説明

プロテアーゼに対して安定しているペグ化インスリンアナログ

プロテアーゼに対する耐性を示す新規のペグ化されたインスリンアナログは、効果的に、肺又は口腔に投与することができる。インスリンアナログはB25H及びA14E又はA14Hを含む。B29Kでペグ化されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロテアーゼに対する耐性を示す新規のペグ化されたインスリンアナログ、このようなインスリンアナログの調製方法、本発明のインスリンアナログを含有するインスリン調製物、及びこれらのインスリンアナログを使用する真性糖尿病の処置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真性糖尿病は、グルコースを利用する能力が部分的又は完全に喪失している代謝性疾患である。全人口の約5%が糖尿病に罹患しており、疾患は流行となる割合に近づいている。1920年代にインスリンが導入されて以来、真性糖尿病の処置を改善するための、絶え間ない努力がなされている。糖尿病に罹患している人々は、数十年以上、長期間にわたる処置を受けているために、安全で簡便であり、生活の質を改善するインスリン調製物がかなり必要とされている。
【0003】
ヒトインスリンは、それぞれ21及び30のアミノ酸残基を有し、2つのシステインジスルフィド架橋により互いに連結している、いわゆるA及びB鎖といった2つのポリペプチド鎖からなる。
経口経路は、薬剤投与で最も幅広く使用されている経路であり、特に長期治療を受けている患者に、一般的には非常によく受け入れられている。しかしながら、治療用ペプチド又はタンパク質の投与は、胃腸(GI)管及び腸管粘膜における酵素的分解、薬剤排出ポンプ、腸粘膜からの不十分かつ可変吸収、並びに肝臓での初回通過代謝等のいくつかの障壁のために、多くの場合、好ましい経口投与よりも、非経口投与に限定されている。
【0004】
通常、インスリン調製物は、皮下注射により投与される。しかしながら、他の経路、例えば経口又は肺による投与は、患者のコンプライアンス、安全性及び簡便性にとって有利である。商業的に入手可能なインスリン調製物のいくつかは、作用発現が速いことで特徴付けられ、他の調製物は、作用発現は比較的遅いが、程度の差はあるが、長時間にわたる作用性を示す。
【0005】
タンパク質/ペプチドの経口送達のための近年の製剤設計には、プロテアーゼインヒビター、浸透エンハンサー、ポリマーベースの送達系、及びインスリンコンジュゲートが含まれる。後者には、ヘキシル-インスリン-モノコンジュゲート-2(HIM2)、B29に結合したPEG7-ヘキシル基を有するヒトインスリンアナログが含まれる。例えば 米国特許第7,030,082号;米国特許第6,867,183号、及び米国特許第6,770,625号には、インスリンと比較して、タンパク質分解安定性及び生物学的利用能が増加した経口HIM2が報告されている。例えば、国際公開第02/098446号は、実質的に単分散したコンジュゲートの混合物に関し、各コンジュゲートはポリアルキレングリコール部分を有するオリゴマーにカップリングした薬剤を含有し、該薬剤はポリペプチド、例えばインスリンペプチドである。国際公開第02/098446号の実施例124において、いくつかのインスリン-オリゴマーコンジュゲートが記載されており、ここでインスリンペプチドはヒトインスリンであり:ヒトインスリンは酵素に対して安定ではない、すなわちキモトリプシンに対して安定していない。実施例1によれば、米国特許第2006/0019874 A1は、(a)修飾された部分にコンジュゲートしたインスリン化合物を含有するインスリン化合物コンジュゲート、及び(b)カチオンを含む複合体に関し、ここでインスリン化合物コンジュゲートはカチオンと錯体を形成している。
【発明の態様】
【0006】
この発明の態様は、経口投与された場合に、血糖値を満足に制御可能なインスリンアナログを提供することに関する。
この発明の他の態様は、肺投与された場合に、血糖値を満足に制御可能なインスリンアナログを提供することに関する。
この発明の他の態様は、肺投与された場合に、比較的ゆっくりと作用発現し、程度の差はあるが長時間作用しつつ、血糖値を満足に制御可能なインスリンアナログを提供することに関する。
この発明の目的は、従来技術の少なくとも一の不具合を克服又は改善し、又は有用な代替物を提供することにある。
【定義】
【0007】
ここで、インスリンなる用語は、自然に生じるインスリン、例えばヒトインスリン、並びにそのインスリンアナログをカバーする。
ここで、アミノ酸残基なる用語は、水素原子がアミノ基から除去された、及び/又はヒドロキシ基がカルボキシ基から除去された、及び/又は水素原子がメルカプト基から除去されたアミノ酸をカバーする。おおよそ、アミノ酸残基はアミノ酸を指している。
【0008】
ここで、疎水性アミノ酸は、自然に生じるアミノ酸であるトリプトファン(Trp、W)、フェニルアラニン(Phe、F)、バリン(Val、V)、イソロイシン(Ile、I)、ロイシン(Leu、L)及びチロシン(Tyr、Y)と理解される(()内に1文字及び3文字略語を付与)。
ここで、親水性アミノ酸は、上述した疎水性アミノ酸ではない天然のアミノ酸であると理解される。一実施態様において、本発明の親水性の酸は:グルタミン酸(Glu、E)、アスパラギン酸(Asp、D)、ヒスチジン(His、H)、グルタミン(Gln、Q)、アスパラギン(Asn、N)、セリン(Ser、S)、スレオニン(Thr、T)、プロリン(Pro、P)、グリシン(Gly、G)、リジン(Lys、K)及びアルギニン(Arg、R)からなる群から選択される。さらなる実施態様において、本発明の親水性アミノ酸は:グルタミン酸(Glu、E)、アスパラギン酸(Asp、D)、ヒスチジン(His、H)、グルタミン(Gln、Q)、アスパラギン(Asn、N)、リジン(Lys、K)及びアルギニン(Arg、R)からなる群から選択される。
【0009】
ここで、インスリンアナログなる用語は、天然インスリン中に生じる一又は複数のアミノ酸残基を欠失及び/又は置換する(置き換える)ことにより、及び/又は一又は複数のアミノ酸残基を付加することにより、例えばヒトインスリン等の自然に生じるインスリンの構造体から形式上誘導可能な分子構造体を有するポリペプチドをカバーする。付加及び/又は置換されたアミノ酸残基は、コード性アミノ酸残基又は他の自然に生じるアミノ酸残基又は純粋に合成されたアミノ酸残基のいずれかとすることができる。
【0010】
ここで、娘インスリンなる用語は、付加されたPEG部分を有さないインスリンを意味する。前記娘インスリンは、プロテアーゼによる分解に対して、改善された安定性を有する。
ここで、親インスリンなる用語は、付加されたPEG部分を有さず、プロテアーゼに対する分解に対する安定性を改善するための変異がなされていないインスリンを意味する。前記親インスリンは、場合によってはヒトインスリンに対して変異している。よって、親インスリンは、上述したインスリンアナログでもある。
ここで、変異なる用語は、アミノ酸配列における任意の変化をカバーする(コード性アミノ酸の挿入及び置換、並びに欠失)。
ここで、ヒトインスリンのA鎖のアナログ及びB鎖のアナログなる用語は、それぞれ、ヒトインスリンのA及びB鎖に対し、A及びBアミノ酸鎖の一又は複数の置換、欠失及び/又は伸長(付加)を有する、ヒトインスリンのA及びB鎖をカバーする。
【0011】
ここで、A1、A2、A3等の用語は、それぞれ、(N末端から数えて)インスリンのA鎖の位置1、2及び3を示す。同様に、B1、B2、B3等の用語は、それぞれ、(N末端から数えて)インスリンのB鎖の位置1、2及び3を示す。アミノ酸用の1文字コードを使用すると、A21A、A21G及びA21Q等の用語は、A21位にあるアミノ酸が、それぞれA、G及びQであることを示す。アミノ酸用の3文字コードを使用すると、対応する表現は、それぞれAlaA21、GlyA21及びGlnA21となる。
ここで、A(0)又はB(0)なる用語は、それぞれA又はB鎖において、A1又はB1位のN末端よりに隣接した位置を示す。A(−1)又はB(−1)なる用語は、それぞれA(0)又はB(0)に対してN末端よりの第1のアミノ酸の位置を示す。よって、A(−2)及びB(−2)は、それぞれA(−1)及びB(−1)に対してN末端よりの位置を示し、A(−3)及びB(−3)は、それぞれA(−2)及びB(−2)に対してN末端寄りの位置を示す。
ここで、desB29及びdesB30等の用語は、それぞれB29又はB30アミノ酸残基を欠く、インスリンアナログを示す。
【0012】
速効型インスリンとは、通常の又は定型的なヒトインスリンよりも作用発生が速いインスリンを意味する。
長時間作用するインスリンとは、通常の又は定型的なヒトインスリンよりも作用の持続期間が長いインスリンを意味する。
インスリンアナログ、インスリン、及びA及びB鎖における位置の番号付けは、親化合物がそのために使用される番号を有するヒトインスリンであるようになされる。
ここで使用される場合、基礎インスリンなる用語は、8時間を超え、特に少なくとも9時間の作用時間を有するインスリンペプチドを意味する。好ましくは、基礎インスリンは少なくとも10時間の作用時間を有する。基礎インスリンはよって約8〜24時間の範囲、好ましくは約9〜約15時間の範囲の作用時間を有しうる。
【0013】
ここで、リンカーなる用語は、PEG部分の-O-基で、インスリンの-HN-基に連結した化学的部分をカバーする。リンカーは、最終的なペグ化されたインスリンの所望する作用に何の影響も与えないものであり、特に何らかの悪影響を付与しないものである。
ここで使用される場合、「PEG」又はポリエチレングリコールとは、任意の水溶性ポリ(エチレンオキシド)を意味する。PEGなる表現は構造-(CHCHO)-を含み、ここでnは2〜約1000の整数である。一般的に使用されるPEGは末端キャップされたPEGであり、PEG末端の一端は比較的不活性な基、例えばアルコキシで末端キャップされ、他端はリンカー部分でさらに修飾されていてもよいヒドロキシル基である。多くの場合に使用されるキャップ基はメトキシであり、対応する末端キャップされたPEGは、多くの場合にmPEGと示される。ここで、mPEGはCHO(CHCHO)-であり、nは、PEG部分全体に対して示される平均分子量が十分、例えばmPEGがMw2000になるように、2〜約1000の整数であり、nは約44(バッチ間変動を受けた数)である。概念としてのPEGは、多くの場合、mPEGの代わりに使用される。
【0014】
この発明の特定のPEG形態は、分枝状、直鎖状、フォーク状、ダンベル状のPEG等であり、PEG基は、典型的には約1.05未満の低多分散指標を有する多分散系である。インスリンに存在するPEG部分は、付与される分子量によって、典型的にはエチレングリコール(又はエチレンオキシド)モノマーの範囲からなるであろう。例えば、分子量2000のPEG部分は、典型的には44±10のモノマーからなり、平均は約44のモノマーである。分子量(及びモノマー数)は、典型的には、ある程度のバッチ間変動を受けるであろう。
他の特定のPEG形態は、同様に分枝状、直鎖状、フォーク状、又はダンベル状の形状とすることができる単分散系である。単分散系とは、PEGポリマーの長さ(又は分子量)が特に定められており、種々の長さ(又は分子量)の混合物ではないことを意味する。ここで、概念としてのmdPEGは、mPEG分子が単分散系であることを示すために使用され、「discrete」の「d」が使用される。mdPEGの後の下付き数字、例えばmdPEG12で、このケースでは12は、多分散ポリマー(オリゴマー)内のエチレングリコールモノマーの数を示す。
【0015】
ペグ化されたインスリンなる用語は、リンカーを介して一又は複数のPEG部分が娘インスリンに付着することによる、インスリンの修飾をカバーする。PEG部分は、例えばOSu-活性化エステルを用い、ガンマ位置におけるリジン残基(類)、又はN末端αアミノ基における求核性置換(アシル化)により付着可能であり、又はPEG部分は、シアノ水素化ホウ素ナトリウム等の還元剤及びPEG-アルデヒド試薬を使用し、インスリン分子に存在するアミノ基における、還元的アルキル化により付着させることもでき、又はPEG部分は、例えばPEGマレイミド試薬を使用し、マイケル付加反応において不対システイン残基の側鎖に付着させることもできる。
インスリン活性を有するペグ化されたインスリンとは、ラット、ウサギ、又はブタモデルであってよい、適切な動物モデルにおいて測定して、例えば静脈内又は皮下投与によって適切に投与した後、哺乳動物の血糖を低下させる能力、又はインスリンレセプター結合親和性を有する、ペグ化されたインスリンを意味する。
【0016】
ここで、アルキルなる用語は、1〜12の炭素原子、好ましくは1〜6の炭素原子、より好ましくは1〜4の炭素原子を有する、飽和した、分枝状又は直鎖状の炭化水素基をカバーする。
ここで、アルコキシなる用語は、基「アルキル-O-」をカバーし、ここでアルキルは上述したものである。代表例はメトキシ、エトキシ、プロポキシ(例えば、1-プロポキシ及び2-プロポキシ)、ブトキシ(例えば、1-ブトキシ、2-ブトキシ、及び2-メチル-2-プロポキシ)、ペントキシ(1-ペントキシ及び2-ペントキシ)、ヘキソキシ(1-ヘキソキシ及び3-ヘキソキシ)等である。
ここで、アルキレンなる用語は、1〜12の炭素原子、好ましくは1〜6の炭素原子、より好ましくは1〜4の炭素原子を有する、飽和した、分枝状及び直鎖状の二価の炭化水素基をカバーする。代表例には、限定されるものではないが、メチレン、1,2-エチレン、1,3-プロピレン、1,2-プロピレン、1,3-ブチレン、1,4-ブチレン、1,4-ペンチレン、1,5-ペンチレン、1,5-ヘキシレン、1,6-ヘキシレン等が含まれる。
【0017】
高い物理的安定性とは、フィブリル化傾向がヒトインスリンの50%未満であることを意味する。フィブリル化は、原繊維形成が付与された条件で開始する前のラグタイムにより記載されてよい。
インスリンレセプター及びIGF-1レセプター親和性を有するポリペプチドは、適当な結合アッセイにおいてインスリンレセプター及びIGF-1レセプターと相互作用可能なポリペプチドである。このようなレセプターアッセイは、当該分野でよく知られており、実施例にさらに記載する。本ペグ化されたインスリンは、IGF-1レセプターに結合しないか、又は該レセプターに対し、低親和性しか有さない。より厳密には、この発明のペグ化インスリンは、ヒトインスリンと実質的同程度又はそれ以下のIGF-1レセプターに対する親和性を有しているであろう。
【0018】
ここで使用される場合、処置及び処置するといった用語は、病気、疾患又は病状に抗する目的で、患者を管理及びケアすることを意味する。本用語は、病気、疾患又は病状の進行の遅延化、症候群及び合併症の緩和又は軽減、及び/又は病気、疾患又は病状の治癒又は除去を含むことを意図している。処置される患者は、好ましくは哺乳動物、特にヒトである。
ここで使用される場合、病気の処置なる用語は、病気、病状又は疾患を発症した患者の管理及びケアを意味する。処置の目的は、病気、病状又は疾患に抗することである。処置には、病気、病状又は疾患の除去又は制御、並びに病気、病状又は疾患に関連する症候群又は合併症を緩和するために、活性化合物を投与することを含む。
ここで使用される場合、病気の予防なる用語は、病気の臨床的発症の前に、病気を発症する危険性を、個々に管理及びケアすることと定義される。予防の目的は、病気、病状又は疾患の発症に抗することであり、症候群又は合併症の発症を予防又は遅延化、及び関連する病気、病状又は疾患の発症を予防又は遅延化させるために、活性化合物を投与することを含む。
【0019】
ここで使用される場合、有効量なる用語は、処置しない場合と比較して、効果的に患者を処置するのに十分な用量を意味する。
POTは、分裂酵母トリオースリン酸イソメラーゼ遺伝子であり、TPI1は出芽酵母トリオースリン酸イソメラーゼ遺伝子である。
リーダーとは、プレ-ペプチド(シグナルペプチド)及びプロ-ペプチドからなるアミノ酸配列を意味する。
【0020】
シグナルペプチドなる用語は、タンパク質の前駆体において、N末端配列として存在するプレ-ペプチドを意味すると理解される。シグナルペプチドの機能は、異種タンパク質が小胞体への転位置を容易できることである。もちろん、シグナルペプチドはこのプロセス中に通常は切断される。シグナルペプチドはタンパク質を生成する酵母生物体に対して異種又は同族であってもよい。この発明のDNAコンストラクトを用いて使用され得る多くのシグナルペプチドには、酵母アスパラギン酸プロテアーゼ3(YAP3)シグナルペプチド、又は任意の機能的アナログ(Egel-Mitaniら、(1990) YEAST 6:127-137及び米国特許第5726038号)、及びMFα1遺伝子のα-因子シグナル(Thorner(1981)、The Molecular Biology of the Yeast Saccharomyces cerevisiae, Strathernら編, pp 143-180, Cold Spring Harbor Laboratory, NY、及び米国特許第487000号)が含まれる。
【0021】
プロ-ペプチドなる用語は、その機能が、小胞体からゴルジ体へ、さらには培養媒体への分泌のための分泌小胞への、発現ポリペプチドの指向を可能にすることであるポリペプチド配列を意味する(すなわち、ポリペプチドは、酵母細胞のペリプラズム空間に、細胞壁又は少なくとも細胞膜を介して出て行く)。プロ-ペプチドは酵母α-因子プロ-ペプチドであってよく、米国特許第4,546,082号及び同4,870,008号を参照。またプロ-ペプチドは、天然には見出されないプロ-ペプチドであると言われている、合成プロ-ペプチドであってよい。適切な合成プロ-ペプチドは米国特許第5,395,922号;同5,795,746号;同5,162,498号及び国際公開第98/32867号に開示されているものである。好ましくは、プロ-ペプチドは、Lys-Arg配列又はその任意の機能的アナログ等、C末端にエンドペプチダーゼプロセシング部位を有するであろう。
【0022】
明確に示さない限りは、ここに記載したアミノ酸はLアミノ酸である。さらに、他に特定しない限りは、ペプチドのアミノ酸配列の左又は右末端は、それぞれN及びC末端である。
次の略語が、明細書及び実施例において使用される:Daはダルトン(分子量)であり、kDaはキロダルトン(=1000Da)であり、mPEG-SBAはmPEG-CHCHCH-CO-OSu(mPEG-ブタン酸のN-ヒドロキシスクシンイミジルエステル)であり、mPEG-SMBはmPEG-CHCHCH(CH)-CO-OSu( mPEG-α-メチルブタン酸のN-ヒドロキシスクシンイミジルエステル)であり、mPEG-SPAはmPEG-CHCH-CO-OSu(mPEG-プロピオン酸のN-ヒドロキシスクシンイミジルエステル)であり、Mwは分子量であり、OSuは1-スクシンイミジルオキシ=2,5-ジオキソピロリジン-1-イルオキシであり、Rは室温であり、SAはシナピン酸であり、Suは1-スクシンイミジル=2,5-ジオキソピロリジン-1-イルである。
【発明の概要】
【0023】
(特異的な変異により)タンパク質分解に対して安定しており、B29-リジンでペグ化しているインスリンは、効果的かつ持続的に作用し、肺又は経口的に投与可能な持続的インスリンとしての高い可能性を有することが見出されている。さらに、経口投与した後、この発明のペグ化されたこれらのインスリンは、タンパク質分解に対して安定していない、さらに、インスリン骨格がタンパク質分解に対して安定していない、同様の公知のペグ化されたインスリンよりも高い生物学的利用能を有する。よって、この発明のペグ化されたこれらのインスリンアナログは経口投与にとって有益である。同様に、肺投与後、この発明のペグ化されプロテアーゼに対して安定したこれらのインスリンは、タンパク質分解に対して安定していない、さらに、インスリン骨格がタンパク質分解に対して安定していない、同様の公知のペグ化されたインスリンよりも高い見掛け作用強度及び/又は生物学的利用能を示す。またさらに、この発明のペグ化されプロテアーゼに対して安定したこれらのインスリンは、哺乳動物の肺に投与された場合、長時間にわたって作用するプロフィールを示す。よって、この発明のペグ化されたこれらのインスリンアナログは、肺投与にとって有益である。
タンパク質分解に対して安定している上述のインスリンは、ここでは娘インスリンと称される。
【0024】
娘インスリンのN末端アミノ基(類)又は双方の場所に付着又は存在する場合、適切なリンカー基を介して、PEG基はリジン又はシステイン残基(類)の側鎖(類)に付着可能である。リンカーは、典型的にはカルボン酸の誘導体であり、カルボン酸の機能性は、アミド結合を介して娘インスリンに付着するのに使用されることである。リンカーは、リンカーモチーフ:-CHCO-を有する酢酸部分、リンカーモチーフ:-CHCHCO-又は-CHCHCO-を有するプロピオン酸部分、又はリンカーモチーフ:-CHCHCHCO-又は-CHCHCHCO-を有する酪酸部分であってよい。また、リンカーは-CO-基であってもよい。
【0025】
娘インスリンのB鎖のB29位に存在するリジン残基のペグ化が所望されている。さらに、娘インスリンのA鎖の1位から21位(A1-A21)のいずれかにLysが存在せず、B鎖の1位から28位(B1-B28)のいずれかにLysが存在しないことが所望されている。好ましい娘インスリンは、B30アミノ酸を有さないインスリンである。
娘インスリン分子は、明細書の詳細な部分に説明されているように、ヒトインスリンに対して、限定された数の自然に生じるアミノ酸残基が、他のアミノ酸残基で置換されたものである。
【0026】
一実施態様において、この発明はペグ化されたインスリンに関し、ここで娘インスリンアナログは、次の欠失又は置換の一又は複数において、ヒトインスリンから逸脱している:A18位においてQ、A21位においてA、G又はQ、B1位においてG又はQ、又はB1位においてアミノ酸残基なし、B3位においてQ、S又はT、又はB3位においてアミノ酸残基なし、B13位においてQ、B27位においてアミノ酸残基なし、B28位においてD、E又はR、B30位においてアミノ酸残基なし。
【0027】
PEG基は、当該技術でよく知られている大きさの範囲内のサイズで変化してもよい。しかしながら、PEG基があまりに大きいと、ペグ化されたインスリン分子の生物活性に、負の方法で干渉するおそれがある。
【0028】
さらなる態様において、この発明は、この発明のペグ化されたインスリン、及び適切なアジュバント及び添加剤、例えば安定化、防腐又は等張化に適した一又は複数の薬剤、特に亜鉛イオン、フェノール、クレゾール、パラベン、塩化ナトリウム、グリセロール又はマンニトールを含有する製薬用調製物に関する。本製剤の亜鉛含量は、インスリン六量体当たり0から約6個の亜鉛原子でありうる。製薬用調製物のpH値は約4から約8.5の間、約4から約5の間、又は約6.5から約7.5の間でありうる。
【0029】
さらなる実施態様において、この発明は、哺乳動物の血糖値を低減するため、特に糖尿病を処置するための医薬品としての、ペグ化されたインスリンの使用に関する。
さらなる態様において、この発明は、哺乳動物の血糖値を低減する、特に糖尿病を処置する製薬用調製物を調製するための、ペグ化されたインスリンの使用に関する。
さらなる実施態様において、本発明は、このような処置を必要とする患者に、この発明のペグ化されたインスリンを治療的活性用量投与することにより、哺乳動物の血糖値を低減する方法に関する。
この発明のさらなる態様では、ペグ化されたインスリンは、任意の適切な比で一又は複数種のさらなる活性物質と併用されて投与される。かかるさらなる活性剤は、ヒトインスリン、速効型インスリンアナログ、抗糖尿病剤、抗脂質異常症剤、抗肥満剤、抗高血圧剤、糖尿病から生じるか糖尿病に関連する合併症の治療剤から選択されうる。
一実施態様において、2つの活性成分は、混合製薬用調製物として投与される。他の実施態様において、2つの成分は、同時に又は逐次、別個に投与される。
【0030】
一実施態様では、この発明のペグ化されたインスリンは、速効型ヒトインスリン又はヒトインスリンアナログと共に投与されてよい。かかる速効型インスリンアナログは、B28位のアミノ酸残基がAsp、Lys、Leu、Val、又はAlaであり、B29位のアミノ酸残基がLys又はProであるようなもの、des(B28-B30)ヒトインスリン、des(B27)ヒトインスリン又はdes(B30)ヒトインスリン、及びB3位のアミノ酸残基がLysであり、B29位のアミノ酸残基がGlu又はAspであるアナログである。この発明のペグ化されたインスリンと速効型ヒトインスリン又はヒトインスリンアナログは、約10%の速効型ヒトインスリン又はヒトインスリンアナログに対して、約90%のペグ化されたインスリン;好ましくは約30%の速効型ヒトインスリン又はヒトインスリンアナログに対して、約70%のペグ化されたインスリン;さらに好ましくは約50%の速効型ヒトインスリン又はヒトインスリンアナログに対して、約50%のペグ化されたインスリンの割合で混合することができる(%は重量パーセンテージである)。
この発明のペグ化されたインスリンは、抗糖尿病剤と共に、併用処置に使用されてもよい。
【0031】
抗糖尿病剤には、インスリン、国際公開第98/08871号、国際公開第99/43706号、米国特許第5424286号、及び国際公開第00/09666号に記載されたGLP-1(1-37)(グルカゴン様ペプチド-1)、GLP-2、エキセンディン-4(1-39)、そのインスリン分泌促進断片、そのインスリン分泌促進アナログ、及びそのインスリン分泌促進誘導体が含まれる。GLP-1(1-37)のインスリン分泌促進断片は、全配列がGLP-1(1-37)の配列に見出すことができ、少なくとも一つの末端アミノ酸が欠失されているインスリン分泌促進ペプチドである。
【0032】
この発明のペグ化されたインスリンは、またチアゾリジンジオン、メトホルミンのような経口抗糖尿病剤、及び経口治処置のための他の2型糖尿病製薬用調製物と共に、併用処置に使用してもよい。
さらに、この発明のペグ化されたインスリンは、一又は複数の抗肥満剤又は食欲調節剤と併用されて投与されてもよい
一実施態様において、この発明は、この発明のペグ化されたインスリン、及び適切なアジュバント及び添加剤、例えば安定化、防腐又は等張化に適した一又は複数の薬剤、特に亜鉛イオン、フェノール、クレゾール、パラベン、塩化ナトリウム、グリセロール、プロピレングリコール又はマンニトールを含有する肺用の製薬用調製物に関する。
食事制限及び/又は運動、一又は複数の上述の化合物、場合によっては一又は複数の他の活性物質と、ペグ化されたインスリンとの任意の適切な組合せがこの発明の範囲内であると考えられると理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、ラットへの気管内投与の後、インスリンアスパルトと比較した、実施例1のインスリンの血糖プロフィールである。プロトコルを実施例10に記載する。グループ当たり4-5匹の動物を使用した。
【図2】図2は、ラットの空腸の中央部(mid-jejunum)への注射の後、コンパレータ(B29K(Nε-3-{2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}プロピオニル),desB30ヒトインスリン)と比較した、実施例4のインスリンの血糖プロフィールである。プロトコルを実施例11に記載する。処理グループ当たり7匹の動物、ビヒクルグループ当たり3匹の動物を使用した。付与された投与量:0.4ml/kg。
【発明を実施するための形態】
【0034】
(好ましい実施例の記載)
インスリンの安定性及び溶解性は、現在のインスリン療法にとって、根本にある重要な側面である。この発明は、安定した、ペグ化されたインスリンアナログを提供することにより、これらの問題点に取り組むものであり、ここでペグ化より、分子の可動性が低減し、附随してフィブリル化傾向が低下し、pH降下域が制限又は変更される。
この発明のペグ化されたインスリンは、例えばヒトインスリン及びペグ化されたヒトインスリンと比較して、相対的に高い生物学的利用能であるために、特に肺又は経口投与を意図している。さらに、ペグ化されたインスリンは、持続性インスリン活性を有しているであろう。
【0035】
上述したように、タンパク質分解に対して安定したインスリンは、ここでは娘インスリンと称される。この発明のペグ化されたインスリンは、ここで記載したようにペグ化されている、前記娘インスリンである。
前記娘インスリンは、ここでは親インスリンと称されるインスリン化合物から誘導される。
【0036】
一実施態様において、親インスリンは:a)ヒトインスリン;b)B28位にあるアミノ酸残基がPro、Asp、Lys、Leu、Val又はAlaであり、B29位にあるアミノ酸残基がLys又はProであり、場合によってはB30位にあるアミノ酸残基が欠失している、ヒトインスリンのインスリンアナログ;c)des(B28-B30)ヒトインスリン、des(B27)ヒトインスリン、又はdes(B30)ヒトインスリンであるインスリンアナログ;d)B3位にあるアミノ酸残基がLysであり、B29位にあるアミノ酸残基がGlu又はAspである、ヒトインスリンのインスリンアナログ;e)A21位にあるアミノ酸残基がGlyであり、2つのアルギニン残基でB鎖のC末端がさらに伸長している、ヒトインスリンのインスリンアナログ;f)B30位のアミノ酸残基がスレオニンメチルエステルで置換されているインスリン誘導体からなる群から選択される。
【0037】
他の実施態様において、親インスリンは:ヒトインスリン;desB30ヒトインスリン;AspB28ヒトインスリン;AspB28,DesB30ヒトインスリン;LysB3,GluB29ヒトインスリン;LysB28,ProB29ヒトインスリン;GlyA21,ArgB31,ArgB32ヒトインスリン;及びdesB30,ArgB31,ArgB32ヒトインスリンからなる群から選択される。
【0038】
特に、娘インスリンは、親インスリンに対して、A及び/又はB鎖が2又はそれ以上変異しているインスリン分子である。驚くべきことに、インスリンにおける2又はそれ以上のプロテアーゼ部位の内部又は近接近した2又はそれ以上の疎水性アミノ酸を、親水性アミノ酸で置換することにより、親インスリンに対してタンパク質分解的により安定したインスリンアナログ(すなわち娘インスリン)が得られることが見出された。広範囲の態様において、娘インスリンはインスリンアナログであり、ここで少なくとも2の疎水性アミノ酸は、親インスリンに対して、親水性アミノ酸で置換されており、置換が、親インスリンの2又はそれ以上のプロテアーゼ切断部位の内部又は近接近して存在し、このようなインスリンアナログは、場合によっては一又は複数の付加的な変異をさらに含む。
【0039】
他の実施態様において、娘インスリンは、
・A12位のアミノ酸がGlu又はAspであり、及び/又はA13位のアミノ酸がHis、Asn、Glu又はAspであり、及び/又はA14位のアミノ酸がAsn、Gln、Glu、Arg、Asp、Gly又はHisであり、及び/又はA15位のアミノ酸がGlu又はAspであり;及び
・B24位のアミノ酸がHisであり、及び/又はB25位のアミノ酸がHisであり、及び/又はB26位のアミノ酸がHis、Gly、Asp又はThrであり、及び/又はB27位のアミノ酸がHis、Glu、Lys、Gly又はArgであり、及び/又はB28位のアミノ酸がHis、Gly又はAspであり;
場合によっては、一又は複数の付加的な変異をさらに含む、インスリンアナログである。
【0040】
他の実施態様において、娘インスリンは、次の式1:

