説明

プリプレグ繊維製造方法およびプリプレグ繊維製造装置

【課題】ボイドの発生を防止または抑制させたプリプレグ繊維製造方法を提供する。
【解決手段】プリプレグ繊維50の製造装置100は、搬送される繊維束10を拡幅し、開繊する拡幅ローラ12と、開繊した繊維束を挿通させるための、並列する複数のスリットを有する含浸用部材14と、を備える。含浸用部材14は、スリットに挿通させた開繊繊維束のそれぞれに樹脂液を連続的に吐出し、含浸させる樹脂液吐出孔を有し、開繊された繊維束が複数の開口部に挿通される際に、該開繊された繊維束に対して樹脂液を供給する樹脂液供給部とを備えたことを特徴とするプリプレグ繊維製造装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリプレグ繊維製造方法およびプリプレグ繊維製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素や窒素など、常温常圧状態における容積の大きな気体を高密度、小容量にて貯蔵するための容器として、所定の圧力により圧縮させて液体または気体として貯蔵する、圧力容器が使用されている。従来、耐圧性を有する鋼鉄製その他の金属製圧力容器が使用されてきたが、近年、天然ガスや水素ガスなどを貯蔵した圧力容器を車両などの移動体に搭載し、燃料として使用する技術に適用するため、圧力容器に対して要求される性能として、高密度化可能な耐圧性、耐久性はもちろんのこと、容器の軽量化も重要な課題となっていた。
【0003】
一方、例えば炭素繊維強化樹脂(CFRP)などの繊維強化樹脂(FRP)を用いた圧力容器が知られている。FRP製の圧力容器は一般に、金属製圧力容器よりも軽量であるため、車両などの移動体への搭載には有利であり、また、水素用圧力容器として使用する場合における、従来の鋼鉄製容器の課題であった水素脆化その他の懸念も少ないため、特に注目されている。
【0004】
図6は、一般的なFRP製圧力容器の構成の概略を説明するための図である。図6に示す圧力容器200は例えば、6−ナイロン(ナイロン6とも称する)、6,6−ナイロン(ナイロン66とも称する)などのナイロン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリプロピレン樹脂などの熱可塑性樹脂で形成された中空形状のライナ30と、ライナ30の外周部分を被覆する繊維強化樹脂層(FRP層)32とを備え、構成されている。圧力容器200にはまた、少なくとも一つの口金38を有する。口金38には、図示しないバルブが接続可能に構成されており、このバルブ操作により圧力容器200の内外への高圧流体の流通を調節することができる。
【0005】
図7は、図6に示すA−A’断面の構成の概略を示す拡大図である。繊維強化樹脂層32は一般に、長く連続した糸状の繊維(フィラメント)に熱硬化性樹脂などの樹脂液を含浸させ、必要に応じて乾燥させたいわゆるプリプレグ繊維をライナの外周表面に巻きつけて、その後該樹脂液を硬化させることにより形成される。これにより、繊維強化樹脂層32は、図7に示すように、ライナ30の外周表面に複数回および/または複数本巻きつけられた繊維34の間を樹脂36が埋めるような構成を有することとなる。このとき、ライナ30の材質および/または厚みの他、例えば、繊維34の太さや巻き数を調整し、繊維強化樹脂層32の厚みを調整することにより、圧力容器200の設計圧力を制御することができる。
【0006】
圧力容器の製造に用いられるプリプレグ繊維を作製するに当たり、繊維束をそのまま樹脂液に浸漬させるだけでは、樹脂液の浸透が不十分なことに起因していわゆる含浸ムラが生じることがあり得た。このため、かかるプリプレグ繊維を作製する方法として、繊維束を予め開繊させることにより該繊維間に隙間を生じさせ、樹脂液の浸透を促進することが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−262443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、繊維束を単に開繊させた後に樹脂液に浸漬させるだけでは、繊維間に形成された隙間に空気が入り込み、いわゆるボイドが発生することがあり得た。このようなプリプレグ繊維を用いて作製された圧力容器については、ボイドを含まないプリプレグ繊維を用いて作製された圧力容器と比較して、樹脂量または樹脂密度が低い箇所を有するため、例えば耐衝撃性、耐圧性、耐久性などの物理的強度が懸念される場合があり得た。
