説明

ブーツ付光ファイバ

【課題】シングルモードとマルチモードとを共用でき、曲げ損失が小さく、対象となる装置に装着した際の収納スペースを小さくすることが可能なブーツ付光ファイバを提供すること。
【解決手段】本発明の一実施形態に係るブーツ付光ファイバ1000は、ダブルコア光ファイバ1001と、光コネクタ1002と、光コネクタ1002の接合部1006の対向する側から引き出されたダブルコア光ファイバ1001の一部を収納し、ダブルコア光ファイバ1001を曲げた際に該ダブルコア光ファイバ1001を所定の曲率半径で保持可能なブーツ1003とを備えている。また、ブーツ1003の露出している領域には、ブーツ1003の長さ方向と直交状にし、かつ該長さ方向に沿って2個で一対のスリット1004、1005が複数対形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブーツ付光ファイバに関し、より詳細には、シングルモード、およびマルチモードの両モードの光通信の接続が可能であり、かつ曲げ損失が小さく後端の光ファイバコードを小さく曲げることが可能で、収納性の高い光ブーツ付光ファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の光通信技術の進展により、高速で大容量の通信が可能になってきている。高速で大容量の通信網を構築する伝送媒体として光ファイバが注目されている。光ファイバは、企業はもちろんのこと、各家庭にまで導入され、ユーザは、多彩な通信サービスを受けることができる。こうした光通信においては、着脱可能な光ファイバの接続器として光ファイバコネクタが必要である。
【0003】
ここで、光ファイバの曲げによる影響を述べておく。光ファイバは曲げにより通信光が漏洩し伝送損失が生じる。特にシングルモード光ファイバでは曲げによる影響が大きい。シングルモード光通信に最も多く使用されている石英系ガラスシングルモード光ファイバであるJIS規格、型名SSMA−9.3/125(波長1310nmゼロ分散、モードフィールド径9.3μm、クラッド径125μm)では、曲率半径20mmで損失が発生するため、一般的に曲げ半径が20mm以下とならないようにしている。
【0004】
一方、マルチモード光通信に最も多く使用されている石英系ガラスマルチモード光ファイバであるJIS規格、型名SGI−50/125(コア径50μm、クラッド径125μm))は、比較的曲げ損失が小さく、曲げ半径10mm程度でも使用上問題ない。
【0005】
以上の光ファイバの曲げの影響を考慮して、従来の光ファイバコネクタは本体後部のブーツに工夫がなされている。特に、装置に対して光ファイバコネクタを水平に嵌合し、その後端から光ファイバコードが90°下に向って垂れ下がる場合を想定して工夫がなされている。
【0006】
図1は特許文献1に記載された、従来のSC形光ファイバコネクタの断面図である。
図1において、光ファイバコード5の一方端は、ブーツ2によって被覆され、かつ光コネクタ1に接続されている。このブーツ2の露出している領域には、ブーツ2の長さ方向と直交状にし、かつ該長さ方向に沿って2個で一対のスリット3、4が複数対形成されている。
【0007】
このように図1に示す、特許文献1に記載されたSC形光ファイバコネクタでは、ブーツ2に大きさを調整したスリット3、4を入れているので、図2に示すように、光ファイバコード外被切り裂き部7を含む光コネクタ1の後端では光ファイバが曲がらず、光ファイバ2が全体的に曲率半径20mmで曲がるような構造となっている。
【0008】
図3に示すような、スリットを有さない、旧来の単純な円錐形のブーツ8では、光ファイバコードに垂直に張力が加わった場合、光ファイバコードの外被を固定するためのかしめ金具9の後端で小さな曲率半径の屈曲が発生していた。しかしながら、図1のような構成にすることにより、かしめ金具6の後端を緩やかな角度で曲げることができ、曲率半径の小さな屈曲の発生を抑えることができる(特許文献1参照)。
【0009】
なお、図2、3においては、かしめ金具の内側にあるかしめ座に対して、光コードの外被を切り裂き広げて被せ、かしめ金具でかしめ固定してある。
【0010】
一方、図4は、従来のLC形光ファイバコネクタの側面図である。
図4において、符号41は光コネクタであり、符号42はブーツであり、符号43はチューブであり、符号44は光ファイバである。このLC形光ファイバコネクタでは、図5に示すように屈曲が生じやすい。図4に示すLC形光ファイバコネクタでは、ブーツ42が特に工夫されておらず、また、光ファイバコード44の外被を固定するために熱収縮チューブであるチューブ43を用いており、これらの境界面で屈曲が生じる。
【0011】
