説明

ブレースの接合構造

【課題】接合強度を確保しつつ、ブレースの端部を架構に接合する際の施工性を向上させる。
【解決手段】繊維補強モルタルQが固化することによって形成された固定部110を介して鉄骨ブレース50の端部52と架構12とが接合されている。よって、鉄骨ブレース50の端部52を架構12に接合する際の誤差の吸収代が大きくなる。また、鉄骨ブレース50の端部52に設けられたスタッド60を介して固定部110に応力が伝達されると共に、スタッド160が設けられた囲部120を介して架構12に応力が伝達される。したがって、接合強度を確保しつつ、鉄骨ブレース50の端部52を架構12に接合する際の誤差の吸収代を大きくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレースの接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、主軸部の両端に拡幅した躯体取り付け部が一体に形成された横断面十字型の鉄骨材で成る十字型のブレース軸材の、前記主軸部の表面に弾性材及びアンボンド剤の被覆を施し、該主軸部を、内部に縦鉄筋とスパイラル筋を配筋し、両端部に亀裂防止用の囲み鉄板を設けて繊維補強コンクリートを打設したプレキャストコンクリート内に埋め込んで構成した耐震性強化K型ブレースが提案されている(特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−30046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、接合強度を確保しつつ、ブレースの端部を架構に接合する際の施工性を向上させることが望まれている。
【0005】
本発明は、接合強度を確保しつつ、ブレースの端部を架構に接合する際の施工性を向上させることが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、架構に接合するブレースの接合構造であって、前記架構に設けられ、充填材が固化することによって形成され、前記鉄骨ブレースの端部が接続された固定部と、前記鉄骨ブレースの端部に設けられ、前記固定部と応力伝達を行なう第一応力伝達手段と、前記架構に設けられ、前記固定部と応力伝達を行なう第二応力伝達手段と、を備える。
【0007】
請求項1の発明では、充填材が固化することによって形成された固定部を介してブレースの端部と架構とが接合されている。よって、ブレースの端部を架構に接合する際の誤差の吸収代が大きくなる。
【0008】
また、ブレースの端部に設けられた第一応力伝達手段を介して固定部に応力が伝達されると共に、架構に設けられた第二応力手段を介して架構に応力が伝達される。このように、固定部を介してブレースの架構との間で応力が伝達される。
【0009】
したがって、接合強度を確保しつつ、ブレースの端部を架構に接合する際の誤差の吸収代を大きくすることができる。
【0010】
請求項2の発明は、前記ブレースの端部を囲み、前記充填材が充填される囲部を有している。
【0011】
請求項2の発明では、囲部が固定部を拘束することによって固定部の強度が向上し、この結果、ブレースの端部を架構に接合する接合強度が向上する。
【0012】
請求項3の発明は、前記第二応力伝達手段は、前記架構に接合され、前記ブレースの端部が面外方向外側に配設される接続部を有している。
【0013】
請求項3の発明では、架構に接合された接続部に、ブレースを面外方向外側から施工して接合することができる。よって、接続部を有しない構成と比較し、施工性が向上する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、接合強度を確保しつつ、ブレースの端部を架構に接合する際の施工性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第一実施形態に係る構造物の架構を示す正面図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係るブレースの接合構造が適用されて接合された鉄骨ブレースと架構との接合部位を示す斜視図である。
【図3】(A)は本発明の第一実施形態の変形例を示す鉄骨ブレースと架構との接合部位を示す正面図であり、(B)は筒部を所定の位置に配置して繊維補強モルタルを打設する前の状態を示す図である。
【図4】本発明の第二実施形態に係るブレースの接合構造が適用されて接合された鉄骨ブレースと架構との接合部位を示す図2に対応する斜視図である。
