説明

プラスチック眼鏡レンズ

【課題】プラスチック基材上にプライマー層を形成後、そのプライマー層上にハードコート層を形成し、更にそのハードコート層上に所定の層の膜厚を厚くした反射防止膜を凸面と凹面に形成したプラスチックレンズは耐衝撃性が低いという問題を有する。
【解決手段】プラスチック基材上にプライマー層を形成後、そのプライマー層上にハードコート層を形成し、更にそのハードコート層上に形成した反射防止膜であって凸面側の特定の低屈折率層の光学的膜厚と凹面側の特定の低屈折率層率層の光学的膜厚を所定の範囲で形成することで、傷がつきやすいプラスチックレンズ凸面の硬度、膜の密着性、干渉色、さらには耐衝撃性においても優れた特性を得ることができた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射防止膜およびそれを設けたプラスチックレンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズを眼鏡として用いる場合、軽さと加工のしやすさというメリットがある一方、硬さが不足しているため傷つきやすいことが問題であった。対策として、プラスチックレンズの表面に金属酸化物の微粒子と有機ケイ素化合物からなるハードコート層を成膜することが広く行われている。また、その上に表面で起こる光の反射を抑える目的で、プラスチックレンズ上のハードコート表面に反射防止膜を成膜することが一般的になってきている。しかも反射防止膜を構成する物質はSiO2やZrO2等の金属酸化物であることから、本来の反射防止効果の他に、レンズ表面の硬さを高める効果にも大きく関与している。反射防止膜により所望の表面硬さを得る方法として、成膜手法を工夫して硬度を高める方法と膜厚を厚くする方法が考えられる。一般的には、多層膜のうち所定の層の膜厚を厚くする方法が採用されている。
このような反射防止膜については、次のような先行技術文献がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−30703号公報
【特許文献2】特開2002−122820号公報
【特許文献3】特開2003−294906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、プラスチックレンズ基材上にプライマー層を形成後、そのプライマー層上にハードコート層を形成し、更にそのハードコート層上に特許技術文献1〜3にあるような特定の層の膜厚を厚くした反射防止膜を凸面と凹面に形成したプラスチックレンズは耐衝撃性が低いという問題を有する。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので傷つきやすいプラスチックレンズの凸面硬度、膜の密着性、良好な干渉色さらには耐衝撃性を確保できるプラスチックレンズ反射防止膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記反射防止膜の問題点を解決するため鋭意検討を行ったところ、プラスチックレンズ基材上にプライマー層を形成後、前記プライマー層上にハードコート層を形成し、更に前記ハードコート層上に積層してなる反射防止膜において、凸面側の特定の低屈折率層の光学的膜厚と凹面側の特定の低屈折率層率層の光学的膜厚を所定の範囲の値とすることで傷がつきやすいプラスチックレンズ凸面の硬度、膜の密着性、干渉色、さらには耐衝撃性においても優れた特性が得られることを見いだした。
【0007】
第1の発明は、プラスチックレンズ基材上にプライマー層を形成後、前記プライマー層上にハードコート層を形成し、更に前記ハードコート層上に低屈折率層と高屈折率層を交互に積層してなる反射防止膜であって、前記反射防止膜が、設計主波長λ0の範囲が480nm以上560nm以下であり、最も基材側にある層を第1層として順に外側へ向けて、奇数層を低屈折率層、偶数層を高屈折率層とし、低屈折率層はSiO2層によって構成され、高屈折率層はTiO2、Nb25、Ta25、ZrO2、LaTiO3から選ばれる1つの物質から成る層によって構成され、かつレンズの眼球側に向ける面とは逆の面である凸面側の特定の低屈折率層の光学的膜厚と眼球側に向ける面である凹面側の特定の低屈折率層の光学的膜厚が所定の範囲の値で形成されることを特徴とするプラスチックレンズを提供する。
【0008】
第2の発明は第1の発明記載の反射防止膜において凸面側が5層からなる反射防止膜であり、凹面側が5層からなる反射防止膜であるとき、凸面側第1層目の低屈折率層の光学的膜厚が
0.350λ0 ≦ 低屈折率層の光学的膜厚 ≦ 0.650λ0
凹面側第1層目の低屈折率層の光学的膜厚が
0.030λ0 ≦ 低屈折率層の光学的膜厚 ≦ 0.300λ0
であることを特徴とするプラスチックレンズを提供する。
【0009】
第3の発明は第1の発明記載の反射防止膜において凸面側が5層からなる反射防止膜であり、凹面側が7層からなる反射防止膜であるとき、凸面側第1層目の低屈折率層の光学的膜厚が
0.350λ0 ≦ 低屈折率層の光学的膜厚 ≦ 0.650λ0
凹面側第1層目および第3層目の低屈折率層の光学的膜厚が
0.030λ0 ≦ 低屈折率層の光学的膜厚 ≦ 0.300λ0
であることを特徴とするプラスチックレンズを提供する。
【0010】
第4の発明は第1の発明記載の反射防止膜において凸面側が7層からなる反射防止膜であり、凹面側が5層からなる反射防止膜であるとき、凸面側第1層目もしくは第3層目の低屈折率層の光学的膜厚が
0.350λ0 ≦ 低屈折率層の光学的膜厚 ≦ 0.650λ0
凹面側第1層目の低屈折率層の光学的膜厚が
0.030λ0 ≦ 低屈折率層の光学的膜厚 ≦ 0.300λ0
であることを特徴とするプラスチックレンズを提供する。
【0011】
第5の発明は第1の発明記載の反射防止膜において凸面側が7層からなる反射防止膜であり、凹面側が7層からなる反射防止膜であるとき、凸面側第1層目もしくは第3層目の低屈折率層の光学的膜厚が
0.350λ0 ≦ 低屈折率層の光学的膜厚 ≦ 0.650λ0
凹面側第1層目および第3層目の低屈折率層の光学的膜厚が
0.030λ0 ≦ 低屈折率層の光学的膜厚 ≦ 0.300λ0
であることを特徴とするプラスチックレンズを提供する。
【0012】
第1〜第5の発明は傷がつきやすいプラスチックレンズ凸面の硬度、密着性、さらには耐衝撃性においても優れたプラスチックレンズ眼鏡を提供する。
【0013】
