説明

プラズマディスプレーパネル用誘電体ペーストの製造方法

【課題】良好な表面状態の誘電体層を安定して形成することが可能なプラズマディスプレーパネル用誘電体ペーストの製造方法を提供する。
【解決手段】ガラス粉末の作製工程、及びペーストの作製工程を含むプラズマディスプレーパネル用誘電体ペーストの製造方法であって、ペースト作製工程における湿度を60%以下に管理することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマディスプレーパネル用誘電体ペーストの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラズマディスプレーパネルの前面ガラス板には、プラズマ放電用の電極が形成され、その上に放電維持のための誘電体層が形成される。この誘電体層には、高い耐電圧を有すること及び透明性に優れていることが要求される。
【0003】
従来、このような誘電体層を形成する方法として、ガラス粉末をペースト化した誘電体形成材料をスクリーン印刷し、焼成する方法が知られている。
【特許文献1】特開平8−19665号公報
【特許文献2】特開平9−231910号公報
【特許文献3】特開平9−278482号公報
【特許文献4】特開昭58−199751号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら従来の誘電体ペーストは、印刷によって平滑で均一な膜厚を有する塗布層を形成し難く、焼成後に表面に亀裂が生じる等、良好な表面状態の誘電体層が得難いという欠点がある。
【0005】
本発明の目的は、良好な表面状態の誘電体層を安定して形成することが可能なプラズマディスプレーパネル用誘電体ペーストの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は種々の検討を行った結果、ペースト作製時に混入する水分がペーストの粘度特性や挙動に関与しており、塗布層の表面状態に影響を与えることを見いだし、本発明を提案するに至った。
【0007】
即ち、本発明のプラズマディスプレーパネル用誘電体ペーストは、ガラス粉末を製造する工程、及びペーストを作製する工程を含むプラズマディスプレーパネル用誘電体ペーストの製造方法であって、ペースト作製工程における湿度を60%以下、好ましくは50%以下に管理することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のプラズマディスプレーパネル用誘電体ペーストの製造方法は、ペースト作製工程で混入する水分量を管理することによって、ペーストの粘度特性や印刷時の挙動の悪化を防止することができる。それゆえ本発明の方法により得られるペーストを使用すれば、平滑で均一な膜厚を有する塗布層を形成することができ、良好な表面状態の誘電体層を安定して形成することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の方法により得られるプラズマディスプレーパネル用誘電体ペーストは、水分量を3重量%以下、好ましくは1重量%以下に調整することができるため、ペーストの粘度特性や挙動に悪影響を与えることがなく、平滑で均一な膜厚を有する塗布層を形成することができる。なおペースト中の水分量の測定は、カールフィッシャー滴定法により行うことができる。ペースト中の水分量は、ペースト作製工程における水分管理を厳密に行うことによって調整すればよい。特にペースト作製工程における湿度管理が重要であり、湿度を60%以下、好ましくは50%以下に管理する。なおペースト作製工程での水分管理に加えて、ガラス粉末の製造工程における水分管理についても厳密に行うことが好ましい。
【0010】
また本発明の方法により得られるペーストは、主成分としてガラス粉末、熱可塑性樹脂、可塑剤、溶剤等からなる。
【0011】
ガラス粉末は、高い耐電圧を有する誘電体層を形成するための成分であり、その含有量は30〜90重量%、特に50〜70重量%の範囲にあることが好ましい。ガラス粉末としては、重量百分率でPbO 50〜75%(好ましくは55〜70%)、B23 2〜30%(好ましくは5〜25%)、SiO2 2〜35%(好ましくは3〜31%)、ZnO+CaO 0〜20%(好ましくは0〜10%)の組成を有するガラスや、重量百分率でPbO 30〜55%(好ましくは40〜50%)、B23 10〜40%(好ましくは15〜35%)、SiO2 1〜15%(好ましくは2〜10%)、ZnO 0〜30%(好ましくは10〜30%)、BaO+CaO+Bi23 0〜30%(好ましくは3〜20%)の組成を有するガラスや、重量百分率でZnO 25〜45%(好ましくは30〜40%)、Bi23 15〜35%(好ましくは20〜30%)、B23 10〜30%(好ましくは17〜25%)、SiO2 0.5〜8%(好ましくは3〜7%)、CaO+SrO+BaO 8〜24%(好ましくは10〜20%)の組成を有するガラスが、500〜600℃の焼成で良好な流動性を示し、また絶縁特性に優れるとともに安定であるために好適である。
【0012】
熱可塑性樹脂は、乾燥後の膜強度を高め、また柔軟性を付与する成分であり、その含有量は0.1〜40重量%、特に1〜20重量%の範囲にあることが好ましい。熱可塑性樹脂としてはポリブチルメタアクリレート、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタアクリレート、ポリエチルメタアクリレート、エチルセルロース等が使用可能であり、これらを単独あるいは混合して使用する。
【0013】
可塑剤は、乾燥速度をコントロールするとともに、乾燥膜に柔軟性を与える成分であり、その含有量は0〜50重量%、特に5〜30重量%の範囲にあることが好ましい。可塑剤としてはブチルベンジルフタレート、ジオクチルフタレート、ジイソオクチルフタレート、ジカプリルフタレート、ジブチルフタレート等が使用可能であり、これらを単独あるいは混合して使用する。
【0014】
溶剤は材料をペースト化するための成分であり、その含有量は5〜60重量%、特に20〜50重量%の範囲にあることが好ましい。溶剤としては、例えばターピネオール、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタジオールモノイソブチレート等を単独又は混合して使用することができる。
【0015】
なお上記成分以外にも、例えばペーストの流動性、焼結性或いは熱膨張係数を調整するためにアルミナ、ジルコニア等のセラミック粉末を10重量%まで添加することができる。
【0016】
次に本発明により得られたプラズマディスプレーパネル用誘電体ペーストを用いて、誘電体層を形成する方法を説明する。
【0017】
まず、プラズマディスプレーパネルに用いられる前面ガラス板を用意する。次に本発明のペーストをスクリーン印刷法や一括コート法等を用いて塗布し、膜厚30〜100μmの塗布層を形成する。なお前面ガラス板には予め電極が形成されており、ペーストの塗布はその上に行う。続いて塗布層を80〜120℃程度の温度で乾燥させる。その後、500〜600℃で5〜15分間焼成することにより、誘電体層を形成することができる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明する。
【0019】
表1は本発明の実施例(試料No.1及び2)及び比較例(試料No.3)を示している。
【0020】
【表1】

