説明

プライマー組成物並びにこれを用いたフッ素樹脂複合積層体及び電子写真画像形成装置の定着ベルト

【課題】表面張力の低いシリコーンゴムなどの表面に直接塗布することが可能であり、はじきの発生がなく、均一なプライマー層を形成でき、かつ、フッ素樹脂層と強固な接着強度が得られるプライマー組成物とこれを用いたフッ素樹脂複合積層体を提供する。
【解決手段】平均粒子径が5μm以上50μm以下である熱溶融性フッ素樹脂粉末、沸点が200℃未満であるジオール、並びにポリエチレングリコール及びエポキシシランとを含有するプライマー組成物。および、プライマー組成物を基材に塗布した後に150℃以下の温度で乾燥してプライマー層を形成し、プライマー層の外面にフッ素樹脂を塗布した後にフッ素樹脂の融点以上の温度で焼成して得られるフッ素樹脂複合積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンゴムのように表面張力が低く濡れ難い基材表面に直接塗布することができ、フッ素樹脂層と基材とを十分な接着強度で接着することができるプライマー組成物、及びこれを用いたフッ素樹脂複合積層体に関する。さらに詳しくは、シリコーンゴムと、前記組成物からなるプライマー層と、プライマー層の上に形成されたフッ素樹脂層を含む、電子写真画像形成装置の定着ベルトなどに好適に使用される複合積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を利用したファクシミリ、複写機、レーザービームプリンターなどのカラー画像形成装置において、カラートナー像を複写紙などに熱定着させるための定着装置では、数種類のカラートナー、例えば、シアン、イエロー、マゼンタ、ブラックの4色のカラートナーを140℃から180℃の温度で十分に熱溶融させて混色し、発色させ、中間色や各カラーの濃淡を鮮明に定着する必要がある。そのため、定着装置ではシリコーンゴムなど柔軟な弾性層を有する定着ベルトなどを用い、カラートナーを包み込むような状態で加熱し溶融させ混色発色させる方法がとられている。
【0003】
このような画像形成装置の定着部材として特許文献1に、最外層、すなわちトナーと接触する層として、シリコーンゴム又はフッ素ゴムからなる弾性体層を成形した定着ベルトが開示されている。また、特許文献2では、導電性ポリイミド樹脂からなる管状内層の外周面に導電性シリコーンゴム又は導電性フッ素ゴムからなる管状外層を設けた2層管状物のさらに外面にフッ素樹脂離型層を設けた3層構造の定着ベルトが開示されており、また、このような定着ベルトがカラープリンタなどの定着ベルトとして使用されることも開示されている。
【0004】
前記3層構造の定着ベルトではポリイミド・シリコーンゴム・フッ素樹脂の各層を強固に一体化する必要があるために各層を接着させるための接着材としてプライマー組成物が用いられているが、定着ベルトに用いられる各材料は接着性に乏しい材料であり、特にシリコーンゴムとフッ素樹脂との積層境界面では十分な接着力が得られず、プリンターなどの耐久性が短いという問題があった。
【0005】
このような問題を解決するために多くの種類のプライマー組成物の開発が進められてきた。例えば、特許文献3では、リンを含有するフッ素化されたビニルエーテル類から誘導されたユニットを含むフルオロポリマー単体、及びそのフルオロポリマー単体と非官能性フルオロポリマーとの組成物が提案されている。
【0006】
また、特許文献4では、フルオロポリマーのコアに官能基モノマーの共重合単位を含有するフッ素置換共重合体のシェルを持たせることによって接着性を改善したコア・シェル構造のフルオロポリマーが提案されている。
【0007】
また、例えば、特許文献5〜8には、シリコーンゴムとフッ素樹脂とを接着するためのプライマー組成物として、水性フッ素樹脂塗料が開示されている。さらに、特許文献9には、リン酸基を有するフッ素樹脂又はこのリン酸基を有するフッ素樹脂と官能基を持たないフッ素樹脂との混合物をプライマー組成物として用いることが開示されている。
【0008】
しかし、これらの従来技術によってもなお、フッ素樹脂層とシリコーンゴム層とを十分な接着強度で接着できるプライマー組成物は開発されておらず、プリンター等の耐久性の向上及び長寿命化という問題が解決されていなかった。
【0009】
このため、本出願人は、特許文献10に開示しているように、シリコーンゴム表面をサンドブラストやペーパー研磨などで粗面化処理して凹部を形成し、この凹部内にフッ素樹脂粒子を含浸し埋め込むことによりアンカー効果を持たせ、さらにその上にフッ素樹脂をコーティングした後にフッ素樹脂の融点以上の温度で焼成して、融着一体化した定着ベルトを作製することを提案した。この定着ベルトではシリコーンゴム層とフッ素樹脂層との接着強度は十分であるが、粗面化処理には表面粗度管理の困難さだけでなく、異物発生の原因となる副作用的な問題点があった。
