説明

プロトンを挿入種とする蓄電デバイス

【課題】過充電時においても電極が劣化しにくく、容量が大きく、かつ、電池サイクル寿命も良好で、フロート充電に適した新規な二次電池を提供すること。
【解決手段】本発明は、(1)Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Nb,Mo,Ru,Pd,Ag,Ta,W,Ce,Pr,Sm,Eu及びPbからなる群から選択される少なくとも一種以上の金属元素を含有する化合物を集電体に被着して形成した負極と、(2)Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Nb,Mo,Ru,Pd,Ag,Ta,W,Ce,Pr,Sm,Eu及びPbからなる群から選択される少なくとも一種以上の金属元素の水酸化物又はオキシ水酸化物を含有する正極と、(3)電解質と、を具備する蓄電デバイスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レドックス可能な金属元素を含有する化合物からなる負極と、レドックス可能な元素の水酸化物又はオキシ水酸化物を含有する正極と、電解質と、を具備する新規な水系の蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ水溶液を電解液とする二次電池には、ニッケル−カドミウム電池、ニッケル−鉄電池、ニッケル−亜鉛電池、ニッケル−水素電池等がある。これらアルカリ二次電池の正極には水酸化ニッケルが用いられる。一方、ニッケル−カドミウム電池の場合にはカドミウム金属と水酸化カドミウムの混合物、ニッケル−鉄電池の場合には鉄金属と水酸化鉄の混合物、ニッケル−亜鉛電池の場合には亜鉛金属と水酸化亜鉛の混合物が、それぞれ負極に用いられる。また、ニッケル−水素電池の場合には、負極には水素吸蔵合金が用いられる。
【0003】
このうち、ニッケル−カドミウム電池、ニッケル−鉄電池及びニッケル−亜鉛電池は、充放電時に負極の溶解再析出反応を伴うため、出力特性に劣る。また、再析出した負極活物質がデンドライド状で析出することから寿命が短く、短絡が発生する恐れもある。このため、現在では主として、ニッケル−水素電池が二次電池として用いられている。
【0004】
ニッケル−水素電池のアルカリ電解液中における充放電反応は、以下の式で表すことができる。なお、Mは、金属元素(水素吸蔵合金)を示す。
[式1] 正 極:Ni(OH)+OH⇔NiOOH+HO+e
[式2] 負 極:M+HO+e⇔MH+OH
[式3] 全反応:Ni(OH)+M⇔NiOOH+MH
【0005】
充電時において、正極では、水酸化ニッケルが水素を放出して、オキシ水酸化ニッケルが生成する。このとき、負極では、金属(水素吸蔵合金)が水の電気分解で生成した水素を吸蔵して水素化物となる。一方、放電時においては、負極の金属から水素が放出され、水と共に電気が生成される。
【0006】
ニッケル−水素電池は、出力特性に優れ、安定した充放電を実現できる。このため、家庭用電気機器、携帯電話、ノート型パソコン等のモバイル機器、充放電式電動工具等の他、信頼性が最重視される工場又は病院等の施設の非常用電源としても活用されている。非常用電源は、充電されていた電力を停電時に放電して、機器等の停止を防ぐ役目を果たすのが最大の目的であるので、いつでも使えるように常に満充電の状態としなければならない。
【0007】
従って、非常用電源に用いられる二次電池は、急速充電方式の二次電池のように短時間で満充電にして、その後は充電を停止させるものではなく、一定以上の容量を確保できる充電方式、例えば満充電後も微弱電流で充電を継続し、自己放電を補う充電方式(トリクル充電)、又は満充電になると電流が充電器内のバイパス回路を通ってバッテリーへの負担をゼロにする充電方式(フロート充電)が行われている。
【0008】
過充電時には下記反応に従い、正極から酸素ガスが発生する(式4)。これらの酸素のうち、大部分は式5に示すように負極表面で水素と反応して水に戻る。なお、Mは、金属元素(水素吸蔵合金)を示す。このため、ニッケル水素電池では負極の放電容量を正極の等量以上にする、正極容量規制方式が用いられている。
[式4] 酸素発生(正極): OH⇔1/2HO+1/4O+e
[式5] 酸素吸収(負極): MH+1/4O⇔M+1/2H
[式6] 全 反 応 : M+HO+e⇔MH+OH
【0009】
しかしながら、一部の酸素は水素吸蔵合金そのものを酸化して負極の劣化を引き起こし、電池性能が劣化する問題がある。特に、高温雰囲気で二次電池の充電を行うと、常温下よりも充電効率が低下し、電池容量が低くなる。これは、高温条件では酸素発生電位が下がり、式4に示す酸素発生反応が[式1]の充電反応に優先して起こるためである。また、充電末期の検知には電池電圧、温度の上昇やそれらの時間についての微分値等が用いられているが、電池の使用環境によっては確実に作動するとはいいがたい欠点がある。
【0010】
非常用電源は、幅広い温度環境での使用が想定されるため、上述した、高温での充電効率の改善が必要となる。同時に、フロート充電等の長期間に亘る過充電状態は、正極からの酸素発生量が増大し、負極表面の酸化劣化が起こりやすく、負極の水素吸蔵放出特性及び充電容量の低下を引き起こす問題がある。このような高温時の酸素発生の抑制手段として、イットリウム、カルシウム又はコバルトのような水酸化物によってニッケル正極の表面を被覆することが有効であること報告されている(非特許文献1)。しかし、これら化合物は、水酸化ニッケルより電位が低いため、電池電位が低くなる傾向がある。このため、酸化されにくい負極材料が求められている。
【0011】
ニッケル−水素電池に広く使用されるLaNi系合金又はLa−Mg−Ni系超格子合金は、希土類元素のような高価な元素を含むことから、負極及び電池全体の製造コストを引き上げる原因となっている。また、これらの元素は資源が偏在していることから、資源の安定供給の観点からも、普遍性のある資源を電極材料として使用する必要があった。
【0012】
