説明

ブロック共重合体の製造法

【課題】カチオン重合可能なビニル系モノマーとラジカル重合可能なビニル系モノマーとのブロック共重合体を、簡便かつ高収率で得る製造方法を提供する
【解決手段】RAFT剤の存在下にカチオン重合可能なビニル系モノマーをリビングカチオン重合させ、得られたリビングポリマーにラジカル重合可能なビニル系モノマーをリビングラジカル重合させることを特徴とする、該カチオン重合可能なビニル系モノマーと該ラジカル重合可能なビニル系モノマーとのブロック共重合体の製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン重合可能なビニル系モノマーとラジカル重合可能なビニル系モノマーとのブロック共重合体の製造法。
【背景技術】
【0002】
従来、異なる種類のポリマーがつなぎ合わさったブロック共重合体は、該ポリマーの異なる性質が個々に現れるため、高分子界面活性剤、熱可塑性エラストマー、塗料、接着剤等として有用である。特に、カチオン重合可能なビニル系モノマーとラジカル重合可能なビニル系モノマーを簡単に組み合わせることが可能になれば、カチオン重合可能なビニル系モノマーから製造されるポリマーの機能と、ラジカル重合系モノマーから製造されるポリマーの機能とを合わせ持つ有用な高分子を提供できる。
【0003】
しかし、従来技術では、カチオン重合可能なビニル系モノマーとラジカル重合可能なビニル系モノマーとのブロック共重合体は、一つの金属触媒だけを用いて重合させることが不可能であり、金属ルイス酸でカチオン重合を行った後、遷移金属などの金属を用いた原子移動ラジカル重合法によりブロック共重合体を得る方法が用いられている。
【0004】
例えば、非特許文献1に記載されている方法は、臭素を有するアセタール化合物から、メチルビニルエーテルのリビングカチオン重合をZnI2で行った後、反応を停止させ、カチオン重合可能なビニル系モノマーを精製単離する。その後、もう一度、CuBrを加えて、ラジカル重合可能なモノマーを重合する。もしくは、同じ方法でラジカル重合を先に行い、その後、精製単離してカチオン重合を行う煩雑な実験方法で、しかも金属を多重に用いる方法である。
【0005】
また、特許文献1に記載の方法は、金属ルイス酸を用いたリビングカチオン重合によってリビングポリマーを得た後、遷移金属触媒を用いたリビングラジカル重合を行うブロック共重合体製造方法であり、二重に金属触媒を用いる方法で、微量金属の残存が否めない。
【0006】
特許文献2には、カチオン重合性モノマーであるイソブテンとラジカル重合性モノマーであるスチレンのマルチブロック共重合体の製造方法が記載されている。しかし、引用文献2においてはカチオン重合後のラジカル重合法は、金属を用いる原子移動ラジカル重合法である。
【0007】
一方、連鎖移動剤となるジチオカルボン酸エステル等の有機硫黄化合物であるRAFT剤(“RAFT”は可逆的付加開裂連鎖移動:Reversible Addition-fragmentation Chain transferを表す頭字語である)によるラジカル重合法は、非特許文献2、非特許文献3に記載されている方法で、金属触媒を使わない可逆的連鎖移動によるリビングラジカル重合法であり、非常に簡便な重合法である。
【非特許文献1】Polymer, 46, 8469-8482 (2005)
【非特許文献2】Macromolecules, 31, 5559-5562 (1998)
【非特許文献3】Handbook of RAFT Polymerization, (2008), WILEY-VCH社
【特許文献1】特開2003−55420号公報
【特許文献2】特開2000−198825号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、カチオン重合可能なビニル系モノマーとラジカル重合可能なビニル系モノマーとのブロック共重合体を、簡便かつ高収率で得る製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明者は、リビングラジカル重合だけに利用されていたRAFT剤を他の重合系に応用すべく種々検討したところ、全く意外にも、トリチオカーボネート系RAFT剤がカチオン重合に用いられるルイス酸に対して安定であり、該RAFT剤を用いてカチオン重合可能なビニル系モノマーのリビングカチオン重合を行うことができることを新たに見出し、さらに、得られたRAFT剤末端を有するポリマーを用いてラジカル重合可能なビニル系モノマーのリビングラジカル重合を行うことができることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、RAFT剤の存在下にカチオン重合可能なビニル系モノマーをリビングカチオン重合させ、得られたリビングポリマーにラジカル重合可能なビニル系モノマーをリビングラジカル重合させることを特徴とする、該カチオン重合可能なビニル系モノマーと該ラジカル重合可能なビニル系モノマーとのブロック共重合体の製造法を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、RAFT剤の存在下にカチオン重合可能なビニル系モノマーをリビングカチオン重合させて得られる、ポリマー鎖末端にRAFT剤由来の官能基を有する重合体を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造法によれば、カチオン重合可能なビニル系モノマーのリビングポリマーにRAFT剤末端を導入することが可能であり、ラジカル重合を金属を用いない簡便なラジカル重合法を用いて、カチオン重合可能なビニル系モノマーとラジカル重合可能なビニル系モノマーのブロック共重合体を得ることができる。本方法によれば、様々なカチオン重合性モノマーとラジカル重合性モノマーのブロック共重合体を提供することができ、本発明の製造法により得られるブロック共重合体は、高分子界面活性剤、インキ、熱可塑性エラストマー、塗料、接着剤、高分子樹脂への添加剤(改質剤)等の用途にも有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のブロック共重合体の製造法では、まずRAFT剤の存在下にカチオン重合可能なビニル系モノマーをリビングカチオン重合させてリビングポリマーを得る。得られるリビングポリマーは、ポリマー鎖末端にRAFT剤由来の官能基を有する。
