説明

プラズマディスプレイパネルの製造方法

【課題】保護層を形成できるプラズマディスプレイパネルの製造方法を提供すること。
【解決手段】保護層を有する前面基板3と、背面基板とを備えるPDPを製造する際に、成膜装置500の成膜空間511を水蒸気を含む雰囲気にしつつMg(DPM)2を気化し、気化原料をノズル533にて前面基板3に吹き付けることにより、MgOで形成された保護層を形成する。このため、水蒸気を含む雰囲気下で気化原料を吹き付けることにより、マグネシウム化合物の分解を進ませることができ、水蒸気をほとんど含まない雰囲気下で気化原料を吹き付ける構成と比べて、保護層に残留する不純物を減少させることができる。したがって、保護層のばらつきを小さくでき、かつ、全体的な放電遅れ時間の長期化を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレイパネルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラズマディスプレイパネル(PDP)は、放電空間を介して互いに対向配置された一対の平面ガラス基板である前面基板および背面基板を備えており、背面基板の内面上に井桁状などの隔壁を設けて前記放電空間を複数個の放電セルに区画し、これら複数個の放電セル内で選択的に放電発光させることにより画像表示を実施する。そして、このようなPDPの例えば前面基板の放電空間に面する位置に、保護層を形成する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この特許文献1に記載のものは、CVD(化学蒸着)法を用い、気化器にマグネシウムアセチルアセトナートを入れて220℃に加熱する。そして、原料ガスを窒素ガスとともに成膜室に導入し、同時に反応ガスとしての酸素を成膜室に導入することにより、結晶粒径が40〜50nmとなるようなMgO(酸化マグネシウム)膜を保護層として形成する構成が採られている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−123745号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のような構成で形成した保護層では、放電遅れがばらついたり、放電遅れ時間が長くなったりするおそれがある。
【0006】
本発明は、上記のような問題に鑑みて、適切な保護層を形成可能なプラズマディスプレイパネルの製造方法を提供することを1つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、放電空間を介して対向する一対の基板と、この一対の基板のうち少なくとも一方の基板の前記放電空間に面する位置に形成された保護層と、を有するプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、前記保護層の形成工程は、成膜室内を水蒸気を含む雰囲気にしつつマグネシウム化合物を気化し、吹きつけにより化学蒸着による酸化マグネシウム膜を前記基板上に形成する工程を含むことを特徴とするプラズマディスプレイパネルの製造方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態について図面に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るプラズマディスプレイパネルの内部構造を示した分解斜視図である。図2は、プラズマディスプレイパネルを模式的に示した正面図である。図3は、図2のIII−III線における断面図である。図4は、図2のIV−IV線における断面図である。
【0009】
〔プラズマディスプレイパネルの構成〕
本実施形態において、図1に示すように、1はプラズマディスプレイパネル(Plasma Display Panel:PDP)であり、このPDP1は、例えば略平面長方形状に形成され、プラズマ放電による発光を利用して画像を表示する装置である。このPDP1は、画像表示領域を構成する放電空間Hを介して、互いに対向配置された一対の基板である背面基板2および前面基板3を備えている。
【0010】
これら背面基板2および前面基板3は、それぞれの外周縁部に図示しないシールフリットが設けられて封着されている。そして、封着された当該空間内部は例えば6.7×10Pa(500Torr)程度の減圧状態とされ、当該空間にはHe−Xe(ヘリウム−キセノン)系やNe−Xe(ネオン−キセノン)系の不活性ガスが充填されている。
【0011】
