説明

プレート式反応器に温度測定装置を設置する方法、及びプレート式反応器

【課題】プレート式反応において隣り合う伝熱プレート間の隙間に触媒が充填されてなる触媒層の温度を正確に測定することができるプレート式反応器を提供する。
【解決手段】プレート式反応器における二枚の伝熱プレート3間の隙間の、伝熱プレート3の対向方向における中心において温度測定装置5の支持体5aに張力を与えて直線状に支持し、この状態で前記隙間に触媒を充填し、触媒層の中央に温度測定装置5が保持されているプレート式反応器を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプレート式反応器に関し、特に、プレート式反応器におけるプレート間に温度測定装置を設置する方法、及びこのような温度測定装置を有するプレート式反応器に関する。
【背景技術】
【0002】
プロパン、プロピレン、又はアクロレインの気相接触酸化反応のような、発熱又は吸熱を伴い、粒状の固体触媒が用いられる気相反応に用いられる反応器としては、例えば、ガス状の原料を反応させるための反応容器と、伝熱管を有し、前記反応容器内に並んで設けられる複数の伝熱プレートと、前記伝熱管に熱媒を供給する装置と、を有し、前記反応容器は、供給されたガスが、隣り合う伝熱プレート間の隙間を通って排出される容器であり、前記伝熱プレートは、断面形状の周縁又は端縁で連結している複数の前記伝熱管を含み、隣り合う伝熱プレート間の隙間に触媒が充填されるプレート式反応器が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなプレート式反応器は、一般に、隣り合う伝熱プレート間の隙間に形成される複数の触媒層を有し、また伝熱プレートと触媒との接触性に優れていることから、前記気相反応による生成物を大量に効率よく製造する観点で優れている。
【0004】
一方で前記気相反応では、気相反応を制御する観点から、伝熱プレート間の触媒層における温度の測定が望まれている。この場合、温度測定部と伝熱プレートとが接触しないように、伝熱プレート間に温度測定装置を設置する必要がある。気相接触酸化反応に用いられる多管式反応器では、反応管内の触媒中に温度測定装置を設置する方法として、例えば、温度測定装置における温度測定部を支持するひも状又は管状の支持体に、反応管の内壁と支持体との接触を防止するための振れ止め部材を設ける技術が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
しかしながら、プレート式反応器では、前記隙間を形成する伝熱プレートの表面には反応容器内の通気方向に沿って凹凸が形成されていることから、前記隙間において前記支持体を中心部に維持できるほどに前記振れ止め部材を用いると、前記隙間への支持体の挿入及び引き出しができなくなることがある。このため、プレート式反応において、隣り合う伝熱プレート間の隙間に触媒が充填されてなる触媒層の温度を正確に測定することができるように温度測定装置を設置することができる技術が求められていた。
【特許文献1】特開2004−202430号公報
【特許文献2】特開2003−1094号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、プレート式反応において隣り合う伝熱プレート間の隙間に触媒が充填されてなる触媒層の温度を正確に測定することができるプレート式反応器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、プレート式反応器において、隣り合う伝熱プレート間の隙間に温度測定装置の支持体を伝熱プレートの対向方向における前記隙間の中心面に張設し、この状態で前記隙間に触媒を充填する方法及びこの方法によって構成されるプレート式反応器を提供する。
【0008】
すなわち本発明は、ガス状の原料を反応させるための反応容器内に並んで設けられる複数の伝熱プレートを有し、前記伝熱プレートは断面形状の周縁又は端縁が一直線上で連結している複数の伝熱管を含むプレート式反応器における隣り合う伝熱プレート間の隙間に、この隙間の温度を測定するための温度測定装置を設置する方法であって、前記温度測定装置は、可撓性を有する支持体とこの支持体に支持される温度測定部とを有し、前記隙間は前記支持体の幅よりも大きな幅を有し、前記隙間において、隣り合う伝熱プレートから等距離の位置に直線状に前記支持体を張る工程と、前記支持体が張られている状態で前記隙間に触媒を充填する工程とを含む方法を提供する。
