(例えば、踏込み操作と保持操作とが複数回繰り返される場合)がある。
戻し操作についても同様であり、戻し等操作は、戻し操作をいう場合、戻し操作と保持操作とを合わせていう場合(例えば、戻し操作と保持操作とが複数回繰り返される場合)等があり、戻し等操作が、制動力の減少を意図する一連の操作に対応する。
さらに、踏込み等操作の向きを踏込み方向と称し、戻し等操作の向きを戻し方向と称する。これら踏込み方向、戻し方向が、それぞれ、増加意図方向、減少意図方向に対応する。
なお、踏込み操作とは、ストロークとマスタシリンダ液圧との少なくとも一方が単調に増加する操作をいい、戻し操作とは、ストロークとマスタシリンダ液圧との少なくとも一方が単調に減少する操作をいい、保持操作とは、ストロークとマスタシリンダ液圧とがほぼ一定である操作をいうと定義することもできる。
また、マスタシリンダ12の特性等に起因して、ブレーキペダル10の踏込み操作が行われた場合に、必ず、ストロークが増加して、マスタシリンダ液圧が増加するとは限らない。戻し操作が行われた場合についても同様であり、必ず、ストロークが減少して、マスタシリンダ液圧が減少するとは限らない。
【0013】
以下、ブレーキシリンダ、液圧ブレーキ、後述する種々の電磁開閉弁等を、前後左右の車輪の位置に対応して区別する必要がある場合には、車輪位置を表す符号(FL,FR,RL,RR)を付して記載し、代表して、あるいは、区別する必要がない場合には、符号を付さないで記載する。
【0014】
動力式液圧源14において、ポンプ装置16は、ポンプ44およびポンプモータ46を含み、ポンプ44によりリザーバ48から作動液が汲み上げられて吐出されて、アキュムレータ18に蓄えられる。ポンプモータ46は、アキュムレータ18に蓄えられた作動液の圧力が予め定められた設定範囲内にあるようにブレーキECU50(図3参照)の指令に基づいて制御される。
【0015】
また、動力式液圧源14には、左右前輪20FL,20FRのブレーキシリンダ28FL,28FRおよび左右後輪24RL,24RRのブレーキシリンダ30RL,30RRが、それぞれ、接続され、動力式液圧源14とブレーキシリンダ28FL、FR、RL、RRとの間に、それぞれ、増圧リニア制御弁(SLAij:i=F,R、j=L,R)64FL,FR,RL,RRが設けられる。また、ブレーキシリンダ28FL,28FR,30RL,30RRとリザーバ48との間には、それぞれ、減圧リニア制御弁(SLRij:i=F,R、j=L,R)66FL,FR,RL,RRが設けられる。
【0016】
増圧リニア制御弁64,減圧リニア制御弁66は、図2に示すように、いずれも、弁子70、弁座72、スプリング74等を含むシーティング弁部と、ソレノイド76とを含み、スプリング74の付勢力Fsが弁子70を弁座72に接近させる向きに作用し、ソレノイド76に電流が供給されることにより電磁駆動力Fdが弁子70を弁座72から離間させる向きに作用する。
また、増圧リニア制御弁64において、動力式液圧源14とブレーキシリンダ28,30との差圧に応じた差圧作用力Fpが弁子70を弁座72から離間させる向きに作用する(Fd+Fp:Fs)。
減圧リニア制御弁66において、ブレーキシリンダ28,30とリザーバ48との差圧に応じた差圧作用力Fpが作用する。
いずれにしても、ソレノイド76への供給電流の制御により、差圧作用力Fpが制御され、ブレーキシリンダ28,30の液圧が個別に制御される。
【0017】
一方、マスタ通路40a,40bの途中には、それぞれマスタ遮断弁(SMCFR,FL)90FR,FLが設けられる。マスタ遮断弁90FR,FLは、それぞれ、ソレノイドに電流が供給されない間、開状態にあり、電流が供給されると閉状態に切り換わる常開の電磁開閉弁である。
マスタ通路40bには、さらに、ストロークシミュレータ92がシミュレータ制御弁94を介して接続される。
【0018】
ブレーキECU50は、図3に示すように、実行部(CPU)102,記憶部104,入出力部106等を含むコンピュータを主体とするものであり、入出力部106には、ブレーキスイッチ108,ストロークセンサ110,マスタシリンダ液圧センサ112,アキュムレータ液圧センサ114,ブレーキシリンダ液圧センサ116,車輪回転検出装置としての車輪速度センサ118等が接続される。
ブレーキスイッチ108は、ブレーキペダル10が操作状態にあるか非操作状態にあるかを検出するものであり、本実施例においては、非操作状態である場合にOFFとなり、操作状態である場合にONとなるスイッチである。また、ブレーキスイッチ108は、ブレーキペダル10が後退端位置より非常に小さいストローク(アイドルストロークより小さい)前進した場合に、OFF状態からON状態に切り換えられる。
ストロークセンサ110は、ブレーキペダル10の操作ストロークを検出するものであり、後退端位置からのストロークを検出する。マスタシリンダ液圧センサ112は、マスタシリンダ12の加圧室の液圧を検出するものである。マスタシリンダ液圧センサ112は、加圧室36a,bに対応して、それぞれ設けられるため、一方が故障しても他方によりマスタシリンダ液圧を検出することが可能となる。