【図5】図4に示す接合部における鉄骨ブレースの長手方向と直交する断面図である。
【図6】(A)は本発明の第二実施形態の第一の変形例を示す図5に対応する断面図であり、(B)は第二の変形例を示す図5に対応する断面図である。
【図7】本発明の第三実施形態に係るブレースの接合構造が適用されて接合された鉄骨ブレースと架構との接合部位を示す図2に対応する斜視図である。
【図8】鉄骨ブレースの端部を示す斜視図であり、(C)は貫通孔が形成された部位を拡大した拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第一実施形態>
図1及び図2を用いて、本発明の第一実施形態に係るブレースの接合構造について説明する。
【0017】
なお、各図におけるZ方向は鉛直方向を示し、X方向はZ方向直交する方向とされ、Y方向は、X方向とZ方向とに直交する方向とされている。なお、Z方向(鉛直方向)の平面視において、X方向とY方向とは直交する。
【0018】
また、以降、X方向に沿って配置されている部材及び当該部材に設けられている部材には、「X」を付し、Y方向に沿って配置されている部材及び当該部材に接合されている部材には符号の後に「Y」を付す。また、Z方向に沿って配置された部材及び当該部品に設けられている部材には「Z」を付す。また、図面に向かって左側の部材には「L」、右側の部材には「R」を付し、上側の部材には「U」、下側の部材には「D」を付す。但し、これらを区別して説明する必要がない場合は適宜省略する。
【0019】
図1には、構造物10を構成する架構12が示されている。架構12は、鉄骨柱18L、18Rと鉄骨梁20U,20Dとで構成されている。
【0020】
図2に示すように、本実施形態では、鉄骨梁20は軸方向(長手方向)と直交する断面が略H形状のH形鋼とされ、鉄骨梁18は軸方向(長手方向)と直交する断面が矩形状の鋼管とされている。なお、鉄骨梁20及び鉄骨梁18は、H形鋼や鋼管以外の形鋼や鋼材であってもよい。また、図示を省略するが、鉄骨梁20の上には、コンクリートスラブが適宜構築されている。なお、本実施形態では架構12は鉄骨構造(S造)とされている。
【0021】
図1、図2に示すように、架構12には、鉄骨ブレース50L,50Rが取り付けられている。本実施形態においては、鉄骨ブレース50L,50Rは、横倒しK字状の所謂K型ブレースとされている。しかし、K型ブレース以外の構成であってもよい。例えば、X型、V型等のブレースであってもよい。
【0022】
本実施形態では、鉄骨ブレース50R,50Lは、H形鋼で構成されている。なお、左側の鉄骨ブレース50Lと右側の鉄骨ブレース50Rとは、左右対称に配置されている以外は、同様の構成であるので、必要がある場合を除いて区別しないで説明する。
【0023】
また、図では鉄骨ブレース50は、H形鋼のウェブ(面)が上下方向(面内方向)に沿った状態に配置されているが、これに限定されない。鉄鋼ブレース50を軸回りに90°回転させウェブ(面)が横方向(面外方向)に沿った状態に配置されていてもよい。
【0024】
鉄骨ブレース50L、50Rは、長手方向の両端部52L,52Rが架構12に設けられた接合部100L,100Rと接合部150Uとに固定されることよって架構12に接合されている。別の言い方をすると、鉄骨ブレース50の両端部52は、接合部100,150を介して架構12に接合されている。
【0025】
接合部150Uは架構12を構成する上側の鉄骨梁20Uの横方向の略中央部に設けられ、接合部100R,100Lは架構12を構成する下側の鉄骨梁20Dと左右の鉄骨柱18L,18Rとで構成する角部に設けられている。なお、接合部100Lと接合部100Rとは左右対称である以外は同様の構成であるので区別しないで説明する。
【0026】
接合部100は、囲部120と、該囲部120の中に繊維補強モルタルQが充填され固化することによって形成された固定部110と、を有している。繊維補強モルタルQは、合成繊維や鋼繊維などをモルタルに複合して補強されたモルタル材とされている。なお、繊維補強モルタルでなく、合成繊維や鋼繊維などをコンクリートに複合して補強された繊維補強コンクリートであってもよい。
【0027】
囲部120は、鉄骨ブレース50の下側の端部52Dが挿入される開口部122を有している。また、囲部120は、Y方向に対向して配置されたプレート130,132と、Z方向に対向して配置されたプレート140、142と、で構成されている。
