プラズマ溶接方法
【課題】 複数のワークを安定して良好に接合するプラズマ接合方法を提供する。
【解決手段】 プラズマアークが直接に照射される板状接合部を有し、該板状接合部にプラズマアーク照射方向へ窪む凹部が形成された第1ワークを用意し、前記凹部の底部が第2ワークの板状接合部に所定の位置決め状態で当接するように少なくとも前記第1ワークと第2ワークの板状接合部どうしを重ね合わせ、前記重ね合わせ状態で前記凹部に向かってプラズマアークを照射し、前記凹部内にフィラーを供給して該凹部を埋めることにより、複数のワークをプラズマアークを用いて接合する。
【解決手段】 プラズマアークが直接に照射される板状接合部を有し、該板状接合部にプラズマアーク照射方向へ窪む凹部が形成された第1ワークを用意し、前記凹部の底部が第2ワークの板状接合部に所定の位置決め状態で当接するように少なくとも前記第1ワークと第2ワークの板状接合部どうしを重ね合わせ、前記重ね合わせ状態で前記凹部に向かってプラズマアークを照射し、前記凹部内にフィラーを供給して該凹部を埋めることにより、複数のワークをプラズマアークを用いて接合する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のワークをプラズマアークを用いて接合するプラズマ溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車の車体は、周知のように、非常に多くの車体構成部材が、溶接等により接合されて組み立てられている。このような車体構成部材の溶接には、スポット溶接が多用されている。しかし、スポット溶接法は、接合される部材を共に電極により挟み込む必要があるので、閉断面形状を有する部分などについては、実質的に適用不可能な場合が生じる。このようなスポット溶接が適用できない部分に対しては、アーク溶接が一般に用いられている。
【0003】
アーク溶接を、例えば重ね継手部に施工する場合には、一般に、栓溶接が行われる。栓溶接により2つのワークを接合する場合には、先ず接合されるワークの一方の接合部に予め穴加工を行う。その後に、接合されるワークどうしを重ね合わせて、前記穴を埋めるようにアーク溶接が行われることにより、ワークどうしが接合される。このように、アーク溶接法を適用した栓溶接では、上述のようにワークの接合部に予め穴加工を行う必要があるので、それだけ工数が掛かることになる。
【0004】
ところで、アーク溶接の一種であるプラズマアーク溶接は、一般のアーク溶接に比べると、より高温のアークを利用している。プラズマアーク溶接で重ね継手部を接合する場合には、接合されるワークの板状の接合部を重ね合わせ、その一方のワーク側よりプラズマアークを照射することで、穿孔を行うことができる。そして、その後に上記孔部にフィラーが供給されてワークどうしが接合される。このように、プラズマアーク溶接法を用いれば、上述の栓溶接のように、ワークの接合部に予め穴加工を行う必要性がなくなり、工数を削減することができる。従って、例えば電極が配置できない閉断面形状を有する重ね継手部などに、プラズマアーク溶接を適用することにより、効率の良い接合作業を行うことができる。例えば、特許文献1には自動車用ドアパネルの重ね合わせ部をプラズマ溶接により接合するようにした構成が開示されている。
【特許文献1】特開平11−105742号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、プラズマアーク溶接を適用する場合でも、板状ワークの接合部どうしを重ね合わせて接合する際に、両接合部間の間隙が大き過ぎる場合には、溶融フィラーがワーク間に流出し易いので、強度不足や外観不良が生じ得る。また、この流出したフィラー部分が腐食起点ともなり得る。一方、両接合部間の間隙が小さ過ぎる場合には、供給されるフィラーがワーク上に盛り上がり、余盛高さが過大となるので、他部品との干渉が生じたり、外観不良を招く場合もある。
【0006】
図10A及び図10Bは共に、従来のプラズマアーク溶接法を模式的に示した説明図である。所定間隔を設けて互いに平行に配設された2つの平板状ワークW1’、W2’をプラズマアーク溶接により接合する際には、まず、上側の第1ワークW1’の接合部にプラズマアークが直接に照射されて穿孔が行われ、その後に、上記孔部にフィラーが供給されて、上記第1ワークW1’と下側の第2ワークW2’とが接合されている。図10Aに示されるように、第1ワークW1’と第2ワークW2’の間隙が大き過ぎる場合には、ワークW1’、W2’間に溶融フィラーが流出するので、溶接肉盛部分3でのフィラーが不足して溶接が不完全となり、強度不足や外観不良が生じるおそれがある。また、流出したフィラーが、ワークW1’、W2’間にフィラー流出部4を形成して残存することとなり、このフィラー流出部4の凸凹形状が腐食起点ともなり得る。
【0007】
一方、図10Bに示されるように、第1ワークW1’と第2ワークW2’の間隙が小さ過ぎる場合には、溶接肉盛部分3が第1ワークW1’上に過剰に盛り上がり、余盛高さが過大となって、他部品との干渉が生じたり、外観不良を招く場合がある。
【0008】
前述のように、プラズマアーク溶接を重ね継手部に施工する場合、ワーク間の間隙の大きさ及びそのばらつきが、強度不足、外観不良等の溶接欠陥を引き起こし、溶接部の信頼性を低下させる。尚、このようなワーク間の間隙のばらつきは、多くの場合、各ワークの寸法ばらつき等によりもたらされるものである。
【0009】
本発明は、上記技術的課題に鑑みてなされたもので、それぞれ板状の接合部を有する複数のワークを、プラズマアーク溶接にて接合するに際して、効率良く、且つ、安定して良好に接合できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の請求項1に係る発明は、それぞれ板状の接合部を有する複数のワークどうしをプラズマアークを用いて接合するプラズマ溶接方法であって、前記プラズマアークが直接に照射される板状接合部を有し、該板状接合部にプラズマアーク照射方向へ窪む凹部が形成された第1ワークを用意するステップと、前記凹部の底部が第2ワークの板状接合部に所定の位置決め状態で当接するように少なくとも前記第1ワークと第2ワークの板状接合部どうしを重ね合わせるステップと、前記重ね合わせ状態で前記凹部に向かってプラズマアークを照射し、前記凹部内にフィラーを供給して該凹部を埋めるステップと、を備えたことを特徴としたものである。
