説明

プラスチック製柱状物の射出成形方法並びにその成型方法で得られたプラスチック製柱状物並びにそのプラスチック製柱状物を用いったレンズ駆動制御型画像安定化法を用いた撮像装置

【課題】両端に曲面を備える柱状物を製造する際に、当該柱状物の両端の曲面にヒケのない柱状物を簡便に成形することを目的とする。
【解決方法】上記課題を解決するため、キャビティ(成形空間)と当該キャビティに溶融した樹脂を注入するためのゲートとを備える金型を用いて軸部の両端に曲面を備えるプラスチック柱状物を成型する方法であって、当該金型は、当該キャビティの一端側の曲面と他端側の曲面とを結ぶ最大離間距離hとなる直線を仮想中心軸としたとき、当該仮想中心軸のいずれか一方の曲面の縁端部からの距離が0.4h〜0.6hの範囲内のキャビティの軸部形成領域に1以上のゲートを連結配置したものを用いることを特徴とするプラスチック製柱状物の射出成形方法を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型を用いて軸部の両端に曲面を備えるプラスチック柱状物射出成形方法に関し、特に、その曲面部分に溶融樹脂の凝固収縮によるヒケや変形を発生させず、高精度な成形曲面を得るための射出成形方法、及びこの射出成形方法を用いて得られた柱状物、並びにその柱状物を撮像装置用振れ補正機構の補正レンズ支持用のピンとして用いた振れ補正機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、プラスチック部品を製造する代表的な方法として、射出成形が広く用いられてきた。この射出成形方法は、複雑、精巧、高精度なプラスチック部品を短時間に製造することが可能であり、生産性の高い方法である。昨今では、様々な分野の製品が、こうした射出成形方法により得られるプラスチック部品を用いて生産されている。また、プラスチック部品を用いる製品の分野によっては、更なる軽薄短小化が求められており、プラスチック部品の形状が精巧且つ複雑化し、射出成形でなければ製造できないプラスチック部品が多くなっている。これに伴い、射出成形する際に用いる金型の構造もより複雑化、精巧化している。
【0003】
このような樹脂成型品の製造で一般的に用いられる射出成形方法の概略を説明する。まず、不定形(粒状)の樹脂材料を加熱することで溶融樹脂とし、金型に圧入する。金型に圧入された溶融樹脂は、湯口(スプルー)、湯道(ランナー)、注入口(ゲート)の順に通過し、成形品空間(キャビティ)に流入する。この時、キャビティ内に存在していた空気は、通気口(ガスベント)を通じて外部に排出され、溶融樹脂がキャビティに充填される。そして、溶融樹脂が冷却されて固化した後、離型して成型品を得る。
【0004】
しかし、従来の一般的な金型を用いて樹脂成型品の射出成形を行うと、溶融樹脂の冷却に伴って発生する収縮によってヒケが発生する場合がある。このヒケとは、具体的には、溶融樹脂の金型と接している部分の冷却速度が速いため、冷却時に金型から剥離してしまうことである。その結果、得られる成型品の表面が部分的に凹んでしまうのである。
【0005】
このようなヒケの発生を抑制する方法としては、金型に溶融樹脂を圧入する際の充填圧力を高める方法が有効であるといわれている。ところが、溶融樹脂の充填圧力を高める方法を採用すると、得られるプラスチック成型品の残留歪みが大きくなり、成型品に変形が生じてしまうことがある。この残留歪みを解消する方法としては、射出成形時の金型温度を樹脂の軟化点以上に高くして、溶融樹脂の冷却過程で溶融樹脂全体の温度が出来るだけ均一になるよう温度調整する方法があるが、成形サイクルが長くなってしまい生産性が低下してしまう。
【0006】
しかし、寸法精度が要求される成型品の製造を行う場合は、金型どおりの成型表面が得られていなければ、期待された使用性能を得ることができない。特に、ギアなどの精密部品や撮像装置に用いるレンズ等の光学用部品である場合には、即座に製品品質の劣化につながる。
【0007】
そこで、例えば、特許文献1には、一つの解決方法が開示されている。この特許文献1の図3に示すように、キャビティ内に複数の通気口及び圧力センサを設け、当該圧力センサからの圧力データを元に、当該複数の通気口に所定の空気圧を付与すれば、高精度な成型品が得られるとしている。
【0008】
【特許文献1】特開2002−347059号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に開示の方法を用いて、本発明が目的とする柱状物を精度よくつくりこむためには、金型に樹脂内圧測定用の複数の圧力センサと、複数の通気口を設けなければならない。しかし、成型する柱状物が小型であるため、複数の圧力センサや、複数の通気口を配置した金型の製作は困難である。さらに、複数の圧力センサから得られた圧力データ信号を元に複数の通気口に加える与圧を制御するための与圧制御プログラムも必要となる。従って、特許文献1に開示の方法は、本発明の目的とする柱状物の曲面形状のつくりこみに適用することは困難である。
【0010】
即ち、両端に曲面を備える柱状物を製造する際に、当該柱状物の両端の曲面にヒケのない柱状物を簡便に成形する方法に対する要求があった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本件発明者等は、課題を解決するため、鋭意研究の結果、以下のような柱状物成形方法を採用し、上記課題を解決するに至った。以下、本件発明の概略を説明する。
【0012】
本件発明に係るプラスチック製柱状物の射出成形方法: 本件発明に係るプラスチック製柱状物の射出成形方法は、キャビティ(成形空間)と当該キャビティに溶融した樹脂を注入するためのゲートとを備える金型を用いて軸部の両端に曲面を備えるプラスチック柱状物を成型する方法であって、当該金型は、当該キャビティの一端側の曲面と他端側の曲面とを結ぶ最大離間距離hとなる直線を仮想中心軸としたとき、当該仮想中心軸のいずれか一方の曲面の縁端部からの距離が0.4h〜0.6hの範囲内のキャビティの軸部形成領域に1以上のゲートを連結配置したものを用いることを特徴とするものである。
【0013】
そして、本件発明に係るプラスチック製柱状物の射出成形方法で用いる前記金型は、キャビティの軸部形成領域が多角柱状であり、その軸部の垂直断面の多角形状の頂点位置にゲートを接続配置したものが好ましい。
【0014】