背面基板2は、例えば板状ガラス材にて平面長方形状に形成されている。この背面基板2の内面上には、図1に示すように、複数の直線状のアドレス電極21と、これらアドレス電極21上を覆うアドレス電極保護層22と、このアドレス電極保護層22上に一体的に設けられた隔壁23と、この隔壁23の放電セル231内部に充填された蛍光体層24R,24G,24Bと、などがそれぞれ設けられている。
【0012】
具体的には、アドレス電極21は、例えばAl(アルミニウム)などにて形成され、図1および図2に示すように、背面基板2の長手方向に略直交して一定の間隔で配設されている。それぞれのアドレス電極21の一端には図示しないアドレス電極引出部が形成されて、このアドレス電極引出部を介して各アドレス電極21に図示しない列電極駆動部からの電圧パルスが印加されるようになっている。
【0013】
アドレス電極保護層22は、例えばガラスペーストなどにて形成され、図1、図3および図4に示すように、背面基板2の内面上におけるアドレス電極引出部を除いた略全面に亘り設けられている。このアドレス電極保護層22は、パネル駆動時において、放電によるアドレス電極21の損耗を防止するとともに、駆動に必要な電荷を蓄積する誘電体層として機能する。なお、アドレス電極保護層22の外周縁部上には前述のシールフリットが設けられている。
【0014】
隔壁23は、図1および図3に示すように、例えばアドレス電極保護層22と同一成分のガラスペーストにて略梯子状に形成されている。そして、アドレス電極保護層22上において、アドレス電極21と略直交する複数の直線状の隙間S(図3参照)をそれぞれ間に挟んで、複数並列して設けられている。この隔壁23により放電空間Hが複数に区画され、これにて複数の矩形状の放電セル231が形成されている。そして、隔壁23は、その基端部から頂部までの高さがそれぞれ所定の高さ寸法に設定されており、背面基板2と前面基板3との間隙寸法を規定する。
【0015】
蛍光体層24R,24G,24Bは、図1、図3および図4に示すように赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色の蛍光体ペーストが放電セル231内部に順に充填され、これが焼成されることにより形成される。これら蛍光体層24R,24G,24Bは、それぞれの放電セル231で発生した紫外光により励起され、赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色の可視光を発光する。
【0016】
前面基板3は、PDP1の表示面を構成し、例えば背面基板2と同一材料にて略同一形状に形成されている。この前面基板の内面上には、図1に示すように、アドレス電極21と略直交して一定の間隔で配列された複数の表示電極対31と、これら表示電極対31間にそれぞれ設けられた複数のブラックストライプ32と、これら表示電極対31およびブラックストライプ32上を覆う誘電体層33と、この誘電体層33を覆う保護層34と、などがそれぞれ設けられている。
【0017】
具体的には、表示電極対31は、図2および図3に示すように、放電ギャップG(図2参照)を介して対向する複数対の透明電極311a,311bと、これら透明電極311a,311bの一端部に積層する一対の直線状のバス電極312a,312bとを備えて構成されている。
【0018】
透明電極311a,311bは、図2に示すように、ITO(Indium Tin Oxide)などの透明導電膜で略T字形状に形成されており、所定の放電セル231に対応して一対ずつ設けられている。
【0019】
バス電極312a,312bは、一対の透明電極311a,311bにおける放電ギャップG(図2参照)に対して反対側の端部に、それぞれ積層して設けられている。これらバス電極312a,312bのそれぞれの一端には図示しないバス電極引出部が形成され、このバス電極引出部を介して各透明電極311a,311bに図示しない行電極駆動部からの電圧パルスが印加されるようになっている。
このようなバス電極312a,312bは、図3に示すように、透明電極311a,311b上に積層して設けられた黒色無機顔料などからなるバス電極黒層313a,313bと、これらバス電極黒層313a,313bに積層して設けられたAg(銀)などを主成分とする金属材料からなる主導電層314a,314bとを備えた2層構造となっている。
【0020】
ブラックストライプ32は、図2および図3に示すように、バス電極黒層313a,313bと同質の材料にて、直線状に形成されている。このブラックストライプ32およびバス電極黒層313a,313bにて、前面基板3の外方から照射された可視光が吸収されるようになっている。