【0011】
また、本願請求項2に係る発明は、請求項1記載のプラズマ溶接方法において、前記凹部の側壁部が残存するように、前記凹部を前記フィラーで埋めることを特徴としたものである。
【0012】
更に、本願請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載のプラズマ溶接方法において、前記凹部は平面視で実質的に円形に沿うように形成されており、前記凹部の開口部の溶接前の直径をDとし、溶接により前記凹部を埋めたフィラー部分の直径をDmとすれば、不等式:0.7Dm<D<0.9Dmを満足するように、前記凹部およびフィラー供給量を設定する、ことを特徴としたものである。
ここに、上記直径Dの範囲を0.7Dm<D<0.9Dmとしたのは、直径Dが0.7Dm以下の場合には、プラズマアーク溶接によりワークどうしを接合する際に、予め形成された凹部の側壁部が溶融してワーク間に溶融フィラーが流出するおそれがあり、上記凹部のフィラー流出抑制効果が低減するからであり、一方、直径Dが0.9Dm以上の場合には、溶接肉盛部分の周縁部に切欠き部が形成され、これが応力集中源や腐食起点となるおそれがあるなど、良好な溶接部を得ることが難しいためである。
【0013】
また更に、本願請求項4に係る発明は、請求項1〜3の何れか一に記載のプラズマ溶接方法において、前記凹部の前記底部に、該底部が当接する前記第2ワークの板状接合部の接合面部に沿った実質的に平坦な平坦部が形成されていることを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0014】
本願の請求項1の発明によれば、第1ワークの板状接合部に凹部が形成され、上記凹部の底部が、第2ワークの板状接合部に所定の位置決め状態で当接するように少なくとも前記第1ワークと第2ワークの板状接合部どうしを重ね合わせるので、上記ワーク間の間隙の大きさ及びばらつきを抑制することができる。従って、プラズマアーク溶接をこの重ね継手部に施工する際には、溶接強度、余盛サイズ等の溶接品質を安定化させることができる。
更に、第1ワークに形成された凹部の側壁部により、溶融フィラーがワーク間に流出することが抑制され、溶融フィラーを上記凹部内に容易に且つ確実に埋めることができ、ワークどうしを良好に接合することができる。
【0015】
また、本願請求項2の発明によれば、基本的には、上記請求項1の発明と同様の効果を奏することができる。特に、第1ワークに形成された凹部の側壁部が残存するように、上記凹部を溶融フィラーで埋めるので、上記フィラーがワーク間に流出することを確実に防止することができ、ワークどうしをより良好に接合することができる。特に、ワーク間にフィラー流出部を形成しないので腐食起点の形成を抑制することができる。
【0016】
更に、本願請求項3の発明によれば、基本的には、上記請求項1又は2の発明と同様の効果を奏することができる。特に、第1ワークに形成された凹部の開口部の直径Dと溶接により上記凹部を埋めたフィラー部分の直径Dmとが、不等式:0.7Dm<D<0.9Dmを満足するように設定されるので、プラズマアーク溶接によりワークどうしを接合する際に、上記凹部の側壁部が溶融してワーク間に溶融フィラーが流出することを抑制でき、且つ、溶接肉盛部分の周縁部に切欠き部が形成されることを防止でき、安定した良好な溶接を施工することができる。
【0017】
また更に、本願請求項4の発明によれば、基本的には、請求項1−3のいずれか一に係る発明と同様の効果を奏することができる。特に、第1ワークに形成された凹部の底部に、該底部が当接する第2ワークの板状接合部の接合面部に沿った実質的に平坦な平坦部が形成されているので、プラズマアーク溶接によりワークどうしを接合する際に、接合部分をより大きく確保することができ、また、側壁部が上記平坦部の周辺部に位置することにより、側壁部が溶融し難くなるので、溶融フィラーがワーク間に流出することがより抑制され、上記効果をより有効に奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明の実施例1に係るプラズマ溶接方法を示すワーク溶接部の拡大断面図である。この図に示すように、本実施例1では、上側の板状のワーク(第1ワーク)W1には、プレス成形により予め形成された凹部5が所定位置に設けられている。該凹部5は、底部6と側壁部7とで構成されており、上記底部6が下側の板状のワーク(第2ワーク)W2の上面に所定の位置決め状態で当接するように、第1ワークW1が第2ワークW2に重ね合わせられる。
この状態で、プラズマアークの照射方向が上記凹部5の窪み方向を略指向するように、上記凹部5の上方に溶接トーチ2を配置する。そして、この溶接トーチ2から凹部5内に向かってプラズマアーク1を照射することにより、上記底部6においてアーク照射部分が穿孔される。そして、その後に、上記凹部5内に溶融フィラーが供給されて第1ワークW1と第2ワークW2とが接合される。
【0020】
図2Aは、接合されるべき第1ワークW11と第2ワークW12との間隙および凹部深さを模式的に示した断面説明図である。ここでは、図に示されるように、板状の第1ワークW11の上面から上記第1ワークW11に形成された凹部15の底部16の上面までの高さを凹部深さHとし、上記凹部15の底部16の下面と第2ワークW12の上面との間隙をGtとし、第1ワークW11の下面と第2ワークW12の上面との間隙をGnとする。
従って、従来のプラズマ溶接法では、接合部におけるワーク間の間隙はGnで表される。一方、本発明に係るプラズマ溶接法では、第1ワークW11に凹部15が形成されているので、接合部におけるワーク間の間隙はGtで表されることとなる。この間隙Gtは、次式:Gt=Gn−Hで表示される。
【0021】
図2Bは、従来のプラズマ溶接法のように、2つの平板状ワークを接合する場合の接合部におけるワーク間の間隙のばらつきを示したグラフである。図2Bのグラフでは、接合部におけるワーク間の間隙Gnを横軸にとり、度数Nを縦軸にとって表示している。この図に示されるように、従来のプラズマ溶接法では、接合部におけるワーク間の間隙Gnのばらつきは、設定値G0をピークにして広いばらつき幅E1を有することになる。
【0022】
しかし、第1ワークに深さHの凹部15を設け、特に、この凹部15の深さHを、ワーク間の間隙Gnのばらつきのピーク値G0よりも大きく設定することにより、ばらつき幅を小さくする(ばらつき幅:E2)ことができる。
