説明

プラズマディスプレイ前面板用黒色化シールドメッシュの製造方法及びプラズマディスプレイ前面板用黒色化シールドメッシュ及びプラズマディスプレイパネル

【課題】視認性を上げるために前面を黒色化してプラズマディスプレイに適用する電磁波シールドメッシュを製造するに当たり、高い黒色度をムラなく実現し、コストパフォーマンスに優れた、プラズマディスプレイ前面板用黒色化シールドメッシュの製造方法の提供。
【解決手段】少なくとも、下記の工程(1)〜(4)をその順で含むことを特徴とするプラズマディスプレイ前面板用黒色化シールドメッシュの製造方法である。
(1)透明樹脂シートへ銅箔を貼り合せる工程、
(2)前記銅箔をエッチングして所定のメッシュパターンを形成する工程、
(3)前記透明樹脂シートを水酸化アルカリ水溶液に浸漬する工程、
(4)前記メッシュパターン表面を電気めっき法により黒色のニッケル−酸化ニッケル共析物で被覆する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプラズマディスプレイに係わり、さらに詳しくはプラズマディスプレイの前面に、有害電磁波の遮蔽のために設置する黒色化シールドメッシュ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレイ(以下、PDPと記す)における画像表示は、次のようにして行われる。PDP内に充填されたキセノンやネオンが放電によって励起して、紫外領域から近赤外領域にわたる線スペクトルが発生し、この中の紫外線が蛍光体に当たると、この蛍光体から画像表示のための可視光が発生する。この放電に伴って発生した電磁波がPDPから漏洩するため、その遮蔽の目的で、PDPの前面に金属製のシールドメッシュを設置する。
【0003】
メッシュの開口部から画像を見ることができ、金属であるメッシュ部が電磁波を遮蔽する。このメッシュ部は、ディスプレイの画面上に見えるため、画像の視認性の向上の目的で表面を黒くする。黒色化された表面は、光沢なく、外部から入射した光の反射を防止する。
【0004】
このようなシールドメッシュ表面の黒色化の方法として、いろいろな金属化合物を電気めっきで析出させる提案がなされている。これらは、メッシュ状に加工された金属基材の表面を溶液中で電気的にカソ−ディックに分極し(陰極電解し)、黒色皮膜を被覆するものが多い。
【0005】
これは、このようなプロセスが、透明樹脂シート上に形成された金属メッシュに対して、透明樹脂シート部の透明性を維持しながら、金属表面を選択的に黒色化するのに好適であるためである。しかも、溶液と電解めっき装置を用意すれば、設備投資も含め低コストで処理を行うことが可能である。
【0006】
このような方法の例として、特許文献1には、メッシュ状の金属層の表面および側面へめっき法で黒色処理層を設け、この黒色処理層は、銅、コバルト、ニッケル、亜鉛、スズ、若しくはクロムから選択された少なくとも1種の単体、または化合物を含有する例が開示されている。 また、特許文献2においては、電磁波遮蔽用シールド材として、銅箔メッシュの前面、および側面に鉄と少なくとも1つ以上の他金属成分、特には、銅−コバルト−鉄−ニッケルからなる無光沢の黒色電気めっき層をコーティングしたものが例示されている。
【0007】
ところが、このような無光沢の金属層を表面に析出するものでは、基本的に白色〜灰色の金属皮膜の表面粗さを調整して析出させ、入射光を散乱させることによって黒色化しているものである。析出金属を単一のものではなく複数の金属の共析物とすることにより、結晶を微細化させて入射光の散乱の度合いを増し黒色度を増しているが、黒色度を一層高めることには限界がある。
【0008】
電気めっきの方法を用いて黒色度を高めるためには、金属に加えて黒色の化合物を包含させた共析物を形成させることが有効である。これは、上記のような入射光の散乱の度合いを変化させることに加え、黒色の粒子自体の色調を見ることができるためである。特許文献3では、片面に黒色化処理面を備える表面処理銅箔の製造方法として、銅箔面の片面
