説明

プラズマ切断装置用ノズル及びプラズマトーチ

【課題】ノズル内面に電極材が付着して切断品質が低下するのを抑える。
【解決手段】このプラズマ切断装置用ノズル6は、先端側に配置されたワークにプラズマジェットを噴出してワークを切断するためのプラズマ切断装置に用いられ、ハフニウム又はジルコニウムからなる電極3の先端部が内部に配置されるとともに電極3との間に酸素を含む作動ガスが供給されるものである。このノズル6は、筒状部6aと、先端部6bと、を備えている。筒状部6aは、内周部に形成され先端側に向かうほど径が小さくなるテーパ内面25bと、外周部に形成され冷却液によって冷却される水冷面22と、テーパ内面25bに形成されたセラミック系材料の被膜Cと、を有する。先端部6bは、筒状部6aの先端側に形成され、テーパ内面25bのさらに先端側に形成されたオリフィス26を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ切断に用いられるプラズマ切断装置用のノズル及びそれを含むプラズマトーチに関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ切断装置は、プラズマアークを噴射して金属板等のワークを熱切断する装置である。プラズマ切断装置にはプラズマトーチが設けられており、プラズマトーチは消耗部品としての電極及びノズルを有している。
【0003】
このようなプラズマ切断装置では、プラズマトーチの電極とワークとの間にプラズマアークが発生する。プラズマアークはノズルで細く絞り込まれ、これにより高温かつ高圧のプラズマジェットが生成される。そして、プラズマジェットがワークに噴射されることにより、ワークが切断される。ここで、プラズマアークは以下のような過程により生成されることが知られている。
【0004】
まず、電極とノズルとの間に、小流量のプラズマガスが供給され、プラズマガスの流れが生成される。この状態で、電極に高電圧が印加されると、電極とノズルの内面との間に絶縁破壊が発生する。そして、この絶縁破壊をトリガーにして電極とノズルとの間にパイロットアークが発生する。パイロットアークは、プラズマガスの流れに乗ってワークまで延びる。そして、プラズマガスの流量及び電流を増大させることにより、電極とワークとの間にプラズマアークが生成される。
【0005】
以上のようなプラズマ切断装置において、特許文献1の従来技術の欄には、ノズルの長寿命化を図るために、ノズル先端等にセラミックをコーティングすることが示されている。
【0006】
また、特許文献2には、ノズルの長寿命化のために、電極材(ハフニウム)の形状について改良することが示されている。具体的には、電極材としてのハフニウムは、動作中に融点を超える高温で液状になっており、ハフニウムの放出面を平坦な形状にしたまま使用を開始すると、溶融ハフニウムが飛散し、ノズル内面に付着することが示されている。そして、このノズル内面に付着したハフニウムが不測のアーク(ダブルアーク)を誘起することが示されており、これを抑えるために、ハフニウムの先端中央部に凹部を設けることが示されている。これにより、飛散する溶融ハフニウムがノズル内面に付着することが抑えられ、ノズルの長寿命化が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平1−99783号公報
【特許文献2】特表平10−504762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電極に設けられる電極材は、一般的にハフニウムやジルコニウムが用いられる。電極材としてハフニウムを用い、プラズマガスとして酸素を用いたプラズマ切断装置においては、ある程度の切断回数あるいは切断時間が経過すると、ハフニウム電極の損耗と切断品質の劣化が進行する。これは、損耗したハフニウムが飛散してノズル内壁面に付着し、この付着したハフニウムが切断品質の劣化の要因となるからである。なお、損耗したハフニウムが飛散してダブルアークの原因になることは、特許文献2にも示されている。
【0009】
また、以上のような飛散したハフニウムが切断品質に与える悪影響について、本件発明者らの研究によって、以下のような事実が判明した。
【0010】
すなわち、ハフニウム及びその酸化物等がノズル内壁面に付着し堆積すると、ノズルの内壁面に凹凸が生じる。このため、プラズマアークの流れが乱され、指向性が悪化する。これにより、ワークの切断面の粗さ、直角性等の品質の低下を招くことになる。