【0014】
本発明で用いるRAFT剤としては、ルイス酸に対する安定性の点から、次の一般式(1)
【0015】
【化1】

【0016】
(式中、R1は2価の炭化水素基又はシアノ基を有する2価の炭化水素基を示し、R2は炭化水素基を示す)で表されるトリチオカーボネートが好ましい。
【0017】
一般式(1)において、R1で示される2価の炭化水素基としては、炭素数1〜20の直鎖、分岐鎖又は環状の飽和又は不飽和の炭化水素基が挙げられるが、炭素数1〜20、さらに炭素数1〜10、さらに炭素数1〜7、さらに炭素数1〜4の飽和炭化水素基が好ましい。具体的には、例えば、ジメチルメチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基などの炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基が挙げられる。また、シアノ基を有する2価の炭化水素企基としては、これらの炭化水素基に1〜3個のシアノ基が置換した2価の炭化水素基が挙げられる。
【0018】
一般式(1)において、R2で示される炭化水素基としては、炭素数1〜20の直鎖、分岐鎖又は環状の飽和又は不飽和の炭化水素基が挙げられるが、このうち、炭素数1〜20、さらに炭素数1〜12の炭化水素基が好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、シクロヘキシル基、ドデシル基、オクタデシル基等の炭素数1〜12の直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基;ベンジル基など、フェネチル基などの総炭素数7〜10のアリールアルキル基が挙げられる。
【0019】
このような構造を有するRAFT剤(トリチオカーボネート)は、求核置換反応によって容易に製造することができる。具体的には、例えば、R2−SH(R2は前記と同じ)で表されるチオールを、水性塩基、二硫化炭素、及びHOOC−R1−X(式中、Xは塩素、臭素又はヨウ素であり、R1は前記と同じ)で表されるアルキル化剤と順次反応させることにより、所望の構造を有するトリチオカーボネートを得ることができる。水性塩基は、任意のアルカリ金属水酸化物を使用でき、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましい。チオールR2−SH及びハロ化合物HOOC−R1−Xは、多くは商業的に入手可能である。商業的に入手可能できないものも、公知の技術によって容易に合成することができる。
【0020】
RAFT剤の使用量は、必ずカチオン重合可能なビニル系モノマーよりも少なく、カチオン重合可能なビニル系モノマー1モルに対して0.001モル以上1モル未満であるのが好ましい。
【0021】
カチオン重合に用いられるモノマーは、カチオン重合可能なビニル系モノマーであれば特に限定されないが、アルケニルエーテル、インデン、N−ビニルカルバゾール、スチレン類が挙げられる。好適には、スチレン、メトキシスチレン(o、m、p体)、メチルスチレン(o、m、p体)、クロロスチレン(o、m、p体)等のスチレン類及び一般式(2)
【0022】
CHR3=CH(OR4) (2)
【0023】
(式中、R3は、水素原子、メチル基又はエチル基を示し、R4は、ケイ素又は15族から17族の元素のうち少なくとも一つの原子を含んでいてもよい1価の有機基を示す)で示されるアルケニルエーテルが好ましく使用される。
【0024】
一般式(2)中、R4で示される1価の有機基の基本骨格としては、炭素数1〜24の直鎖、分岐鎖又は環状の飽和又は不飽和の炭化水素基が挙げられる。また、15族から17族の元素としては、酸素、窒素、リン、イオウ、ハロゲン等が挙げられ、さらに酸素、窒素、イオウ、ハロゲンが好ましく、特に酸素、ハロゲンが好ましい。酸素を含む置換基としては、炭素数1〜12のアルコキシ基が好ましい。ケイ素を含む置換基としては、アルキルシリル基、ジアルキルシリル基、トリアルキルシリル基が挙げられる。ハロゲンとしてはフッ素が特に好ましい。
【0025】
4の好ましい例としては、フッ素原子又はアルコキシ基が置換していてもよい、炭素数1〜24の直鎖、分岐鎖又は環状の飽和又は不飽和炭化水素基が好ましい。ここで、炭化水素基としては、炭素数1〜12の直鎖又は分岐鎖のアルキル基、炭素数5〜12のシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数6〜14のアリールアルキル基が好ましい。
【0026】
一般式(2)においてR4で示される1価の有機基としては、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖アルキル基、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖アルキル基であって全部又は一部の水素がフッ素に置換されたフルオロアルキル基、炭素数2〜6のアルコキシアルキル基、炭素数5〜10のシクロアルキル基又は
【0027】
−(CH2m−Y
【0028】
(ここで、mは0、1、2又は3であり、Yは未置換のフェニル基、又は、一つ又はそれ以上の炭素数1〜4の直鎖又は分岐鎖アルキル基、1〜4の直鎖又は分岐鎖アルキル基であって全部又は一部の水素がフッ素に置換されたフルオロアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基又はハロゲン原子によって置換されたフェニル基である。)で表されるアリール基又はアリールアルキル基を挙げることができる。