【0010】
また、上記一連の特許文献で開示されているプライマー組成物は、そもそも水性塗料であるため、表面張力の低いシリコーンゴム上では「はじき現象」が生じてしまい、均一に塗布することは困難であった。この「はじき現象」は、シリコーンゴム表面にプライマー層を形成し更にその上にフッ素樹脂層を形成させる場合、シリコーンゴムとフッ素樹脂との十分な接着強度が得られない原因になるばかりでなく、フッ素樹脂層の表面粗度や厚みばらつきの増大につながるため、致命的な問題になる。また、シリコーンゴム表面に水溶性プライマー組成物を塗布するために、従来は、刷毛塗りと乾燥とを繰り返して「はじき現象」を抑える方法や、スポンジなどに含浸させたプライマー組成物をシリコーンゴム表面に擦り付けながら塗布する方法が用いられていたが、いずれの方法も均一な厚みで塗布することが難しく、接着強度のばらつきや異物発生の原因にもなり多くの問題を残していた。
【特許文献1】特開平05−154963号公報
【特許文献2】特開平10−305500号公報
【特許文献3】特表2002−514181号公報
【特許文献4】特許第2882579号明細書
【特許文献5】特開平06−346017号公報
【特許文献6】特開平10−305537号公報
【特許文献7】国際公開2002/046302号パンフレット
【特許文献8】国際公開2003/006565号パンフレット
【特許文献9】特開2005−212318号公報
【特許文献10】特開2004−255828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を克服し、表面張力の低いシリコーンゴムなどの表面に直接ディッピングなどの方法で塗布することが可能で、「はじき現象」などの発生がなく均一なプライマー層を形成でき、且つ、シリコーンゴムとフッ素樹脂層とを強固に接着することができるプライマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のプライマー組成物は、平均粒子径が5μm以上50μm以下である熱溶融性フッ素樹脂粉末と、常圧における沸点が200℃未満であるジオールと、ポリエチレングリコールと、エポキシシランとを含有する。なお、ここにいう「常圧」とは、1013hPaである。
【0013】
なお、このプライマー組成物において、熱溶融性フッ素樹脂粉末は、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(EPE)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)及びクロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)より成る群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0014】
また、このプライマー組成物において、熱溶融性フッ素樹脂粉末の濃度は、ジオール及びポリエチレングリコールの合計重量に対して5重量%以上50重量%以下であることが好ましい。
【0015】
また、このプライマー組成物において、ジオールは、エチレングリコール、プロピレングリコール、又はエチレングリコール及びプロピレングリコールの混合物であることが好ましい。
【0016】
また、このプライマー組成物において、ポリエチレングリコールの数平均分子量は、200以上1,000未満であることが好ましい。
【0017】
また、このプライマー組成物において、エポキシシランは、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)トリエトキシシラン、5,6−エポキシヘキシルトリエトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)メチルジエトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)メチルジメトキシシラン、及び(3−グリシドキシプロピル)ジメチルジエトキシシランより成る群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。
【0018】
また、このプライマー組成物において、エポキシシランの濃度は、ジオール及びポリエチレングリコールの合計重量に対して、1重量%以上10重量%以下であることが好ましい。
