説明

プレス金型、プレス金型の設計方法、サイジングプレス方法及びサイジングプレス機

【課題】 プレス金型に偏芯荷重が発生することを抑制して、プレス金型を支持する機構に対する負荷を低減する。
【解決手段】本発明のプレス金型1は、鋳片を所定の幅までプレスするサイジングプレス機2に備えられ、プレス金型1は鋳片Sの幅方向の両側に一対に配備されており、プレス金型1は鋳片Sの移送方向の出側に向かうにつれて徐々に互いの間隔が狭まるように傾斜したテーパ面状の第1プレス面4と、第1プレス面4の出側に連設して形成されると共に移送方向と平行な平面状の第2プレス面5と、を備えていて、0≦(L1+L2)-(L1+ΔWmax/2/tanθ)/2なる関係を満たすと共に|(L1+L2)-(L1+ΔWmax/2/tanθ)/2|が最小となるようなL1(プレス1回当たりの鋳片Sの送り量)、L2(クランク軸9の中心〜第1プレス面4と第2プレス面5との境界までの距離)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラブなどの鋳片を幅方向にサイジングプレスする際に用いるプレス金型、このプレス金型の設計方法、このプレス金型を用いたサイジングプレス方法及びサイジングプレス機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、連続鋳造プロセスにおいて鋳造された鋳片(スラブ)に対しては、加熱炉から出て温度が低下しないうちに、または一旦温度が低下した後に加熱炉に再投入して所定の温度まで加熱した状態にて、サイジングプレスが行われる。このサイジングプレスは、一方向に向かって移送される鋳片に対して、この鋳片の幅方向両端からプレス金型を間歇的に押し当てて鋳片の板幅を変更するものである。
【0003】
このようなサイジングプレスに用いられるプレス金型は鋳片の左右両側に一対設けられ、これら一対のプレス金型は鋳片に面する側がいずれもテーパ面状の第1プレス面と平面状の第2プレス面とで構成されている。第1プレス面は、鋳片の移送方向の出側に向かうにつれて徐々に互いの間隔が狭まるように傾斜したテーパ面状であり、移送されてプレス機に入ってきた鋳片はこの第1プレス面において1回目のプレス加工が行われる。
【0004】
一方、第2プレス面は、鋳片の移送方向と平行な平面状に形成されており、第1プレス面で1回目のプレス加工が行われた鋳片をさらにプレスする部分である。このようにサイジングプレスでは、プレス金型の異なる部分を用いて複数のステップに分けて鋳片をプレスし、代表的な装置であれば、900〜2000mm程度の鋳片を最大300〜350mm程度の幅までプレスして鋼板製品の製造を可能としている。
【0005】
ところで、このようなサイジングプレス機としては、特許文献1や特許文献2に記載されるようなものがすでに知られている。
たとえば、特許文献1のサイジングプレス機は、第1プレス面を、鋳片の進行方向の出側方向に向かって狭まるように傾斜した第1の傾斜部と、鋳片の進行方向に略平行な中間平行部と、この中間平行部から鋳片の進行方向の出側に向かって狭まるように傾斜した第2の傾斜部とで構成し、これらの傾斜部の傾斜角や鋳片の送りピッチなど所定の範囲に調整することにより大きな幅圧下量を達成可能となっている。
【0006】
また、特許文献2のサイジングプレス機は、プレスを行う際にプレス金型と鋳片との間にすべりが起こらないように、第1プレス面による1回目のプレスに引き続いて第2プレス面で2回目のプレスを行う際には、第1プレス面でプレスをした部分と第2プレス面でこれらからプレスしようとする部分とが一部重なり合うように鋳片を移送してプレスを行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−222894号公報
【特許文献2】特開2000−254709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、近年は鋳片にチタンやステンレス鋼などのように変形抵抗が高い材料をプレスするニーズが大きくなっており、大きな圧下力を必要とするこういった材料の鋳片のプレスに対応して、幅圧下量の目標を相対的に小さめに設定せざるを得ない場合がある。
