説明

プラスチック部材への回路形成方法

【課題】プラスチック部材への回路形成工程を短縮することができ、稼働率の上昇および低コスト化を実現できるプラスチック部材への回路形成方法を提供する。
【解決手段】1回成形法によるプラスチック部材への回路形成方法において、(イ)メッキのつき易い特殊成分を含む樹脂材料を用いて射出成形体を形成す工程と、(ロ)射出成形体上に無電解による電極メッキを施す工程と、(ハ)電極メッキ上にレジスト膜を形成する工程と、(ニ)回路パターンとなる部分を覆う回路部レジスト膜を除いて、レジスト膜にレーザ光を照射してレジスト膜を除去する工程と、(ホ)回路パターンとなる回路電極メッキを除いて、電極メッキをエッチングにより除去する工程と、(ヘ)回路部レジスト膜を洗浄除去する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック部材への回路形成方法に関する。さらに詳しくは本発明はデジタルカメラ、カムコーダなどの電子機器に用いられるプラスチック部材に導電回路を付与するためのプラスチック部材への回路形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、成形品の表面処理後、レジストをレーザ光照射によってパターニング加工してから無電解メッキにより回路を形成する方法が開示されている。具体的には、表1に示すように、(1)所望の形状に樹脂から構成した射出成形体に、(2)無電解メッキに備えて表面処理を行い、(3)触媒を付与してから、(4)レジストを全面に塗布し、(5)レーザ光を所望のパターンに照射することによってレジストをパターニングし、その後に、(6)無電解メッキを行って導体パターンを形成し、(7)レジストの除去等のために洗浄を行なっている。
【表1】

【0003】
下記特許文献2には、射出成形後に非回路形成部をラッピングし、表面処理・触媒塗布後にラッピングを剥離して、無電解メッキによって回路を形成する方法が開示されている。具体的には、上記表1に示すように、(1)樹脂成形基材を射出成形により成形品を形成し、(2)回路形成部分以外の領域をフィルムでラッピングし、(3)次いで回路形成のための前処理(表面租化)を施し、(4)表面全体に無電解メッキのための触媒を付与し、その後に、(5)該表面のラッピングフィルムを剥離(除去)して、(6)無電解メッキにより導電性部分を形成し、(7)洗浄している。
【0004】
一般的に、射出成形は高圧で閉じられた金型内に、熱可塑性樹脂を高圧で流し込み、冷却/固化させることで目的の成形品を得るが、電子部品として使用される際にはこれら成形品周辺にフレキシブルプリント回路などの配線材料を這わせることで目的の機能を有する部品となる。
【0005】
しかし成形品にフレキシブル回路部品を組み込むことは、まず設計の段階での熟練が要求され、また実際の組み立て工程の際もハンドリングに気を配らなければならず、何よりフレキシブル部品自体の製造コストが他の成形部品よりも高額になってしまうのが現状である。そこで、成形部品に直接回路を形成することができれば、フレキシブル部品を省略することができ、これに伴って設計時間・組み立て工数を大きく短縮できる。
【0006】
このようなプラスチック部材への回路形成は一般的に、モールデット・インターコネクト・デバイス(Molded Interconnect device:MID)技術と呼ばれ、周知の技術となっており、その製造方法は大別して1回成形法、2回成形法、そして回路フィルムインサート成形法の3つに分けられる。
【0007】
表2には従来の代表的な1回成形法のうちの「3Dマスク法」、「レーザビーム照射法」を示す。
【表2】

【0008】
3Dマスク法は、(1)樹脂を所望の形状に射出成形し、(2)射出成形体の表面を化学処理し、(3)無電解銅メッキを行い、(4)全面にフォトレジスト膜を塗布し、(5)所望のパターンを形成するために3Dマスクによる露光を行い、(6)フォトレジスト膜部分を除去し、(7)銅メッキを行なってから、(8)メッキ面にエッチレジストを塗布し、(9)フォトレジストを除去し、(10)さらに不要な銅メッキを除去し、(11)表面を仕上げいる。
【0009】
