説明

プリプレグ及び多層板

【課題】ボイドの発生を抑制できる程度の成形性を有しながら、加熱加圧成形時に基材から樹脂組成物が必要以上に流出するのを抑制できるプリプレグを提供する。
【解決手段】リン変性エポキシ樹脂(A)、リン変性硬化剤(B)及びリン原子を含有しない硬化剤(C)を含有する樹脂組成物を用いたプリプレグ1である。前記リン原子を含有しない硬化剤(C)は、少なくとも数平均分子量500〜3000で1分子中に平均1.0〜3.0個の水酸基を有するポリフェニレンエーテルを含む。溶融粘度が5万〜10万poiseである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレックスリジッドプリント配線板等のプリント配線板の材料として用いられるプリプレグ及びそのプリプレグを用いて形成される多層板に関する。
【背景技術】
【0002】
フレックスリジッドプリント配線板のような多層板2は、例えば、図1(a)に示すような方法で製造されるものである。すなわち、フレキシブル基板3の両端部付近の両面に設けた導体パターン5を覆うようにプリプレグ1をフレキシブル基板3の両端部に重ね、次いで、導体パターン5を設けたリジッド基板4を、導体パターン5とプリプレグ1とが対向するように重ねて配置させる。そして、これらを加熱加圧成形することで、フレックスリジッドプリント配線板のような多層板2が製造される。
【0003】
上記のような製造方法で得られるフレックスリジッドプリント配線板は、図1(b)に示すように、複数のリジッド部6がフレックス部7を介して一体化されており、フレックス部7で折り曲げ可能となるように形成される。このようなフレックスリジッドプリント配線板は、小型化・省スペース化を図ることができるため、各種携帯用電子機器等に広く使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
そして、近年フレックスリジッドプリント配線板では、性能面や環境面の観点から使用材料のハロゲンフリー化が求められており、その上、信号のさらなる高速化が要求されているので、それに対応した低誘電・低誘電正接の材料も必要になってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−198132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のように、フレキシブル基板3とリジッド基板4とを接着するような従来のプリプレグ1にあっては、次のような問題があった。プリプレグ1は、樹脂組成物を基材に含浸して形成されるものであるが、プリプレグ1の成形性を向上させるために、流動性を高めた樹脂組成物をプリプレグ1に使用することがある。ところが、このように樹脂組成物の流動性を高めると、フレックスリジッドプリント配線板を製造する際の加熱加圧成形時に基材から樹脂組成物が必要以上に流出し、フレックス部7を汚染してしまうおそれがあった。
【0007】
逆に、樹脂組成物の流動性を低下させて、加熱加圧成形時に基材から樹脂組成物が必要以上に流出するのを抑制しようとすると、リジッド部6の導体パターン5間の間隙に樹脂組成物が充填されにくくなり、結果としてボイドが発生してしまうことがあった。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、低誘電率・低誘電正接のハロゲンフリー樹脂組成物を使用し、ボイドの発生を抑制できる程度の成形性を有しながら、加熱加圧成形時に基材から樹脂組成物の必要以上の流出を抑制できるプリプレグを提供することを目的とするものである。さらに、このプリプレグを用いて形成される多層板を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るプリプレグは、リン変性エポキシ樹脂(A)、リン変性硬化剤(B)及びリン原子を含有しない硬化剤(C)を含有する樹脂組成物を用いたプリプレグであって、前記リン原子を含有しない硬化剤(C)は、少なくとも数平均分子量500〜3000で1分子中に平均1.0〜3.0個の水酸基を有するポリフェニレンエーテルを含み、溶融粘度が5万〜10万poiseであることを特徴とする。
【0010】
あるいは、本発明のプリプレグは、リン変性エポキシ樹脂(A)、リン原子を含有しないエポキシ樹脂(D)、リン変性硬化剤(B)及びリン原子を含有しない硬化剤(C)を含有する樹脂組成物を用いたプリプレグであって、前記リン原子を含有しないエポキシ樹脂(D)は、少なくとも数平均分子量が500〜3000で1分子中に平均1.5〜2.0個の水酸基を有するポリフェニレンエーテルと、1分子中に平均2.3個以下のエポキシ基を有する樹脂との反応生成物であるエポキシ樹脂を含み、溶融粘度が5万〜10万poiseであることを特徴とする。
【0011】
また、前記リン変性エポキシ樹脂(A)は、下記式(I)で表される有機リン化合物及びキノン化合物の反応生成物と、ノボラック型エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂と、を反応させて得られたリン変性エポキシ樹脂を含有することが好ましい。
【0012】
【化1】

(式中、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜6の炭化水素基を示し、nは0〜4の整数を示す)
【0013】
また、前記リン原子を含有しないエポキシ樹脂(D)として、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂及びフェノールノボラック型エポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0014】
