説明

プランジャーの表面粗さ調整装置

【課題】切削部材の交換が行いやすいプランジャーの表面粗さ調整装置を提供すること。
【解決手段】プランジャー3の外周面を囲んで配置され、そのプランジャー3の軸方向への移動を阻止される回転部材30と、この回転部材30の内側に設けられプランジャー3に当接する切削部材50と、回転部材30をプランジャー3周りに回転駆動可能な駆動手段とを備えていて、駆動手段による回転部材30の回転駆動に伴って、切削部材50がプランジャー3の外周面を切削することにより、その外周面の表面粗さを大きくするプランジャー表面粗さ調整装置において、切削部材50が回転部材30に対し、面ファスナー53により着脱可能に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧エレベータを駆動する油圧ジャッキのプランジャーの表面粗さの調整に好適なプランジャーの表面粗さ調整装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧エレベータは、乗かごを駆動する油圧ジャッキを備えている。この油圧ジャッキはシリンダチューブと、このシリンダチューブに対し往復運動するプランジャーとを有する。プランジャーはシリンダチューブに設けられたパッキンに対して摺動するものであるから、プランジャーの外周面はパッキンにより経年的に磨かれて鏡面状になる。鏡面状になったプランジャーの外周面には油膜が形成されにくく、パッキンに対するプランジャーの摺動の潤滑が十分になされないため、プランジャーはびびり振動を生じさせながらパッキンに対して摺動することになる。そのびびり振動は、プランジャーの周囲の機材との共振により、乗りかごを振動させ、乗かご内の乗客に不快感や不安感を与える。
【0003】
そこで、鏡面状になったプランジャーの外周面を、油膜が形成されやすい表面粗さに調整する必要がある。従来、プランジャーの外周面を切削して表面粗さを大きくするプランジャーの表面粗さ調整装置があり、例えば特許文献1に示されている。
【0004】
特許文献1に示されているプランジャーの表面粗さ調整装置は、プランジャーの外周面を囲んで配置され、そのプランジャーの軸方向への移動を阻止される回転部材と、プランジャーの外周面に対向する回転部材の内側に設けられプランジャーに当接する切削部材と、回転部材を前記プランジャー周りに回転駆動可能な駆動手段とを備えていて、駆動手段による回転部材の回転駆動に伴って切削部材がプランジャーの外周面を切削し、その外周面の表面粗さを大きくするようになっている。
【0005】
切削部材は、取付部材を介して回転部材に設けられている。その取付部材は、回転部材の内側に配置される上面視円弧状の取付板部と、板部の外周面から突出した雄ねじからなるロッド部とが一体に形成されたものである。板部の内周面にシート状の切削部材が取り付けられる。ロッド部は、回転部材に形成された貫通孔に挿通されて回転部材を内側から外側に貫通し、回転部材から外側に突出したロッド部にはナットが螺合する。
【特許文献1】特開2005−169551号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した特許文献1に示されているプランジャーの表面粗さ調整装置では、磨滅した切削部材を交換する際、切削部材を取付部材とともに交換する必要があった。つまり、ナットを取付部材のロッド部から取り外して、磨滅した切削部材とともに取付部材を回転部材から取り除き、新しい切削部材が取り付けられた別の取付部材を回転部材に取り付ける、という煩雑な作業が必要である。
【0007】
本発明は、前述の実状を考慮してなされたものであり、その目的は、切削部材の交換が行いやすいプランジャーの表面粗さ調整装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の目的を達成するために、本発明は次のように構成されている。
【0009】
〔1〕本発明は、プランジャーの外周面を囲んで配置され、そのプランジャーの軸方向への移動を規制される回転部材と、この回転部材の内側に設けられ前記プランジャーに当接する切削部材と、前記回転部材を前記プランジャー周りに回転駆動可能な駆動手段とを備えていて、前記駆動手段による前記回転部材の回転駆動に伴って、前記切削部材が前記プランジャーの外周面を切削することにより、その外周面の表面粗さを大きくするプランジャー表面粗さ調整装置において、前記切削部材が前記回転部材に対し、面ファスナーにより着脱可能に設けられていることを特徴とする。
【0010】