に粗化処理層を設け、その粗化処理層上に硫酸ニッケルめっき層を設けることが記載されている。この硫酸ニッケルめっきでは、硫酸ニッケル(5水和物)を10g/L〜300g/L含み、水酸化アルカリ金属塩でpHを5.5〜6.0の範囲としたニッケルめっき液を用いて、1A/dm2以上の電流密度で電解して、黒色の硫酸ニッケルめっき層を形成する。この硫酸ニッケルめっきでは、電解時のカソード表面近傍でのpH上昇を利用し、実質的に強アルカリ環境下で電解を行なうことでニッケル酸化物等を包含させ、黒色のめっき被膜を形成するものである。
【0009】
ところが、このような電解時のカソード表面近傍でのpH上昇を利用する方法では、カソード表面の電流や液流の分布によりカソード近傍のpH上昇の度合いが大きく変わり、その結果として黒色度にムラが生じやすいという問題がある。
【特許文献1】WO2004−093513
【特許文献2】特開2005−79596
【特許文献3】特開2004−256832
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明の課題は、電解時のカソード表面近傍でのpH上昇を利用する方法において、カソード表面の電流や液流の分布によりカソード近傍のpH上昇の度合を制御することで黒色度にムラが生じことを抑制し、容易に高い黒色度を達成するプラズマディスプレイ前面板用黒色化シールドメッシュの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための請求項1記載の発明は、少なくとも、下記の工程(1)〜(4)をその順で含むことを特徴とするプラズマディスプレイ前面板用黒色化シールドメッシュの製造方法である。
(1)透明樹脂シートへ銅箔を貼り合せる工程、
(2)前記銅箔をエッチングして所定のメッシュパターンを形成する工程、
(3)前記透明樹脂シートを水酸化アルカリ水溶液に浸漬する工程、
(4)前記メッシュパターン表面を電気めっき法により黒色のニッケル−酸化ニッケル共析物で被覆する工程。
【0012】
かかる電気めっき法により黒色の酸化物を共析させることで、従来よりも一層高い黒色度が達成されるのでより視認性を上げることができる。
【0013】
請求項2記載の発明は、上記工程(3)における水酸化アルカリ水溶液が、水酸化リチウム,水酸化ナトリウム,水酸化カリウムから選ばれ、その濃度が0.01から20g/Lであることを特徴とする請求項1記載のプラズマディスプレイ前面板用黒色化シールドメッシュの製造方法である。
【0014】
かかる方法で、メッシュパターン表面上のpHを予め均一に上昇させておくことにより、黒色度のムラを解消することができる。
【0015】
請求項3記載の発明は、上記工程(5)における電気めっき法が、ニッケル分として1〜50g/Lのニッケル塩、0.1〜10g/LのpH緩衝性を持たないリチウム塩および水酸化リチウムを含み、pHを3.5〜5.5とした電気めっき液を用い、さらに、対極として不溶性アノードを使用することを特徴とする請求項1記載のプラズマディスプレイ前面板用黒色化シールドメッシュの製造方法である。
【0016】
アルカリ金属としてリチウムを使用する電気めっき法の方が、ナトリウムやカリウムを
使用する電気めっき法よりも、黒色度が向上し、カソード表面のムラも低減できる。ニッケル塩の濃度が低いと、めっきの色ムラが発生し易く、濃度が高いと溶解度との関係もあるが不経済となる。pH緩衝性を持たないリチウム塩は、濃度が低いと、黒色度の向上やムラの低減の効果が見られなくなり、濃度が高いとめっき皮膜が黒色化しにくくなる。めっき液のpH値の上限は、めっき液中のニッケル塩が水酸化物として沈殿しない限界として決められ、pHの下限を下回るとめっき皮膜は黒色化しにくくなり、全体的に灰色になる。
【0017】
請求項4の発明は、前記黒色のニッケル−酸化ニッケル共析物が、金属ニッケル、酸化ニッケル、ニッケル酸リチウムを含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のプラズマディスプレイ前面板用黒色化シールドメッシュの製造方法である。