【0019】
本発明のフッ素樹脂複合積層体は、上記プライマー組成物を基材上に形成してなるプライマー層と、プライマー層の上に形成されるフッ素樹脂層とを含む。
【0020】
また、本発明の電子写真画像形成装置の定着ベルトは、上記プライマー組成物を基材上に形成してなるプライマー層と、プライマー層の上に形成されるフッ素樹脂層とを含む。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、シリコーンゴム層とフッ素樹脂層とを強固に接着することができるプライマー組成物を提供できる。本発明のプライマー組成物は、表面張力が小さく、接触角が大きく濡れ難い基材、例えばシリコーンゴムなどに対しても粗面化処理などを施すことなく直接ディッピングなどの方法で塗布でき、均一な被膜を得ることができる。また、本発明によれば、プライマー組成物を基材に塗布し乾燥して得られるプライマー層は、微粒子状の熱溶融性フッ素樹脂粉末で形成されるため、熱溶融性フッ素樹脂にとって好ましい表面粗度となる。このため、プライマー層の上にフッ素樹脂液を均一に塗布できる。この結果、シリコーンゴムとフッ素樹脂とを強固に接着することができる。プライマー層の表面粗度はその上に塗布するフッ素樹脂層の表面粗度にも影響を及ぼすことになるが、本発明のプライマー組成物では粒子径が所望の範囲の熱溶融性フッ素樹脂粉末を用いることによって電子写真画像形成装置の定着ベルトとして好適な表面粗度を有する定着ベルトを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、プライマー組成物、及びプライマー組成物を基材上に形成してなるプライマー層と、プライマー層の上に形成させたフッ素樹脂層とを含むフッ素樹脂複合積層体に関するものである。フッ素樹脂複合積層体は、例えば、図1及び図2に示す電子写真画像形成装置に好適に使用される定着ベルトなどである。図1は本発明のフッ素樹脂複合積層体(定着ベルト)を用いた定着装置の概略図であり、図中、フッ素樹脂複合積層体は、複写紙7の表面に形成したトナー像8を熱定着するための定着ベルト1として使用されている。定着ベルト1の内側には、ベルトガイド2とセラミックヒーター3とが設けられる。そして、この定着装置では、セラミックヒーター3と圧接した加圧ロール4との間に、トナー像を形成した複写紙が順次送り込まれ、トナーが加熱溶融させられて複写紙上に熱定着される。なお、図1において符号5はサーミスタであり、符号9は定着されたトナーであり、符号6は加圧ローラーの芯金部であり、符号Nは定着ベルトと加圧ローラー4とのニップ面である。
【0023】
図2は定着ベルトの概略断面図である。図2には、3層構造の定着ベルトが示される。この3層構造の定着ベルトにおいて、基材11はポリイミドあるいは金属などの薄層の管状物である。また、弾性層12としてシリコーンゴム層などが用いられる。そして、弾性層12の外面には、フッ素樹脂離型層13が形成される。本発明のプライマー組成物は、ポリイミド管状物とシリコーンゴムとの境界面、及びシリコーンゴムとフッ素樹脂との境界面に塗布されてプライマー層14として存在し、前記した3層を強固に接着一体化している。
【0024】
本発明のプライマー組成物には、熱溶融性フッ素樹脂粉末、ジオール、ポリエチレングリコール、及びエポキシシランとが含有される。
【0025】
本発明のプライマー組成物において、熱溶融性フッ素樹脂粉末の平均粒子径は、5μm以上50μm以下であることが必要である。5μm未満では、プライマー組成物を基材に塗布し乾燥後に形成されるプライマー層の表面粗度が低すぎて水をはじくため、次工程でプライマー層の上にフッ素樹脂の水性塗料を塗布することができないからである。また、50μmを超えると、プライマー組成物において沈降が起こりやすく分散安定性が得られないだけでなく、乾燥後に形成されるプライマー層の表面粗度が高くなりすぎて、フッ素樹脂の水性塗料による平滑なフッ素樹脂層形成を阻害するからである。
【0026】
本発明において、熱溶融性フッ素樹脂粉末として、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(EPE)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、及びクロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)より成る群から選ばれる少なくとも1つを用いることができる。必要に応じ、これらの混合物を用いてもよい。
【0027】