そこで図6(a)および(b)に示すように、予め曲率半径を決めて90°で下方に曲げられたブーツがある。図6(a)はシングルモード用の光ファイバコネクタであり、光ファイバコード44の曲率半径が20mmである。一方、図6(b)はマルチモード用の光ファイバコネクタであり、光ファイバコード44の曲率半径が10mmである。これによって、予め曲率半径が決められているので、曲げ損失がこれ以上増加することが無い。なお、図6(a)および(b)に示すようにブーツ45の屈曲カーブの内側は曲がり状態を維持するためのブーツ補強部46が設けられている(非特許文献1参照)。
【0012】
【特許文献1】特許第3361395号明細書
【非特許文献1】“LC DUPLEX CONNECTOR (90° BOOT)”、インターネット<URL:http://www.molex.com/pdm_docs/sd/860253400_sd.pdf)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
さて、特許文献1では、ブーツ2を光コネクタ1からテーパ状に形成し、光コネクタ1側ではスリット3,4の深さを深くし、後端に向って徐々にスリット3,4の深さを浅くしているので、光ファイバコード5に荷重が加わった際に、ブーツ2の光コネクタ1側が曲がりにくくなり、後端に向けて曲がりやすいようになっている。従って、かしめ金具6の後端が緩やかに曲がるようになり、光ファイバコード5の光コネクタ1への接続部において、光の伝送損失を低減するようになっている。
【0014】
すなわち、特許文献1では、光ファイバコード5の光コネクタ1への接続部における伝送損失の低減を図ってスリットを形成しており、このスリットが形成されたブーツにより大きな曲率半径を得るものである。
【0015】
このように、光ファイバコネクタにおいては、光の伝送損失を抑えるために特許文献1に記載されているようにスリットをブーツに設ける形態が有力であるが、より利便性の高いものにするためには、まだ解決しなければならない課題が残されている。特に、特許文献1に記載されたSC形光コネクタのブーツ2は、伝送損失低減の観点から、全体として大きな曲率半径(シングルモードでは曲率半径20mm)を確保する必要があり、また、光コネクタ1の後端において直線を確保するために、半径20mmの90度円弧分の長さとなるようにブーツの全長が30mmと長くなっていた。このようにブーツの全長が長くなると、光ファイバコネクタを装着する装置内での収納スペースが大きくなってしまう。
【0016】
すなわち、特許文献1では、特許文献1の目的である「光ファイバコードと光コネクタとの接続部における光の伝送損失の低減」を実現するために、光ファイバの屈曲部において緩やかに曲げること、すなわち、曲率半径を大きくしている。よって、伝送損失を低減できるので有用であるが、近年望まれている「収納スペースのコンパクト化」という課題が残されている。
【0017】
ただし、特許文献1において、マルチモード用の光ファイバコネクタの場合は、曲げ半径(曲率半径)を小さく設定することができるので、ブーツの長さも小さくすることができ、収納スペースを小さくすることができる。しかしながら、該マルチモード用の光ファイバコネクタをシングルモード光ファイバに適用すると、想定されている曲率半径が小さいので、光ファイバコードを曲げると、光の伝送損失が起こってしまう。よって、シングルモード用の光ファイバコネクタとマルチモード用の光ファイバコネクタの双方を用意する必要があり、コストがかさんでしまう。
【0018】
さらに、光ファイバコネクタを装着する装置に、シングルモード光ファイバおよびマルチモード光ファイバの双方を接続する場合、収納スペースはシングルモード用の光ファイバコネクタを収納できるように設計する必要があり、結局、上述のように収納スペースのコンパクト化を図ることができない。
【0019】
一方、図6(a)および(b)に示したブーツ補強部46を備えるブーツ45では、光ファイバコード44の向きを90°曲げる場合専用となってしまい、直線状に接続する用途では使用できず、用途に制限がかかってしまう。また、この場合も、シングルモード用とマルチモード用とで2種類のブーツを用意する必要があり、コストがかさんでしまう。
【0020】