具体的には、炭素数1〜6の直鎖又は分岐鎖アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、n−アミル基、イソアミル基等が挙げられ、炭素数1〜6のフルオロアルキル基としてはトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基などが挙げられ、炭素数2〜6のアルコキシアルキル基としてはメトキシ基メチル基、エトキシメチル基、2−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基、2−テトラヒドロピラニル基、2−テトラヒドロフラニル基等が挙げられ、炭素数5〜10のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル基、ビシクロ[2.2.2]オクチル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル基、アダマンチル基などが挙げられ、アリール基としてはフェニル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、フルオロフェニル基、トリフルオロメチルフェニル基等が挙げられ、アリールアルキル基としてはベンジル基、メチルベンジル基、エチルベンジル基、メトキシベンジル基、エトキシベンジル基、フルオロベンジル基、トリフルオロメチルベンジル基等が挙げられる。
【0029】
上述した一般式(2)で示されるアルケニルエーテルの具体例として、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、sec−ブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、n−アミルビニルエーテル、イソアミルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類;トリフルオロメチルビニルエーテル、ペンタフルオロエチルビニルエーテル、2,2,2−トリフルオロエチルビニルエーテル等のフルオロアルキルビニルエーテル類;2−メトキシエチルビニルエーテル、2−エトキシエチルビニルエーテル、2−テトラヒドロピラニルビニルエーテル、2−テトラヒドロフラニルビニルエーテル等のアルコキシアルキルビニルエーテル類;シクロペンチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、シクロヘプチルビニルエーテル、シクロオクチルビニルエーテル、2−ビシクロ[2.2.1]ヘプチルビニルエーテル、2−ビシクロ[2.2.2]オクチルビニルエーテル、8−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニルビニルエーテル、1−アダマンチルビニルエーテル、2−アダマンチルビニルエーテル等のシクロアルキルビニルエーテル類;フェニルビニルエーテル、4−メチルフェニルビニルエーテル、4−トリフルオロメチルフェニルビニルエーテル、4−フルオロフェニルビニルエーテル等のアリールビニルエーテル類;ベンジルビニルエーテル、4−フルオロベンジルビニルエーテル等のアリールアルキルビニルエーテル類等が挙げられる。この中でも特に、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、sec−ブチルビニルエーテル、tert−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、n−アミルビニルエーテル、イソアミルビニルエーテル等の低級アルキルビニルエーテル類を好ましく用いることができる。
【0030】
カチオン重合性可能なビニル系モノマーは、上記モノマーの中から1種類を選んで使用してもよいし、2種以上を混合して用いても良い。
【0031】
リビングカチオン重合は、ルイス酸の存在下に行うのが好ましく、さらにルイス酸及びルイス塩基の存在下に行うのが好ましい。
【0032】
本発明に用いられるルイス酸としては、マグネシウム、ホウ素、アルミニウム、シリコン、リンさらには第4周期以降の元素のハロゲン化物、又はこれら元素の有機金属化合物を挙げることができる。特に好ましくは、SnBr4及びZnCl2が挙げられる。これらの触媒はRAFT剤から重合を開始した後、RAFT剤由来の対アニオンを重合停止時に生長末端に戻すことが可能なルイス酸であるため、最も適している。上述のルイス酸の使用量としては、RAFT剤1モルに対して0.001〜1モルであるのが好ましい。
【0033】
本発明に用いられるルイス塩基としては、エーテル化合物類、カルボニル基含有化合物類が代表的であり、例えばテトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、エステル、酸無水物、ケトン、イミド、2,6−ジ−tert−ブチルピリジン等が挙げられる。エステルとしては酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸フェニル、酪酸エチル、クロル酢酸エチル、ステアリン酸エチル、安息香酸エチル、安息香酸フェニル、フタル酸ジエチル、イソフタル酸ジエチル等、酸無水物としては無水酢酸等、ケトンとしてはアセトン、メチルエチルケトン等、イミドとしてはエチルフタルイミド等を挙げることができる。これらのなかでも、ジオキサン、2,6−ジ−tert−ブチルピリジン、酢酸エチルが特に好ましく使用される。ルイス塩基の使用量としては、カチオン重合可能なビニル系モノマー1モルに対して0.01〜100モルであるのが好ましい。
【0034】
また、リビングカチオン重合は、溶媒の存在下で行ってもよい。溶媒は、反応に不活性なものであれば、特に限定されず、例えば、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、塩化メチル、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素、ニトロメタン、ニトロエタン等のニトロ化合物、へキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン等の飽和炭化水素等、又はこれらの混合溶媒が挙げられるが、中でも、ヘキサン及びトルエンが好ましく使用される。
【0035】
リビングカチオン重合の温度は、通常、−120〜100℃の間、好ましくは−80〜30℃の間である。重合時間は特に限定されず、カチオン重合可能なビニル系モノマーやRAFT剤の種類や使用量等により調製できる。リビングカチオン重合により目的のカチオン重合可能なビニル系モノマーのリビングポリマーが得られた後に、反応液を0℃以下の低温にし、アルコール又は水を加え、平衡を移動させることで、重合を停止することができる。
【0036】