【0023】
図2Cは、本発明の実施例1に係るワーク間の間隙のばらつきを示したグラフである。この図2Cのグラフでは、接合部におけるワーク間の間隙Gtを横軸にとり、度数Nを縦軸にとって表示している。第1ワークW11に深さHの凹部15を設け、特に、この凹部15を寸法精度の高いプレス成形で成形することにより、上記ワーク間の間隙Gnのばらつきに比して、接合部におけるワーク間の間隙GtのばらつきE3を著しく抑制することができる。
【0024】
従って、この状態で、プラズマアーク溶接によりワークどうしを接合する際には、溶接強度、余盛サイズ等の溶接品質を安定化させることができる。また、上記凹部15の側壁部17により、溶融フィラーがワーク間に流出することが抑制され、溶融フィラーを上記凹部15内に容易に且つ確実に埋めることができ、ワークどうしを良好に接合することができる。
また、プラズマアークを照射する側の第1ワークW11の接合部に上記凹部15が形成されているので、溶接施工時の位置決めを別途に行う必要もない。
【0025】
更に、上記凹部15の側壁部17が残存するように、上記凹部15を溶融フィラーで埋めることにより、上記溶融フィラーがワーク間に流出することを確実に防止することができ、ワークどうしをより良好に接合することができる。特に、ワーク間にフィラー流出部を形成しないので腐食起点の形成を抑制することができる。
【0026】
図3Aは、2つの板状のワークを溶接した後の接合部を示した断面説明図である。この図3Aに示されるように、上側の第1ワークW21には、凹部25が形成されており、溶融フィラーが上記凹部25を埋めるように供給されて、上記第1ワークW21と第2ワークW22とが接合されている。ここで、上記凹部25の開口部の直径をDとし、溶接により上記凹部25を埋めたフィラー凝固部分3(溶接肉盛部分)の直径をDmとする。
【0027】
図3Bは、上記開口部の直径Dに対して上記フィラー凝固部分の直径Dmが大き過ぎる場合を示した断面説明図である。種々の実験を行った結果、特に、上記凹部35の開口部の直径Dと上記フィラー凝固部分3の直径Dmとが、Dが0.7Dm以下の場合には、プラズマアーク溶接によりワークどうしを接合する際に、予め形成された凹部35の側壁部37が溶融してワーク間に溶融フィラーが流出し易く、上記凹部のフィラー流出抑制効果が低減することが判った。
【0028】
図3Cは、上記開口部の直径Dに対して上記フィラー凝固部分の直径Dmが小さ過ぎる場合を示した断面説明図である。特に、上記凹部45の開口部の直径Dと上記フィラー凝固部分3の直径Dmとが、Dが0.9Dm以上の場合には、プラズマアーク溶接によりワークどうしを接合する際に、フィラー凝固部分3の周縁部に切欠き部8が形成され易いことが判った。
【0029】
従って、上記開口部の直径Dと溶接後の上記フィラー凝固部分3の直径Dmとが、0.7Dm<D<0.9Dmを満たすことが好ましく、この場合には、安定した良好な溶接を行うことができる。従って、このように、前記凹部およびフィラー供給量を設定することにより、上記凹部の側壁部が溶融してワーク間に溶融フィラーが流出し、上記凹部のフィラー流出抑制効果が低減する、あるいは上記フィラー凝固部分の周縁部に切欠き部を形成することがなく、安定した良好な溶接を施工することができる。
【実施例2】
【0030】
次に、本発明の実施例2について説明する。図4は、実施例2に係るプラズマ溶接法を示すワーク溶接部の拡大断面図である。本実施例2では、上側の第1ワークW51に形成された凹部55が、例えば球面等の曲面の一部で形成されている。この場合も、上記実施例1と同様に、ワーク間の間隙のばらつきを抑制することができる。また、上記凹部55の側壁部57により、上記実施例1と同様に、溶融フィラーの流出抑制効果を得ることができる。尚、図4及びそれ以降の図では、プラズマアーク溶接により接合した場合のフィラー凝固部分(溶接肉盛部分)が点線で示されている。
【実施例3】
【0031】
図5は、本発明の実施例3に係るプラズマ溶接法を示すワーク溶接部の拡大断面図である。本実施例3では、上側の第1ワークW61に形成された凹部65の底部66に、前記底部66が当接する第2ワークW62の板状接合部の接合面部に沿った実質的に平坦な平坦部が形成されている。これにより、プラズマアーク溶接により上記ワークW61、W62を共に接合する際に、必要とされる溶接強度に応じた接合部分をより大きく確保することができ、また、側壁部が上記平坦部の周辺部に位置することにより、側壁部が溶融し難くなるので、溶融フィラーがワーク間に流出することがより抑制され、上記実施例1の効果をより有効に奏することができる。
【実施例4】
【0032】
次に、3つのワークを接合する実施例が図6〜9に示されている。3つのワークが共に重ね合わせられ、上側の第1ワークに形成された凹部にプラズマアークが照射され、上記凹部にフィラーが供給されることにより、3つのワークが共に接合される。
【0033】
図6は、本発明の実施例4に係るプラズマ溶接法を示すワーク溶接部の拡大断面図である。上記各実施例の場合と同様に、上側の第1ワークW101に凹部105が形成される。更に、上記第1ワークW101と最も下側の第3ワークW103との間に挟まれた第2ワークW102にも凹部205が形成される。上記凹部205の底部206は、第1ワークW101に形成された凹部105の底部106と接合部どうしが重ね合わせられるので、上記凹部205は上記凹部105より浅く形成され、上記底部206は上記底部106より広く形成されている。このような3つのワークW101、W102、W103が、図に示されるように、接合部において共に当接するように3枚重ねに重ね合わせられる。
プラズマアーク溶接によりこのワークどうしを接合する際には、上記実施例1と同様に、ワーク間の間隙のばらつきを抑制することができる。また、上記凹部105の側壁部107により、3つのワークの接合においても、上記実施例1と同様に、溶融フィラーの流出抑制効果を得ることができる。
【実施例5】
【0034】
