説明

プレス加工方法

【課題】薄い平板状の金属素材から十分な高さの凸部を有する形態の部材をプレス加工によって的確に形成することのできるプレス加工方法を提供する。
【解決手段】平板状の金属素材10をプレス加工によって外側の部位の板厚を薄くすると共に板厚を薄くした部分の材料を流動させて内側の部位を隆起させる隆起工程(a)〜(c)と、該隆起工程にて隆起させた部位をプレス加工によって押圧して所定高さの凸部23を形成する凸部形成工程(c)〜(d)とを備える。また、前記隆起工程は、内側に隆起する部分の外径を順次小さくすると共に隆起する高さを順次高くする複数のプレス加工の工程を有してなる。また、前記凸部形成工程にて形成された凸部の周囲の板厚が薄くなった部分をプレス加工によって絞って、筒部と、底部と、該底部の内面から突出する凸部とを有する形態のカップ状の部材を形成する絞り工程をさらに備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス加工方法に関するものであり、詳しくは、周囲の部位から所定高さで突出する凸部を有する形態となった部材をプレス加工によって形成するためのプレス加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車や各種産業機械等、種々の機器を構成する部品として、或いは、プレス加工や切削加工等の適宜の加工が施されて完成した部品となる部材として、炭素鋼等の金属を材質として形成された部材がある。このような部材は、適宜形態に形成されているのであるが、中には、周囲の部位から所定高さで突出する凸部を有する形態となったものがある。そして、このような凸部を有する形態となった部材では、一般的に、その凸部が切削加工によって形成されている。特に、筒部と底部とを有するカップ状の形態となっており、その凸部が底部の内面から突出する形態となった部材は、全体が複雑な形態であることから、部材全体が、無垢の金属素材を切削加工することによって形成されるのが通常である。
【0003】
上記背景技術は、一般的になされている事項であり、本願出願人は、出願時において、この背景技術が記載された文献を特に知見していない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
切削加工によって適宜の形態の部材を形成しようとすると、短時間で部材を形成することが困難である。また、切削によって金属素材から材料が除去されるため、金属素材の材料全体を有効に活用することができない。そこで、切削加工に比して短時間で所望の形態の部材を得ることが可能で、しかも、金属素材の材料全体を有効に活用可能なプレス加工によって部材を形成することが、単に想定できる。例えば、板厚の厚い平板状の金属素材を、凸部に対応する部分を残して板厚が薄くなるようにプレス加工によって塑性変形させるといった単純な手法を想定することができる。なお、プレス加工は、金属素材を塑性変形させて所望の形状を得る手法であり、鍛造の一種であるが、ダイ型とパンチ型との間に金属素材を配置して、ダイ型に対してパンチ型を押圧させることで金属素材に塑性変形の加工を施すものであり、ダイ型に対するパンチ型の1回のストロークにより、金属素材をダイ型及びパンチ型に倣った形状に塑性変形させることのできる加工方法である。
【0005】
しかしながら、上述のような単純なプレス加工では、周囲の部分に比して高さ寸法の大きな凸部を的確に形成することは困難である。また、高さ寸法の大きな凸部を有する部材を形成するためには、十分に厚い板厚の金属素材を用いなければならなず、金属素材として、無用に板厚の厚いものを用いなければならなくなる。
【0006】
本発明は、上記実状を鑑みてなされたものであり、薄い平板状の金属素材から十分な高さの凸部を有する形態の部材をプレス加工によって的確に形成することのできるプレス加工方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明の採った主要な手段は、
「平板状の金属素材をプレス加工によって外側の部位の板厚を薄くすると共に板厚を薄くした部分の材料を流動させて内側の部位を隆起させる隆起工程と、
該隆起工程にて隆起させた部位をプレス加工によって押圧して所定高さの凸部を形成する凸部形成工程と
を備えることを特徴とするプレス加工方法」
である。
【0008】
上記構成のプレス加工方法では、隆起工程にて、平板状の金属素材における外側の部分の材料を内側に流動させるようにして塑性変形させて内側の部分を隆起させるため、外側の部分に比して内側の部分を十分な高さで隆起させることが可能となる。そして、凸部形成工程にて、十分な高さで隆起した部分を押圧して所定高さの凸部とするため、所望の形態の凸部を的確に形成することが可能となる。
【0009】
従って、上記構成のプレス加工方法によれば、薄い平板状の金属素材から十分な高さの凸部を有する形態の部材をプレス加工によって的確に形成することができる。
【0010】
上記手段において、
「前記隆起工程は、内側に隆起する部分の外径を順次小さくすると共に隆起する高さを順次高くする複数のプレス加工の工程を有してなる
ことを特徴とするプレス加工方法」
としてもよい。
【0011】
上記構成のプレス加工方法では、隆起工程を1回のプレス加工を行う工程によって構成するのではなく、内側の隆起させる部分について、外径を順次小さくすると共に隆起高さを順次高くする複数のプレス加工を行う工程によって構成する。これにより、平板状の金属素材の内側部分を、十分な高さで良好に隆起させることができる。
