説明

プラズマディスプレイパネルとその製造方法

【課題】保護層における放電特性を改善することにより放電遅れの発生を抑制し、高精細セル構造でも優れた画像表示性能を発揮することが可能なPDPとその製造方法を提供する。
【解決手段】表面層8の表面部分に、表面近傍にハロゲン原子を含み,165nm以下の紫外線で励起されて発光し,その発光の残光時間が2ms以上であるMgO微粒子16aを平面的に分散配置させてMgO微粒子群16を形成する。ハロゲン原子は、MgO微粒子16aの表層近傍(特に粒子表層から粒子内部に向かって、少なくとも4nm以下の領域)に含まれるように調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネルとその製造方法に関し、特に主に酸化マグネシウムからなる保護層を備えるプラズマディスプレイパネルとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイパネル(以下、PDP)はフラットパネルディスプレイ(FPD)の中でも高速表示が可能であり、かつ大型化が容易であることから、映像表示装置および広報表示装置などの分野で広く実用化されている。
【0003】
図7は、一般的なAC型PDPにおける放電単位である放電セル構造の模式的組図である。当図7に示すPDP1xはフロントパネル2およびバックパネル9を貼り合わせてなる。フロントパネル2は、フロントパネルガラス3の片面に、走査電極5および維持電極4を一対とする表示電極対6が複数対にわたり配設され、当該表示電極対6を覆うように、誘電体層7および保護層8が順次積層されてなる。走査電極5、維持電極4は、それぞれ透明電極51、41およびバスライン52、42を積層して構成される。
【0004】
誘電体層7は、ガラス軟化点が550℃〜600℃程度の範囲の低融点ガラスから形成され、AC型PDP特有の電流制限機能を有する。表面層8は、上記誘電体層7および表示電極対6をプラズマ放電のイオン衝突より保護すると共に、二次電子を効率よく放出し、放電開始電圧を低下させる役目をなす。通常、当該表面層8は二次電子放出特性、耐スパッタ性、光学透明性に優れる酸化マグネシウム(MgO)を用いて、真空蒸着法(特許文献1、2)や印刷法(特許文献3)で厚み0.5μm〜1μm程度で成膜される。なお表面層8と同様の構成は、誘電体層7および表示電極対6を保護する他に、二次電子放出特性の確保を目的とした保護層として設けられることもある。
【0005】
他方、バックパネル9は、バックパネルガラス10上に画像データを書き込むための複数のデータ(アドレス)電極11が前記フロントパネル2の表示電極対6と直交方向で交差するように併設される。バックパネルガラス10には、データ電極11を覆うように低融点ガラスからなる誘電体層12が配設される。誘電体層12において隣接する放電セル(図示省略)との境界上には、低融点ガラスからなる所定の高さの隔壁(リブ)13が放電空間15を区画するように、井桁状等のパターン部1231、1232を組み合わせて形成される。誘電体層12表面と隔壁13の側面には、R、G、B各色の蛍光体インクが塗布および焼成されてなる蛍光体層14(蛍光体層14R、14G、14B)が形成されている。
【0006】
フロントパネル2とバックパネル9は、表示電極対6とデータ電極11とが放電空間15をおいて互いに直交するように配置され、その各周囲で封着される。この際に内部封止された放電空間15には、放電ガスとしてXeを含む希ガスが約数十kPaの圧力で封入される。以上でPDP1xが構成される。
【0007】
ところで、PDPで画像表示するためには、1フィールドの映像を複数のサブフィールド(S.F.)に分割する階調表現方式(例えばフィールド内時分割表示方式)が用いられる。
【0008】
近年では、PDPの高精細化や高速駆動化が必要とされており、放電特性の向上に対する研究が広く行われている。研究の重要な課題項目には「放電遅れ」の防止・抑制が挙げられる。「放電遅れ」とは駆動パルスの幅を狭くして高速駆動を行う際に、パルスの立ち上がりから遅れて放電が行われる現象を指す。「放電遅れ」が顕著になると、印加されたパルス幅内で放電が終了する確率が低くなり、本来点灯すべきセルに書き込み等ができずに点灯不良を生じる。高精細なセル構造において、放電遅れの問題は高速駆動を行う場合に特に顕在化するおそれがあり、早急な対策が望まれている。
【0009】
「放電遅れ」の原因は、主に保護層の特性に起因すると考えられている。従って現在では、MgOにFe、Cr、V等や、Si、Al等の元素をドーパントとして添加して、当該ドーパントにより保護層の放電特性を改善する試みが講じられている(特許文献1、2)。一方、誘電体層の上に直接、或いは薄膜法で作製したMgO膜を介して、気相酸化法で作製したMgOの単結晶微粒子を層状に配置し、保護層表面の放電特性を改善する試みも行われている(特許文献3,4)。この特許文献3,4の方法によれば、低温時における放電遅れ低減については一定の改善が図られるとされている。
【特許文献1】特開平8−236028号公報
【特許文献2】特開平10−334809号公報
【特許文献3】特開2006−059779号公報
【特許文献4】特開2006−173018号公報
【特許文献5】特開2006−147417号公報
【特許文献6】特開昭64−28273号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら現在では、上記いずれの特許文献に記載された従来技術においても、放電遅れに関する問題を十分に解決するには至っていない現状にある。例えば特許文献3には、気相酸化法で作製されたMgO微粒子(粉体)が用いられているが、気相酸化法で作成された粒子は粒径に比較的バラツキがあり、粒径の大きい粒子に対し、多数の微細粒子が含まれている。このような多数の微細粒子には、実質的に放電遅れの防止・抑制に貢献しない微粒子が含まれている。従って、PDPにおいては、比較的多くのMgO微粒子を分散させて用いないと、実用的な放電遅れの抑制効果が得られない。
【0011】
一方、大量のMgO微粒子を誘電体層や表面層に対して配設すると、蛍光体で生じた可視光を散乱させてしまい、可視光透過率が減少してしまうデメリットがある。これらの問題を解決するために、分級によって粒径の小さいMgO微粒子を取り除く方法が提案されている(特許文献5)。しかしながら、その場合は分級工程という新たな工程を行う必要が生じ、工程数が増えて製造効率を低下させるほか、大がかりな分級装置を要する問題がある。さらに、分級工程後に使用できない無駄なMgO材料が発生するなど、実際上、製造コスト面での各種問題が発生する。
【0012】
以上のように、PDPにおいて実用的に放電遅れの増大を効果的に解決するには至っていないと考えられる。また、この問題は、高精細なセル構造において、高速駆動を行う場合に特に顕在化するおそれがあるため、早急な対策が望まれている。
