説明

プロテオースペプトン及びリパーゼ活性

本発明は、一般に、脂質画分を含有する食品組成物及び飲料組成物の分野に関する。本発明の実施形態は、摂取した製品からの脂肪の取り込みを遅延させる組成物及び使用に関する。例えば、本発明は、脂肪の加水分解を遅延させる特定のプロテオースペプトン画分及びその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、一般に、脂質画分を含有する食品組成物の分野に関する。本発明の実施形態は、摂取した製品からの脂肪の取り込みを遅延させる組成物及び使用に関する。例えば、本発明は、脂肪の加水分解を遅延させる特定のプロテオースペプトン画分及びその使用に関する。
【0002】
油脂は、腸管腔内の腸細胞の刷子縁膜での吸収のためにバイオアクセシブルになる前にリパーゼで酵素的に加水分解される必要がある。食事性脂肪は、主にトリアシルグリセリン(大部分で、約95%)から成る。リパーゼによる酵素作用で、トリアシルグリセリン(TAG)は、最終的に、体に吸収され易い遊離脂肪酸(FFA)及びモノグリセリド(MAG)に加水分解される。
【0003】
リパーゼの水溶性並びに油脂の低親水性が影響して、リパーゼの触媒反応は油/水の界面で起こる。
【0004】
過度の脂質の吸収は、最終的に太り過ぎや肥満を引き起こし、結果的に更に、代謝性疾患の原因となる。Journal of Epidemiology and Community Healthで公表された調査によると、英国だけで、2012年までに3人に1人の大人、つまり1300万人の人々が肥満になることが予想される。
【0005】
高脂肪食の組成物や高脂肪飲料を摂取する場合には、体重の増加及び最終的には肥満のリスクを軽減するために、食品中の脂質画分がもたらす心地よい食感や風味及び健康上の利益を保ちながら、摂取した食物からの脂肪の吸収を遅延できる利用可能な手段を持つことが望ましい。
【0006】
Cartierらは、成分PP3に富む従来の乳由来のプロテオースペプトンは、乳の自然な脂肪分解を低下させるが、一方で、PP3が欠乏したプロテオースペプトン画分は、乳の脂肪分解を促進するという事実を述べてきた(1990、J.Dairy Sci 73:1173〜1177)。Girardetは、更に、現状技術である乳由来のPP3は、ブタ膵臓のリパーゼ及び乳の内因性リパーゼに効果があると述べている。彼らは、PP3画分は、リパーゼ活性に直接は影響しないが、油/水の界面に対してより界面活性であり、競合メカニズムにより、リパーゼの吸着を阻止すると結論付けた(1993、J.Dairy Sci 76:2156〜2163)。
【0007】
発泡が乳蛋白質の典型的な特徴であることは良く知られている。しかし、カゼインを除去した後でさえ、α−ラクトアルブミン及びβ−ラクトグロブリン乳は、かなりの界面活性を伝える(R.Aschaffenburg、J.Dairy Res.14(1945)、316〜328)。残りの画分は、非常に多量の界面活性成分を含むプロテオースペプトン画分(PPf)を含有する。
【0008】
PPfは、特性のはっきりしない蛋白質性化合物の不均一混合物を示す。この蛋白質性化合物は、本明細書に参考として組み込まれるGirardetら著、J.Dairy Res.63(1996)、333〜350の主題の検討で要約されている。
【0009】
多くの蛋白質は、大腸菌(Escherichia coli)のエンテロトキシンに対する結合親和性を有するpp16k及びpp20kの2個の糖蛋白質などのPPfで説明された。それらは、それぞれα−ラクトアルブミン及びβ−ラクトグロブリンのグリコシル化形態として特定された。オステオポンチン、酸性60kDaリン糖蛋白質、及び88kDaラクトフェリンは、ドデシル硫酸ナトリウム・ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(SDS−PAGE)により検出される大型の蛋白質に属する。
【0010】
乳試料中の成分3、5、及び8(PP3、PP5、PP8)で示される主要なPPf成分の量は、そのプラスミン活性と関連する。以下の成分が、β−カゼインに対するプラスミン活性により生じる。その成分は、PP5すなわちβ−CN−5P f(1〜105/7、β−カゼインのN末端ペプチド1〜105及び1〜107)、PP8−fastすなわちβ−CN−4P f(1〜28、β−カゼインのN末端ペプチド1〜28)である。成分PP8−slowとβ−CN−1P f(29〜105/7、β−カゼインのN末端ペプチド29〜105及び29〜107)は別個の要素であるが、電気泳動度により区別するのが難しい。
【0011】
PP3成分の不均一な分子構造を下記の見解により説明する。PP3リン糖蛋白質は、5M−グアニジンを使用して、40kDaの見かけの分子量を有するサブユニットに分離できる163kDa(pH8.6で超遠心分離により計測)の大きさを有する複合体を形成する。SDS−PAGEが、ジスルフィド結合還元剤2−メルカプトエタノールの存在下で実施され、それぞれ24.6〜33.4kDaと17〜20.9kDaの2つの主要な糖蛋白質成分の存在が明らかとなった。28kDa及び18kDaの見かけの分子量を有する主要な糖蛋白質が、実質的に常に観察され、11kDaのバンドを伴うことが見出された。それらは、二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動法(2D−PAGE)により分離されると、それぞれ、pH4.9〜6.1の範囲の見かけの等電点を有する4つ及び2つのスポットとして現われる。複合体は、約7kDaの分子量を有する非グリコシル化ポリペプチドと結合した、28kDa、18kDa、及び11kDaの分子量を有する糖蛋白質から構成されている。コンカナバリンA(ConA)を有するレクチンアフィニティークロマトグラフィーで分離することにより、11kDa、18kDa及び28kDaの糖蛋白質の複雑な挙動が明確となる。11kDaの糖蛋白質はConAに結合しないが、より大型の18kDa及び28kDaの糖蛋白質は、非結合画分(糖蛋白質pp18とpp28と呼ばれる)と結合画分(糖蛋白質pp18とpp28と呼ばれる)とに分配された。
【0012】
当技術分野では、通常脱脂粉乳からPPfを得る。牛乳は、約4重量%の脂肪、約3.5重量%の蛋白質、約0.6重量%のホエイ蛋白質、及び約0.003重量%のプロテオースペプトンを含有する。
【0013】
しかしながら、現状技術に従ってPPfを単離するには、カゼイン及び変性ホエイ蛋白質を沈殿/遠心分離によって除去するための乳の熱処理(例えば90℃で10分間)及びかなりの酸性化を要する。
【0014】
この従来の手法は費用がかかり、工業的規模では適用できない。
【0015】