低屈折率層であるSiO2はTiO2、Nb25、Ta25、ZrO2、LaTiO3等の高屈折率層に比べ硬度に優れているため、特定の低屈折率層の膜厚を厚くすることで耐擦傷性を向上することができる。良好な干渉色を得るためには反射防止膜が5層膜の場合第1層目、反射防止膜が7層の場合第1層目もしくは第3層目の低屈折率層を厚くする必要があるが、反射防止膜が7層の場合第1層目と第3層目の低屈折率層を同時に厚くすると良好な干渉色は得られない。ただし、特定の低屈折率層を厚くすると反射防止膜の柔軟性がなくなり耐衝撃性は低下する。また、実験を進めていくなかで、耐衝撃性は凸面の反射防止膜には影響されず、凹面の反射防止膜に大きく影響され、さらに低屈折率層の膜厚を厚くしすぎると反射防止膜とハードコートの密着性が低下し、逆に低屈折率層の膜厚を薄くしすぎても反射防止膜とハードコートの密着性が低下することも判明した。
【0014】
第1から第5の発明によれば凸面側の反射防止膜が5層の場合は第1層目の低屈折率層を、反射防止膜が7層の場合は第1層もしくは第3層の低屈折率層を所定の範囲内で厚くすることにより傷がつきやすいプラスチックレンズ凸面の硬度、膜の密着性、良好な干渉色を確保し、凹面側の反射防止膜が5層の場合は第1層目の低屈折率層を、反射防止膜が7層の場合は第1層もしくは第3層の低屈折率層を所定の範囲内で薄くすることにより膜の密着性、良好な干渉色、および耐衝撃性を確保することに成功した。
【0015】
第6の発明は耐衝撃性、耐水性、塗膜とレンズ基材の密着性に優れたプラスチック眼鏡レンズを提供する。第6の発明によればプライマー層をレンズ基材とハードコートの間に設けることでプライマー層が衝撃を吸収し、耐衝撃性が向上する。また水性化アクリル−ウレタン樹脂やポリエステル系熱可塑性エラストマーは耐候性、耐水性に優れ、さらにはハードコートとレンズ基材の接着剤的な働きもすることでハードコートとレンズ基材の密着性も向上する。
【0016】
第7の発明は第1から第6の発明記載のプラスチックレンズにおいて、ハードコート層が少なくとも下記の成分(A)、(B)を主成分とすること特徴とするプラスチックレンズを提供する。
【0017】
(A).粒径1〜100nmのAl,Sn,Sb,Ta,Ce,La,Fe,Zn,W,Zr,In,Tiから選ばれる1種以上の金属酸化物からなる微粒子および/またはSi,Al,Sn,Sb,Ta,Ce,La,Fe,Zn,W,Zr,In,Tiから選ばれる2種以上の金属酸化物から構成される複合微粒子。
【0018】
(B).一般式 R12nSiX3-n (1)
で表される有機ケイ素化合物(式中、R1は重合可能な反応基を有する有機基、R2は炭素数1〜6の炭化水素基である。Xは加水分解性基であり、nは0または1である。) 第7の発明によれば上記組成のハードコートとすること耐擦傷性、耐水性、耐光性に優れ、プライマー層とハードコート層、およびハードコート層と反射防止膜の密着性を確保できる。
【0019】
第8の発明は第7の発明記載のハードコートにおいて下記(C)成分を含有することを特徴とするプラスチックレンズを提供する。
【0020】
(C)多官能性エポキシ化合物
第8の発明によればハードコートに(C)成分を含有させることでハードコートの染色性を確保できる。
【0021】
プラスチックレンズ基材上にプライマー層を形成後、前記プライマー層上にハードコート層を形成し、更に前記ハードコート層上に積層してなる反射防止膜において、凸面側の特定の低屈折率層の光学的膜厚と凹面側の特定の低屈折率層率層の光学的膜厚を所定の範囲の値で形成することで傷がつきやすいプラスチックレンズ凸面の硬度、膜の密着性、干渉色、さらには耐衝撃性においても優れたプラスチックレンズを提供することを可能とした。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0023】
本発明のプラスチックレンズは上述したように、プラスチック基材上にプライマー層を形成後、そのプライマー層上にハードコート層を形成し、更にそのハードコート層上に反射防止膜を形成した構造を有する。
【0024】
プラスチックレンズ基材としては、特に制限されないが、(メタ)アクリル樹脂をはじめとしてスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR−39)等のアリルカーボネート樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、イソシアネート化合物とジエチレングリコールなどのヒドロキシ化合物との反応で得られたウレタン樹脂、イソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させたチオウレタン樹脂、分子内に1つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物を含有する重合性組成物を硬化して得られる透明樹脂等を例示することができる。
【0025】
また、反射防止膜によりプラスチックレンズ表面の硬さを高める目的で反射防止膜の膜厚を厚くする場合、SiO2から成る低屈折率層とTiO2、Nb25、Ta25、ZrO2、LaTiO3といった高屈折率物質から成る層のどちらの膜厚を厚くした方が効果的であるかを調べたところ、SiO2から成る低屈折率層を厚くした方がプラスチックレンズ表面の硬さを高めるのに効果的であることが分かった。
【0026】
さらに、反射防止膜の凸面側が5層、凹面側が5層からなる場合、凸面側第1層目の低屈折率層の光学的膜厚が
0.350λ0 ≦ 低屈折率層の光学的膜厚 ≦ 0.650λ0
凹面側第1層目の低屈折率層の光学的膜厚が
0.030λ0 ≦ 低屈折率層の光学的膜厚 ≦ 0.300λ0
【0027】
反射防止膜の凸面側が5層、凹面側が7層からなる場合、凸面側第1層目の低屈折率層の光学的膜厚が
0.350λ0 ≦ 低屈折率層の光学的膜厚 ≦ 0.650λ0
凹面側第1層目および第3層目の低屈折率層の光学的膜厚が
【0028】
0.030λ0 ≦ 低屈折率層の光学的膜厚 ≦ 0.300λ0
反射防止膜の凸面側が7層、凹面側が5層からなる場合、凸面側第1層目もしくは第3層目の低屈折率層の光学的膜厚が
0.350λ0 ≦ 低屈折率層の光学的膜厚 ≦ 0.650λ0
凹面側第1層目の低屈折率層の光学的膜厚が
0.030λ0 ≦ 低屈折率層の光学的膜厚 ≦ 0.300λ0
【0029】
反射防止膜の凸面側が7層、凹面側が7層からなる反射防止膜であるとき、凸面側第1層目もしくは第3層目の低屈折率層の光学的膜厚が
0.350λ0 ≦ 低屈折率層の光学的膜厚 ≦ 0.650λ0
凹面側第1層目および第3層目の低屈折率層の光学的膜厚が
0.030λ0 ≦ 低屈折率層の光学的膜厚 ≦ 0.300λ0
の範囲の値であるとき凸面の硬度、膜の密着性、良好な干渉色を確保でき、さらに耐衝撃性を向上できることを見いだした。
【0030】