酸化されやすい水素吸蔵合金ではなく、酸化されることのない酸化物を電極に用いたアルカリ二次電池も検討されている。例えば、非特許文献2には、MnOと炭素をそれぞれ正極と負極に用い、電解液中にリチウム化合物を含む水系リチウムイオン電池が再充電可能であることが開示されている。しかし、非特許文献2に開示されている水系リチウムイオン電池は、10サイクル以内の充放電によって急激な容量低下が見られ、実用性に欠けると考えられる。
【0013】
特許文献1には、リチウムマンガン酸化物又はリチウムバナジウム酸化物をそれぞれ正極と負極とし、リチウム塩を溶解させた電解液を用いる水系リチウムイオン二次電池が再充電可能であることが示されている。しかし、充放電に用いる電流は1mA/gと非常に小さく、20〜30サイクルの充放電によって電池が劣化するため、特許文献1に開示されている水系リチウムイオン電池は、実用性に欠けると考えられる。
【0014】
特許文献2には、3.4V以上(例えば、LiFePO:3.45V)と2.2V以下(例えば、LiTi12)の二種の異なる充放電電位を有するリチウム挿入化合物を組み合わせ、リチウム塩を溶解したpH14以上の水溶液を電解液に用いた水系リチウムイオン二次電池が開示されている。特許文献3には、NiO、CoO、Mn、MnO、VO、V、MoO、WO等を活物質として用いた水系二次電池が開示されている。
【0015】
しかし、特許文献2及び特許文献3に開示されている二次電池は、リチウムイオンの挿入脱離反応が寄与する必要があるため、高率放電特性が乏しく、また電池サイクル寿命特性が低い。これはリチウムイオンの大きさが水素イオンと比べて大きいため、イオンの拡散速度が遅く、また、電極のリチウムイオン吸蔵及び放出に伴う体積変化も大きいためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特許第4301527号公報
【特許文献2】米国特許第6403253号公報
【特許文献3】米国特許第5376475号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】K. Shinyama et al, Electrochemistry,71,8,(2003).
【非特許文献2】R. L. Deuscher et al, Journal of Power Sources, 55, 41 (1995).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上述したように、ニッケル−水素電池は、出力特性に優れ、安定した充放電を実現できるが、負極の水素吸蔵合金の劣化が問題となっている。
【0019】
一方、水系や非水系を問わず、リチウムイオン電池の挿入種はリチウムイオン(Li)であり、リチウムイオンが移動することで電気が伝導される。リチウムイオンは金属イオンであるため、水素イオン(H)と比較して移動速度が低く、充放電できる電流量はあまり大きくなく、応答性も低いという問題があった。また、リチウムイオン電池では、充放電の際にリチウムイオンが活物質に繰り返し挿入及び脱離されるため、電極材料の構造変化が大きく劣化が生じ易い。このため、電池サイクル寿命が短いという問題もあった。
【0020】
さらに、リチウム二次電池を含む一般の電池では、正極と負極を隔離するために、液体の電解質が使用されている。このため、電解質溶液の漏洩が起こる可能性があり、薄型化も困難であった。そこで、ポリマーと電解質塩のみから構成されるポリマー電解質、又はこれらを有機溶媒でゲル化したゲル状ポリマー電解質が開発されているが、このようなポリマー電解質を用いたポリマー二次電池においても、大きな挿入種が移動するために内部抵抗が高く、応答性が悪いという問題があった。
【0021】
本発明は、過充電時においても電極が劣化しにくく、容量が大きく、かつ、電池サイクル寿命も良好で、フロート充電に適した新規な二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明者等は、上記従来技術の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、レドックス可能な金属を含む化合物を材料として負極を作製し、レドックス可能な金属の水酸化物又はオキシ水酸化物からなる正極を組み合わせることにより、充電制御が容易で、且つ、過充電時にも電極の劣化が起こりにくい二次電池を作製し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0023】
具体的に、本発明は、
(1)化学式1:A
(式中、AはLi,Na,K,Rb,Csからなる群から選択される少なくとも一種以上のアルカリ金属元素であり;MはTi,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Nb,Mo,Ru,Pd,Ag,Ta,W,Ce,Pr,Sm,Eu及びPbからなる群から選択される少なくとも一種以上の金属元素であり;XはB,Al,Si,P,S,Ga及びGeからなる群より選択される少なくとも一種以上の典型元素であり;ZはO,S,N,F,Cl,Br及びIからなる群より選択される少なくとも一種以上の典型元素であり;0≦a≦6、1≦b≦5、0≦c≦4、0<d≦12であり、0≦a/b≦4である)で表される化合物を集電体に被着して形成した負極と、
(2)Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Nb,Mo,Ru,Pd,Ag,Ta,W,Ce,Pr,Sm,Eu及びPbからなる群から選択される少なくとも一種以上の金属元素の水酸化物又はオキシ水酸化物を集電体に被着して形成した正極と、
(3)プロトン導電性又は水酸化物イオン導電性を有する電解質と、
を具備する蓄電デバイスに関する。
【0024】
ニッケル−水素電池は、正極に水酸化ニッケル、負極にLaNi系合金等の水素吸蔵合金を用いる。また、リチウムイオン電池は、正極にリチウムを含む金属酸化物、負極にグラファイト等の炭素材料、又は珪素材料等を用いることが一般的である。これに対して、本発明の蓄電デバイスは、負極にTi,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Nb,Mo,Ru,Pd,Ag,Ta,W,Ce,Pr,Sm,Eu及びPbからなる群から選択される少なくとも一種以上の金属元素を含有する化合物、正極にTi,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Nb,Mo,Ru,Pd,Ag,Ta,W,Ce,Pr,Sm,Eu及びPbからなる群から選択される少なくとも一種以上の金属元素の水酸化物又はオキシ水酸化物を用いること特徴とする。