ところが、例えば最大300〜350mm程度の幅圧下量を目標として上述したプレス金型でプレスを行うと、このような小さな幅圧下量の場合は第2プレス面だけで幅圧下量の大部分が達成されてしまうため、第1プレス面では鋳片を軽く押さえる程度となり、プレス金型の第2プレス面に鋳片から反作用として加わる力と第1プレス面に鋳片から反作用として加わる力との差が大きくなる。
【0009】
このようにプレス金型に作用する力が第1プレス面と第2プレス面との間で、言い換えれば移送方向にアンバランスになると、鋳片の移送方向に対して垂直な軸回りにプレス金型を回転させるモーメントが発生する。そして、このようにプレス金型を捻るように加わるモーメント(偏芯荷重に伴うモーメント)によりプレス金型を支えるフレームなどに大きな負荷が生じ、その結果、サイジングプレス機の寿命を短くしてしまうため好ましくない。
【0010】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、プレス金型に偏芯荷重が発生することを抑制して、プレス金型を支持する機構に対する負荷を低減しつつ変形抵抗が高い材料のサイジングプレスを行うことができるプレス金型、プレス金型の設計方法、サイジングプレス方法及びサイジングプレス機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明のプレス金型は以下の技術的手段を講じている。
即ち、本発明のプレス金型は、長手方向に移送される鋳片の幅方向の両側を間歇的に押圧することで当該鋳片を所定の幅までプレスするサイジングプレス機に備えられたプレス金型であって、前記プレス金型は、鋳片の幅方向の両側に一対に配備されており、前記プレス金型は、前記鋳片の移送方向の出側に向かうにつれて徐々に互いの間隔が狭まるように傾斜したテーパ面状の第1プレス面と、前記第1プレス面の出側に連設して形成されると共に移送方向と平行な平面状の第2プレス面と、を備えていて、前記プレス金型が、式(1)の関係を満たすと共に、式(2)で示されるMが最小となるようなL1,L2を備えることを特徴としている。
【0012】
0≦(L1+L2)-(L1+ΔWmax/2/tanθ)/2 ・・・ (1)
M=|(L1+L2)-(L1+ΔWmax/2/tanθ)/2| ・・・ (2)
ただし、
L1:プレス1回当たりの鋳片の送り量。
L2:鋳片プレス時で左右一対のプレス金型が最接近する際において、プレス金型を軸支するクランク軸の中心〜第1プレス面と第2プレス面との境界までの長手方向の距離。
【0013】
なお、好ましくは、前記鋳片の先端部のプレスに対応すべく、式(1)に代えて、式(3)を満足するとよい。
0≦(L3+L2)-(L3+ΔWmax/2/tanθ)/2 ・・・ (3)
ただし、
L2:鋳片プレス時で左右一対のプレス金型が最接近する際において、プレス金型を軸支するクランク軸の中心〜第1プレス面と第2プレス面との境界までの長手方向の距離。
L3:鋳片プレス時において、鋳片の先端部〜第1プレス面と第2プレス面との境界の距離。
【0014】
一方、本発明のプレス金型の設計方法は、長手方向に移送される鋳片の幅方向の両側を間歇的に押圧することで当該鋳片を所定の幅までプレスするサイジングプレス機に備えられたプレス金型の設計方法であって、前記プレス金型は、鋳片の幅方向の両側に一対に配備されており、前記プレス金型は、前記鋳片の移送方向の出側に向かうにつれて徐々に互いの間隔が狭まるように傾斜したテーパ面状の第1プレス面と、前記第1プレス面の出側に連設して形成されると共に移送方向と平行な平面状の第2プレス面と、を備えていて、
前記プレス金型が、式(1)の関係を満たすと共に、式(2)で示されるMが最小となるようなL1,L2を備えるように金型設計を行うことを特徴とするものである。
【0015】
0≦(L1+L2)-(L1+ΔWmax/2/tanθ)/2 ・・・ (1)
M=|(L1+L2)-(L1+ΔWmax/2/tanθ)/2| ・・・ (2)
ただし、
L1:プレス1回当たりの鋳片の送り量。
L2:鋳片プレス時で左右一対のプレス金型が最接近する際において、プレス金型を軸支するクランク軸の中心〜第1プレス面と第2プレス面との境界までの長手方向の距離。
【0016】