【0013】
本発明は以上の課題に鑑みなされたものであって、保護層における放電特性を改善することにより放電遅れの発生を抑制し、高精細セル構造でも優れた画像表示性能を発揮することが可能なPDPとその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明は、電極と誘電体層とが配設された第1基板が、放電空間を介して第2基板と対向配置され、当該第1および第2両基板の周囲が封着されたPDPであって、前記第1基板と第2基板の間の単位発光領域に対向する部分に、ハロゲン原子を含み、波長165nm以下の真空紫外線で励起されて発光し、前記発光の残光時間が2ms以上である酸化マグネシウム微粒子を含む酸化マグネシウム微粒子群が配設されている構成とした。
【0015】
前記MgO微粒子群は,前記誘電体層表面に配設されると放電特性の改善が顕著となり好ましい。さらには,誘電体層の放電空間側には、MgO、CaO、BaOおよびSrOの群より選ばれた少なくとも一つの金属酸化物を含む表面層が設けられ、前記MgO微粒子群は、前記表面層の放電空間側に配設された構成とすることもできる。
【0016】
また前記ハロゲン原子は、前記MgO微粒子の表層近傍に含めることができる。
【0017】
ここで前記「表面近傍の領域」とは、MgO微粒子の表面から内部に向かって、少なくとも4nm以下の領域を含む領域とすることができる。さらに前記ハロゲン原子には、具体的にはフッ素原子あるいは塩素原子を用いることができる。
【0018】
ここで前記MgO微粒子中において、ハロゲン原子は、マグネシウム原子に対し、2atm%以上の割合で含まれる構成とすることも可能である。あるいは前記MgO微粒子中において、ハロゲン原子は、マグネシウム原子に対し、2atm%以上19.3atm%以下の割合で含まれる構成も取り得る。
【0019】
ここで、MgO微粒子群は、誘電体層に対して1.0%以上の投影面積比で被覆するように構成することで,放電遅れの発生を抑制し,同時に,壁電荷の自己抜けが抑制できるため好ましい。
【0020】
さらに本発明のPDPの製造方法は,電極と誘電体層とが配設された第1基板に対し、前記誘電体層の表面にMgO微粒子を配設するMgO微粒子配設工程と、第1基板と第2基板とを対向配置させて封着する工程とを有するPDPの製造方法であって、MgO微粒子配設工程では、MgO前駆体に対して、フッ化マグネシウム、塩化マグネシウム、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、塩化ナトリウムの中の1種以上を焼結助剤として添加してなる材料を、焼成することで得たMgO微粒子を用いるものとした。
【0021】
また本発明は、電極と誘電体層とが配設された第1基板に対し、前記誘電体層の表面に表面層を形成する表面層形成工程と、第1基板と第2基板とを対向配置させて封着する工程とを有するPDPの製造方法であって、表面層形成工程と封着工程との間において、表面層の表面にMgO微粒子を配設するMgO微粒子配設工程を有し、表面層形成工程では、誘電体層の表面に対し、MgO、CaO、BaOおよびSrOの群より選ばれた少なくとも一つの金属酸化物を含む材料で表面層を形成し、MgO微粒子配設工程では、MgO前駆体に対して、フッ化マグネシウム、塩化マグネシウム、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、塩化ナトリウムの中の1種以上を焼結助剤として添加してなる材料を、焼成することで得たMgO微粒子を用いるものとした。
【発明の効果】
【0022】
以上の構成を有する本発明によれば、ハロゲン原子を含み、波長165nm以下の真空紫外線で励起されて発光し、発光の残光時間が2ms以上であるMgO微粒子16は、高いエキソ電子放出能有するので、放電遅れを適切に抑制することができる。また、二次電子放出係数の向上による放電開始電圧の低下も期待できる。
【0023】
本発明では、表面層或いは誘電体層に対するMgO微粒子群の被覆率は、上記の気相法で作成されたMgO微粒子を用いる場合と比較して、高くする必要がないため、フロントパネルの適度な可視透過率が確保され、放電遅れの抑制効果と相まって、優れた画像表示性能が発揮される。
【0024】
また、本発明では、MgO前駆体の焼成により従来に比して均一な粒径でMgO微粒子を得ているので、放電遅れの防止・抑制に貢献しない微粒子を除くための分級工程が不要であって、そのまま生成されたMgO微粒子を利用できる。このため、分級工程を省略して工程の簡略化が図れ、製造効率およびコストの面で大きなメリットを有するほか、従来の一般的なセラミック粉体の製造工程でも実施でき、製造コストの効果的な抑制が期待できる。
【0025】
なお、ハロゲン原子を含み、波長165nm以下の真空紫外線で励起されて発光し、発光の残光時間が2ms以上であるMgO微粒子群が高いエキソ電子放出能を有する理由は解明できていない。しかし、発光の残光時間が長いことは、それに関与する励起準位が安定であることを意味するので、発光に寄与する励起準位が、エキソ電子放出に寄与する励起準位と同一である、あるいは、その形成過程において,相関を有することを仮定すれば、残光時間とエキソ電子放出能の関係がある程度は理解できる。これは、二次電子放出係数の向上に関しても同様である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に、本発明の実施の形態および実施例を説明するが、当然ながら本発明はこれらの形式に限定されるものでなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0027】
<実施の形態1>
(PDPの構成例)
図1は、本発明の実施の形態1に係るPDP1のxz平面に沿った模式的な断面図である。当該PDP1は保護層周辺の構成を除き、全体的には従来構成(前述の図7)と同様である。なお、図1では説明のため、表面層8の表面に配設されるMgO微粒子群16を実際よりも大きく、模式的に表している。
【0028】
PDP1は、ここでは42インチクラスの1024×768(画素数)仕様としているが、本発明は当然ながら,他の仕様例に適用してもよく,例えば,1920×1080(画素数)を備えるフルHDパネルにも適用でき,7680×4320(画素数)のスーパーハイビジョンにも適用できる。
【0029】