【0028】
Y方向に対向して配置されたプレート130,132は、鉄骨梁20と鉄骨柱18に接合されている。Z方向に対向して配置されたプレート140、142は、プレート130とプレート132との間に配置されプレート130,132と接合されると共に、プレート140は鉄骨梁18に接合され、プレート142は鉄骨梁20に接合されている。また、プレート140とプレート142は開口部122に向かって幅狭となるように配置されている。
【0029】
囲部120を構成するプレート130,132には、固定部110側(内側、Y方向)に突出するスタッド160が設けられている。各スタッド160の先端部には、半球状のコブ部162が形成されている。そして、各スタッド160は、固定部110に埋設され定着している。
【0030】
接合部150Uも接合部100と同様に、囲部170と、該囲部170の中に繊維補強モルタルQ(又は繊維補強コンクリート)が充填され固化することによって形成された固定部175と、を有している。囲部170は、左右の鉄骨ブレース50L,50Rの上側の端部52LU、52RUが挿入される開口部172L,172Rを有している。囲部170は、Y方向に対向して配置されたプレート174と、X方向に対向して配置されたプレート176,178と、Y方向に沿って配置されたプレート174と、で構成されている。また、プレート174,176,178は開口部172に向かって幅狭となるように配置されている。囲部170を構成するプレート174には、固定部175側(内側、Y方向)に突出するスタッド160が設けられ、固定部175に埋設され定着している。
【0031】
各鉄骨ブレース50の端部52には、複数のスタッド60が接合されている。各スタッド60の先端部には、半球状のコブ部62が形成されている。そして、各スタッド60は、接合部100、150の囲部120,170の中に形成された固定部110,160に埋設され定着されている。各鉄骨ブレース50のスタッド60と囲部120,170のスタッド160とが干渉しないように配置及び長さ等が設定されている。
【0032】
なお、接合部100と接合部150とは、施工工程や作用効果は略同様であるので、以降、接合部100(図2参照)を代表して説明する。
【0033】
「施工工程」
つぎに、本実施形態における鉄骨ブレース50の端部52を架構12に接合する工程の一例について、図2を用いて説明する。
【0034】
まず、囲部120を構成するプレート130以外の各プレート132,140,142を架構12に接合する。また、各鉄骨ブレース50の端部52にスタッド60を接合する。
【0035】
鉄骨ブレース50の端部52を囲部120の中に配置する。このとき、囲部120におけるプレート132が設けられていない面から挿入する。つまり、Y方向(面外方向)に鉄骨ブレース50を移動させて、鉄骨ブレース50の端部52を囲部120に挿入する。
【0036】
プレート132を接合し、囲部120の中に繊維補強モルタルQ(又は繊維補強コンクリート)を充填する。なお、囲部120が型枠の全部(又は一部)を構成する。
【0037】
そして、繊維補強モルタルQが固化することでスタッド60、160が埋設され定着した固定部110が形成されると共に、鉄骨ブレース50の端部52が接合部100(固定部110)を介して、架構12に接合される。
【0038】
<作用及び効果>
つぎに本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0039】
繊維補強モルタルQが固化することによって形成された固定部110を介して鉄骨ブレース50の端部52と架構12とが接合されている。よって、鉄骨ブレース50の端部52を架構12に接合する際の誤差の吸収代が大きくなる。
【0040】
また、鉄骨ブレース50の端部52に設けられたスタッド60を介して固定部110に応力が伝達されると共に、スタッド160が設けられた囲部120を介して架構12に応力が伝達される。このように、接合部100(固定部110、スタッド160が設けられた囲部120)とスタッド60を介して鉄骨ブレース50の端部52の架構12との間で応力が伝達される。なお、プレート140、142にもスタッド160を設け、プレート140,142を介しても架構12に応力が伝達されるようにしてもよい。
【0041】
このように、接合強度を確保しつつ、鉄骨ブレース50の端部52を架構12に接合する際の誤差の吸収代を大きくすることができる。
【0042】