また、凸面の反射防止膜が5層からなる場合、第1層目の低屈折率層の光学的膜厚が、0.350λ0よりも薄いと耐擦傷性が低下し、0.650λ0よりも厚いとハードコートと反射防止膜の密着性が低下する。同様に、凸面の反射防止膜が7層からなる場合、第1層目もしくは第3層目の低屈折率層の光学的膜厚が0.350λ0よりも薄いと耐擦傷性が低下し、0.650λ0よりも厚いとハードコートと反射防止膜の密着性が低下する。
【0031】
凹面の反射防止膜が5層からなる場合、第1層目の低屈折率層の光学的膜厚が、0.030λ0よりも薄いとハードコートと反射防止膜の密着性が低下し、0.300λ0よりも厚いと耐衝撃性が低下する。同様に、凹面の反射防止膜が7層からなる場合、第1層目および第3層目の低屈折率層の光学的膜厚が0.030λ0よりも薄いとハードコートと反射防止膜の密着性が低下し、0.300λ0よりも厚いと耐衝撃性が低下する。
【0032】
また、プライマー層としては、プラスチックレンズの耐衝撃性を向上できる上、耐水性、耐光性に優れ、しかも、後述するハードコート層との密着性に優れる水性化アクリル−ウレタン樹脂又はポリエステル系熱可塑性エラストマーが好ましい。
【0033】
また、ハードコート層は、少なくとも下記の成分(A)、(B)を含有することを特徴とする。本発明で使用する(A)成分の粒径1〜100nmのAl,Sn,Sb,Ta,Ce,La,Fe,Zn,W,Zr,In,Tiから選ばれる1種以上の金属酸化物からなる微粒子および/またはSi,Al,Sn,Sb,Ta,Ce,La,Fe,Zn,W,Zr,In,Tiから選ばれる2種以上の金属酸化物から構成される複合微粒子の具体的例としては、SiO2,Al23,SnO2,Sb25,Ta25、CeO2,La23,Fe23,ZnO,WO3,ZrO2,In23,TiO2の無機酸化物微粒子が分散媒たとえば水、アルコール系もしくはその他の有機溶媒にコロイド状に分散させたものである。または、これら無機酸化物の2種以上によって構成される複合微粒子が水、アルコール系もしくはその他の有機溶媒にコロイド状に分散したものである。いずれも粒子径は約1〜100nmが好適であり、本発明のコーティング組成物への適用種及び使用量は目的とする被膜性能により決定されるものであるが、使用量は固形分の10〜50重量%であることが望ましい。すなわち、10重量%未満では、無機反射防止膜との密着性が不充分となるか、もしくは、塗膜の耐擦傷性が不充分となる。また50重量%を越えると、塗膜にクラックが生じる。
【0034】
(B)一般式 R12nSiX3-n (1)
で表される有機ケイ素化合物はビヒクル成分として機能するものである。一般式においてR1は重合可能な反応基を有する有機基であり、重合可能な反応基としては、例えばビニル基,アリル基,アクリル基,メタクリル基,エポキシ基,メルカプト基,シアノ基,イソシアノ基,アミノ基等を例示することができる。R2は炭素数1〜6の炭化水素基であり、その具体例としては、メチル基,エチル基,ブチル基,ビニル基,フェニル基等が挙げられる。また、Xは加水分解可能な官能基であり、その具体的なものとして、メトキシ基,エトキシ基,メトキシエトキシ基等のアルコキシ基、クロロ基,ブロモ基等のハロゲン基、アシルオキシ基等が挙げられる。
【0035】
(B)成分の有機ケイ素化合物としては、例えば、ビニルトリアルコキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、アリルトリアルコキシシラン、アクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルトリアルコキシシラン、メタクリルオキシプロピルジアルコキシメチルシラン、γ−グリシドオキシプロピルトリアルコキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリアルコキシシラン、メルカプトプロピルトリアルコキシシラン、γ−アミノプロピルトリアルコキシシラン、N−β(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジアルコキシシラン等がある。この(B)成分は、2種以上混合して用いてもかまわない。また、加水分解を行なってから用いた方がより有効である。
【0036】
(B)成分の使用量は、ハードコート組成物中の固形分の10〜70重量%、特に20〜60重量%の範囲であることが望ましい。配合量が少なすぎると、反射防止膜との密着性が不十分となりやすい場合がある。一方、配合量が多すぎると、硬化被膜にクラックを生じさせる原因となる場合がある。
また、被膜の染色性を向上させるために(C)成分を含有することも可能である。(C)成分の多官能性エポキシ化合物は、ハードコート層の染色成分として機能するものである。多官能性エポキシ化合物は、上述したプライマー層の水性化アクリル−ウレタン樹脂及びポリエステル系熱可塑性エラストマーに対して特異的に密着性に優れる。更に、プライマー層の存在により、可染タイプのハードコート層を単層でプラスチックレンズ基材上に形成した場合よりも、染色性が非常に高くなる。そのため、プライマー層を設けた場合は、可染タイプのハードコート中の多官能性エポキシ化合物の配合量を減らすことが可能で、十分な染色性を確保した上で、より硬さ、即ち耐擦傷性の向上したプラスチックレンズが得られる。また、多官能性エポキシ化合物は、ハードコート層の耐水性、耐温水性を向上させることが可能であり、染色時に高温の染色液に長時間浸漬されても、クラックの発生を効果的に抑制することができる。
【0037】
多官能性エポキシ化合物は、接着剤、注型用などに広く実用されており、例えば過酸化法で合成されるポリオレフィン系エポキシ樹脂、シクロペンタジエンオキシドやシクロヘキセンオキシドあるいはヘキサヒドロフタル酸とエピクロルヒドリンから得られるポリグリシジルエステルなどの脂環式エポキシ樹脂、ビスフェノールAやカテコール、レゾシノールなどの多価フェノールあるいは(ポリ)エチレングリコール、(ポリ)プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセロール、ソルビトールなどの多価アルコールとエピクロルヒドリンから得られるポリグリシジルエーテル、エポキシ化植物油、ノボラック型フェノール樹脂とエピクロルヒドリンから得られるエポキシノボラック、フェノールフタレインとエピクロルヒドリンから得られるエポキシ樹脂、グリシジルメタクリレートとメチルメタクリレートアクリル系モノマーあるいはスチレンなどの共重合体、さらには上記エポキシ化合物とモノカルボン酸含有(メタ)アクリル酸とのグリシジル基開環反応により得られるエポキシアクリレートなどが挙げられる。
【0038】