レーザビーム照射法は、(1)樹脂を所望の形状に射出成形し、(2)射出成形体の表面を化学処理し、(3)無電解銅メッキを行い、(4)銅メッキを行い、(5)エッチレジスト膜を塗布し、(6)レーザビームを照射し、(7)銅エッチングを行なってから、(8)表面を仕上げている。
【0010】
前記特許文献1では、(5)レーザパターニングにより回路形成部のレジストを除去して回路を形成することを特徴としているが、通常の熱可塑性樹脂にメッキを施す為、密着性向上の目的で(2)表面処理、(3)触媒塗布などの作業を要している。
【0011】
前記特許文献2では、(5)ラッピングによるパターニングを特徴としているだけで、上記特許文献1と同様、(2)表面処理、(3)触媒塗布の工程を要している。
【0012】
よって、前記特許文献1及び2の方法とも、それぞれ、7つの工程数を要している。しかし、時間・設備コストを短縮し、よって量産性をあげることが所望されている。
【0013】
また、3Dマスク法及びレーザビーム照射法では、無電解メッキを使用しているが、通常、熱可塑性樹脂成形品の表面に無電解を施すには、表面租化や触媒塗布などの処理が必要となる。
【0014】
以上より、プラスチック部材への回路形成工程を短縮することができ、稼働率の上昇および低コスト化を実現できるプラスチック部材への回路形成方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平06−334308号公報
【特許文献2】特開平05−090738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の目的は、プラスチック部材への回路形成工程を短縮することができ、稼働率の上昇および低コスト化を実現できるプラスチック部材への回路形成方法を提供することを要旨とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の第1の態様は、1回成形法によるプラスチック部材への回路形成方法において、(イ)メッキのつき易い特殊成分を含む樹脂材料を用いて射出成形体を形成す工程と、(ロ)射出成形体上に無電解による電極メッキを施す工程と、(ハ)電極メッキ上にレジスト膜を形成する工程と、(ニ)回路パターンとなる部分を覆う回路部レジスト膜を除いて、レジスト膜にレーザ光を照射してレジスト膜を除去する工程と、(ホ)回路パターンとなる回路電極メッキを除いて、電極メッキをエッチングにより除去する工程と、(ヘ)回路部レジスト膜を洗浄除去する工程とを含むプラスチック部材への回路形成方法を要旨とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、プラスチック部材への回路形成工程を短縮することができ、稼働率の上昇および低コスト化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施形態にかかるプラスチック部材への回路形成方法の工程図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るプラスチック部材への回路形成方法を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。この実施の形態は、デジタルカメラ、カムコーダなどの電子機器に用いられる導電回路を形成する例であり、プラスチック部材に導電回路を付与する。特に、この実施の形態は、1回成形法に関し、MID技術において、メッキのつき易い特殊成分(触媒)があらかじめ入った触媒材料を使うことで、メッキをつき易くするための表面処理を省略する。
【0021】
[回路パターン(無電解銅メッキ)を備える成形体]
実施形態にかかる1回成形法によるプラスチック部材への回路形成方法によれば、図1(f)に示すような、断面板状の触媒入り樹脂1からなる射出成形体1の主表面上に離間して設けられた凸部1a、1bの主面に、それぞれ回路パターン(無電解銅メッキ)2a,2bを備える成形体5が得られる。
【0022】
樹脂1としては、熱可塑性樹脂のような射出成形可能な樹脂であれば特に制限なく種々の樹脂を使用することができる。熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、メタクリル樹脂、アクリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂、アクリルスチレン樹脂等を用いることができる。メッキのつき易い特殊成分としての触媒としては、パラジウム、金、銀、白金などの金属系触媒を用いることができる。