【0018】
請求項5の発明は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のプラズマディスプレイ前面板用黒色化シールドメッシュの製造方法で製造したことを特徴とするプラズマディスプレイ前面板用黒色化シールドメッシュである。
【0019】
請求項6の発明は、請求項5に記載のプラズマディスプレイ前面板用黒色化シールドメッシュを具備したことを特徴とするプラズマディスプレイパネルである。
【発明の効果】
【0020】
本発明のプラズマディスプレイ前面板用黒色化シールドメッシュの製造方法はコストパフォーマンスに優れ、プロセス構築が比較的平易という電気めっき法の長所を生かしつつ、有害電磁波の遮蔽性に優れ、かつ金属だけでなく、元来、黒色の酸化物を共析させることにより、従来よりもムラが少なく一層高い黒色度が得られるのでより視認性を上げることができるという顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明によるプラズマディスプレイ前面板用黒色化シールドメッシュの製造方法を、その一実施の形態に基いて工程を追って説明する。
【0022】
図1は、本発明になる黒色化シールドメッシュの製造工程の一例を示す断面視の説明図であり、図2はその平面視の説明図である。
【0023】
一連の工程を通す時、電磁波シールドメッシュを1枚毎の単位に切断して処理することもできるが、一般的にはシートをロールから巻き出し、連続的に配置されたチャンバーを通すことで連続的に処理して、再度ロールに巻き取る形態のいわゆる「リール・トゥー・リール」方式が採用される場合が多い。
【0024】
本発明の形態は、「リール・トゥー・リール」方式に限定されないが、以下では、この方式を念頭にして説明する。
【0025】
図1および図2に示すように、透明樹脂シート1の上に、銅箔2をラミネートする。このラミネートの方法は特に指定されない。一般的なラミネートの方法は透明樹脂シート1に、透明接着剤を塗布してから、銅箔2をラミネートする方法である。このほか、接着剤を介さずに、透明樹脂シート1に無電解銅めっきで銅箔2を析出させるなどの方法を取ることもできる。
【0026】
透明樹脂シート1の材料としては、透明性が高いことが必要である。また、後続の処理で化学薬品が接触するため、それらの薬品に対する耐性を有することも必要である。そのような材料としては、具体的には、例えばアクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリ
エステル系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂やエンジニアリングプラスチックと呼ばれるものが挙げられるが、価格や耐熱性等の点でPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂が好適である。
【0027】
次に、銅箔2の表面にエッチング用のレジスト3を被覆し、パターンニングする。一般的な電磁波シールドメッシュでは、メッシュパターンのライン幅(W1)は5〜70μm、ラインの間隔(W2)は100〜1000μm程度であり、その仕様によってレジストの種類やパターンニングの方法が選択される。
【0028】
一般的な方法は、感光性のドライフィルムレジストまたは液状レジストをコーティングし、フォトマスクを通して露光、現像するものである。この方法では、ライン幅(W1)が5〜20μmの高精細パターンを形成できる。しかし、精細度よりもコストを重視する場合には、レジスト3を印刷で形成することもできる。
【0029】
次に、レジスト3を被覆していない露出部分の銅箔2をエッチングして銅メッシュパターンを形成する。エッチングの方法は、一般的に、塩化第2鉄、または塩化第2銅を主成分とするエッチング液を使用した化学的エッチングを行なう。エッチング後には、エッチングレジスト3を除去する。除去の方法は、用いるレジストにもよるが、通常は、アルカリ性の水溶液に浸漬して溶解除去する。