また、本件発明に係るプラスチック製柱状物の射出成形方法で用いる前記金型は、キャビティの軸部形成領域が多角柱状であり、その軸部の垂直断面の多角形状が頂点1〜頂点2n(この内の任意の頂点を頂点aと称する。)を備える2n角形(2≦nの整数)であり、頂点1〜頂点2nの内の任意の頂点を頂点aとすると、頂点aと頂点(a+n)との対向する頂点のそれぞれにゲートをキャビティの軸部形成領域に接続配置したものが好ましい。
【0015】
そして、本件発明に係るプラスチック製柱状物の射出成形方法で用いる金型の前記頂点aを複数箇所とし、4個以上のゲートをキャビティの軸部形成領域に接続配置する事も好ましい。
【0016】
更に、本件発明に係るプラスチック製柱状物の射出成形方法で用いる前記金型のキャビティの最大長さhは、6mm以下の範囲のサイズのプラスチック製柱状物の射出成形に適している。
【0017】
本件発明に係るプラスチック製柱状物: 本件発明に係るプラスチック製柱状物は、上述に記載のプラスチック製柱状物の射出成形方法を用いて得られたことを特徴とする。
【0018】
そして、本件発明に係るプラスチック製柱状物は、両端にある第1端曲面及び第2端曲面と、軸部とからなるプラスチック製柱状物において、当該第1端曲面及び第2端曲面が、曲率半径0.7mm〜3.0mmの球状曲面を備える製品とすることが好ましい。
【0019】
本件発明に係るレンズ駆動制御型画像安定化法を用いた撮像装置の可倒ピン: 本件発明に係る可倒ピンは、撮像装置の各種レンズを収容したレンズ鏡筒の振動を検出し、検出した振動を感知して、所定の移動手段により画像安定化レンズを光軸と略直交する平面内で任意の方向に水平移動させ撮像画像の焦点ブレを補正するレンズ駆動制御型画像安定化法で用いるレンズ鏡筒に固定配置した支持板に対し、レンズ鏡筒内に収容した画像安定化レンズ用フレームで支持した画像安定化レンズを常に平行支持し、且つ、当該支持板と画像安定化レンズ用フレームとの間に配置し、画像の安定化を行う動作に応じて、当該支持板又は画像安定化レンズ用フレームと接する一端面側を支点として傾斜動作する可倒ピンにおいて、当該可倒ピンは、上述のプラスチック製柱状物の射出成形方法を用いて製造したプラスチック製柱状物を用いることを特徴とするものである。
【0020】
そして、本件発明に係る撮像装置の可倒ピンは、両端にある第1端曲面及び第2端曲面と、軸部とからなる略柱状形状を備え、当該第1端曲面及び第2端曲面とは、同一の中心点を持つものと仮定して、当該可倒ピンの両端にある第1端曲面及び第2端曲面を同時に含むように描いた最小外接球面半径Rを定め、当該中心点から第1端曲面までの実測最小距離をr1、当該中心点から第2端曲面までの実測最小距離をr2としたとき、(R−r1)≦0.01mm以下、(R−r2)≦0.01mm以下であることが好ましい。
【0021】
また、本件発明に係る撮像装置の可倒ピンは、前記第1端曲面で測定した第1真球度と第2端曲面で測定した第2真球度との差が0.005mm以下であることが、より好ましい。
【0022】
更に、本件発明に係る撮像装置の可倒ピンは、硬化後の引張弾性率が2000MPa〜4000MPaの範囲となる樹脂成分で構成することが好ましい。
【0023】
そして、本件発明に係る撮像装置の可倒ピンを構成する前記樹脂成分は、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、オレフィン−ビニルアルコール共重合体のいずれかを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本件発明に係るプラスチック製柱状物の射出成形方法は、軸部の両端に曲面を備えるプラスチック製柱状物の射出成形では、当該キャビティの一端側の曲面と他端側の曲面とを結ぶ最大離間距離hとなる直線を仮想中心軸としたとき、当該仮想中心軸のいずれか一方の曲面の縁端部からの距離の略中央部分(0.4h〜0.6hの範囲内のキャビティの軸部形成領域)に1以上のゲートを連結配置することで、当該ゲートからキャビティ内に射出注入する溶融樹脂の流れを最適化して溶融樹脂の射出時のキャビティ内での温度分布を均一化すると同時に、キャビティ内に流入した樹脂が冷却凝固する際の、キャビティ内周壁面と接触したプラスチック製柱状物の表面温度と、プラスチック製柱状物の内部温度との差を最小限に抑制することが出来る。この結果、得られるプラスチック製柱状物は、製造時に金型の加熱、溶融樹脂の高圧圧入等を行わなくても、樹脂凝固過程で発生するヒケの発生が減少し、軸部の両端に有る端曲面が、金型に設けたキャビティの内周曲面形状に精度良く沿った形状となる。そして、本件発明に係るプラスチック製柱状物の射出成形方法で用いる金型のキャビティの最大長さhは、6mm以下であることが特に好ましく、6mm以下の長さのプラスチック製柱状物の射出成形に好適である。
【0025】
従って、このような本件発明に係るプラスチック製柱状物は、軸部の両端にある第1端曲面及び第2端曲面とが、曲率半径0.7mm〜3.0mmの良好な球状曲面を備える事が可能である。従って、特に、レンズ駆動制御型画像安定化法を用いた撮像装置の可倒ピンとして使用することとで、レンズ駆動制御型画像安定化法での画像安定化品質を容易に向上させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本件発明に係るプラスチック製柱状物の射出成形方法、 本件発明に係るプラスチック製柱状物、 本件発明に係るレンズ駆動制御型画像安定化法を用いた撮像装置の可倒ピンの各実施形態に関して説明する。
【0027】
プラスチック製柱状物の射出成形方法の形態: 本件発明に係るプラスチック製柱状物の射出成形方法は、キャビティ(成形空間)と当該キャビティに溶融した樹脂を注入するためのゲートとを備える金型を用いて軸部の両端に曲面を備えるプラスチック柱状物を成型する方法である。なお、ここで本件発明に係るプラスチック製柱状物1は、軸部の両端に曲面を備えるものであるため、両端の曲面を区別して述べる必要がある場合には「第1端曲面」と「第2端曲面」と称して区別することとする。また、コア(雄型)とキャビティ(雌型)とで形成する空間を「成形空間」と称する場合があるが、本件発明においては、成形空間のことを、単に「キャビティ」と称している。
【0028】