アキュムレータ液圧センサ114は、アキュムレータ18に蓄えられている作動液の圧力(PACC)を検出するものである。
ブレーキシリンダ液圧センサ116は、前後左右の各ブレーキシリンダ28,30に対応して設けられ、それぞれの液圧を検出するものである。
車輪速度センサ118は、左右前輪20,左右後輪22に対応してそれぞれ設けられ、車輪の回転を検出するものである。
入出力部106には、さらに、各輪毎に対応して設けられた増圧リニア制御弁64および減圧リニア制御弁66,第1,第2マスタ遮断弁90FL,FR、ポンプモータ46等が図示しない駆動回路を介して接続される。
【0019】
<液圧ブレーキシステムにおける作動>
ブレーキペダル10が踏み込まれると、マスタ遮断弁90FL,FRが閉状態とされ、シミュレータ制御弁94が開状態とされる。ブレーキシリンダ28がマスタシリンダ12から遮断された状態で、左右前輪20,左右後輪24のブレーキシリンダ28,30の液圧が、動力式液圧源14の液圧を利用して、増圧リニア制御弁64,減圧リニア制御弁66の制御により、目標液圧に近づくように制御される。
マスタシリンダ液圧センサ112の検出値とストロークセンサ110の検出値とに基づいて制動力関連値としての車両減速度の目標値である目標減速度が取得され、その目標減速度に対応するブレーキシリンダ液圧の目標値である目標液圧が取得される。
【0020】
[ブレーキシリンダの液圧制御]
図11のフローチャートで表されるブレーキシリンダ液圧制御プログラムは予め定められた設定時間毎に実行される。
ステップ111(以下、S111と略称する。他のステップについても同様とする)において、液圧ブレーキシステムが正常であるか否かが判定され、S112において、ブレーキスイッチ108がON状態であるか否かが判定される。液圧ブレーキシステムが正常であり、ブレーキスイッチ108がON状態である場合には、S113においてマスタ遮断弁90FR,FLが閉状態に切り換えられる。
ブレーキシリンダ28がマスタシリンダ12から遮断されるのであり、ブレーキシリンダ28,30の液圧が動力液圧源14の液圧を利用して制御される。
S114において、後述するように決定された目標減速度Gが読み込まれ、目標減速度Gに対応するブレーキシリンダ液圧の目標値である目標液圧Pwrefが決定される。そして、S115、116において、ブレーキシリンダ液圧センサ116の検出値である実際のブレーキシリンダ液圧Pwが読み込まれ、実際のブレーキシリンダ液圧Pwと目標液圧Pwrefとの偏差(e=Pwref−Pw)が取得され、偏差eに基づいて、増圧リニア制御弁64,減圧リニア制御弁66への供給電流量が決定される。そして、S117において、増圧リニア制御弁64,減圧リニア制御弁66が制御される。本実施例においては、前後左右のブレーキシリンダ28FL,FR,ブレーキシリンダ30RL、RR毎に、実際のブレーキシリンダ液圧が目標液圧に近づくように、増圧リニア制御弁64FL,FR,RL,RR及び減圧リニア制御弁66FL,FR,RL,RRが、それぞれ制御されるのである。
【0021】
[目標減速度の決定]
本実施例においては、ストロークセンサ110の検出値、マスタシリンダ液圧センサ112の検出値がそれぞれ読み込まれ、それぞれに基づいて、ブレーキペダル10の踏込み等操作時と戻し等操作時とで、別個に目標減速度が決定される。すなわち、踏込み等操作時ストローク対応目標減速度G1(Str)、戻し等操作時ストローク対応目標減速度G2(Str)、踏込み等操作時マスタ圧対応目標減速度G1(Pm)、戻し等操作時マスタ圧対応目標減速度G2(Pm)の合計4種類の目標減速度が決定されるのである。以下、「踏込み等操作時・・・」を「踏込み側・・・」と称し、「戻し等操作時・・・」を「戻し側・・・」と称することとする。
4種類の目標減速度のうちの、踏込み側ストローク対応目標減速度G1(Str)、踏込み側マスタ圧対応目標減速度G1(Pm)および比率αから踏込み側目標減速度G1が決定され、戻し側ストローク対応目標減速度G2(Str)、戻し側マスタ圧対応目標減速度G2(Pm)および比率αから戻し側目標減速度G2が決定される。
そして、ブレーキペダル10の操作方向が踏込み方向であるか、戻し方向であるかが決定され、その決定された方向に対応する目標減速度が、最終的な目標減速度(ブレーキシリンダ液圧の制御に用いる)として決定される。
なお、踏込み側ストローク対応目標減速度G1(Str)、戻し側ストローク対応目標減速度G2(Str)を総称して、あるいは、区別する必要がない場合やいずれを用いてもよい場合には、ストローク対応目標減速度G(Str)と称する。マスタ圧対応目標減速度G(Pm)についても同様である。
【0022】