図1に示すように、PDP1の構成は互いに主面を対向させて配設された第1基板(フロントパネル2)および第2基板(バックパネル9)に大別される。フロントパネル2の基板となるフロントパネルガラス3には、その一方の主面に所定の放電ギャップ(75μm)をおいて配設された一対の表示電極対6(走査電極5、維持電極4)がx軸方向を長手方向としてy軸方向に複数対にわたり形成されている。各表示電極対6は、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化錫(SnO)等の透明導電性材料からなる帯状の透明電極51、41(厚さ0.1μm、幅150μm)に対して、Ag厚膜(厚み2μm〜10μm)、Al薄膜(厚み0.1μm〜1μm)またはCr/Cu/Cr積層薄膜(厚み0.1μm〜1μm)等からなるバスライン52、42(厚さ7μm、幅95μm)が積層されてなる。このバスライン52、42によって透明電極51、41のシート抵抗が下げられる。ここで、「厚膜」とは、導電性材料を含むペースト等を塗布した後に焼成して形成する各種厚膜法により形成される膜をいう。また、「薄膜」とは、スパッタリング法、イオンプレーティング法、電子線蒸着法等を含む、真空プロセスを用いた各種薄膜法により形成される膜をいう。
【0030】
表示電極対6を配設したフロントパネルガラス3には、その主面全体にわたり、酸化鉛(PbO)または酸化ビスマス(Bi)または酸化燐(PO)を主成分とする低融点ガラス(厚み約30μm)の誘電体層7が、スクリーン印刷法等によって形成されている。
【0031】
誘電体層7は、AC型PDP特有の電流制限機能を有し、DC型PDPに比べて長寿命化を実現する要素になっている。誘電体層7の放電空間側の面には、膜厚約1μmの表面層8と、当該表面層8の表面に、MgO微粒子16aを含むMgO微粒子群16が配設されている。この表面層8およびMgO微粒子群16の組み合わせにより、誘電体層7に対する保護層17が構成されている。
【0032】
表面層8は、誘電体層7および表示電極対6をプラズマ放電のイオン衝突より保護すると共に、二次電子を効率よく放出し、放電開始電圧を低下させる役目をなす薄膜であって、耐スパッタ性および二次電子放出係数γに優れるMgO材料からなる。当該材料は、さらに良好な光学透明性、電気絶縁性を有する。一方、MgO微粒子群16は、MgO成分を主体とし、ハロゲン原子としてフッ素原子を含むMgO微粒子16aで構成されている。このMgO微粒子群16については詳細を後述する。
【0033】
バックパネル9の基板となるバックパネルガラス10には、その一方の主面に、Ag厚膜(厚み2μm〜10μm)、Al薄膜(厚み0.1μm〜1μm)またはCr/Cu/Cr積層薄膜(厚み0.1μm〜1μm)等のいずれかからなるデータ電極11が、幅100μmで、x方向を長手方向としてy方向に一定間隔毎(360μm)でストライプ状に並設される。そして、各々のデータ電極11を内包するように、バックパネルガラス9の全面にわたって、厚さ30μmの誘電体層12が配設されている。
【0034】
誘電体層12の上には、さらに隣接するデータ電極11の間隙に合わせて井桁状の隔壁13(高さ約110μm、幅40μm)が配設され、放電セルが区画されることで誤放電や光学的クロストークの発生を防ぐ役割をしている。隣接する2つの隔壁13の側面とその間の誘電体層12の面上には、カラー表示のための赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の各々に対応する蛍光体層14が形成されている。各種組成として、青色蛍光体(B)には、既知のBAM:Eu、赤色蛍光体(R)には(Y,Gd)BO:EuやY:Eu等、緑色蛍光体(G)にはZnSiO:Mn、YBO:Tbおよび(Y,Gd)BO:Tb等が利用できる。
【0035】
なお、誘電体層12は必須ではなく、データ電極11を直接蛍光体層14で内包するようにしてもよい。
【0036】
フロントパネル2とバックパネル9は、データ電極11と表示電極対6の互いの長手方向が直交するように対向配置され、両パネル2、9の外周縁部がガラスフリットで封着されている。この両パネル2、9間にはXeを含む不活性ガス成分からなる放電ガスが所定圧力で封入される。隔壁13の間は放電空間15であり、隣り合う一対の表示電極対6と1本のデータ電極11が放電空間15を挟んで交叉する領域が、画像表示にかかる放電セル(「サブピクセル」とも言う)に対応する。放電セルピッチはx方向が675μm、y方向が300μmである。隣り合うRGBの各色に対応する3つの放電セルで1画素(675μm×900μm)が構成される。
【0037】
走査電極5、維持電極4およびデータ電極11の各々には、図2に示すようにパネルxy方向端部付近において、駆動回路として走査電極ドライバ111、維持電極ドライバ112、データ電極ドライバ113が電気的に接続される。ここで、維持電極4は一括して維持電極ドライバ112に接続され、各走査電極5と各データ電極11は、それぞれ独立して走査電極ドライバ111或いはデータ電極ドライバ113に接続される。
【0038】
(PDPの駆動例)
PDP1は、各ドライバ111〜113を含む公知の駆動回路(不図示)によって、駆動時には各表示電極対6の間隙に数十kHz〜数百kHzのAC電圧が印加される。これにより任意の放電セル内で放電が発生し、励起Xe原子による波長147nm主体の共鳴線と励起Xe分子による波長173nm主体の分子線を含む紫外線(図1の点線および矢印)が蛍光体層14に照射される。蛍光体層14は励起されて可視光発光する。そして当該可視光はフロントパネル2を透過して前面に発光される。
【0039】
この駆動方法の一例としては、フィールド内時分割階調表示方式が採られる。当該方式は、表示するフィールドを複数のサブフィールド(S.F.)に分け、各サブフィールドをさらに複数の期間に分ける。1サブフィールドは更に、(1)全放電セルを初期化状態にする初期化期間、(2)各放電セルをアドレスし、各放電セルへ入力データに対応した表示状態を選択・入力していく書込期間、(3)表示状態にある放電セルを表示発光させる維持期間、(4)維持放電により形成された壁電荷を消去する消去期間という4つの期間に分割されてなる。
【0040】
各サブフィールドでは、初期化期間で画面全体の壁電荷を初期化パルスでリセットした後、書込期間で点灯すべき放電セルのみに壁電荷を蓄積させる書込放電を行い、その後の放電維持期間ですべての放電セルに対して一斉に交流電圧(維持電圧)を印加することによって一定時間放電維持することで発光表示する。
【0041】
ここで図3は、フィールド中の第m番目のサブフィールドにおける駆動波形例である。図3が示すように、各サブフィールドには、初期化期間、アドレス期間、維持期間、消去期間がそれぞれ割り当てられる。
【0042】
初期化期間とは、それ以前の放電セルの点灯による影響(蓄積された壁電荷による影響)を防ぐため、画面全体の壁電荷の消去(初期化放電)を行う期間である。図3に示す駆動波形例では、走査電極5にデータ電極11および維持電極4に比べて高い電圧(初期化パルス)を印加し放電セル内の気体を放電させる。それによって発生した電荷はデータ電極11、走査電極5および維持電極4間の電位差を打ち消すように放電セルの壁面に蓄積されるので、走査電極5付近の表面層8およびMgO微粒子群16の表面には、l負の電荷が壁電荷として蓄積される。またデータ電極11付近の蛍光体層14表面および維持電極4付近の表面層8およびMgO微粒子群16の表面には、正の電荷が壁電荷として蓄積される。この壁電荷により、走査電極5―データ電極11間、走査電極5―維持電極4間に所定の値の壁電位が生じる。
