プロテアーゼ検定
本発明は、サンプル溶液中のプロテアーゼ活性を検出する化合物と掲出方法を提供する。その検出方法は、電気化学的に活性なマーカーで標識化されたプロテアーゼ基質にサンプル溶液を接触させ、サンプル中のプロテアーゼがプロテアーゼ基質を消化できる条件と付与し、前記のマーカーに関係する電気化学的に測定可能な情報を取得することからなる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロテアーゼ活性を検定ないしは評価する方法と、この方法で使用する基質及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プロテアーゼ、すなわち、タンパク質分解酵素は、様々な生物学的事象に関係し、例えば、タンパク質の活性化や細胞のシグナリング化などのような生物学的事象に関係している。プロテアーゼ活性は、血液凝固、アポトーシス及びホルモン調節などの過程で、重要な役割を果たす。プロテアーゼはまた、いろいろなウイルス性病原菌及び微生物病原体の活動にも必須である。治療薬として使用する目的でプロテアーゼ阻害剤の開発に、関心が高まっている。
【0003】
生体サンプル内でのプロテアーゼ活性の測定は、アポトーシスなどの過程を分析する上で、潜在的プロテアーゼ阻害剤をスクリーニングする上で、また、サンプルの純度を、例えば、タンパク質精製の過程でモニタリングする上で重要である。プロテアーゼはアミド及びエステルを加水分解し、基質の構造及び酵素の特定に応じて、ペプチド、単独アミノ酸、標識化アミノ酸断片を生成する。プロテアーゼ活性の測定は、天然に存在するタンパク質基質を用いて行うこともできれば、例えば、蛍光プローブ又は発色団で標識化した合成ペプチド基質類似体を用いても、プロテアーゼ活性を測定することができる。さらに、任意的にプロテアーゼ認識配列が導入された標識化合成短ペプチドを使用して、プロテアーゼ活性を測定することもできる。場合によっては、プロテアーゼ活性の測定は、標識化単独アミノ酸を使用して行うことも可能である。これらのでは、単独アミノ酸と標識化されたマーカーとの間の結合を開裂するプロテアーゼの能力で、プロテアーゼ活性が検定される。
【0004】
使用したプロテアーゼの特性は、要求される溶解度と検定独自の要求に依存し、検定には、普通、ウシ血清アルブミン又はカゼインが使用される。ゼラチン、オボアルビミン及び架橋タンパク質も使用可能である。
【0005】
市場に出回っている多くの検定は、標識化基質類似体を使用する。プロテアーゼ活性の検定は、均質系反応装置又は不均質系反応装置を使用して行うことができる。均質系の検定では、基質は通常溶けて状態にあり、生成物も溶けた状態にある。蛍光プローブ(例えば、フルオレセイン、ローダミン又はBODIPY蛍光プローブ)を用いた蛍光ベースの検定システムは、次の2方式のいずれか一つに従って通常操作され、方式の一つは、多重標識化自己消滅型タンパク質の開裂後に、蛍光信号を検知する方式であり(enzChekプロテアーゼ検定キッド、モレキュラー・プローブ・インク社製)、他の一つは、蛍光偏光技法を使用して蛍光標識化集団のサイズの変化を検出する方式である(Beacon(登録商標)プロテアーゼ活性検出キッド、パン・ベラ・コーポレーション社製、enzChek偏光キッド、モレキュラー・プローブ・インク社製)。
【0006】
普通実施されている方法の一つでは、ペプチド基質が使用され、このものはカルボキシ末端において、アミン官能基を有する色素で標識化されている。この色素は、発色団又は蛍光プローブであってよく、例えば、クラリン、フルオレセイン、ローダミン又はBODIPY(モレキュラー・プローブ・インク社製のapoalert(登録商標)、CPP32プロテアーゼ検定キッド、クロンテック社製)であって差し支えない。色素とアミノ酸をつなぐアミド結合は、プロテアーゼによって開裂され、アミン誘導体を生成する。この構造上の変化が色素のスペクトル特性に影響を及ぼし、感知可能な信号が発生する。均質系での検出の別法では、切断部位の一方が供与体蛍光プローブで、他方が受容体クエンチャーでそれぞれ標識化されたペプチド基質が使用され、供与体蛍光プローブと受容体クエンチャーは、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)対を形成する。ペプチドの切断で供与体と受容体が分離するため、蛍光信号に変化が起こる。特定のペプチド配列の加水分解は、ゲルをベースとする分析により検出可能である(Peptagプロテアーゼ検定、プロメ.ガ社製)。
【0007】
不均質系の検定では、通常、色素で標識化した固定化基質の断片を切断し、次いで液相を分析する(プロテアーゼスポット、ジェリニ、ProChek(登録商標)、ユニバーサルプロテアーゼ検定、インターゲン社製)。
【0008】
プロテアーゼ活性はまた、修正されていない(すなわち、天然の)タンパク質基質を使用しても測定可能である。無修正のタンパク質基質を用いる検定では、未消化基質を沈殿させ,次いで切断されたタンパク質断片を検出する必要がある。この検出は、例えば、273nmでの吸光度を測定することで行うことができ、また、1級アミンを検出することでも可能である。このような方法は、しばしば感度が劣り、動的データを得るためにサンプリングが必要であり、また、正確な結果を導くには定量沈降を完遂しなければならない。別法として、上記のタンパク質断片をTNBSA(トリニトロベンセンスルホン酸)と反応させた後、サクシニル化タンパク質の加水分解を検出することも可能である。
【0009】
文脈が矛盾する場合を除いて、この明細書で言う「基質」には、天然に存在する基質と合成された基質の両方が包含される。合成基質には,天然に存する基質に類似する合成品、プロテアーゼ認識配列が導入された合成ペプチド、その他の合成ペプチド及び単独アミノ酸などがある。単独アミノ酸は、プロテアーゼで開裂可能な内部結合を持たないが、そうした結合はマーカーの連結によって形成させることができるので、基質と言える。
【0010】
本明細書で使用する「プロテアーゼ」には、プロティナーゼとして知られる酵素も含まれる。
【0011】
本明細書で同義的に使用される「ペプチド」と「タンパク質」には、5個又は3個程度の少数のアミノ酸残基を含む長さのアミノ酸配列が包含される。「ペプチド」及び「タンパク質」には、細胞内で作られた分子も、無細胞で作られた分子も含まれる。また、「ペプチド」及び「タンパク質」は、自然の配列もしくは半合成のすなわち人工的な配列を持つ分子を包含し、その配列は自然のタンパク質に存在しないアミノ酸を含んでいて差し支えない。例えば、「ペプチド」及び「タンパク質」は、(i)生来のペプチド、(ii)生来のペプチドの生物学的に活性な断片、(iii)生来のペプチドの生物学的に活性なペプチド類似体、(iv)生来のペプチドの生物学的に活性な変異体、(v)生物学的に活性なコンセンサス配列を含む人工配列を持ったペプチド、または(vi)完全に人工的な配列を持ったペプチドのようなアミノ酸配列を備えた組み換えもしくは非組み換えペプチドのアミノ酸配列を包含する。
【0012】
本明細書で言う「アミノ酸」には、天然のアミノ酸と天然のタンパク質には存しないアミノ酸とが含まれる。さらに、アミノ酸誘導体も包含され、この誘導体としては、アシル化アミノ酸、プロテアーゼ、加水分解アミド及びエステルが挙げられる。従って、標識化プロテアーゼ基質の重要な要件は、プロテアーゼによって加水分解する結合が存在することである。一般に、「タンパク質」「ペプチド」及び「アミノ酸」なる表示は、プロテアーゼによって加水分解される結合を1つ又はそれ以上提供できる誘導体分子を全て包含するものと解釈すべきである。これらの加水分解可能な化学結合は、分子自体の構造内に存在する結合でもよく、あるいはマーカーを付けて分子を標識化する際に形成された結合でもよい。
【発明の開示】
【0013】
本発明は、サンプル中のプロテアーゼ活性を検定する方法を提供するものであって、その方法は、電気化学的に活性なマーカーで標識化されたプロテアーゼ基質に、サンプル溶液を接触させる工程と、サンプル溶液に存在するプロテアーゼが、プロテアーゼ基質を分解できる条件を用意する工程と、電気化学的に活性なマーカーに関係する情報を電気化学的に測定する工程を包含する。マーカーに関係する情報は、プロテアーゼ活性の有無に関する情報を導くために、便法として使用される。好ましくは、電気化学的情報は、分解された基質と未分解の基質の相対的比率を定量するのに利用できる。この明細書において言う「分解」は、酵素の活動に原因するあらゆる分解ないしは退化を包含し、これには例えば消化が含まれる。また、この「分解」には、たとえ基質分子自体に開裂がなくても、標識化基質からのマーカーの開裂が含まれる。
【0014】
レドックス活性を持つ標識で様々な生体分子を修飾することは公知である。フェロセンは、その安定性と電気化学的特性から、適当なフェロセン誘導体の入手可能性から、上記の修飾にはフェロセンが普通使用される。例えば、フェロセンがグルコースオキシダーゼ(ブドウ糖酸化酵素)の表面に、スペーサー分子を介して共有結合したフェロセン変性グルコースオキシダーゼは、合成可能であって、この変性酵素は、酵素とメディエターとの間の効果的な電子移動を可能にするものであることが見出されている(International Journal of Biological Macromolecules(1992) 14(4), 210-214)。フェロセンはまた、ボルタンメトリー法によってタンパク質の検出する際に、タンパク質を標識化するマーカーとして使用されている(例えば、BSA、アビジン、シトロクローメP450)。第2の分子と結合させるためのフェロセン化生体分子も公知であって、例えば、フェロセンで標識したジゴキシン抗体、フェロセンで標識した抗HCG IgG 及びフェロセンで標識したビオチンなどが知られている。
【0015】
タンパク質、ペプチド又はアミノ酸のフェロセンによる標識化は、アミン反応性、カルボキシ反応性又はスルフヒドリル反応性のフェロセン誘導体に、タンパク質の特定なアミノ酸残基を共有結合させることで行うことができる。今日まで開発されているフェロセン誘導体には、ジアミン、スクシニミジルエステル、アルデヒド、1級アミン、ヨードアセトアミド及びマレイミドなどがある。電気化学的に活性なマーカーにてタンパク質を標識化する方法には、タンパク質のアミノ基を標識化する方法がある。本発明は、タンパク質、ペプチド及びアミノ酸を標識化する方法を提供し、これには1つ又はそれ以上のカルボキシ基と、1つ又はそれ以上のアミノ基を介して標識化するのに適した新しい標識とを介して標識化する方法が含まれる。カルボキシル基を介してタンパク質、ペプチド及びアミノ酸を標識化する方法が提供されると、遊離の無被覆アミノ末端を持つ標識化基質が製造できる利点があり、そのような基質は、ペプチドをアミノ末端から退化させるプロテアーゼの類の或る種のアミノペプチダーゼを研究開発するのに必要である。
【発明の詳述】
【0016】
プロテアーゼの検出に電気化学的方法を利用することには、蛍光検出法を凌ぐ多くの利点がある。電気化学的検出は感度が極めて高いうえに、蛍光発色に比較して幅が広い線形のダイナミックレンジを示す。サンプルが光学的に透明である必要もない。また、バックグラウンドの汚染要因物に影響を受けることも少ない(多くの生物化学的サンプルは、自己的蛍光を発する)。
【0017】
本発明は、次のような所見に基づいている。すなわち、電気化学的に活性なマーカーは、それがアミノ酸残基に付いているか否かによって、また、そのアミノ酸残基がどの部分のペプチド又はタンパク質と合体しているか否かによって、合い異なる電気化学的特性を呈することである。
【0018】
適当な状況の下では、マーカーの電気化学的活性が、単独又はほんの2〜3のアミノ酸残基が脱離すると変化し、その変化は検出可能である。
【0019】
電気化学的に活性なマーカーが付着した分子のサイズと性質は、電気化学的マーカーの観測可能な特性に影響を及ぼす。例えば、電界の強さに応じた拡散又は移動速度よって、マーカーの移動率は影響を受ける。
【0020】
マーカーの電気化学的活性は、マーカーが結合した分子が存在することに起因する立体効果によっても影響を受ける。例えば、立体障害は、マーカーが電極に接近することや電子を受容することを妨害する。
【0021】
マーカーがペプチドに結合すると、そのペプチドの二次構造(大部分は一次配列によって測定される)は、マーカーの物理的性質に影響を及ぼす。例えば、マーカーがペプチドのアミノ酸残基に結合すると、ペプチドの構想は、電気化学的に活性なマーカ−を立体的に妨害し、ボルタンメトリーで観測可能な信号を低減させる。ペプチドの消化は、二次構造成分を破壊又は解放し、マーカーが受けるペプチド構造の影響を軽減又は根絶する。従って、ペプチドの消化は、マーカー部分で生ずる電気化学的信号を変化させ、通常は増大させる。差分パルスボルタンメトリー実験では、特定な印加電圧で感応する誘導電流が、ペプチドの消化によって増大する。
【0022】
ペプチドの二次構造は温度に依存するので、電気化学的に活性なマーカーに及ぼすペプチドの影響が、温度によって変わることは、当業者は理解できる事柄である。また、当業者は、本発明の電気化学的技法を実践するに当たって、当該技法に最適な信号対雑音比が得られるような温度を選定することができる。そして、本発明に係る電気化学的技法が、加熱及び冷却を行える装置で実行される場合には、所望温度での測定は測定を行う温度条件の適当なポイントを選択して容易に手に入れることができる。
【0023】
電気化学的に活性なマーカーに関する情報は、ボルタノメトリー法又は電流滴定法によって得ることができる。差分パルスボルタノメトリー法は、特に好ましい。必要に応じて、電気化学的検出工程を、膜で被覆された1つ又はそれ以上の電極を使用して実施することができ、この場合、前記の膜は、サイズ、電荷、親水性などの1又はそれ以上の特性に基づいて複数の分子が選択的に排除する。膜付き電極を使用することで、液中の帯電したある種の種から生ずるノイス信号を排除することができる。
【0024】
適当な電気化学的に活性なマーカーには、部分的又は全体的な非局在化パイ電子を有する有機コンプレックスである金属炭素環式パイコンプレックスが包含される。適当なマーカーにはまた、2つの炭素環が平行であるサンドイッチ集団を含有する化合物、曲がったサンドイッチ化合物(角張った化合物)及びモノシクロペンタジエニル類が含まれる。好ましくは、電気化学的に活性なマーカーは、メタロセニル系標識であり、より好ましくは、フェロセニル系標識である。
【0025】
標識部分を好ましくは構成するフェロセン環又はメタロセン環は、置換されている必要はないが、必要に応じて、1つ又はそれ以上の置換基で置換されても差し支えない。置換基の種類と位置は、フェロセン又はメタロセン成分に所望の方法で影響が及ぶよう選択される。フェロセン環又はメタロセン環は、付加的に又は代替的に、標識の電気化学的感度を著しく減少させない環式置換基で置換されてもよい。フェロセニル系及びメタロセニル系標識は、有利には、N−置換フェロセン又はメタロセンカルボキサミドであるか、フェロセニルアミンであるか、メタロセニルアミンである。フェロセン又はメタロセンカルボキサミド成分は、カルボキサミドの窒素を介して、タンパク質又はペプチドを結合することができる。タンパク質又はペプチドとの連携は、適当な連鎖で、典型的には、アミノ酸側鎖で行われる。アミノ酸、ペプチド又はタンパク質のアミン基を介して連携する場合、その窒素原子は、カルボキサミド成分の窒素になることができる。連携がアミノ基、ペプチド又はタンパク質のカルボキシル基を介して行われている場合には、フェロセニルアミン又はメタロセニルアミン標識成分は、アミノ酸、ペプチド又はタンパク質のカルボキシル基に結合してフェロセニルアミド又はメタロセニルアミドになることができる。未標識化基質それ自体が、対象のプロテアーゼで加水分解可能な結合を含有していない場合、例えば、未標識化基質が単一アミノ酸である場合、電気化学的なマーカーと基質とは、その結合によって対象のプロテアーゼで加水分解可能な結合が生ずるように結合する必要がある。このような状況下において、基質の標識化は、基質のアミン反応性成分又はカルボキシル反応性成分との共有結合で行われる。タンパク質、ペプチド又はアミノ酸側鎖の誘導体化又はタンパク質、ペプチド又はアミノ酸末端成分の誘導体化には、いろいろな方法が開発されている。例えば、タンパク質中のリジン残基は、スルシンイミジルエステルとの反応により誘導体化される。ちなみに、システイン残基の誘導体化には、マレイミド試薬が使用可能である。N−ヒドロキシスクシンイミドエステルは、タンパク質又はペプチドのアミノ末端又は側鎖アミノ基の誘導体化や、アミノ酸のアミノ基の誘導体化に使用可能である。
【0026】
マーカーは、リンカーを介してタンパク質、ペプチド又はアミノ酸基質に結合させることができる。幾つかのリンカー成分が使用可能である。適当なリンカー成分には、脂肪族鎖が含まれ、その脂肪族鎖は直鎖状でも、分岐鎖状でもよく、飽和・未飽和も問わない。有利には、タンパク質を標識化する場合、リンカー成分は、炭素数4〜20の、好ましくは炭素数6〜16の、より好ましくは炭素数8〜14の、特に炭素数12の直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族鎖、例えば、アルキレン鎖である。このアルキレン鎖は、マーカーの電気化学的感度が実質的に減少しない限り、任意の置換基で置換されて差し支えなく、任意の原子又は成分が介在しても差し支えない。理屈に縛られたくはないが、タンパク質基質の三次構造がマーカーを立体的に妨害する程度は、リンカー成分によって軽減され、その逆も同様であるらしい。この理屈は次の実験事実と一致する。すなわち、実験結果によれば、基質が単一アミノ酸又は短ペプチド、例えば、トリペプチドであると、換言すれば、かなりの量の三次構造を持たない基質分子であると、リンカー成分の使用は一般に不要である。
【0027】
本発明で使用できるフェロセニル系標識の具体例は、式I、式II及び式IIIに示す標識である。式Ia及び式IIaは、式I及び式IIの標識が、それぞれペプチドのリジンアミノ酸残基の側鎖アミノ基に結合した状態を示している。式IIIaは、式IIIの標識がアミノ酸アラニンに結合していることを示している。式IIIbは、Ala-Ala-Alaのトリペプチドに式IIIが結合したものを示す。式IIIbから分かるように、アラニントリペプチドのあみの末端はアシル化されている。略号Acで示すアシル基は、トリペプチドの反応性アミノ末端を保護する目的で、式IIIbで示す分子を合成する過程でトリペプチドに添加される。本発明の標識化基質分子の幾つかを保護するために、BOC(ブトキシカルボニル)及びアシルのような保護基は、基質分子に添加する必要がある。このような保護基は、合成の後段で任意に取り除くことができる。しかし、状況によっては、上記のような保護基の存在が分析中の分子の有効性を実質的に減少させるものでない限り、保護基の残存が有利なこともある。
【0028】
【化1】
【化2】
【0029】
【化3】
【化4】
【0030】
【化5】
【化6】
【0031】
【化7】
【0032】
有意の二次構造を有するペプチド又はタンパク質基質を場合、標識成分と適当なタンパク質又はペプチドから出発する標識化タンパク質又はペプチドの合成は、タンパク質又はペプチドの完全な誘導体化を一般に結果しない。サイトの多くは溶液中で試薬に接近できない。例えば、BSAは60のリジン残基を含む(Hirayama, et al., Biochem. Biophys. Res. Commun,., 1990, 173, 639-646)。文献によれば、BSAをスクシンイミドエステルで標識化すると、BSA:標識の比は1:5から1:23の間にある(Jones, L.J.et al., Analitical Biochem., 1997, 251, 144-152 及びHiroaki,S. et al., Sensors and Acutuators B, 2000, 65, 144-146)。一般に、標識化合成の反応生成物は、多数の異なったマーカーを有するkとなった分子の混合物を含有する。平均標識数は、様々な分光法で算定することができ、例えば、紫外可視分光法で測定することができる。タンパク質分子当たりの標識数の分布は、質量分析法を利用してより正確に測定することができる。