重合停止に用いるアルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブタノール等であり、中でもメタールが好んで使用される。重合停止剤の使用量はルイス酸1モルに対して、1モル〜100モル使用するのが好ましい。
【0037】
このようにして重合することにより、カチオン重合終了時に、式(1)のRAFT剤由来の官能基を末端に有するカチオン重合可能なビニル系モノマーのリビングポリマーが得られる。当該官能基は、式(1−A)
【0038】
【化2】

【0039】
(式中、R1及びR2は前記と同じ)
で表すことができる。
【0040】
本発明では、次に、得られたカチオン重合可能なビニル系モノマーからのリビングポリマー(A)から、リビングラジカル重合を行い、ラジカル重合可能なビニル系モノマー重合させる。ラジカル重合可能なビニル系モノマーをリビングポリマー(A)からリビングラジカル重合させて合成する工程は、リビングポリマー(A)にラジカル重合可能なビニル系モノマー及びラジカル重合開始剤を加え、加温することで達成される。
【0041】
ラジカル重合可能なビニル系モノマーは、ラジカル重合可能なものであれば特に限定されないが、一般式(3)
【0042】
CR56=CR78 (3)
【0043】
(式中、R5、R6及びR7は、同一又は異なり、水素原子又はハロゲン置換もしくは非置換の低級アルキルを示し、R8は有機基を示す)で示される。具体的には、スチレン及びスチレン誘導体、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸誘導体、(メタ)アクリルアミド及び(メタ)アクリルアミド誘導体、(メタ)アクリロニトリル、イソプレン、1,3−ブタジエン、エチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。なかでも、スチレン及びスチレン誘導体、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸誘導体、(メタ)アクリルアミド及び(メタ)アクリルアミド誘導体が好ましい。
【0044】
スチレン及びその誘導体としては、具体的には、スチレン、tert−ブチルスチレン(o、m、p体)、tert−ブトキシスチレン(o、m、p体)、アセトキシスチレン(o、m、p体)、ヒドロキシスチレン(o、m、p体)、イソプロペニルフェノール(o、m、p体)、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、クロルスチレン(o、m、p体)、スチレンスルホン酸(o、m、p体)及びその塩等が挙げられる。これらの中でも、スチレン、tert−ブチルスチレン、tert−ブトキシスチレンがより好ましく使用される。
【0045】
(メタ)アクリル酸及びその誘導体としては、具体的には、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ペンチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸n−ヘプチル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸3−メトキシブチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2−アミノエチル、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2−トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチル、(メタ)アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロメチル−2−パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロデシルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロヘキサデシルエチル等が挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル等がより好ましく使用される。
【0046】
(メタ)アクリルアミド及びその誘導体としては、(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−n−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−tert−ブチル(メタ)アクリルアミド等のN−アルキル(メタ)アクリルアミド;N,N−ジメチルアクリルアミド等のN,N−ジアルキルアクリルアミド等が挙げられ、なかでもN−イソプロピル(メタ)アクリルアミド等がより好ましく使用される。
【0047】
ラジカル重合可能なビニル系モノマーは、上記モノマーの中から1種類を選んで使用してもよいし、2種以上を混合して用いても良い。
【0048】
ラジカル重合開始剤としては、任意の適切なラジカル重合開始剤を採用し得る。好ましくは、熱によりラジカルを発生する開始剤である。このようなラジカル重合開始剤として代表的なものとして、種々のアゾ化合物及び有機過酸化物を挙げることができる。
【0049】
アゾ化合物としては、具体的には、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)などの2,2’−アゾビスブチロニトリル類;2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2、4−ジメチルバレロニトリル)などの2,2’−アゾビスバレロニトリル類;2,2’−アゾビス(2−ヒドロキシメチルプロピオニトリル)などの2,2’−アゾビスプロピオニトリル類;1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)などの1,1’−アゾビス−1−アルカンニトリル類;2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル等を挙げることができる。
【0050】