なお、好ましくは、前記鋳片の先端部のプレスに対応すべく、式(1)に代えて、式(3)を満足するように金型設計を行うとよい。
0≦(L3+L2)-(L3+ΔWmax/2/tanθ)/2 ・・・ (3)
ただし、
L2:鋳片プレス時で左右一対のプレス金型が最接近する際において、プレス金型を軸支するクランク軸の中心〜第1プレス面と第2プレス面との境界までの長手方向の距離。
L3:鋳片プレス時において、鋳片の先端部〜第1プレス面と第2プレス面との境界の距離。
【0017】
さらに、本発明のサイジングプレス方法は、上述したプレス金型を用いて、長手方向に移送される鋳片の幅方向の両側を間歇的に押圧することで当該鋳片を所定の幅までプレスすることを特徴としている。
【0018】
また、好ましくは、上述した設計方法で設計されたプレス金型を用いて、長手方向に移送される鋳片の幅方向の両側を間歇的に押圧することで当該鋳片を所定の幅までプレスするとよい。
そして、本発明のサイジングプレス機は、長手方向に移送される鋳片の幅方向の両側を間歇的に押圧することで当該鋳片を所定の幅までプレスするサイジングプレス機であって、上述したプレス金型を備えていることを特徴とするものである。
【0019】
好ましくは、長手方向に移送される鋳片の幅方向の両側を間歇的に押圧することで当該鋳片を所定の幅までプレスするサイジングプレス機であって、上述した設計方法で設計されたプレス金型を備えていると良い。
【発明の効果】
【0020】
本発明のプレス金型、プレス金型の設計方法、サイジングプレス方法及びサイジングプレス機によれば、プレス金型に偏芯荷重に伴うモーメントが発生することを抑制して、プレス金型を支持する機構に対する負荷を低減しつつ変形抵抗が高い材料のサイジングプレスを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のサイジングプレス機において鋳片の移送を停止しつつプレスしている状態を示している。
【図2】(a)は本発明のサイジングプレス機を示す図であり、(b)はプレス中にプレス金型に発生するモーメントを示す図である。
【図3】鋳片の移送方向の中途部に対してプレス加工を行う際のプレス金型の状況を示した図である。
【図4】鋳片の移送方向の先端部に対してプレス加工を行う際のプレス金型の状況を示した図である。
【図5】サイジングプレス圧下量と金型支持フレームに発生するひずみとの関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
「第1実施形態」
以下、本発明のプレス金型1が設けられたサイジングプレス機2の実施形態を、図面に基づき詳しく説明する。
図1は、第1実施形態のサイジングプレス機2を模式的に示したものである。図1に示すように、サイジングプレス機2は、長手方向に移送される鋳片Sに対して、この鋳片Sの幅方向の両側を間歇的に押圧するプレス金型1を備えたものであり、プレス金型1を用いて鋳片Sを所定の幅までプレス可能となっている。また、サイジングプレス機2には、図示しない鋳片Sの移送手段が設けられており、鋳片Sを長手方向に沿って移送できるようになっている。
【0023】
具体的には、サイジングプレス機2は、鋳片Sの幅方向の両側に一対のプレス金型1、1を有している。このプレス金型1には後述する金型移動機構3が設けられており、金型移動機構3により左側のプレス金型1と右側のプレス金型1とが同時に移動して鋳片Sに対して近接離反することにより、鋳片Sを所定の幅寸法にプレスできるようになっている。なお、この鋳片Sには、連続鋳造されたものだけでなく、分塊圧延等を経たスラブなども含まれるし、圧延や鍛造等の塑性加工品を用いても良い。
【0024】
サイジングプレス機2では、鋳片Sの移送手段が停止している状態、言い換えれば鋳片Sの移送が停止している状態のときには、金型移動機構3を用いて左右一対のプレス金型1、1を互いに近接し合う方向に前進(移動)させ、一対のプレス金型1、1を鋳片Sの幅方向の両側に押し当てて鋳片Sを幅方向にプレスする。そして、鋳片Sのプレスが終わったら、金型移動機構3を用いて左右両側のプレス金型1をいずれも鋳片Sから遠ざけるように後退(移動)させ、鋳片Sの移送手段を用いて鋳片Sを1ピッチ分移送させる。このように本発明のサイジングプレス機2では、移送手段と金型移動機構3とを交互に作動させて鋳片Sの移送とプレス加工とを交番に行うことにより、サイジングプレスが可能となっている。