本発明において、熱溶融性フッ素樹脂粉末の濃度は、ジオール及びポリエチレングリコールの合計重量に対して5重量%以上50重量%以下であることが好ましい。5重量%未満では、熱溶融性フッ素樹脂粉末の必要量が不足して、乾燥後に形成されるプライマー層の表面粗度が低すぎて水をはじくため、フッ素樹脂の水性塗料を塗布することができないからである。また、50重量%を超えると、プライマー組成物中において熱溶融性フッ素樹脂粉末が沈降を起こしやすくなるからである。より好ましくは、10重量%以上30重量%以下の濃度である。
【0028】
本発明において、溶剤として用いられるジオールは常圧における沸点が200℃未満であることが必要である。沸点が200℃以上では、不揮発性が高くなるため、プライマー層形成のための乾燥温度が高くなってしまうからである。沸点が200℃未満であれば、150℃かつ20分程度の条件でプライマー層を形成できるため、好適である。なお、本発明において、沸点が200℃未満のジオールとして、エチレングリコール又はプロピレングリコールを用いることが好ましい。
【0029】
本発明において、フッ素樹脂粉末の結着樹脂として、ポリエチレングリコールを用いることが必要である。ポリエチレングリコールを用いないと、乾燥後、プライマー層からフッ素樹脂粉末が脱落してしまうからである。ポリエチレングリコールの数平均分子量は200以上1,000未満であることが好ましい。数平均分子量が200未満では、乾燥後に形成されるプライマー層の表面粗度が高くなりすぎて、平滑なフッ素樹脂層形成を阻害するからである。また、数平均分子量が1,000以上では、室温においてグリース状又はろう状であり、沸点が200℃未満のジオールに対する溶解性が著しく低くなるためプライマー層にポリエチレングリコールが残存しやすく、フッ素樹脂の水性塗料によるフッ素樹脂層形成の高温焼成時に揮発・分解して、フッ素樹脂層にクラックやピンホール欠陥を発生させる等の問題があるからである。
【0030】
本発明において、エポキシシランとして、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)トリエトキシシラン、5,6−エポキシヘキシルトリエトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)メチルジエトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)メチルジメトキシシラン、及び(3−グリシドキシプロピル)ジメチルジエトキシシランより成る群から選ばれる少なくとも1つを用いることができる。中でも、価格の点から、(3−グリシドキシプロピル)トリメトキシシランが最も好ましい。
【0031】
本発明において、エポキシシランの濃度は、ジオール及びポリエチレングリコールの分散液の合計重量に対して、1重量%以上10重量%以下が好ましい。1重量%未満では十分な接着力を発現せず、10重量%を超えると価格の点で好ましくないからである。
【0032】
なお、本発明のプライマー組成物を製造する際、次のような公知の充填剤を添加しても何ら差し支えない。例えば、マイカ、タルク、カオリン、ベントナイト、モンモリロナイト、カーボンブラックや、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、ホウ酸アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、チタン酸カリウム、チタン酸バリウムなどの粉末又は繊維や、フラーレン類、カーボンナノチューブ類などである。
【0033】
また、本発明のプライマー組成物を製造する際、粘度調節等のため、次のような公知の溶剤を添加しても何ら差し支えない。例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ジアセトンアルコールなどのアルコール類、ブチレングリコール、2−ブテン−1,4−ジオール、ペンタメチレングリコール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのジオール類、グリセリン、2−エチル−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、1,2,6−ヘキサントリオールなどのトリオール類、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールなどのグリコールエーテル類、ジメチコンコポリオールやポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)メチルポリシロキサン共重合体その他、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチル、炭酸ジエチル、γ−ブチロラクトンなどのエステル類、N、N−ジメチルホルムアミド、N、N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド類などである。