【0021】
誘電体層33は、図3および図4に示すように、例えばガラスペーストなどにて形成され、背面基板2のアドレス電極保護層22と対向して設けられている。この誘電体層33は、パネル駆動時において、放電による表示電極対31の損耗を防止するとともに、駆動に必要な電荷を蓄積する。
【0022】
保護層34は、図1、図3および図4に示すように、誘電体層33上面を被覆するMgO(酸化マグネシウム)により層状に設けられている。この保護層34は、詳しくは後述するが、CVD法にて形成される。
このような保護層34は、誘電体層33が放電によりスパッタリングされることを防ぐ機能を有している。
【0023】
〔PDPの製造方法〕
次に、上述した構成のPDP1の製造方法として、前面基板の製造方法について説明する。
【0024】
まず、十分に洗浄したガラス基板の内面側に透明電極材料層を形成して、フォトリソグラフィ法などにより複数の透明電極311a,311bを形成する。この透明電極対上にスクリーン印刷法などにより黒色無機顔料のペーストパターンを積層形成し、更にこのパターン上にAgペーストのパターンを積層形成する。そして、これらのパターンを焼成して、バス電極黒層313a,313bおよび主導電層314a,314bからなる2層構造のバス電極312a,312bを形成する。
この後、これらバス電極312a,312b間にスクリーン印刷法などにより黒色無機顔料のペーストパターンを塗布して、これを焼成して複数のブラックストライプ32を形成する。さらに、透明電極311a,311b、バス電極312a,312bおよびブラックストライプ32を被覆する状態にダイコータなどによりガラスペーストを塗布する。そして、このガラスペーストを焼成して誘電体層33を形成する。
この後、誘電体層33の上に保護層34を形成する(以下に詳述)。これにより、PDP1の前面基板3が完成する。
【0025】
(保護層の形成工程)
次に、保護層34の形成工程について説明する。
【0026】
(成膜装置の構成)
まず、保護層34の形成工程に用いられる成膜装置500の構成について説明する。
図5は、成膜装置の概略構成を示す模式図である。
【0027】
図5に示すように、成膜装置500は、いわゆる気開放型の構成を有し、CVD法により保護層34を成膜する。この成膜装置500は、成膜室510と、基板加熱台520と、成膜部530と、加湿部540と、を備えている。
【0028】
成膜室510は、例えば樹脂などにより略四角箱状に形成され、成膜空間511を備えている。
基板加熱台520は、成膜空間511における下側に設けられ、前面基板3が載置される載置面521を有している。また、基板加熱台520には、図示しないヒータが設けられている。そして、基板加熱台520は、ヒータにて前面基板3を加熱しつつ、図示しない移動機構の駆動により図5における左右方向に適宜移動する。
【0029】
成膜部530は、気化器531と、水蒸気導入部532と、ノズル533と、を備えている。
【0030】
気化器531は、例えば成膜空間511に設けられている。この気化器531には、キャリアガス供給管534の一端が接続されるとともに、原料供給管535の一端が接続されている。
そして、気化器531は、CVD原料であるマグネシウム化合物としてのMg(C111922:(ビス(ジピバロイルメタナト)マグネシウム、以下、Mg(DPM)2と記す)を、240℃以上、300℃以下の気化温度で気化させる。この気化されたMg(DPM)2(以下、気化原料と記す)は、キャリアガス供給管534を介して導入されるキャリアガスにより、原料供給管535の他端側へ移送される。
【0031】
水蒸気導入部532は、例えば成膜室510の外部に設けられている。この水蒸気導入部532には、水蒸気供給管536の一端が接続されている。この水蒸気供給管536の他端は、原料供給管535の側面に、内部空間が原料供給管535の内部空間と連通する状態で接続されている。
そして、水蒸気導入部532は、水蒸気を、水蒸気供給管536を介して、原料供給管535へ導入する。
ここで、水蒸気導入部532としては、以下のような構成が例示できる。すなわち、湯水に浸されたフラスコに純水を入れる。そして、この純水に空気を供給して泡を発生させることにより、フラスコ内に水蒸気を発生させる構成が例示できる。
【0032】
ノズル533は、基板加熱台520の上方に設けられ、原料供給管535の他端に接続されている。