【0033】
タンパク質又はペプチド上に存在するマーカー成分の正確な数は、本発明の分析法の成否には重要でない。感度を良好にするためには、各タンパク質又はペプチド分子上の概して数個のマーカー成分が存在していることが好ましい。しかし、基質が単一アミノ酸又は取りペプチドのような短ペプチドである場合には、各基質分子上のマーカー成分は、通常単一であっても充分である。事実、幾つかの小さい基質分子は、マーカー成分で標識化するのに適した基を1つ含有しているだけで差し支えない。特定なアミノ酸配列だけを開裂する酵素による分析では、マーカー成分を開裂部位に比較的近くに位置させ、開裂の影響がマーカーの周囲の状況に即座に作用し、マーカーの電気化学的特性が影響を受けるようにすることが好ましい。標識化した短い合成ペプチドと、標識化した単一のアミノ酸は、ある種のプロテアーゼ分析、特に、アミノペプチダーゼ及びエンドペプチダーゼのような酵素分析において、好ましい基質タイプである。一般に、BSAやカゼインのような大きなタンパク質の標識化物は、一般的なプロテアーゼ活性の分析に使用するのが好ましい。大きなタンパク質は、通常、様々な開裂踏み越し段を持ち、そのなかには分析サンプル中の多くのプロテアーゼによって認識できる踏み越し段が含まれるからである。
【0034】
短ペプチドの使用は、特定なプロテアーゼ又はその類のみに特定な認識配列だけを含有する基質の合成を可能にするので好ましい。例えば、Ala-Ala-Phe又はAla-Ala-Pro-Pheの短ペプチド配列が導入され、好ましくはこれ以外の配列を殆ど又は全く含有しない基質は、キモトリプシン活性の特異的検定に使用可能である。別の例として、ロイシンアミノペプチダーゼ(LAP)は、遊離のアミノ基近傍のペプチド結合を加水分解するエキソペプチダーゼ(タンパク質分解酵素)である。この酵素はロイシン残基の隣のペプチド結合に対し選択性を示す。血清中及び尿中のLAPの上昇は、幾つかの臨床症状に見られ、例えば、胆汁うっ滞、肝硬変、肝壊死、肝腫瘍、乳癌、子宮内膜癌、卵巣癌、全身性エリテマトーデス、卵巣及び睾丸の胚細胞腫瘍などの病態に見られる。N−末端アラニン残基を含む短ペプチドからなる基質又は標識化アラニンアミノ酸からなる基質、例えば、式IIIaに示す基質は、上記した病態の一つを診断する目的で、血清サンプル及び尿サンプルについてLAPの上昇を判定するのに使用できる。
【0035】
血清における特定なプロテアーゼ濃度が上昇する他の病態には、血清中の腺性カリクレン−2プロテアーゼ濃度が増大する前立腺癌(Nam et al., J. Clin. Oncol. (2000) 18(5): 1036-42参照)、前立腺特異抗原の上昇を伴う前立腺癌及び乳腺癌がある(Black et al., Clin. Cancer. Res. (2000)6(2):467-73参照)。
【0036】
多くのプロテアーゼの生体内基質は、数百のアミノ酸残基を含有するタンパク質である。
実物大のペプチドの基質類似体、すなわち、元の基質と同じ又は相似の長さにある基質類自体も、場合によっては有用である。例えば、天然に存する基質に良く似た長さの類似体は、短い類似体よりも、(安定性とか、立体特性とかの点で、天然基質に良く似た性質を持つものと思われ、従って、天然基質の性質をより正確に再現するものと思われる。
【0037】
多くの場合、完全長タンパク質を使用することは必須ではない。本発明の一具体例によらば、ペプチドは少なくとも5個の、より好ましくは少なくとも20個のアミノ酸残基を持っていることが好ましい。ちなみに、ペプチドは20〜100個のアミノ酸残基を含有し、最も好ましくは、ペプチドは20〜50個のアミノ酸残基を含有する。別の具体例では、基質は好ましくは単一アミノ酸分子からなる。さらに別の具体例によれば、基質は、プロテアーゼ認識配列以外の配列を殆ど又は全く持たないペプチドからなる。この認識配列は、多くの場合、アミノ酸残基が2〜6個、より好ましくは3個の長さにある。実際には、ペプチドの長さは、問題の酵素について少なくとも1つの開裂サイトがその鎖長中に含まるように選択される。好ましくは、ペプチドは問題の酵素について1つの異なる開裂サイトを有する。例えば、ファクターXaプロテアーゼは、その基質中に認識配列Ile-Glu-Gly-Arg の存在を必要とする。1つ以上の開裂サイトを有するペプチドも、利用可能であって、例えば、一般的なプロテアーゼ活性のスクリーニングに基質を使用する場合に使用可能である。
【0038】
本発明の方法は、未知のサンプルのプロテアーゼ活性を定性的に測定する場合に利用することができる。プロテアーゼ活性の量は、例えば、標準溶液で得られる検量線を用いて定量可能である。もしあるサンプル中のプロテアーゼの身元が知られていれば、プロテアーゼの濃度を算出できる。
【0039】
本発明はまた、プロテアーゼの分析用具を提供するものでもあって、その用具は、電気化学的に活性なマーカーで標識化されたプロテアーゼ基質を含むほか、例えば,適当な溶液からなる試薬を含む。さらにこの用具には、プロテアーゼ測定を実行するための説明書を含む。
【0040】
本発明はまた、新規な電気化学的に活性な、標識化されたタンパク質又はペプチドを提供する。第1の具体例において、本発明は式IVで示される化合物を提供する。
Mc-NR'-C(=O)-X-(Ar)n-(L)m-R IV
式中、Mcは各リングが独立に置換又は未置換で差し支えないメタロセニル基であり、メタロセニル基の金属イオンMは、鉄、クロム、コバルト、オスミウム、ルテニウム、ニッケル及びチタンからなる群から選ばれ、
R'は、水素又は低級アルキル基であり、
Xは、NR'又はOであり、
Arは、置換された又は置換されていないアリール基であり、
nは、0又は1であり、
Lは、リンカーであり、
mは、0又は1であり、
Rは、タンパク質、ペプチド又はアミノ酸残基である。
【0041】
第2の具体例では、アミノ酸残基、ペプチド又はタンパク質のカルボキシル基に結合したメタロセニル基を含有する化合物を、本発明は提案する。このカルボキシル基は、末端基でもよく、側鎖カルボキシル基でも差し支えない。
【0042】
好ましくはこの化合物は式Vで示される。
Mc-(CH2)n-X-R V
式中、Mcは各リングが独立に置換又は未置換で差し支えないメタロセニル基であり、メタロセニル基の金属イオンMは、鉄、クロム、コバルト、オスミウム、ルテニウム、ニッケル及びチタンからなる群から選ばれ、
nは1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11又は12であり、
Xは、NR'又はOであり、
Rは、タンパク質、ペプチド又はアミノ酸残基である。
【0043】
式IV又は式VのMc基を含むメタロセン基(例えば、フェロセン基)は、アルキル基(例えば、C1〜C4アルキル基)、ヒドロキシ、ハロ、シアノ、オキソ、アミノ、エステル又はアミド、あるいは別のメタロセン基で置換された低級アルキル基、低級アルケニル基、ヒドロキシ、ハロ、シアノ、オキソ、アミノ、エステル又はアミド、あるいは別のメタロセン基で置換された低級アルケニル基、アリール基、ヒドロキシ、ハロ、シアノ、オキソ、アミノ、エステル又はアミド、あるいは別のメタロセン基で置換されたアリール基から選択される1つ又はそれ以上の基で置換されて差し支えない。別のメタロセン基が存在する場合、そのメタロセン基は、本発明の分子の全Mc基数が4個を超えない以外は、Mc基と同じように置換されて差し支えない。好ましくは、Mc基は非置換である。
【0044】
Mは、好ましくは鉄、オスミウム及びルテニウムから選ばれ、鉄であることが最も好ましい。Mが鉄の場合、Mcはフェロセンである。
低級アルキル基は、C1〜C4アルキルであり、好ましくはR'は水素であり、各R'は他のR'とは身元を異にする。
好ましいXはNHである。
【0045】
式IVのAr基は、好ましくは、少なくとも5個、例えば5〜10個の環炭素原子を持ち、C6アリール基であることが好ましい。このAr基は、低級アルキル基(例えば、C1〜C4アルキル基)、ヒドロキシ、ハロ、シアノ、オキソ、アミノ、エステル又はアミドで置換された低級アルキル基、低級アルケニル基、ヒドロキシ、ハロ、シアノ、オキソ、アミノ、エステル又はアミドで置換された低級アルケニル基、アリール基、ヒドロキシ、ハロ、シアノ、オキソ、アミノ、エステル又はアミドで置換されたアリール基で置換されていてよい。好ましくは、Ar基は非置換である。例えば、Arはフェニレン基であって差し支えない。
式IVにおいて、好ましくはn=1であり、m=1である。式IVの化合物の好ましい一例は、n=1であり、かつm=1である化合物である。
【0046】
式IVの化合物における適当なリンカー(式IVではL示される)には、タンパク質のアミノ基を隣のAr基又はX基とそれぞれ連結させるのに適した成分がいずれも含まれ、当該成分の選択は、当業者の常套的事項である。例示的に示せば、リンカーLはカルボニル基であってよく、直鎖状又は分岐鎖状の飽和又は不飽和脂肪族鎖であってもよい。好ましくは、リンカー成分は、炭素原子を1〜20個、好ましくは少なくとも4個、より好ましくは6〜16個、特に8〜14個、とりわけ12個有する線状又は分岐状脂肪族鎖である。リンカー成分は、アルキレン基であってよく、そのアルキレン基は、置換基が標識の電気化学的感度を減殺しない限り、当該置換基で置換されていても差し支えなく、また、原子や成分が、標識の電気化学的感度を減殺しない限り、当該原子や成分が炭素鎖に介在するアルキレン基であっても差し支えない。
【0047】
特に好ましい例は、式IIa、式IIIa及び式IIIbで示す化合物である。
ちなみに、Rは、アミノ酸残基3個の長さのペプチド、アミノ酸2〜40個のペプチド、又はアミノ酸40〜1000個のペプチドであって差し支えない。別の例では、Rはアミノ酸である。好ましくは、Rはプロテアーゼ用の基質であるタンパク質である。好ましい具体例において、RはBSA又はカゼインである。他の適当なプロテアーゼ基質は、ゼラチン、エラスチン、コラーゲン及びオボアルビミンなどがそれぞれ蛍光標識されたものを包含し、これらは、Molecular Probes, Incから入手可能である。
さらに言えば、Rは天然の又は合成のアミノ酸であってもよい。
【0048】
本発明に係る標識化基質の或る種類では、標識成分は、タンパク質のペンダント側鎖に含まれるアミノ基に、好ましくは、ペンダント側鎖の遊離アミノ酸末端に結合する。この側鎖は、天然アミノ酸の側鎖であってよい。従って、上記の式IIaにおける-NH-(CH2)4-は、リシンにもともと存在するNH2(CH2) 4-から導かれる。しかし、適当なペンダント側鎖は、必要に応じて、タンパク質の適当な部位に人工的に導入することも可能である。
【0049】
本発明に係る標識化基質の別の種類では、標識成分は、タンパク質のペンダント側鎖に含まれるカルボキシル基に、好ましくはペンダント側鎖の遊離のカルボキシル末端に結合する。この場合の側鎖は、天然のアミノ酸の側鎖であって差し支えない。しかし、基質のペンダント側鎖は、必要に応じて、タンパク質の所望の位置に人工的に導入することもできる。
【0050】
上記の式IIaで示される標識化タンパク質の一つは、Mcがフェロセニル基であり、R'が水素であり、Xが-NH-であり、Arがフェニレン基であり、Lがカルボニル基であり、n=m=1であり、Rがタンパク質であって、そのタンパク質が、リシン残基のペンダント側鎖を介してタンパク質の基幹部に、標識成分が結合したものである。
【0051】
本発明に係る標識化基質の他の一つでは、マーカー成分がタンパク質又はアミノ酸の末端アミノ基で結合することができ、その場合、リンカーLは、最小4個の炭素原子を持つことが通常好ましく、好ましくは、標識化タンパク質内で末端アミノ基と結合してカルボキサミン成分を形成するカルボニル基を、リンカーは含有する。
【0052】
標識化基質の別の一つでは、マーカー成分がタンパク質又はアミノ酸の末端カルボニル基で結合することができる。さらに別の標識化基質では、マーカー成分がペンダント側鎖で結合することができ、当該側鎖はタンパク質の基幹に既に人工的に結合され、その場合のLは、炭素数が最小4個の炭素鎖の末端又は炭素鎖の途中に、カルボキサミド成分を持つ。
【0053】
本発明の化合物は、2つ以上のメタロセン基を含むことができる。典型的には、数個のメタロセン基が同じタンパク質又はペプチドに結合している。例えば、BSAの場合、BSA分子当たり10〜20のメタロセン基が存在する。本発明の化合物では、メタロセン基は、電気化学的に活性な別のマーカーで置換することができる。本発明の化合物は、部分的な開裂が起こった後に、電気化学的に活性な化合物であるか、電気化学的に活性になる化合物である。
【0054】
標識化基質が比較的小型である場合、例えば、基質が単一アミノ酸又は取りペプチドのような短ペプチドである場合には、複数のマーカー成分を含有することは必要でなく、基質にとって適当でもない。
【0055】
本発明の化合物は、タンパク質、ペプチド又はアミノ酸に、適当な官能基を備えたメタロセン化合物を反応させることで調製することができる。
ちなみに、メタロセンのN-ヒドロキシサクシンイミドエステル誘導体が使用可能である。ペプチドを標識化する際に、こうした化合物を使用する場合の詳細は、実施例2、実施例3及び実施例4aに記される。N-ヒドロキシサクシンイミドエステルは、リシン側鎖にマーカーを連結させるのに適している。このほか、メタロセンメチルアミン、例えば、フェロセンメチルアミンも使用可能である。アミノ酸及びペプチドを標識化する際に、こうしたアミンを使用する場合の詳細は、実施例4b及び実施例4cに記されている。しかし、類似の標識が、適当な標識化官能基を使用して、ペプチドの適当な側鎖に連結できることは、当業者には自明である。
【0056】
本発明の化合物は、本発明の方法に特に有用である。表1に示す条件のもとで、置換フェロセンカルボン酸は、約400mVの電極電位を持つ。一方、本発明に係る置換メタロセン化合物は、約150mVの電極電位を持つ。電位が低いことは、収集データへの不純物の影響が小さくなることを意味する。従って、本発明の化合物は、感度の高い測定を可能にする。図12には、4−(3‘−フェロセニルウレイド)−1−ベンゾイルで標識化したBSA分子の消化ボルタモグラフが示され、図3には、フェロセニル標識化BSA分子の同じ条件における消化ボルタモグラフが示されている。図12(c)と図3(c)との対比から明らかなように、フェロセン成分を有する4−(3‘−フェロセニルウレイド)−1−ベンゾイル誘導体のピークは、およそ100mVであるのに対し、フェロセニル誘導体のピークは、およそ400mVである。
【0057】
本発明はまた、被験者の疾病を診断する方法を提供するものであって、その診断方法では、被験者の体液又は組織の疾患と関連するプロテアーゼ又はプロテアーゼ阻害剤の検出に、本発明の方法が利用される。
さらに、本発明は、被験者の疾病検出に、本発明の方法を利用することを提案する。
【0058】
被験者の組織にプロテアーゼ又はプロテアーゼ阻害剤が存在することに関連する疾病には、血清中のアンチトロンビンIIIの欠乏又は欠陥に原因する血栓塞栓症に罹りやすい遺伝的素因がある。血清又は細胞外マトリックスのカプテシン量の増大は、アルツハイマー病、癌又は関節炎の兆候であり得る。被験者の組織又は体液は、好ましくは、血清、血漿、唾液、尿などであり、そのほかには、簡単かつ安全にサンプルが採取できる組織又は体液がある。
【0059】
さらにまた本発明は、病原体やその他の望ましくない生物、例えば、食品を腐敗させる生命体を検出する方法を提供し、その方法では、サンプル中の病原体などに関連するプロテアーゼ又はプロテアーゼ阻害剤を検出するのに、本発明の方法が利用される。本発明はまた、サンプル中の病原体などを検出するために、本発明方法の利用を提案する。例えば、コクリオボラス・ヘテロストロファス(Cochiobolus hererostrophus)は、トウモロコシの葉の斑点病病原体であって、この病原体は、トウモロコシ葉中の特定なプロテアーゼを検出することで、診断可能である。その他の多くの病原体も、特有のプロテアーゼと密接な関係を持ち、そうした酵素を例示すれば、アウペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)に感染したヒト肺液中のセリン・プロテアーゼAlp、HIV-1に感染したヒトの白血球中のHIV-1プロテアーゼPTなどがある。
【0060】
本発明はまた、プロテアーゼ阻害剤のスクリーニング法を提供する。この方法は、臨床的に関心がある新規化合物の同定するために、推定プロテアーゼ阻害剤をスクリーニングする場合に利用することができる。
【0061】
本発明はさらに、この明細書に記載した幾つかの方法の一つ又はそれ以上を実行できる装置を提供する。その装置は、適当な電極と、電気化学的セルと、使い捨て可能なプラスチック容器と、検出し、記録し、操作し、結果を表示するための装置を含む。
【0062】
本発明に係る装置は、一つ又はそれ以上のサンプルを受け入れるためのサンプル受け入れ領域と、サンプル受け入れ領域の温度を調節するための装置と、サンプルの温度を調節するための装置を含む。このような装置は、通常の電極セル(例えば、後述する実施例で使用するようなセル)を利用して組み立ることができる。
【0063】
本発明はまた、一つ又はそれ以上のサンプルを保有するサンプル受け入れ領域を、2つ以上備えた容器を提供する。このような容器は、多くの分子生物学的用途に現在使用されているようなポリプロピレンチューブ製出会ってよく、また96-ウエルプレートに準拠していて差し支えない。理想的には、そうした容器は、少なくとも一つの電極成分を受け入れるようになっている。この電極成分は、例えば、容器の蓋の一部として配置させることができ、それで容器を閉めたときには、電極成分がサンプル溶液に漬かるようにすることができる。従来常用されている電気化学的セルは、比較的高価であるので、使い捨てであるとしては扱われてはいない。使い捨て可能なプラスチック製容器の利用は、サンプルが汚染されるリスクが軽減されることから、分子生物学の分野では普通になっている。
【0064】
以下に、添付図面を参照して本発明の幾つかの具体例を説明する。
図1において、この明細書に記載する周期的なボランメトリー実験に使用に適する電気化学的セル1は、塩化ナトリウムの100mM水溶液であるバックグラウンド電解質溶液3が収容された容器2を備えている。電解質溶液3には、試験に供されるサンプルを収めた試験槽4が浸漬され、サンプル中には、ガラス状炭素の作用電極5が挿入されている。作用電極には、ガラス状炭素電極に代えて、金電極を使用することもできる。電解質溶液3には、さらには、白金線の対電極6と、4Mの塩化カリウム溶液に浸漬された銀/塩化銀参照電極7が浸漬され、上記の溶液は焼結ディスクを介して連通する。
【実施例】
【0065】
以下に実施例を示す。
材料及び手法−フェロセニル化BSAの調製と分析
ウシ血清アルブミン(凍結乾燥粉末、約90%)、カゼイン(牛乳、精製粉末)、ブタ膵臓トリプシン(1120 BASEユニット/mg、固体)、タイプIIウシ膵臓α−キモトリプシン(51ユニット/mg、固体)、ブタ胃粘膜ペプシン(632ユニット/mg、固体)、バキラス・サーモプロテリティカス・ロッコ(Bacillus thermoproteolyticus rokko)サーモリシン(44ユニット/mg、固体)、トリチラチウム・アルブ・プロテイナーゼK(33ユニット/mg、固体)、パパイヤラテックスパパイン(14ユニット/mgタンパク質、99%)、タイプI-S大豆トリプシン阻害因子、アミノペプチダーゼ(50〜150ユニット/mgタンパク質)及びエラスターゼ(50ユニット/mg以上タンパク質)は、シグマから得た。
【0066】
フェロセンカルボン酸は、Aidrich Chemical Co.から得た。
重炭酸カリウム()、炭酸カリウム(ミニマム99%)及びジメルスルホキシド(ACS試薬、ミニマム99.9%)は、シグマから得た。
【0067】