有機過酸化物としては、具体的には、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、α,α’−ビス(t−ブチルパーオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3などのジアルキルパーオキサイド類;t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシアセテート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサンなどのパーオキシエステル類;シクロヘキサノンパーオキサイド、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノンパーオキサイド、メチルシクロヘキサノンパーオキサイドなどのケトンパーオキサイド類;2,2−ビス(4,4−ジ−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレートなどのパーオキシケタール類;クメンヒドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチルシクロヘキサン−2,5−ジハイドロパーオキサイドなどのハイドロパーオキサイド類;ベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイドなどのジアシルパーオキサイド類;ビス(t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートなどのパーオキシジカーボネート類等を挙げることができる。
【0051】
これらの中でも、入手と取り扱いが容易なのはAIBNである。
【0052】
本発明に係わるリビングラジカル重合を行うに当たり、溶媒を使用してもしなくても良い。使用できる溶媒としては、重合反応を阻害しないものでなければ何れでも使用することができるが、例えば、ベンゼン、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン及びデカン等の脂肪族炭化水素系溶媒、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン及びデカヒドロナフタレンのような脂環族炭化水素系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素及びテトラクロルエチレン等の塩素化炭化水素系溶媒、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール及びtert−ブタノールなどのアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;酢酸エチル及びジメチルフタレート等のエステル系溶媒、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジ−n−アミルエーテル、テトラヒドロフラン及びジオキシアニソールのようなエーテル系溶媒等をあげることができる。また、水を溶媒とすることもできる。これらの溶媒は、単独もしくは2種以上を混合して使用してもよい。
【0053】
リビングラジカル重合反応の反応温度は、好ましくは20〜120℃であり、より好ましくは40〜100℃である。上記反応の反応時間は、試薬量、反応温度によって異なるが、好ましくは2〜50時間であり、より好ましくは2〜24時間である。
【0054】
反応混合物からのブロック共重合体の回収は、重合の反応温度を下げること等で重合を停止させた後、反応混合物から揮発分を留去する方法、又は大量の貧溶媒を添加し、ポリマーを沈殿させ分離する方法、又は水溶性ポリマーの場合は、水中での透析等にて行われる。
【0055】
本発明の製造法により製造されるブロック共重合体の数平均分子量は、RAFT剤と加えたモノマーの比率にもよるが、1,000〜5,000,000であるのが好ましく、さらには2,000〜3,000,000であるのが好ましい。
【0056】
本発明の製造法により得られるブロック共重合体は、高分子界面活性剤、インキ、熱可塑性エラストマー、塗料、接着剤、高分子樹脂への添加剤(改質剤)等の用途にも有用である。また、本発明の製造法を用いることで、様々なカチオン重合性モノマーとラジカル重合性モノマーのブロック共重合体を提供できる。
【実施例】
【0057】
以下に、実施例により本発明を一層詳細に説明する。
【0058】
合成例1 [S−1−ドデシル−S’−(R,R’−ジメチル−R”−酢酸)トリチオカーボネート(RAFT−1)の合成]
RAFT−1を以下に示す反応式に従い、下記の手順で合成した。
【0059】
【化3】

【0060】
還流管を取り付けたフラスコに、1−ドデカンチオール80.8gとアセトン192.5gとトリカプリルメチルアンモニウムクロリド6.5gを10℃、窒素雰囲気下で攪拌した。その反応混合物の中に、50質量%水酸化ナトリウム水溶液を33.5g加え、30分程度攪拌した。次に、その攪拌を続けている状態のフラスコに、アセトン40.3gに溶解した二硫化炭素30.4gを約20分かけてゆっくり滴下して加え、反応混合物の色が赤色に変化するのを確認した。さらに10分後、クロロホルムを71.3gを加え、50質量%の水酸化ナトリム水溶液160gを約30分かけて滴下し、攪拌しながら一昼夜反応させた。得られた反応混合物を600mLの水に溶解させ、100mLの濃塩酸を加え攪拌した後、さらに1000mLの2−プロパノール溶液を加え、溶液に溶けない固体部分と溶解した溶液部分をブフナーロートにて分けた。その分けられた溶液部分をエバポレートし、得られた粉末をヘキサンにて再結晶し、黄色い粉末を得た(収量約90g)。得られた黄色粉末について1H−NMR測定(装置名:JEOL AL−300、以降の実施例でも同じ)及びIR分析(装置名:JASCO FT−IR−260、以降の実施例でも同じ)を行い、目的物であるRAFT−1と同定した。これらの分析結果について下記に示す。
【0061】
1H−NMR[CDCl3](ppm):a:13.05(s、1H)、b:1.75(s、6H)、c:0.99(t、3H)、1.37−1.47(m、20H)、3.42(t、2H)
【0062】
IR[KBr錠剤法](cm-1):1725、1075等
【0063】
合成例2 [3−ベンジルスルファニルチオカルボニルスルファニルプロピオン酸(RAFT−2)の合成]
RAFT−2を以下に示す反応式に従い、下記の手順で合成した。