【0043】
アドレス期間(書込期間)は、サブフィールドに分割された画像信号に基づいて選択された放電セルのアドレッシング(点灯/不点灯の設定)を行う期間である。当該期間では、放電セルを点灯させる場合には走査電極5にデータ電極11および維持電極4に比べ低い電圧(走査パルス)を印加させる。すなわち、走査電極5―データ電極11には前記壁電位と同方向に電圧を印加させると共に走査電極5―維持電極4間に壁電位と同方向にデータパルスを印加させ、アドレス放電(書込放電)を生じさせる。これにより蛍光体層14表面、維持電極4付近の表面層8およびMgO微粒子群16の表面には、負の電荷が蓄積され、走査電極5付近の表面層8およびMgO微粒子群16の表面には、正の電荷が壁電荷として蓄積される。以上で維持電極4―走査電極5間には所定の値の壁電位が生じる。
【0044】
維持期間は、階調に応じた輝度を確保するために、書込放電により設定された点灯状態を拡大して放電を維持する期間である。ここでは上記壁電荷が存在する放電セルで、一対の走査電極5および維持電極4の各々に維持放電のための電圧パルス(例えば約200Vの矩形波電圧)を互いに異なる位相で印加する。これにより表示状態が書き込まれた放電セルに対し電圧極性の変化毎にパルス放電を発生せしめる。
【0045】
この維持放電により、放電空間における励起Xe原子からは147nmの共鳴線が放射され、励起Xe分子からは173nm主体の分子線が放射される。この共鳴線・分子線が蛍光体層14表面に照射され、可視光発光による表示発光がなされる。そして、RGB色ごとのサブフィールド単位の組み合わせにより、多色・多階調表示がなされる。なお、表面層8に壁電荷が書き込まれていない非放電セルでは、維持放電が発生せず表示状態は黒表示となる。
【0046】
消去期間では、走査電極5に漸減型の消去パルスを印加し、これによって壁電荷を消去させる。
【0047】
(保護層17の構成)
PDP1における保護層17は、誘電体層7に積層された表面層8と、その上に配設されたMgO微粒子群16で構成されている。
【0048】
表面層8は、厚さ約1μmのMgO薄膜であって、誘電体層7上に真空蒸着法、イオンプレーティング法等公知の薄膜形成法で成膜されてなる。なお、当該表面層8の材料はMgOに限らず、MgO、CaO、BaOおよびSrOの群より選ばれた少なくとも一つの金属酸化物を含むように構成できる。
【0049】
MgO微粒子群16は、比較的に均一な粒径分布を持ち、MgO微粒子16aを平面的に分散・凝結させて構成される。MgO微粒子16aは、ハロゲン原子(フッ素原子)を表面近傍において一定範囲で含む構成を有している。その態様は、例えば一部のハロゲン原子が酸素原子と置換し、これによりMgOの結晶構造中において部分的にMgFの結晶構造が混在しているものと考えられる。このようなハロゲン原子は、各々のMgO微粒子16aにおいて、その表面近傍、具体的には表面から粒子内部に向けて深さ4nm以内の範囲を主として含まれている。
【0050】
発明者らの検討によれば、MgO微粒子16aによる表面層8の被覆量としては、表面層8に対して1.0%以上の投影面積比で被覆させるのが好適である。しかしながら、本発明はこれに限定するものではなく、表面層8の任意の領域に対して部分的に、所定の被覆率で設けることも可能である。或いは例えば、大型のMgO微粒子16aを、各放電セル内の表面層8に数個乃至数百個程度設けることもできる。
【0051】
以上のMgO微粒子群16を持つPDP1によれば、上記の考えにより,ハロゲン原子の混在によりエキソ電子放出能が増大されたMgO微粒子16aが、放電空間15に臨むように表面層8に分散配置されているので、PDPの駆動時に各MgO微粒子16aの表面から放電空間15内に向けて豊富にエキソ電子が放出される。その結果、PDP1では放電遅れを抑制することができる。
【0052】
ここにおいてPDP1では、MgO微粒子群16aの配設に際し、表面層8に対してそれほど多くのMgO微粒子16aを被着させることなく、平面的に分散させて配設されており、当該MgO微粒子群16による表面層8の被覆率が低く抑えられている。このため、フロントパネル2ではディスプレイとして適度な可視透過率が確保される一方、放電遅れの発生に対しても十分な抑制効果が図られ、結果として優れた画像表示性能が発揮されるようになっている。
【0053】
放電遅れの改善のためには,特許文献1または2のように、結晶格子中に酸素欠陥やドーパントを導入して、エネルギーバンド中の局在準位を増大させる手法が知られている。しかし、この方法ではMgO膜の構成が経時的に不安定であり、使用時間が増すに従い構造劣化を生じ、放電特性が変化してしまう恐れがある。
【0054】
そこで本発明のMgO微粒子16aの製造方法では、後述するように各種ハロゲン化物を焼結助剤として使用し、且つ焼結後は、結晶中の酸素原子の一部をハロゲン原子であるフッ素原子で置換させる構成としている。この方法では、従来の酸素欠陥で局在準位を作る方法とは異なり、結晶中に原子化制御によって局在準位を形成するため、経時的に安定な結晶構造が維持され、且つ、165nm以上の励起光で発光し,その残光時間が2ms以上と長いため,良好且つ安定的にエキソ電子を放出させる作用が期待できる。同時に,二次電子放出係数の増大も期待できる。
【0055】
このように本発明では、ハロゲン原子を積極的に残存させることで一定の効果を得るものであり、単にハロゲン原子を焼成工程に際してフラックスとして用い、ハロゲン原子の残存は望ましくないとする従来技術(特許文献6)とは異なる特徴を持つものである。なお、ここではハロゲン原子としてフッ素原子を用いる例を示したが、この他に塩素原子など、ハロゲン属の各種原子を用いることも可能である。
【0056】
また、特開2006−202765号公報には、ハロゲン原子を含むMgO結晶膜からなる保護層の構成が記載されているが、当該保護層では、放電空間に臨むMgO膜の一様な表面付近がハロゲン原子を含む構成であり、粒子の表面近傍を取り巻くようにハロゲン原子が含まれるMgO微粒子16aを用いたものとは異なっている。また、本発明では表面層8の任意の領域にMgO微粒子16aを配設することができ、ハロゲン原子の使用量や使用領域を精密にコントロールできるといったメリットがあるので、本発明はこの点においても当該従来技術にはない利点を有するものである。
【0057】
さらに、当該従来技術では、EB法によりMgO膜を成膜するとともに、フッ素原子を導入するためのプラズマ処理を同一の真空チャンバーで実施できるものとしているが、当該製造方法は実際的なものではなく、製造コスト等の面から著しく量産性に乏しいと考えられる。これに対し本発明のMgO微粒子16aは、後述するようにMgO前駆体に、ハロゲン原子成分を含む焼成助剤を添加して焼成することで製造されるため、従来と同様の製造施設を利用して実現が可能であり、製造コストを含めた実現性の面において、非常に高い効果を有している。