式(1)(配列番号:1)
のA鎖アミノ酸配列、及び次の式2:

式(2)(配列番号:2)
のB鎖アミノ酸配列を含むインスリンアナログであり、該式において、
XaaA(−2)は存在しないか又はGlyであり;
XaaA(−1)は存在しないか又はProであり;
XaaA0は存在しないか又はProであり;
XaaA8は独立して、Thr及びHisから選択され;
XaaA12は独立して、Ser、Asp及びGluから選択され;
XaaA13は独立して、Leu、Thr、Asn、Asp、Gln、His、Lys、Gly、Arg、Pro、Ser及びGluから選択され;
XaaA14は独立して、Tyr、Thr、Asn、Asp、Gln、His、Lys、Gly、Arg、Pro、Ser及びGluから選択され;
XaaA15は独立して、Gln、Asp及びGluから選択され;
XaaA18は独立して、Asn、Lys及びGlnから選択され;
XaaA21は独立して、Asn及びGlnから選択され;
XaaA22は存在しないか又はLysであり;
XaaB(−2)は存在しないか又はGlyであり;
XaaB(−1)は存在しないか又はProであり;
XaaB0は存在しないか又はProであり;
XaaB1は存在しないか、又は独立してPhe及びGluから選択され;
XaaB2は存在しないか又はValであり;
XaaB3は存在しないか、又は独立してAsn及びGlnから選択され;
XaaB4は独立して、Gln及びGluから選択され;
XaaB10は独立して、His、Asp、Pro及びGluから選択され;
XaaB16は独立して、Tyr、Asp、Gln、His、Arg及びGluから選択され;
XaaB24は独立して、Phe及びHisから選択され;
XaaB25は独立して、Phe及びHisから選択され;
XaaB26は存在しないか、又は独立してTyr、His、Thr、Gly及びAspから選択され;
XaaB27は存在しないか、又は独立してThr、Asn、Asp、Gln、His、Lys、Gly、Arg、Pro、Ser及びGluから選択され;
XaaB28は存在しないか、又は独立してPro、His、Gly及びAspから選択され;
XaaB29は存在しないか、又は独立してLys及びGlnから選択され;
XaaB30は存在しないか又はThrであり;
XaaB31は存在しないか又はLeuであり;
XaaB32は存在しないか又はGluであり;
場合によってはC末端がアミドとして誘導体化されていてもよく;
ここで、A鎖アミノ酸配列及びB鎖アミノ酸配列は、A鎖の7位にあるシステインとB鎖の7位にあるシステインとの間、及びA鎖の20位にあるシステインとB鎖の19位にあるシステインとの間でジスルフィド架橋により結合しており、A鎖の6及び11位にあるシステインはジスルフィド架橋により結合しており;
場合によってはA鎖アミノ酸配列のN末端は、3-7のアミノ酸を含有するアミノ酸配列により、B鎖アミノ酸配列のC末端に結合して、単鎖インスリン分子を形成してよく、場合によってはB鎖のN末端は1-10のアミノ酸で伸長しており;
XaaA8がThrであり、XaaA12がSerであり、XaaA13がLeuであり、XaaA14がTyrであるならば、XaaA15はGlu又はAspであり;及び
XaaB24がPheであり、XaaB25がPheであり、XaaB26がTyrであり、XaaB27がThrであり、XaaB28がProであるならば、XaaB29はGlnである。
【0041】
他の実施態様において、娘インスリンは、次の式3:

式(3)(配列番号:3)
のA鎖アミノ酸配列、及び次の式(4):