【0025】
以下、負極の材料となる化学式1で表される化合物を「負極化合物」と呼ぶ。負極化合物は、Sc,Zn,Y,Zr,La,Nd,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Hf,Bi等の元素によって金属元素(化学式1のM)が一部置換された構造を有していてもかまわない。
【0026】
集電体とは、電子伝導性を有し、保持した負極化合物に均一に通電させ、且つ、電線を溶接、圧着等の手法によりにより取り付けることができるような部材である。例えば、炭素、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、銀、タンタル、タングステン、オスミウム、イリジウム、白金又は金のような金属、これら金属の2種類以上を含有する合金(例えば、ステンレス鋼)を使用し得る。電気伝導性が高く、電解液中の安定性がよい観点から、導電性物質は炭素、チタン、クロム、ニッケル、銅、銀、白金、金又はステンレスが好ましく、さらにコストパフォーマンスの観点から炭素、又はニッケルが好ましい。集電体の形状には線状、棒状、板状、箔状、網状、織布、不織布、エキスパンド、多孔体又は発泡体があり、このうち充填密度を高めることができることからエキスパンド、多孔体又は発泡体が好ましい。
【0027】
被着するとは、集電体と負極化合物を接触させた状態で固定することである。すなわち、負極化合物を充填すること、又は集電体である金属網等によって負極化合物を固定すること等が該当する。製造手法としては特に限定されないが、例えば、圧着法、スラリー法、ペースト法、蒸着法、電解析出法、陽極酸化法、ディッピング法、スピンコート法、エアロゾルデポジション法、スパッタリング法等があげられる。しかし、発泡状ニッケルのような金属発泡体(集電体)を用いる場合は、充填密度、電極製造速度の観点から、スラリー法又はペースト法が好ましい。
【0028】
正極は、Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Nb,Mo,Ru,Pd,Ag,Ta,W,Ce,Pr,Sm,Eu及びPbからなる群より選択される元素の水酸化物、又はオキシ水酸化物を主成分として含有していればよく、水酸化ニッケル、オキシ水酸化ニッケル、水酸化マンガン、オキシ水酸化マンガン、水酸化鉄、オキシ水酸化鉄を主成分としたものが好適に用いられ、それら以外に導電性物質(導電材)、バインダ等の成分を含有してもよい。
【0029】
電解質は、プロトン導電性又は水酸化物イオン導電性を有するものであればよく、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸水溶液、蟻酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸等の有機酸、アルカリ金属水酸化物水溶液等のアルカリ水溶液、プロトン導電性固体電解質等が用いられる。その中でも、正極に用いる水酸化物を安定に存在させるためにアルカリ水溶液が好ましく、例えば、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液等を使用し得る。
【0030】
なお、本発明の蓄電デバイスでは、プロトン(水素イオン)が挿入種であるため、電解質にリチウムイオンが含有されている必要はないが、高率放電特性を低下させない濃度であれば、電解質中にリチウムイオンが含有されてもよい。
【0031】
化学式1の金属元素Mが低次酸化状態であり、且つ、前記正極が前記オキシ酸化物を集電体に被着して形成されることが好ましい。このような構成であることによって、電池組立直後において放電可能となる。
【0032】
化学式1の金属元素Mが低次酸化状態とは、Mの酸化数が「+1≦Mの酸化数<Mの取りうる最大酸化数」の状態を云う。化学式1の金属元素Mが高次酸化状態とは、「Mの酸化数が+1<Mの酸化数≦Mの取りうる最大酸化数」の状態を云う。例えば、負極化合物がリン酸鉄リチウム(LiFePO)である場合、低次酸化状態ではFeは+2であり、高次酸化状態ではFeは+3である。負極化合物がコバルト酸リチウム(LiCoO)である場合、低次酸化状態ではCoは+2であり、高次酸化状態ではCoは+3である。
【0033】
なお、化学式1の金属元素Mが高次酸化状態であり、且つ、前記正極が前記水酸化物を集電体に被着して形成される場合には、電池組立後に充電しなければ放電させることができない。
【0034】
前記負極は、導電性物質で被覆された負極化合物を集電体に被着して形成されることも好ましい。負極化合物の導電性が高い場合には、負極化合物の表面を導電性物質で被覆する必要はない。しかし、負極化合物の導電性が低い場合には、負極化合物の表面を導電性物質で被覆した後、被覆された負極化合物を集電体に被着して負極を形成することも好ましい。後述するように、導電性物質は、炭素であることが最も好ましい。
【0035】
前記負極は、負極化合物と共に導電性物質を集電体に被着して形成されることが好ましい。負極化合物の導電性が高い場合には、導電性物質を集電体に被着して負極を形成すれば足りる。しかし、負極化合物の導電性が低い場合には、負極化合物と共に導電性物質を集電体に被着して負極を形成することが好ましい。
【0036】
前記負極は、電子導電性を有する多孔体に前記化合物を充填して形成されることが好ましい。
【0037】
前記正極は、ニッケル、マンガン又は鉄の水酸化物又はオキシ水酸化物を集電体に被着して形成されることが好ましい。
【0038】
前記電解質は、高分子又はセラミックスにアルカリ電解液を含浸又は保持させた電解質であることが好ましい。
【0039】
正極の放電容量は、負極の放電容量の1.05倍以上5倍以下の範囲であることが好ましい。
【0040】