特に、現状技術の酸性化の工程は、通常、あまり特定されないが低いpH値で実施される。このことは、乳蛋白質の実質的な凝固を引き起こす。こうした条件で、乳に存在する90%超の蛋白質が凝固する。プロテオースペプトン画分の大規模な精製を試みた場合、これらの凝固蛋白質を除去すれば、重大な問題が発生する。
【0016】
したがって、本発明の目的は、遅延型遊離脂肪酸及び/又はモノグリセリドの体への取り込みをもたらす脂質画分を含有し、工業的規模で容易に調製できる食品組成物を提供することであった。
【0017】
本発明者らは、驚くべきことに、この目的が、独立請求項の主題によって解決できることを発見した。
【0018】
本発明者らは、当技術分野において公知のプロテオースペプトン画分と比較して、改良されたプロテオースペプトン画分を提供することが既に可能だった。
【0019】
この改良されたプロテオースペプトン画分は、本明細書に参考として組み込まれる特許出願EP08101805.3に記載しているように得ることができる。
【0020】
当技術分野において公知のプロテオースペプトン画分とは対照的に、この改良されたプロテオースペプトン画分の生産は、酸性化の工程中の著しい蛋白質の凝集化が回避されるので工業的に適用可能である。熱処理前にpHの値を正確(±0.1pH単位)に調整すると、従来技術のバルク蛋白質の凝集体ではなく、1μm未満の直径を有する、ホエイ蛋白質の球状粒子が生成される。これらのホエイ蛋白質の球状粒子は、従来技術のバルク蛋白質沈殿物よりもプロテオースペプトン画分から除去するのが、はるかに容易である。
【0021】
得られたプロテオースペプトン画分はまた、熱安定性の向上を示す。更に、これは、現在の従来からの技術で得られるプロテオースペプトン画分と同様に、油/水の界面を安定させるために使用できる。
【0022】
更に本発明者らは、当技術分野において現在示されているのとは反対に、プロテオースペプトン画分は、油と水の界面に存在する場合だけでなく、バルク相に存在する場合にも、脂肪分解を遅らせることが可能なことを実証することができた。
【0023】
本発明で使用されるプロテオースペプトン画分は、油と水の境界でリパーゼ作用を阻害した。その結果、脂肪分解、つまりトリアシルグリセリン(TAG)からの遊離脂肪酸(FFA)及びモノグリセリド(MAG)の生成を防止又は少なくとも遅らせた。
【0024】
該プロテオースペプトン画分はまた、水性バルク相中に存在している場合でもリパーゼ作用を阻害し、その結果、水性バルク相中でのトリアシルグリセリン(TAG)からの遊離脂肪酸(FFA)及びモノグリセリド(MAG)の生成を遅らせた。
【0025】
重要なことだが、本発明者らは、脂肪の吸収を遅らせることについて、プロテオースペプトン画分を添加すれば、他の蛋白質画分、例えばβ−ラクトグロブリン、β−カゼイン、そしてホエイ蛋白質分離物よりもはるかに顕著に効果が出たことを示すことができた。
【0026】
例えば、本発明のプロテオースペプトン画分を、食品のバルク水相に添加してもよい。本発明のプロテオースペプトン画分はまた、既に被覆された油滴の消化を更に遅らせるために、既存の被膜が乳化剤を含有するO/Wエマルションのバルク水相に添加してもよい。乳化剤は、低分子量及び/又は高分子量の乳化剤でも可能である。例えば、界面活性剤、蛋白質、及び/又は多糖類を使用してもよい。
【0027】
説明した効果の証拠は、食物中の脂質の模擬インビトロ消化実験により得られた。
【0028】
本発明のプロテオースペプトン画分は、バルク相に存在している場合だけでなく、油滴の被覆層として存在する場合も脂質の加水分解を遅らせるという点で有効であった。
【0029】
したがって、本発明の一実施形態は、脂質消化の遅延を示す脂質含有食品の調製のための、
ミネラル除去された天然蛋白質水分散液のpHを約5.6〜8.4、又は約3.5〜5.0に調整するステップ、
天然蛋白質水分散液を約10秒間〜60分間加熱して約70〜95℃とするステップ、
加熱後に、蛋白質水分散液から、少なくとも100nmの直径を有する形成された固形高分子量凝集体の少なくとも一部を除去するステップ、及び
分散液の残りの液体画分を回収するステップ
を含む方法により得ることができるプロテオースペプトンの使用である。
【0030】
本発明の更なる実施形態は、
ミネラル含有量を少なくとも25%減少させた天然蛋白質水分散液のpHをpH5.6〜8.4、又はpH3.5〜5.0に調整するステップ、
天然蛋白質水分散液を約10秒間〜60分間加熱して約70〜95℃とするステップ、
加熱後に、蛋白質水分散液から、少なくとも100nmの直径を有する形成された固形高分子量凝集体の少なくとも90重量%を除去するステップ、及び
分散液の残りの液体画分を回収するステップ
を含む方法により得ることができるプロテオースペプトン画分、及び少なくとも1つの脂質を含む食品であって、食品中のプロテオースペプトン画分及び少なくとも1つの脂質は、プロテオースペプトンを含有する少なくとも1つの被覆層を含む被覆油滴として、少なくとも部分的に提供される、食品である。
【0031】
本発明における少なくとも1つの脂質及び/又は油脂については、どのような種類の食用油でもよい。材料は、ヒト又は動物の摂取用として認可されている場合、食用であると考えられる。
【0032】
例えば、油脂は、中鎖トリグリセリド(MCT)、乳脂肪、亜麻仁油、桐油、大豆油、オリーブ油、パーム油、ひまわり油、くるみ油、へんとう油、落花生油、ヘーゼルナッツ油、イーノ油、月見草油、チェリー核油、グレープシード油、ゴマ油、トウモロコシ油、菜種油、綿実油、コメヌカ油、コーン油、ライ麦油、小麦芽油、アボカド油、ツバキ油、マカダミアナッツ油、いわし油、サバ油、ニシン油、タラ肝油及びカキ油、あんず油、べにばな油、菜種油、ルビナス油、桃油、トマト油、亜麻仁油、かんきつ油又はこれらの組合せから成る群より選択されてもよい。
【0033】
記載した方法により得ることができる改良されたプロテオースペプトン画分は、ミネラル除去された蛋白質画分、例えばミネラル除去された球状蛋白質画分、特にホエイ蛋白質濃縮物(WPC)又は、ホエイ蛋白質分離物(WPI)から生産できる。
【0034】
ホエイは、安価な原料であり、通常は、例えばチーズ製造における廃棄物である。チーズの生産過程では、乳を凝固させて、凝乳(後のチーズ)と可溶性ホエイ画分に分離させる蛋白質加水分解酵素であるレンネットの添加が必要である。
【0035】
ホエイは、ウシ、スイギュウ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、若しくはラクダ起源のもの又はそれらの混合物から入手したいずれかのホエイを含めてもよい。
【0036】
更に、WPIは殆ど脂肪を含んでいないので、PPfの生産中に脂肪の除去は不要であり、したがって、該プロセスを単純化させ更にPPfのコンタミネーションを防止する。
【0037】