また、前記リン変性硬化剤(B)は、下記式(I)で表される有機リン化合物と、フェノール類及びホルムアルデヒドを縮合反応させて得られる縮合生成物を少なくとも1種のモノマーアルコールでエーテル化した化合物と、を反応させて得られたリン変性硬化剤を含有することが好ましい。
【0015】
【化2】

(式中、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜6の炭化水素基を示し、nは0〜4の整数を示す)
【0016】
また、本発明に係る多層板は、上記プリプレグを内層用回路板に重ねて加熱加圧し、積層成形したものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のプリプレグによれば、ボイドの発生を抑制できる程度の成形性を有しながら、加熱加圧成形時に基材から樹脂組成物が必要以上に流出するのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)は多層板の製造工程を示す概略図、(b)は多層板の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。
【0020】
本発明のプリプレグに使用する樹脂組成物の第一の形態としては、リン変性エポキシ樹脂(A)、リン変性硬化剤(B)及びリン原子を含有しない硬化剤(C)を含有するものである。
【0021】
本発明に用いられるリン変性エポキシ樹脂(A)は、リン原子を含有するエポキシ樹脂のことを示す。リン変性エポキシ樹脂(A)としては、例えば、有機リン化合物とキノン化合物とを反応させ、この反応で生成する反応生成物と、エポキシ樹脂とを反応させて得られた樹脂を用いることができる。
【0022】
上記有機リン化合物としては、吸湿後のガラス転移温度を高めることができ、溶解性が良好で、リン含有量も高い点から、上記式(I)で表される有機リン化合物が好ましい。上記式(I)において、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜6の炭化水素基又は水素であり、好ましくは炭素数1〜6の直鎖または分岐のアルキル基を示す。nは0〜4の整数を示す。上記式(I)の有機リン化合物の好ましい具体例としては、3、4、5、6−ジベンゾ−1、2−オキサフォスファン−2−オキシド等を挙げることができる。
【0023】
その他、有機リン化合物として、ジフェニルホスフィンオキシド等を用いることができる。
【0024】
このような有機リン化合物と反応させる上記キノン化合物の具体例としては、1、4−ベンゾキノン、1、2−ベンゾキノン、トルキノン、1、4−ナフトキノン等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
一方、リン変性エポキシ樹脂(A)のもう一つの原料となる上記エポキシ樹脂としては、硬化物の耐熱性確保、特にガラス転移温度を高める点から、好ましくはフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂が用いられる。ノボラック型エポキシ樹脂は、好ましくは、エポキシ樹脂全量の20質量%以上(上限は100質量%)の割合で配合される。また、多官能エポキシ樹脂(1分子中に平均3個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂)を適宜併用すれば、多官能のリン変性エポキシ樹脂が得られる。同様にして、二官能エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂を適宜併用した場合は、二官能のリン変性エポキシ樹脂を得ることができる。
【0026】
リン変性エポキシ樹脂(A)の原料となるエポキシ樹脂がノボラック型エポキシ樹脂を含む混合物である場合、ノボラック型エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂の具体例としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を持つもの、例えばビスフェノール型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、ポリグリコール型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂等が挙げられる。二官能エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0027】
リン変性エポキシ樹脂(A)は、例えば、トルエン等の溶剤中において上記有機リン化合物および上記キノン化合物を反応させた後、その反応生成物とエポキシ樹脂とを混合して反応させることにより得ることができる。
【0028】
例えば、上記式(I)の有機リン化合物を用いる場合、有機リン化合物とキノン化合物との反応は、キノン化合物1モルに対して有機リン化合物を1〜2モルの範囲で配合し、予め有機リン化合物をジオキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の不活性溶剤に溶解したものにキノン化合物を添加し加熱攪拌することにより行うことができる。
【0029】
ここで、上記キノン化合物としては、予め粉末状にしたものや溶剤に溶解したものを用いることができる。また、有機リン化合物とキノン化合物との反応は発熱を伴うものであるため、急激な発熱が起きないように所定量のキノン化合物を滴下法により添加することが望ましい。そしてキノン化合物の添加後、例えば50〜150℃で1〜4時間の間反応を進行させることで、有機リン化合物とキノン化合物との反応生成物が得られる。
【0030】
その後、有機リン化合物とキノン化合物との反応生成物と、ノボラック型エポキシ樹脂等の上記エポキシ樹脂とを反応させてリン変性エポキシ樹脂(A)を合成する際には、例えば、以下のように行うことができる。すなわち、上記反応生成物にノボラック型エポキシ樹脂等の上記エポキシ樹脂を添加し、必要に応じてトリフェニルホスフィン等の触媒を添加し、そして、反応温度を100〜200℃に設定し、攪拌しながら反応を進行させることができる。