【0011】
以上のことは、ノズル内壁面に付着したハフニウムを除去することで、劣化した切断品質が復帰することでも証明できた。
【0012】
ここで、特許文献1に示された技術は、電極とノズルとの間、あるいはノズルと被加工物との間に生じるダブルアークに対処するために、ノズルの内面や先端面にセラミック被膜や高融点金属層を形成するものである。
【0013】
そこで、特許文献1に示されるようなセラミック等の被膜をノズル内面に形成し、飛散した溶融ハフニウムがノズル内面に付着しにくいようにすることが考えられる。しかし、前述の損耗したハフニウムが被膜表面に付着し、被膜を損傷させながら、この被膜をノズル内面から離脱させることが予想される。しかも、このような現象は切断処理中において継続して生じる。より詳細には、断続的な切断処理の繰り返しによって、ノズルは熱サイクルを受けることになる。そして、一般的にノズルは銅製であり、銅製ノズルとセラミックを主成分とする被膜とは異なる熱膨張率を有する。このため、ノズル温度が大きく上昇すると、ノズルと被膜との界面にストレスが作用し、被膜が剥離することになる。
【0014】
以上のように、ノズル内面を被膜のみによって保護し続けることは困難であり、好適なノズル形状を維持できないと考えられる。なお、電極材がジルコニウムの場合も、同様の問題が生じる。
【0015】
本発明の課題は、ノズル内面に電極材が付着して切断品質が低下するのを抑え、ノズルの長寿命化を図ることにある。より詳細には、ノズル内面等に被膜を形成した場合に、被膜によるノズル内面の保護効果が長期にわたって維持できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
第1発明に係るプラズマ切断装置用ノズルは、先端側に配置されたワークにプラズマジェットを噴出してワークを切断するためのプラズマ切断装置に用いられ、ハフニウム又はジルコニウムからなる電極の先端部が内部に配置されるとともに電極との間に酸素を含む作動ガスが供給されるものである。このプラズマ切断装置用ノズルは、筒状部と、先端部と、を備えている。筒状部は、内周部に形成され先端側に向かうほど径が小さくなるテーパ内面と、外周部に形成され冷却液によって冷却される冷却面と、内壁面に形成されたセラミック系材料の被膜と、を有する。先端部は、筒状部の先端側に形成され、テーパ内面のさらに先端側に形成されたオリフィスを有する。
【0017】
このノズルがプラズマ切断装置に装着された場合、ノズルの内部には電極が配置される。そして、ノズルのテーパ内面と電極の外周縁との間の最短ギャップの位置で絶縁破壊が生じる。
【0018】
ここでは、ノズルの筒状部内壁面にセラミック系材料の被膜が形成されているので、飛散した電極材が筒状部内壁面に付着しにくい。そして、ノズル外周部には冷却面が形成され、この冷却面が冷却液によって冷却される。このため、本発明のノズルをプラズマ切断装置に用いた場合、ノズル内面が高温になるのが抑えられ、ノズルの内壁面に電極材が付着するのをより抑えることができ、またノズルの内壁面に形成された被膜の剥離を抑えることができる。このため、切断品質の低下を抑え、ノズルの長寿命化を図ることができる。
【0019】
第2発明に係るプラズマ切断装置用ノズルは、第1発明のノズルにおいて、セラミック系材料の被膜は、筒状部の内壁面のうちの、テーパ内面を含み電極と対向する面に形成されている。
【0020】
ここで、テーパ内面とは、ノズル内面のうちの電極外周縁に最も近接する位置から先端側(オリフィス側)に向かう面を含む部分である。ノズルの内壁面には、このテーパ内面以外にも電極と対向する面が存在する。そこで、ここでは、テーパ内面だけではなく、電極と対向する他の面にもセラミック系材料の被膜が形成されている。このため、ノズル内面をより確実に保護することができる。
【0021】
第3発明に係るプラズマ切断装置用ノズルは、第1又は第2発明のノズルにおいて、セラミック系材料の被膜は先端部のオリフィスの内面に形成されている。
【0022】
ここで、本件発明者らの研究によって、切断品質の悪化につながる要因として、以下のことがわかった。
【0023】