【0058】
<実施の形態2>
本発明の実施の形態2のPDP1aについて、実施の形態1との差異を中心に説明する。
【0059】
図4は、実施の形態2に係るPDPの構成を示す断面図である。PDP1aの特徴は、表面層8を用いず、誘電体層7の上に直接MgO微粒子群16を配設し、これを保護層とした点にある。MgO微粒子群16をなすMgO微粒子16aは、実施の形態1と同様である。
【0060】
このような構成を持つPDP1aによっても、PDP1と同様の効果が奏される。すなわち、誘電体層表面に配設されたMgO微粒子群16によって、PDPの駆動時には、ハロゲン原子の混在によりエキソ電子放出能が増大されたMgO微粒子16aが、放電空間15に臨むように分散配置されているので、PDPの駆動時に各MgO微粒子16aの表面から放電空間15内に向けて豊富にエキソ電子が放出される。その結果、PDP1では放電遅れを抑制することができる。また,放電開始電圧の低減も期待できる。MgO微粒子群16による誘電体層7の被覆率が低く抑えられているため、適度な可視透過率の確保と放電遅れの発生抑制が両立され、優れた画像表示性能が発揮される。
【0061】
さらにPDP1aでは、表面層の省略により、当該表面層を成膜するための工程(スパッタリング法、イオンプレーティング法、電子線蒸着法等を含む薄膜プロセス)が全く不要である。従って、その分、工程を省略でき、且つ、製造コストを低減できるという有効且つ大きなメリットがある。
【0062】
なお、MgO微粒子16は、表面層もしくは、誘電体層の表面上に加えて、蛍光体層や隔壁の表面、すなわち、前記第1基板と第2基板の間の単位発光領域に対向する部分に配設されてもよい。
【0063】
<PDPの製造方法>
次に、各実施の形態におけるPDP1、1aの製造方法例について説明する。従来例とPDP1、1aとの違いは、主として保護層付近の構成にあり、その他の製造工程については共通する。
【0064】
(バックパネルの作製)
厚さ約2.6mmのソーダライムガラスからなるバックパネルガラス10の表面上に、スクリーン印刷法によりAgを主成分とする導電体材料を一定間隔でストライプ状に塗布し、厚さ数μm(例えば約5μm)のデータ電極11を形成する。データ電極11の電極材料としては、Ag、Al、Ni、Pt、Cr、Cu、Pd等の金属や、各種金属の炭化物や窒化物等の導電性セラミックスなどの材料やこれらの組み合わせ、あるいはそれらを積層して形成される積層電極も必要に応じて使用できる。続いて、データ電極11を形成したバックパネルガラス10の面全体にわたって鉛系あるいは非鉛系の低融点ガラスやSiO材料からなるガラスペーストを厚さ約20〜30μmで塗布して焼成し、誘電体層12を形成する。
【0065】
次に、誘電体層12面上に所定のパターンで隔壁13を形成する。この隔壁13は、低融点ガラス材料ペーストを塗布し、サンドブラスト法やフォトリソグラフィ法を用い、隣接放電セル(図示省略)との境界周囲を仕切るように、放電セルの複数個の配列を行および列を仕切る井桁形状のパターンで形成する。
【0066】
隔壁13が形成できたら、隔壁13の壁面と、隔壁13間で露出している誘電体層12の表面に、AC型PDPで通常使用される赤色(R)蛍光体、緑色(G)蛍光体、青色(B)蛍光体のいずれかを含む蛍光インクを塗布する。これを乾燥・焼成し、それぞれ蛍光体層14とする。
【0067】
適用可能なRGB各色蛍光の化学組成例は以下の通りである。
【0068】
赤色蛍光体;(Y、Gd)BO:Eu、Y:Eu
緑色蛍光体;ZnSiO:Mn、YBO:Tbおよび(Y,Gd)BO:Tb
青色蛍光体;BaMgAl1017:Eu
各蛍光体材料は、平均粒径2.0μmのものが好適である。
【0069】
上記蛍光体インクは、例えば体積平均粒径2μmの青色蛍光体30質量%と、質量平均分子量約20万のエチルセルロース4.5質量%と、ブチルカルビトールアセテート65.5質量%とを混合して作製する。また、隔壁30に対するインクの付着力を高めるため、粘度を最終的に2000〜6000cps(2〜6Pas)程度に調整する。そして例えばメニスカス法やラインジェット法などの公知の塗布方法により、蛍光体インクをポンプを用い、径60μmのノズルから隔壁13間に噴射させて塗布する。このとき、パネルを隔壁13の長手方向に移動させ、ストライプ状に蛍光体インクを塗布する。塗布したインクは500℃で10分間焼成することにより、蛍光体層14を形成する。
【0070】
以上でバックパネル9が完成される。
【0071】
(フロントパネル2の作製)
厚さ約2.6mmのソーダライムガラスからなるフロントパネルガラス3の面上に、表示電極対6を作製する。ここでは印刷法によって表示電極対6を形成する例を示すが、これ以外にもダイコート法、ブレードコート法等で形成することができる。
【0072】
まず、ITO、SnO、ZnO等の透明電極材料を最終厚み約100nmで、ストライプ等所定のパターンでフロントパネルガラス上に塗布し、乾燥させる。これにより透明電極41、51が作製される。
【0073】
一方、Ag粉末と有機ビヒクルに感光性樹脂(光分解性樹脂)を混合してなる感光性ペーストを調整し、これを前記透明電極41、51の上に重ねて塗布し、形成するバスラインのパターンに合わせた開口部を有するマスクで覆う。そして、当該マスク上から露光し、現像工程を経て、590〜600℃程度の焼成温度で焼成する。これにより透明電極41、51上に最終厚みが数μmのバスライン42、52が形成される。このフォトマスク法によれば、従来は100μmの線幅が限界とされていたスクリーン印刷法に比べ、30μm程度の線幅までバスライン42、52を細線化することが可能である。バスライン42、52の金属材料としては、Agの他にPt、Au、Al、Ni、Cr、また酸化錫、酸化インジウム等を用いることができる。バスライン42、52は上記方法以外にも、蒸着法、スパッタリング法などで電極材料を成膜したのち、エッチング処理して形成することも可能である。
【0074】
次に、表示電極対6の上から、軟化点が550℃〜600℃の鉛系あるいは非鉛系の低融点ガラスやSiO2材料粉末とブチルカルビトールアセテート等からなる有機バインダーを混合したペーストを塗布する。そして550℃〜650℃程度で焼成し、最終厚みが膜厚数μm〜数十μmの誘電体層7を形成する。
【0075】
(ハロゲン原子を含むMgO微粒子16aの製造方法)
MgO微粒子群16に用いられるハロゲン原子を含むMgO微粒子16aは、酸化マグネシウムの前駆体と、焼結助剤を混合してなる材料を、焼成することによって得る。
【0076】