【0031】
このようにして得られるリン変性エポキシ樹脂(A)は、多層板の難燃性を確保しつつ耐熱性の低下も抑制する点から、合成条件を適宜変更することでリン含有量を1.2〜4質量%に調整すると共に、エポキシ当量を200〜600g/eqに調整することが好ましい。
【0032】
本発明に用いられるリン変性硬化剤(B)は、活性水素を有する硬化剤の一つである。そして、本発明におけるリン変性硬化剤(B)とは、リン原子を含有する硬化剤である。
【0033】
リン変性硬化剤(B)は、有機リン化合物と、フェノール類及びホルムアルデヒドを反応させて得られる縮合生成物を少なくとも1種のモノマーアルコールでエーテル化した化合物(以下、「化合物(E)」という)と、を反応させて得られたものが好ましい。具体的にリン変性硬化剤(B)としては、特表2008−501063号公報に記載されたリン変性硬化剤を用いることができる。
【0034】
有機リン化合物としては、上記式(I)の有機リン化合物を好ましく用いることができ、その具体例としては、3、4、5、6−ジベンゾ−1、2−オキサフォスファン−2−オキシドを挙げることができる。その他の有機リン化合物の具体例としては、ジメチルホスファイト、ジフェニルホスファイト、エチルホスホン酸、ジエチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、フェニルホスホン酸、フェニルホスフィン酸、ジメチルホスフィン酸、フェニルホスフィン、ビニルリン酸等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
上記フェノール類の具体例としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、ビスフェノールA等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
これらのフェノール類と、ホルムアルデヒドとを反応させて、モノマー、ダイマー、又はそれ以上の縮合生成物を1種又は2種以上得た後、この縮合生成物を少なくとも1種のモノマーアルコールで部分的または完全にエーテル化し、化合物(E)とする。これにより、例えば、メチレン結合及び/又はジメチレンエーテル結合を有し、ベンゼン環上に水酸基を有する化合物(E)を得ることができる。尚、上記縮合反応は公知の方法で行うことができる。
【0037】
上記モノマーアルコールの具体例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、ペンチルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール等の炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルコール等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
上記の有機リン化合物及び化合物(E)からリン変性硬化剤(B)を合成する際には、例えば、有機リン化合物と化合物(E)とを反応器中で混合し、170℃以上かつこれらの化合物の分解温度未満の温度で2〜6時間反応を進行させる。この際、副生成物等を除去するために反応器中の圧力を大気圧未満の圧力、例えば10kPa(0.1bar)未満まで低下させ、必要に応じて気体または揮発性有機液体でパージしながら反応を進行させる。
【0039】
有機リン化合物と化合物(E)は、好ましくは2:1〜1:2の範囲の当量比で混合する。必要に応じて、有機リン化合物と化合物(E)との混合物に触媒や溶剤等を添加することができる。
【0040】
このようにして得られたリン変性硬化剤(B)は、数平均分子量が好ましくは50〜10000、重量平均分子量が好ましくは100〜15000である。
【0041】
また、リン変性硬化剤(B)は、リン含有量が好ましくは4〜12質量%であり、メトラー軟化点が好ましくは100〜250℃である。
【0042】
第一の形態に用いられるリン原子を含有しない硬化剤(C)は、少なくとも数平均分子量500〜3000で1分子中に平均1.0〜3.0個の水酸基を有するポリフェニレンエーテル(以下、「ポリフェニレンエーテル(C1)」という)を含むものである。リン原子を含有しない硬化剤(C)は、リン変性エポキシ樹脂(A)のようなエポキシ樹脂に対して硬化剤として機能するものである。本発明では、少なくともポリフェニレンエーテル(C1)を含むようなリン原子を含有しない硬化剤(C)を用いることで、多層板2の誘電特性を高めることができる。
【0043】
1分子中に平均1.0〜3.0個の水酸基を有するポリフェニレンエーテル(C1)としては、例えば、直鎖構造の構成単位として−O−X−O−の構造を有するものを用いることができる。ここでXは、置換または無置換のフェニレン基、あるいは置換または無置換の2個のフェニレン基が炭素数20以下の直鎖状、分岐状、または環状の炭化水素で結合したような2価の基等が挙げられる。フェニレン基が有する置換基としては、水酸基、炭素数6以下のアルキル基またはフェニル基等が挙げられる。
【0044】
上記ポリフェニレンエーテル(C1)の数平均分子量は500〜3000である。ポリフェニレンエーテル(C1)の数平均分子量が500未満であると、水酸基の量が多くなり誘電率が低下しにくくなる場合がある。ポリフェニレンエーテル(C1)の数平均分子量が3000を超えると、エポキシ樹脂との相溶性が低下する場合がある。特に、リン変性を行ったエポキシ樹脂(リン変性エポキシ樹脂(A))との相溶性は大幅に低下するおそれがある。
【0045】
