説明

プランジャーポンプの設計方法

【課題】 プランジャーポンプの設計方法を提供する。
【解決手段】 プランジャーポンプ1の駆動時に発生する騒音が所定の騒音レベルよりも小さくなるように、プランジャー2を駆動させるクランク機構3の回転数を設定するとともに、実験的に求められたノズルの送り速度と対象物に対する加工深さとの関係から、実用の送り速度で目的とする加工深さ以上の深さが得られる、ノズルからの水の噴射圧力又は流量を求め、設定したクランク機構3の回転数、及び求められた水の噴射圧力又は流量を満足するように、プランジャー2の断面積及びストロークを設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プランジャーポンプの設計方法に関し、特に、プランジャーポンプを備えたウォータージェット装置の前記プランジャーポンプの設計に有効なプランジャーポンプの設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既設のコンクリート構造物に対して耐震補強等のリニューアル工事を行う場合、躯体の基層部の上部に積層された表層部(仕上げモルタル層等)を除去し、その後に耐震補強等のための補修や改修の工事を行っている。
【0003】
このようなリニューアル工事においては、従来、電動ピッチングマシンや高速回転カッター装置等を用いて表層部を除去していたが、工事の際に発生する振動や騒音によって周辺の生活環境に影響を与えるため、近年では、振動や騒音の発生を抑えた各種のウォータージェット装置が用いられている。
【0004】
ウォータージェット装置は、例えば、非特許文献1、2に記載されているように、高圧水を発生させる高圧ポンプ(例えば、プランジャーポンプ)を有するポンプユニット、高圧ポンプを回転させるモータを有するモータユニット、高圧ポンプで発生させた高圧水を噴射させるノズルを有するノズルユニット、ノズルに研磨材を供給する研磨材供給ユニット等を備え、ポンプユニットの高圧ポンプで発生させた高圧水を研磨材供給ユニットからの研磨材と共にノズルから噴射させることにより、躯体の表層部を基層部の上部から除去することができるものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】株式会社ジェットホームページ、online、平成21年2月4日検索、インターネット<URL:http//www.water−jet/robot.html
【非特許文献2】株式会社ユアーズホームページ、online、平成21年2月4日検索、インターネット<http//www.yours−tk.co.jp/waterjet.htm
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のような構成のウォータージェット装置にあっては、電動ピッチングマシンや高速回転カッター装置等のような大きな振動や騒音が発生することはないが、プランジャーポンプを高回転数で使用した場合に、周期的な振動や騒音を発生することがあり、そのような場合に、周辺の生活環境に影響を与えてしまう。
【0007】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、ウォータージェット装置のプランジャーポンプに有効であって、大きな振動や騒音が発生するのを抑制することができる、プランジャーポンプの設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記のような課題を解決するために、本発明は、以下のような手段を採用している。
すなわち、本発明は、高圧水を発生させるプランジャーポンプと、該プランジャーポンプで発生させた高圧水を噴射させるノズルとを備えたウォータージェット装置の前記プランジャーポンプの設計方法であって、前記プランジャーポンプの駆動時に発生する騒音が所定の騒音レベルよりも小さくなるように、前記プランジャーを駆動させるクランク機構の回転数を設定するとともに、実験的に求められた前記ノズルの送り速度と対象物に対する加工深さとの関係から、実用の送り速度で目的とする加工深さ以上の深さが得られる、前記ノズルからの水の噴射圧力又は流量を求め、前記設定したクランク機構の回転数、及び前記求められた水の噴射圧力又は流量を満足するように、前記プランジャーの断面積及びストロークを設定することを特徴とする。
【0009】