MgO前駆体としては、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、炭酸マグネシウム(MgCO--)、マグネシウムのアルコキシド、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウムの内の1種以上を用いることができる。
【0077】
焼結助剤としては、フッ化マグネシウム(MgF)、塩化マグネシウム(MgCl)、フッ化アルミニウム(AlF)、フッ化カルシウム(CaF)、フッ化リチウム(LiF)、塩化ナトリウム(NaCl)等のハロゲン化合物の内の1種以上を用いることができる。なお、焼成後の残留元素としてマグネシウム以外の元素が含まれる場合、元素種によっては放電特性に好ましくない影響を及ぼす恐れがある。従って、良好な放電特性の確保のためにはマグネシウムハロゲン化物が好適である。このように焼結助剤は適宜使い分けることができる。
【0078】
原料の混合方法は、溶媒を用いた湿式混合、或いは乾燥粉体を用いた乾式混合のいずれで行ってもよい。湿式混合を行う場合は、溶媒として、水以外に、エチルアルコール、メチルアルコール、iso―プロピルアルコール、n―プロピルアルコール、n―ブトキシアルコール、sec―ブトキシアルコール、tert―ブトキシアルコール等のアルコールや、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸メチル、2―メトキシ酢酸エチル等の酢酸エステルや、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトンを用いることができ、特に限定されるものではない。
【0079】
乾式混合を行う場合は、工業的に通常用いられるボールミル、媒体撹拌ミル、遊星型ボールミル、振動ミル、ジェットミル、V型混合機等を用いることができる。なお、原料中の粗大な粒子は、放電特性に悪影響を及ぼすので、粒度を揃えるため分級を実施しておくことが好ましい。
【0080】
MgO前駆体と焼結助剤の混合粉体は、600℃〜1800℃、好ましくは900℃〜1500℃で15分〜10時間焼成することによりMgO微粒子16aが得られる。
【0081】
焼成温度と焼成時間は、用いる前駆体の粒子径や分級条件、焼結助剤の添加量、混合粉体量など、様々な条件により適宜調整する必要がある。また、所望の放電特性を得るために、焼成時の雰囲気を酸化、あるいは還元雰囲気制御することもできる。焼成粉体量によっては、焼結助剤との混合の均質性を高めるため、本焼成前に仮焼工程を経ることが好ましい。
【0082】
仮焼工程は大気中で700〜1000℃で15分〜5時間焼成して行うが、本焼成工程と同様に焼成温度と焼成時間は、上述した様な条件の違いによって適宜調製する必要がある。仮焼工程により得られる粉体は解砕、混合した後、本焼成工程で処理する。この際の仮焼粉の混合方法も湿式混合および乾式混合のいずれでもよいが、湿式混合の場合は、例えば水のように、MgOの溶解を伴う溶媒は使用できないため留意する。各焼成工程で利用する焼成炉は、工業的に通常用いられる炉、例えばプッシャー炉等の連続式、またはバッチ式の電気炉や、ガス炉等を用いることができる。
【0083】
さらに、本焼成工程で得られたMgO微粒子16aは、ボールミルやジェットミルなどを用いて再度解砕し、必要に応じて分級することにより、MgO微粒子16aの粒度分布や流動性を調整することができる。
【0084】
ここで、一般に気相酸化法で作製されるMgO微粒子は、粒径に比較的バラツキがあるため、良好かつ均一な放電特性を得るためには一定の粒径範囲の粒子を選別する分級工程が必要である。
【0085】
これに対し本発明では、気相酸化法ではなく、上記のようにMgO前駆体の焼成方法を採っている。この前駆体焼成法によれば、前駆体の種類を候補(材料種、粒子径、粒度分布等の各条件の違いを含む候補)の中から選定し、且つ、その焼成条件(焼成温度、焼成雰囲気、焼成時間等の焼成に必要な各条件)を適宜制御することにより、適切にMgO微粒子の粒度分布を制御できる。従って、当該方法で得られるMgO微粒子16aは、気相酸化法で作製される粒子よりも粒径を均一にして、且つ、一定の粒径範囲(100nm〜8μm、特に500nm〜1μmの範囲)に収めるように制御することができる。
【0086】
この理由で本発明では、前駆体焼成法を用いることで基本的に分級工程を行う必要はなく、そのままMgO微粒子16aを利用することが可能である。このため分級工程を省略して工程の簡略化が図れ、製造効率およびコストの面で非常に有利である。さらに本発明は、気相酸化法のように専用の装置を必要とせず、従来の一般的なセラミック粉体の製造工程でも実施できるメリットがあるため、製造コストの効果的な抑制が期待できるものである。
【0087】
一方、本発明の製造方法では、気相酸化法で作製された微粒子よりも比表面積(BET)が小さい粒子が得られる。ここで比表面積が小さいことは、MgO微粒子16aが不要なガス吸着を生じにくい耐吸着性に優れることを意味するので、良好な電子放出性能と均一な放電特性の発揮が可能なMgO微粒子16aが得られることとなる。
【0088】
なお、本焼成および仮焼成を含め、焼成工程において焼成炉中の雰囲気において過度のガスの流通があると、焼結助剤として添加されているハロゲン成分が流通ガスとともに焼去されてしまい、最終生成物であるMgO微粒子中のハロゲン濃度が低下する場合がある。このようなハロゲン濃度の低下は、MgO微粒子表面のハロゲン濃度の調整の妨げとなる。従って、このようなハロゲン成分の焼去を防止する対策を行うことが望ましい。例えば材料成分を高純度のアルミナ製るつぼの中に入れ、蓋をする等の適度な密閉対策を施した上で、焼成炉中で焼成工程を施すことが好適である。
【0089】
また、本発明ではハロゲン原子をMgO微粒子に添加することにより、MgO微粒子の結晶性を向上させるとともに、焼成温度を低減できるメリットも奏される。MgOの焼成温度としては、従来は2000℃以上が一般的であるが、ハロゲン原子を材料に添加することによって、焼成温度を約500℃低減(すなわち約1500℃以下まで低減)することができる。
【0090】
(MgO微粒子表面近傍の元素分析について)
MgO微粒子の表面近傍におけるハロゲン元素の定量性については、X線光電子分光法(XPS)により測定が可能である。XPSは、試料表面に波長既知のX線(Al Kα線、エネルギー値1487eV)を照射し、試料から飛び出す光電子のエネルギーを測定する表面分析手法であり、試料表面約4nm程度の情報を選択的に得ることができる。各元素それぞれに相対感度因子が明らかになっており、XPSによる試料表面の金属元素組成比の測定は確立した技術と言える。なお、本発明におけるMgO微粒子の表面近傍とは、XPSにより測定される範囲を指し、MgOの表面から中心方向に約4nm程度の領域をさす。
【0091】