【0009】
また本発明は、ガス状の原料を反応させるための反応容器と、前記反応容器内に並んで設けられる複数の伝熱プレートと、隣り合う伝熱プレート間の隙間の温度を測定するための温度測定装置と、前記隙間に充填されている触媒とを有し、前記反応容器は、供給されたガスが、隣り合う伝熱プレート間の隙間を通って排出される容器であり、前記伝熱プレートは、断面形状の周縁又は端縁が一直線上で連結している複数の伝熱管を含むプレート式反応器であって、前記温度測定装置は、可撓性を有する支持体と、この支持体に支持される温度測定部とを有し、前記隙間は前記支持体の幅よりも大きな幅を有し、前記支持体は、前記隙間に充填されている触媒によって、前記隙間において、隣り合う伝熱プレートから等距離の位置に直線状に配置されているプレート式反応器を提供する。
【0010】
さらに本発明は、前記温度測定装置が、前記隙間において前記支持体を挟む二枚の伝熱プレートの一方又は両方に接するスペーサをさらに有する前記の方法及びプレート式反応器を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、プレート式反応器において、隣り合う伝熱プレート間の隙間の中心に、温度測定部を支持する支持体を張った状態で保持し、この状態で前記隙間に触媒を充填することから、プレート式反応器において温度測定部を触媒層の中心に配置することができる。したがって、前記触媒層の温度を正確に測定することができるプレート式反応器を提供することができる。
【0012】
また本発明では、前記温度測定装置が前記スペーサを有すると、伝熱プレートの対向方向における支持体の振れを抑制する観点からより一層効果的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のプレート式反応器は、ガス状の原料を反応させるための反応容器と、前記反応容器内に並んで設けられる複数の伝熱プレートと、隣り合う伝熱プレート間の隙間の温度を測定するための温度測定装置と、前記隙間に充填されている触媒とを有する。
【0014】
前記反応容器は、並列する複数の伝熱プレートが収容され、供給されたガスが、隣り合う伝熱プレート間の隙間を通って排出される容器である。前記反応容器には、例えば、通気方向に対する横断面の形状が矩形であるケーシングや、前記横断面の形状が円形であるシェルが用いられる。
【0015】
前記反応容器は、通常、一対の通気口を有する。前記一対の通気口は、一方が反応容器に供給される原料ガスの供給口となり、他方が反応容器で生成した生成ガスの排出口となる。通気口の形態は、反応容器へのガスの供給と反応容器からのガスの排出とが行われる形状であれば特に限定されない。一対の通気口は、対向して設けられていることが好ましい。このような通気口としては、例えば、ケーシングやシェルの両端に設けられる一対の通気口や、シェルの中心軸を含む中心部とシェルの内周部とにそれぞれ円筒状に形成され、シェルの横断面において放射状にガスを通気させる一対の通気口が挙げられる。
【0016】
前記伝熱プレートは、断面形状の周縁又は端縁が一直線上で連結している複数の伝熱管を含む。このような伝熱プレートは、特許文献1に開示されているように、円弧、楕円弧、矩形等のパターンが連続して形成された二枚の波板を両波板のパターンの端に形成される凸縁で互いに接合することによって形成することができる。又は伝熱プレートは、複数の前記伝熱管を周縁又は端縁で連結して形成することができる、又は伝熱プレートは、複数の前記伝熱管を反応容器において周縁又は端縁で接するように積み重ねて形成することができる。
【0017】
伝熱プレートの形状や大きさは、反応容器の形状や大きさに応じて決められるが、一般に矩形であり、例えば縦(すなわち伝熱管の連結高さ)が1〜6mであり、横(すなわち伝熱管の長さ)が0.05〜10mである。
【0018】
反応容器において伝熱プレートは、隣り合う伝熱プレート間の隙間が、隣り合う伝熱プレートから等距離の位置において、前記支持体の幅よりも大きな幅を有するように並べられる。このような隙間を形成する範囲において、伝熱プレートは、隣り合う伝熱プレートの表面の凸縁が互いに対向するように並べられてもよいし、一方の伝熱プレートの表面の凸縁が他方の伝熱プレートの表面の凹縁に対向するように並べられてもよい。隣り合う伝熱プレート間の距離は、各伝熱プレートの横断方向における伝熱管の最短距離が5〜50mmであることが好ましい。