図7は、本発明の実施例5に係るプラズマ溶接法を示すワーク溶接部の拡大断面図である。本実施例5では、上側の第1ワークW111に凹部115が形成され、最も下側の第3ワークW113にも凹部305が形成されている。上記凹部115、305は同形状であってもなくてもよい。上記凹部115の底部116と上記凹部305の底部306とが、第2ワークW112を挟み込むように重ね合わせられる。この状態で、3つのワークW111、W112、W113をプラズマアーク溶接により接合する際には、上記実施例4と同様に、ワーク間の間隙のばらつきを抑制し、また、溶融フィラーの流出抑制効果を得ることができる。
【実施例6】
【0035】
図8は、本発明の実施例6に係るプラズマ溶接法を示すワーク溶接部の拡大断面図である。本実施例6は、図に示されるように、下側の2つの板状のワーク、すなわち、第2ワークW122と第3ワークW123とが予めスポット溶接で接合されている。上記ワークW122、W123に、更にもう1つの板状のワーク(第1ワークW121)をこのスポット溶接部位9において接合する。第1ワークW121に形成された凹部125の底部126が、上記スポット溶接部分9上において第2ワークW122の上面に重ね合わせられる。この状態で、3つのワークW121、W122、W123をプラズマアーク溶接により接合する際には、上記実施例4と同様の効果を得ることができる。
【実施例7】
【0036】
図9は、本発明の実施例7に係るプラズマ溶接法を示すワーク溶接部の拡大断面図である。本実施例7では、上側の第1ワークW131とその下側の第2ワークW132にそれぞれ凹部135、215が形成されている。上記凹部135、215を適切にずらせて配置し、上記凹部135の底部136を第2ワークW132の平板状の上面に重ね合わせる。この状態で、上記ワークW131、W132を第3ワークW133上に重ね合わせることにより、第1ワークW131と第2ワークW132との間隙および第2ワークW132と第3ワークW133との間隙をそれぞれ所定間隔に設定することができる。この状態で、実施例4の場合と同様に、第1ワーク側からプラズマアーク溶接を行うことにより、3枚のワークどうしを接合することができる。
【0037】
また、上記各実施例においては、接合されるワークは、接合部以外では一定の間隙を有し得るので、例えば自動車の車体などにおいては、ワーク溶接後の電着塗装工程で、電着液が上記ワーク間に入り込むことができ、耐食性向上の効果を得ることもできる。
【0038】
本発明に係る上記実施例のいずれにおいても、第1ワークに形成される凹部が平面視で略円形のスポット形状で示されているが、これに限定されるものではなく、例えば、平面視で長円形状など他の形状であってもよい。また、上記各実施例では、全体が板状であるワークに関して記載されているが、接合部のみが板状であるワークについても適用可能である。さらに、板状接合部に設けた上記凹部は、プレス成形により形成されているが、これに限定されるものではなく、他の加工方法も適用できる。
【0039】
以上のように、本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明方法は、それぞれ板状の接合部を有する複数のワークどうしをプラズマアークを用いて接合するプラズマ溶接方法であり、例えば自動車の車体パネルなどの溶接に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施例1に係るプラズマ溶接方法を示した説明図である。
【図2A】ワーク間の間隙および凹部深さを模式的に示した説明図である。
【図2B】従来のプラズマ溶接法のワーク間の間隙のばらつきを示したグラフである。
【図2C】本発明の実施例1に係るワーク間の間隙のばらつきを示したグラフである。
【図3A】板状ワークの溶接後の接合部を示した断面説明図である。
【図3B】凹部の開口部に対してフィラー凝固部分が大き過ぎる場合を示した断面説明図である。
【図3C】凹部の開口部に対してフィラー凝固部分が小さ過ぎる場合を示した断面説明図である。
【図4】本発明の実施例2を示したワーク溶接部の断面説明図である。
【図5】本発明の実施例3を示したワーク溶接部の断面説明図である。
【図6】本発明の実施例4を示したワーク溶接部の断面説明図である。
【図7】本発明の実施例5を示したワーク溶接部の断面説明図である。
【図8】本発明の実施例6を示したワーク溶接部の断面説明図である。
【図9】本発明の実施例7を示したワーク溶接部の断面説明図である。
【図10A】従来のプラズマ溶接法を模式的に示した説明図である。
【図10B】従来のプラズマ溶接法を模式的に示したもう1つの説明図である。
【符号の説明】
【0042】
1 アーク
2 溶接トーチ
3 フィラー凝固部分
5、15、25、55、65、105、115、125、135 凹部
6、16、66、106、116、126、136 底部
7、17、57、107、117 側壁部
W1、W11、W21、W51、W61、W101、W111、W121、W131 第1ワーク
W2、W12、W22、W52、W62、W102、W112、W122、W132 第2ワーク
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のワークをプラズマアークを用いて接合するプラズマ溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車の車体は、周知のように、非常に多くの車体構成部材が、溶接等により接合されて組み立てられている。このような車体構成部材の溶接には、スポット溶接が多用されている。しかし、スポット溶接法は、接合される部材を共に電極により挟み込む必要があるので、閉断面形状を有する部分などについては、実質的に適用不可能な場合が生じる。このようなスポット溶接が適用できない部分に対しては、アーク溶接が一般に用いられている。
【0003】
アーク溶接を、例えば重ね継手部に施工する場合には、一般に、栓溶接が行われる。栓溶接により2つのワークを接合する場合には、先ず接合されるワークの一方の接合部に予め穴加工を行う。その後に、接合されるワークどうしを重ね合わせて、前記穴を埋めるようにアーク溶接が行われることにより、ワークどうしが接合される。このように、アーク溶接法を適用した栓溶接では、上述のようにワークの接合部に予め穴加工を行う必要があるので、それだけ工数が掛かることになる。
【0004】