本発明で使用されるプロテオースペプトン画分は、β−ラクトグロブリンが欠乏し、ミネラル除去されてもよい。
【0038】
本発明の目的において「ミネラル除去された」とは、ミネラルの含有量を、スイートホエイ又は酸ホエイと比較して、少なくとも25%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも75%減少させたことを意味する。スイートホエイ又は酸ホエイの乾燥物質は平均で、0.9%のカルシウム、0.8%のナトリウム、2.2%のカリウム、0.1%のマグネシウム、0.7%のリン及び2.0%の塩化物を含む、8.8%のミネラルを含有している。
【0039】
本発明の文脈において、「β−ラクトグロブリンが欠乏した」とは、抽出物中の蛋白質の全重量に対するβ−ラクトグロブリンの含有重量が、天然球状蛋白質溶液中の蛋白質の全重量に対するβ−ラクトグロブリンの含有重量と比較して、多くても70%、好ましくは多くても50%、さらにより好ましくは多くても20%であることを意味する。
【0040】
したがって、β−ラクトグロブリンが欠乏した抽出物は、天然球状蛋白質溶液中に存在するβ−ラクトグロブリンの量の多くても70重量%、好ましくは多くても50重量%、さらにより好ましくは多くても20重量%を含む。
【0041】
本発明で使用されるプロテオースペプトン画分はまた、α−ラクトアルブミンに富んでいてもよい。α−ラクトアルブミンに富むとは、抽出物中の蛋白質の全重量に対するα−ラクトアルブミンの含有重量が、最初の天然球状蛋白質分散液中の蛋白質の全重量に対するα−ラクトアルブミンの含有重量と比較して、少なくとも1.2倍、好ましくは少なくとも1.5倍、さらにより好ましくは少なくとも2倍増加していることを意味する。
【0042】
本発明のプロテオースペプトン画分に至る方法において、ミネラル除去された天然蛋白質水分散液のpHを、約5.6〜8.4、又は約3.5〜5.0に調整する。
【0043】
より厳密には、pHは、約3.5〜5.0、又は約5.6〜6.4、好ましくは約5.8〜6.0、又は約7.5〜8.4、好ましくは約7.6〜8.0、又は約6.4〜7.4、好ましくは約6.6〜7.2に調製してもよい。
【0044】
本発明に至る長い実験の過程で、本発明者らは、驚くべきことに、熱処理前にpHを厳密なpH値(±0.1pH単位)に調整すると、1μm未満の直径を有する、ホエイ蛋白質凝集体の球状粒子が得られることを見出した。
【0045】
最適pH値は出発物質、例えばWPIの濃度及び組成に依存することが見出された。この方法には、例えば剪断などの、いかなる機械的ストレスもない状態で、ホエイ蛋白質粒子を生成するという利点がある。得られた粒状物質により、本発明のPPf含有画分からこれら粒子を形成する化合物が容易に除去される。
【0046】
pH及びイオン強度が本発明の方法にとって2つの大切な要因であることが明らかとなった。したがって、十分に透析して、Ca++、K+、Na+、Mg++等の遊離のカチオンが極めて欠乏した試料では、上記の熱処理を適用した後、5.4未満のpHでは凝乳を生成し、6.8を超えるpHでは可溶性ホエイ蛋白質凝集体を生成する傾向がある。
【0047】
したがって、pH値の範囲がかなり狭い場合でのみ、本発明で使用されるプロテオースペプトン画分の調製で、工業的に除去するのが容易なタイプの固形ホエイ蛋白質粒子が得られる。
【0048】
類似したホエイ蛋白質粒子は、ホエイの等電pH未満の対称的なpH値、すなわち3.5〜5.0までを使用することで生産される。
【0049】
二価カチオンの低濃度(最初のホエイ蛋白質粉末100gに対して0.2g未満)に対して、pHが5.6〜6.4、より好ましくは5.8〜6.0のpH範囲に調整される場合、負に帯電したホエイ粒子が得られる。pHは、ホエイ蛋白質源(例えばWPC又はWPI)のミネラルの含有量によって、8.4まで高くしてもよい。
【0050】
特に、大量の遊離ミネラルの存在下で負に帯電した粒子を得るためには、pHを7.5〜8.4、好ましくは7.6〜8.0に調整してもよい。
【0051】
中程度の濃度の遊離ミネラルの存在下で負に帯電した粒子を得るためには、pHを6.4〜7.4、好ましくは6.6〜7.2に調整してもよい。
【0052】
天然蛋白質粉末100g中に存在する遊離ミネラルが、2g未満である場合、遊離ミネラルの濃度は低いと考えられる。
【0053】
天然蛋白質粉末100g中に存在する遊離ミネラルが、2g〜5gの間である場合、遊離ミネラルの濃度は中程度と考えられる。
【0054】
天然蛋白質粉末100g中に存在する遊離ミネラルが、5gを超える場合、遊離ミネラルの濃度は高いと考えられる。
【0055】
もちろん、粒子の電荷は、本発明で使用するプロテオースペプトン画分からこれらの粒子を分ける手段として、さらに使用することができる。
【0056】
pHは一般に、好ましくは食品等級の酸、例えば、塩酸、リン酸、酢酸、クエン酸、グルコン酸又は乳酸などの添加によって調整することができる。ミネラル含有量が高い場合は、pHは一般に、好ましくは食品等級のアルカリ性溶液、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム又は水酸化アンモニウムの添加によって調整する。
【0057】
本発明の方法には、本質的に塩を含まない天然ホエイ蛋白質水分散液が好ましい。「本質的に塩を含まない」とは、約4重量%の蛋白質濃度に対して塩の含有量が1g/L以下であることを意味する。例えば、ホエイ蛋白質水溶液は二価カチオンを、全乾燥質量で2.5重量%未満、より好ましくは2重量%未満含有してもよい。
【0058】
天然蛋白質水分散液中に天然蛋白質、好ましくは天然球状蛋白質、さらにより好ましくはホエイ蛋白質が、溶液の全重量に対して約0.1重量%〜12重量%、好ましくは約0.1重量%〜8重量%、より好ましくは約0.2重量%〜7重量%、さらにより好ましくは約1重量%〜5重量%の量で存在する。
【0059】
本発明の方法では、天然ホエイ蛋白質水分散液は、約85℃になるまで約15分間加熱することが好ましい。
【0060】
原理的に、加熱後に、当技術分野において知られる任意の手段により、ホエイ蛋白質水分散液から、少なくとも100nmの直径を有する、形成された固形高分子量凝集体を除去することができる。しかしながら、好ましくは、沈殿、遠心分離、濾過、精密濾過、又はこれらの方法の組合せによって高分子量凝集体を除去することができる。この除去工程に、pH調整をさらに加えてもよい。
【0061】
沈殿には、必要な実験装置が最小であり、最低限のエネルギー入力で実行することができるという利点がある。
【0062】
遠心分離はエネルギー入力が必要となるが高速の方法である。連続遠心分離は、例えば白チーズ製造の工場において既に使用されているプロセスである。
【0063】