このように構成された本発明によれば、切削部材が面ファスナーにより回転部材に着脱可能に設けられているので、回転部材に対する切削部材の取付・取外しが容易であり、したがって切削部材の交換を行いやすくすることができる。
【0011】
〔2〕本発明は、「〔1〕」に記載の発明において、前記駆動手段が前記回転部材の駆動源となる電動モータを有し、この電動モータの回転速度を制御する制御装置と、この制御装置および前記電動モータの両方に対する電源とが一体化されて前記電動モータに付設されていることを特徴とするものであってもよい。
【0012】
このように構成された本発明によれば、電動モータの回転速度を制御装置によって調節できるので、プランジャーの軸線に対する切削角度を調節することができる。また、制御装置と電源とが一体化されて電動モータに付設されているので、現場の周辺において電源を確保する作業を行わずに済む。
【0013】
〔3〕本発明は、「〔1〕」に記載の発明において、前記切削部材が前記回転部材の内側の面に対する近接・離間方向に移動可能に設けられているとともに、前記回転部材の外側に、前記近接・離間方向における前記切削部材の位置の調整を可能にする調整操作部が設けられていることを特徴とするものであってもよい。
【0014】
このように構成された本発明によれば、プランジャーに対する切削部材の押付圧力の調整を、回転部材の外側において調整操作部を操作することによって行うことができる。つまり、回転部材および切削部材をプランジャーの外周側に配置した状態で、プランジャーの外周面に対する切削部材の押付圧力を調整することができる。
【0015】
〔4〕本発明は、「〔1〕」に記載の発明において、前記駆動手段が、前記回転部材の駆動源となるモータと、このモータの出力軸に取り付けられたスプロケットとを有し、前記回転部材が、その回転中心と同軸の円筒形に形成された円筒部と、この円筒部にその周方向に沿って取り付けられ前記スプロケットに噛み合って配置されるチェーンとを有し、前記回転部材全体が、前記プランジャーの外周面の半周部分に対向して配置される第1ピースと、この第1ピースが配置されない前記外周面の残りの半周部分に対向する第2ピースとに分離可能に構成されていることを特徴とするものであてもよい。
【0016】
このように構成された本発明によれば、モータの出力をスプロケットからチェーンに伝達させることによって回転部材を回転駆動することができる。また、プランジャーの外周面を囲んだ状態になるように回転部材を配置する際、回転部材を第1,第2ピースに分離し、これら第1,第2ピースをそれぞれ個別にプランジャーの外周面の半周部分に対向させて配置することができ、プランジャーの外周側への回転部材の配置が行いやすい。
【0017】
〔5〕本発明は、「〔1〕」に記載の発明において、前記切削部材が、前記回転部材の回転中心線周りに3個以上、等間隔で配置されていることを特徴とするものであってもよい。
【0018】
このように構成された本発明によれば、プランジャー周りの回転部材の回転中に、プランジャーの外周面に対する切削部材の押付圧力を安定させることができ、かつ、回転部材の中心のブレを低減することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、前述したように、切削部材が面ファスナーにより回転部材に着脱可能に設けられているので、回転部材に対する切削部材の取付・取外しが容易であり、したがって切削部材の交換を行いやすくすることができる。これにより、プランジャーの表面粗さ調整装置の取り扱いやすさを向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の一実施形態に係るプランジャーの表面粗さ調整装置について図1〜7を用いて説明する。図1は本発明の一実施形態に係るプランジャーの表面粗さ調整装置が油圧シリンダに装着された状態を示す斜視図である。図2は図1に示した回転部材および切削部材の油圧シリンダに対する取付構造を簡略して示す図である。図3は図1に示した電動モータの油圧シリンダに対する取付構造を簡略して示す図である。図4は図1に示した回転部材を第1,第2ピースに分離した状態を示す斜視図である。図5は図1に示した切削部材および取付部材を示す上面図である。図6は図1に示したプランジャーの表面粗さ調整装置を用いて、プランジャーを上昇させながらプランジャーの外周面を切削する様子を簡略して示す図である。図7は図5に示した切削の終了後に、プランジャーを下降させながらプランジャーの外周面を切削する様子を示す図である。
【0021】