ところで、アーク溶接の一種であるプラズマアーク溶接は、一般のアーク溶接に比べると、より高温のアークを利用している。プラズマアーク溶接で重ね継手部を接合する場合には、接合されるワークの板状の接合部を重ね合わせ、その一方のワーク側よりプラズマアークを照射することで、穿孔を行うことができる。そして、その後に上記孔部にフィラーが供給されてワークどうしが接合される。このように、プラズマアーク溶接法を用いれば、上述の栓溶接のように、ワークの接合部に予め穴加工を行う必要性がなくなり、工数を削減することができる。従って、例えば電極が配置できない閉断面形状を有する重ね継手部などに、プラズマアーク溶接を適用することにより、効率の良い接合作業を行うことができる。例えば、特許文献1には自動車用ドアパネルの重ね合わせ部をプラズマ溶接により接合するようにした構成が開示されている。
【特許文献1】特開平11−105742号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、プラズマアーク溶接を適用する場合でも、板状ワークの接合部どうしを重ね合わせて接合する際に、両接合部間の間隙が大き過ぎる場合には、溶融フィラーがワーク間に流出し易いので、強度不足や外観不良が生じ得る。また、この流出したフィラー部分が腐食起点ともなり得る。一方、両接合部間の間隙が小さ過ぎる場合には、供給されるフィラーがワーク上に盛り上がり、余盛高さが過大となるので、他部品との干渉が生じたり、外観不良を招く場合もある。
【0006】
図10A及び図10Bは共に、従来のプラズマアーク溶接法を模式的に示した説明図である。所定間隔を設けて互いに平行に配設された2つの平板状ワークW1’、W2’をプラズマアーク溶接により接合する際には、まず、上側の第1ワークW1’の接合部にプラズマアークが直接に照射されて穿孔が行われ、その後に、上記孔部にフィラーが供給されて、上記第1ワークW1’と下側の第2ワークW2’とが接合されている。図10Aに示されるように、第1ワークW1’と第2ワークW2’の間隙が大き過ぎる場合には、ワークW1’、W2’間に溶融フィラーが流出するので、溶接肉盛部分3でのフィラーが不足して溶接が不完全となり、強度不足や外観不良が生じるおそれがある。また、流出したフィラーが、ワークW1’、W2’間にフィラー流出部4を形成して残存することとなり、このフィラー流出部4の凸凹形状が腐食起点ともなり得る。
【0007】
一方、図10Bに示されるように、第1ワークW1’と第2ワークW2’の間隙が小さ過ぎる場合には、溶接肉盛部分3が第1ワークW1’上に過剰に盛り上がり、余盛高さが過大となって、他部品との干渉が生じたり、外観不良を招く場合がある。
【0008】
前述のように、プラズマアーク溶接を重ね継手部に施工する場合、ワーク間の間隙の大きさ及びそのばらつきが、強度不足、外観不良等の溶接欠陥を引き起こし、溶接部の信頼性を低下させる。尚、このようなワーク間の間隙のばらつきは、多くの場合、各ワークの寸法ばらつき等によりもたらされるものである。
【0009】
本発明は、上記技術的課題に鑑みてなされたもので、それぞれ板状の接合部を有する複数のワークを、プラズマアーク溶接にて接合するに際して、効率良く、且つ、安定して良好に接合できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の請求項1に係る発明は、それぞれ板状の接合部を有する複数のワークどうしをプラズマアークを用いて接合するプラズマ溶接方法であって、前記プラズマアークが直接に照射される板状接合部を有し、該板状接合部にプラズマアーク照射方向へ窪む凹部が形成された第1ワークを用意するステップと、前記凹部の底部が第2ワークの板状接合部に所定の位置決め状態で当接するように少なくとも前記第1ワークと第2ワークの板状接合部どうしを重ね合わせるステップと、前記重ね合わせ状態で前記凹部に向かってプラズマアークを照射し、前記凹部内にフィラーを供給して該凹部を埋めるステップと、を備えたことを特徴としたものである。
【0011】
また、本願請求項2に係る発明は、請求項1記載のプラズマ溶接方法において、前記凹部の側壁部が残存するように、前記凹部を前記フィラーで埋めることを特徴としたものである。
【0012】
更に、本願請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載のプラズマ溶接方法において、前記凹部は平面視で実質的に円形に沿うように形成されており、前記凹部の開口部の溶接前の直径をDとし、溶接により前記凹部を埋めたフィラー部分の直径をDmとすれば、不等式:0.7Dm<D<0.9Dmを満足するように、前記凹部およびフィラー供給量を設定する、ことを特徴としたものである。
ここに、上記直径Dの範囲を0.7Dm<D<0.9Dmとしたのは、直径Dが0.7Dm以下の場合には、プラズマアーク溶接によりワークどうしを接合する際に、予め形成された凹部の側壁部が溶融してワーク間に溶融フィラーが流出するおそれがあり、上記凹部のフィラー流出抑制効果が低減するからであり、一方、直径Dが0.9Dm以上の場合には、溶接肉盛部分の周縁部に切欠き部が形成され、これが応力集中源や腐食起点となるおそれがあるなど、良好な溶接部を得ることが難しいためである。
【0013】
また更に、本願請求項4に係る発明は、請求項1〜3の何れか一に記載のプラズマ溶接方法において、前記凹部の前記底部に、該底部が当接する前記第2ワークの板状接合部の接合面部に沿った実質的に平坦な平坦部が形成されていることを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0014】
本願の請求項1の発明によれば、第1ワークの板状接合部に凹部が形成され、上記凹部の底部が、第2ワークの板状接合部に所定の位置決め状態で当接するように少なくとも前記第1ワークと第2ワークの板状接合部どうしを重ね合わせるので、上記ワーク間の間隙の大きさ及びばらつきを抑制することができる。従って、プラズマアーク溶接をこの重ね継手部に施工する際には、溶接強度、余盛サイズ等の溶接品質を安定化させることができる。
更に、第1ワークに形成された凹部の側壁部により、溶融フィラーがワーク間に流出することが抑制され、溶融フィラーを上記凹部内に容易に且つ確実に埋めることができ、ワークどうしを良好に接合することができる。
【0015】
また、本願請求項2の発明によれば、基本的には、上記請求項1の発明と同様の効果を奏することができる。特に、第1ワークに形成された凹部の側壁部が残存するように、上記凹部を溶融フィラーで埋めるので、上記フィラーがワーク間に流出することを確実に防止することができ、ワークどうしをより良好に接合することができる。特に、ワーク間にフィラー流出部を形成しないので腐食起点の形成を抑制することができる。
