説明

ブレーズド格子を含む物品の検証方法及び装置及び物品

【課題】ブレーズド格子を含む物品に対し、簡便で安価な装置構成により、容易にかつ確実に真偽判定を可能とし、偽造防止効果を極めて高くした、検証方法及び装置及び物品を提供すること。
【解決手段】少なくとも一部にブレーズド格子を含む被検証領域を有する物品に対し、被検証領域に対して一定の角度範囲の光を第1の照明光として照射可能とし、被検証領域の表面の法線を軸として第1の照明光と対称となる方向から、第1の照明光と同一の角度範囲の光を第2の照明光として照射可能とし、第1の照明光と第2の照明光を交互に被検証領域に入射、もしくはどちらか一方を照射している状態で残りの照明光を照射/遮断し、被検証領域の近傍に配置した拡散透過性シートを介して、被検証領域の表面の法線方向から観察もしくは撮像可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、確実かつ簡便な真偽判別のための方法及び装置及び物品に関する。
【0002】
特に、セキュリティ用途や認証用途での真偽判別に好適な方法及び装置及び物品を提供することを目的とする。
【背景技術】
【0003】
セキュリティ用途や認証用途での真偽判別のために、OVD(Optical Variable Device)として回折格子やレインボーホログラムが使われている。回折光により独特の視覚効果を発揮するため、これらのOVDは貼付された物品の真正性を明確にするために役立っている。
【0004】
また、ブレーズド格子を利用したOVDは非常に作製が困難であり、回折効率や光の指向性の面で従来の回折格子やホログラム以上の視覚効果を得ることができるため、偽造・模造に対する防止・抑制効果が極めて高いという特徴がある。
【0005】
ブレーズド格子の回折効率・指向性が高いことは、光学式情報記録〜再生への適用の上でも優位性がある。
【0006】
クレジットカード,有価証券,ブランド商品のパッケージなどに回折格子やレインボーホログラムを適用して、模造品,偽造品の判別を容易にするための試みや、適用された回折格子に記録された情報の機械読み取りを行なうことにより、目視による識別判定以上の精密な真偽判定を可能とする試みも従来から行なわれている。
【0007】
しかしながら、OVDとして従来の回折格子やレインボーホログラムは一般化してきており、偽造・模造品と真性の物品とを一目で確実に見分けることは困難になってきている。
【0008】
また、ブレーズド格子を利用したOVDは回折効率や光の指向性の面で特徴的な視覚効果を得ることができるものの、一般的なホログラム技術で模造された物品などに対して、素人が確実に真偽判別を行うことは容易ではない。
【0009】
ブレーズド格子を利用したOVDの真偽判別を、高い精度で確実に行なうためには、機械的(光学的)な識別装置を用いる必要がある。
【0010】
上記識別装置を用いた従来手法における検証(真偽判別)においては、回折格子の向きが少々異なるものでも同一のホログラムを記録されたOVDであると判断する恐れがあった。このような誤検知をなくし、OVDを安定検出するためには受光部をかなり大きくする必要があるが、偽造の精度が向上するとそれだけ受光部を大きくしなければならず、誤検知の可能性が大きくなる。
【0011】
ブレーズド格子を利用したOVDであっても、高い精度で確実に検証(真偽判別)を可能とする手法が、下記の特許文献1で提案されている。
<特許文献1>
回折格子やホログラム等の識別用パターンを表面に形成された識別マークであって、前記識別用パターンを構成する回折格子は、不特定の角度で光を当てても同一次数の2つの回折光の光強度が互いに異なるものであることを特徴としている。たとえば、この識別マークは、識別用パターンをブレーズ形回折格子によって構成したものである。
【0012】
これらの識別マークにあっては、いろいろな角度から光を当てたときに、識別用パターンによって生成された同一次数の回折光、例えば±1次回折光の光強度が異なっているので、識別マークを見る方向によって識別用パターンの光り方や色づき方が変わったり、記録されている識別用パターンが異なって見えたりする。
【0013】
従って、目で見て偽造品の真贋や類似品の識別をする際の識別性が高くなり、また偽造品の製作も困難になる。
【0014】
また、この識別マークは、識別マークの識別用パターンにより生成された同一次数の2つの回折光の光強度を比較することによって光学的に判別することができる。同一の識別用パターンであれば、例えば2つの回折光の光強度の比は一定となるから、光強度の比が一定範囲内にあるか否かによって判別することができる。
【0015】