式(4)(配列番号:4)
のB鎖アミノ酸配列を含むインスリンアナログであり、該式において、
XaaA8は独立して、Thr及びHisから選択され;
XaaA12は独立して、Ser、Asp及びGluから選択され;
XaaA13は独立して、Leu、Thr、Asn、Asp、Gln、His、Lys、Gly、Arg、Pro、Ser及びGluから選択され;
XaaA14は独立して、Thr、Asn、Asp、Gln、His、Lys、Gly、Arg、Pro、Ser及びGluから選択され;
XaaA15は独立して、Gln、Asp及びGluから選択され;
XaaA18は独立して、Asn、Lys及びGlnから選択され;
XaaA21は独立して、Asn及びGlnから選択され;
XaaB1は独立して、Phe及びGluから選択され;
XaaB3は独立して、Asn及びGlnから選択され;
XaaB4は独立して、Gln及びGluから選択され;
XaaB10は独立して、His、Asp、Pro及びGluから選択され;
XaaB16は独立して、Tyr、Asp、Gln、His、Arg及びGluから選択され;
XaaB24は独立して、Phe及びHisから選択され;
XaaB26は存在しないか、又は独立してTyr、His、Thr、Gly及びAspから選択され;
XaaB27は存在しないか、又は独立してThr、Asn、Asp、Gln、His、Lys、Gly、Arg、Pro、Ser及びGluから選択され;
XaaB28は存在しないか、又は独立してPro、His、Gly及びAspから選択され;
XaaB29は存在しないか、又は独立してLys及びGlnから選択され;
XaaB30は存在しないか又はThrであり;
場合によってはC末端はアミドとして誘導体化されていてもよく;
ここで、A鎖アミノ酸配列及びB鎖アミノ酸配列は、A鎖の7位にあるシステインとB鎖の7位にあるシステインとの間、及びA鎖の20位にあるシステインとB鎖の19位にあるシステインとの間でジスルフィド架橋により結合しており、A鎖の6及び11位にあるシステインはジスルフィド架橋により結合している。
【0042】
他の実施態様において、娘インスリンはインスリン誘導体であり、ここで、
XaaA8は独立して、Thr及びHisから選択され;
XaaA12は独立して、Ser及びGluから選択され;
XaaA13は独立して、Leu、Thr、Asn、Asp、Gln、His、Lys、Gly、Arg、Pro、Ser及びGluから選択され;
XaaA14は独立して、Asp、His及びGluから選択され;
XaaA15は独立して、Gln及びGluから選択され;
XaaA18は独立して、Asn、Lys及びGlnから選択され;
XaaA21は独立して、Asn及びGlnから選択され;
XaaB1は独立して、Phe及びGluから選択され;
XaaB3は独立して、Asn及びGlnから選択され;
XaaB4は独立して、Gln及びGluから選択され;
XaaB10は独立して、His、Asp、Pro及びGluから選択され;
XaaB16は独立して、Tyr、Asp、Gln、His、Arg及びGluから選択され;
XaaB24は独立して、Phe及びHisから選択され;
XaaB26は独立して、Tyr、Thr、Gly及びAspから選択され;
XaaB27は独立して、Thr、Asn、Asp、Gln、His、Lys、Gly、Arg及びGluから選択され;
XaaB28は独立して、Pro、Gly及びAspから選択され;
XaaB29は独立して、Lys及びGlnから選択され;
XaaB30は存在しないか又はThrであり;
場合によってはC末端はアミドとして誘導体化されていてもよく;
ここで、A鎖アミノ酸配列及びB鎖アミノ酸配列は、A鎖の7位にあるシステインとB鎖の7位にあるシステインとの間、及びA鎖の20位にあるシステインとB鎖の19位にあるシステインとの間でジスルフィド架橋により結合しており、A鎖の6及び11位にあるシステインはジスルフィド架橋により結合している。
娘インスリンの他の実施態様を以下に記載する。
【0043】
「プロテアーゼ」又は「プロテアーゼ酵素」は、タンパク質及びペプチドを分解し、ヒトの体の種々の組織、胃(ペプシン)、腸内腔(キモトリプシン、トリプシン、エラスターゼ、カルボキシペプチダーゼ等)、又はGI管の粘膜表面(アミノペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼ、エンテロペプチダーゼ、ジペプチジルペプチダーゼ、エンドペプチダーゼ等)、肝臓(インスリン分解酵素、カテプシンD等)、及び他の組織に見出される消化酵素である。
【0044】
ここでタンパク質分解的に安定したインスリンアナログ(娘インスリンとも称される)とは、一又は複数のプロテアーゼで、ヒトインスリンよりもゆっくりと分解するインスリンアナログとして理解される。一実施態様において、娘インスリンは、一又は複数のプロテアーゼで、親インスリンよりもゆっくりと分解する。さらなる実施態様において、娘インスリンは:ペプシン(例えば、イソ型のペプシンA、ペプシンB、ペプシンC及び/又はペプシンF)、キモトリプシン(例えば、イソ型のキモトリプシンA、キモトリプシンB及び/又はキモトリプシンC)、トリプシン、インスリン分解酵素(IDE)、エラスターゼ(例えば、イソ型の膵エラスターゼI及び/又はII)、カルボキシペプチダーゼ(例えば、イソ型のカルボキシペプチダーゼA、カルボキシペプチダーゼA2、及び/又はカルボキシペプチダーゼB)、アミノペプチダーゼ、カテプシンD、及びラット、ブタ又はヒトから誘導される腸抽出物に存在する他の酵素からなる群から選択される一又は複数の酵素による分解に対して安定している。
【0045】
一実施態様において、娘インスリンは:キモトリプシン、トリプシン、インスリン分解酵素(IDE)、エラスターゼ、カルボキシペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ、及びカテプシンDからなる群から選択される一又は複数の酵素による分解に対して安定している。さらなる実施態様において、娘インスリンは:キモトリプシン、カルボキシペプチダーゼ及びIDEからなる群から選択される一又は複数の酵素による分解に対して安定している。さらなる実施態様において、娘インスリンは:キモトリプシン及びカルボキシペプチダーゼから選択される一又は複数の酵素による分解に対して安定している。
【0046】
T1/2は、キモトリプシン、ペプシン及び/又はカルボキシペプチダーゼA等のプロテアーゼ酵素に対する、娘インスリンのタンパク質分解安定性を測定する場合に、実施例に記載するように測定されてよい。本発明の一実施態様において、T1/2はヒトインスリンに対して増加している。さらなる実施態様において、T1/2は親インスリンに対して増加している。さらなる実施態様において、T1/2は親インスリンの少なくとも2倍に増加している。さらなる実施態様において、T1/2は親インスリンの少なくとも3倍に増加している。さらなる実施態様において、T1/2は親インスリンの少なくとも4倍に増加している。さらなる実施態様において、T1/2は親インスリンの少なくとも5倍に増加している。さらなる実施態様において、T1/2は親インスリンの少なくとも10倍に増加している。
【0047】
プロテアーゼ切断部位(ここでは、プロテアーゼ部位とも記載する)は、プロテアーゼにより認識されるアミノ酸残基、及び/又はそのペプチド結合がプロテアーゼにより切断されるアミノ酸残基として理解される。プロテアーゼ切断部位は、HPLC、MS又はLC-MS分析により切断「ホットスポット」を決定する、及び/又はプロテアーゼ切断部位を決定するための、プロテアーゼ酵素の酵素特異性に基づいた予測により、決定されてよい。当業者であれば、例えば、Handbook of Proteolytical Enzymes, 第2版, Barrett, A.J., Rawlings, N.D., Woesner, J.F編, Elsevier Academic Press 2004に記載されているように、酵素特異性に基いた、プロテアーゼ切断部位の決定の方法を知っているであろう。例えばキモトリプシンは、芳香族残基(Trp、Tyr、Phe又はLeu)にProが続かないように、ペプチド結合のC末端を切断すると予測されている。同様に、トリプシンは、塩基性残基Lys又はArgにProが続かないように、ペプチド結合のC末端を切断すると予想されており、エラスターゼは、Ala、Val、Gly又はSerに対し、残基C末端を切断すると予想されており、カルボキシペプチダーゼAは、Arg、Lys又はProを除く、任意のC末端アミノ酸を除去するであろう。インスリン分解酵素(IDE)は、ヒトインスリンのB9-10、B10-11、B13-14、B14-15、B24-25、B25-26、A13-14及びA14-15の後続位を決断すると予想されている。
【0048】
プロテアーゼ切断部位の「内部又は近接近した」置換アミノ酸なる用語は、プロテアーゼ切断部位が決定された親インスリンの位置の内部又は近接近したアミノ酸の置換を示すために使用される。一実施態様において、インスリンにおける2又はそれ以上のプロテアーゼ部位の内部又は近接近した2又はそれ以上の疎水性アミノ酸が置換されており、ここで、該疎水性アミノ酸は親水性アミノ酸で置換されている。さらなる実施態様において、インスリンにおける2又はそれ以上のプロテアーゼ部位の内部の2又はそれ以上の疎水性アミノ酸は、親水性アミノ酸で置換されている。さらなる実施態様において、インスリンにおける2又はそれ以上のプロテアーゼ部位の隣に位置する、2又はそれ以上の疎水性アミノ酸は、親水性アミノ酸で置換されている。さらなる実施態様において、インスリンにおける2又はそれ以上のプロテアーゼ部位から2つのアミノ酸分離れて位置する2又はそれ以上の疎水性アミノ酸は、親水性アミノ酸で置換されている。さらなる実施態様において、インスリンにおける2又はそれ以上のプロテアーゼ部位から3つのアミノ酸分離れて位置する2又はそれ以上の疎水性アミノ酸は、親水性アミノ酸で置換されている。さらなる実施態様において、インスリンにおける2又はそれ以上のプロテアーゼ部位から4つのアミノ酸分離れて位置する2又はそれ以上の疎水性アミノ酸は、親水性アミノ酸で置換されている。さらなる実施態様において、インスリンにおける2又はそれ以上のプロテアーゼ部位の内部又はこれから1、2又は3つのアミノ酸分離れて位置する2又はそれ以上の疎水性アミノ酸は、親水性アミノ酸で置換されている。さらなる実施態様において、インスリンにおける2又はそれ以上のプロテアーゼ部位の内部又はこれから1又は2つのアミノ酸分離れて位置する2又はそれ以上の疎水性アミノ酸は、親水性アミノ酸で置換されている。さらなる実施態様において、インスリンにおける2又はそれ以上のプロテアーゼ部位の内部又は隣に位置する2又はそれ以上の疎水性アミノ酸は、親水性アミノ酸で置換されている。
【0049】
娘インスリンは、親インスリンの正味荷電とは異なる正味荷電を有していてもよい。一実施態様において、娘インスリンの正味荷電は、親インスリンの正味荷電よりもさらに正である。一実施態様において、娘インスリンの正味荷電は、親インスリンの正味荷電よりもさらに負である。一実施態様において、娘インスリンの平均の正の正味荷電は、水溶液で測定して0.5〜5である。一実施態様において、娘インスリンの平均の正の正味荷電は1〜5である。一実施態様において、娘インスリンの平均の正の正味荷電は1〜4である。一実施態様において、娘インスリンの平均の正の正味荷電は1〜3である。一実施態様において、娘インスリンの平均の正の正味荷電は2又は3である。一実施態様において、娘インスリンの平均の負の正味荷電は、水溶液で測定して−0.5〜−5である。一実施態様において、娘インスリンの平均の負の正味荷電は−1〜−5である。一実施態様において、娘インスリンの平均の負の正味荷電は−1〜−4である。一実施態様において、娘インスリンの平均の負の正味荷電は−1〜−3である。一実施態様において、娘インスリンの平均の負の正味荷電は−2又は−3である。
【0050】
一実施態様において、娘インスリンは、ヒトインスリンよりも増加した溶解度を有する。さらなる実施態様において、娘インスリンは、pH3-9で、ヒトインスリンよりも増加した溶解度を有する。さらなる実施態様において、娘インスリンは、pH4-8.5で、ヒトインスリンよりも増加した溶解度を有する。さらなる実施態様において、娘インスリンは、pH4-8で、ヒトインスリンよりも増加した溶解度を有する。さらなる実施態様において、娘インスリンは、pH4.5-8で、ヒトインスリンよりも増加した溶解度を有する。さらなる実施態様において、娘インスリンは、pH5-8で、ヒトインスリンよりも増加した溶解度を有する。さらなる実施態様において、娘インスリンは、pH5.5-8で、ヒトインスリンよりも増加した溶解度を有する。さらなる実施態様において、娘インスリンは、pH6-8で、ヒトインスリンよりも増加した溶解度を有する。
一実施態様において、娘インスリンは、pH2-4で、ヒトインスリンよりも増加した溶解度を有する。
【0051】
一実施態様において、娘インスリンは、親インスリンよりも増加した溶解度を有する。さらなる実施態様において、娘インスリンは、pH3-9で、親インスリンよりも増加した溶解度を有する。さらなる実施態様において、娘インスリンは、pH4-8.5で、親インスリンよりも増加した溶解度を有する。さらなる実施態様において、娘インスリンは、pH4-8で、親インスリンよりも増加した溶解度を有する。さらなる実施態様において、娘インスリンは、pH4.5-8で、親インスリンよりも増加した溶解度を有する。さらなる実施態様において、娘インスリンは、pH5-8で、親インスリンよりも増加した溶解度を有する。さらなる実施態様において、娘インスリンは、pH5.5-8で、親インスリンよりも増加した溶解度を有する。さらなる実施態様において、娘インスリンは、pH6-8で、親インスリンよりも増加した溶解度を有する。
一実施態様において、娘インスリンは、pH2-4で、親インスリンよりも増加した溶解度を有する。
【0052】
「付与されたpHで増加した溶解度」とは、親インスリンと比較して、高濃度の娘インスリンが、溶液のpHで水又はバッファー溶液に溶解していることを意味する。溶液に含有されるインスリンが溶解しているかどうかを測定する方法は公知である。
一実施態様においては、溶液を30000gで20分、遠心分離にかけ、ついで上清のインスリン濃度をRP-HPLCにより測定してもよい。この濃度が、組成物を作製するときに通常使用されるインスリン濃度に等しいか、実験誤差の範囲内であるならば、インスリンは本発明の組成物に十分溶解している。他の実施態様において、本発明の組成物におけるインスリンの溶解度は、簡単には、組成物を収容する容器を、眼で観察することにより測定することができる。溶液が、目で見て透明であり、粒子状物質が懸濁していないか、又は容器の側面/底に沈殿していないならば、インスリンは溶解している。
【0053】
娘インスリンは、測定時に比較して、親インスリンよりも増加した有効性及び生物学的利用能を有している。
インスリンの有効性又は生物学的利用能を測定するための標準的なアッセイは、当業者に公知であり、とりわけ(1)インスリンの相対的有効性が、ラットの肝臓細胞膜分画等、細胞膜に存在するインスリンレセプターに特異的に結合する125I-インスリンの50%が置き換えられるのに必要なインスリンアナログに対するインスリンの比率として定義される、インスリンラジオレセプターアッセイ;(2)インスリンの相対的有効性が、有機抽出可能物(例えば脂質)への[3-H]グルコースの最大転換率の50%に達するのに必要なインスリンアナログに対するインスリンの比率として定義される、ラットの脂肪細胞などを用いて実施される、脂質生成アッセイ;(3)インスリンアナログの相対的有効性が、グルコース-1-[14C]の[14CO]への最大転換率の50%に達するためのインスリンアナログに対するインスリンの比率として定義される、単離された脂肪細胞におけるグルコース酸化アッセイ;(4)特定の抗インスリン抗体への結合において、インスリン又はインスリンアナログが125I-インスリンと競合することにより有効性を測定する、インスリンアナログの免疫原性を測定可能なインスリンラジオイムノアッセイ;及び(5)特定のインスリン抗体を有するELISAアッセイ等、動物の血漿サンプルにおける、抗体へのインスリン又はインスリンアナログの結合性を測定する他のアッセイが含まれる。
【0054】
娘インスリンは、場合によっては、親水性アミノ酸で、一又は複数の疎水性アミノ酸をさらに置換してもよい、さらなるプロテアーゼ部位について分析されてもよい。娘インスリンは、親インスリン、第1の修飾されたインスリンと比較して、プロテアーゼ部位において少なくとも2の親水性酸を有し、第1の修飾されたインスリンの新規のプロテアーゼ部位における少なくとも一のアミノ酸置換を有するインスリンアナログであってよく、ここで少なくとも一の疎水性アミノ酸は少なくとも一の親水性アミノ酸で置換されている。
【0055】
便宜上、以下、丸括弧中の通常の3文字コード及び1文字コードを有するコード可能な天然のアミノ酸の名称である:グリシン(Gly及びG)、プロリン(Pro及びP)、アラニン(Ala及びA)、バリン(Val及びV)、ロイシン(Leu及びL)、イソロイシン(Ile及びI)、メチオニン(Met及びM)、システイン(Cys及びC)、フェニルアラニン(Phe及びF)、チロシン(Tyr及びY)、トリプトファン(Trp及びW)、ヒスチジン(His及びH)、リジン(Lys及びK)、アルギニン(Arg及びR)、グルタミン(Gln及びQ)、アスパラギン(Asn及びN)、グルタミン酸(Glu及びE)、アスパラギン酸(Asp及びD)、セリン(Ser及びS)及びスレオニン(Thr及びT)。もし、タイピングミスのために、通常使用されているコードから逸脱しているならば、通常使用されるコードを適用する。この発明のインスリンに存在するアミノ酸は、好ましくは核酸によりコード可能なアミノ酸である。一実施態様において、インスリン又はインスリンアナログは、Gly、Glu、Asp、His、Gln、Asn、Ser、Thr、Lys、Arg及び/又はProで置換されており、及び/又はGly、Glu、Asp、His、Gln、Asn、Ser、Thr、Lys、Arg及び/又はProが、インスリン又はインスリンアナログに付加されている。一実施態様において、インスリン又はインスリンアナログは、Glu、Asp、His、Gln、Asn、Lys及び/又はArgで置換されており、及び/又はGlu、Asp、His、Gln、Asn、Lys及び/又はArgが、インスリン又はインスリンアナログに付加されている。
【0056】
一実施態様において、娘インスリンは、次の123の化合物:A14E,B25H,desB30ヒトインスリン;A14H,B25H,desB30ヒトインスリン;A14E,B1E,B25H,desB30ヒトインスリン;A14E,B16E,B25H,desB30ヒトインスリン;A14E,B25H,B28D,desB30ヒトインスリン;A14E,B25H,B27E,desB30ヒトインスリン;A14E,B1E,B25H,B27E,desB30ヒトインスリン;A14E,B1E,B16E,B25H,B27E,desB30ヒトインスリン;A8H,A14E,B25H,desB30ヒトインスリン;A8H,A14E,B25H,B27E,desB30ヒトインスリン;A8H,A14E,B1E,B25H,desB30ヒトインスリン;A8H,A14E,B1E,B25H,B27E,desB30ヒトインスリン;A8H,A14E,B1E,B16E,B25H,B27E,desB30ヒトインスリン;A8H,A14E,B16E,B25H,desB30ヒトインスリン;A14E,B25H,B26D,desB30ヒトインスリン;A14E,B1E,B27E,desB30ヒトインスリン;A14E,B27E,desB30ヒトインスリン;A14E,B28D,desB30ヒトインスリン;A14D,B25H,desB30ヒトインスリン;A(−1)P,A(0)P,A14E,B25H,desB30ヒトインスリン;A14E,B(−1)P,B(0)P,B25H,desB30ヒトインスリン;A(−1)P,A(0)P,A14E,B(−1)P,B(0)P,B25H,desB30ヒトインスリン;A14E,B25H,B30T, B31L, B32Eヒトインスリン;A14E,B25Hヒトインスリン;A14E,B16H,B25H,desB30ヒトインスリン:A14E,B10P,B25H,desB30ヒトインスリン;A14E,B10E,B25H,desB30ヒトインスリン;A14E,B4E,B25H,desB30ヒトインスリン;A14H,B16H,B25H,desB30ヒトインスリン;A14H,B10E,B25H,desB30ヒトインスリン;A13H,A14E,B10E,B25H,desB30ヒトインスリン;A13H,A14E,B25H,desB30ヒトインスリン;A14E,A18Q,B3Q,B25H,desB30ヒトインスリン;A14E,B24H,B25H,desB30ヒトインスリン;A14E,B25H,B26G,B27G,B28G,desB30ヒトインスリン;A14E,A18Q,A21Q,B3Q,B25H,desB30ヒトインスリン;A14E,A18Q,A21Q,B3Q,B25H,B27E,desB30ヒトインスリン;A14E,A18Q,B3Q,B25H,desB30ヒトインスリン;A13H,A14E,B1E,B25H,desB30ヒトインスリン;A13N,A14E,B25H,desB30ヒトインスリン;A13N,A14E,B1E,B25H,desB30ヒトインスリン;A(−2)G,A(−1)P,A(0)P,A14E,B25H,desB30ヒトインスリン;A14E,B(−2)G,B(−1)P,B(0)P,B25H,desB30ヒトインスリン;A(−2)G,A(−1)P,A(0)P,A14E,B(−2)G,B(−1)P,B(0)P,B25H,desB30ヒトインスリン;A14E,B27R,B28D,B29K,desB30ヒトインスリン;A14E,B25H,B27R,B28D,B29K,desB30ヒトインスリン;A14E,B25H,B26T,B27R,B28D,B29K,desB30ヒトインスリン;A14E,A22K,B25H,desB30ヒトインスリン;A14E,B25H,B27R,desB30ヒトインスリン;A14E,B25H,B27H,desB30ヒトインスリン;A14E,A18Q,B3Q,B25H,desB30ヒトインスリン;A13E,A14E,B25H,desB30ヒトインスリン;A12E,A14E,B25H,desB30ヒトインスリン;A15E,A14E,B25H,desB30ヒトインスリン;A13E,B25H,desB30ヒトインスリン;A12E,B25H,desB30ヒトインスリン;A15E,B25H,desB30ヒトインスリン;A14E,B25H,desB27,desB30ヒトインスリン;A14E,B25H,B26D,B27E,desB30ヒトインスリン;A14E,B25H,B27R,desB30ヒトインスリン;A14E,B25H,B27N,desB30ヒトインスリン;A14E,B25H,B27D,desB30ヒトインスリン;A14E,B25H,B27Q,desB30ヒトインスリン;A14E,B25H,B27E,desB30ヒトインスリン;A14E,B25H,B27G,desB30ヒトインスリン;A14E,B25H,B27H,desB30ヒトインスリン;A14E,B25H,B27K,desB30ヒトインスリン;A14E,B25H,B27P,desB30ヒトインスリン;A14E,B25H,B27S,desB30ヒトインスリン;A14E,B25H,B27T,desB30ヒトインスリン;A13R,A14E,B25H,desB30ヒトインスリン;A13N,A14E,B25H,desB30ヒトインスリン;A13D,A14E,B25H,desB30ヒトインスリン;A13Q,A14E,B25H,desB30ヒトインスリン;A13E,A14E,B25H,desB30ヒトインスリン;A13G,A14E,B25H,desB30ヒトインスリン;A13H,A14E,B25H,desB30ヒトインスリン;A13K,A14E,B25H,desB30ヒトインスリン; A13P,A14E,B25H,desB30ヒトインスリン;A13S,A14E,B25H,desB30ヒトインスリン;A13T,A14E,B25H,desB30ヒトインスリン;A14E,B16R,B25H,desB30ヒトインスリン;A14E,B16D,B25H,desB30ヒトインスリン;A14E,B16Q,B25H,desB30ヒトインスリン;A14E,B16E,B25H,desB30ヒトインスリン;A14E,B16H,B25H,desB30ヒトインスリン;A14R,B25H,desB30ヒトインスリン;A14N,B25H,desB30ヒトインスリン;A14D,B25H,desB30ヒトインスリン;A14Q,B25H,desB30ヒトインスリン;A14E,B25H,desB30ヒトインスリン; A14G,B25H,desB30ヒトインスリン;A14H,B25H,desB30ヒトインスリン;A8H,B10D,B25Hヒトインスリン;及びA8H,A14E,B10E,B25H,desB30ヒトインスリンからなる群から選択される。
【0057】
実質的に全てのPEGポリマーは、多くの巨大分子の混合物であるために、分子量を記載するには平均に頼らなければならない。平均を報告する多くの可能な方法の中でも:数平均、重量平均、及びz-平均分子量の3つが、一般的に使用されている。ポリマーの全体的な性質に対して、種々の大きさの鎖が寄与しているとみなされており、関心ある多くの物理的特性と最も良く相関しているために、おそらく、重量平均が、3つのうちで最も有用である。