【0064】
【化4】

【0065】
還流管を取り付けたフラスコに中で、水酸化カリウム26gを水250mLに溶解させた。そのフラスコに、室温でメルカプトプロピオン酸20mLをその中に加え十分攪拌した。引き続きそのフラスコ中に二硫化炭素30mLを30分間かけて滴下しながら加え、5時間攪拌を続けた。その後、ベンジルブロマイドを39.6g加え、80℃まで加熱し、約12時間還流させた。反応終了後、フラスコを室温になるまで放置、冷却し、クロロホルム約300mLで希釈し、反応物が溶解したクロロホルム溶液の色が黄色くなるまで塩酸を加えた。そのクロロホルム層を水で洗浄し、無水硫酸マグネシウム上で一晩予備乾燥した。クロロホルムをエバポレーターで留去後、ヘキサンと酢酸エチルの体積比が3:1の混合溶液にてシリカゲルカラムにてカラム分離し、シリカゲルカラムに吸着した生成物をクロロホルムによって洗浄し、その洗浄液を濾過した後、その濾液のクロロホルム溶液をエバポレートし、黄色い粉末を得た(収量約56g)。得られた黄色粉末について1H−NMR測定及びIR分析を行い、目的物であるRAFT−2と同定した。
【0066】
1H−NMR[CDCl3](ppm):a:10.1(b、1H)、b:2.84(t、2H)、c:3.62(t、2H)、d:4.61(s、2H)、e:7.27(m、5H)
【0067】
IR[NaCl錠剤法](cm-1):1700、1492、1451、1243、1068等
【0068】
実施例1 [RAFT−1からのイソブチルビニルエーテルのリビングカチオン重合]
合成例1で得られたRAFT−1を0.40gとり、5.08mLのトルエンに溶解し、その溶液1.0mLをさらにトルエン3.0mLに溶解させ、RAFT−1トルエン溶液(200mmol/l)を調製した。トルエン14.0mL、1,4−ジオキサン0.25mL、イソブチルビニルエーテル2.0mL、先に調製したRAFT−1のトルエン溶液(200mmol/l)2.0mLをこの順で三方活栓付フラスコに窒素下で加え、そこから三方活栓付試験管3本に其々4.5mLずつ小分けし、0℃に冷却した(これをAとする)。1.0mol/lの四臭化すず0.1mLをトルエン20mLで希釈した溶液(5.0mmol/l)を0℃に冷却した(これをBとする)。AにBを0.5mLずつ加え、激しく攪拌し、それぞれ1時間、2時間、3時間後に−30℃以下に冷却しながらメタノールを加え重合を停止した。得られた反応混合物を水で洗浄し、触媒残渣を除去した。得られた固体を減圧下で乾燥し、重合体を得た。重合体にはRAFT剤由来の末端が50モル%以上の官能基度で導入されていることが1H−NMRより確認され、下記式(4)のように構造が推定された。
【0069】
【化5】

【0070】
(式中、nは各構造単位の繰返し数を表す)
【0071】
イソブチルビニルエーテルの転化率は、反応時間1時間で得られた重合体(PIBVE−1)で23.3%、2時間で得られた重合体(PIBVE−2)で35.2%、3時間で得られた重合体(PIBVE−3)で46.8%であった。また、得られた重合体の数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を、有機溶媒のゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定した。その結果、PIBVE−1(反応時間1時間)でMn=3200、Mw/Mn=2.4、PIBVE−2(反応時間2時間)でMn=5600、Mw/Mn=2.0、PIBVE−3(反応時間3時間)でMn=8500、Mw/Mn=1.4であった。
【0072】
なお、有機溶媒のゲルパーミエーションクマトグラフィーは、以下の条件で分析を行った(以下、全て同条件で分析を行った)。
検出器:RI及びUV
カラム:TSKgelG−MHHR−M(東ソー株式会社製)3本を直列でつないだ。
カラムオーブン:38℃
展開溶媒:テトラヒドロフラン、流速1.0mL/分
内部標準物質:ポリスチレン
【0073】
実施例2 [RAFT−1によるポリイソブチルビニルエーテル−ポリアクリル酸エチルのブロック共重合体の合成]
実施例1で得られた3種類のポリイソブチルビニルエーテル(PBIVE;PIBVE−1、PIBVE−2、PIBVE−3)各々を、アクリル酸エチル(EA)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)と共に三方活栓付試験管に入れ、トルエンを加えて3.0mLに調製した。この時の各モル濃度比は、[PIBVE]:[EA]:[AIBN]=1:200:0.3とした。その試験管を脱気した後、窒素下70℃で重合した。5時間後、液体窒素で反応溶液を冷却して重合をそれぞれ停止した。PIBVE−1、PIBVE−2、PIBVE−3との反応におけるEAの転化率はそれぞれ67.4%、57.2%、50.8%であり、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)はそれぞれMn=14700(Mw/Mn=2.0)、Mn=12000(Mw/Mn=1.5)、Mn=16100(Mw/Mn=1.3)であった。また、ブロック共重合体の構造は1H−NMRなどを用いて下記式(5)のように決定した。
【0074】
【化6】

【0075】
(式中、n及びmは各構造単位の繰返し数を表す)
【0076】
図1に、実施例1で得られたPIBVE−3と、実施例2で得られたPIBVE−3とAEのブロック共重合体の分子量分布を示した。また、図2に、実施例2で得られたPIBVE−3とAEのブロック共重合体の1H−NMR[CDCl3]の結果を示した。
【0077】
実施例3 [RAFT−1によるポリ2−メトキシエチルビニルエーテルとポリN−イソプロピルアクリルアミドのブロック共重合体の合成]