一例として、市販されているXPS測定装置(アルバックファイ社製 走査型X線光電子分光分析装置Quantera SXM)を用いれば、Mg2p、F1sに起因するピークの強度比(ピークの面積比)からマグネシウム(Mg)に対するフッ素(F)の原子比を算出できるので、当該算出結果をatm%等の単位で表すことが可能である。なお、この原子比の算出の際には、Shirley法によりバックグラウンドを除去するとともに、ピークのフィッティングにガウス関数を用いることができる。
【0092】
(残光時間の評価)
作製されたMgO粉体を約1cm角,深さ2mmのサンプルホルダーに圧粉し,真空中に静置した。真空度は,1×10−3Pa以下とした。ピーク波長約159nmの重水素ランプ(浜松ホトニクスL1835)による紫外線をマクファーソン製615型真空紫外集光光学系で集光した。減衰評価のため,UNIBLITZ製真空対応高速動作シャッタ609M2型を使用して集光光を周期的に遮断した。作動排気されたマクファーソン製の真空紫外分光器(234/302型)で,集光光のピーク波長を幅10nmで選択し,照射光学系を介して,試料に照射した。試料からの発光を,石英窓を通じて真空外に取り出し,波長200nm以上の紫外線および可視光を透過する光ファイバーで,浜松ホトニクス製UV−可視光増倍管(波長感度185−850nm)に導き,電流信号に変換した。UV−可視光増倍管に掛ける電圧は,800V程度であるが,シャッタ開のときの電流信号が適切となるように適宜調整する。
【0093】
得られた電流信号をスタンフォードリサーチシステム製の高速前置増幅器SR445A型で電圧に変換し,同じくスタンフォードリサーチシステム製のマルチチャンネルスケーラSR430型で,高速動作シャッタ609M2型と同期させて,シャッタ閉からの信号の減衰を測定した。測定は,1つの試料に対して100回積算し,結果を平均した。サンプリング時間間隔は,163.84μsとした。得られた減衰曲線とバックグラウンドとの差を規格化し,減衰の時間に対する差分の最大値を求め,その逆数を残光時間として定義した。
【0094】
(保護層形成工程)
次に、バックパネル上に保護層を形成する。ここで実施の形態1の保護層17を形成する場合には、誘電体層7上に、MgO材料を用いて真空蒸着法やイオンプレーティング法等の公知の薄膜形成法により、最終厚み約1μmになるように表面層8を形成する。
【0095】
なお、当該表面層8の材料は耐スパッタ性および二次電子放出係数γに優れる各種材料、例えばアルカリ土類金属酸化物であるCaO、SrO、BaO、MgOの内の少なくとも1種類以上から構成することができる。
【0096】
次に、形成した表面層8の表面上に、上記作製したハロゲン原子を含むMgO微粒子16aを、スプレー法や静電塗布法、スリットコート法、ドクターブレード法、ダイコート法で平面的に凝結させるように塗布する。当該塗布用法は限定するものではなく、前記いずれかの方法またはこれ以外の方法でもよい。製造コストを考慮すると、厚膜形成技術として工業的に広く用いられているスクリーン印刷法を用いるのが一般的である。当該印刷法は、使用するインクの固形分比率やスクリーンメッシュの仕様により、容易に塗着量を制御できる点でも優れている。
【0097】
なお、MgO微粒子16aの塗着量は、MgO微粒子群16の成膜前後でフロントパネルの直線透過光の変化量(可視光)を測定した値より定義される「被覆率」に基づいて設定することができる。
【0098】
この被覆率は、具体的に以下の式で表すことができる。被覆率(%)=(MgO微粒子群16の成膜前のフロントパネル直線透過光量)/(MgO微粒子群16の成膜後のフロントパネル直線透過光量)×100 MgO微粒子16aを表面層8に塗布した後は、溶媒を乾燥・除去して各粒子を定着させる。これによりMgO微粒子群16が配設され、実施の形態1の保護層17が完成する。
【0099】
一方、実施の形態2の保護層を形成する場合には、誘電体層7の表面に対して直接、MgO微粒子16aをスクリーン印刷法やスプレー法で定着させる。これによりMgO微粒子群16が配設され、実施の形態2の保護層が形成される。
【0100】
以上の手順で保護層を形成すると、フロントパネル2が完成する。
【0101】
(PDPの完成)
作製したフロントパネル2とバックパネル9を、データ電極11と表示電極対6とが直交するように配置し、フロントパネル2とバックパネル9の外周縁部を封着領域として、封着部材(フリットガラス)を用いて貼り合わせる。その後、放電空間15の内部を高真空(1.0×10−4Pa程度)に排気し、大気や不純物ガスを取り除く。そして当該内部に所定の圧力(通常6.7×10〜1.0×10Pa程度)でNe−Xe系やHe−Ne−Xe系、Ne−Xe−Ar系等のXe混合ガスを放電ガスとして封入する。混合ガス中のXe濃度は15%〜100%とする。
【0102】
以上の工程を経ることにより、PDP1又は1aが完成する。
【0103】
なお、上記方法例ではフロントパネルガラス3およびバックパネルガラス10をソーダライムガラスからなるものとしたが、これは材料の一例として挙げたものであって、これ以外の材料で構成してもよい。
【0104】
(放電遅れの評価)
完成したPDPに対して、放電遅れ時間を評価した。具体的方法として、各PDPにおける任意の1画素に対して、データパルスおよび走査パルスを繰り返し印加するごとに、パルスを印加してから放電が発生するまでの時間(放電遅れ時間)を100回測定し、測定した放電遅れ時間の最大値と最小値の平均を算出した。遅れ時間は、放電に伴う蛍光体の発光を光センサーモジュールにより受光し、印加したパルス波形と受光信号波形をデジタルオシロスコープで観察した。
【0105】
<実施例>
(測定評価試験)
表1に本願の実施例および比較例の焼成温度,フッ化マグネシウム添加量,XPSによる表面F量(対Mg比),残光時間および放電遅れ時間(相対値)を示す。
【0106】
【表1】

【0107】
MgO前駆体として純度99.99%、平均粒子径3μmの水酸化マグネシウムを用いた。焼結助剤として純度99.9%のフッ化マグネシウムを用いた。これらを所望の組成に秤量し、遊星型ボールミルおよびジルコニアビーズを用い、純水中で湿式混合した。この混合物を乾燥した後、乳鉢で解砕し、高純度のアルミナるつぼ中で焼成した。
【0108】
ここで前述したように、混合粉体量が多い場合には仮焼行程を経る必要があるが、焼成炉能力(容積、電力)に対して十分少量で行ったため、仮焼行程を経なかった。焼成温度は15分間維持とした。
【0109】
焼成後の各MgO微粒子は、ボールミルを用いて乾式粉砕し、ナイロン製メッシュを通過させて粗大粒子を取り除くことで分級した。次に、予めフロントパネルガラスに形成された表面層の上に、スクリーン印刷法を用いてMgO微粒子群を成膜した。その際、前記被覆率が4.5%になるようにMgO微粒子と溶剤、樹脂の混合比を調整し、三本ロールミルを用いて、スクリーン印刷用インクとした。成膜後は、100℃で1時間乾燥した後、500℃で3時間焼成して有機成分を焼去した。