このとき図1に示すように、当該金型2は、当該キャビティ3の一端側の曲面(以下の説明上、図面では「第1曲面4a」と称し、プラスチック製柱状物の第1端曲面を形成するためのキャビティ3の内壁形状とする。)と他端側の曲面(以下の説明上、図面では「第2曲面4b」と称し、プラスチック製柱状物の第2端曲面を形成するためのキャビティ3の内壁形状とする。)とを結ぶ最大離間距離hとなる直線を仮想中心軸Lとしたとき、当該仮想中心軸Lのいずれか一方の曲面4a,4bの縁端部からの距離が0.4h〜0.6hの範囲内のキャビティ3の軸部形成領域5に1以上のゲート6を連結配置したことを特徴とする。ここで、ランナ7から続くゲート6を連結配置する位置が、曲面4a,4bの縁端部からの距離0.4h〜0.6h以外の部位になると、ゲート6の位置が曲面4a又は曲面4bのいずれかの方向に片寄ることになる。
【0029】
ここで、ゲート6の位置が、第1曲面4aから仮想中心軸Lの0.4h〜0.6hの範囲を外れ、第1曲面4aから略0.1hの距離に設けてある場合等について考えてみる。この場合は、柱状物を成形するための溶融樹脂を射出注入すると、第1曲面4a側には短時間で溶融樹脂が充填され、第2曲面4b側を溶融樹脂で充填するまでには、更に時間を必要とすることになる。この間、第1曲面4a側に充填された溶融樹脂は、追加圧入される溶融樹脂から熱量が与えられるため、殆ど温度が低下しない。これに対し、第2曲面4b側を充填する溶融樹脂は、キャビティ3の軸部形成領域5の壁面を流れつつ冷却してゆく。この結果、キャビティ3内の溶融樹脂充填が完了した時点では、第1曲面4aの位置と第2曲面4bの位置との樹脂温度が異なってしまう。すると、キャビティ3内の溶融樹脂の冷却凝固の段階で、キャビティ3の第1曲面4a側の、高い温度から冷却されるプラスチック製柱状物1の曲面表面にヒケが発生する傾向が見られる。即ち、ゲート6の位置が曲面4a又は曲面4bのいずれかの方向に片寄ると、このようにゲートからキャビティ内に射出注入する溶融樹脂の流れを最適化して溶融樹脂の射出時のキャビティ内での温度分布を均一化すると同時に、キャビティ内に流入した樹脂が冷却凝固する際の、キャビティ内周壁面と接触したプラスチック製柱状物の表面温度と、プラスチック製柱状物の内部温度との差を最小限に抑制することが出来なくなるため好ましくない。従来のプラスチック製柱状物の形成方法の多くは、ここで述べたように当該柱状物の両端部又は端部に近い軸部から溶融樹脂を圧入することが一般的である。
【0030】
これに対し、本件発明のように、当該仮想中心軸Lのいずれか一方の曲面4a,4bの縁端部からの距離が0.4h〜0.6hの範囲内のキャビティ3の軸部形成領域5に、1以上のゲート6を連結配置して用いると、キャビティ3内の溶融樹脂充填が完了した時点では、第1曲面4aの位置と第2曲面4bの位置とにおける樹脂温度の差が小さくなる。また、溶融樹脂の射出注入の完了直後において、最も樹脂温度が高いのは、ゲート付近である。従って、形成するプラスチック製柱状物1にヒケが発生するような温度分布が発生する可能性が最も高いのは、ゲート6の付近になり、キャビティ3の内壁面である第1曲面4a及び第2曲面4bによって形成されるプラスチック製柱状物1の両端部の曲面にはヒケの無い良好な形状となる。
【0031】
そして、本件発明に係るプラスチック製柱状物の射出成形方法で用いる前記金型は、キャビティの軸部形成領域が多角柱状であり、その軸部の仮想中心軸Lに対する垂直断面の多角形状の頂点位置にゲートを接続配置したものが好ましい。このように軸部形成領域5が多角柱状で且つその断面形状が多角形の場合、図2に示すように、その多角形の頂点にゲートを配置すると、溶融樹脂のキャビティ3内への射出注入の状態が安定化する。その結果、溶融樹脂をキャビティ3の空間内に、より均一に圧入することができる。その結果、第1曲面4a及び第2曲面4bに向けて、バランス良く溶融樹脂を充填することができ、第1曲面4a及び第2曲面4b近傍での樹脂温度の差異を小さくでき、キャビティ3内に充填した樹脂がプラスチック製柱状物1の形状で冷却凝固する過程において、その内部温度と表面温度との差異が、より小さくなる。
【0032】
また、本件発明に係るプラスチック製柱状物の射出成形方法で用いる前記金型は、キャビティの軸部形成領域が多角柱状であり、その軸部の垂直断面の多角形状が頂点1〜頂点2n(この内の任意の頂点を頂点aと称する。)を備える2n角形(2≦nの整数)であることも好ましい。係る偶数の頂点を備える2n角形の場合には、頂点1〜頂点2nの内の任意の頂点を頂点aとすると、頂点aと頂点(a+n)との対向する頂点のそれぞれにゲートをキャビティの軸部形成領域に接続配置することが好ましい。図3のキャビティ3の4角形の断面を上部より観察した図から理解できるように、この頂点aと頂点(a+n)とは、仮想中心軸Lを挟んで対称の位置にあり、対をなす位置にゲート6を配置したことになる。このようなゲート配置を行うと、図12に示す1つのゲートを配置した場合よりも、キャビティ3内への溶融樹脂の射出状態が安定化し、且つ、溶融樹脂の充填速度を速くできる。この結果、「第1曲面4a及び第2曲面4b近傍での樹脂温度」と「軸部形成領域にある樹脂温度」との差を小さくでき、キャビティ3内に充填した樹脂がプラスチック製柱状物1の形状で冷却凝固する過程において、その内部温度と表面温度との差異を更に小さくできる。
【0033】
そして、本件発明に係るプラスチック製柱状物の射出成形方法で用いる金型の前記頂点aを複数箇所採用して、4個以上のゲートをキャビティの軸部形成領域に接続配置する事も更に好ましい。この具体例を示したのが、図4に示すように、4個のゲート6をキャビティ3の軸部形成領域5に接続配置したものである。このようにキャビティ3の軸部形成領域5に接続配置するゲート数が増加するほど、キャビティ3内への溶融樹脂の充填速度を速くできる。この結果、「第1曲面4a及び第2曲面4b近傍での樹脂温度」と「軸部形成領域にある樹脂温度」との差を小さくでき、キャビティ3内に充填した樹脂がプラスチック製柱状物1の形状で冷却凝固する過程において、その内部温度と表面温度との差異を小さくできる。
【0034】
以上の述べてきた、本件発明に係るプラスチック製柱状物の射出成形方法は、前記金型のキャビティの最大長さhが6mm以下で、小型サイズのプラスチック製柱状物を射出成形するのに、特に適している。キャビティの最大長さhが6mmを超えると、上述のようにキャビティの軸部形成領域に接続配置して、キャビティ3内への溶融樹脂の充填速度を速くしても、第1曲面4aの近傍と第2曲面4bの近傍との樹脂温度の差を小さくできても、「第1曲面4a及び第2曲面4b近傍での樹脂温度」と「軸部形成領域にある樹脂温度」との差を小さくできない。この結果、キャビティ3内に充填した樹脂が、プラスチック製柱状物1の形状で冷却凝固する過程において、その内部温度と表面温度との差異を小さくできず、軸部の領域にヒケが生じやすく、且つ、第1曲面4a及び第2曲面4bに到達した溶融樹脂温度の低下により、プラスチック製柱状物1の両端にある「第1端曲面」と「第2端曲面」とに、ヒケが生じやすくなるからである。