多官能性エポキシ化合物の具体例としては、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、テトラエチレングリコールジグリシジルエーテル、ノナエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、テトラプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ノナプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールヒドロキシヒバリン酸エステルのジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールジグリシジルエーテル、ジグリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールテトラグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールトリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ジペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ソルビトールテトラグリシジルエーテル、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのジグリシジルエーテル、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのトリグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ化合物、イソホロンジオールジグリシジルエーテル、ビス−2,2−ヒドロキシシクロヘキシルプロパンジグリシジルエーテル等の脂環族エポキシ化合物、レゾルシンジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、オルトフタル酸ジグリシジルエステル、フェノールノボラックポリグリシジルエーテル、クレゾールノボラックポリグリシジルエーテル等の芳香族エポキシ化合物等が挙げられる。
【0039】
このようにして得られるハードコート用組成物は、必要に応じ、溶剤に希釈して用いることができる。溶剤としては、アルコール類、エステル類、ケトン類、エーテル類、芳香族類等の溶剤が用いられる。
【0040】
尚、本発明のハードコート組成物は上記成分の他に必要に応じて、少量の界面活性剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、分散染料・油溶染料・蛍光染料・顔料、フォトクロミック化合物、ヒンダードアミン・ヒンダードフェノール系等の耐光耐熱安定剤等を添加しハードコート液の塗布性および硬化後の被膜性能を改良することもできる。特に紫外線吸収剤、酸化防止剤やヒンダードアミン、ヒンダードフェノール系等の耐光耐熱安定剤から選ばれる1種、もしくは2種以上を添加することによりハードコート被膜に優れた耐候性を付与することが可能である。
【0041】
ハードコート組成物の塗布・硬化方法としては、ディッピング法、スピンナー法、スプレー法あるいはフロー法によりプライマー層を形成したプラスチックレンズ基材にハードコート組成物を塗布した後、40〜200℃の温度で数時間加熱乾燥することにより、被膜を形成することができる。
【0042】
ハードコート層の膜厚としては0.05〜30μm、特に0.1〜20μm程度の範囲がよい。薄くなりすぎると基本的な性能が発現しない場合があり、一方厚すぎると、光学的歪みが発生する場合がある。以下、実施例により更に詳細に説明する。
(実施例1)
(1−1)プライマー層の形成
メタノール626.2g、市販の水性エマルジョンポリウレタン(日華化学(株)製、商品名「ネオステッカー700」、固形分濃度37%)221.8gを混合した後、メタノール分散二酸化チタン一五酸化アンチモン−二酸化ケイ素複合微粒子ゾル(触媒化成工業(株)製、固形分濃度20wt%)309.6g、シリコン系界面活性剤(日本ユニカー株式会社製、商品名「L−7604」)0.25gを混合してよく攪拌してプライマー液とした。
【0043】
このプライマー組成物をセイコースーパーソブリン(商品名)用プラスチックレンズ基材(セイコーエプソン株式会社製、屈折率1.67)上に浸漬法(引き上げ速度15cm/min)にて塗布した。塗布した基材レンズは100℃で20分間加熱硬化処理して基材上に膜厚1.0μm、屈折率1.67のプライマー層を形成させた。
【0044】
(1−2)ハードコート層の形成
メタノール78g、ブチルセロソルブ100.3g、メタノール分散二酸化チタン一五酸化アンチモン−二酸化ケイ素複合微粒子ゾル(触媒化成工業(株)製、固形分濃度20重量%)1380.9g、メタノール分散コロイド状シリカ(触媒化成工業(株)製、商品名「オスカル1132」、固形分濃度30重量%)61.42gを混合した後、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン289.9gを混合した。この混合液に0.05N塩酸水溶液80.1gを撹拌しながら滴下し、さらに4時間撹拌後一昼夜熟成させた。この液に過塩素酸マグネシウム4.4g、シリコン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製、商品名「L−7001」)0.6gおよびヒンダードアミン系光安定剤(三共(株)製、商品名「サノールLS−770」)2.3gを添加し4時間撹拌後一昼夜熟成させて塗液とした。
【0045】
このハードコート組成物を(1−1)プライマー層の形成で得られたプライマー層上に浸漬法(引き上げ速度25cm/min)にて塗布した。塗布した基材レンズは80℃で30分間加熱硬化処理後、120℃で180分間の加熱硬化処理を行った。このようにしてプライマー層上に膜厚2.2μm、屈折率1.67のハードコート層を形成させた。
【0046】
(1−3)凸面反射防止膜の形成
SiO2層の成膜は、真空蒸着法(真空度1.0×10-4Pa)で行った。Ta25層の成膜は、酸素イオンアシスト蒸着法(真空度6.0×10-3Pa)で行った。Ta25層を酸素イオンアシスト蒸着で成膜するときのイオンアシスト条件は加速電圧550V、加速電流値290mAで真空度は酸素を導入して6.0×10-3Paを保持するようにした。基材側から数えて、第1層は0.450λ0の光学膜厚を持つSiO2層(屈折率1.46)、第2層は0.122λ0の光学膜厚を持つTa25層(屈折率2.20)、第3層は0.049λ0の光学膜厚を持つSiO2層、第4層は0.305λ0の光学膜厚を持つTa25層、第5層は0.263λ0の光学膜厚を持つSiO2層を順次積層してなる反射防止膜を(1−2)ハードコート層の形成で得られたレンズの凸面上に形成した。