具体的には、踏込み側ストローク対応目標減速度G1(Str)、戻し側ストローク対応目標減速度G2(Str)が図4(a)のマップで表されるストローク対応目標減速度決定テーブルに従って決定され、踏込み側マスタ圧対応目標減速度G1(Pm)、戻し側マスタ圧対応目標減速度G2(Pm)が図4(b)のマップで表されるマスタ圧対応目標減速度決定テーブルに従って決定される。
ストローク対応目標減速度G(Str)、マスタ圧対応目標減速度G(Pm)は、それぞれ、ストローク、マスタシリンダ液圧が大きい場合は小さい場合より大きい値に決定されるのであるが、それらストローク対応目標減速度G(Str)、マスタ圧対応目標減速度G(Pm)は、それぞれ、ブレーキペダル10の踏込み等操作が行われている場合(操作方向が踏込み方向である場合){G1(Str)、G1(Pm)}の方が戻し等操作行われている場合(操作方向が戻し方向である場合){G2(Str)、G2(Pm)}より、ストローク、マスタシリンダ液圧が同じ場合に、大きい値に決定される{G1(Str)>G2(Str)、G1(Pm)>G2(Pm)}。踏込み等操作が行われる場合と、戻し等操作が行われる場合とで、それぞれ、ストローク、マスタシリンダ液圧と目標減速度との関係が異なるのである。
なお、図4において、減速度を正の値として記載した。本明細書において、減速度が大きいとは絶対値が大きいことである。換言すれば、減速度を負の加速度とした表した場合においては、減速度が大きいとは、負の加速度が小さいことであり、負の加速度の絶対値が大きいことである。
【0023】
そして、踏込み側目標減速度G1、戻し側目標減速度G2が、下式、
G1=α・G1(Str)+(1−α)・G1(Pm)
G2=α・G2(Str)+(1−α)・G2(Pm)
に従って決定される。
比率αは、図5のマップで表される比率決定テーブルに従って、マスタ圧対応目標減速度G(Pm)に基づいて決定される。比率αはマスタ圧対応目標減速度G(Pm)が小さい場合は大きい値とされ、マスタ圧対応目標減速度G(Pm)の増加に伴って小さくなる値とされる。マスタ圧対応目標減速度G(Pm)が小さい場合(マスタシリンダ液圧が小さい場合)には、ストロークが運転者の意図をより的確に表し、マスタシリンダ液圧が大きい場合には、マスタシリンダ液圧が運転者の意図をより的確に表すからである。また、ストロークがアイドルストロークに達する以前においては、マスタシリンダ液圧は0であり、マスタシリンダ液圧はストロークに対して遅れて増加させられる。この場合に、比率αが大きい値とされて、ストローク対応目標減速度G(Str)の比率が大きくされるため、マスタシリンダ液圧の増加遅れに起因するブレーキシリンダ28,30の液圧の増加遅れを抑制することができる。また、ストロークセンサ110が、ストロークが大きい場合に小さい場合より検出精度が低くなるものである場合において、ストロークが大きく、マスタシリンダ液圧が大きい場合に比率αが小さい値とされて、マスタ圧対応目標減速度G(Pm)の比率が大きくされるようにされれば、目標減速度を、運転者の意図を正確に反映した大きさに決定することができる。
【0024】
以上のように決定された踏込み側目標減速度G1,戻し側目標減速度G2を図4(c)に示す。このように、踏込み側目標減速度G1が戻し側目標減速度G2より大きい値に決定されるのは、(a)踏込み等操作が行われる場合には減速度が速やかに大きくなり、戻し等操作が行われる場合には減速度が速やかに小さくなる方が、制動フィーリングの観点から望ましいこと、(b)ブレーキシリンダ28にマスタシリンダ12の液圧がそのまま供給される場合には、図6に示すマスタシリンダ12のヒステリシス特性により、マスタシリンダ液圧PmがストロークStrが同じであっても、踏込み等操作が行われる場合には戻し等操作が行われる場合より大きい値になるため、ブレーキシリンダ28がマスタシリンダ12から遮断されて、制御される場合においても同様の特性とすることが望ましいこと等に起因する。
【0025】
次に、ブレーキペダル10の操作中において、その操作方向が踏込み方向であるのか、戻し方向であるのかが決定され、踏込み方向であると決定された場合には、踏込み側目標減速度G1が最終的な目標減速度Gとされ(G1→G)、戻し方向であると決定された場合には、戻し側目標減速度G2が最終的な目標減速度G(G2→G)とされる。
なお、踏込み方向と戻し方向との間で切り換わった場合には、目標減速度Gが急激に変化しないように処理されるようにすることができる。例えば、勾配制限を設け、目標減速度Gの変化勾配が設定勾配を超えないようにすることができる。また、例えば、踏込み方向から戻し方向に切り換えられた場合に、目標減速度Gが、踏込み側目標減速度G1から戻し側目標減速度G2に漸減するように、式
G=G1−(G1−G2)・k/n
に従って決定されるようにすることもできる。nは定数であり、kは、n以下の、プログラムの実行回数の増加に伴って増加する値である。
【0026】
図7のフローチャートで表される目標減速度決定プログラムは、予め定められた設定時間毎に実行される。
S1において、ブレーキペダル10が操作状態にあるか非操作状態にあるかが判定される。本実施例においては、ブレーキスイッチ108がON状態である場合に操作状態であるとされる。