【0025】
次に、サイジングプレス機2を構成するプレス金型1及び金型移動機構3について説明する。
図2(a)に示すように、プレス金型1は、鋳片Sの幅方向の側方に離れて一対に配備されている。それぞれのプレス金型1は、鋳片Sに対面する側に鋳片Sをプレス加工するプレス面を、鋳片Sの移送方向(長手方向)に沿って2つ有している。2つのプレス面のうち第1プレス面4は、鋳片Sの移送方向の入側に形成されていて、サイジングプレス機2に供給された鋳片Sを最初にプレスする部分である。第1プレス面4は、移送方向の出側に向かうにつれて徐々に互いの間隔が狭まるように傾斜したテーパ面状とされている。
【0026】
また、第2プレス面5は、鋳片Sの移送方向の出側に連設して形成されていて、第1プレス面4でプレスした鋳片Sをプレスする部分である。第2プレス面5は、移送方向と平行な平面状とされている。
金型移動機構3は、鋳片Sに面する側の反対側からプレス金型1を押圧するスライダ7と、このスライダ7を支持する支持フレーム部6とで構成されている。
【0027】
スライダ7は、移送方向と垂直な方向(図2の紙面における左右方向)に向かってプレス金型1を押圧するものであり、第1プレス面4から第2プレス面5にかけてプレス面の反対側に設けられている。スライダ7は、後述するクランク機構8により鋳片S側に向かって前進したり鋳片Sから遠ざかるように後退したりしている。
支持フレーム部6は、スライダ7を支持する部材であり、移送方向と垂直な方向(図2の紙面における左右方向)に沿って長尺に形成されている。支持フレーム部6の内側には上述したスライダ7が鋳片Sの移送方向と垂直な方向に向かって出退自在に収容されている。また、スライダ7の反鋳片側の端部には、クランク機構8が設けられている。
【0028】
クランク機構8は、鋳片Sの移送方向と垂直な軸回り(上下方向を向く軸回り)にスライダ7を回転させるものであり、スライダ7に余計なモーメントMが作用しないように、移送方向の入側と出側とがほぼ同じ重量バランスとなるような位置にクランク軸9が配備されている。例えば、図例のスライダ7の場合であれば、クランク軸9より入側とクランク軸9より出側とが同じ重量バランスとなるように、スライダ7の略中間を通る1点鎖線上にクランク軸9が配備されている。
【0029】
それゆえ、図2(a)に示すように、プレス金型1による鋳片Sのプレスに際して、スライダ7を用いてプレス金型1を鋳片S側に押圧した場合に、その反作用としてスライダ7の入側に加わる力と、スライダ7の出側に加わる力とが等しく釣り合っていれば、スライダ7にクランク軸9回りの余計なモーメントMが発生することはない。
ところが、図2(b)に示すように、スライダ7の出側に伝わる力の方が、スライダ7の入側に伝わる力より大きい場合は、クランク軸9回りにスライダ7を移送方向と同じ向き(図例の場合では反時計回り)に回動させるモーメントMが白抜きの矢印の方向に発生してしまう。
【0030】
特に、鋳片Sに変形抵抗が高い材料が用いられている場合は、第1プレス面4に作用する力と第2プレス面5に作用する力との差が大きくなり、図2(b)に示すような反時計回りのモーメントMを生じる可能性が高くなる。当然、このようなモーメントMが生じると、サイジングプレス機2のプレスフレームなどに大きな負荷が生じることになり、サイジングプレス機2の短寿命化を招くため好ましくない。
【0031】
そこで、本発明のプレス金型1及びサイジングプレス機2では、プレス金型1が、次の式(1)の関係を満たすと共に、式(2)で示されるMが最小となるようなL1及びL2を備えるようにしている。
0≦(L1+L2)-(L1+ΔWmax/2/tanθ)/2 ・・・ (1)
M=|(L1+L2)-(L1+ΔWmax/2/tanθ)/2| ・・・ (2)
ただし、
L1:プレス1回当たりの鋳片Sの送り量。
L2:鋳片プレス時で左右一対のプレス金型1、1が最接近する際において、プレス金型1を軸支するクランク軸9の中心〜第1プレス面4と第2プレス面5との境界までの長手方向の距離。
【0032】