【0047】
(1−4)凹面反射防止膜の形成
SiO2層の成膜は、真空蒸着法(真空度2.0×10-4Pa)で行った。TiO2層の成膜は、酸素イオンアシスト蒸着法(真空度4.0×10-3Pa)で行った。TiO2層を酸素イオンアシスト蒸着で成膜するときのイオンアシスト条件は加速電圧520V、加速電流値270mAで真空度は酸素を導入して4.0×10-3Paを保持するようにした。基材側から数えて、第1層は0.080λ0の光学膜厚を持つSiO2層(屈折率1.46)、第2層は0.071λ0の光学膜厚を持つTiO2層(屈折率2.40)、第3層は0.094λ0の光学膜厚を持つSiO2層、第4層は0.235λ0の光学膜厚を持つTiO2層、第5層は0.040λ0の光学膜厚を持つSiO2層、第6層は0.165λ0の光学膜厚を持つTiO2層、第7層は0.248λ0の光学膜厚を持つSiO2層を順次積層してなる反射防止膜を(1−2)ハードコート層の形成で得られたレンズの凹面上に形成し、プラスチックレンズとした。
(実施例2)
(2−1)プライマー層とハードコート層の形成
実施例−1と同様の方法でセイコースーパーソブリン(商品名)用プラスチックレンズ基材(セイコーエプソン株式会社製、屈折率1.67)上にプライマー層とハードコート層を形成した。
【0048】
(2−2)凸面反射防止膜の形成
SiO2層の成膜は、真空蒸着法(真空度2.0×10-4Pa)で行った。LaTiO3層の成膜は、酸素イオンアシスト蒸着法(真空度4.0×10-3Pa)で行った。LaTiO3層を酸素イオンアシスト蒸着で成膜するときのイオンアシスト条件は加速電圧520V、加速電流値270mAで真空度は酸素を導入して4.0×10-3Paを保持するようにした。基材側から数えて、第1層は0.400λ0の光学膜厚を持つSiO2層(屈折率1.46)、第2層は0.115λ0の光学膜厚を持つLaTiO3層(屈折率2.14)、第3層は0.049λ0の光学膜厚を持つSiO2層、第4層は0.288λ0の光学膜厚を持つLaTiO3層、第5層は0.250λ0の光学膜厚を持つSiO2層を順次積層してなる反射防止膜を(2−1)プライマー層とハードコート層の形成で得られたレンズの凸面上に形成した。
【0049】
(2−3)凹面反射防止膜の形成
SiO2層の成膜は、真空蒸着法(真空度4.0×10-4Pa)で行った。TiO2層の成膜は、酸素イオンアシスト蒸着法(真空度5.0×10-3Pa)で行った。TiO2層を酸素イオンアシスト蒸着で成膜するときのイオンアシスト条件は加速電圧500V、加速電流値250mAで真空度は酸素を導入して5.0×10-3Paを保持するようにした。基材側から数えて、第1層は0.033λ0の光学膜厚を持つSiO2層(屈折率1.46)、第2層は0.080λ0の光学膜厚を持つTiO2層(屈折率2.40)、第3層は0.098λ0の光学膜厚を持つSiO2層、第4層は0.538λ0の光学膜厚を持つTiO2層、第5層は0.265λ0の光学膜厚を持つSiO2層を順次積層してなる反射防止膜を(2−1)プライマー層とハードコート層の形成で得られたレンズの凹面上に形成し、プラスチックレンズとした。
(実施例3)
(3−1)プライマー層の形成
市販の水性ポリエステル「A−160P」(高松油脂株式会社製、固形分濃度25%)572.0g、メタノール854.1.6g、水54.5g、メタノール分散二酸化チタン−二酸化ジルコニウム−二酸化ケイ素複合微粒子ゾル(触媒化成工業(株)製、商品名「オプトレイク1120Z(S−7・A8)、固形分濃度20重量%」)715.1を混合し、シリコン系界面活性剤(日本ユニカー株式会社製、商品名「L−7604」)0.44gを加え3時間攪拌した。このプライマー組成物をセイコープレステージ(商品名)用プラスチックレンズ基材(セイコーエプソン株式会社製、屈折率1.74)上に浸漬法(引き上げ速度15cm/min)にて塗布した。塗布した基材レンズは60℃で20分間加熱硬化処理して基材上に膜厚0.9μm、屈折率1.67のプライマー層を形成した。
【0050】
(3−2)ハードコート層の形成
ブチルセロソルブ601.9g、メタノール分散二酸化チタン−二酸化ジルコニウム−二酸化ケイ素複合微粒子ゾル(触媒化成工業(株)製、固形分濃度30重量%)399.7g、を混合した後、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン127.9gを混合した。この混合液に0.05N塩酸水溶液40gを撹拌しながら滴下し、さらに4時間撹拌後一昼夜熟成させた。この液に、グリセロールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製、商品名「デナコールEX−313」)29.5g添加した後、鉄(III)アセチルアセトネート2.9g、シリコン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製、商品名「L−7001」)0.2gを添加し4時間撹拌後一昼夜熟成させて塗液とした。
【0051】
このハードコート組成物を(3−1)プライマー層の形成で得られたプライマー層上に浸漬法(引き上げ速度35cm/min)にて塗布した。塗布した基材レンズは90℃で20分間加熱硬化処理後、125℃で120分間の加熱硬化処理を行った。このようにしてプライマー層上に膜厚1.9μm、屈折率1.67のハードコート層を形成させた。
【0052】
(3−3)凸面反射防止膜の形成
SiO2層の成膜は、真空蒸着法(真空度1.0×10-4Pa)で行った。Ta25層の成膜は、酸素イオンアシスト蒸着法(真空度6.0×10-3Pa)で行った。Ta25層を酸素イオンアシスト蒸着で成膜するときのイオンアシスト条件は加速電圧550V、加速電流値290mAで真空度は酸素を導入して6.0×10-3Paを保持するようにした。基材側から数えて、第1層は0.084λ0の光学膜厚を持つSiO2層(屈折率1.46)、第2層は0.026λ0の光学膜厚を持つTa25層(屈折率2.20)、第3層は0.491λ0の光学膜厚を持つSiO2層、第4層は0.133λ0の光学膜厚を持つTa25層、第5層は0.082λ0の光学膜厚を持つSiO2層、第6層は0.194λ0の光学膜厚を持つTa25層、第7層は0.298λ0の光学膜厚を持つSiO2層を順次積層してなる反射防止膜を(3−2)ハードコート層の形成で得られたレンズの凸面上に形成した。
【0053】
(3−4)凹面反射防止膜の形成