【0016】
更に、本願請求項3の発明によれば、基本的には、上記請求項1又は2の発明と同様の効果を奏することができる。特に、第1ワークに形成された凹部の開口部の直径Dと溶接により上記凹部を埋めたフィラー部分の直径Dmとが、不等式:0.7Dm<D<0.9Dmを満足するように設定されるので、プラズマアーク溶接によりワークどうしを接合する際に、上記凹部の側壁部が溶融してワーク間に溶融フィラーが流出することを抑制でき、且つ、溶接肉盛部分の周縁部に切欠き部が形成されることを防止でき、安定した良好な溶接を施工することができる。
【0017】
また更に、本願請求項4の発明によれば、基本的には、請求項1−3のいずれか一に係る発明と同様の効果を奏することができる。特に、第1ワークに形成された凹部の底部に、該底部が当接する第2ワークの板状接合部の接合面部に沿った実質的に平坦な平坦部が形成されているので、プラズマアーク溶接によりワークどうしを接合する際に、接合部分をより大きく確保することができ、また、側壁部が上記平坦部の周辺部に位置することにより、側壁部が溶融し難くなるので、溶融フィラーがワーク間に流出することがより抑制され、上記効果をより有効に奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明の実施例1に係るプラズマ溶接方法を示すワーク溶接部の拡大断面図である。この図に示すように、本実施例1では、上側の板状のワーク(第1ワーク)W1には、プレス成形により予め形成された凹部5が所定位置に設けられている。該凹部5は、底部6と側壁部7とで構成されており、上記底部6が下側の板状のワーク(第2ワーク)W2の上面に所定の位置決め状態で当接するように、第1ワークW1が第2ワークW2に重ね合わせられる。
この状態で、プラズマアークの照射方向が上記凹部5の窪み方向を略指向するように、上記凹部5の上方に溶接トーチ2を配置する。そして、この溶接トーチ2から凹部5内に向かってプラズマアーク1を照射することにより、上記底部6においてアーク照射部分が穿孔される。そして、その後に、上記凹部5内に溶融フィラーが供給されて第1ワークW1と第2ワークW2とが接合される。
【0020】
図2Aは、接合されるべき第1ワークW11と第2ワークW12との間隙および凹部深さを模式的に示した断面説明図である。ここでは、図に示されるように、板状の第1ワークW11の上面から上記第1ワークW11に形成された凹部15の底部16の上面までの高さを凹部深さHとし、上記凹部15の底部16の下面と第2ワークW12の上面との間隙をGtとし、第1ワークW11の下面と第2ワークW12の上面との間隙をGnとする。
従って、従来のプラズマ溶接法では、接合部におけるワーク間の間隙はGnで表される。一方、本発明に係るプラズマ溶接法では、第1ワークW11に凹部15が形成されているので、接合部におけるワーク間の間隙はGtで表されることとなる。この間隙Gtは、次式:Gt=Gn−Hで表示される。
【0021】
図2Bは、従来のプラズマ溶接法のように、2つの平板状ワークを接合する場合の接合部におけるワーク間の間隙のばらつきを示したグラフである。図2Bのグラフでは、接合部におけるワーク間の間隙Gnを横軸にとり、度数Nを縦軸にとって表示している。この図に示されるように、従来のプラズマ溶接法では、接合部におけるワーク間の間隙Gnのばらつきは、設定値G0をピークにして広いばらつき幅E1を有することになる。
【0022】
しかし、第1ワークに深さHの凹部15を設け、特に、この凹部15の深さHを、ワーク間の間隙Gnのばらつきのピーク値G0よりも大きく設定することにより、ばらつき幅を小さくする(ばらつき幅:E2)ことができる。
【0023】
図2Cは、本発明の実施例1に係るワーク間の間隙のばらつきを示したグラフである。この図2Cのグラフでは、接合部におけるワーク間の間隙Gtを横軸にとり、度数Nを縦軸にとって表示している。第1ワークW11に深さHの凹部15を設け、特に、この凹部15を寸法精度の高いプレス成形で成形することにより、上記ワーク間の間隙Gnのばらつきに比して、接合部におけるワーク間の間隙GtのばらつきE3を著しく抑制することができる。
【0024】
従って、この状態で、プラズマアーク溶接によりワークどうしを接合する際には、溶接強度、余盛サイズ等の溶接品質を安定化させることができる。また、上記凹部15の側壁部17により、溶融フィラーがワーク間に流出することが抑制され、溶融フィラーを上記凹部15内に容易に且つ確実に埋めることができ、ワークどうしを良好に接合することができる。
また、プラズマアークを照射する側の第1ワークW11の接合部に上記凹部15が形成されているので、溶接施工時の位置決めを別途に行う必要もない。
【0025】
更に、上記凹部15の側壁部17が残存するように、上記凹部15を溶融フィラーで埋めることにより、上記溶融フィラーがワーク間に流出することを確実に防止することができ、ワークどうしをより良好に接合することができる。特に、ワーク間にフィラー流出部を形成しないので腐食起点の形成を抑制することができる。
【0026】
図3Aは、2つの板状のワークを溶接した後の接合部を示した断面説明図である。この図3Aに示されるように、上側の第1ワークW21には、凹部25が形成されており、溶融フィラーが上記凹部25を埋めるように供給されて、上記第1ワークW21と第2ワークW22とが接合されている。ここで、上記凹部25の開口部の直径をDとし、溶接により上記凹部25を埋めたフィラー凝固部分3(溶接肉盛部分)の直径をDmとする。
【0027】
図3Bは、上記開口部の直径Dに対して上記フィラー凝固部分の直径Dmが大き過ぎる場合を示した断面説明図である。種々の実験を行った結果、特に、上記凹部35の開口部の直径Dと上記フィラー凝固部分3の直径Dmとが、Dが0.7Dm以下の場合には、プラズマアーク溶接によりワークどうしを接合する際に、予め形成された凹部35の側壁部37が溶融してワーク間に溶融フィラーが流出し易く、上記凹部のフィラー流出抑制効果が低減することが判った。
【0028】
図3Cは、上記開口部の直径Dに対して上記フィラー凝固部分の直径Dmが小さ過ぎる場合を示した断面説明図である。特に、上記凹部45の開口部の直径Dと上記フィラー凝固部分3の直径Dmとが、Dが0.9Dm以上の場合には、プラズマアーク溶接によりワークどうしを接合する際に、フィラー凝固部分3の周縁部に切欠き部8が形成され易いことが判った。