【0023】
樹脂の種類とそれに混入される触媒の組み合わせは、適宜用途により定まるものであるが、最終成型品が電子機器、例えばデジタルビデオカメラ「ボディー」の場合、樹脂としてABS樹脂、触媒としてパラジウムを用いることが望ましい。かかる組み合わせに依れば、デジタルビデオカメラ「ボディー」に要求される、耐衝撃性と立体成型性を保持しつつ、回路パターン「無電解銅メッキ」を容易に形成することが出来るからである。
【0024】
[プラスチック部材への回路形成方法]
図1の工程図を参照しながら、実施形態にかかる1回成形法によるプラスチック部材への回路形成方法について説明する。
【0025】
(イ)メッキのつき易い特殊成分を含む樹脂材料を用いて射出成形体1を形成する。具体的には、一軸混練機、ニ軸混練機等を用いて、予め熱可塑性樹脂とメッキのつき易い特殊成分として触媒を混練した後、所望の金型に射出し、その後冷却(固化)することで射出成形体1を得ることができる。混練時間、加熱温度、加熱時間は、用いる樹脂や最終成形品の形状等により適宜定まるものである。手に馴染むように流線的な形状を備えるデジタルカメラ(ボディー)を製造する際に、樹脂としてABS樹脂、触媒としてパラジウムを用いた場合、加熱・混練時間は0.5〜1.0時間程度、加熱温度は180〜250℃程度が好ましい。
【0026】
(ロ)射出成形体1上に無電解による電極メッキ2を施す。
【0027】
(ハ)電極メッキ2上にレジスト膜3を形成する。
【0028】
(ニ)回路パターンとなる部分を覆う回路部レジスト膜3a、3bを除いて、レジスト膜3にレーザ光を照射してレジスト膜3を除去する。
【0029】
(ホ)回路パターンとなる回路電極メッキ2a、2bを除いて、電極メッキ2をエッチングにより除去する。
【0030】
(ヘ)回路部レジスト膜3a、3bを洗浄除去する。
【0031】
以上により回路パターン(無電解銅メッキ)2a,2bを備える成形体5が得られる。
【0032】
実施形態にかかるプラスチック部材への回路形成方法によれば、メッキのつき易い特殊成分(触媒)を含む樹脂材料を使うことで、従来、行っていた表面処理工程や触媒塗布工程を省略して、1回成形法により回路パターンを形成することができる。
【0033】
従来、光学マスクが使える面や、レーザ光が入射される面が限定され、成型品の形状にも制約があったという技術背景より、1回成法において触媒入り樹脂材料は使用されていなかった。ところが、電子機器の機構部分において使用されてきたフレキシブル回路の省略、小スペース化、部品点数の低減の要請の高まりと、組み立て工程の短縮などの要請の高まりに対して、従来法ではそれらの要請への対応が困難になっていた。
【0034】
本発明に係るプラスチック部材への回路形成方法よれば、電子機器の機構部分において使用されてきたフレキシブル回路を省略することができ、小スペース化、部品点数の低減、組み立て工程の短縮などを実現することができる。そして、最終的に稼働率の上昇及び低コスト化を達成することができる。また樹脂材料を熱可塑性樹脂とすることで、熱硬化性プラスチックを主体とするプリント基板よりもリサイクルが容易になる。
【実施例】
【0035】
表3に、実施例の製造工程を、比較例1、比較例2及比較例び3と比較して示す。比較例1は表2で示したレーザビーム照射法、比較例2は前記特許文献1、比較例3は前記特許文献2である。なお、表3には、それぞれの例に含まれる工程の所要時間(秒)を示す。
【表3】

【0036】
実施例の射出成形工程は20(秒)であり、比較例1、2及び3と同じである。しかし、実施例では、触媒入り樹脂を用いて射出成形体を形成しているので、3つの比較例1、2及び3のいずれでも必須である、表面処理工程を不要としている。実施例の残りの各工程の所要時間は、無電解銅メッキ工程に300(秒)、レジスト塗布工程に60(秒)、レーザ照射工程に300(秒)、不要銅エッチング工程に300(秒)、表面仕上げ(洗浄)工程に300(秒)を要し、合計時間は1280(秒)である。