【0035】
プラスチック製柱状物の形態: 本件発明に係るプラスチック製柱状物は、上述に記載のプラスチック製柱状物の射出成形方法を用いることにより、以下に述べるような特徴を備える。
【0036】
図5に、本件発明に係るプラスチック製柱状物の形態に含まれる形状のバリエーションを例示する。この図5から理解できるように、プラスチック製柱状物1の軸部10の中にある中心点Cは、両端にある第1端曲面11a及び第2端曲面11bの曲率半径の中心点であり、曲率半径0.7mm〜3.0mmの球状曲面を備える製品とすることが好ましい。ここで、明記しておくが、この本件発明に係るプラスチック製柱状物は、種々の用途で用いる柱状形状のプラスチック製品としての使用が可能であり、ここで言う第1端曲面11aと第2端曲面11bとは、図5(b)から理解できるように、必ずしも同一の曲率半径を備える必要はなく、異なる曲率半径を備える曲面であっても構わない。上述の本件発明に係るプラスチック製柱状物の射出成形方法を用い、長さ6mm以下の小型サイズのプラスチック製柱状物を製造する場合に、曲率半径0.7mm〜3.0mmの球状曲面を最も効率よく形成できるからである。ここで、曲率半径0.7mm未満の両端曲面11a,11bを形成しようと本件発明に係るプラスチック製柱状物の射出成形方法を用いても、キャビティ3の第1曲面4aの近傍と第2曲面4bの近傍とでの樹脂温度の差を小さくして、溶融樹脂の凝固収縮に伴うヒケの発生を防止できても、完全に樹脂の凝固収縮を阻止できるわけではなく、曲率半径の値が小さいため、不可避的に生じる凝固収縮による寸法誤差を生じやすくなる。一方、曲率半径3.0mmを超える両端曲面11a,11bを形成しようとする場合には、曲率半径が大きくなり、敢えて本件発明に係るプラスチック製柱状物の射出成形方法を用いる必要が無くなり、従来のプラスチック材の射出成型方法を採用しても、ある程度の精度の球状曲面を得ることが可能になる。
【0037】
レンズ駆動制御型画像安定化法を用いた撮像装置の可倒ピンの形態: 以上に述べた本件発明に係るプラスチック製柱状物は、プラスチック製柱状物1の軸部10の形状に拘わらず、両端にある第1端曲面11a及び第2端曲面11bとが、同一の曲率半径を備え、且つ、同一球面内に位置する曲面である場合が考えられる。係る場合のプラスチック製柱状物は、その第1端曲面11a及び第2端曲面11bの各曲面の備える良好な球面精度故に、レンズ駆動制御型画像安定化法を用いた撮像装置の可倒ピンとしての使用が好適である。
【0038】
本件発明に係る可倒ピンは、撮像装置の各種レンズを収容したレンズ鏡筒の振動を検出し、検出した振動を感知して、所定の移動手段により画像安定化レンズを光軸と略直交する平面内で任意の方向に水平移動させ撮像画像の焦点ブレを補正するレンズ駆動制御型画像安定化法で用いるものである。このレンズ駆動制御型画像安定化法を用いた撮像装置(デジタルカメラ、フィルムカメラ等)の断面模式図を図6に示す。
【0039】
この図6に示すように、撮像装置100は、レンズユニット120と撮像装置本体140とから構成されたものと考える。このときのレンズユニット120は、円筒形のレンズ鏡筒160と、このレンズ鏡筒160の内部に配した複数のレンズで構成した撮影用レンズ180と、画像安定化用レンズ116とを備えている。そして、更に、レンズ鏡筒160の振動を検出する2以上の圧電振動ジャイロ等の振動検出手段134a(図6では、1つの圧電振動ジャイロのみを表示している。)と、その検出振動に応じて画像安定化用レンズ116を光軸と直交する平面内で任意の方向に移動させるアクチュエータ110とがレンズ鏡筒160内に配置され、被写体像を撮像装置本体140の受像部F(CCD又はフィルム)に合焦して安定した画像を撮影する。なお、上述の画像安定化レンズは、図面中では1枚のレンズとして表示しているが、複数枚のレンズを用いて受像部Fに合焦させ、より安定化した画像品質の得ることも可能である。
【0040】
このときのアクチュエータ110は、レンズ鏡筒160に固定した支持板112、画像安定化用レンズ116を取り付けた画像安定化レンズ用フレーム114、及び、支持板112と画像安定化レンズ用フレーム114とを平行に可動支持する可倒ピン1からなる平行移動手段111を含んでいる。そして、支持板112側に各駆動用コイル150a、画像安定化レンズ用フレーム114側の対応する位置に各駆動用磁石152、画像安定化レンズ用フレーム114を支持板112に対して配置し、これらが画像安定化レンズ用フレーム114を並進又は回転駆動させるための駆動手段を構成する。また、駆動用磁石152は、画像安定化レンズ用フレーム114を支持板112に吸着させるための部材用磁石として作用し、吸着用ヨーク156は、部材用磁石に吸着する磁性体として機能する。更に、ジャイロ134aによって検出されたレンズ鏡筒160の振動と、各磁気センサ154aによって検出された画像安定化レンズ用フレーム114の位置情報とに基づいて、支持板112側の各駆動用コイル150aに流す駆動電流を制御する制御手段としてのコントローラ136を有している。
【0041】
また、図6から理解できるように、可倒ピン1は、画像安定化レンズ用フレーム114の可倒ピンの配置位置には、支持板112と対向する方向に開口した凹部104を形成している。即ち、以上のような構成を採用することで、レンズ鏡筒に固定配置した支持板に対し、レンズ鏡筒内に収容した画像安定化レンズ用フレームで支持した画像安定化レンズを、常に平行支持した状態を維持するように、当該支持板と画像安定化レンズ用フレームとの間に配置するものであり、画像の安定化を行う動作に応じて、当該支持板又は画像安定化レンズ用フレームと接するいずれかの一端面側を支点として傾斜動作するものである。
【0042】
この可倒ピン1のバリエーションとしては、図5から理解できるような形状を備えている。そして、当該可倒ピンとして使用するものは、プラスチック製柱状物1の軸部10の形状に限定はなく、両端にある第1端曲面11a及び第2端曲面11bとが、図5(a)中に波線で記載したような、同一の曲率半径rを備え、且つ、同一球面内(図面中では単なる外接円30として表示している。)に位置する曲面を備える事が好ましい。また、図5(b)中に波線で記載したように、第1端曲面11aと第2端曲面11bとが異なる曲率半径を備えることも可能である。即ち、第1端曲面11aが中心Cから曲率半径r1の曲面であり、第2端曲面11bが中心Cから曲率半径r2の曲面であり、且つ、当該両曲面が同一球面(図面中では単なる外接円30として表示している。)と接する場合も採用可能である。