なお、スタッド60、160の長さや配置密度(本数)は伝達される応力の大きさ等によって適宜調整すればよい。例えば、伝達する応力が大きい場合は、スタッド60、160を長くしたり、配置密度大きく(本数を多く)したりすればよい。
【0043】
また、囲部120が固定部110を拘束することによって固定部110の強度が向上し、この結果、鉄骨ブレース50の端部52と架構12との接合強度が向上する。
【0044】
更に、囲部120を構成するプレート140,142が開口部122側に向かって幅狭となっている。よって、鉄骨ブレース50が囲部120(接合部100)から引き抜かれる方向の接合強度が向上する。
【0045】
また、前述したように、鉄骨ブレース50から固定部110に伝達された応力が囲部120に伝達される。つまり、鉄骨ブレース50から固定部110に伝達された応力の一部を囲部120が受ける(負担する)ので、その分、固定部110の応力負担が軽減する。
【0046】
また、固定部110が繊維補強モルタルQ(又は繊維補強コンクリート)で形成されているので、固定部110の引張強度及び靭性が向上する。よって、固定部110が繊維補強されていないモルタルやコンクリートで形成されている構成と比較し、接合強度が向上する。
【0047】
また、鉄骨ブレース50を面外方向外側に移動させて架構12に配置することができるので、施工性が向上する。
【0048】
<変形例>
つぎに、接合部の変形例について、図3を用いて説明する。
【0049】
図3(A)に示すように、変形例の接合部200は、囲部220と、該囲部220の中に繊維補強モルタルQが充填され固化することによって形成された固定部210と、を有している。
【0050】
図3(A)と図3(B)に示すように、囲部220は、Z方向に対向して略並行に配置されたプレート240,242と、筒部230と、を有している。プレート240は鉄骨柱18に接合され、プレート242は鉄骨梁20に接合されている。
【0051】
そして、筒部230は、プレート240,242の外側に配置され、プレート240,242と接合されている。また、筒部230の内壁には、スタッド160が設けられ、固定部210に埋設され定着している。
【0052】
「施工工程」
つぎに、本変形例の鉄骨ブレース50の端部52を架構12に接合する工程の一例について、説明する。
【0053】
図3(B)に示すように、囲部220を構成するプレート240,242を架構12に接合する。鉄骨ブレース50に筒部230を通した状態で、鉄骨ブレース50の端部52をプレート240とプレート242との間に配置する。そして、矢印Gで示すように、筒部230をプレート240,242の外側に移動させて接合する。
【0054】
図3(A)に示すように、囲部220の中(充填空間)に繊維補強モルタルQ(又は繊維補強コンクリート)を充填する。そして、繊維補強モルタルQが固化することでスタッド60、160が埋設され定着した固定部210が形成されると共に、鉄骨ブレース50の端部52が接合部200(固定部210)を介して接合される
【0055】
このように、鉄骨ブレース50を所定の位置に配置する際の自由度が大きいので、施工性が向上する。
【0056】
ここで、本変形では、囲部220を構成する筒部230は製造の容易性や施工性など考慮して側面視略矩形状とし、これに合わせプレート240,242は略並行に配置されていたが、これに限定されない。筒部230が開口側に向かって幅狭となる側面視略台形状とし、図2に示すプレート140,142のように変形例のプレート240,242も開口部側に向かって幅狭となるように角度を持って配置されていてもよい。そして、このように幅狭とすることで、鉄骨ブレース50が囲部から引き抜かれる方向の接合強度が向上する。
【0057】
<第二実施形態>
図4と図5を用いて、本発明の第二実施形態に係る鉄骨部材の接合構造について説明する。なお、第一実施形態と同一の部材には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0058】
本実施形態では、鉄骨ブレース70は、軸方向(長手方向)と直交する断面が略C形状の二つの溝形鋼(Cチャンネル)80Aと溝形鋼(Cチャンネル)80Bとで構成されている。溝形鋼80A,80Bは、開口側が面外方向外側を向くように対向して配置されている。つまり、一対の溝形鋼80A,80Bが所謂「背合わせ」で配置されている。
【0059】