【0019】
伝熱プレートにおける伝熱管は、反応容器内の通気方向に対して直交する方向に延出するように形成されていること、すなわち伝熱管を流れる熱媒の方向が反応容器内の通気方向に対して直交する方向であること、が、伝熱管中の熱媒の温度の調整によって原料の反応を制御する観点から好ましい。
【0020】
前記伝熱管は、伝熱管内の熱媒と伝熱管に外接する触媒層との間で熱が交換される伝熱性を有する材料で形成される。このような材料としては、例えばステンレス及びカーボンスチールが挙げられる。伝熱管の断面形状は、円形でもよいし、楕円形やラグビーボール型等の略円形でもよいし、矩形等の多角形でもよい。伝熱管の断面形状における周縁とは、円形における周縁を意味し、伝熱管の断面形状における端縁とは、略円形における長軸端の縁や、多角形における一角の縁を意味する。
【0021】
一枚の伝熱プレート中の複数の伝熱管のそれぞれにおける断面の形状及び大きさは、一定であってもよいし異なっていてもよい。伝熱管の断面形状の大きさは、例えば伝熱管の幅が3〜20mmであり、伝熱管の高さが10〜50mmである。
【0022】
前記温度測定装置は、可撓性を有する支持体と、この支持体に支持される温度測定部とを有する。温度測定装置は、一体の反応容器に一つ設けられても、複数設けられてもよい。一反応容器における反応の状態を把握して制御する観点から、温度測定装置は、一体の反応容器に複数設けられることが好ましく、例えば2〜20設けることが好ましい。
【0023】
前記支持体には、例えば可撓性を有する紐、帯、鎖、管が用いられる。支持体の長さは1.1〜12mであることが好ましく、支持体の太さ(幅)は0.5〜5mmであることが好ましい。また支持体の太さは、隣り合う伝熱プレート間における、伝熱管の横断方向における最短距離の1/5以下であることが好ましい。なお、支持体の太さは、支持体が前記隙間に設けられるときの、伝熱管の横断方向における最大太さである。
【0024】
前記温度測定部は、温度の測定値を電気信号として送信することができる部材であることが好ましい。温度測定部には、反応時における触媒層の温度の範囲に応じた前記部材を
用いることができる。このような温度測定部としては、例えばコイル状の白金の細線を有する白金測温抵抗体、サーミスタ、熱電対、及び光ファイバ中の光信号の変化により温度を測定する光ファイバ型温度測定器が挙げられる。
【0025】
温度測定部は、一本の支持体に対して一つであってもよいし、複数であってもよい。また前記温度測定部は、支持体に固定されていてもよいし、例えば管状の支持体内を移動自在に支持体によって支持されていてもよい。支持体に固定される温度測定部は、触媒層の検温によって反応を制御する観点から、一本の支持体に1〜30設けられることが好ましく、触媒層に複数の反応帯域が形成される場合では、一反応帯域に対して1〜10設けられることが好ましい。
【0026】
前記支持体は、前記隙間において、隣り合う伝熱プレートから等距離の位置に配置される。隣り合う伝熱プレートから等距離の位置とは、伝熱プレートの断面において、伝熱管の連結端を結んで形成される直線を伝熱プレートの軸としたときに、隣り合う伝熱プレートの軸の中間の位置(「隙間の中心面」ともいう)である。このような支持体の配置は、後述する張設工程と充填工程とによって行うことができる。
【0027】
支持体は、前記隙間の中心面に張られていればよく、例えば支持体がさらに反応容器における通気方向に沿って固定されることは、所定の熱媒の温度における反応の状態を正確に把握する観点から好ましく、支持体がさらに前記隙間の中心面を斜めに、例えば対角線に沿って固定されることは、一本の支持体で前記触媒層における反応の状態を広く把握する観点から好ましい。
【0028】