本発明は、このような問題を鑑みてなされたもので、その目的とするところは、シングルモードとマルチモードとを共用でき、曲げ損失が小さく、対象となる装置に装着した際の収納スペースを小さくすることが可能なブーツ付光ファイバを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、ブーツ付光ファイバであって、第1のコアおよび第2のコアを備える光ファイバと、前記光ファイバの一部を収納し、前記光ファイバを曲げた際の該光ファイバを所定の曲率半径に保持可能なブーツとを備え、前記光ファイバは、前記光ファイバの軸中心に配置された、第1の屈折率を有する第1の材料と、前記第1の材料の外周に配置された、前記第1の屈折率よりも小さい第2の屈折率を有する第2の材料と、前記第2の材料の外周に配置された、前記第2の屈折率よりも小さい第3の屈折率を有する第3の材料とを備え、前記第1の材料が前記第1のコアであり、前記第1の材料と前記第2の材料とが前記第2のコアであり、前記第2の材料が前記第1のコアに対する第1のクラッドであり、前記第3の材料が前記第2のコアに対する第2のクラッドであり、前記光ファイバは、第1の波長帯の光信号を用いて前記第1のコアのみ選択的に励振した際に、伝搬モードが規定モードのみとなるシングルモード特性を有し、且つ該規定モードのモードフィールド径は、前記第1の波長帯でシングルモード伝送可能なシングルモード光ファイバのモードフィールド径と等しく、前記第2のコアの直径は、第2の波長帯の光信号の伝送路として用いられるグレーデッドインデックス型マルチモードファイバ、あるいはステップインデックス型マルチモードファイバのコア直径と等しいことを特徴とする。
【0022】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記所定の曲率半径は、10mm以上、20mm未満であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、シングルモードとマルチモードとを共用でき、曲げ損失が小さく、対象となる装置に装着した際の収納スペースを小さくすることが可能なブーツ付光ファイバを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、以下で説明する図面で、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。
本発明の第1の目的は、光の伝送損失を低減しつつ、ブーツ付光ファイバを対象となる装置に装着した際の、ブーツ付光ファイバの収納スペースのコンパクト化である。すなわち、第1の目的を達成するために、収納スペースのコンパクト化を念頭において、曲げに強い(曲げても伝送損失が小さい)光ファイバを用いることが重要である。このような光ファイバとして、本実施形態では、ダブルコア光ファイバ(デュアルモード光ファイバ)を用いることが好ましい。
【0025】
ここで、ダブルコア光ファイバとは、シングルモード伝送用のコアと、マルチモード伝送用のコアとを同時に1つの光ファイバに備え、シングルモード信号光とマルチモード信号光とを、同一の光ファイバで伝送することを可能にする光ファイバを意味する。
【0026】
さて、光ファイバコネクタに接続するものとして、光ファイバ、光ファイバ素線、光ファイバ芯線、光ファイバコードと様々なものが挙げられるが、いずれの部材であっても、光伝送手段として光ファイバは少なくとも用いられる。従って、本明細書では、光ファイバ、光ファイバ素線、光ファイバ芯線、光ファイバコードを総じて、「光ファイバ」と呼ぶことにする。よって、ダブルコア光ファイバは、ダブルコア光ファイバ、ダブルコア光ファイバ素線、ダブルコア光ファイバ芯線、ダブルコア光ファイバコードが含まれる。
【0027】
本実施形態に係るダブルコア光ファイバにおけるシングルモード伝送用のコアは、光ファイバの最も内側にある、屈折率n1を有する第1の材料であって、長波長帯域の光信号を用いて上記コアのみ選択的に励振した際に、伝搬モードが規定モードのみとなるシングルモード特性を備え、且つ該規定モードのモードフィールド径は、上記長波長帯域でシングルモード伝送可能なシングルモード光ファイバのモードフィールド径と同じ値、または略同じ値である。すなわち、上記ダブルコア光ファイバのシングルモード伝送用のコアは、通常用いられる長波長帯シングルモード伝送用光ファイバの開口率を有しているのである。
【0028】
また、本実施形態に係るダブルコア光ファイバのマルチモード伝送用のコアは、シングルモード伝送用のコアである第1の材料と、該第1の材料を覆うように形成された、屈折率n1よりも小さな屈折率n2を有する第2の材料との組み合わせによって形成されるコアであって、そのコアの直径は、短波長帯域の光信号の伝送路として用いられるグレーデッドインデックス型マルチモードファイバ、あるいはステップインデックス型マルチモードファイバのコア直径と同じ値、または略同じ値である。すなわち、上記ダブルコア光ファイバのマルチモード伝送用のコアは、通常用いられる短波長帯マルチモード伝送用光ファイバの開口率を有しているのである。
【0029】
従って、本実施形態に係るダブルコア光ファイバを用いると、シングルモード光ファイバおよびマルチモード光ファイバ共に低ロスで接続することが可能になる。
【0030】