S2において、ストロークセンサ110の検出値が読み込まれ、S3において、図4(a)のテーブルに従って、踏込み側ストローク対応目標減速度G1(Str)、戻し側ストローク対応目標減速度G2(Str)が決定される。S4において、マスタシリンダ液圧センサ112の検出値が読み込まれ、S5において、図4(b)のテーブルに従って、踏込み側マスタ圧対応目標減速度G1(Pm)、戻し側マスタ圧対応目標減速度G2(Pm)が決定される。
S6において、図5の比率決定テーブルに従って、踏込み側、戻し側マスタ圧対応目標減速度G1(Pm),G2(Pm)に基づいて比率αが決定され、S7において、踏込み側目標減速度G1、戻し側目標減速度G2がそれぞれ決定される。
そして、S8において、ブレーキペダル10の操作方向が踏込み方向であるか、戻し方向であるかが判定される。踏込み方向であると決定された場合(Zsm=0)には、S9において、踏込み側目標減速度G1が最終的な目標減速度とされ(G1→G)、戻し方向であると決定された場合(Zsm=1)には、S10において、戻し側目標減速度が最終的な目標減速度(G2→G)とされる。
【0027】
従来の液圧ブレーキシステムにおいては、S8において、踏込み側目標減速度G1が増加傾向にある場合には踏込み方向であるとされ、減少傾向にある場合には戻し方向であると決定されるようにされていた。操作方向が、ストロークStrとマスタシリンダ液圧Pmとの両方に基づいて決定された値(踏込み側目標減速度G1)に基づいて決定されるようにすれば、ストロークセンサ110、2つのマスタシリンダ液圧センサ112のうちの1つが異常になっても、操作方向を決定できるからである。
マスタシリンダ12のヒステリシス特性が小さい場合には、踏込み方向、戻し方向の決定結果は信頼性の高いものであった。
しかし、マスタシリンダ12のヒステリシス特性が大きい場合においては、例えば、ブレーキペダル10の踏込み等操作から戻し等操作に切り換えられた場合に、図6のヒステリシス特性が示すように、マスタシリンダ液圧の減少量が設定減少量減少するまで、ブレーキペダル10は後退しない。また、図5に示すように、比率αが、マスタシリンダ液圧の減少に伴って大きくなる(ストローク対応目標減速度の比率が大きくなる)。これらの事情に基づいて、踏込み等操作から戻し等操作に切り換えられても、踏込み側目標減速度G1は減少せず、踏込み等操作中であると誤判定されるおそれがある。
【0028】
[ペダル操作方向決定]
そこで、本実施例においては、ストローク対応目標減速度G(Str)(踏込み側ストローク対応目標減速度G1(Str)でも、戻し側ストローク対応目標減速度G2(Str)でもよい)と、マスタ圧対応目標減速度G(Pm)(踏込み側マスタシリンダ液圧対応目標減速度G1(Pm)でも、戻し側マスタシリンダ液圧対応目標減速度G2(Pm)でもよい)との両方の値の変化を検出し、いずれか一方が増加傾向、あるいは、減少傾向のままであり、他方が増加傾向と減少傾向との一方から他方へ変化した場合に、ブレーキペダル10の操作の向きが変化したと決定されるようにした。
なお、ストローク対応目標減速度G(Str)、マスタ圧対応目標減速度G(Pm)の増加傾向、減少傾向には、これら目標減速度G(Str)、G(Pm)が一定の場合(保持されている場合)も含まれる。具体的には、ストローク対応目標減速度G(Str)が増加した後に一定に保たれた場合には、その増加、保持を含めて増加傾向にあるとする。ストローク対応目標減速度G(Str)が増加した後に一定に保たれる操作は、運転者が制動力を増加させる意図を有する一連の操作であるとみなすことができるからである。減少傾向についても、マスタ圧対応目標減速度G(Pm)についても同様である。
【0029】
図8のフローチャートで表されるペダル操作方向決定プログラムは予め定められた設定時間毎に実行される。
S51において、ブレーキペダル10が操作中であるか否かが判定される。ブレーキスイッチ108がON状態にあるか否かが判定されるのである。
操作中である場合には、S52において、ストローク対応目標減速度G(Str)に基づいてブレーキペダル10の操作方向が決定される。この結果(ストローク対応操作方向)Zsは、踏込み方向(Zs=0)、戻し方向(Zs=1)のいずれかである。なお、前回の結果{踏込み方向(Zsp=0),戻し方向(Zsp=1)}も記憶されている。次に、S53において、マスタ圧対応目標減速度G(Pm)に基づいてブレーキペダル10の操作方向が決定される。結果(マスタ圧対応操作方向)Zmは、踏込み方向(Zm=0)、戻し方向(Zm=1)のいずれかである。なお、前回の結果{踏込み方向(Zmp=0),戻し方向(Zmp=1)}も記憶されている。
【0030】
S52のストローク対応操作方向決定ルーチンを図9に示す。