1.2V以上1.7V以下の電圧範囲で充電し、且つ、充電末期の電圧上昇を検知して充電の制御を行うことを特徴とする充電方式を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0041】
本発明の蓄電デバイスによれば、過充電による電極酸化の影響が極めて少なく、かつ、水素イオンを挿入種として充放電を行うため、高出力が達成できる。また、本発明の蓄電デバイスによれば、高容量で50サイクル以上の電池サイクル寿命を達成し得る。さらに、本発明の蓄電デバイスは、希土類金属を使用することもなく、−30〜70℃という広い温度範囲で使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施例1の開放式電池セルの5サイクル目の充電カーブを示す。
【図2】実施例1の開放式電池セルの5サイクル目の放電カーブを示す。
【図3】実施例1及び参考例1の開放式電池セルの、10サイクル目までの放電容量の変化を示す。
【図4】実施例2の開放式電池セルの5サイクル目の充放電カーブを示す。
【図5】実施例2の開放式電池セルの、10サイクル目までの放電容量の変化を示す。
【図6】実施例3のH字型試験セルの概略構成図を示す。
【図7】実施例3のH字型試験セルのサイクリックボルタモグラムを示す。
【図8】実施例3及び比較例5のH字型試験セルの60サイクル目の充放電カーブを示す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の記載に限定されない。
【0044】
上述したように、本発明の蓄電デバイスは、
(1)化学式1:AaMbXcZd
(式中、AはLi,Na,K,Rb,Csからなる群から選択される少なくとも一種以上のアルカリ金属元素であり;MはTi,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Nb,Mo,Ru,Pd,Ag,Ta,W,Ce,Pr,Sm,Eu及びPbからなる群から選択される少なくとも一種以上の金属元素であり;XはB,Al,Si,P,S,Ga及びGeからなる群より選択される少なくとも一種以上の典型元素であり;ZはO,S,N,F,Cl,Br及びIからなる群より選択される少なくとも一種以上の典型元素であり;0≦a≦6、1≦b≦5、0≦c≦4、0<d≦12であり、0≦a/b≦4である)で表される化合物を集電体に被着して形成した負極と、
(2)Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Nb,Mo,Ru,Pd,Ag,Ta,W,Ce,Pr,Sm,Eu及びPbからなる群から選択される少なくとも一種以上の金属元素の水酸化物又はオキシ水酸化物を集電体に被着して形成した正極と、
(3)プロトン導電性又は水酸化物イオン導電性を有する電解質と、
を具備する。
【0045】
ここで、本発明の蓄電デバイスは、負極材料にレドックス可能な元素を含んだ化合物(負極化合物)を用いることを第一の特徴としている。この負極化合物は、ニッケル−水素電池の負極材料である水素吸蔵合金とは異なり、従来のリチウムイオン電池の負極材料である炭素材料又は珪素材料とも異なる。
【0046】
また、本発明の蓄電デバイスは、水素イオンが挿入種であることを第二の特徴としている。電解液中の水素イオンは、リチウムイオンと比較して移動しやすく、二次電池が高出力な充放電特性を発揮することを可能とする。また、過酷な温度雰囲気下でも二次電池を使用することが可能となる。
【0047】
なお、正極容量規制方式でも本発明の蓄電デバイスは作製可能であるが、正極からプロトンが脱離する反応の電位と酸素発生電位が近いため、充電末期の検出には充電電圧の変化のほか、温度の上昇やそれらの時間についての微分値等を用いる必要がある。しかし、電池の使用状況によっては必ずしも確実に動作しない。一方、プロトンの負極化合物への挿入電位(充電電位)と過充電時の水素発生電位の差が大きいことから、負極の放電容量に対し、等量以上の正極放電容量を有する「負極容量規制」の電池とすることで、充電末期の充電電圧変化が大きな電池を作製することができ、該電圧変化を検知することで充電末期の検出が容易に行える。
【0048】
充電方式としては、既存の充電方式を適用することが可能であり、例えば、定電流充電方式、定電圧充電方式、パルス充電方式、間欠充電方式、トリクル充電方式、フロート充電方式等を適用し得る。非常用電源用途においては上述したように、フロート充電方式が電池へのダメージが少なく最も好適な充電方式といえる。本発明の蓄電デバイスを定電流で充電し続けた場合、充電末期に電圧が急激に上昇する。すなわち、電池の内部抵抗が大幅に上昇することから、電池と固定抵抗を並列に接続してフロート充電を行った場合、満充電後は電池に流れる電流を大幅に削減することができる。
【0049】
充電電圧が1.2Vより低い状態では十分に充電することができず、1.7V以上の状態では電解質の分解反応が競合する。そのため、本発明の蓄電デバイスの充電時における電圧範囲は、1.2V以上1.7V以下が好ましく、1.3V以上1.6V以下がより好ましい。
【0050】
負極化合物は、化学式1:AaMbXcZd(式中、AはLi,Na,K,Rb,Csからなる群から選択される少なくとも一種以上のアルカリ金属元素であり;MはTi,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Nb,Mo,Ru,Pd,Ag,Ta,W,Ce,Pr,Sm,Eu及びPbからなる群から選択される少なくとも一種以上の金属元素であり;XはB,Al,Si,P,S,Ga及びGeからなる群より選択される少なくとも一種以上の典型元素であり;ZはO,S,N,F,Cl,Br及びIからなる群より選択される少なくとも一種以上の典型元素であり;0≦a≦6、1≦b≦5、0≦c≦4、0<d≦12であり、0≦a/b≦4である)で表わされ、元素以外の典型元素やアルカリ金属元素又はアルカリ土類金属元素を含有してもよい。
【0051】
例えば、三酸化バナジウム、五酸化バナジウム、バナジン酸リチウム、クロム酸リチウム、マンガン酸リチウム、コバルト酸リチウム、リチウムフェライト、ナトリウムフェライト、ニッケル酸リチウム、チタン酸リチウム、リン酸鉄、リン酸鉄リチウム、硅酸鉄リチウム、リン酸コバルト等が負極化合物に該当する。