SiO2層の成膜は、真空蒸着法(真空度2.0×10-4Pa)で行った。Nb25層の成膜は、酸素イオンアシスト蒸着法(真空度4.0×10-3Pa)で行った。Nb25層を酸素イオンアシスト蒸着で成膜するときのイオンアシスト条件は加速電圧520V、加速電流値270mAで真空度は酸素を導入して4.0×10-3Paを保持するようにした。基材側から数えて、第1層は0.031λ0の光学膜厚を持つSiO2層(屈折率1.46)、第2層は0.065λ0の光学膜厚を持つNb25層(屈折率2.30)、第3層は0.097λ0の光学膜厚を持つSiO2層、第4層は0.521λ0の光学膜厚を持つNb25層、第5層は0.260λ0の光学膜厚を持つSiO2層を順次積層してなる反射防止膜を(3−2)ハードコート層の形成で得られたレンズの凹面上に形成し、プラスチックレンズとした。
(実施例4)
(4−1)プライマー層とハードコート層の形成
実施例−3と同様の方法でセイコープレステージ(商品名)用プラスチックレンズ基材(セイコーエプソン株式会社製、屈折率1.74)上にプライマー層とハードコート層を形成した。
【0054】
(4−2)凸面反射防止膜の形成
SiO2層の成膜は、真空蒸着法(真空度2.0×10-4Pa)で行った。TiO2層の成膜は、イオンアシスト蒸着法(真空度4.0×10-3Pa)で行った。TiO2層をイオンアシスト蒸着で成膜するときのイオンアシスト条件は加速電圧520V、加速電流値270mAで、真空度は酸素を導入して4.0×10-3Paを保持するようにした。基材側から数えて、第1層は0.075λ0の光学膜厚を持つSiO2層(屈折率1.46)、第2層は0.030λ0の光学膜厚を持つTiO2層(屈折率2.40)、第3層は0.563λ0の光学膜厚を持つSiO2層、第4層は0.135λ0の光学膜厚を持つTiO2層、第5層は0.080λ0の光学膜厚を持つSiO2層、第6層は0.170λ0の光学膜厚を持つTiO2層、第7層は0.283λ0の光学膜厚を持つSiO2層を順次積層してなる反射防止膜を(4−1)プライマー層とハードコート層の形成で得られたレンズの凸面上に形成した。
【0055】
(4−3)凹面反射防止膜の形成
SiO2層の成膜は、真空蒸着法(真空度2.0×10-4Pa)で行った。ZrO2層の成膜は、真空度4.0×10-3Paで行った。第1層は0.088λ0の光学膜厚を持つSiO2層(屈折率1.46)、第2層は0.159λ0の光学膜厚を持つZrO2層(屈折率2.05)、第3層は0.050λ0の光学膜厚を持つSiO2層、第4層は0.270λ0の光学膜厚を持つZrO2層、第5層は0.265λ0の光学膜厚を持つSiO2層を順次積層してなる反射防止膜を(4−1)プライマー層とハードコート層の形成で得られたレンズの凹面上に形成し、プラスチックレンズとした。
(実施例5)
(5−1)プライマー層の形成
市販の水性ポリエステル「A−163G」(高松油脂株式会社製、固形分濃度28%)125.0g、ブチルセロソルブ354.7g、水43.9g、メタノール分散二酸化チタン−二酸化ジルコニウム−二酸化ケイ素複合微粒子ゾル(触媒化成工業(株)製、商品名「オプトレイク1120Z(S−7・A8)、固形分濃度20重量%」)175.0gを混合し、シリコン系界面活性剤(日本ユニカー株式会社製、商品名「L−7604」)0.14gを加え3時間攪拌した。このプライマー組成物をセイコースーパールーシャス(商品名)用プラスチックレンズ基材(セイコーエプソン株式会社製、屈折率1.60)上に浸漬法(引き上げ速度20cm/min)にて塗布した。塗布した基材レンズは80℃で20分間加熱硬化処理して基材上に膜厚1.1μm、屈折率1.60のプライマー層を形成した。
【0056】
(5−2)ハードコート層の形成
イソプロピルセロソルブ295.4gおよびメタノール分散二酸化スズ−二酸化タングステン複合微粒子ゾル(日産化学工業(株)製、固形分濃度30wt%)364.3gを混合した後、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン16.1g、テトラメトキシシラン7.2g、およびγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン67.2gを混合した。この混合液に0.1N塩酸水溶液35.1gを撹拌しながら滴下した。さらに5時間撹拌後一昼夜熟成させた。この液に1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製、商品名「デナコールEX−212」)14.5gおよびFe(III)アセチルアセトネート1.5g、シリコン系界面活性剤(日本ユニカー(株)製、商品名「L−7604」)0.3gを添加し4時間撹拌後一昼夜熟成させて塗液とした。
【0057】
このハードコート組成物を(5−1)プライマー層の形成で得られたプライマー層上にスプレー法にて塗布を行なった。
【0058】
スプレーは、イワタワイダー61(岩田塗装機(株)製;ノズル口径1mm)を用い、スプレー圧力3Kg/平方cm、塗料吐出量100ml/minでおこなった。
【0059】
塗布後80℃で20分間風乾後、130℃で2時間焼成を行なった。このようにしてプライマー層上に厚み約2.5μm、屈折率1.60のハードコート層を形成させた。
【0060】
(5−3)凸面反射防止膜の形成
SiO2層の成膜は、真空蒸着法(真空度2.0×10-4Pa)で行った。Nb25層の成膜は、酸素イオンアシスト蒸着法(真空度4.0×10-3Pa)で行った。Nb25層を酸素イオンアシスト蒸着で成膜するときのイオンアシスト条件は加速電圧520V、加速電流値270mAで真空度は酸素を導入して4.0×10-3Paを保持するようにした。基材側から数えて、第1層は0.475λ0の光学膜厚を持つSiO2層(屈折率1.46)、第2層は0.018λ0の光学膜厚を持つNb25層(屈折率2.30)、第3層は0.038λ0の光学膜厚を持つSiO2層、第4層は0.112λ0の光学膜厚を持つNb25層、第5層は0.090λ0の光学膜厚を持つSiO2層、第6層は0.143λ0の光学膜厚を持つNb25層、第7層は0.283λ0の光学膜厚を持つSiO2層を順次積層してなる反射防止膜を(5−2)ハードコート層の形成で得られたレンズの凸面上に形成した。
【0061】
(5−4)凹面反射防止膜の形成
SiO2層の成膜は、真空蒸着法(真空度3.0×10-4Pa)で行った。Ta25層の成膜は、酸素イオンアシスト蒸着法(真空度6.0×10-3Pa)で行った。Ta25層を酸素イオンアシスト蒸着で成膜するときのイオンアシスト条件は加速電圧460V、加速電流値220mAで真空度は酸素を導入して6.0×10-3Paを保持するようにした。基材側から数えて、第1層は0.102λ0の光学膜厚を持つSiO2層(屈折率1.46)、第2層は0.057λ0の光学膜厚を持つTa25層(屈折率2.20)、第3層は0.072λ0の光学膜厚を持つSiO2層、第4層は0.201λ0の光学膜厚を持つTa25層、第5層は0.025λ0の光学膜厚を持つSiO2層、第6層は0.204λ0の光学膜厚を持つTa25層、第7層は0.250λ0の光学膜厚を持つSiO2層を順次積層してなる反射防止膜を(5−2)ハードコート層の形成で得られたレンズの凹面上に形成し、プラスチックレンズとした。