ハフニウム及びその酸化物等がノズルのオリフィス内壁面に付着し堆積すると、オリフィス内壁面に凹凸が生じ、オリフィスの軸対称性が維持されなくなる。このようなオリフィスの損傷は、プラズマアークの拡がり、曲がり、歪みを発生させ、結果的に、ワークの切断面の粗さ、直角性等の品質の低下を招くことになる。
【0024】
そこで、この第3発明では、オリフィス内面にセラミック系材料の被膜を形成している。このため、特にオリフィスの損傷が抑えられ、比較的長期にわたって初期のオリフィス形状が維持され、切断品質の低下を抑え、ノズルの長寿命化を図ることができる。
【0025】
第4発明に係るプラズマ切断装置用ノズルは、第1から第3発明のいずれかのノズルにおいて、筒状部の冷却面は冷却液が直接接触するように設けられている。
【0026】
ここで、前述のように、セラミック系材料の被膜をノズル内壁面に形成することは、ノズル内壁面を保護し、ノズルの長寿命化に有効である。しかし、セラミック系材料の被膜を冷却面にまで設けると、この冷却面に設けられたセラミック系材料の被膜はノズル内部の冷却の妨げになる。
【0027】
そこで、この第4発明では、冷却面には被膜を形成しないようにしている。このため、冷却効果がセラミック系材料の被膜によって妨げられることはない。
【0028】
第5発明に係るプラズマ切断装置用ノズルは、第1から第4発明のいずれかのノズルにおいて、筒状部はテーパ内面とオリフィスとをつなぐ曲面を有しており、セラミック系材料の被膜はこの曲面に形成されている。
【0029】
ここで、ノズルのオリフィス入口部、すなわちテーパ内面とオリフィスとの境界部は、プラズマガスが収斂する領域である。本件発明者の一連の実験によれば、この部分は、他のノズル内面に比較して電極材が集中して付着することが判明した。このため、テーパ内面とオリフィスとの境界をエッジにしたまま、この境界部にセラミック系材料の被膜を形成しても、被膜がダメージを受けて剥離しやすい。
【0030】
そこで第5発明では、テーパ内面とオリフィスとの間に曲面が形成され、この曲面にセラミック系材料の被膜が形成されている。このような構成により、オリフィス入口部においてプラズマガスを整流する効果が得られる。このガス整流効果によって、飛散した溶融電極材の排出が促進され、ノズル内面に溶融電極材が付着するのを抑えることができる。このため、ノズル内面へのダメージを抑制できる。
【0031】
第6発明に係るプラズマ切断装置用ノズルは、第1から第5発明のいずれかのノズルにおいて、筒状部の冷却面には冷却用フィンが設けられている。
【0032】
冷却フィンを設けたノズルでは、ノズルの冷却能力が高くなり、ノズル内面の温度を低く保つことができる。このため、ハフニウム付着時の被膜の温度を低く抑えることが可能になり、被膜の劣化を抑制できる。
【0033】
第7発明に係るプラズマ切断装置用ノズルは、第1から第6発明のいずれかのノズルにおいて、被膜はボロンナイトライドを含む材料により形成されている。
【0034】
第8発明に係るプラズマトーチは、プラズマ切断装置に設けられるものであって、第1から第7発明のいずれかに記載のノズルと、先端外周縁部がノズルのテーパ内面に対向するように配置された電極と、を備えている。
【0035】
第9発明に係るプラズマトーチは、第8発明のプラズマトーチにおいて、電極は、先端に形成され中央に凹部を有する放出面を有する電極基体と、電極基体の放出面の凹部に配置された電極材と、を備えている。また、電極材の先端面には内部に凹む凹部が形成されている。
【0036】
ここでは、先端放出面に凹部を有する電極材を用いている。このため、初期段階で飛散する電極材が少なくなり、ノズル内面に電極材が付着するのをより抑えることができる。
【発明の効果】
【0037】
以上のような本発明では、ノズル内面に形成されたセラミック系材料の被膜によって、飛散する電極材からノズル内面を保護することができる。また、本発明のノズルは、外周部に冷却面が設けられており、ノズルを冷却することが可能であるので、電極材の被膜への付着を抑えるとともに、ノズル内面から被膜が剥離するのを抑えることができる。このため、本ノズルをプラズマ切断装置に用いることによって、切断品質が低下するのを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】プラズマトーチの断面図。
【図2】プラズマトーチ先端部の拡大断面図。
【図3】ノズルの拡大断面図。
【図4】ノズルの外観図。