また、ポリフェニレンエーテル(C1)1分子中の水酸基が平均1.0〜3.0個であることによって、リン変性エポキシ樹脂(A)とポリフェニレンエーテル(C1)との相溶性が低下するのを抑制することができる。
【0046】
さらに本発明では、ポリフェニレンエーテル(C1)として、数平均分子量が500〜2000であり、1分子中に平均1.5〜2.5個の水酸基を有するものを用いることが特に好ましい。このようなポリフェニレンエーテル(C1)を用いることで、エポキシ樹脂との相溶性を特に高めることができる。
【0047】
数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography)により求められる。また、1分子中に平均1.0〜3.0個(又は平均1.5〜2.5個)の水酸基を有することは、例えば、ポリフェニレンエーテル(C1)の原材料であるポリフェニレンエーテルの水酸基数から確認される。
【0048】
上述のように、上記のポリフェニレンエーテル(C1)自体を用いた場合、エポキシ樹脂との相溶性が高まり、たとえエポキシ樹脂組成物が海島構造となった場合であっても接着性が低下することなく、層間剥離などの物理物性の低下を抑制することができる。
【0049】
ポリフェニレンエーテル(C1)は、リン原子を含有しない硬化剤(C)中に20〜95質量%含まれることが好ましい。ポリフェニレンエーテル(C1)の含有量がこの範囲であれば、リン変性エポキシ樹脂(A)との相溶性が悪化しすぎるおそれは小さく、接着性を低下させるおそれも小さくなり、また、誘電特性が悪化しすぎることもない。
【0050】
本発明では、リン原子を含有しない硬化剤(C)は、ポリフェニレンエーテル(C1)以外にも、リン原子を含有しないような硬化剤を含むことができる。そのような硬化剤の具体例としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂等のフェノール系硬化剤、ジシアンジアミド、酸無水物系硬化剤、アミン系硬化剤等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0051】
リン原子を含有しない硬化剤(C)が上記構成であることによって、樹脂組成物をプリプレグ1に用いて多層板2を形成させた場合に、多層板2に必要な特性をバランス良く与えるができるものとなる。
【0052】
第一の形態の樹脂組成物としては、リン原子を含有しないエポキシ樹脂をさらに含むものであってもよい。
【0053】
上記リン原子を含有しないエポキシ樹脂としては、多官能のリン原子を含有しないエポキシ樹脂が挙げられ、具体例としては、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。このような多官能のリン原子を含有しないエポキシ樹脂をさらに配合することにより、多層板2に必要な特性をバランス良く得ることができる。
【0054】
中でも、環境対策の点から、臭素原子等のハロゲン原子を含有しないものが好ましい。また、エポキシ樹脂組成物の硬化物の耐熱性確保、特にガラス転移温度を高める点からは、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂がより好ましい。
【0055】
上記リン原子を含有しないエポキシ樹脂は、樹脂組成物全量に対して0〜80質量%配合することができ、この範囲であれば、リン変性エポキシ樹脂(A)との相溶性が低下しにくいものとなる。
【0056】
上記リン原子を含有しないエポキシ樹脂としては、多官能のリン原子を含有しないエポキシ樹脂の他、二官能エポキシ樹脂も挙げられる。このような二官能エポキシ樹脂をさらに配合することにより、積層板や多層板に必要な特性をバランス良く得ることができる。ここでいう二官能エポキシ樹脂とは、1分子中に平均2.3個以下のエポキシ基を有するエポキシ樹脂のことである。二官能エポキシ樹脂の具体例としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
第一の形態の樹脂組成物において、リン変性エポキシ樹脂(A)の好ましい含有量は、樹脂組成物の樹脂固形分全量に対して5〜80質量%である。
【0058】
また、ポリフェニレンエーテル(C1)とその他の硬化剤成分(リン変性硬化剤(B)とC1以外のリン原子を含有しないような硬化剤)とを合わせた成分の当量と、エポキシ樹脂成分(リン変性エポキシ樹脂(A)とリン原子を含有しないエポキシ樹脂)の当量との化学量論上の当量比([ポリフェニレンエーテル(C1)+その他の硬化剤成分の当量]/エポキシ樹脂成分の当量)が0.5〜1.5となる量、より好ましくは当量比が0.8〜1.2となる量で配合される。当該配合量がこの範囲内であれば、硬化物の物性等の低下が防止でき、例えば、ガラス転移温度が低下するおそれもない。
【0059】
また、第一の形態の樹脂組成物では、リン変性硬化剤(B)を用いることで、積層板や多層板2に必要な難燃性および耐熱性を確実に確保しつつ、ポリフェニレンエーテル化合物(C1)を用いることで誘電特性を高めることができるものである。
【0060】
本発明のプリプレグ1に使用する樹脂組成物の第二の形態としては、リン変性エポキシ樹脂(A)、リン変性硬化剤(B)、リン原子を含有しない硬化剤(C)及びリン原子を含有しないエポキシ樹脂(D)を含有するものである。
【0061】
第二の形態の樹脂組成物では、リン変性エポキシ樹脂(A)及びリン変性硬化剤(B)としては、上述の第一の形態の樹脂組成物のものと同様のものを用いることができる。
【0062】
一方、リン原子を含有しない硬化剤(C)は、第一の形態と同様に上記ポリフェニレンエーテル(C1)を含むものであってもよいし、これを含まないものであってもよい。第二の形態におけるリン原子を含有しない硬化剤(C)として、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂等のフェノール系硬化剤、ジシアンジアミド、酸無水物系硬化剤、アミン系硬化剤等のいずれか1種単独又は2種以上のみからなるものであってもよい。