【0037】
比較例1では、射出成形工程で20(秒)を要してからは、実施例で不要な表面処理工程に300(秒)を要している。その後、無電解銅メッキ工程に300(秒)、銅メッキ工程に300(秒)、レジスト塗布工程に60(秒)、レーザ照射工程に300(秒)、不要銅エッチング工程に300(秒)及び表面仕上げ工程に300(秒)を要し、合計時間は1880(秒)である。
【0038】
比較例2でも、射出成形工程で20(秒)を要してからは、実施例で不要な表面処理工程に300(秒)を要している。無電解銅メッキを不要としているが、触媒塗布に60(秒)、レジスト塗布に60(秒)、レーザ照射に300(秒)、無電解メッキに300(秒)、そして、表面仕上げに300(秒)を要している。合計時間は、比較例の中では最短の1340(秒)ではあるが、実施例よりも60(秒)ほど長い。
【0039】
比較例3でも、射出成形工程で20(秒)を要し、ラッピングで300(秒)を要したのち、実施例で不要な表面処理工程に300(秒)を要している。触媒塗布では60(秒)、ラッピング除去で300(秒)、引き続き無電解メッキで300(秒)、最後に表面仕上げで300(秒)を要しており、合計時間は、1580(秒)である。
【0040】
表4には、比較例1及び2の工程数と、実施例の工程数との比較結果を示す。比較例1及び2はそれぞれ表面処理及び表面租化を含め、工程数が7であるのに対して、実施例は表面処理を不要としており、工程数は6である。
【表4】

【0041】
以上に説明したように、実施例は、1回成形法に関し、MID技術において、射出成形工程で、メッキのつき易い特殊成分(触媒)があらかじめ入った触媒材料を使うので、比較例1、2及び3で行なっているメッキをつき易くするための表面処理工程を省略できる。このため、比較例1、2及び3に比べて製造工程の合計時間を短縮することができる。製造工程の合計時間を従来の技術に比較して短縮できるので、機械稼働率の向上に寄与できる。
【0042】
本発明は、プラスチック部材への回路形成方法として、三次元形状品への回路付与全般にも用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
無電解銅メッキのみでなく、三次元形状品への銅メッキ、ニッケル金メッキ、直金メッキなどの各電極メッキの形成にも応用が可能である。
【符号の説明】
【0044】
1…射出成形体
2、2a…無電解銅メッキ
3、3a…レジスト膜
4…レーザ光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1回成形法によるプラスチック部材への回路形成方法において、
メッキのつき易い特殊成分を含む樹脂材料を用いて射出成形体を形成す工程と、
前記射出成形体上に無電解による電極メッキを施す工程と、
前記電極メッキ上にレジスト膜を形成する工程と、
回路パターンとなる部分を覆う回路部レジスト膜を除いて、前記レジスト膜にレーザ光を照射して前記レジスト膜を除去する工程と、
回路パターンとなる回路電極メッキを除いて、前記電極メッキをエッチングにより除去する工程と、
前記回路部レジスト膜を洗浄除去する工程
とを含むことを特徴とするプラスチック部材への回路形成方法。
【請求項2】
前記射出成形体工程は、メッキのつき易い特殊成分として、パラジウム、金、銀、白金などの金属系触媒群から一の触媒を選択的に含んだ樹脂材料を用いて前記射出成形体を形成することを特徴とする請求項1記載のプラスチック部材への回路形成方法。
【請求項3】
前記無電解電極メッキ工程は、無電解銅メッキ工程であることを特徴とする請求項1記載のプラスチック部材への回路形成方法。
【請求項4】
3次元形状の回路をプラスチック材料に形成することを特徴とする請求項1記載のプラスチック部材への回路形成方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−205929(P2010−205929A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−49767(P2009−49767)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】