【図5】ノズルの別の例の外観図。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るプラズマトーチ1の中心軸線(以下、単に「軸線」と呼ぶ)を含む平面での断面図である。
【0040】
[全体構成]
プラズマトーチ1は、鋼板などの金属材料を切断するためのプラズマ切断機に備えられるものである。図示されていないが、プラズマ切断装置は、プラズマトーチ1にパイロットアークやプラズマアークを発生させ、且つ、プラズマアークを制御するためのアーク電源回路及び制御装置を備えている。また、プラズマ切断装置は、プラズマトーチ1へ酸素を含む作動ガスとしてのプラズマガス及びアシストガスを供給するガス供給システム、及び、プラズマトーチ1へ冷却液を供給する冷却システムなどの装置を備えている。
【0041】
プラズマトーチ1は、トーチ本体2、電極3、第1案内部材4、第2案内部材5、ノズル6、キャップ部7などを有する。トーチ本体2、電極3、第1案内部材4、第2案内部材5、ノズル6、及びキャップ部7は、同軸に配置されている。
【0042】
[トーチ本体]
トーチ本体2は、ベース部11、電極支持部12、ノズル支持部13、冷却パイプ14、ホルダ15、冷却液供給パイプ16、冷却液排出パイプ17などを有する。ベース部11、電極支持部12、ノズル支持部13、冷却パイプ14は同軸に配置されている。
【0043】
ベース部11は概ね円筒状に形成されている。ベース部11の内部には空間が形成されており、この内部空間に、電極支持部12、冷却液供給パイプ16及び冷却液排出パイプ17が挿入されている。ベース部11の先端部には、ベース部11の内部空間に連通する孔11aが形成されている。
【0044】
電極支持部12は、概ね円筒状に形成されてベース部11の孔11aに挿入されており、先端部(図1の下方端部)に電極3を支持している。電極支持部12の外面とベース部11の内面との間には、例えばOリングなどのシール部材S1が設けられている。電極支持部12は、金属製であり、例えば銅によって形成されている。電極支持部12は、図示しない電気配線を介してアーク電源回路へ接続される。電極支持部12は軸線方向に貫通する孔12aを有している。
【0045】
ノズル支持部13は、概ね円錐状に形成されて軸線方向に貫通する孔13aを有しており、先端部にノズル6を支持している。ノズル支持部13は、ベース部11の先端部に取り付けられ、電極支持部12の先端部外周を覆っている。ノズル支持部13の内面は、電極支持部12の外面に対して間隔を空けて配置される。これにより、ノズル支持部13の内面と電極支持部12の外面との間には、プラズマガスが通るプラズマガス通路P1が形成されている。プラズマガス通路P1は、図示しないガス供給パイプを介してガス供給システムに接続されている。ノズル支持部13は、金属製であり、例えば銅によって形成されている。また、ノズル支持部13は、図示しない電気配線を介してアーク電源回路に接続される。
【0046】
冷却パイプ14は、冷却液供給パイプ16からの冷却液を電極3に導いて電極3を冷却するものであり、電極支持部12の孔12a内に配置されている。冷却パイプ14の基端部(図1において上方端部)はベース部11の内部空間内に配置され、先端部は電極支持部12の先端部から突出している。冷却パイプ14の外面と電極支持部12の内面との間には空間が形成されており、この空間はベース部11の内部空間と連通している。また、冷却パイプ14の外面は、電極3の内面に対して間隔を空けて配置されている。
【0047】
ホルダ15は、概ね円筒状に形成されてベース部11の外周に嵌合されており、キャップ部7を支持している。ホルダ15の外周面には、後述するナット18の雌ネジ部と螺合する雄ネジ部が形成されている。
【0048】
冷却液供給パイプ16は、冷却システムからの冷却液を冷却パイプ14へ送るためのパイプであり、ベース部11の内部空間に挿入されている。この冷却液供給パイプ16の基端部は冷却システムに接続され、先端部はベース部11の内部空間内において冷却パイプ14の基端部に接続されている。
【0049】
冷却液排出パイプ17は、冷却液をベース部11の内部空間から冷却システムへ送るためのパイプであり、ベース部11の内部空間に挿入されている。この冷却液排出パイプ17の基端部は冷却システムに接続され、先端部はベース部11の内部空間内に配置されている。
【0050】