NAP10カラム(G25 DNAグレードのセファデックスは、Amersham Biosciencesから得た。トリズマ塩酸塩()、トリズマ塩基(99+%)、塩化ナトリウム(シグマウルトラ、ミニマム99.5%)、酢酸ナトリウム(分子生物学グレード)、エチレンジアミンテトラ酢酸テトラナトリウム塩(シグマウルトラ、ミニマム99.0%)、水酸化ナトリウム(シグマウルトラ、ミニマム98%)、DL-カゼイン塩酸塩(ミニマム98%)、塩酸及び分子生物学グレードの水は、シグマから得た。染料のポンソーS(実用グレード)、過硫酸アンモニウム(電気泳動グレード)、N,N,N',N'-テトラメチレンエチレンジアミン(TEMED)、アクリルアミド/ビスーアクリルアミド(37.5:1)の30%溶液並びにEZブルーゲル染色試薬は、シグマから得た。酢酸(氷酢酸、99.99+%)は、Aidrich Chemical Co.から、イソプロパノールは、Haymanから、バイオダインC膜は、Pall Life Sciencesからそれぞれ得た。
培養は、PTC-100プログラマブルサーモコントローラ(MJ Research Inc)を使用して行った。
全ての溶液は、加圧脱イオン水(WaterPro system, Labconco)で調製した。
【0068】
材料及び手法−電気化学的検出
下に示すものは全てBAS, Congleton, Cheshire UKから得た。
ガラス質炭素作用電極(カタログナンバーMF-2012)
銀/塩化銀参照電極(カタログナンバーMF-2079)
白金線対電極(補助電極)(カタログナンバーMF-4130)
また、オートラボ電気化学的ワークステーションは、周波数特性分析装置付きのPGSTAT30も、μオートラボタイプIIも、Windsor Scientific, Slough, Berkshireから得た。
【0069】
実施例1−周期的ボルタンメトリー
この実施例は、下に示す実施例5〜11で使用する周期的ボランメトリー法を記述する。
図1に示す小容量のセルを、約10mlの塩化ナトリウム溶液(100mM)で満たし、200アリコートの分析用サンプルをガラス製試験槽に収め、これを参照電極及び対電極と共に前記の小容量セル内に設置した。電極群をオートラボ電気化学的ワークステーションに接続し、表1に示すパラメーターを採用して差分パルスボルタンメトリーを実行した。分析に先立ち、ガラス質カーボン作用電極を研磨し(BSA研磨具、カタログナンバーMF-2060を使用)、次いでコンディショニングを行った。電極のコンディショニングは、周期的なボルタンメトリーと、適当な緩衝液中でのスウィーピングとからなる。
【0070】
【表1】
【0071】
実施例2−フェロセンカルボン酸のN―ヒドロキシサクシンイミドエステルの合成
フェロセンカルボン酸(303mg, 1.32mmol)とN−ヒドロキシサクシンイミド(17.mg, 1.47mmol)をジオキサンに溶かし、攪拌しながらジシクロヘキシルカブボジイミド(305mg, 1.48mmol)のジオキサン(3ml)溶液に加えた。この混合物を室温で24時間混合した。この混合時間中に沈殿物が形成された。この沈殿物を濾別し、真空中で濾液から溶媒を除去し、得られた固体をシリカゲルカラムクロマトフラフィーで精製した。溶離液には、ガソリン:酢酸エチル=8;2のものを使用した。
【0072】
実施例3a―フェロセンカルボニルアジドの合成
フェロセンカルボニルアジドは、フェロセンカルボン酸を塩化オキサリル及びアジ化ナトリウムを反応させて調製した。
実施例3b−4−(3'―フェロセニルウレイド)−1−安息香酸の合成
【化8】
【化9】
【0073】
洗浄した丸底フラスコに、フェロセンカルボニルアジド(300mg,1.18mmol,1.00equiv.)、4−アミノ安息香酸(244mg,1.78mmol,1.50equiv.)及び1,4−ジオキサン(40ml)を窒素雰囲気下で収めた。この反応混合物を100℃浴の窒素雰囲気で2時間50分攪拌し、次いで室温に冷却した。2Mの塩酸(100ml)をこの反応混合物に加え、生成物を酢酸エチル(150ml)に抽出した。この相を2Mの塩酸(100ml)で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、真空中で濃縮して生成物とした。これを真空炉でさらに乾燥し、オレンジ結晶を得た(413mg, 96%)。
1H-NMR δ (300MHz, d6-DMSO) 3.96 (2H, b, Hc), 4.14 (5H, s, Ha), 4.53 (2H, b, Hb) 7.54 (2H, m, Hf), 7.85 (2H, m, Hg), 7.98 (1H, s, Hd), 8 87 (1H, s, He), 12.57 (1H, s, Hb), ここで、各水素の位置は式VIa に示される。 13C-NMR δ (75.5MHz, d6-DMSO) 61.0 64.1 66.7 68.1 (Ca,d), 117.2 (Cg), 123.5 (Cj), 130,9 (Ch), 144.6 (Cf), 152.8 (Ce), ここで、各炭素の位置は、式VIbで示される。
【0074】
実施例3c−4−(3'―フェロセニルウレイド)−1−安息香酸のN―ヒドロキシスクシンイミドエステルの合成
ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)(194mg, 0.936mmol, 1.14当量)を無水の1,4−ジオンキサン(2ml)に溶かし、窒素雰囲気下で清浄な丸底フラスコに注ぎ、さらにN−ヒドロキシスクシンイミド(108mg, 0.939mmol, 1.14当量)を加えた。4−(3‘−フェロセニルウレイド)−1−安息香酸(300mg, 0.823mmol, 1.0当量)を無水の1,4−ジオンキサン(13ml)に溶かし、これをフラスコに滴下した。溶液を室温で23時間攪拌した。ブフナー漏斗を用いて赤色/橙色の反応混合物から少量の薄茶色の固形物を取り除いた。反応混合物に、水(100ml)と酢酸エチル(50ml)を注いだ。酢酸エチル相を分離し、水相を酢酸エチル(100ml)で抽出した。2つの酢酸エチル相を混合し、硫酸ナトリウムで乾燥し、真空中で濃縮して租生成物を橙色オイルとして得た。これをシリカフラッシュクロマトグラフィーにて、溶離液勾配酢酸エチル/石油エーテル(沸点40-60℃)=60/40の混合物から、酢酸エチルへの溶離液勾配システムで精製した。次いで、真空オーブンで乾燥し、細かい橙色結晶として、4−(3'―フェロセニルウレイド)−1−安息香酸のN―ヒドロキシスクシンイミドエステルを得た(273mg, 66%)。
Rf(5:1 酢酸エチル/石油エーテル(bp 40-60oC) = 0.41、 1H-NMR δ (300MHz, d6-DMSO) 2.88 (4H, s, Hh), 3.98 (2H, t, J = 1.8 Hz, Hc), 4.16 (5H, s, Ha), 4.55 (2H, t, J = 1.8 Hz, Hb), 7.68 (2H, m, Hf), 8.00 (2H, m, Hg), 8.11 (1H, s, Hd), 9 16 (1H, s, He)、 13C-NMR δ (75.5MHz, d6-DMSO) 25.9 (Cl), 61.1, 64.2 (Cb and Cc), 69.1 (Ca), 117.7 (Cg), 131.9 (Ch), 170.9 (Ck). MS (FAB+ m/z) 462.07 [M+H].
【0075】
実施例4a−フェロセニル化プロテインの合成
次の略号をここで使用した。
―Fc= フェロセンメタノイル基、例えば、Fc−OHは、フェロセンカルボン酸であり、Fc−NHRは、フェロセンメチルアミド化合物である。
―FcU=4−(3'―フェロセニルウレイド)−1−ベンゾイル基、例えば、FcU―OHは、4−(3'―フェロセニルウレイド)−1−安息香酸であり、FcU―NHRは、4−(3'―フェロセニルウレイド)−1−ベンザミド化合物である。
―BSA=ウシ血清アルブミン
全てのフェロセン標識化タンパク質の合成には、同じ基本手順を採用した。一例として、Fc−BSAの合成を記載する。
正確な容量のK2CO3/KHCO3緩衝液(200mM, pH 8.5)に、凍結乾燥したBSAを分散させて濃度10mg/mlのBSA溶液を得た。この溶液を攪拌下にある溶液、すなわち、フェロセンカルボン酸N―ヒドロキシスクシンイミドエステルのDMSO(100μl,375mM)溶液に徐々に添加した。得られた混合液を2時間室温で振盪し、次いでトリス延酸塩(800μl,100mM, pH 7.8)で希釈し、2つのNAP10 カラムを使用して精製した(以下、手順書に従う)。溶離には、最初にトリス塩酸塩(800μl,100mM, pH 7.8)を使用し、次いで脱イオン水を使用した。
【0076】
BSA濃度は、BSA標準濃度と紅色S染色を利用して細胞ホルモンC膜へのブロッティングで測定した。それによれば、BSA濃度は、0.3〜0.6mg/mlであることが分かった。フェロセン標識の存在は、ボランメトリック分析によって確認した。
FcU−標識化タンパク質は、同様な方法で調製した。
各標識化BSA分子におけるフェロセン基の平均存在数は、UV−可視スペクトルで分析した。上記の手順で調製したFc−BSA接合体のUV−可視スペクトルを、比が異なる様々なFc/BSAのスペクトルと比較した。これらを重ねたスペクトルを図2に示す。図2において、描線Aはサンプルのスペクトルであり、BはBSA:Fc−OH=20:1のスペクトル、CはBSA単独のスペクトル、DはFc−OH単独のスペクトル、そしてEはBSA:Fc−OH=10:1のスペクトルである。これらのデータから、BSA1分子当りに存在するフェロセン分子の数は、10から20の範囲にあると推定される。
【0077】
実施例4b−フェロセニル化アラニンの合成(Fc−Ala,式IIIa)
2当量のEDCL(1−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]−3−エチルカルボジイミド塩酸)を、激しく攪拌されている懸濁液、すなわち、乾燥したDCM(ジクロロエタン、塩化メチレン)に、2.1当量のDMAP(4−(N,N−ジメルアミノ)ピリジン)とフェロセンメチルアミンとBoc-Ala−OH(N−Boc−アラニン)を加えた懸濁液に、窒素雰囲気で添加した。この反応混合物を一晩攪拌した後、DMCで希釈し、1Nの塩酸中に注いだ。成相を分離し、有機相を硫酸マグネシウムで乾燥して濾過し、溶媒を除去した。
【0078】
実施例4c−フェロセニル化トリアラニンペプチドの合成(Fc-Ala-Ala-Ala,式IIIb)
Ac-Ala-Ala-Ala-OHはシグマアルドリッチ(Sigma-Aldrich)から得た。
2当量のEDCL(1−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]−3−エチルカルボジイミド塩酸)を、激しく攪拌されている懸濁液、すなわち、フェロセンメチルアミンと、Ac-Ala-Ala-Ala-OH(末端アミノ基をアセチル化したトリアラニン)と、2.1当量のDMAP(4−N,N−ジメチルホルムアミド)からなる懸濁液に、窒素雰囲気で添加した。この反応物を一晩攪拌した後、これにメタノールを添加し、CHCl3を使用して生成物を沈殿させて遠心分離し、上澄み液をデカンテーションで除き、さらにCHCl3で洗浄した。アセチル化末端アミノ基の脱保護は、起こらなかった。
【0079】
実施例5−プロテアーゼ分析
プロテアーゼ分析は、特に断らない限り次のように行った。凍結乾燥した各酵素を、濃度10mg/mlになるよう再分散させた。再分散に使用した溶液は、次のとおりである。トリプシン、α―キモトリプシン及びペプシン用には、HCl溶液(1mM, pH 3.0)を使用し、プロテイナーゼK、エラスターゼ、パパイン、カルボキシペプチダーゼ及びサーモリシン用にはNaCl(100mM)を使用した。反応1回あたり、75μlのFc-BSA溶液(0.3〜0.6mg/ml)を使用した。各反応は次の緩衝液(最終濃度を示す)中において、全容量200μlで行った。トリプシン、α―キモトリプシン、サーモリシン及びプロテイナーゼKには、100mMのトリス塩酸塩、pH7.8を、エラスターゼには、100mMのトリス塩酸塩、pH8.5を使用し、パパインには、200mMの酢酸ナトリウムと200mMのシステインと20mMのEDTAを、ペプシンには、10mMのHCl、pH2.0を使用し、カルボキシペプチダーゼには、500mMのNaClを使用した。2μlの酵素(10mg/ml)を200μlの反応混合物に添加した。サンプルを37℃で1時間培養した。反応性生物は、実施例1で記載した差分パルスボルタンメトリー法で分析した。
データ提示
ベースライン修正データは、生データに重ねて表示されている。ベースライン修正データは、GPESマネージャー(Ecochemi BV, Utrecht, Netherlands)を使用し、データ編集メニューからベースライン修正を選択し、最小ピーク幅0.003Vで移動平均を選択して得た。
【0080】
実施例5A−トリプシンによるFc−BSAの消化
トリプシンによるFc−BSAの消化は、上記したように行った。その差分パルスボルタンメトリー記録を、図3(a)〜図3(c)に示す。図3(a)は消化された生成物の掃引線であり、図3(b)はトリプシンのない対照生成物の掃引線であり、図3(c)はベースラインを修正した(a)及び(b)から得たデータを示す。陽性反応は435mVにピーク位置を持ち、ピーク高さは4.58×10−7Aであるのに対し、対照反応でのピーク位置は432mVであり、ピーク高さは2.55×10−8Aである。
図3から分かるように、435mVで観察される電流は、電気化学的マーカーを付したタンパク質の消化の18倍を越えている。
【0081】
実施例5B−α−キモトリプシンによるFc−BSAの消化
−α−キモトリプシンによるFc−BSAの消化は、上記したように行った。その差分パルスボルタンメトリー記録を、図4(a)〜図4(c)に示す。図4(a)は消化された生成物の掃引線であり、図4(b)はα−キモトリプシンのない対照生成物の掃引線であり、図4(c)はベースラインを修正した(a)及び(b)から得たデータを示す。陽性反応は438mVにピーク位置を持ち、ピーク高さは4.48×10−7Aであるのに対し、対照反応でのピーク位置は432mVであり、ピーク高さは2.55×10−8Aである。
【0082】
実施例5C−エラスターゼによるFc−BSAの消化
エラスターゼによるFc−BSAの消化は、上記したように行った。その差分パルスボルタンメトリー記録を、図5(a)〜図5(c)に示す。図5(a)は消化された生成物の掃引線であり、図5(b)はエラスターゼのない対照生成物の掃引線であり、図5(c)はベースラインを修正した(a)及び(b)から得たデータを示す。陽性反応は430mVにピーク位置を持ち、ピーク高さは2.57×10−7Aであるのに対し、対照反応でのピーク位置は432mVであり、ピーク高さは2.55×10−8Aである。
【0083】
実施例5D−ペプシンによるFc−BSAの消化
ペプシンによるFc−BSAの消化は、上記したように行った。その差分パルスボルタンメトリー記録を、図6(a)〜図6(c)に示す。図6(a)は消化された生成物の掃引線であり、図6(b)はペプシンのない対照生成物の掃引線であり、図6(c)はベースラインを修正した(a)及び(b)から得たデータを示す。陽性反応は537mVにピーク位置を持ち、ピーク高さは8.90×10−7Aであるのに対し、対照反応でのピーク位置は522mVであり、ピーク高さは4.19×10−8Aである。
【0084】
実施例5E−カルボキシペプチダーゼによるFc−BSAの消化
カルボキシペプチダーゼによるFc−BSAの消化は、上記したように行った。その差分パルスボルタンメトリー記録を、図7(a)〜図7(c)に示す。図7(a)は消化された生成物の掃引線であり、図7(b)はカルボキシペプチダーゼのない対照生成物の掃引線であり、図7(c)はベースラインを修正した(a)及び(b)から得たデータを示す。陽性反応は435mVにピーク位置を持ち、ピーク高さは1.31×10−7Aであるのに対し、対照反応でのピーク位置は427mVであり、ピーク高さは6.86×10−8Aである。
【0085】
実施例5F−37℃におけるサーモリシンによるFc−BSAの消化
サーモリシンによるFc−BSAの消化を、37℃の培養温度で上記したように行った。その差分パルスボルタンメトリー記録を、図8(a)〜図8(c)に示す。図8(a)は消化された生成物の掃引線であり、図8(b)はサーモリシンのない対照生成物の掃引線であり、図8(c)はベースラインを修正した(a)及び(b)から得たデータを示す。陽性反応は429mVにピーク位置を持ち、ピーク高さは1.62×10−8Aであるのに対し、対照反応ではピークが認められなかった。
【0086】
実施例5G−70℃におけるサーモリシンによるFc−BSAの消化
サーモリシンによるFc−BSAの消化を、70℃の培養温度で上記したように行った。その差分パルスボルタンメトリー記録を、図9(a)〜図9(c)に示す。図9(a)は消化された生成物の掃引線であり、図9(b)はサーモリシンのない対照生成物の掃引線であり、図9(c)はベースラインを修正した(a)及び(b)から得たデータを示す。陽性反応は455mVにピーク位置を持ち、ピーク高さは2.0×10−8Aであるのに対し、対照反応ではピークが認められなかった。
【0087】
実施例5H−トリプシンによるBSAの消化
トリプシンによる未標識BSAの消化は、上記した未標識分子に関する方法と同じ方法で行った。その差分パルスボルタンメトリー記録を、図10(a)〜図10(b)に示す。図10(a)はトリプシンのない対照生成物の掃引線であり、図10(b)はトリプシンBSA反応物の掃引線である。どちらの反応生成物溶液にもピークは認められなかった。
【0088】
実施例5I−トリプシンによるFcU−BSAの消化
トリプシンによるFcU−BSAの消化は、上記した方法で行った。その差分パルスボルタンメトリー記録を、図11(a)〜図11(c)に示す。図11(a)は消化生成物の掃引線であり、図11(b)はトリプシンのない対照生成物の掃引線であり、図11(c)はベースラインを修正した(a)及び(b)から得たデータを示す。陽性反応は97mVにピーク位置を持ち、ピーク高さは5.01×10−7Aであるのに対し、対照反応ではピークが認められなかった。
【0089】
実施例5J−パパインによるFcU−BSAの消化
パパインによるFcU−BSAの消化は、上記した方法で行った。その差分パルスボルタンメトリー記録を、図12(a)〜図12(c)に示す。図12(a)は消化生成物の掃引線であり、図12(b)はパパインのない対照生成物の掃引線であり、図12(c)はベースラインを修正した(a)及び(b)から得たデータを示す。陽性反応は93mVにピーク位置を持ち、ピーク高さは2.62×10−7Aであるのに対し、対照反応ではピークが認められなかった。
【0090】
実施例5H−トリプシンによるFcU−カゼインの消化
トリプシンによるFcU−カゼインの消化は、上記した方法で行った。その差分パルスボルタンメトリー記録を、図13(a)〜図13(c)に示す。図13(a)は消化生成物の掃引線であり、図13(b)はトリプシンのない対照生成物の掃引線であり、図13(c)はベースラインを修正した(a)及び(b)から得たデータを示す。陽性反応は148mVにピーク位置を持ち、ピーク高さは3.79×10−7Aであるのに対し、対照反応でのピーク位置は147mVであり、ピーク高さは1.55×10−7Aであった。
【0091】
実施例6−酵素濃度による電気化学的標識信号の変化
トリプシンによるFc−BSAの消化を、酵素濃度が異なる条件で上記の方法で行った。基本手順で既述したように、各反応200μlについて酵素2μlを使用した。反応(i)での酵素溶液濃度は、10mg/mlであり、反応(ii)のそれは1mg/mlであり、反応(iii)でのそれは0.1mg/mlであり、反応(iv)でのそれは0.01mg/mlであり、反応(v)でのそれはトリプシンを含まない対照である。これらの差分パルスボルタンメトリー記録を、ベースラインを修正して図14に示す。反応(i)でのピーク位置は430mVであり、ピーク高さは5.24×10−7Aであり、反応(ii)のピーク位置は428mVであり、ピーク高さは2.29×10−7Aであり、反応(iii)のピーク位置は429mVであり、ピーク高さは1.04×10−7Aであり、反応(iv)のピーク位置は429mVであり、ピーク高さは7.54×10−8Aであり、反応(v)の対照例でのピーク位置は448mVであり、ピーク高さは3.17×10−9Aであった。