【0012】
上記手段において、
「前記凸部形成工程にて形成された凸部の周囲の板厚が薄くなった部分をプレス加工によって絞って、筒部と、底部と、該底部の内面から突出する凸部とを有する形態のカップ状の部材を形成する絞り工程
をさらに備えることを特徴とするプレス加工方法」
としてもよい。
【0013】
上記構成のプレス加工方法によれば、底部の内面から突出する凸部を有し、全体がカップ状の形態となった複雑な形態の部材を、プレス加工によって的確に形成することができる。
【発明の効果】
【0014】
上述した通り、本発明によれば、薄い平板状の金属素材から十分な高さの凸部を有する形態の部材をプレス加工によって的確に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係るプレス加工方法の実施形態としての一例を、以下、図面に従って詳細に説明する。なお、以下では、ロール鋼材(長尺状で帯状に形成された圧延鋼板をロール状に巻回してなるもの)に打抜加工を行って、所望の外形形状となった平板状の金属素材を形成する打抜加工ステージ、個別に隆起加工を行って平板状の金属素材の内側を順次大きく隆起させる複数の隆起加工ステージ、凸部形成加工を行って隆起した部分から所定高さの凸部を形成する凸部形成ステージ、及び、絞り加工を行って平板状の金属素材をカップ状の部材とする絞り加工ステージといった複数のプレス加工ステージを具備する1台のプレス加工機にて、平板状の金属素材から最終的にカップ状の部材を形成するプレス加工方法を例示する。
【0016】
このようなプレス加工機では、打抜加工ステージ、個々の隆起加工ステージ、凸部形成加工ステージ及び絞り加工ステージに、夫々対応するプレス型(ダイ型及びパンチ型)が装着されており、各プレス型の1ストロークの作動、例えば、各ダイ型に対して上昇した各パンチ型を下降させてワークをプレス成形した後に再度、各パンチ型を上昇させるといった1往復の作動により、ワークに対して各プレス加工ステージに対応した加工が夫々同時に施される。また、プレス加工機へのロール鋼材の供給、各プレス加工ステージ間におけるワークの搬送、及び、一連の加工が施された部材のプレス加工機からの取り出しの夫々については、プレス加工機が具備する適宜の搬送装置によって行われる。
【0017】
上述したプレス加工機では、図示は省略するが、まず、打抜加工ステージにて打抜加工を行う。この打抜加工では、ロール鋼材を打ち抜いて、ロール鋼材から平板状で円盤状の金属素材を形成する。ここで、本例では、板厚が3mmのロール鋼材を打ち抜いて、直径が40mmの円板状の金属素材を形成する。
【0018】
次に、図1(a)に示すように、平板状の金属素材10を隆起工程の加工が行われる最初の隆起加工ステージに搬送し、この最初の隆起加工ステージにて一段階目の隆起加工を行う。この隆起加工では、中央部分に円形状の凹部31を有するパンチ30によって金属素材10にプレス加工を施す。これにより、全体の表裏両面が平坦であった当初の金属素材10は、外側の部分に板厚の薄い薄肉部11を有し、内側の部分、すなわち中央部分に、薄肉部11から隆起した隆起部12を有する形態となる(図1(b)参照)。なお、パンチ30の凹部31の底は、円形状の貫通孔32によって開放されており、金属素材10は、隆起部12の上部がパンチ30によって規制されず、自由に塑性変形する。よって、隆起部12は、裏面が凹んで、周囲の部分から大きく隆起した形態となる。
【0019】
次に、図1(b)に示すように、中央部分に隆起部12を有する金属素材10を次の隆起加工ステージに搬送し、この隆起加工ステージにて次段階目の隆起加工を行う。この隆起加工では、中央部分の凹部41及び貫通孔42が前述のパンチ30の凹部31及び貫通孔32よりも小径の円形状となったパンチ40を用いて隆起部12の外側を押圧し、隆起部12の外径が小さくなると共に隆起部12の高さが大きくなるようにプレス加工する。そして、このようなプレス加工を複数の隆起加工ステージにて繰り返し行い、隆起部12の外径が順次小さくなると共に隆起部12の高さが順次高くなるような塑性変形を金属素材10に与えて、隆起部12を周囲の薄肉部11から大きく隆起させる(図1(c)参照)。なお、本例では、金属素材10の中央部分を順次隆起させる上述のような一連のプレス加工によって、隆起部12を形成する工程である隆起工程が構成される。
【0020】
ところで、隆起部12は、その上部が拘束されず、自由に塑性変形してなるものであることから、隆起部12の裏面には、凹みが生じている。よって、図1(c)に示すように、凸部形成ステージにて、凸部形成工程の加工工程を構成する凸部形成加工を行い、隆起部12をパンチ50によって押圧して、図1(d)に示すように、隆起部12から所定高さの凸部23を形成する。この凸部形成加工では、パンチ50として、隆起部12の外径よりも僅かに大きな内径の貫通孔51と、この貫通孔51に進退調節可能に挿通されたピン52とを有するものを用いる。ここで、このパンチ50では、上記貫通孔51の内面及び上記ピン52の端面によって、凸部23を形成するための凹型が構成される。
【0021】