以上のような構成により、冷却液供給パイプ16から冷却パイプ14を介して供給された冷却液は、電極3に導かれ、その後、冷却パイプ14の外面と電極3の内面との間の空間を通過し、さらに冷却パイプ14の外面と電極支持部12の内面との間の空間を通過して、ベース部11の内部空間に送られる。
【0051】
[電極]
電極3は、図1に示すように、概ね円筒状に形成されており、基端部が電極支持部12の孔12aに挿入され、電極支持部12に着脱可能に取り付けられている。電極3の基端部が電極支持部12の孔12aに挿入された状態では、冷却パイプ14の先端部が電極3の内部空間内に配置されている。また、電極3と電極支持部12との間の隙間は、図示しないシール部材によって封止されている。これにより、電極支持部12の孔12aの先端側が閉塞される。さらに、電極3は、電極支持部12と接触することによって電極支持部12と電気的に接続されている。
【0052】
また、電極3は、図2に拡大して示すように、電極基体35と電極材36とを有している。電極基体35は、先端部が閉じられ基端部が開放された概ね円筒状の部材である。電極基体35は、金属製であり、例えば銅によって形成されている。電極基体35の外周面には径方向外方に突出するフランジ19が形成されており、さらに内部には空間が形成されている。フランジ19の一方の面は電極支持部12の先端部と接触し(図1参照)、他方の面は第1案内部材4と接触している。また、電極3の内部空間は、基端側は開放され、先端側は閉塞されている。
【0053】
電極基体35の先端部には、テーパ面38と放出面39とが形成されている。テーパ面38は、電極基体35の外周面から先端側(放出面39側)に行くにしたがって径が小さくなる形状である。放出面39は軸線と直交する平坦な面であり、その中央部には内部に凹む凹部41が形成されている。放出面39の裏側には、基端部へ向けて突出する凸部43が形成されている。図1に示すように、冷却パイプ14の先端部は、この凸部43の外側を覆うように配置されている。
【0054】
電極材36は、熱電子高放出性材料であるハフニウム(hafnium:Hf)又はジルコニウム(Zirconium:Zr)で形成されている。電極材36は、電極基体35の凹部41に挿入され、ろう付けにより固定されている。電極材36は、概ね円筒状に形成されており、先端部には、基端側へ向けて凹む凹部36aが形成されている。
【0055】
[第1案内部材]
第1案内部材4は、図2に示すように、概ね円筒状に形成され、基端側に大径部20を有し、先端側に小径部21を有している。また、第1案内部材4は絶縁性を有する材料で形成されている。第1案内部材4は、ノズル6の内部において、基端側に配置されている。第1案内部材4は軸線方向に貫通する孔4aを有し、この孔4a内に電極3が挿入されている。このように、第1案内部材4は、電極3とノズル6との間に配置されることにより、電極3とノズル6とを電気的に絶縁している。なお、第1案内部材4の内面と電極3の外面との間にはシール部材S2が設けられ、第1案内部材4の外面とノズル6の内面との間にはシール部材S3が設けられている。
【0056】
また、第1案内部材4は、軸線方向において、電極3のフランジ部19の先端側に配置されている。第1案内部材4の基端部はフランジ部19に接触している。第1案内部材4の大径部20の外周面には、軸線方向に延びる複数の溝4bが形成されている。この複数の溝4bの先端側は、第1案内部材4とノズル6の内面との間の空間に連通し、溝4bの基端側の側部は、ノズル支持部13の内面と電極支持部12の外面との間のプラズマガス通路P1に連通している。
【0057】
[第2案内部材]
第2案内部材5は、図2に示すように、軸線方向に貫通する孔5aを有する概ね環状の部材である。第2案内部材5の孔5aには、電極3及び第1案内部材4の小径部21が挿入されている。従って、第2案内部材5は、径方向において、ノズル6の内面と第1案内部材4の小径部21との間に配置されている。また、第2案内部材5は、軸線方向において、第1案内部材4の大径部20とノズル6の内面との間に配置されている。この第2案内部材5の先端側端面には、内部と外部と連通する複数の溝5bが設けられている。各溝5bは、径方向及び周方向に対して斜めに延びている。この第2案内部材5の溝5bを通過したプラズマガスは、電極3の外周を旋回するように流れる。
【0058】
[ノズル]