【0052】
化学式1のMは、Sc,Zn,Y,Zr,La,Nd,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Hf,Bi等の元素によって一部置換された構造を有していてもかまわない。アルカリ電解液に対する安定性、酸化還元反応の容易さ、コスト、優環境性の観点から、MはTi,V,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Mo,Ag,W又はCeであることが好ましい。
【0053】
負極化合物は、B,Al,Si,P,S,Ga及びGeからなる群から選択される少なくとも一種以上の典型元素Xを含有してもよく、含有していなくてもよい。耐アルカリ性・コストの観点から典型元素Xは、Al,Si又はPであることが好ましい。
【0054】
負極化合物の50%平均粒径は、0.5μm〜50μmであることが好ましく、1μm〜10μmであることがより好ましい。0.5μm未満であると、負極化合物がアルカリ電解液へ溶出するおそれがある。一方、50μmを超えると、負極を形成した際に表面に大きな空隙ができやすく、充填密度が悪くなる。
【0055】
負極化合物には、導電性が低い化合物も存在する。この場合、負極全体に均一に通電させることが困難になるため、負極に導電性を付与することが好ましい。導電性を付与する方法としては、負極化合物に導電性物質(導電助剤)を含有させるか、又は負極の表面を導電性物質によって被覆することが挙げられる。
【0056】
導電性物質は、電気導電性を有していれば足り、特に限定されない。導電性物質としては、炭素、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、銀、タンタル、タングステン、オスミウム、イリジウム、白金、金、水銀、鉛のような金属、これら金属の2種類以上を含有する合金(例えば、ステンレス鋼)を使用し得る。電気伝導性が高く、電解液中の安定性がよい観点から、導電性物質は炭素、チタン、クロム、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金、金、水銀、鉛が好ましい。水素発生電位が低いものは、プロトンの挿入反応と水素発生の競合を招くので、炭素、チタン、クロム、コバルト、銅、銀、水銀、鉛が好ましく、中でも低コストで製造が容易な炭素が最も好ましい。
【0057】
導電性物質を用いて負極に導電性を付与する場合、負極化合物の粉末に導電性物質の粉末を混合するよりも、負極化合物の表面を導電性物質によって被覆する方が、より効果が高い。負極化合物の表面を導電性物質によって被覆する方法としては、無電解めっき、金属カルボニルの熱分解によって金属を堆積させる方法、炭素前躯体を非酸素雰囲気下で加熱して炭化処理する方法等を利用し得る。導電性化合物は、炭素であることが最も好ましい。
【0058】
負極化合物表面を導電性物質によって被覆する場合、導電性物質の被膜が負極化合物に対して0.5wt%以上15wt%以下となるように被覆することが好ましく、1wt%以上5wt%以下となるように被覆することがより好ましい。導電性物質の被膜が0.5wt%未満の場合には、負極に十分な導電性を付与できないおそれがある。導電性物質の被膜が0.5wt%以上15wt%以下であれば、負極材料である負極化合物の導電性が低い場合であっても、負極に十分な導電性を付与し得る。一方、導電性物質の被膜が15wt%を超えると、負極全体における負極化合物の割合が減り、電池容量が低下するおそれがある。
【0059】
負極化合物粉末、結着剤及び導電助剤を、カルボキシセルロース(CMC)のような増粘剤を用いてスラリーとし、このスラリーに集電体を浸漬するか、又はこのスラリーをドクターブレード若しくはスプレーガン等を用いて集電体に塗布し、80〜200℃で乾燥させることにより、負極化合物を集電体に被着することができる。
【0060】
結着剤としては、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)が最も好ましい。SEBSは熱可塑性エラストマーであり、ゴムのように優れた伸縮性を示し、プラスチックのように容易に加工できるという特徴がある。しかも、耐酸化性及び耐還元性にも優れているので、負極の長寿命化が可能となる。SEBSを結着剤として用いることにより、負極化合物を含有するスラリーに優れた伸縮性を与えることができるため、充放電に際しても、負極から負極化合物が脱落しにくくなる。
【0061】
SEBSの他、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等の汎用の結着剤も使用し得る。結着剤の添加量は、負極化合物粉末に対して0.5wt%以上15wt%以下であることが好ましく、1wt%以上10wt%以下であることがより好ましい。結着剤の添加量が0.5wt%未満の場合には、集電体と負極化合物粉末とを充分に結着できないおそれがある。結着剤の添加量が0.5wt%以上15wt%以下であれば、集電体と負極化合物粉末とを良好に結着できる。一方、結着剤の添加量が15wt%を超えると、負極全体における負極化合物の割合が減り、電池容量が低下するおそれがある。
【0062】
スラリーに、さらに珪素、マグネシウム、カルシウム又はビスマス等のアルカリ溶解性酸化物の粉末を添加した後、集電体を浸漬するか、又は集電体に塗布する等の手法により、適宜負極前駆体を集電体上に形成する。この負極前駆体を乾燥後、80〜120℃の苛性アルカリ水溶液中に浸漬すると、アルカリ溶解性酸化物が苛性アルカリ水溶液中に溶解する。その結果、負極前駆体表面に多数の空隙ができて、イオン透過性を示すようになる。苛性アルカリ水溶液を水洗し、乾燥させた後、負極が完成する。
【0063】
スラリーに添加するアルカリ溶解性酸化物の50%平均粒径は、2μm以下であることが好ましい。アルカリ溶解性酸化物の添加量は、スラリー全体の1wt%以上30wt%以下であることが好ましく、2wt%以上10wt%以下であることがより好ましい。
【0064】