図14から分かるように、差分パルスボルタンメトリー記録での信号の大きさは、消化実験に存在する酵素の濃度に大きく依存する。ここに記載したような一連の逐次希釈は、検量標準曲線用のデータを得るのに利用可能であり。このような曲線は、プロテアーゼ濃度が未知の実験サンプル中での酵素濃度又は酵素活性を定量するのに有用である。
【0092】
実施例7−培養時間による電気化学的標識信号の変化
トリプシンによるFc−BSAの消化を上記した方法で行った。反応(i)は37℃の培養温度で60分、反応(ii)は同じ温度で15分、反応(iii)は同じ温度で5分、反応(iv)は同じ温度で2分、そして反応(v)はトリプシンを含まず対照例で、培養時間はゼロ分である。これらの差分パルスボルタンメトリー記録を、ベースラインを修正して図15に示す。反応(i)でのピーク位置は435mVであり、ピーク高さは2.49×10−7Aであり、反応(ii)のピーク位置は429mVであり、ピーク高さは1.88×10−7Aであり、反応(iii)のピーク位置は435mVであり、ピーク高さは1.57×10−7Aであり、反応(iv)のピーク位置は428mVであり、ピーク高さは1.04×10−7Aであり、反応(v)の対照例でのピーク位置は460mVであり、ピーク高さは2.11×10−8Aであった。
図15から分かるように、差分パルスボルタンメトリー記録での信号の大きさは、培養時間が長くなると大きくなる。
【0093】
実施例8−電気化学的マーカー信号へのプロテアーゼ阻害因子の影響
トリプシンによるFc−BSAの消化を上記した方法で行った。さらに、ダイズトリプシン阻害因子を反応混合物(i)〜(iv)に添加した。ダイズトリプシン阻害因子の溶液は
阻害因子を脱イオン水に濃度10mg/mlで、必要に応じて1mg/mlで再分散して調製した。反応(i)では阻害因子を添加せずに、反応(ii)では濃度1mg/mlの阻害因子溶液を0.5μl、反応(iii)では濃度10mg/mlの阻害因子溶液を0.5μl、反応(iv)では濃度10mg/mlの阻害因子溶液を5μlそれぞれ添加して消化を行い、トリプシンを含まない対照例の培養は、濃度10mg/mlの阻害因子溶液を5μl添加して行った。これらの差分パルスボルタンメトリー記録を、ベースラインを修正して図16に示す。反応(i)でのピーク位置は439mVであり、ピーク高さは2.56×10−7Aであり、反応(ii)のピーク位置は435mVであり、ピーク高さは2.12×10−7Aであり、反応(iii)のピーク位置は430mVであり、ピーク高さは1.60×10−7Aであり、反応(iv)のピーク位置は426mVであり、ピーク高さは5.33×10−8Aであり、対照例でのピーク位置は429mVであり、ピーク高さは2.75×10−8Aであった。
図16から分かるように、差分パルスボルタンメトリー記録での信号の大きさは、阻害因子の濃度に大きく依存する。ここに記載したような一連の逐次希釈は、検量標準曲線用のデータを得るのに利用可能であり。このような曲線は、プロテアーゼ濃度が未知の実験サンプル中での阻害因子量又は阻害因子効力を定量するのに有用である。検量曲線はまた、潜在的プロテアーゼ阻害因子のスクリーニングにも活用できる。
【0094】
実施例9−消化反応の電流分析
4種の消化反応を実時間電流分析で実施した。粉末乾燥した酵素を再分散して濃度10mg/mlの分散液を調製した。トリプシンをHCl(1mm, pH3.0)中に、パパイン及びカルボキシペプチダーゼをNaCl(100mM)中に再分散させた。1回の反応当たり75μlのFc−BSA溶液(0.3-0.6mg/ml)を使用した。各反応は全容量200μlで行い、次の緩衝液を使用した(最終濃度を表示)。トリプシン反応に関しては100mMのトリス塩酸塩pH7.8を使用し,パパイン反応に関しては20mMのEDTAを使用し、カルボキシペプチダーゼに関しては25mMのトリス塩酸塩pH7.5と500mMのNaClを使用した。2μlの酵素(10mg/ml)を200μlの反応混合物に添加した。反応生成物を図1に示すような装置を使用して電流分析した。分析条件を表2及び表3に示す。
【0095】
【表2】
【0096】
【表3】
【0097】
電流分析の実験結果を図17及び図18に示す。
図17には、Fc−BSAのトリプシン消化に関する電流の経時変化曲線が示されている。曲線Aは、酵素を添加する前では、作用電極への電位付加に対して非ファラデー電流の電流レスポンスがないことを示している。溶液中に存在する種の移動が定常状態に達すると、電流レスポンスは減衰するように思われる。曲線Bは、非ファラデー電流の電流レスポンスが平衡に到達した時点で行う酵素添加後において、ファラデー電流の電流レスポンスを経時的に示したものである。曲線Bにおける電流の増大は、フェロセン標識化基質の酵素消化に関係すると思われる。
【0098】
図18には、Fc−BSAのパパイン消化に関する電流の経時変化曲線が示されている。曲線Aは、酵素を添加する前では、作用電極への電位付加に対して非ファラデー電流に電流レスポンスがないことを示している。溶液中に存在する種の移動が定常状態に達すると、電流レスポンスは減衰するように思われる。曲線Bは、非ファラデー電流の電流レスポンスが平衡に到達した時点で行う酵素添加後において、ファラデー電流の電流レスポンスを経時的に示したものである。曲線Bにおける電流の増大は、フェロセン標識化基質の酵素消化に関係すると思われる。FcU−BSAをトリプシン消化した場合の電流の経時変化曲線は図示していないが、その曲線は図18と類似する。
【0099】
図17及び図18から分かるように、電気化学的に活性なマーカーは、アプリコット(標本)の取り出しなしに反応を進行させるように、実時間でプロテアーゼ反応を追跡することを可能にする。大量の動的データは、図17及び図18に示すような描線から抽出することができ、これから酵素反応速度を研究することができる。
【0100】
実施例10−アミノペプチダーゼ検定
アミノペプチダーゼを20U/mlの硫酸アンモニウム溶液として得た。実施例4bの腑フェロセニル化アラニン基質を濃度100mMでエタノールに溶解した。次いでこれを希し、100mMのトリス塩酸塩(pH7.5)と1mMの前記基質を含む作用溶液を得た。
195μlの基質溶液と、5μl(0.01U)のアミノペプチダーゼとの200μlを、37℃において15分程度培養した。サンプルを培養前、5分培養後及び15分培養後の各時点で差分パルスボルタンメトリー(DPV)で分析した。DPVは実施例1に記載したように実施した。結果を図19a及び図19bに示す。図19aは生データを示し、図19bは、実施例5で説明したGPESマネージャーを使用してベースラインを修正したデータを示す。曲線Aは、アミノペプチダーゼで培養する以前のフェロセニル化アラニンのボルタンメトリー掃引線を示し、曲線Bは培養5分後の、曲線Cは培養15分後のボルタンメトリー掃引線をそれぞれ示す。これらの曲線から、基質の消化によって電流ピーク電位が移動することが分かる。15分の消化後では、その移動が約80mVである。
【0101】
実施例11−エラスターゼ検定
凍結乾燥したエラスターゼを100mMのトリス塩酸塩緩衝液(pH8.5)に分散させて10mg/mlのエラスターゼ液を得た。50μlのフェロセン標識化トリペプチド基質(実施例4で調製したフェロセニル化トリアラニンペプチド)と、1μlの上記エラスターゼ液と、バランス量のトリス塩酸塩緩衝液とを含む全量200μlのアプリコットからなるサンプルを調製した。これを37℃で1時間培養し、このサンプルを
培養前及び1時間培養後の各時点で差分パルスボルタンメトリー(DPV)で分析した。DPVは実施例1に記載したように実施した。結果を図20a及び図20bに示す。図20aは生データを示し、図20bは、実施例5で説明したGPESマネージャーを使用してベースラインを修正したデータを示す。曲線Aは、エラスターゼで培養する以前のボルタンメトリー掃引線を示し、曲線Bは培養1時間後のボルタンメトリー掃引線を示す。これらの曲線から、基質の消化によって電流ピーク電位が移動するが、その移動は実施例10のそれより小さい。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】この明細書で記載する差分パルス・ボルタンメトリー測定で使用した電気化学的セルの配置図。
【図2】フェロセン及びBSA抱合体及び混合物についてのUV光−可視光スペクトルを重ね合わせたスペクトル図。
【図3a】実施例5Aで記載したFc-BSAのトリプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図3b】実施例5Aで記載したFc-BSAのトリプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図3c】実施例5Aで記載したFc-BSAのトリプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図4a】実施例5Bで記載したFc-BSAのα−キモトリプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図4b】実施例5Bで記載したFc-BSAのα−キモトリプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図4c】実施例5Bで記載したFc-BSAのα−キモトリプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図5a】実施例5Cで記載したFc-BSAのエラスターゼ消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図5b】実施例5Cで記載したFc-BSAのエラスターゼ消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図5c】実施例5Cで記載したFc-BSAのエラスターゼ消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図6a】実施例5Dで記載したFc-BSAのペプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図6b】実施例5Dで記載したFc-BSAのペプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図6c】実施例5Dで記載したFc-BSAのペプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図7a】実施例5Eで記載したFc-BSAのカルボキシペプチダーゼ消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図7b】実施例5Eで記載したFc-BSAのカルボキシペプチダーゼ消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図7c】実施例5Eで記載したFc-BSAのカルボキシペプチダーゼ消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図8a】実施例5Fで記載したFc-BSAのサーモリシン消化産物(於37℃)の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図8b】実施例5Fで記載したFc-BSAのサーモリシン消化産物(於37℃)の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図8c】実施例5Fで記載したFc-BSAのサーモリシン消化産物(於37℃)の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図9a】実施例5Gで記載したFc-BSAのサーモリシン消化産物(於70℃)の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図9b】実施例5Gで記載したFc-BSAのサーモリシン消化産物(於70℃)の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図9c】実施例5Gで記載したFc-BSAのサーモリシン消化産物(於70℃)の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図10a】実施例5Hで記載した非標識化BSAのトリプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図10b】実施例5Hで記載した非標識化BSAのトリプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図11a】実施例5Iで記載したFcU-BSAのトリプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図11b】実施例5Iで記載したFcU-BSAのトリプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図11c】実施例5Iで記載したFcU-BSAのトリプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図12a】実施例5Jで記載したFcU-BSAのパパイン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図12b】実施例5Jで記載したFcU-BSAのパパイン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図12c】実施例5Jで記載したFcU-BSAのパパイン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図13a】実施例5Kで記載したFcU-カゼインのトリプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図13b】実施例5Kで記載したFcU-カゼインのトリプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図13c】実施例5Kで記載したFcU-カゼインのトリプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図14】実施例6で記載したような様々な酵素濃度で実施したFc-BSAのトリプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフを重ね合わせて示すグラフ。
【図15】実施例7で記載したような様々な培養時間で行ったFc-BSAのトリプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフを重ね合わせて示すグラフ。
【図16】実施例8で記載したようなプロテアーゼ阻害剤の存在濃度を様々に変化させて行ったFc-BSAのトリプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフを重ね合わせて示すグラフ。
【図17】Fc-BSAのトリプシン消化産物の経時的な電流測定軌跡を重ね合わせたものである。
【図18】FcU-BSAのパパイン消化産物の経時的な電流測定軌跡を重ね合わせたものである。
【図19a】実施例10に記載したように、アミノペプチダーゼ消化前のフェロセン標識化アラニン(Fc-Ala)の差分パルス・ボルタモグラフと、消化後のそれを重ね合わせて示す図面。
【図19b】図19aのベースラインを修正した図面。
【図20a】実施例11に記載したように、エラスターゼ消化前のフェロセン標識化トリアラニンペプチド(Ac-Ala-Ala-Ala-Fc)の差分パルス・ボルタモグラフと、消化後のそれをそれを重ね合わせて示す図面。
【図20b】図20aのベースラインを修正した図面。
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロテアーゼ活性を検定ないしは評価する方法と、この方法で使用する基質及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プロテアーゼ、すなわち、タンパク質分解酵素は、様々な生物学的事象に関係し、例えば、タンパク質の活性化や細胞のシグナリング化などのような生物学的事象に関係している。プロテアーゼ活性は、血液凝固、アポトーシス及びホルモン調節などの過程で、重要な役割を果たす。プロテアーゼはまた、いろいろなウイルス性病原菌及び微生物病原体の活動にも必須である。治療薬として使用する目的でプロテアーゼ阻害剤の開発に、関心が高まっている。
【0003】
生体サンプル内でのプロテアーゼ活性の測定は、アポトーシスなどの過程を分析する上で、潜在的プロテアーゼ阻害剤をスクリーニングする上で、また、サンプルの純度を、例えば、タンパク質精製の過程でモニタリングする上で重要である。プロテアーゼはアミド及びエステルを加水分解し、基質の構造及び酵素の特定に応じて、ペプチド、単独アミノ酸、標識化アミノ酸断片を生成する。プロテアーゼ活性の測定は、天然に存在するタンパク質基質を用いて行うこともできれば、例えば、蛍光プローブ又は発色団で標識化した合成ペプチド基質類似体を用いても、プロテアーゼ活性を測定することができる。さらに、任意的にプロテアーゼ認識配列が導入された標識化合成短ペプチドを使用して、プロテアーゼ活性を測定することもできる。場合によっては、プロテアーゼ活性の測定は、標識化単独アミノ酸を使用して行うことも可能である。これらのでは、単独アミノ酸と標識化されたマーカーとの間の結合を開裂するプロテアーゼの能力で、プロテアーゼ活性が検定される。
【0004】
使用したプロテアーゼの特性は、要求される溶解度と検定独自の要求に依存し、検定には、普通、ウシ血清アルブミン又はカゼインが使用される。ゼラチン、オボアルビミン及び架橋タンパク質も使用可能である。
【0005】
市場に出回っている多くの検定は、標識化基質類似体を使用する。プロテアーゼ活性の検定は、均質系反応装置又は不均質系反応装置を使用して行うことができる。均質系の検定では、基質は通常溶けて状態にあり、生成物も溶けた状態にある。蛍光プローブ(例えば、フルオレセイン、ローダミン又はBODIPY蛍光プローブ)を用いた蛍光ベースの検定システムは、次の2方式のいずれか一つに従って通常操作され、方式の一つは、多重標識化自己消滅型タンパク質の開裂後に、蛍光信号を検知する方式であり(enzChekプロテアーゼ検定キッド、モレキュラー・プローブ・インク社製)、他の一つは、蛍光偏光技法を使用して蛍光標識化集団のサイズの変化を検出する方式である(Beacon(登録商標)プロテアーゼ活性検出キッド、パン・ベラ・コーポレーション社製、enzChek偏光キッド、モレキュラー・プローブ・インク社製)。
【0006】
普通実施されている方法の一つでは、ペプチド基質が使用され、このものはカルボキシ末端において、アミン官能基を有する色素で標識化されている。この色素は、発色団又は蛍光プローブであってよく、例えば、クラリン、フルオレセイン、ローダミン又はBODIPY(モレキュラー・プローブ・インク社製のapoalert(登録商標)、CPP32プロテアーゼ検定キッド、クロンテック社製)であって差し支えない。色素とアミノ酸をつなぐアミド結合は、プロテアーゼによって開裂され、アミン誘導体を生成する。この構造上の変化が色素のスペクトル特性に影響を及ぼし、感知可能な信号が発生する。均質系での検出の別法では、切断部位の一方が供与体蛍光プローブで、他方が受容体クエンチャーでそれぞれ標識化されたペプチド基質が使用され、供与体蛍光プローブと受容体クエンチャーは、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)対を形成する。ペプチドの切断で供与体と受容体が分離するため、蛍光信号に変化が起こる。特定のペプチド配列の加水分解は、ゲルをベースとする分析により検出可能である(Peptagプロテアーゼ検定、プロメ.ガ社製)。