ノズル6は、銅製であり、図2及び図3に示すように、概ね円筒状に形成されている。このノズル6は、基端側から順に、内部に空間を有する筒状部6aと、筒状部6aの先端側に形成された先端部6bとを有している。
【0059】
ノズル6の筒状部6aの外周部には冷却面22が形成されている。より詳細には、ノズル6の筒状部6aの周囲には、後述するように冷却液が通過する冷却液通路P2が形成されている。そして、筒状部6aの外周部に形成された冷却面22が、冷却液通路P2の一方の壁面を構成している。冷却面22は筒状部6aの先端側に形成されており、この冷却面22には冷却用フィン22aが設けられている。冷却用フィン22aの外観を図4に示している。ここでは、円周方向及び軸線方向の両方向に沿って形成された凹凸によって冷却用フィン22aが形成されている。なお、図5に示すように、軸線方向のみに沿った凹凸によって冷却用フィン22a’が形成されていてもよい。
【0060】
筒状部6aの外周面において、冷却面22の基端側には、径方向に突出する突出部23が形成されている。この突出部23の上面23aとノズル支持部13の先端部との間には、図示しない電気接触子が配置されている。この電気接触子を介して、ノズル6はノズル支持部13と電気的に接続されている。
【0061】
筒状部6aの内部空間には、収納部24及び電極対向部25が形成されている。収納部24には、電極3、第1案内部材4、及び第2案内部材5が収納されている。電極対向部25は電極3の先端部と対向する部分であり、第1対向面25a及び第2対向面25bを有している。第1対向面25aは、電極対向部25において基端側に形成され、軸線方向に平行な面である。また、第2対向面25bは、第1対向面25aに連続して先端側に形成されており、先端側に向かって径が小さくなるテーパ面である。すなわち、第2対向面25bはテーパ内面となっている。電極対向部25の各対向面25a,25bと電極3の外周面との間には隙間が形成され、プラズマガスが流れる通路が形成されている。第2対向面(テーパ内面)25bのさらに先端側には、曲面25cが形成されている。
【0062】
先端部6bは、ほぼ円錐状に形成されており、中心部には軸線方向に貫通するオリフィス26が形成されている。このオリフィス26は、曲面25cを介して第2対向面25bに連続している。また、先端部6bの下端には、軸線方向と直交する平坦な先端面26aが形成されている。オリフィス26と先端面26aとの間(境界部)には面取り部26bが形成されている。
【0063】
ノズル6において、第1対向面25aと、テーパ内面としての第2対向面25bと、オリフィス26の内面と、面取り部26bを含む先端面26aと、には、セラミック系材料であるボロンナイトライドの被膜Cがコーティングされている。図3において、被膜Cが形成された部分を太い破線で示している。なお、この実施形態では、電極対向部25において、全内面に被膜Cが形成されているが、少なくとも第2対向面25bのうちの、電極3との最短ギャップの位置(電極3の外周縁44に最も近い位置)から先端側に形成されていればよい。電極材は、主に最短ギャップから先端側に飛散するからである。
【0064】
ここで、ノズル6の筒状部6aに形成された冷却面22には、セラミック系材料の被膜は形成されていない。これは、セラミック系材料の被膜は熱伝導率が小さく、このようなセラミック系材料被膜を冷却面22にコーティングすると、冷却液によるノズル内面への冷却効果が低下するからである。
【0065】
また、第2対向面25bのテーパ角度αは、この実施形態では90°に設定されている。テーパ角度αは、80°以上105°以下が好ましい。テーパ角度αを80°より小さくすると、電極3を十分に冷却可能にした状態でノズルに近づけることができないからである。また、テー角度αを105°より大きくすると、飛散した電極材がテーパ内面に到達しやすくなり、かつテーパ内面に長時間滞在しやすくなって、テーパ内面に被膜を形成しても、飛散した電極材によって被膜がダメージを受けやすくなるからである。
【0066】
[キャップ部]
キャップ部7は、図1に示すように、トーチ本体2の先端に取り付けられ、ノズル6を覆う部材である。キャップ部7は、アウターキャップ31と、インナーキャップ32と、シールドキャップ33とを有する。各キャップ31,32,33は、概ね円錐台状に形成され、電極3及びノズル6と同軸に配置されている。
【0067】