なお、上記第2の材料は、シングルモード伝送用のコアに対してはクラッドとして機能し、マルチモード伝送用のコアに対しては、第1の材料と共に、上記マルチモード伝送用のコアとして機能する。
【0031】
このようなマルチモード伝送用のコアを覆うように、マルチモード伝送用のコアに対するクラッドとしての第3の材料が形成されている。この第3の材料の屈折率n3は、第2の材料の屈折率n2よりも小さい。すなわち、第3の材料は、上記第1の材料および第2の材料からなるマルチモード伝送用のコアに対してクラッドとして機能するので、良好なマルチモード信号光伝送を実現できる。
【0032】
また、マルチモード伝送用のコアに含まれる第2の材料の周囲に、第2の材料よりも屈折率が小さな第3の材料を設けることによって、ダブルコア光ファイバを曲げたとしても、曲げの外周側に発生する、シングルモード信号光が導波する第1の材料よりも高い屈折率を有する領域の発生を軽減することができる。
【0033】
さらに、第2の材料よりも屈折率が小さな第3の材料を設けることによって、第2の材料から第3の材料への光の染み出しは抑制される。この染み出しの抑制効果は、第3の材料の周囲に、第3の材料の屈折率n3よりも小さな屈折率n4を有する第4の材料を設けることによって、より一層顕著になる。従って、第3の材料を覆うようにして第4の材料を形成することはより好ましい形態である。
【0034】
なお、第4の材料の屈折率を第3の材料の屈折率よりも小さくすることが望ましいが、ガラスファイバを保護する被覆材はガラスよりも屈折率が大きく、被覆材が第4の材料の位置に該当し、屈折率が第3の材料より高くなることが一般的である。しかし、第1〜第3の材料までの材料の配置で十分に上記染み出しの抑制効果がある。
【0035】
なお、本実施形態に係るダブルコア光ファイバでは、シングルモード信号光では長波長帯域の信号光を伝搬し、マルチモード信号光では短波長帯域の信号光を伝播することが本質ではない。同一の光ファイバにて、シングルモード信号光とマルチモード信号光とを伝送可能にすることが重要であって、シングルモード信号光およびマルチモード信号光として伝搬する信号光の波長はいずれであっても良いのである。従って、シングルモード信号光を短波長帯域の信号光としても良いし、マルチモード信号光を長波長帯域の信号光としても良いのである。
【0036】
よって、シングルモード伝送用のコアは、シングルモード伝送用光ファイバの開口率を有し、マルチモード伝送用のコアは、マルチモード伝送用光ファイバの開口率を有していれば良い。
【0037】
なお、本実施形態に係るダブルコア光ファイバにおいて、第1〜第4の材料は、上述の屈折率の関係を有し、光ファイバのコアやクラッドとして機能するものであれば、例えば、ガラス系や、ポリマー、アクリル等の有機物などいずれの材料であっても良い。
【0038】
図7(a)および(b)は、本実施形態に用いるのに好適な光ファイバであるダブルコア光ファイバの説明図である。図7(a)は、当該ダブルコア光ファイバの屈折率プロファイルであり、図7(b)は、図7(a)の屈折率プロファイルを有するダブルコア光ファイバの断面構造図である。
【0039】
図7(a)において、符号112はコア111の屈折率であり、符号122は第1クラッド121の屈折率であり、符号132は第2クラッド131の屈折率であり、符号142は第3クラッド141の屈折率であり、符号152は第4クラッド、あるいは被覆材151の屈折率である。図7(a)から分かるように、第1クラッド121の屈折率122はコア111の屈折率112よりも小さく、第2クラッド131の屈折率132は第1クラッド121の屈折率122よりも小さく、第3クラッド141の屈折率142は第2クラッド131の屈折率132よりも小さい。また、第4クラッド151の屈折率152は、第3クラッド141の屈折率142よりも高い。
【0040】
このような構成において、コア111がシングルモード伝送用のコアとして機能し、コア111および第1クラッド121がマルチモード伝送用のコアとして機能する。なお、当該ダブルコア光ファイバでは、シングルモード伝送用光信号波長(コア111の規定モードを励振しシングルモード伝送する光信号の波長)をC−Band帯域(1530nm〜1560nm)、あるいはL−Band帯域(1570nm〜1610nm)、またあるいは1300nm帯域のいずれでも設計可能である。また、モードフィールド径を、7.0〜10.0μmとすることができる。すなわち、上述の規定モードのモードフィールド径を7.0〜10.0μmにすることができる。
【0041】