濾過及び精密濾過は、大規模生産にはよく応用されており、高分子量凝集体の除去において非常に信頼性が高い。
【0064】
これらの方法をいくつか併用することでそれぞれの利点を兼ね備えることができる。
【0065】
例えば、最後の工程である精密濾過の手順を適用することで、少なくとも100nmの直径を有する高分子量凝集体を実質的に完全に除去することができる。
【0066】
加熱後に、ホエイ蛋白質水分散液から、少なくとも100nmの直径を有する固形高分子量凝集体の好ましくは少なくとも90重量%、さらに好ましくは95重量%、最も好ましくは少なくとも99重量%、理想的には100重量%を除去する。
【0067】
本発明の方法は、限外濾過及び/又は蒸発の工程をさらに含んでもよい。
【0068】
限外濾過は、静水圧を利用して、半透膜に液体を通す膜濾過技術である。水及び低分子量の溶質が膜を通過する一方、懸濁固体及び高分子量の溶質が残る。この分離プロセスは、高分子量の分子(10〜10Da)、特に蛋白質を含有する溶液の精製及び濃縮のために、産業及び研究において使用される。限外濾過は、産業環境において定評があるという利点があり、高分子量の蛋白質を効率的でありながら穏やかに分離でき、これによってストレス誘発性の蛋白質変性を防ぐ。
【0069】
蒸発は、蛋白質溶液を濃縮できる穏やかな方法である。例えば、少なくとも40℃に、又は好ましくは少なくとも60℃に加熱することで蒸発を起こしてもよい。例えば、PPfを含む組成物を乾燥させて、含水量を全組成物の重量に対して10重量%未満、好ましくは5重量%未満、さらにより好ましくは2重量%未満に減少させてもよい。この乾燥工程には、得られたプロテオースペプトン画分を、その完全な活性を維持しつつ組成物の重量を減らし高濃度で貯蔵できるという利点がある。また、蒸発により水分活性が低くなるため、製品の安定性は確実に増す。
【0070】
上述の方法により得ることができるプロテオースペプトン画分は、全アミノ酸組成に対する百分率として、下記のようなアミノ酸組成を有する:約6〜9%のASP、約4〜7%のTHR、約4〜7%のSER、約22〜25%のGLU、約9〜12%のPRO、約0〜3%のGLY、約1.5〜4.5%のALA、約4〜7%のVAL、約0〜2%のCYS、約1〜4%のMET、約4〜7%のILE、約7.5〜10.5%のLEU、約0〜3%のTYR、約6.7〜9.7%のLYS、約1.5〜4.5%のHIS、約1〜4%のARG。
【0071】
このアミノ酸組成は、従来の方法によって得られたPPfの典型的な組成とは異なる。
【0072】
表1には、従来の方法(試料1)及びPPf(本発明で使用、試料2)に対応する典型的なPPf−アミノ酸プロフィールが示され、両方を比較することができる。
【0073】
試料1は、Paquet,D.Nejjar,Y.、及びLinden,G.(1988);Study of a hydrophobic protein fraction isolated from milk proteose−peptone.Journal of Dairy Science、71、1464〜1471)に従って従来の方法を使用して試料2と同じWPIから調製した。
【0074】
簡潔に述べると、プロラクタ(Prolacta)90を出発物質として使用した。プロラクタ90(蛋白質を84%含有する粉末428g:Nx6.38)をMilli−QグレードHO 5Lでもどした。この溶液を計測するとpH6.43であったが、その後、1NのNaOHを約15mL添加しpH7.00に調整した。この溶液の体積を調整して、6L(最終蛋白質濃度は6%(w/w)であった)とし、6本の1Lビンに等分し、これらのビンを93℃に設定した水浴に30分間置き、蛋白質を変性させた。20分間、インキュベートした後、ビンの内側の温度は90℃となった。インキュベートの終わりに、ビンを氷浴に入れ、20℃まで冷却した。pHを4.6に調整して、蛋白質性化合物の等電沈殿を実施した。実際には、1Lビン3本の内容物を一緒にし(pH7.17)、1NのHCl約88mLを使用してpHを4.6に調整した。他の1Lビン3本も同様に処理した。得られた2つの酸性化された溶液を一緒にして4℃で18時間貯蔵し、1Lプラスチックビン6本に等分した。ビンを遠心分離後(6℃、5000rpm/7200gで60分、H 6000Aローターを備えたSorval RC3C Plus)、PPfを含有する上清を回収した。次に、PPfの硫酸アンモニウム沈殿を、半飽和(313g/L)で2時間実施した。沈殿物を、遠心分離(SorvalRC3C Plusを使用して6℃、5000rpmで60分)後に回収し、一緒にして、Milli−QグレードHO 350mL内に再度分散した。濁った懸濁液/溶液を、1000のMWカットオフのSpectrapor膜チューブ(Spectrum Laboratories inc.)を使用して、22LのMilli−QグレードHOに対し4回透析した。透析後、PPfを含有する抽出物を遠心分離し(6℃、5000rpmで60分)、上清を濾過し(Millipore社製0.22μmフィルター、GPステリカップ(GP Stericup)(登録商標)エクスプレスプラス(Express plus)(商標))、フリーズドライした。PPfの収量はホエイ蛋白質全荷重360gから6g(1.6%)であった。
【0075】
例えば、次の2つの基準により現況技術で得られるPPfと本発明で記載の改良されたプロテオースペプトン画分とを区別することができる。つまり、アミノ酸プロフィール(表1)及び2D−PAGEによって決定される蛋白質プロフィール(図1及び図2)である。
【0076】
表1:従来のPPf(試料1)及び本発明で使用される改良されたプロテオースペプトン画分(試料2)のアミノ酸組成(100g粉末当たり各アミノ酸のgで、又は全アミノ酸組成に対する百分率で表した)。
【表1】

【0077】
2D−PAGEは複合蛋白質混合物を分析し比較する強力な方法である。この方法では、一次元目では蛋白質の電荷によって、二次元目では分子量によって蛋白質を分離する。
【0078】
本発明者らは、この2D−PAGEを使用して、従来の方法を使用して得られたPPfと本発明で使用されるPPfとの間にある差異を分析した。同じWPIを使用して従来の方法によって調製されたPPfと本発明で使用させるPPfとの両方を生産した。Paquet,D.Nejjar,Y.、及びLinden,G.(1988);Study of a hydrophobic protein fraction isolated from milk proteose−peptone.Journal of DairyScience、71、1464〜1471)に記載された方法によって、従来のPPfを調製した。図1は、本発明によって得られたPPfの2D−PAGE蛋白質プロフィールを示す。図1の2Dゲルの標識された蛋白質スポットはすべて、従来の方法で調製されたPPfによって生成された2Dゲルの蛋白質スポットとは質的及び/又は量的に異なる。図2は、観察された差異の定量化を示す。