S71,72において、ストロークセンサ110の検出値が読み込まれ、ストローク対応目標減速度G(Str)が図4(a)に従って決定される。S73,74において、ストローク対応目標減速度G(Str)が前回値より減少したか、増加したかが判定される。減少した場合には、S75において、ストローク対応戻しカウンタのカウント値Cstrがカウントアップされ、
Cstr←Cstr+1
増加した場合には、S76において、ストローク対応戻しカウンタのカウント値Cstrがカウントダウンされる。
Cstr←Cstr−1
また、ストローク対応目標減速度G(Str)が一定に保たれている場合には、カウントアップもカウントダウンもされることがないのであり、カウント値Cstrはそのままの値とされる(今回のカウント値と前回のカウント値Cstrとが同じ値とされる)。
【0031】
そして、S77において、ストローク対応戻しカウンタのカウント値Cstrが戻し判定しきい値Cth以上であるか否かが判定される(Cstr≧Cth)。戻し判定しきい値Cthは正の設定値である。
ストローク対応戻しカウンタのカウント値Cstrが戻し判定しきい値Cth以上である場合には、S78において、操作方向が戻し方向であると決定され(Zs=1)、戻し判定しきい値Cthより小さい場合には、S79において、操作方向が踏込み方向であると決定される(Zs=0)。
ストローク対応操作方向の今回値Zsが決定されると、今回値Zsが記憶されるとともに、前回値Zspが記憶される。
また、上述のように、ストローク対応目標減速度G(Str)が一定の値に保たれている状態においては、ストローク対応戻しカウンタのカウント値Cstrも前回値と同じ値とされるため、操作方向も変化することなく、その直前に決定された操作方向と同じである。
【0032】
S53のマスタ圧対応操作方向決定ルーチンを図10に示す。
S91,92において、マスタシリンダ液圧センサ112の検出値が読み込まれ、マスタ圧対応目標減速度G(Pm)が図4(b)に従って決定される。S93,94において、マスタ圧対応目標減速度G(Pm)が前回値より減少したか、増加したかが判定され、減少した場合には、S95において、マスタ圧対応戻しカウンタのカウント値Cpmがカウントアップされ、
Cpm←Cpm+1
増加した場合には、S96において、マスタ圧対応戻しカウンタのカウント値Cpmがカウントダウンされる。
Cpm←Cpm−1
そして、S97において、マスタ圧対応戻しカウンタのカウント値Cpmが戻し判定しきい値Cth以上であるか否かが判定される(Cpm≧Cth)。戻し判定しきい値以上である場合には、S98において、操作方向が戻し方向であると決定され(Zm=1)、戻し判定しきい値Cthより小さい場合には、S99において、操作方向が踏込み方向であると決定される(Zm=0)。
なお、マスタ圧対応操作方向の今回値Zm、前回値Zmpが記憶される。
【0033】
このように、ストローク対応操作方向Zsとマスタ圧対応操作方向Zmとが決定されるのであるが、これら操作方向Zs,Zmの値等に基づいて、最終的な操作方向(以下、ペダル操作方向と称する)Zsm(Zsm=0,Zsm=1)が決定されるのであり、詳細には、ストローク対応操作方向の前回値Zsp、今回値Zs、マスタ圧対応操作方向の前回値Zmp、今回値Zm、および、現時点におけるペダル操作方向Zsm(Zsm=0,Zsm=1)に基づいて、ペダル操作方向Zsmの今回値が決定される(ペダル操作方向Zsmの今回値が決定されると、現時点におけるペダル操作方向はペダル操作方向の前回値となる)。
S54において、現時点におけるペダル操作方向が踏込み方向であるか否かが判定される(Zsm=0)。すなわち、前回決定されたペダル操作方向が踏込み方向であるか否かが判定されるのであるが、今回値が決定されていないため、現時点(S54が実行される時点)において決定されているペダル操作方向である。
現時点におけるペダル操作方向が踏込み方向である場合には、S55において、(a)ストローク対応操作方向の前回値Zsp、今回値Zsに基づき、ストローク対応操作方向が、踏込み方向から戻し方向に変化した(Zsp=0、かつ、Zs=1)か否か、(b)マスタ圧対応操作方向の前回値Zmp、今回値Zmに基づき、マスタ圧対応操作方向が踏込み方向から戻し方向に変化した(Zmp=0,かつ、Zm=1)か否かが判定される。(a)、(b)のいずれか一方が成立し、他方が成立しない場合には、判定がYESとなり、S56において、ペダル操作方向が戻し方向であると決定される(踏込み方向から戻し方向に変化したと決定される)。また、S55の判定がNOである場合、例えば、ストローク対応操作方向もマスタ圧対応操作方向も前回値と今回値とが同じである場合には、ペダル操作方向は前回決定された方向と同じである。ペダル操作方向は変化していないため、S56が実行されることはない。
【0034】
それに対して、現時点のペダル操作方向が戻し方向である(Zsm=1)場合には、S54の判定がNOとなる。