当該ダブルコア光ファイバでは、波長850nmのマルチモード信号光においては、コア111、第1クラッド121、第2クラッド131全体にわたって電界強度分布が形成され、波長850nm帯ステップインデックス型マルチモードファイバ、あるいは波長850nm帯グレーデッドインデックス型マルチモードファイバの開口率と同等に設計されている。また、マルチモード伝送用光信号波長(コア111および第1クラッド121からなるマルチモード伝送用のコアを励振しマルチモード伝送する光信号の波長)を850nm帯域と設計している。さらに、マルチモード伝送用のコアの直径、すなわち第1クラッド121の直径を、50μm、あるいは62.5μmとすることができる。
【0042】
当該ダブルコア光ファイバでは、マルチモード伝送用のコアの直径を規定する、第1クラッド121の直径を、マルチモード伝送用の光ファイバの直径と同じ、または略同じに設定し、マルチモード伝送用の光ファイバの開口率を有するようにしているので、マルチモード伝送用の光ファイバ(例えば、LAN(Local Area Network)に導入されているような光信号波長850nmのマルチモード光ファイバ)と、低ロスで接続し、低ロスでマルチモード信号光を伝送することができる。
【0043】
さらに、当該ダブルコア光ファイバでは、マルチモード伝送用のコアに含まれるコア111が、シングルモード伝送用のコアとしても機能するので、シングルモード用の光ファイバと低ロスで接続し、低ロスでシングルモード信号光を伝送することができる。
【0044】
すなわち、同一の光ファイバで、シングルモード信号光とマルチモード信号光との双方、および片方ずつを伝送することができる。
【0045】
図8に示す形状で、当該ダブルコア光ファイバを曲げたときの屈折率プロファイルを示したのが図9である。図8において、符号21は曲率中心であり、符号22は曲率半径であり、符号23は光ファイバを曲げた場合の光ファイバの外周側であり、符号24は光ファイバを曲げた場合の光ファイバの内周側である。なお、図9において、符号175は曲率半径Rのときのコア111の屈折率の最大値である。
【0046】
このとき、第2クラッド121外周側(図9では紙面右側)の屈折率が高くなるが、第1クラッド121の屈折率122よりも第2クラッド131の屈折率132を小さくし、さらに第3クラッド141の屈折率142を屈折率132よりも小さく設定しているので、従来の光ファイバではコアの屈折率よりも屈折率が高い領域が発生する曲率半径であっても、コア111の屈折率112よりも屈折率が高い領域の発生を無くすことができる。従って、コアを伝送する光信号の伝送特性の劣化が付与されることがなく、従来の光ファイバを用いた場合に発生し得る光信号受信端における復調時でのエラー増加をもたらすことはない。すなわち、光ファイバを曲げた際に、コア111から漏れた一部のシングルモード信号光が第1クラッド121、第2クラッド131および第3クラッド141にトラップあるいは、それぞれから反射してコア111に戻ることなく、第4クラッド151まで到達し吸収させることができる。よって、光ファイバを曲げた際において安定なシングルモード伝送、さらにマルチモード伝送が同時に可能となる。
【0047】
また、曲率半径Rを小さくする(曲げをきつくする)ことにより、屈折率132や142が、最大値175よりも大きくなる領域が生じることがあるかもしれない。このように最大値175よりも大きな領域が発生したとしても、その領域は、同じ曲率半径Rにて曲げた際の従来の光ファイバに生じる上記領域よりも小さくなる。従って、光ファイバを曲げた場合の、コア111を導波していたシングルモード信号光の上記曲げによる放射モードによる、マルチモード伝送を軽減することができる。
【0048】
このように、当該ダブルコア光ファイバでは、従来の光ファイバではコアの屈折率よりも高くなる領域が生じてしまう曲率半径Rにおいて、上記領域を無くす、あるいは、上記領域が生じたとしても、その領域を従来に比べて小さくすることができるので、コアを導波していた信号光のマルチモード伝送を軽減することができる。
【0049】
また、当該ダブルコア光ファイバでは、屈折率122よりも低い屈折率132を有する第2クラッド131は、マルチモード信号光をより、マルチモード伝送用のコアに閉じ込める機能を有し、さらに、光ファイバを曲げた場合においては、コア111を導波するシングルモード信号光のマルチモード伝送を軽減する機能を有する。
【0050】
さらに、屈折率132よりも低い屈折率142を有する第3クラッド141は、さらに良好にマルチモード信号光をマルチモード伝送用のコアに閉じ込める機能を有する。すなわち、F元素添加された低屈折率の第3クラッド141により、マルチモード信号光が高分子樹脂で形成された被覆である第4クラッド151に導波されるのをより軽減する役割を果たしている。
【0051】
図10は、本実施形態に係る、ブーツ付光ファイバの側面図であり、図11は、図10に示すブーツ付光ファイバを曲げた際の該ブーツ付光ファイバの側面図である。