【0110】
こうして得たフロントパネルを用いて、<PDPの製造方法>で説明したものと同様の交流面放電型PDPを作製した。
【0111】
図5に実施例1,2,5,7,13および比較例1,2の残光測定結果を例として示す。MgO粉体ごとに残光特性が異なることが分かる。得られた減衰曲線の傾きの最大値を,残光時間として表1ならびに図6にまとめて示す。結果から、本発明の実施例1〜13では、放電遅れ時間の相対値が22%以下にまで低減されている。このとき,残光時間は2ms以上となっている。一方,比較例1および2では放電遅れ時間の相対値が25%以上と悪く,残光時間が1.3ms以下と短くなっている。以上により,放電遅れと残光時間の間に相関が見出された。
【0112】
本発明では、ハロゲン原子を含み,残光時間が2ms以上であるMgO微粒子で形成したMgO微粒子群を利用することにより、比較的小さい被覆率でありながら放電遅れの良好な防止効果が得られ,自己電荷抜けの低減も期待でき,可視光発光量が確保されるため、大きな優位性があると言える。
【0113】
以上の各考察から、従来のPDPに対し、本発明の優位性が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明のPDPは、特に高精細画像表示を低電圧で駆動できるガス放電パネル技術として、交通機関および公共施設、家庭などにおけるテレビおよびコンピュータ用の表示装置等に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】本発明の実施の形態1に係るPDPの構成を示す断面図
【図2】各電極とドライバとの関係を示す模式図
【図3】PDPの駆動波形例を示す図
【図4】本発明の実施の形態2に係るPDPの構成を示す断面図
【図5】本願発明に掛かるMgO微粒子群の実施例および比較例の残光測定結果の一例を示す図
【図6】本願発明に掛かるMgO微粒子群の実施例および比較例の残光時間と放電遅れ時間の相対値の関係を示す図
【図7】従来の一般的なPDPの構成を示す組図
【符号の説明】
【0116】
1,1a,1x PDP
2 フロントパネル
3 フロントパネルガラス
4 サステイン電極
5 スキャン電極
6 表示電極対
7,12 誘電体層
8 表面層
9 バックパネル
10 バックパネルガラス
11 データ(アドレス)電極
13 隔壁
14 蛍光体層
15 放電空間
16a MgO微粒子
16 ハロゲン原子を含むMgO微粒子からなるMgO微粒子群
17 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極と誘電体層とが形成された第1基板が、放電空間を介して第2基板と対向に配置され、当該第1及び第2両基板の周囲が封着されたプラズマディスプレイパネルであって、
前記第1基板と第2基板の間の単位発光領域に対向する部分に、
ハロゲン原子を含み、波長165nm以下の真空紫外線で励起されて発光し、前記発光の残光時間が2ms以上である酸化マグネシウム微粒子を含む酸化マグネシウム微粒子群が配設されていることを特徴とするプラズマディスプレイパネル。
【請求項2】
前記酸化マグネシウム微粒子群は、前記誘電体層表面に、放電空間に臨むように配設されていることを特徴とする請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項3】
前記誘電体層の放電空間側には、MgO、CaO、BaO及びSrOの群より選ばれた少なくとも一つの金属酸化物を含む表面層が設けられ、前記酸化マグネシウム微粒子群は、前記表面層の放電空間側に配設されていることを特徴とする請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項4】
前記ハロゲン原子は、前記酸化マグネシウム微粒子の表層近傍に含まれている請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項5】
前記表面近傍の領域は、酸化マグネシウム微粒子の表面から内部に向かって、少なくとも4nm以下の領域を含む請求項4に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項6】
前記ハロゲン原子は、フッ素原子或いは塩素原子である請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項7】
前記酸化マグネシウム微粒子中において、ハロゲン原子は、マグネシウム原子に対し、2atm%以上19.3atm%以下の割合で含まれる請求項1に記載のプラズマディスプレイパネル。
【請求項8】
電極と誘電体層とが配設された第1基板に対し、前記誘電体層の表面に酸化マグネシウム微粒子を含む酸化マグネシウム微粒子群を配設する酸化マグネシウム微粒子群配設工程と、
第1基板と第2基板とを対向配置させて封着する工程とを有するラズマディスプレイパネルの製造方法であって、
酸化マグネシウム微粒子群配設工程では、酸化マグネシウム前駆体に対して、フッ化マグネシウム、塩化マグネシウム、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、塩化ナトリウムの中の1種以上を焼結助剤として添加してなる材料を、焼成することで得た酸化マグネシウム微粒子を用いるプラズマディスプレイパネルの製造方法。
【請求項9】
電極と誘電体層とが配設された第1基板に対し、前記誘電体層の表面に表面層を形成する表面層形成工程と、
第1基板と第2基板とを対向配置させて封着する工程とを有するプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、
表面層形成工程と封着工程との間において、表面層の表面に酸化マグネシウム微粒子を含む酸化マグネシウム微粒子群を配設する酸化マグネシウム微粒子群配設工程を有し、
表面層形成工程では、誘電体層の表面に対し、MgO、CaO、BaO及びSrOの群より選ばれた少なくとも一つの金属酸化物を含む材料で表面層を形成し、
酸化マグネシウム微粒子配設工程では、酸化マグネシウム前駆体に対して、フッ化マグネシウム、塩化マグネシウム、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、塩化ナトリウムの中の1種以上を焼結助剤として添加してなる材料を、焼成することで得た酸化マグネシウム微粒子を用いるプラズマディスプレイパネルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−170191(P2009−170191A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−5334(P2008−5334)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】