集電体とは電子伝導性を有し、且つ、保持した負極化合物に均一に通電させ、且つ、電線を溶接、圧着等の手法によりにより取り付けることができるような部材であり、炭素、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、銀、タンタル、タングステン、オスミウム、イリジウム、白金又は金のような金属、これら金属の2種類以上を含有する合金(例えば、ステンレス鋼)を使用し得る。電気伝導性が高く、電解液中の安定性がよい観点から、導電性物質は炭素、チタン、クロム、ニッケル、銅、銀、白金、金又はステンレスが好ましく、さらにコストパフォーマンスの観点から炭素、又はニッケルが好ましい。
【0065】
集電体の形状には線状、棒状、板状、箔状、網状、織布、不織布、エキスパンド、多孔体又は発泡体があり、このうち充填密度を高めることができることからエキスパンド、多孔体又は発泡体が好ましい。また、集電体の多孔度は80%以上98%以下の範囲にあることが好ましい。多孔度が80%より小さいと化合物の充填密度を高めることができず、多孔度が98%以上だと集電体の構造を維持することが困難となる。
【0066】
正極は、レドックス可能な元素の水酸化物又はオキシ水酸化物からなる。より具体的には、Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Nb,Mo,Ru,Pd,Ag,Ta,W,Ce,Pr,Sm,Eu及びPbからなる群より選択される元素の水酸化物又はオキシ水酸化物を主成分としている電極であれば特に限定されないが、水酸化ニッケル、オキシ水酸化ニッケル、水酸化マンガン、オキシ水酸化マンガン、水酸化鉄又はオキシ水酸化鉄電極であることが好ましい。なお、レドックス可能な元素の水酸化物又はオキシ水酸化物以外に、導電性物質(導電材)、バインダ等の成分を含有してもよい。
【0067】
電解質は、プロトン導電性又は水酸化物イオン導電性を有するものであればよく、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸水溶液、蟻酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸等の有機酸、アルカリ金属水酸化物水溶液等のアルカリ水溶液、プロトン導電性固体電解質等を用い得る。電解質は、正極に用いる水酸化物又はオキシ酸化物を安定に存在させるために、アルカリ水溶液であることが好ましい。例えば、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液等を使用し得る。
【0068】
電解質が液体(電解液)である場合、正極と負極を電池セル内で電気的に絶縁するために、高分子又はセラミックスにアルカリ電解液を含浸又は保持させることが好ましい。高分子としては、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、セロファン、ポリアクリル酸ソーダ等の高分子若しくはこれらの複合高分子、弱酸性陽イオン交換樹脂を使用し得る。また、これら高分子に親水化処理を施した材料も使用し得る。高分子又はセラミックスは、電極の形状に応じて、織布、不織布、膜状等の適切な形状を選択することができる。電解液にリチウムイオンが含有されている必要はないが、高率放電特性を低下させない濃度であれば、電解液中にリチウムイオンが含有されてもよい。
【0069】
[実施例1]
(負極の作製)
負極化合物であるLiFePO粉末(三井造船製)をブタンガス気流下で加熱処理し、LiFePO粉末表面に炭素被覆を施した。この炭素被覆済みLiFePO粉末と、導電性物質であるケッチェンブラックと、バインダであるSEBSとを、90:5:5の重量比で混合し、適量のキシレンを加えてスラリーを作製した。このスラリーを発泡状ニッケル(セルメット#8、住友電工製)に充填し、80℃で乾燥させた。圧延成型した後、端子接続用のNiリードを発泡状ニッケルに溶接して負極とした。負極は25mm角であり、充填したLiFePO粉末の量は150mg(乾燥重量)であった。
【0070】
(正極の作製)
水酸化ニッケル粉末(田中化学製)と、導電性物質である部分結晶化カーボンと、バインダであるEVAとを、90:5:5の重量比で混合し、適量のキシレンを加えて加熱撹拌し、スラリーを作製した。このスラリーを発泡状ニッケル(セルメット#8、住友電工製)に充填し、80℃で乾燥させた。圧延成型した後、端子接続用のNiリードを発泡状ニッケルに溶接して正極とした。正極は25mm角であった。
【0071】
(二次電池の作製)
負極の両面に、スルホン化ポリオレフィン不織布を介して正極を対向させて電極群とし、この電極群を7mol/lのKOH水溶液(電解液)中に浸漬して開放式電池セルを作製した。正極と負極の容量比は、正極が大過剰となるようにした。
【0072】
25℃の恒温槽中で15mAの電流(負極活物質の重量当たり100mA/gに相当する)で4時間充電し、その後15mA(負極活物質の重量当たり100mA/gに相当する)の電流値で電池電圧が1.0Vになるまで放電させることにより、作製した電池の充放電試験を行った。
【0073】
[参考例1]
複合酸化物であるLiFePO粉末表面に炭素被覆処理を施さない以外、すべて実施例1と同様にして開放式電池セルを作製した。
【0074】
図1は、実施例1の開放式電池セルの5サイクル目の充電カーブを示す。実施例1の開放式電池セルは、1.35〜1.40V付近に充電に基づくプラトー電圧が観測された。また、充電末期には急峻な電圧上昇が観測されたが、これは水の電気分解反応の過電圧が高いことに起因すると考えられた。
【0075】
実施例1の開放式電池セルは、充電電圧とその後の水の電解電圧が離れていることから、フロート充電時の制御が容易となることが期待される。また、従来のニッケル−水素電池やニッケル−カドミウム電池には、充電時に水の電気分解が副反応として起こることから充電効率が低下しやすいことが問題であったが、実施例1の開放式電池セルでは、両者の反応電圧が大きく離れていることから、副反応の抑制も合わせて期待された。
【0076】
図2は、実施例1の開放式電池セルの5サイクル目の放電カーブを示す。図2に示される放電カーブより、LiFePO粉末を炭素被覆した実施例1の開放式電池セルは、放電プラトー電圧が1.15〜1.10Vと平坦性に優れた放電特性を示した。負極材料の重量あたりの放電容量は、5サイクル目で94.7mAh/gであった。