【0030】
そして、形成された銅メッシュパターンの表面を黒色化するが、その直前処理として表面を脱脂、および、化学粗化することが望ましい。銅メッシュパターンの表面には、エッチングレジスト3の残渣などの有機物が付着し、その部分は、後続の処理において処理液の濡れ性が劣るためにムラを生じる場合がある。そこで、それら有機物を除くために脱脂処理を行うことが望ましい。脱脂処理は、市販の酸性またはアルカリ性の脱脂液に浸漬するか、脱脂液中で電解処理を行う。また、黒色化される銅メッシュパターンの表面は、入射する外部からの光を散乱させるため、平坦でなく凹凸があった方がよい。
【0031】
そのため、銅メッシュパターンの表面を化学的に粗化する。この処理は、化学粗化液、または、ソフトエッチング液などと呼ばれる水溶液中に、銅メッシュパターンを浸漬することによって行なう。 この液は、一般的に、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩や、過酸化水素水などの成分を含んでいる。このような、脱脂および粗化のプロセスは、最終的に黒色化した銅メッシュパターンの仕様や、上述のような表面の汚れ付着の度合いによって必要性が変わるため、導入が必要かどうかは事業者によって決められるべきである。
【0032】
次に、水酸化アルカリ水溶液に浸漬する。水酸化アルカリは、水酸化リチウム,水酸化ナトリウム,水酸化カリウムから選ばれるが、後続の電気めっき液でリチウム塩を使用するので、水酸化リチウムが最も望ましい。水酸化アルカリの濃度は0.01から20g/Lが適当であり、低すぎると効果がなく、高すぎると、後続のめっき液中への水酸化アルカリ分の持ち込み量が増えて、メッシュパターン上でNi水酸化物の沈殿が過剰に生成することになる。
【0033】
本発明における水酸化アルカリ水溶液4は、前記メッシュパターン表面上のpHを予め均一に上昇させておくことにより、黒色度のムラを解消することができるという効果のために使用するものである。したがって、水酸化アルカリ水溶液4は、メッシュパターン上に必要量付着している必要があるが、過剰量の付着はめっき液の分解などの悪影響が生じる。付着量の調整のために、次のような方法を取ることができる。付着量の削減のためには、浸漬後の水洗において、水洗水量の増加や、リール・トゥー・リール方式の場合においては、シートに進行方向が高くなるような傾斜をつけるなどの工夫を行なう。付着量の
増加のためには、水洗水量の減少や、水酸化アルカリ水溶液中にPVAなどの増粘剤を加えるなどの工夫を行なう。適切な付着量は、設備の稼動状態により変化するため、これらの工夫によるバランスを考慮して設定する。
【0034】
次に、銅メッシュパターンに、電気めっきでニッケル−酸化ニッケル共析物5を被覆して黒色化する。 この電気めっき工程では、ニッケル分として1〜50g/Lのニッケル塩、0.1〜10g/LのpH緩衝性を持たないリチウム塩および水酸化リチウムを含み、pHを3.5〜5.5とした電気めっき液を用い、さらに、対極としては不溶性アノードを用いる。
【0035】
ニッケル塩は、析出させるニッケル−酸化ニッケル共析物の金属源として働く。ニッケルの対イオンはpH緩衝性のないものが適当であり、硫酸ニッケルが最も適当であるが、スルファミン酸ニッケル,硝酸ニッケル,塩化ニッケルなども使用できる。ニッケル塩の濃度が低いと、めっきの色ムラが発生し易く、濃度が高いと溶解度との関係もあるが不経済となる。
【0036】
pH緩衝性を持たないリチウム塩、および、水酸化リチウムは、液中へのリチウムイオンの供給源として働く。pH緩衝性を持たないリチウム塩としては、硫酸リチウムが最適であるが、硝酸リチウム,過塩素酸リチウム,塩化リチウム,スルファミン酸リチウムなども使用できる。pH緩衝性があると、カソード近傍でのpH上昇が起こりにくくなるため黒色化しにくくなる。水酸化リチウムは、めっき液のpHを3.5〜5.5の範囲に調整するために使用する。めっき液のpH値の上限は、めっき液中のニッケル塩が水酸化物として沈殿しない限界として決められ、pHの下限を下回るとめっき皮膜は黒色化しにくくなり、全体的に灰色になる。