このように視覚に頼らず、光学的に判定できるようにすれば、識別マークの真贋等の判定をより確実に行なうことができ、信頼性が向上する。(特許文献1参照)
【特許文献1】特開平11−15380号公報 上記特許文献1におけるマーク識別装置は、 少なくとも、前記識別マークに光を投射する投光部と、前記識別マークで反射した同一次数の2つの回折光をそれぞれ受光する受光部と、前記受光部における受光強度を比較することによって識別マークを判別する手段とを備えていればよい。
【0016】
2つの受光部は、投光部から識別マークに投射された光の同一次数の回折光の回折方向に配置してあればよく、本発明の識別マークを自動的に判別することができる。
【0017】
すなわち、特許文献1でのマーク識別にあたっては、
ブレーズド格子に対して、共通の単独光源からの照明と、
共通のブレーズド格子からの同一次数の反射回折光を、正負それぞれについて、異なる受光手段により検出することを特徴としており、特許文献1の図8においても、そのような光学系が図示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
特に、ブレーズド格子も含め、回折格子やレインボーホログラムは、通常の室内光源下での観察時には、観察条件を一定にできず、従って一定の観察像が常に視覚できるわけではないことが真偽判別の問題となっている。
【0019】
一方、これらの解決策として、照明光源と光検出器を一体とした回折光の読み取り方法が提案されている。しかし、これらの方法は装置が高価であるとともに、被検体(回折格子やホログラムなど)と光源、光検出器の空間的関係を高精度に一定に保たないと安定した検出結果が得られないという問題があった。
【0020】
特許文献1でのマーク識別においても、正負それぞれの同一次数の反射回折光を、高精度に検出・比較するためには、3者(被検体/光源/光検出器)の位置関係の厳密な設定を要すると共に、複数の光検出器で検出されたそれぞれの信号処理に応じた比較を要することになる。
【0021】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡便で安価な装置構成により、容易にかつ確実に真偽判定を可能とし、偽造防止効果を極めて高くした、検証方法及び装置及び物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
断面形状が非対称なブレーズド格子では、照明光や回折光を若干拡散させることにより、極めて安定した回折光分布を実現することができ、素人による目視でも、確実な識別判定が容易となりやすいことを利用して、本発明では、以下のような手段を講じる。
【0023】
すなわち、請求項1の本発明は、
少なくとも一部にブレーズド格子を含む被検証領域を有する物品に対し、被検証領域に対して一定の角度範囲の光を第1の照明光として照射可能とし、被検証領域の表面の法線を軸として第1の照明光と対称となる方向から、第1の照明光と同一の角度範囲の光を第2の照明光として照射可能とし、第1の照明光と第2の照明光を交互に被検証領域に入射、もしくはどちらか一方を照射している状態で残りの照明光を照射/遮断し、被検証領域の近傍に配置した拡散透過性シートを介して、被検証領域の表面の法線方向から観察もしくは撮像可能としている。
【0024】
従って、第1の照明光によって、対応するブレーズド格子のみが観察/撮像方向に強く光を回折し、第2の照明光によっては同方向に十分な光量の光を回折しない。一方、第2の照明光によって、対応するブレーズド格子のみが観察/撮像方向に強く光を回折し、第1の照明光によっては同方向に十分な光を回折しない。この二状態の回折光をそれぞれ観察もしくは撮像することにより、それぞれ独立した回折光の状態を検出することが可能となる。
【0025】
なお、本願では、観察者が直視して、あるいはレンズ、プリズムなどを通して、回折光の空間的な分布を感知することを観察と呼び、回折光の空間的な強度分布を機械的に検出することを撮像と呼ぶことにする。
【0026】
また、本願では、基準平面となる「ブレーズド格子を含む被検証領域」の平面に対する傾斜角を「角度」とし、基準平面内での方位角を「方向」と呼ぶことにする。
【0027】
ここで、第1の照明光と第2の照明光が、被検証領域の表面の法線を軸として対称となっているため、従来の回折格子(正弦波状や矩形波状などの、対称的な断面形状を持つ回折格子)やレインボーホログラムによる物品は、第1の照明光の照射時と第2の照明光の照射時共に法線方向においては同様の回折光しか生じないため、これらとブレーズド格子による真正品との判別は極めて容易にして確実になる。
【0028】