なお、上述したL1の定義において「プレス1回当たりの鋳片Sの送り量」とは、具体的には鋳片Sのプレス時において第1プレス面4と鋳片Sとが互いに接触しあう長さに他ならない。
【0033】
また、サイジングプレス機2で鋳片Sの先端部をプレスする際には、鋳片Sの先端部のプレスに対応すべく、式(1)に代えて、式(3)を用いてもよい。

0≦(L3+L2)-(L3+ΔWmax/2/tanθ)/2 ・・・ (3)
ただし、
L2:鋳片プレス時で左右一対のプレス金型1、1が最接近する際において、プレス金型1を軸支するクランク軸9の中心〜第1プレス面4と第2プレス面5との境界までの長手方向の距離。
L3:鋳片Sプレス時において、鋳片Sの先端部〜第1プレス面4と第2プレス面5との境界の距離。
【0034】
次に、上述した式(1)〜式(3)が成り立つ理由を、図3及び図4を用いて説明する。
図3は、プレス中のプレス金型1と鋳片Sとの位置関係を示したものである。
図3において、まずクランク機構8のクランク軸9の軸心が、どの位置にあるかを計算で求める。すなわち、プレス金型1と鋳片Sとが互いに接触し合う接触部のうち、最も移送方向の出側にある点を基準点とすれば、この基準点から移送方向に沿って長さ(L1+L2)だけ離れた位置(図中に白色の三角で示す位置)にクランク軸9の軸心が存在することになる。
【0035】
次に、鋳片Sから加わる荷重がプレス金型1のどの点に作用するかを求める。実際には、この荷重はプレス金型1と鋳片Sとが接触する移送方向に沿った長さのうち、すべての長さに亘って均等に加わっている。それゆえ、計算上はプレス金型1と鋳片Sとが接触し合う接触長さのうち、移送方向の中間点に圧化荷重が加わっているとみなすことができる。つまり、プレス金型1と鋳片Sとが接触し合う接触長さは、鋳片Sに対する最大圧下量Wmaxと第1プレス面4の傾斜角θを利用すれば、(L1+ΔW/2/tanθ)と示すことができる。それゆえ、この(L1+ΔW/2/tanθ)の中間点である(L1+ΔW/2/tanθ)/2が、荷重の作用点になる。
【0036】
ここで、クランク軸9回りにスライダ7にモーメントMが発生しないためには、鋳片Sからプレス金型1に加わる荷重の作用点がクランク軸9の軸心に近づけば近づくほど、腕の長さが短くなってモーメントMがゼロに近くなる(発生しにくくなる)。
つまり、(L1+L2)と(L1+ΔW/2/tanθ)/2との差、言い換えれば式(2)のMを0に近くすれば近くするほど、モーメントMがゼロ(発生しない)か、小さな値(発生しても小さいモーメントM)で済むようになる。それゆえ、以上のような理由から、式(2)が導かれる。
【0037】
一方、上述したモーメントMは反時計回りであったが、鋳片Sからプレス金型1に加わる荷重の作用点が、クランク軸9の軸心を基準として移送方向の入側(図3のマイナスの方向)にオフセットしているか、出側(図3のプラスの方向)にオフセットしているかで、スライダ7に作用する荷重のバランスが逆になって、モーメントMの作用方向が逆になることが考えられる。
【0038】
このようなクランク軸9回りに逆方向のモーメントM(偏荷重)が発生すると、プレスフレーム等に上述したものとは反対方向の負荷が発生して、サイジングプレス機2の寿命を短くする要因となる。そのため、プレス金型1にかかる荷重の作用点はスライド部7のクランク軸9から見て常に一定の方向になるようにするのが好ましい。
それゆえ、鋳片Sからプレス金型1に加わる荷重の作用点が、クランク軸9の軸心を基準として絶えず移送方向の出側になるように、言い換えれば荷重の作用点が常にプラスのオフセットになるように、式(1)を満足する必要がある。それゆえ、以上のような理由から、式(1)が導かれる。
【0039】
なお、上述した式(1)が成立するのは、図3のように鋳片Sの先端部以外の部分をプレスする場合、言い換えればプレス金型1でプレスされる鋳片Sの移送方向に沿った長さが常に一定とされる場合である。図4に示すように鋳片Sの先端部をプレスする場合は、基準点の位置が変化してプレス金型1でプレスされる鋳片Sの長さが短くなるためL1に代えてL3を用いた式(3)を用いるのが好ましい。それゆえ、以上のような理由から、式(3)が導かれる。
【0040】