【0037】
対極は不溶性アノードを使用する。めっき液中の反応については後述するが、不溶性アノードでは酸素発生反応が起こり、同時に水素イオンが生成するため、前工程からメッシュパターン上に付着して液中に持ち込まれる水酸化アルカリ分を中和する働きをする。
【0038】
本発明になる黒色のニッケル−酸化ニッケル共析物のメカニズムは、次のように考えられる。
めっきが析出するカソード面では、ニッケルイオンの還元反応
Ni2+ + 2e → Ni (1)
が起こり、金属ニッケルが析出する。
これらの反応に加えて、水素発生反応が起こる。
2H2O + 2e → H2 + 2OH- (2)
この反応でOH- が生成することにより電極近傍ではpHが上昇し、OH― は液中のニッケルイオンと水酸化ニッケルを生成する。それは液中の温度の影響で酸化物に変化し、それを巻き込んで析出するため黒色化すると考えられる。
2OH- + Ni2+ → Ni(OH)2 → 酸化ニッケル (3)
また、本発明の黒色のニッケル−酸化ニッケル共析物は、金属ニッケル,酸化ニッケルに加え、ニッケル酸リチウムを含む。これは、(3)の反応時に酸化ニッケルに液中のリチウムイオンが化合するものと考えられる。
【0039】
本発明におけるめっき皮膜の黒色度に対しては、前述した電気めっき液の組成、および以下に示すめっき条件が強く影響を与える。これらの事項は、上記の黒色化のメカニズムを支持するものである。
【0040】
(電流密度)
電気めっき時のカソードの電流密度は、0.2〜5A/dm2が適当である。
低すぎると、電極表面での水素発生反応の電流効率が下がり過ぎて(3) の反応が起こりにくくなるため、黒色化が不十分となる。また、必要な膜厚を得るための時間が長くなる。一方、電流密度が高すぎると、析出するめっき皮膜の表面形状が不均一になりやすい。ただ、最適な電流密度は、液の流動の状態、めっきされる銅メッシュパターンの搬送速度やニッケル濃度により変化するため、そのめっき装置に対して適正化する。
【0041】
(温度)
電気めっき液の温度は、20〜60℃が適当である。特には、40〜55℃がよい。低すぎると、ニッケルの析出効率が低下、および、水酸化ニッケルの酸化ニッケルへの変化が不十分となり黒色度も低下する。高すぎると、液中の化学種の拡散速度が向上しすぎるため、黒色化が起こりにくくなったり、部分的にムラが生じたりする。また、透明樹脂シートの透明度にも悪影響が及ぶことがある。
【0042】
(液の流動)
本発明では、電気めっきを行なう時に、めっき槽内での強制撹拌を行なわないことが望ましい。特定な方向への液撹拌を行うと、めっき表面で(3) の反応により生じた水酸化物イオンの濃度は、下流に行くほど高くなるため、めっき面内での色調の分布を生じる。そのため、液中に外部から侵入した粒子等をろ過するための循環系程度の緩やかな液流動を設け、液がめっき面に直接当たる構造は避ける。また、空気撹拌も行なわない。リール・トゥー・リール方式では、被めっき材である銅メッシュパターンが液中を一定速度で搬送され、それが基材に対して液を適当に流動させる作用を十分に有する。
【0043】
(膜厚)
銅メッシュパターン上の黒色化ニッケル−酸化ニッケル共析物は、十分な黒色の色調が得られる膜厚であればよい。0.01〜0.6μm、好ましくは0.02〜0.5μm、さらに好ましくは、0.05〜0.2μmである。膜厚が薄すぎると、黒色の色調が薄すぎたり、色ムラが発生する。逆に膜厚が厚すぎると、取り込まれた酸化物量も増大するため、めっき表面の抵抗値が増大する。抵抗値が増大することは、電磁波シールドとしてアース接点の接触抵抗が大きくなりシールド性が低下する。
【0044】
(槽内の構造)
リール・トゥー・リール方式による水酸化アルカリ水溶液浸漬槽、めっき槽内構造の概略図をそれぞれ図3,図4に示す。