図10において、ブーツ付光ファイバ1000は、図7(b)に示したダブルコア光ファイバ1001と、光コネクタ1002と、光コネクタ1002の接合部1006の対向する側から引き出されたダブルコア光ファイバ1001の一部を収納し、ダブルコア光ファイバ1001を曲げた際に該ダブルコア光ファイバ1001を所定の曲率半径で保持可能なブーツ1003とを備えている。すなわち、ダブルコア光ファイバ1001の一方端は、ブーツ1003によって被覆され、かつ光コネクタ1002に接続されている。また、ブーツ1003の露出している領域には、ブーツ1003の長さ方向と直交状にし、かつ該長さ方向に沿って2個で一対のスリット1004、1005が複数対形成されている。
【0052】
本実施形態では、ブーツの全長を15mmとしている。また、図11に示すように、光コネクタ1002から延在しているダブルコア光ファイバ1001を、光コネクタ1002の長軸方向から90度方向に曲げた際の、ダブルコア光ファイバ1001の曲率半径を10mmとしている。すなわち、ブーツ1003は、上記90度方向に曲げた際の最小の曲率半径として10mmの曲率半径を保持可能である。
【0053】
なお、本実施形態において、光コネクタの形状、ブーツの形状や材料、コネクタとブーツの接続方法は本質ではなく、従来からあるいずれの形態を用いても良い。
【0054】
本実施形態で用いる光ファイバは、図7(b)に示すダブルコア光ファイバであるので、ダブルコア光ファイバ1001は、図7(a)に示す屈折率プロファイルを有する。よって、ダブルコア光ファイバ1001は、シングルモードの屈折率プロファイルと、マルチモードの屈折率プロファイルを融合させたプロファイルを有し、シングルモード、マルチモード両方の光通信を同一の光ファイバにて実現することができる。また、ダブルコア光ファイバ1001のマルチモード用コア部分である第1クラッド121、およびマルチモード用コア部分のクラッドである第2のクラッド131が、ダブルコア光ファイバ1001が曲げられた時のシングルモード通信光の放射モードを抑制するので、シングルモード通信光の曲げ損失も小さくすることができる。
【0055】
さて、本実施形態で重要なことは、例えば光ファイバを90度曲げた際の曲げ損失を小さくしつつ、光コネクタ1002を所定の装置に装着した際のブーツ付光ファイバ1000の収納スペースを小さくすることであり、そのために、曲がった(例えば90度)光ファイバを所定の曲率半径で保持する役割を果たすブーツ1003の長さを短くすることが本実施形態の本質である。
【0056】
すなわち、上記収納スペースの縮小化を図るためには、光ファイバを曲げた際の曲率半径を、曲げ損失を損なわない程度に小さくする必要があるが、このような曲げ損失を抑えつつできるだけ小さい曲率半径を保持するために、ブーツの長さを短くする必要があるのである。
【0057】
光ファイバを例えば90度曲げた際の曲げ損失を抑えることは、上述したように特許文献1に開示されている方法により達成できるが、特許文献1では、曲げ損失を抑えるために、緩やかな曲がりを確保するという技術思想の下、光ファイバの急な曲がりを抑えるような構成を取っている。すなわち、曲率半径20mmで損失が発生する従来の光ファイバに対して、損失低減に求められている曲率半径20mmを維持するような構成にすることで、損失低減を図っている。よって、特許文献1の構成は、省スペース化を実現するものではない。
【0058】
これに対して、本実施形態では、シングルモード信号光とマルチモード信号光とを同一の光ファイバで伝送可能にするという思想の下、マルチモード用コア部分とマルチモード用クラッド部分の存在により、ダブルコア光ファイバ1001の曲げをきつくしても(曲率半径を小さくしても)放射モードを抑制しており、特許文献1とは全く異なる着想の下なされたものである。
【0059】
図12は、ダブルコア光ファイバ1001について、シングルモード信号光伝送時の曲げ(360度)による過剰損失特性を示す図である。また、図13は、上記ダブルコア光ファイバ1001について、マルチモード信号光伝送時の曲げ(360度)による過剰損失特性を示す図である。
図12および13に示すように、シングルモード、マルチモード共に、ダブルコア光ファイバ1001を曲率半径5mmで360度曲げても損失がほとんど発生しない。従って、シングルモード、マルチモード共に、損失を抑えた曲率半径の最小値を従来に比べて小さくすることができる。
【0060】
特に、シングルモードに対しては、従来では、損失を抑えた曲率半径の最小値は20mm程度であるが、本実施形態のように曲率半径を10mmとしても曲げ損失の発生を抑えることができる。つまり、本実施形態により、シングルモードに対する、損失を抑えた曲率半径の最小値を大幅に小さくすることができる。