前記温度測定装置は、前記隙間において前記支持体を挟む二枚の伝熱プレートの一方又は両方に接するスペーサをさらに有することが、伝熱プレートの対向方向における支持体の振れを抑制する観点から好ましい。スペーサは、一本の支持体に対して一つでも複数でもよい。スペーサは、触媒の充填時における触媒の滞留を防止する観点から、棒又は充填時の触媒の供給方向に沿って表面が延出する板であることが好ましい。さらにスペーサは、一つのスペーサが、隣り合う伝熱プレートのうちの一方のみに接することが前記隙間への支持体の挿入及び前記隙間からの支持体の引き抜きを容易に行う観点から好ましく、両方の伝熱プレートに接することが、スペーサの数を少なくする観点から好ましい。またスペーサは、これらの触媒の充填、前記隙間への温度測定装置の設置と取り出し、及び前記隙間の中心面への支持体の配置の観点から、一本の支持体に1〜10設けられることが好ましい。
【0029】
前記触媒には、気相反応で管又は伝熱プレート間の隙間に充填される通常の粒状の触媒を用いることができる。触媒は一種でも二種以上でもよい。このような触媒としては、例えば粒径(最長径)が3〜20mmであり、比重が0.5〜2である触媒が挙げられる。また触媒の形状としては、例えば球状、円柱状、ラシヒリング状が挙げられる。
【0030】
本発明のプレート式反応器は、前述した構成以外の他の構成をさらに有していてもよい。このような他の構成としては、例えば、熱媒供給装置、仕切り、仕切り用係止部、及び、通気栓、が挙げられる。
【0031】
前記熱媒供給装置は、前記伝熱管に熱媒を供給する装置である。このような熱媒供給装置としては、例えば、複数の伝熱管の全てに一方向に熱媒を供給する装置や、複数の伝熱管の一部に一方向に熱媒を供給し、複数の伝熱管の他の一部には逆方向に熱媒を供給する装置が挙げられる。熱媒供給装置は、前記伝熱管を介して反応管内外で熱媒を循環させる装置であることが好ましい。前記熱媒供給装置は、熱媒の温度を調整する装置を有することが、反応容器における反応を制御する観点から好ましい。
【0032】
前記仕切りは、隣り合う伝熱プレート間の隙間に、反応容器内の通気方向に沿って設けられ、前記隙間に複数の区画を形成する部材である。前記仕切りは、各区画に触媒が充填されたときに、各区画に触媒を保持することができる部材が用いられる。このような仕切りとしては、例えば、ステンレス製の板、角棒、丸棒、網、グラスウール、及びセラミック板が挙げられる。前記仕切りは、前記隙間への触媒の充填を区画単位で行い、触媒の正確かつ容易な充填を行う観点で好ましい。このような観点から、前記仕切りは、1〜100Lの容積の区画を形成することが好ましく、また形成される全ての区画が同一容積であることが好ましい。
【0033】
前記仕切りは、仕切りの性状に応じて適宜に伝熱プレート間の隙間に設けることができる。例えば可撓性を有する仕切りや、伝熱プレート間の最短距離の幅を有する形状の仕切りは、予め反応容器に設置されている複数の伝熱プレートにおける隣り合う伝熱プレート間の隙間に挿入することによって伝熱プレート間の隙間に設けることができる。また、伝熱プレートの表面に密着する形状の仕切りは、反応容器に伝熱プレートを設置する際に、伝熱プレートと仕切りとを交互に設置することによって伝熱プレート間の隙間に設けることができる。
【0034】
前記仕切り用係止部は、可撓性を有する仕切りを、形成される区画から触媒が漏れないように前記隙間に保持するために、仕切りの端部を各区画の端部に係止する部材である。このような仕切り用部材としては、例えばフック、フックを係止するための輪、孔、窪み等が挙げられる。
【0035】
前記通気栓は、各区画の通気性と触媒の保持とを両立する部材であって、各区画の端部に着脱自在に固定される部材である。通気栓は、前記隙間から区画単位で触媒を抜き出す観点から好ましい。通気栓は、例えば孔とこの孔に進出する方向に付勢されている爪、及び、孔とボルト及びナット、等の対となる係止部を用いて、各区画の端部に着脱自在に固定することができる。
【0036】
本発明のプレート式反応器は、以下の方法によって構成することができる。この方法は、ガス状の原料を反応させるための反応容器内に並んで設けられる複数の伝熱プレートを有し、前記伝熱プレートは断面形状の周縁又は端縁で連結している複数の伝熱管を含むプレート式反応器における隣り合う伝熱プレート間の前記隙間に、この隙間の温度を測定するための前記温度測定装置を設置する方法であって、前記隙間において、隣り合う伝熱プレートから等距離の位置に直線状に前記支持体を張る張設工程と、前記支持体が張られている状態で前記隙間に触媒を充填する充填工程とを含む。
【0037】