上式中、Nは、ポリマー混合物において分子量Mを有する分子のモル分率(又は数-分率)である。Mに対するMの比率は多分散指標(PDI)として公知であり、分布幅の目安を提供するものである。PDIは、非常に狭いMW分布を有する特定のポリマーにとっては1.0(下限)に近づく。
【0058】
低分子量のPEG基は、生物学的利用能を増加させるには好ましく、高分子量のPEG鎖、例えば4000-6000ダルトン又はそれ以上の平均分子量を有するものは、一般的に、インスリン分子の生物活性を低下させることが見出されているが、半減期を増加させるには好ましいとされている。
【0059】
この発明で使用されるPEG基は、典型的には多くの(-OCHCH-)サブユニットを有するであろう。
この発明で使用されるPEG基は、付与された分子量のために、典型的には、様々なエチレングリコール(又はエチレンオキシド)モノマーからなる。例えば、分子量2000ダルトンのPEG基は、典型的には43±10のモノマーからなり、平均は約43-44モノマー、又は35-50モノマーである。
【0060】
この発明のペグ化されたインスリンは、娘インスリン分子のリジンアミノ酸残基に付着して唯一のPEG基を有する、一置換されたものである。
この出願において、ペグ化されたインスリンは、大部分は実際のリンカーと関係なく、リンカー部分がプロピオン酸リンカーであるように命名される。実際、タンパク質のペグ化文献において、リンカー基が使用されることは、めったに特定されない。生物学的特性に関して重要な変数は:サイズ(ダルトン)、及びPEG部分の形状、及びタンパク質内におけるPEG付着の位置である。
【0061】
娘インスリンは、例えば米国特許第6,500,645号に開示されたようなよく知られた技術によって適当な宿主細胞中で当該インスリンをコードするDNA配列を発現させることによって生成される。娘インスリンは、直接又はB鎖にN末端伸長を有する前駆体分子として発現される。このN末端伸長は直接発現される産物の収率を増大させる機能を有している場合があり、15アミノ酸残基長まででありうる。N末端伸長は培養ブロスからの単離後にインビトロで切断するためであり、従ってB1の隣に切断部位を有している。この発明に適したタイプのN末端伸長は米国特許第5,395,922号及び欧州特許第765,395A号に開示されている。
【0062】
娘インスリンをコードするポリヌクレオチド配列は、確立された標準的な方法、例えばBeaucage等 (1981) Tetrahedron Letters 22:1859-1869に記載されているホスホアミジテ(phosphoamidite)法、又はMatthes等 (1984) EMBO Journal 3:801-805に記載されている方法によって、合成的に調製することができる。ホスホアミジテ法によれば、オリゴヌクレオチドは、例えば自動DNA合成器において合成され、精製され、二本鎖にされ、ライゲーションされて、合成DNAコンストラクトが形成される。DNAコンストラクトを調製する現在の好ましい方法はポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)による。
【0063】
ポリヌクレオチド配列は、混合ゲノム、cDNA、及び合成由来であってもよい。例えば、リーダーペプチドをコードするゲノム又はcDNA配列を、A鎖及びB鎖をコードするゲノム又はcDNA配列に結合させた後、よく知られた手順に従って相同組換えのために所望のアミノ酸配列をコードする合成オリゴヌクレオチドを挿入し、又は好ましくは適当なオリゴヌクレオチドを使用するPCRによって所望の配列を生産することによって、所定部位でDNA配列を修飾してもよい。
【0064】
組換え法は、典型的には、選択された微生物又は宿主細胞中で複製可能であり、娘インスリンをコードするポリヌクレオチド配列を担持するベクターを使用してなされる。組換えベクターは、自己複製ベクター、すなわち染色体外実体として存在するベクター、染色体複製とは独立した複製、例えばプラスミド、染色体外エレメント、ミニ染色体、又は人工染色体でありうる。ベクターは自己複製を確実にする任意の手段を含みうる。あるいは、ベクターは、宿主細胞に導入されたときに、ゲノムに組み込まれ、それが組み込まれた染色体と共に複製されるものでありうる。さらに、トランスポゾン、又は宿主細胞のゲノムに導入されるために、全DNAを含有する単一のベクター又はプラスミド、又は2つ又はそれ以上のベクター又はプラスミドが使用されてもよい。ベクターは直鎖又は閉環状プラスミドであってよく、宿主細胞のゲノムへのベクターの安定した組込、又はゲノムとは独立した細胞におけるベクターの自己複製を可能にするエレメント(類)を、好ましくは含有する。
組換え発現ベクターは酵母中で複製可能である。ベクターを酵母中で複製させることができる配列の例は酵母プラスミド2μm複製遺伝子REP1−3及び複製起点である。
【0065】
ベクターは、形質転換細胞の選択を容易にする一又は複数の選択可能マーカーを含みうる。選択可能マーカーは、その産物が殺生物剤又はウイルス耐性、重金属、原栄養体、独立栄養体等に対する耐性を提供する遺伝子である。細菌性選択可能マーカーの例は、Bacillus subtilis又は Bacillus licheniformis由来のdal遺伝子、あるいはアンピシリン、カナマイシン、クロラムフェニコール又はテトラサイクリン耐性等の抗生物質耐性を付与するマーカーである。糸状菌宿主細胞における使用に適切なマーカーには、amdS(アセタミダーゼ)、argB(オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ)、pyrG(オロチジン-5'-ホスファートデカルボキシラーゼ)及びtrpC(アントラニル酸シンターゼ)が含まれる。酵母宿主細胞のための適切なマーカーは、ADE2、HIS3、LEU2、LYS2、MET3、TRP1、及びURA3である。酵母によく適した選択可能マーカーは分裂酵母TPI遺伝子(Russell (1985) Gene 40:125-130)である。
【0066】
ベクター中において、ポリヌクレオチド配列は適切なプロモーター配列に作用可能に結合している。プロモーターは、変異、切断、及びハイブリッドプロモーターを含む選択宿主細胞中で転写活性を示す任意の核酸配列であり得、宿主細胞に相同か又は異種性である細胞外又は細胞内ポリペプチドをコードする遺伝子から得ることができる。
細菌宿主細胞における転写を指向するのに適切なプロモーターの例は、大腸菌lacオペロン、ストレプトマイセス・セリカラーアガラーゼ(agarase)遺伝子(dagA)、枯草菌レバンスクラーゼ(levansucrase)遺伝子(sacB)、バチルス・リケニホルミスアルファ-アミラーゼ遺伝子(amyL)、バチルス・ステアロサーモフィルスマルトゲンアミラーゼ遺伝子(amyM)、バチルス・アミロリケファシエンスアルファ-アミラーゼ遺伝子(amyQ)、バチルス・リケニホルミスペニシリナーゼ遺伝子(penP)から得られるプロモーターである。糸状菌宿主細胞における転写を指向するのに適切なプロモーターの例は、コウジカビTAKAアミラーゼ、リゾムコール・ミエヘイ(miehei)アスパラギン酸プロテイナーゼ、クロコウジカビ中性アルファ-アミラーゼ、及びクロコウジカビ酸安定性アルファ-アミラーゼから得られるプロモーターである。酵母宿主では、有用なプロモーターは、出芽酵母Ma1、TPI、ADH又はPGKプロモーターである。
娘インスリンをコードするポリヌクレオチド配列は、典型的には適切なターミネーターに作用可能に連結しているであろう。酵母において、適切なターミネーターはTPIターミネーター(Alber等 (1982) J. Mol. Appl. Genet. 1:419-434)である。
【0067】
娘インスリンをコードするポリヌクレオチド配列、プロモーター及びターミネーターをそれぞれライゲーションし、選択宿主での複製に必要な情報を含む適切なベクターにそれらを挿入するのに使用される手順は、当業者によく知られている。ベクターは、まずこの発明のインスリンをコードする全DNA配列を含有するDNAコンストラクトを調製し、続いて適切な発現ベクターにこのフラグメントを挿入するか、又は個々のエレメント(例えば、シグナル、プロ-ペプチド、連結ペプチド、A及びB鎖)についての遺伝的情報を含むDNAフラグメントを挿入し、続いてライゲーションすることにより構築されると理解されるであろう。
【0068】
娘インスリンをコードするポリヌクレオチド配列を含むベクターを、ベクターが染色体組み込み体として又は自己複製染色体外ベクターとして維持されるように、宿主細胞に導入する。「宿主細胞」なる用語は、複製中に生じる変異のために、親細胞と同一ではない親細胞の任意の子孫を包含する。宿主細胞は、単細胞生物、例えば原核生物、又は非単細胞生物、例えば真核生物であってよい。有用な単細胞生物は細菌細胞、例えば限定されるものではないが、バチルス細胞、ストレプトマイセス細胞を含むグラム陽性菌、又はグラム陰性菌、例えば大腸菌及びシュードモナス属である。真核細胞は、哺乳動物、昆虫、植物、又は真菌細胞であってよい。一実施態様において、宿主細胞は酵母細胞である。酵母生物は、培養で、本発明の単鎖インスリンを多量に生産する任意の適切な酵母生物でありうる。適切な酵母生物の例は、酵母種出芽酵母、サッカロマイセス・クルイベリ(kluyveri)、分裂酵母、サッカロマイセス・ウバルム(uvarum)、クルイベロマイセス・ラクチス、ハンゼヌラ・ポリモルファ、ピキア・パストリス、ピキア・メタノリカ、ピキア・クルイベリ、ヤロウイア・リポリティカ(lipolytica)、カンジダ種、トルラ酵母、カンジダ・カカオイ(cacaoi)、ゲオトリクム種、及びゲオトリクム・フェルメンタンス(fermentans)から選択される株である。
【0069】
酵母細胞の形質転換は、例えば原形質体形成と続く形質転換によりそれ自体知られている方式でなされうる。細胞を培養するのに使用される培地は酵母生物を増殖させるのに適した任意の従来からの培地であってよい。分泌されるインスリンは、その有意な割合が正しくプロセシングされた形態で培地中に存在するが、遠心分離、濾過による培地からの酵母細胞の分離、又はイオン交換マトリックス又は逆相吸収マトリックスによるインスリン前駆体の捕捉、例えば硫酸アンモニウムのような塩による上清又は濾液のタンパク質性成分の沈殿と、続く例えばイオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー等のような様々なクロマトグラフィー法による精製を含む、従来からの手順により培地から回収されうる。
【0070】
(この発明の化合物の使用)
投与経路は、この発明の化合物が、体の所望する又は適切な部位に効果的に輸送される任意の経路、例えば非経口、特に皮下、筋肉内又は静脈内であってよい。またこの発明の化合物は、経口、肺又は鼻に投与することもできる。
非経口投与用として、この発明の化合物は、公知のインスリンの処方と同じようにして処方される。さらに、非経口投与用として、この発明の化合物は、公知のインスリンの投与と同じように投与され、医者であるならば、この手順に精通している。
非経口投与は、シリンジ、場合によってはペン様シリンジにより実施することができる。また、非経口投与は注入ポンプにより実施することもできる。
【0071】
この発明の化合物を含有する注射用組成物は、所望の最終生成物を得られるように、適切であるならば、成分を溶解及び混合することを含む、製薬工業において従来から使用されている技術を使用して調製することができる。よって、一手順に従えば、この発明の化合物は、調製される組成物の最終容量より、幾分少ない量の水に溶解される。必要であれば等張剤、防腐剤及びバッファーが添加され、溶液のpH値が、必要に応じて、酸、例えば塩酸、又は塩基、例えば水酸化ナトリウム水を使用して調節される。最後に、所望の濃度の成分が付与されるように、溶液の容量が水で調節される。
【0072】
さらに厳密には、この発明のインスリン調製物、例えば溶液又は懸濁液は、例えば約240〜1200nmole/mlの範囲の濃度で、わずかに酸性の条件で、水性媒体に、この発明の化合物を溶解させることにより調製され得る。水性媒体は、例えば塩化ナトリウム又はグリセロールを用いて、等張にされてよい。さらに水性媒体は、インスリン活性当たり約20μgまでのZn++濃度の亜鉛イオン、バッファー、例えばアセタート及びシタラート、及び防腐剤、例えばm-クレゾール又はフェノールを含有していてもよい。溶液のpH値は、沈殿を回避するために、この発明の化合物の等電点に極めて近接することなく、中性に調製される。最終インスリン調製物のpH値は、この発明の化合物を使用した場合、亜鉛イオンの濃度とこの発明の化合物の濃度に依存する。インスリン調製物は、例えば滅菌濾過により滅菌される。
この発明のインスリン調製物は、公知のインスリン調製物と同じように使用される。
【0073】
投与されるこの発明の化合物の量、この発明の化合物の投与頻度の決定方法、及び場合によっては他の抗糖尿病化合物と共に投与されるこの発明の化合物又は化合物類の選択は、糖尿病の処置に精通した実施者と相談して決定される。よって、この発明は、このような処置を必要とする患者に、有効量のこの発明の化合物を投与することを含む、糖尿病を処置する方法に関する。
【0074】
(製薬用組成物)
この発明のペグ化されたインスリンは、皮下、鼻、経口又は肺に投与されてよい。
皮下投与用として、この発明のペグ化されたインスリンは、公知のインスリンの製剤と同じように処方される。さらに、皮下投与用として、この発明のペグ化されたインスリンは、公知のインスリンの投与と同じように投与され、医者はこの手順に通じている。
この発明のペグ化されたインスリンは、循環インスリンレベルを増加させ、及び/又は循環グルコースレベルを低下させるのに効果的な用量で、吸入により投与されてよい。このような投与は、糖尿病又は高血糖症等の疾患を処置するのに効果的である。インスリンの効果的な投与を達成するには、この発明のペグ化されたインスリンを、約0.5μg/kg〜約50μg/kg以上の吸入量で投与することが必要である。治療的有効量は、インスリンレベル、血糖値、患者の身体コンディション、患者の肺の状態等を含む要因を考慮し、博識な実施者により決定することができる。
【0075】
この発明のペグ化されたインスリンは、吸収の遅延化、及び/又はその全身クリアランスの低減を達成するために、吸入により送達されてもよい。同様の粒子径及び同様の肺沈着レベルで比較される場合、典型的には、種々の吸入装置により、同様の薬物動態が提供される。
この発明のペグ化されたインスリンは、吸入による治療剤の投与について、当該技術で公知の任意の様々な吸入装置により送達され得る。これらの装置には、定量噴霧式吸入器、ネブライザー、乾燥パウダー発生器、、スプレー等が含まれる。好ましくは、このペグ化されたインスリンは、乾燥パウダー吸入器又はスプレーにより送達される。この発明のペグ化されたインスリンを投与するための吸入装置には、いくつかの所望される特徴がある。例えば、吸入装置による送達には、有利には信頼性、再現性及び正確性がある。良好な呼吸性のためには、吸入装置は、小粒子又はエアゾール、例えば約10μm、例えば約1-5μm未満のものを送達すべきである。この発明の実施に適した商業的に入手可能な吸入装置のいくつかの特定の例は、TurbohalerTM(Astra)、Rotahaler(登録商標)(Glaxo)、Diskus(登録商標)(Glaxo)、SpirosTM吸入器(Dura)、吸入治療用に市販されている装置、AERxTM(Aradigm)、Ultravent(登録商標)ネブライザー(Mallinckrodt)、Acorn II(登録商標)ネブライザー(Marquest Medical Products)、Ventolin(登録商標)定量噴霧式吸入器(Glaxo)、Spinhaler(登録商標)パウダー吸入器(Fisons)等である。
【0076】
当業者は、この発明のペグ化されたインスリンの処方、送達される製剤の量、及び単一用量の投与の持続時間は、使用される吸入装置の種類に依存することを認識しているであろう。ネブライザー等、いくつかのエアゾール送達システムにとって、投与頻度及びシステムが稼働している時間の長さは、主として、エアゾール中のペグ化されたインスリンの濃度に依存するであろう。例えば、投与時間が短いと、ネブライザー溶液においては、より高い濃度のペグ化されたインスリンを使用することができる。定量噴霧式吸入器等の装置は、高濃度のエアゾールを生成することができ、所望の量のペグ化されたインスリンの送達を、より短い時間で作動させることができる。パウダー吸入器等の装置は、付与された充填量の薬剤が装置から排出されるまで、活性剤を送達させる。この種の吸入器において、付与されたパウダー量における、この発明のペグ化されたインスリンの量により、一回の投与で送達される用量が決定される。
【0077】
吸入装置で送達される製剤における、この発明のペグ化されたインスリンの粒子径は、肺、好ましくは気道下部及び肺胞内においてなされる、インスリンの能力に関して重要である。好ましくは、この発明のペグ化されたインスリンは、送達されるペグ化されたインスリンの少なくとも約10%、好ましくは約10%〜20%、又はそれ以上が肺に沈着するように処方される。口呼吸するヒトにとって、肺沈着の最大効率は、約2μm〜約3μmの粒子径で得られることが知られている。粒子径が約5μm以上になると、肺沈着はかなり低減する。粒子径が約1μm以下であると、肺沈着の低下が引き起こされ、治療に有効な十分な量の粒子を送達することが困難になる。よって、吸入器により送達されるペグ化されたインスリンの粒子は、好ましくは約10μm未満、より好ましくは約1μm〜5μmの範囲の粒子径を有する。ペグ化されたインスリンの処方は、選択された吸入装置において所望される粒子径が生じるように選択される。
【0078】
乾燥パウダーとしての投与に有利には、この発明のペグ化されたインスリンは、約10μm未満、好ましくは約1μm〜約5μmの粒子径を有する微粒子型に調製される。より好ましい粒子径は、患者の肺の肺胞に送達するのに効果的なものである。好ましくは、乾燥パウダーは、多くの粒子が所望する範囲のサイズを有するように生成された粒子から、ほとんどなる。有利には、乾燥パウダーの少なくとも50%が、約10μm未満の直径を有する粒子から作製される。このような処方は、この発明のペグ化されたインスリン及び他の所望する成分を含有する溶液を、噴霧乾燥、製粉、又は臨界点濃縮することにより達成可能である。また、本発明に有用な粒子を作製するのに適切な他の方法も、当該技術で公知である。
【0079】
粒子は、通常、容器中で乾燥パウダー製剤から分離され、ついで運搬気流を介して患者の肺に移送される。典型的には。現在の乾燥パウダー吸入器において、固形物を破壊する力は、単に、患者の吸入により提供される。他の種類の吸入器においては、患者の吸入により生じる気流が、粒子を凝集させない推進モーターを駆動させる。
【0080】
乾燥パウダー吸入器から投与されるこの発明のペグ化されたインスリンの製剤は、典型的には、誘導体を含有する微細に分割された乾燥パウダーを含むが、パウダーは、さらに増量剤、担体、賦形剤、他の添加剤等をさらに含むことができる。例えば特定のパウダー吸入器から送達させるのに必要なパウダーを希釈するため、処方のプロセシングを容易にするため、製剤に有利なパウダー性を付与するため、吸入装置からのパウダーの分散を容易にするため、製剤を安定させるため(例えば、酸化防止剤又はバッファー)、製剤に味を付与するため等に、添加剤をペグ化されたインスリンの乾燥パウダー製剤に含有させることができる。有利には、添加剤は患者の気道に悪影響を与えないものである。ペグ化されたインスリンは分子レベルで添加剤と混合することができ、又は固体状製剤は添加剤の粒子と混合して、又はこれでコーティングされた、ペグ化されたインスリンの粒子を含有することができる。典型的な添加剤には、単糖類、二糖類、及び多糖類;糖アルコール類及び他のポリオール類、例えばラクトース、グルコース、ラフィノース、メレジトース、ラクチトール(lactitol)、マルチトール、トレハロース、スクロース、マンニトール、デンプン、又はそれらの組合せ;界面活性剤、例えばソルビトール類、ジホスファチジルコリン、又はレシチン等が含まれる。典型的には、添加剤、例えば増量剤は、上述した目的に対して有効な量、多くの場合は製剤の重量に対して約50%〜約90%の量で存在している。インスリンアナログタンパク質等の、タンパク質の製剤について、当該技術で公知の添加剤も、本製剤に含めることができる。
【0081】
この発明のペグ化されたインスリンを含むスプレーは、ペグ化されたインスリンの懸濁液又は溶液を、加圧下にて、強いてノズルを通過させることにより生成させることができる。ノズルサイズ及び構造、適用圧力、及び液体供給速度は、所望する出量及び粒子径が達成されるように選択することができる。例えば、キャピラリー又はノズルフィード部に接続された電場により、電気スプレーを製造することができる。有利には、スプレーにより送達されるインスリンコンジュゲートの粒子は、約10μm未満、好ましくは約1μm〜約5μmの範囲の粒子径を有する。
【0082】
スプレーを用いて使用するのに適したこの発明のペグ化されたインスリンの製剤は、典型的には、溶液1ml当たり、約1mg〜約5000mgのペグ化されたインスリン濃度で、水溶液中にペグ化されたインスリンを含有している。選択されるペグ化されたインスリン及び医者に公知の他の要因に応じて、溶液1ml当たりのペグ化されたインスリンの上限は、例えば450、400、350、300、250、200、150、120、100又は50mgの以下であってよい。製剤は、賦形剤、バッファー、等張剤、防腐剤、界面活性剤、好ましくは亜鉛等の薬剤を含有することができる。また製剤は、賦形剤、又はペグ化されたインスリンを安定化させるための薬剤、例えばバッファー、還元剤、バルクタンパク質、又は炭水化物をさらに含有可能である。インスリンコンジュゲートの処方に有用なバルクタンパク質には、アルブミン、プロタミン等が含まれる。ペグ化されたインスリンの処方に有用な典型的な炭水化物には、スクロース、マンニトール、ラクトース、トレハロース、グルコース等が含まれる。またペグ化されたインスリン製剤は、エアゾールの形成において、溶液の噴霧化により生じるインスリンコンジュゲートの表面誘起凝集を低減又は防止可能な界面活性剤を、さらに含有することができる。種々の従来からの界面活性剤、例えばポリオキシエチレン脂肪酸エステル及びアルコール類、及びポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステルを使用することもできる。量は、一般的には、製剤の重量に対して約0.001〜約4%の範囲である。
【0083】
この発明のペグ化されたインスリンを含有する製薬用組成物は、このような処置が必要な患者に非経口的に投与されてよい。非経口投与は、シリンジ、場合によってはペン様シリンジにより、皮下、筋肉内又は静脈内注射することにより実施されてよい。または、非経口投与は、輸液ポンプにより実施することもできる。
【0084】
この発明のペグ化されたインスリンの注射用組成物は、所望する最終生成物が得られるように、適切であるならば、成分を溶解及び混合することを含む、製薬工業の従来からの技術を使用して調製することができる。よって、一手順に従えば、ペグ化されたインスリンは、調製される組成物の最終容量よりも幾分少ない量の水に溶解される。必要に応じて、亜鉛、等張剤、防腐剤及び/又はバッファーが添加され、必要ならば、塩酸等の酸、又は水酸化ナトリウム水等の塩基を使用して、溶液のpH値が調節される。最後に、溶液の容量は、所望の濃度の成分が付与されるように、水を用いて調節される。
【0085】
この発明のさらなる実施態様において、バッファーは酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、シタラート、グリシルグリシン、ヒスチジン、グリシン、リジン、アルギニン、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸ナトリウム、及びトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、ビシン(bicine)、トリシン、リンゴ酸、スクシナート、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、アスパラギン酸、又はそれらの混合物からなる群から選択される。これらの特定のバッファーのそれぞれ一つは、この発明の別の実施態様を構成する。
【0086】
この発明のさらなる実施態様において、製剤は、フェノール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、p-ヒドロキシ安息香酸メチル、p-ヒドロキシ安息香酸プロピル、2-フェノキシエタノール、p-ヒドロキシ安息香酸ブチル、2-フェニルエタノール、ベンジルアルコール、クロロブタノール、及びチオメロサル(thiomerosal)、ブロノポール、安息香酸、イミド尿素、クロロヘキシジン、デヒドロ酢酸ナトリウム、クロロクレゾール、p-ヒドロキシ安息香酸エチル、塩化ベンゼトニウム、クロルフェネシン(chlorphenesine)(3-(4-クロロフェノキシ)-1,2-プロパンジオール)又はそれらの混合物からなる群から選択され得る、製薬的に許容可能な防腐剤をさらに含有する。この発明のさらなる実施態様において、防腐剤は約0.1mg/ml〜20mg/mlの濃度で存在している。この発明のさらなる実施態様において、防腐剤は約0.1mg/ml〜5mg/mlの濃度で存在している。この発明のさらなる実施態様において、防腐剤は約5mg/ml〜10mg/mlの濃度で存在している。この発明のさらなる実施態様において、防腐剤は約10mg/ml〜20mg/mlの濃度で存在している。これらの特定の防腐剤各自は、この発明の別の態様を構成する。製薬用組成物に防腐剤を使用することは、当業者によく知られている。便宜的な参照として、Remington:The Science and Practice of Pharmacy, 第19版, 1995が挙げられる。
【0087】
この発明のさらなる実施態様において、製剤は、塩(例えば塩化ナトリウム)、糖又は糖アルコール、アミノ酸(例えば、L-グリシン、L-ヒスチジン、アルギニン、リジン、イソロイシン、アスパラギン酸、トリプトファン、又はスレオニン)、アルジトール(例えばグリセロール(グリセリン)、1,2-プロパンジオール(プロピレングリコール)、1,3-プロパンジオール、又は1,3-ブタンジオール)、ポリエチレングリコール(例えばPEG400)、又はそれらの混合物からなる群から選択され得る等張剤をさらに含有する。任意の糖、例えば単糖類、二糖類又は多糖類、又は水溶性グルカン類、例えばフルクトース、グルコース、マンノース、ソルボース、キシロース、マルトース、ラクトース、スクロース、トレハロース、デキストラン、プルラン、デキストリン、シクロデキストリン、可溶性デンプン、ヒドロキシエチルデンプン、及びカルボキシメチルセルロース-Naを使用してもよい。一実施態様において、糖添加剤はスクロースである。糖アルコールは、少なくとも一の-OH基を有するC4-C8炭化水素と定義され、例えばマンニトール、ソルビトール、イノシトール、ガラクチトール(galactitol)、ズルシトール、キシリトール、及びアラビトールを含む。一実施態様において、糖アルコール添加剤はマンニトールである。上述した糖又は糖アルコールは、個々に又は組合せて使用されてよい。使用される量は、糖又は糖アルコールが液状調製物に溶解し、この発明の方法を使用して得られた安定化効果に悪影響を与えない限りは、限定されて固定されるものではない。一実施態様において、糖又は糖アルコールの濃度は、約1mg/ml〜約150mg/mlである。この発明のさらなる実施態様において、等張剤は約1mg/ml〜50mg/mlの濃度で存在している、この発明のさらなる実施態様において、等張剤は約1mg/ml〜7mg/mlの濃度で存在している。この発明のさらなる実施態様において、等張剤は約8mg/ml〜24mg/mlの濃度で存在している。この発明のさらなる実施態様において、等張剤は約25mg/ml〜50mg/mlの濃度で存在している。これらの特定の等張剤各自は、この発明の別の実施態様を構成する。製薬用組成物に等張剤を使用することは、当業者によく知られている。便宜的な参照として、Remington:The Science and Practice of Pharmacy, 第19版, 1995が挙げられる。
【0088】
典型的な等張剤は、塩化ナトリウム、マンニトール、ジメチルスルホン及びグリセロールであり、典型的な防腐剤は、フェノール、m-クレゾール、p-ヒドロキシ安息香酸メチル及びベンジルアルコールである。
適切なバッファーの例は、酢酸ナトリウム、グリシルグリシン、HEPES(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸)及びリン酸ナトリウムである。
【0089】
この発明のペグ化されたインスリンの鼻投与用の組成物は、例えば、欧州特許第272,097号に記載されているようにして調製されてよい。
【0090】
この発明のペグ化されたインスリンを含有する組成物は、インスリンに対して敏感な状態の処置に使用することができる。例えば、それらは、1型糖尿病、2型糖尿病、及び高血糖症で、重症を負ったヒト及び大手術を受けたヒトに時折見られるようなものの処置に使用することができる。任意の患者に対する適量レベルは、使用される特定のインスリン誘導体の有効性、年齢、体重、身体活動、患者の食習慣、他の薬剤との組合せの可能性、及び処置される状態の重篤度を含む種々の要因に依存する。この発明のペグ化されたインスリンの毎日の投与量は、公知のインスリン組成物と同様にして、当業者により、個々の患者に対して決定されることが推奨される。
【0091】
(この発明の好ましい特徴)
この発明の特徴は以下の通りである:
1.ペグ化されたインスリンアナログであって、娘インスリンにおいて、少なくとも2の疎水性アミノ酸が、親インスリンに対して、親水性アミノ酸で置換されており、置換が、親インスリンの2又はそれ以上のプロテアーゼ切断部位の内部又は近接近して存在しており、このような娘インスリンが一又は複数の付加的な変異をさらに有していてもよく、PEG部分が、リンカーを介して、該娘インスリンのB29位にあるリジン残基のεアミノ基に結合しているペグ化されたインスリンアナログ。
2.娘インスリンが、親インスリンに対して増加した溶解度を有している、第1項のペグ化されたインスリンアナログ。
【0092】
3.親インスリンに対して、インスリンアナログのA鎖が少なくとも一の変異を有しており、インスリンアナログのB鎖が少なくとも一の変異を有している、上述した項のいずれか一つのペグ化されたインスリンアナログ。