【0043】
そして、上述の製造方法を用いることによって、撮像装置の可倒ピンの両端にある第1端曲面及び第2端曲面とが、同一の中心点を持つと仮定して、可倒ピンの両端にある第1端曲面11a及び第2端曲面11bを同時に含むように描いた最小外接球面半径Rとしたとき、当該中心点から第1端曲面又は第2端曲面までの最小距離をr1、r2としたとき(R−r1)≦0.01mm、(R−r2)≦0.01mm(以下の表中では、「真球度A」と称する。)以下という精度で製造することが可能になる。以下、単に(R−r)≦0.01mmと称すると、(R−r1)≦0.01mm、(R−r2)≦0.01mm双方の意味を含むものとして用いる。ここで、(R−r)の値は、可倒ピンの両端にある第1端曲面と第2端曲面とが同時に、同一の球面内に、どの程度良好に位置するかを判断する指標である。従って、(R−r)≦0.01mmの条件を満たせば、可倒ピンとして使用するプラスチック製柱状物1の第1端曲面11a及び第2端曲面11bが、同一球面内に位置すると言え、レンズ駆動制御型画像安定化法における画像安定化レンズ用フレームで支持した画像安定化レンズの動きを滑らか且つ精度の高いものとして、撮像時の手ぶれ等により、レンズ鏡筒に振動があっても、飛躍的に画像品質に優れた画像撮影が可能になる。
【0044】
また、更に高品質な画像撮影を行うという観点から、本件発明に係る撮像装置の可倒ピンとして、前記第1端曲面で測定した第1真球度と、第2端曲面で測定した第2真球度との差(以下の表中では、「真球度B」と称する。)が0.005mm以下であることがより好ましい。ここで言う真球度Bとは、当該可倒ピンの第1端曲面と第2端曲面との各々の輪郭を独立して測定し、それぞれの曲面毎の最小外接円の半径を複数回測定し、第1曲面の最小外接円半径と第2曲面の最小外接円半径との差の最大値として求めたものである。従って、一般的な真球度とは異なる。即ち、第1端曲面と第2端曲面との備える曲面が、どの程度一致する曲面を備えているかを判断するための指標である。この第1真球度と第2真球度との差が0.005mm以下の条件を満たせば、可倒ピン1が、当該支持板又は画像安定化レンズ用フレームと接するいずれかの一端面側を支点として傾斜動作する際に、レンズ鏡筒に固定配置した支持板に対し、画像安定化レンズ用フレームで支持した画像安定化レンズの移動距離を飛躍的に安定化させることが可能であり、上記(R−r)の値と同時に可倒ピンの製造管理に用いれば、従来になく高品質の可倒ピンが得られる。
【0045】
更に、本件発明に係る撮像装置の可倒ピンは、硬化後の引張弾性率が2000MPa〜4000MPaの範囲となる樹脂成分で構成することが好ましい。レンズ駆動制御型画像安定化法において使用する当該可倒ピンは、レンズ鏡筒の振動に応じて動くものであり、撮像装置を操作する間は、当該支持板又は画像安定化レンズ用フレームと接するいずれかの一端曲面を支点として、常に傾斜動作すると考えられる。従って、十分な強度、良好な耐摩耗性能、衝撃により破損しない柔軟性等が求められる。ここで、可倒ピンの製造に引張弾性率が2000MPa未満の樹脂を用いると、最低限必要とされる強度と柔軟性とが不足して、当該支持板又は画像安定化レンズ用フレームと接するいずれかの一端曲面を支点として傾斜動作する精度が悪くなり、画像安定化レンズの位置の修正が良好に出来なくなるため好ましくない。一方、可倒ピンの製造に引張弾性率が4000MPaを超える樹脂を用いると、総じて硬化後の樹脂硬さが過剰になり、当該支持板又は画像安定化レンズ用フレームと接するいずれかの一端曲面を支点とした可倒ピンの傾斜動作が過剰になる傾向があり、且つ、樹脂硬さが脆くなるために耐衝撃性能が低下するため好ましくない。
【0046】
そして、硬化後の引張弾性率が、2000MPa〜4000MPaの範囲となる樹脂成分の中でも、本件発明に係る撮像装置の可倒ピンを構成する前記樹脂成分としては、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、オレフィン−ビニルアルコール共重合体のいずれかを用いることが好ましい。いずれの樹脂成分も高強度であり、十分な耐摩耗性能及び強靱性を備える。中でも、ポリアセタール樹脂の使用が特に好ましい。
【0047】
したがって、ここで、ポリアセタール樹脂(ポリオキシメチレン樹脂)の概要に関して、述べておく。単位構造にオキシメチレン構造(−CHO−)をもつ樹脂で、ホルムアルデヒド重合体である。そして、ホルムアルデヒドのみが重合反応して得られる均質重合体であるホモポリマー(パラホルムアルデヒド:[−CHO−]n)と、10mol%以下のオキシエチレン単位(−CHCHO−)を含む共重合体であるコポリマー([−CHO−][−CHCHO−])とがあり、これらの双方を含む概念としてポリアセタール樹脂と称している。そして、これらの重合体は、ポリマー末端がオキシメタノール構造(−OCHOH)を備える。このようにポリマー末端が、アルコール構造であると、融点以上で容易に熱分解する。従って、ポリアセタール樹脂を射出成形に用いる場合には、無水酢酸を用いたアセチル化等に代表されるエンドキャップ処理を施して、ポリアセタールホモポリマー等として熱安定性を向上させることが好ましい。射出成形法におけるポリアセタール樹脂は、極めて良好な機械的強度を備えるが、凝固過程における成形収縮率が2.5%程度と大きいため、製品としての寸法精度を一定のレベルに維持できるが、精密なプラスチック製柱状物を得ることは困難が伴う。しかし、上述の本件発明に係るプラスチック製柱状物の射出成形方法を用いると、成形収縮率が小さい樹脂と同程度の精密成形が可能になる。なお、成形収縮率とは、[(金型寸法)−(成形品寸法)]/(金型寸法)×100で求められる値である。
【0048】