【0007】
不均質系の検定では、通常、色素で標識化した固定化基質の断片を切断し、次いで液相を分析する(プロテアーゼスポット、ジェリニ、ProChek(登録商標)、ユニバーサルプロテアーゼ検定、インターゲン社製)。
【0008】
プロテアーゼ活性はまた、修正されていない(すなわち、天然の)タンパク質基質を使用しても測定可能である。無修正のタンパク質基質を用いる検定では、未消化基質を沈殿させ,次いで切断されたタンパク質断片を検出する必要がある。この検出は、例えば、273nmでの吸光度を測定することで行うことができ、また、1級アミンを検出することでも可能である。このような方法は、しばしば感度が劣り、動的データを得るためにサンプリングが必要であり、また、正確な結果を導くには定量沈降を完遂しなければならない。別法として、上記のタンパク質断片をTNBSA(トリニトロベンセンスルホン酸)と反応させた後、サクシニル化タンパク質の加水分解を検出することも可能である。
【0009】
文脈が矛盾する場合を除いて、この明細書で言う「基質」には、天然に存在する基質と合成された基質の両方が包含される。合成基質には,天然に存する基質に類似する合成品、プロテアーゼ認識配列が導入された合成ペプチド、その他の合成ペプチド及び単独アミノ酸などがある。単独アミノ酸は、プロテアーゼで開裂可能な内部結合を持たないが、そうした結合はマーカーの連結によって形成させることができるので、基質と言える。
【0010】
本明細書で使用する「プロテアーゼ」には、プロティナーゼとして知られる酵素も含まれる。
【0011】
本明細書で同義的に使用される「ペプチド」と「タンパク質」には、5個又は3個程度の少数のアミノ酸残基を含む長さのアミノ酸配列が包含される。「ペプチド」及び「タンパク質」には、細胞内で作られた分子も、無細胞で作られた分子も含まれる。また、「ペプチド」及び「タンパク質」は、自然の配列もしくは半合成のすなわち人工的な配列を持つ分子を包含し、その配列は自然のタンパク質に存在しないアミノ酸を含んでいて差し支えない。例えば、「ペプチド」及び「タンパク質」は、(i)生来のペプチド、(ii)生来のペプチドの生物学的に活性な断片、(iii)生来のペプチドの生物学的に活性なペプチド類似体、(iv)生来のペプチドの生物学的に活性な変異体、(v)生物学的に活性なコンセンサス配列を含む人工配列を持ったペプチド、または(vi)完全に人工的な配列を持ったペプチドのようなアミノ酸配列を備えた組み換えもしくは非組み換えペプチドのアミノ酸配列を包含する。
【0012】
本明細書で言う「アミノ酸」には、天然のアミノ酸と天然のタンパク質には存しないアミノ酸とが含まれる。さらに、アミノ酸誘導体も包含され、この誘導体としては、アシル化アミノ酸、プロテアーゼ、加水分解アミド及びエステルが挙げられる。従って、標識化プロテアーゼ基質の重要な要件は、プロテアーゼによって加水分解する結合が存在することである。一般に、「タンパク質」「ペプチド」及び「アミノ酸」なる表示は、プロテアーゼによって加水分解される結合を1つ又はそれ以上提供できる誘導体分子を全て包含するものと解釈すべきである。これらの加水分解可能な化学結合は、分子自体の構造内に存在する結合でもよく、あるいはマーカーを付けて分子を標識化する際に形成された結合でもよい。
【発明の開示】
【0013】
本発明は、サンプル中のプロテアーゼ活性を検定する方法を提供するものであって、その方法は、電気化学的に活性なマーカーで標識化されたプロテアーゼ基質に、サンプル溶液を接触させる工程と、サンプル溶液に存在するプロテアーゼが、プロテアーゼ基質を分解できる条件を用意する工程と、電気化学的に活性なマーカーに関係する情報を電気化学的に測定する工程を包含する。マーカーに関係する情報は、プロテアーゼ活性の有無に関する情報を導くために、便法として使用される。好ましくは、電気化学的情報は、分解された基質と未分解の基質の相対的比率を定量するのに利用できる。この明細書において言う「分解」は、酵素の活動に原因するあらゆる分解ないしは退化を包含し、これには例えば消化が含まれる。また、この「分解」には、たとえ基質分子自体に開裂がなくても、標識化基質からのマーカーの開裂が含まれる。
【0014】
レドックス活性を持つ標識で様々な生体分子を修飾することは公知である。フェロセンは、その安定性と電気化学的特性から、適当なフェロセン誘導体の入手可能性から、上記の修飾にはフェロセンが普通使用される。例えば、フェロセンがグルコースオキシダーゼ(ブドウ糖酸化酵素)の表面に、スペーサー分子を介して共有結合したフェロセン変性グルコースオキシダーゼは、合成可能であって、この変性酵素は、酵素とメディエターとの間の効果的な電子移動を可能にするものであることが見出されている(International Journal of Biological Macromolecules(1992) 14(4), 210-214)。フェロセンはまた、ボルタンメトリー法によってタンパク質の検出する際に、タンパク質を標識化するマーカーとして使用されている(例えば、BSA、アビジン、シトロクローメP450)。第2の分子と結合させるためのフェロセン化生体分子も公知であって、例えば、フェロセンで標識したジゴキシン抗体、フェロセンで標識した抗HCG IgG 及びフェロセンで標識したビオチンなどが知られている。
【0015】
タンパク質、ペプチド又はアミノ酸のフェロセンによる標識化は、アミン反応性、カルボキシ反応性又はスルフヒドリル反応性のフェロセン誘導体に、タンパク質の特定なアミノ酸残基を共有結合させることで行うことができる。今日まで開発されているフェロセン誘導体には、ジアミン、スクシニミジルエステル、アルデヒド、1級アミン、ヨードアセトアミド及びマレイミドなどがある。電気化学的に活性なマーカーにてタンパク質を標識化する方法には、タンパク質のアミノ基を標識化する方法がある。本発明は、タンパク質、ペプチド及びアミノ酸を標識化する方法を提供し、これには1つ又はそれ以上のカルボキシ基と、1つ又はそれ以上のアミノ基を介して標識化するのに適した新しい標識とを介して標識化する方法が含まれる。カルボキシル基を介してタンパク質、ペプチド及びアミノ酸を標識化する方法が提供されると、遊離の無被覆アミノ末端を持つ標識化基質が製造できる利点があり、そのような基質は、ペプチドをアミノ末端から退化させるプロテアーゼの類の或る種のアミノペプチダーゼを研究開発するのに必要である。
【発明の詳述】
【0016】
プロテアーゼの検出に電気化学的方法を利用することには、蛍光検出法を凌ぐ多くの利点がある。電気化学的検出は感度が極めて高いうえに、蛍光発色に比較して幅が広い線形のダイナミックレンジを示す。サンプルが光学的に透明である必要もない。また、バックグラウンドの汚染要因物に影響を受けることも少ない(多くの生物化学的サンプルは、自己的蛍光を発する)。
【0017】
本発明は、次のような所見に基づいている。すなわち、電気化学的に活性なマーカーは、それがアミノ酸残基に付いているか否かによって、また、そのアミノ酸残基がどの部分のペプチド又はタンパク質と合体しているか否かによって、合い異なる電気化学的特性を呈することである。
【0018】
適当な状況の下では、マーカーの電気化学的活性が、単独又はほんの2〜3のアミノ酸残基が脱離すると変化し、その変化は検出可能である。
【0019】
電気化学的に活性なマーカーが付着した分子のサイズと性質は、電気化学的マーカーの観測可能な特性に影響を及ぼす。例えば、電界の強さに応じた拡散又は移動速度よって、マーカーの移動率は影響を受ける。
【0020】
マーカーの電気化学的活性は、マーカーが結合した分子が存在することに起因する立体効果によっても影響を受ける。例えば、立体障害は、マーカーが電極に接近することや電子を受容することを妨害する。
【0021】
マーカーがペプチドに結合すると、そのペプチドの二次構造(大部分は一次配列によって測定される)は、マーカーの物理的性質に影響を及ぼす。例えば、マーカーがペプチドのアミノ酸残基に結合すると、ペプチドの構想は、電気化学的に活性なマーカ−を立体的に妨害し、ボルタンメトリーで観測可能な信号を低減させる。ペプチドの消化は、二次構造成分を破壊又は解放し、マーカーが受けるペプチド構造の影響を軽減又は根絶する。従って、ペプチドの消化は、マーカー部分で生ずる電気化学的信号を変化させ、通常は増大させる。差分パルスボルタンメトリー実験では、特定な印加電圧で感応する誘導電流が、ペプチドの消化によって増大する。
【0022】
ペプチドの二次構造は温度に依存するので、電気化学的に活性なマーカーに及ぼすペプチドの影響が、温度によって変わることは、当業者は理解できる事柄である。また、当業者は、本発明の電気化学的技法を実践するに当たって、当該技法に最適な信号対雑音比が得られるような温度を選定することができる。そして、本発明に係る電気化学的技法が、加熱及び冷却を行える装置で実行される場合には、所望温度での測定は測定を行う温度条件の適当なポイントを選択して容易に手に入れることができる。
【0023】
電気化学的に活性なマーカーに関する情報は、ボルタノメトリー法又は電流滴定法によって得ることができる。差分パルスボルタノメトリー法は、特に好ましい。必要に応じて、電気化学的検出工程を、膜で被覆された1つ又はそれ以上の電極を使用して実施することができ、この場合、前記の膜は、サイズ、電荷、親水性などの1又はそれ以上の特性に基づいて複数の分子が選択的に排除する。膜付き電極を使用することで、液中の帯電したある種の種から生ずるノイス信号を排除することができる。
【0024】
適当な電気化学的に活性なマーカーには、部分的又は全体的な非局在化パイ電子を有する有機コンプレックスである金属炭素環式パイコンプレックスが包含される。適当なマーカーにはまた、2つの炭素環が平行であるサンドイッチ集団を含有する化合物、曲がったサンドイッチ化合物(角張った化合物)及びモノシクロペンタジエニル類が含まれる。好ましくは、電気化学的に活性なマーカーは、メタロセニル系標識であり、より好ましくは、フェロセニル系標識である。
【0025】
標識部分を好ましくは構成するフェロセン環又はメタロセン環は、置換されている必要はないが、必要に応じて、1つ又はそれ以上の置換基で置換されても差し支えない。置換基の種類と位置は、フェロセン又はメタロセン成分に所望の方法で影響が及ぶよう選択される。フェロセン環又はメタロセン環は、付加的に又は代替的に、標識の電気化学的感度を著しく減少させない環式置換基で置換されてもよい。フェロセニル系及びメタロセニル系標識は、有利には、N−置換フェロセン又はメタロセンカルボキサミドであるか、フェロセニルアミンであるか、メタロセニルアミンである。フェロセン又はメタロセンカルボキサミド成分は、カルボキサミドの窒素を介して、タンパク質又はペプチドを結合することができる。タンパク質又はペプチドとの連携は、適当な連鎖で、典型的には、アミノ酸側鎖で行われる。アミノ酸、ペプチド又はタンパク質のアミン基を介して連携する場合、その窒素原子は、カルボキサミド成分の窒素になることができる。連携がアミノ基、ペプチド又はタンパク質のカルボキシル基を介して行われている場合には、フェロセニルアミン又はメタロセニルアミン標識成分は、アミノ酸、ペプチド又はタンパク質のカルボキシル基に結合してフェロセニルアミド又はメタロセニルアミドになることができる。未標識化基質それ自体が、対象のプロテアーゼで加水分解可能な結合を含有していない場合、例えば、未標識化基質が単一アミノ酸である場合、電気化学的なマーカーと基質とは、その結合によって対象のプロテアーゼで加水分解可能な結合が生ずるように結合する必要がある。このような状況下において、基質の標識化は、基質のアミン反応性成分又はカルボキシル反応性成分との共有結合で行われる。タンパク質、ペプチド又はアミノ酸側鎖の誘導体化又はタンパク質、ペプチド又はアミノ酸末端成分の誘導体化には、いろいろな方法が開発されている。例えば、タンパク質中のリジン残基は、スルシンイミジルエステルとの反応により誘導体化される。ちなみに、システイン残基の誘導体化には、マレイミド試薬が使用可能である。N−ヒドロキシスクシンイミドエステルは、タンパク質又はペプチドのアミノ末端又は側鎖アミノ基の誘導体化や、アミノ酸のアミノ基の誘導体化に使用可能である。
【0026】
マーカーは、リンカーを介してタンパク質、ペプチド又はアミノ酸基質に結合させることができる。幾つかのリンカー成分が使用可能である。適当なリンカー成分には、脂肪族鎖が含まれ、その脂肪族鎖は直鎖状でも、分岐鎖状でもよく、飽和・未飽和も問わない。有利には、タンパク質を標識化する場合、リンカー成分は、炭素数4〜20の、好ましくは炭素数6〜16の、より好ましくは炭素数8〜14の、特に炭素数12の直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族鎖、例えば、アルキレン鎖である。このアルキレン鎖は、マーカーの電気化学的感度が実質的に減少しない限り、任意の置換基で置換されて差し支えなく、任意の原子又は成分が介在しても差し支えない。理屈に縛られたくはないが、タンパク質基質の三次構造がマーカーを立体的に妨害する程度は、リンカー成分によって軽減され、その逆も同様であるらしい。この理屈は次の実験事実と一致する。すなわち、実験結果によれば、基質が単一アミノ酸又は短ペプチド、例えば、トリペプチドであると、換言すれば、かなりの量の三次構造を持たない基質分子であると、リンカー成分の使用は一般に不要である。
【0027】
本発明で使用できるフェロセニル系標識の具体例は、式I、式II及び式IIIに示す標識である。式Ia及び式IIaは、式I及び式IIの標識が、それぞれペプチドのリジンアミノ酸残基の側鎖アミノ基に結合した状態を示している。式IIIaは、式IIIの標識がアミノ酸アラニンに結合していることを示している。式IIIbは、Ala-Ala-Alaのトリペプチドに式IIIが結合したものを示す。式IIIbから分かるように、アラニントリペプチドのあみの末端はアシル化されている。略号Acで示すアシル基は、トリペプチドの反応性アミノ末端を保護する目的で、式IIIbで示す分子を合成する過程でトリペプチドに添加される。本発明の標識化基質分子の幾つかを保護するために、BOC(ブトキシカルボニル)及びアシルのような保護基は、基質分子に添加する必要がある。このような保護基は、合成の後段で任意に取り除くことができる。しかし、状況によっては、上記のような保護基の存在が分析中の分子の有効性を実質的に減少させるものでない限り、保護基の残存が有利なこともある。
【0028】
【化1】
【化2】
【0029】
【化3】
【化4】
【0030】
【化5】
【化6】
【0031】
【化7】
【0032】
有意の二次構造を有するペプチド又はタンパク質基質を場合、標識成分と適当なタンパク質又はペプチドから出発する標識化タンパク質又はペプチドの合成は、タンパク質又はペプチドの完全な誘導体化を一般に結果しない。サイトの多くは溶液中で試薬に接近できない。例えば、BSAは60のリジン残基を含む(Hirayama, et al., Biochem. Biophys. Res. Commun,., 1990, 173, 639-646)。文献によれば、BSAをスクシンイミドエステルで標識化すると、BSA:標識の比は1:5から1:23の間にある(Jones, L.J.et al., Analitical Biochem., 1997, 251, 144-152 及びHiroaki,S. et al., Sensors and Acutuators B, 2000, 65, 144-146)。一般に、標識化合成の反応生成物は、多数の異なったマーカーを有するkとなった分子の混合物を含有する。平均標識数は、様々な分光法で算定することができ、例えば、紫外可視分光法で測定することができる。タンパク質分子当たりの標識数の分布は、質量分析法を利用してより正確に測定することができる。
【0033】
タンパク質又はペプチド上に存在するマーカー成分の正確な数は、本発明の分析法の成否には重要でない。感度を良好にするためには、各タンパク質又はペプチド分子上の概して数個のマーカー成分が存在していることが好ましい。しかし、基質が単一アミノ酸又は取りペプチドのような短ペプチドである場合には、各基質分子上のマーカー成分は、通常単一であっても充分である。事実、幾つかの小さい基質分子は、マーカー成分で標識化するのに適した基を1つ含有しているだけで差し支えない。特定なアミノ酸配列だけを開裂する酵素による分析では、マーカー成分を開裂部位に比較的近くに位置させ、開裂の影響がマーカーの周囲の状況に即座に作用し、マーカーの電気化学的特性が影響を受けるようにすることが好ましい。標識化した短い合成ペプチドと、標識化した単一のアミノ酸は、ある種のプロテアーゼ分析、特に、アミノペプチダーゼ及びエンドペプチダーゼのような酵素分析において、好ましい基質タイプである。一般に、BSAやカゼインのような大きなタンパク質の標識化物は、一般的なプロテアーゼ活性の分析に使用するのが好ましい。大きなタンパク質は、通常、様々な開裂踏み越し段を持ち、そのなかには分析サンプル中の多くのプロテアーゼによって認識できる踏み越し段が含まれるからである。
【0034】
短ペプチドの使用は、特定なプロテアーゼ又はその類のみに特定な認識配列だけを含有する基質の合成を可能にするので好ましい。例えば、Ala-Ala-Phe又はAla-Ala-Pro-Pheの短ペプチド配列が導入され、好ましくはこれ以外の配列を殆ど又は全く含有しない基質は、キモトリプシン活性の特異的検定に使用可能である。別の例として、ロイシンアミノペプチダーゼ(LAP)は、遊離のアミノ基近傍のペプチド結合を加水分解するエキソペプチダーゼ(タンパク質分解酵素)である。この酵素はロイシン残基の隣のペプチド結合に対し選択性を示す。血清中及び尿中のLAPの上昇は、幾つかの臨床症状に見られ、例えば、胆汁うっ滞、肝硬変、肝壊死、肝腫瘍、乳癌、子宮内膜癌、卵巣癌、全身性エリテマトーデス、卵巣及び睾丸の胚細胞腫瘍などの病態に見られる。N−末端アラニン残基を含む短ペプチドからなる基質又は標識化アラニンアミノ酸からなる基質、例えば、式IIIaに示す基質は、上記した病態の一つを診断する目的で、血清サンプル及び尿サンプルについてLAPの上昇を判定するのに使用できる。
【0035】
血清における特定なプロテアーゼ濃度が上昇する他の病態には、血清中の腺性カリクレン−2プロテアーゼ濃度が増大する前立腺癌(Nam et al., J. Clin. Oncol. (2000) 18(5): 1036-42参照)、前立腺特異抗原の上昇を伴う前立腺癌及び乳腺癌がある(Black et al., Clin. Cancer. Res. (2000)6(2):467-73参照)。
【0036】
多くのプロテアーゼの生体内基質は、数百のアミノ酸残基を含有するタンパク質である。
実物大のペプチドの基質類似体、すなわち、元の基質と同じ又は相似の長さにある基質類自体も、場合によっては有用である。例えば、天然に存する基質に良く似た長さの類似体は、短い類似体よりも、(安定性とか、立体特性とかの点で、天然基質に良く似た性質を持つものと思われ、従って、天然基質の性質をより正確に再現するものと思われる。
【0037】
多くの場合、完全長タンパク質を使用することは必須ではない。本発明の一具体例によらば、ペプチドは少なくとも5個の、より好ましくは少なくとも20個のアミノ酸残基を持っていることが好ましい。ちなみに、ペプチドは20〜100個のアミノ酸残基を含有し、最も好ましくは、ペプチドは20〜50個のアミノ酸残基を含有する。別の具体例では、基質は好ましくは単一アミノ酸分子からなる。さらに別の具体例によれば、基質は、プロテアーゼ認識配列以外の配列を殆ど又は全く持たないペプチドからなる。この認識配列は、多くの場合、アミノ酸残基が2〜6個、より好ましくは3個の長さにある。実際には、ペプチドの長さは、問題の酵素について少なくとも1つの開裂サイトがその鎖長中に含まるように選択される。好ましくは、ペプチドは問題の酵素について1つの異なる開裂サイトを有する。例えば、ファクターXaプロテアーゼは、その基質中に認識配列Ile-Glu-Gly-Arg の存在を必要とする。1つ以上の開裂サイトを有するペプチドも、利用可能であって、例えば、一般的なプロテアーゼ活性のスクリーニングに基質を使用する場合に使用可能である。
【0038】