【0063】
リン原子を含有しないエポキシ樹脂(D)は、少なくともポリフェニレンエーテルと、1分子中に平均2.3個以下のエポキシ基を有する樹脂との反応生成物であるエポキシ樹脂を含むものである。
【0064】
具体的に、この場合におけるポリフェニレンエーテル(以下、「ポリフェニレンエーテル(D1)」という)としては、数平均分子量が500〜3000で1分子中に平均1.5〜2.0個の水酸基を有するものである。尚、ポリフェニレンエーテル(D1)の基本骨格構造については、上記ポリフェニレンエーテル(C1)と同じものである。
【0065】
ポリフェニレンエーテル(D1)の数平均分子量は500未満であると、水酸基の量が多くなり誘電率が低下しにくくなる場合がある。ポリフェニレンエーテル(D1)の分子量が3000を超えると、エポキシ樹脂(A)との相溶性が低下する場合がある。特に、リン変性を行ったエポキシ樹脂(リン変性エポキシ樹脂(A))との相溶性は大幅に低下するおそれがある。
【0066】
また、ポリフェニレンエーテル(D1)1分子中の水酸基が平均1.5〜2.0個であることによって、リン変性エポキシ樹脂(A)とポリフェニレンエーテル(D1)との相溶性が低下するのを抑制することができる。
【0067】
上記ポリフェニレンエーテル(D1)を使用することで、リン原子を含有しないエポキシ樹脂(D)の製造時における重合反応を適切に調節することができるものとなる。
【0068】
そして、ポリフェニレンエーテル(D1)と反応させる1分子中に平均2.3個以下のエポキシ基を有するエポキシ樹脂としては、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するものであれば特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。このような1分子中に平均2.3個以下のエポキシ基を有するエポキシ樹脂中のエポキシ基の個数下限は、1分子中に平均2個であることが好ましい。尚、1分子中に平均2.3個以下のエポキシ基を有するエポキシ樹脂として、リン変性エポキシ樹脂(A)の1種である二官能リン変性エポキシ樹脂を適宜併用してもよい。この場合、リン変性エポキシ樹脂(A)中に、あるいは、1分子中に平均2.3個以下のエポキシ基を有するエポキシ樹脂中に二官能リン変性エポキシ樹脂を添加しておけばよい。
【0069】
リン原子を含有しないエポキシ樹脂(D)が、上記反応で得られた反応生成物であるエポキシ樹脂を含むことで、リン変性エポキシ樹脂(A)等の他の樹脂成分と相溶させることができ、さらに相溶性が向上するものとなる。上記反応生成物は、リン原子を含有しないエポキシ樹脂(D)の全量に対して1〜50質量%配合することができ、この範囲であれば、相溶性が低下するのを抑制することができる。
【0070】
ここで、エポキシ樹脂(D)が1分子中に平均2.3個以下のエポキシ基を有することは、原料である平均2.3個以下のエポキシ基を有するエポキシ樹脂と、ポリフェニレンエーテル(D1)との反応後、反応物のエポキシ当量の測定(JIS K 7236準拠)から確認できる。また、当該エポキシ樹脂(D)を構成する原料1分子中のエポキシ基の量を2.3個以下にすることでも理論上、確認できる。
【0071】
また、ポリフェニレンエーテル(D1)と1分子中に平均2.3個以下のエポキシ基を有するエポキシ樹脂のそれぞれの数平均分子量がわかっていれば、それらの反応で得られたリン原子を含有しないエポキシ樹脂(D)の数平均分子量も理論上算出可能である。尚、ポリフェニレンエーテル(D1)と1分子中に平均2.3個以下のエポキシ基を有するエポキシ樹脂のそれぞれの数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography)により求められる。
【0072】
上記のポリフェニレンエーテル(D1)と1分子中に平均2.3個以下のエポキシ基を有するエポキシ樹脂との反応は、例えば、当量比を考慮して配合量を設定し、これらをジオキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の不活性溶剤に溶解させる。そして、必要に応じてイミダゾール系化合物等の硬化促進剤を添加し、反応温度を100〜200℃に設定して攪拌しながら反応を進行させる。
【0073】
リン原子を含有しないエポキシ樹脂(D)は、上記ポリフェニレンエーテル(D1)と、1分子中に平均2.3個以下のエポキシ基を有する樹脂との反応生成物であるエポキシ樹脂の他に、多官能でリン原子を含有しないエポキシ樹脂を含んでもよい。このような多官能でリン原子を含有しないエポキシ樹脂を、リン原子を含有しないエポキシ樹脂(D)に配合すると、樹脂組成物をプリプレグに用いて多層板2を形成させた場合に、必要な特性をバランス良く与えるができるものとなる。
【0074】
上記多官能でリン原子を含有しないエポキシ樹脂の具体例としては、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0075】
中でも、環境対策の点からは、臭素原子等のハロゲン原子を含有しないものが好ましい。また、樹脂組成物の硬化物の耐熱性確保、特にガラス転移温度を高める点からは、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。
【0076】
第二の形態の樹脂組成物において、リン変性エポキシ樹脂(A)の好ましい含有量は、樹脂組成物の樹脂固形分全量に対して5〜80質量%である。また、リン変性硬化剤(B)及びリン原子を含有しない硬化剤(C)は、好ましくは、樹脂組成物中のエポキシ樹脂との化学量論上の当量比([リン変性硬化剤(B)及びリン原子を含有しない硬化剤(C)の当量]/[リン変性エポキシ樹脂(A)とリン原子を含有しないエポキシ樹脂(D)の当量])が0.5〜1.5となる量、より好ましくは当量比が0.8〜1.2となる量で配合される。当該配合量がこの範囲外であれば、硬化物の物性等が低下するのを防止でき、例えばガラス転移温度の低下を防止することができる。