【0079】
PPfの分析が、以下の手順に従って実施された。
蛋白質溶液、特にPPfからの250μg蛋白質当量を、最終濃度がそれぞれ7M、2M、65mM、20mM、65mM、0.4%(w/v)で使用される尿素、チオ尿素、CHAPS、トリス、DTT、アンフォライトと、染色のためのブロモフェノールブルーとから成る変性溶液340μlに溶解し、
1.5Mトリス緩衝液で調製された9〜16%アクリルアミドゲル上のpH3〜pH10のpH勾配のイモビラインストリップにこの試料を載せ、
イモビラインストリップゲルに300ボルトの電圧を11.6時間印加し、次いで5000ボルトの電圧を12.4時間印加して、電荷で蛋白質を分離し、
25mMトリス/192mMグリシン/0.1%SDS(w/v)、pH8.3の緩衝液中でアクリルアミドが9〜16%の範囲にあるアクリルアミド勾配ゲル上にイモビラインストリップゲルを配置し、
ゲルに40mAの電流を一晩流して、事前にイモビラインストリップゲル上で分離した蛋白質をアクリルアミドマトリックスに流して、さらに大きさにより蛋白質を分離し、
クマシーブルー染色法で蛋白質スポットを視覚化する。
【0080】
この手順により、図1に示されるようなゲルが得られた。
【0081】
改良されたプロテオースペプトン画分が脂質消化の遅延を示す脂質含有食品の調製に使用される場合、プロテオースペプトン画分及び脂質を、1:2〜1:2000の範囲、例えば、1:2〜1:1000の範囲、好ましくは、1:10〜1:100の範囲の重量比で提供することができる。
【0082】
リパーゼ活性は、リパーゼが活性化する油水界面で効率的な阻害のみが可能なことを事前に想定されていたが、本発明者らは、プロテオースペプトン画分が水性バルク相に添加された場合、リパーゼ活性はまた阻害可能であることを示すことができた。プロテオースペプトンを単に水性バルク相に添加することは、プロテオースペプトン画分を油と水との間の界面に設置しなければならないことよりも、はるかに容易に達成できるので工業的な適用にとって、このことは重要である。
【0083】
しかしながら、プロテオースペプトン画分はまた、油水界面で有効であることも見出された。エマルションや発泡エマルション等の多くの油/水の界面が存在する製品では、プロテオースペプトン画分は効果的に使用できる。
【0084】
したがって、プロテオースペプトンを含有する少なくとも1つの被覆層を含む被覆油滴として、少なくとも部分的には、食品中のプロテオースペプトン画分及び脂質が提供される。
【0085】
油粒子が2つ以上の被覆層で覆われている場合は、プロテオースペプトンはこれらの被覆層のいずれか1つに存在してもよい。
【0086】
被覆油滴はまた、プロテオースペプトン画分から成る少なくとも1つの被覆層を含んでもよい。
【0087】
油滴がプロテオースペプトン画分を含む層に覆われている場合、油滴に作用しようとするリパーゼ活性は、著しく妨げられていることが視覚化できる。
【0088】
2つ以上の被覆層を有する油滴の場合、プロテオースペプトンを含有する被覆層が外側の被覆層であることが好ましい。
【0089】
存在すれば、更なる被覆層は、任意の種類の乳化剤、好ましくは食用乳化剤を含有してもよい。このような乳化剤は、低分子量又は高分子量を有してもよい。低分子量乳化剤は、1000Da未満の分子量を有し、高分子量乳化剤は、1000Daを超える分子量を有する。
【0090】
乳化剤は、例えば、蛋白質、又は多糖類などの界面活性剤でもよい。
【0091】
存在すれば、更なる被覆層は、少なくとも1つの蛋白質画分を含有しても、又はこれから成ってもよい。これらの蛋白質画分は、乳、ホエイ、又は大豆から得てもよい。好ましい蛋白質画分は、ホエイ蛋白質、α−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリン、ウシ血清アルブミン、酸カゼイン、カゼイン塩、α−カゼイン、β−カゼイン、κ−カゼイン、又はこれらの組合せを含んでもよい。
【0092】
少なくとも1つの更なる被覆層に含有される蛋白質画分は、例えばβ−ラクトグロブリン、ホエイ蛋白質分離物、及びβ−カゼインから成る群より選択されてもよい。
【0093】
被覆油滴は、いかなるサイズでもよい。油滴の大きさは、脂肪分解の全体速度に影響を及ぼし得る。しかしながら、プロテオースペプトンが、油滴の大きさとは無関係に常に脂肪分解の速度を落とすことになる。
【0094】
しかし、被覆油滴は、食品に適用できるサイズを有するのが好ましい。例えば、油滴はエマルションや発泡エマルション中に存在してもよい。
【0095】
エマルション又は発泡エマルションは、例えば、マヨネーズ、アイスクリーム、ソース又はクリーマーとして食品で使用される。
【0096】
一般的に、被覆油滴は、0.1〜100μmの範囲、好ましくは0.5〜50μmの範囲の直径を有してもよい。
【0097】
通常、被覆油滴の大きさは、いくつかのGauss粒度分布を示してもよい。単分散エマルションを使用する場合は、この分布は多少は絞り込んでもよい。
【0098】
したがって、被覆油滴の提示された大きさは平均値を示す。
【0099】
例えば、プロテオースペプトン画分被膜などの乳化剤被膜の厚さは可変であり、所望する効果に応じて調整することができる。
【0100】
リパーゼ作用を遅延させる程度は、用量に依存することが見出された。したがって、プロテオースペプトン画分の用量が多くなれば、より著しい効果をもたらす。
【0101】
したがって、油/プロテオースペプトン画分の比率を調節することにより、脂肪を代謝するのに要する時間を調節することができる。
【0102】
また一般に、油表面が大きくなれば、この表面を有効に覆うために、重量%で、より多くのプロテオースペプトン画分が必要になる。
【0103】
したがって当業者は、例えば、目標とする液滴の大きさ直径及びリパーゼの遅延に基づいて、特定の製品のための好ましい油/プロテオースペプトン画分の重量比を決定することができる。
【0104】
しかしながら、通常、プロテオースペプトン画分及び油は、重量比で、1:2〜1:2000の範囲で油滴中に存在している。
【0105】
本発明の使用により調製される食品は、食品組成物、動物用食品、医薬組成物、栄養組成物、栄養補助食品、飲料、又は食品添加物でもよい。
【0106】
代表的な食品として、特にコーヒー用クリーマーなどのクリーマー、カプチーノなどの発泡飲料、カフェラテ、チョコレート、ヨーグルト、殺菌されたUHT乳、加糖練乳、発酵乳、ミルクを加えた発酵乳、ミルクチョコレート、ムース、発泡体、エマルション、アイスクリーム、飲料調製に使用する凝集粉、ミルク粉、乳児用フォーミュラ、ダイエット強化剤、ペットフード、錠剤、乾燥経口サプリメント、湿性経口サプリメント、及び/又は、健康管理栄養処方剤及び化粧品などの製品が挙げられる。