特に、第1の照明光と第2の照明光を交互に被検証領域に入射、もしくはどちらか一方を照射している状態で残りの照明光を照射/遮断することによって、各照明状態において観察/撮像される画像の差異が明確になり、一層容易に確実な判定を、目視によっても行える。
【0029】
また、被検証領域の近傍に配置した拡散透過性シートを介して表面の法線方向から観察もしくは撮像するため、第1の照明光と第2の照明光の入射方向・角度が完全に対称的でなく若干の差があっても、各照明光及び被検証領域からの回折光がそれぞれ拡散を伴うことになるので、観察/撮像される画像としては一定した結果が得られ、極めて簡便かつ安定した判別が実現できる。
【0030】
特に、拡散透過性シートが被検証領域の近傍に配置されているので、前記拡散の効果を十分に発揮しながら、観察/撮像される画像の解像度の低下を防ぐことも可能であり、高解像度な画像による検証によって偽造・模造防止効果は一層高くなる。
【0031】
さらに厳密な検証を行なうには、観察/撮像される画像を情報として機械的(光学的)に読み取ることも可能であり、単なる真偽判定に留まらず、読み取った情報に基づいて観察/撮像の対象となったブレーズ格子を含む物品の分類なども可能となる。
【0032】
請求項2の発明は、
第1の照明光及び第2の照明光を、同一波長の単色光としている。
【0033】
従って、観察/撮像される画像も単色光となり、外乱光(ノイズ)と回折光の区別が容易となり、真偽判別や情報読み取りが一層容易になる。
【0034】
請求項3の発明は、
第1の照明光及び第2の照明光を、同一波長分布を有する光としている。
【0035】
従って、白色光などを照明光として用いることもでき、照明光の選択の幅が増えると共に、観察/撮像される画像も回折格子による分光作用のために着色し、色情報も組み合わせて、真偽判別が更に確実に行える。特に、情報読み取りの場合には、回折光による空間的輝度情報に加えて、色情報を利用することにより、情報量を増やすことができる。
【0036】
請求項4の発明は、
第1の照明光及び第2の照明光の組を2組以上有し、少なくとも2組以上の照明光に対して、各組の片方の照明光の照射/遮断を同時に行うようにしている。
【0037】
従って、1つの照明光だけでは観察/撮像されない画像や情報が再生できるようになるため、通常の照明条件下では識別できない画像や情報を容易に確実に観察/撮像できるようになり、極めて偽造・模造防止効果を高くすることができる。
【0038】
請求項5の発明は、
第1の照明光と第2の照明光は、被検証領域に形成されたブレーズド格子の少なくとも1つの格子縞に対して略直交する方向から別々に照明するように、対称配置されることを特徴とする。
【0039】
上記のような配置関係の場合、断面形状が非対称なブレーズド格子では、照明光の照射角度(方向)に応じて、回折光が1または0となるため、照明する光源に応じて極端に異なる画像が再生されるため、被検証領域の回折格子がブレーズド格子を含むか否か、容易に識別される。
【0040】
請求項6の発明は、
ブレーズド格子を含む物品の検証装置において、少なくとも一部に被検証領域を有するブレーズド格子からなる物品に対し、被検証領域に対して一定の角度範囲の光を照射する第1の光源と、被検証領域の表面の法線を軸として第1の光源と対称となる方向から、第1の光源と同一の角度範囲の光を照射する第2の光源とを有し、被検証領域の近傍に拡散透過性シートを配置し、被検証領域の表面の法線方向から観察もしくは撮像可能としている。
【0041】
従って、第1の光源からの照明光によって、対応するブレーズド格子のみが観察/撮像方向に強く光を回折し、第2の光源からの照明光によっては同方向に十分な光量の光を回折しない。一方、第2の光源からの照明光によって、対応するブレーズド格子のみが観察/撮像方向に強く光を回折し、第1の光源からの照明光によっては同方向に十分な光を回折しない。この二状態の回折光をそれぞれ観察もしくは撮像することにより、それぞれ独立した回折光の状態を検出することが可能となる。
【0042】
なお、本願では、観察者が直視して、あるいはレンズ、プリズムなどを通して、回折光の空間的な分布を感知することを観察と呼び、回折光の空間的な強度分布を機械的に検出することを撮像と呼ぶことにする。
【0043】
ここで、第1の光源と第2の光源が、被検証領域の表面の法線を軸として対称となっているため、従来の回折格子(正弦波状や矩形波状などの断面形状を持つ回折格子)やレインボーホログラムによる物品は、第1の光源からの照明光の照射時と第2の光源からの照明光の照射時共に法線方向においては同様の回折光しか生じないため、これらとブレーズド格子による真正品との判別は極めて容易にして確実になる。
【0044】