前記張設工程では、支持体を破断せず、かつ支持体をほぼ直線状にする張力が支持体に与えられるように、支持体が引っ張られる。張設工程では、支持体をその両端で引っ張ってもよいし、支持体の一端を固定して支持体の他端を引っ張ってもよい。このような支持体の引っ張りは、バネや錘のような、支持体が引っ張られる方向に支持体の端部を所定の力で付勢する部材や、ネジとナットのように支持体が引っ張られる方向に支持体の端部を進出、固定させる部材を用いて行うことができる。支持体の端部は、前記隙間の通気方向における端部に固定してもよいし、その延長線上の任意の位置に固定してもよい。支持体の端部の固定には、例えば支持体又は反応容器内の一方に設けられるフックと他方に設けられる孔又はリングのような互いに係止する一対の部材によって行うことができる。
【0038】
前記充填工程は、支持体が張られている状態で各隙間と同量の触媒を各隙間に連続して又は断続的に充填することによって行うことができる。触媒の適切な充填状態は、例えば各隙間に充填された触媒(触媒層)の天面の位置の対比や、各隙間における前記天面の実
測値と計算値との比較によって判断することができる。
【0039】
プレート式反応器が前記仕切りをさらに有する場合は、触媒の充填は区画単位で行うことができる。プレート式反応器が前記通気栓をさらに有する場合は、区画単位で触媒を抜き出すことができる。この場合、前記充填工程は、各区画と同量の触媒を各区画に連続して又は断続的に充填することによって行うことができる。
【0040】
充填工程後では、支持体は前記隙間の中心面に触媒によって保持されることから、支持体の張りを解除することができる。以上より、触媒層の中心において触媒の温度を測定することができるプレート式反応器を構成することができる。
以下、本発明を図面に基づいてさらに具体的に説明する。
【0041】
図1に示すプレート式反応器は、矩形のケーシング1と、伝熱管2を有し、ケーシング1内に対向して並んで設けられる複数の伝熱プレート3と、伝熱管2に供給される熱媒を収容する熱媒収容部4と、隣り合う伝熱プレート3間の隙間にケーシング1内の通気方向に沿って設けられる複数の温度測定装置5と、伝熱プレート3の下部に設けられる穴あき板6と、熱媒収容部4の熱媒を循環させるためのポンプ7と、循環する熱媒の温度を調整するための温度調整装置8a〜8cとを有する(図2及び3参照)。
【0042】
ケーシング1は、断面形状が矩形の通気路を形成しており、前記反応容器に相当する。ケーシング1は、ケーシング1の上端及び下端に、対向する一対の通気口10、10’を有しており、通気口10を含むケーシング端部11と、通気口10’を含むケーシング端部11’と、伝熱プレート3が収容されるケーシング本体とから構成されている。ケーシング端部11、11’は、ケーシング本体に接続されている。ケーシング端部11には、温度測定装置5をケーシング1内に挿入するためのノズル12が設けられている。
【0043】
伝熱管2は、例えば長径が30〜50mmであり短径が10〜20mmの断面形状が楕円形の管である。
【0044】
伝熱プレート3は、複数の伝熱管2が断面形状の端縁で連結した形状を有している。伝熱プレート3の断面形状において、これらの端縁は一直線上に連結している。伝熱プレート3は、楕円弧が連続して形成された二枚の波板を両波板の弧の端に形成される凸縁で互いに接合することによって形成されている。隣り合う伝熱プレート3は、表面の凸縁同士が対向するように並列していてもよいが、図1のプレート式反応器では、一方の伝熱プレート3の表面の凸縁と、他方の伝熱プレート3の表面の凹縁とが対向するように並列している。
【0045】
伝熱プレート3は、例えば図4に示すように、断面の大きさが異なる三種の伝熱管2a〜2cを上部、中部、及び下部のそれぞれにおいて含んでいる。伝熱プレート3は、伝熱管2a〜2cの長軸が一直線上に配置されるように形成されている。また例えば、伝熱管2aは、伝熱プレート3の高さの20%分の伝熱プレート3を形成し、伝熱管2bは伝熱プレート3の高さの30%分の伝熱プレート3を形成し、伝熱管2cは伝熱プレート3の高さの40%分の伝熱プレート3を形成している。伝熱プレート3の高さの10%分は、伝熱プレート3の上端部及び下端部の接合板部で形成されている。
【0046】