中でも特に、プライマー組成物の塗布後の液ダレを防止するため、揮発性の溶剤を添加することが好ましい。さらに、エポキシシランのプライマー組成物中での反応による失効を防止するため、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ジアセトンアルコールなどのアルコール類を添加することが好ましい。
【0034】
また、本発明のプライマー組成物を製造する際、次のような公知の添加剤を用いても何ら差し支えない。例えば、充填材、顔料、顔料分散剤、固体潤滑剤、沈降防止剤、レベリング剤、表面調節剤、チキソトロピー性付与剤、水分吸収剤、ゲル化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、色分かれ防止剤、皮張り防止剤、界面活性剤、帯電防止剤、消泡剤、抗菌剤、防カビ剤、防腐剤、増粘剤などである。
【0035】
本発明において、プライマー層を形成する基材は特に限定されるものではなく、プライマー層を形成する基材として、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム、真鍮などの金属、ガラス、ガラス板、ガラス繊維などのガラス類、ポリウレタン、ナイロン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリイミドなどの耐熱性樹脂、シリコーンゴム、フッ素ゴムや、シリコーンEPDM(エチレンプロピレン)ゴム、シリコーンアクリル、シリコーンポリエチレンなどのシリコーンゴムと他の有機ポリマーとのハイブリッドゴムなどのゴム類などを用いることができる。なお、電子写真方式を利用したファクシミリ、複写機、レーザービームプリンターなどのカラー画像形成装置では、プライマー層を形成する基材としてシリコーンゴムや、ポリイミド、ステンレス、ニッケル、アルミニウムを選択することが好ましい。
【0036】
本発明において、基材にプライマー組成物を塗布する際、十分に脱脂、洗浄しておくことが好ましい。特にシリコーンゴム表面にプライマー組成物を塗布する際、接着力向上のために、予めシリコーンゴム表面を改質処理しておくことが好ましい。例えば、(a)大気中で電極間に高電圧をかけて絶縁破壊させるコロナ放電処理、(b)水銀灯からの短波長の紫外線による照射処理、(c)強い酸化炎中に通す火炎処理、(d)低圧の不活性ガスや、酸素、ハロゲンガスなどの中でのグロー放電によるプラズマ処理、及び(e)シラン系、チタン系、アルミニウム系等のカップリング剤を表面に塗布する処理などである。中でも特に、簡便な処理で接着強度を高くできる点から、コロナ放電処理が好ましい。また、これらの表面改質処理は一種ばかりでなく、複数を組み合わせてもよい。
【0037】
本発明において、プライマー組成物をシリコーンゴム等の基材表面に塗布する方法として、刷毛塗り法、スピン法、スプレー法、ディスペンサー法、ディップ法など、公知の方法を用いることができる。
【0038】
本発明において、プライマー層を形成する際の乾燥温度は熱溶融性フッ素樹脂粉末の融点未満であることが好ましい。より好ましくは、150℃未満である。融点以上では、熱溶融性フッ素樹脂粉末が溶融し、プライマー層の表面粗度が低くなって、好ましくない。具体的には、乾燥後に形成されるプライマー層の十点平均粗さRzは0.2μm以上20μm以下、かつ、算術平均粗さRaが0.1μm以上5μm以下であることが好ましい。Rzが0.2μm未満又はRaが0.1μm未満では、水をはじくため、フッ素樹脂の水性塗料を塗布することができないからである。Rzが20μmを超え、又はRaが5μmを超えると、フッ素樹脂の水性塗料を塗布することができるが、焼成後に形成されるフッ素樹脂層の表面粗度が高くなってしまうからである。
【0039】
本発明において、乾燥により形成したプライマー層は、適度な表面粗度を有する。このため、フッ素樹脂水性塗料をスピン法、スプレー法、ディップ法など、公知の方法で塗布することができる。
【0040】