S57において、(c)ストローク対応操作方向が、戻し方向から踏込み方向に変わった(Zsp=1、かつ、Zs=0)か否か、(d)マスタ圧対応操作方向が戻し方向から踏込み方向に変わった(Zmp=1,かつ、Zm=0)か否かがそれぞれ判定される。(c)、(d)のいずれか一方が成立し、他方が成立しない場合には、判定がYESとなり、S58において、ペダル操作方向が踏込み方向であると決定される。また、S57の判定がNOである場合、例えば、ストローク対応操作方向もマスタ圧対応操作方向も前回値と今回値とが同じである場合には、ペダル操作方向は、前回のペダル操作方向と同じである。
このように決定されたペダル操作方向がS8において読み込まれ、それに基づいて目標減速度Gが決定される。
【0035】
それに対して、ブレーキスイッチ108がOFFであり、S51の判定がNOである場合には、S59において、初期化が行われる。ここでは、ペダル操作方向の今回値が踏込み方向とされ(Zsm=0)、ストローク対応操作方向の前回値、今回値も、マスタ圧対応操作方向の前回値、今回値も踏込み方向とされる(Zs=0,Zsp=0,Zm=0,Zmp=0)。また、戻しカウンタのカウント値Cstr、Cpmが0とされる。
このように、ブレーキペダル10の非操作状態において、操作方向の初期値が踏込み方向を表す値(0)とされるため、ブレーキペダル10の踏込み等操作が開始された場合に、操作方向が踏込み方向であるとされる。その結果、目標減速度Gの決定に遅れが生じることを回避し、ブレーキの効き遅れを抑制することができる。
【0036】
ブレーキペダル10の操作方向決定の一例を図12に基づいて説明する。
図12において、ストローク対応目標減速度G(Str)を一点鎖線で示し、マスタ圧対応目標減速度G(Pm)を実線で示す。
ブレーキスイッチ108のOFF状態からブレーキペダル10の踏込み等操作が開始されると、ストロークの増加に対してマスタシリンダ液圧の増加が遅れる。
図12の時間t0において踏込み等操作が開始される。それに伴ってストローク対応目標減速度が増加するが、時間t1から遅れてマスタ圧対応目標減速度が増加する。ブレーキスイッチ108は、マスタシリンダ液圧が発生させられる前にOFF状態からON状態に切り換えられる。
【0037】
ブレーキスイッチ108がON状態にあり、かつ、ブレーキペダル10のストロークがアイドルストローク以上の状態においては、ヒステリシス特性により、マスタシリンダ液圧の変化に対してストロークの変化が遅れる。ブレーキペダル10の操作方向の変化(戻し等操作と踏込み等操作との間の切り換え)に応じて、マスタ圧対応目標減速度が先に変化し、ストローク対応目標減速度が後に変化する{(t2,t3)、(t4,t5)、(t6,t7)、(t11c,t13)}。
一方、ブレーキスイッチ108はON状態であるが、ストロークがアイドルストロークより小さくなった後に、踏込み等操作が行われた場合には、マスタシリンダ液圧の増加がストロークの増加に対して遅れる。戻し等操作により、時間t7aにマスタ圧対応目標減速度は0まで減少させられるが、時間t8においてストローク対応目標減速度G(Str)は0より大きい値に保持される。運転者が、ブレーキペダル10をアイドルストロークより小さいストロークで保持しているからである。そのため、時間t9において踏込み等操作が開始されるが、ストロークがアイドルストロークに達するまではマスタシリンダ液圧は増加しない。そのため、ストローク対応目標減速度G(Str)の増加に遅れて時間t10からマスタ圧対応目標減速度G(Pm)が増加させられる。
【0038】
時間t11から時間t12の間は、ストローク対応減速度G(Str)に対してマスタ圧対応減速度G(Pm)が大きい領域である。例えば、ブレーキペダル10のストロークがストロークセンサ110の検出上限値に達した場合、加圧ピストン34a,bがストロークエンドに達した場合(ボトミングした場合)等が考えられる。この領域においては、ブレーキペダル10の踏込み等操作、戻し等操作の切り換えに応じて、マスタ圧対応目標減速度G(Pm)が増加、減少させられる。そして、戻し等操作によりマスタ圧対応目標減速度G(Pm)が減少させられ、時間t13からストローク対応目標減速度G(Str)も減少させられる。その後、ブレーキペダル10が後退端まで戻され、ブレーキスイッチ108がOFF状態となる。
【0039】
ストローク対応操作方向は、操作初期においては、踏込み方向(Zs=0)であるが、時間t3、5,7において、ストローク対応目標減速度G(Str)が増加傾向から減少傾向、減少傾向から増加傾向、増加傾向から減少傾向に変化すると、戻し方向(Zs=1)、踏込み方向(Zs=0)との間で切り換えられる。次に、ストロークがアイドルストロークより小さい状態から、時間t9において、踏込み等操作が開始されると、ストローク対応目標減速度G(Str)が増加させられ、踏込み方向(Zs=0)と決定される。ストローク対応操作方向は、時間t13において、ストローク対応目標減速度が減少傾向に変化すると、踏込み方向(Zs=0)から戻し方向(Zs=1)に決定される。