本発明のプランジャーポンプの設計方法によれば、プランジャーポンプの駆動時に発生する騒音が所定の騒音レベルよりも小さくなるように、プランジャーのクランク機構の回転数を設定する。そして、実験的に求められたノズルの送り速度と対象物に対する加工深さとの関係から、実用の送り速度で目的とする加工深さ以上の深さが得られる、ノズルからの水の噴射圧力又は流量を求める。そして、設定したクランク機構の回転数、及び求められた水の噴射圧力又は流量を満足するように、プランジャーの断面積及びストロークを設定する。これにより、大きな振動、騒音を発生させることなく、対象物に目的とする加工深さの溝を形成することができるプランジャーポンプを備えたウォータージェット装置を提供することができる。
【0010】
また、本発明において、高圧水を発生させるプランジャーポンプと、該プランジャーポンプで発生させた高圧水を噴射させるノズルとを備えたウォータージェット装置の前記プランジャーポンプの設計方法であって、以下の(1)〜(5)の数式により、前記プランジャーの断面積及びストロークを求めることとしてもよい。
(1)N=N(N:騒音レベルの上限に対応するクランク機構の回転数(実験的に求められた騒音レベルの上限よりも小さくなるように、プランジャーを駆動させるクランク機構の回転数))
(2)Q=A×L×N
(3)P≧P(P:目的とする加工深さ以上の深さが得られる水の噴射圧力(実験的に求められたノズルの送り速度と対象物に対する加工深さとの関係から、実用の送り速度で目的とする加工深さ以上の深さが得られるノズルからの水の噴射圧力))
(4)A≦A=F/P(A:プランジャーの上限断面積、F:部材強度を考慮したプランジャーによるクランク機構に作用する力)
(5)L=Q/A/N
ただし、
A:プランジャーの断面積
L:プランジャーのストローク
N:プランジャーを駆動させるクランク機構の回転数
P:プランジャーの内部圧力(ノズルからの水の噴射圧力)
Q:流量(ノズルからの水の噴射流量(A×L×N))
F:プランジャーによるクランク機構に作用する力(A×P)
【0011】
本発明のプランジャーポンプの設計方法によれば、大きな振動、騒音を発生させることなく、対象物に目的とする加工深さの溝を形成することができるプランジャーポンプを備えたウォータージェット装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0012】
以上、説明したように、本発明のプランジャーポンプの設計方法によれば、発生する振動及び騒音を周辺の生活環境に影響を与えない程度に抑えた、低振動、低騒音型のプランジャーポンプを設計することができ、そのような低振動、低騒音型のプランジャーポンプを備えたウォータージェット装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明によるプランジャーポンプの設計方法に用いるプランジャーの概略図である。
【図2】実験により求めたノズルの送り速度と溝切り深さとの関係の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
本実施の形態のプランジャーポンプの設計方法は、プランジャー方式のウォータージェット装置のプランジャーポンプの設計に有効なものであって、低振動、低騒音型のプランジャーポンプを設計するのに有効なものである。
【0015】
プランジャー方式のウォータージェット装置は、例えば、高圧水を発生させるポンプを有するポンプユニットと、ポンプユニットのポンプを回転させるモータを有するモータユニットと、ポンプユニットのポンプで発生させた高圧水を噴射させるノズルを有するノズルユニットとを備えている。
【0016】
ポンプユニットは、プランジャー方式の高圧ポンプ(以下、プランジャーポンプという。)と、プランジャーポンプの周辺機器(バックアップポンプ、フィルタ、調圧弁等)とを備え、台車(以下、第1台車という。)の上部に搭載され、第1台車を介して床面等の上部を移動可能に構成されている。
【0017】
プランジャーポンプ1は、例えば、図1に示すように、高圧水を発生させるプランジャー2と、プランジャー2を駆動させるクランク機構3とを備え、クランク機構3の入力軸に後述するモータユニットのモータの出力軸が連結されている。ポンプユニットは、後述するモータユニットと連結手段を介して分離可能に連結されている。
【0018】
モータユニットは、ギヤードモータ等のモータと、配線、配管等の中継ボックスとを備え、台車(以下、第2台車という。)の上部に搭載され、第2台車を介して床面等の上部を移動可能に構成されている。モータユニットは、後述する連結手段を介してポンプユニットと相互に分離可能に連結されている。