伝熱プレート3の上部に形成されている伝熱管2aの断面形状は、長径が50mmであり、短径が20mmの楕円形であり、伝熱プレート3の中部に形成されている伝熱管2bの断面形状は、長径が40mmであり、短径が16mmの楕円形であり、伝熱プレート3の下部に形成されている伝熱管2cの断面形状は、長径が30mmであり、短径が10mmの楕円形である。
【0047】
なお、伝熱プレート3は、反応容器全体において同じ間隔で並列しており、例えば隣り合う伝熱プレート3間の隙間における伝熱管2aの外壁間の水平方向における距離が30mmで並列している。
【0048】
熱媒収容部4は、ケーシング1の対向する一対の壁に設けられる容器であり、各伝熱管2に熱媒を供給するための供給口が前記壁に形成されており、例えば反応容器全体において、熱媒が伝熱管2を介して熱媒収容部4間を蛇行するように、所定の高さにおいて複数に区切られている。
【0049】
穴あき板6は、充填される触媒の最長径に対して0.20〜0.99倍の径を有する孔が20〜99%の開口率で設けられている板である。なお、図1のプレート式反応器では、最も外側に配置される伝熱プレート3とケーシング1の壁との間の隙間への通気を防止するために、図3に示すように、最も外側に配置されている伝熱プレート3の端縁からケーシング1の壁までの隙間が塞がれている。
【0050】
ポンプ7には、所望の温度の熱媒を移送することができる装置が用いられる。また、温度調整装置8a〜8cのそれぞれには、熱媒の温度を所望の温度に制御することができる熱交換器等の装置が用いられる。熱媒収容部4、ポンプ7、及び温度調整装置8a〜8cは熱媒供給装置を構成している。
【0051】
温度測定装置5は、例えば図5に示すように、伝熱プレート3が形成する複数の隙間のうち、最も外側の隙間と中央部における任意の隙間に設けられ、伝熱プレート3間の一つの隙間において、熱媒の流れ方向に沿って、ケーシング1における熱媒の入口近傍と出口近傍とを含む複数箇所に設けられる。温度測定装置5の設置位置は、伝熱プレート3の一本の伝熱管2における上流側の熱媒と下流側の熱媒との温度差に応じて決めることができる。例えば熱媒の温度を0.5℃単位で制御する場合では、温度測定装置5は、伝熱プレート3の一本の伝熱管2における上流側の熱媒と下流側の熱媒との温度差が1℃以上になる位置に設けられる。
【0052】
温度測定装置5は、図4に示すように、可撓性を有する支持体5aと、支持体5aに支持されている複数の温度測定部5bと、支持体5aから水平方向に延出し、伝熱プレート3の表面に接する複数のスペーサ5cと、支持体5aの基端に設けられるフランジ5dと、フランジ5dに接続されるコネクタ5eと、コネクタ5eに接続されるケーブル5fとを有している。支持体5aの先端部は穴あき板7の孔を通って下方に延出し、支持体5aの先端には固定用フランジ5gが設けられている。
【0053】
支持体5aは管壁の平均厚さが0.2mmであるステンレス製の管である。支持体5a内には、温度測定部5bである11本の熱電対が挿入されている。各温度測定部5bは、各触媒層における温度変化に応じて配置される。例えば温度測定部5bは、触媒層における反応ガスの入口近傍と、出口近傍と、各触媒層の各反応帯域においてそれぞれ最大温度になると予測される三箇所とに設けられる。より具体的には温度測定部5bは、図4に示すように、各隙間の通気方向において、各隙間の上端部に一つ、伝熱管2a群によって形成される第一の反応帯域の下部に三つ、伝熱管2b群によって形成される第二の反応帯域の中央部に三つ、伝熱管2cによって形成される第三の反応帯域の上部に三つ、各隙間の下端部に一つが、それぞれ設けられる。
【0054】
なお、各伝熱管2において熱媒の温度差が1℃以上になる位置や、各触媒層の各反応帯域において最大温度になると予測される位置は、この反応器の試験機を用いた実験結果に基づいて、又はアンシス株式会社のCFX、CD adapco社のSTAR−CD、P
SE社のgPROMS等のソフトを用いるコンピュータシミュレーションの結果に基づいて決めることができる。
【0055】
スペーサ5cは、支持体5aに基端が固定され水平方向に延出するステンレス製の棒材である。スペーサ5cは、支持体5aにおける位置に応じた長さを有しており、支持体5aが各隙間の中心面に支持されたときに伝熱プレート3の表面にスペーサ5cの先端が接触する長さを有している。スペーサ5cは、支持体5aが固定されている支持体5aの先端部から離れている、支持体5aの中央部から基端部にかけて三本設けられており、対向する伝熱プレート3のそれぞれに交互に接触するように設けられている。