本実施形態においても、鉄骨ブレース70は、横倒しK字状の所謂K型ブレースとされている。そして、第一実施形態と同様に、鉄骨ブレース70は、長手方向の両端部72が、架構12を構成する上側の鉄骨梁20U(図1参照)の横方向の略中央部に設けられた接合部(図示略)と下側の鉄骨梁20Dと左右の鉄骨柱18L,18Rとで構成する角部に設けられている接合部300とに固定されることよって、架構12に接合されている。
【0060】
なお、架構12を構成する上側の鉄骨梁20U(図1参照)の横方向の略中央部に設けられた接合部(図示略)は、下側の接合部300と大きさが異なると共に、二つの鉄骨ブレース70L,70Rが接合されていること以外は、略同様の構造であるので、説明を省略する。つまり、下側の接合部300を代表して説明する。
【0061】
図4及び図5に示すように、接合部300は、ガセットプレート320と、該ガセットプレート320の周囲に設けられ、繊維補強モルタルQ(又は繊維補強コンクリート)が固化することによって形成された固定部310と、を有している。
【0062】
ガセットプレート320は、Y方向を面外方向(板厚方向)として配置され、鉄骨柱18と鉄骨梁20に接合されている。
【0063】
ガセットプレート320には、面外方向外側(Y方向)に突出するスタッド160が設けられている。スタッド160は固定部310に埋設され定着している。なお、スタッド160は、後述するように鉄骨ブレース70の端部72が配置される部位には設けられていない。
【0064】
鉄骨ブレース70を構成する溝形鋼80A,80Bは、ガセットプレート320の面外方向の両外側にそれぞれ配置されている。別の観点で説明すると、溝形鋼80A、80Bのウェブ84A,84Bの間にガセットプレート320が挟まれるように配置されている。
【0065】
鉄骨ブレース70の端部72には、複数のスタッド60が接合されている。そして、各スタッド60は、ガセットプレート320の周りに設けられた固定部310の中に埋設され定着されている。
【0066】
なお、図5では、鉄骨ブレース70を構成する溝形鋼80A,80Bのウェブ84A,84Bとガセットプレート320との間に間隔があいている。しかし、溝形鋼80A,80Bのウェブ84A,84Bとガセットプレート320とが当接していてもよい。
【0067】
「施工工程」
つぎに、本実施形態の鉄骨ブレース70の端部72を架構12に接合する工程の一例について、説明する。
【0068】
まず、スタッド160が接合された状態のガセットプレート320を架構12に接合する。また、各鉄骨ブレース70の端部52(溝形鋼80の端部82)にスタッド60を接合する。
【0069】
鉄骨ブレース70を構成する溝形鋼80A,80Bを、ガセットプレート320の面外方向の両外側に配置する。なお、このとき、ガセットプレート320と溝形鋼80A,80Bとを、ボルト締結等で仮固定してもよい。
【0070】
型枠(図示略)を設け、型枠の中(充填空間)に繊維補強モルタルQ(又は繊維補強コンクリート)を充填する。そして、繊維補強モルタルQが固化することでスタッド60、160が埋設され定着した固定部310が形成されると共に、鉄骨ブレース70の端部72が接合部300(固定部310)を介して、架構12に接合される。
【0071】
<作用及び効果>
つぎに本実施形態の作用及び効果について説明する。
鉄骨ブレース70を構成する溝形鋼80A,80Bがガセットプレート320の面外方向外側に配設されるので、鉄骨ブレース70を所定の位置に配置する際の自由度が大きい。よって、施工性が向上する。
【0072】
<変形例>
つぎに、本実施形態の変形例について、図6を用いて説明する。
【0073】
図6(A)に示す第一の変形例では、鉄骨ブレース90を構成する溝形鋼80A,80Bは、開口側が対向して配置されている。つまり、一対の溝形鋼80A,80Bが所謂「腹合わせ」で配置されている。
【0074】
そして、C型溝形鋼で構成された鉄骨ブレース90の中に繊維補強モルタルQを充填し固化した固定部352が形成されている。よって、本変形例においては、溝形鋼80の端部82が型枠の全部(又は一部)を構成する。
【0075】
また、固定部352の外側を鉄骨ブレース90(溝形鋼80)が拘束することによって固定部352の強度が向上し、この結果、鉄骨ブレース90の端部と架構12との接合強度が向上する。
【0076】
なお、図6(B)に示す第二の変形例のように、軸方向と直交する断面を十字形状としたガセットプレート380を用いてもよい。そして、ガセットプレート3180をこのように十字形状とすることで、接合強度が向上する。