【0009】
本発明は、繊維間のボイドの発生を防止または抑制させたプリプレグ繊維を作製することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の構成は以下のとおりである。
【0011】
(1)連続した糸状の繊維を樹脂液に含浸させたプリプレグ繊維を製造するためのプリプレグ繊維製造方法であって、前記繊維を複数束ねて構成される繊維束を拡幅して開繊する拡幅工程と、前記拡幅工程において開繊された繊維束を、並列する複数の開口部に挿通させる挿通工程と、前記開口部に挿通させた繊維束に樹脂液を連続的に供給し、繊維束に樹脂液を含浸させる含浸工程と、を含む、プリプレグ繊維製造方法である。
【0012】
(2)連続した糸状の繊維を複数束ねて構成される繊維束を、所定の搬送路に沿って連続的に搬送する搬送部と、搬送された繊維束を拡幅して開繊する拡幅部と、開繊された繊維束を挿通させるための複数の開口部を有する開口部材と、前記開繊された繊維束が複数の開口部に挿通される際に、該開繊された繊維束に対して樹脂液を供給する樹脂液供給部と、を備えた、プリプレグ繊維製造装置である。
【0013】
(3)前記樹脂液供給部が、前記開口部材の内部から内面に向かって形成された、樹脂液を連続的に供給する供給路と、開口部材の内面に形成され、前記供給路に連通した吐出孔と、を介して樹脂液を繊維束に供給する、プリプレグ繊維製造装置である。
【発明の効果】
【0014】
プリプレグ繊維間のボイドの発生を防止または抑制させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態におけるプリプレグ繊維の製造装置の一例について、その構成の概略を説明するための図である。
【図2】図1に示す拡幅ローラ12の一例を示す要部拡大図である。
【図3】図1に示す含浸用部材14の一例を示す要部拡大図である。
【図4】図1に示す収束ローラ16の一例を示す要部拡大図である。
【図5】本発明の実施の形態におけるプリプレグ繊維の製造方法について示したフローチャートである。
【図6】圧力容器の構成の概略を示す図である。
【図7】図6に示すA−A’断面の構成の概略を示す拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を用いて詳細に説明する。
【0017】
図1を参照し、本発明の実施の形態におけるプリプレグ繊維の製造装置の構成の概略について説明する。図1に示すプリプレグ繊維の製造装置100は、連続的に搬送される繊維束10を拡幅し、開繊する拡幅ローラ12と、開繊した繊維束(以下「開繊繊維束」と称する場合もある)に樹脂液を含浸させる含浸用部材14と、樹脂液を含浸させた樹脂含浸繊維20を収束させる収束ローラ16と、収束させたプリプレグ繊維50を巻き取る巻取りローラ18と、を備える。繊維束10は一般に、必要な長さの繊維束を巻き取ったボビンを設置した送出しローラ(図示せず)から搬送される。必要に応じて、駆動または搬送ローラ22,24、ダンサーロールやアキュームレータなどの図示しない張力緩和装置その他の公知の搬送補助機構を適用することができる。
【0018】
図2は、図1に示す拡幅ローラ12の一例を示す要部拡大図である。図2に示す拡幅ローラ12は、表面の摩擦抵抗を交互に変更させたライン形状を有する円筒状の拡幅ローラ部材12a,12bの端部同士を接合させて一体化した構成を有している。拡幅ローラ12の表面に形成されたラインは、拡幅ローラ12の回転に伴い、その上部を図面手前側から奥に向かって搬送された、ここでは図示しない繊維束が拡幅ローラ12のほぼ中央に位置する拡幅ローラ部材12a,12bの接合部12cに対して外側、つまり繊維束が拡幅されるよう、拡幅ローラ部材12a,12bの接合面に対して互いに対称となるように繊維束の搬送方向に対して斜めに形成されている。
【0019】
本実施の形態において、拡幅ローラ12または拡幅ローラ部材12a,12bの表面に形成されるライン形状は、例えば、所望するライン形状となるようにその表面粗さを異ならせることにより形成することができるが、その手法に制限はなく、例えば表面粗さを変更するために材質を変化させることにより形成するものであっても良い。なお、設定される摩擦抵抗の程度は、搬送される繊維束10の材質やその太さ、必要とされる開繊の程度などに応じて適宜設定することができる。