【0061】
すなわち、従来のように大きな曲率半径を確保することなく、小さな曲率半径でも曲げ損失を抑えることができるので、その小さな曲率半径を保持するためのブーツ1003の長さを従来よりも小さくすることができ、装着する装置内での収納スペースを小さくすることができる。
【0062】
また、本実施形態では、シングルモード、マルチモード共に、損失を抑えた曲率半径を同程度まで小さくすることができるので、ブーツ付光ファイバ1000は、省スペース化を図りつつ曲げ損失を抑えて、シングルモード、およびマルチモード両方の光通信の接続を可能とすることができる。
【0063】
また、シングルモードの曲げ損失が小さいので、ブーツ構造についてシングルモード用とマルチモード用を区別する必要が無い。すなわち、従来では、損失を抑えた曲率半径の最小値は、マルチモード用の光ファイバよりもシングルモード用の光ファイバの方が大きく、マルチモード用のブーツをシングルモード用の光コネクタに適用すると、光ファイバを曲げた際の曲率半径が、シングルモード用の光ファイバの適正値よりも小さくなってしまい、大きな曲げ損失の発生に繋がってしまうが、本実施形態により、シングルモードに対する曲げ損失を抑える曲率半径を、マルチモードに対する曲げ損失の発生を抑えた曲率半径と同程度まで小さくすることができるので、同一構造のブーツにて、シングルモード、マルチモード共に対応することができる。
【0064】
すなわち、ダブルコア光ファイバ1001を用いることにより、同一の光ファイバにてシングルモード信号光とマルチモード信号光とを伝送可能となり、かつ曲げ損失の発生を抑えた曲率半径の最小値を、シングルモードとマルチモードとで略同一にすることができる。よって、シングルモードとマルチモードとの双方で通信したい場合、シングルモード用光ファイバとマルチモード用光ファイバとの2本の光ファイバを用意しなくても、上記ダブルコア光ファイバ1001の1本で対応可能となり、かつ例えば、従来のマルチモードに対応した曲率半径である、曲げ損失の発生を抑えた曲率半径10mmとなるようにダブルコア光ファイバ1001を曲げた場合でも、伝送するシングルモード信号光における曲げ損失の発生を抑えることができる。
【0065】
従って、シングルモード信号光とマルチモード信号光とを損失を抑えたまま伝送可能な状態でブーツ1003の長さを小さくすることができ、ブーツ付光ファイバ1000を装着対象となる装置に装着した際の収納スペースをコンパクトにすることができる。すなわち、上述のようにブーツ1003を短く、また、曲がりやすい構造とすることが可能であり、後端の収容スペースを小さくすることが可能である。
【0066】
このように、図10、11に示す構成は、SC形光コネクタの場合であり、ブーツ付光ファイバ1000に90度方向の引張りが働いた場合に曲率半径10mmを保持するように、ブーツの切り込みであるスリット1004、1005が形成されており、ブーツ1003において、曲率半径10mmの90度円弧分の長さとなる全長が15mmと短い長さを実現し、装置内での占有部の省スペース化を実現している。
【0067】
なお、本実施形態では、図12および13からも分かるように、曲率半径を5mmでも曲げ損失がほとんど発生しないので、ブーツ1003として曲率半径5mmで保持するブーツでも良いことになるが、光ファイバはガラスで脆性材料であり、小さな曲率半径で保持した場合、破断の恐れがある。
【0068】
光ファイバは製造時に一旦伸び歪を加えスクリーニングをかけている。1%の伸び歪でスクリーニングをかけることにより曲率半径20mmで保持しても破断の恐れを解消することができる。本実施形態に係るダブルコア光ファイバ1001の場合、2%の伸び歪でスクリーニングをかけることにより曲率半径10mmで保持した場合の破断の恐れを解消している。
【0069】
しかしながら、これ以下の曲率半径で保持することの保証は難しい。そこで、ブーツ1003により保持する曲率半径を10mmとしている。曲率半径をさらに小さくするために、伸び歪をさらに大きくしてスクリーニングをかけることにより、より小さい曲率半径での保持を保証できるが、スクリーニング中の破断が多くなり、歩留まりが低下する。これに対して、曲率半径10mmを保持する構造は、曲げ損失に対しては余裕があり、現状の光ファイバの強度を考慮して最小の曲率半径を保持する構造となっている。
【0070】
すなわち、本実施形態において、曲げ損失の発生を抑える観点からすると、90度方向に曲げた際の曲率半径の最小値は5mmであるが、製造の観点からすると、該最小値は10mmであることが好ましい。すなわち、90度方向に曲げた際の曲率半径を10mm以上となるように設定することが好ましい。
【0071】