【0077】
ここで、第二実施形態及び変形例では、ガセットプレート320,360,380の面外方向の両外側にそれぞれ溝形鋼80A,80Bを配置したが、これに限定されない。いずれか一方の面の外側にのみ溝形鋼80を配置してもよい。
【0078】
<第三実施形態>
図7を用いて、本発明の第三実施形態に係る鉄骨部材の接合構造について説明する。なお、第一実施形態と同一の部材には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0079】
本実施形態では、鉄骨ブレース50は、第一実施形態と同様にH形鋼とされている。また、本実施形態においても、鉄骨ブレース50は、横倒しK字状の所謂K型ブレースとされている。そして、第一実施形態と同様に両端部522が、架構12を構成する上側の鉄骨梁20U(図1参照)の横方向の略中央部に設けられた接合部(図示略)と下側の鉄骨梁20Dと左右の鉄骨柱18L,18Rとで構成する角部に設けられている接合部500とに固定されることよって、架構12に接合されている。
【0080】
なお、架構12を構成する上側の鉄骨梁20U(図1参照)の横方向の略中央部に設けられた接合部(図示略)は、下側の接合部500と大きさが異なると共に、二つの鉄骨ブレース50L,50Rが接合されていること以外は、略同様の構造であるので、説明を省略する。つまり、下側の接合部500を代表して説明する。
【0081】
接合部500は、架構12に設けられた繊維補強モルタルQ(又は繊維補強コンクリート)が固化することによって形成された固定部110を有している。また、架構12を構成する鉄骨梁20及び鉄骨柱18にスタッド160が設けられていると共に、スタッド160が固定部110に埋設され定着している。
【0082】
各鉄骨ブレース50の端部52には、複数のスタッド60が接合されている。各スタッド60は、接合部500の固定部110に埋設され定着されている。なお、各鉄骨ブレース50のスタッド60と接合部500のスタッド160とが干渉しないように配置及び長さ等が設定されている。
【0083】
「施工工程」
つぎに、本実施形態における鉄骨ブレース50の端部52を架構12に接合する工程の一例について、説明する。
【0084】
スタッド160を架構12に接合すると共に、各鉄骨ブレース50の端部52にスタッド60を接合する。
【0085】
鉄骨ブレース50を所定位置に配置した状態で、型枠(図示略)を設け、型枠の中(充填空間)に繊維補強モルタルQ(又は繊維補強コンクリート)を充填する。そして、繊維補強モルタルQが固化することでスタッド60、160が埋設され定着した固定部110が形成されると共に、鉄骨ブレース50の端部52が固定部110を介して、架構12に接合される。
【0086】
<作用及び効果>
つぎに本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0087】
繊維補強モルタルQ(又は繊維補強コンクリート)が固化することによって形成された固定部110を介して鉄骨ブレース50の端部52と架構12とが接合されているので、鉄骨ブレース50の端部52を架構12に接合する際の誤差の吸収代が大きくなる。また、固定部110を介して鉄骨ブレース50の端部52と架構12との間で応力が伝達される。したがって、接合強度を確保しつつ、鉄骨ブレース50の端部52を架構に接合する際の誤差の吸収代を大きくすることができる。
【0088】
<その他>
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0089】
例えば、記実施形態及び変形例では、固定部は繊維補強モルタルQ又は繊維補強コンクリートが固化することで形成されていたが、これに限定されない。他の充填材であってもよい。例えば、繊維補強されていないモルタル、コンクリート、グラウト等の充填材が固化することで形成された固定部であってもよい。
【0090】
また、例えば、固定部110の中に補強筋が埋設され補強されていてもよい。
また、例えば、固定部110にプレストレスを導入してもよい。
【0091】
また、例えば、スタッド60,160は図に示す構造以外のものであってもよい。例えば、鉄筋スタッドでもよく、機械式定着部やコブ定着部があってもよい。また、図に示す各スタッド60、160の配置は一例であって、この配置に限定されるものでない。
【0092】