このノズル533には、原料供給管535を介して、気化原料および水蒸気が混合された混合気化原料が供給される。そして、ノズル533は、この混合気化原料を、基板加熱台520に載置された前面基板3に吹き付ける。
【0033】
加湿部540は、例えば成膜室510の外部に設けられている。この加湿部540には、水分供給管541の一端が接続されている。この水分供給管541は、他端が成膜空間511内に位置する状態で設けられている。
そして、加湿部540は、水分を、水分供給管541を介して、成膜空間511へ導入し、成膜空間511を加湿する。
【0034】
(成膜工程)
次に、保護層34の形成工程として、成膜装置500を用いたMg(DPM)2の成膜工程について説明する。
【0035】
まず、成膜装置500は、基板加熱台520に載置された前面基板3を、その表面温度が500℃以上となるように加熱する。また、加湿部540にて、成膜空間511を加湿する。
そして、気化器531にて、例えば、240℃以上、300℃以下の気化温度で気化された気化原料を、N2などのキャリアガスを利用して、原料供給管535へ導入する。さらに、水蒸気導入部532にて、水蒸気を、水蒸気供給管536を介して、原料供給管535へ導入する。この原料供給管535に導入された気化原料および水蒸気は、混合されて混合気化原料としてノズル533へ供給される。
そして、成膜装置500は、基板加熱台520を適宜移動させつつ、ノズル533にて、加湿された環境下で混合気化原料を前面基板3へ吹き付け、誘電体層33上にMgOで構成される保護層34が形成される。
【0036】
〔実施例〕
本実施形態の効果を確認するための実施例を以下に示す。
【0037】
(サンプルの構成)
まず、本実施例で用いたサンプルの構成について説明する。
本実施例で用いたサンプルの構成を表1に示した。
【0038】
【表1】

【0039】
ここで、マグネシウム化合物として、Mg(DPM)2を用いた。また、成膜条件として、マグネシウム化合物の気化温度を240℃以上かつ300℃以下、基板温度を500℃以上に設定した。また、表1において、「気化原料」は、マグネシウム化合物を上記気化温度で気化したものを意味する。
そして、比較サンプルを、成膜空間を加湿せずに、かつ、気化原料をそのまま吹き付ける条件で作製した。また、実施サンプル1,2を、成膜空間を1台,2台の加湿器で加湿して、気化原料をそのまま吹き付ける条件で作製した。さらに、実施サンプル3,4,5を、成膜空間を同条件(加湿器1台)で加湿しつつ、気化原料に空気,300℃の空気,300℃の水蒸気をそれぞれ混合して吹き付ける条件で作製した。
この後、これらを焼成して、保護層34を形成し、放電遅れの時間を調べた。その結果を、表1および図6に示す。なお、図6は、表1の結果をグラフ化したものである。
【0040】
(加湿条件と放電遅れとの関係)
まず、加湿条件と放電遅れとの関係について検討した。
表1および図6に示すように、比較サンプルおよび実施サンプル1,2の比較から、マグネシウム化合物の成膜時に加湿することにより、放電遅れ時間のばらつきが小さくなり、かつ、全体的に放電遅れ時間が短くなることが確認できた。また、実施サンプル1よりも実施サンプル2の方が、ばらつきが小さくなり、かつ、全体的に放電遅れ時間が短くなることが確認できた。つまり、湿度が高いほど、ばらつきが小さくなり、かつ、全体的に放電遅れ時間が短くなることが確認できた。
これは、加湿された環境下で気化原料を吹き付けると、加水分解によりマグネシウム化合物の分解が進み、保護層34に残留する不純物が減少するためと考えられる。
以上のことから、保護層34の放電遅れ時間のばらつきや全体的な長期化を抑制するためには、マグネシウム化合物の成膜時の湿度を高くすることが有効な手段であることが確認できた。
【0041】
(気化原料の混合物と放電遅れとの関係)
次に、気化原料の混合物と放電遅れとの関係について検討した。
表1に示すように、実施サンプル1,3の比較から、気化原料に空気を混合させることにより、放電遅れ時間が短くなることが確認できた。
これは、吹き付ける原料に空気を混合させ、水分を多くすることにより、加水分解によるマグネシウム化合物の分解が進み、保護層34に残留する不純物が減少するためと考えられる。
また、実施サンプル3,4の比較から、吹き付ける原料の温度を高くすることにより、放電遅れ時間が短くなることが確認できた。
これは、吹き付ける原料の温度が高いほど、加水分解によるマグネシウム化合物の分解が進み、保護層34に残留する不純物が減少するためと考えられる。