油圧エレベータでは、乗かごを駆動する油圧ジャッキが昇降路内に立設されている。図1,2において、1が油圧ジャッキに備えられた油圧シリンダである。この油圧シリンダ1は、シリンダチューブ2と、このシリンダチューブ2に対し上下に往復運動するプランジャー3とを有する。シリンダチューブ2の上端には、径方向に広がったグランド部2aが形成されている。このグランド部2aの上面からは、プランジャー3周りに等間隔で並んだ複数、例えば6本のグランドボルト4等(図1では1つのみ図示)が突出している。
【0022】
図1,2に示すように、本実施形態に係るプランジャーの表面粗さの調整装置10は、一対の半円環状のスクレーパ11等(一方のみ図示)を有する。これら一対のスクレーパ11等は全体として円環を形成し、プランジャー3の外周面を囲んでその外周面に当接して配置されている。また、スクレーパ11は、プランジャー3の外周面を囲んで配置されている一対の半円環状の保持部材12A,12Bのうちの保持部材12Aと、プランジャー3の外周面を囲んで配置されている一対の半円環状の押さえ部材13A,13Bのうちの押さえ部材13Aと上下方向において挟持されている。保持部材12Aの上面視における形状・寸法と、押さえ部材13Aの上面視における形状・寸法とは、ほぼ同じに設定されている。図示しない他方のスクレーパも、一方のスクレーパ11と同様にして、保持部材12Bと押さえ部材13Bとの間に挟持されている。保持部材12Bと押さえ部材13Bとの形状・寸法の関係も、保持部材12Aと押さえ部材13Aとの形状・寸法関係と同様に設定されている。
【0023】
グランドボルト4の両隣の2つのグランドボルトのそれぞれには、取付ナット14,15のそれぞれが螺合している。これら2つの取付ナット14,15上には、保持部材12Aと押さえ部材13Aが重ね合わされた状態で配置されている。保持部材12Aの周方向における両端部には、図示しない貫通孔が形成されている。押さえ部材13Aの周方向における両端部にも、貫通孔が形成されている。押さえ部材13Aの一方の貫通孔、保持部材12Aの一方の貫通孔、取付ナット14のネジ孔は連通している。押さえ部材13Aの他方の貫通孔、保持部材12Aの他方の貫通孔、取付ナット15のネジ孔も連通している。押さえ部材13Aの一方の貫通孔と保持部材12Aの一方の貫通孔には取付ボルト16が挿通されていて、この取付ボルト16は取付ナット14に螺合している。押さえ部材13Aの他方の貫通孔と保持部材12Aの他方の貫通孔には取付ボルト17が挿通されていて、この取付ボルト17は取付ナット15に螺合している。つまり、取付ナット14,15に保持部材12Aと押さえ部材13Aとが取付ボルト16,17によって共締されていることで、保持部材12Aおよび押さえ部材13Aがグランド部2aに取り付けられている。保持部材12Bおよび押さえ部材13Bも、保持部材12Aおよび押さえ部材13Aと同様にしてグランド部2aに取り付けられている(図示しない)。
【0024】
押さえ部材13Aの上面には、後述する回転部材30が載置される2つのガイドローラ20,21が設けられている。これらのガイドローラ20,21の間に位置する押さえ部材13Aの上面の部分には、L字状のベースブラケット24が立設されている。このベースブラケット24の上端部には、T字状のローラブラケット25の下端部が締結されている。ローラブラケット25の上辺を形成する上面視円弧状のベース板部25aには、ガイドローラ20,21と対向して対をなすガイドローラ22,23が取り付けられている。ガイドローラ20〜23はそれぞれ、その回転中心線が半円環状の押さえ部材13Aの径方向に沿う姿勢に配置されている。図示しないが押さえ部材13Bにも押さえ部材13Aと同様にして4つのガイドローラが設けられている。
【0025】
押さえ部材13Aのグランド部2aへの取付の際は、下側の2つのガイドローラ20,21およびベースブラケット24を押さえ部材13Aに組み付けたものが一部品として扱われる。このことは押さえ部材13Bについても同様である。
【0026】
一対の押さえ部材13A,13Bの上方には、回転部材30が配置されている。この回転部材30は、プランジャー3の外周面を囲んで配置される円筒状の本体31と、この本体31の外周面の全周にわたって設けられ、本体31から外方に突出した鍔部32とを有する。回転部材30の鍔部32は、下側の4つのガイドローラ20,21等と上側の4つのガイドローラ22,23等との間で、下側の4つのガイドローラ20,21等に載置されている。回転部材30と上側のガイドローラ22,23等との間には若干の隙間が形成されていて、これにより、プランジャー3周りの回転部材30の回転が許容されている。また、回転部材30のプランジャー3の軸方向(上下方向)への移動は、下側の2つのガイドローラ20,21等と上側の4つのガイドローラ22,23等との間の範囲内に規制されている。