【0045】
図3は、リール・トゥー・リール方式による水酸化アルカリ水溶液浸漬槽および後続の水洗槽の構造を示す概略説明図である。銅メッシュパターンを形成した透明樹脂シート6は、水酸化アルカリ水溶液7を蓄えた処理層8中に導入される。ここでは、液7は、受け槽9中の液がポンプで処理槽8に揚げられ、オーバーフローにより、また受け槽9中に戻る状態で描かれている。透明樹脂シート6の搬送は、ロール10を介し、保持、または、方向の変換が行なわれる。水酸化アルカリ処理槽8を出たシート6は、過剰な水酸化アルカリ水溶液を除去するために水洗を行なうことが望ましい。しかし、完全に水酸化アルカリ分を洗い流すのでは効果がなくなるため、水洗水を適切な流量とする。水洗は、ノズル11から水洗水12を適切な流量で噴出させ、さらに、洗浄効果のムラがないよう、オシレーションをつける、噴出を広範囲とするなどの工夫が望ましい。水洗水は、受け槽13に落ち、排出される。
【0046】
過剰な水酸化アルカリ水溶液の除去のため、絞りロール14を用いることもできる。これにより、透明樹脂シート6上の過剰な液を掻き落とし、さらに、シート上を流れる水洗水の回収もできる。しかし、このような工夫は、この図に記述された方法に限定されるものではない。
【0047】
図4は、同様のリール・トゥー・リール方式によるめっき槽の構造を示す概略説明図である。継続性を示すため、図3の水洗槽の部分も記載されている。水洗等で、表面の過剰な水酸化アルカリ水溶液を除去した透明樹脂ジート6は、ニッケルめっき液20を蓄えたニッケルめっき槽21中に導入される。ニッケルめっき液20は、受け槽22中に蓄えられたものが、ポンプでめっき槽21に揚げられ、オーバーフローにより、また、受け槽22に戻る形態として記載されている。そして、透明樹脂シート上の銅メッシュパターンをカソードとし、不溶性アノード23との間に通電して黒色化のためのめっきが行なわれる。銅メッシュパターンへの給電は、めっき槽の前後に設けられた電気接点付きロール24により行なわれる。このめっき処理の後は、透明樹脂シートは水洗、乾燥して巻き取られる。
これにより、一連の製造工程を終える。
【実施例】
【0048】
次に、黒色のニッケル−酸化ニッケル共析物の電気めっき工程に関し、実施例および比較例を示して説明する。
【0049】
(実施例1〜9)、(比較例1〜7)
PET製の透明シート(500mm×500mm、厚さ50μm)に18μm厚さの銅箔を、アクリル系樹脂の透明接着剤でラミネートした。一般的な方法により、銅箔上に感光性のドライフィルムをラミネートし、露光、現像、塩化第2鉄エッチング、レジスト剥離という工程を通し、図1、2に例示した、ライン幅50μm、ライン間隔300μmのメッシュパターンを形成した。
【0050】
このシートを用いて各種電気めっき前処理としてのアルカリ水溶液浸漬条件、および、ニッケルめっき液条件による黒色化を検討した。
【0051】
めっき槽、電気めっき液、および基本的なめっき条件の共通条件は下記の通りである。
【0052】
なお、めっきの前処理時には、シートはプラスチック板に貼りつけて固定した。また、前処理として、過硫酸ナトリウム100g/L、硫酸50g/Lの溶液に室温で30秒浸漬して銅表面を化学粗化し、その後水洗を行なった。
【0053】
表1に示したように、アルカリ水溶液への浸漬条件(成分,濃度)、および、めっき液条件(pH,成分)を種々変化させて、めっき試験を行った。そして、めっきされたシートを水洗、乾燥し、外観を観察し、メッシュ上の色調やムラを調べ、その結果を表1にまとめた。
(共通条件)
アルカリ水溶液浸漬条件
温度 室温(15〜25℃)
時間 30秒
撹拌 なし
めっき条件
電流密度 1.0 A/dm2
温度 50 ℃
めっき時間 60秒
撹拌 なし
めっき槽
800mm×800mm×200mmのバッチ型槽
遮蔽板 シートの端部に10mm隔てて額縁上の遮蔽板を設置
アノード 白金めっきチタンメッシュ(500mm×500mm)