また、例えば、上記実施形態及び変形例では、固定部と応力伝達を行なう鉄骨ブレースに設けられた第一応力伝達手段はスタッド60であったが、これに限定されない。例えば、図8(A)に示すように、鉄骨ブレース50の端部52に、複数の貫通孔670が形成され、図8(B)に示すように、貫通孔670に繊維補強モルタルQが入り込み固化することで、繊維補強モルタルQで構成されたコッター672を介して、鉄骨ブレース50の端部52と固定部110との間で応力が伝達される構成であってもよい。また、想像線(二点破線)で示すように、貫通孔670に補強筋674を挿通してもよい。
【0093】
また、同様に、囲部やガセットプレートに貫通孔を形成しコッターによって固定部から応力が架構12に伝達されるように構成されていてもよい。
また、それぞれの部材がスタッドとコッターとの両方を備える構成であってもよい。
更に、スタッドやコッター以外の応力伝達手段であってもよい。
【0094】
また、上記実施形態及び変形例では、鉄骨ブレースの両端部の接合部位に固定部を形成したが、これに限定されない。例えば、鉄骨ブレースの長手方向の略全域にわたって、鉄骨ブレースの周囲又は中に充填材を設け(充填し)固化させて、鉄骨ブレースを補強してもよい。
【0095】
また、上記実施形態及び変形例では、鉄骨ブレースの両端部の接合に本発明を適用したがこれに限定されない。鉄骨ブレースの、いずれか一方の端部の接合にのみ適用し、いずれか他方の端部は従来の接合構造で接合してもよい。
【0096】
また、上記実施形態では、鉄骨ブレースはH形鋼又は溝形鋼で構成されていたが、これに限定されない。例えば、断面が円形や矩形の鋼管で構成されていてもよい。更に、鉄骨ブレース以外のブレースであってもよい。例えば、SRCブレース、座屈補剛ブレース、端部Sの木ブレース、RCブレース、鉄筋ブレースなどであってもよい。但し、望ましくは少なくとも端部が鉄骨であったほうがよい。
【0097】
また、上述の複数の実施形態や複数の変形例は、適宜、組み合わされて実施可能である。例えば、第一実施形態又は第二実施形態の構成においても、第三実施形態のように架構12(鉄骨梁20、鉄骨柱18)に、固定部に埋設するスタッドを設けてもよい。或いは、第二実施形態の固定部の外側に第一実施形態と同様の囲部を設けてもよい。また、第二実施形態の固定部の外側に第一実施形態と同様の囲部を設け、更に第三実施形態のように架構12(鉄骨梁20、鉄骨柱18)にスタッドを設けてもよい。
【0098】
更に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0099】
12 架構
50 鉄骨ブレース(ブレース)
52 端部
60 スタッド(第一応力伝達手段)
70 鉄骨ブレース(ブレース)
72 端部
110 固定部
120 囲部(囲部、第二応力伝達手段)
130 プレート(第二応力伝達手段)
132 プレート(第二応力伝達手段)
160 スタッド(第二応力伝達手段)
175 固定部
210 固定部
230 筒部(囲部、第二応力伝達手段)
310 固定部
320 ガセットプレート(第二応力伝達手段、接続部)
352 固定部
360 ガセットプレート(第二応力伝達手段、接続部)
372 固定部
380 ガセットプレート(第二応力伝達手段、接続部)
Q 繊維補強モルタル(充填材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架構に接合するブレースの接合構造であって、
前記架構に設けられ、充填材が固化することによって形成され、前記鉄骨ブレースの端部が接続された固定部と、
前記鉄骨ブレースの端部に設けられ、前記固定部と応力伝達を行なう第一応力伝達手段と、
前記架構に設けられ、前記固定部と応力伝達を行なう第二応力伝達手段と、
を備えるブレースの接合構造。
【請求項2】
前記ブレースの端部を囲み、前記充填材が充填される囲部を有している請求項1に記載のブレースの接合構造。
【請求項3】
前記第二応力伝達手段は、前記架構に接合され、前記ブレースの端部が面外方向外側に配設される接続部を有している請求項1又は請求項2に記載のブレースの接合構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−172490(P2012−172490A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38552(P2011−38552)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】