【0107】
本発明による代表的な食品は、被覆油滴として脂質を、例えば、少なくとも20重量%、少なくとも35重量%、少なくとも50重量%、又は少なくとも75重量%含むことができる。
【0108】
プロテオースペプトン画分及び脂質は、少なくとも部分的にエマルションの形態で食品に存在してもよい。
【0109】
更に/或いは、プロテオースペプトン画分及び脂質は、少なくとも部分的には、泡状で食品に存在してもよい。
【0110】
食品の製造過程で、プロテオースペプトン画分を脂質と一緒に使用すれば、脂質の加水分解が遅延及び/又は減少した食品が得られる。
【0111】
したがって、脂質は長時間に渡り未消化に保たれ、その結果、食品を摂取した後、満腹感を長引かせる。
【0112】
更に、摂取した脂質の百分率が増加しても、全てが消化されるわけではなく、分泌され、その結果摂取した食物からのカロリーの使用量を減らすことになる。
【0113】
例えば、これらの特性により、本発明の使用により調製される食品は、体重管理製品として理想的なものになる。
【0114】
したがって、本発明の実施形態は、ヒト及び/又は動物における体重減少及び/又は体重維持を支援するために本発明の使用により調製される食品に関する。
【0115】
本発明はまた、組成物、例えば、体重減少及び/又は体重維持を支援するための食品の調製のための上述した方法により得ることができるプロテオースペプトン画分の使用に関する。
【0116】
本発明の実施形態はまた、本発明の使用により調製される、太り過ぎ及び/又は肥満の治療又は予防で使用する食品に関する。
【0117】
「太り過ぎ」は、BMIが25〜30の間である成人に対して定義する。
【0118】
「肥満」は、動物、特にヒト及びその他の哺乳動物の脂肪組織に蓄えられる自然エネルギーの蓄えが特定の健康状態又は死亡率の増加と関係する程度に増加した状態である。「肥満の」は、BMIが30を越える成人に対して定義する。
【0119】
「ボディマス指数」つまり、「BMI」は、体重kgを身長mの2乗で割った比率を意味する。
【0120】
典型的には代謝性疾患は直接、肥満と関係がある。
【0121】
したがって、本発明の使用により調製される食品はまた、代謝性疾患の治療又は予防のために使用することができる。代謝性疾患は、例えば糖尿病、高血圧症、及び心臓血管疾患から成る群より選択されてもよい。
【0122】
当業者は、本明細書で記載の本発明の全ての特徴を、開示した本発明の範囲から逸脱することなく、自由に組み合わせできることを理解するであろう。特に、本発明の使用のために記載された特徴は、本発明の食品に適用してもよく、この逆も同様である。
【0123】
本発明の別の利点及び特徴は、以下の実施例及び図から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】本発明で使用されるPPfの2D−PAGE示す図である。
【図2】図1のゲルにおいて標識された蛋白質の定量化を示す図である。
【図3】a)インビトロのインテスティナルメディウム(intestinal medium)下での染色したO/Wエマルション滴から記録した、時間経過した一連の顕微鏡検査画像を示す図であり、b)長時間に渡る正規化した平均液滴直径の減少として得られたエマルションの消化速度を示す図である。
【図4】水中油エマルション(MCT/WPI)の消化速度を示す図であり、この水中油エマルションに対して、腸の疑似インビトロ消化実験の実施中に同一濃度(w/w)で種々の異なる蛋白質がバルク水相に添加されていた。PPCは、従来のプロテオースペプトン画分であるが、PP画分は、本発明で使用されるプロテオースペプトン画分の略である。
【図5】水中油エマルション(MCT/WPI)の消化速度を示す図であり、この水中油エマルションに対して、腸の疑似インビトロ消化実験の実施中に同一濃度(w/w)で種々の異なる蛋白質がバルク水相に添加されていた。本発明で使用されるプロテオースペプトン画分(PP)及び従来のプロテオースペプトン画分(PPC)の結果は、2つの異なる濃度(0.125wt%及び1.5wt%)で示されている。
【図6】インビトロ胃腸モデルであるTIMの概略図である:(A)胃コンパートメント、(B)十二指腸コンパートメント、(C)空腸コンパートメント、(D)回腸コンパートメント、(E)ガラスジャケット、(F)柔軟壁、(G)回転ポンプ、(H)幽門弁、(I)pH電極、(J)分泌ポンプ、(K)前置フィルター、(L)中空繊維膜、(M)空腸からの濾過液、(N)回腸の送り出し弁。
【図7】β−LG(白四角)及びPP画分(黒四角)を有するひまわり油の消化実験についてのオクタデカン酸シグナルのピーク表面積を示す図である。表面積は、体積の相違について補正されている。
【実施例】
【0125】
プロテオースペプトン画分
1.本発明に対応するPPfに富む画分の抽出
110kgのプロラクタ90(ロット7、Lactalis、Retiers、France)を、2390kgの軟水(Naを160mg.L−1含有する)に15℃で分散させた。これを、pHプローブを装備した3000L水槽内で一定の撹拌及び再循環の下で1時間維持した。結果、蛋白質分散液のpHは6.68となり、全固形物含有量(TS)は4.5%となった。その後、約10kgの1MのHClを添加しpHを5.95±0.05に調整した。この特定のpH値は、実験室規模の環境において軟水を使用したホエイ蛋白質凝集体(WPA)の形成に最適であることが見出された(WPAの平均直径:250nm、500nmの濁度:>70)。最適pH値がこれらの処理条件下で非常に安定であることが見出された。その後、プロラクタ90分散液を1200L.h−1の流速で汲み出し、85℃で平板熱交換器を使用して熱処理し、続いて、15分間保持し、4℃に冷却した。結果として生じたWPA含有ホエイ分散液(TSは4.2%)を、4℃で貯蔵した。
【0126】
次に、全表面積が6.8mのCarbosep M14セラミック/カーボン膜(孔径0.14ミクロン)2つを使用して、精密濾過(MF)により、500kgのWPA含有ホエイ分散液からWPAを取り除いた。測定基準(module)の温度は、55℃の温度に設定し、圧力は2.3バールに設定した。透過液の流速は5時間の精密濾過後に約400l.h−1に保った。主にWPAを含有する、廃棄されることとなる保持液の最終全固形物(TS)は20%だった。本発明のPPfに対応する精密濾過透過液には全固形物含有量が約0.43%あった。追加の濃縮工程で、精密濾過透過液をさらに10℃で20kDaのMWCO膜を使用して、限外濾過プロセスにかけて、抽出物の乾燥量基準で、TSを0.43〜2.4%に増加させ、蛋白質含有量を19〜82%に増加させた。
【0127】