【0077】
第一の形態又は第二の形態の樹脂組成物には、本発明の効果が損なわれない範囲内において、上記成分(A)〜(D)と共に他の成分を配合することができる。このような他の成分の具体例としては、無機充填材、硬化促進剤等が挙げられる。
【0078】
無機充填材は、これを樹脂組成物に配合することで誘電特性を高めることができる。無機充填材としては、例えば、溶融シリカ等が挙げられる。中でも、平均粒子径(メジアン径)1〜5μmのものが好ましい。無機充填材の含有量は、樹脂組成物の樹脂固形分に対して35〜350質量%でありこの範囲であれば、誘電特性や流動特性等の物性に悪影響を与えるおそれがない。尚、本明細書においてエポキシ樹脂組成物の「樹脂固形分」とは、樹脂組成物に配合される上記成分(A)〜(D)等の樹脂成分による固形分(無機充填材は含まない。)のことである。
【0079】
硬化促進剤としては、例えば、イミダゾール類、第3級アミン類、第4級アンモニウム塩、有機ホスフィン類等が挙げられ、例えば、2−エチル−4−メチルイミダゾール等を使用できる。
【0080】
また、本発明のプリプレグ1に使用する樹脂組成物は、溶剤で希釈することによりワニスとして調製してもよい。このような溶剤の具体例としては、N、N−ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド類、エチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール等のアルコール類、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類等が挙げられる。
【0081】
樹脂組成物は、リン含有量がエポキシ樹脂組成物の樹脂固形分に対して1.5〜4.5質量%、好ましくは1.7〜3.0質量%である。リン含有量を当該範囲内とすることで、臭素原子等を含有するハロゲン系化合物を用いずとも十分な難燃性を確保することができると共に、電子・電気機器に用いられる積層板や多層板に必要な耐熱性を得ることができる。リン含有量が1.5質量%未満であると、多層板1に必要な難燃性を得ることができない場合がある。一方、リン含有量が4.5質量%を超えると、多層板1に必要な耐熱性が得られない場合がある。
【0082】
本発明のプリプレグ1を作製する際には、上記の樹脂組成物をワニスとして調製し、このワニスを基材に含浸する。そして、例えば、乾燥機中で120〜190℃、3〜15分間の加熱乾燥をすることにより、半硬化状態(B−ステージ)にしたプリプレグ1を作製することができる。
【0083】
上記のように第一の形態又は第二の形態の樹脂組成物ワニスを基材に含浸して得られたプリプレグ1は、130℃定温での最低溶融粘度が5万〜10万poiseである(1Poise=0.1Pa・s=1.02×10−2kgf・s/m)。上記最低溶融粘度が5万Poise未満であると、多層板2の加熱加圧成形時に基材から樹脂組成物が必要以上に流出してしまうものとなり、成形性も損なわれてしまう。そのため、図1(b)のようなフレックスリジッドプリント配線板(多層板2)を製造する場合には、樹脂組成物がフレックス部7を汚染してしまう。逆に、上記最低溶融粘度が10万Poiseを超えると、樹脂組成物が流動しにくくなってボイドが発生しやすくなってしまうものとなる。これは、図1(b)のようなフレックスリジッドプリント配線板(多層板2)を製造する場合において、導体パターン5間の間隙を樹脂組成物で充填しにくくなってしまうからである。プリプレグ1の130℃定温での最低溶融粘度は、例えば、島津製作所社製のフローテスタCFT−100等によって流動特性の評価で求めることができ、一定温度、一定荷重における流出開始温度、あるいは軟化開始を観測することで測定することができる。
【0084】
上記最低溶融粘度は、ワニスを基材に含浸した際に、乾燥機中で加熱乾燥条件、すなわち、加熱温度、乾燥時間により、任意に調節することが可能であるし、あるいは、樹脂組成物の配合比によっても調節することが可能である。さらに、一度形成されたプリプレグ1を再度乾燥し、この乾燥条件を調整することでも上記最低溶融粘度の調節が可能である。生産性の観点から、上記最低溶融粘度の調節は、最初の乾燥機中で加熱乾燥条件の設定や配合比等で行うことが好ましい。
【0085】
従って、プリプレグ1の上記最低溶融粘度が上記範囲であることで、このプリプレグ1で多層板2を形成しても、ボイドの発生を抑制できる程度の成形性を有しながら、加熱加圧成形時に基材から樹脂組成物が必要以上に流出するのを抑制できるものとなる。
【0086】
上記基材としては、ガラスクロス、ガラスペーパー、ガラスマット等のガラス繊維布の他、クラフト紙、天然繊維布、有機合成繊維布等も用いることができる。
【0087】
本発明の多層板2は、上記のようにして得られたプリプレグ1を、内層用回路板に重ねて加熱加圧し、積層成形して形成され得るものである。多層板2は、次のようにして作製することができる。予め積層板やフレキシブル基板3の片面または両面にアディティブ法やサブトラクティブ法等により内層用の回路を形成すると共に、酸溶液等を用いてこの回路の表面に黒化処理を施すことにより、内層用回路板を作製しておく。
【0088】
そして、この内層用回路板の片面または両面に、上記のプリプレグ1を所要枚数重ね、さらに必要に応じてその外面に金属箔を重ねて、これを加熱加圧して積層成形することにより多層板2を作製することができる。上記のようにして作製した多層板2の片面または両面にアディティブ法やサブトラクティブ法等によって回路を形成し、必要に応じて、レーザ加工やドリル加工等により穴あけを行い、この穴にめっきを施してバイアホールやスルーホールを形成する等の工程を行うことによって、多層板2を作製することができる。