【0019】
連結手段は、ポンプユニットのプランジャーポンプの入力軸とモータユニットのモータの出力軸とを切り離し可能に連結する自在継手と、ポンプユニットの第1台車とモータユニットの第2台車とを切り離し可能に連結するとともに、プランジャーポンプの入力軸とモータの出力軸とを自在継手を介して連結した状態に固定する固定部材とを備えている。
【0020】
ノズルユニットは、案内手段と、案内手段によって移動可能に支持されるノズルガイドと、ノズルガイドと一体に移動可能なノズルとを備えている。
【0021】
案内手段は、ガイドレールと、ガイドレールに沿って移動可能なスライダーと、スライダーをガイドレールに沿って移動させる駆動源とを備え、スライダーにノズルガイド及びノズルが設けられ、スライダーと一体にガイドレールに沿って移動可能に構成されている。
【0022】
ノズルは、スライダーにボルトによって取り付けられるノズル本体と、ノズル本体の先端部に着脱自在に取り付けられる噴射ノズルとを備え、噴射ノズルの噴射口がノズルガイドの内側に開口するようになっている。
【0023】
ノズル本体は、高圧ホースを介してポンプユニットのプランジャーポンプの吐出口に接続されるとともに、研磨材ホースを介して研磨材供給ユニットの研磨材の供給口に接続され、ポンプユニットから高圧ホースを介してノズル本体に高圧水が供給され、研磨材供給ユニットから研磨材ホースを介してノズル本体に研磨材が供給され、高圧水と研磨材とが一緒になってノズル本体から噴射ノズルに導かれ、噴射ノズルの噴射口から噴射される。
【0024】
次に、上記のように構成したプランジャー方式のウォータージェット装置のプランジャーポンプの設計方法について説明する。
(1)プランジャーポンプ(モータ)の定格回転数Nの設定
プランジャーポンプの駆動によって発生する振動、騒音を周辺の生活環境に影響を与えない程度に抑える必要があることから、モータの定格回転数Nは、できるだけ小さく設定する必要があるが、モータの定格回転数Nを小さくし過ぎると、騒音レベルを低減させることはできても、ノズルから噴射させる水の定格流量(所望の切削深さを得ることが可能な定格流量)を維持することが困難になる。このため、ノズルから噴射させる水の定格流量を維持することができる範囲内で、所定の騒音レベル(周辺の生活環境に影響を与えない騒音レベル)に対応する回転数Nに設定する。
【0025】
(2)ノズルからの水の噴射圧力P及び流量Qの設定
ノズルから噴射させる水の噴射圧力Pおよび流量Qは、ノズルの径によって限界値が定まり、噴射圧力Pと流量Qとは従属関係にある。つまり、噴射圧力Pを決めると流量Qも定まる。噴射圧力Pと流量Qは、実際のコンクリートの切削実験より、実用的な送り速度に対して最大切削深さが得られる条件から定める。
【0026】
図2に、噴射圧力Pを変化させた場合のノズルの送り速度と加工深さ(以下、「切削深さ」という。)の関係が示されている。この場合、ノズルからの水の噴射圧力Pを、200MPa、150MPa、100MPaの3種類に変化させている。
【0027】
図2から、ノズルの送り速度Vを小さくする程、切削深さは増加することが分かるが、ノズルの送り速度Vがあまりに遅い場合には作業性が悪くなるため、ノズルの送り速度Vは実用送り速度Vとし、実用送り速度Vで目的とする切削深さ以上の深さが得られる水の噴射圧力Pおよび流量Qを求める。
【0028】
なお、図2には、各噴射圧力Pに対応するノズルの送り速度Vと切削深さとの関係を示しているが、図示はしないが、流量に対応するノズルの送り速度と切削深さとの関係も同様の特性を示すので、流量Qに対応するノズルの送り速度と切削深さとの関係を用いてもよい。
【0029】
(3)プランジャーの断面積A
図1に示すように、プランジャー2の断面積Aは、大きくとり過ぎると、プランジャーポンプ1のクランク機構3に作用する力F(F=A×P)が大きくなり、プランジャーポンプ1の動力が大きくなり、モータのサイズがアップすることになる。また、プランジャーポンプ1の肉厚も厚くする必要があり、プランジャーポンプ1が大型化することになるため、プランジャーポンプ1の部材強度等を考慮した力Fを基にして、プランジャー2の断面積Aの上限を定める。
【0030】
以上の条件を整理すると、以下の(1)〜(5)の関係式が得られる。
(1)N≦N
(2)Q=A×L×N≧Q
(3)P≧P
(4)A≦A=F/P
(5)L=Q/A/N
ただし、
A:プランジャーポンプのプランジャーの断面積