特に、第1の光源からの照明光と第2の光源からの照明光を交互に被検証領域に入射、もしくはどちらか一方を照射している状態で残りの照明光を照射/遮断することによって、各照明状態において観察/撮像される画像の差異が明確になり、一層容易に確実な判定を行える。
【0045】
また、拡散透過性シートを介して表面の法線方向から観察もしくは撮像可能としているため、第1の光源からの照明光と第2の光源からの照明光の入射角度などに若干の差があっても、観察/撮像される画像としては一定した結果が得られ、極めて簡便かつ安定した判別が実現できる。特に拡散透過性シートが被検証領域の近傍に配置されているので、前記拡散の効果を十分に発揮しながら、観察/撮像される画像の解像度の低下を防ぐことも可能であり、高解像度な画像による検証によって偽造・模造防止効果は一層高くなる。更に、観察/撮像される画像を情報として読み取ることも可能であり、単なる真偽判定に留まらず、読み取った情報に基づいて観察/撮像の対象となったブレーズ格子を含む物品の分類なども可能となる。
【0046】
また、これらの照明光を得るための光源、拡散透過性シートなども極めて安価な部材を用いることができ、また拡散透過性シートによる全体構成の配置精度の許容量拡大により、安価に容易に構成することが可能である。
【0047】
請求項7の発明は、第1の光源及び第2の光源を、同一波長の単色光源としている。
【0048】
従って、観察/撮像される画像も単色光となり、外乱光(ノイズ)と回折光の区別が容易となり、真偽判別や情報読み取りが一層容易になる。
【0049】
請求項8の発明は、第1の光源及び第2の光源を、同一波長分布の光源としている。
【0050】
従って、白色光などを照明光として用いることもでき、照明光の選択の幅が増え、安価な光源も利用できると共に、観察/撮像される画像も回折格子による分光作用のために着色し、色情報も組み合わせて、真偽判別が更に確実に行える。特に、情報読み取りの場合には、回折光による空間的輝度情報に加えて、色情報を利用することにより、情報量を増やすことができる。
【0051】
請求項9の発明は、第1の光源及び第2の光源の組を2組以上有するようにしている。
【0052】
従って、1つの光源からの照明光だけでは観察/撮像されない画像や情報が再生できるようになるため、通常の照明条件下では識別できない画像や情報を容易に確実に観察/撮像できるようになり、極めて偽造・模造防止効果を高くすることができる。
【0053】
請求項10の発明は、上記の検証方法により検証可能なブレーズド格子として、
同一空間周波数、同一方向の格子であり、格子の断面傾斜面が被検証領域の表面の法線を軸として対称となる2種類のブレーズド格子を含むようにしている。
【0054】
従って、第1の照明光によって観察/撮像される画像/情報と、第2の照明光によって観察/撮像される画像/情報とをそれぞれ独立に再生するブレーズド格子を確実に設けることができ、照明光の切り換えによる二種類の画像/情報再生を確実に実現できる。
【0055】
請求項11の発明は、上記2種類のブレーズド格子により、2種類の絵柄や文字を表現している。
【0056】
従って、各照明光によって絵柄や文字が観察/撮像されるため、認識が容易であり、一層簡便な真偽判別が実現できる。特に目視観察の場合には、上記の簡便な検証装置以外に特別な装置も必要なく、瞬時に確実な判別ができる。
【0057】
請求項12の発明は、上記2種類のブレーズド格子を複数組用い、それぞれの2種類の絵柄や文字、情報パターンを表現している。
【0058】
従って、照明光の選択により多くの絵柄や文字、情報パターンを選択的に再生でき、より多くの情報を正確に再生することができる。
【0059】
請求項13の発明は、2種類のブレーズド格子を複数組用い、複数組の一方の種類のブレーズド格子の集まりにより絵柄や文字、情報パターンを表現している。
【0060】
従って、正しい照明光の選択によって初めて正しい絵柄や文字、情報パターンが再生でき、情報の隠蔽性を高め、偽造・模造防止効果を高くすることができる。
【発明の効果】
【0061】
以上説明したように、本発明の検証方法及び装置及び物品によって、ブレーズド格子を含む物品の検証において、簡便で安価な装置構成により、容易にかつ確実な真偽判定を可能とし、偽造防止効果も向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0062】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0063】
本発明の第1の実施の形態を図1から図3を用いて説明する。
【0064】