【0029】
従って、上記開口部の直径Dと溶接後の上記フィラー凝固部分3の直径Dmとが、0.7Dm<D<0.9Dmを満たすことが好ましく、この場合には、安定した良好な溶接を行うことができる。従って、このように、前記凹部およびフィラー供給量を設定することにより、上記凹部の側壁部が溶融してワーク間に溶融フィラーが流出し、上記凹部のフィラー流出抑制効果が低減する、あるいは上記フィラー凝固部分の周縁部に切欠き部を形成することがなく、安定した良好な溶接を施工することができる。
【実施例2】
【0030】
次に、本発明の実施例2について説明する。図4は、実施例2に係るプラズマ溶接法を示すワーク溶接部の拡大断面図である。本実施例2では、上側の第1ワークW51に形成された凹部55が、例えば球面等の曲面の一部で形成されている。この場合も、上記実施例1と同様に、ワーク間の間隙のばらつきを抑制することができる。また、上記凹部55の側壁部57により、上記実施例1と同様に、溶融フィラーの流出抑制効果を得ることができる。尚、図4及びそれ以降の図では、プラズマアーク溶接により接合した場合のフィラー凝固部分(溶接肉盛部分)が点線で示されている。
【実施例3】
【0031】
図5は、本発明の実施例3に係るプラズマ溶接法を示すワーク溶接部の拡大断面図である。本実施例3では、上側の第1ワークW61に形成された凹部65の底部66に、前記底部66が当接する第2ワークW62の板状接合部の接合面部に沿った実質的に平坦な平坦部が形成されている。これにより、プラズマアーク溶接により上記ワークW61、W62を共に接合する際に、必要とされる溶接強度に応じた接合部分をより大きく確保することができ、また、側壁部が上記平坦部の周辺部に位置することにより、側壁部が溶融し難くなるので、溶融フィラーがワーク間に流出することがより抑制され、上記実施例1の効果をより有効に奏することができる。
【実施例4】
【0032】
次に、3つのワークを接合する実施例が図6〜9に示されている。3つのワークが共に重ね合わせられ、上側の第1ワークに形成された凹部にプラズマアークが照射され、上記凹部にフィラーが供給されることにより、3つのワークが共に接合される。
【0033】
図6は、本発明の実施例4に係るプラズマ溶接法を示すワーク溶接部の拡大断面図である。上記各実施例の場合と同様に、上側の第1ワークW101に凹部105が形成される。更に、上記第1ワークW101と最も下側の第3ワークW103との間に挟まれた第2ワークW102にも凹部205が形成される。上記凹部205の底部206は、第1ワークW101に形成された凹部105の底部106と接合部どうしが重ね合わせられるので、上記凹部205は上記凹部105より浅く形成され、上記底部206は上記底部106より広く形成されている。このような3つのワークW101、W102、W103が、図に示されるように、接合部において共に当接するように3枚重ねに重ね合わせられる。
プラズマアーク溶接によりこのワークどうしを接合する際には、上記実施例1と同様に、ワーク間の間隙のばらつきを抑制することができる。また、上記凹部105の側壁部107により、3つのワークの接合においても、上記実施例1と同様に、溶融フィラーの流出抑制効果を得ることができる。
【実施例5】
【0034】
図7は、本発明の実施例5に係るプラズマ溶接法を示すワーク溶接部の拡大断面図である。本実施例5では、上側の第1ワークW111に凹部115が形成され、最も下側の第3ワークW113にも凹部305が形成されている。上記凹部115、305は同形状であってもなくてもよい。上記凹部115の底部116と上記凹部305の底部306とが、第2ワークW112を挟み込むように重ね合わせられる。この状態で、3つのワークW111、W112、W113をプラズマアーク溶接により接合する際には、上記実施例4と同様に、ワーク間の間隙のばらつきを抑制し、また、溶融フィラーの流出抑制効果を得ることができる。
【実施例6】
【0035】
図8は、本発明の実施例6に係るプラズマ溶接法を示すワーク溶接部の拡大断面図である。本実施例6は、図に示されるように、下側の2つの板状のワーク、すなわち、第2ワークW122と第3ワークW123とが予めスポット溶接で接合されている。上記ワークW122、W123に、更にもう1つの板状のワーク(第1ワークW121)をこのスポット溶接部位9において接合する。第1ワークW121に形成された凹部125の底部126が、上記スポット溶接部分9上において第2ワークW122の上面に重ね合わせられる。この状態で、3つのワークW121、W122、W123をプラズマアーク溶接により接合する際には、上記実施例4と同様の効果を得ることができる。
【実施例7】
【0036】
図9は、本発明の実施例7に係るプラズマ溶接法を示すワーク溶接部の拡大断面図である。本実施例7では、上側の第1ワークW131とその下側の第2ワークW132にそれぞれ凹部135、215が形成されている。上記凹部135、215を適切にずらせて配置し、上記凹部135の底部136を第2ワークW132の平板状の上面に重ね合わせる。この状態で、上記ワークW131、W132を第3ワークW133上に重ね合わせることにより、第1ワークW131と第2ワークW132との間隙および第2ワークW132と第3ワークW133との間隙をそれぞれ所定間隔に設定することができる。この状態で、実施例4の場合と同様に、第1ワーク側からプラズマアーク溶接を行うことにより、3枚のワークどうしを接合することができる。
【0037】
また、上記各実施例においては、接合されるワークは、接合部以外では一定の間隙を有し得るので、例えば自動車の車体などにおいては、ワーク溶接後の電着塗装工程で、電着液が上記ワーク間に入り込むことができ、耐食性向上の効果を得ることもできる。
【0038】
本発明に係る上記実施例のいずれにおいても、第1ワークに形成される凹部が平面視で略円形のスポット形状で示されているが、これに限定されるものではなく、例えば、平面視で長円形状など他の形状であってもよい。また、上記各実施例では、全体が板状であるワークに関して記載されているが、接合部のみが板状であるワークについても適用可能である。さらに、板状接合部に設けた上記凹部は、プレス成形により形成されているが、これに限定されるものではなく、他の加工方法も適用できる。