L:プランジャーポンプのプランジャーのストローク
N:プランジャーを駆動させるクランク機構の回転数
P:プランジャーの内部圧力
Q:流量(A×L×N)
F:(A×P)プランジャーによりクランク機構に作用する力
【0031】
上記の式(1)〜(5)により、最終的にプランジャー2のストロークLを決定でき、プランジャーポンプ1の仕様を定めることができる。ただし、ストロークLによってプランジャーポンプ1の大きさが定まるため、過度にストロークLが大きくなると、小型化が望めない。その場合には、プランジャー2の断面積Aを調整し、プランジャーポンプ1の材料の選定、肉厚の再検討等を行う必要がある。
【0032】
上記のように構成した本実施の形態によるプランジャーの設計方法にあっては、プランジャーポンプ1の駆動時に発生する騒音が、所定の騒音レベルよりも小さくなるように、プランジャー2のクランク機構3の回転数を設定し、そして、実験的に求められたノズルの送り速度と対象物に対する切削深さとの関係から、実用の送り速度で目的とする切削深さ以上の深さが得られるように、ノズルからの水の噴射圧力又は流量を求め、そして、設定したクランク機構3の回転数、及び求められた水の噴射圧力又は流量を満足するように、プランジャー2の断面積及びストロークを設定したので、大きな振動、騒音を発生させることなく、対象物に目的とする切削深さの溝を形成することができる小型のプランジャーポンプ1を備えたウォータージェット装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 プランジャーポンプ
2 プランジャー
3 クランク機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧水を発生させるプランジャーポンプと、該プランジャーポンプで発生させた高圧水を噴射させるノズルとを備えたウォータージェット装置の前記プランジャーポンプの設計方法であって、
前記プランジャーポンプの駆動時に発生する騒音が所定の騒音レベルよりも小さくなるように、前記プランジャーを駆動させるクランク機構の回転数を設定するとともに、
実験的に求められた前記ノズルの送り速度と対象物に対する加工深さとの関係から、実用の送り速度で目的とする加工深さ以上の深さが得られる、前記ノズルからの水の噴射圧力又は流量を求め、
前記設定したクランク機構の回転数、及び前記求められた水の噴射圧力又は流量を満足するように、前記プランジャーの断面積及びストロークを設定することを特徴とするプランジャーポンプの設計方法。
【請求項2】
高圧水を発生させるプランジャーポンプと、該プランジャーポンプで発生させた高圧水を噴射させるノズルとを備えたウォータージェット装置の前記プランジャーポンプの設計方法であって、
以下の(1)〜(4)の数式により、前記プランジャーの断面積及びストロークを求めることを特徴とするプランジャーポンプの設計方法。
(1)N=N(N:騒音レベルの上限に対応するクランク機構の回転数(実験的に求められた騒音レベルの上限よりも小さくなるように、プランジャーを駆動させるクランク機構の回転数))
(2)Q=A×L×N
(3)P≧P(P:目的とする加工深さ以上の深さが得られる水の噴射圧力(実験的に求められたノズルの送り速度と対象物に対する加工深さとの関係から、実用の送り速度で目的とする加工深さ以上の深さが得られるノズルからの水の噴射圧力))
(4)A≦A=F/P(A:プランジャーの上限断面積、F:部材強度を考慮したプランジャーによるクランク機構に作用する力)
(5)L=Q/A/N
ただし、
A:プランジャーの断面積
L:プランジャーのストローク
N:プランジャーを駆動させるクランク機構の回転数
P:プランジャーの内部圧力(ノズルからの水の噴射圧力)
Q:流量(ノズルからの水の噴射流量(A×L×N))
F:プランジャーによるクランク機構に作用する力(A×P)

【図2】
image rotate

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−214540(P2010−214540A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−64923(P2009−64923)
【出願日】平成21年3月17日(2009.3.17)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(000141174)株式会社丸山製作所 (134)
【Fターム(参考)】