図1は、第1の実施の形態に係る本発明のブレーズド格子を含む物品の構成例を示す説明図である。
【0065】
図2は、図1のブレーズド格子を含む物品における観察/撮像結果の例を示した説明図である。
【0066】
図3は、図2の観察/撮像時の検証方法を示した説明図である。
【0067】
図4は、図2の観察/撮像時の検証装置の構成を示す説明図である。
【0068】
すなわち、本実施の形態に係るブレーズド格子を含む物品10は、予め決められた第1の照明光に対して、ブレーズド格子を含む表面の法線方向に強い回折光を射出するように設計されたブレーズド格子から構成された領域1と、表面の法線を軸として第1の照明光と対称となる方向から第1の照明光と同一の角度範囲を持って照明する第2の照明光に対して、ブレーズド格子を含む表面の法線方向に強い回折光を射出するように設計されたブレーズド格子から構成された領域2aと2bとを含んでいる。
【0069】
このとき、領域1、2a、2bを構成するブレーズド格子として、同一の空間周波数、同一方位角度を有し、格子の断面傾斜面が被検証領域の表面の法線を軸としてほぼ対称となる2種類のブレーズド格子を領域1と領域2(a、b)の基本ブレーズド格子とし、aとbでは若干空間周波数や方位角度や回折効率が異なるようにすると、照明光1の照明時には図2(a)が、照明光1の照明時には図2(b)が観察/撮像できる。
【0070】
従来の回折格子によって形成された領域3や回折格子の無い領域4は、照明光1と2の切り換えによって、観察/撮像される画像は変化しないため、これらを被検証領域内に配置することにより、ブレーズド格子による効果が一層際だち、検証が容易になる。
【0071】
図3はこのときの照明光1と2の被検証領域への入射の様子や観察者によって観察される様子を示したものであり、図4はこの検証方法を実現するための装置化の一例について概要を示している。
【0072】
ここで、被検証領域に近接して配置された拡散性透過シートが極めて重要な働きをしている。すなわち、照明光1及び2をそれぞれ拡散しながら透過し、この透過照明光が被検証領域のブレーズド格子によって反射回折した後にも再度拡散しながら透過することにより、実際の照明光1と2の理想条件との差異を埋め、比較的精度の低い照明光の調整であっても、ほぼ対称な照明条件とすることが出来、簡便に安価に装置を構成して、確実で容易な検証が実現できる。
【0073】
また、被検証領域内への入射角度が異なるような照明光でも検証には問題ないため、特にレンズなどの特別な光学部品を用いなくとも、簡便な照明光源を用いて正確な検証が実現できる。これにより、LEDや電球などの安価で小さな光源を用いることも可能であり、低コストに小型の検証装置を提供することができる。
【0074】
更に、通常、ブレーズド格子などでは、波長による回折角度の差異により、照明光の若干の差異により画像の色づきや色変化が発生しやすいが、拡散性透過シートによる拡散はこの現象も補償する効果があり、正確な真偽判別を実現可能である。
【0075】
なお、本発明において用いる拡散性透過シートとしては、ヘイズ値で30以上が適し、特にヘイズ値70以上では極めて条件が安定して、検証が容易であることが実験により確認されている。
【0076】
また、撮像する場合には、図示した観察者の目の位置にCCDカメラなどを配置すればよく、簡便に機械読み取りに対応できる。機械読み取りにした場合、目視では理解不可能な情報を隠蔽したり、より多くの情報を再生することも可能である。
【0077】
図5は、領域2を構成するブレーズド格子の例を示している。
【0078】
図5(1)では照明光1に対しては十分な回折光を生じず(0次回折光は正反射光であるため、ここでの回折光には該当しない)、図5(2)では照明光2に対しては強い回折光を生じる。照明光の入射方向を変えれば、方位角度や空間周波数の異なるブレーズド格子について同様の効果が発生するため、照明光の組を増やすことにより、観察/撮像される画像の数を増やすことができ、偽造・模造防止効果を高くすることができる。
【0079】
なお、従来の回折格子やレインボーホログラムでは、図6のように、対称的な照明光に対しては法線方向に対して同様の回折光を生じるため、従来の回折格子やレインボーホログラムのみでは、本発明と同様の効果を有する物品は作製することができない。
【0080】
以上、本発明の好適な実施の形態について、添付図面を参照しながら説明したが、本発明はかかる構成に限定されるものではない。
【0081】
特許請求の範囲の発明された技術的思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明のブレーズド格子を含む物品の構成例を示す説明図。