以下、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、オレフィン−ビニルアルコール共重合体の射出成形法における特徴等を簡単に述べておく。射出成形法におけるポリカーボネート樹脂は、耐熱性が130℃程度と高く、耐衝撃性能に優れており、凝固過程における成形収縮率が0.6%程度と小さいため、寸法精度に優れたプラスチック製柱状物を得ることが容易と考えられる。しかし、ポリカーボネート樹脂の射出成形時の溶融樹脂としての流れが良くないため、ゲート及びランナーとして大きめのものを用い、シリンダー温度を300℃前後とすることが好ましい。そして、上述の本件発明に係るプラスチック製柱状物の射出成形方法を用いると、成形収縮率が小さい樹脂の特徴を最大限に活用することができ、良好な第1端曲面及び第2端曲面を備えるプラスチック製柱状物の精密成形が可能になる。
【0049】
射出成形法におけるポリエーテルエーテルケトン樹脂は、耐熱性、耐薬品性、耐疲労性、耐摩耗性、靱性に優れるが、凝固過程における成形収縮率が2%以上と大きいため、製品としての寸法精度を一定のレベルに維持できても、精密なプラスチック製柱状物を得ることは困難が伴う。しかし、上述の本件発明に係るプラスチック製柱状物の射出成形方法を用いると、成形収縮率が小さい樹脂と同程度の精密成形が可能になる。
【0050】
射出成形法におけるオレフィン−ビニルアルコール共重合体は、機械的強度が高く、耐摩耗性に優れ、熱膨張率が小さいという特徴を備える。そして、凝固過程における成形収縮率が0.5%前後と小さいため、寸法精度に優れたプラスチック製柱状物を得ることが容易と考えられる。しかし、オレフィン−ビニルアルコール共重合体の射出成形時の溶融樹脂の流れが小さいため、ゲート及びランナーとして大きめのものを用いることが好ましい。また、オレフィン−ビニルアルコール共重合体を用いて形成したプラスチック製柱状物は、オレフィン−ビニルアルコール共重合体自体の吸水性が大きいため、製造後直ぐに鏡筒内に収容することが好ましい。以下、実施例をもって、本件発明の内容をより具体的に説明する。
【実施例1】
【0051】
以下、本件発明に係る実施例を工程毎に順を追って説明する。
【0052】
金型準備工程: この実施例で用いる金型(材質:S50C)は、キャビティとして図1に示したような、軸部が2.4mm×2.4mmの仮想中心軸Lに垂直な断面を備え、長さ4.0mmの正四角柱である。そして、キャビティの第1曲面及び第2曲面は、前記仮想中心軸Lの中心を中心点に持つ曲率半径2.0mmの球状曲面である。また、キャビティに接続するゲートは、軸部にあたる四角柱の略中央部(前記仮想軸の略0.5hの位置)の稜線に1つ配置した金型を製作した。
【0053】
射出成形工程: そして、射出成形機(住友重機株式会社製 ネスタール射出成形機)、樹脂素材としてポリアセタール樹脂(ポリプラスチックス株式会社製:ジュラコンNW−02)を用いた。具体的には、当該ポリアセタール樹脂を、シリンダ温度200℃として加熱して溶融樹脂とし、射出圧力100MPaで金型(金型温度:85℃)に圧入し射出成形を行い、成型物を金型から取り出す操作を繰り返し、柱状物を100個作成した。なお、このポリアセタール樹脂の硬化後の引張弾性率は、2400MPaである。
【0054】
製品品質の評価: 上述のようにして得られた100個の各柱状物の第1端曲面、第2端曲面を、倍率10倍のルーペを用いて、ヒケの有無を確認した。その結果、いずれの柱状物の第1端曲面、第2端曲面のいずれの面にもヒケは観察されなかった。以上に述べてきた真球度A、真球度B等に関しては、実施例2及び比較例との対比可能なよう、表1に掲載した。
【0055】
また、ここで製造した柱状物を、レンズ駆動制御型画像安定化法を用いた撮像装置の可倒ピンとして用いて、像移動のための画像安定化レンズを、光軸の中央(中心点O)から規定量として1mm移動させたときのMTFの値を用いて評価した。このMTFは、画像の解像度の数値的な評価値であり、光軸の中央(中心点O)を基準として、画像安定化レンズを規定量移動させたときに、コントラスト比と空間周波数とで決まる値が、どの程度低下するかを評価する画像解像度の変動レベルを示す指標として広く用いられる。図7に、光軸の中央(中心点O)を基準とし、中心点Oから規定量を半径とした波線で示した円軌道上のMTF測定点であるLT、LB、RT、RBの各点を示し、これをテストチャートとして用いた。
【0056】
このMTF測定に関して述べると、画像安定化レンズの光軸を中央に保持したときには、図7のMTF測定点であるLT、LB、RT、RBの各点のMTF特性は、図8に示すように一致する。ここで、LT{S}、LB{S}、RT{S}、RB{S}の{S}は、サジタル(放射方向)の特性を示している。一方、LT{M}、LB{M}、RT{M}、RB{M}の{M}は、メリジオナル(同心円方向)の特性を示している。このとき、中央点Oでは、この方向性が無いことになる。
【0057】
そして、この実施例1の可倒ピンを用いて、画像安定化レンズを、図7のテストチャートのRB方向に1mm(規定量)移動して、MTF測定を行ったときには、図9に示す画質の劣化が発生した。
【実施例2】
【0058】
金型準備工程: この実施例で用いる金型(材質:S50C)は、図2に示すように、図1に示すような実施例1と同様のキャビティを備えている。しかし、キャビティには、2つのゲートを接続している。そして、これらのゲートは、軸部にあたる四角柱の略中央部(前記仮想軸の略0.5hの位置)の稜線に、軸部形成領域の仮想中心軸Lに垂直な断面である正四角形の頂点1と頂点3との対向する位置にそれぞれ接続している。
【0059】
射出成形工程: 実施例1と同様であるため、重複した説明を省くために、記載を省略する。
【0060】
製品品質の評価: 上述のようにして得られた100個の各柱状物を実施例1と同様にして、ヒケの有無を確認した。その結果、いずれの柱状物の第1端曲面、第2端曲面のいずれの面にもヒケは観察されなかった。また、真球度A、真球度B、画像安定化度等に関しては、実施例1及び比較例との対比可能なように、表1に掲載した。
【0061】
そして、この実施例2の可倒ピンを用いて、画像安定化レンズを、図7のテストチャートのRB方向に1mm(規定量)移動して、MTF測定を行ったときには、図10に示す画質の劣化が発生した。
【比較例】
【0062】
比較例では、キャビティに設けるゲートの位置を、図12に示すように、前記仮想中心軸Lの第1曲面から略0.2hの位置に変更した以外は、実施例1と同様の形状を備える金型を用い、実施例と同様の条件で柱状物を100個製造した。
【0063】