以下、実施例及び比較例によって、本発明を詳細に説明する。なお、「粘度」は粘度計LVT(ブルックフィールド製)を用いて測定し、「表面粗度」は表面粗度測定器SE−3H(小坂研究所製)を用いて測定した。なお、ここにいう「表面粗度」はJIS−B0601に基づく十点平均粗さRz及び算術平均粗さRaである。また、定着ベルトにおけるシリコーンゴム層12とフッ素樹脂層13の「接着強度」は図3に示す測定機を用いて測定した。
【0041】
図3に「接着強度」測定機50の概要を示す。測定機50において、試料取付け治具17の内側の両端部にはボールベアリングが挿入されている。つまり、この測定機50は、支持台18に取付けられている心棒19を軸にして試料取付け治具17が自由に回転できる機構になっている。なお、試料取付け治具17の持っている摩擦力は、本測定では問題にならない微小なものである。
【0042】
「接着強度」の測定サンプル20は、定着ベルトを長手方向の長さが40〜50mmとなるように切り取って作製される。つまり、測定サンプル20は、円筒形状を呈する。そして、この測定サンプル20は、試料取付け治具17に挿入された後に両端部が接着テープ21で試料取付け治具17に固定される。
【0043】
取付け治具に装着された測定サンプル20の長さ方向の中央部に15mm幅の粘着テープ22を周方向に沿って1周貼り付け、粘着テープの終端部を引張試験機のチャックに掴めるように粘着テープを長めにカットする。その後、粘着テープを貼り付けた測定サンプル20の中央部に、ナイフで粘着テープの上から10mm幅で1周切り目(以下、この切り目を周方向切り目という)23を入れる。なお、このとき、粘着テープと最外層のフッ素樹脂層とにのみ周方向切り目23が入るようにナイフが入れられる。
【0044】
そして、粘着テープのローラーへの貼り付け起点に近い部分で週方向切り目23と垂直な切れ目(以下、垂直方向切り目という)を入れ、この垂直方向切れ目を剥離開始点とし、粘着テープの終端部側のフッ素樹脂層を予め少し剥がし、粘着テープに貼り付ける。なお、このとき、周方向切り目を入れる場合と同様に、粘着テープと最外層のフッ素樹脂層とにのみ切り目が入るようにナイフが入れられる。次いで、長めにカットした粘着テープを引張試験機のチャック24で掴み、50mm/分の速度で引張り、その「接着強度」を連続的にチャートに記録し、その平均値を定着ベルトの弾性層とフッ素樹脂層との「接着強度」とする。なお、ここで、測定サンプルのフッ素樹脂層表面に補助的に粘着テープを貼り付け粘着テープと一緒に引張試験機で剥離するのは、10mm幅で剥離テスト行うと、フッ素樹脂層の厚みが20〜30μmであるため被膜の伸びが生じ、正確な「接着強度」が測定できないためである。
【実施例1】
【0045】
基材がポリイミドであり、弾性層がシリコーンゴムであり、及び離型層がフッ素樹脂である3層構造の定着ベルトを作製してプライマー組成物及びフッ素樹脂複合積層体を評価した。
(1)「ポリイミド管状物の作製」
外径が30mm、長さが500mmであり、表面に酸化ケイ素コーティング剤が焼き付けられたアルミ製の金型を用意した。次いで、1,000ポイズのポリイミド前駆体溶液(IST(株)製商品名"RC5063PyreMLワニス)を金型の表面に800μmの厚みで成形して乾燥し、その後段階的に400℃まで加熱しイミド化を完結させることによって、内径30mm、厚み50μmのポリイミド管状物を作製した。
(2)「プライマー組成物の調製」
エタノール100g、沸点が200℃未満のジオールとしてエチレングリコール(第一工業製薬製)700g、及び数平均分子量200のポリエチレングリコール(第一工業製薬製)300gの混合溶媒に増粘剤としてのKLUCEL G(三晶製)1gおよび熱溶融性フッ素樹脂粉末"FEP532−8000"(三井・デュポンフロロケミカル製)150gを添加しよく攪拌した。次に、エポキシシランとして(3−グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン"TSL8350"(GE・東芝シリコーン製)50gを添加し、粘度35cP(23℃)のプライマー組成物を調製した。
(3)「シリコーンゴム弾性体の成形及び加硫」
金型に成形したポリイミド管状物にシリコーンゴム用プライマー組成物(GE・東芝シリコーン:商品名:XP−81−405)を、ディッピング法により乾燥後厚みが3μmになるように塗布し、150℃で20分間乾燥して、プライマー層を形成した。その後、プライマー層の外面にシリコーンゴム"XE−15−7354"(GE・東芝シリコーン製)を、厚みが均一に180μmとなるようにダイス落下法により成形した後、150℃で30分間、200℃で4時間加熱して加硫させることによって、ポリイミド基材からなる管状物の外面にシリコーンゴムからなる弾性層を成形した管状物を作製した。