【0056】
フランジ5dは、フランジ5dをケーシング1内の所定の高さに支持するフランジ支持部材に載せられている。フランジ支持部材は、例えばケーシング端部11から垂設するボルトが挿通され、ナットによって所定の高さに保たれる部材であり、例えば支持体5aを挟む二本の鋼線と、ボルト用の孔を有し二本の鋼線を支持する鋼線支持部材と、ボルト用の孔に前記ボルトが挿入された鋼線支持部材を下から締め上げるナットとによって構成される。固定用フランジ5gは、支持体5aの先端に設けられ、穴あき板6の孔の直径よりも大きな直径を有する円板又は輪である。
【0057】
図4の温度測定装置5は、垂直方向において、前記隙間の下端部では、各伝熱プレート3から等距離の位置で、支持体5aの先端が固定用フランジ5gによって穴あき板6に固定されており、前記隙間の上端部では、各伝熱プレート3から等距離の位置で、支持体5aの基端が前記フランジ支持部材によって固定されている。フランジ支持部材のナットを締め付けることにより、ナットが上方に移動し、支持体5はフランジ支持部材によって上方に張られ、それぞれのスペーサ5cが伝熱プレート3の表面に接触した状態で支持体5aは直線状になる。
【0058】
このように支持体5aに上下方向に張力が与えられている状態で前記隙間に触媒が充填される。触媒には、例えば形状が円柱状であり、粒径(最長径)が4mmであり、比重が0.7である触媒が用いられる。
【0059】
前記隙間に触媒が充填されると、支持体5aは充填された触媒によって支持され、前記隙間において、この隙間の中心面に配置される。触媒の充填後は、前記フランジ支持部材のナットを緩めてもよいし、固定用フランジ5gを取り外してもよいし、フランジ支持部材を解体してもよい。
【0060】
また、支持体5aは、触媒の充填前において、図6に示すように、前記隙間の上方で前記フランジ支持部材によってフランジ5dを固定し、穴あき板6の孔を通過した支持体5aの先端に錘5hを掛けるによって、前記隙間の中心面に直線状に張ることができる。この場合、触媒の充填後には、錘5hを外してもよいし、さらに前記フランジ支持部材を解体してもよい。
【0061】
図1のプレート式反応器を用いることにより、反応時において、各温度測定装置5で測定された温度の測定値に基づいて熱媒の温度を適切に制御することができる。例えば図1のプレート式反応器を用いる、発熱反応である気相接触酸化反応において、各温度測定装置5における測定値が、触媒の上限温度以下となるように、伝熱管2供給前の熱媒の温度を、温度調整装置8a〜8cによって調整することができる。各伝熱管への熱媒の供給には、熱媒の温度の調整及び反応温度の制御を精密に行う観点から、図5に示すように、熱媒収容部4に供給される熱媒を混合する混合器13や、熱媒収容部4の熱媒を熱媒収容部4から各伝熱プレート3に向けて水平方向に分散する分散器14を用いることができる。
【0062】
図1のプレート式反応器は、温度測定装置5が前記隙間の中心面に張られた状態で前記隙間に触媒が充填されることから、伝熱プレート3の対向方向における前記隙間の中心に温度測定装置5が保持されているプレート式反応器を構成することができる。したがって、図1のプレート式反応器は、プレート式反応器における反応温度を精密に制御する点において優れている。図1のプレート式反応器において、支持体5aの上下方向への張りは、支持体5aの下端を固定して上端を持ち上げることによって行うことができ、また支持体5aの上端を固定して下端を引き下げることによって行うことができる。
【0063】
図1のプレート式反応器は、穴あき板6において支持体5aの下端が前記隙間の中心面に固定されており、かつ支持体5aの上部において伝熱プレート3と支持体5aとの所定の距離を保つスペーサ5cを有することから、支持体5aの上部においても支持体5aを前記隙間の中心面に正確に配置する点において優れている。
【0064】
なお図1のプレート式反応器では、フランジ5dに代えて、穴あき板6の孔又は穴あき板6に設けられる輪に係止するフックを用いて、穴あき板6の前記隙間側において支持体5aの先端を固定してもよい。このような形態は、簡易かつ接触面積の小さな構成で支持体5aの先端を前記隙間の中心面に固定する点において優れている。
【産業上の利用可能性】