そして、この比較例で得られた柱状物を、実施例と同様の方法で、ヒケの有無を確認した。その結果、第1端曲面にヒケが観察されたものが、100個中12個あった。一方、第2端曲面に関しては、ヒケが観察されたものはなかった。また、真球度A、真球度B、画像安定化度等に関しては、実施例との対比が可能なように、表1に掲載した。
【0064】
そして、この比較例の可倒ピンを用いて、画像安定化レンズを、図7のテストチャートのRB方向に1mm(規定量)移動して、MTF測定を行ったときには、図11に示す画質の劣化が発生した。
【0065】
【表1】

【0066】
実施例と比較例との対比: 最初に樹脂の凝固に伴い発生するヒケの発生状況に関して対比する。表1から明らかなように、実施例1及び実施例2として製造した柱状物は、その第1端曲面及び第2端曲面ともにヒケが発生していない。これに対し、比較例の柱状物の第2端曲面には、ヒケの発生がみられないが、その第1端曲面には10%を超える確率でヒケが発生することが分かる。従って、実施例で採用した本件発明に係るプラスチック製柱状物の射出成形方法を採用し、金型のキャビティの内壁面の両端にある第1曲面及び第2曲面に対する樹脂の射出バランスが良好となり、樹脂凝固過程における柱状物の表面と内部との温度差を最小限に抑制し、両端に端曲面を備える柱状物を形成すると、両端曲面の形状にヒケの無い状態が出来ることが分かる。
【0067】
次に、製造した柱状物の第1端曲面及び第2端曲面の形成精度に関して対比してみる。上述の実施例及び比較例は、第1端曲面と第2端曲面とが同一の球状面内にある柱状物を形成しようとしている。このとき柱状物の両端にある第1端曲面11a及び第2端曲面11bを同時に含むように所定の中心点をもって描いた最小外接球面半径Rと、当該中心点から第1端曲面又は第2端曲面までの実測の最小距離をrとの差(R−r)を「真球度A」と称しているが、実施例1では0.008mm、実施例2では0.005mmである。これに対し、比較例では0.018mmであり、実施例と比較して真球度Aの値が悪くなっている。
【0068】
更に、真球度Bとは、当該可倒ピンの第1端曲面と第2端曲面との各々の輪郭を独立して測定し、それぞれの曲面毎の最小外接円の半径を複数回測定し、第1曲面の最小外接円半径と第2曲面の最小外接円半径との差の最大値として求めたものであり、第1端曲面と第2端曲面との曲面が、どの程度一致する曲面を備えているかを判断するための指標であるが、実施例1では0.004mm、実施例2では0.002mmである。これに対し、比較例では0.010mmであり、実施例と比較して真球度Bの値が悪くなっている。
【0069】
以上に述べた真球度A及び真球度Bに関する実施例と比較例との対比から、実施例で採用した本件発明に係るプラスチック製柱状物の射出成形方法を採用すると、金型のキャビティの内壁面の両端にある第1曲面及び第2曲面に対する樹脂の射出バランスが良好となり、樹脂凝固過程における柱状物の表面と内部との温度差を最小限に抑制し、成形収縮率を最小限に抑制するため、柱状物の両端曲面の形状が、金型の内周壁面の両曲面に近い形状となることが分かる。
【0070】
更に、画像安定化度に関する実施例と比較例との対比を行う。実施例1の画像安定化度は0.010mm、実施例2では0.007mmである。これに対し、比較例では0.025mmであり、実施例と比較して画像安定化度の値が悪くなっている。即ち、本発明に係る柱状物成形方法を用いて製造したレンズ駆動制御型画像安定化法を用いた撮像装置の可倒ピンは、鏡筒の振動に併せて、画像安定化レンズを補正位置まで正確な距離分だけ迅速に移動させ、理論的な最適移動位置からのズレを最小限に出来ることが理解できる。
【0071】
更に、MTF測定の結果を、図9〜図11を参照して対比する。実施例1の図9と実施例2の図10とを対比してみると、殆ど同じMTF特性を示し、画質の劣化が同程度であることが分かる。これに対し、比較例に係る図11をみると、実施例1の図9及び実施例2の図10のMTF特性に比べ、LT{S}、LB{S}、RT{S}、RB{S}のサジタル(放射方向)のMTF特性のバラツキが大きくなっている。また、LT{M}、LB{M}、RT{M}、RB{M}のメリジオナル(同心円方向)のMTF特性のバラツキが大きく、且つ、LT{M}及びRB{M}のコントラスト比の値が、中心点Oを基準としてみれば大きく低下していることが分かる。即ち、実施例に比べ比較例の場合の画像劣化が大きく、本発明に係る柱状物成形方法で製造した可倒ピンが高品質の端曲面を備え、撮像装置の可倒ピンとして好適であることが理解できる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明に係る柱状物成形方法は、金型のキャビティに接続する溶融樹脂の注入ゲートの位置を変更するだけで、高品質の端曲面を備える柱状物を製造することが出来る。従って、射出成形装置自体の改良も不要であり、金型設計のみで対応可能な技術であるため、過剰な設備投資費用を要さない。その結果、高品質のプラスチック製柱状物を安価に市場に提供することが可能になる。
【0073】
しかも、本発明に係る柱状物成形方法は、レンズ駆動制御型画像安定化法を用いた撮像装置の可倒ピンの製造方法として好適である。特に、撮像装置を持つ人間の手のブレにより生じる振動で鏡筒が振動しても、その振動レベルに併せて、画像安定化レンズを迅速且つ正確に補正位置まで移動させることが可能であり、ブレの無い画像撮影を更に安定化させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本件発明に係るプラスチック製柱状物の射出成形方法で用いる金型内に形成するキャビティと当該キャビティに対するゲートの接続位置との関係を説明するための模式図である。
【図2】本件発明に係るプラスチック製柱状物の射出成形方法で用いる金型内に形成するキャビティと当該キャビティに対するゲートの接続位置との関係を説明するための模式図である。
【図3】本件発明に係るプラスチック製柱状物の射出成形方法で用いる金型内に形成するキャビティに対し2本のゲートを用いた場合の接続位置を説明するための上面模式図である。
【図4】本件発明に係るプラスチック製柱状物の射出成形方法で用いる金型内に形成するキャビティに対し4本のゲートを用いた場合の接続位置のバリエーションを例示して説明するための上面模式図である。
【図5】本件発明に係るプラスチック製柱状物の形態に含まれる形状のバリエーションの一部を例示した模式図である。
【図6】レンズ駆動制御型画像安定化法を用いた撮像装置(デジタルカメラ、フィルムカメラ)の断面模式図である。