トルエン13.95mL、1,4−ジオキサン14.0mL、2−メトキシエチルビニルエーテル1.8mL、実施例1で調製したRAFT−1トルエン溶液(200mmol/l)2.0mLをこの順で、三方活栓付フラスコに窒素下で加え、そこから三方活栓付試験管3本にそれぞれ4.5mLずつ小分けし、0℃に冷却した(これをCとする)。1.0mol/lの四臭化すず0.1mLをトルエン20mLで希釈した溶液(5.0mmol/l)を0℃に冷却した(これをDとする)。CにDを0.5mLずつ加え、激しく攪拌し、それぞれ15分、35分、265分後に−30℃以下に冷却しながらメタノールを加え重合を停止した。得られた反応混合物を水で洗浄し、触媒残渣を除去した。得られた固体を減圧下で乾燥し、重合体を得た。重合体にはRAFT由来の末端が50モル%以上の官能基度で導入されていることが1H−NMRより確認され、2−メトキシエチルビニルエーテルの転化率は、反応時間15分で23.3%、35分で35.2%、265分で46.8%であった。得られた重合体の数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)は、反応時間15分でMn=3600、Mw/Mn=2.2、35分でMn=3700、Mw/Mn=2.2、265分でMn=7000、Mw/Mn=1.6であった。
【0078】
次に、三方活栓付試験管中で、265分で得られたポリ2−メトキシエチルビニルエーテル0.28g、AIBN1.1mg、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)0.51gをトルエン2.14mLに溶解し、その試験管を脱気した後、窒素下70℃で重合した。5時間後、液体窒素で反応溶液を冷却して重合を其々停止した。得られたポリマーは、溶媒をエバポレートした後、常温で水に溶解し、透析を行った。NIPAMの転化率は、透析後の重量変化より、94.5%であった。また、ブロック共重合体の構造は1H−NMRなどを用いて下記式(6)のように決定した。
【0079】
【化7】

【0080】
(式中、n及びmは各構造単位の繰返し数を表す)
【0081】
図3に、実施例3で得られたポリ2−メトキシエチルビニルエーテルとポリN−イソプロピルアクリルアミドのブロック共重合体の1H−NMR[D2O、25℃]の結果を示した。
【0082】
実施例4 [RAFT−2からのイソブチルビニルエーテルのリビングカチオン重合(1)]
合成例2で得られたRAFT−2を0.3gとり、5.2mLのトルエンに溶解し、その溶液1.0mLをさらにトルエン3.0mLに溶解させ、RAFT−2トルエン溶液(200mmol/l)を調製した。トルエン14.0mL、1,4−ジオキサン0.25mL、イソブチルビニルエーテル2.0mL、RAFT−2トルエン溶液(200mmol/l)を2.0mLをこの順で、三方活栓付フラスコに窒素下で加え、そこから三方活栓付試験管3本にそれぞれ4.5mLずつ小分けし、0℃に冷却した(これをEとする)。1.0mol/lの四臭化すず0.1mLをトルエン20mLで希釈した溶液(5.0mmol/l)を0℃に冷却した(これをFとする)。EにFを0.5mLずつ加え、激しく攪拌し、それぞれ1時間、2時間、3時間後に−30℃以下に冷却しながらメタノールを加え重合を停止した。得られた反応混合物を水で洗浄し、触媒残渣を除去した。得られた固体を減圧下で乾燥し、重合体を得た。重合体にはRAFT剤由来の末端が50モル%以上の官能基度で導入されていることが1H−NMRより確認され、下記式(7)のように構造が推定された。
【0083】
【化8】

【0084】
(式中、nは各構造単位の繰返し数を表す)
【0085】
イソブチルビニルエーテルの転化率は、反応時間1時間で得られた重合体(PIBVE−1’)で15.6%、2時間で得られた重合体(PIBVE−2’)で22.5%、3時間で得られた重合体(PIBVE−3’)で30.7%であった。また、得られた重合体の数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を、有機溶媒のゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定した。その結果、PIBVE−1’(反応時間1時間)でMn=2400、Mw/Mn=1.4、PIBVE−2’(反応時間2時間)でMn=3500、Mw/Mn=1.4、PIBVE−3’(反応時間3時間)でMn=3900、Mw/Mn=1.4であった。
【0086】
実施例5 [RAFT−2からのイソブチルビニルエーテルのリビングカチオン重合(2)]
トルエン11.0mL、2,6−ジtert−ブチルピリジンのトルエン溶液(1mmol/l)3.0mL、イソブチルビニルエーテル2.0mL、実施例4で調製したRAFT−2トルエン溶液(200mmol/l)を2.0mLをこの順で、三方活栓付フラスコに窒素下で加え、そこから三方活栓付試験管3本にそれぞれ4.5mLずつ小分けし、0℃に冷却した(これをGとする)。1.0mmol/lの四臭化すず0.1mLをトルエン20mLで希釈した溶液(5.0mmol/l)を0℃に冷却した(これをHとする)。GにHを0.5mLずつ加え、激しく攪拌し、それぞれ1時間、3時間、12時間後に−30℃以下に冷却しながらメタノールを加え重合を停止した。得られた反応混合物を水で洗浄し、触媒残渣を除去した。得られた固体を減圧下で乾燥し、重合体を得た。重合体にはRAFT由来の末端が70モル%以上の官能基度で導入されていることが1H−NMRより確認され、実施例3と同じ構造の重合体が推定された。イソブチルビニルエーテルの転化率は、反応時間1時間で得られた重合体(PIBVE−1”)で9.0%、3時間で得られた重合体(PIBVE−2”)で17.3%、12時間で得られた重合体(PIBVE−3”)で32.9%であった。また、得られた重合体の数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)は、PIBVE−1”(反応時間1時間)でMn=1300、Mw/Mn=1.3、PIBVE−2”(反応時間3時間)でMn=2300、Mw/Mn=1.3、PIBVE−3”(反応時間12時間)でMn=8400、Mw/Mn=1.1であった。
【0087】
実施例6 [RAFT−2によるポリイソブチルビニルエーテルとポリスチレンのブロック共重合体の合成]
実施例5で得られたポリイソブチルビニルエーテル(PIBVE−3”)とスチレン(ST)とAIBNを三方活栓付試験管に入れ、トルエンを加えて3.0mLに調製した。この時の各モル濃度比は、[PIBVE−3”]:[St]:[AIBN]=1:300:1とした。その試験管を脱気した後、窒素下70℃で重合した。12時間後、液体窒素で反応溶液を冷却して重合を停止した。Stの転化率は、20%であり、得られた重合体の数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)は、Mn=1000、Mw/Mn=1.2であった。また、構造は1H−NMRなどを用いて下記式(8)のように決定した。