【0077】
図3は、実施例1及び参考例1の開放式電池セルの、10サイクル目までの放電容量の変化を示す。参考例1の開放式電池セルは、初期サイクルにおいて20〜30mAh/gの放電容量を示すが、速やかに放電容量の低下が起こり、3サイクル目以降では放電容量がほぼ0となった。一方、実施例1の開放式電池セルは、4サイクル目で放電容量は、ほぼ最大値である94mAh/gに達し、10サイクル目においても放電容量は91mAh/gを維持していた。
【0078】
炭素被覆を施さないLiFePOは、導電性が低いことが知られており、例えばリチウムイオン電池等の電極材料に用いる際には、炭素被覆等の手法により導電性を付与することが必須である。本発明の蓄電デバイスにおいても、LiFePO粉末を負極材料とする場合には、導電性物質を用いて被覆する等して、LiFePO粉末に導電性を付与することが好ましいと考えられた。
【0079】
[比較例1]
正極として、水酸化ニッケル粉末に替えて水酸化ランタン粉末を使用する以外、すべて実施例1と同様にして開放式電池セルを作製した。実施例1と同様に開放式電池セルの充放電試験を行ったが、電池容量は示さなかった。
【0080】
実施例1で使用した水酸化ニッケル正極と比較すると、比較例1で使用した水酸化ランタン中のLaイオンは3価で安定であり、Niイオン(2+⇔3+)のように、酸化還元を起こさない。このことが、比較例1の開放式電池セルが電池容量を示さなかった原因であると考えられた。すなわち、本発明で使用する複合、正極を構成する水酸化物は、例えばNiのように、容易に酸化還元を起こす遷移金属元素であることが好ましいと考えられた。
【0081】
[比較例2]
電解液として、7mol/lのKOH水溶液の替わりに3mol/lのKCO水溶液を使用する以外、すべて実施例1と同様にして開放式電池セルを作製した。実施例1と同様に開放式電池セルの充放電試験を行ったが、電池容量は示さなかった。
【0082】
[比較例3]
電解液として、7mol/lのKOH水溶液の替わりに4mol/lのK水溶液を使用する以外、すべて実施例1と同様にして開放式電池セルを作製した。実施例1と同様に開放式電池セルの充放電試験を行ったが、電池容量は示さなかった。
【0083】
実施例1で使用した水酸化カリウム電解液と比較すると、比較例2及び比較例3で使用した炭酸カリウム及びホウ酸カリウム水溶液中では、水酸化物イオンの濃度が低く、負極に対し十分にプロトンを供給できない。このことが、比較例2及び比較例3の開放式電池セルが電池容量を示さなかった原因であると考えられた。すなわち、本発明で使用する電解質は、十分な水酸化物イオンを含んでいる必要があり、アルカリ金属の水酸化物の水溶液であることが好ましいと考えられた。
【0084】
[実施例2]
(負極の作製)
負極化合物であるLiCoO粉末(日本化学工業製)と、導電性物質であるケッチェンブラックと、バインダであるSEBSとを、90:5:5の重量比で混合し、適量のキシレンを加えてスラリーを作製した。このスラリーを発泡状ニッケル(セルメット#8、住友電工製)に充填し、80℃で乾燥させた。圧延成型した後、端子接続用のNiリードを発泡状ニッケルに溶接して負極とした。負極の大きさは25mm角であり、充填したLiCoO粉末の量は600mg(乾燥重量)であった。
【0085】
(正極の作製)
実施例1と同様にして、正極を作製した。
【0086】
(二次電池の作製)
上記負極及び正極を用いて、実施例1と同様にして開放式電池セルを作製した。
【0087】
作製した開放式電池セルの充放電試験は、25℃の恒温槽中で60mAの電流(負極活物質の重量当たり100mA/gに相当する)で4時間充電し、その後60mA(負極活物質の重量当たり100mA/gに相当する)の電流値で電池電圧が1.0Vになるまで放電させることにより、作製した開放式電池セルの充放電試験を行った。
【0088】
図4は、実施例2の開放式電池セルの5サイクル目の充放電カーブを示す。図4では、1.25〜1.40V付近に充電に基づくプラトー電圧が観測され、充電末期には急峻な電圧上昇が観測された。LiFePOを負極材料として用いた実施例1の開放式電池セルと同様に、充電末期には急峻な電圧上昇は、水の電気分解反応の過電圧が高いことに起因すると考えられ、フロート充電時の充電制御や副反応(水の電気分解反応)の抑制の観点から有利であると考えられた。
【0089】
放電電圧は、放電深度にしたがって1.25Vから1.1Vまで単調に減少したため、プラトー性には劣るものの、電池電圧から放電深度が容易に類推できる利点があった。
【0090】
図5は、実施例2の開放式電池セルの、10サイクル目までの放電容量の変化を示す。5サイクル目で放容量は、ほぼ最大値である130mAh/gに達し、10サイクル目においても放電容量は約90%の116mAh/gを維持していた。
【0091】
実施例2で負極化合物として使用したLiCoO粉末は、コバルトイオンによる電子伝導性を有している。このため、実施例1で負極化合物として使用したLiFePO粉末と異なり、特段の導電化処理を行わなくとも、二次電池の負極材料として使用し得たものと類推された。
【0092】
[比較例4]
LiCoO粉末の替わりにLiZrO粉末(高純度化学研究所製)を使用する以外、すべて実施例2と同様にして負極を作製した。この負極を用いて、実施例2と同様にして開放式電池セルを作製した。実施例2と同様に開放式電池セルの充放電試験を行ったが、電池容量は示さなかった。
【0093】
実施例1及び実施例2で使用した負極化合物と比較すると、比較例4で使用したLiZrO中のZrイオンは4価で安定であり、Feイオン(2+⇔3+)又はCoイオン(2+⇔3+⇔4+)のように、酸化還元を起こしにくい。このことが、参考例2の開放式電池セルが電池容量を示さなかった原因であると考えられた。すなわち、本発明で使用する負極化合物を構成する遷移金属元素は、Fe又はCoのように、容易に酸化還元を起こす遷移金属元素であることが好ましいと考えられた。
【0094】
[実施例3]
(負極の作製)