本発明の方法は、未知のサンプルのプロテアーゼ活性を定性的に測定する場合に利用することができる。プロテアーゼ活性の量は、例えば、標準溶液で得られる検量線を用いて定量可能である。もしあるサンプル中のプロテアーゼの身元が知られていれば、プロテアーゼの濃度を算出できる。
【0039】
本発明はまた、プロテアーゼの分析用具を提供するものでもあって、その用具は、電気化学的に活性なマーカーで標識化されたプロテアーゼ基質を含むほか、例えば,適当な溶液からなる試薬を含む。さらにこの用具には、プロテアーゼ測定を実行するための説明書を含む。
【0040】
本発明はまた、新規な電気化学的に活性な、標識化されたタンパク質又はペプチドを提供する。第1の具体例において、本発明は式IVで示される化合物を提供する。
Mc-NR'-C(=O)-X-(Ar)n-(L)m-R IV
式中、Mcは各リングが独立に置換又は未置換で差し支えないメタロセニル基であり、メタロセニル基の金属イオンMは、鉄、クロム、コバルト、オスミウム、ルテニウム、ニッケル及びチタンからなる群から選ばれ、
R'は、水素又は低級アルキル基であり、
Xは、NR'又はOであり、
Arは、置換された又は置換されていないアリール基であり、
nは、0又は1であり、
Lは、リンカーであり、
mは、0又は1であり、
Rは、タンパク質、ペプチド又はアミノ酸残基である。
【0041】
第2の具体例では、アミノ酸残基、ペプチド又はタンパク質のカルボキシル基に結合したメタロセニル基を含有する化合物を、本発明は提案する。このカルボキシル基は、末端基でもよく、側鎖カルボキシル基でも差し支えない。
【0042】
好ましくはこの化合物は式Vで示される。
Mc-(CH2)n-X-R V
式中、Mcは各リングが独立に置換又は未置換で差し支えないメタロセニル基であり、メタロセニル基の金属イオンMは、鉄、クロム、コバルト、オスミウム、ルテニウム、ニッケル及びチタンからなる群から選ばれ、
nは1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11又は12であり、
Xは、NR'又はOであり、
Rは、タンパク質、ペプチド又はアミノ酸残基である。
【0043】
式IV又は式VのMc基を含むメタロセン基(例えば、フェロセン基)は、アルキル基(例えば、C1〜C4アルキル基)、ヒドロキシ、ハロ、シアノ、オキソ、アミノ、エステル又はアミド、あるいは別のメタロセン基で置換された低級アルキル基、低級アルケニル基、ヒドロキシ、ハロ、シアノ、オキソ、アミノ、エステル又はアミド、あるいは別のメタロセン基で置換された低級アルケニル基、アリール基、ヒドロキシ、ハロ、シアノ、オキソ、アミノ、エステル又はアミド、あるいは別のメタロセン基で置換されたアリール基から選択される1つ又はそれ以上の基で置換されて差し支えない。別のメタロセン基が存在する場合、そのメタロセン基は、本発明の分子の全Mc基数が4個を超えない以外は、Mc基と同じように置換されて差し支えない。好ましくは、Mc基は非置換である。
【0044】
Mは、好ましくは鉄、オスミウム及びルテニウムから選ばれ、鉄であることが最も好ましい。Mが鉄の場合、Mcはフェロセンである。
低級アルキル基は、C1〜C4アルキルであり、好ましくはR'は水素であり、各R'は他のR'とは身元を異にする。
好ましいXはNHである。
【0045】
式IVのAr基は、好ましくは、少なくとも5個、例えば5〜10個の環炭素原子を持ち、C6アリール基であることが好ましい。このAr基は、低級アルキル基(例えば、C1〜C4アルキル基)、ヒドロキシ、ハロ、シアノ、オキソ、アミノ、エステル又はアミドで置換された低級アルキル基、低級アルケニル基、ヒドロキシ、ハロ、シアノ、オキソ、アミノ、エステル又はアミドで置換された低級アルケニル基、アリール基、ヒドロキシ、ハロ、シアノ、オキソ、アミノ、エステル又はアミドで置換されたアリール基で置換されていてよい。好ましくは、Ar基は非置換である。例えば、Arはフェニレン基であって差し支えない。
式IVにおいて、好ましくはn=1であり、m=1である。式IVの化合物の好ましい一例は、n=1であり、かつm=1である化合物である。
【0046】
式IVの化合物における適当なリンカー(式IVではL示される)には、タンパク質のアミノ基を隣のAr基又はX基とそれぞれ連結させるのに適した成分がいずれも含まれ、当該成分の選択は、当業者の常套的事項である。例示的に示せば、リンカーLはカルボニル基であってよく、直鎖状又は分岐鎖状の飽和又は不飽和脂肪族鎖であってもよい。好ましくは、リンカー成分は、炭素原子を1〜20個、好ましくは少なくとも4個、より好ましくは6〜16個、特に8〜14個、とりわけ12個有する線状又は分岐状脂肪族鎖である。リンカー成分は、アルキレン基であってよく、そのアルキレン基は、置換基が標識の電気化学的感度を減殺しない限り、当該置換基で置換されていても差し支えなく、また、原子や成分が、標識の電気化学的感度を減殺しない限り、当該原子や成分が炭素鎖に介在するアルキレン基であっても差し支えない。
【0047】
特に好ましい例は、式IIa、式IIIa及び式IIIbで示す化合物である。
ちなみに、Rは、アミノ酸残基3個の長さのペプチド、アミノ酸2〜40個のペプチド、又はアミノ酸40〜1000個のペプチドであって差し支えない。別の例では、Rはアミノ酸である。好ましくは、Rはプロテアーゼ用の基質であるタンパク質である。好ましい具体例において、RはBSA又はカゼインである。他の適当なプロテアーゼ基質は、ゼラチン、エラスチン、コラーゲン及びオボアルビミンなどがそれぞれ蛍光標識されたものを包含し、これらは、Molecular Probes, Incから入手可能である。
さらに言えば、Rは天然の又は合成のアミノ酸であってもよい。
【0048】
本発明に係る標識化基質の或る種類では、標識成分は、タンパク質のペンダント側鎖に含まれるアミノ基に、好ましくは、ペンダント側鎖の遊離アミノ酸末端に結合する。この側鎖は、天然アミノ酸の側鎖であってよい。従って、上記の式IIaにおける-NH-(CH2)4-は、リシンにもともと存在するNH2(CH2) 4-から導かれる。しかし、適当なペンダント側鎖は、必要に応じて、タンパク質の適当な部位に人工的に導入することも可能である。
【0049】
本発明に係る標識化基質の別の種類では、標識成分は、タンパク質のペンダント側鎖に含まれるカルボキシル基に、好ましくはペンダント側鎖の遊離のカルボキシル末端に結合する。この場合の側鎖は、天然のアミノ酸の側鎖であって差し支えない。しかし、基質のペンダント側鎖は、必要に応じて、タンパク質の所望の位置に人工的に導入することもできる。
【0050】
上記の式IIaで示される標識化タンパク質の一つは、Mcがフェロセニル基であり、R'が水素であり、Xが-NH-であり、Arがフェニレン基であり、Lがカルボニル基であり、n=m=1であり、Rがタンパク質であって、そのタンパク質が、リシン残基のペンダント側鎖を介してタンパク質の基幹部に、標識成分が結合したものである。
【0051】
本発明に係る標識化基質の他の一つでは、マーカー成分がタンパク質又はアミノ酸の末端アミノ基で結合することができ、その場合、リンカーLは、最小4個の炭素原子を持つことが通常好ましく、好ましくは、標識化タンパク質内で末端アミノ基と結合してカルボキサミン成分を形成するカルボニル基を、リンカーは含有する。
【0052】
標識化基質の別の一つでは、マーカー成分がタンパク質又はアミノ酸の末端カルボニル基で結合することができる。さらに別の標識化基質では、マーカー成分がペンダント側鎖で結合することができ、当該側鎖はタンパク質の基幹に既に人工的に結合され、その場合のLは、炭素数が最小4個の炭素鎖の末端又は炭素鎖の途中に、カルボキサミド成分を持つ。
【0053】
本発明の化合物は、2つ以上のメタロセン基を含むことができる。典型的には、数個のメタロセン基が同じタンパク質又はペプチドに結合している。例えば、BSAの場合、BSA分子当たり10〜20のメタロセン基が存在する。本発明の化合物では、メタロセン基は、電気化学的に活性な別のマーカーで置換することができる。本発明の化合物は、部分的な開裂が起こった後に、電気化学的に活性な化合物であるか、電気化学的に活性になる化合物である。
【0054】
標識化基質が比較的小型である場合、例えば、基質が単一アミノ酸又は取りペプチドのような短ペプチドである場合には、複数のマーカー成分を含有することは必要でなく、基質にとって適当でもない。
【0055】
本発明の化合物は、タンパク質、ペプチド又はアミノ酸に、適当な官能基を備えたメタロセン化合物を反応させることで調製することができる。
ちなみに、メタロセンのN-ヒドロキシサクシンイミドエステル誘導体が使用可能である。ペプチドを標識化する際に、こうした化合物を使用する場合の詳細は、実施例2、実施例3及び実施例4aに記される。N-ヒドロキシサクシンイミドエステルは、リシン側鎖にマーカーを連結させるのに適している。このほか、メタロセンメチルアミン、例えば、フェロセンメチルアミンも使用可能である。アミノ酸及びペプチドを標識化する際に、こうしたアミンを使用する場合の詳細は、実施例4b及び実施例4cに記されている。しかし、類似の標識が、適当な標識化官能基を使用して、ペプチドの適当な側鎖に連結できることは、当業者には自明である。
【0056】
本発明の化合物は、本発明の方法に特に有用である。表1に示す条件のもとで、置換フェロセンカルボン酸は、約400mVの電極電位を持つ。一方、本発明に係る置換メタロセン化合物は、約150mVの電極電位を持つ。電位が低いことは、収集データへの不純物の影響が小さくなることを意味する。従って、本発明の化合物は、感度の高い測定を可能にする。図12には、4−(3‘−フェロセニルウレイド)−1−ベンゾイルで標識化したBSA分子の消化ボルタモグラフが示され、図3には、フェロセニル標識化BSA分子の同じ条件における消化ボルタモグラフが示されている。図12(c)と図3(c)との対比から明らかなように、フェロセン成分を有する4−(3‘−フェロセニルウレイド)−1−ベンゾイル誘導体のピークは、およそ100mVであるのに対し、フェロセニル誘導体のピークは、およそ400mVである。
【0057】
本発明はまた、被験者の疾病を診断する方法を提供するものであって、その診断方法では、被験者の体液又は組織の疾患と関連するプロテアーゼ又はプロテアーゼ阻害剤の検出に、本発明の方法が利用される。
さらに、本発明は、被験者の疾病検出に、本発明の方法を利用することを提案する。
【0058】
被験者の組織にプロテアーゼ又はプロテアーゼ阻害剤が存在することに関連する疾病には、血清中のアンチトロンビンIIIの欠乏又は欠陥に原因する血栓塞栓症に罹りやすい遺伝的素因がある。血清又は細胞外マトリックスのカプテシン量の増大は、アルツハイマー病、癌又は関節炎の兆候であり得る。被験者の組織又は体液は、好ましくは、血清、血漿、唾液、尿などであり、そのほかには、簡単かつ安全にサンプルが採取できる組織又は体液がある。
【0059】
さらにまた本発明は、病原体やその他の望ましくない生物、例えば、食品を腐敗させる生命体を検出する方法を提供し、その方法では、サンプル中の病原体などに関連するプロテアーゼ又はプロテアーゼ阻害剤を検出するのに、本発明の方法が利用される。本発明はまた、サンプル中の病原体などを検出するために、本発明方法の利用を提案する。例えば、コクリオボラス・ヘテロストロファス(Cochiobolus hererostrophus)は、トウモロコシの葉の斑点病病原体であって、この病原体は、トウモロコシ葉中の特定なプロテアーゼを検出することで、診断可能である。その他の多くの病原体も、特有のプロテアーゼと密接な関係を持ち、そうした酵素を例示すれば、アウペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)に感染したヒト肺液中のセリン・プロテアーゼAlp、HIV-1に感染したヒトの白血球中のHIV-1プロテアーゼPTなどがある。
【0060】
本発明はまた、プロテアーゼ阻害剤のスクリーニング法を提供する。この方法は、臨床的に関心がある新規化合物の同定するために、推定プロテアーゼ阻害剤をスクリーニングする場合に利用することができる。
【0061】
本発明はさらに、この明細書に記載した幾つかの方法の一つ又はそれ以上を実行できる装置を提供する。その装置は、適当な電極と、電気化学的セルと、使い捨て可能なプラスチック容器と、検出し、記録し、操作し、結果を表示するための装置を含む。
【0062】
本発明に係る装置は、一つ又はそれ以上のサンプルを受け入れるためのサンプル受け入れ領域と、サンプル受け入れ領域の温度を調節するための装置と、サンプルの温度を調節するための装置を含む。このような装置は、通常の電極セル(例えば、後述する実施例で使用するようなセル)を利用して組み立ることができる。
【0063】
本発明はまた、一つ又はそれ以上のサンプルを保有するサンプル受け入れ領域を、2つ以上備えた容器を提供する。このような容器は、多くの分子生物学的用途に現在使用されているようなポリプロピレンチューブ製出会ってよく、また96-ウエルプレートに準拠していて差し支えない。理想的には、そうした容器は、少なくとも一つの電極成分を受け入れるようになっている。この電極成分は、例えば、容器の蓋の一部として配置させることができ、それで容器を閉めたときには、電極成分がサンプル溶液に漬かるようにすることができる。従来常用されている電気化学的セルは、比較的高価であるので、使い捨てであるとしては扱われてはいない。使い捨て可能なプラスチック製容器の利用は、サンプルが汚染されるリスクが軽減されることから、分子生物学の分野では普通になっている。
【0064】
以下に、添付図面を参照して本発明の幾つかの具体例を説明する。
図1において、この明細書に記載する周期的なボランメトリー実験に使用に適する電気化学的セル1は、塩化ナトリウムの100mM水溶液であるバックグラウンド電解質溶液3が収容された容器2を備えている。電解質溶液3には、試験に供されるサンプルを収めた試験槽4が浸漬され、サンプル中には、ガラス状炭素の作用電極5が挿入されている。作用電極には、ガラス状炭素電極に代えて、金電極を使用することもできる。電解質溶液3には、さらには、白金線の対電極6と、4Mの塩化カリウム溶液に浸漬された銀/塩化銀参照電極7が浸漬され、上記の溶液は焼結ディスクを介して連通する。
【実施例】
【0065】
以下に実施例を示す。
材料及び手法−フェロセニル化BSAの調製と分析
ウシ血清アルブミン(凍結乾燥粉末、約90%)、カゼイン(牛乳、精製粉末)、ブタ膵臓トリプシン(1120 BASEユニット/mg、固体)、タイプIIウシ膵臓α−キモトリプシン(51ユニット/mg、固体)、ブタ胃粘膜ペプシン(632ユニット/mg、固体)、バキラス・サーモプロテリティカス・ロッコ(Bacillus thermoproteolyticus rokko)サーモリシン(44ユニット/mg、固体)、トリチラチウム・アルブ・プロテイナーゼK(33ユニット/mg、固体)、パパイヤラテックスパパイン(14ユニット/mgタンパク質、99%)、タイプI-S大豆トリプシン阻害因子、アミノペプチダーゼ(50〜150ユニット/mgタンパク質)及びエラスターゼ(50ユニット/mg以上タンパク質)は、シグマから得た。
【0066】
フェロセンカルボン酸は、Aidrich Chemical Co.から得た。
重炭酸カリウム()、炭酸カリウム(ミニマム99%)及びジメルスルホキシド(ACS試薬、ミニマム99.9%)は、シグマから得た。
【0067】
NAP10カラム(G25 DNAグレードのセファデックスは、Amersham Biosciencesから得た。トリズマ塩酸塩()、トリズマ塩基(99+%)、塩化ナトリウム(シグマウルトラ、ミニマム99.5%)、酢酸ナトリウム(分子生物学グレード)、エチレンジアミンテトラ酢酸テトラナトリウム塩(シグマウルトラ、ミニマム99.0%)、水酸化ナトリウム(シグマウルトラ、ミニマム98%)、DL-カゼイン塩酸塩(ミニマム98%)、塩酸及び分子生物学グレードの水は、シグマから得た。染料のポンソーS(実用グレード)、過硫酸アンモニウム(電気泳動グレード)、N,N,N',N'-テトラメチレンエチレンジアミン(TEMED)、アクリルアミド/ビスーアクリルアミド(37.5:1)の30%溶液並びにEZブルーゲル染色試薬は、シグマから得た。酢酸(氷酢酸、99.99+%)は、Aidrich Chemical Co.から、イソプロパノールは、Haymanから、バイオダインC膜は、Pall Life Sciencesからそれぞれ得た。
培養は、PTC-100プログラマブルサーモコントローラ(MJ Research Inc)を使用して行った。
全ての溶液は、加圧脱イオン水(WaterPro system, Labconco)で調製した。
【0068】
材料及び手法−電気化学的検出
下に示すものは全てBAS, Congleton, Cheshire UKから得た。
ガラス質炭素作用電極(カタログナンバーMF-2012)
銀/塩化銀参照電極(カタログナンバーMF-2079)
白金線対電極(補助電極)(カタログナンバーMF-4130)
また、オートラボ電気化学的ワークステーションは、周波数特性分析装置付きのPGSTAT30も、μオートラボタイプIIも、Windsor Scientific, Slough, Berkshireから得た。
【0069】
実施例1−周期的ボルタンメトリー
この実施例は、下に示す実施例5〜11で使用する周期的ボランメトリー法を記述する。
図1に示す小容量のセルを、約10mlの塩化ナトリウム溶液(100mM)で満たし、200アリコートの分析用サンプルをガラス製試験槽に収め、これを参照電極及び対電極と共に前記の小容量セル内に設置した。電極群をオートラボ電気化学的ワークステーションに接続し、表1に示すパラメーターを採用して差分パルスボルタンメトリーを実行した。分析に先立ち、ガラス質カーボン作用電極を研磨し(BSA研磨具、カタログナンバーMF-2060を使用)、次いでコンディショニングを行った。電極のコンディショニングは、周期的なボルタンメトリーと、適当な緩衝液中でのスウィーピングとからなる。
【0070】
【表1】
【0071】
実施例2−フェロセンカルボン酸のN―ヒドロキシサクシンイミドエステルの合成
フェロセンカルボン酸(303mg, 1.32mmol)とN−ヒドロキシサクシンイミド(17.mg, 1.47mmol)をジオキサンに溶かし、攪拌しながらジシクロヘキシルカブボジイミド(305mg, 1.48mmol)のジオキサン(3ml)溶液に加えた。この混合物を室温で24時間混合した。この混合時間中に沈殿物が形成された。この沈殿物を濾別し、真空中で濾液から溶媒を除去し、得られた固体をシリカゲルカラムクロマトフラフィーで精製した。溶離液には、ガソリン:酢酸エチル=8;2のものを使用した。
【0072】
実施例3a―フェロセンカルボニルアジドの合成
フェロセンカルボニルアジドは、フェロセンカルボン酸を塩化オキサリル及びアジ化ナトリウムを反応させて調製した。
実施例3b−4−(3'―フェロセニルウレイド)−1−安息香酸の合成
【化8】
【化9】
【0073】
洗浄した丸底フラスコに、フェロセンカルボニルアジド(300mg,1.18mmol,1.00equiv.)、4−アミノ安息香酸(244mg,1.78mmol,1.50equiv.)及び1,4−ジオキサン(40ml)を窒素雰囲気下で収めた。この反応混合物を100℃浴の窒素雰囲気で2時間50分攪拌し、次いで室温に冷却した。2Mの塩酸(100ml)をこの反応混合物に加え、生成物を酢酸エチル(150ml)に抽出した。この相を2Mの塩酸(100ml)で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、真空中で濃縮して生成物とした。これを真空炉でさらに乾燥し、オレンジ結晶を得た(413mg, 96%)。
1H-NMR δ (300MHz, d6-DMSO) 3.96 (2H, b, Hc), 4.14 (5H, s, Ha), 4.53 (2H, b, Hb) 7.54 (2H, m, Hf), 7.85 (2H, m, Hg), 7.98 (1H, s, Hd), 8 87 (1H, s, He), 12.57 (1H, s, Hb), ここで、各水素の位置は式VIa に示される。 13C-NMR δ (75.5MHz, d6-DMSO) 61.0 64.1 66.7 68.1 (Ca,d), 117.2 (Cg), 123.5 (Cj), 130,9 (Ch), 144.6 (Cf), 152.8 (Ce), ここで、各炭素の位置は、式VIbで示される。