【0089】
具体的な多層板の作製方法としては、例えば、図1(a)のように、フレキシブル基板3の両端部付近の両面に設けた導体パターン5を覆うようにプリプレグ1をフレキシブル基板3(内層用回路板)の両端部に所要枚数重ねる。次いで、導体パターン5を設けたリジッド基板4を、導体パターン5とプリプレグ1とが対向するように重ねて配置させる。そして、これらを加熱加圧成形することで、フレックスリジッドプリント配線板としての多層板2が製造される。この製造方法で得られる多層板2は、図1(b)に示すように、複数のリジッド部6がフレックス部7を介して一体化されており、フレックス部7で折り曲げ可能となるように形成される。尚、加熱成形時の離型性を高めるために、両面には離型フィルムを重ねておくとよい。
【0090】
上記加熱成形は、特に限定されるものではないが、例えば、140〜220℃、0.5〜5.0MPa、40〜240分間の条件下で行うことができる。
【0091】
上記多層板2においては、プリプレグ1が上記のような特定範囲の粘度を有するものであり、ある程度の成形性を有しているので、リジッド部6において導体パターン5間の間隙を樹脂組成物で隙間なく充填することができる。そのため、ボイドの発生が抑制されるものとなり、また、加熱加圧成形時に基材から樹脂組成物が必要以上に流出するのを抑制することができるので、フレックス部7が樹脂組成物で汚染されにくいものである。
【0092】
また、本発明のプリプレグ1に使用している樹脂組成物は、ハロゲンフリーの原料で構成されるので、性能面や環境面の点においても優れており、多層板2の劣化が起こりにくいものとなる。また、上記樹脂組成物は、低誘電率、低誘電正接でもあり、フレックスリジッドプリント配線板等の多層板2において信号のさらなる高速化等にも対応できるものである。
【実施例】
【0093】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
(実施例1〜4及び比較例1〜4)
実施例1〜4及び比較例1〜4において、表1に示す配合で樹脂組成物を調製した。表1に示した原料を以下のとおりである。
【0094】
(A)リン変性エポキシ樹脂
・新日鐵化学(株)製、FX289 EK75(エポキシ当量 315g/eq、リン含有量は2.2質量%)
このFX289 EK75は、3、4、5、6−ジベンゾ−1、2−オキサフォスファン−2−オキシド及び1、4ナフトキノンの反応生成物と、ノボラック型エポキシ樹脂との反応により得られるリン変性エポキシ樹脂である。
【0095】
(B)リン変性硬化剤
・特表2008−501063号公報の実施例8に従って、式(I)の有機リン化合物と、フェノール類およびホルムアルデヒドを反応させて得られる縮合生成物をモノマーアルコールでエーテル化した化合物とを反応させて得られたリン変性フェノール化合物
この化合物は次のようにして得られた。3、4、5、6−ジベンゾ−1、2−オキサホスファン−2−オキシドと、ブチルエーテル化フェノールA及びホルムアルデヒド縮合生成物とを、質量比約3:2で機械的撹拌機及び加熱ジャケットを装着したガラス反応器中に装入し、これに窒素ガス入口、凝縮器及び溶媒回収装置を取り付けた。混合物を96℃から199℃まで180分で加熱した。ブタノールを、温度を上昇させたときに段階的に回収した。反応混合物から揮発分がそれ以上放出されなくなるまで、反応混合物を200℃に20分間保持した。得られた固体材料を反応器から取り出した。DSCによって測定されたTgは約108.5℃であった。これにより得られた生成物は、オリゴマーの1つが、式(I)の有機リン化合物がビスフェノールAに4つ結合した構造を有するオリゴマーのブレンドであると考えられる。
【0096】
(C)リン原子を含有しない硬化剤
・c1:日本カーバイド製ジシアンジアミド
・c2:SABICイノベーティブプラスチックス製、ポリフェニレンエーテルSA90(数平均分子量が500〜2000であり1分子中に平均1.5〜2.0個の水酸基を有するポリフェニレンエーテル、「ポリフェニレンエーテル(C1)」に相当)。
【0097】
(D)リン原子を含有しないエポキシ樹脂
・d1:ポリフェニレンエーテル(D1)と、1分子中に平均2.3個以下のエポキシ基を有するエポキシ樹脂との反応物
反応は以下のように行った。ポリフェニレンエーテルSA90(「ポリフェニレンエーテル(D1)」に相当)56.95g、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成(株)製、エポトートYD−128、エポキシ基を1分子中に平均2個含有、「1分子中に平均2.3個以下のエポキシ基を有するエポキシ樹脂」に相当)43.05g、硬化促進剤として、2−エチル−4−メチルイミダゾール(四国化成工業(株)製、キュアゾール2E4MZ)0.1g、溶剤として、トルエン70gを冷却管付きフラスコに入れ、110℃の熱を加え5時間反応させることで、反応物を得た。得られた反応物について、JIS K7236:1986に準じてエポキシ当量を求めたところ、エポキシ当量は650であった。また、固形分濃度は60質量%であった。
・d2:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、DIC(株)製、N690−75M、エポキシ当量210〜240g/eq
・d3:ビスフェノールA型エポキシ樹脂、新日鐵化学(株)製、YD−128、エポキシ当量170〜190g/eq。
【0098】
(硬化促進剤)
・2−エチル−4−メチルイミダゾール、四国化成工業(株)製、キュアゾール 2E4MZ
(溶剤)
・ジメチルホルムアミド(DMF)
・トルエン