【0065】
プレート式反応器のように触媒を充填して用いる不均一気相反応では、触媒層の温度の把握が反応を制御する観点から重要である。本発明のプレート式反応器によれば、伝熱プレートに非接触の状態の温度測定装置を正確かつ容易に行うことができ、プレート式反応器における精密な反応の制御と共に、このようなプレート式反応器の設置、保守管理、及び定期点検における作業性の格段の向上が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明のプレート式反応器の一実施の形態における構成を概略的に示す図である。
【図2】図1のプレート式反応器をA−A’線に沿って切断したときの断面を示す図である。
【図3】図1のプレート式反応器をB−B’線に沿って切断したときの断面を示す図である。
【図4】隣り合う伝熱プレート3とその間に設けられる温度測定装置5の設置状態の一例を示す図である。
【図5】ケーシング1における温度測定装置5の配置の一例を概略的に示すための平面図である。
【図6】隣り合う伝熱プレート3とその間に設けられる温度測定装置5の設置状態の他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0067】
1 ケーシング
2、2a〜2c 伝熱管
3 伝熱プレート
4 熱媒収容部
5 温度測定装置
5a 支持体
5b フランジ
5c スペーサ
5d 温度測定部
5e コネクタ
5f ケーブル
5g 固定用フランジ
5h 錘
6 穴あき板
7 ポンプ
8a〜8c 温度調整装置
10、10’ 通気口
11、11’ ケーシング端部
12 ノズル
13 混合器
14 分散器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス状の原料を反応させるための反応容器内に並んで設けられる複数の伝熱プレートを有し、前記伝熱プレートは断面形状の周縁又は端縁が一直線上で連結している複数の伝熱管を含むプレート式反応器における隣り合う伝熱プレート間の隙間に、この隙間の温度を測定するための温度測定装置を設置する方法であって、
前記温度測定装置は、可撓性を有する支持体とこの支持体に支持される温度測定部とを有し、
前記隙間は、前記支持体の幅よりも大きな幅を有し、
前記隙間において、隣り合う伝熱プレートから等距離の位置に直線状に前記支持体を張る工程と、
前記支持体が張られている状態で前記隙間に触媒を充填する工程とを含むことを特徴とする、プレート式反応器における温度測定装置の設置方法。
【請求項2】
前記温度測定装置は、前記隙間において前記支持体を挟む二枚の伝熱プレートの一方又は両方に接するスペーサをさらに有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ガス状の原料を反応させるための反応容器と、前記反応容器内に並んで設けられる複数の伝熱プレートと、隣り合う伝熱プレート間の隙間の温度を測定するための温度測定装置と、前記隙間に充填されている触媒とを有し、
前記反応容器は、供給されたガスが、隣り合う伝熱プレート間の隙間を通って排出される容器であり、
前記伝熱プレートは、断面形状の周縁又は端縁が一直線上で連結している複数の伝熱管を含むプレート式反応器であって、
前記温度測定装置は、可撓性を有する支持体と、この支持体に支持される温度測定部とを有し、
前記隙間は、前記支持体の幅よりも大きな幅を有し、
前記支持体は、前記隙間に充填されている触媒によって、前記隙間において、隣り合う伝熱プレートから等距離の位置に直線状に配置されていることを特徴とするプレート式反応器。
【請求項4】
前記温度測定装置は、前記隙間において前記支持体を挟む二枚の伝熱プレートの一方又は両方に接するスペーサをさらに有することを特徴とする請求項3に記載のプレート式反応器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−240956(P2009−240956A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91789(P2008−91789)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(000176763)三菱化学エンジニアリング株式会社 (85)
【Fターム(参考)】