(4)「プライマー組成物の塗布及び乾燥」
前記(3)項で作製したポリイミド・シリコーンゴムからなる管状物のシリコーンゴム層の表面を1kVで60秒間コロナ放電処理した。次に、ディッピング法を用いて前記(2)項で作製したプライマー組成物を乾燥後厚みが3μmになるように塗布し、150℃で20分間乾燥してプライマー層を形成した。プライマー層の十点平均粗さRz及び算術平均粗さRaは、それぞれ12μm及び1.2μmであった。
(5)「フッ素樹脂水性塗料の塗布及び焼成」
ディッピング法を用いて前記(4)項の管状物表面にフッ素樹脂水性塗料"EN−400CL"(三井・デュポンフロロケミカル製)を焼成後厚みが30μmになるよう塗布した後に350℃で30分間焼成してフッ素樹脂層を形成することによって、ポリイミド基材の外面にシリコーンゴム層と、さらにシリコーンゴム層の外面にフッ素樹脂層が形成された3層構造のフッ素樹脂複合積層体(定着ベルト)を作製した。
【0046】
このフッ素樹脂複合積層体におけるフッ素樹脂層とシリコーンゴム層との接着強度を上記測定方法に従って測定した結果、測定中にシリコーンゴム層が凝集破壊を起こす程にフッ素樹脂層とシリコーンゴム層とが強固に接着しており、その接着強度は235gf/cmであった。
【実施例2】
【0047】
実施例1において熱溶融性フッ素樹脂粉末の添加量を150gから100gに代えた以外は、実施例1と同様にしてフッ素樹脂複合積層体(定着ベルト)を作製し評価した。その結果を表1に示す。
【実施例3】
【0048】
実施例1においてエチレングリコールに代えてプロピレングリコールを用いた以外は、実施例1と同様にしてフッ素樹脂複合積層体(定着ベルト)を作製し評価した。その結果を表1に示す。
【実施例4】
【0049】
実施例1においてエポキシシランに代えて(3−グリシドキシプロピル)メチルジメトキシシラン"TSL8355"(GE・東芝シリコーン製)を用いた以外は、実施例1と同様にしてフッ素樹脂複合積層体(定着ベルト)を作製し評価した。その結果を表1に示す。
【実施例5】
【0050】
実施例1においてエポキシシランに代えて2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(Gelest製)を用いた以外は、実施例1と同様にしてフッ素樹脂複合積層体(定着ベルト)を作製し評価した。その結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
(比較例1)
実施例1において熱溶融性フッ素樹脂粉末の添加量を150gから50gに代えた以外は、実施例1と同様にしてフッ素樹脂複合積層体(定着ベルト)を作製し評価した。しかし、フッ素樹脂層とシリコーンゴム層とは簡単に界面剥離した。なお、その接着強度は25gf/cmと低かった。
(比較例2)
実施例1においてエポキシシランの添加量を50gから5gに代えた以外は、実施例1と同様にしてフッ素樹脂複合積層体(定着ベルト)を作製し評価した。しかし、一部接着せずに浮きが見られた。
(比較例3)
実施例1においてエチレングリコールの添加量を700gから1,000gに、ポリエチレングリコールの添加量を300gから0gに代えた以外は、実施例1と同様にしてプライマー層を形成した。しかし、プライマー層のフッ素樹脂粉末が結着していないため、フッ素樹脂粉末がプライマー層から容易に脱落してしまった。
(比較例4)
実施例4おいてエポキシシランである(3−グリシドキシプロピル)メチルジメトキシシランの添加量を50gから5gに代えた以外は、実施例4と同様にしてフッ素樹脂複合積層体(定着ベルト)を作製し評価を行った。しかし、一部接着せずに浮きが見られた。
(比較例5)
実施例5においてエポキシシランである2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランの添加量を50gから5gに代えた以外は、実施例5と同様にしてフッ素樹脂複合積層体(定着ベルト)を作製し評価を行った。しかし、一部接着せずに浮きが見られた。
(比較例6)
実施例1において熱溶融性フッ素樹脂粉末の添加量を150gから5gに代えた以外は、実施例1と同様にしてプライマー層を形成した。しかしながら、プライマー層の表面粗度が低すぎて、水をはじいてしまい、フッ素樹脂水性塗料を塗布することができなかった。
(比較例7)
実施例1において数平均分子量200のポリエチレングリコールに代えて、数平均分子量1,000のポリエチレングリコールを用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例1と同様にして、フッ素樹脂複合積層体(定着ベルト)を作製した。しかしながら、塗膜に多数のピンホール欠陥が存在した。