【0021】
表1の各試料は、重量%でガラス粉末55%、エチルセルロース5%、ジブチルフタレート15%及びターピネオール25%を混練して調製した。なおガラス粉末は次のようにして作製した。まず重量%でPbO 65.0%、B23 5.0%、SiO2 25.0%、CaO 5.0%、軟化点590℃のガラスとなるように原料を調合し、均一に混合した後、白金ルツボに入れ、1250℃で2時間溶融し、成形した。続いてこれらを粉砕、分級した後、50%粒子径が約3μmの粒度分布を有するガラス粉末を得た。またペーストの調製は、表に示す湿度に保った室内で行った。
【0022】
こうして得られた各試料の水分量をカールフィッシャー滴定法により測定したところ、試料No.1が0.5重量%、No.2が1.5重量%、No.3が3.5重量%であった。
【0023】
次にソーダライムガラス板の表面に各試料をスクリーン印刷し、乾燥後、590℃で10分間焼成することによって膜厚約40μmのガラス膜を形成した。続いて得られたガラス膜の表面粗さRaを触針式表面粗さ計を用いて測定し、深さ10μmを超える亀裂の個数を計数した(表面粗さ計を用いて測定した試料No.1〜3の表面形状を図1〜3にそれぞれ示す)。なお膜厚40μmの誘電体層に10μmを超える亀裂があれば、耐電圧が著しく低下し、絶縁破壊が非常に起こり易くなる。
【0024】
その結果、本発明の実施例であるNo.1及び2の試料は、ガラス膜の表面粗さRaが0.54μm及び0.55μmであり、深さ10μmを超える亀裂は何れも認められなかった。これに対して比較例である試料No.3は、表面粗さが0.86μmと粗く、しかも深さ10μmを超える亀裂が2個も存在していた。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】表面粗さ計を用いて測定した試料No.1の表面形状である。
【図2】表面粗さ計を用いて測定した試料No.2の表面形状である。
【図3】表面粗さ計を用いて測定した試料No.3の表面形状である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス粉末を製造する工程、及びペーストを作製する工程を含むプラズマディスプレーパネル用誘電体ペーストの製造方法であって、ペースト作製工程における湿度を60%以下に管理することを特徴とするプラズマディスプレーパネル用誘電体ペーストの製造方法。
【請求項2】
湿度を50%以下に管理することを特徴とする請求項1のプラズマディスプレーパネル用誘電体ペーストの製造方法。
【請求項3】
ガラス粉末30〜90重量%、熱可塑性樹脂0.1〜40重量%、可塑剤0〜50重量%、溶剤5〜60重量%の割合となるようにペーストを作製することを特徴とする請求項1又は2のプラズマディスプレーパネル用誘電体ペーストの製造方法。
【請求項4】
ペースト中の水分量が3重量%以下となるように湿度を管理することを特徴とする請求項1〜3の何れかのプラズマディスプレーパネル用誘電体ペーストの製造方法。
【請求項5】
ガラス粉末が、重量百分率でPbO 50〜75%、B23 2〜30%、SiO2 2〜35%、ZnO+CaO 0〜20%の組成を有するガラスからなることを特徴とする請求項1〜4の何れかのプラズマディスプレーパネル用誘電体ペーストの製造方法。
【請求項6】
ガラス粉末が、重量百分率でPbO 30〜55%、B23 10〜40%、SiO2 1〜15%、ZnO 0〜30%、BaO+CaO+Bi23 0〜30%の組成を有するガラスからなることを特徴とする請求項1〜4の何れかのプラズマディスプレーパネル用誘電体ペーストの製造方法。
【請求項7】
ガラス粉末が、重量百分率でZnO 25〜45%、Bi23 15〜35%、B23 10〜30%、SiO2 0.5〜8%、CaO+SrO+BaO 8〜24%の組成を有するガラスからなることを特徴とする請求項1〜4の何れかのプラズマディスプレーパネル用誘電体ペーストの製造方法。
【請求項8】
熱可塑性樹脂として、ポリブチルメタアクリレート、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタアクリレート、ポリエチルメタアクリレート、エチルセルロースを単独又は混合して使用することを特徴とする請求項1〜7の何れかのプラズマディスプレーパネル用誘電体ペーストの製造方法。
【請求項9】
可塑剤として、ブチルベンジルフタレート、ジオクチルフタレート、ジイソオクチルフタレート、ジカプリルフタレート、ジブチルフタレーを単独又は混合して使用することを特徴とする請求項1〜8の何れかのプラズマディスプレーパネル用誘電体ペーストの製造方法。
【請求項10】
溶剤として、ターピネオール、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタジオールモノイソブチレーを単独又は混合して使用することを特徴とする請求項1〜9の何れかのプラズマディスプレーパネル用誘電体ペーストの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−128897(P2007−128897A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−337514(P2006−337514)
【出願日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【分割の表示】特願平10−25135の分割
【原出願日】平成10年1月21日(1998.1.21)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】