【図2】本発明の検証方法により得られるブレーズド格子を含む物品の観察/撮像結果の例を示す説明図。
【図3】本発明による検証方法(観察/撮像)の状態を示す説明図。
【図4】本発明による検証装置の構成例を示す説明図。
【図5】本発明の検証方法を、ブレーズド格子からなる被検証領域に対して適用する場合の概念を示す説明図。
【図6】本発明の検証方法を、非ブレーズド格子の回折格子からなる被検証領域に対して適用する場合の概念を示す説明図。
【符号の説明】
【0083】
10・・・ブレーズド格子を含む物品
1,2a,2b・・・ブレーズド格子からなる領域
3・・・回折格子(非ブレーズド格子)からなる領域
4・・・回折格子の無い領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部にブレーズド格子を含む被検証領域を有する物品に対し、
被検証領域に対して一定の角度範囲の光を第1の照明光として照射可能とし、
被検証領域の表面の法線を軸として前記第1の照明光と対称となる方向から、第1の照明光と同一の角度範囲の光を第2の照明光として照射可能とし、
前記第1の照明光と前記第2の照明光を交互に被検証領域に入射、もしくはどちらか一方を照射している状態で残りの照明光を照射/遮断し、
被検証領域の近傍に配置した拡散透過性シートを介して、
被検証領域の表面の法線方向から観察もしくは撮像可能としたことを特徴とするブレーズド格子を含む物品の検証方法。
【請求項2】
前記第1の照明光及び前記第2の照明光が、同一波長の単色光であることを特徴とする請求項1記載のブレーズド格子を含む物品の検証方法。
【請求項3】
前記第1の照明光及び前記第2の照明光が、同一波長分布を有する光であることを特徴とする請求項1記載のブレーズド格子を含む物品の検証方法。
【請求項4】
前記第1の照明光及び前記第2の照明光の組を2組以上有し、少なくとも2組以上の照明光に対して、各組の片方の照明光の照射/遮断を同時に行うことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のブレーズド格子を含む物品の検証方法。
【請求項5】
第1の照明光と第2の照明光は、被検証領域に形成されたブレーズド格子の少なくとも1つの格子縞に対して略直交する方向から別々に照明するように、対称配置されることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のブレーズド格子を含む物品の検証方法。
【請求項6】
少なくとも一部に被検証領域を有するブレーズド格子からなる物品に対し、
被検証領域に対して一定の角度範囲の光を照射する第1の光源と、
被検証領域の表面の法線を軸として前記第1の光源と対称となる方向から、第1の光源と同一の角度範囲の光を照射する第2の光源とを有し、
被検証領域の近傍に拡散透過性シートを配置し、
被検証領域の表面の法線方向から観察もしくは撮像可能としたことを特徴とするブレーズド格子を含む物品の検証装置。
【請求項7】
前記第1の光源及び前記第2の光源が、同一波長の単色光源であることを特徴とする請求項6記載のブレーズド格子を含む物品の検証装置。
【請求項8】
前記第1の光源及び前記第2の光源が、同一波長分布の光源であることを特徴とする請求項6記載のブレーズド格子を含む物品の検証装置。
【請求項9】
前記第1の光源及び前記第2の光源の組を2組以上有することを特徴とする請求項6〜8の何れかに記載のブレーズド格子を含む物品の検証装置。
【請求項10】
請求項1乃至4に記載の検証方法により検証可能なブレーズド格子として、同一空間周波数、同一方向の格子であり、格子の断面傾斜面が被検証領域の表面の法線を軸として対称となる2種類のブレーズド格子を含むことを特徴とする物品。
【請求項11】
前記2種類のブレーズド格子により、2種類の絵柄や文字を表現していることを特徴とする請求項10記載の物品。
【請求項12】
前記2種類のブレーズド格子を複数組用い、それぞれの2種類の絵柄や文字、情報パターンを表現していることを特徴とする請求項11記載の物品。
【請求項13】
前記2種類のブレーズド格子を複数組用い、複数組の一方の種類のブレーズド格子の集まりにより絵柄や文字、情報パターンを表現していることを特徴とする請求項10記載の物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−11513(P2006−11513A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−183422(P2004−183422)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】