4.インスリンアナログが、第1の修飾されたインスリンアナログのプロテアーゼ部位に、少なくとも一のアミノ酸置換をさらに有し、該少なくとも一のアミノ酸置換が、少なくとも一の疎水性アミノ酸が少なくとも一の親水性アミノ酸で置換されているものである、上述した項のいずれか一つのペグ化されたインスリンアナログ。
【0093】
5.A12位のアミノ酸がGlu又はAspであり;及び/又はA13位のアミノ酸がHis、Asn、Glu又はAspであり;及び/又はA14位のアミノ酸がAsn、Gln、Glu、Arg、Asp、Gly又はHisであり;及び/又はA15位のアミノ酸がGlu又はAspであり;及びB24位のアミノ酸がHisであり;B25位のアミノ酸がHisであり;及び/又はB26位のアミノ酸がHis、Gly、Asp又はThrであり;及び/又はB27位のアミノ酸がHis、Glu、Lys、Gly又はArgであり;及び/又はB28位のアミノ酸がHis、Gly又はAspであり;場合によっては、一又は複数の付加的な変異をさらに含む、上述した項のいずれかのペグ化されたインスリンアナログ。
【0094】
6.A14位のアミノ酸がGlu、Asp又はHisであり、B25位のアミノ酸がHisであり、場合によっては、一又は複数の付加的な変異をさらに含む、上述した項のいずれかのペグ化されたインスリンアナログ。
7.A14位のアミノ酸がGlu、Asp又はHisであり、B25位のアミノ酸がHisであり、B30位のアミノ酸が欠失している、上述した項のいずれかのペグ化されたインスリンアナログ。
8.A14位のアミノ酸がGlu、Asp又はHisであり、B25位のアミノ酸がHisである、上述した項のいずれかのペグ化されたインスリンアナログ。
【0095】
9.一又は複数の付加的な変異が、A(−3)Gly、A(−2)Gly、A(−1)Pro、A(0)Pro、A8His、A18Gln、A18Gln、A21Gln、A21Gly、B(−3)Gly、B(−2)Gly、B(−1)Pro、B(0)Pro、B1Glu、B1Gln、ro、B1Glu、B1Gln、B3Gln、B10Pro、B14Thr、B16Glu、B17Ser、B26Asp、DesB26、DesB27、B27Glu、B27Glu、B28Asp、desB28、desB29、desB30、B31Leu、B32Gluからなる群から選択される、可能な限り上述した項のいずれかのペグ化されたインスリンアナログ。
10.付加的な変異がdesB30である、可能な限り上述した項のいずれかのペグ化されたインスリンアナログ。
11.A14がGluである、可能な限り上述した項のいずれかのペグ化されたインスリンアナログ。
【0096】
12.親タンパク質に対して、一又は複数のプロテアーゼ酵素への増加した安定性を示す、可能な限り上述した項のいずれかのペグ化されたインスリンアナログ。
13.親タンパク質に対して、2又はそれ以上のプロテアーゼ酵素への増加した安定性を示す、可能な限り上述した項のいずれかのペグ化されたインスリンアナログ。
【0097】
14.親インスリンが、a)ヒトインスリン;b)B28位にあるアミノ酸残基がPro、Asp、Lys、Leu、Val又はAlaであり、B29位にあるアミノ酸残基がLys又はProであり、場合によってはB30位にあるアミノ酸残基が欠失している、ヒトインスリンのインスリンアナログ;c)des(B26-B30)ヒトインスリン、des(B27-30)ヒトインスリン、des(B28-B30)ヒトインスリン、des(B29-B30)ヒトインスリン、des(B27)ヒトインスリン、又はdes(B30)ヒトインスリン;d)B3位にあるアミノ酸残基がLysであり、B29位にあるアミノ酸残基がGlu又はAspである、ヒトインスリンのインスリンアナログ;e)A21位のアミノ酸残基がGlyであり、2つのArg残基でC末端がさらに伸長しているヒトインスリンのインスリンアナログ;及びf)B30位のアミノ酸残基がスレオニンメチルエステルで置換されているインスリン誘導体からなる群から選択される、可能な限り上述した項のいずれかのペグ化されたインスリンアナログ。
【0098】
15.一又は複数の付加的な変異が、インスリンの化学的安定性を高めるように選択される、可能な限り上述した項のいずれかのペグ化されたインスリンアナログ。
16.一又は複数の付加的な変異が、A18Gln、A21Gln、A21Gly及びB3Glnからなる群から選択される、可能な限り上述した項のいずれかのペグ化されたインスリンアナログ。
【0099】
17.次の式1:XaaA(−2)-XaaA(−1)-XaaA0-Gly-Ile-Val-Glu-Gln-Cys-Cys-XaaA8-Ser-Ile-Cys-XaaA12-XaaA13-XaaA14-XaaA15-Leu-Glu-XaaA18-Tyr-Cys-XaaA21-XaaA22(配列番号:1)のA鎖アミノ酸配列、及び次の式2:XaaB(−2)-XaaB(−1)-XaaB0-XaaB1-XaaB2-XaaB3-XaaB4-His-Leu-Cys-Gly-Ser-XaaB10-Leu-Val-Glu-Ala-Leu-XaaB16-Leu-Val-Cys-Gly-Glu-Arg-Gly-XaaB24-XaaB25-XaaB26-XaaB27-XaaB28-XaaB29-XaaB30-XaaB31-XaaB32(配列番号:2)のB鎖アミノ酸配列を含み、該式において、XaaA(−2)は存在しないか又はGlyであり;XaaA(−1)は存在しないか又はProであり;XaaA0は存在しないか又はProであり;XaaA8は独立して、Thr及びHisから選択され;XaaA12は独立して、Ser、Asp及びGluから選択され;XaaA13は独立して、Leu、Thr、Asn、Asp、Gln、His、Lys、Gly、Arg、Pro、Ser及びGluから選択され;XaaA14は独立して、Tyr、Thr、Asn、Asp、Gln、His、Lys、Gly、Arg、Pro、Ser及びGluから選択され;XaaA15は独立して、Gln、Asp及びGluから選択され;XaaA18は独立して、Asn、Lys及びGlnから選択され;XaaA21は独立して、Asn及びGlnから選択され;XaaA22は存在しないか又はLysであり;XaaB(−2)は存在しないか又はGlyであり;XaaB(−1)は存在しないか又はProであり;XaaB0は存在しないか又はProであり;XaaB1は存在しないか、又は独立してPhe及びGluから選択され;XaaB2は存在しないか又はValであり;XaaB3は存在しないか、又は独立してAsn及びGlnから選択され;XaaB4は独立して、Gln及びGluから選択され;XaaB10は独立して、His、Asp、Pro及びGluから選択され;XaaB16は独立して、Tyr、Asp、Gln、His、Arg及びGluから選択され;XaaB24は独立して、Phe及びHisから選択され;XaaB25は独立して、Phe及びHisから選択され;XaaB26は存在しないか、又は独立してTyr、His、Thr、Gly及びAspから選択され;XaaB27は存在しないか、又は独立してThr、Asn、Asp、Gln、His、Lys、Gly、Arg、Pro、Ser及びGluから選択され;XaaB28は存在しないか、又は独立してPro、His、Gly及びAspから選択され;XaaB29は存在しないか、又は独立してLys及びGlnから選択され;XaaB30は存在しないか又はThrであり;XaaB31は存在しないか又はLeuであり;XaaB32は存在しないか又はGluであり;場合によってはC末端がアミドとして誘導体化されていてもよく;ここで、A鎖アミノ酸配列及びB鎖アミノ酸配列は、A鎖の7位にあるシステインとB鎖の7位にあるシステインとの間、及びA鎖の20位にあるシステインとB鎖の19位にあるシステインとの間でジスルフィド架橋により結合しており、A鎖の6及び11位にあるシステインはジスルフィド架橋により結合しており;場合によってはA鎖アミノ酸配列のN末端は、3-7のアミノ酸を含有するアミノ酸配列により、B鎖アミノ酸配列のC末端に結合して、単鎖インスリン分子を形成してよく、場合によってはB鎖のN末端は1-10のアミノ酸で伸長しており;XaaA8がThrであり、XaaA12がSerであり、XaaA13がLeuであり、XaaA14がTyrであるならば、XaaA15はGlu又はAspであり;及びXaaB24がPheであり、XaaB25がPheであり、XaaB26がTyrであり、XaaB27がThrであり、XaaB28がProであるならば、XaaB29はGlnである、可能な限り上述した項のいずれかのペグ化されたインスリンアナログ。
【0100】
18.次の式3:Gly-Ile-Val-Glu-Gln-Cys-Cys-XaaA8-Ser-Ile-Cys-XaaA12-XaaA13-XaaA14-XaaA15-Leu-Glu-XaaA18-Tyr-Cys-XaaA21(配列番号:3)のA鎖アミノ酸配列、及び次の式(4):XaaB1-Val-XaaB3-XaaB4-His-Leu-Cys-Gly-Ser-XaaB10-Leu-Val-Glu-Ala-Leu-XaaB16-Leu-Val-Cys-Gly-Glu-Arg-Gly-XaaB24-His-XaaB26-XaaB27-XaaB28-XaaB29-XaaB30(配列番号:4)のB鎖アミノ酸配列を含み、該式において、XaaA8は独立して、Thr及びHisから選択され;XaaA12は独立して、Ser、Asp及びGluから選択され;XaaA13は独立して、Leu、Thr、Asn、Asp、Gln、His、Lys、Gly、Arg、Pro、Ser及びGluから選択され;XaaA14は独立して、Thr、Asn、Asp、Gln、His、Lys、Gly、Arg、Pro、Ser及びGluから選択され;XaaA15は独立して、Gln、Asp及びGluから選択され;XaaA18は独立して、Asn、Lys及びGlnから選択され;XaaA21は独立して、Asn及びGlnから選択され;XaaB1は独立して、Phe及びGluから選択され;XaaB3は独立して、Asn及びGlnから選択され;XaaB4は独立して、Gln及びGluから選択され;XaaB10は独立して、His、Asp、Pro及びGluから選択され;XaaB16は独立して、Tyr、Asp、Gln、His、Arg及びGluから選択され;XaaB24は独立して、Phe及びHisから選択され;XaaB26は存在しないか、又は独立してTyr、His、Thr、Gly及びAspから選択され;XaaB27は存在しないか、又は独立してThr、Asn、Asp、Gln、His、Lys、Gly、Arg、Pro、Ser及びGluから選択され;XaaB28は存在しないか、又は独立してPro、His、Gly及びAspから選択され;XaaB29は存在しないか、又は独立してLys及びGlnから選択され;XaaB30は存在しないか又はThrであり;場合によってはC末端はアミドとして誘導体化されていてもよく;ここで、A鎖アミノ酸配列及びB鎖アミノ酸配列は、A鎖の7位にあるシステインとB鎖の7位にあるシステインとの間、及びA鎖の20位にあるシステインとB鎖の19位にあるシステインとの間でジスルフィド架橋により結合しており、A鎖の6及び11位にあるシステインはジスルフィド架橋により結合している、可能な限り上述した項のいずれかのペグ化されたインスリンアナログ。
【0101】
19.XaaA8が独立して、Thr及びHisから選択され;XaaA12が独立して、Ser及びGluから選択され;XaaA13が独立して、Leu、Thr、Asn、Asp、Gln、His、Lys、Gly、Arg、Pro、Ser及びGluから選択され;XaaA14が独立して、Asp、His及びGluから選択され;XaaA15は独立して、Gln及びGluから選択され;XaaA18が独立して、Asn、Lys及びGlnから選択され;XaaA21が独立して、Asn及びGlnから選択され;XaaB1が独立して、Phe及びGluから選択され;XaaB3が独立して、Asn及びGlnから選択され;XaaB4が独立して、Gln及びGluから選択され;XaaB10が独立して、His、Asp、Pro及びGluから選択され;XaaB16が独立して、Tyr、Asp、Gln、His、Arg及びGluから選択され;XaaB24が独立して、Phe及びHisから選択され;XaaB26が独立して、Tyr、Thr、Gly及びAspから選択され;XaaB27が独立して、Thr、Asn、Asp、Gln、His、Lys、Gly、Arg及びGluから選択され;XaaB28が独立して、Pro、Gly及びAspから選択され;XaaB29が独立して、Lys及びGlnから選択され;XaaB30が存在しないか又はThrであり;場合によってはC末端はアミドとして誘導体化されていてもよく;ここで、A鎖アミノ酸配列及びB鎖アミノ酸配列は、A鎖の7位にあるシステインとB鎖の7位にあるシステインとの間、及びA鎖の20位にあるシステインとB鎖の19位にあるシステインとの間でジスルフィド架橋により結合しており、A鎖の6及び11位にあるシステインはジスルフィド架橋により結合している、可能な限り上述した項のいずれかのペグ化されたインスリンアナログ。
【0102】
20.娘インスリンにおいて、A14位のアミノ酸がGlu又はHis(すなわち、1文字コードではE及びH)であり、B25位のアミノ酸がHisであり、場合によっては、一又は複数の付加的な変異をさらに含み、PEG部分が、リンカーを介して、B29位にあるリジン残基のεアミノ酸に結合している、ペグ化されたインスリンアナログ。
21.娘インスリンがA14E変異を有する、上述した項のペグ化されたインスリンアナログ。
22.娘インスリンにおいて、B25位の変異とは別に、上述した項に記載のA14位のみに変異が存在する、可能な限り上述した項のいずれか一つのペグ化されたインスリンアナログ。
23.娘インスリンがA14H変異を含む、第21項のペグ化されたインスリンアナログ。
24.娘インスリンアナログがdesB30変異を含む、可能な限り上述した項のいずれか一つのペグ化されたインスリンアナログ。
【0103】
25.娘インスリン内部の一又は複数の付加的な変異が、A(−1)P、A(0)P、A8H、A21G、B(−1)P、B(0)P、B1E、B1Q、B16E、B26D、B27E、B28D、desB30、B31L、B32Eからなる群から選択される、可能な限り上述した項のいずれかのペグ化されたインスリンアナログ。
26.A14位及びB25位における変異とは別に、娘インスリンが、上述した項に記載の唯一の変異を有する、可能な限り上述した項のペグ化されたインスリンアナログ。
27.A14位及びB25位における変異とは別に、娘インスリンが、一つを除き(すなわち第25項に記載)、上述した項に記載の正確には2つの変異を有する、最後の一つ以外(すなわち、第27項を除く)の、可能な限り上述した項のいずれか一つのペグ化されたインスリンアナログ。
28.A14位及びB25位における変異とは別に、娘インスリンが、2つを除き(すなわち第25項に記載)、上述した項に記載の正確には3つの変異を有する、最後の2つ以外(すなわち、第26項及び第27項を除く)の、可能な限り上述した項のいずれか一つのペグ化されたインスリンアナログ。
29.A14位及びB25位における変異とは別に、唯一の付加的な変異がdesB30である、最後の2つ以外(すなわち、第27項及び第28項を除く)の、上述した項のいずれか一つのペグ化されたインスリンアナログ。
【0104】
30.nが2〜約1000、好ましくは2〜約500、好ましくは2〜約250、好ましくは2〜約125、好ましくは2〜約50、及び好ましくは2〜約25、好ましくは2〜約12の範囲の整数である、部分-(OCHCH)-を有する、上述した項のいずれか一つのペグ化されたインスリンアナログ。
31.ポリエチレングリコール部分が、約200〜約40000、好ましくは約200〜約30000、好ましくは約200〜約20000、好ましくは約200〜約10000、好ましくは約200〜約5000、好ましくは約200〜約2000、好ましくは約200〜約1000、及び好ましくは約200〜約750の範囲の名目上の分子量を有する、上述した可能な項のいずれか一つのペグ化されたインスリンアナログ。
32.ポリエチレングリコール部分が単分散である、上述した可能な項のいずれか一つのペグ化されたインスリンアナログ。
【0105】
33.ポリエチレングリコール部分が一般式-(CHCHO)-を有するものであり、こ
こでnは、少なくとも約6、好ましくは少なくとも約10、及び約110を越えず、好ましくは約75を越えない整数であり、さらに好ましくは、nは約6〜約30の範囲、好ましくは約10〜約48の範囲にある、上述した可能な項のペグ化されたインスリンアナログ。
34.ポリエチレングリコール部分が多分散である、上述した可能な項のいずれか一つのペグ化されたインスリンアナログ。
【0106】
35.ポリエチレングリコール部分が、直鎖状、分枝状、フォーク状又はダンベル状である、上述した可能な項のいずれか一つのペグ化されたインスリンアナログ。
36.一般式-Q-(OCHCH)-Rの基を有し、Qが、娘インスリンにおいて、アミノ酸のε-NH-基に、好ましくはアミド又はカルバマート結合を介して、ポリエチレングリコール部分を連結させるリンカーであり、nは2〜約1000の範囲の整数であり、Rはアルコキシ又はヒドロキシル、好ましくはメトキシである、上述した可能な項のいずれか一つのペグ化されたインスリンアナログ。
37.nが、2〜約500、好ましくは2〜約500、好ましくは2〜約250、好ましくは2〜約125、好ましくは2〜約50、及び好ましくは2〜約25の範囲の整数である、上述した項のペグ化されたインスリンアナログ。
【0107】
38.Qが-アルキレン-CO-であり、カルボニル基を介してインスリンの-NH-残基に連結している、上述した可能な項のいずれか一つのペグ化されたインスリンアナログ。
39.Qがエチレンカルボニル(-(CH)-CO-)であり、カルボニル基を介して-NH-残基に連結している、上述した項のペグ化されたインスリンアナログ。
40.Qが-アルキレン-NHCO-アルキレン-CO-であり、カルボニル基を介してインスリンの-NH-残基に連結している、最後の2つを除く、上述した可能な項のいずれか一つのペグ化されたインスリンアナログ。
41.Qが-CO-アルキレン-CO-である、最後の3つを除く、上述した可能な項のいずれか一つのペグ化されたインスリンアナログ。
42.Qが-CO-である、最後の4つを除く、上述した可能な項のいずれか一つのペグ化されたインスリンアナログ。
【0108】
43.Qが(-アルキレン-NHCO-アルキレン-O-アルキレン-)CH-NHCO-アルキレン-(OCHCH)-NHCO-アルキレン-CO-であり、pが1、2又は3であり、qが0、1又は2であり、p+qが3であり、rが1〜約12の範囲の整数であり、カルボニル基を介してインスリンの-NH-残基に連結している、最後の5つを除く、上述した可能な項のいずれか一つのペグ化されたインスリンアナログ。
44.Qが、-CHCO-、-CHCHCO-、-CHCHCHCO-、-CHCH(CH)CO-、-CHCHCHCHCO-、-CHCHCH(CH)CO-、-CHCHCHCHCHCO-、-CHCHNH-COCHCHCO-、-CHCHNH-COCHCHCHCO-、-CHCHCHNH-COCHCHCO-、-CHCHCHNH-COCHCHCHCO-、-COCHCHCO-、-COCHCHCHCO-、-CO-、(-CHCHNHCOCHCHOCH)CNH-COCHCH(OCHCH)NHCOCHCHCO-又は(-CHCHNHCOCHCHOCH)CNH-COCHCH(OCHCH)NHCOCHCHCHCO-である、上述した可能な項のいずれか一つのペグ化されたインスリンアナログ。
【0109】
45.Rがアルコキシである、上述した可能な項のいずれか一つのペグ化されたインスリンアナログ。
46.Rがメトキシである、上述した項のペグ化されたインスリンアナログ。
【0110】
47.上述の明細書、例えば特定の実施例に特に記載されている化合物の任意の一つ、特に以下の実施例1の任意の一つである、上述した生成物の項のいずれか一つの化合物。
48.糖尿病を処置する製薬用組成物の調製のための、上述した生成物の項のいずれか一つの化合物の使用。
49.糖尿病を処置するために肺投与可能な製薬用組成物の調製のための、上述した生成物の項のいずれか一つの化合物の使用。
50.糖尿病を処置するために肺投与可能で、長時間の作用効果を付与する製薬用組成物の調製のための、上述した生成物の項のいずれか一つの化合物の使用。
51.糖尿病を処置するために肺投与可能なパウダー状製薬用組成物の調製のための、上述した生成物の項のいずれか一つの化合物の使用。
52.糖尿病を処置するために肺投与可能な液状製薬用組成物の調製のための、上述した生成物の項のいずれか一つの化合物の使用。
53.糖尿病を処置するために経口投与可能な製薬用組成物の調製のための、上述した生成物の項のいずれか一つの化合物の使用。
54.上述した生成物の項のいずれか一つの化合物を治療的有効量、それを必要とする被験者に投与することを含む、糖尿病の処置方法。
【0111】
55.ヒトインスリン、並びに上述した項のいずれか一つのペグ化されたインスリンアナログを含有する組成物。
56.インスリンアスパルト、並びに上述した項のいずれか一つのペグ化されたインスリンアナログを含有する組成物。
57.インスリンリスプロ、並びに上述した項のいずれか一つのペグ化されたインスリンアナログを含有する組成物。
58.インスリングルリシン、並びに上述した項のいずれか一つのペグ化されたインスリンアナログを含有する組成物。
59.製薬的に許容可能な担体と、インスリンアナログに関連する上述した項のいずれか一つのインスリンアナログを生物活性量含有する製薬用組成物。
【0112】
60.インスリンアナログに関連する上述した項のいずれか一つのインスリンアナログ、又は上述した項のいずれか一つの製薬用組成物を被験者に投与することを含む、被験者の高血糖症、2型糖尿病、耐糖能障害、1型糖尿病、肥満、X症候群、又は脂質代謝異常を処置、予防又は緩和する方法。
61.高血糖症、2型糖尿病、耐糖能障害、1型糖尿病、肥満、X症候群、又は脂質代謝異常を処置又は予防する製薬用製剤を調製するための、インスリンアナログに関連する上述した項のいずれか一つのインスリンアナログの治療的有効量の使用。
62.糖尿病の処置方法であって、該方法が、上述した生成物の項のいずれか一つのペグ化されたインスリンを治療的有効量、それを必要とする被験者に投与することを含む方法。
【0113】
場合によっては、一又は複数の以下の請求項と、ここに記載の一又は複数の項とを組合せることで、さらなる項が得られ、本発明は該項と請求項の全ての可能な組合せに関する。
ここに引用された刊行物、特許出願及び特許を含む全ての文献は、各文献が、出典明示により個々にかつ特に援用され、その全内容がここに記載されているかの如く、その全体が出典明示によりその全内容がここに援用される(法律により許容される最大範囲)。
全ての表題及び副題は、ここでは便宜的に使用され、決してこの発明を限定するものと解してはならない。
ここに提供される任意かつ全ての例、又は例示的言語(例えば「等」)の使用は、単にこの発明をより明らかに例証することを意図しており、特に請求項に記載がない限り、この発明の範囲に限定をもたらすものではない。明細書中の如何なる語句も請求項に記載していない要素がこの発明の実施に必須であることを示しているものと解してはならない。
ここでの特許文献の引用及び援用は単に便宜上なされているもので、そのような特許文献の有効性、特許性、及び/又は権利行使性についての見解を反映させるものではない。文献のここでの記載は、それらが従来技術を構成することを承認するものではない。
ここで、「含有する」なる単語は、広義には「含む」、「有する」又は「包含する」を意味すると解釈される(EPOガイドラインC4.13)。
この発明は、適用される法律に容認される場合、ここに付加される請求項に列挙された主題事項の全ての修正点及び等価物を含む。
【0114】
以下の列挙において、選択されたペグ化試薬は、活性化されたN-ヒドロキシスクシンイミドエステル(OSu)として列挙される。また明らかに、他の活性エステル、例えば4-ニトロフェノキシ、及び当業者に公知の多くの他の活性剤を使用してよい。PEG(又はmPEG)部分、CHO-(CHCHO)-は、Mw40000Daまでの任意のサイズ、例えば750Da、2000Da、5000Da、20000Da、及び40000Daのものとすることができる。mPEG部分は多分散であるが、m:メチル/メトキシの末端キャップ、d:分離、及びxは例えば12〜24等、繰り返しエチレングルコール残基の数である、mdPEGと示される、例えば12〜24の繰り返しエチレングリコール単位の良く定められた鎖長さ(よって、分子量)を有するmPEGからなる単分散であってもよい。PEG部分は直鎖状又は分枝状のいずれかであってよい。伸長したインスリンにおけるPEG残基の構造/配列は、形式的には、「NHインスリン」で、種々のペグ化試薬から離脱基(例えば「-OSu」)を置き換えることにより得ることができ、ここでインスリンは、A又はB鎖(又は双方)のアルファ-アミノ位置、又はリジン残基のイプシロン位置のいずれかでペグ化されている:例えば
mPEG-COCHCHCO-OSu、
mPEG-COCHCHCHCO-OSu、
mPEG-CHCO-OSu、
mPEG-CHCHCO-OSu、
mPEG-CHCHCHCO-OSu、
mPEG-CHCHCHCHCO-OSu、
mPEG-CHCHCHCHCHCO-OSu、
mPEG-CHCH(CH)CO-OSu、
mPEG-CHCHCH(CH)CO-OSu、
mPEG-CHCHNH-COCHCHCO-OSu、
mPEG-CHCHCHNH-COCHCHCHCO-OSu、
mPEG-CHCHCHNH-COCHCHCO-OSu、
mPEG-CHCHNH-COCHCHCHCO-OSu、
mPEG-CO-(4-ニトロフェノキシ)、
(mdPEG12-CHCHNHCOCHCHOCH)CNHCOCHCH(OCHCH)NHCOCHCHCO-OSu(又は、短くは:(mdPEG12)-dPEG4-OSu)、
(mdPEG12-CHCHNHCOCHCHOCH)CNHCOCHCH(OCHCH)NHCOCHCHCHCO-OSu(又は、短くは:(mdPEG12)-dPEG4-OSu)、
mdPEG-COCHCHCO-OSu、
mdPEG-COCHCHCHCO-OSu、
mdPEG-CHCO-OSu、
mdPEG-CHCHCO-OSu、
mdPEG-CHCHCHCO-OSu、
mdPEG-CHCHCHCHCO-OSu、
mdPEG-CHCHCHCHCHCO-OSu、
mdPEG-CHCH(CH)CO-OSu、
mdPEG-CHCHCH(CH)CO-OSu、
mdPEG-CHCHNH-COCHCHCO-OSu、
mdPEG-CHCHCHNH-COCHCHCHCO-OSu、
mdPEG-CHCHCHNH-COCHCHCO-OSu、
mdPEG-CHCHNH-COCHCHCHCO-OSu、又は
mdPEG-CO-(4-ニトロフェノキシ)、
上式中、xは約6〜約48の範囲の整数、例えば12又は24である。
【0115】
さらに、より大きなペグ化試薬は、2又はそれ以上のより小さなPEG試薬を会合させることにより調製することができる。例えば、上述した任意のものの一つ、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル等の末端キャップされたPEG試薬は、一端がアミノ基、他端がカルボン酸(エステル)により官能化された、(場合によっては保護されていてもよい)PEG部分にカップリングさせることができる。(必要ならば)カルボン酸の脱保護後、カルボン酸を活性化させることで、例えばN-ヒドロキシスクシンイミドエステルのように、より長いペグ化試薬が提供される。所望するならば、得られたPEG試薬は、一又は複数回のサイクルを繰り返すことにより、さらに伸長させることができる。この原則及び方法論は、以下に例証されている。
この方法論により、さらに大きな単分散(及び多分散)の仕立てサイズのペグ化試薬の構築が可能となる。
【0116】
本発明のPEG残基の例には、以下のものが含まれる:
mPEG750(ここで、「750」は、Daでの平均分子量を示す)、
mPEG2000、
mPEG5000、
mPEG10000、
mPEG20000、
mPEG30000、
mPEG40000、
mdPEG12(ここで、下付き文字「12」は、ここで定義されるように、PEGモノマーの数を示し、例えばQuanta BioDesign Ltd)、
mdPEG24
mdPEG3x12(ここで、下付き文字「3x12」は、ここで定義されるように、PEGが分枝状で、それぞれ12のPEGモノマーからなる3つのアームからなることを示し、(mdPEG12)-dPEG-OSu)、例えばQuanta BioDesign Ltd)、
mdPEG4x4(ここで、下付き文字「4x4」は、ここで定義されるように、PEGが分枝状で、それぞれ4のPEGモノマーからなる4つのアームからなることを示し(以下、「好ましいインスリン」)、例えばIRIS Biotech GMBH)、
mdPEG12-dPEG12(ここで、mdPEG12-dPEG12は、上述し、以下に例証するように、PEG残基が、mdPEG12残基とアミノ-dPEG12-酸残基とから組立られていることを示す)、
mdPEG12-dPEG24
mdPEG24-dPEG12
mdPEG24-dPEG24
mdPEG24-dPEG24-dPEG24
mdPEG3x12-dPEG12
mdPEG3x12-dPEG24-dPEG24
mdPEG4x4-dPEG12、又は
mdPEG4x4-dPEG24
【0117】
以下、全てにおいて、この発明のペグ化されたインスリンは、全てのケースにおいて、インスリンにPEG部分を連結させるリンカーが、(3-)プロピオニルリンカーであるように命名されている。多くの種類のリンカーが商業的に入手可能であることは上述より明らかであり、標準的なインスリンの配列外の残基にPEG部分を配することによる有益な効果を支配するのはリンカーの正確な構造/組成ではないため、全ての種類のリンカー(例えば上述したもの)は、この発明の範囲内に入ると理解される。
本発明の親プロテアーゼ安定化インスリンは、次のA14E,B25Hヒトインスリン;A14E,B25H,desB30ヒトインスリン;A14H,B25H,ヒトインスリン、及びA14H,B25H,desB30ヒトインスリンを含む。
【実施例】
【0118】
以下の実施例は、例証するために提供されるものであって、限定するものではない。
この発明のペグ化されたプロテアーゼ安定化インスリンを調製するための一般的手順(A)
一般的手順(A)を、第1の実施例において例証する。
実施例1,一般的手順(A):
A14E,B25H,B29K(Nε-3-mdPEG24-プロピオニル),desB30ヒトインスリン