マスタ圧対応操作方向は、操作初期においては、踏込み(Zm=0)であるが、時間t2,4,6において、増加傾向から減少傾向、減少傾向から増加傾向、増加傾向から減少傾向へ変化すると、踏込み方向(Zm=0)と戻し方向(Zm=1)との間で切り換えられる。時間t10において、踏込み方向(Zm=0)に決定され、時間t11において、ストロークに対してマスタシリンダ液圧が大きくなると、時間t11a,t11b,t11cにおいて、それぞれ、マスタシリンダ液圧Pmの変化に応じて、戻し方向(Zm=1)、踏込み方向(Zm=0)、戻し方向(Zm=1)に決定される。
【0040】
上述のように決定されたストローク対応操作方向Zsとマスタ圧対応操作方向Zmとに基づきペダル操作方向が決定される。
時間t2においては、ストローク対応操作方向は踏込み方向のまま(Zs=0,Zsp=0)であるが、マスタ圧対応操作方向は踏込み方向から戻し方向に変化した(Zmp=0、Zm=1)。そのため、最終的なペダル操作方向も踏込み方向から戻し方向に変化した(Zsm=1、Zsmp=0)と決定される。
時間t4において、ストローク対応操作方向は戻し方向のまま(Zsp=1,Zs=1)であるが、マスタ圧対応操作方向は戻し方向から踏込み方向に変化(Zmp=1、Zs=0)に変化したため、ペダル操作方向は踏込み方向に変化した(Zsm=0、Zsmp=1)と決定される。時間t6においても同様である。
時間t9においては、マスタ圧対応操作方向は戻し方向のまま(Zmp=1,Zm=1)であるが、ストローク対応操作方向が戻し方向から踏込み方向に変化した(Zsp=1、Zs=0)ため、ペダル操作方向も踏込み方向に変化したと決定される(Zsm=0、Zsmp=1)。
時間t11a〜t11cにおいては、ストローク対応操作方向は変化しない(Zsp=0,Zs=0)ため、マスタ圧対応操作方向の変化に伴ってペダル操作方向が決定させられる(Zm=Zsm)。
【0041】
このように、本実施例においては、ペダル操作方向Zsmが、ストローク対応操作方向Zsと、マスタ圧対応操作方向Zmとのいずれか一方が変化しないで、他方が変化しない場合に、変化したとされる。すなわち、操作方向が先に変化した場合に、その操作方向が最終的なペダル操作方向であるとされるため、マスタシリンダ12がヒステリシスが大きいものであっても、ブレーキペダル10の操作方向の変化を適切に取得することができる。
また、それにより、目標減速度を運転者の意図に応じた大きさに決定することができるのであり、運転者の意図する減速度が得られるように、ブレーキシリンダ液圧を制御することができる。
【0042】
本実施例においては、ストローク関連値がストローク対応目標減速度G(Str)に対応し、マスタシリンダ液圧関連値がマスタ圧対応目標減速度G(Pm)に対応する。また、制動力に関連する制動力関連値が車両の減速度とされ、目標値が目標減速度Gとされる。
さらに、ストロークセンサ110,マスタシリンダ液圧センサ112,ブレーキECU50の図4(a)、(b)のテーブルを記憶する部分、図7のフローチャートを記憶する部分、実行する部分等により目標値決定装置が構成され、目標値決定装置のうちのS8〜10を記憶する部分、実行する部分等により操作方向対応目標値決定部が決定される。操作方向対応目標値決定部は、踏込み等操作中においては戻し等操作中より、ストロークが同じ場合に、目標減速度を大きい値に決定する手段でもある。
また、ストロークセンサ110,マスタシリンダ液圧センサ112,ブレーキECU50の図8のフローチャートで表されるペダル操作方向決定プログラムを記憶する部分、実行する部分等により操作方向変化取得装置が構成される。そのうちの、S56,58を記憶する部分、実行する部分等により操作方向決定部が構成され、S59を記憶する部分、実行する部分等により初期値決定部が構成される。さらに、S75〜79,S95〜99を記憶する部分、実行する部分等により、時間依拠操作方向変化取得部が構成される。
さらに、増圧リニア制御弁64,減圧リニア制御弁66,ブレーキECU50の図11のフローチャートで表されるブレーキシリンダ液圧制御プログラムを記憶する部分、実行する部分等により液圧制御部が構成される。
【0043】
なお、ストローク関連値をストロークセンサ110の検出ストロークとしたり、マスタシリンダ液圧関連値をマスタシリンダ液圧センサ112の検出マスタシリンダ液圧としたりすることもできる。
また、マスタシリンダ液圧センサ112の代わりにブレーキペダル10に加えられる操作力を検出する操作力センサを設け、操作力センサの値をマスタシリンダ液圧の代わりに用いることもできる。
さらに、制動力関連量は、制動力としたり、ブレーキシリンダ液圧としたりすること等もできる。
また、本発明は、ヒステリシスが小さいマスタシリンダに適用することもできる。
さらに、上記実施例においては、ブレーキペダル10の保持操作は、踏込み等操作、戻し等操作に含まれ、保持操作が検出されることがなかったが、保持操作が検出されるようにすることもできる。例えば、マスタ圧対応目標減速度G(Pm)と、ストローク対応目標減速度G(Str)との両方が増加、減少のいずれか一方から一定になった場合に、ブレーキペダル10の操作状態が保持されたと取得することができる。