さらに、実施サンプル4よりも実施サンプル5の方が、放電遅れ時間が短くなることが確認できた。
これは、吹き付ける原料の温度が等しい場合には、原料に混合する水分が多いほど、加水分解によるマグネシウム化合物の分解が進み、保護層34に残留する不純物が減少するためと考えられる。
以上のことから、保護層34の放電遅れ時間の長期化を抑制するためには、吹き付ける原料の温度を高くすることや、原料に混合する水分を多くすることが有効な手段であることが確認できた。
【0042】
〔実施形態の作用効果〕
以上の構成の一実施形態によれば、以下の作用効果が期待できる。
【0043】
(1)保護層34を有する前面基板3と、背面基板2とを備えるPDP1を製造する際に、成膜装置500の成膜空間511を加湿しつつMg(DPM)2を気化し、気化原料をノズル533にて前面基板3に吹き付けることにより、MgOで形成された保護層34を形成する。
このため、加湿された環境下で気化原料を吹き付けることにより、マグネシウム化合物の分解を進ませることができ、加湿しない環境下で気化原料を吹き付ける構成と比べて、保護層34に残留する不純物を減少させることができる。したがって、保護層34のばらつきを小さくでき、かつ、全体的な放電遅れ時間の長期化を抑制できる。
【0044】
(2)マグネシウム化合物として、Mg(DPM)2を適用するとともに、このMg(DPM)2を240℃以上、300℃以下で気化させ、500℃以上に加熱された前面基板3に吹き付けている。
このため、一般的にCVD法で多く利用されている(DPM)2(ジピバロイルメタナト)を含む材料を、保護層34を形成するためのマグネシウム化合物として利用するので、保護層34の形成工程をCVD法を用いた工程に容易に展開できる。
【0045】
(3)気化原料に水蒸気を混合した混合気化原料を前面基板3に吹き付けることにより、保護層34を形成している。
このため、気化原料に水蒸気を混合して、気化原料に含まれる水分を多くすることにより、加水分解によるマグネシウム化合物の分解を進ませることができ、保護層34に残留する不純物を減少させることができる。したがって、保護層34の全体的な放電遅れ時間の長期化をさらに抑制できる。
【0046】
〔他の実施形態〕
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【0047】
例えば、前面基板3側に表示電極対31および誘電体層33を設け、かつ、背面基板2側にアドレス電極21および蛍光体層24R,24G,24Bを設けた、いわゆる反射型交流PDPを例示したが、本発明はこれに限定されない。すなわち、本発明が適用可能なPDPとしては、例えば、前面基板側に表示電極対とアドレス電極を形成してこれらを誘電体層によって被覆し、背面基板側に蛍光体層を形成した反射型交流PDPでもよい。また、例えば、前面基板側に蛍光体層を形成し、背面基板側に表示電極対とアドレス電極を形成してこれらを誘電体層によって被覆した透過型交流PDPでもよい。
また、前記実施の形態では、隔壁23を井桁状に形成する構成を例示して説明したが、これに限らず、例えば、隔壁をストライプ状に形成する構成としてもよい。
つまり、本発明は、前面基板あるいは背面基板のいずれか一方の基板上に、保護層で覆われた誘電体層が設けられた構成であれば、いずれのタイプのPDPに対しても適用できる。
【0048】
そして、気化原料に水蒸気を混合したものを前面基板3に吹き付ける構成を例示したが、気化原料に空気を混合したものを吹き付けてもよい。
このような構成にすれば、気化原料に空気を混合して水分を多くすることにより、気化原料をそのまま吹き付ける構成と比べて、加水分解によるマグネシウム化合物の分解を進ませることができ、保護層34に残留する不純物を減少させることができる。したがって、保護層34の全体的な放電遅れ時間の長期化をさらに抑制できる。
【0049】
また、気化原料に水蒸気および空気のうち少なくともいずれか一方を混合させる構成としてもよい。
このような構成にすれば、吹き付ける原料の温度を高くすることにより、加水分解によるマグネシウム化合物の分解をさらに進ませることができ、保護層34の全体的な放電遅れ時間の長期化をさらに抑制できる。
【0050】
そして、気化原料に水蒸気や空気などの混合物を混合させずに、気化原料をそのまま加湿環境下で吹き付ける構成としてもよい。
このような構成にすれば、混合物を気化原料に混合する構成を設ける必要がなく、成膜装置の構成の簡略化を図ることができる。
【0051】