A14E,B25H desB30ヒトインスリン(1.5g)を、0.1MのNaCO(34ml)に溶解させ、1NのNaOHを用い、pHを10に調節した。MeCN(16.8ml)に溶解させたmdPEG24-SPA(0.45g、Quanta BioDesign Ltd.)を添加し、混合物を1時間、ゆっくりと攪拌した。水(25ml)を添加し、1NのHClを用いて、pHを5.5に調節し、混合物を凍結乾燥した。調製用HPLC精製により、表題の化合物を得た。カラム:C18.3cm。A-バッファー:MiliQ水に0.1%のTFAが入ったもの。B-バッファー:アセトニトリルに0.1%のTFAが入ったもの。45分以上、10-55%Bの勾配。収率:650mg。
MALDI-MS(マトリックス:HCCA);m/z:6762、算出値:6762。
この化合物は、実質的に持続的な肺への有効性を有する。
【0119】
実施例1の化合物(すなわち、A14E,B25H,B29K(Nε-3-mdPEG24-プロピオニル),desB30ヒトインスリン)とインスリンアスパルトを、以下の実施例10に記載する手順により、ラットの気管内への液滴滴下により試験した。各グループの動物の数を4-5とした。実施例1の化合物の付与される用量を、気管内的に10、20及び40nmol/kgとし、時間(分)の関数としての得られた血糖値(mM)を、以下の図1に付与する。インスリンアスパルトの付与される用量を、気管内的に5、10及び15nmol/kgとし、時間(分)の関数としての得られた血糖値(mM)を、以下の図1に付与する。図1から明らかなように、この発明の化合物は、次の肺への投与に持続される、用量依存性血糖値低下効果を有する。
【0120】
実施例2,一般的手順(A):
A14E,B25H,B29K(Nε-3-mPEG2000-プロピオニル),desB30ヒトインスリン