【図7】中心点Oから規定量を半径とした波線で示した円軌道上のMTF測定点を示す概念図である。
【図8】画像安定化レンズの光軸を中央に保持したときのMTF特性を示すグラフである。
【図9】実施例1の可倒ピンを用いて、画像安定化レンズをテストチャートのRB方向に規定量移動したときのMTF特性を示すグラフである。
【図10】実施例2の可倒ピンを用いて、画像安定化レンズをテストチャートのRB方向に規定量移動したときのMTF特性を示すグラフである。
【図11】比較例の可倒ピンを用いて、画像安定化レンズをテストチャートのRB方向に規定量移動したときのMTF特性を示すグラフである。
【図12】従来のプラスチック製柱状物の射出成形方法で用いる金型内に形成するキャビティと当該キャビティに対するゲートの接続位置との関係を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0075】
1 プラスチック製柱状物(可倒ピン)
2 金型
3 キャビティ
4a 第1曲面
4b 第2曲面
5 軸部形成領域
6 ゲート
7 ランナ
10 軸部
11a 第1端曲面
11b 第2端曲面
L 仮想中心軸
h 最大離間距離
C 中心点
LA 光軸
F 受像部(CCD又はフィルム)
100 撮像装置
104 凹部
110 アクチュエータ
111 平行移動手段
112 支持板
114 画像安定化レンズ用フレーム
116 画像安定化用レンズ
120 レンズユニット
134a 振動検出手段(ジャイロ)
136 コントローラ
140 撮像装置本体
150a 各駆動用コイル
152 駆動用磁石
156 吸着用ヨーク
154a 磁気センサ
160 レンズ鏡筒
180 撮影用レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティ(成形空間)と当該キャビティに溶融した樹脂を注入するためのゲートとを備える金型を用いて軸部の両端に曲面を備えるプラスチック柱状物を成型する方法であって、
当該金型は、当該キャビティの一端側の曲面と他端側の曲面とを結ぶ最大離間距離hとなる直線を仮想中心軸としたとき、当該仮想中心軸のいずれか一方の曲面の縁端部からの距離が0.4h〜0.6hの範囲内のキャビティの軸部形成領域に1以上のゲートを連結配置したものを用いることを特徴とするプラスチック製柱状物の射出成形方法。
【請求項2】
前記金型は、キャビティの軸部形成領域が多角柱状であり、その軸部の垂直断面の多角形状の頂点位置にゲートを接続配置したものである請求項1に記載のプラスチック製柱状物の射出成形方法。
【請求項3】
前記金型は、キャビティの軸部形成領域が多角柱状であり、その軸部の垂直断面の多角形状が頂点1〜頂点2n(この内の任意の頂点を頂点aと称する。)を備える2n角形(2≦nの整数)であり、
頂点1〜頂点2nの内の任意の頂点を頂点aとすると、頂点aと頂点(a+n)との対向する頂点のそれぞれにゲートをキャビティの軸部形成領域に接続配置した請求項1又は請求項2に記載のプラスチック製柱状物の射出成形方法。
【請求項4】
前記頂点aを複数箇所とし、4個以上のゲートをキャビティの軸部形成領域に接続配置した請求項1〜請求項3のいずれかに記載のプラスチック製柱状物の射出成形方法。
【請求項5】
前記金型のキャビティの最大長さhは、6mm以下である請求項1〜請求項4のいずれかに記載のプラスチック製柱状物の射出成形方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載のプラスチック製柱状物の射出成形方法を用いて得られたことを特徴とするプラスチック製柱状物。
【請求項7】
両端にある第1端曲面及び第2端曲面と、軸部とからなるプラスチック製柱状物において、
当該第1端曲面及び第2端曲面が、曲率半径0.7mm〜3.0mmの球状曲面である請求項6に記載のプラスチック製柱状物。
【請求項8】
撮像装置の各種レンズを収容したレンズ鏡筒の振動を検出し、検出した振動を感知して、所定の移動手段により画像安定化レンズを光軸と略直交する平面内で任意の方向に水平移動させ撮像画像の焦点ブレを補正するレンズ駆動制御型画像安定化法で用いるレンズ鏡筒に固定配置した支持板に対し、レンズ鏡筒内に収容した画像安定化レンズ用フレームで支持した画像安定化レンズを常に平行支持し、且つ、当該支持板と画像安定化レンズ用フレームとの間に配置し、画像の安定化を行う動作に応じて、当該支持板又は画像安定化レンズ用フレームと接する一端面側を支点として傾斜動作する可倒ピンにおいて、
当該可倒ピンは、請求項1〜請求項5のいずれかに記載のプラスチック製柱状物の射出成形方法を用いて製造したプラスチック製柱状物を用いることを特徴とするレンズ駆動制御型画像安定化法を用いた撮像装置。
【請求項9】
前記可倒ピンは、両端にある第1曲面及び第2曲面と、軸部とからなる略柱状形状を備え、
当該第1曲面及び第2曲面とは、同一の中心点を持つものと仮定して、当該可倒ピンの両端にある第1端曲面及び第2端曲面を同時に含むように描いた最小外接球面半径Rを定め、当該中心点から第1端曲面までの実測最小距離をr1、当該中心点から第2端曲面までの実測最小距離をr2としたとき、(R−r1)≦0.01mm以下、(R−r2)≦0.01mm以下である請求項8に記載のレンズ駆動制御型画像安定化法を用いた撮像装置。
【請求項10】
前記可倒ピンは、前記第1端曲面で測定した第1真球度と第2端曲面で測定した第2真球度との差が0.005mm以下である請求項9に記載のレンズ駆動制御型画像安定化法を用いた撮像装置。
【請求項11】
前記可倒ピンは、硬化後の引張弾性率が2000MPa〜4000MPaの範囲となる樹脂成分で構成したものである請求項8〜請求項10のいずれかに記載のレンズ駆動制御型画像安定化法を用いた撮像装置。
【請求項12】
前記樹脂成分は、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、オレフィン−ビニルアルコール共重合体のいずれかである請求項11に記載のレンズ駆動制御型画像安定化法を用いた撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−172795(P2009−172795A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−11760(P2008−11760)
【出願日】平成20年1月22日(2008.1.22)
【出願人】(000133227)株式会社タムロン (355)
【Fターム(参考)】