(実施例6)
(6−1)プライマー層とハードコート層の形成
実施例−5と同様の方法でセイコースーパールーシャス(商品名)用プラスチックレンズ基材(セイコーエプソン株式会社製、屈折率1.60)上にプライマー層とハードコート層を形成した。
【0062】
(6−2)凸面反射防止膜の形成
SiO2層の成膜は、真空蒸着法(真空度4.0×10-4Pa)で行った。ZrO2層の成膜は、真空度4.0×10-3Paで行った。第1層は0.425λ0の光学膜厚を持つSiO2層(屈折率1.46)、第2層は0.125λ0の光学膜厚を持つZrO2層(屈折率2.05)、第3層は0.060λ0の光学膜厚を持つSiO2層、第4層は0.238λ0の光学膜厚を持つZrO2層、第5層は0.268λ0の光学膜厚を持つSiO2層を順次積層してなる反射防止膜を(6−1)プライマー層とハードコート層の形成で得られたレンズの凸面上に形成した。
【0063】
(6−3)凹面反射防止膜の形成
SiO2層の成膜は、真空蒸着法(真空度4.0×10-4Pa)で行った。LaTiO3層の成膜は、酸素イオンアシスト蒸着法(真空度4.5×10-3Pa)で行った。LaTiO3層を酸素イオンアシスト蒸着で成膜するときのイオンアシスト条件は加速電圧530V、加速電流値220mAで真空度は酸素を導入して4.5×10-3Paを保持するようにした。基材側から数えて、第1層は0.090λ0の光学膜厚を持つSiO2層(屈折率1.46)、第2層は0.075λ0の光学膜厚を持つLaTiO3層(屈折率2.14)、第3層は0.060λ0の光学膜厚を持つSiO2層、第4層は0.480λ0の光学膜厚を持つLaTiO3層、第5層は0.250λ0の光学膜厚を持つSiO2層を順次積層してなる反射防止膜を(6−1)プライマー層とハードコート層の形成で得られたレンズの凹面上に形成し、プラスチックレンズとした。
【0064】
(比較例1)
実施例1において凸面第1層目のSiO2層の光学膜厚を0.025λ0としたこと以外は全て同様の方法でプラスチックレンズを得た。
【0065】
(比較例2)
実施例2において凸面第1層目のSiO2層の光学膜厚を0.800λ0としたこと以外は全て同様の方法でプラスチックレンズを得た。
【0066】
(比較例3)
実施例3において凸面第3層目のSiO2層の光学膜厚を0.300λ0としたこと以外は全て同様の方法でプラスチックレンズを得た。
【0067】
(比較例4)
実施例5において凸面第1層目のSiO2層の光学膜厚を0.700λ0としたこと以外は全て同様の方法でプラスチックレンズを得た。
【0068】
(比較例5)
実施例4において凹面第1層目のSiO2層の光学膜厚を0.020λ0としたこと以外は全て同様の方法でプラスチックレンズを得た。
【0069】
(比較例6)
実施例1において凹面第3層目のSiO2層の光学膜厚を0.025λ0としたこと以外は全て同様の方法でプラスチックレンズを得た。
【0070】
(比較例7)
実施例5において凹面第3層目のSiO2層の光学膜厚を0.750λ0としたこと以外は全て同様の方法でプラスチックレンズを得た。
【0071】
(比較例8)
実施例6において凹面第1層目のSiO2層の光学膜厚を0.330λ0としたこと以外は全て同様の方法でプラスチックレンズを得た。
【0072】
これらの実施例、比較例で得られたプラスチックレンズについて、次の評価方法を行った。
【0073】
(a)耐衝撃性:16.3gの硬球を127cmの高さからレンズの凸面中心に自然落下させレンズに割れまたは、ひびが発生したものを×、発生のしないものを○とし、さらに鋼球の重量を2.7倍にして127cmの高さから落下させても割れまたは、ひびのないものについては◎とした。本試験に使用したレンズの中心厚はすべて1.1mmのものを使用した。
【0074】
(b)耐擦傷性:レンズ凸面にボンスター#0000スチールウール(日本スチールウール(株)製)で1kgの荷重をかけ、10往復表面を摩擦し、傷ついた程度を目視で観察した。
A:1cm*3cmの範囲に全く傷がつかない
B:上記範囲内に1〜10本の傷がつく
C:上記範囲内に10〜100本の傷がつく
D:無数の傷がついているが、平滑な表面が残っている
E:表面についた傷のため、平滑な表面が残っていない
【0075】
(c)耐候性:キセノンランプによるサンシャインウェザーメーターに250時間暴露した後の表面状態に変化のないものを○とした。
【0076】
(d)耐湿性:60℃×99%雰囲気に10日間放置した後、表面状態に変化のないものを○とした。
【0077】
(e)表面処理層の密着性:レンズ基材と表面処理層(ハードコート層および反射防止膜)の密着性は(c)と(d)の試験を行なったものについて、JIS D−0202に準じてクロスカットテープ試験によって行なった。即ち、ナイフを用い基材表面に1mm間隔に切れ目を入れ、1平方mmのマス目を100個形成させる。次に、その上ヘセロファン粘着テープ(ニチバン(株)製:商品名「セロテープ」(登録商標))を強く押し付けた後、表面から90度方向へ急に引っ張り剥離した後コート被層の残っているマス目を密着性指標として、目視で観察した。評価のランキングはA〜Dの4段階とした。
【0078】
A:碁盤目が100〜99残った状態(良好)
B:碁盤目が98〜95残った状態(比較的良好)
C:碁盤目が94〜65残った状態(やや不良)
D:碁盤目が64〜0残った状態(不良)
【0079】
(f)染色性(ハードコート塗布、焼成後のレンズで確認):92℃の純水1リットルに、セイコープラックスダイヤコート用染色剤アンバーDを2g分散させ染色液を調整した。この染色液に、蒸着前のレンズを5分間浸漬させ染色を行ない、全光線透過率が染色前と染色後の差が40%以上のものをA、40%以下のものをBとした。
結果は表1に示した。
【0080】
【表1】

比較例1は実施例1の凸面側反射防止膜の第1層目低屈折率層の光学的膜厚を0.350λ0よりも薄くした水準であり、比較例3は実施例3の凸面側反射防止膜の第3層目低屈折率層の光学的膜厚を0.350λ0よりも薄くした水準である。比較例1および3ともに実施例1から6に比べ耐擦傷性が低下している。従って、凸面側反射防止膜が5層膜のとき第1層目低屈折率層が、凸面側反射防止膜が7層のときは第1層目もしくは第3層目の低屈折率層の光学的膜厚が0.350λ0以上でないと優れた耐擦傷性が得られない。
【0081】