【0039】
以上のように、本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明方法は、それぞれ板状の接合部を有する複数のワークどうしをプラズマアークを用いて接合するプラズマ溶接方法であり、例えば自動車の車体パネルなどの溶接に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施例1に係るプラズマ溶接方法を示した説明図である。
【図2A】ワーク間の間隙および凹部深さを模式的に示した説明図である。
【図2B】従来のプラズマ溶接法のワーク間の間隙のばらつきを示したグラフである。
【図2C】本発明の実施例1に係るワーク間の間隙のばらつきを示したグラフである。
【図3A】板状ワークの溶接後の接合部を示した断面説明図である。
【図3B】凹部の開口部に対してフィラー凝固部分が大き過ぎる場合を示した断面説明図である。
【図3C】凹部の開口部に対してフィラー凝固部分が小さ過ぎる場合を示した断面説明図である。
【図4】本発明の実施例2を示したワーク溶接部の断面説明図である。
【図5】本発明の実施例3を示したワーク溶接部の断面説明図である。
【図6】本発明の実施例4を示したワーク溶接部の断面説明図である。
【図7】本発明の実施例5を示したワーク溶接部の断面説明図である。
【図8】本発明の実施例6を示したワーク溶接部の断面説明図である。
【図9】本発明の実施例7を示したワーク溶接部の断面説明図である。
【図10A】従来のプラズマ溶接法を模式的に示した説明図である。
【図10B】従来のプラズマ溶接法を模式的に示したもう1つの説明図である。
【符号の説明】
【0042】
1 アーク
2 溶接トーチ
3 フィラー凝固部分
5、15、25、55、65、105、115、125、135 凹部
6、16、66、106、116、126、136 底部
7、17、57、107、117 側壁部
W1、W11、W21、W51、W61、W101、W111、W121、W131 第1ワーク
W2、W12、W22、W52、W62、W102、W112、W122、W132 第2ワーク
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ板状の接合部を有する複数のワークどうしをプラズマアークを用いて接合するプラズマ溶接方法であって、
前記プラズマアークが直接に照射される板状接合部を有し、該板状接合部にプラズマアーク照射方向へ窪む凹部が形成された第1ワークを用意するステップと、
前記凹部の底部が第2ワークの板状接合部に所定の位置決め状態で当接するように少なくとも前記第1ワークと第2ワークの板状接合部どうしを重ね合わせるステップと、
前記重ね合わせ状態で前記凹部に向かってプラズマアークを照射し、前記凹部内にフィラーを供給して該凹部を埋めるステップと、
を備えたことを特徴とするプラズマ溶接方法。
【請求項2】
請求項1記載のプラズマ溶接方法において、
前記凹部の側壁部が残存するように、前記凹部を前記フィラーで埋めることを特徴とするプラズマ溶接方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のプラズマ溶接方法において、
前記凹部は平面視で実質的に円形に沿うように形成されており、
前記凹部の開口部の溶接前の直径をDとし、溶接により前記凹部を埋めたフィラー部分の直径をDmとすれば、不等式:0.7Dm<D<0.9Dmを満足するように、前記凹部およびフィラー供給量を設定する、
ことを特徴とするプラズマ溶接方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一に記載のプラズマ溶接方法において、
前記凹部の前記底部に、該底部が当接する前記第2ワークの板状接合部の接合面部に沿った実質的に平坦な平坦部が形成されていることを特徴とするプラズマ溶接方法。
【請求項1】
それぞれ板状の接合部を有する複数のワークどうしをプラズマアークを用いて接合するプラズマ溶接方法であって、
前記プラズマアークが直接に照射される板状接合部を有し、該板状接合部にプラズマアーク照射方向へ窪む凹部が形成された第1ワークを用意するステップと、
前記凹部の底部が第2ワークの板状接合部に所定の位置決め状態で当接するように少なくとも前記第1ワークと第2ワークの板状接合部どうしを重ね合わせるステップと、
前記重ね合わせ状態で前記凹部に向かってプラズマアークを照射し、前記凹部内にフィラーを供給して該凹部を埋めるステップと、
を備えたことを特徴とするプラズマ溶接方法。
【請求項2】
請求項1記載のプラズマ溶接方法において、
前記凹部の側壁部が残存するように、前記凹部を前記フィラーで埋めることを特徴とするプラズマ溶接方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のプラズマ溶接方法において、
前記凹部は平面視で実質的に円形に沿うように形成されており、
前記凹部の開口部の溶接前の直径をDとし、溶接により前記凹部を埋めたフィラー部分の直径をDmとすれば、不等式:0.7Dm<D<0.9Dmを満足するように、前記凹部およびフィラー供給量を設定する、
ことを特徴とするプラズマ溶接方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一に記載のプラズマ溶接方法において、
前記凹部の前記底部に、該底部が当接する前記第2ワークの板状接合部の接合面部に沿った実質的に平坦な平坦部が形成されていることを特徴とするプラズマ溶接方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【公開番号】特開2006−35249(P2006−35249A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−217092(P2004−217092)
【出願日】平成16年7月26日(2004.7.26)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月26日(2004.7.26)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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