プロテオースペプトン画分による脂肪消化の遅延
インビトロ及びインビボ研究から、脂肪滴の大きさは、リパーゼ活性に影響することが知られている。したがって、本発明者らは、液滴の大きさの変動により生じるいかなる不具合も回避するために、且つ油滴の大きさに依存せずに脂肪消化速度を決定するために単分散O/Wエマルション(大きさ37μm)のインビトロ実験を利用した。
【0128】
単分散O/Wエマルションは、テーパ毛細管からの油滴の破壊に基づく並行流方式で調製された。この方式は連続相として水−乳化剤溶液を含有する並行流に導入される。
【0129】
該インビトロ消化実験は、蛍光顕微鏡検査により実施された。時間経過した一連の画像が、消化力のあるインテスティナルメディウム(pH7、胆汁酸塩、及びSigmaからの膵臓リパーゼP1750)における染色した(ナイルレッド染料による)エマルション滴から記録された。エマルション滴の大きさの減少における時間依存性を決定することにより、エマルションの消化速度が得られた。図3は、インビトロGI条件下で、2時間に渡る時間をかけて顕微鏡検査により撮像された蛍光標識エマルションの典型的な一連の画像を示している(a)。(a)から、エマルションの消化速度が、時間に対する液滴直径の減少として得られる(b)。
【0130】
1.プロテオースペプトン画分を有する油/水の界面の安定化による脂質の加水分解の遅延の証拠
O/W界面で、種々のタイプの乳蛋白質を有する単分散O/Wエマルションは、並行流方式で調製されてきた。中鎖トリグリセリド(MCT)は、油相として使用されてきた。また、β−ラクトグロブリン(BLG)、β−カゼイン(BCN)、ホエイ蛋白質分離物(WPI)及びプロテオースペプトン画分は、水相に溶解した安定剤として使用されてきた。インビトロ消化実験は、染められたエマルション滴を消化力のあるインテスティナルメディウム(胆汁酸塩、膵臓リパーゼの存在下、pH7で)に入れて実施されてきた。エマルション滴の大きさの減少(膵臓リパーゼによる油滴消化に起因する)の後に、2時間に渡る顕微鏡検査が実施され、エマルションの消化速度の曲線プロフィールが、長時間にわたる平均液滴直径として得られた。図4では、安定化していないMCT油(対照)の消化から得られた曲線プロフィールと共に4つのO/Wエマルションの消化速度が示されている。この対照実験のために、消化力のあるインテスティナルメディウムがMCT油に添加された。胆汁酸塩は、油の乳化を引き起こし(液滴の形成により顕微鏡下で見ることができる)、このことが、エマルション滴と同じ大きさを有する選択された油滴の蛍光実験の実施を可能にした。
【0131】
図4の結果は、MCT油がプロテオースペプトン画分により安定化した場合、消化速度の低下の証拠となる。特に、MCT油の場合、30分後に油滴は初期直径の50%が消滅したが、MCT/WPIエマルションの場合は、約1時間30分を必要とし、MCT/プロテオースペプトン画分の場合は、3時間30分を必要とすることが分かる。
【0132】
2.エマルションのバルク水相へのプロテオースペプトン画分の添加による脂質の加水分解の遅延の証拠は、プロテオースペプトン画分による油/水の界面が安定化していないことであった。
【0133】
単分散O/Wエマルション(MCT/WPI)が、前述の並行流方式で調製された。
【0134】
インビトロ消化実験は、比較蛋白質(アルブミン、ホエイ蛋白質分離物)及びプロテオースペプトン画分を添加したMCT/WPIエマルションについて、腸の模擬消化の条件下で実施された。図5では、MCT/WPIエマルション(対照)の消化速度がバルク水相中で同一濃度(1.5%、w/w)で、アルブミン、WPI及びプロテオースペプトン画分を添加したMCT/WPIエマルションの消化から得られた曲線プロフィールと共に示されている。図5のデータはまた、プロテオースペプトン(PP)画分が、蛋白質層で事前に被覆された油滴の水相に添加された場合の脂肪分解のより著しい遅延を示している。
【0135】
3.インビトロ胃腸モデルでのプロテオースペプトン画分による油/水の界面の安定化による脂質の加水分解の遅延の証拠
動的なインビトロ胃腸モデル(TNO胃腸モデル1、TNO製のTIM1、オランダ)が、トリグリセリドの消化に対するβ−ラクトグロブリン(β−LG、Biopure)又はプロテオースペプトン画分(PPf)の影響を評価するために使用された。このモデルは、胃、十二指腸、空腸、及び回腸を模擬した4つの連続したコンパートメントから成る(図6)。空腸及び回腸のコンパートメントは、各々濾過ユニット(Spectrumlabsのミニクロス(Minikros)(登録商標)、M20S−300−01P)に連結されている。回腸弁の後に、流出物が回収される。
【0136】
食事の調製
蛋白質(β−LG又はPPf)溶液をPBS(pH7)で調製し、この溶液をマグネティックスターラーで1時間撹拌した。ひまわり油(Coop AG、スイス)を、油10%(w/w)及び蛋白質1%の濃度を得るような量で蛋白質溶液に加えた。この溶液を、500rpm/3分で最初のポリトロン処理(モデルPT3100D Kinematica AG製)により乳化させ、次いでRannieホモジェナイザー(Mini−Lab、型7.30 APV製、スイス)に400バールで、2度通過させることにより、マイクロ流動化させた。Malvern Mastersizer光散乱装置を使用して、得られたエマルションの液滴直径を測定し、粒径が0.1〜9.8μmの間であるという結果を得た。
【0137】
6時間に渡るTIMモデルでの実験で、食事の検査が行われ、脂肪食の摂取後の胃腸管の標準の生理学的条件を模擬した。最初の胃液量を模擬するために、胃液分泌物5mlを食事に加えた。次に、食事を直接、胃のコンパートメントに導入した。胃液分泌物は、0.5ml/minの流量で分泌される胃の電解質溶液(NaCl 4.8g/l、KCl 2.2g/l、CaCl 0.22g/l、NaHCO 1.5g/l)中で、ペプシン(Sigma P7012、600U/ml)及びリパーゼ(Amano F−AP15、40U/ml)から成った。塩酸(1M)を分泌することにより、既定の曲線に従うようにpHを調節した。胃内容物の排出は、生体内データに従って実施された。
【0138】
十二指腸分泌物は、0.5ml/minの流量の新鮮なブタ胆汁、0.25ml/minの流量の7%のパンクレアチン溶液(Pancrex V粉末、Paines&Byrne、UK)及び0.15ml/minの流量の小腸の電解質溶液(SIES:NaCl、5g/l;KCl、0.6g/l;CaCl2、0.25g/l)から成った。空腸分泌液は、3.2ml/minの流量の10%の新鮮なブタ胆汁を含有するSIESから成った。回腸分泌液は、3.0ml/minの流量のSIESから成った。
【0139】