アウターキャップ31は、ナット18によってホルダ15に固定されており、トーチ本体2の先端部とノズル支持部13の外側を覆っている。また、アウターキャップ31の内面とホルダ15の外面との間にはシール部材S4が設けられている。アウターキャップ31の先端には、軸線方向に貫通する孔31aが形成されている。
【0068】
インナーキャップ32はアウターキャップ31の孔31aに挿入されている。インナーキャップ32の外面とアウターキャップ31の内面との間にはシール部材S5が設けられている。インナーキャップ32には軸線方向に貫通する32a孔が形成されており、この孔32aにはノズル6の先端部が挿入されている。そして、ノズル6の先端部がインナーキャップ32の内面によって保持されている。ノズル6の先端部の外面とインナーキャップ32の内面との間にはシール部材S6が設けられている。
【0069】
アウターキャップ31及びインナーキャップ32の各内面は、ノズル支持部13及びノズル6の筒状部6aの外周部(冷却面22)に対して間隔を空けて配置されている。これにより、ノズル6を冷却するための冷却液が通過する冷却液通路P2が構成されている。冷却液通路P2は、図示しない冷却液供給パイプ及び冷却液排出パイプを介して冷却システムに接続されている。
【0070】
シールドキャップ33は、アウターキャップ31の孔31aに挿入され、ノズル6の先端部を覆っている。シールドキャップ33の外面とアウターキャップ31の内面との間にはシール部材S7が設けられている。シールドキャップ33は、軸線方向に貫通し、ノズル6の孔6aと同軸に形成された孔33aを有している。また、シールドキャップ33の内面とノズル6の外面との間にはアシストガス通路P3が形成されている。アシストガス通路P3は、冷却液通路P2に対してシール部材S4によって遮断されており、アウターキャップ31の内部に形成されたアシストガス供給通路P4に連通している。アシストガス供給通路P4は、図示しないガス供給パイプを介してガス供給システムに接続されている。
【0071】
[作用及び効果]
このプラズマトーチ1では、まず、電極3とノズル6との間に、小流量のプラズマガスが流され、プラズマガスの流れが生成される。すなわち、ガス供給システムから、ノズル支持部13の内面と電極支持部12の外面との間のプラズマガス通路P1にプラズマガスが供給される。プラズマガスは、プラズマガス通路P1から、第1及び第2案内部材4,5に案内されて、旋回しながら電極3の外周を流れる。この状態で、電極3に高電圧が印加されると、電極基体35の放出面39の外周縁とノズル6の内面との間(最短ギャップ位置)に絶縁破壊が発生する。この絶縁破壊をトリガーにして電極3とノズル6の内面との間にパイロットアークが発生する。パイロットアークはノズル6内面の傾斜及び旋回するプラズマガスの流れに沿って中央部に移行し、さらにワークまで延びる。そして、プラズマガスの流量及び電流を増大させることにより、電極3とワークとの間にメインアークが生成される。
【0072】
以上の処理において、プラズマが生成される際に、電極材であるハフニウムが溶融し、ノズル6の内面(特に、テーパ内面である第2対向面25b)及びオリフィス26の内面に飛散する。しかし、ノズル6及びオリフィス26の内面にはボロンナイトライド被膜Cが形成されているので、これらの内面に溶融ハフニウムは付着しにくい。しかも、ノズル6の筒状部6aに形成された冷却面22を通してノズル6の内面が冷却されているので、ノズル内面の温度上昇を抑えることができる。したがって、溶融ハフニウムが被膜Cに付着するのをより抑えることができ、さらに被膜Cのノズル内面からの剥離を抑えることができる。
【0073】
また、第2対向面25bのテーパ角度は90°に設定されているので、プラズマガスの流れがスムーズになる等の理由によって、溶融ハフニウムは、第2対向面25bに対してより付着しにくい。また、溶融ハフニウムが第2対向面25bに付着しても、堆積しにくい。さらに、第2対向面25bとオリフィス26とが曲面25cを介して連続して形成されているので、プラズマガスがノズル内面から離れることなくスムーズにオリフィス26に流入する。このため、溶融ハフニウムの排出が促進され、ノズル6及びオリフィス26の内面に溶融ハフニウムが堆積するのを抑制することができる。
【0074】
また、メインアークが発生した後は、ノズル6の先端面26aにも溶融ハフニウムやワークの溶融物が飛散する。しかし、この実施形態では、この先端面26aにもボロンナイトライド被膜Cが形成されているので、これらの溶融物の付着を抑えることができる。