【0020】
図3は、図1に示す含浸用部材14の一例を示す要部拡大図である。図3に示す含浸用部材14は、全体として下方が開放した櫛形状の外観を有している。含浸用部材14は、開繊された繊維束の搬送方向に所定の厚みを有し、その長手方向が該開繊繊維束の搬送方向にほぼ垂直でかつ水平方向となるように配置される樹脂液配分枠14aと、樹脂液配分枠14aから鉛直方向下向きに延び、ほぼ等間隔に並んで配置された複数のガイド14bを備える。ガイド14bは、櫛の「歯」に相当する部材であり、含浸用部材14に搬送される開繊繊維束を、隣り合うガイド14bの間に形成されたスリット14cのそれぞれにほぼ均等に分配し、挿通させることができる。
【0021】
樹脂液配分枠14aは中空形状を有し、その内部を樹脂液が流通するように形成されている。また、樹脂液配分枠14aの上部に形成された樹脂液導入口14dから導入された樹脂液が樹脂液配分枠14aの内部全体に行き渡り、樹脂液配分枠14aの底面であって、隣り合うガイド14bの間に形成された樹脂液吐出孔14eから連続的に吐出された樹脂液が、スリット14cに挿通された開繊繊維束に浸透し、含浸させるように形成されている。なお、含浸用部材14の形状は、図3に示すような下方が開放した櫛形状のものに限らず、他の実施の形態として、例えばスリットの下方が閉じた、全体として格子状のものであってもよい。
【0022】
また、樹脂液吐出孔14eは、樹脂液配分枠14aの底面に限らず、必要に応じて、さらにガイド14bからも樹脂液が吐出されるように構成してもよい。
【0023】
図4は、図1に示す収束ローラ16の一例を示す要部拡大図である。図4に示す収束ローラ16は、表面の摩擦抵抗を交互に変更させたライン形状を有する円筒状の収束ローラ部材16a,16bの端部同士を接合させて一体化した構成を有している。収束ローラ16の表面に形成されたラインは、収束ローラ16の回転に伴い、その上部を図面手前側から奥に向かって搬送された、ここでは図示しない樹脂含浸繊維が収束ローラ16のほぼ中央に位置する収束ローラ部材16a,16bの接合部16cに向かって、つまり樹脂含浸繊維が収束するよう、収束ローラ部材16a,16bの接合面に対して互いに対称となるように樹脂含浸繊維の搬送方向に対して斜めに形成されている。
【0024】
本実施の形態において、収束ローラ16または収束ローラ部材16a,16bの表面に形成されるライン形状は、上述した拡幅ローラ12または拡幅ローラ部材12a,12b表面のライン形状と同様の手法により作製することができる。なお、図2に示す拡幅ローラ12の回転方向を逆にし、かつその上部を図面奥から手前側に向かって樹脂含浸繊維20が搬送されるように配置することにより、拡幅ローラ12は収束ローラ16の役目を果たすことができる。同様に、収束ローラ16もまた、その配置を変更することにより、拡幅ローラ12の役目を果たすことができる。このため、拡幅ローラ12および収束ローラ16は、互いに異なる形状を有するものをそれぞれ用意してもよく、また、同様の構成を有するローラを2つ用意し、その配置を変更するだけであっても良い。
【0025】
図1〜5を参照して、本発明の実施の形態におけるプリプレグ繊維の製造方法の概略について説明する。まず、搬送される繊維束10を、拡幅ローラ12を用いて拡幅して開繊する(S100)。次いで、開繊した繊維束10を、含浸用部材14に形成されたスリット14cに挿通させる(S102)。次いで、スリット14cに挿通された、開繊した繊維束10に、樹脂吐出孔14eから樹脂液を吐出させ、含浸させて樹脂含浸繊維20を形成する(S104)。次いで、収束ローラ16を用いて、搬送される樹脂含浸繊維20を収束させ(S106)、得られたプリプレグ繊維50を必要に応じて巻取りローラ18により巻き取る(S108)。他の実施の形態として、S108に代えて、圧力容器の作製材料であるライナに直接巻きつけても良い。
【0026】