負極化合物であるLiTi12粉末(高純度化学製)と、導電性物質である金属ニッケル粉末(<1μm、高純度化学製)とを、5:95の重量比で混合し、全圧5tで加圧成型して、φ10mmのペレットを作製した。このペレットを60メッシュのニッケルメッシュで挟み、ニッケルメッシュの周囲をスポット溶接してペレットを固定した。次いで、ニッケル板を該ニッケルメッシュに溶接して負極の試験電極(作用極)を作製した。
【0095】
発泡ニッケル電極を対極、酸化水銀(Hg/HgO)電極を参照極として、図6に示すH字型試験セルを作製した。これら電極を浸漬させる電解液としては、6M−KOH水溶液を使用した。このH字型試験セルについて、25℃でサイクリックボルタンメトリー測定を行った。電位走査速度は、10mVs−1とした。
【0096】
図7は、実施例3のH字型試験セルのサイクリックボルタモグラムを示す。図7では、−0.8〜―0.6Vにわたって酸化ピークが認められ、チタン酸リチウムが放電可能な材料であることが確認された。
【0097】
H字型試験セルについて、負極活物質の重量当たり100mA/gの電流で4時間充電し、その後負極活物質の重量当たり100mA/gの電流で酸化水銀参照極に対し−0.3Vになるまで放電させることにより、作製したH字型試験セルの充放電試験を行った。
【0098】
[比較例5]
LiTi12粉末を使用せず、金属ニッケル粉末のみ加圧成形してペレットを作製する以外、実施例3と同様にH字型試験セルを作製した。また、実施例3と同様に作製したH字型試験セルの充放電試験を行った。
【0099】
図8は、実施例3及び比較例5のH字型試験セルの60サイクル目の充放電カーブを示す。実線で示した実施例3のH字型試験セルでは−0.8〜−0.95V付近に充電に基づくプラトー電圧が観測され、充電末期の急峻な電圧上昇は観測されなかった。また、−0.6〜−0.8V付近に放電に基づくプラトー電圧が観測された。
【0100】
一方、比較例5のH字型試験セルでは、実施例3と同様の充放電特性は示されなかった。このことから、実施例3のH字型試験セルの充放電特性は、負極化合物であるLiTi12によるものと考察された。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の蓄電デバイスは、水素吸蔵合金の替わりに負極化合物を負極材料として使用し、挿入種を水素イオンとすることにより、耐酸化性及び充放電特性に優れる。また、資源の安定供給の問題も克服できる。本発明の蓄電デバイスは、電池分野において有用である。
【符号の説明】
【0102】
1:発泡ニッケル電極(対極)
2:試験電極(作用極)
3:酸化水銀電極(参照極)
4:6mol/lKOH水溶液
5:H字型試験セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)化学式1:A
(式中、AはLi,Na,K,Rb,Csからなる群から選択される少なくとも一種以上のアルカリ金属元素であり;MはTi,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Nb,Mo,Ru,Pd,Ag,Ta,W,Ce,Pr,Sm,Eu及びPbからなる群から選択される少なくとも一種以上の金属元素であり;XはB,Al,Si,P,S,Ga及びGeからなる群より選択される少なくとも一種以上の典型元素であり;ZはO,S,N,F,Cl,Br及びIからなる群より選択される少なくとも一種以上の典型元素であり;0≦a≦6、1≦b≦5、0≦c≦4、0<d≦12であり、0≦a/b≦4である)
で表される化合物を集電体に被着して形成した負極と、
(2)Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Nb,Mo,Ru,Pd,Ag,Ta,W,Ce,Pr,Sm,Eu及びPbからなる群から選択される少なくとも一種以上の金属元素の水酸化物又はオキシ水酸化物を集電体に被着して形成した正極と、
(3)プロトン導電性又は水酸化物イオン導電性を有する電解質と、
を具備する蓄電デバイス。
【請求項2】
化学式1の金属元素Mが低次酸化状態であり、且つ、前記正極が前記オキシ酸化物を集電体に被着して形成される、請求項1に記載の蓄電デバイス。
【請求項3】
前記負極が、表面を導電性物質で被覆されている前記化合物を集電体に被着して形成される、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス。
【請求項4】
前記負極が、前記化合物と共に導電性物質を集電体に被着して形成される、請求項1又は2に記載の蓄電デバイス。
【請求項5】
前記負極が、電子導電性を有する多孔体に前記化合物を充填して形成される、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。
【請求項6】
前記正極が、ニッケル、マンガン又は鉄の水酸化物又はオキシ水酸化物を集電体に被着して形成される、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。
【請求項7】
前記電解質が、高分子又はセラミックスにアルカリ電解液を含浸又は保持させた電解質である、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。
【請求項8】
正極の放電容量が負極の放電容量の1.05倍以上5倍以下の範囲である、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。
【請求項9】
1.2V以上1.7V以下の電圧範囲で充電し、且つ、充電末期の電圧上昇を検知して充電の制御を行うことを特徴とする充電方式を用いる、請求項1乃至8のいずれか1項に記載の蓄電デバイス。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−249238(P2011−249238A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123393(P2010−123393)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】