このようなパンチ50によって凸部形成加工を行うと、隆起部12内部に存在する空隙が押し潰されることから、凸部23の内部が中実となるとともに、凸部23の裏面が平坦化される。ここで、本例では、当初の板厚が3mmであったのに対して、板厚が2mmとなった薄肉部11を形成し、直径が6mmで、周囲の薄肉部11の表面から5mmの高さで突出する凸部23を形成する。また、本例では、パンチ50として、貫通孔51内にて進退調節可能なピン52を有するものを用いることから、貫通孔51内におけるピン52の進退具合を調節することで、凸部23の高さを的確に調節することができる。なお、これに限らず、パンチ50として、ピン52を具備せず、凸部23の形態に対応する凹型が設けられたものを用いてもよい。
【0022】
そして、最後に、図1(d)に示すように、所定高さの凸部23が形成された金属素材10を、絞り加工ステージにて、凸部23の周囲の薄肉部11に絞るといった絞り加工を行い、図2に示すような、筒部21と、底部22と、底部22の内面から突出する凸部23とを有し、一端が開口するカップ状となった部材20を形成する。
【0023】
なお、上述とは別の例として、図示は省略するが、隆起工程において、例えばパンチ30,40の貫通孔32,42に進退調節可能なピンを挿通する等して、隆起部12の上部を規制する形態の凹型を有するパンチを用い、これにより、隆起部12の裏面に凹みが生じることを防止したり、或いは、生じる凹みを小さく抑制できるようにしもよい。ここで、隆起工程において隆起部12の上部を規制する場合には、隆起工程を構成する複数の隆起加工のうち、初期段階の隆起加工においては、隆起部12の上部を規制せずに自由な塑性変形によって十分な高さで隆起部12を隆起させる一方で、後期段階の隆起加工においては、隆起部12の上部を規制することとして、裏面に大きな凹みや隆起部12の内部に大きな空隙が形成されないようするのが好適である。また、各隆起加工にて、薄肉部11の板厚が順次薄くなるようにしてもよい。薄肉部11の板厚が順次薄くなるようにすることで、材料を大きく流動させることができ、隆起部12を大きく隆起させることができる。一方、薄肉部11の厚みが一定となるようしてもよい。薄肉部11の厚みを一定とした複数の隆起加工を行うことで、薄肉部11の正確な板厚を確保することができる。
【0024】
以上、本発明に係るプレス加工方法の一例を説明したが、本発明に係るプレス加工方法は上述の例に限らない。
【0025】
例えば、1台のプレス加工機にて上述した一連のプレス加工を行うに限らず、打抜加工、隆起工程を構成する個々の隆起加工、凸部形成加工、絞り加工のうち、適宜の加工を個別のプレス加工機によって行ってもよい。
【0026】
また、一連のプレス加工における最初の打抜加工にて、ロール鋼材を打ち抜いて平板状で円板状の金属素材を形成するに限らず、鋳造や鍛造によって平板状で円板状の金属素材を形成してもよい。さらに、本発明のプレス加工方法は、平板状の金属素材からカップ状の部材をプレス加工によって形成するための手法に限らない。例えば、中央部分に凸部を有する板状の部材をプレス加工によって形成するための手法や、凸部に貫通孔が穿設され、この凸部をボスとした環状の部材をプレス加工によって形成するための手法等、少なくとも凸部を有する適宜形態の部材をプレス加工によって形成するための手法として採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係るプレス加工方法の一例を示す工程図である。
【図2】本発明に係るプレス加工方法によって形成され部材の一例を示す図面であり、(a)は平面図、(b)は(a)におけるA−A断面図である。
【符号の説明】
【0028】
10 金属素材
11 薄肉部
12 隆起部
20 部材
21 筒部
22 底部
23 凸部
30 パンチ
31 凹部
32 貫通孔
40 パンチ
41 凹部
42 貫通孔
50 パンチ
51 貫通孔
52 ピン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の金属素材をプレス加工によって外側の部位の板厚を薄くすると共に板厚を薄くした部分の材料を流動させて内側の部位を隆起させる隆起工程と、
該隆起工程にて隆起させた部位をプレス加工によって押圧して所定高さの凸部を形成する凸部形成工程と
を備えることを特徴とするプレス加工方法。
【請求項2】
前記隆起工程は、内側に隆起する部分の外径を順次小さくすると共に隆起する高さを順次高くする複数のプレス加工の工程を有してなる
ことを特徴とする請求項1に記載のプレス加工方法。
【請求項3】
前記凸部形成工程にて形成された凸部の周囲の板厚が薄くなった部分をプレス加工によって絞って、筒部と、底部と、該底部の内面から突出する凸部とを有する形態のカップ状の部材を形成する絞り工程
をさらに備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプレス加工方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−346703(P2006−346703A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−175061(P2005−175061)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(391022197)株式会社加藤製作所 (15)
【Fターム(参考)】