【0027】
図1,3に示すように、回転部材30は電動モータ40を駆動源としている。この電動モータ40はモータブラケット41を介して押さえ部材13A,13Bに取り付けられている。具体的には、押さえ部材13A側の取付ボルト17と取付ナット15、および、押さえ部材13B側の取付ボルト(図示しない)とこの取付ボルトに対応する取付ナット(図示しない)によって、保持部材12A,12Bおよび押さえ部材13A,13Bと共締めされている。なお、2つの取付ボルト17等に締結されるモータブラケット41の締結板部41aには、2つの取付ボルト17等が挿通される図示しない挿通部が形成されている。これらの挿通部は、2つの取付ボルト17等が緩んだ状態において、モータブラケット41を回転部材30の本体31から離間する方向に移動させて2つの取付ボルト17等から離脱させることができるように、本体31側で開口したU字状の切欠きからなる。
【0028】
回転部材30の本体31には、その周方向に沿ってチェーン33が取り付けられている。電動モータ40の出力軸40aにはチェーン33に噛み合って配置されるスプロケット42が取り付けられている。つまり、電動モータ40とスプロケット42は、チェーン33を含む回転部材30を、プランジャー3周りに回転駆動可能な駆動手段を構成している。
【0029】
モータブラケット41には、電動モータ40の回転速度を制御するための制御装置43が取り付けられている。制御装置43は、それ自体および電動モータ40の両方に対する電源であるバッテリー44を搭載している。つまり、制御装置43および電動モータ40の両方に対する電源が制御装置43と一体化されて、電動モータ40に付設されている。
【0030】
制御装置43はマイコン(図示しない)を内蔵している。制御装置43の筐体43aには、制御装置43および電動モータ40への電力の供給・遮断を、操作者が制御装置43に指令するための電源スイッチ43bと、速度上昇を指令するための速度調節スイッチ43cとが設けられている。
【0031】
図4に示すように、チェーン33を含む回転部材30全体は、上面視半円形の第1,第2ピース34,35を結合してなる。第1ピース34の周方向における一端には、締結部34aが延設されている。この締結部34aには、ボルト(図示しない)が挿通される貫通孔34a1が形成されている。第1ピース34の周方向における他端には、締結部34aに対応するネジ孔34bが設けられている。第2ピース35にも同様の締結部35aとネジ孔(図示しない)が設けられている。つまり、第1,第2ピース34,35のそれぞれの周方向における両端を対向させた状態で、第1ピース34の締結部34aの貫通孔34a1に挿通したボルト(図示しない)を第2ピース35のネジ孔(図示しない)に螺合させるとともに、第2ピース35の締結部35aの貫通孔35a1に挿通した別のボルト36(図1に示す)を第1ピース34のネジ孔34bに螺合させることによって、第1,第2ピース34,35が結合される。言い換えると、チェーン33を含む回転部材30全体は、プランジャー3の外周面の半周部分に対向して配置される第1ピース34と、この第1ピース34が配置されない外周面の残りの半周部分に対向する第2ピース35とに分離可能に構成されている。
【0032】
回転部材30の内側には、プランジャー3に当接するシート状の切削部材50が、回転部材30の回転中心線周りに3個以上、例えば4個、等間隔で設けられている。切削部材50は、取付部材51を介して回転部材30の本体31に取り付けられている。取付部材51は、図4に示すように、回転部材30の内側に配置される上面視円弧状の取付板部51aと、この取付板部51aの外周面から突出した雄ねじからなるロッド部51bとが一体に形成されたものである。図2に示すように、ロッド部51bは、回転部材30の本体31に形成された貫通孔31aに挿通されて回転部材30の本体31を内側から外側に貫通する。回転部材30の本体31から外側に突出したロッド部51bにはナット52が螺合する。
【0033】
取付部材51の取付板部51aの内周面には、切削部材50が面ファスナー53を介して取り付けられている。つまり、切削部材50は回転部材30に対し、面ファスナー53により着脱可能に設けられている。面ファスナー53は、取付部材51の取付板部51aの内側の面に固定され、無数のループが一面に設けられたループシート53aと、このループシート53aのループに引っ掛かることが可能な無数のフックが一面に設けられ切削部材50の裏面(プランジャー3の外周面に当接する面が表面)に固定されたフックシート53bとからなる。なお、面ファスナー53は、ループシート53aが切削部材50の裏面に固定され、フックシート53bが取付板部51aの内側の面に固定されたものであってもよい。