MALDI-MS(マトリックス:シナピン酸);m/z:7850(広域)。
【0121】
実施例3,一般的手順(A):
A14E,B25H,B29K(Nε3-{mPEG750}プロピオニルカルバモイル),desB30ヒトインスリン

MALDI-MS(マトリックス:シナピン酸);m/z:6570(広域)。
【0122】
実施例4,一般的手順(A):
A14E,B25H,B29K(Nε-3-{2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}プロピオニル),desB30ヒトインスリン

tert-ブチル-3-{2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}プロピオナート:
トリエチレングリコールモノメチルエーテル(1.0g、6.1mmol)とtert-ブチルアクリラート(390mg、3.05mmol)を、無水THFに溶解させ、ナトリウム金属(0.7mg、0.03mmol)を室温で添加した。混合物を4時間攪拌し、1MのHClを添加して、反応をクエンチした。ジクロロメタンを用い、混合物を2回抽出物し、有機相をMgSO上で乾燥させ、真空にて濃縮したところ、油を得、溶出液として酢酸エチルを使用するシリカクロマトグラフィーにより精製した。生成物は油、773mg(44%)であった。
LCMS m=237.1(M-tBu)。
【0123】
3-{2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}プロピオン酸スクシンイミジル :
tert-ブチル-3-{2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}プロピオナート(131mg、0.45mmol)を、トリフルオロ酢酸に溶解させ、室温で1時間放置した。真空で溶媒を除去し、残留したトリフルオロ酢酸を、ジオキサンから蒸発させることによって除去した。脱保護された中間体をジクロロメタンに溶解させ、N-ヒドロキシスクシンイミド(57mg、0.49mmol)及びエチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロリド(86mg、0.45mmol)で処理し、室温で一晩攪拌した。反応混合物をジクロロメタンで希釈し、水で2回洗浄した。有機相をMgSO上で乾燥させ、真空で濃縮し、122mg(82%)を得た。
【0124】
A14E,B25H,B29K(Nε-3-{2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}プロピオニル)desB30ヒトインスリン
A14E,B25H desB30インスリン(500mg、0.08mmol)を、室温で、0.1Mの炭酸ナトリウム(6ml)に溶解させた、pH10.5。3-{2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}プロピオン酸スクシンイミジル(35mg、0.11mmol)をアセトニトリルに溶解させ、インスリン溶液に添加した。pHは10.3であった。30分後、0.1Mのメチルアミン(0.6mL)を用い、反応混合物をクエンチした。インスリン生成物を、C4カラム、A-バッファー:水に0.1%のトリフルオロ酢酸が入ったもの、B-バッファー:アセトニトリルに0.1%のTFAが入ったものによるRP-HPLCにて精製し、227mg(44%)を得た。
ES-MS;m/z:5879.6。(逆重畳(deconvoluted))
【0125】
実施例4の化合物(すなわち、A14E,B25H,B29K(Nε-3-{2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}プロピオニル),desB30ヒトインスリン)を、以下の実施例11に記載の方法を使用し、インスリンのラットの回腸注射において、B29K(Nε-3-{2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}プロピオニル),desB30ヒトインスリン(以下の図2において「コンパレータ」と命名)と比較した。実施例4のインスリンとコンパレータを、絶食させたSPRDラットの空腸の中央部に適用した(平均±SEM;付与された用量:0.4ml/kg)。動物群のサイズは:本発明のインスリン及びコンパレータ、n=7、及びビヒクル(Milli-Q水)、n=3であった。得られた結果(時間(分)に応じて、血糖(mmol/l)が低下)を、以下の図2に付与する。図2から明らかなように、この発明の化合物(すなわち、A14E,B25H,B29K(Nε-3-{2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}プロピオニル),desB30ヒトインスリン)は、絶食させたSPRDラット(経口送達のモデルとして)の空腸の中央部に適用した後、B29K(Nε-3-{2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}プロピオニル),desB30ヒトインスリンと比較して、顕著に改善された作用強度及び持続作用性を有する。よって、3時間未満後、B29K(Nε-3-{2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}プロピオニル),desB30ヒトインスリンに、測定可能な効果はなかったが、この発明の化合物は、4時間後でも、血糖の抑制度は最大のままであった。
【0126】
実施例5,一般的手順(A):
B25H,B29K(Nε-3-(mdPEG12)プロピオニル)ヒトインスリン

MALDI-MS(マトリックス:シナピン酸);m/z:6365。
【0127】
実施例6:

この発明のインスリン誘導体のインスリンレセプター結合性
ヒトインスリンレセプターについての、この発明のインスリン誘導体の親和性は、SPAアッセイ(シンチレーション近接アッセイ)マイクロタイタープレート抗体捕捉アッセイにより測定される。SPA-PVT抗体-結合ビーズ、抗-マウス試薬(Amersham Biosciences、カタログ番号 PRNQ0017)を、25mlの結合バッファー(100mMのHEPES、pH7.8;100mMの塩化ナトリウム、10mMのMgSO、0.025%のトゥイーン(Tween)-20)と混合する。単一のPackard Optiplate(Packard No.6005190)用の試薬混合物は、2.4μlの1:15000に希釈された精製組換えヒトインスリンレセプター(エクソン11を有する又は有さない)、100μlの試薬混合物当たり5000cpmに相当するA14Tyr[125I]-ヒトインスリンの所定量の保存溶液、12μlの1:1000に希釈されたF12抗体、3mlのSPA-ビーズ、全体を12mlにする結合バッファーからなる。ついで、全体で100μlの試薬混合物を、Packard Optiplateの各ウェルに添加し、インスリン誘導体の希釈シリーズを、適切なサンプルからOptiplateにおいて作製する。ついで、ゆっくりと振揺させつつ、サンプルを16時間インキュベートする。ついで、1分間遠心分離することにより相分離させ、プレートをトップカウンターで計測する。GraphPad Prism 2.01(GraphPad Software, San Diego、CA)における非線状回帰アルゴリズムを使用し、結合データを適合させた。
【0128】
この発明の選択された化合物のインスリンレセプター結合親和性
実施例番号: インスリンレセプター結合性
Aイソ型(エクソン11なし)
ヒトインスリンに対する
1 2.2%
2 1.4%
3 3.4%
4 17%
5 10%
【0129】
実施例7:
キモトリプシンに対する、インスリンアナログ及びヒトインスリンのタンパク質分解安定性(半減期)の比較
キモトリプシン(0.34又は3.4μg、0.1又は1μg/μLの3.4μl)に対するヒトインスリン及びインスリンアナログ(0.6mM、10μL)のタンパク質分解安定性を、100mMのNHHCO、pH8.1又は5mMのNaP、140mMのNaCl、70ppmのトゥイーン20、pH7.4において、37℃、最終容量100μLでインキュベートした後に測定した。種々の時間(0、5、15、30及び60分)、サンプルを、同量の0.2%TFAでクエンチし、5℃に移した。ヒトインスリン及びアナログをRP-HPLCにより、214nmで直ちに分析し、無傷タンパク質に相当するピーク下の面積を測定した。曲線から半減期(T1/2)を得、ヒトインスリンに対する増加/減少倍数を算出した(安定性の相対倍数)。
【0130】
この発明の選択された化合物のキモトリプシン消化に対する相対的安定性:
実施例番号: キモトリプシン消化に対する安定性
(ヒトインスリンに対する倍数)
1 14×
2 16×
4 11×
【0131】
実施例8:
この発明のインスリン誘導体のラットにおける静脈内ボーラス注射後の血糖低下効果
ハイプノルム-ドルミカム(Hypnorm-Dormicum)皮下注射(1.25mg/mlのドルミカム、2.5mg/mlのフルアニソン、0.079mg/mlのクエン酸フェンタニル)を、プライミング用量(試験物質の投与前〜30分の時点)として2ml/kg、及び付加的に20分毎に1ml/kgを使用し、18時間絶食させたオスのウィスターラット、200〜300gに麻酔をかける。
動物に、1ml/kgの対照体及び試験用化合物(通常の用量範囲:0.125-20nmol/kg)を、静脈注射(尾静脈)を用いて投与する。全血糖濃度を決定するための血液サンプルを、−20分及び0分(投与前)、投与後10、20、30、40、60、80、120及び180分の時点で、尾端の毛細管の刺し傷より、ヘパリン処理された10μlのガラスチューブにて収集する。EBIO Plus自動分析器(Eppendorf, Germany)を使用する、固定化グルコースオキシダーゼ法により、分析バッファーにおいて希釈した後、血糖濃度を測定する。平均血漿グルコース濃度経過(平均±SEM)を、各用量及び各化合物について作製する。
【0132】
実施例9:
ヒトインスリンに対するこの発明のインスリン誘導体の作用強度
実験日に238-383gのオスのスプラーグドーリーラットを、クランプ実験に使用する。制御された周囲条件下、ラットは餌に自由に接近し、クランプ実験の前には一晩(3pmから)絶食させる。
【0133】
実験プロトコル:
外科的処置の少なくとも1週間前に、ラットを動物施設に順化させる。クリンプ実験の約1週間前、ハロタン麻酔下で、頸静脈(注入のため)及び頸動脈(血液のサンプリングのため)にタイゴンカテーテルを挿入し、露出させ、頸部の後ろに固定する。外科手術後、ラットをStreptocilin vet.(Boehringer Ingelheim;0.15ml/ラット、筋肉内)に付与し、回復期間中、動物ケアユニット(25℃)におく。無痛覚とするために、麻酔中にアノルフィン(Anorphin)(0.06mg/ラット、皮下)を投与し、麻酔から十分に回復した後(2-3時間)、再度2日間、毎日1回、リマダイル(Rimadyl)(1.5mg/kg、皮下)を投与する。
実験日の7amに一晩(前日の3pmから)絶食させたラットを計量し、サンプリング用シリンジ及び注入システム(Harvard 22 Basic pumps, Harvard, 及びPerfectum Hypodermic glass syringe, Aldrich)につなぎ、ついで個々のクランプ用ゲージを配し、実験開始前の約45分、ラットをそこで休ませる。全実験中、それらの通常の床上を、ラットは自由に動くことができ、水を飲むために、自由に接近することもできる。血漿グルコースレベルを10分間隔で測定する、30分の基本期間後、試験されるインスリン誘導体及びヒトインスリン(ラット当たり1回の投与レベル、投与レベル当たりn=6-7)を、300分、一定の速度で注入する(静脈内)。10分の間隔で、血漿グルコースレベルを測定し、正常血糖値が維持されるように、20%水性グルコースの注入を調節する。再懸濁させた赤血球のサンプルを、各ラットからプールし、頸動脈カテーテルを介して、約1/2ml容量を戻す。
各実験日において、試験される個々のインスリン誘導体溶液及びヒトインスリン溶液のサンプルを、クリンプ実験の前及び終了時に取り出し、ペプチド濃度をHPLCにより確認する。ラットインスリン及びC-ペプチド、並びに試験されるインスリン誘導体及びヒトインスリンの血漿濃度を、研究の前及び終了の時点で測定する。ペントバルビタール過剰投与を使用し、実験の終了時にラットを殺す。
【0134】
実施例10:
ラットへのインスリン誘導体の肺送達
試験物質は、滴下法により、肺に投与されるであろう。簡単に述べると、オスのウィスターラット(約250g)を、6.6ml/kgの皮下プライミング用量として与えた、約60mlのフェンタニル/デヒドロデンズペリドール/-ドルミカムで麻酔し、10、20、50及び95分の時点で、30分間隔での3.3ml/kgの保持用量の皮下投与を3回行う。麻酔誘導の10分後、基本サンプルを尾静脈(t=−20分)から得、続いて試験物質の投与直前(t=0)、基本サンプルを得る。t=0において、試験物質を一方の肺に、気管内部的に投与する。丸くなった端部を有する特定のカニューレを、200μlの空気と試験物質(1mg/kg)を含有するシリンジに搭載する。開口部を介して、カニューレを気管に導入し、-二分枝部を丁度通過するように、主気管支の一方に送る。挿入中、頸部を外側から触診し、気管内部の位置を確認する。シリンジの内容物を注射し、2秒中断する。その後、カニューレをゆっくりと引き抜く。試験中(4又は8時間までの血液サンプル)、ラットは麻酔がかかったままであり、実験後、安楽死させる。
【0135】
実施例11:
スプラーグ-ドーリーラットの回腸に注射される、本発明のインスリンアナログの血糖低下効果
ハイプノルム-ドルミカム皮下注射(0.079mg/mlのクエン酸フェンタニル、2.5mg/mlのフルアニソン、及び1.25mg/mlのミダゾラム)を、プライミング用量(試験物質の投与前〜60分の時点)として2ml/kg、20分後に1ml/kg、その後40分毎に1ml/kg使用し、18時間絶食させた250-350gのオスのスプラーグ-ドーリー(SPRD)ラットに麻酔をかける。
麻酔がかけられたラットを、37℃で安定した恒温ブランケットに配する。20cmのポリエチレンカテーテルにインスリン溶液を満たし、盲腸から3-4cmの回腸に挿入する。標的セグメントの管腔内部約2cmに、カテーテル先端部が配される。0時、カテーテルを介して、0.4ml/kgの試験用又は対照化合物(通常の用量範囲は240-1440nmol/kg)を、ラットに投与する。全血糖濃度の測定のための血液サンプルを、−30及び0分(投与前)、及び10、20、30、60、100、120、180及び240分に、尾部先端の毛細血管を穿刺することにより、ヘパリン処理された10μlのキャピラリーチューブに収集する。EBIO Plus自動分析器(Eppendorf, Germany)を使用する、グルコースオキシダーゼ法により、分析バッファーにおいて希釈した後、血糖濃度を測定する。平均血糖濃度経過(平均±SEM)を、各化合物について作製する。
他の好ましいプロテアーゼ安定化された、本発明のペグ化されたインスリンは、同様に、また以下に記載するように調製されてよい。
【0136】
実施例12
実施例に記載されたペグ化されたプロテアーゼ安定化インスリンと同様にして調製され得る、本発明の好ましいペグ化されたプロテアーゼ安定化インスリンには、A14E,B25H,B29K(NεmdPEG12-dPEG24-プロピオニル),desB30ヒトインスリンが含まれる。

【0137】
ペグ化試薬は、以下に記載するようにして調製することができる:
オメガ-(メトキシ-PEG11-プロパノイルアミノ)-PEG24-プロパン酸(mdPEG12-dPEG24酸)の調製

mdPEG12NHSエステル(0.457mmol、Quanta BioDesign Ltd. 製品番号10262)及びアミノ-dPEG24 tert-ブチルエステル(0.416mmol、Quanta BioDesign、製品番号10311)を、アセトニトリル(各10mL)に別々に溶解させ、ついで、2つの溶液を混合し、DIPEAを用いて、pHを8に調節した(pHの測定は湿った指標ストリップを使用して実施した)。得られた混合物を室温で一晩攪拌し、続いて、所定の乾燥度になるまで蒸発させ、その後、室温で1時間、10mLのTFA/DCM(1/1)で処理した。ついで、混合物を所定の乾燥度になるまで蒸発させ、DCMで2回取り除いた。溶離液として、アセトニトリル(AcCN)/0.1%のTFA及び水/0.1%のTFAを使用し、HPLC(2cm、C18カラム)により、残留物を精製した。勾配:5-20分は10-80%のAcCN/TFA。所望の化合物を含有するフラクションを収集し、組合せ、所定の乾燥度になるまで蒸発させたところ、油として、オメガ-(メトキシ-PEG11-プロパノイルアミノ)PEG23-プロパン酸(249mg、35%)が得られた。
LCMS:m/z:1718(M+1)
【0138】
オメガ-(メトキシ-PEG11-プロパノイルアミノ)-PEG24-プロパン酸-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル(mdPEG12-dPEG24-NHS又はmdPEG12-dPEG24-プロパン酸OSuエステル)の調製

オメガ-(メトキシ-PEG11-プロパノイルアミノ)PEG24-プロパン酸(249mg、0.145mmol)を、アセトニトリル(10mL)に溶解させ、DIPEAを添加することにより、pHを8に調節した(pHの測定は湿った指標ストリップを使用して実施した)。アセトニトリル(10mL)にTSTU(48mg、0.16mmol)が入ったものを添加し、混合物を室温で1.5時間攪拌し、所定の乾燥度になるまで蒸発させた。残留物をDCMに溶解させ、塩酸(0.01M)で洗浄し、有機相を乾燥させ(MgSO)、濾過し、濾液を所定の乾燥度になるまで蒸発させた。得られたオメガ-(メトキシ-PEG11-プロパノイルアミノ)PEG24 プロパン酸-N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを、さらなる精製をすることなく、インスリンへのカップリングに使用した。
LCMS:m/z 1813.8(M+1)
【0139】
実施例13-19
同様に、次の好ましいインスリン用の他のペグ化試薬は、同じようにして調製されてよい。
A14E,B25H,B29K(Nε(mdPEG24−イル-dPEG24-イル),desB30ヒトインスリン:

A14E,B25H,B29K(Nε(mdPEG12)3-dPEG-イル),desB30ヒトインスリン:

A14E,B25H,B29K(Nε(mdPEG12)3-dPEG-イル-dPEG12-イル),desB30ヒトインスリン:

【0140】
A14E,B25H,B29K(Nε(mdPEG12)3-dPEG-イル-dPEG24-イル),desB30ヒトインスリン:

A14E,B25H,B29K(Nε-3-mdPEG4x4-プロピオニル),desB30ヒトインスリン:

A14E,B25H,B29K(Nε-3-mdPEG4x4-dPEG12-プロピオニル),desB30ヒトインスリン:

A14E,B25H,B29K(Nε-3-mdPEG4x4-dPEG24-プロピオニル),desB30ヒトインスリン:

【0141】
配列表
配列番号:5は、実施例1-4及び12-19に関連するA鎖である。配列番号:6は実施例1-5及び12-19に関連するB1-B28鎖である。配列番号:7は実施例5に関連するA鎖である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペグ化されたインスリンアナログであって、娘インスリンにおいて、少なくとも2の疎水性アミノ酸が、親インスリンに対して、親水性アミノ酸で置換されており、置換が、親インスリンの2又はそれ以上のプロテアーゼ切断部位の内部又は近接近して存在しており、このような娘インスリンが一又は複数の付加的な変異をさらに有していてもよく、PEG部分が、リンカーを介して、該娘インスリンのB29位にあるリジン残基のεアミノ基に結合しているペグ化されたインスリンアナログ。
【請求項2】
娘インスリンにおいて、A14位のアミノ酸がGlu又はHis(すなわち、1文字コードではE及びH)であり、B25位のアミノ酸がHisであり、場合によっては、一又は複数の付加的な変異をさらに含み、PEG部分が、リンカーを介して、B29位にあるリジン残基のεアミノ酸に結合している、ペグ化されたインスリンアナログ。
【請求項3】
娘インスリンがA14E変異を有する、請求項1又は2に記載のペグ化されたインスリンアナログ。
【請求項4】
娘インスリンアナログがdesB30変異を含む、請求項1ないし3のいずれか1項に記載のペグ化されたインスリンアナログ。
【請求項5】
nが2〜約1000、好ましくは2〜約500、好ましくは2〜約250、好ましくは2〜約125、好ましくは2〜約50、好ましくは2〜約25、及び好ましくは2〜約12の範囲の整数である、部分-(OCHCH)-を有する、請求項1ないし4のいずれか1項に記載のペグ化されたインスリンアナログ。
【請求項6】
ポリエチレングリコール部分が、約200〜約40000、好ましくは約200〜約30000、好ましくは約200〜約20000、好ましくは約200〜約10000、好ましくは約200〜約5000、好ましくは約200〜約2000、好ましくは約200〜約1000、及び好ましくは約200〜約750の範囲の名目上の分子量を有する、請求項1ないし5のいずれか1項に記載のペグ化されたインスリンアナログ。
【請求項7】
ポリエチレングリコール部分が単分散である、請求項1ないし6のいずれか1項に記載のペグ化されたインスリンアナログ。
【請求項8】
A14E,B25H,B29K(Nε-3-mdPEG24-プロピオニル),desB30ヒトインスリン;A14E,B25H,B29K(Nε-3-mPEG2000-プロピオニル),desB30ヒトインスリン;A14E,B25H,B29K(Nε3-{mPEG750}-プロピオニルカルバモイル),desB30ヒトインスリン;A14E,B25H,B29K(Nε-3-{2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ}プロピオニル),desB30ヒトインスリン;B25H,B29K(Nε-3-(mdPEG12)-プロピオニル)ヒトインスリン;A14E,B25H,B29K(NεmdPEG12-dPEG24-プロピオニル),desB30ヒトインスリン;A14E,B25H,B29K(Nε(mdPEG24−イル-dPEG24-イル),desB30ヒトインスリン:A14E,B25H,B29K(Nε(mdPEG12)3-dPEG-イル),desB30ヒトインスリン:A14E,B25H,B29K(Nε(mdPEG12)3-dPEG-イル-dPEG12-イル),desB30ヒトインスリン:A14E,B25H,B29K(Nε(mdPEG12)3-dPEG-イル-dPEG24-イル),desB30ヒトインスリン:A14E,B25H,B29K(Nε-3-mdPEG4x4-プロピオニル),desB30ヒトインスリン:A14E,B25H,B29K(Nε-3-mdPEG4x4-dPEG12-プロピオニル),desB30ヒトインスリン、又はA14E,B25H,B29K(Nε-3-mdPEG4x4-dPEG24-プロピオニル),desB30ヒトインスリンである、請求項1ないし7のいずれか1項に記載のペグ化されたインスリンアナログ。
【請求項9】
医薬として使用される、又は製薬用調製物に使用される、請求項1ないし8のいずれか1項に記載のペグ化されたインスリン。
【請求項10】
糖尿病を処置するための請求項1ないし9のいずれか1項に記載のペグ化されたインスリン、又は糖尿病を処置する医薬を調製するための、請求項1ないし9のいずれか1項に記載のペグ化されたインスリンの使用。
【請求項11】
糖尿病を処置するために肺投与可能で、長時間の作用効果を付与する製薬用組成物を調製するための、請求項1ないし10のいずれか1項に記載の化合物の使用。
【請求項12】
糖尿病を処置するために経口投与可能な製薬用組成物を調製するための、請求項1ないし10のいずれか1項に記載の化合物の使用。
【請求項13】
インスリンアナログに関連する請求項1ないし10のいずれか1項に記載のインスリンアナログ、又は請求項1ないし10のいずれか1項に記載の製薬用組成物を被験者に投与することを含む、被験者の高血糖症、2型糖尿病、耐糖能障害、1型糖尿病、肥満、X症候群、又は脂質代謝異常を処置、予防又は緩和する方法。
【請求項14】
高血糖症、2型糖尿病、耐糖能障害、1型糖尿病、肥満、X症候群、又は脂質代謝異常を処置又は予防する製薬用製剤を調製するための、インスリンアナログに関連する請求項1ないし10のいずれか1項に記載のインスリンアナログの治療的有効量の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−533671(P2010−533671A)
【公表日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−516460(P2010−516460)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【国際出願番号】PCT/EP2008/058881
【国際公開番号】WO2009/010428
【国際公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(596113096)ノボ・ノルデイスク・エー/エス (241)
【Fターム(参考)】