比較例2は実施例2の凸面側反射防止膜の第1層目低屈折率層目の光学的膜厚を0.650λ0よりも厚くした水準であり、比較例4は実施例5の凸面側反射防止膜の第1層目の光学的膜厚を0.650λ0よりも厚くした水準であり、比較例7は実施例5の凹面側反射防止膜の第3層目低屈折率膜の光学的膜厚を0.650λ0よりも厚くした水準である。また、比較例1は実施例1の凸面側反射防止膜の第1層目低屈折率層を0.030λ0よりも薄くした水準であり、比較例5は実施例4の凹面側反射防止膜の第1層目低屈折率層の光学的膜厚を0.030λ0よりも薄くした水準であり、比較例6は実施例1の凹面側の第3層目低屈折率層の光学的膜厚を0.030λ0よりも薄くした水準である。比較例1、比較例2、比較例4の凸面側の密着性は実施例1から6の凸面側の密着性に比べ程度が悪く比較例5、比較例6、比較例7の凹面側の密着性は実施例1から6の凹面側の密着性に比べ程度が悪い。従って、反射防止膜が5層膜のとき第1層目低屈折率層が、反射防止膜が7層のときは第1層目もしくは第3層目の低屈折率層の光学的膜厚が0.030λ0よりも厚く、0.650λ0よりも薄くないと優れた密着性が得られない。
【0082】
比較例7は実施例5の凹面側反射防止膜の第3層目低屈折率層の光学的膜厚を0.300λ0よりも厚くした水準であり、比較例8は実施例6の凸面側反射防止膜の第1層目低屈折率層の光学的膜厚を0.300λ0よりも厚くした水準である。比較例7および8ともに実施例1から6に比べ耐衝撃性が低下している。従って、凹面側反射防止膜が5層膜のとき第1層目低屈折率層が、凹面側反射防止膜が7層のときは第1層目もしくは第3層目の低屈折率層の光学的膜厚が0.300λ0以下でないと優れた耐衝撃性が得られない。
【0083】
実施例1、実施例2、比較例1、比較例2、比較例6はハードコートの組成に多官能エポキシ化合物を使用していないため染色性が得られていない。
【産業上の利用可能性】
【0084】
プラスチックレンズ凸面の硬度、密着性、耐衝撃性において優れた反射防止膜付きのプラスチック眼鏡レンズを提供することが可能となった。今後、反射防止膜付きのプラスチック眼鏡レンズで主流になりうる手法である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックレンズ基材上にプライマー層を形成後、前記プライマー層上にハードコート層を形成し、更に前記ハードコート層上に低屈折率層と高屈折率層を交互に積層してなる反射防止膜であって、前記反射防止膜が、設計主波長λ0の範囲が480nm以上560nm以下であり、最も基材側にある層を第1層として外側へ向けて順番に、奇数層を低屈折率層、偶数層を高屈折率層とし、低屈折率層はSiO2層によって構成され、高屈折率層はTiO2、Nb25、Ta25、ZrO2、LaTiO3から選ばれる1つの物質から成る層によって構成され、かつレンズの眼球側に向ける面とは逆の面である凸面側の特定の低屈折率層の光学的膜厚と眼球側に向ける面である凹面側の特定の低屈折率層の光学的膜厚が所定の範囲の値で形成されることを特徴とするプラスチックレンズ。
【請求項2】
請求項1記載の反射防止膜において凸面側が5層からなる反射防止膜であり、凹面側が5層からなる反射防止膜であるとき、凸面側第1層目の低屈折率層の光学的膜厚が
0.350λ0 ≦ 低屈折率層の光学的膜厚 ≦ 0.650λ0
凹面側第1層目の低屈折率層の光学的膜厚が
0.030λ0 ≦ 低屈折率層の光学的膜厚 ≦ 0.300λ0
であることを特徴とするプラスチックレンズ。
【請求項3】
請求項1記載の反射防止膜において凸面側が5層からなる反射防止膜であり、凹面側が7層からなる反射防止膜であるとき、凸面側第1層目の低屈折率層の光学的膜厚が
0.350λ0 ≦ 低屈折率層の光学的膜厚 ≦ 0.650λ0
凹面側第1層目および第3層目の低屈折率層の光学的膜厚が
0.030λ0 ≦ 低屈折率層の光学的膜厚 ≦ 0.300λ0
であることを特徴とするプラスチックレンズ。
【請求項4】
請求項1記載の反射防止膜において凸面側が7層からなる反射防止膜であり、凹面側が5層からなる反射防止膜であるとき、凸面側第1層目もしくは第3層目の低屈折率層の光学的膜厚が
0.350λ0 ≦ 低屈折率層の光学的膜厚 ≦ 0.650λ0
凹面側第1層目の低屈折率層の光学的膜厚が
0.030λ0 ≦ 低屈折率層の光学的膜厚 ≦ 0.300λ0
であることを特徴とするプラスチックレンズ。
【請求項5】
請求項1記載の反射防止膜において凸面側が7層からなる反射防止膜であり、凹面側が7層からなる反射防止膜であるとき、凸面側第1層目もしくは第3層目の低屈折率層の光学的膜厚が
0.350λ0 ≦ 低屈折率層の光学的膜厚 ≦ 0.650λ0
凹面側第1層目および第3層目の低屈折率層の光学的膜厚が
0.030λ0 ≦ 低屈折率層の光学的膜厚 ≦ 0.300λ0
であることを特徴とするプラスチックレンズ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載のプラスチックレンズにおいて、前記プライマー層が、水性化アクリル−ウレタン樹脂もしくはポリエステル系熱可塑性エラストマーを主成分とすることを特徴とするプラスチックレンズ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のプラスチックレンズにおいて前記ハードコート層が少なくとも下記の成分(A)、(B)を主成分とすること特徴とするプラスチックレンズ。
(A).粒径1〜100nmのSi,Al,Sn,Sb,Ta,Ce,La,Fe,Zn,W,Zr,In,Tiから選ばれる1種以上の金属酸化物からなる微粒子および/またはSi,Al,Sn,Sb,Ta,Ce,La,Fe,Zn,W,Zr,In,Tiから選ばれる2種以上の金属酸化物から構成される複合微粒子
(B).一般式 R12nSiX3-n (1)
で表される有機ケイ素化合物(式中、R1は重合可能な反応基を有する有機基、R2は炭素数1〜6の炭化水素基である。Xは加水分解性基であり、nは0または1である。)
【請求項8】
請求項7記載のハードコートにおいて下記(C)成分を含有することを特徴とするプラスチックレンズ。
(C)多官能性エポキシ化合物

【公開番号】特開2009−294661(P2009−294661A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−170926(P2009−170926)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【分割の表示】特願2004−87633(P2004−87633)の分割
【原出願日】平成16年3月24日(2004.3.24)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】