【0074】
実施例3c−4−(3'―フェロセニルウレイド)−1−安息香酸のN―ヒドロキシスクシンイミドエステルの合成
ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)(194mg, 0.936mmol, 1.14当量)を無水の1,4−ジオンキサン(2ml)に溶かし、窒素雰囲気下で清浄な丸底フラスコに注ぎ、さらにN−ヒドロキシスクシンイミド(108mg, 0.939mmol, 1.14当量)を加えた。4−(3‘−フェロセニルウレイド)−1−安息香酸(300mg, 0.823mmol, 1.0当量)を無水の1,4−ジオンキサン(13ml)に溶かし、これをフラスコに滴下した。溶液を室温で23時間攪拌した。ブフナー漏斗を用いて赤色/橙色の反応混合物から少量の薄茶色の固形物を取り除いた。反応混合物に、水(100ml)と酢酸エチル(50ml)を注いだ。酢酸エチル相を分離し、水相を酢酸エチル(100ml)で抽出した。2つの酢酸エチル相を混合し、硫酸ナトリウムで乾燥し、真空中で濃縮して租生成物を橙色オイルとして得た。これをシリカフラッシュクロマトグラフィーにて、溶離液勾配酢酸エチル/石油エーテル(沸点40-60℃)=60/40の混合物から、酢酸エチルへの溶離液勾配システムで精製した。次いで、真空オーブンで乾燥し、細かい橙色結晶として、4−(3'―フェロセニルウレイド)−1−安息香酸のN―ヒドロキシスクシンイミドエステルを得た(273mg, 66%)。
Rf(5:1 酢酸エチル/石油エーテル(bp 40-60oC) = 0.41、 1H-NMR δ (300MHz, d6-DMSO) 2.88 (4H, s, Hh), 3.98 (2H, t, J = 1.8 Hz, Hc), 4.16 (5H, s, Ha), 4.55 (2H, t, J = 1.8 Hz, Hb), 7.68 (2H, m, Hf), 8.00 (2H, m, Hg), 8.11 (1H, s, Hd), 9 16 (1H, s, He)、 13C-NMR δ (75.5MHz, d6-DMSO) 25.9 (Cl), 61.1, 64.2 (Cb and Cc), 69.1 (Ca), 117.7 (Cg), 131.9 (Ch), 170.9 (Ck). MS (FAB+ m/z) 462.07 [M+H].
【0075】
実施例4a−フェロセニル化プロテインの合成
次の略号をここで使用した。
―Fc= フェロセンメタノイル基、例えば、Fc−OHは、フェロセンカルボン酸であり、Fc−NHRは、フェロセンメチルアミド化合物である。
―FcU=4−(3'―フェロセニルウレイド)−1−ベンゾイル基、例えば、FcU―OHは、4−(3'―フェロセニルウレイド)−1−安息香酸であり、FcU―NHRは、4−(3'―フェロセニルウレイド)−1−ベンザミド化合物である。
―BSA=ウシ血清アルブミン
全てのフェロセン標識化タンパク質の合成には、同じ基本手順を採用した。一例として、Fc−BSAの合成を記載する。
正確な容量のK2CO3/KHCO3緩衝液(200mM, pH 8.5)に、凍結乾燥したBSAを分散させて濃度10mg/mlのBSA溶液を得た。この溶液を攪拌下にある溶液、すなわち、フェロセンカルボン酸N―ヒドロキシスクシンイミドエステルのDMSO(100μl,375mM)溶液に徐々に添加した。得られた混合液を2時間室温で振盪し、次いでトリス延酸塩(800μl,100mM, pH 7.8)で希釈し、2つのNAP10 カラムを使用して精製した(以下、手順書に従う)。溶離には、最初にトリス塩酸塩(800μl,100mM, pH 7.8)を使用し、次いで脱イオン水を使用した。
【0076】
BSA濃度は、BSA標準濃度と紅色S染色を利用して細胞ホルモンC膜へのブロッティングで測定した。それによれば、BSA濃度は、0.3〜0.6mg/mlであることが分かった。フェロセン標識の存在は、ボランメトリック分析によって確認した。
FcU−標識化タンパク質は、同様な方法で調製した。
各標識化BSA分子におけるフェロセン基の平均存在数は、UV−可視スペクトルで分析した。上記の手順で調製したFc−BSA接合体のUV−可視スペクトルを、比が異なる様々なFc/BSAのスペクトルと比較した。これらを重ねたスペクトルを図2に示す。図2において、描線Aはサンプルのスペクトルであり、BはBSA:Fc−OH=20:1のスペクトル、CはBSA単独のスペクトル、DはFc−OH単独のスペクトル、そしてEはBSA:Fc−OH=10:1のスペクトルである。これらのデータから、BSA1分子当りに存在するフェロセン分子の数は、10から20の範囲にあると推定される。
【0077】
実施例4b−フェロセニル化アラニンの合成(Fc−Ala,式IIIa)
2当量のEDCL(1−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]−3−エチルカルボジイミド塩酸)を、激しく攪拌されている懸濁液、すなわち、乾燥したDCM(ジクロロエタン、塩化メチレン)に、2.1当量のDMAP(4−(N,N−ジメルアミノ)ピリジン)とフェロセンメチルアミンとBoc-Ala−OH(N−Boc−アラニン)を加えた懸濁液に、窒素雰囲気で添加した。この反応混合物を一晩攪拌した後、DMCで希釈し、1Nの塩酸中に注いだ。成相を分離し、有機相を硫酸マグネシウムで乾燥して濾過し、溶媒を除去した。
【0078】
実施例4c−フェロセニル化トリアラニンペプチドの合成(Fc-Ala-Ala-Ala,式IIIb)
Ac-Ala-Ala-Ala-OHはシグマアルドリッチ(Sigma-Aldrich)から得た。
2当量のEDCL(1−[3−(ジメチルアミノ)プロピル]−3−エチルカルボジイミド塩酸)を、激しく攪拌されている懸濁液、すなわち、フェロセンメチルアミンと、Ac-Ala-Ala-Ala-OH(末端アミノ基をアセチル化したトリアラニン)と、2.1当量のDMAP(4−N,N−ジメチルホルムアミド)からなる懸濁液に、窒素雰囲気で添加した。この反応物を一晩攪拌した後、これにメタノールを添加し、CHCl3を使用して生成物を沈殿させて遠心分離し、上澄み液をデカンテーションで除き、さらにCHCl3で洗浄した。アセチル化末端アミノ基の脱保護は、起こらなかった。
【0079】
実施例5−プロテアーゼ分析
プロテアーゼ分析は、特に断らない限り次のように行った。凍結乾燥した各酵素を、濃度10mg/mlになるよう再分散させた。再分散に使用した溶液は、次のとおりである。トリプシン、α―キモトリプシン及びペプシン用には、HCl溶液(1mM, pH 3.0)を使用し、プロテイナーゼK、エラスターゼ、パパイン、カルボキシペプチダーゼ及びサーモリシン用にはNaCl(100mM)を使用した。反応1回あたり、75μlのFc-BSA溶液(0.3〜0.6mg/ml)を使用した。各反応は次の緩衝液(最終濃度を示す)中において、全容量200μlで行った。トリプシン、α―キモトリプシン、サーモリシン及びプロテイナーゼKには、100mMのトリス塩酸塩、pH7.8を、エラスターゼには、100mMのトリス塩酸塩、pH8.5を使用し、パパインには、200mMの酢酸ナトリウムと200mMのシステインと20mMのEDTAを、ペプシンには、10mMのHCl、pH2.0を使用し、カルボキシペプチダーゼには、500mMのNaClを使用した。2μlの酵素(10mg/ml)を200μlの反応混合物に添加した。サンプルを37℃で1時間培養した。反応性生物は、実施例1で記載した差分パルスボルタンメトリー法で分析した。
データ提示
ベースライン修正データは、生データに重ねて表示されている。ベースライン修正データは、GPESマネージャー(Ecochemi BV, Utrecht, Netherlands)を使用し、データ編集メニューからベースライン修正を選択し、最小ピーク幅0.003Vで移動平均を選択して得た。
【0080】
実施例5A−トリプシンによるFc−BSAの消化
トリプシンによるFc−BSAの消化は、上記したように行った。その差分パルスボルタンメトリー記録を、図3(a)〜図3(c)に示す。図3(a)は消化された生成物の掃引線であり、図3(b)はトリプシンのない対照生成物の掃引線であり、図3(c)はベースラインを修正した(a)及び(b)から得たデータを示す。陽性反応は435mVにピーク位置を持ち、ピーク高さは4.58×10−7Aであるのに対し、対照反応でのピーク位置は432mVであり、ピーク高さは2.55×10−8Aである。
図3から分かるように、435mVで観察される電流は、電気化学的マーカーを付したタンパク質の消化の18倍を越えている。
【0081】
実施例5B−α−キモトリプシンによるFc−BSAの消化
−α−キモトリプシンによるFc−BSAの消化は、上記したように行った。その差分パルスボルタンメトリー記録を、図4(a)〜図4(c)に示す。図4(a)は消化された生成物の掃引線であり、図4(b)はα−キモトリプシンのない対照生成物の掃引線であり、図4(c)はベースラインを修正した(a)及び(b)から得たデータを示す。陽性反応は438mVにピーク位置を持ち、ピーク高さは4.48×10−7Aであるのに対し、対照反応でのピーク位置は432mVであり、ピーク高さは2.55×10−8Aである。
【0082】
実施例5C−エラスターゼによるFc−BSAの消化
エラスターゼによるFc−BSAの消化は、上記したように行った。その差分パルスボルタンメトリー記録を、図5(a)〜図5(c)に示す。図5(a)は消化された生成物の掃引線であり、図5(b)はエラスターゼのない対照生成物の掃引線であり、図5(c)はベースラインを修正した(a)及び(b)から得たデータを示す。陽性反応は430mVにピーク位置を持ち、ピーク高さは2.57×10−7Aであるのに対し、対照反応でのピーク位置は432mVであり、ピーク高さは2.55×10−8Aである。
【0083】
実施例5D−ペプシンによるFc−BSAの消化
ペプシンによるFc−BSAの消化は、上記したように行った。その差分パルスボルタンメトリー記録を、図6(a)〜図6(c)に示す。図6(a)は消化された生成物の掃引線であり、図6(b)はペプシンのない対照生成物の掃引線であり、図6(c)はベースラインを修正した(a)及び(b)から得たデータを示す。陽性反応は537mVにピーク位置を持ち、ピーク高さは8.90×10−7Aであるのに対し、対照反応でのピーク位置は522mVであり、ピーク高さは4.19×10−8Aである。
【0084】
実施例5E−カルボキシペプチダーゼによるFc−BSAの消化
カルボキシペプチダーゼによるFc−BSAの消化は、上記したように行った。その差分パルスボルタンメトリー記録を、図7(a)〜図7(c)に示す。図7(a)は消化された生成物の掃引線であり、図7(b)はカルボキシペプチダーゼのない対照生成物の掃引線であり、図7(c)はベースラインを修正した(a)及び(b)から得たデータを示す。陽性反応は435mVにピーク位置を持ち、ピーク高さは1.31×10−7Aであるのに対し、対照反応でのピーク位置は427mVであり、ピーク高さは6.86×10−8Aである。
【0085】
実施例5F−37℃におけるサーモリシンによるFc−BSAの消化
サーモリシンによるFc−BSAの消化を、37℃の培養温度で上記したように行った。その差分パルスボルタンメトリー記録を、図8(a)〜図8(c)に示す。図8(a)は消化された生成物の掃引線であり、図8(b)はサーモリシンのない対照生成物の掃引線であり、図8(c)はベースラインを修正した(a)及び(b)から得たデータを示す。陽性反応は429mVにピーク位置を持ち、ピーク高さは1.62×10−8Aであるのに対し、対照反応ではピークが認められなかった。
【0086】
実施例5G−70℃におけるサーモリシンによるFc−BSAの消化
サーモリシンによるFc−BSAの消化を、70℃の培養温度で上記したように行った。その差分パルスボルタンメトリー記録を、図9(a)〜図9(c)に示す。図9(a)は消化された生成物の掃引線であり、図9(b)はサーモリシンのない対照生成物の掃引線であり、図9(c)はベースラインを修正した(a)及び(b)から得たデータを示す。陽性反応は455mVにピーク位置を持ち、ピーク高さは2.0×10−8Aであるのに対し、対照反応ではピークが認められなかった。
【0087】
実施例5H−トリプシンによるBSAの消化
トリプシンによる未標識BSAの消化は、上記した未標識分子に関する方法と同じ方法で行った。その差分パルスボルタンメトリー記録を、図10(a)〜図10(b)に示す。図10(a)はトリプシンのない対照生成物の掃引線であり、図10(b)はトリプシンBSA反応物の掃引線である。どちらの反応生成物溶液にもピークは認められなかった。
【0088】
実施例5I−トリプシンによるFcU−BSAの消化
トリプシンによるFcU−BSAの消化は、上記した方法で行った。その差分パルスボルタンメトリー記録を、図11(a)〜図11(c)に示す。図11(a)は消化生成物の掃引線であり、図11(b)はトリプシンのない対照生成物の掃引線であり、図11(c)はベースラインを修正した(a)及び(b)から得たデータを示す。陽性反応は97mVにピーク位置を持ち、ピーク高さは5.01×10−7Aであるのに対し、対照反応ではピークが認められなかった。
【0089】
実施例5J−パパインによるFcU−BSAの消化
パパインによるFcU−BSAの消化は、上記した方法で行った。その差分パルスボルタンメトリー記録を、図12(a)〜図12(c)に示す。図12(a)は消化生成物の掃引線であり、図12(b)はパパインのない対照生成物の掃引線であり、図12(c)はベースラインを修正した(a)及び(b)から得たデータを示す。陽性反応は93mVにピーク位置を持ち、ピーク高さは2.62×10−7Aであるのに対し、対照反応ではピークが認められなかった。
【0090】
実施例5H−トリプシンによるFcU−カゼインの消化
トリプシンによるFcU−カゼインの消化は、上記した方法で行った。その差分パルスボルタンメトリー記録を、図13(a)〜図13(c)に示す。図13(a)は消化生成物の掃引線であり、図13(b)はトリプシンのない対照生成物の掃引線であり、図13(c)はベースラインを修正した(a)及び(b)から得たデータを示す。陽性反応は148mVにピーク位置を持ち、ピーク高さは3.79×10−7Aであるのに対し、対照反応でのピーク位置は147mVであり、ピーク高さは1.55×10−7Aであった。
【0091】
実施例6−酵素濃度による電気化学的標識信号の変化
トリプシンによるFc−BSAの消化を、酵素濃度が異なる条件で上記の方法で行った。基本手順で既述したように、各反応200μlについて酵素2μlを使用した。反応(i)での酵素溶液濃度は、10mg/mlであり、反応(ii)のそれは1mg/mlであり、反応(iii)でのそれは0.1mg/mlであり、反応(iv)でのそれは0.01mg/mlであり、反応(v)でのそれはトリプシンを含まない対照である。これらの差分パルスボルタンメトリー記録を、ベースラインを修正して図14に示す。反応(i)でのピーク位置は430mVであり、ピーク高さは5.24×10−7Aであり、反応(ii)のピーク位置は428mVであり、ピーク高さは2.29×10−7Aであり、反応(iii)のピーク位置は429mVであり、ピーク高さは1.04×10−7Aであり、反応(iv)のピーク位置は429mVであり、ピーク高さは7.54×10−8Aであり、反応(v)の対照例でのピーク位置は448mVであり、ピーク高さは3.17×10−9Aであった。
図14から分かるように、差分パルスボルタンメトリー記録での信号の大きさは、消化実験に存在する酵素の濃度に大きく依存する。ここに記載したような一連の逐次希釈は、検量標準曲線用のデータを得るのに利用可能であり。このような曲線は、プロテアーゼ濃度が未知の実験サンプル中での酵素濃度又は酵素活性を定量するのに有用である。
【0092】
実施例7−培養時間による電気化学的標識信号の変化
トリプシンによるFc−BSAの消化を上記した方法で行った。反応(i)は37℃の培養温度で60分、反応(ii)は同じ温度で15分、反応(iii)は同じ温度で5分、反応(iv)は同じ温度で2分、そして反応(v)はトリプシンを含まず対照例で、培養時間はゼロ分である。これらの差分パルスボルタンメトリー記録を、ベースラインを修正して図15に示す。反応(i)でのピーク位置は435mVであり、ピーク高さは2.49×10−7Aであり、反応(ii)のピーク位置は429mVであり、ピーク高さは1.88×10−7Aであり、反応(iii)のピーク位置は435mVであり、ピーク高さは1.57×10−7Aであり、反応(iv)のピーク位置は428mVであり、ピーク高さは1.04×10−7Aであり、反応(v)の対照例でのピーク位置は460mVであり、ピーク高さは2.11×10−8Aであった。
図15から分かるように、差分パルスボルタンメトリー記録での信号の大きさは、培養時間が長くなると大きくなる。
【0093】
実施例8−電気化学的マーカー信号へのプロテアーゼ阻害因子の影響
トリプシンによるFc−BSAの消化を上記した方法で行った。さらに、ダイズトリプシン阻害因子を反応混合物(i)〜(iv)に添加した。ダイズトリプシン阻害因子の溶液は
阻害因子を脱イオン水に濃度10mg/mlで、必要に応じて1mg/mlで再分散して調製した。反応(i)では阻害因子を添加せずに、反応(ii)では濃度1mg/mlの阻害因子溶液を0.5μl、反応(iii)では濃度10mg/mlの阻害因子溶液を0.5μl、反応(iv)では濃度10mg/mlの阻害因子溶液を5μlそれぞれ添加して消化を行い、トリプシンを含まない対照例の培養は、濃度10mg/mlの阻害因子溶液を5μl添加して行った。これらの差分パルスボルタンメトリー記録を、ベースラインを修正して図16に示す。反応(i)でのピーク位置は439mVであり、ピーク高さは2.56×10−7Aであり、反応(ii)のピーク位置は435mVであり、ピーク高さは2.12×10−7Aであり、反応(iii)のピーク位置は430mVであり、ピーク高さは1.60×10−7Aであり、反応(iv)のピーク位置は426mVであり、ピーク高さは5.33×10−8Aであり、対照例でのピーク位置は429mVであり、ピーク高さは2.75×10−8Aであった。
図16から分かるように、差分パルスボルタンメトリー記録での信号の大きさは、阻害因子の濃度に大きく依存する。ここに記載したような一連の逐次希釈は、検量標準曲線用のデータを得るのに利用可能であり。このような曲線は、プロテアーゼ濃度が未知の実験サンプル中での阻害因子量又は阻害因子効力を定量するのに有用である。検量曲線はまた、潜在的プロテアーゼ阻害因子のスクリーニングにも活用できる。
【0094】
実施例9−消化反応の電流分析
4種の消化反応を実時間電流分析で実施した。粉末乾燥した酵素を再分散して濃度10mg/mlの分散液を調製した。トリプシンをHCl(1mm, pH3.0)中に、パパイン及びカルボキシペプチダーゼをNaCl(100mM)中に再分散させた。1回の反応当たり75μlのFc−BSA溶液(0.3-0.6mg/ml)を使用した。各反応は全容量200μlで行い、次の緩衝液を使用した(最終濃度を表示)。トリプシン反応に関しては100mMのトリス塩酸塩pH7.8を使用し,パパイン反応に関しては20mMのEDTAを使用し、カルボキシペプチダーゼに関しては25mMのトリス塩酸塩pH7.5と500mMのNaClを使用した。2μlの酵素(10mg/ml)を200μlの反応混合物に添加した。反応生成物を図1に示すような装置を使用して電流分析した。分析条件を表2及び表3に示す。
【0095】
【表2】
【0096】
【表3】
【0097】
電流分析の実験結果を図17及び図18に示す。