さらに、マグネシウム化合物としては、Mg(acac)2:(マグネシウムアセチルアセトナート)、Mg(C101722:(Mg(IBPM)2:ビス(イソブチリルピバロイルメタナト)マグネシウム)、Mg(C91522:(Mg(DIPM)2:ビス(ジイソブチリルメタナト)マグネシウム)を適用してもよい。
このようなマグネシウム化合物を用いる場合、気化温度を240℃以下や300℃以上としてもよいし、前面基板3の温度を500℃以下にしてもよい。
【0052】
また、本発明の製造方法を気開放型のCVD装置に適用する構成を例示したが、いわゆる減圧型CVD装置、プラズマアシストCVD装置、Cat−CVD装置に適用してもよい。
さらに、本発明の製造方法を、プラズマチューブに保護層を設ける構成に適用してもよい。
【0053】
その他、本発明の実施の際の具体的な構造および手順は、本発明の目的を達成できる範囲で他の構造などに適宜変更できる。
【0054】
〔実施形態の作用効果〕
上記したように、保護層34を有する前面基板3と、背面基板2とを備えるPDP1を製造する際に、成膜装置500の成膜空間511を加湿しつつマグネシウム化合物を気化し、気化原料をノズル533にて前面基板3に吹き付けることにより、MgOで形成された保護層34を形成する。
このため、加湿された環境下で気化原料を吹き付けることにより、マグネシウム化合物の分解を進ませることができ、加湿しない環境下で気化原料を吹き付ける構成と比べて、保護層34に残留する不純物を減少させることができる。したがって、保護層34のばらつきを小さくでき、かつ、全体的な放電遅れ時間の長期化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施形態に係るプラズマディスプレイパネルの内部構造を示した分解斜視図である。
【図2】前記実施形態におけるプラズマディスプレイパネルを模式的に示した正面図である。
【図3】図2のIII−III線における断面図である。
【図4】図2のIV−IV線における断面図である。
【図5】前記実施形態の保護層の形成工程に用いる成膜装置の概略構成を示す模式図である。
【図6】本発明の実施例における加湿器の台数と放電遅れとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0056】
1…PDP(プラズマディスプレイパネル)
2…背面基板
3…前面基板
34…保護層
H…放電空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電空間を介して対向する一対の基板と、この一対の基板のうち少なくとも一方の基板の前記放電空間に面する位置に形成された保護層と、を有するプラズマディスプレイパネルの製造方法であって、
前記保護層の形成工程は、成膜室内を水蒸気を含む雰囲気にしつつマグネシウム化合物を気化し、吹きつけにより化学蒸着による酸化マグネシウム膜を前記基板上に形成する工程を含む
ことを特徴とするプラズマディスプレイパネルの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法において、
前記マグネシウム化合物の吹きつけは、水蒸気を混合して実施される
ことを特徴とするプラズマディスプレイパネルの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法において、
前記マグネシウム化合物の吹きつけは、空気を混合して実施される
ことを特徴とするプラズマディスプレイパネルの製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法において、
前記マグネシウム化合物の吹きつけは、成膜室内を加湿しつつ実施される
ことを特徴とするプラズマディスプレイパネルの製造方法。
【請求項5】
請求項2から請求項4のいずれかに記載のプラズマディスプレイパネルの製造方法において、
前記マグネシウム化合物として、Mg(C111922を用い、
前記基板を500℃以上に加熱した状態で、前記マグネシウム化合物を吹き付ける
ことを特徴とするプラズマディスプレイパネルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−262726(P2008−262726A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102547(P2007−102547)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【Fターム(参考)】