【0034】
切削部材50は、取付部材51を介して回転部材30に設けられていることによって、回転部材30の内側の面に対する近接・離間方向に移動可能になっている。図2に示すように、ロッド部51bにはコイルスプリング54に挿通されていて、このコイルスプリング54が取付部材51の取付板部51aの外周面と回転部材30の本体31の内周面との間に位置している。つまり、ロッド部51bに対するナット52の位置に応じて、切削部材50の近接・離間方向における位置が変化するようになっている。回転部材30の外側に位置するナット52は、近接・離間方向における切削部材50の位置の調整を可能にする調整操作部を構成している。
【0035】
なお、回転部材30および切削部材50をプランジャー3の外周面を囲むように配置する際、第1ピース34に2枚の切削部材50が取り付けられたもの、および、第2ピース35に2枚の切削部材50が取り付けられたものが、それぞれ一部品として扱われる。
【0036】
このように構成された本実施形態に係るプランジャーの表面粗さの調整装置10は、次のようにして油圧シリンダ1に装着される。
【0037】
まず、乗降可能な位置(例えば、最下階)に停止させた乗りかごの上に乗って、シリンダチューブ2のグランド部2aまで移動する。その後、シリンダチューブ2のグランド部2aにスクレーパ11を取り付ける。つまり、取付ナット14,15をグランドボルト4の両隣のグランドボルトのそれぞれに螺合させ、次に、取付ナット14,15上に保持部材12Aを載置し、次に、この保持部材12Aの内側の縁部にスクレーパ11Aを嵌め込んでプランジャー3の外周面に当接させ、次に、保持部材12A上に押さえ部材13Aを重ね合わせてスクレーパ11Aを保持部材12Aとの間で挟ませ、最後に、取付ボルト16,17と取付ナット14,15とにより保持部材12Aと押さえ部材13Aとを共締めする。図示しない他方のスクレーパの取付も、一方のスクレーパ11と同様にしてグランド部2aに取り付ける。
【0038】
このようにしてスクレーパ11等が取り付けられたとき、押さえ部材13A上の2つのガイドローラ20,21およびベースブラケット24、および、押さえ部材13B上の図示しない2つのガイドローラおよびベースブラケットも設置されることになる。
【0039】
次に、回転部材30の第1,第2ピース34,35を、プランジャー3を挟み込むように配置して結合させるとともに、鍔部32を押さえ部材13A,13B上の4つのガイドローラ20,21等に載置する。次に、押さえ部材13A上のベースブラケット24の上端部に、上側の2つのガイドローラ22,23を取り付けた状態のローラブラケット25の下端部を連結ボルト26により締結する。これにより、鍔部32が上下からガイドローラ20,21とガイドローラ22,23との間に位置することになる。押さえ部材13B側にも同様にして上側の2つのガイドローラを取り付ける。
【0040】
次に、モータブラケット41を、スプロケット42付きの電動モータ40と制御装置43とが取り付けられた状態で、スプロケット42とチェーン33とが噛み合うように押さえ部材13A,13Bに取り付ける。つまり、まず、押さえ部材13Aの取付ボルト17と、周方向において取付ボルト17と隣合う押さえ部材13B側の図示しない取付ボルトとを緩める。次に、これらの2つの取付ボルト17等のそれぞれの頭部と押さえ部材13A,13Bとの間にモータブラケット41の締結板部41aを差込み、締結板部41aの2つのU字状の挿通部(図示しない)のそれぞれに、2つの取付ボルト17等の雄ネジ部が上下方向に挿通された状態にする。この状態で、回転部材30に対して近接方向や離間方向にスライドさせてモータブラケット41を移動させて、チェーン33に対するスプロケット42の噛み合わせを調整する。その調整の終了後、2つの取付ボルト17等を再び締め、これら2つの取付ボルト17等と2つの取付ナット15等とによって押さえ部材13A,13B、保持部材12A,12B、およびモータブラケット41の締結板部41aとを共締めして固定する。
【0041】
最後に、ナット52(調整操作部)を締めたり緩めたりして本体31の内周面に対する切削部材50の位置、すなわち、プランジャー3に対する切削部材50の押付圧力を調整し、油圧シリンダ1に対する表面粗さ調整装置10の装着が完了する。
【0042】