表1から、実施例1〜9の本発明の製造方法により、シートの表面を均一に黒色化することができ、良好なプラズマディスプレイ前面板用の電磁波シールドメッシュを作製できることが判る。 それに対して、比較例1〜7においては、シートの表面を黒色化することができないか、できてもムラが生じた。
【0054】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の黒色化プラズマディスプレイ前面板用シールドメッシュの製造工程の一例を示す断面視の説明図である。
【図2】図1に示した本発明の黒色化プラズマディスプレイ前面板用シールドメッシュの加工の変遷を模式的に示す平面視の説明図である。
【図3】リール・トゥー・リール方式によるアルカリ水溶液浸漬槽の構造を示す概略説明図である。
【図4】リール・トゥー・リール方式による電気めっき槽の構造を示す概略説明図である。
【符号の説明】
【0056】
1・・・透明樹脂シート
2・・・銅箔
3・・・エッチング用のレジスト
4・・・付着した水酸化アルカリ溶液
5・・・ニッケル−酸化ニッケル共析物
6・・・銅メッシュパターンを形成した透明樹脂シート
7・・・水酸化アルカリ水溶液
8・・・水酸化アルカリ処理槽
9・・・水酸化アルカリ液受け槽
10・・・ロール
11・・・ノズル
12・・・水洗水
13・・・水洗水受け槽
14・・・水洗水絞りロール

20・・・ニッケルめっき液
21・・・ニッケルめっき槽
22・・・ニッケルめっき液受け槽
23・・・不溶性アノード
24・・・電気接点付きロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、下記の工程(1)〜(4)をこの順で含むことを特徴とするプラズマディスプレイ前面板用黒色化シールドメッシュの製造方法。
(1)透明樹脂シートへ銅箔を貼り合せる工程、
(2)前記銅箔をエッチングして所定のメッシュパターンを形成する工程、
(3)前記透明樹脂シートを水酸化アルカリ水溶液に浸漬する工程、
(4)前記メッシュパターン表面を電気めっき法により黒色のニッケル−酸化ニッケル共析物で被覆する工程。
【請求項2】
前記工程(3)における水酸化アルカリ水溶液が、水酸化リチウム,水酸化ナトリウム,水酸化カリウムから選ばれ、その濃度が0.01から20g/Lであることを特徴とする請求項1記載のプラズマディスプレイ前面板用黒色化シールドメッシュの製造方法。
【請求項3】
前記工程(4)における電気めっき法が、ニッケル分として1〜50g/Lのニッケル塩、0.1〜10g/LのpH緩衝性を持たないリチウム塩および水酸化リチウムを含み、pHを3.5〜5.5とした電気めっき液を用い、さらに、対極として不溶性アノードを使用することを特徴とする請求項1記載のプラズマディスプレイ前面板用黒色化シールドメッシュの製造方法。
【請求項4】
前記黒色のニッケル−酸化ニッケル共析物が、金属ニッケル、酸化ニッケル、ニッケル酸リチウムを含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のプラズマディスプレイ前面板用黒色化シールドメッシュの製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のプラズマディスプレイ前面板用黒色化シールドメッシュの製造方法により製造したことを特徴とするプラズマディスプレイ前面板用黒色化シールドメッシュ。
【請求項6】
請求項5に記載のプラズマディスプレイ前面板用黒色化シールドメッシュを具備したことを特徴とするプラズマディスプレイパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−231426(P2009−231426A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−73179(P2008−73179)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】