【0053】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明のプライマー組成物は、シリコーンゴムなど、表面張力が低く濡れ難い材料であても、直接塗布でき強固に接着することができる。また、本発明のフッ素樹脂複合積層体は電子写真画像形成装置の定着ベルトとして好適に用いることができ、プリンターや複写機の耐久性を大幅に延ばせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に係るフッ素樹脂複合積層体を用いる定着装置を示す概略図である。
【図2】本発明に係る定着ベルトの概略断面図である。
【図3】本発明に係るプライマー組成物の接着強度の測定試験を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0056】
1,10 フッ素樹脂複合積層体(定着ベルト)
11 シリコーンゴム層
13 フッ素樹脂層
14 プライマー層
17 試料取付け治具
18 支持台
19 心棒
20 測定サンプル
21 接着テープ
22 粘着テープ
23 切れ目
24 引張試験機チャック
50 接着強度試験機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が5μm以上50μm以下である熱溶融性フッ素樹脂粉末と、
常圧における沸点が200℃未満であるジオールと、
ポリエチレングリコールと、
エポキシシランと
を含有するプライマー組成物。
【請求項2】
前記熱溶融性フッ素樹脂粉末は、テトラフルオロエチレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(EPE)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、及びクロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)より成る群から選ばれる少なくとも1つである
請求項1に記載のプライマー組成物。
【請求項3】
前記熱溶融性フッ素樹脂粉末の濃度は、前記ジオール及びポリエチレングリコールの合計重量に対して5重量%以上50重量%以下である
請求項1または2に記載のプライマー組成物。
【請求項4】
前記ジオールは、エチレングリコール、プロピレングリコール、又は前記エチレングリコール及び前記プロピレングリコールの混合物である
請求項1から3のいずれかに記載のプライマー組成物。
【請求項5】
前記ポリエチレングリコールの数平均分子量は、200以上1,000未満である、
請求項1から4のいずれかに記載のプライマー組成物。
【請求項6】
前記エポキシシランは、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)トリエトキシシラン、5,6−エポキシヘキシルトリエトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)メチルジエトキシシラン、(3−グリシドキシプロピル)メチルジメトキシシラン、及び(3−グリシドキシプロピル)ジメチルジエトキシシランより成る群から選ばれる少なくとも1つである、
請求項1から5のいずれかに記載のプライマー組成物。
【請求項7】
前記エポキシシランの濃度は、前記ジオール及びポリエチレングリコールの合計重量に対して1重量%以上10重量%以下である、
請求項1から6のいずれかに記載のプライマー組成物。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載のプライマー組成物を基材上に形成してなるプライマー層と、
前記プライマー層の上に形成されるフッ素樹脂層と
を含むフッ素樹脂複合積層体。
【請求項9】
請求項1から7のいずれかに記載のプライマー組成物を基材上に形成してなるプライマー層と、
前記プライマー層の上に形成されるフッ素樹脂層と
を含む電子写真画像形成装置の定着ベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−119734(P2007−119734A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−254872(P2006−254872)
【出願日】平成18年9月20日(2006.9.20)
【出願人】(391059399)株式会社アイ.エス.テイ (102)
【Fターム(参考)】