このようにして油圧シリンダ1に装着された表面粗さ調整装置10によるプランジャー3の切削は、次のようにして行われる。
【0043】
制御装置43の電源スイッチ43bを押圧操作すると、制御装置43および電動モータ40に電力が供給され、電動モータ40が回転する。電動モータ40の回転はスプロケット42からチェーン33に伝達され、これにより、回転部材30は、図6に示すようにプランジャー3周りに矢印CW方向に回転する。
【0044】
この状態で、プランジャー3を上方向(矢印U方向)に移動させると、プランジャー3の外周面は切削部材50により切削され、これにより、プランジャー3の外周面に螺旋状の微細な切削痕60aが形成される。プランジャー3を上方向に乗かごが最上階に達する位置まで移動させることによって、シリンダチューブ2から露出可能なプランジャー3の外周面のほぼ全体に切削痕60aを形成する。その後、図6に示すように、プランジャー3を下方向(矢印D方向)に乗かごが最下階に達する位置まで移動させ、プランジャー3の上方向への移動時とは逆向きの螺旋状の切削痕60bを、シリンダチューブ2から露出可能なプランジャー3のほぼ全体に形成する。図6,7に示した切削痕60a,60bは分かりやすくするために簡略化して描いたものであり、実際は目視では確認できない微細なものである。
【0045】
また、切削部材50の番手を変えることで、表面粗さを大きくすることもできるし、小さくすることもできる。
【0046】
電動モータ40を回転させる際、制御装置43の速度調節スイッチ43cを操作することによって、電動モータ40の回転速度を調節し、これにより電動モータ40の回転速度をプランジャー3の移動速度に同期させることで、例えば螺旋痕60a,60bをそれぞれプランジャー3の軸線に対し右斜め45°、左斜め45°に傾斜させることができる。また、電動モータ40の回転速度をプランジャー3に同期する回転速度よりも遅くしたり、速くしたりすることによって、螺旋痕60a,60bを前記45°以外の傾斜角度にすることもできる。
【0047】
本実施形態に係るプランジャーの表面粗さの調整装置10によれば次の効果を得られる。
【0048】
本実施形態に係るプランジャーの表面粗さの調整装置10によれば、切削部材50が面ファスナー53により回転部材30に着脱可能に取り付けられているので、回転部材30に対する切削部材50の取付・取外しが容易であり、したがって切削部材50の交換を行いやすくすることができる。これにより、プランジャーの表面粗さ調整装置の取り扱いやすさを向上させることができる。
【0049】
本実施形態に係るプランジャーの表面粗さの調整装置10によれば、電動モータ40の回転速度を制御装置43により調節できるので、プランジャー3の軸線に対する切削角度を調節することができる。
【0050】
本実施形態に係るプランジャーの表面粗さの調整装置10によれば、制御装置43とバッテリー44が一体化されて電動モータ40に付設されているので、現場の周辺において電源を確保する作業を行わずに済む。この点においても、プランジャーの表面粗さ調整装置の取り扱いやすさを向上させることができる。
【0051】
本実施形態に係るプランジャーの表面粗さの調整装置10によれば、プランジャー3に対する切削部材50の押付圧力の調整を、回転部材30の外側においてナット52(調整操作部)を操作することによって行うことができる。つまり、回転部材30および切削部材50をプランジャー3の外周側に配置した状態で押付圧力を調整することができる。この点においても、プランジャーの表面粗さ調整装置の取り扱いやすさを向上させることができる。
【0052】
本実施形態に係るプランジャーの表面粗さの調整装置10によれば、プランジャー3の外周面を囲んだ状態になるように回転部材30を配置する際、回転部材30を第1,第2ピース34,35に分離し、これら第1,第2ピース34,35をそれぞれ個別にプランジャー3の外周面に対向させて配置することができ、プランジャー3の外周側への回転部材30の配置が行いやすい。この点においても、プランジャーの表面粗さ調整装置の取り扱いやすさを向上させることができる。
【0053】
本実施形態に係るプランジャーの表面粗さの調整装置10によれば、切削部材50が、回転部材30の回転中心周りに4個以上、等間隔で配置されているので、プランジャー3の外周面に対する切削部材50の押付圧力が安定し、これにより、プランジャー3周りの回転部材30の回転を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施形態に係るプランジャーの表面粗さ調整装置が油圧シリンダに装着された状態を示す斜視図である。