【0075】
以上から、ボロンナイトライド被膜Cの付着防止効果を長期にわたって良好に維持することができる。このため、特に、ノズル6の第2対向面25b(テーパ内面)やオリフィス26の壁面が損傷を受けるのを抑えることができ、従来に比較して長時間にわたって良好な切断品質を維持することができる。すなわち、ノズル6の長寿命化が実現できる。
【0076】
[他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で、例えば以下のような種々の変更が可能である。
【0077】
(a)ボロンナイトライド被膜Cは、第2対向面25bにおいては、少なくとも電極3との最短ギャップ位置から先端側の曲面25cにかけて形成されていればよい。また、ノズル6の面取り部26bを含む先端面26aには、特に被膜が形成されていなくてもよい。
【0078】
(b)冷却面については、冷却能力が十分な場合は特に冷却用のフィンを設けなくてもよい。
【0079】
(c)被膜の材料はボロンナイトライドに限定されない。ボロンナイトライド以外のセラミック系材料を用いてもよい。
【符号の説明】
【0080】
1 プラズマトーチ
3 電極
6 ノズル
6a 筒状部
6b 先端部
22 冷却面
22a,22a’ 冷却用フィン
25 電極対向部
25a 第1対向面
25b 第2対向面(テーパ内面)
25c 曲面
26 オリフィス
C ボロンナイトライド被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端側に配置されたワークにプラズマジェットを噴出してワークを切断するためのプラズマ切断装置に用いられ、ハフニウム又はジルコニウムからなる電極の先端部が内部に配置されるとともに電極との間に酸素を含む作動ガスが供給されるプラズマ切断装置用ノズルであって、
内周部に形成され先端側に向かうほど径が小さくなるテーパ内面と、外周部に形成され冷却液によって冷却される冷却面と、内壁面に形成されたセラミック系材料の被膜と、を有する筒状部と、
前記筒状部の先端側に形成され、前記テーパ内面のさらに先端側に形成されたオリフィスを有する先端部と、
を備えたプラズマ切断装置用ノズル。
【請求項2】
前記セラミック系材料の被膜は、前記筒状部の内壁面のうちの、前記テーパ内面を含み前記電極と対向する面に形成されている、請求項1に記載のプラズマ切断装置用ノズル。
【請求項3】
前記セラミック系材料の被膜は前記先端部のオリフィスの内面に形成されている、請求項1又は2に記載のプラズマ切断装置用ノズル。
【請求項4】
前記筒状部の冷却面は冷却液が直接接触するように設けられている、請求項1から3のいずれかに記載のプラズマ切断装置用ノズル。
【請求項5】
前記筒状部は前記テーパ内面と前記オリフィスとをつなぐ曲面を有しており、
前記セラミック系材料の被膜は前記曲面に形成されている、請求項1から4のいずれかに記載のプラズマ切断装置用ノズル。
【請求項6】
前記筒状部の冷却面には冷却用フィンが設けられている、請求項1から5のいずれかに記載のプラズマ切断装置用ノズル。
【請求項7】
前記被膜はボロンナイトライドを含む材料により形成されている、請求項1から6のいずれかに記載のプラズマ切断装置用ノズル。
【請求項8】
プラズマ切断装置に設けられるプラズマトーチであって、
請求項1から7のいずれかに記載のノズルと、
先端外周縁部が前記ノズルのテーパ内面に対向するように配置された電極と、
を備えたプラズマトーチ。
【請求項9】
前記電極は、
先端に形成され中央に凹部を有する放出面を有する電極基体と、
前記電極基体の放出面の凹部に配置された電極材と、を備え、
前記電極材の先端面には内部に凹む凹部が形成されている、
請求項8に記載のプラズマトーチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−192443(P2012−192443A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59495(P2011−59495)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【出願人】(394019082)コマツ産機株式会社 (103)
【Fターム(参考)】