十二指腸、空腸、及び回腸のコンパートメント内のpHを、1Mの重炭酸ナトリウム溶液で調節して、設定値6.5、6.8及び7.2にした。実験を実施する前に、最初の腸の内容物の模擬のために、十二指腸コンパートメントを、SIES15g、7%のパンクレアチン溶液15g、新鮮なブタ胆汁30g、及びトリプシン(Sigma、T4665−5G)2mgから成る溶液で満たした。空腸コンパートメントを、SIES30g、7%のパンクレアチン溶液30g及び新鮮なブタ胆汁60gから成る溶液で満たした。回腸コンパートメントを、SIES溶液で満たした。
【0140】
実験中、空腸(FJ)及び回腸(FI)からの濾液と流出物(Eff)を0〜2時間、2〜4時間、4〜6時間の間に回収し、遊離オクタデカン酸の含有量をガスクロマトグラフィー(GC)で分析した。
【0141】
インビトロ消化実験の濾液又は廃水試料100μLをクロロホルム900μL及び0.1NのHCl 100μLで希釈した。次に、試料を10分間、14000rpmの速度で遠心分離機にかけた。有機相をGCで分析した。
【0142】
FID検出器を備えたAgilent 6890ガスクロマトグラフィーにより、スプリットモードでGC分析を実施した。長さ15m、内径0.25mm、型番J&W122−5711の無極性の溶融石英DB5−HTカラムを使用した。実験中のガス流量はFID検出器用に水素50mL/min、空気流量450mL/min、及びカラム用に窒素45mL/minであった。カラムの初期温度を、2分間40℃に保ち、その後20℃/minで温度を220℃まで上げ1分間保った後、再び10℃/minの速度で最終温度320℃まで上げ、この温度を10分間保った。
【0143】
同一手順に従って、オクタデカン酸シグナルの全体が、インストールされたソフトウェアHPCHEMを使用して測定され、標準を使用して同定された。
【0144】
図7は、数回の消化の後に、検査を経た3つの消化コンパートメント中でひまわり油の加水分解中に放出されるオクタデカン酸に相当する(量に比例する)表面積を示している。本発明によるプロテオースペプトン画分により安定化したエマルション中では、β−ラクトグロブリンにより安定化した対照エマルションと比較して、全体的に約30%少ないオクタデカン酸が放出されたことが明白に認識され得る。この脂肪分解促進の低下は、脂肪酸の大部分が生体内で吸収される空腸コンパートメント及び回腸コンパートメントの両方で観察された。興味深いことに、両コンパートメントも、最初の2時間以内に、最も強く脂肪分解の低下(75%)が起こった。PPfを使用した脂肪分解の低下の結果は、β−LGの使用による調節と比較して、モデル消化システムの廃水コンパートメントにおけるオクタデカン酸の含有量(25%)がより多いことで確証される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミネラル含有量を少なくとも25%減少させた天然蛋白質水分散液のpHをpH5.6〜8.4、又はpH3.5〜5.0に調整するステップ、
前記天然蛋白質水分散液を約10秒間〜60分間加熱して約70〜95℃とするステップと、
加熱後に、前記蛋白質水分散液から、少なくとも100nmの直径を有する形成された固形高分子量凝集体の少なくとも90重量%を除去するステップ、及び
前記分散液の残りの液体画分を回収するステップ
を含む方法により得ることができるプロテオースペプトン画分、及び少なくとも1つの脂質を含む食品であって、食品中の前記プロテオースペプトン画分及び前記少なくとも1つの脂質は、プロテオースペプトンを含有する少なくとも1つの被覆層を含む被覆油滴として、少なくとも部分的に提供される、食品。
【請求項2】
前記プロテオースペプトン画分及び前記少なくとも1つの脂質が、1:2〜1:2000の範囲、好ましくは、1:10〜1:100の範囲の重量比で提供される、請求項1に記載の食品。
【請求項3】
プロテオースペプトンを含有する被覆層が外側の被覆層である、請求項1又は2に記載の食品。
【請求項4】
少なくとも1つの蛋白質画分を含有する少なくとも1つの更なる被覆層を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の食品。
【請求項5】
前記少なくとも1つの更なる被覆層に含有される前記蛋白質画分が、β−ラクトグロブリン、ホエイ蛋白質分離物又はβ−カゼインから成る群より選択される、請求項4に記載の食品。
【請求項6】
前記被覆油滴が0.1〜100μmの範囲、好ましくは1〜50μmの範囲の直径を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の食品。
【請求項7】
前記被覆油滴の油とプロテオースペプトンの重量比が1:2〜1:2000の範囲である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の食品。
【請求項8】
食品中の前記脂質の少なくとも50重量%が被覆油滴として提供される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の食品。
【請求項9】
前記プロテオースペプトン及び前記脂質が少なくとも部分的にエマルションの形態で提供される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の食品。
【請求項10】
ヒト及び/又は動物の体重減少及び/又は体重維持の支援に使用する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の食品。
【請求項11】
肥満の治療又は予防に使用する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の食品。
【請求項12】
代謝性疾患の治療又は予防に使用する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の食品。
【請求項13】
前記代謝性疾患が糖尿病、高血圧症、及び心臓血管疾患から成る群より選択される、請求項12に記載の食品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公表番号】特表2013−502208(P2013−502208A)
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−525128(P2012−525128)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【国際出願番号】PCT/EP2010/061584
【国際公開番号】WO2011/020736
【国際公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(599132904)ネステク ソシエテ アノニム (637)
【Fターム(参考)】