【図2】図1に示した回転部材および切削部材の油圧シリンダに対する取付構造を簡略して示す図である。
【図3】図1に示した電動モータの油圧シリンダに対する取付構造を簡略して示す図である。
【図4】図1に示した回転部材を第1,第2ピースに分離した状態を示す斜視図である。
【図5】図1に示した切削部材および取付部材を示す上面図である。
【図6】図1に示したプランジャーの表面粗さ調整装置を用いて、プランジャーを上昇させながらプランジャーの外周面を切削する様子を簡略して示す図である。
【図7】図5に示した切削の終了後に、プランジャーを下降させながらプランジャーの外周面を切削する様子を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1 油圧シリンダ
2 シリンダチューブ
2a グランド部
3 プランジャー
4 グランドボルト
10 プランジャーの表面粗さ調整装置
11 スクレーパ
12A,12B 保持部材
13A,13B 押さえ部材
14,15 取付ナット
16,17 取付ボルト
20〜23 ガイドローラ
24 ベースブラケット
25 ローラブラケット
25a ベース板部
26 連結ボルト
30 回転部材
31 本体
31a 貫通孔
32 鍔部
33 チェーン
34 第1ピース
34a 締結部
34a1 貫通孔
34b ネジ孔
35 第2ピース
35a 締結部
35a1 貫通孔
36 ボルト
40 電動モータ
40a 出力軸
41 モータブラケット
41a 締結板部
42 スプロケット
43 制御装置
43a 筐体
43b 電源スイッチ
43c 速度調節スイッチ
44 バッテリー
50 切削部材
51 取付部材
51a 取付板部
51b ロッド部
52 ナット(調整操作部)
53 面ファスナー
53a ループシート
53b フックシート
54 コイルスプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プランジャーの外周面を囲んで配置され、そのプランジャーの軸方向への移動を規制される回転部材と、この回転部材の内側に設けられ前記プランジャーに当接する切削部材と、前記回転部材を前記プランジャー周りに回転駆動可能な駆動手段とを備えていて、前記駆動手段による前記回転部材の回転駆動に伴って、前記切削部材が前記プランジャーの外周面を切削することにより、その外周面の表面粗さを大きくするプランジャー表面粗さ調整装置において、
前記切削部材が前記回転部材に対し、面ファスナーにより着脱可能に設けられていることを特徴とするプランジャーの表面粗さ調整装置。
【請求項2】
請求項1に記載の発明において、
前記駆動手段が前記回転部材の駆動源となる電動モータを有し、
この電動モータの回転速度を制御する制御装置と、この制御装置および前記電動モータの両方に対する電源とが一体化されて前記電動モータに付設されていることを特徴とするプランジャーの表面粗さ調整装置。
【請求項3】
請求項1に記載の発明において、
前記切削部材が前記回転部材の内側の面に対する近接・離間方向に移動可能に設けられているとともに、前記回転部材の外側に、前記近接・離間方向における前記切削部材の位置の調整を可能にする調整操作部が設けられていることを特徴とするプランジャーの表面粗さ調整装置。
【請求項4】
請求項1に記載の発明において、
前記駆動手段が、前記回転部材の駆動源となるモータと、このモータの出力軸に取り付けられたスプロケットとを有し、
前記回転部材が、その回転中心と同軸の円筒形に形成された円筒部と、この円筒部にその周方向に沿って取り付けられ前記スプロケットに噛み合って配置されるチェーンとを有し、前記回転部材全体が、前記プランジャーの外周面の半周部分に対向して配置される第1ピースと、この第1ピースが配置されない前記外周面の残りの半周部分に対向する第2ピースとに分離可能に構成されていることを特徴とするプランジャーの表面粗さ調整装置。
【請求項5】
請求項1に記載の発明において、
前記切削部材が、前記回転部材の回転中心線周りに3個以上、等間隔で配置されていることを特徴とするプランジャーの表面粗さ調整装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−72864(P2009−72864A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−244134(P2007−244134)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(000232955)株式会社日立ビルシステム (895)
【Fターム(参考)】