上記の各成分を表1に示す割合(質量部)で配合して調製した樹脂組成物(ワニス)を、ガラスクロス(日東紡(株)製、WEA7628)に含浸させた後、これを乾燥機にて表1に示す条件で加熱乾燥させることにより、半硬化のBステージ状態にしたプリプレグを作製した。各実施例及び比較例で得られたプリプレグの130℃での最低溶融粘度を表1に示す。
【0099】
このように得られたプリプレグを8枚重ね、さらに、この両側に離型フィルム(デュポン(株)製「テドラーフィルム」)を重ね、これを170℃、5MPa、90分の条件で加熱加圧成形することによって積層板を製造した。この積層板について目視によりボイドの有無、誘電率/誘電正接、相溶性、粉落ちの有無について評価した。これらの評価結果を表1に示す。
【0100】
各評価は以下の方法により行った。
【0101】
(130℃での最低溶融粘度)
(株)島津製作所のフローテスタCFT−100を用い、荷重40kgf/cmにおいて、プリプレグの溶融粘度の測定を行い、その最低値を記録した。測定温度は130℃で一定とした。
【0102】
(樹脂流れ性)
各樹脂組成物について、IPC−TM−650 2.3.17.2に基づいて樹脂流れ性を評価した。
【0103】
(ボイドの有無)
得られた積層板について目視によりボイドの有無を判定した。
【0104】
(誘電率/誘電正接)
得られた積層板について、IPC−TM−650 2.5.5.9に基づき測定を行った。
【0105】
(相溶性)
得られた積層板を500倍の光学顕微鏡で観察し、分離が無いかどうかを目視で確認した。
【0106】
(粉落ちの有無)
積層板を内層回路の上に重ねた際に、必要部分にプリプレグの粉が落ちていないか目視により確認した。
【0107】
【表1】

【0108】
表1から明らかなように、比較例1〜3ではプリプレグの溶融粘度が低いため、粉落ちが発生していた。比較例4は、粉落ちは無かったが、プリプレグの溶融粘度が高いためにボイドが確認された。
【0109】
これに対して、実施例1〜4の樹脂組成物を用いたプリプレグは、130℃での最低溶融粘度は5万〜10万Poiseであり、ボイドの発生を抑制でき、さらに樹脂組成物が必要以上に流動することも抑制できることが確認された。また、実施例2〜4においては、相分離は確認されなかった。これは、ポリフェニレンエーテル成分が樹脂中で分離していないことを示しており、リン原子を含有しないエポキシ樹脂(D)がポリフェニレンエーテル(D1)と、1分子中に平均2.3個以下のエポキシ基を有するエポキシ樹脂との反応物を含んでいるためであると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン変性エポキシ樹脂(A)、リン変性硬化剤(B)及びリン原子を含有しない硬化剤(C)を含有する樹脂組成物を用いたプリプレグであって、
前記リン原子を含有しない硬化剤(C)は、少なくとも数平均分子量500〜3000で1分子中に平均1.0〜3.0個の水酸基を有するポリフェニレンエーテルを含み、
溶融粘度が5万〜10万poiseであることを特徴とするプリプレグ。
【請求項2】
リン変性エポキシ樹脂(A)、リン原子を含有しないエポキシ樹脂(D)、リン変性硬化剤(B)及びリン原子を含有しない硬化剤(C)を含有する樹脂組成物を用いたプリプレグであって、
前記リン原子を含有しないエポキシ樹脂(D)は、少なくとも数平均分子量が500〜3000で1分子中に平均1.5〜2.0個の水酸基を有するポリフェニレンエーテルと、1分子中に平均2.3個以下のエポキシ基を有する樹脂の反応生成物であるエポキシ樹脂とを含み、
溶融粘度が5万〜10万poiseであることを特徴とするプリプレグ。
【請求項3】
前記リン変性エポキシ樹脂(A)は、下記式(I)で表される有機リン化合物及びキノン化合物の反応生成物と、ノボラック型エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂と、を反応させて得られたリン変性エポキシ樹脂を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のプリプレグ。
【化1】

(式中、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜6の炭化水素基を示し、nは0〜4の整数を示す)
【請求項4】
前記リン原子を含有しないエポキシ樹脂(D)として、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂及びフェノールノボラック型エポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする請求項2又は3に記載のプリプレグ。
【請求項5】
前記リン変性硬化剤(B)は、下記式(I)で表される有機リン化合物と、フェノール類及びホルムアルデヒドを縮合反応させて得られる縮合生成物を少なくとも1種のモノマーアルコールでエーテル化した化合物と、を反応させて得られたリン変性硬化剤を含有することを特徴とする請求項1乃至4いずれか一項に記載のプリプレグ。
【化2】

(式中、Rはそれぞれ独立に炭素数1〜6の炭化水素基を示し、nは0〜4の整数を示す)
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のプリプレグを内層用回路板に重ねて加熱加圧し、積層成形したものであることを特徴とする多層板。

【図1】
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【公開番号】特開2013−67685(P2013−67685A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−205539(P2011−205539)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】