上述したように式(2)を満足するプレス金型1を用いて鋳片Sをプレスすれば、圧下時に鋳片Sからプレス金型1に作用する荷重の作用点が、スライド部のクランク軸9から近い位置にあるため、プレス金型1に大きなモーメントMが作用することがなくなる。
また、式(1)を満足するプレス金型1では、鋳片Sから加わる荷重は常にプラスのオフセットになるので、プレス金型1に加わるモーメントM(偏荷重)の方向が一定になる。それゆえ、プレスフレーム等に通常と反対方向の負荷が発生してサイジングプレス機2の寿命を短くする心配はない。
【実施例】
【0041】
以下に実験例1〜実験例3を用いて本発明のプレス金型1及びサイジングプレス機2が有する効果をさらに詳しく説明する。
実験例1〜実験例3は、幅1000〜1500mm、厚さ230〜250mmの軟鋼を、1200℃の温度に維持して、熱間プレスしたものである。
また、図5は、最大圧下量ΔWmaxを110mm〜240mmに変化させた場合に、L1〜L3が互いに異なる2つの金型間で、プレスフレームに発生する歪みがどのように変化するかを示したものである。なお、評価に用いる「フレームひずみ量」は、プレスフレームに貼り付けられた歪ゲージを用いて測定された、プレスフレームに発生するひずみを示したものである。
【0042】
実験結果1は、幅圧下量ΔWmaxが200mm以下としたときに、式(1)〜式(3)の条件をすべて満たすデータである。また、実験結果2は、幅圧下量ΔWmaxが200mm以下としたときに、式(1)〜式(3)の条件のいずれかを満たさないデータである。
図5のグラフを見ると、黒塗りの四角で示される実験結果1のデータが存在する領域(実線で囲まれた長方形の領域)は、黒塗りの菱形で示される実験結果2のデータが存在する領域(点線で囲まれた楕円形の領域)より明らかに下方に離れて分布しており、実験結果1のデータは実験結果2のデータより「フレームひずみ量」が平均で25〜30%は低くなっている。このことから、式(1)〜式(3)の条件を満足するプレス金型1を用いることにより、プレス金型1において余計なモーメントM(偏芯荷重)の発生を抑制して、プレスフレームにひずみが加わり難くなり、サイジングプレス機の寿命を延ばすことが可能になると判断される。
【0043】
一方、幅圧下量ΔWmaxを200mm以上とすれば、幅圧下量ΔWmaxが200mm以下では条件式を満足していなかった実験結果2のプレス金型1を用いても、実験結果3のデータ(実線で囲まれた楕円形の領域)にあるように式(1)〜式(3)の条件を全て満足することが可能になる。
実験結果2に比べて幅圧下量ΔWmaxがさらに大きくなった実験結果3では、プレスフレームに加わるひずみは大きくなるはずであるが、図5にあるように「フレームひずみ量」は同じレベルかむしろ小さくなっている。このことからも、式(1)〜式(3)の条件を満足することで、プレス金型において余計なモーメントM(偏芯荷重)の発生を抑制でき、プレス金型1の寸法形状のみならず幅圧下量によっても大きく変動することと判断され、式(1)〜式(3)のような条件を満たす必要があることが理解できる。
【0044】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、発明の本質を変更しない範囲で各部材の形状、構造、材質、組み合わせなどを適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 プレス金型
2 サイジングプレス機
3 金型移動機構
4 第1プレス面
5 第2プレス面
6 支持フレーム部
7 スライダ
8 クランク機構
9 クランク軸
M モーメント
S 鋳片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に移送される鋳片の幅方向の両側を間歇的に押圧することで当該鋳片を所定の幅までプレスするサイジングプレス機に備えられたプレス金型であって、
前記プレス金型は、鋳片の幅方向の両側に一対に配備されており、
前記プレス金型は、前記鋳片の移送方向の出側に向かうにつれて徐々に互いの間隔が狭まるように傾斜したテーパ面状の第1プレス面と、前記第1プレス面の出側に連設して形成されると共に移送方向と平行な平面状の第2プレス面と、を備えていて、
前記プレス金型が、式(1)の関係を満たすと共に、式(2)で示されるMが最小となるようなL1,L2を備えることを特徴とするプレス金型。