また、上記実施例においては、踏込み側マスタ圧対応目標減速度G1(Pm)が戻し側マスタ圧対応目標減速度G2(Pm)より大きい値に決定されるようにされていたが、これらは同じ値{G1(Pm)=G2(Pm)}に決定されるようにすることもできる。
【0044】
以上、複数の実施例について説明したが、本発明は、上記実施例における記載のブレーキ回路とは異なる回路にも適用できる等、本発明は、上述に記載の態様の他、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0045】
10;ブレーキペダル 12:マスタシリンダ 16:ポンプ装置 18:アキュムレータ 22,26:液圧ブレーキ 28,30:ブレーキシリンダ 50:ブレーキECU 108:ブレーキスイッチ 110:ストロークセンサ 112:マスタシリンダ液圧センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられ、運転者によって操作可能なブレーキ操作部材と、
そのブレーキ操作部材の運転者による操作に起因して、前記ブレーキ操作部材に加えられた操作力に対応する液圧を発生させるマスタシリンダと、
前記ブレーキ操作部材のストロークを検出するストローク検出装置と、
前記マスタシリンダの液圧を検出するマスタシリンダ液圧検出装置と、
(a)そのマスタシリンダ液圧検出装置の検出値である検出マスタシリンダ液圧に関連するマスタシリンダ液圧関連値と、(b)前記ストローク検出装置の検出値である検出ストロークに関連するストローク関連値とのいずれか一方の関連値の変化の向きが変化しないで、他方の関連値の変化の向きが変化した場合に、前記ブレーキ操作部材の操作方向が変化したと取得する操作方向変化取得装置と
を含むブレーキ操作装置。
【請求項2】
前記操作方向変化取得装置が、前記他方の関連値が、増加傾向と減少傾向とのうちの一方の傾向から他方の傾向に変化し、かつ、その他方の傾向が設定時間以上続いた場合に、前記ブレーキ操作部材の操作方向が、前記車両に加えられる制動力の増加を意図する増加意図方向と前記制動力の減少を意図する減少意図方向とのうちの前記一方の傾向に対応する方向から前記他方の傾向に対応する方向に変化したと取得する時間依拠操作方向変化取得部を含む請求項1に記載のブレーキ操作装置。
【請求項3】
当該ブレーキ操作装置が、(a)前記ブレーキ操作部材が操作されている状態において、その操作方向が、少なくとも、前記車両に加えられる制動力の増加を意図する増加意図方向と前記制動力の減少を意図する減少意図方向とのいずれであるかを決定する操作方向決定部と、(b)前記ブレーキ操作部材が操作されていない状態に、前記操作方向の初期値を増加意図方向を表す値とする初期値決定部とを含む請求項1または2に記載のブレーキ操作装置。
【請求項4】
前記マスタシリンダが、前記ブレーキ操作部材が操作されている状態において、前記検出マスタシリンダ液圧の減少量が設定減少量に達した後に前記検出マスタシリンダ液圧の減少に伴って前記検出ストロークが減少し、前記検出マスタシリンダ液圧の増加量が設定増加量に達した後に前記検出マスタシリンダ液圧の増加に伴って前記検出ストロークが増加するヒステリシス特性を有する請求項1ないし3のいずれか1つに記載のブレーキ操作装置。
【請求項5】
前記請求項1ないし4のいずれか1つに記載のブレーキ操作装置と、
前記ストローク関連値と前記マスタシリンダ液圧関連値との少なくとも一方に基づいて、前記車両に加えられる制動力に関連する制動力関連値の目標値を決定する目標値決定装置と、
前記車両の車輪に設けられ、その車輪の回転を抑制する液圧ブレーキのブレーキシリンダの液圧を制御することにより、前記制動力関連値の実際値を前記目標値決定装置によって決定された目標値に近づける液圧制御部と
を含むブレーキ液圧制御装置であって、
前記目標値決定装置が、前記操作方向変化取得装置によって、前記ブレーキ操作部材の操作の向きの変化が取得された場合に、その操作の向きの変化が取得される前後で、互いに異なる態様で前記目標値を決定する操作方向対応目標値決定部を含むことを特徴とするブレーキ液圧制御装置。
【請求項6】
前記操作方向対応目標値決定部が、前記目標値を、前記ブレーキ操作部材の操作方向が前記増加意図方向である場合に、前記制動力減少意図方向である場合より、前記検出ストロークが同じ場合に、大きい値として決定する手段を含む請求項5に記載のブレーキ液圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−162238(P2012−162238A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26247(P2011−26247)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】