また90度方向に曲げた際の曲率半径を10mm以上、20mm未満となるように設定することで、従来よりもブーツの長さを短くできる。よって、省スペース化の観点からすると、90度方向に曲げた際の曲率半径を10mm以上、20mm未満に設定することはさらに好ましい。
【0072】
すなわち、従来よりも収納スペースの小型化および光ファイバの破断の影響を考慮すると、上記90度方向に曲げた差異の曲率半径を10mm以上、20mm未満にすることが好ましく、該曲率半径が小さい方が収納スペースを小さくすることができるので、上記曲率半径を10mmとすることがより好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】従来のSC形光ファイバコネクタの側面図である。
【図2】従来の、光ファイバへの荷重によって曲がったブーツを示す断面図である。
【図3】従来の、光ファイバへの荷重によって曲がったブーツを示す断面図である。
【図4】従来のLC形光ファイバコネクタの側面図である。
【図5】図4に示したLC形光ファイバコネクタを屈曲させた様子を示す図である。
【図6】(a)および(b)は、従来のLC形光ファイバコネクタの側面図である。
【図7】(a)は、本発明の一実施形態に係るダブルコア光ファイバの屈折率プロファイルであり、(b)は、(a)の屈折率プロファイルを有するダブルコア光ファイバの断面構造図である。
【図8】曲率半径Rである一点を中心に光ファイバを曲げる場合の説明図である。
【図9】本発明の一実施形態に用いるのに好適なダブルコア光ファイバを曲率半径Rで曲げた際に変化した屈折率プロファイルである。
【図10】本発明の一実施形態に係るブーツ付光ファイバの側面図である。
【図11】図10に示すブーツ付光ファイバを曲げた際の該ブーツ付光ファイバの側面図である。
【図12】本発明の一実施形態に係るダブルコア光ファイバについて、シングルモード信号光伝送時の曲げ(360度)による過剰損失特性を示す図である。
【図13】本発明の一実施形態に係るダブルコア光ファイバについて、マルチモード信号光伝送時の曲げ(360度)による過剰損失特性を示す図である。
【符号の説明】
【0074】
111 コア
112 コアの屈折率
121 第1クラッド
121 第1クラッドの屈折率
131 第2クラッド
132 第2クラッドの屈折率
141 第3クラッド
142 第3クラッドの屈折率
151 第4クラッド
152 第4クラッドの屈折率
1000 ブーツ付光ファイバ
1001 ダブルコア光ファイバ
1002 光コネクタ
1003 ブーツ
1004、1005 スリット
1006 接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のコアおよび第2のコアを備える光ファイバと、
前記光ファイバの一部を収納し、前記光ファイバを曲げた際の該光ファイバを所定の曲率半径に保持可能なブーツとを備え、
前記光ファイバは、
前記光ファイバの軸中心に配置された、第1の屈折率を有する第1の材料と、
前記第1の材料の外周に配置された、前記第1の屈折率よりも小さい第2の屈折率を有する第2の材料と、
前記第2の材料の外周に配置された、前記第2の屈折率よりも小さい第3の屈折率を有する第3の材料とを備え、
前記第1の材料が前記第1のコアであり、
前記第1の材料と前記第2の材料とが前記第2のコアであり、
前記第2の材料が前記第1のコアに対する第1のクラッドであり、
前記第3の材料が前記第2のコアに対する第2のクラッドであり、
前記光ファイバは、第1の波長帯の光信号を用いて前記第1のコアのみ選択的に励振した際に、伝搬モードが規定モードのみとなるシングルモード特性を有し、且つ該規定モードのモードフィールド径は、前記第1の波長帯でシングルモード伝送可能なシングルモード光ファイバのモードフィールド径と等しく、
前記第2のコアの直径は、第2の波長帯の光信号の伝送路として用いられるグレーデッドインデックス型マルチモードファイバ、あるいはステップインデックス型マルチモードファイバのコア直径と等しいことを特徴とするブーツ付光ファイバ。
【請求項2】
前記所定の曲率半径は、10mm以上、20mm未満であることを特徴とする請求項1に記載のブーツ付光ファイバ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−157262(P2009−157262A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−337894(P2007−337894)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(000102739)エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社 (265)
【Fターム(参考)】