本発明の実施の形態において、図1に示す繊維束10を構成する繊維の材料としては、例えばガラス繊維、炭素繊維、ケブラ繊維などを用いることが可能であり、特に比強度、比剛性の観点から炭素繊維が好適に用いられる。より具体的には、T800繊維(東レ社製)、テナックスIM600(商品名)(東邦テナックス社製)などを挙げることができるが、これらに限定されない。また、繊維束10の機械的強度として、引張り強度が100〜300GPa程度のものが好ましいが、これに限定されない。
【0027】
また、繊維束10の幅(繊維束幅)は、使用する材料の強度に応じて適宜選択することが可能である。具体的には、2〜5mm程度のものが好適に用いられるが、これに限定されるものではない。
【0028】
一方、拡幅ローラ12を用いて拡幅された開繊繊維束の幅は、樹脂液の粘性や該繊維(束)に対する濡れ性、含浸速度などに応じて適宜選択することが可能である。具体的には、5〜15mm程度となるように開繊し、含浸用部材14に形成された各スリット14cに挿通させることが好適であるが、これに限定されるものではない。
【0029】
また、開繊した繊維束を挿通させるための、含浸用部材14に形成された、複数の並列するスリット14cの間隔dは、挿通させる開繊繊維束の幅に応じて設定することができる。実施の形態では、例えば1mm程度とすることができるが、これに限定されるものではない。
【0030】
一方、含浸用部材14を用いて開繊繊維束に含浸される樹脂液として、例えば液状の熱硬化性樹脂を用いることができ、要求される性能に応じて適宜選択することが可能である。かかる熱硬化性樹脂として、例えば、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂などを使用することができるが、これに限定されない。
【0031】
さらに、収束ローラ16を用いて収束されたプリプレグ繊維50の幅は、使用される繊維束10や要求される圧力容器の性能に応じて適宜設定することができる。具体的には、5〜15mm程度となるように収束させることができるが、これに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、FRP製のあらゆる圧力容器の作製のために利用することが可能である。
【符号の説明】
【0033】
10 繊維束、12 拡幅ローラ、12a,12b 拡幅ローラ部材、12c,16c 接合部、14 含浸用部材、14a 樹脂液配分枠、14b ガイド、14c スリット、14d 樹脂液導入口、14e 樹脂液吐出孔、16 収束ローラ、16a,16b 収束ローラ部材、18 巻取りローラ、20 樹脂含浸繊維、22,24 搬送ローラ、30 ライナ、32 繊維強化樹脂層、34 繊維、36 樹脂、38 口金、50 プリプレグ繊維、100 プリプレグ繊維の製造装置、200 圧力容器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続した糸状の繊維を樹脂液に含浸させたプリプレグ繊維を製造するためのプリプレグ繊維製造方法であって、
前記繊維を複数束ねて構成される繊維束を拡幅して開繊する拡幅工程と、
前記拡幅工程において開繊された繊維束を、並列する複数の開口部に挿通させる挿通工程と、
前記開口部に挿通させた繊維束に樹脂液を連続的に供給し、繊維束に樹脂液を含浸させる含浸工程と、
を含むことを特徴とするプリプレグ繊維製造方法。
【請求項2】
連続した糸状の繊維を複数束ねて構成される繊維束を、所定の搬送路に沿って連続的に搬送する搬送部と、
搬送された繊維束を拡幅して開繊する拡幅部と、
開繊された繊維束を挿通させるための複数の開口部を有する開口部材と、
前記開繊された繊維束が複数の開口部に挿通される際に、該開繊された繊維束に対して樹脂液を供給する樹脂液供給部と、
を備えたことを特徴とするプリプレグ繊維製造装置。
【請求項3】
前記樹脂液供給部が、前記開口部材の内部から内面に向かって形成された、樹脂液を連続的に供給する供給路と、開口部材の内面に形成され、前記供給路に連通した吐出孔と、を介して樹脂液を繊維束に供給することを特徴とする請求項2に記載のプリプレグ繊維製造装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−93277(P2011−93277A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252067(P2009−252067)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】