【0088】
【化9】

【0089】
(式中、n及びmは各構造単位の繰返し数を表す)
【0090】
図4に、実施例5で得られたPIBVE−3”及び実施例6で得られたPIBVE−3”とStのブロック共重合の分子量分布を示した。また、図5に実施例6で得られたPIBVE−3”とStのブロック共重合体の1H−NMR[CDCl3]の結果を示した。
【0091】
実施例7 [RAFT−2によるポリイソブチルビニルエーテルとポリp−tert−ブトキシスチレンのブロック共重合体の合成]
実施例5で得られたポリイソブチルビニルエーテル(PIBVE−2”)とp−tert−ブトキシスチレン(tBOS)とAIBNを三方活栓付試験管に入れ、トルエンを加えて3.0mLに調製した。この時の各モル濃度比は、[PIBVE−1”]:[tBOS]:[AIBN]=1:200:0.2とした。その試験管を脱気した後、窒素下70℃で重合した。18時間後、液体窒素で反応溶液を冷却して重合を停止した。tBOSの転化率は20%であり、得られた重合体の数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)は、Mn=6300、Mw/Mn=1.4であった。また、構造は1H−NMRなどを用いて下記式(9)のように決定した。
【0092】
【化10】

【0093】
(式中、n及びmは各構造単位の繰返し数を表す)
【0094】
図6に、実施例5で得られたPIBVE−1”及び実施例7で得られたPIBVE−1”とtBOSのブロック共重合の分子量分布を示した。また、図7に実施例7で得られたPIBVE−1”とtBOSのブロック共重合体の1H−NMR[CDCl3]の結果を示した。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】実施例1で得られたポリイソブチルビニルエーテル(PIBVE−3)と、実施例2で得られたポリイソブチルビニルエーテルとポリアクリル酸エチルとのブロック共重合体の分子量分布を示す図である。
【図2】実施例2で得られたポリイソブチルビニルエーテルとポリアクリル酸エチルとのブロック共重合体の1H−NMR分析の測定結果を示す図である。
【図3】実施例3で得られたポリ2−メトキシエチルビニルエーテルとポリN−イソプロピルアクリルアミドのブロック共重合体の1H−NMR分析の測定結果を示す図である。
【図4】実施例5で得られたポリイソブチルビニルエーテル(PIBVE−3”)と、実施例6で得られたポリイソブチルビニルエーテルとポリスチレンのブロック共重合の分子量分布を示す図である。
【図5】実施例6で得られたポリイソブチルビニルエーテルとポリスチレンのブロック共重合の1H−NMR分析の測定結果を示す図である。
【図6】実施例5で得られたポリイソブチルビニルエーテル(PIBVE−1”)と、実施例7で得られたポリイソブチルビニルエーテルとポリp−tert−ブトキシスチレンのブロック共重合の分子量分布を示す図である。
【図7】実施例7で得られたポリイソブチルビニルエーテルとポリp−tert−ブトキシスチレンのブロック共重合の1H−NMR分析の測定結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RAFT剤の存在下にカチオン重合可能なビニル系モノマーをリビングカチオン重合させ、得られたリビングポリマーにラジカル重合可能なビニル系モノマーをリビングラジカル重合させることを特徴とする、該カチオン重合可能なビニル系モノマーと該ラジカル重合可能なビニル系モノマーとのブロック共重合体の製造法。
【請求項2】
RAFT剤が、下記一般式(1)
【化1】

(式中、R1は2価の炭化水素基又はシアノ基を有する2価の炭化水素基を示し、R2は炭化水素基を示す)で表されるトリチオカーボネートである請求項1記載のブロック共重合体の製造法。
【請求項3】
カチオン重合可能なビニル系モノマーが、アルケニルエーテルである請求項1又は2記載のブロック共重合体の製造法。
【請求項4】
ラジカル重合可能なビニル系モノマーが、スチレン、スチレン誘導体、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸誘導体、(メタ)アクリルアミド及び(メタ)アクリルアミド誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか1項記載のブロック共重合体の製造法。
【請求項5】
リビングカチオン重合を、ルイス酸の存在下に行う請求項1〜4のいずれか1項記載のブロック共重合体の製造法。
【請求項6】
RAFT剤の存在下にカチオン重合可能なビニル系モノマーをリビングカチオン重合させて得られる、ポリマー鎖末端にRAFT剤由来の官能基を有する重合体。
【請求項7】
ポリマー鎖末端のRAFT剤由来の官能基が、式(1−A)
【化2】

(式中、R1は2価の炭化水素基又はシアノ基を有する2価の炭化水素基を示し、R2は炭化水素基を示す)で表されるトリチオカーボネート基である請求項6記載の重合体。
【請求項8】
カチオン重合可能なビニル系モノマーが、アルケニルエーテルである請求項6又は7記載の重合体。
【請求項9】
カチオン重合可能なビニル系モノマーが、一般式(2)
CHR3=CH(OR4) (2)
(式中、R3は、水素原子、メチル基又はエチル基を示し、R4は、ケイ素又は15族から17族の元素のうち少なくとも一つの原子を含んでいてもよい1価の有機基を示す)で表されるアルケニルエーテルである請求項6〜8のいずれか1項記載の重合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−59231(P2010−59231A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−223426(P2008−223426)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【出願人】(000157603)丸善石油化学株式会社 (84)
【Fターム(参考)】