図17には、Fc−BSAのトリプシン消化に関する電流の経時変化曲線が示されている。曲線Aは、酵素を添加する前では、作用電極への電位付加に対して非ファラデー電流の電流レスポンスがないことを示している。溶液中に存在する種の移動が定常状態に達すると、電流レスポンスは減衰するように思われる。曲線Bは、非ファラデー電流の電流レスポンスが平衡に到達した時点で行う酵素添加後において、ファラデー電流の電流レスポンスを経時的に示したものである。曲線Bにおける電流の増大は、フェロセン標識化基質の酵素消化に関係すると思われる。
【0098】
図18には、Fc−BSAのパパイン消化に関する電流の経時変化曲線が示されている。曲線Aは、酵素を添加する前では、作用電極への電位付加に対して非ファラデー電流に電流レスポンスがないことを示している。溶液中に存在する種の移動が定常状態に達すると、電流レスポンスは減衰するように思われる。曲線Bは、非ファラデー電流の電流レスポンスが平衡に到達した時点で行う酵素添加後において、ファラデー電流の電流レスポンスを経時的に示したものである。曲線Bにおける電流の増大は、フェロセン標識化基質の酵素消化に関係すると思われる。FcU−BSAをトリプシン消化した場合の電流の経時変化曲線は図示していないが、その曲線は図18と類似する。
【0099】
図17及び図18から分かるように、電気化学的に活性なマーカーは、アプリコット(標本)の取り出しなしに反応を進行させるように、実時間でプロテアーゼ反応を追跡することを可能にする。大量の動的データは、図17及び図18に示すような描線から抽出することができ、これから酵素反応速度を研究することができる。
【0100】
実施例10−アミノペプチダーゼ検定
アミノペプチダーゼを20U/mlの硫酸アンモニウム溶液として得た。実施例4bの腑フェロセニル化アラニン基質を濃度100mMでエタノールに溶解した。次いでこれを希し、100mMのトリス塩酸塩(pH7.5)と1mMの前記基質を含む作用溶液を得た。
195μlの基質溶液と、5μl(0.01U)のアミノペプチダーゼとの200μlを、37℃において15分程度培養した。サンプルを培養前、5分培養後及び15分培養後の各時点で差分パルスボルタンメトリー(DPV)で分析した。DPVは実施例1に記載したように実施した。結果を図19a及び図19bに示す。図19aは生データを示し、図19bは、実施例5で説明したGPESマネージャーを使用してベースラインを修正したデータを示す。曲線Aは、アミノペプチダーゼで培養する以前のフェロセニル化アラニンのボルタンメトリー掃引線を示し、曲線Bは培養5分後の、曲線Cは培養15分後のボルタンメトリー掃引線をそれぞれ示す。これらの曲線から、基質の消化によって電流ピーク電位が移動することが分かる。15分の消化後では、その移動が約80mVである。
【0101】
実施例11−エラスターゼ検定
凍結乾燥したエラスターゼを100mMのトリス塩酸塩緩衝液(pH8.5)に分散させて10mg/mlのエラスターゼ液を得た。50μlのフェロセン標識化トリペプチド基質(実施例4で調製したフェロセニル化トリアラニンペプチド)と、1μlの上記エラスターゼ液と、バランス量のトリス塩酸塩緩衝液とを含む全量200μlのアプリコットからなるサンプルを調製した。これを37℃で1時間培養し、このサンプルを
培養前及び1時間培養後の各時点で差分パルスボルタンメトリー(DPV)で分析した。DPVは実施例1に記載したように実施した。結果を図20a及び図20bに示す。図20aは生データを示し、図20bは、実施例5で説明したGPESマネージャーを使用してベースラインを修正したデータを示す。曲線Aは、エラスターゼで培養する以前のボルタンメトリー掃引線を示し、曲線Bは培養1時間後のボルタンメトリー掃引線を示す。これらの曲線から、基質の消化によって電流ピーク電位が移動するが、その移動は実施例10のそれより小さい。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】この明細書で記載する差分パルス・ボルタンメトリー測定で使用した電気化学的セルの配置図。
【図2】フェロセン及びBSA抱合体及び混合物についてのUV光−可視光スペクトルを重ね合わせたスペクトル図。
【図3a】実施例5Aで記載したFc-BSAのトリプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図3b】実施例5Aで記載したFc-BSAのトリプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図3c】実施例5Aで記載したFc-BSAのトリプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図4a】実施例5Bで記載したFc-BSAのα−キモトリプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図4b】実施例5Bで記載したFc-BSAのα−キモトリプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図4c】実施例5Bで記載したFc-BSAのα−キモトリプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図5a】実施例5Cで記載したFc-BSAのエラスターゼ消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図5b】実施例5Cで記載したFc-BSAのエラスターゼ消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図5c】実施例5Cで記載したFc-BSAのエラスターゼ消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図6a】実施例5Dで記載したFc-BSAのペプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図6b】実施例5Dで記載したFc-BSAのペプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図6c】実施例5Dで記載したFc-BSAのペプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図7a】実施例5Eで記載したFc-BSAのカルボキシペプチダーゼ消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図7b】実施例5Eで記載したFc-BSAのカルボキシペプチダーゼ消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図7c】実施例5Eで記載したFc-BSAのカルボキシペプチダーゼ消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図8a】実施例5Fで記載したFc-BSAのサーモリシン消化産物(於37℃)の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図8b】実施例5Fで記載したFc-BSAのサーモリシン消化産物(於37℃)の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図8c】実施例5Fで記載したFc-BSAのサーモリシン消化産物(於37℃)の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図9a】実施例5Gで記載したFc-BSAのサーモリシン消化産物(於70℃)の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図9b】実施例5Gで記載したFc-BSAのサーモリシン消化産物(於70℃)の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図9c】実施例5Gで記載したFc-BSAのサーモリシン消化産物(於70℃)の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図10a】実施例5Hで記載した非標識化BSAのトリプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図10b】実施例5Hで記載した非標識化BSAのトリプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図11a】実施例5Iで記載したFcU-BSAのトリプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図11b】実施例5Iで記載したFcU-BSAのトリプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図11c】実施例5Iで記載したFcU-BSAのトリプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図12a】実施例5Jで記載したFcU-BSAのパパイン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図12b】実施例5Jで記載したFcU-BSAのパパイン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図12c】実施例5Jで記載したFcU-BSAのパパイン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図13a】実施例5Kで記載したFcU-カゼインのトリプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図13b】実施例5Kで記載したFcU-カゼインのトリプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図13c】実施例5Kで記載したFcU-カゼインのトリプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフ。
【図14】実施例6で記載したような様々な酵素濃度で実施したFc-BSAのトリプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフを重ね合わせて示すグラフ。
【図15】実施例7で記載したような様々な培養時間で行ったFc-BSAのトリプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフを重ね合わせて示すグラフ。
【図16】実施例8で記載したようなプロテアーゼ阻害剤の存在濃度を様々に変化させて行ったFc-BSAのトリプシン消化産物の差分パルス・ボルタモグラフを重ね合わせて示すグラフ。
【図17】Fc-BSAのトリプシン消化産物の経時的な電流測定軌跡を重ね合わせたものである。
【図18】FcU-BSAのパパイン消化産物の経時的な電流測定軌跡を重ね合わせたものである。
【図19a】実施例10に記載したように、アミノペプチダーゼ消化前のフェロセン標識化アラニン(Fc-Ala)の差分パルス・ボルタモグラフと、消化後のそれを重ね合わせて示す図面。
【図19b】図19aのベースラインを修正した図面。
【図20a】実施例11に記載したように、エラスターゼ消化前のフェロセン標識化トリアラニンペプチド(Ac-Ala-Ala-Ala-Fc)の差分パルス・ボルタモグラフと、消化後のそれをそれを重ね合わせて示す図面。
【図20b】図20aのベースラインを修正した図面。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学的に活性なマーカーで標識化されたプロテアーゼ基質に、試料溶液を接触させ、試料溶液中のプロテアーゼがプロテアーゼ基質を分解できる条件に保持し、電気化学的に活性なマーカーに関する情報を、電気化学的に測定することを包含する試料溶液中のプロテアーゼ活性測定法。
【請求項2】
電気化学的に活性なマーカーに関する情報を、ボルタンメトリーで得る請求項1記載の方法。
【請求項3】
電気化学的に活性なマーカーに関係する情報を、差分パルスボルタンメトリーで得る請求項2記載の方法。
【請求項4】
電気化学的に活性なマーカーに関係する情報を、電流滴定法で取得する請求項1記載の方法。
【請求項5】
選択的に透過性の膜で囲まれた1つ又はそれ以上の電極を利用する方法により、電気化学的に活性なマーカーに関係する情報を取得する請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
電気化学的に活性なマーカーが、メタロセン成分である請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
電気化学的に活性なマーカーが、フェロセン成分である請求項6記載の方法。
【請求項8】
電気化学的に活性なマーカーが、リンカーを介して基質に連結している請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
各基質分子が平均して2つ以上の電気化学的に活性なマーカーで標識化されている請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
電気化学的に活性なマーカーで標識化されたプロテアーゼ基質が、電気化学的に活性なマーカーで標識化された単一アミノ酸である請求項1〜9のいずれかに記載した方法。
【請求項11】
被験者の疾病を検出する際の請求項1〜10のいずれかに記載した方法の使用。
【請求項12】
病原体を検出する際の請求項1〜10のいずれかに記載した方法の使用。
【請求項13】
プロテアーゼ阻害因子のスクリーニングする際の請求項1〜10のいずれかに記載した方法の使用。
【請求項14】
電気化学的に活性なマーカーで標識化されたプロテアーゼ基質を含むプロテアーゼ検定用具又はプロティナーゼ検定用具。
【請求項15】
請求項1〜10のいずれかに記載した方法が実行できる装置。
【請求項16】
式IVで示される化合物。
Mc-NR'-C(=O)-X-(Ar)n-(L)m-R IV
式中、Mcは各リングが独立に置換又は未置換で差し支えないメタロセニル基であり、メタロセニル基の金属イオンMは、鉄、クロム、コバルト、オスミウム、ルテニウム、ニッケル及びチタンからなる群から選ばれ、
R'は、水素又は低級アルキル基であり、
Xは、NR'又はOであり、
Arは、置換された又は置換されていないアリール基であり、
nは、0又は1であり、
Lは、リンカーであり、
mは、0又は1であり、
Rは、タンパク質、ペプチド又はアミノ酸残基である。
【請求項17】
メタロセニル基がアミノ酸残基、ペプチド又はタンパク質のカルボキシル基に連結している化合物。
【請求項18】
式Vで示される化合物。
Mc-(CH2)n-X-R V
式中、Mcは各リングが独立に置換又は未置換で差し支えないメタロセニル基であり、メタロセニル基の金属イオンMは、鉄、クロム、コバルト、オスミウム、ルテニウム、ニッケル及びチタンからなる群から選ばれ、
nは1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11又は12であり、
Xは、NR'又はOであり、
Rは、タンパク質、ペプチド又はアミノ酸残基である。
【請求項1】
電気化学的に活性なマーカーで標識化されたプロテアーゼ基質に、試料溶液を接触させ、試料溶液中のプロテアーゼがプロテアーゼ基質を分解できる条件に保持し、電気化学的に活性なマーカーに関する情報を、電気化学的に測定することを包含する試料溶液中のプロテアーゼ活性測定法。
【請求項2】
電気化学的に活性なマーカーに関する情報を、ボルタンメトリーで得る請求項1記載の方法。
【請求項3】
電気化学的に活性なマーカーに関係する情報を、差分パルスボルタンメトリーで得る請求項2記載の方法。
【請求項4】
電気化学的に活性なマーカーに関係する情報を、電流滴定法で取得する請求項1記載の方法。
【請求項5】
選択的に透過性の膜で囲まれた1つ又はそれ以上の電極を利用する方法により、電気化学的に活性なマーカーに関係する情報を取得する請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
電気化学的に活性なマーカーが、メタロセン成分である請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
電気化学的に活性なマーカーが、フェロセン成分である請求項6記載の方法。
【請求項8】
電気化学的に活性なマーカーが、リンカーを介して基質に連結している請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
各基質分子が平均して2つ以上の電気化学的に活性なマーカーで標識化されている請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
電気化学的に活性なマーカーで標識化されたプロテアーゼ基質が、電気化学的に活性なマーカーで標識化された単一アミノ酸である請求項1〜9のいずれかに記載した方法。
【請求項11】
被験者の疾病を検出する際の請求項1〜10のいずれかに記載した方法の使用。
【請求項12】
病原体を検出する際の請求項1〜10のいずれかに記載した方法の使用。
【請求項13】
プロテアーゼ阻害因子のスクリーニングする際の請求項1〜10のいずれかに記載した方法の使用。
【請求項14】
電気化学的に活性なマーカーで標識化されたプロテアーゼ基質を含むプロテアーゼ検定用具又はプロティナーゼ検定用具。
【請求項15】
請求項1〜10のいずれかに記載した方法が実行できる装置。
【請求項16】
式IVで示される化合物。
Mc-NR'-C(=O)-X-(Ar)n-(L)m-R IV
式中、Mcは各リングが独立に置換又は未置換で差し支えないメタロセニル基であり、メタロセニル基の金属イオンMは、鉄、クロム、コバルト、オスミウム、ルテニウム、ニッケル及びチタンからなる群から選ばれ、
R'は、水素又は低級アルキル基であり、
Xは、NR'又はOであり、
Arは、置換された又は置換されていないアリール基であり、
nは、0又は1であり、
Lは、リンカーであり、
mは、0又は1であり、
Rは、タンパク質、ペプチド又はアミノ酸残基である。
【請求項17】
メタロセニル基がアミノ酸残基、ペプチド又はタンパク質のカルボキシル基に連結している化合物。
【請求項18】
式Vで示される化合物。
Mc-(CH2)n-X-R V
式中、Mcは各リングが独立に置換又は未置換で差し支えないメタロセニル基であり、メタロセニル基の金属イオンMは、鉄、クロム、コバルト、オスミウム、ルテニウム、ニッケル及びチタンからなる群から選ばれ、
nは1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11又は12であり、
Xは、NR'又はOであり、
Rは、タンパク質、ペプチド又はアミノ酸残基である。
【図1】
【図2】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公表番号】特表2007−527511(P2007−527511A)
【公表日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518369(P2006−518369)
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【国際出願番号】PCT/GB2004/002985
【国際公開番号】WO2005/005657
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(504339505)モレキュラ センシング ピーエルシー (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月9日(2004.7.9)
【国際出願番号】PCT/GB2004/002985
【国際公開番号】WO2005/005657
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【出願人】(504339505)モレキュラ センシング ピーエルシー (2)
【Fターム(参考)】
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