0≦(L1+L2)-(L1+ΔWmax/2/tanθ)/2 ・・・ (1)
M=|(L1+L2)-(L1+ΔWmax/2/tanθ)/2| ・・・ (2)
ただし、
L1:プレス1回当たりの鋳片の送り量。
L2:鋳片プレス時で左右一対のプレス金型が最接近する際において、プレス金型を軸支するクランク軸の中心〜第1プレス面と第2プレス面との境界までの長手方向の距離。
【請求項2】
前記鋳片の先端部のプレスに対応すべく、式(1)に代えて、式(3)を満足することを特徴とする特徴とする請求項1に記載のプレス金型。

0≦(L3+L2)-(L3+ΔWmax/2/tanθ)/2 ・・・ (3)
ただし、
L2:鋳片プレス時で左右一対のプレス金型が最接近する際において、プレス金型を軸支するクランク軸の中心〜第1プレス面と第2プレス面との境界までの長手方向の距離。
L3:鋳片プレス時において、鋳片の先端部〜第1プレス面と第2プレス面との境界の距離。
【請求項3】
長手方向に移送される鋳片の幅方向の両側を間歇的に押圧することで当該鋳片を所定の幅までプレスするサイジングプレス機に備えられたプレス金型の設計方法であって、
前記プレス金型は、鋳片の幅方向の両側に一対に配備されており、
前記プレス金型は、前記鋳片の移送方向の出側に向かうにつれて徐々に互いの間隔が狭まるように傾斜したテーパ面状の第1プレス面と、前記第1プレス面の出側に連設して形成されると共に移送方向と平行な平面状の第2プレス面と、を備えていて、
前記プレス金型が、式(1)の関係を満たすと共に、式(2)で示されるMが最小となるようなL1,L2を備えるように金型設計を行うことを特徴とするプレス金型の設計方法。

0≦(L1+L2)-(L1+ΔWmax/2/tanθ)/2 ・・・ (1)
M=|(L1+L2)-(L1+ΔWmax/2/tanθ)/2| ・・・ (2)
ただし、
L1:プレス1回当たりの鋳片の送り量。
L2:鋳片プレス時で左右一対のプレス金型が最接近する際において、プレス金型を軸支するクランク軸の中心〜第1プレス面と第2プレス面との境界までの長手方向の距離。
【請求項4】
前記鋳片の先端部のプレスに対応すべく、式(1)に代えて、式(3)を満足するように金型設計を行うことを特徴とする請求項3に記載のプレス金型の設計方法。

0≦(L3+L2)-(L3+ΔWmax/2/tanθ)/2 ・・・ (3)
ただし、
L2:鋳片プレス時で左右一対のプレス金型が最接近する際において、プレス金型を軸支するクランク軸の中心〜第1プレス面と第2プレス面との境界までの長手方向の距離。
L3:鋳片プレス時において、鋳片の先端部〜第1プレス面と第2プレス面との境界の距離。
【請求項5】
請求項1又は2に記載されたプレス金型を用いて、長手方向に移送される鋳片の幅方向の両側を間歇的に押圧することで当該鋳片を所定の幅までプレスすることを特徴とするサイジングプレス方法。
【請求項6】
請求項3又は4に記載された設計方法で設計されたプレス金型を用いて、長手方向に移送される鋳片の幅方向の両側を間歇的に押圧することで当該鋳片を所定の幅までプレスすることを特徴とするサイジングプレス方法。
【請求項7】
長手方向に移送される鋳片の幅方向の両側を間歇的に押圧することで当該鋳片を所定の幅までプレスするサイジングプレス機であって、請求項1又は2に記載されたプレス金型を備えていることを特徴とするサイジングプレス機。
【請求項8】
長手方向に移送される鋳片の幅方向の両側を間歇的に押圧することで当該鋳片を所定の幅までプレスするサイジングプレス機であって、請求項3又は4に記載された設計方法で設計されたプレス金型を備えていることを特徴とするサイジングプレス機。

【図1】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−35044(P2013−35044A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174168(P2011−174168)
【出願日】平成23年8月9日(2011.8.9)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】